平成26年度文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第2回)議事次第

日時:平成26年10月20日(月)
10:00~12:00
場所:文部科学省東館 15階 特別会議室

議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)への対応等について
    2. (2)著作物等のアーカイブ化の促進について
    3. (3)その他
  3. 3 閉会

配布資料一覧

資料1
視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)(概要)(95KB)
資料2-1
障害者放送協議会提出資料(340KB)
資料2-2
日本盲人会連合提出資料(104KB)
資料3
今村委員提出資料(235KB)
資料4-1
井奈波委員提出資料(203KB)
資料4-2
井奈波委員提出資料(別紙)(234KB)
資料5
潮海氏提出資料(210KB)
資料6
小嶋氏提出資料(328KB)
参考資料1
視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)(本文)(103KB)
参考資料2
視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)(参考和訳)(203KB)
参考資料3
障害者のための複製等に関する著作権法上の主な規定(85KB)
参考資料4
アーカイブに関する著作権法上の主な規定(88KB)

【土肥主査】

  定刻でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第2回を開催させていただきます。本日はお忙しい中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開について,予定されている議事内容を参照いたしますと,特段,非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいておるところでございますけれども,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】

  それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 まず,前回は御欠席でしたけれども,今回より上野達弘委員に御出席をいただいておりますので,御紹介させていただきます。

【上野委員】

  上野でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】

  続きまして,事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【秋山著作権課課長補佐】

  配付資料の確認をいたします。お手元の議事次第の下半分のところを御覧ください。
 配付資料としまして,資料1及び資料2-1から2-2まで障害者関係の資料を次第記載のとおり御用意しております。資料3から資料6につきましては,各委員からのアーカイブに関する御発表資料となっております。それから,参考資料1から4まで,それぞれ記載のとおりの資料を御用意しております。落丁等がございましたら事務局までお願いいたします。
 なお,資料2-2につきましては,本日,資料2-1に関しては障害者放送協議会からの御発表資料ですけれども,資料2-2に関しては日本盲人会連合様からの提出資料ということで,こちらは参考に配付させていただくことになります。
 以上でございます。

【土肥主査】

  ありがとうございました。
 それでは,議事に入りますけれども,初めに,議事の進め方について確認をしておきたいと存じます。
 本日の議事は,1,視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)への対応等について,2,著作物等のアーカイブ化の促進について,3,その他の3点となります。
 1の議題に入りたいと思います。本日は視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)について,その概要等について事務局から説明をいただいた上で,関係団体から意見聴取を行いたいと考えております。
 初めに,本条約の概要について事務局から説明をいただければと存じます。

【保坂国際課専門官】

  それでは,視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)について,本委員会での審議に資するという観点から御説明をさせていただきます。
 資料としては,資料1に両面で概要の資料,参考資料として参考資料1,マラケシュ条約の採択されました条約の原文,及び,参考資料2として参考和訳をつけております。この参考和訳については,(注)にございますとおり,文化庁において作成したものであって日本国政府の正式な訳ではございません。今後,変更があり得ますこと,現時点での参考の和訳であるということをあらかじめ御了承いただきたいと思います。
 それでは,資料1に沿って御説明をさせていただきます。1.目的ですが,「視覚障害者・読むことに障害のある者のための著作権の制限及び例外等について国際的な法的枠組みを構築し,各締約国の著作権法において当該制限及び例外に関する規定が整備されること等により,視覚障害者等による発行された著作物のアクセスを促進すること」というふうにされています。
 2つ目,経緯ですが,2005年より,世界知的所有権機関(WIPO)において著作権の制限及び例外に関する議論が開始され,各国間で継続的に議論が行われてきました。何年か継続的に議論を行ったのですが,結果として2012年12月に開催されましたWIPOの臨時総会において条約採択のための外交会議が開催されることがまず決定され,その翌年,2013年6月にモロッコのマラケシュにおいて開催された外交会議において本条約が採択されております。
 次に,3.の主な規定の内容について御説明をいたします。条文自体は全体で22条ございますけれども,今回,小委員会の審議に資するという観点から特に重要な項目を抜粋して御説明をさせていただきます。(1)本条約の対象となる著作物です。これは,「発行されているか,又は何らかの媒体において公に利用可能なものとされているものであって,書籍等のテキスト形式のものとされている」というふうになっています。特に重要なのは,公に利用可能なものである,発行されているということで,流通しているようなものについて対象としており,あとは,テキスト形式であり,音楽等の著作物については対象とされていないということです。
 (2)本条約の受益者,どういった方々を対象として権利の制限,例外を設定することとされているかということです。大きく3つございます。マル1,視覚障害者,これは目が見えない方,あるいは,非常に視力が弱い方を対象としております。マル2,知覚的,又は読字に関する障害のある者とあります。これは,視覚には障害がない,目は見えるものの,文字の認識に何らかの障害があって,うまく通常のテキスト形式の著作物を読むことができないといった障害を持つ方が対象とされています。3番目は,身体障害により,書籍を保持する,操作する,目の焦点を合わせる,又は目を動かすことができない者。これは,字のとおりですが,マル1,マル2と違い,身体障害で,目も見えるし,認識もすることはできるのだけれども,身体障害によって通常の書籍を読むことに困難である方が対象になっていると,大きくこの3つの方々を対象として設定されています。
 裏に行っていただきまして,(3),(4)は,締約国に,こういった受益者の方々を対象としてどういったことを義務として課しているかという部分の御説明になります。(3)締約国における著作権の制限及び例外に関する規定の整備。まず,読み上げます。「本条約の締約国は,受益者を対象として,国内の著作権法において,著作権に関する世界知的所有権機関条約(WCT)に定める複製権,譲渡権及び利用可能化権の制限又は例外に関する規定を定め,利用しやすい形式の複製物の著作物の利用可能性を促進する。国内法令に定められる制限又は例外は,著作物を代替的な形式で利用しやすくするために必要な変更を許容するものとする」と。条約を和訳で直訳しているような部分もあって,このままでは分かりづらいところがあるかもしれません。
 前段は,まず,どういった権利について権利制限を設けることが義務とされているかということですが,これはWCTに定める複製権,譲渡権及び利用可能化権を対象として権利制限を設けることが義務として締約国に課せられることになっております。「利用しやすい形式の複製物」というふうにありまして,下に,点字やDAISYの形,例えば,テキストと音声がリンクして,例えば,パソコンで画面を見ながら音声を聞き,どこを読んでいるのかがマーカーのような形で示されることで,弱視の方々や認識に障害のある方々でも,そういうものを併せて見ることで非常に理解がしやすくなるというような形式のものがありますけれども,そういった形にするということができるようにすることになっています。「国内法令」以下の部分ですが,これはそういう利用しやすい形式にテキスト形式の著作物を変更することを許容するような権利制限の内容をきちんと規定するということが義務として課せられています。これが大きく1点目です。
 2点目の(4)ですが,利用しやすい形式の複製物の輸出入。こちらも読み上げます。「本条約の締約国は,受益者にとって利用しやすい形式の複製物について,締約国間で輸出入が円滑に行われるための制度を整備する」。マル1,「輸出国に関する義務。輸出国の国内法に基づいて作成された利用しやすい形式の複製物を,当該輸出国のAuthorized Entityが他国,各輸入国の受益者,又はAuthorized Entityに対して譲渡又は利用可能化することを認める」。Authorized Entityというのは,これは条約に定義が設けられており,ある機関についての規定ですが,下のコメ印にございますが,情報にアクセスする手段等を受益者に非営利で提供することを政府によって認められている機関ということで,一定程度,受益者の方々のために読みやすい,利用しやすい形式の複製物の提供を行っているような機関を念頭において,そういった機関をAuthorized Entityというふうに条約上では規定しております。
 マル1は,輸出国に関する義務ということで,例えば,A国が他国のAuthorized Entityや受益者の方々に国内の権利制限に基づいて作成された複製物を輸出する際に,それがきちんと国外にも輸出できるように譲渡する,あるいは利用可能化するということを許容するような体制を整備するということが締約国に対して義務として課せられています。
 マル2,輸入国に関する義務です。輸入国の国内法が利用しやすい形式の複製物の作成を認める範囲において,受益者,Authorized Entity等が受益者のために利用しやすい形式の複製物を輸入することを認める。これはどういうことかと申しますと,輸入国で,ある国において権利制限,この条約を締結しますと権利制限によって利用しやすい形式の複製物がつくられることになりますが,それの作成が認められるのと同様に,他国において作成されている複製物については,条約の趣旨であります締約国間での著作物の流通を促進するというところから,他国からきちんと輸入して自国で活用することもできるような体制を整備するということが求められているということで,そのために必要な措置をとるということを,締約国に義務づけるという内容になっています。これが輸出入に関する,要は,自国でつくったものを他国に輸出するようなこともできるし,他国でつくられたものをきちんと自国に持ってくることもできる,そういったことができるような措置を講じなさいということが条約に規定されております。
 最後,4.発効要件ですが,本条約は20か国の批准又は加入により発効いたします。2014年10月現在ですが,インドとエルサルバドル共和国が既に締結しております。
 条約の概要については以上でございます。

【土肥主査】

  ありがとうございました。
 続きまして,本条約に関連する現行法の規定の内容につき,事務局より説明をいただければと存じます。

【秋山著作権課課長補佐】

  それでは御説明申し上げます。
 参考資料3を御覧いただきたいと思います。こちらでは,「障害者のための複製等に関する著作権法上の主な規定」としまして,関連の条文を整理させていただいております。
 それでは,マラケシュ条約の関係の部分について御紹介したいと思います。
 まず,第37条,「視覚障害者等のための複製等」という規定であります。ここでは,3項について御紹介したいと思います。長くなっておりますので分解して御紹介したいと思います。まず,この権利制限規定の適用が認められる主体は,視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者の福祉に関する事業を行う者で政令に定める者,とされております。対象となる著作物につきましては,2行目の後ろからですけれども,「公表された著作物であって,視覚によりその表現が認識される方式により公衆に提供され,又は提示されているもの」となっております。
 それから,権利制限が認められる目的に関しては,専ら視覚障害者等で,当該方式によっては当該視覚著作物を利用することが困難な者の用に供するという目的がございます。著作物の利用の方法としては,「当該視覚著作物に係る文字を音声にすることその他当該視覚障害者等が利用するために必要な方式により」となっており,制限される権利の範囲に関しては,複製,それから自動公衆送信,送信可能化を含めて制限されているということになっております。
 また,ただし書では,著作権者又はその許諾を得た者によって,そういった障害者の方向けの著作物の提供がなされている場合は,この権利制限規定が適用されないという例外もございます。
 このような形で,対象となる障害者の種類に関しては,マラケシュ条約との関連では,少なくとも,身体障害によって書籍を保持するといったことが難しいという方は現時点では明示的に対象とはされていないものと考えております。
 それから,このほか,第43条におきまして,先ほどの視覚障害者向けの第37条3項に関連して翻訳,変形又は翻案による利用が認められております。
 次のページですが,同じく37条3項の規定の適用により作成された複製物について譲渡権の制限も併せて行われております。
 説明は以上でございます。

【土肥主査】

  ありがとうございました。
 それでは,続きまして,関係団体からのヒアリングを行いたいと思います。本条約に関係する障害者団体を代表いたしまして,障害者放送協議会から御意見を頂戴したいと考えております。本日は同協議会著作権委員会委員長の河村様にお越しいただいております。それでは,河村様,どうぞよろしくお願いいたします。

【河村様】

  河村です。よろしくお願いいたします。
 障害者放送協議会の資料は,お手元の資料2-1ということでございますので,御覧いただきたいと思います。
 障害者放送協議会は,1998年に発足いたしましてからこれまで何度か著作権法,特に通信に関わる著作物の流通が障害者の情報アクセスに極めて重要であり,ICTの活用が紙の出版物にアクセスできない障害者にとって不可欠であるという観点から,特に著作権問題を広くこれまで取り組んでまいりました。そして,本日の1番目の議題でありますマラケシュ条約に関しましては,お手元の資料2-1の3枚目にありますように,障害者放送協議会としては,この条約の成立以前からずっと取組を進めており,提言も行ってきております。そういった障害者放送協議会としての取組を代表いたしまして,本日はマラケシュ条約について主に意見を述べさせていただき,その他の2番目,3番目についても若干申し添えたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。
 まず,マラケシュ条約を私ども放送協議会としてどのように受け止めているかということです。まず,本日,事務局より御説明にありましたように,マラケシュ条約は世界人権宣言及び本年,日本政府が批准いたしました国連障害者の権利条約に沿って,それを具体化するものである,そういう人権条約の一つであるというふうに私どもは理解しております。したがいまして,これは一連の国際的な人権条約の積み重ねの中の一つのものという理解でございます。その際に,特にマラケシュ条約におきましては,先ほどから対象者の範囲について御説明がありましたが,私どもは,これを障害者権利条約が対象とする全ての対象者の中で,特に読むことに困難を抱えている障害のある人々が該当するというふうに考えております。そして,当然,このマラケシュ条約の対象になる出版物の範囲につきましては,事務局側の考えと違うところは全くございません。
 私どもは,まず,マラケシュ条約に関わる意見の大前提として,資料の2ページの2,マラケシュ条約に関わる意見の丸の1番目のところですが,「社会的障壁の除去」というふうに考えております。つまり,障害のある人々は,社会的な様々な障壁があることによって社会生活上の困難を抱えている。その障壁を除去することによって社会参加ができるようになるという考えに基づいて,この条約を受け止めております。それが,日本政府が今,2016年4月実施を目指しております差別解消法の考え方と一致するというふうに理解しております。
 そこからどういうことになるかと申し上げますと,障害者は,多様な著作物の利用のニーズを持っている。本来,このニーズは,普通の出版ですと市場として捉えられて,そこに出版者が出版物を販売する。公的な出版物の場合には販売ではありませんが,商業的な出版物であれば,そこに販売をする市場になる,それがニーズであるというふうに私どもは理解しております。今回のマラケシュ条約の考え方は,本来,出版物がこの多様な著作物利用のニーズを市場として捉えて埋めてくれれば,特に権利を制限して何か特別のものを作る必要はなくなる。そして,障害者の著作物の円滑な利用は確保される,それが本来あるべき姿であると私どもは考えております。
 そして,残念ながら,経済的理由等々によりまして,著作権者が自らこのニーズを満たしてくれていないとき,そのときに障害者も社会参加のためには著作物の活用が必要ですので,その穴を非営利活動として埋める活動については,これを支援する。そのために著作権も一部制限し,同時に国際的な交換もそれを促進する。特に途上国に80%以上の障害のある人々が暮らしているという現実を考えますと,そのような形で世界中の障害のある人々が社会参加の機会を保障される,そして,それぞれの国と地域におきまして,積極的な社会の一員として開発,あるいは社会の発展に寄与していく,そういう公益につながっていくというふうに考えております。
 このような理解から,私どもは,ポツの2番目になるわけですが,マラケシュ条約が対象とする著作物の円滑な利用が現在,十分に保障されていない障害のある人々の日本における状況を述べてみたいと考えるわけです。
 まず,先ほど事務局から御説明がありました,原文で言いますと,「Print Disabilities」という概念が出てまいります。そのまま訳しますと「出版されたものについて利用に障害のある人々」ということになろうかと思います。当然,視覚障害が該当するわけですが,そのほかに,知的障害,精神障害,精神障害の場合には,集中するのが難しい。特に服薬をしているような場合には集中するのが難しいという症状が一般的にありますので,なかなか読書が難しいということがこれまで確認されております。それから,「ディスレクシア」等と呼ばれます読みの障害,これは主に学習障害,学習上の障害として捉えられていることが多く,なかなか医学的なカテゴリーにはなっていないので,必ずしも医師の証明はないケースが多いです。これは,著作権法33条の中で,「視覚障害,発達障害,その他の障害」という形で広く捉えられているところであります。それから,高次脳機能障害,端的にはバイクで転倒事故を起こした高校生などが途端に学業不振に陥る。そして学校も諦め,進学も諦めるというケースが多発しております。これは,読むことに障害を来しているケースが多々あるということが確認されているところであります。それから,上肢障害,当然,先ほど事務局の御説明がありましたように,読書する姿勢を保ったり,本を持ってページを繰ることが難しいという上肢の姿勢制御の機能障害,それと,ALS(筋萎縮性側索硬化症),これは最近,氷水をかぶるイベントなどで少し知られてきているところですが,日本には全国で約8,000人がおられるというふうに言われております。
 このALSの方の御自身が発表してくださいました読書についての御要望を資料2-1の4枚目の紙に当たりますが,そこに引用してありますので少し触れさせていただきたいと思います。これは,2010年1月1日に施行された著作権法の改正を考えるシンポジウムの参議院議員会館で行われたときに出された意見で,当時,日本ALS協会の副会長の橋本操様の御意見です。橋本様は当日,ベッドそのものに車輪をつけたような移動用具で参議院議員会館までお出(い)でくださり,次の意見を,代読でしたが述べていただきました。資料の最後の方に,「橋本の読書環境」というふうに書いてあります。そこに御注目いただきたいと思います。「現在は,障害者用のパソコンで電子図書を読む」,この一言に御注目いただきたいのですが,先ほどDAISYという御紹介がありましたが,DAISYも電子図書,そして障害のある方々のためにアクセスしやすいように設計された電子図書の国際標準規格でございます。
 それで,きょうの発表のために橋本様に御意見を求めましたところ,今はかなり病状が進んでしまって,それまでは足の指先で制御できていたものが今はちょっと難しくなり読書も難しくなっているという御連絡がございました。ALSは進行性ですので,本当に一瞬一瞬が大事,そのときに読むことがだんだんできなくなっていく,そういう病状を持つALSの方々は,先ほどの定義で行きますと,電子図書であればアクセスができる。そして,視覚を使って本を見て読むことができるけれども,操作が難しいという範囲に当たります。現在の著作権法37条の文言ですと,言葉どおりに受け取りますと,視覚的著作物を視覚を使って読んでいくということであると,場合によっては適用が難しいという解釈も成り立つ危険性もあるということで,是非ここは,マラケシュ条約の趣旨に沿って,現在の37条の視覚的著作物という概念については,このような方々もカバーできるように改めていただきたいところでございます。
 それから,先ほどの2の丸の2のところに戻りまして,もう少しほかの方々のニーズについて申し上げたいと思います。紙のアレルギーというものがございます。これは小学生などにも見られまして,本に触れられないというアレルギーです。DAISY教科書を使わせてほしいということで,今,DAISY教科書で学習している生徒さんもおります。ほかに化学物質のアレルギーも当然あるかと思います。聴覚障害が意外と忘れられているのでありますが,ここに関しましては,私ども,マラケシュ条約の採択に関わる内閣総理大臣宛ての要望書をお手元の3枚目ですが,2013年6月24日に提出させていただきました。この中の真ん中の「記」の1,「受益者には『手話を必要とする人』が含まれること」という一言に御注目いただきたいと思います。
 聾者と呼ばれる手話を第一言語とする方々は,手話は,いわゆる日本語の書かれた文章とは文法が違いますので,日本語の文章は,いわば外国語のようなものと言われています。そういう環境で書かれた日本語を学びます。私どもは普通教育で英語の学習が義務づけられておりますので,英語を習っているのだから,書かれた英語の読み書きができるのは当たり前,話せて当たり前と言われても,第一言語ではありませんので,そういうふうに言われてもちょっと困るということが多いかと思います。したがいまして,複雑なことを筆談にすれば分かるだろうというふうな誤解が非常に多くございまして,やはり,複雑な文章を書かれて提示されることについては非常な困難を伴う。もちろん,非常に頑張って学習を積んですらすらと読み書きできる方もおられます。しかしながら,それは教育のレベルという問題がございまして,これは日本聾唖(ろうあ)連盟からの訴えですが,今現在の様々な障壁により,そのように自由に読み書きすることは難しいので,当然,難しい文章であればそれを手話で十分に理解したいというニーズがあるわけです。つまり,文字で書かれた出版物を手話に訳して読みたいというニーズがあるということです。
 先ほど,最初に申し上げました電子技術の進歩の中で,手話を,普通のテキストと,先ほど事務局からDAISYの機能について御説明がありましたように,今ここのテキストを手話で表現しているよということをハイライトで示しながら手話を表現するということもできるようになっております。つまり,そのような技術の進歩を生かして,そして社会参加をするための読書の確保ということに妨げにならない条文であってほしいというのが聴覚障害者からの要望でございます。
 続きまして,一般的には「障害」というのは,治療が難しい,治療を続けるのではなくて,もうリハビリテーションをして,そして,その状態を受け入れながら社会参加をしていく,そういうふうな,ある程度状態が固定したものという理解が一般的です。例えば,何かが原因で失明したといたします。そうすると,一般的には半年,1年と治療を続けて,そしてその後に,やはりこれを受け入れてリハビリテーションをした方がいいだろうという状況になります。この治療をするときに,情報アクセスが極めて重要でございます。つまり,インフォームド・コンセントと言いながら十分な情報のアクセスが保証されないのでは自分の判断のしようがない,インフォームド・コンセントが成り立たないわけです。
 その場合に,当然その治療者が責任を持って情報提供をするということもそうですが,当然,セカンドオピニオン,サードオピニオン,あるいは自分で様々な角度から情報を集め,自分で判断をするという機会が必要でございます。そういった場合に,まだ障害が固定していない,治療中であっても,当然,そういった人々も読書を保証するということであってほしいというふうに考えるところであります。
 高齢者の場合は,本当にどれと言って特定できないような複合的な,全体になかなか気力が出ないとかの独自の課題がございます。そういう中でも,スポーツもできないし,旅行も難しいけれども,読書だったらできる。つまり,最後に残された人生を豊かにするための自分の積極的な活動としての読書というものは極めて重要になっていくと思います。したがいまして,このマラケシュ条約のところでは,前文に「特に教育,研究及び情報へのアクセス」というふうになっているのですけれども,これは「特に」というところに注目していただきまして,ここに限定されているわけではないという理解を,是非,お願いしたいと思います。
 と申しますのは,障害者権利条約は,その中の条文にそれぞれ,研究・教育情報のアクセス等も言っておりますが,同時に,社会参加の中に,いわゆる,人生を豊かにするための読書に相当するものも明確にうたっております。そして,著作権の保護がこれらの妨げにならないということを明確に第30条の3で求めておりますので,それとの適合性を持った法整備をお願いしたいと考えるところであります。
 その際に,当然,技術という問題も日進月歩で,今,私が申し上げた以外の方で,こういうことで本当に読書に困っているという方がまだいるのではないかと私どもは考えております。そのような意味で,障害者放送協議会は,加盟団体だけではなく,幅広く障害者全体の円滑な著作物の利用ということを考えて活動しているわけですが,そのような立場から,この対象者の範囲の規定に当たりましては,個別的に挙げていくという形ではなく,著作権法33条の規定が視覚障害,それから発達障害,その他の障害というふうに並べており,その他の障害というものを広く捉えられるように規定している。ただ,33条の場合は教科書に限定されますし,33条は公衆送信権の制限を規定しておりませんので,こちらも是非整備をお願いしたいところではございますけれども,この対象者の範囲の捉え方におきましては,33条のように,その他の障害ということで広く捉えていただくようお願いしたいところでございます。
 これは,障害者権利条約の,特に第2条の障害に関わるコミュニケーションの定義がございますが,そこに様々なコミュニケーションを例示してございまして,それらのコミュニケーションを必要とする人々に,そのコミュニケーション手段によるアクセスの保障をうたっておりますので,少し幅の広い,一般的な障害のある方々という形で規定をしていただければよろしいのではないかと思います。
 そして,あと,2番目の議題と3番目の議題について簡単に申し上げたいと思いますが,お時間はよろしいでしょうか。

【土肥主査】

  どうぞ。

【河村様】

  ありがとうございます。まず,2番目の議題のデジタル・アーカイブに関する意見を簡潔に申し上げます。先ほど申し上げましたように,私どもはICTの活用に,障害者のアクセスの上で非常に期待をかけております。したがいまして,アーカイブというときには,当然これからは,それの著作物の利活用のアーカイブであれば,デジタル・アーカイブも前提になると考えております。その場合に,デジタル化されたアーカイブが,最も円滑な利用を保障しうる技術的な要素を持ち得るものだと考えておりますので,その際に,設計の段階から障害者の対等な利活用ということを考慮に入れることによって,いわゆる,ユニバーサルデザインと私どもは主張しておりますけれども,デジタル・アーカイブにおいてもユニバーサルデザインを目標として構築されるべきでありますし,その中で障害者も共にそれを活用することが可能になる。その場合に,もし,アクセシブルになっていないときには,それを何らかの形でまたアクセシブルにするための作業が必要になります。そのための作業を著作権が妨げることがないように,これはマラケシュ条約と同じ趣旨ですけれども,議題が少し違いますので,そのときに著作権がそれを妨げない,そのような法的措置を要望いたします。
 それから,4番目の課題,3ページの4のところですが,防災に関わる著作物の円滑な利用に関する意見を申し上げます。これは,本日の事務局の御説明にもありましたように,この事務局から配付されました参考資料2の一番下のところに,参考和訳のところでもございますけれども,著作物への効果的,かつ適時なアクセスが非常に重要であります。これが最も重要であるということは,災害のときの災害情報,防災情報において最も顕著に表れます。これは,ある意味で,生きるか,死ぬかを決める情報でございます。
 最近になってやっと明らかになりました災害時に障害者は,より多くの被害を被る※状況があります。統計的には,2011年の東北大震災の際の被災による犠牲者ということで,一般人口の2倍以上というふうに多くの自治体で統計が出てまいりました。つまり,現在の被災状況を見ますと,障害者は極めて,より高い犠牲を払っている,つまり,差別的な状況にあると私どもは考えております。これは,政府の様々な報告書においてもこれを指摘しております。もう一方で,地域で消防団等,救援に当たった人々の犠牲も非常に多かったという指摘もございまして,その結論として,一人一人,地域住民が自ら備える,そして,隣同士で協力し合って,必要なときには避難・脱出をする,そういうことが求められているわけです。それで,気象庁が,「重大な災害が来るので,それぞれ身を守る努力をしてください」というふうなことをおっしゃいます。
 では,どうするのか。これは,ふだんから,まずリスクについて理解していなければ,そのときに何が起こり得るのかが分かりません。リスクを理解した上で,ではどうするのかを隣近所と一緒に考えて,自分一人では避難脱出できない人は家族,隣近所と一緒に学んで訓練し,脱出をしなければ助かる命も助からないということでございます。こういう状況に鑑みますと,特に著作物,これは報道資料等の場合が多いかと思いますが,著作物を円滑に適時に利用できる状況を障害者が保障されないと,こういう一人一人が備えることは不可能に近いと私どもは考えております。住民と一緒に避難訓練をするときに,37条を使って,障害者だけのためにつくった資料を一緒に見ることはできません。したがいまして,この防災に資する資料については,是非,家族,あるいは近隣住民と避難訓練などのときに一緒に使えるようにしていただきたいというのが,もう一つの重要な要望でございます。
 もちろん,発災しているときにはいろいろな緊急避難的措置もあり得るかと思います。その際には,災害情報というのはすごく地域的な情報ですので,被災地域に関わる,障害者,聞こえない人も見えない人も理解できる,著作権を制限してそういう形式になっているものを,障害者の利用であることを確認して提供する手続を省いて必要な情報を伝えられるようにする,そのようなことも含めた法整備をお願いいたします。
 最後に,5番目,聴覚障害者団体の要望としてまとめております。これは,通信手段,放送手段が日進月歩で進んでいくので,それへの対応ということで,一般原則として,受信者が障害がある人であるというふうに限定されていて営利を求めない活動であれば,送信手段の選択は自由にさせていただきたいというふうに要望を申し上げます。
 以上,障害者放送協議会としての要望です。御清聴どうもありがとうございました。

【土肥主査】

  ありがとうございました。ただいまの河村様の発表に関して,今後いかなる対応を本小委として行うべきかについては,今後更に権利者側の意見も併せてヒアリングを受けることも重要であると思いますので,次回の本小委においては,権利者側の団体からも意見を伺い,その上で本件に関する議論を更に深めていかれればというふうに考えております。
 本日は障害者放送協議会から頂いた御意見において御不明な点や,より詳細に伺いたい点が皆様においてございましたら,その点を中心に質疑応答を行えればと考えております。どうぞ。どなたでも結構ですのでお出しください。
 最後の方でおっしゃった防災時の問題なのですけれども,確かに著作権法の問題もあろうと思いますが,地方公共団体とか,様々,そういうところでのバックアップも必要なんでしょうね。

【河村様】

  そうですね,はい。

【土肥主査】

  ほかに,奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】

  ありがとうございました。最後の御発表資料の4ページのところで1点だけ。駆け足で説明されたので念のために確認しておきたいのですが,送信手段を限定しないということで,括弧書きの例で,「従来の地上波放送,インターネットテレビに加え,IPTV等が登場している」というふうにお書きになっておられるということは,IPTV については自動公衆送信や送信可能化に該当しないという御理解をされていて,それで適用されないのではないかと懸念されているという御趣旨と理解してよろしいのでしょうか。

【河村様】

  正直なところを申し上げまして,IPTVは,ITUの方で今,規格化が進んでおりまして,それのアクセシビリティの開発も急ピッチで進んでいるところです。IPTVについて,いわゆる「インターネットテレビ」というふうに呼ばれているものですので,インターネットを通じた放送というふうに理解をしているのですが,それがそのまま現在の法制の中で,この37条の2が適用されるというふうに考えてよろしいのかどうかについての確信がちょっと持てないでいるところから出た意見でございます。

【奥邨委員】

  分かりました。ありがとうございました。

【土肥主査】

  ほかにはいかがでしょうか。はい。

【前田(哲)委員】

  ありがとうございます。先ほど受益者に関しては包括的に規定すべきではないかという御意見を頂いたと思いますが,マラケシュ条約では,対象となる著作物がテキスト形式のものに限定されているということのようなのですが,この対象となる著作物に関して何か御意見はおありでしょうか。

【河村様】

  はい,ありがとうございます。対象となる著作物は当然,障害者放送協議会としては,放送,その他動画も含む著作物全てが同様の円滑な活用を保証する法体制整備を望むと考えております。ただし,マラケシュ条約というふうに限定いたしますと,マラケシュ条約の範囲というのは自明ですので,それについては特に異論があるということではございません。

【土肥主査】

  はい,ほかにございますか。本日は,どちらかというと,視覚等障害者,聴覚等障害者,障害者の範囲についていろいろと要望を頂戴したように思うのですけれども,それらをサポートする主体については特におっしゃっておられませんでしたけれども,その点については何かございますか。

【河村様】

  マラケシュ条約の範囲で行きますと,当然,日本で言いますと何らかの公的な認証を得た団体というふうになろうかと思います。それは,一方で,国際的な交換も含めてマラケシュ条約は設計しておりますので,その内容について一定の保障をするという意味で,一定の技術的水準を要求するというのは当然のことというふうに考えております。ただし,もう一方で,現場のニーズといたしましては,必ずしも文化庁長官の裁定を受けたしっかりした団体でなくても,その場で急に急ぎのものをつくらなければいけないとか,あるいは,特に盲聾者の場合などに顕著なのですが,本当にもうその人に寄り添う形でいろいろなサポートをしないと情報提供できないというケースがございます。そこにまた新しい技術等がいろいろ入ってきますと,当然,そこにはこれまで想定しなかったような,急にスキャンして何かコピーして変形して提供するとか,そういう複製行為,あるいは,送信行為といったものを含むサポートがきめ細かく必要になるというふうには考えております。
 ただ,マラケシュ条約の範囲と,それを更に超えてという部分とを明確に分けて処理することも重要だと思っておりますので,一方で,そういう障害者の待ったなしのニーズに合うような機敏な対応も含むような柔軟な法制度であってほしいと考えております。

【土肥主査】

  はい,ありがとうございました。それでは,本日のヒアリングはここまでにさせていただこうと思っております。次回の本小委においても,この問題を更に権利者側の御意見も伺いながら深めていきたいと思っております。本日はどうもありがとうございました。
 続きまして,2つ目の議事であります「著作物等のアーカイブ化の促進について」に移りたいと思います。本件につきましては,前回,国内の取組状況について御報告をいただいたところでございますが,今回は諸外国の状況について確認をしたいと思っております。御案内のとおり,EUでは孤児著作物指令への対応を含め,アーカイブ化促進に資する取組が行われているようでございます。本日はイギリス,フランス,ドイツ,北欧諸国についてそれぞれ御発表をいただきます。各先生の御発表の後で質疑応答,意見交換の時間を設けます。
 それでは,最初に今村委員,EU孤児著作物指令の概要とイギリスにおける状況について,御発表をお願いいたします。

【今村委員】

  今村でございます。私の方からは,孤児著作物に関連するEUの制度も含めて説明をしていただきたいということでしたので,EU及びイギリスの状況ということで御説明したいと思います。
 まず,EU孤児著作物指令でございますが,これは2012年10月25日に採択,その後27日に発効したのですが,本年の10月29日までに国内実施をして,それ以降に施行する。その後,1年たった後,評価を実施するというプロセスで今後の日程が進められることになっております。この指令の目的として「ヨーロピアーナ」のような欧州デジタル図書館の創設を促進するということ,及び,孤児著作物の状態や孤児著作物に関する許された利用について判断するための共通のアプローチが,孤児著作物の利用に関する域内市場の法的安定性を確保するために必要であるという目的の下,指令は発足いたしました。
 主な特徴について,ここでは7点に集約して整理いたしました。まず1点目ですが,孤児著作物の利用目的と主体が限定されているということです。利用主体としては,加盟国で設立されている公共のアクセスが可能な図書館,教育機関,博物館のほか,文書館,フィルム又は音声遺産の保存機関,公共放送機関ということで限定されているとともに,さらに利用目的も,これらの機関が公益的な任務に関する目的を達成するためにこの孤児著作物の利用が制限,又は例外として許されるにすぎないとしています。
 2点目ですが,客体となる孤児著作物の範囲が限定されているということがあります。これは,加盟国において最初に発行,また放送された次の種類の著作物に対して適用されるということで,公益的な機関の収蔵品に含まれている文書の形式で発行されている著作物と,公益的な機関の収蔵品に含まれている映画又は視聴覚著作物,及びレコード(録音物)ということになりまして,未発行の著作物に関しては基本的に除かれているのですけれども,含まれるものもあります。また,単体の写真というものも,この中には入っていないということになります。
 3つ目ですけれども,これは利用前の入念な調査の要件を設けたことで,どこでこの入念な調査をするのかということについては第3条に詳しく規定されております。
 4点目は,加盟国間における権利者不明状態の相互承認を求めたこととなります。
 2ページ目にまいりまして,5点目,この孤児著作物利用に関しては,適法に利用できる行為態様を限定しまして,それを権利の制限又は例外として位置づけたことがあります。具体的には,複製する行為及び公衆に対して利用可能とする行為に対する例外を規定しております。例えば,孤児著作物を公衆に対して利用可能とする行為や,デジタル化,利用可能化,索引作業,目録作成,保存又は修復を目的として行われる複製行為がこれらの制限,又は例外の範囲に含まれることになります。
 6点目は,権利者判明後の公正な補償金の支払いを要求したこと。
 そして,7点目は,一定期間の経過を待って見直しをするという条項を設けて,先ほど言いました単体の写真の扱いをどうするかということについてこの時点で評価することになるようです。大量デジタル化のために用いられる他の権利承認のための法的枠組,例えば,拡大集中許諾制度などとの関係では,加盟国によるそれらの取決めに影響を与えるものではないということを確認しております。以上がEU全体の孤児著作物指令に関するお話です。
 次にイギリスの状況について,孤児著作物のライセンススキームと拡大集中許諾のスキーム,そしてアーカイブの例外と,さらに孤児著作物指令を導入する規則を導入し,これらは様々なものがあるので,それについて説明してまいりたいと思います。
 2013年の企業・規制改革法では,これはイギリスの法律ですが,孤児著作物に関する強制許諾制度とともに,拡大集中許諾制度の2つのスキームを所管大臣が定めることができるといたしました。強制許諾制度は孤児著作物の問題に対応するものであり,拡大集中許諾については,オプトアウトベースの利用許諾によって権利クリアランスの過程を簡素化することを目的とするものです。これらのスキームは,それを実施する二次的立法としての規則が制定された後に運用が開始することになりますが,2014年10月1日,今月の1日に拡大集中許諾に関する規則が施行されました。他方,2014年10月29日,来週の29日ですが,孤児著作物ライセンスに関する規則と,EU孤児著作物指令を実施する規則がそれぞれ施行される予定となっております。
 他方,これらのほかに2011年に発表されたハーグリーヴス・レビュー報告書では,デジタル世界における大量の作品の少額な取引に対応するシステムとして,デジタル著作権取引所を創設することが提案され,このアイデアは2013年6月になって「著作権ハブ」という名称のシステムとして始動し,現在はテスト・フェーズの段階にございます。このほか,今年になりましてアーカイブに関する例外規定が拡大されるという法改正もありました。
 まず,孤児著作物のライセンススキームですけれども,対象となる作品,権利者については,著作権で保護されている関連する作品が対象となるのですけれども,これには著作物,実演が対象となりまして,さらに,他の関連する作品に組み入れられているようなもの,すなわち,書籍に写真が入っているとか,そういうものも含むということになります。
 3ページ目の上の方ですが,発行されているかどうかは区別されておりません。また,不明な権利者には,著作権者だけでなく,その排他的ライセンシー,実演家の権利を有する者及びその排他的ライセンシーが含まれることになります。孤児著作物ライセンススキームを利用するには入念な調査が必要とされます。入念な調査が適切になされていない場合にはライセンスは与えられないという結果になります。参照しなければならない関連情報としては,イギリスの知的財産庁であるIPOが管理する孤児著作物登録簿,又はOHIMの孤児著作物データベース,及び適切な情報源を示しております。入念な調査に関しては,既に政府が公表した規則やガイダンスによってかなり詳しく案内されております。
 次に,許諾を与える機関ですが,これについてイギリスでは,知的財産庁長官がこのライセンスを付与することにしました。
 次に,孤児著作物登録簿ですけれども,IPOが孤児著作物登録簿を管理することになります。登録簿には利用の方法も記載されるとともに,当該作品上のメタデータ,著作権の詳細が電子化されたものも保存されることになります。
 ライセンス,具体的に孤児著作物に対して与えるライセンスにつきましては,IPOはライセンス料を徴収しなければいけないという規定になっております。ライセンス料の要件は,孤児著作物が非孤児著作物との関係で不公平な条件の下で競争することを防ぐためのものと理解されており,例えば,図書館などで孤児著作物をあさって,ただで使えるからそれを使うというような不公平,すなわち,使用料を払わないで使うという事態が生じないようにという配慮のようでございます。ライセンスというものが与えられますけれども,これは英国内でのみ有効な非独占的ライセンスであり,7年間を超えない範囲で有効となります。
 また,3ページ目の下の方ですけれども,多数の個別の孤児著作物を含む申請も可能という扱いをすることになります。
 4ページ目になりまして,ライセンス料ですが,これは著作物の種類や利用の類型との関係で適切なレートで設定される。また,不明だった権利者が現れた場合のために,少なくとも8年間はIPOによって保管されるということになります。不明の権利者が,IPOがライセンスを付与した後に現れた場合は,再び,自分の著作物を統御することができるとともに,確保されていたライセンスフィーを請求することができます。8年経過後には政府による利用が認められておりまして,当初の未請求金については,孤児著作物ライセンススキームの設立及び運営費用に充て,余剰金があれば,社会,文化,教育活動の基金として用いることができるということになります。
 モラルライツとの関係という点がございます。イギリスでは,氏名表示権については,CDPA78条の規定に従って,権利主張がなされていない限り侵害にはならないのですけれども,この孤児著作物のライセンススキームとの関係では,権利者がモラルライツを主張していたものという推定を前提に運用がなされます。IPOは,ライセンスを付与する際にモラルライツへの影響の可能性について考慮するとされておりまして,卑近な例ですけれども,ベジタリアンの作曲家の楽曲を畜産業者の広告に使うというような形で,本来嫌がるだろうということが想定される場合には,IPOはそれを考慮するということなのかと思われます。
 時間との関係で,4ページ目の残りの部分は,下から4行目のところから説明します。英国の国際的な義務との適合性という観点についてイギリス政府は,同スキームは権利者を現在よりもよく立場に置くから権利者の権利を阻害することにならないということをはっきり述べております。
 5ページ目に入りまして,EU孤児著作物指令の国内実施でございます。EU孤児著作物指令を実施する規則が施行される予定で,これは先ほど申し上げましたとおりでございます。先ほど述べました孤児著作物ライセンススキームと,この孤児著作物指令のスキームとの関係が問題なのですけれども,英国政府の考え方としては,孤児著作物ライセンススキームは,その範囲と適用においてEU孤児著作物指令よりも広いものであり,当該指令にとって相互補完的なものになるように政府によって設計されているという具合に説明しております。
 例えば,155行目にありますように,指令の方では,非商業的な利用のみを目的として公衆がアクセス可能な文化,遺産組織により孤児著作物をデジタル化,オンライン化で利用することに焦点が置かれたものですけれども,イギリスの孤児著作物のライセンススキームについては,そのような制限はない。もっと幅広く商業的な利用も含めて利用することがあります。
 5ページ目の174行目に参りまして,イギリスでは拡大集中許諾のスキームも導入をいたしました。集中管理団体は英国内でECLを運用することを所管大臣に対して書面で申請をいたします。所管大臣は,一定の基準及びセーフガードを充足しているかどうかという観点からこの申請を審査し,ECLを運用することの可否を判断して当該団体に授権するということになります。ECLの手続を申請するかどうかについては,それぞれの集中管理団体が判断します。権利者は,オプトアウト権を留保しております。申請は,当該集中管理団体は,運用を予定するスキームに関する著作物と利用に関する権利者の実質的な多数を代表していることを証明し,構成員がECLの申請に同意していることを示した場合にのみ認められることになります。ゆえに,問題となる著作物の利用に関して実質的に代表する集中管理団体が存在しない場合,ECLは利用できない。例えば,英国における写真の著作物の利用の分野における利用可能性は低いというふうに考えられております。
 なお,このECLの仕組みですけれども,後に小嶋様の方から説明があると思いますが,ECLにはいろいろなものがあるのですが,イギリスのECLについては,いわゆる一般ECLに該当するような性質のものとして創設されたものと考えられます。特に利用目的とか,そういうものが法文上は制限されておりません。
 外国を本国とする著作物への対応が問題となりますが,これについては,外国の著作物が含まれている可能性がある場合も含めて,申請する集中管理団体は,提案されたスキームについて権利者が知ることができる可能性がある場において公表するための相応の努力をすることを証明する必要があるということになっております。
 孤児著作物ライセンススキームとEU孤児著作物指令とECLの関係につきまして,英国政府は,ECLは,孤児著作物及びその可能性のある著作物のライセンスの標準的な解決手段としては意図していなくて,飽くまで孤児著作物対応としては,孤児著作物ライセンススキームとEU孤児著作物指令の方に委ねているという原則のようでございます。
 最後のアーカイブ関係の動きでございますが,イギリスにもアーカイブに関する著作権の例外規定が幾つかございます。そのうち特にアーカイブ化との関係で問題になるのは,CDPA42条で,これについて本年6月1日施行の法改正で幾つかの点で改正がなされました。具体的には,保存又は交換を目的とした著作物の代替複製物の作成に関して,著作権の制限が適用されることになる主体と対象を拡大しています。主体については,従来,図書館又はアーカイブの司書,又は記録保管人とされていた部分を,図書館,アーカイブ又は博物館の司書,記録保管人又は学芸員というふうに改正し,著作権を侵害せずに複製できる対象については,従来の対象に加えて,美術の著作物やレコード,映画も含めるという対応がなされております。また,複製できる回数やデジタル化対応なども可能とするような解釈のようです。日本と比較しますと,我が国の31条1項2号の規定に相当するイギリスのCDPA42条の規定が,主体,客体の緩和という形で,我が国の制度により近づいたと言えるのではないか。イギリスの方が,より広いということでは,どうやらないようでございまして,我が国が対応しているものに,より近づいているという側面が強いのではないかと思います。
 ちょっと時間が長くなりましたけれども,最後に,非常に特徴的な点としては,イギリスは非常にライセンスを重視する国ですけれども,このアーカイブの例外規定に関しては,オーヴァーライドできない強行規定であるということを条文上明記しており,これはイギリスにとって新しい方向性ではないかと思います。
 少し長くなりましたが,私の報告はこれで終わりにさせていただきます。ありがとうございました。

【土肥主査】

  今村委員,どうもありがとうございました。
 続いて,井奈波委員,フランスにおける状況について御発表をお願いいたします。

【井奈波委員】

  では,井奈波の方からフランスにおける状況について説明をさせていただきます。
 資料は2点ございまして,パワーポイントで作成した資料の方が分かりやすいかと思いますので,適宜,そちらの方も御参照いただければと思います。
 まず,現在,フランスの制度がどうなっているかという全体像を説明したいと思います。フランスにおいてなのですが,情報社会指令の国内法化の段階で例外規定として122-5条1項8号が創設され,この規定は公共図書館等による保存目的での著作物の複製と現場での著作物の閲覧目的での複製を著作権の例外として認めたという状況です。この規定では,著作物の公衆送信というのは例外の射程に入っておりません。
 次に,2012年3月1日法で書籍電子利用法が制定されました。こちらの方は後ほど詳しく説明したいと思いますが,趣旨については割愛させていただきます。
 3番目の孤児著作物指令の国内法化の状況がどうなっているかということなのですが,今,検討中の段階にありまして,一応,法律や規則の草案を完成させてはいるようでありますが,まだ草案の段階にあり国会の方には上程されていない状況にあるようです。ですから,欧州指令の国内法化の期限が本年10月なのですが,期限内の国内法化の達成は難しいのではないかと思われます。
 これらの制度の関係ということで,スライドの3番目ですが,公共機関が利用できる制度と民間が利用できる制度というふうに分類できるのではないかと思います。このうち,書籍電子利用法については,利用できる主体を特に制限する規定がありませんので,公共機関も利用できますし,民間も利用できるという状態になっております。
 次に,書籍電子利用法の簡単な説明に移らせていただきます。スキームを図式化したものがスライド4に記載してあります。この書籍電子利用法ですが,フランスの国立図書館が入手不可能な20世紀の書籍のデータベースを整備し,このデータベースに登録された書籍について認可された集中管理団体が利用者に対して複製と配信に関する利用許諾と利用料の徴収を行って,著作権者や出版者に徴収した利用料を分配する制度になっております。データベースは「ReLIRE」という名称でフランス国立図書館のホームページ内に開設されており,もう既に稼動しております。
 集中管理団体なのですが,これは既存の集中管理団体でSOFIAという団体があるのですが,SOFIAは公貸権とか複写複製権を管理している集中管理団体ですが,書籍電子利用法の集中管理団体として認可を受けて集中管理を行っております。入手不可能な書籍の著作者,又は,その書籍に関して印刷形式における複製権を有する出版者なのですが,この入手不可能な書籍がデータベースに登録されたときから6か月以内に異議を申し立てることができます。異議を申し立てた場合には,この集中管理のスキームからは外れることになります。異議を申し立てない場合には,そのデータベースに登録されたものになっており,集中管理のシステムに組み込まれて集中管理団体によって電子化と配信が許諾されるということになります。一旦集中管理に組み込まれた場合でも,著作者や印刷形式における複製権を有する出版者が書籍を集中管理の対象から外すことができます。
 集中管理の対象になった書籍については,まず,入手可能な書籍の印刷形式による複製権を有する出版者に対して書籍の電子化,及び配信による利用許諾を提案することになり,出版者がそれを承諾した場合には,集中管理団体が10年間の独占的利用許諾を与えることができるというシステムになっております。出版者は,この定められた期限内に電子化と配信を行わなければならないのですけれども,電子化と配信を行って,その利用料をSOFIAに納めて著作者に分配されるという仕組みになっております。ですから,印刷形式による複製権を有する出版者に対して,ある意味,優先権を与えられたという状況になります。
 出版者がその集中管理団体による提案を拒否した場合なのですが,ここで第三者に対する利用許諾が初めて認められることになります。第三者に対する許諾は5年間の非独占的な許諾ということになります。徴収された著作権料は,出版者と著作者で分配されるという仕組みです。
 現在の運用状況ですが,次のスライドに移りまして,これは2013年3月21日付で新たな書籍のリストがReLIREのサイトで公表されました。これが初公開ということになります。異議の期間が6か月あるのですけれども,2013年9月21日までに異議を述べるという仕組みになっており,この3月21日と9月21日というサイクルは毎年同じサイクルで繰り返されていきます。2014年9月21日時点で集中管理の対象にされた書籍は3万4,700点あります。2013年にリストに掲載された書籍は6万点となっており,2013年7月1日で異議が956件出た。リストへの追加要請は誰でもできるのですが,追加要請が200件あったという状況で,若干,数字が合わない状況になっているのですが,最初の6万点というのが目標だったのかなというふうにもちょっと考えられるのですが,この数字が合わない理由は判明しておりません。
 次に,孤児著作物指令の国内法化の対応状況です。まず,書籍電子利用法が制定された段階で孤児著作物に関する定義規定だけ立法化されております。この書籍電子利用法では定義を導入しただけで孤児著作物にどのように法的効果を与えるかについての規定は欠落した状況になっておりました。
 現在,検討中の孤児著作物指令なのですが,これを国内法化する草案は,ほぼ欧州指令の規定をスライドさせたという内容になっております。知的財産法典に1節を新設して孤児著作物指令の国内法化に関する立法を行う予定になっております。草案によりますと,書籍電子利用法で新設された定義規定とか書籍電子利用法について特段の変更を加える規定は存在していないのですが,そうすると,この両制度の整合性に疑義が生じる状態になってきます。この点は後ほど説明します。
 草案の内容なのですが,これはほぼ,欧州指令の規定をスライドさせたものと考えてよいと思いますので,時間の関係上,割愛いたします。
 次にスライド8に移ります。ここから先は制度上の問題点を指摘しております。まず,書籍電子利用法についての問題点ですが,孤児著作物指令に関する入念な調査がまず問題になると思います。書籍電子利用法におきましては,入手不可能な書籍を対象にしているのですが,実際,孤児著作物となり得る書籍というのも含まれてしまいます。孤児著作物の定義規定からしますと,入念な調査が必要となってくるのですけれども,孤児著作物となり得る入手不可能な書籍については入念な調査が必要なのかどうかですとか,入念な調査が必要ならば誰が調査義務を負うのかという点に関しては明らかではないという状況です。ただ,孤児著作物という立場ではなく,著作権者不明の著作物として実際に入手不可能な書籍としてデータベースに登録されてしまいますと,孤児著作物になり得る書籍であっても,結局は入念な調査なく集中管理の下に置かれるのではないかというふうにも考えられます。
 次の問題点として,出版者が著作権料の分配を受ける理由が不明という点が挙げられます。書籍電子利用法によりますと,出版者というのが,これは紙媒体での印刷形式での出版権を持った出版者なのですが,集中管理団体から出版者が使用料の分配を受けることになります。ただ,出版者がどのような法的根拠に基づいて利用料の分配を受けるのかが全く不明という状況にあります。ここの出版者なのですが,書籍を印刷して発行する権利を出版者が有するという内容の契約はしていると思うのですけれども,書式を電子化して配信するということに関しては権利がないはずで,そういう前提で集中管理という状況になっているのですが,その出版者が実際には集中管理から利用料の分配を受けるようになるということで,その法的根拠というのは全く不明ということになります。
 次に,孤児著作物指令の国内法化に関する問題点なのですが,これは欧州指令にも共通した問題と思われるのですけれども,まず,共同著作物に関して欧州指令ですと,権利者のうちの一人が判明して所在が確認されていても,その権利者が承諾していれば著作物一体として利用の対象とされるということで利用可能性は広げられているのですけれども,ただ,著作権者の異なる複数の著作物が関与する場合に,それぞれの著作物について入念な調査が必要になってきてしまうという点で利用が妨げられるのではないかという問題が指摘されております。
 次に,入念な調査についてです。フランスも指令のANNEXに調査源が定められているのですが,これを若干補充して流用したような調査源が政令で定められることになります。この調査源全てに問合せにしなければいけないのかという点とか,この調査が有償か無償かという点等,様々な問題が挙げられております。
 次に,有償の提供という点についてですが,この入念な調査費用や電子化費用をどのようにして賄うのかという問題が指摘されております。指令の6条2項によりますと,電子化と孤児著作物の公衆への提供に関する費用をカバーする目的で文化施設が収入を得ることができると定められているのです。そうすると,入念な調査に関する費用を賄うための有償の提供は認められないのではないかという問題が出てきます。
 次に,利用者による利用の点です。これは,明記はされていないのですが,エンドユーザーの側(がわ)では当然,私的複製の例外の範囲で複製が認められるのみであるという解釈がされています。また,エンドユーザーによる著作物に対するアクセスとか複製の可能性を制限する技術的保護手段を導入すべきかについても検討課題とされております。
 次に,書籍電子利用法と孤児著作物指令を国内法化した場合の問題点が発生してきます。書籍電子利用法によりますと,公共の図書館の利用というのは,一般の書籍電子利用法で定められる一般の利用からは一歩引いた形となっておりまして,具体的には,集中管理団体が公共図書館に対して,最初の利用許諾から10年たっても印刷形式における複製権を有する権利者が見つからなかった入手不可能な書籍である蔵書をデジタル形式で複製し,登録者に向けて無償で配信することを許諾することを定めております。
 そうすると,公共図書館と一般の出版者が競業を避けるための規定というようにこの規定は考えられますが,孤児著作物指令が国内法化されてしまいますと,こういった配慮が,スライドの11番目の表にまとめましたとおり,いろいろなところで抵触を生じてきてしまいます。まず,書籍電子利用法によりますと,利用の対象が10年間,複製権者が見つからなかった入手不可能な書籍である蔵書に限定されているのですけれども,孤児著作物指令によれば10年間を待たないで無償で利用できることになってきて,完全に孤児著作物指令と書籍電子利用法の規定が矛盾するという形になりますが,現段階の草案では,その修正案は存在しておりません。そうしますと,両制度のすみ分けをどう解決するのか,現段階では全く不明な状態になっており,結局,書籍電子利用法では一般のユーザーと公共図書館との利害調整をしたという形になっているのですが,そういった利害調整がこれからどうなっていくかというのは,今の段階では少し不明という状態にあります。
 私からの報告は以上です。

【土肥主査】

  ありがとうございました。それでは,続いて,本日は筑波大学大学院の潮海教授にお越しいただいており,ドイツの状況について御発表をお願いしております。それでは,潮海様,どうぞよろしくお願いいたします。

【潮海様】

  潮海でございます。ドイツについて報告させていただきます。
 初めに,ドイツはEUの加盟国の中でも割と早く,2013年4月に孤児著作物指令を国内法化したのですが,いろいろな法的な問題がこれから生じると思います。制度の概要と問題点,日本法への若干の示唆を報告させていただきます。
 まず,「はじめに」のところですが,2012年10月のEU指令に従って改正を行った部分は,著作権法の制限規定のところを改正しまして,他方で,EU指令とは別個に,著作権等の管理に関する法律のところで,絶版の著作物の場合に著作権管理団体電子化・送信可能化を許諾する権限を推定する規定を置きました。つまり,大きく二本柱として,著作権の制限規定を拡充するという柱と,もう一つの柱として,著作権管理団体法に,絶版著作物について著作権管理団体に電子化・送信可能化の権限を推定という改正になっております。
 ドイツ法の経緯です。ドイツ国内で,Zweiten Korb, Dritten Korbの3段階で,著作権法の改正作業が進められていた中で,この孤児著作物については国内法の立法を当初,諦めていたようなのですが,突如,EU指令を履行するということで,2013年2月に連邦法務省が草案を公表しました。その目的は,情報化社会に著作権法を適合させるということと,EU指令を速やかに履行することになっております。ただ,1点,ドイツ国内法でデジタル図書館の整備のために,それ以前に立法された規定があります。1ページ目の2の(1)ですけれども,未知の利用方法の許諾を無効とする規定は廃止され,その関係で,利用許諾の時点では分からなかった新しい利用方法,例えば,送信可能化については権利許諾を擬制するという137l条などの規定を導入しており,将来の書籍の電子化とともに,古い書籍の電子化についても一定の範囲で国内法の整備を進めていたようです。
 このドイツのデジタル図書館の立場は,Googleのようなオプトアウトではなくて,著作権者の許諾を求めるという方式を採用すると宣言しておりました。このドイツの,デジタル図書館というのはヨーロピアーナの一環として捉えられております。
 2ページに,新しく導入された著作権の制限規定が書いてあります。これは条文を訳した形になっておりますが,ほぼEU指令を踏襲しておりますので,詳しいところは省略させていただきます。2ページの真ん中辺で,「入念な調査については,付録(Anlage)で掲げられている資料を最低限使用する必要がある」と規定しております。付録には,著作のカテゴリーごとにどのような資料を参照すべきということが書かれていります。
 それから,2ページの下の方に,利用する当該機関は入念な調査をしたことを文書化し,ドイツ特許・商標庁に届ける必要があり,それがOHIMに転送されることになっております。それから,61b条で,権利者は当該機関に対して,適切な報酬を請求し得ることになっております。
 それから,3ページの上ですが,ドイツ特有なものだと思いますが,未公表著作物についての利用許諾の擬制を一定期間のみ規定しております。
 それから,もう一つの柱であります著作権等の管理に関する法律では,絶版著作物について,一定の要件で,拡大集中のような形で,著作権管理団体が当該出版物の電子化を許諾する権限を有すると推定しております。これは,2011年のEUレベルで実質的な合意がなされたようで,「Memorandum of Understanding」における合意を,ドイツにおいては著作権等の管理に関する法律により実現したものと考えられます。EU指令の前文4項も,本指令は,これら関係者間の自主的な解決策に影響を与えないと述べております。
 具体的には,13d条1項に,5つの要件を満たす場合に,著作権管理団体に入っていない著作者の著作物についても,管理団体は第三者に複製権と公衆送信権を許諾する権限を有すると推定しております。絶版著作物が公表されたものであること,それから,絶版著作物がアクセスし得る図書館等々の施設に存在すること,非営利目的等,5つの要件が規定されております。それから,13d条2項でいつでも異議を唱えうるというふうになっております。登録もドイツ特許庁になっております。
 ドイツ法上の問題点についてですが,識者の指摘するところによりますと,1つ目は,適用を受ける利用主体は公の機関,図書館等々に限定されているということと,ドイツ法は,EU指令を忠実に国内法化しておりますために,EU指令が今後の課題としている単体の写真や画像については含まないと考えられます。それから,著作権等の管理に関する法律が対象とする絶版の著作物も,主に書籍等についての合意と考えられます。
 第2は,EU指令を国内法化しますと,それが事実上遡及してしまって,137l条によれば,一定の期間は個々の著作物のデジタル化には,本来許諾が必要であったのに,このEU指令を入れたおかげで不要になってしまったという点が不整合として批判されておりました。これは,EU指令を国内法化する以前から言われており,これがドイツ的な問題点の指摘だろうと思います。
 第3は,刑事罰が大きな問題になるというふうに識者は言っております。民事の場合は問題が生じないかもしれないですが,刑事罰が大きな問題となっておりまして,ヨーロピアーナのように過去の絶版の著作物を,著作権者の許諾なしに大量にデジタル化し公衆にアクセス可能にすることが大前提としますと,刑事罰の問題が著作権法上生じうる点が指摘されております。そのために萎縮効果が大きいのではないかということが指摘されております。
 第4に,この入念な調査を要求すると,フランス法と同じような問題だと思いますが,多大な時間がかかる恐れがあるということと,ドイツ著作権法はどういう資料を参照すべきであるかという点と,利用主体である施設などを述べているだけで,どの期間,どの程度の調査をすれば,この「孤児著作物」に当たるとされ,思い違いをしても免責されるのかは不明であるということです。
 第5に,絶版著作物については,一種の拡大集中制度と考えられますが,様々な制約があり,その正当化根拠には争いがあると考えられております。この点につきましては,後ほど小嶋様が報告されると思います。
 日本法への示唆です。1つ目は,過去の著作物の電子化について,ドイツ法のように1966年以前の著作物の権利処理について,権利許諾されていない権利者不明著作物について擬制してしまうという点が日本法でも法的な問題になりうるのではないかと思います。
 第2に,我が国の裁定による著作物利用との比較ですけれども,文言上は「入念な調査」と類似はしているのですけれども,2点ほど違いがあると考えられます。ドイツ法では,入念な調査をどの程度行えば,不明確であって,誰が入念な調査を行ったかを判断するのが不明確であるということが懸念されております。これに対して,我が国の裁定は,供託など,手続はそれより面倒な点もありますけれども,利用者が何をすればよいかは比較的それよりは明確ではないかと思います。それから,ドイツ法の「入念な調査」ではOHIMへの登録などが必要ではありますけれども,行政庁の判断を文言上は必要とされておらず,「孤児著作物」に当たるかどうかだけが要件となっております。
 第3に,このドイツでは絶版著作物についての拡大集中につきましては,拡大集中制度自体に問題があり,美術や写真は含まれていないと考えられます。ドイツでは著作権管理団体が発達していますが,我が国では,特に出版等では発達しておりませんので,同様の制度の導入は,現時点では難しい面があるように思います。
 雑駁(ざっぱく)な説明ですが,私の報告は以上です。

【土肥主査】

  どうもありがとうございました。
 それでは,続きまして,日本学術振興会特別研究員の小嶋様にもお越しいただいており,北欧諸国の状況について御発表をお願いしております。小嶋様,どうぞよろしくお願いいたします。

【小嶋様】

  日本学術振興会の小嶋でございます。本日は報告の機会を与えていただきありがとうございます。
 私からは,北欧諸国の拡大集中許諾制度について発表させていただきます。本日は時間の制約もございますのでデンマーク法を中心に御説明差し上げたいと思います。
 御承知のとおり,拡大集中許諾制度とは,著作物の利用者と相当数の著作権者を代表する集中管理団体との間で自主的に締結された利用許諾契約の効果を管理団体の構成員ではない権利者にまで拡張して及ぼすことを認める制度でございます。
 簡単な概念図を配付資料6の1ページに書いておきました。この制度の下では,利用者はECL契約の範囲内であれば一定の使用料を支払うことにより,事前に入念な調査を行うことなく,また,管理団体の構成員であるか否かを問わずに著作物を利用できることになります。
 配付資料1ページの下の部分からEU法体系における位置づけについて書いてありますが,この点については先ほど今村委員より御説明いただきましたので省略させていただきます。
 次に,デンマーク著作権法における拡大集中許諾制度の位置づけについて御説明申し上げます。配付資料の2ページの下のところからです。デンマーク著作権法の16条及び16a条は,図書館及びアーカイブに関する権利制限を規定しております。例えば,公共図書館等による保存を目的とした複製,あるいは絶版著作物の複製,複製物の館内での貸出し,あるいは,館内の端末で利用者に著作物を提供する行為などが権利制限の対象とされています。もっとも,これらの権利制限規定の範囲を超えて著作物を利用する場合,例えば,インターネットを通じて所蔵資料をユーザーに提供するような場合には,個別に許諾を得るか,あるいは,拡大集中許諾制度を利用する必要があるということになります。
 これまでデンマーク法では,図書館及びアーカイブに関しては,権利制限規定と拡大集中許諾制度という2つの制度により対処がされてまいりました。今後はこれに加えまして,EU孤児著作物指令の国内実施法として事前の入念な調査を条件とする権利制限規定が導入されます。2014年改正なのですが,現時点では公表されている資料が少ないため,本日の報告で詳細に立ち入ることは残念ながらできません。
 次に,拡大集中許諾制度の基本構造及び要件について御説明いたします。この制度に基づく拡張効果,すなわち非構成員にまで利用許諾契約の効果が及ぶためには,1つ目として実施主体に適格性が認められること,2つ目に利用者と管理団体との間でECL契約が成立すること。3つ目に,ECL契約が著作権法上のECL規定の範囲内に含まれること,これら3つの要件を満たす必要がございます。
 まず,実施主体の適格性に関しては,1つ目として,契約の当事者となる管理団体が国内で利用される著作物の著作権者の相当数を代表している必要がございます。2つ目に,スウェーデンを除く国では,政府,すなわち文化省の大臣による認可が要件とされているところでございます。この実施主体に関して特に問題となるのが,1つの分野において複数の団体に適格性が認められるかという点です。デンマーク法においては,現行法にこの点に関する明文の規定はないのですが,起草過程及び学説においては,一つの団体のみが適格を有するとされております。また,実際にもそのような運用がされているということであります。実際上の観点からも同種の著作物について同種の権利を管理する団体が複数存在しますと,利用者及び権利者双方にとって混乱が生じるおそれがあることになります。
 2つ目の要件として,拡張効果が生じるためには,適格を有する管理団体と利用者の間で自主的な交渉に基づいて利用許諾契約が締結されることが必要でございます。すなわち,管理団体は,契約を締結しないという選択肢も有しているということになります。
 3つ目に,拡張効果が生じるのは,著作権法上のECL規定の対象となる著作物及び利用態様に限られます。詳しくは,配付資料の10ページに添付いたしました表を御覧ください。デンマークでは,従来,個別のECL規定によって拡大集中許諾制度を利用できる範囲が限定されてまいりましたが,2008年に一般ECL規定というものが導入されました。これは受皿規定として機能するものですが,これにより,拡大集中許諾制度を活用できる範囲について法律上の制限は存在しないことになりました。したがって,同制度の運用に対するコントロールは主に,政府による管理団体への認可を通じて及ぼされることになります。
 次に,非構成員の利益を保護するための制度として待遇に関する平等原則,個別の使用料請求権,オプトアウト権の3つが存在しております。このうち,拡大集中許諾制度において必要不可欠な要素であるとしばしば説明されるのは,非構成員によるオプトアウトでございます。しかし,実際のところは,先ほどの10ページの表を見ていただければ分かるのですけれども,全ての分野においてオプトアウト権を行使することが認められているわけではありません。また,オプトアウト権が制度として認められている場合であっても実際に行使されることはまれであり,学説等においては,事実上,空文化していると評価されているところでございます。
 次にアーカイブ関連の拡大集中許諾制度の運用例をデンマークに限らず御紹介したいと思います。配付資料の6ページの下のところからになります。この制度の最も有名かつ大規模な運用例としては,ノルウェー国立図書館によるノルウェー語で書かれた20世紀の所蔵資料をデジタル化して無償で公開するプロジェクト,「Bookshelf」と呼ばれる事業を挙げることができます。
 この事業は,2009年と2012年に国立図書館と集中管理団体との間で締結されたECL契約に基づいて行われており,2017年の完成を目指して作業が進められているということであります。
 2つ目の運用例としては,デンマークの公共放送機関(DR)が,自身のアーカイブに保存されている過去に制作した番組の一部を,オンデマンドで無料配信するというサービスがございます。
 配付資料には3つ目がありますが,時間の関係で省略させていただきます。
 次に,拡大集中許諾制度に対する識者の評価を御説明いたします。この制度の利点といたしましては,第1に,利用者にとって事前に入念な調査を行う必要がない,あるいは,非構成員であるかを気にする必要がないということで,権利処理に係る費用を大幅に削減することができる可能性があることが指摘されております。
 2つ目のメリットといたしましては,大規模なコンテンツ提供者との関係で,交渉力に劣る個人の権利者である非構成員にとっては,相当数の権利者によって受け入れられた契約に基づいて自らの著作物が利用されるということで,その利益が促進されることにつながるという指摘もなされております。そのほか,利用条件を契約で調整することができるという柔軟性の高さ,法的安定性が高いため,リスク回避的な公の文化機関による著作物の利用促進につながるなどのメリットが指摘されているところであります。
 これに対して,この制度の問題点といたしまして,1つ目には,非営利の文化機関にとって経済的な負担が大きくなるおそれがあると指摘されております。すなわち,この制度において,利用者は権利者を特定することが可能な著作物と権利者不明著作物を区別することなく,全ての著作物について一定の使用料を支払わなければなりません。したがいまして,大量の著作物を長期間にわたって利用する場合には使用料の総額が大きくなってしまうため,実際にこの制度を利用することができるのは,十分な予算を有する大規模な文化機関に限られてしまうのではないかという指摘もなされております。
 2つ目の問題点といたしましては,権利者不明著作物を利用するために払われた使用料の支払先として集中管理団体が適切かどうかという問題がございます。管理団体は,オプトアウト権が行使された権利者のものを除く全ての著作物について,利用者から使用料を徴収し管理することが認められています。しかし,実際には,権利者不明著作物の権利者の多くが使用料の請求を行わない可能性が高いと言われています。したがいまして,分配の対象とならなかった使用料は,例えば,文化活動等の共通目的事業などに充てるという選択肢がございますし,実際,そのようなことを行っている場合もあると言われています。ただし,その場合には,この制度の正統性をいかにして担保するかという問題もありますし,外国の権利者の権利をそれで保障していることになっているのかという問題も指摘されております。
 最後に,日本法への示唆について簡単に述べさせていただきます。この制度は,大量デジタル化事業における権利処理の費用を削減するという点で,我が国の文化機関にとっても魅力的な制度となる可能性はあると言えます。もっとも,仮に我が国が同制度を導入するとした場合に大きな問題となるのは,制度ができたとしても実際に利用者と管理団体との間で利用許諾契約が締結されるのか否かが大きな問題となります。
 実際,北欧諸国において拡大集中許諾制度が成功している背景としては,著作権の集中管理に関する市場がもとから発展しており,また,著作物の管理を団体に委ねることについて好意的な文化的背景が存在するというような事情が説明されているところです。
 これに対して,我が国においては,音楽の著作物など集中管理が既に発達している分野もございますが,必ずしもそうではない分野もございます。また,仮にこの制度が導入されたとして,さらに利用許諾契約が結ばれたとしても,非構成員によるオプトアウトが多くなされた場合にはこの制度の利点が失われかねません。したがいまして,本制度の導入を検討する際には,我が国においても集中管理市場が十分に機能するかどうか,この点に関して慎重な見極めが必要となるのではないかと考えられます。
 雑駁(ざっぱく)ではございますが,以上で私からの報告を終えさせていただきます。ありがとうございました。

【土肥主査】

  小嶋様,どうもありがとうございました。それでは,若干時間を延長させていただいて質疑応答に入りたいと思います。特に潮海様,小嶋様は,次回は多分おいでにならないと思います。今村委員とか井奈波委員はまたここにおいでになるかと思いますので,北欧及びドイツの状況などについては特に御質問があれば本日よろしくお願いいたします。どうぞ。村上委員,どうぞ。

【村上委員】

  むしろ答えは次回でも結構なのですが,EU法の法律の枠組みについて伺っておきたいと思います。結局,今村委員への質問になると思います。
 まず,1ページに「客体となる孤児著作物の範囲」というのが問題になろうと思います。これは,別にこの指令だけではなくてほかのEU法の指令とか何かを見ても,これは各国で,少なくとも統一的な厳格な実体ルールというのはないというか,結構,各加盟国の法制によってその範囲に違いはあるのだというのが前提でいいのかどうか,これが1点目の質問になります。
 それから,2点目が,下の方に「権利者不明状態の相互承認を要求したこと」ということが書いてあるので,こうすると,結局,各加盟国との相互承認の関係では厳格なルールを決めてある国の制度が優先して適用されるという解釈でいいのかどうか,違う場合の相互承認の効果ということになります。
 もう一つが,「加盟国における」ということが書いてあるので,これは域外の国との関係での相互承認というのは一切触れていないということの感じでよろしいのか。例えば,日本とか,アメリカとか何とかという意味で域外の国の孤児著作物の権利との相互承認のような調整というのは触れていないということか。
 最後は,2ページ目に「その他の法的枠組」と,先ほどから何度もほかの委員から出ていました拡大集中許諾制度とか,ほかの許諾制度との関係では,取決めに影響を与えるものではないことを確認して書いてあると,ここの読み方なのですが,これは文字通り,ダイレクトに文言を読んでいいのか。先ほど言った,仮に抵触するような感じの制度が加盟国で設けられた場合に,抵触することまで一向に構わず,異なるものをつくってもいいというのか,そこはある程度,EUの指令の方が優先権を持つという解釈なのか,その辺が一番基本になる前提だと思うので,教えていただきたいと思います。

【土肥主査】

  今村委員,お願いします。

【今村委員】

  幾つか御質問を頂きました。まず,最初の客体となる孤児著作物の範囲について,加盟国ごとに著作物とか,隣接権の対象とか,関連権とか,様々な保護の対象について違いがあるとは思うのですが,今回の指令で定められている対象については,各国の制度の枠組みが違うにせよ,そこで対象とされている,それに相当するものには適用されるということになると思います。もちろん,おっしゃったに,EUの中で統一的な著作権法みたいなものはございませんので,いろいろ違いは出てくると思いますが,少なくとも,ここに書かれているようなものに関しては各国法で保護されている対象になっているものであれば,それは孤児著作物指令の一連の枠組みに入れて対応しなければならないということになると思います。そういう形でお答えさせていただきたいと思います。
 2点目の相互承認につきましては,それぞれ,国ごとに入念な調査のルールが多少違うという状態が生じた場合でも,域内で様々,著作物が横断的に利用される場合が出てくるわけです。その場合の対応について,私もそれはちょっと疑問に思った点ですが,まだ各国法の実際の齟齬(そご)というか,違いがどこまで出てくるのかということが分かっておりませんので,今後,国ごとに指令を実施したけれども,その間に制度上の違いが出てきた場合にどのルールに合わせて適用させていくのかというのは今後の課題になるのではないか。とりあえずここではそのようにお答えさせていただければと思います。
 3点目の域外の国に関する対応について,参照した資料の中では述べられていなかったのですが,仮に日本がこのEU指令の枠組みに乗るということであれば条約等で何か対応するということはあり得るかもしれません。相互承認として,我が国で孤児著作物と認めたものについてEUでも相互に認めるというのであれば,またそれぞれで枠組みを用意しなければいけないということになるかと思います。もちろん,EUの域外に送信されるという可能性も出てくるわけです。ただ,そういうものについてどう扱われるのかというのは,今後の状況を見ないと分からないところでございます。
 最後の御質問は……。

【村上委員】

  繰り返します。仮に,フランスならば井奈波委員とか,北欧の制度も紹介されていましたので,もし,それがダイレクトで,より保護を深めるとか何とか問題がない場合には当然,独自に加盟国ごとにルールをつくってもいいのだと思いますけれども,仮に指令と抵触して相対立するような場合に,こちらの方が優先するのかどうかとか,その辺の解釈がはっきりしているのか,その辺はどんな感じかという質問の内容です。

【今村委員】

  制限又は例外として認める孤児著作物のスキームは最低限のルールですから,それ以上の枠組みを設けても,その国内では有効だと思われます。しかし,それ以上に,各国で設けているルールがこの指令と矛盾し抵触することもあるかもしれません。その場合の扱いにつきまして,ここにありましたようにこの指令は加盟国ごとの取決めに影響を与えるものではないということは確かなのですが,矛盾しているような場合にどちらが優先するのか。併存して,法の適用が不可能になるというケースがあるとしたら,それは優先順位がなければいけないと思います。
 その場合恐らく指令のルールの方が優先されるような気がいたします。指令と矛盾しない国内の独自のルールは指令を実施した国内法と併存して国内だけで適用されるが,そうでなければ指令のルールの方が優先されるというすみ分けかなと思いますが,ちょっとはっきりしない部分もありますので,また更なる調査と研究をしたいと思います。

【土肥主査】

  はい,ありがとうございました。僕が相互承認に関して認識しているのは,28の加盟国の一つでサーチをしたら,それをデータベースに登録していると,他の27の国でもう一度やらなくてもいいと,そういう相互承認というふうに理解していますけれども,そうではないんですか。

【今村委員】

  そのとおりでございます。

【土肥主査】

  はい。それから,拡大権利管理の制度に関しては影響を与えないというのは,孤児指令に書いてあるわけですけれども,リサイタルにもあったと思います。ですから,それらは併存するということでよろしいのではないかと思うんですけれども。

【今村委員】

  ええ,それもそのとおりであると思います。ただし,拡大集中許諾制度があることをもって指令の求める制限,例外規定を満たしたという言い方は恐らくできないのだと思います。

【土肥主査】

  あと1つくらいいかがでしょうか。山本委員,どうぞ。

【山本委員】

  済みません。井奈波委員に対する質問なのですが,資料4-2のところのスライド4についての質問です。デジタル・アーカイブという観点から,このスライドの4のところについて,御説明があったのかも分かりませんが,確認させてください。フランス国立図書館が書籍,蔵書についてはデジタル・アーカイブ化する権限を持っているということなのでしょうか。その点の確認と,これは,もしそうだとすると,書籍電子利用法という法律に基づいてデジタル化する権限がフランス国立図書館に与えられているのかどうかという点の2点をお願いします。

【井奈波委員】

  デジタル・アーカイブの仕組みと書籍電子利用法の仕組みは直接関連していないということになります。このフランス国立図書館のデータベースというのは,データベース化するだけであって,デジタル・アーカイブ化する権限を与えられているものではないということになります。よろしいでしょうか。

【土肥主査】

  では,上野委員,どうぞ。

【上野委員】

  2点あります。1点目は,イギリスのアーカイブに関する権利制限規定であるCDPA42条に関して,時間の関係で次回お答えいただいてもいいかと思いますが,今村先生にお伺いしたいことがあります。
 先ほどの御紹介では,今回のイギリス法の改正について,日本法の31条1項2号との関係でお話になられて,今回の改正によって同条が拡大されたことで,「より日本法に近づいたと解される」という御指摘がありました。
 ただ,日本法31条1項2号の「保存のため必要がある場合」というのは,非常に狭く解釈されておりまして,現に資料の傷みが生じているような場合に適用される規定だといわれております。もちろん,現行日本法には31条2項がありまして,この場合ですと,「保存のため必要」な場合に限らず,原本の「滅失,損傷若しくは汚損を避けるために当該原本に代えて公衆の利用に供するため」や,31条3項に基づく絶版等資料の送信のために,図書館資料を電子化することができることになりますので,行為の目的という点ではそれなりに広いわけですけれども,他方,31条2項の場合は,その主体が国会図書館に限定されております。したがって,日本法の下では,アーカイブ化のために,31条2項に基づき絶版等資料の電子化をしようとしても,これは国会図書館のみしかできないというのが現状かと思います。
 そういう意味では,先ほどの御紹介のように,イギリス法では「保存又は交換」を目的とした代替複製物の作成が許容されており,今回の改正によって主体が拡大され,また,デジタル化も可能であることが明示されたということになりますと,これは日本法に近づいた,というより,むしろ日本法を超えているのではないかという気がするわけです。ですので,先ほど今村委員は,アーカイブに関する権利制限規定について,イギリス法の方が広いとは言えない,とおっしゃったかと思いますが,その御趣旨についてお伺いできればと思います。
 なぜこのようなことをお聞きするかといいますと,我が国において,今後アーカイブを発展させるということになり,図書館等における資料のデジタル化を進めるということになりますと,日本法31条2項の主体が国会図書館に限定されていることが,まずは再検討されて然(しか)るべきではないかと思っているからであります。
 2点目は,ECLと条約との関係についてです。これは今日のすべての御報告に関わり得ることかと思いますが,お時間もありませんので,今日は特に,次回いらっしゃらない潮海先生と小嶋先生にお伺いできればと思っております。
 先ほど御紹介がありましたように,今回イギリスに導入されたECL制度は,その対象が孤児著作物に限られないばかりか,利用目的や行為内容にも限定はないということですから,実際に承認されれば,例えば,営利目的での利用ですとか,翻案的な利用についても,あるいは外国の著作物についても,管理団体がライセンスを出せるようになるのではないかと思われます。これは,先ほども御指摘があったように,いわゆる一般ECLに当たるといえるように思います。
 個別ECLでしたら,実質的にみれば,これは一定の個別的な目的のための権利制限規定と同視できるという理解も一応ありえようかと思います。しかし,一般ECLの場合で,しかも外国の著作物が除外されていないということになりますと,国内でECLの承認を受けた管理団体が,アウトサイダーの著作物の利用についてもライセンスして,ライセンス料を収受してしまうということになり,幾らオプトアウト可能だといっても,外国からオプトアウトするのは事実上困難な場合が多いように思います。
 そうなりますと,ECLというものは,先ほど小嶋先生からも御指摘がありましたように,著作権制度のデフォルトルールを許諾権からオプトアウト制度に変更するに等しいものと位置づけられ,その「正統性」が問題にされるようなものかも知れません。だとすれば,それは条約上の義務との関係が問題になりはしないのかという気がするわけであります。
 先ほど今村先生から,イギリスで,孤児著作物に関するライセンススキームないし強制許諾制度が設けられる際には,条約上の義務との関係に関する議論があり,結論としては条約に適合しているといわれているという御紹介がありましたけれども,他方,ECLに関してはそのような議論がなかったのでしょうか。
 また,同じことは,適用対象は狭いかもしれませんけれども,ドイツやフランス,あるいは北欧のECL制度においても,そこで外国の著作物が対象になりうる以上,問題になり得ようかと思いますので,もしそのような議論があれば御教示いただければと思います。
 なぜこのようなことをお伺いするかと申しますと,仮に,我が国が今後ECLのような制度の導入を検討することになった場合には,この点が一つの課題になるのではないかと思われるからです。

【土肥主査】

  それでは,お二方にお尋ねするということでよろしいですね。では,小嶋様,お願いいたします。

【小嶋様】

  条約との関係ということでございましたが,形式としては権利制限ではなくて権利の管理ということで,通常の権利制限に比べると,スリーステップテスト等に引っ掛かりにくいということが指摘されています。具体的に見ましても,オプトアウトする権利を権利者が有しているとか,報酬請求権が認められているということで,排他権に対する制限の度合いも少ないと言われています。ただし,仮にオプトアウト権が制度として存在しても,実際に行使できないような場合,例えば,手間がかかるであるとか,情報が入手できない等の事情がある場合にはスリーステップテスト違反に問われる可能性もある,その点を指摘する研究者の方もいらっしゃいます。
 また,そのオプトアウトに手間がかかるということになりますと,ベルヌ条約5条2項の無方式主義に違反する可能性があるという点が指摘されているところでございます。

【潮海様】

  御質問ありがとうございます。オプトアウトにつきましては,Googleのブックサーチが条約に合致するかについて問題点が指摘されています。ドイツの拡大集中は,EUレベルで作家,図書館連盟と集中管理団体という実質的な合意を,ドイツ国内で著作権管理団体という形で実現したもので,かつ,先ほどもありましたEU指令の前文4項でも,本指令の定める著作権制限規定はこの実質的な解決に影響を与えないとしていますので,この指令には触れないと思います。けれども,条約につきましては,拡大集中では,著作者側がイニシアティブをとってオプトアウトしなければならない以上,Googleブックサーチと同様に問題にはなると思います。

【土肥主査】

  よろしいでしょうか。ありがとうございました。恐らくまだまだ御質問,御意見等はあると思いますが,15分ほど過ぎておりますので,本日はここまでとさせていただきたいと思っております。前回,今回の小委員会において,国内アーカイブ化の促進の取組例と海外の取組例等々を確認してまいりました。これまでの委員の皆様の御発表を踏まえて,次回の第3回では,著作物等のアーカイブ化の促進に係る著作権制度上の論点を整理し,事務局より提示していただきたいと思っております。
 最後に事務局から連絡事項がございましたらお願いいたします。

【秋山著作権課課長補佐】

  次回小委員会につきましては,調整の上,追って御連絡したいと思います。

【土肥主査】

  それでは,これで法制・基本問題小委員会の第2回を終わらせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――

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