著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第4回)議事録

(1)開会

【野村主査】
 それでは,定刻が参りましたので,ただいまから過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会,第4回を開催いたします。
 本日,ご多忙の中ご出席いただきまして誠にありがとうございます。
 本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照しますと,特段非公開とする必要はないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいておりますが,特にご異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【野村主査】
 それでは,本日の議事は公開ということで傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことにします。
 まず,事務局から配布資料の確認と事務局に人事異動がございましたので,あわせてご紹介をお願いいたします。
【著作権調査官】
 まず事務局の人事異動からご説明させていただきます。7月11日付で長官官房審議官に,吉田の後任として関裕行が就任しております。
【審議官】
 関でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【著作権調査官】
 引き続きまして,配布資料のご確認をお願いいたします。
 本日,お手元の議事次第の下に配布資料一覧が記載してございますけれども,資料として3点,参考資料として1から5まで,合計8点の資料を配布してございます。過不足等ございましたらご連絡をお願いいたします。
 以上でございます。

(2)保護期間の在り方について

【野村主査】
 本日の議題は,保護期間の在り方について,事前にお知らせしたとおり,経済学的な観点から議論を行いたいと思います。
 本日は,金委員にご紹介をお願いしまして,慶應義塾大学経済学部准教授の田中辰雄先生,駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部講師の絹川真哉先生,関東学院大学経済学部准教授の中泉拓也先生の3名の方にお越しいただいております。
 まず,金委員から3人のご発表の全体像と申しますか,相互の関係について簡単にご紹介いただいて,その後,お1人15分から20分でご発表いただき,残りの1時間程度で質疑応答と議論を行いたいと思います。
 それでは,まず金委員,よろしくお願いいたします。
【金委員】
 この委員会もそうですが,一般的には保護期間と関連して2つの経済的なスタンスが対立していると考えられております。
 1つは,延長によって独占期間が長くなることによって,創作インセンティブが高まるというスタンス,もう一つは延長によって著作物の利用と,それによる二次創作が阻害されてしまうというスタンス,つまり事前創作インセンティブ中心と事後的なアクセス利用中心の2つの対立軸がありまして,その間でどのように最適なバランスをとるかというのが,スタンダードな政策議論ではないかと思います。
 一方で,最近のこの分野における経済学的な分析を見てみますと,より繊細である意味複雑な議論がなされているということがわかります。
 特に,本委員会では議論されていないのですが,著作物が誕生した後に,その著作物の価値を高めるための事後的な投資が持つ意味をどういうふうに捉えるかというのが,経済学の中では一つの中心的な焦点になっております。
 一般的には,著作物はそれが創作されたときに価値が決まると。すべての投資は創作段階で行われるというふうに考える傾向がありまして,そういう観点から考えますと,延長による創作インセンティブの影響というものは,限りなくゼロに近い,正当化されにくいというような結論になります。
 2002年度のノーベル経済白書,17人の方々の意見書の中でもこういった延長による創作インセンティブの将来効果より,利用の阻害効果というものが大きいために,延長は正当化されないというような結論になっております。これについては,田中先生と中泉先生からご紹介いただけると思います。
 一方で,先ほど申し上げました創作後に作品の価値を高めるための事後投資の効果が十分に大きい場合に関しては,保護期間は延長が正当化されるというような考え方もあります。これについては,絹川先生にお話しいただけると思います。
 つまり,近年の経済学的な分析においては,事後的な投資が持つ著作物の価値,増進と創作インセンティブ,増進効果に焦点が当てられておりまして,この捉え方いかんによっては,過去の作物に対する法的な延長というものが正当化される可能性がありますので,本日はその点を中心に3人の方々からご意見をいただきたいと思います。
 また,中泉先生からはLandes and Posnerが主張する,いわゆる更新料の支払いによって,無限に著作権方法を更新していくというような考え方,この点についてもご紹介いただけるかと思います。
 3人の方々は,この分野に関してご自身の研究もありますし,また先行文献に対するレビューについても,本日ご紹介いただけると思います。
 私からは以上です。
【野村主査】
 どうもありがとうございました。
 それでは,まず田中先生からご報告お願いいたします。
【田中辰雄氏】
 ただいまご紹介にあずかりました田中辰雄です。それでは,早速発表に移らせていただきます。
 お手持ちのハンドアウトに従って,文章の形にまとまっております。それに従いましてご報告していきたいと思います。
 最初に今,金先生のほうからお話がありましたように,この問題は創造への誘因を与えるためには,保護期間は長いほうがよいと。しかしながら,事後のアクセス,利用を促進し,再創造を促すためには短いほうがいいという,こういう長い論争を延々と続けているというのが基本的な図式です。
 その2つ論については,議論的な検討はもちろんできるわけですが,私は実証分析が専門ですので,実証の中で言われていることについてご紹介したいと思います。
 これまでも何度も出てきたかと思いますが,基本的な概念図は1ページ目の真ん中にあります図1というところでございまして,著作物というのは最初に誕生したときから,次第に売り上げ,あるいは利用者数がだんだん低下していきまして,あるところで利用がマーケットから姿を消すというのが大半の著作物の姿です。
 それ以外に,長い間寿命を持つ財もございます。50年を過ぎてなおかつ作品としての命を保っているというすぐれた著作物もあるわけです。50年を70年に延ばしますと,網かけの部分,黄色い部分だけ収益が増加します。これが原著作者への収益の増加となります。
 実際には,遠い将来ということですから,多少割り引かなければいけないということで割引率を適用する。それが,原著作者への収益になりまして,これが創作への誘因になるというのが創作誘引のメカニズムです。
 一方,パブリックドメイン化した場合の利益です。短いままにした場合の利益というのは,利用が促進されるであるとか,新しい利用方法が登場する,あるいは二次利用,再創造が行われるというような形での利益が赤い点線です。これ,十分に大きいか,この点線より小さいかというところが,論争の種になるわけです。どちらが大きいかという論争をずっとやっているというのがここでの整理であります。
 実証的には,1番,2番,3番,こちら側がどれぐらい増えるだろうか,割引率を適用するとどれぐらい減るだろうか,実際にどのぐらいの誘因になるだろうかというようなところが実証的な話題の関心であります。
 パプリックドメインの場合も,利用を拡大するというのはどれぐらいかとか,利用方法の革新や再創造をどれぐらいに切ろうかというのを定量的に図ろうというのが実証的な課題になるわけです。
 その中で,幾つか分かっていることを今日はお話ししたいと思います。
 最初に,こちら側が話のポイントになります誘因のほうです。こちら側のかたまり,誘因が大体どれぐらいの大きさかということについての私見をお話しします。
 便宜上2番の割引率の適用から入りたいと思います。
 今,金先生からお話がありましたのがこれです。期間延長で得られる収益がありまして,これに割引率を適用して,現在の収益が得られる。現在の収益によって,新たな創作物が刺激される,こういうメカニズムになっております。
 便宜上,ⅱ,ⅰ,ⅲの順に説明します。
 まず,ⅱを取り上げるのは,今話題に出ました17人のノーベル賞を含む17人のアメリカの経済学者が意見書を出した時,反対意見として,こんなことを言いました。次のページをごらんください。
 17人の著名経済学者が保護期間を主張したときの主要な論議は割引率を使います。割引率としておりますのは市場利子率,普通マーケットの利子率です。例えば,7%というような数字を使いますと,50年とか70年とか将来の価値は現在の価値に直しますと,200分の1以下という非常にわずかなものになる。したがって,ほとんど効果はない額だというのが主要な論拠です。
 もう一つ彼らが言った点があって,仮に誘因であるとしても,過去に創作されたものはこれ以上延ばす必要はないと,これからのものだけにしましょうということも言っております。主要な要因としては,割引率のところがメインな論拠でありました。
 企業活動では,通常これをどう評価するかということですけれども,企業活動では,通常投資活動をするときには,現在価値に割り引くというのは普通なことであります。会計原則にも適用されている経済ロジックとしては普通ですので,企業の投資活動として創作が行われるケース,例えば映画とかビデオゲームとか商業ソフトだったらそうですけれども,そういう場合にはこれもかなりの議論がある,当てはまりそうだということで説得力はあろうかと思います。
 こういう形で,17人の経済学者が意見をそろえたというのは,それだけニュースになったことがございまして,それなりにニュースインパクトがございました。
 それは,経済学の外側の人から見ますと,経済学者というのは常に一枚岩で,マーケット云々とか市場効率とか口をそろえて言っているようですが,経済学者というのは大体意見が一致しないことで有名な人種でございまして,チャーチルが言ったという3人経済学者の経済政策を聞くと4つの答えが返ってくるというふうに嘆いたという,昔の話がありますけれども,大体一致しないわけです。それが17人も一致したということで,大変ある意味では逆説的に話題になったということでございました。
 ただしこれについては批判もございます。
 いろいろな批判があろうかと思いますが,一つは,ほんのわずかなインセンティブ効果があるのではないかという議論について,大きな批判はこの委員会の中でもあろうかと思いますが,200分の1というのは直感的な妥当かということでありまして,個人の場合には孫の効用感になるわけです。孫の効用を200分の1に割り引くというのは,直感的にぴんとこない。これは,孫という人間が介在することによって,そんな高い割引率は使う必要はないだろうというのがあり得るところでございます。
 したがって,個人の著作物,創造した個人で考える場合,書籍とか音楽とか絵画の場合には,遠い将来のことだから200分の1以下だという形では片づかないのではないかという批判はあり得るかと思われます。
 これに対して,割引率とか使わなくても,収益の額自体がそもそも相当小さいという主張がございます。最初に唱えたのがLandes and Posnerでありまして,今ちょっと話が出ました。彼らはアメリカの登録制度を使いまして推定したところ,非常に小さくなるというのを大ざっぱな推定としてやっております。
 アメリカは登録制度がありまして,事実上登録しないということは必要価値がなくなったというふうに判断して計算しますと,50年以上減額すると非常に少なくなるというのが主張でした。
 これ以外にきちんとやったものは余りありませんでしたので,私が丹治さんの作られました書籍についてのデータベースを使い行った研究がありますので,これからご紹介したいと思います。
 期間延長で得られる収益の増加であります。これは,丹治氏が非常に詳細なデータベースを作ってくれました。これは,どうして作ったかといいますと,昭和物故人名録といいますのは,昭和時代に亡くなった著名人のデータベースがありますので,その著名人を国会図書館のデータベースに打って,それが,彼らがどういうものを過去に書籍として出版したかという出版件数を全部打ち出してきます。
 それが繰り返し,死後も何度も出版されている人がいれば,それなりに命脈を保っている。それが出版されなくなると,商業価値が失われるというふうに判断することができるわけです。これを使いまして,どれぐらい価値を命脈しているかということを計算した結果を3ページの真ん中にあります出版点数の分布という形で示してあります。
 これは,以前に大ざっぱな概念図を示したものですけれども,これがより正確な形になっております。
 生前にやったのは1,500人程度ですけれども,生前の総出版点数が2万9,213であります。それが,没後には10年後3,000,20年後2,156,30年後1,615,40年後というふうにだんだん増えていきます。30年後と40年後に余り減っていないのは,これは国会図書館の納本率が上がったという人為的な要因でありまして,実際はもっと下がっていると思われます。50年後からどんどん下がっていきます。
 これは,比較的幾何級数的といいますかきれいに下がっておりますので,このまま概数することが可能でありまして,概数すると仮にこれが60年後,70年後になるとどれぐらいになるかということが計算できまして,それは812,629というのが大体予想値であります。
 残った,最後のこれは期間延長に伴う収益の増加分であります。この図を見てわかるとおり,青い部分,これが全体の収益ですからそれに比べると小さそうであります。これを比率として計算したのが3.7%の数字になります。これは課題でありまして,幾つかの点で課題推定になっております。というのは,これは相当有名人だけに限っておりますので,そもそも物故人名録に載らないような,比較的無名な人の作品というのがここのところにたくさんあるはずなのです。それは,記録に残っていないのもたくさんあるわけですから,どんどんもっと大きくなります。
 それから,納本率がかさ上げされておりまして,国会図書館の納本率が上がったせいでこうなっているので,これはこのまま概数してこうしていますけれども,これをもっと低くしますと,もっと急激に下がるということになります。この辺のところを修正しますと,3.7という数字は恐らくもっと下がって,3,あるいは2ぐらいまで下がるだろうというふうに予想されます。
 さらに,これを割り引かなければなりません。先ほど,割引率7%は高すぎるというふうに言いましたけれども,ゼロというのはおかしいですけれども,そもそも孫ができない可能性もあるわけでございます。そこで,仮に1%という非常に低い割引率を使って計算しますと,それはさらに下がりまして,1%以下というぐらいにまで収益は下がります。どんなに多く見積もっても2%程度であろうというのが収益の増加であるというような推定値でございました。
 Landes and Posnerがやりました計算とそれほど大きく違っておりません。ですから,基本的には期間延長による収益の増加は1%から2%ぐらいになるだろうというのが結論であります。
 1%,2%であれば,その程度の増加では新たな創作意欲には不十分であろうというのがここで言える一つの示唆であります。
 これでも,まだそれでも誘因にはなるのではないかという議論は可能であります。何人かの経済学者がわずかなインセンティブであっても,それに敏感に反応することはあり得るという主張を展開しておりますという指摘をしたことがございます。
 実際に,収益になったかどうかというのは,言ってみれば著作権の保護期間を延ばしたときに,創作活動が活発化したかどうかを調べてやればいいというのが直接的な方法であります。それが次の段階になります。
 これをやった研究はそんなに多くはないのですけれども,昔アメリカが著作権を延ばしたことがあります。つい最近ではなくてずっと昔ですけれども。そのときに,延ばした前と後で特に大きな創作活動の変化はない,作家別に増えたという事実はないというような指摘はございます。ただ,きちんとした系統的なものではございません。
 系統的なものとして,余り成果が上がったものはないのですが,1つ有力なものがありました。映画についての研究がございます。これをご紹介したいと思います。
 これは,私が行った研究ですけれども,これは欧州を中心として映画の保護期間は既に延長されております。10数年前から継続的に延ばされております。国によって多少ばらつきがございます。もし,保護期間の延長が創作を刺激するのであれば,保護期間の延長によって,映画の製作本数は増えるであろうと。そういう事実が観察されれば,たとえわずかな収益であっても効果があったということになるわけでございます。実は,これは効果があるという報告をした人がおりましたものですから,それが本当かどうか確かめようということでやってみたのが私の研究でございます。
 4ページに大ざっぱな図式が書いてございますけれども,その国の人口当たりの映画製作本数というのに注目しまして,これは保護期間延長の前と後で比べて伸びたかどうかということを統計的に推定してやるということでございます。
 これが推定式でございまして,保護期間延長によって製作本数が増えればbという係数が正の値で有意になっているということが示せるわけです。これは,パネル推計を使って推定した結果,bの値のt値といいますか,統計的な有意性を示すものをグラフにしたのがこの下にありますが,t値というものを値にとっております。2を超えていれば有意になるのですけれども,2を超えないわけです。点が複数あるのはいろいろなケース,被説明変数を説明するときに他の定数ですね,1人当たりのGDP生産指数であるとか,利子率であるとか,タイムトレンドだとかいろいろな要因をコントロールしたケースをさまざまなケースでやってみたのですけれども有意にはなりません。
 先ほど申しましたように,効果があったという研究もあるのですけれども,それはなぜかというといろいろケースを試してみると,1個だけ,少しだけ有意になっているケースがあって,それが報告されているということが分かったという裏話があるのですけれども,基本的には効果はなさそうであるというのが,ここでの調査結果であります。
 以上,まとめますと,最初のところ,1ページ目のところに戻ります。
 そもそも延びるときの50年から70年に延びたときの収益の増加は多く見ても2,3%程度であろうと。割引率を適用したとしても,せいぜい1%から2%。それが,実際に創作物を刺激する効果というのも非常につきそうであって映画のケースで見ると実際に加算されないということになります。
 逆に,パブリックドメイン化のほうの利益は,何度かお話をさせていただいたので,少し簡単にさせていただきたいと思います。
 ページ数でいいますと,お手持ちの5ページであります。
 パブリックドメイン化の利益であります。パブリックドメイン化の利益は,大きく分けると4つここに書いてございます。1つは利用の拡大です。独占から解放されるわけですから,多くの出版社等々流通業者が現れてそれを提供します。それによって,安く,広く提供されるという効果です。
 それから,2番目は利用方法の革新でありまして,これは新しい利用方法ができる。典型的な例はこの中でも何度もお話がありましたように,日本における青空文庫が非常によい例であります。インターネットを通じた新しいものですね。それから,格安DVDというのも大きな事例としては適当かと思います。
 それから,3番目に再創造であります。
 4番目は,取引費用の削減,これは許諾を得る手間,コストが非常に高いために,死蔵作品が出てしまうという問題です。これが解決するというのがパブリックドメイン化の利益であります。
 それぞれについて,実証例をやればいいんですけれども,ここで今回ご紹介したのは1番と2番で1番を中心にお答えします。2と3については,この中で多分いろいろ口頭で議論がされていると思いますので,1番について,ヒールド教授という人がやった良い研究がありますので,それをご紹介したいと思います。
 利用の拡大であります。パブリックドメイン化すると,利用の拡大はしないのではないかという議論が一部にありました。これは,なぜかといいますと,だれでも出版できるのであれば,海賊版が幾らでもつくれるのと同じ状況ですから,収益が確保できなくなって,商業出版社が手を出さなくなって,市場から消えるというような議論が論理的には考えられまして,そういう主張が一部出されたことがあります。
 これが本当かどうかを調べるために,Paul J.Heald教授がアメリカの書籍についてですけれども,保護期間内の作品,保護が終わってパブリックドメイン化した作品,出版状況を比較したという研究がございます。
 いろいろな条件を変えて比較しているのですけれども,一番端的な表をご覧に入れます。表1であります。
 これは,著作権が保障された書籍,1,480点あります。パブリックドメイン化されたのは938点,これは統一した基準で選び出していくわけです。これが,出版されているか,そのとき絶版中だったかを調べたものであります。著作権が保護された保護期間中にある書籍1,480のうち,出版中が622,絶版が858,したがって出版されているのは42%で6割近いものが絶版になっていたということです。
 一方,パブリックドメイン化にされた938作品のうち,出版されたものが577-61%,絶版中が361-38%。パブリックドメイン化されたもので出版されたものが60%,ちょうど逆転しておりまして,パブリックドメイン化されたもののほうがマーケットにたくさん出版,流通されているという結果になったということであります。
 これは,独占から解放されればたくさん流通業者があらわれるということを考えれば自然であります。
 しかし,逆に言うと著作権がなければ,流通されないのだということを考えられている方からすると大変意外な結果であろうと思います。著作権がなくても,流通業者が作品をユーザーに届けるべく出版活動をしているということでありますから。
 ですから,パブリックドメイン化すると独占から解放されて,利用拡大する効果の大きいというのがございます。
 余り時間をとってはいけない,もう一つ,あと2,3分でやります。
 次は,箇条書きにさせていただきました。何度か議論がされておりますので,箇条書きでここでもさっとご説明したいと思います。
 意見表明のところで去年やった内容の繰り返しになりますが簡単に触れさせていただきます。
 利用方法の革新です。パブリックドメイン化の第2は利用方法の革新でありまして,これは新市場の開拓であります。第1は青空文庫,インターネットを通じた新しい媒体で本を読むというようなサービスを開拓したわけです。書籍数は既に6,000。これは,2007年のデータですので,今現在は7,000を超えていると思いますけれども,書籍数が増え,閲覧数も450万人がそれを見ている。絶版本も多く復活している。海外での利用や,視覚,聴覚ハンディ者が利用するなどさまざまな新しい利用形態がここから生まれているという意味で革新といってよろしいかと思います。
 もう一つは格安DVDでございまして,これは販路の革新です。販路は,DVD映画といえばビデオレンタル屋さんで借りるというのが通例だったわけですけれども,レンタル屋さんには若い人しか行かない。これに対して,お年寄りであるとかサラリーマンでも昔のDVDを見るという販路を開拓した。つまり,駅の改札口を出ると500円で売っているという販路を開拓したというのが,格安DVDであります。
 売り上げはどれぐらいかといいますと,これは私のヒアリング調査によると,大体月に15万本ほどではないかというふうに言われているそうでした。年に180万本になります,単純計算しますと。どれぐらい売れているかですけれども,これはカサブランカという一番売れた例でありますけれども,格安DVDでは累積の売り上げ本数は6万本ぐらいではないかと言われているというふうにお聞きしました。これは,ケースがどれぐらい出たかという形でいろいろ推定するようです。
 それから,DVDビデオの大きさを比較するために,カサブランカのDVDビデオのレンタル回数をどれぐらいになるかを推定してみたところ,年に5,000回ぐらい。一つのサンプルですが,この倍ぐらいあるかもしれませんが,いずれにしても格安DVDの大きさはDVDの売り上げが相当大きいということがわかろうかと思います。
 この2つは,製品の作品そのものの内容は変わらずに,新しい販路,利用方法を開拓したということであります。
 作品そのものの内容は,再創造するというのが次の議論です。3番目でありまして,これはいろいろここで議論されているかと思いますので,定量的なものは難しいので,余りご紹介しません。1つは,ここで示したのは,太下さんがまとめてくださいました,あるところからのデータを持ってきてもらってつくりましたシャーロック・ホームズのパロディ本アンソロジーからの過去の推移であります。
 ある人が,シャーロキアンが包括的に一生懸命集めて何点ぐらいあるか作品数を調べたものであります。急に増えているということがわかります。ちなみに,最後に減っているのは,これは1990年代から93年までのデータしかないということなので別に減っているわけではございません。これだけ見ていただければよろしいかと思います。
 取引の削減については,そのまま死蔵作品の例ということで,これも省略させていただきます。
 最後,まとめだけ述べて,お時間になっていますので終わりにします。まとめは簡単なので読ませていただきます。
 期間延長の論拠は創作者の収益増加による創造への誘因であるが,実際にはその効果は極めて低いようである。
 (ⅰ)50年以上先の収益はそもそも小さい。3%程度。現在価値に割り引くと更に小さくなって,保護期間延長による収益増加は書籍の例で計算すると1,2%になる。書籍以外の例はわかりませんが,アメリカのLandes and Posnerの一般的なすべての著作物ですけれども,大体同程度に至っております。
 このような小さな誘因では,創作刺激効果はおそらく乏しいと考えられる。実際に映画制作では,著作権保護期間延長によって映画制作が増えたという事実はないということです。
 一方,パブリックドメイン化の利益というのは,確かに存在しているようでありまして,パブリックドメイン化すると作品の供給は進むと。商業的に引き合わなくなって供給が減るということはなく,むしろ供給が増えて,より多くの人がその作品を利用できるようになるというのが大勢のようである。青空文庫や格安DVDのような新しい利用形態が生まれて,新しい市場が開拓される。3番目,パロディや翻案など二次創作,再創造が可能になってくる。これは実際にあるようであります。許諾者が見つからないことによる死蔵作品の問題ももちろんございまして,そういうのも指摘されているところであります。
 したがいまして,まとめてみますと,期間延長の誘因のほうの大きさが余り強く継承されてきません。それから,パブリックドメイン化のほうの利益は,いろいろ推定してそれなりの数字が出てきて積み上がってまいります。
 したがいまして,実証分析で両者をバランスさせてみた限りで見ますと,期間延長は余りしないほうがいいのではないかというのが実証分析をして感じたところでの暫定的な結論になります。
 あと,補足した例のミッキーマウス問題,先ほどの継続的な投資をするということの議論がありましたけれども,これについては後で議論があれば触れることにしたいと思います。
 もう予定の20分間をちょうど消化しましたので,これにて終わりとさせていただきます。
【野村主査】
 どうもありがとうございました。
 それでは続きまして,絹川先生お願いいたします。
【絹川真哉氏】
 絹川です。よろしくお願いします。
 本日は,私の著作権期間に関する経済学の理論的な研究についてご報告させていただきたいと思います。
 その前に,まずこれまでの主だった論文について簡単に紹介させていただきます。
 著作権期間の延長に反対する人たちの主な根拠になっているのが,田中先生からも紹介がありましたAkerlof et alでありまして,期間を延長しても得られる利潤というのはすごく少なく,新作を刺激することはないだろうということが1つと,それからここには書いてないですけれども,既存の著作物を守るというのにも合理性がないということで激しく批判しているという内容です。
 しかし,この17人の経済学者の中で著作権に関する研究をしていた人というのはほとんどいなくて,2番目のLandes and Posner,この2人は法と経済学が専門で,著作権に関する経済分析をずっとやっていた人たちなのですが,彼らの主張というのは田中先生の紹介にもありましたとおり,著作者は価値を高めるための追加投資をやっていて,そういった追加投資へのインセンティブとなるので,長い著作権は良いと。もう少し詳しく言うと,著作物ごとに違った期間が一番良いということで,更新制度を彼らは提唱しているのですが,一番分かりやすい例としてミッキーマウスを挙げています。
 彼らの議論は,どちらかというとカジュアルなものでして,これに対して3番目のAdilov and Waldmanは,Landes and Posnerの議論をフォーマルな経済学のモデルで確認するということをやっています。まず,無期限の著作権期間というのは条件によっては社会厚生を最大化し得ると。Landes and Posnerの提唱するような更新制度も,条件によっては社会厚生を最大化し得るという結果を得ています。
 LiebowitzとMargolisですけれども,彼らも経済学者ですが,この2005年の論文はサーベイみたいな感じで,Akerlof et alに対する批判という形で議論を展開しています。新作が増えるかどうかという議論については,収益増加が小さいから増えないのだという議論をAkerlof et alはしているのですが,田中先生の紹介にあったように,もしかしたらわずかな収益の増加によって,弾力的に反応するかもしれない。これは,データでそういうことを言っているわけではなくて,あくまで理論的にそういうことがあり得るので,もっとちゃんと研究しましょうという提案ですが,新作は増えるかもしれないと。
 既存作品については,長期間保護することによって,いろいろな負の外部効果,使われ過ぎて価値が下がるとか,あるいは社会厚生を下げてしまうようなミスユースというようなものを抑えることができるので,長い期間保護するのも合理性はあるという主張をしています。
 強い著作権保護,あるいは期間の長い著作権の保護によって,再創造のプロセスを妨げるのではないかという議論に対しては,ほとんどの作品というのは寿命が短いわけですが,それは市場で評価されなかったからそうなるのであって,それらがパブリックドメインに入ったからといって,パブリックドメインの価値がどれだけ上がるだろうかというような指摘を彼らはしています。みんなが使いたいような価値の高い著作物についても,保護されるのはあくまで表現だけなので,アイデアはどんどん使えるということで,そんなに問題にならないのではないかというような指摘を彼らはしています。
 私の今日報告させていただく研究ですが,これはあくまで議論的な分析で,ここで考えているような状況によっては,もしかしたら著作権を延長することで,社会的にはよくなる可能性があるというような結果を説明させていただきます。
 どういうことかといいますと,映画とかアニメというのは,さまざまな関連商品の市場を生み出します。ディマンド・クリエィテング・エフェクトと私は呼んでいるのですが,それに着目します。優れたコンテンツの関連商品市場は,非常に規模が大きく,かつ長期間継続する可能性があります。このような可能性をモデルに入れることによって,著作権の期間延長によって,まず期待利潤が増加しますので,すぐれたコンテンツを生み出そうという投資が増加する可能性があります。この投資の増加によって,コンテンツの市場価値が上がり,関連商品の需要が拡大する。そうすることで,消費者余剰も拡大し,結果的に社会全体の余剰が増える可能性があります。これはモデルで説明していきたいと思います。
 その前に,このモデルのモチーフになっている「機動戦士ガンダム」というアニメについて,モデルをイメージしやすいように簡単に説明させていただきたいと思います。
 これは,79年から80年にかけて放映されたアニメでして,日本サンライズというアニメ制作会社,当時は弱小の制作会社だったようですけれども,が制作しました。弱小なので,既存の原作漫画とかのライセンスを買ってきて,それをアニメ化するということが難しかったようで,彼らはスポンサーの玩具メーカーと連動しまして,その商品を売るための作品を作るというようなことをやっていました。
 そういった流れで,このガンダムというアニメがつくられたのですが,それと同時に,当時「宇宙戦艦ヤマト」というアニメがすごくブームで,その「宇宙戦艦ヤマト」のような長編の大河ドラマのような作品,単に小さい子どもにおもちゃを売るというだけじゃなくて,サンライズという会社を売り出すような作品を作りたいという熱意が相当あったようです。
 「宇宙戦艦ヤマト」のようなというのは比喩ではなくて,実際に「宇宙戦艦ヤマト」のアイデアをかなり使っているようです。なので,完全なオリジナルな作品ではないということが言えると思います。
 ちょっと複雑なストーリーの,小さい子どもよりは中高生に向けたアニメだったわけですけれど,そのせいで視聴率自体は余り良くなかったのですが,ターゲットどおり中高生のファンに支持されて再放送が何度か行われまして,爆発的にヒットし,いまだに人気が続いているわけです。
 たくさん関連商品が売られているのですが,それは今でも売られていまして,資料にある新製品というのも2006年11月なので,若干前になるのですが,まだ新しく作られて売られているという状況です。
 「機動戦士ガンダム」の玩具を売るライセンスはバンダイという会社が持っているのですが,2005年のアニュアルレポートによりますと,ガンダムの関連商品の売り上げは25%ぐらいで,2005年時点のキャラクター別の売り上げでは一番大きいです。ということで,かなり昔のアニメですが,その関連商品の市場というのは長いこと続いていまして,しかも規模が大きいです。
 そのような状況をモデル化しているのですが,ここでそのモデルの仮定に関してまとめています。まずコンテンツの供給者というのは,同時に関連商品の供給者で,最初の第ゼロ期に,幾らそのコンテンツに投資するかというのを決めます。私のモデルは,Landes and Posnerみたいに毎期投資を追加するというのではなくて,第ゼロ期のみ投資を行って,それ以降は第ゼロ期につくったコンテンツの関連市場が続きます。著作権期間の間は独占ですが,著作権が切れると完全競争になってしまう。収入はすべて,関連商品の売り上げからきます。これは,経済学のモデルの話なのですが,関連商品供給を行うための限界費用はすべての期間で一定という,モデルを簡単にするための仮定をおいています。
 コンテンツ供給者は何を行うかというと,著作権期間内に得られる利潤の期待値を最大化するように第ゼロ期に投資額を決定します。なので,私のモデルでは投資を行うのは最初の1回だけです。
 ここで,権利の長さと幅というのをしっかり区別させていただきたいのですが,長さは文字どおり存続期間で,権利の幅というのは,権利期間中に権利者が,他人が権利者の持っている知的財産を利用するということを排除できる範囲,どれだけ排除できるかという概念です。権利が強いとか弱いとかいうのですが,この強さというのは長さと幅の組み合わせで決まります。特許に関しては経済学の理論の研究もかなり行われていまして,どういう長さと幅の組み合わせが良いのかについて,たくさん研究の蓄積があります。
 著作権の幅がどうやって決まるかということですが,表現とアイデアの二分ですとか,あるいは自由利用,米国でしたらフェアユースなどによって決まってくるのですけれども,特許と比較すると,すごく幅が狭いです。これは,何で著作権の期間がすごく長いのかという根拠の一つだと思うのですが,このモデルではこの幅を一定だと仮定します。あくまで,幅を固定しておいて長さを変えたらどうだろうという議論をしていきます。
 数式で恐縮ですけれども,このモデルのアイデアの中心なので説明させていただきます。需要は毎期画一的に変動するというふうに考えます。しかし,毎期確率的なエラー,ショックで変動するのですが,そのショックがある程度持続性を持つというような仮定です。投資の額が増えるほどコンテンツの市場価値が上がって,その関連商品の市場が大きくなりますが,投資額ほどには増えません。
 コンテンツを作るには投資を行わなければいけないのですが,その費用は投資額の増加スピードよりも大きいスピードで増えていくという仮定を設けています。この費用の増加スピードがどれだけ大きいかということで,投資環境,資金の調達のしやすさですとか,そういったものをあらわすというふうにモデルでは解釈しています。
 これは,コンテンツ供給者の意思決定問題を示すグラフですが,横軸が投資額で縦軸が著作権期間内でどれだけ利潤が得られるかというグラフです。
 この利潤が最大になるように投資額を決めるのですが,これは投資環境が比較的緩やかというケースで考えていまして,ちょっと分かりづらいですけれども,利潤がプラスになるところの一番大きい値,そこで投資が決まるのですが,著作権を伸ばしていくと,これが外側に広がっていって,最適点が右にずれていくということで,一応投資は増えていくという結果です。
 次は投資環境が比較的厳しく,仮に期間が50というふうにおきましたけれども,どんなに投資を行ってもマイナスの利潤しか得られないので投資が起きないということですが,著作権の期間が伸びると利潤がプラスになるので投資を行うというような状況です。最後に,非常に環境が厳しいという状況ですが,こういった場合にはいくら著作権を伸ばしても投資は行われません。
 このように,投資環境によって結論は変わってきます。問題は,投資が増えるかどうかじゃなくて,社会厚生が増えるかどうかということなのですけれども,関連商品の需要が確率変数ですので,最適投資額がゼロじゃないという仮定のもとで,期待値で評価します。これは,経済学の初歩的な議論なのですが,生産者の余剰と消費者の余剰を足し合わせたのが社会全体の厚生というふうに考えます。
 ここでは,生産者の余剰というのは供給者がどれだけ利潤を得たかということです。消費者の余剰というのは,消費者が実際に支払おうと思っていた,この価格だったら支払ってもいいというような価格と,実際に支払った価格の差の総額です。
 著作権期間におきましては,消費者の余剰というのは独占価格のもとでの余剰です。つまり,単価がすごく高いので,高い価格でもお金を払ってもいいという人しか買えないという状況です。これに独占利潤が加わったものが総余剰です。著作権期間が終わりますと競争によって価格が下がりますので,たくさんの人が買えるという状況です。このモデルにおいては完全競争になってしまうと利潤はゼロになるので,総余剰は消費者余剰だけという状況です。
 どちらが大きいかというのを一時点に限って比較すると,後者のほうが大きいです。その差額は社会厚生の損失になるので,これが基本的には著作権が有限期間であるということの根拠になっています。
 このモデルでどうやって著作権延長の効果を図るかという点ですが,まず著作権の期間を延長しますと,供給者の利潤が増加しますので生産者の余剰は増加します。それだけじゃなくて,投資が増えることによって関連商品の市場が拡大するので,消費者の余剰も増加します。一方マイナスの効果としては,延長すると先ほどのように,社会厚生の損失部分が増えていきます。どちらが大きいかということで,全体の効果を見るわけですが,最適投資額というのは明示的に求めることができませんので,パラメーターに数値例を与えてどうなるかというのを調べることになります。
 2つのケースを考え,ケース1というのが左の軸で青い線です。これは関連商品を購入する消費者の需要の弾力性,つまり価格にどれだけ反応するかということですが,比較的弾力的,高ければ買わない,安ければ買うというような状況で,ショックもあまり持続しないというケースです。ケース2というのは,価格が少々高くても買いたいという人が多くて,しかもブームが持続するガンダムのようなケースです。その2つで見てみましたが,どっちも著作権の期間の増加とともに増加しているというのがわかります。
 今度は水準じゃなくて増加率を比較しています。これは投資コストの違いで見てみましたが,投資コストが高い方が増加率は高い,資金調達等の厳しい環境の方が著作権の延長の効果は大きいようだということがわかります。
 少し駆け足でしたが,まとめますと,ここで考えているのは,あくまでいろいろな商品化が可能だというような,多くの著作物の中のごく一部しか扱っていないのですけれども,少なくともこのモデルの仮定においては,投資環境がそんなに厳しくなければ,著作権の期間の延長は社会厚生を増加させます。あくまで可能性ですが。投資環境が重要ですので,著作権期間の延長だけでコンテンツ振興できるというわけじゃないということです。しかし,投資環境がある程度厳しい状況ですと著作権期間の延長は大きくきいてくるようなので,産業政策と著作権制度は補完的な関係にあるのではないかということが言えると思います。
 以上で終わります。
【野村主査】
 どうもありがとうございました。
 それでは,最後に中泉先生お願いいたします。
【中泉拓也氏】
 関東学院大学の中泉と申します。本日は,報告の機会を与えていただきまして,大変ありがとうございます。それでは,始めさせていただきます。
 まず,私はインセンティブやモチベーションの観点から市場や組織の制度設計について中心に研究しております。今回もそのようなインセンティブの設計の観点を中心に,権利期間,ひいては著作権制度全体に関する問題についてご報告させていただきます。
 基本的なところからで恐縮ですが,理論経済学者として経済学での基本的な立場について,まずご紹介させていただきたいと思います。
 経済学では,市場経済は当然現在の制度の中で最も有効であるというふうに考えておりますが,加えて市場における競争というものが経済を活性化する上で本質的な役割を担うと考えておるわけです。いかに,フェアな競争を実現させるかというのが社会の極めて重要な課題であると考えております。
 これは,例えば独占においては,例えば売り手が1社しかいないケースでは,さまざまな弊害が発生することからもわかります。独占の弊害というのは,売り手が独占の場合,まず価格のつり上げというのが生じます。細かい,理論的な設定は省略させていただきますが,通常の競争下の価格に比べて,独占下の価格というのは非常に高くなってしまうと。
 この場合,買い手が高い買い物をさせられるという弊害があるというのは,皆さんよくおわかりだと思うのですが,それだけではなくて,仮に競争状態であったら購入できた消費者が買えなくなってしまうという意味での取引の減少というものも発生するわけです。これが社会全体での損失になりますので,この意味で独占というのは非常に望ましくないということが経済学では指摘されています。
 このように,独占というのは社会にとって望ましくないので,可能な限り独占を排除するということが求められます。
 しかし,技術的にはどうしても独占になる場合というのが経済には存在しまして,例えば電力業界のような公共料金の分野がそれに相当します。
 今,議論になっております著作権と電力は一見すると全く異なるわけですが,実は費用構造にある種の類似性がありますので,同じような状況が生じます。すなわち,変動費用に比べて固定費用が極めて大きく,一度固定費用を投下すると変動費用はそれほどかからないという状況では,こういった独占ということが出てくる可能性があるわけです。
 実はこういった場合,特に知的財産権においては,あえて独占を許容しているという状況があります。これは,どうしてかといいますと,実は費用構造において,今言ったような固定費が非常に大きい場合,固定費である開発費がなしの価格に対して,開発費がある価格というのは,これは平均固定費用が限界費用の上方の双曲線に相当しますが,この場合必ず研究開発費や創作費込みの価格が,開発費なしの価格より上回ってしまいます。ということは,仮に独占権がなければこの分,開発者のほうが高い価格を設定せざるを得ないので,創作費を回収することができず,結果的に創作のインセンティブ自体も失われてしまうのです。そのため,知的財産の場合は,あえて制度的に一定期間独占権を保障するというのが経済学的な解釈であります。
 このように,理論の面では独占は望ましくないのですが,創作のインセンティブを付与するために,独占を許容しておりまして,両者のバランスをいかにうまくとるかというのが現在の知的財産制度の最大の課題だということになります。
 これは,ノーベル経済学賞を受賞したKenneth Joseph Arrowが1962年に最初に論文にしたものでありますし,今ご紹介のありましたLandesとPosnerが89年に著作権の文脈で,論文として理論モデルとして,視覚化したものであります。
 なお,前述のように電力産業も独占状態にありますが,この場合独占を許容するだけではなく,政府は積極的に価格規制を行い,独占の弊害を軽減しようとしています。そういったことが知的財産に適用可能かというと,いろいろ難しい問題があって,実際には行われておりません。
 すなわち,実際にどのような価格が最適になるかというのが非常に難しいこと。さらに,単にコストを回収するだけでは,創作のインセンティブに乏しくなってしまうということが理由です。そのため,創作者に排他的権利を法的に保障している保護期間というのを限定することで,可能な限り独占の弊害解消に対処することになります。
 そういう意味で,この著作権,もしくは知的財産権における権利期間というのは有限であるということが大前提であると考えます。
 先ほどのスライドにありましたように,実際にこういった事前の創作のインセンティブを確保しながら,独占の弊害を抑えるというのは,通常は市場メカニズムでは不可能だとされています。
 ただ,やや事前の解決策に近いものとして経済学者が価格差別と名づけている方法があります。専門用語を使わずに,具体的な話で説明しますと非常に簡単で,例えば文庫本と単行本を売るというふうに,ほとんど同じ財に異なる価格をつけて販売する方法です。
 この場合,大ざっぱに言うと,単行本で創作者の利潤を保障するかわりに,文庫本でやや安く販売して広く購入してもらうということです。結果として,需要量が増加して,その意味で独占の弊害がある程度防げるということになります。
 実際,もし仮に販売者がすべての読者の購入希望価格がわかり,読者がその価格でしか購入できない場合は,社会的な厚生というか,余剰(Welfare)が最大化されることがわかっています。
 しかしながら,こういった方法も限界がありまして,実際には価格差別を完全にすることは不可能です。特に,売り手は個々の買い手がどのような希望購入価格を有するかわからないという非対称情報下で決定をしなければならない。さらに,将来価格が下がると予想した場合,下がるまで待つ消費者がいること,この二点が完全な価格差別を極めて困難にしております。
 このため,低い価格で販売するとしても期間をおいて販売しなければならないわけです。両者を考慮して価格差別を行う場合,十分な効果が期待できない状況が一般的になります。
 このような状況で価格差別をある程度行える条件について,この数年間私もお二人のノーベル経済学賞受賞の方が導出した条件をもとに研究しておりまして,今やや一つの結論が出て論文を書いているところですので,簡単にその結果を紹介させていただきたいと思います。というのは,大ざっぱに述べさせていただきますと,マーケットには既存の消費者だけではなくて,新たな消費者も絶えず参入することになりますが,こういった新規参入する消費者と既存の消費者双方に対応できるような価格差別というのは極めて難しく,ほとんど不可能ということが示せます。
 当然,時間がたてばたつほど,新たな消費者が多く市場に参入するわけで,結果として当初設定していたような価格差別というのは機能しなくなるということになります。
 当然,将来不確実性が増加し,予想外の需要減も生じます。こういったケースでも,価格を下げるということが機能的にできないような状況になりますので,結果的に長期になればなるほどこういった価格差別というのはうまくいかないということになります。結果的に権利期間が長くなるほど,こういった価格差別というのも機能しないということになります。
 以上のように,少なくとも権利期間の有限というのが独占の弊害を抑えるために,著作権の上では最低限の方法であること。かつ,それに対処する価格差別というのも権利期間が長くなるほど機能しないという意味で,権利期間が長過ぎるというのは非常に問題であるということをご指摘したいと思います。
 以上が,Arrowの1962年の論文,もしくはLandes and Posnerの89年の論文をベースにして,創作のインセンティブと利用のバランスというものが,経済学者が考える著作権の最大の課題であるということを整理させていただきました。
 ところで,特に私は,事後的な著作物の利用について特に報告したいわけですが,著作物の利用というのは,単なる読者や鑑賞のみならず,その創作物に基づいた創作という行為も含まれます。
 話を単純にするために,以下の議論は二次的著作物の創作を想定したものですが,無から有を創作できない人類にとっては,過去の創作というのは創作に不可欠だと思います。当然,著作権というのは,表現を保護するものであり,アイデアを保護するものではないわけですが,そもそも表現とアイデアの区別自体が極めて困難な状況では,こういった二次的著作物の創造に関する障害というのは,創作活動全体にも関連があると思います。
 この点では,著作権の強化が何がしかの点で創作コスト自体を上昇させる側面があるということをLandes and Posnerの1989年の論文は指摘しておりまして,これも彼らの89年の論文の貢献の一つであるというふうに思います。
 そういう意味で,後半では特に現状の著作権制度のもとで,人格権と財産権とのコンフリクトや許諾請求に伴う費用などが,創作活動を妨げるメカニズムについて紹介したいと思います。
 結論から申しますと,著作権の保護期間が長くなればなるほど,現状の制度ではこういった費用が大きくなるということになります。
 なお,最初に金先生が紹介され,また絹川先生が紹介された基本論文であるAdilovとWaldmanの論文では,もともとの著作に対して事後的にいろいろな投資をして価値を高めていくということを考えております。
 私は,基本的にはこういったものもひっくるめて二次的著作物というふうに考えておりまして,当然二次的著作物にも著作権が付与されるというのは,現在当たり前のことであります。
 実は,AdilovとWaldmanの論文は,二次的著作物に近い,こういったものに著作権が付与されないで,既存の著作権でそういった投資を守るしかないという設定を考えているわけです。
 こう申し上げますと,かなり違和感をもたれる方が多いかもしれませんが,考えてみますとキャラクターなどでは,そういった二次的な著作に相当するものと,既存の著作を分けること自体が難しいという側面も考えられますので,こういった議論が全く成り立たないわけではないということになるかと思います。
 ただ,後で述べますように,私はデジタル技術に関して,いろいろな意味で期待をしておりまして,今後そういったものが発達していくにつれ,そういった区別しにくいものの規定などもできるようになっていくのではないかという期待を持っております。
 以下では,二次的著作物が自由に,それぞれ著作権が付与されるという条件について,議論を進めていきたいと思います。
 まず,著作権には自然権的要素も強いわけです。このことは,ややもすると経済活動にネガティブな影響を与える場合があるわけです。特に,我が国は大陸法を踏襲していると思いますので,人格権が非常に強いと思います。この人格権の中の同一性保持権が強力であればあるほど,以下のような問題が生じます。
 二次的著作物を創作するプロセスを,最初に二次的著作物の企画,その前にどういうものから創作するかという検索というプロセスがありまして,企画,創作,販売というふうに大ざっぱに分けますと,このプロセスの中で当然現著作者に許諾を得なければいけないわけです。
 経済学的に一番望ましいタイミングは,最も事前の段階で,企画段階ですべての許諾を完全に得られるということが望ましいわけです。特許権などに関しては,かなりこういったことが当てはまると思います。
 しかしながら,現実の可能性として創作を見た段階で同一性保持権を主張できるということが十分可能性としてあり得ますので,創作後に許諾せざるを得ないという状況が起こり得ると思います。
 すなわち,創作後に同一性保持権に伴う許諾請求を得ざるを得ないと。利用前の許諾というのは財産権の許諾で,その後人格権を行使する余地があるということでありますので,仮に創作物ができたとしても,許諾を得られずに拒否されることになります。結果として,創作活動がすべて無駄になるというリスクが発生することは否定できないということになります。
 これは,創作活動の大きなマイナスでして,結果的に創作活動が減退してしまうことになります。この議論は,私や田中先生が編者をしている,この夏に出た本の1章で,厳密に展開しておりますので,機会があったらご覧ください。
 経済学では,これをホールドアップ問題と申しております。
 現在でも,こういったホールドアップ問題は起こるわけですが,権利期間が長期になればなるほど現状の著作権制度では相続者を探すのが難しくなって,権利者を探索するということ自体が困難になります。
 結果的に,許諾のコストが上昇し,こういったホールドアップ問題が,さらに深刻化するということになります。この意味では,権利期間の延長というのは現状の制度のもとではマイナスになるというふうに考えております。
 なお,並行したような議論がデジタルコンテンツへの影響についてもあるというふうに考えておりまして,と申しますのは,現在のデジタル技術というのは,一番重要なのは無コストで同質のコピーを作成することを可能としたということで,これについても著作権に与える影響は重大でありますが,加えてオリジナルをだれもが比較的容易に改変できる技術も提供しているという側面もございます。
 このような改変というのは,スタンフォード大学のLawrence Lessig教授が主張するような,革新的な文化形成を生み出す可能性を秘めていると思います。
 これは,Lessig教授が国立情報学研究所のシンポジウムで2006年の3月27日に講演されたことであります。経済学者としまして,こういった新たな文化形成の評価をすることはできませんが,実際にLessig教授が紹介された例が余りにも衝撃的であったために,個人的にはこのような文化形成は重要であるというふうな思いに立っております。
 同一性保持権が強く,なおかつこういったホールドアップ問題が起こると,こういった新たな文化形成への芽も摘んでしまうということになります。こういった点についても,懸念を表明したいと思います。
 なお,この講演は今でもNIIのホームページでストリーミングされておりますので,機会があればぜひご覧ください。
 では,こういったものの対策として,当然我が国の人格権というのは非常に強いということがありますので,それをベルヌ条約並みに弱めるということが直接的な対策としてございますし,著作権の権利期間を延長しないというのも,ある意味で対策になります。
 また,加えて当然こういった問題が著作権制度と運用と,さらなる透明化,客観化で対処可能であるという側面も指摘したいと思います。
 というのは,人格権の強さが直接の原因でありますが,事後的な変更の可能性がどの程度強く,それが非常に不確定であるということが,事前の創作インセンティブを阻害しておりますので,こういった問題をいかに解決するかということが重要であるというふうに考えるからでございます。
 最後に,先ほど金先生に,私は更新制の紹介をするようにご紹介いただきましたが,単純な更新制というのは,ややもすると永久な独占権の行使の可能性につながりますので,それは経済学者として認められないと思います。ただし,少なくともその前段階として登録制というのは,このデジタル技術の進歩した現代においては再考するべき時代に来ているのではないかと思います。
 ベルヌ条約当時というのは,全世界的な登録制度というのが困難だったことも著作権制度の登録制が見送られた一因であるというふうに聞いております。
 ただ,当時に比べてインターネットに代表されるように,情報技術は格段に進歩しております。さらに,特に情報技術の中でも,検索機能と記録,むしろ記憶といったほうが正しいかと思いますが,ストレージ機能が非常に進歩しているということで,こういった技術を使える可能性があって,全世界的な登録制を考えてもいい時代ではないかと思います。
 最後に結論でありますが,先ほどの繰り返しになって,やや時間をオーバーしていると思いますので,簡単にスライドをご覧ください。
 なお,これも最初に金先生にご紹介していただいたことですが,私経済学の基本的立場を述べさせていただきましたので,最新の研究というよりも,基本的な文献というのを挙げております。
 お配りした資料にも参考文献はございませんが,基本的な文献として上の2つというのを挙げたいと思います。これらに,デジタル化がどういった影響を与えるかについての文献がございますので,後でおっしゃっていただければご紹介したいと思います。
 以上で,ご報告を終わります。
【野村主査】
 どうもありがとうございました。
 それでは,質疑応答と議論に移りたいと思いますが,お三方のご発表に関して,ご質問,ご意見がありましたら,どなたからでもご発言をお願いしたいと思います。
 なお,田中先生はご都合で11:00前にご退出される予定ですので,田中先生にご質問がありましたら優先的にしていただければと思います。
【中山委員】
 田中先生の最初の定義にありましたけれども,これはディズニーとかバンダイという極めて特殊な例とのことで,私もそう思うので,こういう特殊の例で著作権制度を云々していいかどうかというのは問題があると思います。それは別といたしましても,将来期限を延長した場合に得られる価格を現在価値に割り引いて計算する,これは経済学では極めて当然のことだろうと思うのですけれども,今日は小説家や写真家,その他もろもろの創作者の方がおられますけれども,かなりに奇異に感じているのではないかと思うのです。
 つまり,個人であれ企業であれ,今議論しているのは100年後ぐらいの話なのです。2年後とか3年後どうなるかというのを考えますと投資行動に影響を与えると思いますけれども,100年後にディズニーやバンダイがそもそもあるかどうかもわからないし,経営者も事業者も変わって,株主も変わっていると。本当にそれを考えて,残存利益1%か2%か知りませんけれども,それが影響を与えているかどうか,計算上はそうなりますけれども,本当にそうお考えでしょうか。
 あと,今日は著作権の話ですけれども,企業は著作権だけで利益を見ているわけではないので,法的保護の問題に関しましても,不正競争防止法とか,あるいは不法行為法,全部ひっくるめて考えて行動しているわけです。そう考えると,もっともっと著作権法の影響というのは小さいような気がするのですけれども,それはいかがでしょうか。
【田中辰雄氏】
 前者の件に関していいますと,普通割り引くときには不確実性がない状態でも割り引いて経験させていますけれども,私が考えるとさらにもっと大きくなるはずだという議論は可能だと思います,基準を上げればですね。でも,100年後のことなども全く基本的にわからないわけですから,そういうことはインセンティブには反映しないはずだ,それはこの結論がさらに強まるということだと思われます。仮に,確実だとしてもこんなに低くなるというふうにご理解いただければと思います。
 それから,2番目の不正競争防止法,ちょっと私には答える用意がありませんので,すみません。
【野村主査】
 ほかに。瀬尾委員,どうぞ。
【田中辰雄氏】
 それではお答えします。
 2つと申しましたけれども,最初の点は,没後に価値が上昇するという作品もないことはないのですけれども,これは残念ながら量的に見ると非常に少ないので,書籍で言いますと非常に例外的になります。ですから,それを勘案することもできますが,制度設計をする場合には非常に例外的になりますので,圧倒的多数のほうの線を見て,こういう推定をせざるを得ないのではないかということです。それが1つの答えです。
 それから,没後に伸びるものがあったとしても,体制の影響はそんなに,特定の一個人に関しては没後の収益が非常に大きいというケースはご承知のようにあり得るわけですけれども,制度設計を全員についての,一律の制度を適用しようとすると,それに合わせて制度を作るわけにいかないというのが一つあります。
 それから,2番目の写真の場合,非常に芸術価値の高いものよりもそうでないものが売れてしまうという問題ですけれども,それはご承知のとおりわかります。仮に,芸術的な作品だけに限り,あるいはそうでない作品に限って議論を立てたとしても結論は同じになるだろうと。同じような議論が立てられるだろうと思います。そういう意味で,結論は変わらないだろうと。それが答えです。
 最後に,最初に非常に気になることをおっしゃいましたので,50年,70年というのは収益の問題ではなくて,自分たちが大切にされているかという問題だというふうにおっしゃいました。大切にされているかということが,広く世の中に自分の作品が伝えられて鑑賞されているという意味でいえば,先ほどHeald教授の論考にありましたように,パブリックドメイン化したほうがたくさんパブリックされて利用されているという事実があるわけです。ですから,作家の方が50年後の死後,たくさん自分の作品を多くの人に鑑賞されていろいろな感銘を与えることが自分の喜びだと感じるのであれば,それこそ自分が大切にされているのだというふうに考えるのであれば,期間を短くしてパブリックドメイン化したほうがより満足度が高いはずなのではないかというのがこちらの答えです。
【瀬尾委員】
 今のインセンティブの話ですけれども,もちろんそれはあると思うのです。ただ,50年とか70年というのは創作を支える法律のことで,つまり社会体制の中の,いわゆる決まりのことですよね,当然みんな読まれたい,使われたいというふうに思っていることも,もちろんインセンティブがあると思うのですが,そっちがあるから社会体制はなくてもいいか,というと,それは別の話であって,そういうことが今の議論の中にあるということを申し上げているのです。社会体制の話とそうではない他のインセンティブの話とは別だと思っています。なので,延長に対するインセンティブについての感じ方で,話のずれを申し上げるためにその話を出したということです。
【野村主査】
 金委員,どうぞ。
【金委員】
 米国のほうで著作権法の期間延長が議論された際に,事前の創作インセンティブを増進するという根拠だけでは,著作権法の期間延長というのは極めて難しいと。特に,過去の著作物に対する延長というものが正当化されないというような議会の判断もありまして,本日話がありました事後投資による著作物の価値向上,つまり事後正当化というのがあるというのが延長を補完する一つの根拠になったという経緯がまずあるということを確認したいと思います。
 その次に3人の方にご質問ですが,こうした事後投資,または事後的な正当化には,2つの前提があると思います。1つは,財産権がないと現行の著作権に対する投資,または活用というものが,財産権がある場合に比べて十分になされないというようなのが一つの前提,2つ目は著作物の活用に応じて,独占的な財産権者が市場競争より優れているというような2つの前提がこの考え方の背後にはあると思うんですが,この2つの前提について,3人の方どういうふうにお考えなのか聞かせていただければと思います。
【絹川真哉氏】
 2番目の前提についてもう一回お願いします。
【金委員】
 2番目の前提は,著作権を持っている独占的な事業者,著作権者が市場競争,市場の複数の事業者による著作物の活用において優れているという前提があると思うのです。英語で言うとプライベート・オーダーリングかマーケット・オーダーリングかという2つのメカニズムがあって,この延長を主張するのは前者が優れているというような前提があると思うんです。
【絹川真哉氏】
 そうですね,まず1番目の財産権がないと投資が行われないという前提に関してですが,この辺は現状がどうなっているかという件に関して,それは2番目の独占者のほうがうまく使えるのだという条件にも言えることだと思うのですが,実証研究を進めないといけないかなと思っています。財産権がないと投資を行わないかという点に関しては,例えば,今私が研究しているのですけれども,同人誌がありますよね,あれは二次的著作物の利用権を侵害しているわけですけれども,そういった侵害があるにもかかわらず,出版社はどんどん投資して勝手に使わせているという状況があるので,2つとも検討の余地はあると思います。
【金委員】
 例えば,田中先生がおっしゃった中でアメリカのヒールド先生,そして日本の丹治さん,また田中先生の研究というのは,財産権が不在な場合においても著作物の活用というのは十分なされているということを実証研究されたと思うのです。その反対側の実証研究というものはご存じなのかどうかということですか。
【田中辰雄氏】
 そろそろ失礼しないといけないので,ちょうどいい話が出ましたので,金先生のご質問に答えるとともに,今話題になっているミッキーマウス,ディズニー問題について一言申し上げます。
 まず,金先生がおっしゃいました財産権がなくても投資するのじゃないかというケースですけれども,これは全く財がデジタルコピーでして一瞬のうちにコピーできるような今の状態であれば,それはなかなか投資しない,投資した瞬間にほかの人が全部とっているわけですから。ここで問題になっている継続投資という例は,ミッキーマウス,つまりディズニーにしかないわけですけれども,このケースは実際上巨大なブランドと,それからアナログのディズニーランドというコピーが非常に難しいようなものの集合体なわけです。こういうものは,仮に財産権がなくなったとして,いきなり投資をやめるというのは非常に考えにくいと思います。ですから,音楽とかゲームとか映像作品のように,コピーされたもの,本物と寸分変わらない場合は別ですけれども,ミッキーマウスのようなキャラクターでデジタル化された場合はグッズ等はできますけれども,総体としてのブランドは非常にコピーが難しいので,そう考えるとにわかには財産権がなくても投資を続ける可能性は当然あるだろうと,それが第1の答えです。
 第2の問題として,著作権をなくした場合,権利者以外の人たちの投資がもっと有効にできるのではないかという金先生のご指摘ですけれども,これがまさにこの問題点でありまして,私の話でいいますと再創造と新しい利用方法の革新,青空文庫とかDVD,これは一種の新しい形での新しい利用者の二次的な利用方法を革新した例ですけれども,こういう見通しの可能性があると,実際にあるわけです。それがあるということはパブリックドメイン化の利益の主張する論拠になっているわけですけれども,あります。
 実は,絹川さんの議論でそういう投資がない,権利者が持っている人しか投資をしないという前提になっているわけです。言いかえると再創造とか,それから利用方法の革新,第三者が新たな投資をして新たな利用方法をする,新たな作品世界を展開するということは,最初から仮定の状態で排除している,それを排除すればそういう結論が出ることもあるかもしれないですけれども,それは一番大事なところを仮定の段階で排除する形になっているので,その意味で言うとちょっと問題ではないかというのが,私のコメントです。
【野村主査】
 中泉先生,どうぞ。
【中泉拓也氏】
 先ほどからの報告でもやや繰り返しになりますけれども,当然事後的な投資によって,例えば同じミッキーマウスじゃなくて,ミッキーマウスの映画ができる,またミッキーマウスがどんどん洗練された新たなキャラクターになっていくということがあると思います。当然,そういった努力について著作権を個々に認めていくということは絶対必要だと思うのですが,それをもともとミッキーマウスの著作権として保護する必要というのはないというふうに思います。
 ただ,やや微妙な問題は新たに生まれたミッキーマウスとオリジナルのミッキーマウスとどこが違うかという区別,それが極めて難しいというような可能性がないことはないと思います。ただし,そのときの可能な限りそういったものをいかに特定するかというのが議論でありまして,そういうのが難しいから著作権を延長するという話にはならないというふうに考えております。
 当然,オリジナルの著作権が切れた後に,事後的な投資というのは,可能性としてさまざまな主体で行うという可能性があり,それが理想なわけですが,ここでは私の報告の最初に申し上げましたように,独占よりも競争のほうが望ましいというのが大前提であります。ただ,百歩譲って,独占のほうが望ましいという場合でも,それをアプリオリに法的に保護するというのは経済学からするとかなりいかがなものかというふうに思います。
 競争の結果独占が一人勝ちになってしまうという状況であるのであれば,それはあり得る話だと思いますが,事前の段階では政府がそういったところに独占権を与えるというのは問題であるというふうに考えております。
【野村主査】
 それでは,里中委員,どうぞ。
【里中委員】
 すみません,田中先生がお帰りになられてしまったので,さっきちょっとお話に出た同人誌などにおいて,著作権を犯しているのにもかかわらず,出版社がどんどんそれを出しているじゃないかというお話があったのですが,同人誌を出しているところは出版社と言われるものではなくて,そういうものを書いている人たちが,町の個人的な印刷会社に頼んで自分たちで自費出版していますので,出版物の形をとっていても,その流通形態とか版元の責任というのはさまざまであるということは一言お伝えしたいなと思いました。
 それと,先ほど瀬尾委員のおっしゃったことというのは,創作者ならおっしゃりたいことはぴんと来るのですけれども,どうも経済効果とか経済的損失がどっちにあるかとか,効果がどっちにあるかとかといいますと,私のような経済にうとい者でも,これは著作権なんて何も行使しないほうが活気を帯びることは分かっております。重々分かっておりますが,もともと何のために著作権という概念が生まれてきたのか,それとこれだけ説得力のある説がいっぱいあって,つまり著作権は権利期間を延長しないほうが経済効果があるのだという経済的な理論的に確固たるものがこれだけあるにもかかわらず,なぜアメリカは延長させたのか,どうしてヨーロッパの各国が延長に踏み切ったのかというところが私にはよく分からないのです。
 みんなが経済で生きているならば,どこの国も延長しないはずなのです。それをどうして欧米は延長して日本は延長しないのだろうというと,それ以外の要因で日本は延長しないのじゃないかということが先ほど瀬尾委員のおっしゃった著作権者が大事にされていないのではないかという,そっち側の感想に行ってしまいがちになるので,どなたか説得力をもってそれを教えていただきたいし,すべての著作権者と相続者にそれを伝えてほしい。
 それと,著作権フリーになった方が,みんながよく利用して,それは著作権者も草葉の陰でうれしいだろうと,それは分かります。分かりますが,その使われ方がどうしても,自分でもう何の権利もないと,言えないという,遺族にとって悲しい使われ方がこの世には多々見受けられるということで,財産権・人格権,人格権は作者が亡くなった途端に消滅しますが,財産権がせめてあることによって守っていきたいという遺族の感情,それを長い間安心していたいというのがどうして悪いのかと思います。
 すみません,余り理論的でない質問の仕方で申しわけないのですけれども,結局そういうことだと思うのですけれども,意見がかみ合わない部分というのは。お互いに気持ちは分かると。こちら側は経済効果を考えると,短ければ短いほどいいだろうということは分かっております。分かっておりますが,どうか経済を考える方たちもそういう著作権者とか遺族とかのささやかな気持ちも分かった上で説得していただきたいなと思います。よろしくお願いします。
【野村主査】
 発表者でどなたかご発言ございますか。
【絹川真哉氏】
 ちなみに,私の研究は著作権の保護期間が長い方が経済効果はあるということなのですが。必ずしも,短い方が経済効果があると言っている人たちだけではないということです。長い方が,経済効果があるという経済学者も結構います。
 あと,同人誌に関しては金先生の質問に対する答えとしては余り適切じゃなかったかもしれないですね。同人誌が活発に活動しているということじゃなくて,出版社が侵害を放置しているという状況について私は言及したのですけれども,それに関しては財産権があるかないかというよりは,幅をどうとらえるかということに関することなので,ちょっと適切じゃなかったかもしれません。
 以上です。
【野村主査】
 中泉先生,どうぞ。
【中泉拓也氏】
 ご指摘に対して説得的なコメントというのはできないのですけれども,財産を得る子孫の方々についてはプラスであると。それによって,一つは当然そういった著作権が長きにわたることで,それを利用できない数多くの人が存在すると。そういった数多くの人のためによろしくお願いいたしますとしか申し上げられないです。
【野村主査】
 多分,里中委員のお考えは,著作者は経済的合理性だけを考えているのではなく,経済的価値以外のことを考えて行動しているのではないかということですね。それは,経済学の中ではどのように判断の要素として取り入れて議論されているのかと,多分そういうご質問じゃないかなと思うのですけれども。
【中泉拓也氏】
 どういうふうな心境で創作をつくられているかというのは,経済学でも,ほかの学問も当然そうだと思うのですが,万人にそういった心境がわかるような客観的な評価というのができると,恐らくできるだけそういったものも研究の中に取り入れていきたいというのがございますが,今経済学ではそういったものを完全に客観的に評価できるというような仕組みがなかなかございません。
 当然,そういった心情によって創作活動が増加するという側面が当然あると思うのですが,それがどれぐらい強いのかということをなかなか客観的に評価できないということがございまして,むしろそういった創作のモチベーションですとか意欲というものと,反対に事後的に実際利用して,さらにそれを利用して新たな文化の振興に努めるという社会的なメリット,その両方を比較するという程度しかできないということだと思います。もっと,優秀な経済学者の先生だといろいろな答えができるかもしれませんが,私が今お答えできるのはそれだけということでご容赦願いたいと思います。
【野村主査】
 どうもありがとうございました。
 それでは,三田委員,どうぞ。
【三田委員】
 経済学の観点からさまざまなご指摘があったわけでありますけれども,一つ重要なことが見落とされていると思います。それは,著作権というのは個人の権利であるということです。いかに,社会全体の利益が大きいとか公共性があるということでも,個人の権利をなるべく侵害しないようにするというのが民主主義国家であります。飛行場をつくるとか,道路をつくるといってもそれで立ち退きさせられる人の権利を守るということは,全体主義国家ではない民主主義国家の鉄則であろうと思います。
 先ほどのご指摘というのは,著作権を短くするとこんなに大きな経済効果があるよという話ですけれども,それは個人の犠牲の上に成り立つ経済効果です。今後,10年以内に著作権の切れるというか,死後50年たつ作家として,例えばアルベール・カミュとかヘミングウェイとか,谷崎潤一郎というビッグネームがあります。このうち,アルベール・カミュとヘミングウェイは,もう死後70年ということになっておりますから,まだまだ権利は保護されているわけですけれども,谷崎潤一郎だけがあと数年で切れてしまうと。このことをどういうふうに捉えるのか,谷崎潤一郎の作品は50年分の価値しかないのか,これは日本人が文化というものをどういうふうに捉えているかということにかかわってくるだろうと思います。
 それから,アメリカの学者はこういったという話が多かったのですけれども,アメリカは既に70年になっているわけです。これは,経済学の観点よりも作品と作家を大切にしようという,そういう文化そのものがアメリカにあるからだろうと思います。
 ですから,そういうものを無視して経済学の観点だけで議論をするというのは限界があるだろうというふうに思われます。
 それから,著作権の保護期間を延ばしたからといって,インセンティブが上がるとは思えないというようなご指摘を,作品の数だけをカウントしてご指摘された部分があっただろうと思いますけれども,ここに重要な観点の欠如があるだろうと思われます。
 というのは,私も創作者の一人でありますから,日々創作をしているわけでありますけれども,例えば今の読者に迎合するような風俗的な作品を書きますと,大きな利益が得られるということは予測されます。一方で,50年,100年残るような作品を書こうと思うと,これは,今は売れないかもしれないということがあります。現に,私は今年児童文学を書きました。これは,私に孫が4人いるからであります。この孫に読ませたいということが第一でありますけれども,この孫の孫の代まで長く残っていくような作品を書きたいという強い意欲のもとに作品を書いたつもりであります。
 今,売れるものを書くということと,それから今売れないかもしれないけれども,100年後まで売れ続ける作品を書く,どちらも同じ時間がかかるとして,どちらを選ぶのかということが問題になるのです。このときに,作家の多くが今売れるものしか書かなかったら文化というものは非常に痩せたものになってしまいます。ですから,出版点数が何点だとか,映画が何本作られたという点数を数えるのではなくて,創作意欲,あるいはインセンティブの質というものを考えていかなければならない。
 そうすると,今ご指摘のようなただ作品の数をカウントするということでは見えてこない,非常に重要な文化をより豊かに,何百年後まで残していくというような創作者のインセンティブというものが見えなくなるということがあります。
 それから,もう一つだけ指摘しておきたいのは,作家の印税というのは,出版物の場合はフレキシブルでありまして,例えばもう死後50年近くたっているようなもので,もはや経済的には効力のなくなったようなものであっても,出版社の中には非常に社会性というものを考えて,利益を度外視してこの作品をぜひ復刻したいというような意欲を持って復刻するケースが非常にたくさんあります。
 その場合に,出せば赤字になることはわかっているというような場合は,ご遺族の方に話がありまして,印税ゼロで出すというケースもあります。それから,地方の文学館などが作品の復刻版を出す,あるいは何十年も前の同人誌を復刻するとか,あるいは早稲田文学や三田文学をホームページ上に出すというような場合も,これはご遺族の同意が得られれば無償で提供するということは現実にもあり得ることであります。
 そういうふうに,必ずしも著作権の保護期間が延びているからコストがかかるということではないのです。その観点も欠如していたというふうに思います。
 それから,もう一つホールドアップ問題ということが指摘されたわけであります。著作者不明の問題とか,そういう問題については,既に文化庁さんのほうからA案,B案という形で利用促進のシステムというものが提案されております。ですから,全く問題はないだろうと。つまり,今の経済学者のご意見は,現行の制度のままで保護期間を延ばしたら,大変困ったことになるということでありますけれども,今までの委員会の議論の中では,利用促進の制度というものも並行して議論されてきたわけです。ですから,そこも踏まえて考えると,このホールドアップ問題というのは,それほど大きな問題ではないだろうというふうに思います。
 以上です。
【野村主査】
 それでは,委員何人か手を挙げられていますのでまとめてお願いします。生野委員と津田委員,最後にご発表の方からまとめてご発言をお願いします。
【生野委員】
 中泉先生に質問させていただきます。素人からご専門の方に大変恐縮ですが,価格差別の限界と権利期間ということで,ご説明されていましたが,先生ご自身はどの程度の権利期間であれば,価格差別が機能するとお考えなのか,お聞かせいただきたい。
 私自身,余り関係性はないのではないかと思っていまして,知的財産権であるから価格差別が機能しないといった点については,知的財産権以外でも当然そういったケースがあるのではないか,知的財産権特有の問題ではないのではないかと思うのですが,そこをお聞かせ願いたいと思います。
【野村主査】
 では,津田委員,ご発言をどうぞ。時間もありませんので,後から発表者にまとめてお答えいただきます。
【津田委員】
 きょうの議論を聞いていて,僕は絶望的な気持ちになった部分がありまして,里中委員と三田委員のほうから何で欧米のほうで延長されたのかというのは,この1年以上これに議論を費やしてきて十分に事務局のほうから説明もあったと思うのです。これだけ回も費やして,EUが何で最初延びたのかというのはEU統合のためというのが一番大きな理由であるということが説明されたし,その後米国というのは欧州に合わせるためということと,ディズニーなどのメディア企業というのが活動によって延びたわけで,どちらかというと割と権利者の方々,創作者の方々がある種忌み嫌う経済的な理屈でヨーロッパもアメリカも延びているわけです。それは,まず前提として事実として共有されて議論すべきであって,アメリカとかヨーロッパのほうが権利者とか著作者の気持ちを慮っているから延びているのではないということは,何度も話されている話なので,それを意図的に無視されて同じような話を続けるのはどうかと少し思いました。
 あと,先ほど瀬尾委員のお話のほうで少しひっかかったのが,著作者たちの実感として50年が70年になっていくのに,50年になっているのは大事にされていないのかなというのは,僕もプロの著作者ですけれども,僕は別に50年が70年になっていないから大事にされていないとは全く思わないし,恐らく中山委員なども同じ気持ちだと思うのですが。結局,僕は何を言いたいかというと,そのあたりの感覚というのはクリエーターによってばらばらなんです。全く気にしない人もいれば,70年のほうがいいという人もいるし,僕は50年でも全然いいと思うし,ばらばらだというのが実際にいろいろな種類のクリエーターの方々にお話を聞いて,取材をしている僕の実感としてあるので,逆に著作者たちという形では一般化されるのは危険というか,瀬尾委員の個人的なもの,もしくは多くの写真家たちの実感という形に訂正していただいたほうがいいのかなというふうに思いました。
 それとは,別に絹川先生へのご質問ですけれども,絹川先生のメディアコンテンツ,映画とかアニメとかというのは,非常にキャラクターグッズ展開があるので,市場を作り出すというのは非常に分かりやすいお話だったのですけれども,ただ著作物はそういったアニメとか映画とかみたいに,他メディア展開,商品展開,キャラクター展開できるものだけではなくて,例えば僕がやっているような評論ですとか,美術とか写真とかプログラムとか,そういったキャラクターグッズみたいな展開ができない著作物もたくさんありますし,そういったものというのがあったときに,映画とか出版とかある程度多くの人がかかわる法人著作物みたいなものもあれば,そういった著述みたいに,非常に属人性が高いコンテンツ,投資はほとんどしなくても属人性の高さによって生み出せる著作物というのがあるんですけれども,絹川先生の発表で,そういった属人性が高くキャラクターグッズとか他メディア展開がしにくいものに対しての配慮みたいなものというのはどんなふうにされているのかなというのがちょっと気になったので,その点をご質問したいと思います。
 以上です。
【野村主査】
 最後に,椎名委員,どうぞ。
【椎名委員】
 津田さんがおっしゃる経済的な理由でEUとアメリカが延びたのだということ,それが経済的な理由によるかどうかに限らず,自分たちの身過ぎ世過ぎである著作権に関して,国の制度がどの程度の保護を与えてくれるのかというのは,著作者にとっては関心事だと思うのです。経済的な理由からどうのこうのというようなことを通り越して,著作者というのは著作権で食うわけです。自分が創作をするメンタリティとは全く別に,年末に源泉徴収票をもらって,「あ,これだけもらったんだ。」というちょっとどぎまぎしたところがあるわけですけれども,要は食いぶちの話をしているのです。自分の食いぶちの話をしている。その話をしているときに,あなたの食いぶちは安い方が,周りがみんな幸せになるのですよという説明をされているような気がしてならなくて,著作者という立場で活動していて,いろいろな国の著作者もいる中で,何でこの国の保護は低いレベルのままなのだろうと疑問に思うのは,理屈ではなくごく自然なことであると思うのです。具体的な金額を決めているわけではないけれども,自分達の価値に対するある種のスタンダードがこの委員会で話されているという意識を持っていると思うので,そこのところを理解していかないと,話が永遠にずれていってしまうのではないかと思いました。
【野村主査】
 どうもありがとうございました。
 それでは,それぞれの委員のご発言には,意見と質問と両方入っていたと思いますけれども,最後に発表者のお二方にご発言をいただいてと思います。最初に絹川先生からお願いします。
【絹川真哉氏】
 まず,キャラクター展開できない著作物に関してですが,これはプレゼンテーションでも言いましたように,一切考慮してないです。あくまで,限られた著作物のマーケットにおいて起こり得ることをモデル化しただけで,この結論をもって著作権制度に関して大きなことを言おうとは全く思っていません。あくまで,限定的な状況でこういうことが起こり得るという参考程度のものだというふうに考えています。
 あと,最後に1点だけ。中山先生がディズニーやバンダイは特殊なケースだとおっしゃいましたが,確かにそうなのですけれども,彼らの経済に対するインパクトはすごく大きいので,そういった企業の行動様式をモデル化するというのはある程度意味があるのではないかと思っています。
 以上です。
【野村主査】
 中泉先生,どうぞ。
【中泉拓也氏】
 前後しますけれども,まず価格差別についてですが,当然価格差別というのは著作物だけではなくて,さまざまなところで行われております。ですので,私はさまざまなところで行われている価格差別を,特にデジタル環境の強いところで適用すればどうなるかということを一つの応用として今研究しているものでございます。
 そういう意味で,関係がないというよりもむしろすべてについて行き渡るものの適用例であるというふうにご理解いただければと思います。
 報告でも申し上げましたように,理想的なものというのは現実的には不可能でありますので,対処はできますが,なかなかそれでは完全な解決にならないというのが事実でございます。その中で,そういう意味で理想的な解決ができるかというとそれはできないので,権利期間をどの程度に設定してもだめというのが,最初の答えですが,その次に次善の意味でどの程度の期間がいいかということにつきましては,これはいろいろな実証研究,また理論研究,さまざまな検討をしないと,私も今理論研究始めたばかりですので,今後の課題であります。実際に,今のところ正直申し上げまして,まだまだ何も言えないというのが事実でございます。
 次に,ホールドアップ問題につきましてですが,ポイントは許諾が例えば創作の後の段階で人格権を行使して,創作物の差し止めという可能性がもしゼロ%であれば,生じないわけですが,そのためには,人格権が否定されなければなりません。議論の中で仮に人格権が否定されたのであれば,ホールドアップ問題は全く起きません。しかし,そういったことは当然あり得ないと思いますので,(人格権が存在する以上)理論的にはどんなに対策を打っても残る問題であるので,永久にそれは検討しなければいけないという問題であると思います。
 最後に,三田先生の孫に読ませたいということを切実におっしゃっておりまして,まさにそれが文化の振興になると思います。経済学者としましては,そういった場合,排他的な著作権というのは孫に読ませたいという思いの足かせになってしまうと。むしろ,広く利用できるほうがたくさんの人が読めるということを最後に申し上げたいと思います。
 以上でございます。
【野村主査】
 どうもありがとうございました。
 それでは,まだいろいろご発言はあろうかと思いますけれども……。
【瀬尾委員】
 訂正していただきたい,という意見を津田委員からいただきましたが,創作者団体協議会というところで,インセンティブといったことはそういう意味合いがあったということなので,そうじゃない著作者の方ももちろんいらっしゃるかと思います。一括して申し上げたのは,ちょっと申しわけなかったと思いますので訂正をさせていただきたいと思います。
【里中委員】
 すみません,絶望的な気分にさせたまま帰るのはいけないので,もう少し,説明させていただきますが,つまりそういう説得力の面なのです。そういう意見があっても,70年に延ばしたわけでしょう。経済効果が本当は落ちるけれども,それでも合わせて延ばそうと思う,裏の,裏はないのかもしれませんけれども,理屈に合わないことをしているわけです,欧米の国々というのは。経済学者さんたちに言わせると理屈に合わない保護期間延長をやってきたわけです。
 よその国に合わせる,欧米で統一するとかという政治的な配慮もあったと思うのですけれども,日本がどうして合わせないのか,ここでも議論されたと思いますが,お仕事でグローバルにやっていらっしゃる方にとっては,こちらが50年で,あちらが70年だといろいろ不都合が生じるような実例とかも話していただきましたけれども,では,どうして日本は合わせられないのかというあたりで納得できないものがあるのです。そういうことで申し上げたので,余計何か絶望させたような説明ですみません。

(3)その他

【野村主査】
 それでは,この程度にさせていただいて,前回小委員会で取りまとめていただきました過去の著作物等の利用の円滑化のための方策,中間総括について,大分前になりますけれども,5月22日の法制問題小委員会に報告いたしました。その際に出された意見などについて,事務局からご説明をお願いいたします。
【著作権調査官】
 前回の小委員でまとめていただきました中間総括の案でございますが,21ページの部分だけ,多少前回のご意見を勘案して原案の中に,事前の申告などにより利用記録が残るようにすることはどうかという一文だけ付け加えた形で法制問題小委員会に報告をさせていただきました。この法制問題小委員会で出てきた意見をまとめたのが参考資料3でございます。ざっと出てきたところだけ申し上げますと,権利者不明の場合のところが一番多かったのでございますが,おおむね何らかの対策が必要だというところについては,コンセンサスがあるのではないかというご意見がございました。制度設計が不十分な点のご指摘を受けた部分としましては,大きなものは権利者が判明した後の取扱いについて,権利者が使用後にあらわれて使用を拒否した場合にどういう設計にするのかという点でして,あらわれた後に損害賠償の差止が可能だとすると,メリットがないのではないかということのご指摘がございまして,その点について,もう少し検討する必要があるのではないかというご指摘をいただきました。時間も押していますので,その点だけご紹介させていただきました。
 ついでに,参考資料5ですが,先々月になってしまいましたが,知財計画2008が決定されておりまして,この小委員会の事項についても盛り込まれておりますので,簡単にご紹介をさせていただきます。
 27ページの(2)のところに幾つか列挙されてございます。権利者不明のコンテンツの利用を円滑に進めるための対策について,2008年度中に法的措置を講ずるというような計画になってございます。そのほか,同じ部分の下から3行目に複数の権利者がかかわるコンテンツに関する望ましい権利行使のあり方は2008年度中に結論を得ると。その次のページの一番上に,保護期間のあり方については2008年度中にというようなことで引き続き盛り込まれてございます。
 簡単ですがご紹介でございました。
【野村主査】
 それでは,ただいまのご説明について,何かご発言ございますか。
 特にご発言がなければ,これにつきましては保護期間のあり方に関する議論と併せて,取りまとめの議論を行う際に再度議論したいと思います。次回は保護期間のあり方について,残された論点等について議論したいと思いますので,今後の予定について事務局からお願いいたします。
【著作権調査官】
 次回の日程でございます。今のところ8月21日(金)の14:00から16:00を予定しておりますけれども,残された論点の大きなところといたしますと,文化創造サイクルにどういう影響を与えるかというところかと思いまして,これについてどういうご発表をいただけるのか関係者にいろいろ当たっているところでございまして,その関係でもしかしたら日程がずれるかもしれません。また改めてご連絡させていただきたいと思います。

(4)閉会

【野村主査】
 それでは,本日お忙しい中お三方においでいただきまして,ご発表いただきましてありがとうございました。
 これで,第4回過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
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