資料5

世界遺産暫定一覧表追加のための手続き及び審査基準

文化審議会文化財分科会世界文化遺産特別委員会は,ユネスコの「世界遺産条約」に定める条約の基本精神及び「世界遺産条約履行のための作業指針」(以下「ユネスコ作業指針」という。)に定める定義または基準等に基づき,以下に示すとおり,日本の世界遺産暫定一覧表に文化遺産を追加する場合の手続き及び審査基準を定めた。その際には,国連教育科学文化機関(ユネスコ)が採択した各専門家会合の結論及び勧告,並びに国際記念物遺跡会議(イコモス)注)が採択した各種の憲章・勧告等に示された文化遺産の保護に関する考えにも十分配慮した。この趣旨を踏まえ,審査基準の運用においても同様の配慮を行うこととする。

  1. 注)世界遺産条約に定める世界遺産委員会の諮問機関で、推薦資産の価値評価をはじめ、登録遺産の保存管理状況等に関し、世界遺産委員会に対して勧告を行う非政府機関。

(1)世界遺産暫定一覧表追加のための手続き

  1. 当該審査年度において,定められた期限までに,当該文化資産の所在する都道府県及び市町村が共同で提案書を作成し,文化庁に提出する。
  2. また,前年度に文化審議会文化財分科会世界文化遺産特別委員会(以下「委員会」という。)の審査を受け,継続審査案件とされた提案については,前年度からの検討の進捗や提案の修正があれば,これに関する文書を文化庁に提出する。
  3. 提案書及び継続審査案件に係る提出書類の書式については別途定める。
  4. 委員会は,これら新規の提案及び継続審査案件とされている提案について,委員会の定める審査基準への適合性を審査し,「暫定一覧表追加が適当」なものを選定する。委員会は,選定した後,その旨を文化財分科会に報告し,了承を得る。
  5. 委員会の審査の結果,「暫定一覧表追加が適当」とは認められなかったものの,今後,提案者において,提案内容を引き続き検討,改善すること等により,翌年度以降,すべての審査基準の項目の要件を充足する見込みがあると判断される提案については,委員会における「継続審査案件」とすることができる。

(2)世界遺産暫定一覧表追加のための審査基準

当該提案の内容がこの審査基準の各項目の要件をすべて充足すると委員会が認める場合には,当該提案はこの審査基準に適合することとなる。

  1. [1]当該提案に係る文化資産は,原則として複数の資産で構成され,共通する独特の歴史的・文化的・自然的主題を背景として相互に緊密な関連性を持ち,一定の場・空間に所在する一群の文化財(下記[6]の文化財))であって,総体として世界遺産条約第1条に記す記念工作物,建造物群,遺跡のいずれかに該当するものであること。
  2. [2]「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value)」を持つ可能性が高い文化資産であること。
  3. [3]「ユネスコ作業指針」が示す「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value)」の評価基準((ⅰ)~(ⅵ))(別紙1参照)の一つ以上に該当する可能性が高いと判断される文化資産であること。
  4. [4]当該提案に係る文化資産が,(個々の構成資産のみならず,総体として),日本のみならず周辺地域の歴史・文化を代表し,独特の形態・性質を示す文化資産であると認められる可能性が高いこと。
  5. [5]真実性/完全性の保持に関する証明の可能性が高いこと。
  6. [6]構成資産の候補となる文化財の大半が,国により指定された文化財(国宝若しくは重要文化財又は特別史跡名勝天然記念物若しくは史跡名勝天然記念物に指定され,又は重要文化的景観若しくは重要伝統的建造物群保存地区に選定されているもの)又はその候補としての評価が可能な文化財であること。(原則として,複数の国指定の文化財が含まれていることが必要)
  7. [7]当該提案に係る文化資産の全体について,保存管理・整備活用に関する考え方(基本的な理念,基本方針等)が示されていること。さらに,包括的な保存管理計画及び個々の構成資産についての保存管理計画注)の策定を行う旨,明言されていること。
  8. 注) 特別史跡名勝天然記念物又は史跡名勝天然記念物の保存管理計画,国宝又は重要文化財の保存活用計画,重要文化的景観又は伝統的建造物群保存地区の保存計画を含む。
  9. [8]上記[7]の保存管理・整備活用に関する考え方の中に,周辺環境とも一体的な保全の方向性が示されていること。さらに,関係地方公共団体が,構成資産と一体を成す周辺環境に係る保全措置の方法を積極的に検討していく旨,明言していること。
  10. 上記基準[1]―[8]の基準の該当性を判断するにあたっては,世界遺産委員会が「世界遺産一覧表における不均衡の是正及び代表性,信頼性の確保のための世界戦略(グローバル・ストラテジー)」(1994)において示した遺産の価値評価に関する方針別紙2参照)をはじめ,近年の世界遺産委員会における文化資産の価値評価の在り方,登録に係る審査の動向等を考慮すること。

(別紙1)

世界遺産一覧表への評価基準

世界遺産委員会の定める「世界遺産条約履行のための作業指針」に次のとおり規定されている。

段落77
本委員会は,ある資産が以下の基準(の一以上)を満たすとき,当該資産が顕著な普遍的価値(段落49-53を参照)を有するものとみなす。
  1. ⅰ)人間の創造的才能を表す傑作である。
  2. ⅱ)建築,科学技術,記念碑,都市計画,景観設計の発展に重要な影響を与えた,ある期間にわたる価値観の交流又はある文化圏内での価値観の交流を示すものである。
  3. ⅲ)現存するか消滅しているかにかかわらず,ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である。
  4. ⅳ)歴史上の重要な段階を物語る建築物,その集合体,科学技術の集合体,或いは景観を代表する顕著な見本である。
  5. ⅴ)あるひとつの文化(又は複数の文化)を特徴づけるような伝統的居住形態若しくは陸上・海上の土地利用形態を代表する顕著な見本である。又は,人類と環境とのふれあいを代表する顕著な見本である。(特に不可逆的な変化によりその存続が危ぶまれているもの)
  6. ⅵ)顕著な普遍的価値を有する出来事(行事)、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連がある(この基準は他の基準とあわせて用いられることが望ましい)。
  7. ⅶ)最上級の自然現象、又は、類まれな自然美・美的価値を有する地域を包含する。
  8. ⅷ)生命進化の記録や,地形形成における重要な進行中の地質学的過程,あるいは重要な地形学的又は自然地理学的特徴といった,地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な見本である。
  9. ⅸ)陸上・淡水域・沿岸・海洋の生態系や動植物群衆の進化,発展において,重要な進行中の生態学的過程又は生物学的過程を代表する顕著な見本である。
  10. ⅹ)学術上又は保全上顕著な普遍的価値を有する絶滅のおそれのある種の生息地など,生物多様性の生息域内保全にとって最も重要な自然の生息地を包含する。
段落78
顕著な普遍的価値を有するとみなされるには,当該資産が完全性及び/又は真実性の条件についても満たしている必要がある。又,確実に保護を担保する適切な保護管理体制がなければならない。
  1. 資産を適切に保全するために必要な場合は,適切に緩衝地帯(バッファ・ゾーン)を設定することが求められている。(段落103)

(別紙2)

「グローバル・ストラテジー」について

「世界遺産一覧表における不均衡の是正及び代表性,信頼性の確保のためのグローバルストラテジー(The Global Strategy for a Balanced, Representative and Credible World Heritage List)」は,1994年6月にパリのユネスコ本部において開催された専門家会合における議論をまとめた報告書に基づき,同年12月にタイのプーケットで開催された第18回世界遺産委員会において採択された。
グローバル・ストラテジーの中では,登録遺産の記念的建造物への偏重が,文化遺産に多面的かつ広範な視野を狭める傾向を招き,ひいては生きた文化(living culture)や伝統(living tradition),民俗学および民族的な風景,そして普遍的価値を有し,広く人間の諸活動に関わる事象などを対象から除外する結果となっていることが再確認された。
さらに,世界遺産一覧表を代表性及び信頼性を確保したものにするためには,遺産を「もの」として類型化するアプローチから,広範囲にわたる文化的表現の複雑でダイナミックな性格に焦点をあてたアプローチへと移行させる必要のあることが指摘され,人間の諸活動や居住の形態,生活様式や技術革新などを総合的に含めた人間と土地のあり方を示す事例や,人間の相互作用,文化の共存,精神的・創造的表現に関する事例なども考慮すべきであることが指摘された。
以上のような指摘を踏まえ,現在,比較研究が進んでいる分野として,下記の3つの遺産の種別が示された。

  • 産業遺産
  • 20世紀の建築
  • 文化的景観
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