平成26年度文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第3回)議事次第

日時:平成26年12月11日(木)
15:00~17:00
場所:文部科学省旧庁舎6階 第2講堂

議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)マラケシュ条約(仮称)への対応等について
    2. (2)著作物等のアーカイブ化の促進について
    3. (3)その他
  3. 3 閉会

配布資料一覧

資料1
障害者関係団体から示された著作権関係要望事項(221KB)
資料2
日本書籍出版協会提出資料(164KB)
資料3
日本文藝家協会提出資料(118KB)
資料4
日本映画製作者連盟提出資料(1.3MB))   関連ポスター等(1.6MB)
資料5
日本民間放送連盟提出資料(132KB)
資料6
日本放送協会提出資料(112KB)
資料7
日本盲人会連合提出資料(162KB)
資料8
著作物等のアーカイブ化の促進に関する主な論点(案)(135KB)
参考資料1
ヒアリング出席者・オブザーバー参加者一覧(107KB)
参考資料2
障害者のための複製等に関する著作権法上の主な規定(120KB)
参考資料3-1
障害者放送協議会提出資料(212KB)
参考資料3-2
日本盲人会連合提出資料(228KB)
参考資料4
改正CDPA42条について(165KB)
参考資料5
権利者不明著作物に係る我が国制度とEU指令との比較(216KB)
参考資料6
アーカイブに関する著作権法上の主な規定(88KB)

【土肥主査】  それでは,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第3回を開催いたします。本日は,御多忙の中,御出席をいただきまして,誠にありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開についてでございますが,予定されておる議事内容を参照いたしますと,特段,非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場をしていただいておるところでございますが,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】  それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 第1回と第2回は御欠席でございましたけれども,今回より横山久芳委員に御出席をいただいておりますので,御紹介させていただきます。

【横山委員】  横山です。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】  よろしくお願いいたします。続いて,事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【秋山著作権課課長補佐】  それでは,配付資料の確認をいたします。お手元の議事次第の下半分を御覧ください。
 資料1から7としまして,本日の議事であるマラケシュ条約対応等に関する資料,資料8としまして,アーカイブ化の促進に関する資料を,それぞれ議事次第記載のとおりお配りしてございます。
 なお,資料4につきましては,2種類のものが束ねられておりますので,その有無を御確認いただければと存じます。
 また,参考資料1から6までのそれぞれのものを議事次第に記載のとおりお配りしてございます。
 それから,机上の配付資料としまして,マラケシュ条約の参考和訳をお配りしております。この和訳につきましては,現在,外務省及び文化庁において精査をしておるところでございますけれども,審議の参考として現時点版をお配りするものでございます。
 配付資料は以上でございます。落丁等ございましたら,お近くの事務局員までお知らせください。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,議事に入りますが,初めに議事の進め方について確認しておきたいと存じます。
 本日の議事は,1,マラケシュ条約,仮称ですけれども,この条約への対応等について,2,著作物等のアーカイブ化の促進について,3,その他,以上3点となります。
 早速1の議題に入りたいと思っております。前回の小委員会では,マラケシュ条約の締結に関し,障害者団体の方から御意見,御要望を頂戴したところでございます。本日は,これらの御意見,御要望に対する権利者団体側の御意見を伺って,その後で意見交換を行ってまいりたいと思っております。
 なお,本日は,前回御発表いただいた団体にオブザーバーとしての御参加をいただいております。また,本日の権利者団体としての意見の発表をしていただく方々もお出でいただいておりますし,オブザーバーの方々について,事務局から最初に御紹介をいただければと思っております。

【秋山著作権課課長補佐】  はい。それでは,発表者及びオブザーバーにつきまして,簡単に御紹介いたします。参考資料の1を御覧ください。本日の出席者・オブザーバーとしまして,まず議事1,マラケシュ条約関係のヒアリング出席者としまして,1,2,3にある団体からお越しいただいてございます。また,障害者関係の団体としまして,障害者放送協議会,それから,社会福祉法人日本盲人会連合にお越しいただいております。両団体は前回の意見発表において意見提出をいただいた団体でございます。また,障害者放送協議会の構成団体である特定非営利活動法人CS障害者放送統一機構からも併せて御出席をいただいておるところでございます。
 それから,議事2,アーカイブ化の促進にかかわるオブザーバーとしまして,前回に引き続きまして,日本学術振興会特別研究員の小嶋様,筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授の潮海様に御出席いただいてございます。
 以上です。

【土肥主査】  本日はどうもお忙しい中,お出でいただきましてどうもありがとうございました。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは,早速意見交換を行ってまいりたいと思いますけれども,まず前回の本小委員会において障害者団体から示された要望事項を事務局から,あるいは事務局において整理をしていただいておりますので,こちらにつきまして事務局より御説明をいただければと思います。

【秋山著作権課課長補佐】  それでは,説明申し上げます。資料1を御用意ください。この資料は,前回,第2回小委員会において提出のございました障害者放送協議会及び日本盲人会連合からの要望内容をもとに著作権関係の要望事項を整理したものでございます。なお,その際,両団体にも確認をさせていただいた上で,内容の不明確な部分の明確化等のために必要な文言の修正や補足説明を付加したものでございます。
 それでは,順次,内容を紹介してまいります。なお,参考資料の2としまして,障害者関係の権利制限規定に関する条文を御用意しておりますので,これも必要に応じて御参照いただければと存じます。
 それでは,資料の1でございますけれども,まず1ポツの視覚障害者等関係の要望についてでございます。要望事項は大きく分けて3点ございます。1点目は,(1)の第37条3項の受益者の対象範囲の拡大についてでございます。この要望内容としては,現在の法第37条第3項の受益者は,視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者とされているところでございますけれども,この受益者に,上肢障害やALSなどにより読書に必要な動作が困難な者等を含めることが求められております。なお,知的障害者,精神障害者,聴覚障害者などについても,権利制限の対象としてほしい旨の要望があったところでございますが,この点につきましては,法第37条3項が,障害種を問わず視覚による表現の認識に障害がある者を対象としておりまして,これらの者についても同項の対象となり得るものと考えられるところでございます。
 次に,視覚障害者等関係要望の2点目でございますが,法第37条3項の支分権の拡大でございます。同項では複製権及び自動公衆送信権が現在制限されてございますが,これを拡大して,次のマル1からマル3の3点を無許諾で行えるようにすることが求められてございます。
 まず1つ目としまして,テレビ番組について,解説音声を作成し,当該音声のみをCS放送により視覚障害者等である視聴者に向けて放送すること。
 2つ目としまして,テレビ番組について解説音声を作成し,これを映像に当該解説音声を付した形で複製をし,当該解説音声付映像をCS放送又はIPTV等により視覚障害者等である視聴者に放送,又は自動公衆送信すること。
 3つ目としまして,図書館等が行うメールサービスにより,アクセシブルな図書,例えばDAISY図書などのデータを視覚障害者等に対して送信すること,でございます。
 2ページ目をお願いいたします。視覚障害者等関係の3点目の要望事項としましては,法第37条3項に係る主体の拡大が求められております。現在,同項により権利者の許諾を得ずに複製等を行える主体は,視覚障害者等の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるものとされておりまして,これを受けた著作権法施行令第2条の1第1項では,同項第1号で視覚障害者等のために情報を提供する施設を制限列挙するほか,同項第2号で文化庁長官による個別指定を行ってございます。このような政令指定に関する制度を見直し,障害当事者,障害者団体,ボランティアグループ,社会福祉協議会なども,こういった長官による個別指定を行わなくとも複製等を行えるようにすることが求められております。
 次に,その他の要望事項として2点御紹介いたします。まず2ポツ(1)のところでございますが,法第37の2,聴覚障害者等のための権利制限規定の支分権の拡大に係る御要望でございます。2点ございまして,1つは,字幕等について放送・有線放送を行うこと。それから,2点目としまして,テレビ番組について,映像に字幕等を付して複製し,当該字幕等付映像をCS放送又はIPTV等により聴覚障害者等である視聴者に放送又は自動公衆送信することが要望されておるところでございます。
 この点は,さきに御説明した視覚障害者等関係要望1ポツ(2)のマル1,マル2に相当する要望事項でございます。これらの御要望に関連しまして,現在想定されている事業のイメージというものを3ページ目の別紙に簡単にまとめさせていただいております。こちらについては説明は省略させていただきますが,必要に応じて御参照いただければと存じます。
 最後に,2ポツ(2)のところでございますけれども,災害時に対応した権利制限規定の導入についても御要望がございました。まず1つ目のところとしまして,我が国著作権法においては,災害対応に特化した権利制限規定というものは存在しないわけでありますが,こうしたことに対して,災害時において,著作物を障害者に利用可能な形式に変換して活用することを許容する規定を著作権法に入れることが要望されております。
 また,もう一つの要望としましては,災害時ではなく,事前の防災のための著作物利用についても要望がございます。具体的には,字幕や手話,画面解説を付加した防災用の映像資料を障害者の防災知識の取得に役立てられるように,貸出目的に加えて上映目的といった場合でも,映像に字幕などを入れて複製するということについて無許諾で行えるようにということでございます。
 それから,障害者向けに作成された防災用映像資料について,これを地域の住民と一緒に視聴することとなったという場合において,当該映像資料を作成する際に行われた複製について,権利者の許諾を不要とすることについて御要望がございました。
 要望事項としましては以上でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】  ありがとうございました。それでは,ただいま事務局に説明をいただきました要望事項について,関係権利者団体の御意見を賜りたいと思っております。初めに,一般社団法人日本書籍出版協会から御意見をいただきたいと思います。塩見様,平井様,どうぞよろしくお願いいたします。

【平井様】  書籍協会でございます。最初に,マラケシュ条約に関して,一日も早い締結に向けて,早急な国内法整備をしていただきたいという旨,申し上げさせていただきます。  我々出版界は,これまでも,視覚障害者の皆様,あるいは読書困難者の皆様を中心に様々なお話合いを進めてまいりました。例えば前回37条が改正された2009年には,日本図書館協会ですとか,あるいは点字図書館などの皆さんと一定のガイドラインを作っております。その中では既に視覚障害者に限らず,読書困難者の皆様一般に対して,どのようなルールで,変換されたコンテンツを提供するかというようなお話合いをしており,このガイドラインはたしか2010年の2月に公表されたと思いますが,その後も幾度か改定を重ねて現在に至っていると聞いております。
 また2010年,総務省さんが電子書籍の環境整備事業を行った折に,電子出版制作・流通協議会が行いました実証実験では,たしかアクセシビリティを考慮した電子出版サービスの実現というテーマだったと思いますが,テキスト・トゥ・スピーチ,つまり,読み上げエンジンの最適化ですとか,あるいは,既存の出版データから拡大図書をより容易に作りやすくするような実験にも協力してまいりました。また同年,国立国会図書館が画像データからの全文テキスト化の実証実験を行いましたが,これに関しても,出版界はいろいろな面で御協力申し上げて,それなりの報告書が出たと認識しております。  そういった背景があります中,今回の御要望についてお答え申し上げます。御要望の中で出版界に関係あるものとしては,やはり視覚的著作物ということに限られるかと思います。そこを中心にお話しさせていただきたいと思います。
 まず御要望の1の(1),これに関しましては,既に私どもは図書館協会等とのガイドラインにおいて,読書困難者一般というふうな形で運用していただくことについて同意させていただいております。ただし,読書困難と申しましても様々あります。最近,学習障害ですとか,いろいろなものがございますので。ある程度の外形的基準を設けて行うというふうな御提案をさせていただいたところ,快く引き受けていただきました。その際には,私どもが医学系の出版社の資料その他,100ページ以上の資料を作りまして検討をさせていただいたものでございます。
 さらに,後ほど文藝家協会さんからもお話あると思いますけれども,既に,あれは2007年ぐらいだったと記憶しておりますが,文藝家協会さんが図書館協会さんと作ったガイドラインでは,肢体不自由者第何級以上であればどのような形でというふうなところまでのといったガイドラインを作って,もう10年近い間運用しておりますので,この御要望に関しては基本的に問題ないと考えております。
 それから,出版界として関わりあるところとしては,下の(2)のマル3ですね。これに関しては,管理体制の問題が重要かと思っております。できるだけ多くの方に文字作品を享受していただきたいというのは我々の第一の願いでございますが,これは,出版物に限らず,デジタル化されたコンテンツ一般に言えることと存じますけれども,デジタルコンテンツというのは,一旦ネットに流出してしまうと,回復困難なものです。運命的にそのようなものだと思っております。
 ですから,ネットで提供する場合には,DRMですとか,サーバーの管理体制ですとか,そういったことをきちんとしていただきたいと考えます。多くの場合,視覚障害者が享受可能なものというのは健常者も享受可能なものが多いわけです。特にデジタルコンテンツになりますと,視覚障害の度合いに応じて様々に文字の大きさを変換できたりするわけですから,健常者とほとんど変わらないようなものまで表現できるということになってしまいますので,その辺のことが担保されるということが重要であると思います。
 メーリングリストによる送信を認めるというのは,法律に書くのが難しいと思います。そもそも,メーリングリストというのは,大きな組織であれば,メールアドレスをデータベース化してきちんと管理できるところもあるでしょうが,多くの場合,表計算ソフトなどに入力して,それを利用するというような専らカジュアルな使い方が想定されますので,これに関してはいかがなものかなと考えざるを得ません。
 それから,(3)です。こちらも同じようなことなんですけれども,私どもは,いろいろな組織とガイドライン作りその他の交渉をさせていただいてきましたが,それは相手側がやはりきちんとした組織,何かを代表する組織であり,責任体制がはっきりした組織であるから,そうした話合いが続けてこられたわけです。その辺が曖昧な民間ボランティアグループというようなところですと,志は十分に理解しますが,その運用,実行体制に必ずしも100%安心できるというわけではございませんし,この問題に関しては,現状の政令での規定という形で少しずつ拡大する方法で事足りるのではないかと考えております。
 これは付け加えになりますが,私どもは,NPO法人として大活字文化普及協会という団体を組織しております。出版界と障害者の方々,それから,障害者にいろんなサービスを提供する皆さんと一緒に立ち上げたNPOですけれども,ここでも,大活字本のリクエストを受けて,それを作っていく,あるいは録音図書を作るためのセミナーを開催したりしております。  最後に繰り返させていただきますが,出版界としては,今回このテーマに関しては一日も早い法整備を願っているというところでございます。
 以上です。

【土肥主査】  ありがとうございました。塩見様は何かございます。よろしゅうございますか。
 それでは,次に,公益社団法人日本文藝家協会から御意見をいただきたいと思っております。文藝家協会著作権管理部からお出でいただきました。長尾様,よろしくお願いいたします。

【長尾様】  日本文藝家協会,長尾でございます。私どもも書協さんと同じで,条約の締結には全面的に賛成でございます。全くの問題ない事項なので,御説明は不要ですと最初に申し上げたぐらいなのですけれども,ここに書かせていただいたような意見がございます。
 ほとんど書協さんと同じですが,大事なのは,現状を踏まえまして,文芸著作物が音訳されたり拡大図書化されたりする場合の,著作者としては同一性保持権を侵害されないことということを守っていただきたい,それを担保していただきたいということです。広く皆さんが,ボランティアの高い志でそれを作成されることを妨げるものではございませんけれども,今,努力いたしまして,かなりのクオリティが担保できるような組織をたくさん作っております。そういうところで訓練を受けた方がきちんとしたものを作成していただきたいということがお願いの大きなものでございます。
 今の個別の指定の要件がとても厳しいということでしたら,もう少し緩めていただいても構わないのですけれども,ここに書かれました私どもの意見書の最後の2行でございます。質を含めて適正な活動をされていることが確認できる何らかの制度を立ち上げていただき,そこをパスできたグループの方に活動していただきたいというお願いをしたいと存じます。今でも実はいかがなものかというクオリティのものが流布している場合がございまして,個別に著作者の先生方から,こんなのは困るというお話が月に1件,2件ございます。それなので,そこのところだけは是非担保していただきたい。
 それと,書協さんと同じ疑義がございます。自動公衆送信,ネットに上げてしまうと,これは勝手に一人歩きします。それと,必ずしも皆さんが善意の方ではない。善意の方ではない方の手に落ちてしまうこともよくあります。ここのところは,何かパスワードですとか,何か工夫をして,しかるべき使う方のみがお使いになるような,そういうことができた上で,安全が担保された上で送信していただくようにしていただきたいと存じます。
 以上です。

【土肥主査】  ありがとうございました。それで,また続きまして,一般社団法人日本映画製作者連盟から御意見をいただきたいと思います。華頂様,どうぞよろしくお願いします。

【華頂様】  一般社団法人日本映画製作者連盟の華頂でございます。本日はこのように意見を申し述べる機会をいただきましてありがとうございます。
 一般社団法人日本映画製作者連盟,通称映連と言いますけれども,松竹,東宝,東映,角川の邦画メジャー4社で構成されている映画産業団体でございます。せっかくの機会ですから,映画,特に私どもが扱っている邦画における視聴覚障害者の皆様のためのバリアフリー対応の現状について簡単に御説明をさせていただきます。
 現在,映画館におけるバリアフリー作品の鑑賞環境につきましては,御存じの方もいらっしゃるとは思いますが,聴覚障害者のための字幕を付与した作品の上映。これは字幕データ付きの上映素材を北海道から沖縄まで全国の映画館に順番にローテーションするシステムを運用しております。
 また,視覚障害者の方のための音声ガイド付きの映画につきましては,実施日に当該映画館に,そういう上映をすると決めた映画館にボランティアの方々が朝赴いて,場内にFM電波等の送信機器を設置して,上映をして,終了後に撤去して帰るというような状況でございます。
 いずれにいたしましても,指定された日時,指定された映画館での鑑賞に限られておりまして,いつでも,どこでも御鑑賞いただく環境にはないというふうなことです。
 本日お配りした資料のバリアフリー映画の新鑑賞システム図という図を御覧いただきたいと思うんですけれども,しかしながら,ここ数年,急速な技術革新がございまして,映画の上映素材に音声電子透かしという特殊な信号を挿入いたしまして,その信号を挿入した映画,人間の耳には聞こえない信号がスピーカーから出るんですけれども,その信号,音声信号ですね,これを専用の音声識別アプリケーション,これを起動したスマートフォン,それからタブレット端末等のIT機器,これのマイクが認識することで,字幕や音声ガイドを完全同期で画面やイヤホンに表示・再生することが可能となったというふうなことでございます。
 この図なんですけれども,右からそういうふうな作品の制作と鑑賞の流れになっています。映画製作会社が一番右ですけれども,そのような聴覚障害者用の字幕,それから,視覚障害者用の音声ガイド,これを,映画を製作すると同時に,その映画にデータを付与すると。それから,その真ん中にありますとおり,メディア・アクセス・サポートセンターというところが開発をいたしました……。すいません,その後に音声透かしを,信号を埋め込むんですけれども,で,真ん中,その音声透かしの信号を解析する,識別するアプリケーション,これを起動してごらんいただくと,一番右にあるように,映画館では,スピーカーからその信号が出れば,眼鏡の端末,これで字幕を御覧いただいたり,それから,IT機器でイヤホンをつないでいただくと音声が出てくるというようなシステムでございます。
 お手元のもう一つ黄色いパンフレットがありますけれども,東京国際映画祭の期間中,10月24日ですけれども,2011年からスタートして今年で4回目となるバリアフリー上映会とシンポジウム,映画の未来というふうに言っていますけれども,それを開催をしまして,今御説明をいたしました新システム,これのプレゼンテーションを行いました。このシステムを導入すると,字幕データや音声データが付与された作品を上映しているスクリーンに,障害者,お客様自身がシステムに対応するIT機器を持ち込んでいただくと,そこでアプリケーションを起動させていただければ,お楽しみいただけると。要するに,時間や場所に限定されることなく,いつでも,どこでもバリアフリー映画をお楽しみいただくことが可能というふうになるわけでございます。
 詳しくは,後ほどお時間のあるときにパンフレットをお目通しいただければと思いますが,映画産業界としては,この新システム,これを一日も早く全国の映画館に浸透させるために努力をしているというところでございます。  また,音声電子透かしのこのシステムなんですけれども,一度信号を挿入して映画原版を作りますと,バリアフリー対応作品になるわけですが,映画館での上映の後,そのデータ,マスターデータを使ってDVD等のパッケージ商品になっても,それから,テレビ放送されても,その効果は持続しますので,御家庭でもシステムに対応するIT機器を起動させていただければ,映画館と同様にお楽しみいただけることになるということでございます。
 ちょっと長くなりましたが,さて,御要望に対する意見でございますが,資料の4でございますね。表紙の下に1ページ目がありますが,法第37条第3項で,権利制限対象となる支分権の拡大等ということでございますが,映画が特に該当するのは,マル2だと思うんですけれども,マル1の場合は,後ほどもお話ししますけれども,映像が伴わない,そういうふうな放送であれば,これは全く問題ないと思います。マル2なんですけれども,そのまま読ませていただきますとなかなか厳しい御要望かなというのが正直な感想でございますが,しかしながら,この委員会に出席を依頼された折に,本日資料1の別紙にも付いていますけれども,CS放送やIPTVを利用して,具体的に展開したいサービスについての御要望であるという説明を受けております。本日は資料1の別紙にもその図解が出ていますけれども,それによると,障害者の方向けのCS放送が,特定のCS放送事業者から既に行われているというふうに聞いております。そこに地上波,あるいはBSで無料放送された中から非障害者対応の放送番組を一旦録画して,解説音声を付与した上で改めてCS放送するための権利制限というふうに理解をしているんですが,また同時に,IPTVでも同様のサービスを展開する予定であるということをお聞きしております。  そうであれば,対象が非障害者対応の放送番組でありまして,放送するのは特定の放送事業者,また,受信するのも限定された障害者の方でありますので,このような個別限定的なケースにつきましては,権利制限等の法改正によらず,関係する権利者,それから,仲介する当該放送事業者,そして利用を促進する障害者団体の当事者間で許諾契約を取り交わす方法が望ましいんじゃないかなと私どもは考えております。
 ページをおめくりいただきまして,2ページでございますが,法37条第3項で複製を行える主体の拡大ということでございます。映画製作者としては,映画作品が私どもの予期していない不正な流出をいたしますと,先ほど書協の方と文藝家協会の方,長尾さんの方からもありましたけれども,ネット上に不正な流出をいたしますと,ビジネス上取り返しのつかない甚大な被害が出来(しゅったい)いたしますので,映画につきましては,現行の個別指定の方式を継続していただきたいと考えております。
 それから,3ページでございますが,法第37条の2で,権利制限対象となる支分権の拡大等についてでございますが,マル1につきましては,先ほども申し上げましたが,映像を伴わない字幕等の専用放送というふうに説明を受けておりますので,そうであれば問題はないかと思います。
 2なんですけれども,映像に字幕等を付与して複製し,当該字幕等付き映像をCS放送又はIPTVにより放送・自動公衆送信することということなんですが,これは先ほど視覚障害者の皆様向けのCS放送,それから,IPTV放送と同様のサービスを前提としている旨の説明を受けておりますので,資料1の別紙ですね,こちらの方も権利制限等の法改正によらず,当事者間においての許諾契約で十分に対応できるのではないかなと考えます。
 このような許諾契約,あるいは,この審議会で議論をされております権利制限に置きかえてもよろしいんですが,そういうふうなものを取り交わす際に,やはり懸念する点はあるだろうということで,時間がなかったので,思いつくまま,このように最後のページに記載をさせていただきましたが,まずはこれはもう当然ですけれども,関係当事者が非営利であることが条件になるだろうと。どこかで収益が発生していれば,それを権利者に分配するなどの対価の伴う許諾契約になるんじゃないかなと。
 次に,これも当然ですが,字幕等,それから解説音声等の対応がない放送番組を対象とすることを基本にしていただきたいと。
 そして,放送や自動公衆送信をそのまま行うと,不特定多数に向けたものとなりますので,受信者に関しては,受信を希望する視聴覚障害者等の皆様に限定していただきたいと。
 また,当該サービスによって,放送,あるいは自動公衆送信された番組であることを識別するステーションロゴ,これを画面の片隅に表示をしていただければどうだろうかと。当事者間のあずかり知らないところで違法行為が出来(しゅったい)する場合もあるので,そのような不測の事態に備えるためにも,そういうふうな識別マークを付けた方がいいんじゃないかなという御提案でございます。
 最後になりますけれども,特に映画の放送は,特殊な場合を除いて,1回の放送で放送事業者さんと契約をいたしますので,通常の放送と同様に1回の放送でお願いをできればと思います。
 現時点で私たちは,御要望のサービスについて,仄聞(そくぶん)する限りでありますので,実際に運用される局面ともなれば,このほかにも実情に沿ったもろもろの条件,これが出てくるかと存じますが,今の段階で考えられるポイントを申し上げた次第でございます。
 いずれにいたしましても,映画製作者は,完成した映画を一人でも多くの皆様にお届けすることが使命でもあり,それがまたビジネスチャンスでもあると考えております。冒頭で御説明いたしました新システムの早期導入も含めまして,今後とも視聴覚障害者の皆様のためのバリアフリー映画の普及と鑑賞環境の整備に努めていく所存でございますので,今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
 以上でございます。

【土肥主査】  華頂様,どうもありがとうございました。このほか,本日は御出席をいただいておりませんけれども,一般社団法人日本民間放送連盟及び日本放送協会より書面にて御意見を頂戴しておりますので,事務局から御紹介をいただければと思います。

【秋山著作権課課長補佐】  それでは,資料5及び資料6に基づきまして,各団体様からの御要望を代わって読み上げさせていただきます。
 まず資料5をお願いいたします。日本民間放送連盟様からの御意見でございます。
 障害を持つ方々や身体が不自由である方々による放送番組を含めた情報へのアクセスを円滑にする環境を整備することを大変重要なことであると考えており,放送事業者といたしましても,字幕放送や解説放送などの手段により改善に努めているところです。
 つきましては,今回の障害者関係団体の要望事項に挙げられている要望のうち,放送事業に関係の深いと考えられる以下の3点について,当連盟の意見を申し述べます。
 マル1,映像を含まない字幕等のみを放送・有線放送すること。マル2,映像に字幕等を付して複製し,自動公衆送信,放送・有線放送すること。マル3,映像に解説音声を付して複製し,自動公衆送信,放送・有線放送すること。これらの権利制限の拡大については,障害者の方々の情報アクセス環境整備のために必要と考えられる範囲においてはやむを得ないと考えます。
 一方で,権利制限によってサービスを実施する以上,当該事業を行う者は,非営利であり,かつ責任ある管理・運営に関して十分な能力を有する者に限定すべきです。また,受益者が当該障害を持つ方々に限定されるよう,実効性のある措置を講じる必要があります。
 なお,こうした観点から,マル2,マル3において,自動公衆送信権を制限する場合は,受益者が限定でき,かつ,現状で利用が想定されているIPTVのみに適用すべきと考えます。
 以上。
 続きまして,資料6をお願いいたします。こちら,日本放送協会様からの御意見でございます。
 NHKは,平成24年から26年度の経営計画の重点目標の1つとして,人にやさしい放送・サービスの拡充を掲げて,様々な障害のある方,高齢者や日本に住んでいる外国人の方など,全ての人が放送を利用しやすいように,生番組の字幕放送の拡充や手話CGの開発などを進めてきているところです。公共放送としてまだまだと御指摘を受ける面はあろうかとも思いますが,引き続きサービスの拡充や技術の開発に努めていきたいと考えております。
 障害者の方が障害のない人と同様に著作物にアクセスできることは重要なことと考えています。そのために必要な著作権の権利制限規定の整備についても大切なことであると認識しています。
 しかし,現在認められている解説音声や字幕などだけでなく,映像を伴って過去の番組を当該放送番組の制作をした放送事業者の意思が全く働かないところで放送(いわゆる入力型の自動公衆送信も含む)されることについては,放送事業者,報道機関の立場から強く懸念を表明せざるを得ません。
 例えばニュース・報道番組や情報番組は情報の新しさが極めて重要です。世の中は時々刻々動いています。時間の経過とともに番組内容やデータ,情報が古くなり,視聴者に誤解を与えることも十分にあり得ます。時間の経過に伴う取材対象者の人権やプライバシーを侵害する可能性もあり得ます。健康番組についても同様のことが言え,医療の日進月歩によって,過去の健康番組をそのままでは放送できないこともままあることです。
 また,番組の一部だけがNHK以外の放送事業者に番組編成されて放送されると,番組本来の趣旨がきちんと視聴者に伝わらない可能性もあります。さらに,権利者や取材先との契約で1回しか放送できない番組もあります。
 NHKは,既に放送済みのニュースや番組について,再び放送するに際しては,こうした観点を踏まえ,公共放送として,報道機関として責任を持って自らの放送で視聴者にお伝えしています。
 こうした懸念がある以上,放送される番組を複製し,解説音声や字幕・手話を付した上で,当該映像とともに時間をおいて放送することまで権利制限することについては,慎重に検討されることを強く望みます。
 以上。

【土肥主査】  ありがとうございました。それでは,質疑応答及び意見の交換に移りたいと思いますが,初めに,先ほどの御発表に関しまして,本日オブザーバーで御出席をいただいております障害者関係団体から御意見,御要望を簡単にお伺いできればと思っております。本日お出でいただいている3団体の方に順にお尋ねしようかと思っておりますけれども,まず,障害者放送協議会著作権委員会委員の井上芳郎様,いかがでございましょうか。

【井上様】  井上と申します。よろしくお願いいたします。本来ですと委員長の河村が出席ですが,急な海外出張ということで代理出席いたしております。ちなみに,私は2010年まで著作権委員会の委員長をやっておりまして,前回の法改正のときに何回か小委員会にお呼びいただいて意見発表させていただきました。
 本題ですけれども,繰り返すまでもなく,マラケシュ条約ですが,障害者権利条約の流れに沿っているものであり,当協議会としても早い批准を求めていきたいということでございます。
 今,権利者団体の皆様の御意見を,伺いまして,改めて著作権は非常に大切な権利であり,著作物を作り出し,流通させ,いわゆる利活用していく重要な役割を持っていると改めて認識を新たにしております。文化の発展に寄与するという著作権法の目的からしても大切な権利であるという認識は非常に強く持っております。
 もちろんそういう認識はありますが,今流通しています大量の著作物ですが,残念ながら,全ての人にアクセス可能な状態で提供されているわけではございません。そのため,例えばボランティア団体の方たちが,メディア変換といいますか,フォーマット変換,形式変換といいますか,これは著作権法上では複製ということになるのでしょうけれども,障害者の方がアクセス可能な状態にして提供する。当然時間の差が起きますし,手間もかかる,金もかかる,そういうことでございますね。ですけど,障害者権利条約では,障害者が新たなそういう負担をせずに同等にアクセスできるようにする。それが障害者権利条約の趣旨だと思っております。
 今,権利者団体さんのお話を伺いまして,特にデジタル技術の非常な進歩は,目覚ましい。特にアクセシビリティを確保する上で,デジタル技術は非常に進歩していまして,一昔前ですと全く夢のようなことがもう現実にできる。非常に明るい見通しが立っているのですが,残念ながら,まだまだ,さっき申しましたけれども,アクセス可能な著作物が出回っているということではありません。
 ですから,当分の間といいますか,将来,相当長い間,残念ながら,ボランティアの方などのそういう仕事というのは減ることはないと思うのですね。むしろ増えていくのじゃないかと考えております。
 結局,そのときに,著作権者の方たちの権利が制限され,権利制限によってアクセス確保ということになっているのですが,もちろんこれは最初から著作物がアクセス可能であれば,そんな心配ないわけなのですが。ボーンデジタルという,要するに最初からデジタルで生み出された著作物というのですかね,これが今増えつつありますが,これも明るい希望なのですけれども。過去の膨大な著作物,それから,実は文芸的なものだけではないのですね。例えばお薬に付いている説明書であるとか,それから,役所に行きましていろいろ書類がありますし,ですから,いわゆる文学作品であるとか,そういうものだけではないのですね。むしろ,障害の方たちが日常生活で困っている著作物,そういうものは大量にあるわけですね。これはやはりボランティアの方たちの涙ぐましい努力でやられているわけなのです。
 ちょっと長くなって恐縮ですが,先ほど来お話がありましたいわゆる違法な流出ですね。特にデジタル化したものは,1回流出してしまうと,広がり方もあっという間ですし,十分そういう御懸念については理解できます。ですけれども,この問題の本質は,実は障害者の情報アクセスの確保の問題とは根本的なところでは切り離して考えていただきたいなと思っております。健常の方が利用する場合であっても,いわゆる不届き者ですよね,権利侵害行為は,なかなかなくなりません。法改正によって厳罰化といいますか,いろいろ規制が強化されてはいるのですが,御案内のように,なかなか根絶ということにはまいりません。
 これは私見ですが,時間がかかるのですが,結局は著作権保護の重要性,知的財産の大切さとについては,例えば学校教育ですとか,社会一般への啓発を地道にやっていって,社会全体の認識,意識を高めていかない限りは,必ずデジタル技術を悪用して,不届き者とあえて言いますが,この根絶はなかなかできないでしょう。障害者の方が仮にデータを流出させてしまうということは,絶対ないかと言われれば,それは言い切れないのですけれども,だからといって,アクセス保障の問題とは違うのであると。根本的なところで切り離していただきたいなというのが私の感想です。
 これは,前回河村委員長からもお話があったと思うので,若干繰り返しになって恐縮ですが,とにかく2016年4月より障害者差別解消法が施行になります。これは,当然障害者権利条約を日本国内で実効化させるためのための法律でありまして,差別解消という,そういう名前ですが,条文を読みますと,これは差別禁止ですよね。そういう条文もございます。例えば合理的配慮ですね。これは障害者権利条約の中に定義されておりますが,合理的配慮を提供しないことも,これは場合によっては差別に当たる。例えば行政機関などは提供義務があると,ということになるわけです。
 恐らく学校,公共図書館,官公庁,公的機関などを中心としまして,膨大な著作物がアクセスできないと,その確保のために,これは技術的にはできるわけですから,それをしないということは合理的配慮を不提供となり,極端なことを言いますと,これは差別に当たる。これが……。

【土肥主査】  すいません。

【井上様】  長いですね。あと3分ほどで終わります。

【土肥主査】  よろしくお願いします。

【井上様】  ですから,やはりボランティアの方たちの仕事は減らないでしょう。むしろ増えていくのでしょう。これが結論なのです。
 ですから,確かに権利者さんサイドから言わせれば,流出の危険性や,そういう心配はあるのですけれども,それは技術的にも制度的にも担保できる。現にもうそれで一部では動いております。サピエ図書館ですとか,現に動いていますので,そういうものをモデルにして十分やっていけるはずである。そういうことで,少々長くなりまして,申し訳ありません。

【土肥主査】  どうもありがとうございました。それでは,次に特定非営利活動法人CS障害者放送統一機構の専務理事でいらっしゃいます大嶋様,もし御意見,あるいは先ほどの権利者団体からの要望事項等についての感想がございましたら,簡単にお願いできればと思います。

【大嶋様】  お招きいただきまして大変ありがとうございます。私どもは,現在,字幕,手話,解説音声を放送して17年目に入りました。16年前に私どもが文化庁の認定を受けるときに,申請し,許可を得るために一番大きな問題になりましたのは,通信技術が正確にあるのかという問題,そして,コンテンツを制作する能力があるかどうか,もう一つは,放送したものに対して責任の体制がきちんとあるかどうか,この点と併せて財政問題,これが深く問われました。約半年間,このやりとりがありました。現在,私どもは,この内容は極めてこの16年間の中で充実したものになっていると確信を持っております。
 第1に,懸念が出ている,放送対象が限定されているかという問題ですが,これは私どもが開発した技術によって確実に保証されています。私どもの放送を受信するためには特別の受信機が必要です。もちろん特許に基づいて作られたものです。これは厚生労働省が聴覚障害者に対する情報受信装置として90%を負担して支給をしています。これは障害者手帳を持った者にのみ普及されているものです。さらに,私どもの送信方法は,特別な技術を使っているために,他でこれを傍受するということは不可能です。それはNHKの技術研究所がはっきりと認めています。各民間放送局も私どものこの実態についてはよく御存じです。
 現在私どもの放送内容は,約80%がオリジナル番組です。大体今で10万本ぐらいの著作物を所有しております。残りの20%が放送に対する字幕,手話,解説音声の放送であります。番組の対象は,放送されたものに限っております。映画やその他については一切やらないということを明確にしております。
 放送法に言われるあまねく全国民を対象にして利益を享受することができる方式で公開されたもの,これに対して字幕,手話を付けるというのは,この享受できないために発生している差別を私たちの放送で幾らかでも解消できればということでやっていることであります。
 本日欠席しておられますが,NHK様とはこれまで私どもの「目で聴くテレビ」に御協力をいただいています。ありがとうございます。
 ニュースについては,私どもは基本的にリアルタイムを原則としております。これには非常に重大な教訓があります。それは民間放送局が災害時に災害の場面を何回もニュースで同じ場面を出しているんですね。障害者はそれを見ていて,また災害が起こったんだという錯覚をして混乱した事実が発生しました。この事実を私たちは見たために,ニュースというのはリアルタイムでないとやっぱり駄目だということを基本原則としております。
 さらに番組委員会では,1つの基本は,聴覚障害者がこの番組に何を期待している,何に字幕や手話,解説を付けてほしいというふうに期待しているかという声をきちんと聞くということ。それから,その放送番組を私どもがやる必要があるかどうかということをよく検討すること。それから,もう一つは,放送された時点と私どもが放送する時点との差はないのかという問題。このことを明確にする。そして,問題はないかどうかということを判断していくということをしております。  そして,最後に,必ず,大体ドキュメンタリーが多いんですけれども,専門家,例えばNHKさんは医療の問題を提起しておられますが,私としては,医療の問題でどんな事故があったのか,具体的に聞きたいと思いますけれども,基本的にはそんなことがあったんだろうかと思いますが,例えば医療のドキュメントに私どもは字幕や手話を放送する場合は,必ずその専門家のコメントをいただくというふうにしております。
 以上が,今,具体的に懸念が出ている問題に対する私たちがどのように今対応しているかという点であります。
 現在私どもは,国連の機関であるITUで私どもの経験が世界的に非常に珍しい経験であると,非常によい経験であるということが評価をされまして,今年の2月にジュネーブで開かれた会議で報告をするように要請を受けて,報告をしました。これは大反響を受けまして,7月に札幌で行われたITUの会議において,早稲田大学の亀山先生が,目で聴くテレビ,つまり,私どもがやっている放送番組を国際的標準化をすべきだという提案をされました。これに対しては,ヨーロッパ放送連合のデイビッド氏も賛成をし,10月に開かれたタシケント会議で私どもはプロファイルとしてこれを提案まとめました。そして,これは採択をされました。
 韓国などから意見が出ましたが,私どものプロファイルは,それを全体として包含しているということで,採択されました。今後,来年の2月のジュネーブの本会議でこれは法制化されて,国連勧告として出るという運びになりました。
 現在,日本では字幕のISO,そしてJIS規格化が進められていますが,これを進めているJAISTから私どものプロファイル,これに準拠した形で標準化を進めたいということで,共同の作業が進み始めています。
 これらが全体として,国連が障害者の権利条約を決定したことによって,国連の機関がいろんな形で議論を始めている。これが各国に非常に大きな影響を与えていっていますが,日本はその中でも先進的な役割を果たしていく必要があるんじゃないかと私は思っております。
 著作権者の皆様方には,大変いろんな疑念があろうかとは思いますが,国連が決定した権利条約に基づいて世界は流れていると。ここにやっぱり日本は先進的に進めていくという立場で御議論をお願いしたい。
 マラケシュ条約は,視覚障害者の問題を中心に決定をしましたけれども,他の問題は扱わないということを述べているわけではなくて,むしろ共通点をいろいろと,他の障害に対しても必要なことを述べています。私としては一括してこれを進めていただきたいと,これは後の大橋さんとも論議をしてそういうふうに強く願っておりますので,よろしくお願いしたいと思います。

【土肥主査】  大嶋様,どうもありがとうございました。続いて,それでは,社会福祉法人日本盲人会連合情報部長・点字図書館長の大橋様,何かございましたら,御意見,御感想を賜れればと存じます。

【大橋様】  日本盲人会連合の大橋です。全盲の弁護士の竹下義樹が私どもの会長でございますが,竹下の代理としまして,点字図書館長も兼務しております,私,大橋が本日参加させていただきました。
 意見を申し述べる前に権利者団体の皆さんに一言,これはお世辞じゃなくて,お礼をまず申し上げます。視覚障害者,三十数万とか,いろいろカウントによって少し数字は違いますけれども,多くの視覚障害者,特に全盲になりますと,移動の不自由さというのはどうしてもあります。20年前の状況と比べますとスポーツ,レジャーに関しては,大変広がってはきましたけれども,現実的にはやはり自宅で点字図書を読んだり,DAISY図書を聞いたりという,読書に親しむ人が多い現状にあります。そういう観点から,私どものQOLの向上を支えてくださっておりますので,出版関係者の方々に感謝申し上げます。
 特に最近では,映画につきましても,私が学生のころには,見えないものには関係ないと思っていましたが,音声ガイド付き映画のファンが激増している現状から,QOLの広がりがあったということで,映画業界の方にも御礼(おんれい)申し上げます。
 ただ,3番目になり,持ち時間が大分少なくなりましたので,かいつまんで申し上げます。まず,書協さんをはじめ,御懸念のありました,著作権法37条3項の「福祉に関する事業を行う者で政令で定める者」とあるような,朗読内容の質の担保が予測できる施設というか,要するに,ちゃんとしたところでやってくれないと困るという御指摘はよく分かります。  この14日,総選挙の投票日でございますが,私ども日盲連も点字版の選挙公報,DAISY版の選挙公報,それから,音声コード付き拡大文字盤の3媒体の公報を製作しております。もう峠は越えましたけれども,選挙公報の製作に当たりましては,全国に選挙プロジェクトというのを作りまして,点字図書館でありますとか点字出版所を中心に,年に何回も事前に,マスあけの統一,点字表記の統一,音声の読み上げのマニュアル化,統一化を図るために,研修会などを開いて準備して参りました。
 一方で,製作単価が高いものですから,私は拡大文字盤の方の責任者をしておりますが,小選挙区になりますと,部数が少ないので,単価割る部数となれば,音声コード付き拡大文字盤が1冊4万円近くになってしまいます。これでも,まだ自治体や国が買い上げる形で有権者に配付してくれますので,正確な情報を届けられるのです。ただ,非常に困っていることは,自治体によっては,安かろう悪かろうと言っては失礼なのですが,地元のボランティアグループに選挙公報の製作を依頼するケースがあるのです。これは質の担保という点から私たちも断固反対しております。いかに高くても,正確なものを提供してほしい,と要望しています。質の担保や同一性保持の原則は,私たちも守るべきだと考えております。また,正確な情報を提供したいという使命感から,毎晩遅くまで製作に取り組んでいるわけです。
今回,私たちが要望している障害者団体,図書館に関係していないボランティアグループ,社会福祉協議会などにも権利制限を認めてほしい,お願いしているのは,全く野放しでやってほしい,と言っているのではありません。聞く側(がわ)でも,あまりひどい朗読のものなどは,やはり不愉快ですし,信頼性も失われるのです。一方で,大学生はじめ,研究者などは,緊急にどうしても早く読みたい,というニーズもあるため,著作権許諾の煩雑な手続に時間を割かれることなく提供できるよう,著作権法37条第3項の改正をお願いしているところです。それから,ボランティアのグループでも非常にレベルの高いところはありますので,質の担保を保証する,確かであるというお墨付きを出せるようなシステム,機関の存在が必要だと思っています。そのためにも,今すぐマラケシュ条約を拙速に決めて批准するというよりも,こうした細かいところを整備した後にしてほしいと希望します。
 それから,もう1点,誤解があるようなのですが,メールによる受益者に対して,自動公衆送信と同様に公衆送信も可能にしていただきたいというのは,点字図書館長の立場で申しますと,何もコンテンツそのものを出したいということではありません。具体的に一例を申し上げますと,今,政府はマイナンバー制度を実施しようとしております。これは,全ての国民に対するものですので,視覚障害者全員にいかに伝えるか,大きな課題となっております。今後とも内閣府や総務省などとも話し合っていかなければなりませんがそういった是非知ってもらいたいような情報を伝えるには,点字図書館の登録者の名簿の活用が,大変重要になります。個人情報保護法がありますので,東日本大震災の安否確認にも,私どもの会員名簿や,点字図書館の登録者名簿が大変役に立ったのです。個々人に対して有用な情報をいろいろ発信するためには,公衆送信を認めていただくことが不可欠なのです。図書情報としましても,例えば本屋大賞の1位から10位までこんなのが今売れていますよといような情報を出すことが,より一層読書欲を高めると思っております。
 ですから,MP3で誰でも聞けるようなコンテンツそのものをネットに流そうとかいうような発想ではございませんですので,その辺も含めて,どういう縛りをかけたらいいか,是非当事者団体と権利者団体が同じテーブルで話し合えるような場を作っていただきたい,と願っているわけなのです。そういうプロセスを経ないでマラケシュ条約批准だけされても困るというふうに私どもは思っております。
 長くなりましたが,以上です。よろしくお願いします。

【土肥主査】  どうもありがとうございました。それでは,あまり時間も残っていないんですけれども,権利者団体,障害者関係団体から頂戴いたしました御意見,御感想を踏まえつつ,御質問,御意見をいただけましたら幸いでございます。どうぞよろしくお願いいたします。いかがでございましょう。河村委員,お願いします。

【河村委員】  御発表ありがとうございました。私は,消費者団体として,利用者,消費者の立場でここに来ているんですけれども,本日のやりとりを聞いていて,いつも著作権関係の議論を聞いているときに感じる典型的なことがここにも見ることができるなと感じております。今回言われている権利制限というのは,ある限定的な要件の中で,こういう場合権利制限ということで,どの権利者の方も,この範囲でそうであることには反対しないということを述べておられるんですが,そのルールに従わなくて著作権者に損害を与えるようなことが起きる可能性が増えるから問題があるということをおっしゃるんですね。それは,障害者の方に限らず,一般消費者に向けてでもそうですし,いつもそのようにおっしゃいます。私が非常に不思議だと思うのは,アクセスする権利といいますか,あらゆる方,いろいろな障害を持つ方も健常者と同じようにコンテンツを楽しむ権利があると国際的に確認されている権利を,それを主張していらっしゃるのに,その方たちの権利が実現できなくても,著作権者の方の損害が発生するかもしれない可能性を低く抑える方が勝るというのが私には本当に理解ができません。
 というのは,どなたかオブザーバーの方もおっしゃいましたけれども,今でも著作権者の方たちに損害を与えるような行為というのは,可能性としては存在していまして,今回お話を伺った障害者の団体の方たちが求められていることが御要望どおりに実現したとして,どれほどの可能性の拡大,あるいは実際の損害を放送局やコンテンツの著作権のある方たちに与えるのかどうかと考えたときに,私が想像しても,今ある可能性がものすごく拡大するということはちょっと考えられないんですね。
 そういうことから考えますと,なぜいつも権利者の方は,侵害の可能性がちょっとでも広がるということを理由に,ある限定的な範囲であっても権利制限ということは受け入れられないというふうにして,享受すべき権利がある人たちの,著作権者の方たちも認めている権利の実現をも難しくするのかと思います。是非今回も合理的に理性的に考えて,損害の可能性の拡大は問題になる程度のものであるのかどうかという観点から判断していただきたいと思います。
 それともう1点は,例えばMLのことを,コンテンツをそのまま流すつもりじゃないとおっしゃったように,メーリングリストに流すということは,ネットに出るということとは違うことなのに,まるでそのままネットに流出するかのようにとらえて,危険性が大げさに語られる傾向がありまするので,そのあたりもきちんと見て議論すべきではないかと思っております。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかに御質問,御意見ございませんか。前田委員,お願いします。

【前田(哲)委員】  資料1に整理されている御要望事項について,ちょっと確認させていただきたいのですけれども,1.の(2)の(1),(2)で,TV番組についてとございますけれども,これは有料放送も含むということなんでしょうか,ということが1点です。
 もう一つは,もともと無料放送のテレビ番組であっても,視聴者の方が自分の好きなときに見られるようにするためには,例えば,ビデオを借りたり,あるいは有料配信を受けたりして,コンテンツの対価を支払う必要がある,つまり,リアルタイムであれば,無料で見られるけれども,視聴者が視聴の時間を選んで見るためには有料になるというケースが一般的に多いと思うんですけれども,そういうコンテンツについて,ユーザーの選択した時間で視聴することについても,権利制限を求めるという御趣旨なのでしょうか。

【土肥主査】  これは事務局において確認をいただいた上でこの要望事項はまとめていただいたと思います。しかし,大嶋さんから御回答があれば,それでお願いします。

【大嶋様】  有料放送については,今対象外としております。それは有料放送についての法的な関連法律がないために,今のところは有料放送については扱わないという立場を採っております。
 それが1つと,それから,時間差で放送するという場合,これも権利制限も求めています。つまり,例えば字幕や手話をリアルタイムで付けられる場合というものと,作品によってはよく研究しながら付けなきゃならないというものが出てきます。そうしますと,リアルタイムでやることは不可能ですので,一定時間をおいてからきちんと制作したもので送り出すということを求めています。

【土肥主査】  よろしゅうございますか。

【前田(哲)委員】  2番目の点なんですけれども,時間差が生じることはあり得ると思うんですけれども,本来放送というのは1回限りのものですから,視聴者が好きな時間にいつでも視聴できるという状態にすることとは違うと思うんですけれども,視聴者がいつでも自由なときを選んで視聴することができるという状態にすることも含めて,権利制限を求めておられるという御趣旨なのでしょうか。

【大嶋様】  つまり,オンデマンド方式でいつでも見られる状態にするかという問題ですね。実情を言いますと,そこまで言及はしておりません。要するに,サーバーに入れたままでいつでもどうぞという形式は,今のところは採っておりません。ただ,そういう方向をやりたいという意見が出てくるだろうということは想定できます。

【土肥主査】  よろしいですか。
 ほかにいかがでございましょうか。権利者団体の方は,本日せっかく来ていただいておりますので。龍村委員,どうぞ。

【龍村委員】  1点確認ですけれども,今般のマラケシュ条約で想定されている受益者には,幾つかの類型があるわけですが,例えば前回,御案内いただいたいわゆるルー・ゲーリッグ病と称するALSの方々,この方々もその類型に入ると思いますが,これに代表される新たな受益者の類型を代表する受皿団体は,現行の皆様の団体の中に存在すると考えてよろしいのでしょうか。そのような受益者の団体との契約関係で処理すべきだという御意見が一部出ているもので,その受皿,交渉相手となる団体がおありなのかどうか,その点をお尋ねしたいと思います。

【井上様】  井上です。例えばALSの方ですが,前回の河村委員長のときの附属資料にございますが,いわゆる患者さんの団体がありまして,議員会館の会場を借りましてシンポジウムに来ていただいたことがあります。
 ただ,これは言葉が良いか分かりませんが,声を上げたいと思ってもあげられない方ですね。例えば,ちょっと例が適切かどうかわかりませんが,高齢などが原因で寝たきりの状態になってしまった方ですとか,そういう方たちの団体は,あるのかも分かりませんが,そういう方たちの場合は,障害者の声を代弁する方たちの団体,そういうものがあるのかなと思います。それから,お子さんですとか,実は昨日,10日です,民放でいわゆるディスレクシアの方のドキュメンタリー番組があったのですが,ディスレクシアというのは,視力が正常なのですが,特異的に読むことに困難がある,発達障害の範疇(はんちゅう)だと思いますが,そういうような広い意味での当事者及び支援される方たちの団体というのがございます。ただ,いわゆるプリント・ディスアビリティの方たちを全て包括するような,あるいは,個別の何々障害,何々障害全てについて,それがそろっているかはちょっと分かりません。恐らく全てについてはないのだろうと,そう考えております。

【土肥主査】  補足でございますか。

【大嶋様】  私どもの統一機構だけでいいますと,現在,聴覚障害者の全ての全国組織は,全て私どもの組織の中に代表理事を送っております。その中で議論をしながら進めております。今,日盲連さんにもお誘いをしておりますし,いずれ一緒にできるのではないかと思っておりますし,知的障害団体も,ようやく全国組織の復活をされたようですので,入ってこられると思っております。より責任を持って内容を作っていくということができるようになるのではないかと思っております。

【土肥主査】  よろしゅうございますか。
 本日,権利者団体,それから,障害者関係団体の方々から御意見,御感想等々を拝聴しておりまして,マラケシュ条約に加盟する方向という,その方向性については,どちらからの疑問も,異論も呈されておらないように承知いたしました。
 ただ,細かいところ,いろいろございまして,特に支分権の拡大のところあたりについては,特に,本日ペーパーが出ておりますけれども,団体の方から生の御意見をいただいておりませんし,例えば管理体制の確保についても,大橋様も御意見の中でおっしゃっておられましたけれども,そういったところについては,権利者団体との間で更にもうちょっと詰めさせていただきたいとおっしゃっておられました。そういうようなことからいたしましても,本件につきましては,引き続いて,関係当事者間の意見調整を図りながら,また本小委員会において検討させていただければと思っております。
 事務局におかれましては,関係両団体の意見集約に向けた取組を時間の許す範囲内でできるだけ早めに調整いただいて,また,本小委員会の方に出していただければと,このように思っております。
 本当はまだまだこの問題について検討させていただきたいと思っておるんですけれども,時間が何分ございまして,限度がございまして,もう1点,我々は検討すべきテーマを抱えておりますので,本日はこの程度にして次の議事に移りたいと思います。
 本日は,権利者団体の方々,それから,障害者関係団体の方々,お忙しい中,どうもありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。
 それで,2つ目の議事であります著作物等のアーカイブ化の促進について移りたいと思います。時間が今4時27分ということになっておりますので,なかなか予定されている時間には終わらないのではないかと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。
 本件につきましては,前回諸外国の状況について御発表いただいたところでございますけれども,質疑の時間が十分取れておりませんでした。そこで,今回の冒頭に,前回の続きとして,諸外国の制度について質疑の時間を若干設けまして,その後,これまでの議論を踏まえた著作物等のアーカイブ化の促進に関する論点を事務局から説明いただき,皆様に御議論をいただきたいと思っております。
 そこで,前回の続きとして,諸外国の制度について質疑を行いたいと思いますけれども,本日は,前回御発表いただいた潮海様,小嶋様にもお越しをいただいております。なお,今村委員は今回御欠席でございますけれども,前回御質問のあった改正CDPA42条について,参考資料4として御回答をいただいておりますので,御覧いただければと思います。前回の時間で御質問されたい点についてできなかった部分について,ただいまからしていただければと思います。どうぞよろしくお願いします。
 急に質問と言ってもなかなか難しいんだろうと思うんですよね。つまり,今から,前回,1か月,2か月ぐらい前の話になっておりますので,我々の記憶も乏しくなっているのではないかと思うんですが,例えば……。井奈波委員,どうぞ。

【井奈波委員】  前回,小嶋様に解説いただいた拡大集中許諾制度についてなんですが,これ,非常に面白い制度だと思っておりまして,前回頂いた資料の中に一覧表がありまして,その一覧表で拡大集中管理の集中許諾の対象になっているものが列挙されているんですけれども,これを見ますと,営利か非営利かを区別しないで対象とされているようなんですが,前回個人的に質問させていただいた点とちょっと重複するんですけれども,孤児著作物についても,営利か非営利かを問わず,この団体に申請をすることによって許諾の対象になるのかどうかという点を御質問したいと思っております。
 それと,営利,非営利を問わず許諾の対象になる場合,許諾の要件について区別があるのかどうか。また,調査のやり方ですとか,金銭的な補償の面で区別があるのかどうかという点をお伺いしたいと思いました。
 孤児著作物とはまた別に一般論になると思うんですけれども,この拡大集中許諾の制度自体なんですが,これを見ますと,我が国において権利制限の対象になるようなものも含まれて許諾の対象になっているように思われるんですが,そういう理解でよいのかどうか。例えば集中許諾の対象になるものというのは,補償金が発生するものに限られているのかどうかなんですけれども,補償金が発生するものに限られず,この集中許諾,我が国でいうと権利制限の対象になるものも許諾の対象になるのかどうかということをお伺いしたいと思います。

【土肥主査】  小嶋様,よろしくお願いします。

【小嶋様】  御質問いただきありがとうございます。前回お配りした資料の最後に拡大集中許諾制度の4か国比較を載せております。そちらを御覧いただければ分かるように,例えば企業内複製など,営利を目的とした利用も拡大集中許諾制度の対象とされています。著作権法の条文上,営利か非営利かという要件は必ずしも明示されているわけではありません。もっとも,図書館及びアーカイブに関する規定のように,利用の主体を公共文化機関等に限定することによって,事実上非営利の利用のみが対象となるように定められている場合がございます。
  一般的に,ECL規定では,要件が抽象的に規定される傾向にあると言うことができます。具体的な使用料額でありますとか,利用範囲は,原則として拡大集中許諾契約,すなわち当事者間の契約を通じて決定されることになります。したがいまして,具体的な利用条件は契約に詳細に規定されます。例えば,使用料額,利用態様,利用期間の他にも,特定の期日以前に発行された著作物のみをECL契約の対象とするなどの条項が定められることもございます。
 例えば,前回の報告では時間の関係で説明は省略いたしましたが,資料7ページに記載した子供向けのオンライン図書館におけるブックカバー画像の利用に関する運用例がございます。この契約においては,ウェブサイトに表示する画像のピクセル数などがかなり詳細に指定されています。このように,御質問いただいた点については,原則当事者間の契約の問題として扱われることになると言えます 。
 拡大集中許諾制度の一般的性質に関する御質問でございます。我が国の権利制限規定に該当する事由が北欧諸国のECLの対象に含まれているかという点ですが,御指摘の通り,両者で重複する点もございます。
 補償金又は使用料の発生の有無に関してですが,基本的に拡大集中許諾制度におきましては,対価の支払が前提となっておりますので,全ての利用について,金額の高低はございますが,何らかの使用料の支払が生じることになります。
 以上です。

【土肥主査】  よろしゅうございますか。
 ありがとうございました。ほかにございますか。
 潮海様にお尋ねしたいと思うんですけれども,今の小嶋様の回答の中にも関連するんですが,結局拡大集中許諾制度の場合は必ず使用料を伴うということで,小嶋様のペーパーの中にもあるんですが,費用が過大になる可能性が,つまり,公共的な非営利団体といいますか,図書館とか,そういった団体が拡大集中制度の下でやっていく場合は,そういう費用でかなり負担をしなければならないという,そういう御指摘があったと思います。
 ドイツの場合は,1965年でしたか,66年でしたか,それ以前のものについては,絶版著作物の場合は,絶版著作物のルートでもいけるので,そこでは拡大集中許諾制度の下で著作物を利用できると思うんですが,他方孤児著作物としてサーチの負担で対応するという,つまり,2つのオプションがあるんだろうと思うんですが,どちらの方が……。つまり,孤児著作物としてサーチをして,それで権利者が見つからなかった場合,事前の支払なしに著作物の利用ができるけれども,絶版著作物ということでいくと,事前に使用料を払って,サーチこそは要らないということになるんだろうと思うんですが,これはどういうふうに今後図書館等が対応するというふうにお考えになりますでしょうか。

【潮海様】  ありがとうございます。まだ規定ができたばかりで,どういうふうになるか分からないというのが正直なところです。先ほど小嶋様への質問との関係ですけれども,ドイツの拡大集中につきましては,3ページに書いてありまして,これはEUレベルでの合意をそのままドイツ国内の著作権等の管理に関する法律で立法化したものと思われます。非営利か,営利かについてですけれども,その要件の3番目で,非営利となっていますので,そういう意味では,北欧とかに比べると狭いことになります。
 今,土肥先生に御指摘いただいたのは,1966年以前の絶版著作物については,孤児著作物でサーチすると無償で利用できるんですけれども,絶版の著作物の拡大集中ですと,報酬を支払う必要があるということでしょうか。

【土肥主査】  先に使用料を払って利用するという。だから,仮に拡大集中許諾制度が公共図書館等にとってコストが負担になるとすれば,恐らくそれを利用しないのではないかと思うんですけれども,あらかじめサーチをして,綿密な調査をやって,それで孤児ということになって利用するという,どちらを先に払うかというような,コストをですね,そんな話になっていくんじゃないかなと思うので,両方うまく利用されていくような気もするんですけれども,そこのところのお尋ねですね。

【潮海様】  私の感想でよろしいでしょうか。両方の制度が走ると思うのですけれども,要件は,著作権管理に関する集中管理の方が緩いといいますか,入念な調査をしなくていいので,サーチコストがかからないため,拡大集中の方に流れるという,そういう考え方もありますが,他方で,おっしゃったとおり,図書館などの利用者がコストを負担しなければならないことに鑑みますと,EUの孤児著作物指令を導入した権利制限規定でいくということも考えられます。私の感想としましては,入念な調査をしなくてすむ拡大集中の方が結構広まるのではないかと考えております。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 第1回,第2回小委員会の内容を踏まえて,著作物等のアーカイブ化の促進に関する主な論点(案)をまとめていただいておりますので,事務局から論点(案)について説明いただければと存じます。
【田淵著作物流通推進室長】  それでは,資料8に沿って御説明いたします。著作物等のアーカイブ化の促進に関する主な論点(案)ということで,まずはこの小委員会の第1回会議におけるアーカイブ関係機関からのヒアリングで御提示のあった論点ですけれども,1ポツ「アーカイブ機能を担う一定の機関において,所蔵資料が滅失・損傷・汚損することにより貴重な著作物が失われることを避けるため,所蔵資料を複製することについて」とさせていただいております。
 また,2ポツ「デジタル化資料の国立国会図書館による活用について」といたしまして,マル1「公共図書館等が国立国会図書館に納本されていない郷土資料等の電磁的記録を国立国会図書館に提供し,国立国会図書館の送信サービスを通じて,他の公共図書館等の利用者が当該著作物を閲覧することについて」としております。
 また,マル2「国立国会図書館から海外の図書館等へ,デジタル化した絶版等資料の送信サービスを提供することについて」としております。
 さらに,第2回会議で有識者の先生方から御発表いただいた内容に関連いたしまして,3ポツ「欧州諸国におけるアーカイブ関連の著作権制度と我が国の制度を比較して得られる示唆について」としております。(1)のEU指令についてです。マル1からマル4の論点(案)を挙げさせていただいておりますが,こちらにつきましては,参考資料5も併せて御参照いただければと思います。
 まず,マル1「権利者不明著作物等を利用する上で求められる権利者捜索の内容」につきましてでございますが,こちらにつきましては,参考資料5の1ページ目の一番下の枠になります。利用する上で求められる権利者捜索の内容といたしまして,左側が日本の権利者不明著作物等に係る裁定制度になります。右側がEU孤児著作物指令の内容になりますけれども,日本の裁定制度におきましては,相当な努力といたしまして,ここに挙げておりますマル1からマル4の捜索を行うこととしております。EU孤児著作物指令におきましては,入念な調査といたしまして,発行された書籍の場合におきましては,こちらのマル1からマル5に挙げられている様々な目録ですとか,データベース,あるいは団体への照会を少なくとも行うこととされております。なお,EU孤児著作物指令につきましては,利用される著作物等の種類に応じて異なる情報源が示されております。
 次に,資料8の3ポツ(1)マル2「権利者不明著作物等を利用した場合における権利者への補償の支払時期」についてでございます。こちらにつきましては,参考資料5の2ページ目にございます一番下から2つ目の枠になります。補償の支払方法ですが,我が国の裁定制度におきましては,利用前に供託が必要となっております。一方,EU孤児著作物指令におきましては,支払方法の詳細は加盟国の裁量に任されておりまして,利用者による事前支払は義務付けられておりません。
 さらに,資料8に戻りまして,3ポツ(1)マル3「第三者による権利者不明著作物等の利用」についてですが,こちらにつきましては,参考資料5でいいますと,2ページ目の最後の枠になります。第三者による権利者不明著作物等の利用といたしまして,我が国の裁定制度におきましては,一度裁定を受けた著作物について第三者が利用する際には,改めて同様のプロセスを経て,当該第三者の利用について裁定を受けることが必要となっております。
 一方,欧州については,イギリス,ドイツ,フランスにおきましては,OHIM,欧州共同体商標意匠庁ですけれども,OHIMのデータベースに登録された孤児著作物を第三者が利用する際には,改めて入念な調査をする必要はないが,利用方法や連絡先については登録が必要となっております。
 資料8で,3ポツ(1)マル4「その他の利用手続(裁定手続と登録手続の違い等)」としておりますけれども,こちらは,参考資料5でいいますと,一番上の制度の概要というところを御覧になっていただければと思いますが,日本の裁定制度といいますのは,権利者の不明その他の理由により権利者と連絡することができない場合に,権利者の許諾を得る代わりに文化庁長官の裁定を受け,著作物等の通常の使用料額に相当する補償金を供託することにより,適法にその著作物等を利用することができる制度となっております。
 一方,EU孤児著作物指令におきましては,加盟国は,公共図書館等が,その所蔵品に含まれる著作物等のうち,入念な調査を経ても権利者が不明であるものを,デジタル化等のために複製する行為及び公衆に対して利用可能とする行為を,権利の例外あるいは制限と位置付け,孤児著作物状態を加盟国間で相互承認する制度となっておりまして,孤児著作物の欧州共同体商標意匠庁への登録が必要となっております。
 資料8にお戻りになっていただきまして,3ポツ「欧州における制度から得られる示唆」の(2)として,「拡大集中許諾制度等その他の制度について」と挙げさせていただいております。また,そのほかの論点ということで,4ポツ「その他」と挙げさせていただいております。
 以上,事務局からの説明とさせていただきます。

【土肥主査】  ありがとうございました。それでは,ただいま事務局より説明のございました主な論点(案)について,御意見,御質問等ございましたら,お願いいたします。上野委員,どうぞ。

【上野委員】  本日は意見交換ということですので,愚見を述べさせていただきたいと思います。なお本日は終了予定の17時で抜けなければなりませんので,恐縮ですが,まとめてお話しさせていただきます。
 近時,アーカイブと孤児著作物の問題は盛んに耳にするわけですけれども,私の考えでは,問題を2つに分けた方がよいように思われることが2点あります。
 1点目に,アーカイブの促進と孤児著作物の利用促進というのは必ずしも同じでないという点です。
 つまり,アーカイブを促進すべきということは,文化資産を保全したり記録したりすることに社会的な意味があるわけですので,それは孤児著作物に限って進められればよいというものではなく,孤児著作物でないものも含めて,できるだけ広くアーカイブを促進すべきということになろうかと思います。
 他方,孤児著作物の利用を促進すべきということは,権利者不明等の著作物が死蔵されないようにすることに社会的な意味があるわけですので,それはアーカイブにおける利用に限って進められればよいというものではなく,アーカイブ以外の利用も含めて,できるだけ広く孤児著作物の利用が促進されるべきということになろうかと思います。これが1点目です。
 2点目が,アーカイブにおける利用ということに関しましては,「発信」と「保存」を分けた方がよいのではないかという点です。
 つまり,保存の方は,差し当たり館内にとどまるものでありますし,貴重な文化的資産の滅失等を防ぐという観点からも早急な対応が求められるのに対しまして,発信の方は,これを広く行いますと権利者に与える影響も大きいと考えられますので,慎重な対応が求められることになろうかと思います。
 そういう観点からしますと,本日の資料8は,項目1と2が孤児著作物に限らずにアーカイブを促進することについて問題提起しており,他方,項目3はアーカイブに限らず我が国の裁定制度について問題提起しているように読めますので,事務局がこのような形で主な論点を整理されたことは大変適切なものと感じております。
 その上で以下,内容について意見を申し上げます。
 まず,3に関しましては,先ほども述べましたように孤児著作物の利用促進はアーカイブに限らず進められていくべきだと思いますけれども,孤児著作物の利用に関する我が国の裁定制度は,今年8月の告示改正と運用改善によって,かなり便利なものになったと思っております。
 ただ,更に残された課題といたしましては,本日も御指摘がありましたけれども,資料8でいえば3(1)(3)にいう「第三者による権利者不明著作物等の利用」という点があります。つまり,一度誰かが相当な努力を払って捜索した結果,権利者不明等に当たるとして申請がなされ,裁定が行われたのであれば,これと同一のものについては,その後に行われる裁定申請において,過去の裁定結果を援用することが原則として許されてよいのではないか,せめて裁定に必要となる相当な努力のハードルを下げることが考えられてもよいのではないか,と思っております。
 そして,そのためにも,裁定の結果,すなわち,どのような権利者や著作物等について裁定がなされたのかという裁定の具体的内容を,将来のものだけでもネットで公開していくことが――もちろん,そのためにはいろいろと解決すべき問題があるのかもしれませんけれども――適切ではないのかなと感じております。
 また,(2)にあります「権利者への補償の支払時期」に関しましては,現状の裁定制度の対象は大変広くて,非営利利用のみならず営利利用も区別せずに含まれるというのが大変よい点なわけですけれども,それだけに,裁定を得て利用するための条件も,やや十把一絡げ的になってしまっているところがありまして,営利利用でも,非営利利用でも,裁定を得て利用するためには補償金を事前に供託することが必要になるわけです。しかし,例えば,公共機関など一定の主体が,非営利かつ無料で一定の行為をする場合には,その公共性に鑑みて,裁定を得るための条件について,せめて事前的な補償金の供託を免除すること等が検討されてよいのではないかと思います。これは,67条1項の文言からすると法改正が必要になるのかもしれませんが,実現すれば裁定制度の活用のために一定の効果があるのではないかと考えます。
 それから,資料8の1と2にありますアーカイブに関しまして,まず1に書かれておりますアーカイブにおける所蔵資料の複製というのは,差し当たり保存のための複製にすぎないのですから,これは広く認められるべきではないかと思います。もちろん,保存のために複製するというだけでは意味がないじゃないか,という声があるかもしれませんけれども,図書館等において,資料を電子化など複製することができれば,それを館内で公衆に閲覧させることも著作権法上可能となりますので,保存のための複製を認めるだけでも大きな意義があると思います。
 具体的な手段としましては,31条2項の主体を国会図書館以外にも拡大するとか,あるいは同項を準用する規定を作るといったようなことも考えられますけれども,31条1項2号にも,図書館等が「図書館資料の保存のため必要がある場合」に複製できるという規定がありますので,これも視野に入ろうかと思います。もちろん,同号に関する逐条解説によりますと,「稀覯本」であれば,「損傷・紛失」予防のための「事前の複製」が可能と説明されておりますけれども,稀覯本に当たらない資料は,絶版であっても損傷や劣化を予防するための事前の複製は認められないとされているようです。そうだとするならば,それ自体の妥当性も含めて検討して,必要であれば,同号を明確化するための改正を検討してもよいのではないかと私は思います。
 また,31条によるということになりますと,その適用を受けるためには,主体として「図書館等」に当たる必要がありますので,対象としたいアーカイブが同条の「図書館等」に当たるかどうかを検討する必要があります。場合によっては,施行規則1条の3第1項6号の見直しも必要になろうかと思います。
 次に,資料8の2(1)に関して,地方の図書館等のみが所蔵している資料で,国会図書館にないものについては,現行法でも,31条1項3号の規定によって,当該地方の図書館等が複製物を作成して,これを国会図書館に郵送できることになるかと思いますけれども,同号の文言は「複製物を…提供する」ということになっておりますので,これによりますと,現行法上,電子メールで送信することはできないように思います。ただ,同号の規定によって許される行為は図書館等の間で行われるものに過ぎませんので,将来の必要性に備える意味でも,この点は修正してよいのではないかと個人的には思っております。
 そして,資料8の2(2)に関して,アーカイブによる発信につきましては,現行法の下でも,国会図書館に集まってきた資料を,それが絶版等であれば,31条3項の規定によって地方の図書館等に送信することができますが,それだけでなく,外国も含めて広く発信できるようにすることが期待されているのだろうと思います。
 その意味では,31条3項の送信先を拡大するということも――もちろん,この規定は最近制定されたばかりではありますが――考えられるのではないかと思います。つまり,現状では,同項に基づく送信の相手方というのは,31条1項が適用される図書館等と同一になっていて,これはこれで意義があるのかもしれないのですけれども,3項に基づく送信の相手方としては,1項にいう図書館等に限らず,送信先にふさわしいものをこれに追加するということが検討されてよいのではないかと私は思います。
 もちろん,同項に基づく送信先に私人たる利用者まで含めるということも考えられると思いますが,それはハードルが高いかも知れませんので,今回は差し当たり,例えば,外国にある図書館ですとか一定の施設を指定して,これを送信先として認めるということが考えられますし,また,国内の施設に関しても,小中高の図書館を送信先として認めるということも検討されてよいのではないかと思います。
 もっとも,そのように権利制限を拡大していくということになりますと,日本の著作権法31条の制限規定が,送信に限らず複製についても,単に権利を制限するだけで,権利者に対する金銭的補償が何ら定められていないという点は,改めて問題とされるべきなのではないかと私は思っております。
 最後に,資料8に挙げられていない論点としまして,アーカイブをつなぐポータルサイトのための対応も必要になるのではないかと思います。
 すなわち,デジタルアーカイブそれ自体を促進するだけではなく,それを横断検索できるポータルサイトがあって,しかもそこで,スニペットやサムネイルも表示されるようになってこそ,アーカイブとしての意義が深まるように思うわけです。ただ,そうした検索が可能なポータルサイトを作ろうとしますと,アーカイブにある資料をデータベースに蓄積したり,スニペットやサムネイルとしてその一部を公衆送信したりすることになります。現在の著作権法の下でも,検索エンジンに関する47条の6ですとか,ネットオークション等に関する47条の2ですとか,そういった規定が適用される可能性もないではないのですけれども,私は,アーカイブを横断検索できるポータルサイトに関して著作権法上の手当てをする必要があるような気がしております。したがって,その点も検討してよいのではないかと思っております。
 以上です。

【土肥主査】  ありがとうございました。資料8全般にわたって上野委員から今御意見頂戴したところですけれども,31条論について,よく精査して,現行法ができるところ,どの辺に限界があるのかというようなことは,上野委員,今,検討してはどうかというふうに御意見頂戴したところでございますので,この31条の問題については,委員の方々について,機会を得て皆様の御意見を頂戴したいと思いますけれども,大きく今回の論点(案)として,アーカイブの問題と裁定制度の問題を問題としては分けてという御提案と思いますけれども,これ,一応そういう意識のもとにできているのかなとも思うんですけれども,そういう見出しとか何か,きちんと付けて対応した方がいいという,そういう御意見ですか。

【上野委員】  いえいえ,私の考えからすると資料8は適切な内容だと申し上げたと思います。

【土肥主査】  ほかにございますか。是非御質問等ございましたらお出しいただきたいと思いますし,今後の論点(案)としての検討のスコープを決めていくことになろうかと思いますので,そういったところからの意見も頂戴できればと思います。龍村委員,お願いします。

【龍村委員】  同じことになるかと,事務局の御説明とかぶるのだと思いますが,3ポツのEU指令との比較の基本的な視点としては,日本のような強制許諾,すなわちライセンスアプローチとでもいいましょうか,そのようなものがいいのか,あるいはEU指令のような権利制限アプローチがいいのか。それぞれの優劣をどのように考えるか,これが一番ベースとなる論点なのだろうと思います。これは利用主体にも関係してくるようですので,利用主体を限定しないのがいいのか,権利制限をかける以上,公共性を要求するのかという問題,もし公共セクターについて,EU指令的なものがあった方がいいということであれば,いわばEU指令的な権利制限が1階にあって,逆ですか,強制許諾が1階にあって,権利制限が更にそれにかぶると,そういう2階建てが望ましいのかという,そのようなつかみ方になるのかなと思いました。あるいはダブル・トラックということかも知れませんが。また,それは対価の性格,すなわち,使用料なのか,それとも補償金的なものなのかにも関連してくるのだろうと思われますので,その取扱いの態様にも影響するのだろうと思います。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかにいかがでございましょうか。前田委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】  今,龍村委員から1階,2階のお話があったんですが,この2つは別個の制度としてあってもいいんじゃないかと。裁定制度は,もちろん営利目的であっても,商業目的であっても利用できるものであって,非営利のアーカイブ機関は,もちろん裁定制度を使ってもいいけれども,それとは全く別のEU孤児著作物指令的な制度に基づいてアーカイブを円滑に進められるという制度が,裁定制度とは別にあってもいいんじゃないかなと思います。
 参考資料5の方で両者の違いを整理していただいているんですけれども,まず裁定制度でしたら,文化庁長官の裁定という,行政機関の判断を受けなければいけないということと,それから,補償金の供託をしなければいけないということが非常に大きな特徴になっていると思うんですが,EU孤児著作物指令の方だと,登録は必要かもしれませんが,行政機関の判断を仰いで使うという制度ではないと思いますし,それから,補償金の支払時期についても非常に柔軟で,前回の御説明に私の誤解があるかもしれないのですけれども,場合によっては,権利者が現れて異議の申立てがあったときだけ支払うという制度もあり得るのかなと。権利者が現れなければ,結局払わないという制度もEU孤児著作物指令上はあり得るのかどうか,ここはちょっと教えていただければと思うんですが,もしそれもあり得るとすると,EU孤児著作物指令の制度だと非常に柔軟な対応ができるのではないかと思います。
 それから,オプトアウトというか,権利者が現れて異議を出したときのことなのですけれども,裁定制度だと,一旦裁定があった後に権利者が現れて自分は嫌だと言ったときにどうなるのかがちょっとよく分からないのですが,その場合は行政処分の取消しか何かの訴訟になるのかも知れませんが,EU孤児著作物指令制度だと,権利者が現れて,利用をやめてくれと言ったらやめるという制度ですので,そういうオプトアウトの制度が取られていることから,入り口の要件は軽くしてもいいのではないかなと。異議があったらすぐやめるという制度であるならば,入り口は要件を軽くしてもいいのではないか。そう考えると,裁定制度とは別に,EU孤児著作物指令にならったような制度がもう1本別個に存在してもいいんじゃないかなと思います。

【土肥主査】  大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】  もう時間も迫っておりますので,繰り返しは全部避けます。特に重要と思われるのが,アーカイブに関してです。滅びゆくものを文化財等としてきちんと保存して守っていくという話と,このようにして保存したものをどう利用するかというのは,関連はしていますけれども,別の話なので,きちんと分けて議論した方がよいと思います。もちろんせっかく保存したものだったらできれば利用した方がいいけれども,まずはきちんと守るというところが大切で,時間の問題もあり,遅れれば遅れるほどせっかくの文化財がどんどん滅んでいくことになりますので,その点では,スピード感を持ってまず第1段階を固める必要があり,それから,次に第2段階の利用を考えるということも総合的に考えていく必要があるのではないかと思います。これがまず第1点であります。
 それからもう一点。たくさん意見を出していただきましたうち,代表的なものを事務局がまとめておられるかと思いますけれども,権利制限にせよ,いろいろなアーカイブ関係にせよ,孤児著作物関係にせよ,様々なアプローチの仕方があるかと思いますので,まずは広めにいろいろなものを視野に入れて比較考量等して,前広に検討した上で行った方が,1階・2階といわれたような相互間の連携の可能性も含めて,いろいろな形の組合せの仕方を,各国のものを参考にして,日本固有のものを検討していくなど,いろいろな発展性がありますので,そこは前広に検討していく方がよいのではないかと思われます。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかに今後の検討,論点(案)について何かございますか。末吉委員,どうぞ。

【末吉委員】  ありがとうございます。私,資料8の1番につきましては上野先生と同意見で,アーカイブの促進という意味でも1番は前向きに検討すべきではないかと思います。
 それから,2番は,またこれも上野先生と同意見で,31条の改正をめぐって前向きに検討するべきではないかと思います。
 それから,前田先生が御指摘されたとおり,裁定のほかにEU指令に似た制度の導入が,直ちにではないかもしれませんが,あり得るので,この点を検討するとともに,これはかなり先の話かもしれませんが,拡大集中許諾制度というのも大変魅力的なものであり,今回非常に勉強させていただいたので,これも,短期的な課題ではないかもしれませんが,1つの選択肢として詰める価値があると私は思います。
 以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。本日の参考資料6で,現行法の著作権法の規定にとどまらず,施行令あたりのところも御紹介があるところでございます。結構私もこれを見て気づいたんですけれども,広く規定が及んでおります。
 したがいまして,こういうようなこともきちんと我々,承知した上で,現在どこまでできているのか,そして,どこを変えるべきところがあるのか。それは著作権法のレベルなのか,省政令のレベルなのか,そういうようなこともいろいろございましょう。そういったことを今後,今期は,幾らなんでもこの問題をこの期に終わるというのは非常に難しいと思いますので,継続的に議論ができればと私は思っております。
 時間も5分ほど過ぎておりますので,本日の第3回の小委員会は終わりたいと思いますけれども,最後に何か是非ここはという御希望の方がお出でになりましたら御発言いただきますけれども,よろしゅうございますか。
 ありがとうございました。それでは,事務局におかれましては,本日の御意見,あるいはこれまでの委員以外の方々の御紹介のあった発表いただいた内容,そういったものを整理した上で,事務局でもう一度おまとめいただいて,提議いただければと思います。
 事務局からの連絡事項がありましたらお願いいたします。

【秋山著作権課課長補佐】  次回小委員会につきましては,日程を調整しまして,改めて御連絡したいと思います。ありがとうございました。

【土肥主査】  それでは,これで法制・基本問題小委員会の第3回を終わらせていただきたいと存じます。本日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――

Adobe Reader(アドビリーダー)ダウンロード:別ウィンドウで開きます

PDF形式を御覧いただくためには,Adobe Readerが必要となります。
お持ちでない方は,こちらからダウンロードしてください。

ページの先頭に移動