文化審議会著作権分科会(第31回)議事録・配布資料

1 日時

平成22年5月21日(金) 14:00~16:00

2 場所

旧文部省庁舎 6階 第2講堂

3 出席者

(委員)
石坂,大寺,大林,大渕,金原,河村,黒木,後藤,佐々木,里中,瀬尾,大楽,道垣内,常世田,土肥,野村,広崎,福王寺,松田,宮川,村上,山浦の各委員
(文化庁)
戸渡長官官房審議官 ほか関係者

4 議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)法制問題小委員会 権利制限の一般規定に関する中間まとめについて
    2. (2)その他
  3. 3 閉会

5 配布資料

資料1
権利制限の一般規定の検討経緯等(132KB)
資料2
法制問題小委員会 権利制限の一般規定に関する中間まとめの概要(平成22年4月)(212KB)
資料3
法制問題小委員会 権利制限の一般規定に関する中間まとめ(平成22年4月)(1.05MB)
資料4
辻本委員提出資料(84KB)
参考資料1
第10期文化審議会著作権分科会委員名簿(76KB)
参考資料2
文化審議会著作権分科会(第30回)議事録(192KB)

6 議事内容

【野村分科会長】
 それでは,定刻がまいりましてまだご出席予定の方でお見えになってない方が二,三ございますけれども,ただいまから文化審議会著作権分科会の第31回を開催いたします。本日は,ご多忙の中,ご出席いただきまして誠にありがとうございます。
 議事に入る前に,本日の会議の公開につきましてお諮りいたします。傍聴者の方には既に入場いただいておりますが,本日予定されている議事内容を拝見しますと特段非公開にするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいております。特にご異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声)

【野村分科会長】
 それでは,定刻がまいりましてまだご出席予定の方でお見えになってない方が二,三ございますけれども,ただいまから文化審議会著作権分科会の第31回を開催いたします。本日は,ご多忙の中,ご出席いただきまして誠にありがとうございます。
 議事に入る前に,本日の会議の公開につきましてお諮りいたします。傍聴者の方には既に入場いただいておりますが,本日予定されている議事内容を拝見しますと特段非公開にするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいております。特にご異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声)

【野村分科会長】
 それでは,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことにいたします。
 まず,事務局から配布資料の確認をお願いいたします。
【壹貫田課長補佐】
 それでは,配布資料の確認をいたします。議事次第の下半分をご覧ください。
 資料1といたしまして,権利制限の一般規定の検討経緯等を,資料2といたしまして,権利制限の一般規定に関する中間まとめの概要,また資料3といたしまして,中間まとめの本体。それから,資料4といたしまして,辻本委員ご提出資料を配布しております。そのほかにも参考資料1といたしまして,第10期分科会委員名簿,参考資料2といたしまして,第30回の分科会の議事録をお配りしております。配布資料につきましては,以上でございますが,資料1,2及び4につきましては,事前に送付する予定としておりましたところ,当日の配布となってしまいまして申し訳ございませんでした。
 落丁等ございます場合には,お近くの事務局員までお声かけいただければと思います。
 以上でございます。
【野村分科会長】
 それでは,議事に入ります。
 本日の議事は,法制問題小委員会権利制限の一般規定に関する中間まとめについてです。
 権利制限の一般規定に関しましては,昨年5月以降,法制問題小委員会において精力的にご検討いただいておりまして,1月の本分科会においてはワーキングチームの報告書についてご報告いただきました。その後,ワーキングチームの報告をたたき台としてご検討いただき,先月の法制問題小委員会におきまして,中間まとめが取りまとめられました。これについては今後意見募集を行い,それを踏まえて,さらに審議を進めていくことを予定しております。
 それでは,土肥主査よりご報告をお願いいたします。
【土肥委員】
 それでは, 資料1,2,3に基づいてご報告をいたします。法制問題小委員会における,権利制限の一般規定に関する中間まとめについて,でございます。
 法制問題小委員会では,著作権法における権利制限の一般規定の在り方について,本小委員会の主要課題として昨年5月から検討を進めてきております。今後については資料1の2ページに詳細に示してございますように,小委員会では権利制限の一般規定に対する考え方について,有識者団体及び関係団体へのヒアリングを行い,検討事項を整理いたしました上で,ワーキングチームを設置するなど,集中的な検討を行ってまいりまして,本年1月の本分科会では,ワーキングチームの報告書の内容と小委員会での審議の進捗状況をご報告したところでございます。
 このたびワーキングチームの報告書を踏まえて,さらに検討を加えまして,小委員会としての中間まとめを取りまとめたわけでございます。今後は,この中間まとめについて意見募集を行い,寄せられたご意見を踏まえ,引き続き検討を行い,秋ごろを目標に小委員会としての最終まとめを行いたいと考えておるところでございます。
 中間まとめの概略でございますけれども,これは資料2,3ページをご覧いただきたいと思います。
 3ページの2は権利制限の一般規定を導入する必要性についてということでございますけれども,法制問題小委員会での検討では,規律の明確化,個別権利制限規定による対応の限界,それから利用者についての萎縮効果を軽減することなどから,一般規定を導入する意義が認められるというまとめをしております。
 また,権利制限の一般規定の対象とすべき利用行為については,資料2の4ページをご覧いただきたいと存じます。
 ヒアリングにおきまして,利用者側から提出された様々な事例を分析し,かつこれをグループ化した上で,A,B,Cの3つの利用類型をまとめまして,これを一般規定の対象とすべきとしております。
 Aでございますけれども,Aは写真や映像の撮影に伴ういわゆる「写り込み」のように他の行為が付随的に生じる利用を考えております。
 それから,Bでございますけれども,Bは著作物の適法な利用を達成しようとする過程において,合理的に必要と認められるような,利用行為を考えております。
 さらに,下のCでございますけれども,これは技術の開発や検証のために,著作物を素材として利用するような,著作物の表現の知覚を通じて,その表現を享受することを目的としない利用を考えておるところでございます。
 これら以外の利用につきましては,これはまた1枚めくっていただいて5ページにございますように,個別権利制限規定による解釈や法改正,創設,こういったことによって今後対応することが適当としておるところでございます。詳細につきましては,これから事務局に説明をいただきたいと思っております。
 それでは,よろしくお願いいたします。
【池村著作権調査官】
 事務局より詳細について説明申し上げます。
 まず,資料1をご覧ください。こちらに基づきまして,これまでの検討経緯を簡単にご報告申し上げます。
 ご承知のとおり権利制限の一般規定の問題につきましては,平成20年に設置された「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」で検討が行われ,これを導入することが適当であるという報告がなされ,さらには知的財産推進計画2009でも,「著作権法における権利者の利益を不当に害しない一定の範囲内で公正な利用を包括的に許容し得る権利制限の一般規定の導入に向け,ベルヌ条約等の規定を踏まえ,規定振り等について検討を行い,2009年度中に結論を得て,早急に措置を講ずる。」とされていたところでございます。
 1枚ページをめくっていただきまして,法制小委における中間まとめの取りまとめまでの具体的な検討の経緯について,でございます。  法制小委では,昨年5月より検討を開始し,関係団体43団体からのヒアリングを経て,昨年9月に論点を整理し,「議論のたたき台」を作成するために,ワーキングチームを設置いたしました。ワーキングチームは全8回開催の後,報告書をまとめ,本年1月に法制小委に報告するとともに,前々回の本分科会におきましても報告させていただいているところでございます。その後,このワーキングチーム報告を基に法制小委で4回にわたりご議論いただきまして,4月に本日資料3として配布させていただいております「中間まとめ」を取りまとめるに至っております。
 続きまして,この中間まとめの内容につきまして,お手元の資料2の中間まとめの概要に従い,ご説明申し上げます。
 まず,表紙をめくっていただき,1ページ目をご覧ください。検討の背景で,内容的には先ほど資料1に基づきご説明申し上げたことと同様でございます。
 続きまして,2ページと3ページ,こちらは権利制限の一般規定を導入する必要性について,でございます。
 まず,2ページ,問題の所在でございますが,法制小委で実施したヒアリングにおいて,導入に賛成する意見として,個別規定限定列挙方式の現行法のもとでは,利用者や新規ビジネスに対する萎縮効果があるという意見,個別規定の解釈等による解決にも限界があるといった意見,個別規定の改正等には時間がかかり,技術の進歩に対応できないといった意見等が出され,一方で,反対する意見として,導入しなければならないほどの重大な問題が生じていないといった意見,導入による居直り侵害者が蔓延するといった意見,あるいは,権利行使にかかる訴訟コスト等の負担が権利者側にのみ増加し,実質的公平性を欠く等の意見が出されたこと,そして,利用者側からは導入に積極的な意見が多く出され,権利者側からは消極的な意見が多く出され,両者に大きな意見の隔たりが認められるといったことをまとめてございます。そして,かかる状況を受けて,法制小委で導入を根拠づける立法事実があるかどうかにつきご検討いただいております。
 ページをめくっていただきまして,3ページ目でございますが,ここでは権利制限の一般規定を導入する必要性の検討として,関連する論点の検討結果とそれを受けた法制小委としての導入の必要性に関する結論をまとめてございます。
 まず,個別規定の解釈等による対応可能性についてです。
 我が国の裁判実例においては,個別規定の解釈上の工夫や民法の一般規定の活用等により,事案に応じた妥当な解決が図られている実態が一定程度認められ,また個別規定が常に厳格解釈され,これによる不合理な結論が現実に生じている実態があると評価できないとしてまとめられております。しかしながら,一方で,インターネット等の技術の発展による著作物の利用形態・利用環境・利用手段等の多様化や,社会状況の変化等にかんがみると,こうした個別規定の解釈論による解決には,今後,一定の限界があり得るところであり,また,民法上の一般規定を活用した解決よりも著作権に特化した一般規定を著作権法の下に導入し,これにより解決した方が規律の明確化を図ることができると考えられる,こういう形の結論となっております。
 次に,個別規定の改正等に時間がかかるとの指摘についてです。
 ワーキングチームと同様に,個別規定の改正等に時間がかかるとの事実のみを主要な根拠として,権利制限の一般規定の必要性を導くことは必ずしも適当ではない,という形でまとめられておりますが,一方で,著作物を取り巻く様々な状況の変化に照らすと,個別規定の改正等による対応にも一定の限界があり得るという形の結論となっております。
 次に,権利制限の一般規定の導入と消極的な懸念であります。居直り侵害者の蔓延,権利者の負担増加による実質的公平性を欠く等の指摘でありますが,これらの問題につきましては,導入による居直り侵害者が蔓延するとまでは考えられず,権利者側の負担増により実質的公平性を欠く等の指摘については,一般規定の要件の趣旨を明確にすること等により,ある程度解消することが可能である,という形でまとめられてございます。
 最後に,権利制限の一般規定を導入する効果についてですが,ヒアリング等の結果を踏まえると,現実問題として利用者側に著作物の利用に関して一定の萎縮効果が働いている可能性があり,一般規定の導入によりこれが一定程度解消され,その結果経済的効果と評価すべきか否かはともかく,何らかのプラスの効果が生まれる可能性自体は否定できない,こういった形の結論となっております。
 以上を踏まえ,法制小委としましては,先ほど主査より報告をいただきましたとおり,権利制限の一般規制を導入する意義が認められるという形で結論をいただいております。
 続きまして,概要の4ページをご覧ください。
 権利制限の一般規定の内容,すなわち権利制限の一般規定を導入するとした場合に,どのような行為を権利制限の対象と位置づけるかということであります。基本的には,ワーキングチームの報告書に沿ったものであり,立法事実の検証という観点よりヒアリングにおいて一般規定の対象とすべきとして出された利用行為を分析することにより,先ほど主査からご報告がございましたとおり,AからCという形で類型化をし,これらを権利制限の一般規定の対象と位置づけることが適当であるとの結論をいただいております。
 まず,Aでございますが,「その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生ずる当該著作物の利用であり,その利用が質的または量的に社会通念上軽微であると評価できるもの」であります。典型的には,いわゆる「写り込み」といわれるものが考えられます。
 続きまして,Bは「適法な著作物の利用を達成しようとする過程において合理的に必要と認められる当該著作物の利用であり,かつ,その利用が質的または量的に社会通念上軽微であると評価できるもの」であります。こちらは適法な利用の準備段階,企画段階での様々な行為を対象と考えるものであり,法制小委でも議論があり,ワーキングチームの報告書から表現が若干修正されているところであります。
 最後に,Cの「著作物の種類及び用途並びに利用の目的,態様に照らして,当該著作物の表現を知覚することを通じてこれを享受するための利用とは評価されないもの」ということであります。こちらも先ほどのBと同様に,法制小委の議論により,ワーキングチームの報告書での表現が若干修正されてございます。
 このCの類型につきましては,むしろ報告書本体,資料3の20ページ以降,こちらをご覧いただいた方が分かりやすいと思います。現行著作権法は,著作物を「視る」,「聴く」等といった表現の知覚を通じてこれを享受する行為,それ自体に権利を及ぼすのではなく,こうした行為の前段階の行為である複製,公衆送信といった行為に着目して権利を及ぼしているものでございますが,特にデジタルネットワーク社会においては,こうした関係にいわば逆転現象が生じ,複製等が生じているものの表現を享受するためのものとは評価できない利用形態といったものが一定程度存在する可能性があると考えられます。本中間まとめでは,こうした行為を一般規定による権利制限の対象と位置づけることにより,研究開発の過程で複製等が不可欠な各種技術開発行為や,特にネットワーク上で複製等を不可避的に伴う情報ネットワーク産業における各種行為といった利用の円滑化に位置するものと考えられるという形で結論をいただいております。
 また,法制小委におきまして,このCの類型を技術の急速な進歩への対応やインターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図る措置として,権利の法改正により手当てされた個別規定を包括するようなものとしてとらえることができるとのご意見がございました。
 法制小委では,以上,ご説明申し上げましたAからCを対象とする権利制限の一般規定が適当であるとの結論をいただいておりますが,報告書本体の17ページの冒頭にも書いてございますが,AからCの表現はあくまでも概念を分かりやすく整理したものにすぎず,将来,仮に条文化ということになった場合,これがこのまま条文上の表現になるものではないというふうにご留意いただければと思います。
 同様に,こちらは報告書本体の16ページの末尾に書いてございますが,考え方の整理に当たりましては,言語や美術,あるいは音楽といった伝統的な著作物を念頭に行い,プログラムの著作物については別途検討するという手法を採用していること,すなわちAからCの表現は音楽といった典型的な,あるいは伝統的な著作物を念頭に置いたものであるという点にもご留意いただければと思います。さらに,AからCの類型に該当する利用行為であっても,権利者の利益を不当に害する可能性が否定できないため,社会通念上著作権者の利益を不当に害しない利用であることを追加の要件とする等の方策を講ずる必要があるという形にされております。
 続きまして,概要版の5ページをご覧ください。
 ただいま説明申し上げましたAからC以外のものの取扱いでございますが,まず[3]として既存の個別規定の解釈による解決が図られる可能性があるものについては,一般規定の対象とは位置づけずに,引き続き個別規定の解釈に委ねること,続いて,[4]として,障害者福祉,教育等といった特定の利用目的に基づく利用については,既存の個別規定との関係を慎重に考慮した上で必要に応じて,個別規定の改正等により対応することが適当であること,とりわけパロディとしての利用については,検討すべき重要な論点が多いことから,これらを検討した上で,必要に応じて個別規定の改正や創設により対応することが適当であること,これらがそれぞれ取りまとめられております。
 また,[5]その他,といたしまして,[1]から[4]のいずれにも該当しない利用については,権利制限の必要性を慎重に検討した上で,必要に応じて個別規定の改正・創設により対応することが適当であること,そして,他人の著作物利用行為に何らかの形で関与する行為については,間接侵害の問題として,こちらは現在,法制小委のワーキングチームにおいて鋭意検討が進められておりますが,こちらで別途検討,対応すべきものであり,一般規定の導入により解決できる性質の問題ではない,という形で取りまとめられております。
 1枚ページをめくっていただきまして,概要の6ページでございます。こちらでは,権利制限の一般規定を条文化する場合の検討課題の検討結果の概要をまとめております。
 まず,権利制限の対象とする支分権及び著作物の種類についてですが,一般規定という性質上,特段これを検討する必要はないと考えられるものの,特にC類型については,プログラムの著作物の特殊性を慎重に考慮する必要があるとされております。
 続きまして,著作者人格権との関係につきましては,AからCの類型の利用行為の性質を踏まえつつ,慎重な検討が必要であるという形で取りまとめられております。
 さらに,関係条約との整合性につきましては,実際の条文化に当たっては,関係条約との整合性,特にスリーステップテストに留意する必要があるという形でまとめていただいております。
 次に刑事罰との関係でありますが,著作権法刑事罰の対象となっており,権利制限規定と合わせて処罰範囲を画する機能を有することから,憲法31条に基づき,明確性の原則,一般規定の内容,条文化の検討に当たっては,明確性の原則に十分留意する必要があるという形で取りまとめられております。
 最後に,実効性・公平性担保のための環境整備についてでありますが,一般規定に反対する立場より,権利制限の一般規定,とりわけ米国型の規定を導入するのであれば,併せて懲罰的損害賠償制度やクラスアクション制度を導入すべきであるとの趣旨のご意見がございました。これについては,こうした新たな法制度の導入について慎重に検討すべきであり,一般規定の導入と併せて,これらの制度の導入が必要とは言えないという形で結論をいただいております。
 ページをめくっていただき,最後の7ページは,参考といたしまして,諸外国の状況についてまとめた内容でございます。こちらは報告書本体の7ページから10ページにかけての部分をごく簡単にまとめたものであります。
 長くなりましたが,中間まとめについての事務局からの説明は以上でございます。詳細につきましては,報告書の方をご覧いただければと思います。
 次に資料4をご覧ください。本日ご欠席の辻本委員より意見書をご提出いただいておりますので,併せて紹介させていただきます。「中間まとめ」において,一般規定を「導入する必要あり」との結論となったことは遺憾であるというご意見でございます。
 事務局からの説明は以上でございます。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 それでは,ただいまのご説明,ご報告につきまして,ご意見,ご質問等ございましたらご発言をお願いしたいと思います。
 大林委員。
【大林委員】
 いろいろ議論がありました問題に関してまとめられたご努力に対して敬意を表したいと思います。
 確認と言いますか,二,三,述べさせていただきたいと思います。
 名は体をあらわす,という言葉がありますけれども,権利制限の一般規定というタイトルで,これは明らかに米国側のフェアユースではない。ましてや日本版フェアユースという曖昧な表現ではないということを私はここで確認しておきたいと思います。
 それとA,B,Cという形の類型の中で対応していくということでございますけれども,仮にこの権利制限の一般規定を導入する場合でありましても,著作物の利用に当たって,権利者から許諾を得て利用するというのは,これは大原則であると思います。大原則をないがしろにしない厳格な要件を設定していただきたいと思います。
 それから,インターネット上では言ってみれば,違法流通というのはもう溢れ返っているような状況ですけれども,一方で,コンテンツというものは無料だという考え方もあり,この権利制限の一般規定の導入が,そういう悪しき潮流を助長することがないように,要件とか趣旨といったものを明確にしていただきたいということでございます。
 それから,我が国では条約上のスリーステップテストを順守するということは当然だと思いますけれども,権利制限の一般規定を導入するに当たりましては,国際条約に反すると疑念を持たれることがないように,要件,趣旨を明確にするべきであるというふうに考えております。今後の対応をよろしくお願いしたいと思います。
【野村分科会長】
 それでは,ほかに,どなたか。
 金原委員,どうぞ。
【金原委員】
 書籍協会の金原でございます。
 中間まとめですから,これからパブリックコメントを経て,最終のまとめということになるというふうに理解しておりますが,このA,B,Cの分類,これは例示でありまして,もちろんこれに限定されるわけではないわけですが,最初の印象としては,こういう分類ができるのであれば,個別規定でも十分対応できるのではないかなというふうに考えます。したがって,その辺も含めて今後の検討課題であろうというふうに思います。それが第1点です。
 それから,この中間まとめの概要の中にもありますけれども,一般規定がないことによって,不都合があるのかどうかということの検証がまだ十分なされてないのではないかと考えます。
 例えば,このA,B,Cの分類の中にもありますけれども,中間的な複製が機器の中で起こるということは現状でも起きているわけで,それによって権利侵害が起きているという意識があるのかというと,ほとんど実際問題としてはないであろうと思います。そのことについて権利者が権利侵害であると言うような事例があったのかというと,少なくとも私が知っている限りではそういうようなことはないであろうというふうに思います。
 それから,許諾を得るためのマンガのキャラクターの例が出ていますけれども,著作物の利用許諾を受けるために複製して権利者に許諾を求めるというようなこともたくさんあると思いますが,私ども出版としても,転載許諾で実際に著作物を複製して,この転載許諾をもらいたいという連絡は日常茶飯事起こるわけですが,そういうことに対して,権利者が,これ自体を複製して,許諾を求めてくること自体けしからん,と言うようなことはまず聞いたことがありませんし,もちろん私どももそんなことを言ったことはありません。それに基づいて複製許諾を差し上げるというようなことが日常あるわけです。それによる不都合があるというようなことは,ちょっと普通では考えられないのかなというふうに思っております。
 したがって,このあたりのことについて,まだ十分検証が行われてないのではないか。十分それを含めて今後検討していただきたいと思います。
 以上です。
【野村分科会長】
 ほかの方,いかがでしょうか。
 どうぞ,瀬尾委員。
【瀬尾委員】
 大分この議論も明確になってきて,今回の導入に関して,要は単なる変更ではなくて,新しい著作権制度に対しての提案,内容というよりはこういうふうな方式を取り入れていくことによって,著作権制度を変えていこうというような感じがします。
 今回の要件を見てみると,新しいネットワークの時代に対応するための措置としてこういう形式が必要だという主張で,こういう報告書がまとめられてきて,コンセンサスをとられてきたのかなという感じを受けます。ただ,制度を変えるということは,これがもし一回たがを外してしまったときに,権利者が何らかの大きな被害を受けた場合,今のネットワーク時代は被害を回復することは困難です。そういう雰囲気を感じとるからこそ,これだけ多くの慎重にというご意見が出ているでしょうし,私もそのように思っております。
 実際に,私が非常に気になる部分というのは,例えばまとめの6ページの一番下,権利制限の一般規定と合わせて制度の導入の必要がない,というところです。この新しい著作権の制度を導入するということは,今までの著作権処理方式から大きく一歩踏み出すことになる,単純にいろいろなことを担保したり,いろいろな社会的なバックアップ体制を考えていかなければ,私は非常に厳しいものがあると思っております。
 前にも利用者と権利者という二分化された考え方がございましたけれども,比較的今は利用者も権利者も立場を変えていくメディアが大変多い。その中で,このようなことが制度的に考えられていなくて,法律だけでいいから踏み込んでみましょうというのは,私は危険だと非常に感じます。ですので,制度,例えば個人の利用者との不平等性ということは前から申し上げていることですけれども,裁判制度との関連性に関してどうであるのか。それは,厳格化することで必要がないと,本当に言い切れるのか。現場から考えると必要がないとはいまだに思えません。
 やはりこういう新しい制度に踏み込んでいくためにはもっと広範囲に考えていかないと,前向きなことを考えていくということ自体,否定されていくようになると実は思っております。
 ですので,今回,より広範な視野で,いろいろな可能性を検討していただかないと,やはりこの新しい制度に対して,必要性とのバランスがとれているとは言い難いという感じがします。それともう一つ,C類型というのがやはり非常に気になります。というのは,やはり曖昧な気がして,ここのたがを外してしまって本当にいいのでしょうか。プログラムを外すかどうかの検討ということが書いてございますけれども,コンピューターソフトウェア著作権協会さんからの意見書もございました。多分この部分じゃなかろうかと推測しますけれども,広範でかつ性格の違うプログラムをこの権利制限の一般規定の中に入れて扱う,プログラムというのはかなり広範なものを指しますので,そういうことについてもっと詰めなくていいのでしょうか。これは,非常に私は気になります。写真もデジタル化してデータとなってきたということもございますけれども,今後のネットワーク社会の中で,これを入れるか入れないかというのは,大議論であって,それについてこの中間まとめをそのまますんなりという感じでは,私はなかなかいいとは思えないことがございます。具体的に検討を進めていただいて,ここまでおまとめいただくのは,大変この文言からしても大変だったと思われますし,これについてさらに進めていくということになるのかと思いますけれども,最低でも,関係の皆さんからのヒアリングをもう少し重ねていただきたい。
 もう一つは,後で駄目だったでは済まないことが本当にたくさんございますから,慎重にしていただきたい,しかし,慎重にと言ってもただ単に遅くするという意味ではありませんが,広範な視点を持って検討してください。新しい制度を導入するということは本当に大変なことですから,ただ,その価値がもしあると,法制問題小委で判断したのであれば検討する価値はあるでしょうし,きちんとその辺のところを納得できる形で,不安を払しょくできる形で少なくともご説明いただかないと,現時点では不安が残ると言わざるを得ないというのが感想です。今後のより慎重な議論をお願いしたいと思います。
 以上です。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 それではほかにどなたか。
 どうぞ,福王寺委員。
【福王寺委員】
 美術家連盟の福王寺です。
 このたびの権利制限の一般規定に関する中間まとめということで,この報告書を拝見して思ったのですけれども,実際,社会通念上軽微と言われている内容につきましてもそれぞれの権利者から見ると,まだまだ詰めていかなければいけないことがたくさんあると思います。この点についても,今,瀬尾委員からもお話がありましたけれども,権利者の団体,あるいはその権利者の方にヒアリングをしていただきたい。それをきちんとやった上でまとめていっていただきたいというふうに思います。
 美術の方では,昨年度の著作権法の一部改正につきまして,文化庁著作権課の音頭で,美術の著作物に関する関係者協議会というのを立ち上げていただきました。これは本当に画期的なことでした。その中で,省令案ということで,オークションカタログ等に掲載する場合には,名刺版以下であれば,許諾なしに載せていいということになりました。また,コンピューター上では180ピクセルということになったのですけれども,その後に発行されていますオークションカタログを見ますと,名刺版以上のものにつきましても許諾なしに載せているものがあります。
 今日は,あるオークション会社のオークションカタログを持ってきましたけれども,この中に,私の父の作品が掲載されています。これは間違いなく名刺版以上の大きさですが,これにつきまして全く許諾をしていません。もう1冊あります。これは,私の作品です。額つきで出ておりますけれども,これについても名刺版以上の大きさになっております。
 この関係者協議会の中で,このオークション会社の担当者の方もいらして,テーブルを囲んで話し合ったのですけれども,こういったことが実際起きております。ですから,一度省令案を決めたということですけれども,例えば裁判をした場合,効率がすごく悪いわけです。裁判費用,あるいは弁護士の先生にお頼みする場合に,なかなか費用も時間もかかるということで,みんな泣き寝入りの状態になっています。そういった状況の中で,権利者の立場というものは,弱い部分がありますので,あまりにも経済的なことだけで進めていかれますと,かなりの支障が出ると思います。
 ですから,いろいろなことがあると思いますけれども,そういったことも注意していただいて,慎重に審議していただきたいというふうに思います。
 以上でございます。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 ほかに。
 どうぞ,里中委員。
【里中委員】
 私も権利者ですので,権利者対利用者という構造になりますと,権利者の場合,あまりいつまでも同じことを言っていては,もしかしたら自分たちの身勝手なのかもしれないという変な後ろめたさを抱くときがあります。権利者というのは恐らくほとんどの方が一生懸命仕事をして,その結果,それがちゃんと評価されたいという,その気持ちが権利を守ってもらいたいという形に出るのだと思います。
 今,デジタル時代で,こんな時代だからということが頭について,こんな時代なので利用を促進することは経済効果を生み,経済を活性化するのだと,社会正義のようにあると思います。だけど,利用促進するというのはどういうことか,すごくシンプルに言えば,ちゃんと権利者に許諾していただいて,どんどん使っていただければ済むことです。ところが,こんな時代だから,経済を活性化させなければいけない。その後が,ちょっとひがんだ言い方かもしれませんが,権利者の許諾をとることは面倒くさいから,もっと気軽に使えるようにしようじゃないかと言っているかのように聞こえるときがあります。かなりひがんで受け止めているかもしれませんが,そのような雰囲気を感じるので,権利者の方が何となく不安を感じているというのはそういうことだと思います。
 そもそも今回,この話,日本版フェアユースという言い方で出てきました。ここの中で,危機感というか不安感を感じるところで,フェアユースという,アメリカがやっていることをなぜわざわざ日本版と付けて取り入れなければいけないのか。アメリカが全てなのか。アメリカでもいろいろ問題がある。世界広く見渡してみると,何もここでアメリカのフェアユースという言い方もこの言葉をカタカナにして,入れてくる必要はないのではないか。まるっきり日本語で,日本の実情に合わせて,日本人が理解できて,しかも誤解を受けないような,そういう言い方でいろいろなことを決めていくべきではないかと思いましたし,その辺を申し上げたこともございます。
 フェアユースという言葉が知財戦略本部の方で,それを使っているからというお話がありましたけれども,知財戦略本部の方では,こちらなどであがってきた話を取り入れて検討しているという形ですので,本筋,この問題について,中心になって,率先して考えている委員会で何か適当な日本語で呼んでいただくのがいいのではないかと思っております。言葉というのは恐ろしいもので,日本版とつこうがつくまいが,このフェアユースをオッケーだと思った人たちの中で,もし仮に拡大解釈する人がいたら,また厄介な問題が起きてくる。
 実は著作権問題というのは,実にシンプルなことでして,きちんと許諾をとるかとらないか。知っていて,わざと間違えるか,知らん顔をするか。知らないで,うっかりして間違っちゃうかのどっちかなんです。知っていてわざとやっている方が悪質で,そういう著作権違反の事例というのは,規定がどうあれ,どんな局面でも,隙間をぬって生まれてきます。禁止していてもやっておりますので,フェアユースという言葉が広まって,オッケーなのだと思ったときに,何が起きるかというのは大変怖い気がいたしますので,日本版というのをつけてもつけなくても,日本語できちんと通していただきたいなと思います。
 外来語というのは,別の国に入ってきたときに,その国の文字で表現されますと,概念までが変わってしまう場合があります。私たちが当たり前のように,外来語を使っていても,本国とは全く違うようになっていたりする場合があります。曖昧ではいけないので,フェアユースという言葉を今後使わずにやっていけたらいいなと思っています。
【野村分科会長】
 ほかにご発言いかがでしょうか。
 どうぞ,広崎委員。
【広崎委員】
 経団連の知的財産委員会企画部長をしております広崎でございます。
 この問題に関しまして,我々産業界といいますか経団連でも非常に慎重な検討をすべきだということで,過去2年近くいろいろな業界に携わっている方々を公平に入れた委員会で検討してまいりました。具体的には,先ほどのソフトもございますが,ハードメーカー,それからコンテンツメーカーさん,それから何社かの放送通信事業者さん,コンテンツで事業を行っている方,それからそのディストリビューションで事業を行っている方,またはそのプラットフォームで事業を行っている方とで,議論をしてまいりました。
 先ほどご意見があったように,基本的には日本版フェアユースという言い方がそもそも妥当なのかどうかということがまず根底にございます。アメリカのフェアユースが前提でそれを入れる,入れないという議論はやはりおかしく,我が国として,今後の国の産業力と言いますか,活性化のために,古来蓄積してきている貴重な情報を,これを国力として,産業力として変えるために新しい時代にどう対応するかと,日本独自の観点からこの問題を考えるべきだと思います。そう考えたときに,先ほど,インターネットの話がございましたけれども,確かに地球レベルで情報通信の環境が激変しております。先だっても,Googleの集団訴訟の問題があって,これはまさにアメリカ版フェアユースで強引に押し通したときに,何が起こるかということを全世界に知らしめたわけでございます。
 そういったことを考えて,我々産業界としては,日本としてこの情報通信産業を活性化するという基本軸と,一方で,古来培ってきた情報,大切なコンテンツを守るという軸,これを我々独自の考え方で両立させるという議論になっております。そのためには,もっと大きな法的な基本として複線型の法制化が必要かもしれない。つまり,原則論の話ですが,利用する側が,これは産業目的に使うのだと,あるいはこういう目的に使うのだということで,制度に選択の幅をもたせるのがいいのではないかと。
 このような趣旨で,経団連は昨年1月に複線型のアーキテクチャーというのがあるべきではないだろうかという提言をしてきてございます。ある意味ではこの提言に原則基づいて,今回の一般規定の議論をしてまいりまして,先ほど申しましたように,アメリカのものを入れる,入れないではなくて,日本ならではのバランスのとれた規定にすべきであるし,今後,インターネット以上のものがあらわれる時代の変化に対して,ある程度応用がきくような,技術に対するスケーラビリティがあるのかどうか,それから,アメリカのみならずヨーロッパまで見て,国際的なイコールフッティングといいますか,これをきちんと保てるのかどうかといったことを考えて,規定の書きぶりも含めて,もっと工夫していくべきではないかと,現時点での議論の状況をまとめているところでございます。
【野村分科会長】
 ありがとうございました。
 それではほかに,ご意見いかがでしょうか。
【佐々木委員】
 権利制限の一般規定を導入する場合,中間報告案では一般規定による権利制限の対象を3類型に分類しているわけで,恐らくそこから伺われるように,権利制限の一般規定の適用については,著作物の利用目的に応じた個別の権利制限規定によることができない場合に,これを適用すべきだという考え方に立っているのだと思います。そういう意味では,権利制限の一般規定というふうな言葉は使われているけれども,その個別の権利制限規定の補完的機能というものを果たすものというふうに理解すべきだと考えているというのが1つです。
 それともう一つ,C類型ですけれども,C類型については著作権というのは本来,著作物の利用目的に応じて,有形あるいは無形の形で,著作物を享受する場合に働くものであって,したがって著作物の享受と利用の分離ということを一般的に認めていくことになると,従来の著作権とは考え方がやはり異なってくることになるわけで,そういう分離というものがどこまで広がっていくのか。どうも現時点ではやや不分明なところがあって,これについては少し慎重な検討が必要なように思われます。
【野村分科会長】
 瀬尾委員,どうぞ。
【瀬尾委員】
 先ほど広崎委員からもありましたけれども,私,ずっとこの委員会の報告を伺ってきて,やはり日本という国がインターネットの時代にどう対応していくか。それについてお考えになってこの議論が出ているということをだんだん理解してきました。
 また,日本という国の状況において,インターネット時代にきちんと著作物が流通して,豊かに産業的にも文化的にも享受していくことが必要だというのは多分皆さんどなたも異論がないでしょうけれども,それに対して,著作権法が不備であると言われたことから,こういう議論になってきたと思うのですけれども,ただこの法律の議論の前に日本の著作権法の中で,対応が遅いと言われていますけれども,本当に一般規定を入れて裁判をしたら早いのでしょうか。 
 実際に,予見性や何かを含めて,これが単純にスピードだけの問題で,これをやると早いという,裁判でした方が早いと言い切れるのかどうかもやはり曖昧なままですし,「日本の大もとの文化とか流通とか著作物に関わる部分をこのような形で発展させたい。そのためにこれが必要である。」という論であれば分かるのですけれども,そうではなくただ「一般規定があった方が早い。対応性が強い。」というだけで理解するところに私は先ほどから申し上げているようにちょっと無理があると思います。奇しくも経団連さんという経済的な活動をなさっている中でもそのような意見があるということは,私はやはり全体像がまだフォーカスが甘い部分があるので,そのような議論が出るのではないかなと思います。
 というのは,経済活動のためにもともとこれをやりましょうということもあったわけですから,やはりもう少し大きな視点とそういった大きなことを広げて,そして権利者とか何とかではなく,著作権に携わる者が納得する形の最終まとめにもっていっていただきたいなという感を強くいたしました。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 それでは,山浦委員,どうぞ。
【山浦委員】
 山浦です。中間まとめの作業は大変なご努力だったと思います。敬意を表します。
 この中間まとめを踏まえた形で幾つか申し上げたいのですが,まず1点目ですが,立法事実の問題です。ワーキングチームの報告書,3ページです。下の方に書いてありますけれども,「現実にこのような問題点が生じているかについては,明確な結論を出すには至らなかったが,立法的な対応が必要であると判断するためには,権利制限の一般規定がないことにより,実際に社会的な混乱が生じている等の立法事実があるのかという点について,手順を踏んで充分に検討することが必要であるとの意見で一致した。」というように書かれていました。ワーキングチームの報告書の終わり,52ページになりますけれども,こちらの案の項目でも同様に導入の環境に当たっては,法改正を必要とする立法事実をどこに求めるかが重要だと考えられるというふうに言及されております。
 ところが,法制問題小委員会では,冒頭から権利制限の一般規定を導入する必要性について,これがあるという前提でかなり議論が進められました。主査も何度も「立法事実について議論してください」というふうに水を向けられたわけですが,なかなかその辺の議論が盛り上がらなかったということです。それで,萎縮効果をなくすという,一種の効果が考えられるというような発言がありましたが,この萎縮効果というのはどういうものなのか。どういった場面で想定されるのか。あるいは経済的な利益というのは,これによってどのぐらい得られるか。萎縮効果についての突っ込んだ議論というのは聞かれなかったかと思います。ほかにも幾つか議論が出ましたけれども,立法事実という面からすると,もう少し突っ込んだ議論を中間まとめ以降にしていただきたいと考えております。
 先ほどのお話にも出ておりましたけれども,A,B,C類型のC類型,これについて私は法律の専門家ではないので,何度読んでもなかなか頭に入ってこないわけですが,ワーキングチームの報告書では私でもまだ理解できる表現になっておりました。「著作物の表現を知覚するための利用とは評価されない利用であり,当該著作物としての本来の利用とは評価されないもの」という規定をされており,これでも私には難しいのですが,何となく理解できていました。これが中間まとめでは,最初の方を省略しますけれども,「当該著作物の表現を知覚することを通じてこれを享受するための利用とは評価されない利用」ということで,なかなか理解しがたいなと思っております。「本来の利用」がどうして「知覚することを通じて」といった表現になったかというところは,法制問題小委でもいろいろ議論されていたことは私も存じ上げておりますが,やはり著作権法というのは,国民みんながよく知っていて活用する,自分の著作物の権利を守るという法律でございますので,国民全員が分かるような議論にぜひしていただきたいと考えております。先ほどお話が出ましたが,プログラムの著作物,これについてもやはりどう見てもほかの伝統的な著作物とは異質のものという受け止め方を私はしております。
 それから,3点目ですが,先ほど来,大林委員,里中委員がおっしゃっていた日本版フェアユースという言葉ですけれども,ちょくちょくいまだに出てまいりますが,米国から導入するという妙なニュアンスが強いということもありますし,米国型のフェアユースとは異質なものになっているということもございます。何をもってフェアとするのかといったところも不明確になりかねないというような気がしております。ですから,今後の報告書等では,ぜひフェアユースという言葉を使わないで作っていただきたい。米国の事情について触れる場合,これは米国の法律ですので,フェアユースと言わざるを得ないのかもしれませんけれども,そういった注文をしたいと考えております。
 あと,昨年の夏にも一度ヒアリングを受けさせていただきましたけれども,当時はまるでこの規定振りについても,影も形もないような状態で,仮定の話で,こういったものをフェアユース,あるいは一般規定と言うならば,こういう問題があるとか,こういうメリットがあるという議論だったんですが,ここに来ての状況というのはかなり変わってきております。中間まとめが示されて,A,B,C類型もきちんと出てきている状況ですので,ぜひともヒアリングを再度実施していただきたいと考えております。中間まとめ以降の委員の皆さんの活発なご議論,慎重なご意見というものを期待しております。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 ほかにご発言ございますでしょうか。
【河村委員】
 いつもながら利用者側,消費者として,孤立無援な感じでここにおります。私の方から感想に近いのですけれども申し上げたいと思います。
 いつもここに座っていますと,権利者の方たちが暗い顔をなさって,非常に著作権侵害行為に目に余るものがあるというお話が,数々いろいろな角度からなされるわけですが,例えば今日,福王寺委員がおっしゃった名刺版以上の写真がカタログに載っていたということはルール違反だと思いますので,フェアユースの問題に絡めてというよりは,違反をしている例として対処されなければいけないと思います。
 また今回に限らず,デジタル万引きですとか泥棒だとか,様々言われてまいりましたが,当然のことながら著作物を違法に入手する,つまり払うべきお金も払わずに入手するというのはいけないことです。そのことと,あえてフェアユースと言わせていただきますけれども,フェアな利用を受け入れるという話が,一緒くたになって語られている。フェアユースを許すと,お金を払わないで入手する人だらけになるといわれているように感じます。しかしこれらは分けて考えるべきで,フェアな利用という面に関しては,例えば新しい事業者によるビジネスの成り立ちやすさという面もありますが,それ以外でも,子どもたち,これからクリエーターになろうとする人たちがある程度自由に,創造を育んでいく中で利用できるという意味があると思います。
 ですから,不正な入手とフェアな利用の話を混ぜないでいただけたらと思います。また何度も繰り返しになりますけれども,権利者さんのお顔が非常に暗くて,これ以上デジタルネットワーク社会での著作物の利用に関して,新しいものが入ってきたら大変なことになるというお顔をなさっていらっしゃるのですけれども,私は正直に申し上げまして,全部,がちがちにしてしまった方がいい,もっと保護が強い方がいい,何もかもきっちりと手続をしてやらなければいけないという世界を想定して,利用者にとっても,また利用者の中からクリエーターが生まれてくるわけですが,クリエーターにとっても,豊かで幸せな未来というものが見えてこないのです。利用者を泥棒といい,がちがちに保護されることだけが我々権利者を救う道であるというような言われ方をして,幸せな未来を描くことができないといつも感じているということだけ,ちょっと感想めいておりますが申し上げたいと思います。
【野村分科会長】
 それでは瀬尾委員。
【瀬尾委員】
 今の河村委員の話ですけれども,決して河村委員は孤立していない。ここでは二極対立ではないし,そういう意味での発言はあるかもしれないけれども,全体議論はそういうふうにして話していないし,少なくとも私は思っていません。利用があって初めて創作がある。何も孤立はしていなし,ここで話していることは利用が前提です。そして,今議論されていることに関して,がちがちに固めているというように,もしお感じになっていたしたら,こんなに苦労はしません。こんなに考えずに,ただ使わないで,違法しないでくれと言えば済むのです。ただ使っていただいて,やはりそれを享受して,いいサイクルで回って,日本が豊かに,精神的にそういう著作物を享受できる状態にするためにこれだけ苦労て議論しているし,この法制問題小委員会の議論も私はそれを非常に強く感じます。単に法律議論をしているだけではないし,そのサイクルについて考えられているということを今回感じたので,その点に対して非常にご苦労であったし,評価されるべきものであるなと思っています。
 ですから,ここでそのようなことをもしお感じになっているとしたら,少なくとも私の意見としては,そうお感じにならずに,1つの輪の中で利用者もあり,創作者もあるということ。そうではないことを感じる意見もあるかもしれませんけれども,そういう視点で使う側と作る側を二極分化するような議論では,先ほども申し上げたような全体の大きなサイクルという構築は難しいと思います。
 私は少なくとも権利者団体で入っておりますし,私自身も権利者ですけれども,それだけでお話をしているのではないし,そういう議論では進まないと思いますので,より使う側,そして作る側の両方の立場をお感じいただいて,そしてその両方の立場から見ていただければ大分違うのではないかなと思います。
 非常に,苦労していただいたその中間まとめ,何度も発言させていただいていますけれども,権利者が何もさせないというふうにお感じになられているとしたら,大変残念です。
【野村分科会長】
 里中委員,どうぞ。
【里中委員】
 重ねてになりますけれども,誤解があるというのはみんなそれぞれの立場において,言葉の受け取り方が微妙に違うので,そこが誤解を生じるのかなと思います。ちょっと言いわけではありませんが,例えば私たち権利者が誰に対して権利を行使することを求めているかというと,その著作物を利用して,それを商業行為としている人たちに対して申し上げていることなのですね。だから,将来のある若い方たちが何かインスパイアされて,パロディはどうなるかとか,個々に,かなりの著作権者が求めてきたと思いますし,ましてや教育現場においては,もともと権利制限がかかっているわけですし,子どもたちも自由に書いたり,歌ったり,何かをコピーしたりすることについて,学校内のことであったり,教育上のことであったり,あるいは研究のための引用であったりしたら,それはもう既に著作権法上で自由に利用が認められているわけですよね。
 だから,ここで話しているのは,ちょっと私も言葉足らずで誤解を招いたのかもしれませんが,世界の経済発展のためには,権利者に,自分で,裁判をして個々に解決しろと言うのはちょっときついかなというのと,先ほどから申し上げているフェアユースという言葉を使うことによって,アメリカで起きたいろいろな事例が,アメリカの内部にいて実際に感じたわけではないのですけれども,著作権者にとってはゆゆしき問題だなと思うことがありましたので,申し上げているだけで,どうか誤解なさらないでいただきたいのですけれども,恐らくほとんどの権利者が自由にどうぞと言っている範囲はすごく広いと思います。
 断りもなく使う人というのは,法律がどうであれ,いますよね。だから,権利者の権利は今後も守られるのか,制度が変わったからこんなことになったと言わなくて済むようにしたいと思いますが,永久について回る問題だと思います。ただ,不安要素もありますので,もうちょっと申し述べたいと思います。
 例えば,先ほどの福王寺委員の意見は,今ここの話とは別だとおっしゃいましたけれども,やはり約束したのにこんなことが起きているのだから,もっとひどいことになるのではないかと思われる気持ちはすごく分かります。特にお父上の作品があの精度で入っていますと,あれをコピーしていくらでも絵ハガキが作れるわけですね。大変美しい絵ハガキが作れるわけです。それを許諾なしにやられたら…とお思いになると思います。すみません,感想めいたことになりますが,私が画商だとすれば,お客さんに買っていただきたいがために,また自分がその絵が好きであればあるほど,その絵を正当に見て,下見していただきたいがために,美しい画像のカタログが欲しくなるという気持ちもすごく分かります。だからすごく微妙な問題だなと思います。
【野村分科会長】
 ほかにいかがでしょうか。
 土肥委員,どうぞ。
【土肥委員】
 皆さん,ご意見どうもありがとうございました。法制小委ワーキングにおいて,1人の委員として加わった者として感想を申し上げたいと存じます。
 米国版のフェアユースを日本の中に取り入れる,そういう文脈で何人かの委員から幾つか懸念,ご指摘があったわけでありますけれども,そういう意識は全くございません。つまり,特定の利用目的を限定しない権利制限の一般規定ということで,あくまでも日本の立法事実,その立法事実というものは関係団体,利用団体,権利者団体等,40数団体だったと思いますけれども,そこから受けた100の立法事実に基づいて,それをグルーピングして精査した上で,こういうものをまとめたわけでございます。フェアユースという言葉は,例えばこの法制小委の中間まとめの中のどこにあるのかというと,引用の部分にはありますけれども,独自の報告書の中にこの言葉はございません。あくまでも権利制限の一般規定という日本特有の事情に基づいて考えたものでございます。
 それから,こういうものを作る必要性ということをおっしゃるわけですけれども,著作権法ができてから40年たって,その間,デジタルネットワーク社会になって,やはり昨日までの実態を反映して法規定が当然あるわけです。ドッグイヤーと言われるように,早いスピードで進んでいく,こういう状態の中で,保護と利用とのバランスというものを考えて,権利制限の一般規定を考えることには非常に大きな意味があるのではないかというふうに思っております。
 それから,もっと広い,大がかりな,様々な付随的な手当て,おっしゃっておられるところの懲罰的なあるいは定額の損害賠償等の環境整備も併せて検討すべきではないかというご意見があったと思いますけれども,ここでは,権利制限の一般規定というその文脈の中での検討をしたということでして,ただちにそれらが不要だというのではないのです。ネットワーク上の権利制限やネットワーク上の侵害問題については,著作権法全体の中からするとまだ議論があるところだと思いますし,またより私法的な議論全体の中でそういうものを考えてもらうという意味で,あの文章をまとめているところでございます。
 それから,C類型に関しましては,幾つかご意見がございました。これは先ほど説明がございましたように,この報告書にも書いてあると思いますけれども,最終的なものではないわけでありまして,これはこの表現がそのまま条文上の表現につながっているわけでは決してありませんで,今後必要に応じて,推敲されていくものと認識しておるところでございます。したがいまして,今後,パブコメや多数の委員がお求めでありましたヒアリング,そういったような過程の中で,いろいろご指摘いただくことが十分可能ではないかという認識をしております。
 いずれにしても,著作権というものは許諾権であるという,そういう大原則は毫も疑っておらないわけでありまして,それを前提にした上で,市民法的な利用と保護の適切なバランスの中で,こういうものを考えているところでございますので,ぜひよろしくご理解をお願いをしたいと思っております。
 以上です。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 それでは,法制問題小委員会の権利制限の一般規定に関する中間まとめについてはこのくらいにいたします。
 今,土肥主査からも,今後の検討の報告についてございましたけれども,本日,各委員からいただいたご意見やこれから意見募集で寄せられるであろうご意見等を踏まえて,引き続き法制問題小委員会において検討を進めていただければと思います。
 本日の議題はこれで終了ですが,著作権分科会全般の事項について,何かご意見ございましたらご発言いただければと思いますが,いかがでしょうか。
 それでは,広崎委員,どうぞ。
【広崎委員】
 意見というよりも,ちょうどいい機会ですので,情報をご提供したいと思っているのですが,今我が国は世界の中で,ブロードバンド最先端国というふうに言われています。ブロードバンドというのは,情報を伝えるスピードが20から30メガ以上のやり取りができる環境をブロードバンド環境と申しますけれども,我が国の場合は,固定回線や,光ファイバーや,ケーブルといったブロードバンドが家庭の宅内まで入っている数が3,000万世帯を超えています。これは世界で最大になっております。それから,携帯電話の第三世代,これもやはり20メガビット近くのやり取りができるんですけれども,この加入者数が約8,000万になってございます。ちなみに全世界の第三世代の加入者数は1億5,000万です。したがって,全世界の加入者の半分が日本にいると。ブロードバンドの仕掛けとしては世界最先端になってございます。
 ところが一方,それを十分に活用して,情報,あるいはいろいろなコンテンツのやり取りができていて,それによって新しい産業が起こっているかというと,利活用というところで,残念ながら,ブロードバンドについては,現在後進国と言われるぐらいになっているアメリカよりも日本の方が残念ながら遅れているということになるわけでございます。
 これは単なる事実として,こういった法スキーム,あるいは次の世代に対して何を残すべきかということを考える場合に,こういった客観的な事実に対して,どういう手を打って,この国をより豊かにするのかということをぜひ考えていただきたいと思っています。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 ほかに,よろしいでしょうか。
 どうぞ,松田委員。
【松田委員】
 私は小委員会の委員です。中間まとめのこと自体をお話しするのはもういいかなと思います。ブロードバンドの状況とそれが利用できない状況というのは,できるだけ解消すべきだろうと思っています。デジタルコンテンツ流通は促進すべきだろうと思っています。情報を共有化してみんなで使うという技術が生まれたにもかかわらず,それが浸透しないということは,文化的にも国際競争力的にも日本が後退していくことになる。そのことはできるだけ防ぎたい。私はデジタルコンテンツ流通促進派だと思っています。ただ,その促進の仕方については,日本の大きな議論として2つあったわけです。
 それは著作権を少し弱くして,制限規定を拡大して,そして利用者が萎縮しないようにしていこうという考え方でした。そうしなくとも権利者は,ビジネスモデルがきちんとできて,それに対して対応をとろうという申し出があれば,それはやっていけるはずだと考えています。権利者もデジタルコンテンツ流通促進派なのです。
 モデルがあるならば話し合って,契約をし,場合によっては契約に近い協定みたいなものも作っていって,そして促進すべきだろうというふうに思っています。一部そういうふうに社会がなってきました。放送コンテンツは,十分ではありませんが,話し合いで協約ができてきました。
 それから,最近の書籍コンテンツの流通につきましては,いろいろな事情がありましたけれども,出版社と著作者は促進の機運になりました。結局これは権利者がライセンスをしていくという形,それからライセンスをするためにバックアップをするような協会方式みたいなものが生まれてきて,進んできたというふうに思っています。したがいまして,著作権が足を引っ張って,デジタルコンテンツ流通が促進しないという単純な議論ではなくて,ぜひビジネスモデルを作る方々が権利者と話し合ってもらって,契約方式でそれを進めてもらいたいと思っております。
 日本に進めにくい要素があるとすれば,著作権契約というもの,それから団体間で話し合ったことの法的な拘束力のようなものについての十分な議論ができていないからだと思います。ぜひその点も含めて,著作権契約法というものがどういうものであるか,どこまで許されるのか,契約形態の新しいものがどういうところで生まれているのかというようなことを,権利者団体の実務家に検討していただきたいと思います。
 そういうものを検討して,デジタルコンテンツ流通促進の方に進んでもらいたいと思っています。審議会におきましても,著作権契約法ということを検討する何らかの機会が必要なのではないかと思っております。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 ほかによろしいでしょうか。
 それでは,本日はこのくらいにしたいと思いますが,最後に事務局から連絡事項ございましたら,お願いします。
【壹貫田課長補佐】
 本日はありがとうございました。
 次回の文化審議会著作権分科会につきましては,各小委員会における検討状況等を踏まえつつ,改めて日程の調整をさせていただきたいと思っております。
 今後ともよろしくお願いいたします。
【野村分科会長】
 それでは,これで文化審議会著作権分科会の第31回を終わらせていただきます。本日はどうもありがとうございました。
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