著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第5回)議事録

(1)開会

【野村主査】
 それでは,定刻が参りましてご出席予定の委員の方がほぼおそろいでございますので,ただ今から過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の第5回を開催いたします。
本日は,ご多忙の中ご出席いただきまして誠にありがとうございます。
本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照しますと,非公開とする必要はないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいているところですが,特にご異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【野村主査】
 それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことにいたします。
議事に入りますが,本日は事前にお知らせしたとおり,保護期間の在り方について,文化の創造サイクルやコンテンツビジネスに与える影響という観点から議論を行いたいと思います。
本日は,社団法人音楽出版社協会会長朝妻一郎様,株式会社小学館キャラクター事業センター センター長久保雅一様,早稲田大学大学院国際情報通信研究科客員准教授の境真良様,株式会社ドワンゴ代表取締役会長川上量生様の4名の方に発表をお願いしております。
まず,事務局から配布資料の確認と本日の4人のご発表の全体像と申しますか,相互の関係について簡単にご紹介いただいて,その後,お一人10分から15分程度でご発表いただき,発表の後に5分から10分程度で質疑応答の時間を設けたいと思います。
なお,久保様はご都合により,途中退席されるということですので,あらかじめご承知おきください。
それでは,事務局からよろしくお願いいたします。
【著作権調査官】
 それでは,まず配布資料の確認をさせていただきます。
お手元の議事次第の下半分に配布資料一覧を記載してございますけれども,本日は資料6点と参考資料3点をお配りしてございます。
資料1から6につきましては,本日,先ほどご紹介いただいた4名の皆様と,その次でもう一方お呼びしておりますが,それぞれ1つずつの資料をいただいておりまして,それが資料2から資料6まででございます。
その前に,1枚紙の資料1が付け加わってございます。
過不足等がございましたら,ご連絡をお願いします。

(2)保護期間の在り方について

【著作権調査官】
 皆様のご発表の前に先立ちまして,簡単に本日4名の方にご発表をお願いした観点について,資料1でご説明させていただきたいと思います。
本日は,保護期間の在り方のうち,文化創造サイクルあるいはコンテンツビジネスへの影響という観点からご発表をお願いしたいと思っておりまして,今までどういう議論があったのかについて簡単にまとめてみました。細かい議論は,もっと沢山ありますけれども,主な論点ということで書かせていただきました。
左側の方では,保護期間延長によっても創作のインセンティブは増さない,特に過去の作品については,創作のインセンティブにならないというご意見がありました。
一方で,それに対しては2つのタイプの反論がございまして,1つはそもそも創作のインセンティブは金銭ではないというものと,あるいは1%であっても,この意見が1%と言っていたわけではありませんが,事業者に着目すればインセンティブになるんだというご意見がありました。
最初の創作時点から後の創造サイクルとの関係については,左側では,過去の作品を土台とした二次創作などに着目して,サイクルを考えていくべきだという意見。さらに,ネット時代で1億総クリエーターと言われる中で,そういったもの全体を踏まえて創造サイクルを考えるべきだという意見。これに対しまして,右側の方では,特に右の下の方ですけれども,創造サイクルはコンテンツ事業者の収入が次の世代に投資されること,そういったものに着目して創造サイクルを考えていくべきだと。こういう意見の対立があったかと思います。
本日は,そういった点を踏まえまして,主に事業者が果たす役割,次世代の創作クリエーターの育成などに果たす役割につきまして,主として朝妻さんと久保さんからご発表いただければと思っております。
それから,左の方に行きまして,1億総クリエーターと呼ばれている時代で,プロ以外の幅広い創作活動の実態などにつきまして,境さん,川上さんからそれぞれご発表いただければと思っております。
それから,コンテンツビジネスという観点では,その他もろもろの関係がございますので,本日の文化創造サイクル以外の観点,例えば海外とのビジネスとの関係で貿易上のメリット,デメリットなどなど,その他関係の論点がございましたので,そういったところも適宜,言及いただければと考えております。
以上でございます。よろしくお願いいたします。
【野村主査】
 それでは,最初に音楽出版社協会の朝妻様からご発表をお願いいたします。
【朝妻一郎氏】
 こういう機会を与えていただきまして,誠にありがとうございます。
音楽出版社として著作権保護期間に関する意見を申し述べさせていただきたいと思います。
最初に,世界標準の採用は,知財立国の最低条件の1つであると思っております。既に何度も申し上げてきたことであり,また言われていることでもありますが,著作権保護期間70年は知財ビジネスの国際展開を積極的に進めていこうとしている日本が,国際社会での主要な競争相手であるアメリカ,EUなどと対等な立場に立つ最低限のルールです。
知的財産戦略大綱に,知的財産立国とは発明創作を尊重するという国の方向性を明らかにし,無形資産の創造を産業の基盤に据えることにより,我が国経済社会の再活性化を図るというビジョンに裏打ちされた国家戦略であるとあります。
さらに,発明や著作物等の成果を知的財産として適切に保護し,有効に活用する経済社会システムを構築することが必要であるとしています。
このような国家戦略を推進しようとしているとき,その基盤である知財が財産である期間を国際比較の中で短いまま放置することは,国家戦略の放棄にも等しいものです。
既に,著作権保護期間70年は,皆さんご承知のようにアメリカ,EU諸国を初め,メキシコ,ブラジル,アルゼンチン,ロシア,イスラエル,オーストラリア,そして遅れているアジアでも韓国が延長を予定しているなど,我が国と文化交流が行われているほとんどの国で実施されています。
映画,音楽,アニメ,漫画,ゲームなどが海外で高い評価を受け,また広く受け入れられています。今後,この動きが拡大することが予想されますが,保護期間70年を採用している主要国において,我が国の著作物のみ50年で保護が打ち切られることになります。
それだけではありません。我が国において,これら70年を採用している国の著作物の保護もまた,50年で打ち切られることになります。
文化の輸入は,輸入国の国民の文化享受を豊かにし,それは必ず新たな創作へと結びついていきます。にもかかわらず,その著作物について使用料を払わないで済ませることは,法律的には何ら問題がないとしても,文化国家を標榜することを躊躇させるものであることは,確かだと思われます。
今年7月,欧州委員会は実演家及びレコード製作者の権利の保護期間を50年から95年に延長すること,著作物の保護期間の算出方法について,関係する著作者のうち最も長命な著作者の死後70年間とする2点を欧州議会に提案しました。
ECは,この提案の理由の1つとして,レコード市場の縮小,過去5年間で約30%減っているんですけれども,レコード市場の縮小と,音楽配信がその代替となり得ていないことを挙げ,ヨーロッパのレコード産業は,新人に投資するために必要な安定的収入源の確保という課題に直面しているとしています。また,実演家についても,社会的処遇を改善する必要があると言っています。
日本では,実演家,レコード製作者の権利は著作隣接権として別の権利として規定されていますが,いずれにしてもECはヨーロッパにおける音楽産業の振興のために保護期間延長を進めようとしています。文化は産業であり,しかもヨーロッパの将来にとって重要な産業だということです。
その振興のために保護期間を延ばそうと提案しているわけです。保護期間が,著作者の創作のインセンティブになるかどうかという議論もありますが,それとは別に文化産業という視点から保護期間がいかにあるべきか考える必要があると思います。
2番目に,音楽出版社が著作物の創作と利用開発・流通促進に果たす役割について申し上げたいと思います。
音楽出版社は,作詞家,作曲家など,著作者から譲渡を受けた音楽著作物をできるだけ多く広く使われるようプロモートすることを主要業務としています。もう一つの業務は,使用料の徴収,分配などの管理業務です。
広く多く使われるということは,つまりヒットさせるということです。ヒットさせることによって,著作物はスタンダード楽曲になっていきます。音楽出版社は,譲渡を受けた管理楽曲の中から,できるだけ多くのスタンダード楽曲を作ることを目指しています。
スタンダード楽曲は,分かりやすく言えば,例えば「ホワイト・クリスマス」がいい例です。クリスマスの季節になると,毎年世界中で数多く演奏されコンスタントに使用料を生み出し続けています。
ヒットのきっかけはいろいろな場合がありますが,それがスタンダード楽曲になるには幅広く多様なメディアを通じて広がるのが望ましいのは言うまでもありません。レコードが発売され,コンサートで歌われ,放送で流され,映画やテレビドラマの主題歌や挿入歌になり,コマーシャルに使われ,カラオケで歌われ,着メロ着うたになり,自分で演奏したい人たちのための楽譜が発売される。そうなると,様々な相乗作用が生まれ,その音楽は長く世の中に流れ続けます。また,様々な歌手,演奏家が取り上げることになり,そこでまた新しい魅力が発見され,さらに広がり続け,誰もが聞いたことがあり,しかも心引かれるスタンダードが生まれます。
音楽を作るのは作詞家,作曲家ですが,ヒットさせスタンダード楽曲にするのは音楽出版社です。もちろん,元の作品がそれだけのものでなければなりませんが,ヒットし,スタンダードになる力を持った作品をその力どおり,あるいはそれ以上のヒット,スタンダードにするには,音楽出版社の力が必要です。そのために,音楽出版社は先に申し上げたような様々なメディアに接触し,売り込み,あるいはそれらを組み合わせてヒットさせるための様々な手を打ちます。それが音楽出版社の大きな役割です。
広く多く使われるほど,著作権使用料は,それに比例して多くなります。音楽出版社は,使用料を著作者と契約に従って分け合いますが,音楽出版社は分け合った収入のうち必要な経費を除いたかなりの部分を,次のヒット,スタンダード作りに投資しています。つまり,作詞家,作曲家,シンガーソングライターなど新しい才能を発掘し,作品発表の場を与え,あるいは原盤制作を行います。
そのためには,著作権保護期間は長いほどいいのです。なぜならば,スタンダードと言われる作品は長い生命力を持っているものだからです。
ほとんどの著作物は,作られたそばから消えていきます。音楽の世界で言えば,5年,10年と使われ続ける作品は全体から見ればまれです。作者の死後50年,70年歌われ続ける作品は間違いなくかけがえのない傑作です。著作権保護期間は,これらかけがえのない作品のためにこそあります。そして,その数少ない傑作,ヒット作品,スタンダード作品が生み出す使用料が,次のヒット,スタンダード作りの元手になっています。新しい才能を発掘し,育成するという創造のサイクルをスムーズに循環させる原資でもあります。
これらのかけがえのない人類の文化遺産とでも言うべき作品を保護し,その生み出す収入を次の傑作,スタンダード作品を生み出す糧として生かすために,保護期間はできる限り長く設定されるべきです。
保護期間が短く早くパブリックドメインになった方が著作物が多く使われるという意見を聞きますが,音楽出版社の役割ということから考えると,保護期間が長いほど作品は多く使われる可能性を高めていると思います。
音楽に限らず,著作物がたくさんあります。本来の魅力を発見されないまま埋もれてしまう作品も少なくありません。また,ヒットしながらその後忘れられた作品もあります。これらを発掘し,改めて世の中に出すのも音楽出版社の大事な仕事です。これを音楽出版社では楽曲の再開発と呼び,重要な仕事と位置付けております。
グループサウンド時代のヒット曲「亜麻色の髪の乙女」が40年後に島谷ひとみによってオリジナルを超えるヒットになり,坂本九の「明日があるさ」が38年後にチャートの1位になるなど,再開発による代表的なヒットを筆頭に,多くの曲が発売時以上の注目を浴びるようになっています。
最近のいい例としては,德永英明による「VOCALIST」というアルバムのシリーズで,このヒットがきっかけになり,過去の作品をアルバムで取り上げる企画も最近目立ってきております。楽曲の再開発を繰り返すことも,スタンダード作りの方法ですが,同じ作品が時を経て,また全く別の歌手や演奏家の手によって表現されることによっても別の魅力が生まれ,また逆にオリジナルの魅力も再発見されることも起こります。
こうした作業を音楽出版社が行うのは,それによって利益が生み出されるからです。使われなければ1円の収入にもならない楽曲が,レコード化されたりコマーシャルに使われれば,その収入はそのまま音楽出版社と著作者の利益になります。だからこそ音楽出版社は,いつでもプロモートできるように,楽譜やオリジナルのレコードなど,その楽曲の資料を整えています。
それも保護期間内のことです。保護期間が終われば,幾ら使われても収入になりません。音楽出版社は,今の時代ならあの曲をまた売り出せるのではないか,このアーティストに歌わせたらあの曲はまた生き返るのではないかといったことを考えているのを,保護期間終了と同時にやめざるを得ません。たくさんの資料を保存する必要もありません。誰かがオリジナルの楽譜を手に入れたいと思っても難しくなってしまうでしょう。サイクルの早い音楽の世界では,常に誰かがサポートする必要があるのです。
3番目に,利益が錯綜する音楽著作権の国際市場ということでお話したいと思います。
音楽著作権や知財ビジネスは,圧倒的に輸入超過であり,保護期間を延長しても出ていくものが増えるばかりだという意見があることは承知しています。しかし,それははじめに申し述べたとおり,知財立国を国家戦略と位置付けている国の考え方自体と日本のクリエーターの力を自ら否定するものです。そして,また輸入によって日本の企業がベネフィットを得るというケースも著作権ではあります。
日本の会社が「ブルームーン」「A列車で行こう」「シング・シング・シング」「ニューヨーク・ニューヨーク」といったスタンダードを初め,「風と共に去りぬ」や「オズの魔法使い」などを初めとするMGM映画の映画音楽,「007シリーズ」や「大脱走」などのユナイテッド・アーティスト映画の映画音楽など,5万曲の外国曲の日本と東南アジアの権利,あるいはポールアンカの「ダイアナ」や「ユー・アー・マイ・デスティニー」,プラッターズの「オンリー・ユー」,ビーチボーイズの「ファン・ファン・ファン」といった,1950年代から60年代半ばにかけてヒットしたヒット曲約1,000曲の日本地域の権利をそれぞれ買収して,著作権存続期間保有しているといったような例がそれに当たります。
しかし,同じ外国曲を保有しているのに,我々はこれらの曲が生み出す使用料を外国の出版社より短い期間しか受け取ることができません。新しい才能の発掘,育成,スタンダードの創出という創造のサイクル活動を順調に進行させることに回るべき原資が,外国の出版社に比べて少なくなってしまいます。
私どもは,日本や東南アジアだけでなく,いい楽曲の全世界の権利を持っているカタログの買収も行いたいと思っております。デジタル化,ネットワーク化がさらに進む中で,音楽出版カタログの売買も大きなビジネスになっていくわけで,それに日本の企業としても参加したいわけです。
しかし,売り手が企業だったり,あるいは金融ファンドであれば,単純に金額の多寡で日本の企業にもチャンスはありますが,もし作詞,作曲家が売り手だった場合は,日本がほかの国より保護期間が短い,すなわち自分たちの作品に対する尊敬の気持ちが少ないと感情的に判断され,値段以前に買い手として認められないといった不利なことが起きることが想像されております。
繰り返しになりますが,世界と同じルールで著作権ビジネスを行うよう制度を整えるよう,我々は希望しております。
ありがとうございました。
【野村主査】
 どうもありがとうございました。
それでは,ただ今のご発表につきまして,質問等ございましたら,お願いしたいと思います。生野委員どうぞ。
【生野委員】
 朝妻会長の今のご説明につきまして,質問というよりは感想といいますか,補足的な意見ですが,申し述べさせていただきます。
音楽出版社は,非常に数多くの楽曲を世に提供しているが,ヒットまたはスタンダードとして残るのは少数の楽曲であること,しかしながら,この少数の楽曲による収入によって,新たな才能の発掘,育成,ヒット作りやスタンダード作りのための継続的な投資活動が可能となり,さらに創造のサイクルが好循環する事業展開を維持,発展させていくためには保護期間は長い方がいいと,そういったご意見だったかと思いますが,流通を担っておりますレコード会社などのレコード製作者に共通するお話としてお聞きしました。
レコードにつきましても,少数のヒット作品による収益がその他のレコード製作ですとか,新人アーティストの発掘,育成といったものに充てられているわけであります。
また,レコードというフィジカルな媒体につきましては,良好な状態で次世代に承継するためには,原盤のデジタル化やリマスタリングが不可欠であり,その費用負担が避けられないわけであります。保護期間の延長によって,その費用負担をして,過去のレコードを商品化することへのインセンティブが働き,レコード文化の承継につながっていくのは,今,朝妻会長がお話ししたことと同様な状況であります。
これまで,創作のインセンティブの議論に関しましては,個人のクリエーターを中心になされていましたが,今のご説明のとおり,コンテンツ事業者の投資インセンティブの側面が非常に重要であると考えます。前回,金委員からアメリカの保護期間延長の議論の際に,事後投資に関する評価が延長の背景にあったというお話を伺ったのですが,まさにこの点が重要であって,創作のインセンティブに関しては,個々のクリエーターごとに考えるのではなくて,投資を行うコンテンツ事業者を含めた大きなフレームで今考えるべきと思います。
【野村主査】
 どうもありがとうございました。
それでは,中山委員どうぞ。
【中山委員】
 確かに事業者という点を考えますとおっしゃるとおりだと思います。死後50年を超えて,なおかつ生命を持っているものがあれば,そこから収入を得たいと考えるのは当然で,そうすれば企業収入は増えるわけです。これは別に音楽に限らず,例えば特許でも同じでして,特許の期限が切れてもなおかつ命を持っているものは幾らでもあります。しかし,特許権が切れたら他の者が作り始め利益が減るのは当然です。薬品のジェネリックのように,そのような例は,幾らでもあるわけです。
しかし,問題なのは,ごくごく少ないヒットするのに対して,著作物の99.何%か知りませんけれども,ほぼ100%に近いぐらいのものはヒットしないわけです。眠っている。しかし眠っているけれども権利は与えられている。そうすると権利があるがゆえに使われない。音楽の場合よく分かりませんが,例えば,青空文庫は権利がないから,埋もれていたものを世に出すことができる。あれは権利があったらできないわけです。したがって,ごく少数の儲かるものについては,より利益を得たいということは分かったのですけれども,それ以外のものについて,そのように長い期間権利を与えていいのか,という点はどうお考えでしょうか。
【朝妻一郎氏】
 例えば,私どもで1982年の初めにシングル盤で出たオフコースの「言葉にできない」という曲があります。これは82年に出て,一部でオフコースの根強いファンの間ではいい曲だと言われていたのですけれども,それが99年に,ですから17年後に我々がいろいろプロモートして,ある生命保険会社のコマーシャルで使っていただいて,そのことがきっかけになって,ああ,これはいい曲だということがもっと広がり,また,一時その生命保険会社がコマーシャルをやめていたのを最近再開したのですけれども,そうしたらこの3年ぐらいの間に平原綾香さん,岩崎宏美さん,槇原敬之さん,島谷ひとみさん,辛島美登里さん,鮫島有美子さんという6人のアーティストが新たにレコーディングしてくれたりしているわけです。
ですから,そこで今生きていないから,あるいは活動していないからというので,それが全然命がなくなるわけではなくて,やっぱりそこに誰かがこれはいい曲だからと一生懸命頑張る存在が必要で,先生がおっしゃるように自然に生き残る曲もありますけれども,やっぱり誰かが働くことによって生きる曲もあるわけで,そういう数多くある曲が全て無駄な曲ではなくて,いかにその数多くある曲の中からいい曲を探し出すかという音楽出版社の役割というのが,だからこそ重要になってくるのではないかと考えています。
【野村主査】
 他に。津田委員どうぞ。
【津田委員】
 2点ありまして,1点は,僕がお話をお伺いしていて分からなかったのが,「亜麻色の髪の乙女」ですとか「明日があるさ」といったカバーヒットと保護期間のつながりがよく分からないと思っていて,そのカバーヒットが出るか出ないかというのは,保護期間とは直接関係ないのではないかなと僕は思ったんです。
それは,例えば平井堅さんが数年前に「大きな古時計」のヒットを出しましたけれども,あれはもともと曲の方は少なくとも切れていて,作詞の方はまだ訳詞として残っている状況で,あれを平井堅さんが見付けて歌ったことによって,平井堅さんにはちゃんと収入にもなっているし,カバーヒットが出るか出ないかというのは保護期間とは関係なく,どうやって曲を見付けて今の時代感に合わせてアーティストが歌うかというところが,むしろ一番大きな話であって,その見付けるという部分において,どう保護期間というのが関係してくるのかというのが,お話を伺っていてよく分からなかったことです。
【朝妻一郎氏】
 基本的には,セールスするときに鞄の中にどれだけの曲があればいいセールスができるかということと同じで,やっぱり可能性のある曲を多く持っていることが出版社にとってはいい仕事ができるわけですし,いい仕事ができることイコール新しい投資に対する原資を生み出すということで,だから保護期間を短くすることによって,鞄の中に入れられるサンプルが少なくなることを我々としては防ぎたいし,我々はやっぱりそこまで生きている曲,あるいはこれがいい曲だと思っているものは,絶対もう一回チャンスはあると思っていますので,基本的にはそういう鞄の中に入れられるサンプルをなるべく多く持ちたい,それから,新たな原資を生み出す機会を多くしたいということです。
【津田委員】
 それで「大きな古時計」とか,例えば音楽出版で,保護期間が切れた後,切れた後の10年後ぐらいに誰かが新しくその曲でアーティストが曲を作ろうと具体的にそうなったときに,新たなにまた契約をし直せばいいだけなんじゃないかなという気がするんですけれども。それは,どうして音楽出版社の管理下に置いておかなければいけないのかなという素朴な疑問があったのですが。
【朝妻一郎氏】
 その「大きな古時計」みたいな例というのは,非常にレアなケースですけれども,でもその「大きな古時計」を生き返らせたことによって,あ,こういう例があるのだということをみんなに知らせているわけですから。でも,そういう収入を生み出す可能性があるものをそこで消滅させるということ自体,産業としてのサイズを小さくしていく恐れは非常にあるし,我々としてはそういうサイズをどんどん広げていって,文化の度合いを高めていきたい,あるいは海外との競争力を強くしていきたいとか,企業としても大きくなっていきたいとかいう,あるいは作家に対する創造の助力をしていきたいということのための基盤は,いかに多くの楽曲をちゃんと管理できているかというところにあると思っているので,そうするとやっぱり保護期間が短くてそこでバサッとある曲がなくなってしまうということは,我々にとっては非常に機会の喪失になっていくと思います。
【津田委員】
 すみません,あともう1点だけいいですか。資料の最初のところの実演家の方で,ECの方で50年から95年間に延長するお話があったんですが,これはただ延長しましょうという話ではなくて,EUの中で他の国の著作権団体へ著作権者の移動とか選択を禁じる条項ですとか,著作物の利用者に国ごとに各著作権団体での契約を強制する条項を排除せよという,要するにEUの中で著作権管理団体,日本で言えばJASRACみたいな著作権管理団体の市場競争を適正に促そうといった命令とセットで提案されているんです。
なので,あくまで向こうの方では,流通を促進させるため具体的な施策ということと実演家の延長というのがセットで出されているということが結構僕は重要なことだと思っていて,あくまでヨーロッパは,統合するという至上命題があって,それは本当にヨーロッパにとってのローカルな事情で,そういったその流通促進と延長の実演家の話題がセットに提案されていると。それは,僕はグローバルスタンダードとは違う理屈でヨーロッパは動いていると思っていて,そういった競争流通促進と延長,保護も含めてセットでやるということは,つまりアメとムチを両方で提案しているということだと思うのです。
ただ,今,EUの方で実演家の方が延長したから日本も延長しなければいけないのではないかというのは,どちらかというとヨーロッパのアメだけ見ていて,ムチの部分というか,そういったところを見ていないというところで,都合が良すぎる理屈になってしまうのではないかというところで,どういったことがヨーロッパで行われているのかというところも含めて説明いただいた方がいいのかなという気がします。
【朝妻一郎氏】
 もちろん,そういう付帯条件というか,ついているのは存じ上げていますけれども,ただ日本の知財が外に出ていくときに,基本的なベーシックなメジャーマーケットのルールがどうなっているのかということで,その同じルールでゲームをしていくということは,絶対必要ではないかなと。
だから,これは当たっているのかどうか分かりませんけれども,全英オープンに出て,日本は6インチリプレースのルールがあるからと,6インチボールを動かしたら,そこでやっぱり失格になるわけで,そうすると全英オープンに出よう,あるいは要するに日本の知財を海外で売っていこうというときには,マジョリティのマーケットが採用しているルールに従っていくのが,やっぱり1つの生き方ではないかなと思っています。
【中山委員】
 著作権の権利の延長とそれとさっきのリメイクのインセンティブについて,津田委員はお伺いしたと思うのですけれども,お答えを私はどうも正確に理解できなかったので。
例えば,モーツァルトの曲を,もうとっくに期限が切れた後,シルビー・バルタンや,ザ・ピーナッツが歌って大ヒットしました。これは,モーツァルトが生きていたら駄目と言ったかもしれないですね。むしろ,権利が生きてなく,権利が切れた方がやりやすいという面もあるわけで,なぜ権利が切れてしまうとリメイクがやりにくくなるのか。リメイクすれば,その歌った人や編曲者の権利は当然生じるわけですから,それなりの収入があるはずです。
【朝妻一郎氏】
 そういうふうに自然発生的に出るケースもありますけれども,それは多分出版社が関与して意識的にやったケースに比べると,100分の1とか1000分の1ぐらいの可能性ではないかと思うのです。
やっぱりそこに出版者が関与する,あるいはいろんな人が関与してこういうふうにしよう,どういうふうにしようとやる方がリメイクの可能性は全然高いわけで,もちろんそういう本当にいい曲がPDになって,いろんな形で作り変えられているというケースがあるのは十分存じ上げていますし,それはそれでもう作品の力として出ていくのはありますけれども,ただそこに出版社の力が加わることによって,もっともっと可能性が増えることは絶対否定できないと思います。
【中山委員】
 それは分かるのですけれども,権利の延長との関係を伺っているんです。
【朝妻一郎氏】
 ですから,延長することによって可能性を増やしていきたいと。
【野村主査】
 次の報告者の時間もありますので,手短にお願いします。
【椎名委員】
 朝妻さんのおっしゃっているのは,作品の保護期間が長ければ,それだけその作品の著作権使用料から得る収入がある。例えば,リメイクして発売するといったらスタジオも押さえなければならない,ミュージシャンも押さえなければならない。一定のコストがかかるわけです。そういうリメイクの商品開発にそれが投入できるという意味で,その再生産のサイクルに寄与するというふうにおっしゃったのだと思います。
もう一つ,中山先生のおっしゃった青空文庫の件を挙げておっしゃっていた点はすごく重要な論点だと思っていて,確かに使用料を得ることよりも,自分の作品が一般に広く目に触れるということを重きを置く方もいると思うのです。そこのところは,確かにそうだけれども全てのクリエーターがそうかというと,クリエーターはやはり著作権使用料,あるいは隣接権使用料で生活するわけです。その生活するための機会が広い方がいいと思うのはごく当然のことであって,それが制度として保証されることを,海外と同じような程度の保護がされることを期待するのはごく自然なことであって,もし使用料を得ることを一義に考えないのであれば,これは財産権ですから,放棄すればいいだけの話です。という考え方もあるのではないかと思いました。
【金委員】
 今の発言ですが,リメイクに関して言えば,著作権が切れた方がリメイクに必要な1つのインプットが,コストがただになるということなのです。
そうすると,出版社にとっても得になると思うのです。いろいろな投資を行うと,その中で,自分が持っていない著作物の利用において,そのコストがゼロになることは,リメイクは進むし出版社の利益にもなると思うのです。そこが多分,中山先生と先ほどのやりとりの中での1つの誤解だと思います。
【野村主査】
 それでは最後に生野委員,簡単にお願いします。
【生野委員】
 音楽出版社は権利がある楽曲を管理し,使用料収入を得て次なる投資に向けている。使用料収入が入ってこないものについて,どういうメリットがあるというお話なのですか。
【金委員】
 もともとの著作物から得られる収入ってありますよね,著作権を持っていて。例えばその著作物の著作権が切れたとして,例えばリメイクを出版社またはレコード会社がすると。リメイクをしたものに対して,著作権が発生しますよね,隣接権などが。そこから収入が得られると思うんですよ。リメイクに関して言えば。
【生野委員】
 アレンジをしてだとか,そういうことですか。
【金委員】
 そうです。新たな権利を作れますよね。その権利を作るのに係る1つの重要なインプットのコストがゼロになるということだと思うんです。著作権が切れることによって。
【野村主査】
 それでは,他にいろいろご発言があろうかと思いますけれども,朝妻様への質問はこれくらいにしまして,続きまして久保様にご発言をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【久保雅一氏】
 おはようございます。小学館の久保と申します。通常は,東京アニメセンターという秋葉原にある日本動画協会に隣接している施設のプロデューサーをやっておりまして,僕自身,アニメ作品のプロデューサーでもありますので,そういう意味では制作現場も含めた意見としてお話しさせていただきたいと思います。今までの,いろいろな質疑応答をお聞きしますと,この会のトーンがよく分かったので,なるべくお手やわらかにお願いしたいと思います。
資料3にメモを付けさせていただきました。資料3のメモに従いつつ,少し追加してお話をさせていただきたいと思います。
皆さんご存じのように,日本の,アニメ,これはなぜアニメと言っているかと言いますと,アニメーションと言うとアメリカのアニメも含めたアニメになりますが,アニメと止めて言いますと日本のアニメを指すようです。アニメは世界に誇れる日本のクールジャパンの旗頭として,現在世界80カ国ぐらいで展開しております。
1963年,今から約45年前ですが,鉄腕アトム,鉄人28号,エイトマン,狼少年ケンといったような,多分ここにいらっしゃる皆さん,一度は見たことのあるような作品が放送されてから日本のアニメは急成長しております。また,制作者の方で亡くなられた方も少なくありません。著作権と存続期間ということに関して言えば,非常に微妙な時期に差し掛かっている作品が数多くありますので,そういう意味ではこの著作権法の延長問題に関しても,もしかすると日本のアニメは旗頭になっているのかもしれないという気持ちを持っております。
ここ数年,ドラゴンボール,セーラームーン,ドラえもん,ガンダム,クレヨンしんちゃん,ポケモン,遊戯王,鋼の錬金術師,NARUTOといった数多くの人気アニメが世界にどんどん出ていっております。近年,インターネット上の海賊版によるビジネス環境の著しい悪化がございまして,売り上げ的には相当厳しくはなっておりますが,アニメビジネス全体に占める海外展開のウエイトが大きな柱であるということについては変わっていないと認識しております。
10年前の作品がいまだに大きな売り上げを上げておりまして,また今年の7月,「スピード・レーサー」という映画が,ワーナーブラザース配給で公開になりました。原作は大ヒットアニメ「マッハGoGoGo」ですが,そういうようにハリウッドでリメイクされ逆輸入されるというケースも,この後かなり数多く増えてくるのではないかと思っております。
このように,アニメコンテンツが複数年にわたってシリーズ化され,海外展開が積極的に行われてくると過去の関連作品が生き続け,大きな財産になってきます。まさしく継続は力なりという状況が出ております。
アニメ制作会社の中で公開企業の各社の売り上げを見てみますと,ライセンス収入で上げる利益が全体の60%ぐらいにも及んでいる会社が数多くございます。そして,ライセンスで売り上げた,また海外販売で得た利益を再投資する形で,現在のアニメ番組が制作されておりますので,新しいクリエーターたちの働く場の提供に関しても,過去の作品が売り上げたお金が積極的に循環しているのではないかと考えております。
また,ヒット作品の人気が高原化しますと,劇場映画化の話が持ち上がってまいります。テレビシリーズと劇場版が同時並行して制作進行しますと,スタッフの数で170名以上必要となります。ですので,クリエーターたちの働く場の提供や,育成が行われている背景には,ライセンスからの収入や,海外からの利益は必要不可欠だと思っております。
このようにコンテンツ制作の継続をし続けるためには,その若いクリエーターたちの技術伝承等を含めた,しっかりとした日本のアニメの心を受け渡していくという作業が必要になってくると思っております。特に最近の若いクリエーターたちは,コンピュータグラフィックスを使用したアニメが非常に得意になっておりまして,このような方たちは,アニメだけではなく,様々な実写の映像の制作現場でも働いているような状況もございます。
そうなると,今の若いクリエーターたちにとってコンピュータを使うというのは結構経費がかかります。サーバー1つとっても大変大きなコストがかかります。ですから,そういうハードウェアコストを含めて,彼らの働く場を提供するということは,以前に増して大きなコストがかかっていることも併せてお伝えしたいと思っております。
以上のような観点から,アニメ産業では,著作権の保護期間が欧米並みの70年に延長されることを期待している声が大きいという。何となくまだら模様な発言にしていますけれども,もちろん著作権が50年のままで,その方が使いやすいという人がいないわけではありません。ただ,海外を主にビジネスをしている制作会社等の意見をまとめますと,ほぼ100%近い人間が70年の方がいいのではないかと言っています。ですので,海外で仕事をしていくためには,やはり海外と同じ土壌で同じ条件下で闘いたいと。先ほど朝妻さんがおっしゃっていましたが,アニメ業界では間違いなくその意見の方が多数であるというふうに認識しております。
また,最近50年のままでいった場合,どうやったら著作権が存続したような形になってビジネスが継続できるのかといった応用編も検討されつつあります。ここに1つ書きましたけれども,海外で英語版が出ているコンテンツでアメリカ人の声優が声を吹き込んだ海外版の日本のアニメがいっぱいあるわけですが,日本のアニメが国内で著作権の存続期間が切れたとしても,海外のものが生きているケースが出てくるようです。
また,これは実例があるかどうか分かりませんが,戦時加算によって,さらに10年程長く著作権が延長される作品があるかもしれません。そうなってきますと,海外にあるものを一種の原盤というか,原著作と考え,それに再度日本語訳を付け,日本に逆輸入することによって,著作権として存続しているかのように見せることがあるかもしれないと思っています。そうなるとまさしく市場は混乱するわけでして,やはり海外主体で展開している私どもとしては,なるべく海外と同じ条件の方が市場の混乱が起きないのではないかと心配しているということでございます。
それと,インターネットについては,多分この後,境さんや川上さんがいろいろお話になると思いますが,今現在アニメはインターネット上の海賊版対策で非常に悩んでいます。アメリカのBitTorrentというピア・トゥ・ピアのサイトでは,1週間に日本のアニメが600万ダウンロードされているというニュースも出ておりまして,最近では,アニメだけではなく,日本の漫画に関しても,日本で雑誌が出版された1週間後には,英訳版がアメリカのOneManga というようなサイトに載っかってしまっており,海外での販売が大変苦しくなってきています。
ですので,このある種の延長問題も非常に重要だと思うのですけれども,やはりこの海賊版対策ということも含めて,高所からこの著作権法については至急に見直していただけることができたらいいと期待しております。
私自身,知財本部のコンテンツ専門調査会の委員をやらせていただいておりますが,その同じ委員でいらっしゃいます中山先生の方から積極的に改正したいというお話もいただいておりまして,そういうものについては延長問題とは別にしっかりとご協力していきたいと考えておりますし,今は日本のアニメが結構危機ですということを皆さんにぜひお伝えしたいとも考えております。
私の意見としては以上でございます。
【野村主査】
 どうもありがとうございました。
それではご発言を。どうぞ中山委員。
【中山委員】
 朝妻さんと両方とも同じ意見だったと思うのですけれども,50年,70年の国があると国際契約上混乱が生ずるという話なのですが,本当でしょうかということをお伺いしたいのです。
というのは,著作権も特許権も,知的財産権というのは各国によって違います。特許権では保護期間も違いますし,いろいろ内容も違う。著作権だって日本の人格権は世界に比べて強いわけです。しかし人格権を世界と同じ低さに下げろという意見は,権利者側から聞いたことがありません。各国いろいろな面で違うけれども,それについては全て契約でうまく処理している。
かなり前に,この委員会で参考人に来ていただいた福井健策弁護士は,こういう方面で国際的な契約を結ぶので有名な弁護士ですけれども,困った例は1件もないという証言をしておられましたし,本当に死後50年と70年,それのために混乱が生じ,あるいは日本が契約に不利になる,つまり外国より20年短いために日本のマーケットを捨てるかということはあるのでしょうか,本当のところはどうなのでしょうか。
【久保雅一氏】
 正直なところ,誰も分からないのではないでしょうかというのが僕の個人的な意見です。ですので,多分この会議でお話しされていることは,あくまでも全て想像の範疇を出ていないと思っています。現実がその想像を超えて行くということは決してないわけではないと思っています。
今からの2,30年の中で,最も大きな進歩があると想定されるのは,コンピュータのCPUの能力です。例えば,現状,計算能力に関しては多少頭打ちの感がありますけれども,例えば光コンピュータのように全く違う概念が発表されることによって,現状のコンピュータの恐らく1,000倍ぐらいの能力が出るCPUが世の中に出回るということも,この50年の中では決してないわけではありません。そうなってきますと,その画面に瞬間的に様々な情報が出てくるとか,また通信速度が上がることによって日本人の生活が一変するといったことも,あるかも知れません。
ですので,中山先生のご質問に関しては,今の段階では誰も分からないのではないでしょうかと。と同時に,想像を絶する技術革新があった場合何らかの問題が起こり得る可能性があると言うしか言えないのではないでしょうかというのが,私の個人的な意見です。
【野村主査】
 朝妻様,どうぞ。
【朝妻一郎氏】
 先ほども申し上げましたように,企業とかファンドとか,要するに経済的な理由だけで取引をする場合は,それが日本が50年だろうが70年だろうが,相手は金額さえ多いということで全然影響はありません。それは確かです。
ただ,今年からアメリカの税制が変わりまして,作詞,作曲家が自分の著作権を売ったら税のメリットが得られる,少し減税になるということで,これは時限立法なので,そんなにいつまで続くわけではないのですけれども,そういうことで税制が変わったので,ここにきて作詞,作曲家の方が自分の持っている著作権を売りたいというようなことが起こってきているのです。
そういうケースで,今作詞,作曲家の人と,じゃあうちに売ってよという話をすると,だってまだお前のところは50年だからなということを,具体的にちゃんと交渉に入ったわけではないので,実際入ったらどういう影響があるか分かりませんけれども,少なくとも半分冗談,半分シリアスに揶揄されることは現実に起こっています。
【野村主査】
 他にご発言いかがでしょうか。渋谷委員どうぞ。
【渋谷委員】
 文化の発展には,クリエーターだけが存在していたのでは足りないので,パトロンの存在が私は必要ではないかと思うのです。
源氏物語には,平安貴族がいたわけだし,鎌倉文化,安土桃山文化の背後には武家社会がいたし,江戸文化の背後には商人階級がいた。ダヴィンチの背後にはメディチ家がいたというような具合だと思うんです。
パトロンというと,そういった存在を我々はイメージするんですけれども,現代の我が国のこの社会におけるパトロンというと,アニメセンターであったり音楽出版社であったりするのだろうと私は思うんですけれども,ですからその人たちが著作権の保護が厚いというか,保護期間が長い方が経済的利益を得やすいとおっしゃっているのだったらそうだろうかなと思ってお話を伺っておりました。確かに,ただでコンテンツを利用できれば,その分コストが減って商売がやりやすいこともあるのかもしれませんけれども,そうではどうもないらしいというお話を今伺っていたわけです。
それから,現在問題になっているのは,インターネットを通じての著作物の流通ということだと思うのですけれども,インターネット産業が一体文化のパトロンとなり得るかということを考える必要があると思います。あれは情報産業なのだろうと思います。クリエーターに対して何らかの報酬を与えることによって,文化を育成するという立場にある産業ではどうもなさそうに見えます。そういうパトロンとなり得るのは,アニメセンターであり,音楽出版社であろうと思いますので,お二方の話を伺っていて,私はなるほどと思いました。
【野村主査】
 梶原委員どうぞ。
【梶原委員】
 アニメの場合,アニメ制作者にとって,通常死後50年が死後70年に保護期間が延びることによって,どういうメリットがあるのか。通常は映画の著作物であれば公表後70年で,どちらかというと原作とか使いやすく逆になるのかなと思ったりしているのですけれども,その辺が,死後50年が70年になることによってどういうメリットがあるか,ちょっと見えなかったですけれども,教えていただければと思います。
【久保雅一氏】
 具体的な名前を挙げて説明するのは非常にはばかられるんですけれども,クリエーター個人の名前がついたプロダクションがあります。皆さんご存じの会社なんですけれども,例えばこの会社はもちろん雇用されている方もいっぱいいますし,現時点でも様々な制作物を数多く出しています。ですが,もし作家が亡くなられてから50年たつと,多分この会社解散しなければいけなくなる可能性もあります。
ですから,そういうような具体的な問題としても,僕はあると。そのような会社が実はコンテンツ制作会社に非常に多いということも併せてお伝えする必要があるのではないかと思います。
それと,気になったので反対に質問もしてみたいのですけれども。資料1の保護期間延長によって創作意欲が増すような効果があるかというところの右上の四角のところに,「そもそも著作者にとって,創作のインセンティブとは,金銭ではない」とあります。どうしてこう言い切れるのでしょうか。これはちょっと,僕は絶対言い切れないと思いますけれども。どうしてこういう議事録になっているのか知りたいと思いました。
【野村主査】
 事務局から。
【著作権調査官】
 すみません,過去に出た意見をまとめただけではあるのですが,恐らくは,先ほど生野委員からご発言あったところと関連するのではないかと思っておりまして,コンテンツ事業者のインセンティブと,コンテンツ事業者の投資を受けて実際にクリエイト活動をしている人とでは,なぜ創作をするのかというところの観点が多少違うのかなということではないかとは思います。ただ,議事録をまとめただけですので推測にすぎませんけれども。
【野村主査】
 それでは,渋谷委員。
【渋谷委員】
 今のご説明ですけれども,私も金銭ではないだろうと思うのです。そういう場合もあるのだけれども,私の先ほどの発言の続きになるのですが,やはりパトロンによって温かく包まれていると。保護されている気分が,あるいは状況がクリエーターのインセンティブになっているような気がします。
私の場合ですと,何か教科書を書くわけですけれども,やはり背後に出版社がいてくれて,それを活字にして出版してくれる。僅かですけれども原稿料を支払ってもらえるという安心感が,やはり私のインセンティブのようになっています。金銭ばかりでは私はないと思います。こういう状況ではないかと思いますけれども。
【野村主査】
 それじゃ津田委員,瀬尾委員で順番にお願いします。
【津田委員】
 これは事務局にご質問なんですけれども,これは議事録をまとめただけというお話だったんですが,これは金銭ではないと言い切った人は多分誰もいなかったと思うんです。僕も似たような話はしたんですけれども,金銭だけではないという話をしただけであって,あと著作者といってもプロのクリエーターだけではなくて,じゃあ何でインターネットにあんなに日記を上げている人がいるんだ,写真を上げている人がいるんだといったときに,それは別に金銭ではないですよねという。プロの著作者とそうじゃない著作者がまとめてでも著作権法上は保護されてしまうところで,どうしましょうかという話をしているのであって,多分これは書き換えていただいた方がいいのかなと思いました。
【野村主査】
 瀬尾委員,どうぞ。
【瀬尾委員】
 この件は,私も大分発言しているのですけれども,金銭ではないというか,この1%程度であって,経済効果の話というのがずっとあった上で,その経済効果の話ではないと私も言ったことがあります。
だけれども,金銭ではないといった,いわゆる名誉とか声望とかの話ということになってしまうと,それを全くくりにすると,多分企業の方はあり得ない話になってくるでしょうし,企業が名誉,声望のために動くということは余り考えにくいし,ただ個人としては,例えば1%程度しか経済効果がないのだというふうな,1%しかないのだから経済的には全然関係ないと。しかも死んでから50年が70年になってもどれだけお前儲かるんだいという話があったときに,そのときの金銭の要するにお金の増え方,収益の問題ではないとは,私は申し上げたことはあります。
要するに,その50年が70年になって大儲けできるから,すごく70年が大事なんだよといったわけではないと。それは特に個人のクリエーターに関しては,自分が必ず死んだ後ですから。死んで50年たった後から70年の間の儲けの話ですから,これが個人にとっての,それが1%であるのかどうであるかという話ではないでしょうという。大変誤解を招きやすいこの前ぶりとあれがあるので,これは非常に簡略にまとめて下さろうとした事務局のご努力も分かるのですけれども,経緯を知っていればそう読むでしょうけれども,ちょっと誤解を招きやすいかなと私も思っております。
【野村主査】
 ちょっと話が横の方に行きましたけれども。
【久保雅一氏】
 それを聞いてほっとしました。ありがとうございます。
【野村主査】
 他の議題もまだ沢山ございますので,それでは久保様への質問はこのぐらいにしまして,続いて早稲田大学の境先生からご発表をお願いいたします。
【境真良氏】
 早稲田大学の境でございます。私は専門としては,コンテンツ産業のビジネスモデルを研究しておりまして,その中で同人やそういったどちらかと言うと非正規的な流通あるいは余り知られていないクリエイションについても見ておりますので,そういう視点から,本日は同人誌・コミケと二次創作の関係につきましてお話しさせていただければと思います。
まず,現状でございますけれども,同人誌活動というのは,ご承知のようにかなり古くからあるものでして,別に今さら何をコメントするのでもないのですが,1970年代ぐらいからコピー機ですとか,軽印刷のコストが下がってまいりますと,学生たち,大学のサークルですとか,つまり集団レベルで様々な漫画を中心にした同人誌を作るということが膨らんできまして,それを友人同士で見せても構わないのですが,もう少し大規模に集まって流通しようということで始まったのが同人誌即売会ということです。
今日テーマとして固有名詞を挙げていますコミケというのは,コミックマーケットというのが正式名称です。こちらは1975年に創設された,現状では最古参の同人誌即売会になります。
90年代に大成長いたしまして,現在では何と1回当たり50万人の参加者を擁します。毎年,年2回,ビッグサイトで実施しております。
この50万人のうち,出店数が3万5,000ブースあるんですが,1ブースにつき3人の入場者が認められておりますので,大体10万人ぐらいが売り子としての参加,残り40万が一般の買い手としての参加ということになります。恐らく日本でも,毎年実施しているイベントとしては恐らく最大級ものだというふうに言われております。
こういったコミックマーケットの中で,30年にわたって様々なクリエーターが自ら自分の本を作り,売り,そして交流しということが行われてきました。
このことについては,様々な評価があるかと思います。基本的にコンテンツがワンウエイで使われるという,著作権法ではそういうイメージで作られているような感じがいたしますが,これは一種のフィクションでございまして,もちろんそれを使って二次創作もあれば,そういった中でクリエイションを学んだ人間が,今度はまさにクリエーターとなって,商業活動の出発点であるクリエーターの立場になっていくことも多々ある話でありまして,こういったサイクルの中でコミックマーケットがどういう役割を持つかということが多分大事なんだというふうに思います。
この点については,現状いわゆる商業出版,個人的には余り好きではない表現なんですが,あえて商業出版と言わせてもらいますが,商業出版の側からも肯定的な支持をいただいていると思っていまして,例えばコミケのカタログに広告を出す出版社がおられたり,最近では企業ブースというのが中にはあって,コミケイベントとしては結構大きな収入源になっているのですが,そちらの方に積極的に出ていただいているような人もあるということで,現状においては,ある種ビジネスとこういったプロシューマーといっていいのですかね,クリエイションの間である種のいいバランス関係ができている状態にはあります。
ただ,この同人を取り巻く同人誌,あるいは同人誌「ビジネス」を取り巻く環境は変わってきておりまして,何といってもコミケは大規模化してきていることです。通常我々は壁サークルと呼んだりしますが,中に非常に多くの本をさばくサークルがあって,こういった大規模なコミケにおける販売,また「とらのあな」さんなどのような同人誌をほぼ専門に全国的に店舗を展開して売っていこうというある種インディーズ的な流通が生まれておりますので,これを組み合わせると,既にもう1万を超える数万部の販売実績がある同人誌も生まれてきております。
そういう意味では,商業出版との境目がややあいまいになっているという意見も一部ではありますし,また,もはやこれは単なるコミュニケーションの場ではなくて,市場として育ってきたという感があるというような意見もあります。
この次のページで説明しますが,2004年には商業出版の方々のご協力も得て,230人の商業出版系のコミック作家の方々にキャリアパスのアンケートを実施しましたが,その際出版者の方からは,商業出版で中堅以下の方々の作家の補完的収入源としてコミケは実は有効なんですよねという意見があったりして,ややこれまでとは違った側面も見えてきているようには思います。
恐らく,私も余りこういう調査がないので,2004年の調査を引っ張ってきたんですが,2004年3月に公表された経済産業省が行いましたコミック作家のキャリアパスに関するアンケート調査があります。先ほど申しましたが,230人の方々にアンケートをとりまして,それをこれまで行ってきた活動,そしてその中で自分がどういうプロセスの中で自分の能力が開発されたと思うかということを,複数回答で主観調査を行いました。
その結果が,一番漠としたものがここにありますが,学校での勉強,それから編集部に持ち込んで編集者に叩かれると。それから漫画のコンテスト,それからプロ漫画家のアシスタントをすると。そして,同人誌活動を,これは実際に売ってみてコミュニケーションするという5つのパターンでアンケートをとりましたところ,編集部への持ち込み,プロ漫画家のアシスタント活動にちょっと後れて,中ぐらいの有効度を持っているというのが結論でございました。
さらに,これは幾つか特徴的なことが見えてきまして,1960年生まれ以降の作家さんについて,極めて強く数字が出ています。それ以前の作家さんですと,同人の経験率も30%程度だったものが,60年代ぐらいの作家に至っては80%程度の経験率になっておりまして,その後5,60%に落ちつくのですが,高値安定という感じです。
そして,もう一つが大作家,非常に有名な作家さんというよりは,実績としては10万部程度しか売っていないんだけれどもというタイプの小規模の作家さんにとって,コミケというのは非常に意味があるというデータが出ています。これは4年ぐらい前のデータですけれども,多分現状でもさして多くは変わっていないだろうと思っています。
こういったコミックマーケットあるいは同人誌市場の実情を踏まえた上で,著作権法の保護期間を延長するとどういう効果が起きるかということについてメンションしたいと思うのですが,まず大事なことは,漫画同人誌における二次創作の対象はやはり漫画であるケースがほとんどということです。
そして,その中で同人誌間の二次創作,別の同人誌をモデルにした新しい同人誌の創作というのは,余り行われていません。そういう意味では全くの創作で行うか,あるいは商業作品,有名な作品の二次創作で行うかということが,大体2つの大きなパターンであると思います。
ご承知のように,この漫画という形式については,手塚治虫さんの新寶島を祖とするという説が非常に濃厚ではございますが,いずれにせよそのぐらい以降の話でございますので,例えば100年前,300年前の作品を元ネタにするということは,漫画の二次創作である以上考えにくいことです。
ただ,一般的に新しいキャラクター,作品を使った二次創作が多いんですが,ここにある,これは巨人の星の一部とデビルマンの一部を組み合わせた二次創作であるとか,デビルマンを全くそのまま使った右下のコマは,言葉を見ていただければ全くのパロディだと分かると思うんですが,あるように,このぐらいの古さのものであれば,十分にパロディの元ネタとしては機能しているということで,今,例えばこの数年以内に発表された二次作品だけではなくて,それ以前のものも十分に元ネタになっているということが言えると思います。
そういう点から考えますと,まず現状,著作権法の保護期間が切れていないものを元ネタにしてコミックマーケットでは二次創作が行われていますので,今仮に10年,20年延びたとしても,この全部グレーという現状が白になるかというと変わらないと。つまり今と現状は変わらない。ただし,もし延長しなければ全く自由に使えたであろう元ネタが,延長されてしまえば,その20年後,30年後,保護が効いているということですので,ある種,観念的には使いにくくなるわけですから,その分の影響はあるのではないかと思います。
ただ,1つ私の方から幾つか考慮すべき事項として,この直線的な議論ではない,幾つかのポイントについてお話をしたいと思っております。
1つは,著作権法上,二次使用における,二次使用というのは許諾事項でありますので,じゃあ同人誌側が作家あるいはプロダクションに対して,許諾をとればいいじゃないかという1つの話があると思います。これについて,私なりにメンションさせていただきたいと思うのですが,個人的には,これはほとんど不可能だと思っております。というのは,まず二次創作をする作家さんたちは,自分たちがその元ネタの作家に対して,ある種のリスペクトを持っているあるいは,そのお流れを使わせてもらう立場にあることを非常に強く自覚しておりまして,ある意味では遠くにある星を見ながら星を語るようなコミュニケーションというものが二次創作の基本になりますので,星のように見えるきら星のような輝く人に対して,すみません,使っていいですかということを言いに行くのは,なかなか敷居が高いのではないかと思っておりまして,許諾をとればいいでしょうというのはなかなか難しいかなと。
後でも触れますが,永井豪さんなんか,あのぐらいの作家さんというのは,結構お互いにパロディのし合いをしているのですが,ちょっとここでは言いにくいような「けっこう仮面」みたいなものもありますけれども,プロダクションさんにお聞きしますと,実際に許諾をとってはいないと。これはあうんの呼吸で作家間でやっている,あるいは編集者の方が間に入ってこっそりいいですかと聞いている世界なので,クリエーター自身がここでオーケーを取り合うというのは,なかなか実際問題としては想定しにくいだろうなと思っています。
そういう中で,コミケの準備会,コミケの実施者は非常に小さな有限会社が母体になっておりまして,有限会社とボランティアさんの組み合わせなのですが,こちらの方々のスタンスを紹介すれば,著作権はやはり尊重したいのだと。したがって,作家さんがノーだと言えばそれはノーだと。それは当然なのだということは言ってらっしゃいます。
ただ,実際に先年亡くなったこのコミケの創始者とも言える米沢代表が生前におっしゃっていたことですが,「キングダムハーツ」という作品がございます。これはゲームですが,スクエアさん,現スクエアエニックスさんの「ファイナルファンタジー」などのゲームとブエナ・ビスタさん,ディズニーさんのキャラクターを組み合わせて作った新しいコンテンツですが,これが出た途端,ブエナ・ビスタさんつまりディズニーさんは著作管理に厳しいぞという意見が流れて,スクエニさんのこのゲーム「ファイナルファンタジー」のキャラクターを使った同人誌が激減したと。つまり,それはイコール「キングダムハーツ」のキャラクターでもあるので,「キングダムハーツ」の保護の内側で何かが言われるかもしれないと思って,そもそも同人作家がそれを利用するのをやめてしまったことがあって,こういう萎縮効果については,非常に強く懸念する部分があります。
そういう中で,商業出版者の方々からも非常に温かい声が寄せられておりまして,講談社の少年マガジン編集部さんは,その(コミケの)中で配られる冊子の中にある種の宣言を出しています。これは2001年か2年だと思いますが,ちょっとこれ「?」と入っていますけれども,ざくっと言うと講談社の少年マガジンに掲載された漫画というのは著作物であって,別にフリーじゃないと。勝手に使っていいものではないと言いながら,このコミケ,同人誌のコミュニティというのが作家さんの育成の場として意味があることは理解しているので,余り大きな規模でなければ不問に付しますと。つまり規模,対象について商業出版間での関係,あるいは峻別して取り扱いますと。
それから,もう一つは,同一性の保持についても,パロディというのは(確立した行為として)ある話なので,著しく心情を侵害したりするものについては別ですが,通常の世界であればまあいいでしょうということで,(著作権法と比べて)その水準を引き下げますというふうに彼らは考えていて,それを超えなければ,権利は保持しますが,権利を発動しませんという宣言をされています。
こういった方法というのは,結構僕はあるのではないかと思っていまして,法令上は基本的には権利法の秩序があっても,その上に契約法とか事業法の秩序もありますし,あるいはその上に慣習とか個別契約の秩序もあるわけで,どのレイヤーでその社会的に認められるようなルールを作るかというのは,決して別に権利法の部分だけで考えていいものではないと思います。 そういう意味では,ワンダーフェスティバルというのは別のところでやっているような,その場でそのイベントの内部で売るのであったら構わないというタイプのライセンス契約ですとか,様々なものでこういったものをケアする方法はあると思っておりまして,今延ばすことについてイエスかノーかということよりも,それがもたらす効果をどういうふうに考えて,その萎縮効果,マイナス効果をどうやって止めるのかということを,まず延ばすのであれば延ばす大前提として考えていただきたいというのが私の主張及び発表であります。
ちょっと長くなりましたが,以上になります。
【野村主査】
 どうもありがとうございました。
それでは,ただ今のご発表についてご発言ございましたら。里中委員どうぞ。
【里中委員】
 コミケに関しては,詳しい方も余り詳しくない方もいらっしゃるので,もしかしてその誤解を生むといけないかなと思って,ちょっと質問がてら発言したいと思うんですけれども,今ここで言われて問われているのが,二次創作がどれだけクリエーターたちを育て,ひいては経済効果を上げるのだろうかということに関していろいろと報告いただいていると思うのです。
ところが,コミケと一口にいいましても,あの中で同人誌を発行しているグループを非常にざっくり大きく分けますとオリジナリティのある作品で勝負をしているクリエーターたちのグループと,パロディで勝負をしているグループがあるわけです。その中から,プロの商業誌で通用する漫画家になりたいという修行の場として頑張っている子たちは,圧倒的にオリジナリティのある作品を描いているグループが多いわけです。
出版者がコミケに対してある種容認する方向になったのも,その中での一種の青田買いといいますか,同人誌の中でのオリジナリティのある作品を描いている子たちに声をかけて励まして,あるいは契約にまで至るとか,そういう積極的な新人発掘の場として,その部分だけは考え方を切り替えたというところはあると思うんです。
そのコミケで同人誌を発行している全てのクリエーターたちが,クリエーターとしての将来をどう考えているかというと,これは様々ですので,中にはパロディを楽しむ,自分が楽しんで描いたものを同じキャラクターのファンの人たちとその感性を分かち合いたいという喜びだけで参加している人もいるんです。
だから,これは二次創作といいましても,将来の経済効果を考えますと,計算の中に入れるのもいかがなものかなと思う部分があるんです。だから,余りにも今,コミケの規模が大きすぎて,あれが全て将来の経済効果と二次創作がクリエーターたちの成長に役立っているのだという誤解を生んでいるのではないかと危惧しております。二次創作といいましても,元ネタがあって,それに刺激されて新しく自分なりにリメイクするというのとは別のものがこのコミケの会場の中にはあります。自分が好きなキャラクター,それに対する思い入れが強いから,その好きなキャラクターに自分が元のオリジナルなものよりもこっちのお洋服を着せた方が素敵だと思うからそれを書きたいとか,そのレベルのものまで含めますと,果たして創作と言っていいのかどうかというのもあります。
ですから,非常に分け方が難しいのですけれども,作者たちも二次利用許諾をするかしないか,もう本当にこれは個人個人の問題ですし,そういうささやかな楽しみのためにみんなが楽しんで自分たちのお小遣いをはたいてプリント代にして,ブースを借りて数人で売ってお客さんも数人しかいないみたいなところまで含めますと,作者たちの感想も様々なので,全部一緒くたに考えると難しいかなと思いました。
すみません,質問というよりも感じたことを説明がてら申し上げたようになってしまいますが。
【境真良氏】
 以前,あるシンポジウムを開いたときにも,商業出版でも書いてらっしゃいますし,コミケでも出てらっしゃるという作家さんの方から,パロディで本当の漫画は育たないのだという魂の叫びというのがありまして,それは私たちもよく分かっておりますし,先ほどのアンケート230人のうち60%をとってみても百数十人ですから,それが3万5,000のブースの中でどれほどの数字かというのは,率的には非常に分かっている部分があります。
ただ,難しいことは,先生もおっしゃるとおり,その中でオリジナリティのあるものを峻別する,しかも事前に峻別する。それを特にイエスかノーかを許諾で出すというのが,極めて手間的に難しい部分もありまして,そういう意味では恐らく講談社さんのような見方と言えば,規模というのである程度は目をつぶるという1つの考え方をとっているのだと思います。
そういう意味では,個人的に一番危惧しておりますのは,「とらのあな」さんのようなビジネスですとか,あるいはコミケ市場の肥大化によって,コミケでのビジネスが作家さんから見てにこやかに笑っていられるようなものではないくらいに成長してしまったものをどうするかというのが多分一番大きな問題だと,個人的には感じております。
【野村主査】
 ほかにご発言いかがでしょうか。生野委員どうぞ。
【生野委員】
 境先生のご説明で,コミケに関しては新しい作品を基本としているということですが,今後,保護期間の延長がなされた場合は,古い作品が使えなくなる可能性もあるということに関して,保護期間の延長によるマイナスの効果が大きいのか小さいのか,いずれとお考えでしょうか。なかなかこれは数値で出しにくいでしょうけれども。そもそも作品自体が大昔のもので,オリジナルが分からないようなものというのは面白くも何ともないわけです。今ユーザーが知っているというか,ポピュラーになっているものをネタとして取り上げて作る,そこに面白みがあると思うので,私は保護期間の延長によるマイナスの部分は,ことコミケに関しては余り感じられないのですけれども,いかがでしょう。
【境真良氏】
 数字ですごく難しいので,例を挙げてお話をすると,さっきも例に出しましたが,手塚治虫さんのアトムの顔の中に最新のキャラクターを入れたとします。そうすると,アトムの著作権が切れていれば,そっちについては気にする必要がない。ただ,顔については最新のものを気にする必要があると。延びてしまえば両方に対して気を使う必要があるというだけの話でして,そういう意味では,例えばアトムじゃなければもう少し別のやつに,もっと古いやつにするかとか,いろいろ手はあると思うのですが,基本的にはそのようなことで,どのぐらい古いものをフォーマットにして使うと思うかというところによると思うのです。そういう意味では,数値化が非常に難しいと思っていて,観念的にやりにくくなっているはずだとしか言えないというのは,そのとおりです。
うまく数値で言えないのですが,ここら辺は実際に調査をしようと思いますと,全ての同人誌を買い込んで調査しますと,多分恐らく確認しているうちに1年,2年は過ぎてしまうぐらいのあれなので,今数値ではここは申し上げられません。
【生野委員】
 星一徹の絵柄を見て,人格権の話なのか,翻案権,いわゆる財産権の話なのか,両方あるのかとも思ったのですが,人格権であれば,消滅しないということで,また違う話になります,かなり人格権に関わることではないでしょうか。財産権というよりも。
【境真良氏】
 そうだと思います。漫画のパロディや二次創作に関する限り,どちらかというと財産権よりも人格権の方が重たいと,個人的には考えております。
【瀬尾委員】
 コミケのお話なのですけれども,私の見てきたコミケというのは,逆にそこでパロディを作っている,ここで先ほど里中さんがおっしゃったようにオリジナルを作っている方たちとパロディを作っている方とは分けてお話をさせていただきたいと思います。
私が今回考えるのは,パロディを作っている方たちというのは,実は漫画に対してコアなファンであるという,リスペクトというお話も出ましたけれども,その漫画を愛する余り自分なりにいろいろなことをやって仲間内でいろいろ変えてみて喜んでいると。それが非常にコアなファン層を形成しているし,商業的にも例えばいろいろなチャンスを作家なり出版者さんなりにも与えている。いわゆる相互関係がある中で,一応お目こぼしを黙認している状況の中でコミケは成り立っているというふうに,私は一応考えていると。だから,人格権と財産権,もうそんなこと言い出したら,端からだーっとブース片付けていかなければいけないとか,そういう話になってしまうのではないかと思うのです。
だけれども,それは著作者も出版者,それとかいわゆる会社も,それから楽しんでいる方も,みんなその中でパロディというものを楽しんでいたり,喜んでいるマーケットなのではないかと。これは極めてグレーと言えば法的にはかなり黒いグレー,しかも重いグレーだと思うのですけれども,ただそれが成り立っているという非常にまれな場所であると,私は思っているのです。著作者も含めて,いろいろな相互関係の中で,そういう法律より優先するものでみんながコンセンサスをとっている場だと。なので,例えば今のような保護期間が延びたらどうか,短かったらどうかという議論にも関係がないと。もともとグレーですから,やってしまっているわけですから,どっちでもグレーはグレー。しかも,そういうコンセンサスがとれる場というのは,非常に現在ではまれであるというふうに私はとらえています。
ですから,非常に希有な例として法律以外でも当事者のコンセンサスもしくは契約とまでいかない口の黙許にするぐらいの中で成り立っているマーケットだと思いますので,人格権,財産権が余り言われない。ただ,中で度が過ぎると,ちょっとお前これはやりすぎじゃないと言われると引っ込めるというふうなことがあるので,私の認識で言うと,今回余り著作権法とか,法体系の問題にする例示としては,ただの例外としてこういうこともあるのだというぐらいにとらえているのですけれども,そういうとらえ方でいかがでしょうか。
【境真良氏】
 例外としてとらえていただけるのであれば,それはある種のソリューションであって,問題ないとは思うのですが,ご承知のように90年後半にポケモン同人誌事件という事件があって,実際にパロディ同人誌を使った作家が警察に挙げられたという事態が1度起きました。そのころから,これまではある種暗黙のうちにあうんの呼吸でやっていたはずだと思ったものに司法の手が入ったというか,警察が入ったものですから,それ以降,同人誌周辺を中心にして,著作権法上どういうふうに考えるべきかということを詰めて考えざるを得なくなってしまったということがあります。
もちろん,最近では出版者の方々もそこを慮って,なるべく緩やかな形で解決をするように配慮していただいていますので,今さらこのことを蒸し返すつもりはないのですけれども,ただある種,私はもともと役人でもあったことも含めて,制度的にソリューションも議論もできるのであれば,そこはグレーだけれども,そういう場所なのだということをどうやってある種明示するかと。明示すると,したらしたで問題が起きるので難しいのですが,そういう距離感をうまくとった解決をどう出すかというのが大事かなというふうに思っています。
【瀬尾委員】
 非常によく分かるのですけれども,これを次ドワンゴさんがいらっしゃるのでまたいろいろあるのですけれども,表にきちんと出して法的に裏付けをしたいと。きちんとこれを法律によって裏付けをして明示をしてソリューションにして認めたいとすると大変なことになると思います。
ただ,当事者たち,要するに当事者が訴えなければ,その場でどういうことでもないので,例えばポケモンというのは会社が完全に介在していますよね,ソフトウエアですから。そういうものはそういうこともあるでしょうけれども,これを法律的に論じて明示することを希望されるとすると,ちょっと今回とは話が全然違うし,ただこれを法律上のこととして出していくのに,今幸せな世界に不粋なことはというような何か感じがしてしまうんですけれども。
【境真良氏】
 そうです。ですからここに示したように,別にルールということは権利法で規定しようが,その上の法律で規定しようが,あるいは当事者が自ら宣言して,僕たちはそれを大事に思うという宣言であるとか,様々な方法があるので,それが担保されればいいのであって,決してそれを著作権法の例外規定とかに求める趣旨ではないことはおっしゃるとおりです。 それは多分えらい話になるというか,多分それは逆に混沌のたとえではないですけれども,混沌に穴をうがって殺してしまう話になりかねないので,そこは十分に自制的に対処すればというふうに思っています。
【野村主査】
 どうもありがとうございました。
それでは,時間もございますので,境様への質問はこのくらいにしまして,続いて株式会社ドワンゴの川上様よりご発表をお願いいたします。
【川上量生氏】
 株式会社ドワンゴの川上です。すみません,今日はこういう発言の機会を,コミケよりも問題なサイトを運営している私に与えていただいてありがとうございます。
今回のお話は,著作権法期間の延長ということですが,一応最初にしますと,ネットの世界の立場の方で,この問題がどういうふうに見られているかといいますと,簡単に言うとどうでもいいと思われています。50年でも70年でも,別に200年でも300年でも,ぜひ孫子の代までそういう権利で,実際に行使できる権利があるのであれば伝えていただいても全然構いませんし,多分重要な問題ではないというのがネット全体の雰囲気ではないかと思います。
それよりも,ネットの世界において,今著作権で何が問題になっているのかというと,そもそも伝えるべき権利とは何なのか。財産権ということであれば,財産権も人格権もそうなんですけれども,ネットの世界では根本的に蹂躙されている状態でして,最近任天堂さんがマジコンというゲーム機のソフトをコピーするプラットホーム,コピーするものではないですけれども,コピーする環境を提供するハードウエアというのが,任天堂さんが訴えられましたけれども,パソコン自体巨大なマジコンみたいなものですから,その他のことにもワープロとかそういうのも使えるのですけれども,基本的にはそういう違法コピーができるという仕組み自体を内蔵している装置が世の中に売られて流通していて,もはやどうしようもない状況にあるというのが,今のこのネットの世界の現実でして,そこの状況では結局違法コピーの問題がある以上,コンテンツ著作権では儲けることができない状況に今なっています。
その問題をどうにかしないことには,それが保護期間が50年だろうが70年だろうが,根本的には全然重要な問題ではないというふうに思っています。というよりも,関係ないということで,お話は終わってしまうのかもしれないのですけれども,一応ついでに好き勝手なことも言ってもいいとお伺いしましたので,今日は好き勝手なことを言いにきました。改めて発言の機会を与えていただいてありがとうございます。
先ほどお話ありましたけれども,二次創作の話がありましたけれども,ネット上の二次創作というのは,僕は認められるべきだと思います。それは,コンテンツ著作権を産業として残すためには重要だというふうに,私は持論で思っているわけですけれども,その前提として,現状の認識について先にご説明したいと思います。
今,ネットの世界で何が起こっているか。ネットというか,ネット時代に何が起こっているかということなんですけれども,コンテンツ産業自体の歴史というのも,そんなに長い歴史ではないと思うんです。せいぜい1世紀か2世紀に満たない歴史だと思うんですが,その中でこれまでのコンテンツは,フォーマットが交代してきただけなんです。一番最近の例ですとアナログレコードからCDに移ったときに,今日はアナログレコードを聞きたい気分だなとかいう感じで,同じ曲をアナログレコードとCDで聞くようなことは,多分今までなかったと思うのですが,基本的にはフォーマットは今まで移り変わってきたわけです。ゲーム機の世界でもファミコンからプレイステーションとかに,少なくとも同じソフトを両方の機械で実行するというようなことはなかった。
ところが,今の時代はアップルのiTunesが一番分かりやすい例だと思うのですけれども,同じ著作物をいろいろな形態で利用するのが現在の流れです。CDデッキで聞いたり,iPodで聞いたり,携帯で聞いたり,PCで聞いたり,そのときにユーザーが分かれているのではなくて,同じユーザーが別々の方法でコンテンツを楽しんでいるというのが今の状況ですし,多分今後の流れでもあります。
そのときに,そのネット自体が今違法コピーの温床となっていますので,今の中学生,高校生とかにヒアリングするとすごくよく分かるのですけれども,コンテンツにお金を払う気なんかないです。全くもってないです。払うという習慣がないし,払うということに対して,何かそれが良いことだとも別に思っていない。まだ,それが社会的に影響力のない10代の人たちだけである場合というのは,そんなに問題は顕在化していないのですけれども,既にいろいろな問題は出ていますけれども,それがどんどん年をとっていくのがこれから起こることです。
そして,ネットを通じて個人の作品というのが,商業作品なんかと比較しても十分なクオリティかどうかは分かりませんが,少なくても若年層はそれで十分だと思っている人たちというのが増えている。そして,僕は根本的な問題だと思っているのですけれども,お金を払っているユーザーが馬鹿にされている構造というのがある。本来,違法コピーをなくしたいのであればパソコンとか潰すべきだと思うのです。
それを完全に潰せない状態でDRMというすごく半端なものを用いて,権利的な市場というのも何を守っていいのか分からない状態で,今,権利主張を権利者がやっていることによって何が起こっているかというと,結局著作物のファンであるユーザー,ファンであるから基本的には著作権者に対して,例えばお金でも払ってもいいと本来思っているはずの一番濃いユーザーがコピーを使っている状況にあるわけです。なぜかというと,DRMが付いているとコピーできないし,いちいちお金を払わなければいけないし,不便なのです。お金を払って不便を買っているのです。なので,本当のファンだったら一生懸命探して,ネットで,違法サイトはどんどん潰されますので,友達から情報交換したり,自分で探したりして,頑張って自分の好きなアーティストの作品とかを手に入れているというのが今の中高生です。
そういうちゃんとしたファンがコピーデータを使うというのが今の時代。これが10年前,20年前はそうではなくて,やっぱりファンというのは,ちゃんとCDを買って,そのパッケージCDを自分の本棚か何かに並べるというところにやっぱり満足感を得ていたと思うのですけれども,今の10代の子というのはそうではなくて,一生懸命便利なコピーフリーのデータを探してくるということに命を燃やすという構造があるのです。この構造が変わらない限り,そのコンテンツに対してお金を払うユーザー層は育っていかないし,そしてそこの分配の話をやってもどんどん全体的にしぼんでいくだけだというのが現状認識だと思います。
それというのはどういうふうにしたら解消されるのかということで,よくインターネットで広告モデルみたいなことは言われていますし,グーグルさんとか非常に大成功していますので一般的にはそこにバラ色の未来があるような気がするんですけれども,これは僕は大きな間違いだと思っています。というのは,広告収入というのは基本的に今,ページビュー当たりに換算,全てのコンテンツが,音楽であろうが映像だろうが,違法サイトといいますか,いろいろな危ない情報が書いてあるサイト,ただ下らないことが書いてあるサイト,全てページビューという単位に置き換えられて,そこが広告収入になるというモデルです。だから,そのいいコンテンツ,すばらしい映画,すばらしい音楽というものは,例えば秋葉原通り魔事件のまとめサイトとかと競争しなければいけないわけです。結構,これは大変。相当いいコンテンツじゃないと,あれぐらい社会的に注目を集めるようなものには競争できません。
それと,まだこれは人間が作っているものだからいいのですけれども,実際には今ネットに氾濫しているのは,ロボットが作ったコンテンツというのがネット上にはすごくあふれていて,例えば迷惑メールなんかというものも,今携帯とかでは,人間が出すメールよりもロボットが送るメールの方が20倍ぐらいあるのです。だから,既にネットには機械が作ったコンテンツの方が,ページビュー換算で言うと多いのです。
そうすると,ネット上で広告収入でビジネスをすることは,そういう機械と勝負する。単なるよくないゴシップニュースと勝負するというところにコンテンツ商売をおとしめることであって,これは焼き畑みたいなものですよね。グーグルという焼き畑農業をやっている巨大な国際企業があって,それが原生林とか熱帯雨林とか燃やしている分にはまだ良いのかもしれないけれども,コンテンツという果樹園や野菜畑も一緒に燃やしてどちらも灰になるみたいな。灰としては同じみたいな。多分そういった構図になるのです。なので,やっぱりそのコンテンツそのものに対して,お金を払う仕組みというのをどうにかしてネット上で構築しないと,コンテンツ産業はいずれ死ぬと思います。
それで,ネット以外の部分というのも,当然ユーザーが同じですから,ネットの比重が増えるにつれてどんどん規模は縮小していきますし,今,現実に起こっていることだと思います。
それが,その構図を変えるためには,1つ提案したいと思っているのは,今著作権,コピーライツとか言っていますけれども,そのコピーに対してお金を払うという考え方自体がやっぱりそもそも間違っていると思うのです。
先ほど言いましたように,今,1人のユーザーがいろいろなメディア,いろいろなフォーマットでコンテンツを消費しているわけです。そのときに,違うマーケットであれば,別にそれは違う人がやっているのであれば別々にお金をとるというのは成立するのですけれども,実際には同じ人がいろいろなメディアから,いろいろな媒体からサービスを享受しているときに,コピーに対して課金をする考え方であると,同じ人が何度も何度も払うのです。そうすると,何度も何度も払わなくて済むように,忠実な最も作品のことを愛しているファンは違法コピーを使うという現象が起こっていて,そうではなくて,サーバー上の権利に対して課金するような仕組みというものを作るということが,僕はユーザーが自分が買ったのだと思うような構造をもう一度取り戻す,すごく重要なことだと思っています。
例えば,これは例ですけれどもイメージで,例えば音楽の場合とかで見ると,例えばCDを買うとそこの中にシリアルIDが入ってあって,それが登録されると著作権管理サーバーに行く。PCで買っても行く。携帯で買っても行く。どこで買っても同じ曲が買えて,そしてどこの媒体でも同じ曲が利用できるという世界がもし実現できれば,そうするとユーザーは,今度はいちいち違法コピーするのが面倒くさくなるのです。そのコピーする作業が今度は労働になるのです。そうすると,ユーザーはちゃんとしたユーザー,ロイヤルティの高いユーザーは,もう一回お金を払うようなモデルに戻ってくると思います。
こういうふうな著作権は,一元管理というのと,それがいろいろなところで利用できるようにする構造を作るのというのが非常に重要です。このサーバー上のデータというのはコピーできないからです。実際に,例えばコピー天国中国とかで唯一成立しているコンテンツビジネスがあって,それは実はゲームなのです。ゲームでも,ネットワークゲームだけです。つまり,サーバー上に自分のID,パスワードが登録されていて,そしてそこにログインするためには,IDとパスワードはコピーできないので,そうするとそれに対しては中国人ですらお金を払う。別に人種差別発言をしているわけではなくて,要するにコンテンツに対してはメディア代しか支払わないという中国の消費者ですらお金をちゃんと払うのです。それはコピーできないから。つまり,著作物をデータではなくて,コピーできない構造にして販売するというのがネット時代にはすごく重要なのです。なので,そういうような構造を作るのがすごく重要だと。
それで,ここら辺ぐらいまでは,何となく正論を言っているような気がするのですけれども,何となくうちの方で,この延長線上で,多分ここはもう少し理解が必要なところだと思うのですけれども,二次創作というのは実は非常に重要だと思っています。
というのは,先ほどから申し上げていますように,データそのものはパソコン,インターネットという巨大なマジコン装置がある限り,幾らでもコピーできるのです。そうすると,著作物というのがデータではない形でユーザーに提供するのがすごく重要で,1つは例えばサーバー上でデータを管理するということだと思うのですけれども,もう一つのポイントというのはそれをユーザーと楽しむ環境も含めて提供してしまえばいいのです。そうしたら,楽しむ環境,体験自体というのはコピーできないですから,そうすると,二次創作とかそういうものを認めることによって,今までコンテンツの利用方法でPCだったり携帯だったりCDとか,上位のそういう媒体だけで,先ほどのページの図をご説明していましたけれども,実際にはネットの中でもいろいろなところで利用するわけです。
例えば,ニコニコ動画みたいな動画共有サイトで利用するかもしれないし,もしくは何かのオンラインゲームをプレーしているときのBGMで使われているかもしれないですし,そのネットの世界というのは,ネットの世界自体だけで音楽を聞く装置ではなくて,みんないろいろなことをしながら,例えばいろいろなコンテンツとかというのを共有する世界です。ですから,例えば単純なCDプレーヤーだとかブルーレイディスクというのは,利用方法が基本的には1種類しかないわけです。ところが,PCの場合というのは,アプリケーションによって利用法自体というのが,いろいろな利用法が考えられるのです。そうすると,そういういろいろな利用法を許容するような著作権の管理のシステムがあれば,実際に先ほど言ったいろいろなところで利用できる権利を自分は1個持っているのだという環境というのが作れるわけです。
ですので,先ほどのフォーマットのバリエーションの1つとして,二次創作自身というのも積極的に認めていくというのが,コピーできないコンテンツということを作っていくような世界につながっていくというのが,僕が主張したいことです。
ちなみに,たまたまなんですが,一昨日ニコニコ動画でニコ直しアンケートというMADについてのアンケートを行いました。これは,おとといの9:30から大体1分間ぐらいの間に行ったアンケートですけれども,大体1分間で9万1,000人の人が回答していただきました。これは,任意にやっているわけではなくて,ニコニコ動画をたまたまその時9:30に見ていた人に動画を見るのを突然止めて,アンケートを突然無理やり見せています。ですから,そういう意味では,アンケートに答えたい人だけが答えているわけではなくて,強制的に答えていますので,しかも当然二重投票とかはできませんので,かなりリアルなネットユーザーの意見だというふうに思います。
これですと,MADと言われるパロディのものに関しては,相当なユーザーの方が肯定しています。そして,しかもQ3でほとんど宣伝になると。ユーザーは悪いと全く思っていません。それが正しいかどうかは別にして,ユーザーはそういうパロディ自身を楽しむことに対して,それがオリジナルの著作権者に対して悪いことをしているという感覚をまず持っていません。それが正しくないという人はもちろんいるのでしょうけれども,ユーザーの感覚として持っていない。
面白いのが,皆さん年齢が低い人の方がモラルがないと思われている人がいるかもしれないですけれども,逆なのです。やっぱり大人の方がどんどんすれていって悪い人間になっていくので,子どもの方がやっぱり純粋なんです。例えば,MADを作るときに事前許可をして,後で駄目と言われたら下げなければいけないけれども,事前許可は得る必要はないのではないかみたいな感じの質問をしたところ,事前許可するのが当たり前だろうというのは,実は年代別に分けると10代が一番高かったのです。だんだん,そんなの勝手にやっていいだろうみたいな人が増えていくという構図になっていて,その今,違法コピーの担い手になっているような10代というのは,実はそんな正義感だったりモラルとかというのは決して低くないのです。その人たちがお金を払っていないのですけれども。
先ほども言いましたように,やっぱりちゃんとしたファン,自分は正しいということ,悪いことをしていないと思っている人たちが一生懸命,好きだからという理由で自分のファン心理を証明するために違法コピーを探してきて,友達に配りまくって,みんなで宣伝して広めようと思っているというのが現状なんです。だから,やっぱりそれはお金を払うための環境作りがちゃんとできていないというのが今のネットの一番の最大の問題点ですので,そういう環境作りをするために,コピーライツではなくて,逆に言うとコピーライツそのものです。コピーできる権利そのものをサーバー上に置いて,それをいろんなサービスに対して認めていくような,そういった著作権管理の仕組みというものが整備されないと,ネット時代コンテンツのマーケットはどんどん縮小していくというのが,今日,勝手にしゃべらせていただきたかったことでございます。
以上でございます。
【野村主査】
 どうもありがとうございました。
それでは,ご発言ございましたら。久保田委員どうぞ。
【久保田委員】
 川上さんの意見は,うちの協会がずっと言い続けることでありまして,コンピュータは複製マシンそのものなのです。
また,50年,70年の問題について,ほとんど言及されませんでしたけれども,実際我々の実質的活動も50年が70年になろうと変わらないと思っています。それは,彼が言ったように,大量で常態化した違法な実態との闘いなわけです。
ところで,理屈の中でちょっとおかしいなと思ったことがあります。それは,著作者を守り創作を促すという制度的な保障という意味では,現在の著作権制度というものがあれば,権利保護のために技術を開発していけばいいということは真っ当な意見でありまして,それについては全く抗うところはありません。しかし,今,その知恵や適切な技術がないからどういうことをしたらいいのかということであります。更に技術の進歩は,彼が今イメージ,提言している技術でさえあっという間に破られるのです。
また,技術の発達というのは,コンテンツ側だけでなくプラットホーム側の方も,先ほどマジコンの話も出ましたけれども,常にそれを解除するような機械やソフトウェアが出てくると。これは違法電波の発信や違法な手段で有料コンテンツを視聴する問題など,全てこれは同じ問題なのです。
今日のお話は非常に共感しました。私もここで保護期間が50年,70年の話をしていて,もどかしく思っていることを代弁していただいたわけではありますが,著作者の権利を守り創作を促す法的環境づくりや権利の確立や適正な著作物の流通を促進するという著作権法の制度的な保障という観点から考えれば今の法律の下で,保護技術の在り方や使用方法等を考え,多少の法律の改正というのは必要なのかもしれませんけれども,それをもってすれば十分に足りるというふうにもとれたんですけれども,川上さん,間違っていないでしょうか。
【川上量生氏】
 今の著作権法上大きく変える必要がそれほどあるとは,実はそんなに思っていませんで,問題があるとすれば,やっぱり日本の場合,強すぎる著作者人格権の問題だと思うんです。その人格権をどんどん行使をするかどうか,許諾するかの判断する機会がネット時代でどんどん増えているにもかかわらず,それを判断する人は非常に今アナログな世界で生きているわけで,現実に機能していないのです。機能していないものに対して,何らかのもっと利用しやすい環境という,人格権の行使の制限をする必要は僕は絶対にあると思います。
【野村主査】
 ほかに。久保田委員どうぞ。
【久保田委員】
 人格権を議論するところではないのですけれども,ネットビジネスにおいて人格権を行使されてストップしてしまったとか,もしくはそれによって,二次創作と言えるかどうかは別にして,ユーザーの創作行為が進まない,更に人格権侵害だということで訴えられてネット上での情報流通に支障を来したというようなことを,実態として掴んでいるのですか。
【川上量生氏】
 一番大きいところというのは,例えば真っ当にビジネスをしようとしているところ,本当に普通の会社とかというのは,全然やっちゃえと言ってやっちゃうところが多いと思うのですけれども,我々もすごい違法サイトを運営していると思われていますが,一応東証1部の上場企業ですので,それなりにいろいろなリスクであったり,そういったものというのは,常に検討しながらやっていますし,そのことによってサービス自体も制限を受けて行っています。ですので,実際にそれをきちんとビジネスにしていかないと,マーケットは大きくならないものですけれども,きちんとビジネスにしていこうという人たちが現れにくくなるというのがあると思います。
【野村主査】
 それでは,もしよろしければ次の議題もございますので,この程度にさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
それでは,次に保護期間の在り方に関連しまして,著作権に関する国民意識について調査されているものがございますので,本日はその内容についてご紹介をいただきたいと思います。
東京大学法学部の太田勝造教授にお越しいただいておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。
【太田勝造氏】
 ご紹介いただきました太田でございます。今日はどうもお招きいただいてありがとうございます。法科大学院でいろいろなものを教えているのですけれども,法科大学院を彷彿とさせるような刺激的でタイムリーな議論を聞いて,しかも最後には川上さんから実益がないという,これまた法科大学院の議論をほうふつさせるような結論が出ておりまして,非常に感銘を受けております。
私は,おととし法科大学院の法社会学の授業の一環といたしまして,社会調査をやりまして,学生たち,今もうほとんどが弁護士になっているか研修所にいるんですけれども,彼らに自由にテーマを選んで,社会調査のリサーチデザインと質問票,それから実際の調査,それからその分析をやらせまして,その1つが著作権に関する意識調査でございまして,これはここに書いてございます,「チャレンジする東大法科大学院生」という若干くさい名前の,副題の方が本題なんですけれども「社会科学としての家族法・知的財産法の探究」という商事法務から出した本の中に入れてございます。先ほど申し上げたように,この授業では学生たちにグループを作ってもらって,自由にテーマを選んで,方法論としては社会調査によって法の修正であるとか法の解釈,あるいは立法を考える上で参考とすべきようなデータを集めてみろということで,実際には家族法の分野からは有責配偶者からの離婚請求,それと遺留分制度。遺留分制度については,ご存じのように要らないのではないかという議論が非常に有力説が最近出ておりまして,そこら辺りを研究したと。
それから,あと3つ目が著作権意識の調査ということで,著作権について人々がどのように保護意識を持っているかと。それからその一環といたしまして50年から70年への延長についてどう思うかという,これは付け足し的な調査なんですけれども,やりました。
その目的は,著作権保護意識を調査することよって,著作権法制,現状の法制度と国民の著作権意識の乖離の有無を探究したいと。先ほど,川上さんの方からも若い人が著作権に金を払うという意識はないということをおっしゃっていましたが,割とそれに近いようなことが少しずつ出てきております。それから,法制度の機能条件として,法意識というものはやっぱり重要でありまして,その法を遵守する,あるいは著作権を守るというような意識があるかないかということが法制度の実効性,あるいは先ほどインターネット上では全く弱肉強食の,荒れ放題だというようなお話もありますけれども,それをどう改善するかというのは,単にその制度だけでなく,人々の法意識というものも重要なファクターであると。
それから,法改正の方向を探る基礎的資料を提供したいと。やはりEvidence Basedと下に書いてありますが,事実と社会についての経済的・社会的・心理的事実に基づいて議論をしないと駄目だろうと。それを我々は立法事実アプローチと呼んでおりまして,具体的には法社会学,社会学を法律の分野で使うとか,経済学を使うとか,心理学を使うということによって,人間行動というものの実態,あるいは社会の在り方についての実態を探究し,それを立法に参考にすると。あるいは法の解釈に参考にするという考え方でございます。
その立法事実という言葉はご存じない方が多いと思いますけれども,訴訟では要件,効果というものがございまして,法律要件があれば法律効果が与えられると。著作権侵害があれば法律効果として損害賠償請求できる,差し止め請求ができると。これはオブジェクト法知識といいまして,対象言語なんですけれども,それに対してそれを合理性を支える参考資料というようなものを立法事実と呼んでおりまして,法社会学であるとか,法と経済学,法制史,法哲学,立法資料等を様々な資料というものを参考にして,それ自体から論理的に結論が出るわけではないんですけれども,そういうものを十分に参考にして法の立法をするとか法の解釈をするということが必要だろうという考え方でありまして,定義といたしましては法的価値判断,これは立法も含まれますし,法の修正も含まれますし,裁判所における法の解釈,適用においても常にあいまいな条文,あいまいな先例というものをどう解釈して判決を出すかというときには,常に法的価値判断というものがあるわけで,裁判官がベンディングマシンといいますか,自動販売機のように事実を入れたらカチャンと誰がやっても同じような判決を出すわけではないことは,最近いろいろ出てきている判例のニュース報道を見ても分かると思います。そういうときに,十分参考にして考えるべきだという社会事実や科学的事実をここでは立法事実と呼んでおります。
著作権意識につきましては,2007年1月から2月にかけて,これは要するに10月からの学期の中で社会科学方法論,調査の方法,分析の方法,調査票の作成の仕方などを教えながら,具体的に冬休みにかけて作り上げて,1月から2月にかけて調査会社を使って調査したということでございます。
そして,調査法としては留め置き法で,訪問して頼んでオーケーが出たら預けて,1週間後にとりに行くというような形の調査でありまして,予算の関係上,関東1都6県,20地点20人で400名ということで,性別と年齢と地域で層化して,層化というのはそれぞれに日本の人口比に対応する形の人数を割り振るという意味です。割当法と。要するにこれは訪問して当該ターゲット,20代の女性とか,そういうものがいたらお願いをするし,それがいなかったら次のランダムに選んだ訪問先を選ぶという種類の調査です。
調査票自体は,最初に調査権保護意識を聞こうということで,非常に著作権にもろにぶつかるような違法な行為から,ほとんど大丈夫だと,全然構わないというような行為を13種類,いろいろな枠組みを入れて作りまして,それぞれにつきまして非難されるべきか非難されるべきでないかについて,5段階尺度で聞いたというものでございます。2番目が著作権をめぐる法知識でして,著作権というものを知っているかとか,読んだことがあるかとか,どういうサンクション,制裁を受けるのかと。それから法意識,これは一般的に法をどういうふうに守るべきだと思っているかどうかです。とりわけ,自己の不利益になるときにも法を守るべきかどうかと。それから次がインターネット・リテラシーでして,どれだけインターネットを使っているかと。これがやっぱり著作権保護意識に影響があるのではないかという仮説の下に作られた質問です。あと,デモグラフィックデータというのは,年齢,性別,収入,所得,仕事,それから法律上の問題について,今まで研究とか勉強とかしたことがあるかというものでありまして,一応この4名の者が学生として実施したわけでございます。
具体的内容としては,これは全部言うと,例えば大学生のAさんは,2万円で購入したワープロソフトのCDを10枚コピーし,秋葉原の路上で,1枚3,000円で10枚全部を販売しました。Aさんはワープロソフトのメーカーから許可を受けていませんと。この黄色くなっている部分は,他の12の質問においても全てこれに対応する文言を入れて,許可がないということを前提で,Aさんの行為は非難されるべきだと思いますか,それとも非難されるべきではないと思いますかということで,非難されるべきからどちらとも言えない,非難されるべきではないの5段階評価を聞いたわけでございます。
例えば,Q2ですと,中学生のAさんは,図書館で調べものをして,本の1ページをコピーして持ち帰りましたと。こういうところは全然問題,非難に値しないようなものから,様々なものを聞いたわけでございます。8番目なんかですと,Aさんは高校の英語教師です。Aさんはアメリカ映画のDVDを授業で40人の学生に上映しましたと。あとは,ナンバー9ですと,大学生のAさんは,人気テレビドラマの主人公が登場するシーンを5分間程度抜き出したダイジェスト映像をパソコンで作成しました。Aさんはこれをインターネットで公開し,無料で誰でも見られるようにしましたと。割とよくありそうな,様々な違法性の程度のものを作って,これを学生たちが3時限,4時限の枠を作りまして,それぞれに事案を割り振って,それでその中から使えそうなものを非難の可能性の弱いものから強いものへと並べて,それをランダムに配布して質問票としたものです。
具体的に,調査結果で見ますと,単純な集計で見ますと,一番やっぱり非難されるべきだというものは,Q11の映画を複製して販売したと。次が,大体近いのですけれども,ソフトウエアを複製して販売したと。それから,映像DVDアップロード等が割と高くて,真ん中辺りですと例えばQ10,小説の翻訳を自分で作って配布したとか,アニメのポスターを作成したと。アニメをカットアンドペーストで自分のポスターにしたというのが中ぐらいで,余り非難されるべきではないというのになると,映画を授業で上映したとか,テレビドラマを貸したというような感じなっておりまして,割ときれいに並んでおりまして,これが分析の出発点になります。
これについては,クラスター分析という手法を用いまして,属性であるとか著作権保護意識の回答につきまして,統計的手法で集団を自動的に3つ析出いたしまして,それについて法遵守意識であるとか年齢であるとか所得であるとか,そういうものとクロスさせることによって,3つのタイプの人々といいますか,回答者というものを見付けたわけでございます。 第1が厳格型グループでして,非常に著作権を守るべきであると。通常であれば許されると思われるものについても,割と非難をする可能性の高い人たちでありまして,これは年齢が高く,無職の層,これは多分定年後というものだと思いますけれども,法に対する姿勢が肯定的であると。法というものはいいもので,守るべきだという一般的な信頼のある姿勢です。その意味で,この厳格型グループというのは,著作権意識については非常に慎重で厳格であると。
それから,事案型グループと。これは,学歴,収入,生活満足度が全て高くて,年齢は中年から若年に分布が多いと。要するに,いわゆるインテリ層に近いイメージ,中堅から若手のインテリ層という感じでして,そういう人たちというのは,事案の悪質度の度合いを正しく評価して,それに応じて非難の程度を厳密に差別化して回答をしているという人たちで,この人たちが一番合理的な人たちだとは思います。
一番困るのがこのルーズ型と呼ばれるものでして,若年層が多く,学歴,収入は高くなく,生活満足度も高くなく,一般的な法についての意識も非常に弱いと。そういう,いわゆる我々がよくイメージするインターネットを使う若手という人たちでして,そういう人たちは非常にルーズで,どんなことをやってもいいじゃないのという傾向の強い人たちが,これが自動的に3つ出てきまして,この結果から国民の間の著作権意識を向上させるには,政策的にはルーズ型の層をターゲットにした啓蒙活動が必要だろうと。事案型とか厳格型では大丈夫だろうと。それに対して,ルーズ型は単なる啓蒙だけではなく,やっぱり刑事制裁等の具体的な広報をすることによって,一罰百戒的な啓蒙活動をしないと,単にいけませんよとかいうだけでは駄目だろうということを,学生たちが分析しております。
さらに,因子分析という統計の手法を使いまして分析しますと,どうも人々はある行為の非難可能性については,著作権が想定する軸とは違う軸,すなわち私的な行為であるか,私的な行為でない,人との関係とか公共的な行為と,その区別を使いまして,その私的なプライベートな領域の行為であれば余り非難はしなくていいのではないかと。それに対して,私的でない領域の行為であると非難するというのがありまして,その点でいわゆる著作権法制の意識と価値判断と思われるものとの間に少し齟齬があるかなと。それをどちらの方向に詰めるかというのは,これからの政策的課題にはなると思います。
こういうようなことが分かってきまして,さらにQ18では,日本では個人の著作物の場合は死後50年,団体の場合は公表後50年と,映画の場合は70年と保護されます。あなたはこれは長いと思いますか,短いと思いますかということで,それぞれ3つに分けて聞いたものでございまして,これを見て分かりますように,この点は非常に荒っぽいというか雑な調査でして,この結果から即何か出てくるかというのはかなり議論の余地がありまして,今後さらにこの先ほどまでの議論なんかを受けて詳細な調査をする必要があるのではないかと思います。
具体的に,結果はどうなるかといいますと,全般的にこれを見て分かりますように,概ね長いと答える者の方が多いと。50年とか70年というのは長いな,死んでから50年間もそのまま使えないのかとかいう意識というのが非常に素朴で,先ほど申し上げたように,余り著作権等についての知識の少ない人ですから,これをどこまで重視するべきかは議論がありますし,さらに調査が必要ですけれども,一応長いなと,ちょっと長いのではないかという意識が強かったようです。
50年とか70年の数値に反応しただけで,どこまで意味のある意見かはさらに調査が必要でして,例えば今日議論されたような様々な議論を提示した上で,あなたはどう思いますかというような形で,もっとインフォームドな調査をする必要があるかなと思っております。
以上でございます。ちょっと時間を過ぎましてすみません。
【野村主査】
 どうもありがとうございました。
それでは,続きまして事務局より関連の資料のご説明をお願いいたします。
【著作権調査官】
 参考資料1でございますが,これは,諸外国の延長の論拠について前回,今までの議論を踏まえるべきだというご意見もあったことも踏まえて,各委員には冊子でお送りしていたものの抜粋をもう一度配ったというものでございます。実はこの最後に韓国の延長の背景についても記載していて,韓国が今のご発表と同じような意識調査をしていた結果があったのでご紹介しようと思ったのですが,すみません,ちょっと落丁になっているようなので,また改めてご送付したいと思います。申し訳ございません。
【野村主査】
 それでは,ただ今の太田先生のご発表も含めて質問,ご発言ございましたらお願いします。
椎名委員どうぞ。
【椎名委員】
 川上さんのご発表,すごく面白く聞かせていただきました。やはり,この議論もそうですし,補償金制度をめぐる議論でも,コンテンツの私的コピーに関する現在の状況が,権利者の不利益など生んでいないという議論すら,私的録音録画補償金委員会ではあるんですね。ぜひ,私的録音録画小委員会の方にも来ていただいてお話をいただいたらいいと思います。
さっき津田さんがおっしゃったことに関してちょっとだけ申し上げたいと思うのですけれども,ブログを毎日更新している人たちが沢山いると。そういう人たちも著作者であって,そういう人たちに与える影響も考えなければいけないとおっしゃったのですが,保護期間の50年か70年かということを議論する場合に,やはりコンテンツを職業的に生み出し,そのことの産業に従事している人たちをいかに育て,育成保護していくかという観点が,僕はこの話で重要なことであると思っていて,もちろんブログを更新している人たちは著作者ではない,あるいは重要な著作者ではないというようなことを申し上げるつもりはないのですけれども,先ほども申し上げたとおり,70年を主張したくない人は主張しなければいいわけです。権利を放棄するという方法論もありましょうし,そういう中で国の制度として一体保護期間の絶対値をどこに置くかという議論はまた別な話であると思うし,そこら辺の議論が今までごちゃごちゃになっていたのが,今日すごくすっきりしたような印象を受けました。それに沿って議論をしていくべきなのではないかと僕は思いました。
以上です。
【野村主査】
 それでは,生野委員どうぞ。
【生野委員】
 川上会長から,コピー問題の大きさというお話がありました。欧州委員会の,実演家とレコード製作者に関する保護期間延長の提案書にありますとおり,ネット上の違法行為によって,権利者の実質的な権利が相当程度狭まっている,確保できていないという状況があって,レコード製作者が新人になかなか投資できなくなっているという指摘があり,それが保護期間の延長の背景にもなっています。
これは日本でも全く同じような状況でありまして,また,この委員会,それから法制問題小委員会でも,多くの権利制限が検討されております。そういったことを踏まえた上で,保護期間を延長した場合の権利の大きさというのは実際どうなのか,それほどバランスがとれていないのかということを考えた場合,決してそうではないのではないかと,そこを今後の議論でぜひ明らかにしていきたい,検討していきたいと考えています。
以上です。
【野村主査】
 それでは野原委員,次に瀬尾委員お願いします。
【野原委員】
 今,川上さんからのお話,非常に興味深く,賛同するところも多く伺ったのですが,それに対する椎名委員や生野委員のお話を伺っていると,言われたことの中で,若い人はお金を払わないでコンテンツをコピーしているのだなというところだけが強く印象付けられているようで,ちょっとそれは誤解を招いているのではないかと思うので,一言発言したいと思うのですけれども,確かに今回の川上さんの発表には,そういうコンテンツにお金を払わない若年層がいることははっきり言われたと思うのですけれども,だから著作権を強めればいいということではないということを逆に言われたのだと思うのです。今の著作権法の運用の仕方,それからビジネスの在り方,ネットでの利用形態がそういう人たちと全然ずれているということを強く言われたと思うのです。だから,今のままの形で法的にうまくいくということを言われているわけではないと思いますので,その辺は改めて今日の発表が若者はお金を払わないのだということを言ったわけではなくて,今のままだと,逆にDRMのような不便な方法じゃない方法に走っていってしまう環境になってしまっていると。それをどうしていったらいいかということを考えていこうということを言われたのだと思うので,その点はもう一度確認しておきたいと思います。
【野村主査】
 それじゃ,瀬尾委員。
【瀬尾委員】
 今日,私も大変いろいろ感じるところがございまして,1つは,今まで私はこの保護期間の延長問題ということに関しても,1つのテーマとして議論をするべきだろうというふうに,ずっと主張させていただきました。今日,いろいろなことを考えて,あ,これはやはり違っていたと,素直に違っていたということで訂正させていただきたいと思います。
なぜかというと,これは欧州にしても,例えば貿易のカードとして使うか,ほかのものと抱き合わせるか,アメとムチという言葉も出ましたけれども,やはり1つの大きな流通政策のパッケージの中の1エレメントであるのだろうと。またそういうふうに議論されないと,これだけを取り出していっても結論は出ないだろうということを強く感じました。そして,今までの議論の中で,今日コミケの話をいただいたり,ドワンゴさんからのお話もいただきましたし,また今までもいろいろいただきました。青空文庫さんから始まって,いろんなこともいただきましたけれども,やはり一例として挙げて,全体の中でも一部分であるものというのが沢山挙がってきて,そして延長賛成,延長反対,どちらも多い部分をとる場合と少ない部分をとる場合と,正直に言ってしまうと,お互い何か都合のいいところだけとってしまうようなところというのがあって議論されてしまうと,これは一生決まらないのかなということをすごく感じました。
やはり,例えば青空文庫さんに関して言うと,私なんかは非常にインターネット上で有効である希有な例であると,非常に成功した希有な例であるというふうに私はとらえていますし,あれを一般化してお話しすることの危険性もあるでしょうし,また例えば有名な作家がその著作権によって,いろいろ何かを運営したり利益を得ていることが重要であるという議論も,全体化するには難しい部分があるかもしれない。
だから,そういうことを切り分けて,1つ提案なんですけれども,例えば延長すべきという話の中には,不明な権利者に対しての権利制限とかいう話も議論されています。その中で,例えば延長しないというものの中で,前から延長するべきではないのだと。創造のサイクルを害するのだと。現在のクリエーターに対しての保護を厚くするべきだという議論があるんですが,じゃあどうやって現在のクリエーターに対する保護を厚くするかという具体的なご提示と例というのは1つも出てきていないと。これはやはり今までの議論の中で欠けている部分なのかなと思いますので,じゃあ今のクリエーターに対してはどういうふうにしていくことで改善ができるのか。大分我々もいろいろなものを聞いて,現状の著作権について勉強してきた委員会ではないかなと思っています。
ですので,もう少し全体的な例外的なものではなく,全体を考えた上でパッケージとしていろんな意見を出し合い,よい流通をする。その中での延長議論というふうにしていかないと,ちょっとこれはバランスがとれないのかというふうに思いました。もう少し,この中での意見を出して,現状認識の上に意見を出して,全体論としてこの問題を,例えば戦時加算の問題もございますし,ちょっと場所が違いますけれども,研究開発に対する権利制限という話も出てきております。そういうことがやっぱりパッケージになったときに,1つの政策として皆さん考え得るのではないかなと思いました。
ちょっと長くなりましたけれども,今日感じた意見で今までと違うことを言っておりますので,お詫びしますとともに,新しくご提案させていただきたいと思います。
以上です。
【野村主査】
 それでは,椎名委員。
【椎名委員】
 野原さんのご指摘はちょっと僕の言った意味が正確に伝わっていないので,お金を払っていないという現状認識について非常に同感したということだけを申し上げているのではなくて,もうひとつおっしゃったことは,このままだとコンテンツが死ぬということをおっしゃった。職業的にコンテンツを生み出し供給するという産業が死ぬということをおっしゃったことについてはすごく感じたところがあるという意味で申し上げました。また,境先生のご説明も同じ観点だったと思うのですが,著作権を強めよう弱めようという議論だけではなくて,強めたらこういうソリューションが必要だよね,弱めたらこういうソリューションが必要だよねという議論にいかなければ意味がないじゃないかということをおっしゃっていると思って,我々も反省としては,強めることを言うばかりではなくて,ここでの議論は強めたらどうか,いや弱めてはどうかというところだけで終わってしまっているという気がして,むしろ我々はそういう議論をしていかなければならないのではないか?という意味で申し上げたつもりです。
【野村主査】
 それでは,津田委員どうぞ。
【津田委員】
 本当に今日の議論は非常に楽しくというか,興味深い論点がいっぱいあったと思うのですが,今椎名委員と瀬尾委員の延長というか,それに通じる話で言うと,やっぱり今日の話合いで大きなテーマって,椎名委員の方からコンテンツがこのままだと死ぬというお話があったことは,多分言い換えれば職業クリエーター,プロの今までのコンテンツビジネスというのをどうやって育てていくか,育てないかということだと思うのです。
僕,今日の議論で明らかになったのというときに,その職業クリエーターを育てるか育てないかは,むしろ保護期間というのは重要な影響を与えないのではないかということだと僕は思っていて,むしろコミケだとか今のインターネットのカオスな状況ですとか,あとは従来のコンテンツビジネスというモデルが形骸化しているか,これに対してどう対応していくかということが,多分これからのコンテンツ政策を考えるときの非常に重要な課題になっていると。それは,そういったビジネスモデルの形骸化とか,ネットのカオスな違法コピーの状況に対応するときに,それって保護期間を単に70年に延長すれば対応できるかというと全くそんなことはなくて,そういったことをむしろ根本的に話し合っていかなければいけないのではないのかという印象を受けました。
以上です。
【野村主査】
 野原委員,何かご発言ございますか。よろしいですか。
【野原委員】
 椎名委員のおっしゃること本当に私も賛同するところ多くて,その点では賛同です。
もう一つ,私はユーザーの立場で言うと,同一ユーザーがいろいろなフォーマットでコンテンツを利用しているのに,そのときにそのコンテンツでフォーマットごとに著作権料を支払うという仕組み自体がユーザーとして使いにくい形になっているので受け入れられなくて,そうでない方向にいっちゃうということをしっかりと言われていたと思うのです。この辺もきちんと考えた上で,実態を考えて,その先の解決策を議論していけたらいいなと思っています。
【野村主査】
 それでは最後に生野委員から。
【生野委員】
 私も椎名委員と同様に,野原委員から指摘を受けましたが,川上会長から1つのビジネスモデルとして大変興味のあるご提案いただいたとお聞きしました。ユーザーのコピーにおける振る舞いに対して,単に権利を強くしろ,保護期間を延ばせと言っているわけではなくて,どうコンテンツの流通と保護とがバランスのとれた形での解決が見出せ得るのかということを日々考えているわけで,決して野原委員のご指摘のようなつもりで言ったつもりは全然ありませんので,誤解なきようにと思います。

(3)閉会

【野村主査】
 それでは,本日はこのぐらいにしたいと思いますが,ご発表いただきました5名の方には改めて感謝を申し上げたいと思います。
次回ですけれども,今,図らずもいろいろな方からご発言いただきました保護期間について,いろいろ意見の対立が残っておりまして,もうちょっと他の論点との関連も含めて議論しなければというようなご発言もいただきました。他方でこの審議会は1年という任期で動いておりまして,例年のことですけれども,そろそろ秋に予定されております,分科会へ報告の時期が近づいておりますので,一応この辺りで議論の中間的な整理をするということが必要になっております。これまでの議論の状況を踏まえますと,意見の対立が残っているという部分はそのままの形で分科会に報告せざるを得ないと思いますが,その報告の形を含めて次回議論をしたいと思いますので,よろしくお願いしたいと思います。
それでは,事務局より連絡がございましたらお願いいたします。
【著作権調査官】
 本日は,どうもありがとうございました。
次回の日程でございますけれども,9月18日(木)14:00から16:00,旧文部省庁舎6階の第2講堂での開催を予定しております。よろしくお願いいたします。
【野村主査】
 それでは,本日はこれで第5回の過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会を終わらせていただきます。長時間にわたりましてどうもありがとうございました。
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