別紙8

世界遺産暫定一覧表候補の文化資産

「北海道東部の窪みで残る大規模竪穴住居跡群」
「最上川の文化的景観-舟運と水が育んだ農と祈り,豊饒な大地-」
「松島-貝塚群に見る縄文の原風景」
「水戸藩の学問・教育遺産群」
「足尾銅山-日本の近代化・産業化と公害対策の起点-」
「足利学校と足利氏の遺産」
「埼玉古墳群-古代東アジア古墳文化の終着点-」
「近世高岡の文化遺産群」
「立山・黒部~防災大国日本のモデル-信仰・砂防・発電-~」
「城下町金沢の文化遺産群と文化的景観」
「霊峰白山と山麓の文化的景観-自然・生業・信仰-」
「若狭の社寺建造物群と文化的景観-神仏習合を基調とした中世景観」
「日本製糸業近代化遺産~日本の近代化をリードし,世界に羽ばたいた糸都岡谷の製糸資産~」
「善光寺と門前町」
「松本城」
「妻籠宿・馬籠宿と中山道-『夜明け前』の世界-」
「飛騨高山の町並みと祭礼の場-伝統的な町並みと屋台祭礼の文化的景観-」
「天橋立-日本の文化景観の原点」
「近世岡山の文化・土木遺産群-岡山藩郡代津田永忠の事績-」
「三徳山-信仰の山と文化的景観-」
「萩-日本の近世社会を切り拓いた城下町の顕著な都市遺産」
「錦帯橋と岩国の町割」
「山口に花開いた大内文化の遺産-京都文化と大陸文化の受容と融合による国際性豊かな独自の文化-」
「四国八十八箇所霊場と遍路道」
「宇佐・国東-「神仏習合」の原風景」
「阿蘇-火山との共生とその文化的景観」
「竹富島・波照間島の文化的景観~黒潮に育まれた亜熱帯海域の小島~」

世界遺産暫定一覧表候補の文化資産について

<カテゴリーⅠ>

我が国の世界遺産暫定一覧表には未だ見られない分野の資産であり,顕著な普遍的価値を証明し得る可能性について検討すべきものと認められるが,主題・資産構成・保存管理等を十全なものとしていくためには,なお相当な作業が見込まれるため,世界遺産暫定一覧表記載には至らないと評価されるものである。
これらの文化資産については,地方公共団体において取組を進め,作業が相当程度に進展した場合は,その段階で本委員会において改めて調査・審議を行い,顕著な普遍的価値を証明できる可能性が高いと評価されたものについては,世界遺産暫定一覧表への記載について検討することが望ましい。
今後,本資料に示された課題等を踏まえた作業を進めることが必要であり,その手順については,以下の2通りに分けることができる。

a)提案書の基本的主題を基に,提案地方公共団体が準備を進めるべきもの

「最上川の文化的景観-舟運と水が育んだ農と祈り,豊饒な大地-」
「天橋立-日本の文化景観の原点」
「錦帯橋と岩国の町割」
「四国八十八箇所霊場と遍路道」
「阿蘇-火山との共生とその文化的景観」

b)提案地方公共団体を中心に,当面,主題に関する学術的な調査研究を十分に行い,主題及びこれに基づく資産構成に関して一定の方向性が見えた段階で,関係地方公共団体により準備を進めるべきもの

[近世の城郭・城下町関連の文化資産](※1)

「城下町金沢の文化遺産群と文化的景観」
「松本城」
「萩-日本の近世社会を切り拓いた城下町の顕著な都市遺産-」

[近世の社寺とその門前町関連の文化資産]

「善光寺と門前町」

[近世の教育資産](※2)

「水戸藩の学問・教育遺産群」
「足利学校と足利氏の遺産」
「近世岡山の文化・土木遺産群-岡山藩郡代津田永忠の事績-」

[近世の街道と宿場町関連の文化資産]

「妻籠宿・馬籠宿と中山道-『夜明け前』の世界-」

<カテゴリーⅡ>

今回の提案内容をもとに世界遺産を目指す限りにおいては,現在のイコモスや世界遺産委員会の審査傾向の下では,顕著な普遍的価値を証明することが難しいため,主題の再整理や構成資産の組み換え,更なる比較研究等が必要と考えられる資産である。そこで,これらの文化資産については,当面は,文化財の適切な保存・活用の視点を踏まえつつ,まちづくりや地域づくりに総合的に活かしていくための取組を進めることが望ましい。
今後,引き続き世界遺産を目指す場合には,イコモスや世界遺産委員会における審査の動向や我が国の世界遺産暫定一覧表記載資産の世界遺産一覧表への推薦・記載の状況等を注視しつつ,必要に応じて,本委員会においてこれらの文化資産の取扱について検討していくこととする。

「北海道東部の窪みで残る大規模竪穴住居跡群」
「松島-貝塚群に見る縄文の原風景」(※3)
「水戸藩の学問・教育遺産群」(※2)
「足尾銅山-日本の近代化・産業化と公害対策の起点-」
「足利学校と足利氏の遺産」(※2)
「埼玉古墳群-古代東アジア古墳文化の終着点-」
「近世高岡の文化遺産群」
「立山・黒部~防災大国日本のモデル-信仰・砂防・発電-~」
「霊峰白山と山麓の文化的景観-自然・生業・信仰-」
「若狭の社寺建造物群と文化的景観-神仏習合を基調とした中世景観」
「日本製糸業近代化遺産~日本の近代化をリードし,世界に羽ばたいた糸都岡谷の製糸資産~」
「飛騨高山の町並みと祭礼の場-伝統的な町並みと屋台祭礼の文化的景観-」
「近世岡山の文化・土木遺産群-岡山藩郡代津田永忠の事績-」(※2)
「三徳山-信仰の山と文化的景観-」
「山口に花開いた大内文化の遺産-京都文化と大陸文化の受容と融合による国際性豊かな独自の文化-」
「宇佐・国東-「神仏習合」の原風景」
「竹富島・波照間島の文化的景観~黒潮に育まれた亜熱帯海域の小島~」

※ 1「城下町金沢の文化遺産群と文化的景観」,「松本城」,「萩-日本の近世社会を切り拓いた城下町の顕著な都市遺産」は,いずれも近世の城郭あるいは城下町に関連する主題による提案であり,他の同種資産と組み合わせることにより,顕著な普遍的価値を証明し得る可能性について検討すべきものとして評価できるため,「カテゴリーⅠ」に該当するものとした。

※ 2「水戸藩の学問・教育遺産群」,「足利学校と足利氏の遺産」,「近世岡山の文化・土木遺産群-岡山藩郡代津田永忠の事績-」は,提案における一部の構成要素について,「近世の教育資産」という主題の下で学術的な調査研究等を行うことにより,同主題に基づく文化資産の構成資産として顕著な普遍的価値を証明し得る可能性について検討すべきものと評価できるため,「カテゴリーⅠ」にも該当するものとした。一方で,今回提案された主題を基に世界遺産を目指す限りにおいては,現在のイコモスや世界遺産委員会の審査傾向の下では顕著な普遍的価値を証明することが難しく,主題の再整理や構成資産の組み替え,更なる比較研究等が必要と考えられる資 産として「カテゴリーⅡ」に該当するものとした。

※ 3「松島-貝塚群に見る縄文の原風景」については,構成資産の一部について「北海道・北東北の縄文遺跡群」との選択的統合を行うことにより,顕著な普遍的価値が認められる可能性は高いものの,今回の提案内容全体に対する評価としては,顕著な普遍的価値の証明が不十分であるため,「世界遺産暫定一覧表候補の文化資産」の「カテゴリーⅡ」として整理している。

提案資産名:北海道東部の窪みで残る大規模竪穴住居跡群

所在地
北海道(北見市・標津町)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当

気候環境の影響から,竪穴住居が完全に埋まりきらず,窪みの状態で残されている常呂遺跡,標津遺跡群は,それぞれ2,000基以上から成る我が国最大規模の竪穴住居跡群として知られ,両遺跡は縄文時代早期から続縄文時代を経て,擦文・オホーツク文化期のおよそ7,000年もの長期間にわたって営まれてきたことを物語る資産である。
北海道の寒冷気候のために独特の可視的な遺存状況を示す考古学的遺跡であり,7,000年にわたる人類と自然との調和の過程を示す考古学的遺跡として,価値は高い。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,人類と自然との調和の過程を示し,独特の可視的な遺存状況を示す考古学的遺跡群の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
○今後の課題
  • 地形の凹凸から成る竪穴住居跡の考古学的遺跡の世界的評価の可能性や,北海道における縄文時代から擦文・オホーツク文化,さらには本遺跡群に後続するアイヌ文化の連続性を視野に入れた主題設定及び資産構成の可能性について検討する観点から,北海道オホーツク海沿岸に広域にわたって展開する同種の考古学的遺跡との比較等を含め,十分な調査研究を行うことが重要である。

提案資産名:最上川の文化的景観-舟運と水が育んだ農と祈り,豊饒な大地-

所在地
山形県
(山形市・米沢市・鶴岡市・酒田市・新庄市・寒河江市・村山市・長井市・天童市・東根市・尾花沢市・南陽市・中山町・河北町・西川町・朝日町・大江町・大石田町・舟形町・大蔵村・戸沢村・高畠町・川西町・白鷹町・庄内町・遊佐町)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅠaに該当

日本最長の「舟道」を含め,江戸時代の「川絵図」に描く景観が良好に残るなど,舟運・農業・信仰の観点から人々と川との関わりを示す資産である。
稲作文化を支えた河川の流通機構と,沿川に展開した農耕文化,その結果生まれた高度な精神文化を含む総合的な資産として,価値は高い。
河川を主軸とする文化的景観として,我が国の世界遺産暫定一覧表には未だ見られない分野の資産であり,将来的な記載の候補となり得る可能性はあるが,資産の範囲が広大な流域に及ぶことから,文化財の指定・選定を含めた保護措置の改善・充実に向けた取組等が不可欠である。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,河川を主軸とする文化的景観の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことを確実に証明することが必要である。
○今後の課題
  • 国内外の同種資産との比較研究を深めることが必要である。
  • さらに,真実性・完全性に関し,以下の点について確実に検討を行うことが必要である。
    • 主題に直接関係し,河川を主軸とする交流の結果を示す諸要素と,それ以外のものとの区分を行い,構成資産としての適否について検証すること。
    • 河川の利用と信仰との結び付きの観点から,最上川と出羽三山・鳥海山との関係についてさらなる検証を行うこと。
    • 個々の構成資産について,主題に正確に合致するか否かの検証を行うこと。
  • 適切かつ十分な保存のため,以下の点について措置を講ずることが必要である。
    • 資産の主題を説明する上で必要とされる広大かつ多種多様な個々の諸要素については,国の文化財への指定又は選定の適否を慎重に吟味すること。
    • 源流部から河口までの最上川,最上川水系の農業用水堰,庄内平野及び沿海の砂防林など,文化的景観の観点から広大な土地を文化財として保護することの可能性について,市町村ごとの保護と資産全体の保護との整合性をも含め,十分かつ多面的な検討を行うこと。
    • 緩衝地帯の保全の範囲及び方法について,具体的な方針を定め,その実現を図ること。
    • 構成資産が極めて多種多様かつ広域に及び,所有者等も多岐にわたることから,保存管理等の課題解決に向け,関係者間での合意形成を十分図れるよう,充実した体制整備を行うこと。

提案資産名:松島-貝塚群に見る縄文の原風景

所在地
宮城県(塩竃市・東松島市・松島町・七ヶ浜町・利府町)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当

最終氷期以降の温暖化に伴う海面上昇により形成された多くの島嶼から成る独特の松島の自然環境を背景として,縄文時代の貝塚群,中世の霊場,近世の瑞巌寺など,時代とともに多くの諸要素が付加されつつ形成された資産である。
松島という風致景観に優れた独特の海岸地域において,縄文時代の貝塚群及び近世以降 に成熟した霊場・景勝地などから成る資産として,価値は高い。
なお,本提案の構成資産である縄文時代の貝塚の一部については,「北海道・北東北の縄 文遺跡群」との選択的統合を行うことにより,顕著な普遍的価値が認められる可能性が高い。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,時代を超えて自然と人間との共生の在り方を示す資産の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
○今後の課題
  • 世界史的・国際的な視点に立ち,我が国における海岸地域の風致景観の全体像を明らかにする観点から,国内外の同種資産との比較研究を進め,適切な主題設定や資産構成について検討することが重要である。
  • 「北海道・北東北の縄文遺跡群」との選択的統合については,文化庁が提案地方公共団体との協力の下に検討を行い,資産構成に関する方向性を定めた後に,その結果に従って構成資産とすることが適当とされたものについては,適切かつ十分な保存の措置を講ずることが必要である。
  • 地域住民の確実な合意形成を図ることが必要である。

提案資産名:水戸藩の学問・教育遺産群

所在地
茨城県(水戸市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当
(但し,弘道館とその関連資産についてはカテゴリーⅠbに該当)

近世の日本は,当時の世界各国と比較して高い教育環境を整えており,明治維新後,日本が近代国家として急速な発展を遂げた背景を成す。本資産は,学問・教育の施策を重視した水戸藩における学問・教育の関連資産等により構成され,近世の教育環境の重要な側面を示している。
近世の水戸藩が推進した学問・教育の施策により形成された一連の諸要素が遺存する資産として,価値は高い。
なお,近世の教育資産については,我が国の世界遺産暫定一覧表には未だ見られない分野の資産であり,弘道館について,その構成資産となり得るか否かについて十分に検討することが必要である。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的観点から,本資産が近世の有力な藩が推進した一連の教育関連資産の代表例・典型例として,顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
  • なお,弘道館について,同種資産との比較研究を進めることにより,近世の教育資産が顕著な普遍的価値を持つか否かについて十分に検討することが必要である。
○今後の課題
  • 当面,近世の教育資産に関する専門家による学術的な調査研究を十分に行い,主題及び主題に基づく資産構成に関して一定の方向性が見えた段階で,関係地方公共団体において準備を進めることが必要である。
  • 日本の近世における各藩の藩校など,国内外の同種の教育関連資産との比較研究を網羅的に進めることが必要である。
  • 真実性・完全性及び適切かつ十分な保存の観点から,以下の点について課題を確実に解決することが必要である。
    • 日本の教育水準を高度に発展させる上で,江戸末期に造営された弘道館が,各藩の藩校運営に対して顕著な影響を与えたと証明できるか否かについて検討すること。
    • 弘道館の保存範囲については,完全性の観点から検証を行うこと。
  • なお,近世の有力な藩が推進した一連の教育関連資産に関しては,その全体像を明らかにする観点から,国内外の同種資産との比較研究を進め,適切な主題設定,資産構成について研究することが必要である。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定又は追加指定を行うことが重要である。

提案資産名:足尾銅山-日本の近代化・産業化と公害対策の起点-

所在地
栃木県(日光市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当

水力発電により探鉱から製錬の各工程を電化することにより,電気精銅までの一貫した銅生産機構を確立し,東洋一の生産量を誇った鉱山であるとともに,田中正造の追求により広く知られた鉱害,及び公害が大きな社会問題となる中でその鉱害防除技術として,「自溶製錬法」,「電気集塵法」,「接触脱硫法」を応用した脱硫技術の実用化や水質保全対策を進めたことにより知られる鉱山である。
日本を世界有数の産銅国へと発展させた銅鉱山の遺跡で,一連の諸要素が谷地形にまとまって遺存し,鉱害防除技術の歴史を示す資産として,価値は高い。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,鉱害防除関連資産が顕著な普遍的価値を持ち得ることの証明が不十分である。さらに,鉱害防除の過程を示す資産の代表例・典型例として本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
○今後の課題
  • 世界史的・国際的な視点に立ち,鉱害の負の側面に対する配慮及び研究をさらに十分に行うとともに,我が国における銅鉱山遺跡とその関連技術及び鉱害防除技術の全体像を明らかにする観点から,国内外の同種資産との比較研究を進めることが重要である。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定・選定又は追加指定等を行うことが重要である。
  • ※「鉱害防除技術」に関連する資産については,技術史的な観点からは一定の評価が得られているものの,世界史的・国際的な観点から歴史的・文化的な資産としての評価は未だ十分に定まっていないものと考えられる。そのため,関連資産の価値に関する国際的な評価の方向性を十分に見極めつつ,今後,適切な主題設定について検討していくことが必要であると考えられる。

提案資産名:足利学校と足利氏の遺産

所在地
栃木県(足利市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当
(但し,足利学校とその関連資産についてはカテゴリーⅠbに該当)

足利氏が造営した城館・寺院・庭園と,宣教師ザビエルがその書簡において「坂東の学院(アカデミア)あり。日本国中最も大にして最も有名なり。」と記した足利学校から成る資産である。
12世紀後半に足利氏が造営した一群の資産と,中世に全国から学徒が集まる学校として繁栄し,近世においてもその伝統が継承された教育資産から成る資産として,価値は高い。
なお,近世の教育資産については,我が国の世界遺産暫定一覧表には未だ見られない分野の資産であり,足利学校について,その構成資産となり得るか否かについて十分に検討することが必要である。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,中世の地方豪族の発展に関連する資産又はその後に継承された教育関連資産の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
  • なお,足利学校について,同種資産との比較研究を進めることにより,近世の教育資産が顕著な普遍的価値を持つか否かについて十分に検討することが必要である。
○今後の課題
  • 当面,近世の教育資産に関する専門家による学術的な調査研究を十分に行い,これにより主題及び主題に基づく資産構成に関して一定の方向性が見えた段階で,関係地方公共団体において準備を進めることが必要である。
  • 国内外の同種の教育関連資産との比較研究を網羅的に進めることが必要である。
  • 足利学校については,真実性・完全性の観点から,足利学校の時代的な位置づけを明確にし,その時代の遺構と現在遺存する建造物及び復元建造物との関係について整理することが必要である。
  • なお,中世の地方豪族の発展に関する資産に関しては,その全体像を明らかにする観点から,国内外の同種資産との比較研究を進め,適切な主題設定,資産構成について研究することも必要である。

提案資産名:埼玉古墳群-古代東アジア古墳文化の終着点-

所在地
埼玉県(行田市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当

埼玉古墳群は,5世紀後半から7世紀前半にかけて築造された巨大前方後円墳や我が国最大の円墳を含む古墳群であり,特に稲荷山古墳から115文字から成る金錯銘の鉄剣が出土するなど,古代国家形成期の古墳文化を物語る資産である。
5世紀における古墳文化を語る上で不可欠の資産であるとともに,出土した金錯銘鉄剣により造営の絶対年代を確定することが可能な事例を含む古墳群として,価値は高い。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,日本の古墳群の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分。
○今後の課題
  • 世界史的・国際的な視点に立ち,日本の古墳文化の全体像を明らかにする観点から,他地域における代表的な墳墓群をはじめ国内外の同種資産との比較研究を進め,適切な主題設定,資産構成について検討することが重要である。
  • 古墳時代が首長連合に基づく政権構造であったとする観点からは,本資産を中央集権の進展を表す資産と捉えることについて慎重に研究することが重要である。
  • 古墳のうち指定範囲が十分でないものについては,追加指定を行うことが重要である。

提案資産名:近世高岡の文化遺産群

所在地
富山県(高岡市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当

高岡は,近世初頭の城下町を基盤とし,一国一城令に伴う廃城の後に,交通の要衝としての利点を活かしながら商工業都市としての性格を強めてきた。近世大名の菩提を弔う寺院や墓所,浄土真宗の有力寺院等,大規模な宗教施設が造営されるとともに,鋳造品の製造,荷物宿の開設,綿の市場の創設等により商工業の発展を見せることで知られる。
これらの歴史の重層性を示す史跡,歴史的建造物及び建造物群で構成され,近世都市が城下町から商工業都市へと変容する過程を伝える資産として,価値は高い。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,近世日本の商工業を基盤に発展を遂げた都市遺産の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
○今後の課題
  • 世界史的・国際的な視点に立ち,近世に起源を持ち,近代に発展を遂げた商工業都市の全体像を明らかにする観点から,国内外の同種資産との比較研究を通じて,適切な主題設定や資産構成について検討することが重要である。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定又は追加指定等を行うことが重要である。
  • 本資産においては,銅鋳造品の製造などの伝統的技術や町並みにおける屋台巡行等の祭礼なども,資産の価値と一体を成す重要な要素であると考えられるが,現行の世界遺産の要件に鑑みればこれらを構成資産として評価することはできず,このたびの審査に当たっては,こうした基準に照らして判断する以上,伝統的な技術や祭礼等については評価の対象から除外せざるを得なかったものである。

提案資産名:立山・黒部~防災大国日本のモデル-信仰・砂防・発電-~

所在地
富山県(富山市・黒部市・上市町・立山町)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当

広大なカルデラやV字状峡谷などの地形から成る立山・黒部地域は,古くから幾多の災害を経験してきたことから,山と水を畏れ敬う独特の立山信仰を育むとともに,近代には一群の砂防施設や発電施設が建設された。
山岳信仰に関連し,自然災害から暮らしを守り続けてきた人間の営為を刻む諸要素が特定地域に集中する資産として,価値は高い。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,砂防関連資産や発電関連資産に関して顕著な普遍的価値を持ち得ることの証明が不十分である。また,山岳信仰を示す資産の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明についても不十分である。
○今後の課題
  • 世界史的・国際的な視点に立ち,砂防関連資産等の全体像を明らかにする観点から,国内外の同種資産との比較研究を進める中で,適切な主題設定や構成資産について検討することが重要である。
  • 山岳信仰関連資産と砂防関連資産等との関係について,慎重に研究することが重要である。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定又は追加指定等を行うことが重要である。
  • ※「砂防関連技術」や「発電関連技術」に関連する資産については,技術史的な観点からは一定の評価が得られているものの,世界史的・国際的な観点から歴史的・文化的な資産としての評価は未だ十分に定まっていないものと考えられる。そのため,砂防技術の国際的な広がりや関連資産に関する国際的な評価の方向性を十分に見極めつつ,今後,適切な主題設定について検討していくことが必要であると考えられる。

提案資産名:城下町金沢の文化遺産群と文化的景観

所在地
石川県(金沢市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅠbに該当

城下町の町割や,城郭・庭園・街路・寺院群・用水網など城下町を構成する資産とともに,その中で伝えられた伝統的な文化や工芸技術等に関連する資産など,城下町に係る多様な要素からなる資産である。
近世城下町の都市の骨格を成す諸要素のみならず,寺院群の景観及び伝統的な町並みや 伝統文化が継承されており,城下町及び伝統的な文化や精神が融合した文化資産群及び文 化的景観として,価値は高い。
なお,近世の城郭及び城下町関連の文化資産については,我が国の世界遺産暫定一覧表 には未だ見られない分野の資産であり,比較研究に基づく他の同種資産との組合せにより,将来的な記載の候補となり得るか否かについて十分に検討することが必要である。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,近世日本の城下町を基盤として発展を遂げた都市遺産の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
  • なお,本提案と同種資産との比較研究を進めることにより,近世の城郭及び城下町関連の文化資産が顕著な普遍的価値を持つか否かについて,十分に検討することが必要である。
○今後の課題
  • 当面,近世の城郭及び城下町関連の文化資産に関し,専門家による学術的な調査研究を十分に行い,主題及びこれに基づく資産構成に関して一定の方向性が見えた段階で,関係地方公共団体により準備を進める必要がある。
  • その際,顕著な普遍的価値の証明の観点から,本資産や関連資産の遺存状況にも留意しつつ,城郭と城下町を総合的に評価することが適切であるのか,又は記念工作物としての城郭と都市遺産としての城下町とを区別して評価することが適切であるのかについて,十分な検討を行うことが必要である。
  • また,城下町については,日本の城下町の類型・発展過程を明らかにしつつ,城下町の空間構造,成立条件となる社会・経済的な諸要素などの観点から,世界史的・国際的かつ詳細な比較研究を行うことが必要である。
  • 真実性・完全性の観点から,以下の点について確実に課題を解決することが必要である。
    • 近世の城下町が近・現代に変容を遂げる過程で,都市の構成要素である個々の建造物や庭園等の真実性が確実に継承されてきたか否かについて詳細に検討すること。
    • 近世の城下町が近・現代に変容を遂げる過程で,街路・街区などの骨格,居住区分形態,成熟した都市文化を示す諸要素などの観点において,都市全体としての完全性を継承しているか否かについて,詳細に検討すること。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定・選定又は追加指定等を行う ことが重要である。

提案資産名:霊峰白山と山麓の文化的景観-自然・生業・信仰-

所在地
石川県(白山市・小松市)/福井県(勝山市・大野市)/岐阜県(郡上市・高山市・白川村)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当

世界有数の豪雪山岳地帯である白山の山麓一帯は禅定道を機軸に結ばれ,白山信仰を広めた御師の集落や木材,養蚕,焼畑などに支えられ,商品経済が展開されるなど,山村の生活文化が培われた。また,白山は擬死再生の山とされ,山麓には白山信仰と結びついた真宗の信仰が浸透し,環境に適合した伝統的な建築物や季節ごとの芸能などが生まれた。
白山信仰を基盤として形成された独特の生活・生業の土地利用形態が見られ,時代を超えて人間と自然との共生の在り方を表す文化的景観として,価値は高い。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,山岳信仰と山麓の文化的景観の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
○今後の課題
  • 世界史的・国際的な視点に立ち,山岳信仰と山麓の文化的景観の全体像を明らかにする観点から,同種資産との比較研究を進め,適切な主題の設定や資産構成について検討することが重要である。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定又は追加指定等を行うことが重要である。

提案資産名:若狭の社寺建造物群と文化的景観-神仏習合を基調とした中世景観

所在地
福井県(小浜市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当

若狭地域は,古くから大陸・半島と日本の結節地として機能し,多くの文化の痕跡を今にとどめている。小浜湾の背後に聳える多田ヶ岳周辺に立地する社寺は,信仰の山や周辺の集落景観と一体となった景観を構成するとともに,世界的宗教(仏教)と我が国固有の信仰(神祇信仰)との独特の融合の結果を示す神仏習合の在り方を表している。
古代的特色を残し,仏教伝播と神仏習合の経緯を示す一連の建造物群を中心として,信仰の対象である山などが一体の景観を形成する資産として,価値は高い。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,仏教と我が国固有の信仰との独特の融合の結果を表す神仏習合の資産の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
○今後の課題
  • 世界史的・国際的な視点に立ち,仏教と我が国固有の信仰との独特の融合の結果を表す神仏習合の資産の全体像を明らかにする観点から,同種資産との比較研究を進め,適切な主題の設定や資産構成について検討することが重要である。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定又は追加指定等を行うことが重要である。

提案資産名:日本製糸業近代化遺産~日本の近代化をリードし,世界に羽ばたいた糸都岡谷の製糸資産~

所在地
長野県(岡谷市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当

アジア諸国で初めて近代化を成し遂げる原動力となった日本製糸業は,西欧諸国の技術を導入すると同時に,独自の知恵と工夫を取り入れることにより,競争力の高い製糸技術と生産体制を確立した。特に岡谷の製糸業は,「フランス式」繰糸機を改良し,新たな「諏訪式」繰糸機を開発するなど,日本の製糸業の発展に貢献した。
「諏訪式繰糸機」の発祥の地であり,日本の生糸生産地としての一拠点を成した岡谷は,製糸に関する技術革新の系譜をたどることができる資産として,価値は高い。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,我が国における製糸業の発展過程を表す資産の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
○今後の課題
  • 世界史的・国際的な視点に立ち,製糸業に関連する資産の全体像を明らかにする観点から,資産の遺存状況や文化財としての保護にも留意しつつ,長野県下に遺存する関連資産を含めた調査研究を進め,適切な主題設定・資産構成について検討することが重要である。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定又は追加指定等を行うことが重要である。

提案資産名:善光寺と門前町

所在地
長野県(長野市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅠbに該当

善光寺境内とその門前に形成された門前町に,仏堂をはじめ,宿坊,仲見世,商家等の歴史的な建造物群が多く遺存する資産である。
民衆に広く浸透した善光寺信仰に基づき,これらが庶民に開かれた独特の都市景観を形成してきたことを示す資産として,価値は高い。
近世の寺社とその門前町関連の文化資産については,我が国の世界遺産暫定一覧表には未だ見られない分野の資産であり,同種資産との比較調査により,将来的な記載の候補となり得るか否かについて十分に検討することが必要である。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,寺社とその門前町関連の文化資産の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
  • なお,近世の寺社とその門前町関連の文化遺産について比較研究を進めることにより,本資産が顕著な普遍的価値を持つか否かについて十分に検討することが必要である。
○今後の課題
  • 当面,提案地方公共団体において,近世の寺社とその門前町関連の文化資産に関する学術的な調査研究を十分に行い,主題及びこれに基づく資産構成に関して一定の方向性が見えた段階で,関係地方公共団体において準備を進めることが必要である。
  • 国内外の寺社とその門前町との詳細な比較研究を行い,我が国の寺社と門前町関連の文化資産の世界史的・国際的な位置付けについて明らかにするとともに,本資産がその代表例・典型例となり得るか否かについて検討する観点が必要である。
  • 上記の検討と並行して,境内とその周辺の都市街区を構成する建造物等の真実性,及び街路・街区等から成る資産全体の完全性の観点から,主題を成す門前町の範囲・保全状況について検討することが必要である。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定・選定又は追加指定・選定を行うことが必要である。

提案資産名:松本城

所在地
長野県(松本市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅠbに該当

安土桃山時代から江戸時代初期にかけて築城された城郭で,5層6階の天守と小天守を渡櫓が結び,天守には2棟の櫓を配する構成をとる。また,地形や石垣には高い土木技術が見られる。
天守閣をはじめ城郭の主要建築が残存するとともに,本丸・二の丸などの主要地割が残る平城の事例として,価値は高い。
近世の城郭・城下町関連の文化資産について,様々な観点から比較研究を進める中で,他の同種・関連資産との組合せにより,将来的な記載の候補となり得るか否かについて十分に検討することが必要である。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,日本の城郭の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
  • なお,本提案と同種・関連資産との比較研究を進めることにより,近世の城郭や城下町関連の文化資産に関して顕著な普遍的価値を持つか否かについて慎重に検討することが必要である。
○今後の課題
  • 当面,近世の城郭・城下町関連の文化資産に関し,専門家による学術的な調査研究を十分に行い,これにより主題及びこれに基づく資産構成に関して一定の方向性が見えた段階で,関係地方公共団体において準備を進めることが必要である。
  • 以下の点について考慮する必要がある。
    • 顕著な普遍的な価値の証明の観点から,本資産や関連資産の遺存状況にも留意しつつ,城郭と城下町を総合的に評価することが適切か,あるいは,構造物としての城郭と都市遺産としての城下町とを別々に評価することが適切かについて十分な検討を行うこと。
    • 日本の城郭の類型・発展過程を明らかにしつつ,城郭の空間構造や,成立条件となる社会・経済的な諸要素などの観点から詳細な比較研究を行うこと。
    • 松本市が提案している,国宝に指定された天守閣が現存する4城による組合せに関しては,近世城郭の類型に関する完全性を証明できるか否かについて,慎重な検討を行うこと。
    • 世界遺産「姫路城」が近世城郭の代表例・典型例とされたものであることを踏まえ,姫路城を含め城郭及び城下町関連の文化資産を組み合わせることにより,新たな視点からの価値評価が可能となるのか否かについて,慎重な検証を行うこと。
    • 上記を踏まえつつ,今後の検討により,城郭に関する適切な主題が設定し得るのであれば,その構成資産として適切なものについては,資産の遺存状況,文化財としての保護の状況,真実性の観点からの課題の有無などを十分に考慮し,本資産を含めて慎重に吟味すること。
  • 上記検討と併せて,松本城を「現存する最古の天守閣」と評価する点については,慎重に研究することが必要である。
  • 史跡松本城に関しては,今後とも追加指定を行っていくことが重要である。

提案資産名:妻籠宿・馬籠宿と中山道―『夜明け前』の世界―

所在地
長野県(南木曽町)/岐阜県(中津川市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅠbに該当

五街道の一つ中山道は,江戸と京・大坂を結ぶ重要な街道であり,この街道の宿場であった妻籠宿と馬籠宿の周辺には,今なお,近世の宿場及び街道の景観に係る一連の資産が残されている。
我が国の近世の交通及び流通機構を知る上で重要な街道及び宿駅のうち,道,宿場,間の宿,在郷集落,農地等が周辺の自然環境と一体の景観を形成している資産として,価値は高い。
近世の街道と宿場町関連の文化資産については,我が国の世界遺産暫定一覧表には未だ見られない分野の資産であり,同種資産との比較調査により,将来的な記載の候補となり得るか否かについて十分に検討することが必要である。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,街道及び宿場町の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
  • なお,近世の街道と宿場町関連の文化資産について比較研究を進めることにより,本資産が顕著な普遍的価値を持つか否かについて十分に検討することが必要である。
○今後の課題
  • 当面,提案地方公共団体において,必要に応じ他の地方公共団体等の協力を得ながら,近世の街道と宿場町関連の文化資産に関する学術的な調査研究を十分に行い,主題及びこれに基づく資産構成に関して一定の方向性が見えた段階で,関係地方公共団体において準備を進めることが必要である。
  • 近世における街道・宿場町の発展形態を明らかにし,国内外における同種資産との比較研究を行うことが必要である。
  • 中山道における木曽路の全体を視野に入れた主題について検討することが必要である。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定・選定又は追加指定・選定を行うことが必要である。

提案資産名:飛騨高山の町並みと祭礼の場―伝統的な町並みと屋台祭礼の文化的景観―

所在地
岐阜県(高山市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当

16世紀末期に町割が行われた城下町を基盤とし,幕府直轄領となった17世紀末期以降には飛騨国の政治の中心のみならず,町人自治が発展した商業の中心地として栄えた区域の一部を成す資産である。
飛騨の良質な木材と飛騨匠の木工技術に支えられて形成・発展してきた伝統的な町並や屋台が良好に遺存し,祭礼と共に文化的なまとまりを保持している資産として,価値が高い。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,城下町・商人町を基盤に形成された町並みと,そこで行われる祭礼の双方が織り成す文化的景観の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
○今後の課題
  • 世界史的・国際的な視点に立ち,祭礼と密接な関連を持つ町並みの全体像を明らかにする観点から,同種資産の比較研究を進める中で,適切な主題設定や資産構成について検討することが重要である。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,選定又は追加選定等を行うことが重要である。
  • 本資産においては,全国でも有数の規模を誇る伝統的な屋台祭礼やその屋台も資産の価値と一体を成す重要な要素であると考えられるが,現行の世界遺産の要件に鑑みればこれらを構成資産として評価することはできず,このたびの審査に当たっては,こうした基準に照らして判断する以上,伝統的な屋台祭礼やその屋台については評価の対象から除外せざるを得なかったものである。

提案資産名:天橋立-日本の文化景観の原点

所在地
京都府(宮津市・伊根町・与謝野町)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅠaに該当

白砂青松の景勝地である天橋立は日本を代表する特徴的な海洋景観であり,風景美を自らの心象や芸術に投影し,眺め見ることを憧憬してきた日本的美意識の形成過程を物語る資産である。
日本を代表する「白砂青松」の景勝地として最も著名であり,様々な芸術作品や庭園の造形にも影響を与えるなど,日本人の文化性・精神性を理解する上で重要な風致景観として,価値は高い。
日本的美意識を表す海浜の風致景観として,我が国の世界遺産暫定一覧表には未だ見られない分野の資産であり,将来的な記載の候補となり得る可能性はあるが,比類のない「白砂青松」の景勝地の希少例又は典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことを確実に証明するために,世界史的・国際的な観点から十分な研究を行うことが必要である。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,比類のない「白砂青松」の景勝地の希少例又は典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つ可能性について確実に証明することが必要である。
○今後の課題
  • 「稀有の資産」であるとするが,マツが叢生する海岸及び島嶼など国内外の同種資産との詳細な比較研究,特に,我が国の水墨画のモチーフともなった中国・韓国の事例との十分な比較研究に基づき,雪舟の絵画をはじめ,様々な芸術作品との緊密な関連性の観点から,本資産が持つ希少性及び日本の様々な文化に与えた影響について,確実に証明することが必要である。
  • マツが叢生する砂嘴を天につながる橋と見立てる日本人の独特の伝統や精神性の原点と位置づけることについての十分な説明が必要である。
  • 上記の比較研究を踏まえつつ,「日本の文化景観の原点」という概念での整理については慎重な検討が必要である。
  • 真実性・完全性の証明のため,以下の点について確実に満たすことが必要である。
    • 砂防のための突堤が景観の真実性に与える影響について慎重に検証するとともに,本来の砂浜維持の方法と突堤等との望ましい関係について整理すること。
    • 主題に合わせて,構成資産を厳密に取捨選択すること。
    • 小式部内侍が天橋立とともに和歌に詠んだ大江山など,周辺の関連諸要素の適切な保護の在り方について検討すること。
  • 適切かつ十分な保護のため,提案された諸要素のすべてを国の文化財に指定又は選定することが可能か否かについて,慎重な検討が必要である。

提案資産名:近世岡山の文化・土木遺産群-岡山藩郡代津田永忠の事績-

所在地
岡山県(岡山市・備前市・赤磐市・和気町)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当
(但し,閑谷学校とその関連資産についてはカテゴリーⅠbに該当)

岡山藩主池田光政・綱政の下で郡代として手腕を発揮した津田永忠が,技術集団を指揮・監督して築いた学校教育施設・庭園・治水土木施設・藩主墓所などから成る資産群であり,建設に当たって用いられた技術は他藩にも影響を与えた。
近世の岡山藩において,各種の藩政関連施設の整備を担当した津田永忠の関連資産であり,近世日本において藩政の中核を担った一人の有能な藩士が関わった一群の要素から成る資産として,価値は高い。
なお,近世の教育資産については,我が国の世界遺産暫定一覧表には未だ見られない分野の資産であり,閑谷学校については,その構成資産となり得る可能性について検討する必要がある。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,近世日本における一連の藩政関係施設の資産として,また,近世の土木資産として,顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
  • なお,閑谷学校については,同種資産との比較研究を進めることにより,近世日本の教育資産として顕著な普遍的価値を持つか否かについて十分に検討することが必要である。
○今後の課題
  • 近世の教育資産に関しては,当面,専門家による学術的な調査研究を十分に行い,これにより主題及び主題基づく資産構成に関して一定の方向性が見えた段階で,関係地方公共団体において準備を進めることが必要である。
  • 日本の近世における各藩の藩校など,国内外の同種の教育関連資産との比較研究を網羅的に進めることが必要である。
  • なお,近世の土木資産や藩政関係施設に関しては,その全体像を明らかにする観点から,国内外の同種資産との比較研究を進め,適切な主題設定,資産構成について研究することも重要である。

提案資産名:三徳山-信仰の山と文化的景観-

所在地
鳥取県(三朝町)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当

三徳山は,近世大名等をはじめ,多くの人々が信仰を寄せた山陰の霊峰であり,これに周辺の小鹿渓を含む地域は,人と自然との関わりを示す景勝地,信仰の場,宗教施設群から成る景観地として知られている。
世界的宗教(仏教)と我が国固有の信仰(神祇信仰)との独特の融合の結果を示す神仏習合の事例のうち,特に山岳修験の場として急峻な地形と独特の意匠・構造を持つ建築との調和を示す資産として,価値は高い。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界的・国際的な観点から,信仰の山の文化的景観として,本資産が持つ顕著な普遍的価値の証明が不十分である。
○今後の課題
  • 世界史的・国際的な視点に立ち,修験道や信仰の対象としての聖なる山のそれぞれの全体像を明らかにする観点から,国内外の同種資産との比較研究を進め,適切な主題設定や資産構成について検討することが重要である。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定又は追加指定等を行うことが重要である。

提案資産名:萩-日本の近世社会を切り拓いた城下町の顕著な都市遺産

所在地
山口県(萩市・山口市・防府市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅠbに該当

城下町萩は,17世紀初頭に毛利輝元が指月山に城を築き,阿武川下流の三角州全体を惣構として町割を行ったことに始まる。地形の特徴を捉えた城郭,武家地,町人地,寺社地等の配置,合理的な街路や水路の配置に,城下町としての都市の計画性が良く表れる。
開府以来400年の時を経てもなお地割や建造物を広く残し,城下町の景観を良好に伝える近世の都市遺産として,価値は高い。
なお,近世の城郭及び城下町関連の文化資産については,我が国の世界遺産暫定一覧表には未だ見られない分野の資産であり,比較調査に基づく他の同種資産との組合せにより,将来的な記載の候補となり得るか否かについて十分に検討することが必要である。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,近世日本の城下町の様相が遺存する都市遺産の代表例
    典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
  • なお,本提案と同種資産との比較研究を進めることにより,近世の城郭及び城下町関連の文化資産が顕著な普遍的価値を持つか否かについて十分に検討することが必要である。
○今後の課題
  • 当面,近世の城郭及び城下町関連の文化資産に関し,専門家による学術的な調査研究を十分に行い,これにより主題及びこれに基づく資産構成に関して一定の方向性が見えた段階で,関係地方公共団体において準備を進めることが必要である。
  • その際,顕著な普遍的価値の証明の観点から,本資産や関連資産の遺存状況にも留意しつつ,城郭と城下町を総合的に評価することが適切であるのか,あるいは記念工作物としての城郭と都市遺産としての城下町とを区別して評価することが適切であるのかについて十分な検討を行うことが必要である。
  • また,城下町については,日本の城下町の類型・発展過程を明らかにしつつ,城下町の空間構造,成立条件となる社会・経済的な諸要素などの観点から,世界史的・国際的かつ詳細な比較研究を行うことが必要。
  • 真実性・完全性の観点から,以下の点について課題を確実に解決することが必要である。
    • 近世の城下町が近・現代に変容を遂げる過程で,河川などの自然地形,街路・街区などの骨格,階級による居住区分形態,成熟した都市文化を示す諸要素などの観点において,都市全体としての完全性を継承しているか否かについて,詳細に検討すること。
    • 資産構成における街道(萩往還)の位置付けについて,慎重に検討すること。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定・選定又は追加指定・選定を行うことが重要である。

提案資産名:錦帯橋と岩国の町割

所在地
山口県(岩国市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅠaに該当

錦川の両岸に形成された城下町を結ぶために架橋され,架け替えを繰り返しながらも長年にわたり受け継がれてきた木造アーチ橋の架橋技術により造られた独特の木造橋と,その両岸を含めた景観から成る資産である。
3連アーチ形の木橋と2つの反橋を中心とする資産で,高度に発展した独特の架橋技術を示すとともに,地形と融合して形成された優秀な景観として,価値は高い。
木造アーチ橋とその景観の資産として,我が国の世界遺産暫定一覧表には未だ見られない分野の資産であり,将来的な記載の候補になり得る可能性はあるが,本資産の景観としての真実性に関する国内外の確実な評価を得るための慎重な研究が不可欠である。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界的・国際的な観点から,木造アーチ橋とその景観の事例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つ可能性について確実に証明することが必要である。
○今後の課題
  • 3連アーチ形の橋及び2つの反橋から成る木造橋とその景観としての希少性は高く,国際記念物遺跡会議(ICOMOS)・国際産業遺産保存委員会(TICCIH)の比較評価によると価値は高いとされているが,価値の基盤をなすと考えられる独特の架橋技術及びその確実な伝承に関する技術史的な研究を進めるとともに,他国の代表的な橋梁からなる景観とのさらなる比較研究を深めることが必要。
  • 真実性・完全性の証明のため,以下の点を確実に実施することが必要である。
    • 橋の「意匠」・「形態」・「機能」などの指標に着目した真実性の捉え方については一定の合理性が認められるが,架け替えを行うことにより,「材料・材質」の指標を含め,真実性の総体が確実に伝達されているか否かについて慎重に検証すること。
    • 上記の点について,国内外の幅広い専門家と連携しつつ十分な検証を図ること。
    • 橋の両岸に城郭と城下町が展開したことが,独特の意匠・構造を持つ橋を継続的に架け替えたことの重要な根拠と捉えられる。そのため,両岸の横山地区・錦見地区のみならず,岩国城跡についても視野に入れて調査研究を進め,どこまでを一体の資産の範囲に含めるべきなのかについて考え方を整理すること。
  • 適切かつ十分な保護のため,以下の措置を行うことが必要である。
    • 川の両岸に展開する城郭・城下町などの諸要素は,橋の架け替えと緊密な関係を保ちつつ変容を遂げてきたという点で重要ではあるが,個々の諸要素のうち,国の文化財への指定又は選定が可能なものについて慎重に吟味すること。
    • 横山地区を含む錦川の右岸域については,適切に保全措置を講ずること。

提案資産名:山口に花開いた大内文化の遺産-京都文化と大陸文化の受容と融合による国際性豊かな独自の文化-

所在地
山口県(山口市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当

室町幕府の一守護でありながら,明国,朝鮮王朝,琉球王国とも積極的な通交を展開した大内氏の本拠地である山口は,宣教師ザビエルが日本に上陸した後,最初に教会を建設した町として知られ,そのザビエルが「日本でもっとも有名な町」「一万人以上の人々が住み」と書簡に記したように,強力な軍事力,豊富な財力を背景に文化的発展を遂げた。
15世紀前半から16世紀中頃における大内氏関連の一連の諸要素から成り,日本と東アジア地域との交流による国際性豊かな独特の要素を持つ資産として,価値は高い。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,「京都文化」と異なる独特の文化の発展・形成を表す資産として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
○今後の課題
  • 世界史的・国際的な視点に立ち,京都文化が地方へ波及する過程で形成された独特の文化を明らかにする観点から,世界遺産「古都京都の文化財」を含む同種資産との比較研究を進める中で,適切な主題設定や資産構成について検討することが重要である。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定又は追加指定等を行うことが重要である。
  • なお,中世の地方豪族の発展に関する資産に関しては,その全体像を明らかにする観点から,国内外の同種資産との比較研究を進め,適切な主題設定,資産構成について研究することも必要である。

提案資産名:四国八十八箇所霊場と遍路道

所在地
徳島県
(徳島市・鳴門市・小松島市・阿南市・吉野川市・阿波市・三好市・勝浦町・神山町・牟岐町・美波町・海陽町・板野町・上板町)
高知県
(高知市・宿毛市・四万十市・安芸市・土佐清水市・須崎市・土佐市・室戸市・南国市・香南市・香美市・東洋町・奈半利町・田野町・安田町・芸西村・春野町・中土佐町・四万十町・大月町・三原村・黒潮町)
愛媛県
(松山市・今治市・宇和島市・新居浜市・西条市・大洲市・四国中央市・西予市・久万高原町・砥部町・内子町・愛南町)
香川県
(高松市・丸亀市・坂出市・善通寺市・観音寺市・さぬき市・東かがわ市・三豊市・宇多津町・多度津町)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅠaに該当

地域社会と一体となった回遊性の遍路文化が数百年にわたって継承される中で形成された,日本の民間巡礼信仰と直接関連する生きた資産である。
弘法大師空海にゆかりの八十八箇所霊場の札所寺院と全長約1,400kmにも及ぶ壮大な回遊巡礼路から成り,一般民衆の弘法大師信仰に基づき,四国の地域社会が支え続けてきたことから,「生きている伝統」を表す資産として,価値は高い。
霊場への巡礼が今なお人々により継続的に行われている資産として,我が国の世界遺産暫定一覧表には未だ見られない分野の資産であり,将来的な記載の候補となり得る可能性はあるが,構成資産の大半が文化財として保護されておらず,資産の範囲も広域に及ぶことから,文化財の指定・選定を含めた保護措置の改善・充実に向けた取組等が不可欠である。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,霊場への巡礼が今なお人々により継続的に行われている資産の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことを確実に証明することが必要である。
○今後の課題
  • 世界遺産一覧表に記載されている国内外の同種遺産及びその候補地との比較研究を継続的に行うことが必要である。その際には,「写し霊場」を持つ資産としての観点から,比較研究を行うことも必要である。
  • 真実性・完全性の証明のため,以下の点について確実に満たすことが必要である。
    • 八十八箇所霊場のうち,近代以降に位置が変わっているものや,新たに付け加わったものなどについて,価値評価の考え方を整理すること。
    • 八十八箇所霊場については,19世紀に製作された「四国名所図会」に基づき,最低限保護すべき範囲を特定する手法が採られているが,その後の境内地の変遷の経過や境内地の存立条件を成す一体の地形をも視野に入れた保護の範囲について検討すること。
    • 資産の特質が「回遊巡礼」にあることを踏まえ,巡礼路をできる限り資産の範囲に含めることができるよう,適用すべき文化財の類型,保存管理手法等について検討すること。
    • 霊場と遍路道との連続性を認知する上で,それらに関連する「お接待」などの文化的伝統に関する適切な価値評価を行い,その継承に努めること。
  • 適切かつ十分な保護のため,以下の点について措置を講ずることが必要である。
    • 構成資産の大半が文化財として保護されていない状況にあることから,今後の保護施策を着実に進めること。
    • 「往来」と一体の土地利用の実態及びその変遷の過程を表す沿道の区域については,広く資産の範囲に含める観点から,重要文化的景観としての評価・選定区域を考慮すること。
    • 構成資産が多種多様かつ四国全県の広域に及び,所有者等も多岐にわたることから,関係者間における連携・意思疎通の手法を明確化するとともに,体制の整備・充実に努めること。

提案資産名:宇佐・国東-「神仏習合」の原風景

所在地
大分県(中津市・豊後高田市・杵築市・宇佐市・国東市)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当

宇佐地方と国東半島には,全国の八幡宮の総本社である宇佐神宮をはじめとする神社や岩屋寺院,中世荘園遺跡など,世界的宗教(仏教)と我が国固有の信仰(神祇信仰)との独特の融合の結果を示す神仏習合や山岳信仰等の歴史を示す多数の資産が残されている。
日本人の信仰の基層を示す神仏習合と山岳信仰に関わって形成された一群の諸要素が当時の原形を伝え,信仰・儀礼・祭礼・土地利用などの相互の関係が現在にも継承されている資産として,価値は高い。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,仏教と我が国固有の信仰との独特の融合の結果を表す神仏習合の資産の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分。
○今後の課題
  • 世界史的・国際的な視点に立ち,仏教と我が国固有の信仰との独特の融合の結果を表す神仏習合の資産の全体像を明らかにする観点から,国内外の同種資産との比較研究を進め,適切な主題の設定や資産構成について検討することが重要である。
  • 神仏習合を「日本の宗教改革」として位置付けて評価する点については慎重に研究することが重要である。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定又は追加指定等を行うことが重要である。

提案資産名:阿蘇-火山との共生とその文化的景観

所在地
熊本県(阿蘇市・南小国町・小国町・産山村・高森町・南阿蘇村・西原村)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅠaに該当

古来,畏怖すべき自然の対象である火山と対峙・共存しつつ継続されてきた土地利用形態を表し,自然と人間とが調和の下に共生していることを示す資産である。
世界最大級のカルデラを持つ活火山で,古くから信仰の対象として畏怖されてきたのみならず,カルデラ内の豊後・肥後を結ぶ街道沿いに展開する集落・農地,外輪山に広がる牧野など,人間と火山との共生の在り方を示す文化的景観として,価値は高い。
現在活動中の火山のカルデラにおける文化的景観として,我が国の世界遺産暫定一覧表に は未だ見られない分野の資産であり,将来的な記載の候補となり得る可能性はあるが,資産の範囲が広大であることから,文化財の指定・選定を含めた保護措置の改善・充実に向けた取組等が不可欠である。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,信仰の対象である現在活動中の火山及びそこに展開する草地景観を中心とした独特の土地利用形態を表す文化的景観の代表例・典型例として,本資産が顕著な普遍的価値を持つことを確実に証明することが必要である。
○今後の課題
  • 世界的な観点から,火山のカルデラにおける人間の共存事例など,国内外の同種資産との比較研究が必要である。
  • 完全性の証明のため,以下の点について確実に満たすことが必要である。
    • 火山のカルデラと人間との共存の在り方を示す各時代の諸要素について探索し,通史的な観点から調和の取れた資産構成とすること。
    • 外輪山及びその周辺を含む資産の範囲については主題との整合性を整理すること。
  • 適切かつ十分な保護のため,以下の点について措置を講ずることが必要である。
    • 主題説明に必要な資産の範囲について,重要文化的景観等の保護措置を確実に講ずること。
    • 緩衝地帯の保全の範囲及び方法について,具体的な方針を定め,その実現を図ること。
    • 国立公園の普通地区における現行の行為規制の内容が,文化的景観としての本資産の保護にとって十分であるのか否かについて検討すること。
    • 地域住民や来訪者との連携による景観の維持に関する体制を整備すること。

提案資産名:竹富島・波照間島の文化的景観~黒潮に育まれた亜熱帯海域 の小島~

所在地
沖縄県(竹富町)
総合的評価 ⇒
カテゴリーⅡに該当

琉球列島の最南端に位置する竹富島・波照間島は,亜熱帯海域の小島である。黒潮によって運ばれてきた文化の影響を受けながら,その風土の中で,地域固有の建築及び集落形態を発展させ,祖先崇拝と自然崇拝が融合した独特の信仰を伝えてきた。
集落・農地・海域・祈りの場(御嶽,井戸等)等の有形の諸要素が,島の伝統的な習俗・祭事・生業・工芸技術等の無形の諸要素に支えられながら良好に維持され,自然景観と一体となって生きた文化的伝統を示す資産であり,価値は高い。

課題等
○顕著な普遍的価値
  • 世界史的・国際的な観点から,有形・無形の生きた文化的伝統を示す亜熱帯海域の島嶼の文化的景観として,顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
○今後の課題
  • 世界史的・国際的な視点に立ち,亜熱帯地域の島嶼の生活・生業,精神文化を表す資産の全体像を明らかにする観点から,国内外の同種資産との比較研究を進め,適切な主題設定や資産構成について検討することが重要である。
  • 文化財としての保護が十分ではないものについては,指定・選定又は追加指定・選定を行うことが重要である。
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