文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第8回)

日時:平成28年2月10日(水)
13:00~15:00
場所:霞山会館 霞山の間

議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への対応について
    2. (2)その他
  3. 3 閉会

配布資料一覧

資料1
環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う制度整備の在り方等について(案)(405KB)
参考資料1
TPP協定(著作権関係)への対応に関する基本的な考え方
(文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会決定(平成27年11月11日))
(106KB)
参考資料2
知的財産分野におけるTPPへの政策対応について
(平成27年11月24日知的財産戦略本部決定)関係部分抜粋
(109KB)
参考資料3
総合的なTPP関連政策大綱(平成27年11月25日TPP総合対策本部決定)関係部分抜粋(85.2KB)
参考資料4
環太平洋パートナーシップ閣僚声明(平成28年2月4日TPP政府対策本部)(1.6MB)
参考資料5
TPP交渉参加国との間で作成する文書(訳文)(平成28年2月4日TPP政府対策本部)等 関連部分(741KB)
参考資料6
TPP協定(仮訳文)第18章(知的財産)(平成28年2月2日TPP政府対策本部)(2.5MB)
参考資料7
日本映像ソフト協会提出意見書(327KB)
参考資料8
国公私立大学図書館協力委員会提出意見書(119KB)
参考資料9
日本新聞協会提出意見書(77.6KB)
参考資料10
日本民間放送連盟提出意見書(67.2KB)
参考資料11
日本芸能実演家団体協議会・映像コンテンツ権利処理機構提出意見書(73KB)
参考資料12
第15期文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会委員名簿(63.1KB)
 
出席者名簿(42.6KB)

議事内容

【土肥主査】それでは,定刻でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第8回を開催いたします。本日は,お忙しい中御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開についてでございますけれども,予定されております議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場をしていただいておるところでございますけれども,この点,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 なお,本日のカメラ撮りにつきましては,冒頭5分程度とさせていただきますので,どうぞ御了承いただければと存じます。
 まず,事務局において人事異動があったようでございますので,御報告を頂きたいと存じます。

【秋山著作権課長補佐】御報告申し上げます。本年1月1日付けで文化庁次長に中岡司が着任してございます。

【中岡文化庁次長】中岡でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【土肥主査】では,配布資料の確認をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】お手元の議事次第,真ん中辺りから半分をごらんください。まず配布資料1としまして,「環太平洋パートナーシップ協定に伴う制度整備の在り方等について(案)」と題する資料を御用意しております。それから,参考資料1から6としまして,TPPに関わる関係資料を御用意いたしました。また,参考資料7から11までは,関係団体様からの追加的な意見書,そして,参考資料12として委員名簿を御用意しております。不備等ございましたら,お近くの事務局員まで御連絡いただければと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,初めに,議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は,(1)環太平洋パートナーシップ(TPP)への対応について,(2)その他,この2点となっております。
 では,早速,議事に入りたいと思います。TPP協定への対応につきましては,これまで本小委において関係団体からの御意見を頂戴した上で議論を行い,TPP協定,特に著作権分野に関する基本的な考え方の取りまとめを行ったところでございます。なお,そのポイントは,政府全体の方針(総合的なTPP関連政策大綱)にも盛り込まれたところでございます。
 この基本的な考え方を受けまして,政府においては具体的な対応方針につき検討を行っていただいておるところでございますけれども,今般,政府においてTPPの早期批准に向けて今通常国会にTPP関連法案を提出する予定であるとの表明がございました。また,先週2月4日はTPP協定の署名が行われたところでございます。
 このような動きを受けまして,本小委においても,著作権分野に関するTPP協定への対応の具体的な在り方について早急に方針を取りまとめる必要がございます。このような状況の下,本小委員会での審議を効率的に進めるため,今回事務局におきまして,TPP協定に伴う制度整備の在り方等につき,いわゆるたたき台を作成していただいたところでございます。本日は,このたたき台を基に議論を進めてまいりたいと思っております。
 まず,前回の本小委員会以降のTPP協定を巡る政府の動向等につき,事務局より説明をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】説明申し上げます。資料といたしましては,参考資料2と3を御用意いただければと存じます。本小委員会におきましては,11月11日の小委員会におきまして,先ほど主査からも言及がありましたとおり,TPPに関する基本的な考え方の取りまとめを頂いたところでございまして,これも踏まえ政府レベルでの決定文書が取りまとめられてございます。
 参考資料2は,「知的財産分野におけるTPPへの政策対応について」と題する,知的財産戦略本部の決定文書でございます。参考資料3につきましては,TPP総合対策本部,政府の本部決定の文書でございます。いずれも本小委員会で御議論いただいたエッセンスが反映されていると承知しております。詳細の御説明は割愛させていただきます。

【大塚国際課専門官】それでは,参考資料4から6について,簡単に御紹介をさせていただきます。参考資料4についてですが,先日2月4日にニュージーランドのオークランドで行われましたTPP協定の署名式の際にまとめられた閣僚声明をお配りしてございます。日本からは,高鳥内閣府副大臣が出席しておりまして,12か国の閣僚により協定文への署名が行われるとともに,協定の早期発効に向けて自国の国内手続を本格化させるという旨の決意が表明されているところでございます。
 参考資料5は,TPP参加国との間で作成する文書,いわゆる戦時加算に関するサイドレターの訳文の関連部分の抜粋でございます。こちらも2月4日,署名式の行われました直後にTPP政府対策本部のホームページで公表されているものでございます。
 それから,これらの文書をアメリカ,カナダ,オーストラリア,ニュージーランドの4か国と交換しているところですが,オーストラリアの方からは,当日これに加えまして,日本に対しTPP協定発効後は戦時加算の権利を行使しないという趣旨の文書も手交されておりまして,こちらについても併せてお配りしております。このオーストラリアの文書につきましては,やはり平和条約上の権利義務自体を変更するものではないですが,オーストラリア政府の好意的な意図の表明であり,同国において今後適切な対応が期待されているところでございます。
 参考資料6は,TPP協定の知的財産章の仮訳文です。1月7日には暫定仮訳として協定全文が公表されておりましたけれども,さらに,2月2日,それを精査したものが仮訳文として公表されておりまして,お手元にお配りしておりますのもその最新の仮訳となります。以上でございます。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,ただいま御説明いただいた資料等につきまして,もし御質問がございましたら,お願いいたします。
 よろしいですか。特に御質問ないようでございますので,次に進みたいと存じます。
 次に,前回の本小委員会の開催以降,幾つかの団体からTPP協定への対応についての意見書が提出されておりますので,事務局から御紹介をお願いしたいと存じます。

【秋山著作権課長補佐】それでは,お手元に参考資料7から11を御用意ください。本日は時間の限りもございますので,ごく簡単に御紹介したいと思います。昨年11月の法制・基本問題小委員会の後に幾つかの団体様から頂いた御要望書等を御紹介するものでございます。
 まず参考資料7でございます。こちらは日本映像ソフト協会様からの御要望事項です。まず1ポツとしまして,映画の著作物の保護期間を今回更に延長するという御要望が寄せられております。また,2番目としまして,損害賠償制度の見直しに関して,技術的保護手段回避装置等の提供に関しても措置を講ずること。そして,3番目としまして,両罰規定の適用対象に関する御要望が来ております。
 続きまして,参考資料8をお願いいたします。国公私立大学図書館協力委員会様からでございます。まず1ポツ,著作物等の保護期間の延長に関しまして,先の小委員会でも提案があったような登録制などを採ることの御提案がございました。また,戦時加算の扱いにつきましては次のページにございますけれども,三つ目のパラグラフのところにありますように,70年への延長の際に戦時加算分を吸収するというような御提案でございます。それから,二つ目,一部非親告罪化に関連して,日本版フェアユースの改めての検討などの御要望がございます。次のページ,3番,アクセスコントロールに関する制度整備につきましては,図書館等における利用についての対応が求められておるということでございます。
 参考資料9をお願いいたします。日本新聞協会様からの御意見でございます。こちらは,非親告罪化に関して,下半分の辺りですけれども,表現活動への悪影響が生ずることがないようにという御要望でございます。それから,このTPP協定に合わせて,フェアユース,「柔軟な権利制限規定」の検討に関しては,拙速な検討,導入は行うべきではないという御意見でございます。
 それから,参考資料10でございます。こちらは日本民間放送連盟様からの御意見でございます。まず,著作隣接権者の平衡な取扱いについてでございます。他の著作隣接権者の権利の保護との関係で,放送についても同様な取扱いをしてほしいということで,保護期間,アクセスコントロール,法定損害賠償に関する制度整備が具体的に挙げられてございます。
 それから,参考資料11をお願いいたします。こちらは日本芸能実演家団体協議会様及びいわゆるaRma,映像コンテンツ権利処理機構様からの御要望でございます。こちらの資料は,後ほど制度整備の在り方等についての議論のところでも若干整理させていただいておりますけれども,協定上の義務としての実演家の権利の保護との関係で,前回11月の資料では,映像実演と音の実演の区別について余り明確にお示ししておらなかったこともございまして,今回その論点を具体的に御議論いただく段になりましたので,当事者である当該団体様からの御意見を募ったところでございます。
 具体的な御意見としましては,1番としまして,TPP協定の締結に向けた法整備は,音の実演,映像の実演を差別せず同一に行うべきであるという御意見でございます。また,2ポツとしまして,放送実演の二次利用については,円滑なライセンシング体制の構築によって円滑化に取り組むという御表明でございます。
 意見の御紹介は以上でございます。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,TPP協定に伴う制度整備の在り方に関する議論に移りたいと存じます。お手元のたたき台でございますけれども,これは前回取りまとめた基本的な考え方や関係団体から頂いた御意見も踏まえて政府部内で行っていただいた検討の結果を整理したものでございます。これまで必ずしも論点にならなかった点も含め制度整備の骨格を議論する上で重要と思われる論点についても併せて整理をしていただいておりますので,その点についても委員の皆様の意見をここで改めて頂戴したいと存じます。
 そこでまず,事務局から説明をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】御説明いたします。資料1をお手元に御用意ください。「環太平洋パートナーシップ協定に伴う制度整備の在り方等について(案)」と題するたたき台ペーパーを御用意しております。
 目次としましては,第1章として,TPP協定に伴う制度整備の在り方について,第2章としまして,TPP協定を契機として検討すべき措置について整理いたしました。第1章につきましては,まず第1節で基本的な考え方,それから,第2節から第6節までは各検討事項について,そして,第7節は施行期日でございます。
 では,2ページをお願いいたします。まず,第1章第1節,制度整備に当たっての基本的な考え方ということでございます。ここでは,ここに記載した五つの検討事項について,制度上の措置を講じることが適当としております。また,2パラ目,上記各事項に関する制度整備の在り方を検討するに当たり,同協定上の一般規定により各国に一定の柔軟性が確保されている点も踏まえる必要があるとしております。また,各規定の趣旨や求められる義務の内容,裁量の範囲を吟味しつつ,我が国の国内状況や法体系に照らして適切な制度設計を検討するべきであるとしてございます。
 では,次のページをお願いいたします。著作物等の保護期間の延長でございます。基本的には,問題の所在のところは省略しつつ御説明しようと思いますけれども,保護期間の関係では,(1)の協定で定められた内容の概要のところの※印をごらんいただければと思います。ここで協定上の実演と申しますのは,レコードに固定された実演,いわゆる音の実演をいうこととされてございますので,その点だけ確認させていただきます。
 それでは,検討結果をごらんください。4ページの下の方です。まず(1)TPP協定の締結のために必要な措置について,2)制度整備の方向性についてです。まず諸外国の状況について,70年の保護期間をとる国が増加傾向にあることを述べております。次のページをお願いします。こういう状況の中でTPP協定が発効しますと,OECD加盟国全ての国やG7についても保護期間70年ということになるわけでございますし,また,音の実演,レコードについても国際的な調和が進むという表記をしてございます。
 そして,一つパラグラフを飛ばしまして,真ん中の「また,著作物の保護期間については」というところでございますけれども,相互主義を採用している国との間の保護の不均衡という点も常々指摘されてきておったわけでございまして,こうした点などを踏まえまして,国際調和の観点を重視し,著作物等の保護期間を死後70年まで等に延長することが適切であると考えられるというふうにしてございます。
 また,こうした制度整備のメリットとしまして,その次のパラグラフでございますけれども,長期的に人気を博する作品から継続的に収益が得られ,それによって新たな創作活動の促進や文化の発展に寄与するとの意見を紹介し,また,下の方ですけれども,アニメや漫画など,次のページに行っていただきまして,こういうものを多く輸出することで,保護期間延長の利益が我が国として受けられるのではないかという記述をさせていただきました。
 なお,ベルヌ条約における不遡及原則に照らしまして,改正法が施行する際に既に権利が切れているものに関しては遡及しないということについても留意する必要があるとしております。
 続いて,延長の対象となる著作物等につきましては,協定上の義務の範囲との関係につきまして,(1),(2),(3)の三つの権利等について問題となるとしております。第1に,視聴覚的実演につきまして,先ほど申し上げましたとおり,TPP協定では,実演家の権利に関してはレコードに固定された実演のみを指すとされておりますことから,視聴覚的実演の取扱いが問題になるというわけでございます。この点につきまして,これまで我が国におきましては,音の実演と視聴覚的実演を区別せずに同一の保護期間を定めてきていたという経緯もございます。また,WPPTの対応におきましても,音と映像を区別せずに権利の付与などの整備制度を行ったという経緯もございます。
 こうした我が国の取扱いの趣旨ですけれども,我が国における著作隣接権の中の実演家の権利の保護の理由としては,次のページでございますが,実演行為が準創作的なものであると評価をいたしまして,その価値を評価しようというものでございます。このような制度趣旨に鑑みれば,実演の方式のみをもって一律に保護期間に差異を設けることは必ずしも適切ではないのではないかとしております。したがいまして,これまでと同様,視聴覚的実演についても延長の対象とすべき旨を記述しております。
 続きまして,映画の著作物の取扱いであります。これについては,本小委員会の11月の意見聴取におきまして権利者団体から延長の要望が出されたところでございます。この点につきましてですが,次のパラグラフの方に飛んでいただきまして,平成15年改正の際に議論となったわけでありますけれども,死後起算の著作物と比べて,映画の著作物については保護の年限が相対的に短くなるという議論があったわけでありまして,こういうことを前提としますと,公表後70年より更に延長するということも考えられるとしております。しかし,公表後70年の保護期間については,既に協定の義務を満たしているということもございますし,また,外国においては,映画の著作物のみ他の著作物と別の取扱いをしているというのは必ずしも一般的ではないということもございます。したがいまして,映画の著作物の保護期間の更なる延長につきましては,その要否,在り方について国際動向等を踏まえて改めて検討することが適当としてございます。
 続きまして,3番,放送事業者等の権利につきましては,これもTPP協定上の義務がありませんので,これをどうするのかということが問題になるわけでございます。この点,諸外国におきましても,放送事業者の権利は50年としている国が多うございますし,また,現在の世界知的所有権機関における放送条約の議論におきましても,これを更に延ばそうという議論は現時点では行われていないというふうに承知をしておるところでございます。したがいまして,放送事業者等の権利の保護期間の延長に関しましても,改めて検討することが適当としております。
 次に3番,延長する際の制度設計につきましてです。ヒアリングでの御意見としまして,延長の対象となる著作物につきまして,著作権登録がなされたものなどに限るといった幾つかの限定を掛けるという御要望があったところでございます。次のパラグラフに飛んでいただきますけれども,この点,保護期間の延長対象としまして,改正法の施行時に著作権が存続するにもかかわらず,そのうちの延長対象を限定するということに関しては,TPP協定の義務との関係やベルヌ条約との関係で困難ではないかというふうに記述してございます。しかしながら,後述いたしますように,この保護期間延長によって予想される権利者不明著作物等の利用円滑化策についても今後検討を行っていくべきである旨を述べてございます。
 次のページをお願いいたします。TPP協定の締結に関連して検討すべき措置としまして,まず第1に戦時加算を掲げてございます。この点については,これまでも情報提供してまいったわけですけれども,二つ目のパラグラフ中ほどのところにありますように,我が国とTPP交渉参加国のうち戦時加算対象国との間での調整の結果,権利管理団体と権利者との間の対話を奨励することなどを定めた政府間の書簡が交わされたというところでございます。本小委員会としましては,権利者団体からもこの点を歓迎する旨が表明されたことも踏まえまして,本問題の現実的な打開に向けた取組が適切に行われるよう提言するということとしてはいかがかと考えてございます。
 次に,権利者不明著作物等の利用円滑化策でございます。こちら,保護期間の延長に伴いまして,権利者不明の著作物等の増加が予想されるわけでございます。これにつきまして,経済界等の関係団体からもその利用円滑化が求められてきたわけでございます。これに対して,権利者団体としても積極的対応をするという旨の意見表明があったところでございます。これらを踏まえまして,今後,裁定制度の改善,権利情報の集約などの環境整備について方策の検討を行うということにしてございます。
 続きまして,著作権等侵害罪の一部非親告罪化でございます。こちらも問題の所在の辺りは少し飛ばせていただきまして,検討結果の方をごらんいただければと思います。協定締結のために必要な措置について,制度整備の方向性としましてこのようにまとめております。まず小委員会の意見聴取におきましては,著作権等侵害罪の一部非親告罪化は悪質な海賊行為等に対して有効であるというお声が多かった一方で,二次創作活動等での萎縮効果に対する懸念も示されました。
 次のページをお願いいたします。これに関しまして,次のパラグラフですけれども,著作権等侵害罪の一部を非親告罪化することによって,国民の規範意識の観点から容認されるべきでない,悪質な侵害が告訴なく放置されるということや,告訴期間の経過により告訴ができなくなるなどの事態が避けられることから,海賊版対策の実効性を上げることが期待されるとしてございます。
 このようなことに鑑みまして,この著作権等侵害罪の一部非親告罪化について必要な制度整備を行うことが適当であるとする一方で,二次創作文化への影響にも十分配慮した制度の設定が必要であるとしてございます。その具体的な在り方としまして,一番下のパラグラフですけれども,海賊行為のように被害法益が大きく,著作権者等が提供又は提示する著作物等の市場と競合するような罪質が重い行為態様について非親告罪化とすることが適当といたしました。
 では,次のページをお願いいたします。非親告罪とする範囲についての記述でございます。協定におきましては,非親告罪の対象とすべき範囲の要件としまして,まず故意により商業的規模で行われる侵害行為であることが述べられております。これを踏まえまして,少し飛びますが,次のパラグラフのところにありますとおり,侵害行為の対価として利益を受ける目的を有している場合や,著作権者等の利益を害する目的を有している場合であることを要件とすることが考えられるといたしました。
 また,TPP協定におきましては,この範囲を市場における著作物等の利用のための権利者の能力に影響を与える場合に限定することができるとされてございます。この趣旨を踏まえまして,非親告罪化の範囲を著作物等の提供又は提示に係る市場と競合する場合に限定するという考え方をお示しいたしました。
 パラグラフを飛ばして,「具体的には」のところですけれども,まず第1に,有償で提供・提示されている著作物等であることを要件とするという御提案でございます。さらに,次のパラグラフ,原作のまま著作物等を利用する行為であること,加えて,著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合,このような三つの要件を更に加えてはいかがかという御提案でございます。
 次のパラグラフでございますけれども,したがいまして,非親告罪の範囲については,上記の三つの要件を設けることにより,市販されている作品等に対する海賊行為が非親告罪の対象となる一方で,二次創作行為については,通常,原作のまま著作物等を利用する行為に該当しないということで,非親告罪の対象とならないことになるのではないかというふうに考えを整理いたしました。
 次に,マル3,対象とする支分権侵害の範囲についてでございます。TPP協定におきましては,非親告罪化が求められておりますのは,piracyと言われていまして,日本語訳では「権利を侵害する複製」としております。まさにこの訳とか過去の関連条約の解釈に照らしますと,国内法における複製権侵害を意味するのだろうというふうに考えられるわけでございます。
 これに関しまして,次のパラグラフ以降ですけれども,関係団体の御意見,それから,本小委員会におきましても,まずTPP協定の担保に必要な最低限の範囲のみを非親告罪とするという御意見があったわけでございますが,一方で,海賊版対策の実効性の観点からは,譲渡権侵害や公衆送信権侵害についても対象とすべきという御意見もあったわけでございます。
 この点の考え方としましては,公衆譲渡又は公衆送信といった行為が権利者に与える不利益の大きさ等において複製と同様に評価できるというふうに整理させていただきまして,次のページですけれども,これらのことから,譲渡権侵害や公衆送信権侵害についても非親告罪の対象とすることが適当としております。しかし,先ほど御紹介したような,対象行為の範囲を限定すべきという御意見の背景には,二次創作等への萎縮効果が述べられておったわけでございまして,こうしたことへの配慮としては,先ほど述べた要件設定において適切に除外していくということが考えられるとしております。
 次に,マル4,被害者の意思を尊重するための制度的な工夫についてでございます。この点につきましても,関係団体の方,それから,本小委員会におきましても,二次創作に対する萎縮効果を生じさせないといったことのために,被害者の意思を尊重するための制度的工夫が重要であるといった御意見が複数あったわけでございます。
 これに関しましては,まず著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなるという要件設定をした場合においては,権利者の事情の確認が必要となるため,そういった要件充足性の判断の中でしっかり確認が行われることになるのではないかとしてございます。
 それから,次のパラグラフですけれども,そのような要件の判断以前の問題としまして,著作権等侵害罪というものは,権利者が誰であるかといったこととか,許諾の有無などを確認するという必要がございますので,被害者の協力なしに意思に反して捜査を行うといったことは極めて困難である旨,それから,起訴便宜主義の中でも,被害者の感情等は当然重視されるべきものであるということを述べさせていただいております。
 次のページですけれども,マル5,保護の対象とする権利者の範囲についてです。これはTPP協定上規定されていない視聴覚的実演の権利,それから,放送事業者・有線放送事業者の権利についてこの制度整備の対象とするかどうかということが論点となるわけでございます。この点につきましては,今回の非親告罪化の趣旨に鑑みまして,他の権利侵害と同様,これらの権利についても非親告罪化の対象とすることが適切といたしました。
 最後に,(2)その他でございます。一部非親告罪化につきましては,国民の関心も非常に高い論点でございますので,国民の萎縮効果を生じさせないように,改正の内容や解釈について十分周知するとともに,適切な運用を期待するとしております。
 それでは,次のページをお願いいたします。続きまして,第4節,アクセスコントロールに関する制度整備でございます。これも少し飛ばせていただきまして,19ページの検討結果をお願いいたします。まずTPP協定の締結のために必要な措置についてです。制度整備の方向性としまして,1ポツで書いておりましたが,平成23年の報告書におきまして,アクセスコントロールのみを有する保護技術については,著作物の公正な利用と著作物等の権利の保護とのバランスを図りながら制度の在り方を検討するべきだということで,当時の法改正の対象からは見送られたわけでございます。
 しかし,こうした技術を巡っては,現在,著作権者等の保護されるべき利益に影響を与え得る状況が生じているというふうに述べさせていただいております。具体例としまして,当時の平成23年報告書でも議論になった,いわゆるマジコンといったゲーム機・ゲームソフト用の違法利用を抑止するための技術に関しては,平成24年改正の制度整備の対象とはならなかったわけでございますけれども,この必要性は依然として変わりないということだと考えます。
 また,次のパラグラフですけれども,放送番組に関する保護技術につきましても,関係団体からこの対策に対する御要請があったということでございまして,今後もこうした技術がクラウド化の進展等によって多く用いられるようになることが予想されるわけでございます。
 次のページをお願いいたします。これらのことを踏まえまして,このようなアクセスコントロール技術については,著作権者等の意思に反する著作物等の無断利用・無断視聴等を防止することによって,著作物等の提供に伴う対価の確実の回収等を可能にする手段であると評価でき,著作権法の目的に位置づけられる著作権者等の利益の保護と密接な関係を有するものと評価できるといたしました。また,国際的な制度調和の観点にも留意する必要がございます。これらのことから,アクセスコントロールの回避行為,それから,回避機器の流通等に一定の救済を認めることが適切であるといたしました。
 なお,制度の検討に当たりましては,アクセスコントロールにより保護されるべき権利者の利益の性質とこれに対抗する利益としての国民の情報アクセスや表現の自由との均衡に鑑みまして,著作物等の公正な利用とのバランスを図ることが必要であるといたしております。
 次に,具体的な制度設計の方ですけれども,マル2,保護対象とする技術的手段の方式についてです。ここでは,まず一般論としまして,保護の対象とする技術については,技術的中立性に配慮するという要請があるわけでございます。しかし,一方で,自由な情報アクセスの制約についても配慮する必要があるため,現時点で想定される著作権者等の利益の保護と密接な関係を有しているものに限定することが適切であるとしております。そして,その際には,現行の不正競争防止法が信号付加型及び暗号型の二つの類型を定めていることも踏まえるということにしております。
 次に,マル3,保護の内容と方法でございます。この議論は,コピーコントロールと言われている技術的保護手段との異同を考えながら検討すべきではないかというのが1文目に書いておることでございます。次のパラグラフですけれども,まず技術的保護手段についての評価を記述いたしました。技術的保護手段については,回避行為そのものについては保護の対象とされていないわけでございます。その理由としまして,技術的保護手段を回避する行為は,基本的に将来の著作権等侵害行為を間接的に助長するものであると評価をされ,技術的保護手段を回避して行われる支分権該当行為について保護がなされていることとも相まって,回避行為そのものについて保護を与える必要があると認めるほどの不利益を生じているものではないと評価されているためだと記述いたしました。
 一方,アクセスコントロールを回避する行為につきましては,回避行為そのものがアクセスコントロールによって著作権者等が確保しようとする対価の回収を困難とするという点において,著作権者等の保護されるべき経済的利益を直接害する行為であると評価できることに加えまして,回避の後に行われる視聴行為等は権利の対象になっていないということでございます。このため,権利者の利益を保護するために,回避行為に対して民事上の権利行使は可能となるようにすることが適当といたしております。その方法としては,例えばみなし侵害の形で保護することが考えられる旨,それから,制度設計に当たりましては,国民の情報アクセス等との均衡に配慮した制度とすることが適当といたしました。
 次に,いわゆる回避装置等の流通に関しましては,現行の技術的保護手段に関する装置等の流通が罰則の対象となっていることを踏まえまして,同様の手当てをすることが適切であるとしております。
 それから,なお書きですけれども,アクセスコントロールの回避行為そのものについて刑事罰を科すかどうかということが問題となるわけですけれども,これについては,回避行為そのものは支分権該当行為と同視できるほどの重大性はないということ,それから,この行為の多くは個人で私的に行われることが多いということも想定されることなどから,罰則の適用については慎重であるべきとしております。
 次に,マル4,回避行為に関する例外規定でございます。アクセスコントロールの回避に関する制度整備の例外規定につきましては,事業者団体を中心に適切な規定を整備するべきという御意見が広くございました。これを受けて,本小委員会でおまとめいただいた基本的な考え方においても,その旨が明記されたところでございます。これを受けまして,次のパラグラフの3行目辺りからですけれども,関係団体の方から御要望のあった,アクセスコントロールに関する研究開発の目的で行われるものをはじめとして,著作権者等の利益の保護及び国民の情報アクセスの自由との均衡を図るという必要があることに鑑みまして,権利者に不当な不利益を及ぼさないものについては広く例外規定の対象となるような制度設計とすることが適当としてございます。
 次に,マル5ですけれども,保護の対象となる権利者の範囲につきましては,非親告罪の検討と同様に,映像実演,それから,放送事業者についても対象とすべきとしてございます。
 次に,第5節をお願いいたします。配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与でございます。1ポツ,TPP協定で定められた内容の概要としまして,協定では,実演又はレコードの放送及び公衆への伝達につきまして,実演家及びレコード製作者に原則として排他的権利を付与することを義務づけておるわけですけれども,この義務の履行に代えましてWPPTの15条の規定の履行によることでも可能であるということになってございます。本検討では,このWPPT15条の履行によってTPP協定上の義務を履行することとする方向で検討させていただきました。
 少し飛ばせていただきまして,24ページの検討結果をお願いいたします。制度整備の方向性については,まず現状として昨今のブロードバンド化の進展等に伴い,配信音源を用いた音楽の配信サービスが拡大している旨を述べております。次のページですけれども,こうした状況もありまして,権利者団体からは,適切な環境整備を行うことが求められたことから,今回配信音源の二次使用について,商業用レコードの場合と同様に使用料請求権を付与することが適当としてございます。
 次に,保護の対象とするレコードの範囲についてでございます。TPP協定上の義務の履行をWPPT第15条の履行によることとした場合ですが,WPPTの義務の内容として,レコードに関しては,送信可能化されたレコード全体を対象とすることが要請され,市販目的で制作されたものに限定するということは許容されていないわけでございますので,こうした方向性が適当としております。
 次に,マル3,保護の対象とする権利の範囲等についてでございます。この点につきまして,協定上の義務としましては,映像に組み込まれたレコードは対象外とする旨が書かれており,この点どうするのかということが問題となるわけでございます。この点につきましては,現行の著作権法におきまして,映像に組み込まれたレコードであるか否かを問わず二次使用料請求権が付与されておるというところでございますので,この取扱いを踏まえまして,今回も媒体の違いにかかわらず対象とするということが適当であるとしております。
 26ページの1パラグラフ目をお願いいたします。次の論点としまして,アナログ放送及び無料の無線放送の取扱いが問題となります。これにつきましても,協定上は,報酬請求権付与の例外を定めることができるとされております。この点に関しましても,現行の著作権法の考え方を踏まえまして,放送全般について二次使用料請求権を付与することが適当といたしました。
 さらに,三つ目の論点としまして,「これに関連して」のパラグラフのところ,TPP協定は内国民待遇を原則としておるのですけれども,レコードの二次使用のうち,アナログ放送及び無料の無線放送の形で行えるものについては相互主義としてもよいとされてございます。この点につきましても,関係事業者さんの御意見等も踏まえまして,一番下の文章ですけれども,相互主義を維持することが適切としてございます。
 最後に,制度の運用に当たり留意すべき事項でございます。今回,配信音源について95条や97条の対象とするとした場合には,これまでの枠組みと同じく文化庁長官が指定する団体がこの権利を行使することになることが想定されるわけでございます。この場合におきましては,制度改正後に,放送における商業用レコード及び配信音源の利用実績等に応じた適切な額の設定に向けて協議が進められることが必要となる旨を記述させていただいております。
 続きまして,法定の損害賠償等について御説明いたします。まず1ポツの問題の所在のところでございます。TPP協定においては,法定の損害賠償又は追加的損害賠償に係る制度整備について求められているところでございます。法定の損害賠償は何かというのは詳細には書かれていないのですけれども,※1にありますように,侵害によって引き起こされた損害について権利者を補償するために十分な額に定め,及び将来の侵害を抑止することを目的として定めるとされております。また,追加的な損害賠償につきましては,懲罰的賠償を含めることができるなどとされておるところでございます。
 少し飛ばせていただきまして,29ページの検討結果をお願いします。TPP協定の締結のために必要な措置,検討方針としまして,昨年おまとめいただいた基本的な考え方においてお示しいただきましたように,まず協定で求められる内容と現行法との関係を整理し,その上で,改正の必要性及び整備すべき制度の内容について検討することといたしました。検討に当たりましては,関係者の御意見にも留意しつつ,填補賠償原則など我が国の法体系に即したものとなるよう留意をいたしました。
 マル2,制度整備の方向性でございます。ここはちょっと丁寧に御説明したいと思います。TPP協定におきましては,法定の損害賠償の制度とは,著作権等の侵害があった場合において,権利者が,当該侵害行為により実際に生じた損害額や損害と当該侵害行為との因果関係の立証をせずに,侵害者に対して当該侵害行為の類型に応じた一定の範囲の額の支払いを求めることができる制度であって,権利者の立証負担軽減の意義を有するものであると考えられるところでございます。その具体的な制度設計につきましては,冒頭で御紹介しましたように,各国に一定の裁量が認められているものと考えられるところでございます。また,追加的損害賠償制度につきましては,裁判所が侵害者に対して実損害以上の支払を追加的に命ずることができる制度であり,懲罰的賠償を含めることができるとされておるところでございます。
 これらにつきまして,関係団体からの意見としましては,経済団体や権利者団体から,追加的賠償や懲罰賠償に対する消極的な意見,それから,填補賠償原則に即した形の制度整備を求める意見が寄せられた一方で,明示的に追加的賠償や懲罰的賠償制度を求める御意見はなかったと承知してございます。また,本小委員会の議論におきましても,損害賠償額が現実の損害と乖離しているという場合には,実質的には懲罰的な性格を帯びてくるとしまして,我が国の法体系上認められないという御意見もあったところでございます。
 以上のことを踏まえまして,TPP協定の対応に当たりましては,法定の損害賠償制度を採用するという方向で検討を行うことが適当としてございます。そして,まず我が国の著作権法との関係について整理をすることとしたわけでございます。この点につきまして,本小委員会の議論では,現行の第114条3項等については,実際の損害について立証しなくても所定の損害額の請求が可能であるという旨があらかじめ法定されているということなどを理由としまして,次のページをお願いしたいと思いますけれども,法定の損害賠償たり得るという御意見が複数示されたわけでございます。
 少し下の方をお願いします。これらの意見を踏まえますと,特に114条3項については,法定損害賠償の定義に該当するとして,我が国は同項によって法定賠償を担保しているという考え方も必ずしも排除されないものと考えられるところでございます。他方で,ここに記述しておりますような,諸外国の動向とか,あるいは権利者団体の御意見等を踏まえますと,次のページ,「そこで」以降のところですけれども,TPP協定の求める制度の趣旨をより適切に反映する観点から,著作権等に係る損害賠償制度について,現行規定に加えて填補賠償原則をはじめとする我が国の法体系の枠内で可能な範囲の措置を講じるということが適当としてございます。
 なお,著作権法によって保護される著作物等は多種多様でありますので,個々の侵害事案の損害額も大きく異なります。したがって,損害額の下限を一律に定めることは填補賠償原則との関係で困難としてございます。
 それでは,制度整備の具体的内容の御説明をいたします。マル3をお願いいたします。ここでは,填補賠償原則等の枠内で実際に生じる損害との関係について合理的な説明が可能な額を法定する規定を設けることが適当といたしました。この点に関連しまして,現行の114条3項の認めるライセンス相当額の請求に関し,侵害された権利が著作権等管理事業者によって管理されているものである場合は,その使用料規程が算定根拠として実際の運用上も広く用いられております。
 こうした運用がなされている理由としましては,使用料規程が管理事業法の規律によって一定程度の規制を受けているということがあるのだろうと考えられるところでございます。しかしながら,こうした運用に関しては,明文上の定めがないことから,このような形で使用料相当額が請求可能かどうかは明らかではありません。
 このような状況に鑑みまして,使用料規程により算出した額は基本的に権利の行使につき受けるべき額に相当するというふうに評価をいたしまして,管理事業者の管理する権利について114条3項の請求を行うという場合においては,使用料規程により算出した額を請求できる旨を法律上明記することが適当といたしました。また,そのような額が複数存在する場合は,最大のものを請求可能とすることが適当といたしました。
 次のページをお願いいたします。マル4,制度整備に当たっての留意点でございます。この制度整備を行うに当たりましては,侵害行為に係る著作物等の利用の態様が,使用料規程が想定していないものであった場合や,仮に著作権等管理事業者が定めた使用料規程が高額な損害賠償を受けることを企図として不相当に高額となっているような場合などが想定されるわけでございまして,そういった場合についてまで例外なく使用料規程によって形式的に算出された額の請求が可能となるというのは,填補賠償原則との関係からは不適切であるとしてございます。制度整備に当たっては,このような懸念を踏まえた上で適切な運用が可能となる制度とする必要があるとしております。
 では,次のページをお願いいたします。第7節,施行期日についてでございます。これにつきましては,TPP協定の定める各種制度整備の事項は,今回TPP協定の発効によって国際的な制度標準となるというものが多々含まれていることや,それから,関係団体の皆様の意見も踏まえまして,今回制度整備に係る改正法の施行に関してはTPP協定の発効と合わせて実施することが適切であるといたしました。
 次のページをお願いいたします。第2章,TPP協定を契機として検討すべき措置についてでございます。この点のエッセンスは,既に11月の基本的な考え方においてお定めいただきましたので,ここは御説明を割愛させていただきたいと思います。後ほどごらんいただければと存じます。
 説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございました。それでは,ただいま頂いた説明に基づいて,順に検討を進めていきたいと存じます。中心的なところが,第1章の第1節,第2節,第3節,第4節,第5節,第6節,それから,施行期日も含めて7節,ここが核心的な部分かなというふうに承知いたしますので,まず第1章の第2節,著作物等の保護期間の延長の項目について御意見を賜りたいと存じます。どうぞお願いいたします。
 いかがでございましょうか。
 松田委員,お願いします。

【松田委員】松田です。実はこの50年,70年の問題は,ある意味では,TPPの問題を離れても,実を言うと決めの問題でございまして,国際的な他の国の状況を見てどこでどう決めるかというのは決めの問題なのであります。TPP協定において70年が要求されるところで,これで国内法的にはこのまま50年原則を守り続けられるかということになると,それはもうできないということになっているわけです。そうすると,この論点は,これで決めざるを得ないのではないかといって,格別これについての意見を述べるということはなかなか難しくて,あと加わるところでは戦時加算の問題と映画の問題だろうと私は思います。
 戦時加算の問題は,TPP周辺の交渉でかなり具体的な解決が図られているのでありまして,日本国内的にはおよそ納得がつくのではないかなと思います。映画につきましては,更に延長をという要求があるのは承知しておりますけれども,TPPの協定の国内法化という点においては,とりあえず70年でまとめておいて,さらに,国際的動向を踏まえて更に延長が必要かどうかということを検討せざるを得ないと思います。そういう点で,ここでまとめられたところは,やむを得ないけれども,もうこれ以外の決定方法はないのではないかと,こういうふうに思っています。意見としてはその程度でございます。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかに御意見はございませんか。

【道垣内委員】6ページの上から4行目のところに,ベルヌ条約における不遡及原則という言葉が出てまいりまして,注では18条1項が引用されているわけです。確かに一度公有に帰したものには適用しないという点では不遡及なのですが,現に存続していれば,過去に創作されたものにも適用するという意味で遡及効だと思います。お伺いしたいのは,TPPの18.63条によれば,70年にせよと規定されていますが,TPP上は,今後創作されるものについてだけそうすればよいという選択肢もあるのかないのか,という点です。それがないのであればどうしようもありませんけれども,もしそこのオプションがあるのであれば,過去に創作され,創作のインセンティブを与えるわけではなく,経済的利益を事後的に与えるということを正当化する理由がどこかに書かれてしかるべきではないかと思うんですけれども,いかがしょうか。

【土肥主査】ありがとうございました。御質問の点,これは大塚専門官?どなたがお答えになりますか。

【大塚国際課専門官】失礼いたします。TPP協定においては,ベルヌ条約を踏襲するという内容になっておりますので,御指摘いただきましたように,パブリックドメインに属したものについては適用がないですが,既に創作されているもの,保護期間が満了していないものについては適用の対象になるという解釈でございます。

【土肥主査】いかがでしょうか?そのとおりでよろしいですか。

【秋山著作権課長補佐】はい。

【土肥主査】ということでございます。
 ほかに,御意見,御質問ございましたら,お願いいたします。
 奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】基本的には,先ほど松田委員からもありましたように,私もこの方向でよろしいかと思います。一言だけ,松田委員の言葉と重なるところあるかもしれませんけれども申し上げておきますと,従来,保護期間の延長については様々な御意見があった現状がありまして,今回,TPP協定によってやむを得ずこういう形にするということであって,やむを得ずというか,必要に応じてするということであって,これを機会に,今後,保護期間の延長が,ドアがオープンして無限定に広がっていくということではない,そういう前例であるわけではない,ということは理解しておく必要があるのかなという点を意見として申し上げておきたいと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかに,この問題いかがでございましょうか。よろしゅうございますか。保護期間の延長問題については,ただいま事務局等で説明ございましたような基本的な考え方を本小委においても認めるということでよろしいですか。
 映画についてはお話がございましたけれども,放送の問題もございます。これについてはまた別途検討する,継続的に検討するというのが原案かなと思います。それから,最終的な利用円滑策,70年に延びるところがございますので,どのような利用円滑策を今後構築していくか,これも非常に重要になろうと思いますので,こうしたことも併せて適切に進めていただければと思います。
 それでは,次の問題でございますけれども,著作権等侵害罪の一部非親告罪化の問題でございます。これについて御意見いただきたいと存じますが,いかがでございましょうか。
 河村委員,お願いします。

【河村委員】ありがとうございます。全体に懸念はあるのですけれども,特に申し上げておきたいところは,14ページのマル3の対象とする支分権侵害の範囲についてというところで,今回TPPで求められているところを超えて,譲渡権侵害や公衆送信権侵害についても適切であるとの意見も示されているとなっていて,それに反対する方の意見は注の方に出ているのですが,これは少なくともTPPで求められている範囲にとどめるべきだという意見を私は持っておりますし,より積極的に読めるような書き方には反対するものです。とりあえず以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかに。
 山本委員,お願いいたします。

【山本委員】14ページのところに支分権侵害の範囲と書いてありますが,ここで挙げられている支分権としては,不正権と,譲渡権あるいは公衆送信権と理解しています。ここでのpiracyを対象に置いた規制を加えよう,また,それのための要件を13ページのところで三つぐらい加えられているというところから,かなり制限的になさっている割には,piracyが実質的に抜けてしまわないのかなという心配があります。というのは,例えば漫画を外国語に翻訳した場合に,紙媒体であれば,翻訳に若干でも創作性があれば,翻案権の侵害であって複製権の侵害ではないということになってしまいます。そうすると,今の紙媒体の場合には,明らかなpiracyであっても取り締まれないということになってしまって,かなり抜けるところが発生するのではないかという懸念を私は持っております。

【土肥主査】取り締まれないというか,もともと著作権侵害罪は成立するわけですけれども,非親告罪にはしないという,そういうことですね。

【山本委員】そうですね。はい,ごめんなさい。

【土肥主査】ほかにこの点御意見ございませんでしょうか。
 蘆立委員,お願いいたします。

【蘆立委員】質問なんですけれども,13ページで具体的に三つの要件を挙げて適用範囲を限定するということなんですけれども,三つ目の要件として挙げられています,著作権者の得ることが見込まれる利益が不当に害されることになる場合という具体的な内容が余りピンときませんでしたので,御説明いただきたいと思います。といいますのは,制限規定の方でもただし書で同様の文言を使っているところがあるかとは思うんですけれども,制限規定のただし書の場合は,侵害になるかどうかの判断基準で使用されている基準かと思われるんですが,ここでは,侵害にはなるけれども,非親告罪の対象になるかどうかという基準で多分用いられているはずですので,その関係性はこの文言からだとよく分からなくなってしまうかなというところが気になりまして,御説明いただければと思います。

【土肥主査】これは,では,小林著作権調査官,お願いします。

【小林著作権調査官】今回は,権利者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合という要件として設けておりまして,この要件については,正規品の販売市場と競合性があるかないかという判断を行い,あるという場合については非親告罪に当たり得るという要件として考えております。

【蘆立委員】具体的に例えばマル1とマル2の二つの要件は満たすんだけれども,3番目の要件が欠けて非親告罪の対象にはならない場合というのがあり得るということになるかと思うんですけれども,それは具体的にどういう場合が?

【小林著作権調査官】例えば,漫画のようなものを1冊丸ごとコピーするのではなく,一部分をそのままコピーして公共に提示しているような場合も,原作のままに該当し得ると考えられます。また,市販の漫画であれば有償で提供・提示されている著作物に該当すると思います。ただ,一部分を公共に提供・提示した場合であっても,一部分のみを欲するという需要者は一般的に少ないと思われますので,需要者の移動は相当程度起こるものではない。したがって,市場において競合するものではないとして,最後の3番目の要件で切れるというようなことが想定されると思われます。

【蘆立委員】ありがとうございました。

【土肥主査】ほかにございますか。二次創作活動をできるだけ萎縮させない,これがこの点の,この問題の非常に核心的なところでございますので,今御質問のあった3要件もこれとの関係で理解をするということでございます。
 ほかにいかがでございましょうか。
 上野委員,どうぞ。

【上野委員】今,蘆立先生が御指摘になった点で,私の考える二次創作に関する例を挙げますと,動画投稿サイトなどによくアップされている「ヒトラー総統閣下が○○」というような動画の例があります。そこでは,DVDでも販売されているような既存の映画が用いられ,その映像の上に,いわゆる空耳みたいな形で,嘘の字幕を入れて楽しむといったことがなされておりますけれども,あれは,映像の部分と音の部分は映画をそのままコピーして使ったものですので,字幕の部分で多少の変更はありますけれども,「原作のまま」には当たる可能性が高いかと思われます。
 ただ,2時間半くらいある元の映画全体が用いられているという場合であれば,「著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合」に当たるかもしれませんが,それが1分とか2分とかであれば,たとえ「原作のまま」ではあるとしても,ここにいう「著作権等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合」――ちなみに,これは既存の権利制限規定におけるただし書の文言を使ったというより,113条5項の文言を使ったものというべきでありますけれども――,これに当たらないということになるかと思います。したがって,「原作のまま」という要件とは別に,「著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合であること」という要件を設けることは,そのような点でも大きな意味があると思っております。
 また,今の例にもありましたように,「原作のまま」というのは,一切変更が加えられていない場合のみを指すわけではなくて,山本先生が御指摘になった,漫画のせりふの部分だけを翻訳したという場合であっても,なお「原作のまま」に当たるという解釈が可能だろうと思います。実際のところ,そのような解釈は,既に出版権における「原作のまま」の解釈として,平成26年改正時の国会答弁でも示されたところであります。もちろん,同じ文言を使っているからといって,直ちに同じ意味に解釈すべきかどうかは残された課題だといたしましても,今回の改正は,山本先生が御指摘になったようなケースをカバーし得るものではないかと思います。以上です。

【土肥主】ありがとうございました。
 それでは,大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】今の点です。この御趣旨は,前から私がエッセンスにつきコンセンサスがあるといっていた点である,非親告罪化として押さえるべきものは押さえなければいけないが,コミケなどの二次創作には萎縮効果を与えてはいけないという点について,できるだけきめ細かく線を引こうとしたものである,すなわち,有償というメルクマールと,それから,原作のままというメルクマールと,今の,市場で競合しないという,これら三つをうまく組み合わせてできるだけきめ細かく線を引きたいということだと理解しております。
 原作のままというのはやや幅があり得るのであって,そこである程度操作できますが,できるだけ,それを広げたり狭くしたりという操作を無理にしなくても,ここで救うべきものは非親告罪化から外すというところにつき線を引くためには,市場での競合性というものは,実質的な被害ということで実質的な線を引くためには非常によい工夫であると思います。条文がないから分かりにくいですが,御趣旨は,権利制限の話ではなくて,マーケットで競合しないので実質的に害がないのだから,そのようなものは非親告罪化から外すという思想がよく表れているものと思います。要するに,全体的なエッセンスとしてコンセンサスがあるものをどううまく条文に落とし込んでいくかという際には,三つを組み合わせた方が線を的確に引きやすいのではないかと思っております。
 それから,すみません,先ほど少しタイミングを逸しまして意見を言いそびれましたが,保護期間について申し上げたいことがあります。保護期間に関して中身は賛成でありますが,先ほど条約に義務付けられてやむを得ずという話があったのですが,その点についてであります。私が理解するところ,死後50年にするか70年にするかという点については,極めて様々なことを総合的に考慮した上で判断するわけですが,その中での極めて重要な一つのファクターとして国際調和というものがあることは間違いありません。そしてTPPという大きな国際的枠組ができることによって,国際調和に関しては,TPP加盟国という広い範囲では国際状況自体の趨勢に関して50年から70年に舵が切られるという今後の国際調和の前提となる国際的な法的状況の大きな変化があるのであります。この点では,TPPの前の国際調和とは大前提自体が大きく変わってくるのであります。そのような観点で,日本は義務付けられたからやむを得ずというより,自主的に入ったわけですが,TPP自体による今後の国際状況の大きな変化自体こそが決定的なファクターになっているのではないかと思っております。
 それから,前回も申し上げましたけれども,先ほど少し御紹介されました,戦時加算についてはなかなか困難な問題と思いますが,現実的な実務的努力を積み上げていかれるということであり,それを着実に続けていただければと思います。また,これも繰り返しになりますが,オーファンワークスの関係もきちんと進めていただければと思っております。そのような前提で賛成です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかにございますか。
 山本委員。

【山本委員】上野委員からお話がありましたように,原作のままにという要件が入っているので,まさにそれがゆえに,更に支分権による縛りを掛ける必要はないのではないかと思います。支分権の縛りではなく,その3要件を上手に規定の中に盛り込むという形が,この趣旨に一番合うのではないかというのが私の意見です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかにございますか。
 いずれにしても非親告罪化に関しては,二次創作の問題を十分考えまして,これを萎縮させないような非親告罪化を実現するということでございまして,原作のままとか,あるいは有償,それから,不当に利益を害さないという,この3要件でございますけれども,原作のままは先ほどから議論があるところですけれども,トランスレーションのようなものは,ベースの著作物としてはそのまま原作のままになっているはずなので,この要件をきちんと考えていくということが非常に重要なことなんじゃないかなというふうに承知をしております。
 本小委員会といたしましては,この非親告罪化について,この案にあるそういう基本的な方向性については了解したいと思いますが,いかがでございますか。
 では,茶園委員。

【茶園委員】3要件のところはそれでよろしいと思います。また,対象となる支分権についてですが,そもそもpiracyが複製権の問題にとどまるかという点がよく分からないのですけれども,14ページで譲渡権や公衆送信権も対象にするとされていることについても,私は賛成です。ただ,譲渡権については,piracyが複製権を対象にするとしますと,商業規模で非常に大規模に複製された場合に非親告罪となるのですが,現実に著作権者が損害をこうむるのは,複製されたものが譲渡された場合です。そのため,複製権侵害に対しては非親告罪とするのだけれども,譲渡権侵害に対してはそうはしないというのでは,バランスを失するのではないかと思います。ここは,譲渡は複製につながるものとして,複製権と譲渡権を一つのパッケージのように取り扱うべきであると思います。
 他方,公衆送信は,複製とは別個の行為類型ですので,これを含めるかどうかは,譲渡権を含めるかどうかとは異なる問題となります。もっとも,私は,結論的には,ここに書かれていますように,公衆送信は,現在では大規模な複製と同じように著作権者に大きな被害を及ぼす行為となるでしょうから,公衆送信権侵害も非親告罪化の対象にすることでよろしいというように思います。以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。もちろん非親告罪化に関しては,piracyをいかに抑制するかという実効性の問題がございますので,そこも含めてこの案の方向性を了解したいと存じます。
 それでは,次の3番目ですけれども,いわゆるアクセスコントロールの問題,これについて御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。どうぞ御自由に。
 山本委員,どうぞ。

【山本委員】20ページ目のマル2で保護対象とする技術的手段の技術方式についてというところの話なのですが,結論としては,信号付加型と暗号型のみが適当だということになっていまして,ここについては,疑問があります。これは1996年にWIPO条約が成立して,その後,1998年にアメリカがDMCAで技術的保護手段を規定して,EUでは2001年に情報社会指令でもって技術的保護の手段を定めています。いずれも手段を,技術の種類を特定する形ではなく,「効果的な技術的手段」という,「効果的な」ということで運用しております。
 アメリカの場合にはもう18年,EUでも15年近い期間実際に運用されていて,その中で見ますと,実際にアクセスコントロールとして存在するものは,暗号化が重要ですが,もう一つは認証技術が極めて重要なものになっております。また,アクセスをコントロールする専用のソフトウェアも出てきており,そういうものも重要なアクセスコントロール手段だと思います。そういうものを保護せずに,信号付加型と暗号型だけに制限するというのは適切ではないと思います。
 他方,信号付加型というのは,SCMSやGCMSというようなものを想定されていると思いますが,この辺も本来的には暗号技術によって,あるいは法律によって信号が読み取られるということが強制されてない状態の中では,効果的な技術的手段とは考えられておりません。ですから,例えばフランスでは,こういう信号については別の規定を設けて,効果的な技術的手段ではないけれど保護するというような体制をとっております。という意味で,ここの対象にしているものは,今までの効果的な技術的手段として考えられているものからは技術的種類としてはかなりずれているアプローチではないかと思います。
 次に私がよく分からないのは,20ページ目のマル2のところで,「技術手段を特段限定する広くアクセスを制限する手段全般を対象とすると,自由な情報アクセスを過度に制約するおそれがある」と書かれているのですが,これはどういう状況を想定されているのかというのは私には全く想定がつきません。
 といいますのは,私はドイツ語もフランス語も読めませんからヨーロッパの方の判例は当たっておりませんが,アメリカの裁判例を当たっている限りは,特に認証技術が自由な情報アクセスを過度に制約するおそれがあると指摘をされたこともありませんし,そういう問題状況が発生したという話は聞いたことがありません。ですから,ここで自由な情報アクセスを過度に制約するおそれがあるというのはどういう状況なのか。技術一般を言っていても仕方ないので,認証技術などの場合にどういうものを想定されているのか,これについてここで書かれているところをお聞かせいただきたいのですが。

【土肥主査】では,秋山課長補佐,お願いします。

【秋山著作権課長補佐】認証技術と言われる技術が,今の不競法で規定されている技術的制限手段との関係でどのように評価されるのかということについては私からはお答えは差し控えさせていただきますけれども,ここで書かせていただいた趣旨としましては,アクセスに関わるような情報やプログラムとしては,例えばIDとパスワードのような情報等様々なものがありえるわけでございまして,その辺りの予想がつかないということから謙抑的に規制範囲を確定しようとしたのが不正競争防止法の改正の際の議論であったと承知しておりまして,今回,基本的にはその考え方にならったということでございます。すみませんが認証技術について技術面で具体的・網羅的に把握できているわけではございません。

【土肥主査】山本委員,どうぞ。

【山本委員】IDとパスワードというのは,認証技術の典型的なものの一つですが,それを保護するというのは,これはあくまでも著作物に施された認証技術という文脈の中なのですが,それが何ゆえ自由な情報のアクセスを過度に制約するということになるのか,今の御説明でも全くよく分からないんです。
 例えば暗号化も,著作物に掛けられていなければ余計なことをしているということになります。同じようにIDとパスワードも,著作物ではないものに掛けられていれば自由な情報アクセスを妨げるということになるのと,対象がどうかだけで問題状況は一緒ではないかと思います。

【土肥主査】この点,今の,同じじゃないかというのはどうですか。

【秋山著作権課長補佐】すみません,一般論として必ず問題があるとかないとかいうところまで幅広に情報を精査したわけではありませんので何とも言えないのですけれども,繰り返しで恐縮ですけれども,過去の類似の制度の検討に当たっては,ID,パスワード等を他人に頒布する行為まで刑事罰の対象になるのかどうかというような議論もあったように承知しておりまして,今回の早急にTPPに対応するということの中で議論する射程としては,その点については別途の検討に委ねるということもあるのではないかとの考えの下でこのようにまとめさせていただきました。

【土肥主査】山本委員,いろいろ御質問あろうと思いますけれども,そもそもここで挙げている二つの技術,信号付加型,これ,いわゆるフラグの方式だと思うんですけれども,それと,暗号型,この二つの方式については今回の技術的手段の技術方式として含めてよろしいと,それは御異論はないわけですよね。更に認証方式まで含めるかどうかという,そこの点について御意見があるというふうに承知しておりますけれども,そういうことですよね。

【山本委員】はい。

【土肥主査】それは山本委員の御意見というのは私どもよく今伺ったわけでございますけれども,やはり法制小委という全体の中で議論させていただきますので,山本委員のような御意見がもし多ければそれはそうですけれども,今回のところは信号付加型と暗号型の二つの技術を前提にアクセスコントロールを考えていこうということになりますと,その点は御了解いただければと思うんですけれども,よろしいですか。

【山本委員】私の意見は意見ですので,ここの取りまとめとはまた別だと思います。

【土肥主査】要するに,きょうはここの取りまとめということで考えておりますので。事務局においても,今の認証技術との関係については継続的に少し勉強していただければと思います。
 ほかに,アクセスコントロールについて何か。

【道垣内委員】御説明として,罪刑法定主義の観点からは書けないという理由がどこかに書いてあれば,納得できるのですけれども,山本先生おっしゃっているようなことも書こうと思えば書けるのでしょうか。時代が変わっているので,過去こうだったから今もそのままだという理由だとちょっと弱い気がしますので,お考えください。

【土肥主査】ありがとうございました。

【大渕主査代理】はたで聞いていてよく分からないのでお伺いします。ほかにもあるかもしれないが,先ほどのように,最低限,条約上必要なものとして,今回の緊急的な状況の中でこの二つは入れるべしということで理解しております。それ以外にもあるのではないかということであれば,ほかにあるのかまた検討しなければいけないのかもしれないのですが,今回確実に入れるべきものは入れて,今後はそれ以外のものも検討するという現実的なアプローチでよいように思われます。

【土肥主査】では,山本委員,どうぞ。

【山本委員】その二つの技術を入れるということは分かるのですが,私の基本的な意見として申し上げているのは,こういう技術を特定せずに,まさに20ページの上の方に国際的な制度調和の観点からいけば,EUでもアメリカでもやっているように,あるいはWIPO著作権条約でも書かれているように,効果的な技術的手段という,技術の種類を特定しない書き方にすべきではないかと思います。もって効果的な技術的手段になるのかというのは,解釈の中で議論されればいい話であって,ここの立法化する段階では技術を特定する必要はないのではないんですかというのが私が申し上げている意見です。

【土肥主査】ありがとうございました。15年前のこの問題,コピーコントロールに限ってのことでしたけれども,やはりどういう技術が規制の対象になるのかということはメーカー側からも非常に関心があったところです。我々は法律屋ばかりがここにおりますので,恐らくこの問題が認証技術とかリージョナルコードとかいろいろなところまで広がっていくとなると,やはりかなりそういう場においては慎重さが求められてくるんだろうと思います。
 恐らくこれから先いろいろな議論がされていくんだろうと思うんですけれども,本日の法制小委の議論としては,信号付加型と暗号型の二つの技術をきちんと踏まえた上で,この問題はアクセスコントロールの話でありますので,従来から議論のあったところなんですね。ですから,少しここは謙抑的に技術というものについて考えていった方がいんじゃないかなと私は思うんです。法制小委としてもそういう御意見であれば,基本的にそこをまず考えていただいて,山本委員のような御意見もあるということは事務局においても何らかの形でテークノートさせていただきますので,その点で御了解いただければと思います。よろしいですか。
 残り時間30分ぐらいになっております。もちろん重要な問題ですので,延びることも考えておりますけれども,次に行かせていただきたいと思います。
 配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与の問題,これについて御意見いただきたいと存じます。どうぞ。
 これはよろしいですか,特には。
 これは配信音源の二次使用の制度整備を行ってこなかったというのもあるのかもしれませんけれども,今回これをきっかけに使用料請求権を与えるということを案とする,本小委の取りまとめとさせていただいてよろしいですか。
 ありがとうございます。それでは,二次使用料の問題は,これは例えばアナログ放送とか無料の無線放送等については相互主義にするとかというような個々の幾つかの条件ございますけれども,基本的には含めていくという,使用料請求権を付与していくという方向で案としてまとめたいと思います。
 それで,5番目といいますか,法定損害賠償又は追加的損害賠償に係る制度整備の問題について御意見を頂きたいと存じます。
 窪田委員,お願いいたします。

【窪田委員】窪田です。御説明いただいた部分について,基本的な枠組みとして理解ができました。ただ1点少し確認をさせていただく方がいいのかなと思いましたのが,32ページから制度整備の具体的内容ということで示されている点です。これは,現行法を前提としつつ,使用料規程を使って損害賠償額を定めるということが,今回の具体的な対応の一つのポイントになるということなのだろうと思います。ただ,ちょっと気になりますのは,この使用料規程については,33ページの注88にもありますとおり,基本的には事業者は登録という形になっているということ,それから,使用料規程として文化庁長官に届け出るという形にはなっているのですが,それに対して一定の対応はあるものの,基本的には届出主義で,認可主義がとられているわけではないと私自身は理解しております。それが正確でないということであれば訂正していただければと思います。
 そうだとすると,届け出た使用料規程が適当ではない場合に一定の期間実施を遅らせるとかいろいろな対応はあるようですが,こうした使用料規程を当然に損害賠償額の手掛かりとするということについては,その制度化根拠とするには少し弱いのかなという気がいたします。33ページの中ほどの段落では,事業者の使用料規程によって算出した額を使用料相当額として請求することができるといったようなことを法律上明記する,あるいは複数のものがある場合には最大のものを請求することができるとされています。ここで「できる」というのが,まさしく原告がそれを選択すれば可能なのだという意味だとすると,やはりやや適切ではないのではないかという気がいたします。
 従来の裁判例の中にも,使用料規程を使ったものがあるとしても,それは裁判官の目を通して使用料規程を使うことが妥当だと思われたから使われたということであって,そうした裁判官の裁量的判断のフィルターというのはやっぱり残しておいた方がいいのではないかと思います。ですから,基本的にはこうした枠組みを使うのだとしても,具体的に使用料規程をもって使用料相当額と認定することができる,といった形にするのが適当ではないかと思います。ここでの判断主体は裁判官ということになるわけですが,そうした形の方がよいのではないかなという気がいたしますので,意見ということになりますが,申し上げました。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかに。
 では,今の点恐らく関係があると思いますので,長谷川委員,お願いいたします。

【長谷川委員】東京地裁の長谷川です。今,窪田委員からお話があったとおりなんですけれども,著作権法に基づく損害賠償請求で裁判所として悩ましいのは,著作権侵害の場合,1項,2項で計算してもあんまり大きくならない場合も多いので,どうしても3項の役割が大きいんですが,ただ,3項で定めるに当たっても,裁判所として具体的な額を計算する証拠というのが非常に乏しい場合が多いと。
 例えば音楽の場合ですとJASRACさんの規程がありますので,それを参考にして定める場合が多いんですけれども,ほかの著作物に関してはなかなか具体的な定めがないということなので,今回こういう形で規定ができること自体は喜ばしいといいますか,いいことだとは思うんですが,ただ実際問題として懸念されるのは,それがやっぱりバインディングになってしまうとか,拘束されるんだということになると,そうだとすると,その前提として,この規程の定め方がどうなっているのかとかいう問題がかえって裁判で新たな争点になって,また裁判の遅延を招きかねないということもあるので。
 今回新しい条項を作るとして,33ページに書いてある原則論と,34ページに書いてある例外ですかね,ただし書みたいな形でこういうものを入れるのか,そこのところのイメージがいまひとつつかみにくいんですけれども,今,窪田委員から御指摘があったように,必ずこうしなければいけないというとかえって難しくなるのかなと思いますので,その辺のところ御配慮いただけたらと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,前田委員。

【前田(陽)委員】今回の報告書は,30ページで法定の損害賠償について,損害額や因果関係の立証を要しない賠償だと,こういうふうに定義した上で,32ページの方で,現行民法の填補賠償の原則の範囲で適切に対応するという,この方向性は賛成なのですが,ただ一方で,ここでも何度か議論になりましたように,27ページの真ん中辺りの※印のところで,法定の損害賠償について,権利者を補償するために十分な額に定め,及び将来の侵害を抑止することを目的として定めるという,抑止ということも書いてある。この点について,今回の報告書は,注83でちょっと触れているだけで,それ以外に,こういう対応で十分国際的に説明がつくんだという点の説明が若干弱いのかなという感じがするわけです。
 私自身は,注1にありますように,各締約国は,自国の法制及び法律上の慣行の範囲内で規定すればよいということ,他方で,日本の損害賠償について最高裁は,注82で,この部分,引用された部分では,抑止を目的としないとは書いてありますが,他方で,副次的な効果としては抑止があり得るんだということを言っているわけです。したがいますと,填補賠償の枠内で十分一定の抑止の効果を導き得るという。そうであるとすれば,日本の法制度の枠内で抑止の効果を損なわない形で対応すれば,法定の損害賠償の対応として十分なんだということを,あえて書かないのかどうか,そこまで十分に今説明しておく方がよいのかどうか,あるいはこの程度にとどめておいた方がよいのかどうかという,この辺りについて事務局の御意見というか,お考えを聞きたいと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。恐らく注82のところについては,今,前田委員御指摘のようなところの部分まで,つまり,抑止の部分,そこの部分まできちんとしていただければ。それ,必要なところ,重要なところでございますので,今回のこういう案でも十分抑止という意味の効果があるということが言えればいいのかなと私も思います。
 では,お願いします。

【大渕主査代理】この損害賠償の点は,先ほどどなたか言われた点でありますが,私も,「できる」というのは義務付けるというよりは,飽くまで,裁判官が諸般の事情を考慮して適切な額を定められるという中の一環のものと思います。それをやりやすくするということであり,例えば,使用料規程がある場合にはそれを使ってよい,その中で最大のものがよいと思えばそれを使ってよいということであって,これで決め付けるというのではなくて,恐らく裁判官は一番よい額を導きたいと思っていても,手掛かりがなくてやりにくいというところにそのようなことをするための手掛かりを与えるという点が眼目であると思います。そのような意味では,元々がそもそも飽くまで填補賠償を大前提とした上で,その範囲内でできるだけ実効性のある的確な損害賠償額を定めるということだと思います。
 それから,もう一つ,先ほどの抑止の部分も,これも前に申し上げたとおり,万世工業事件最判で最高裁が述べている抑止というのは,強い意味での抑止,すなわち,一般予防ないし制裁というような,刑事法ないし刑事法類似のような強い意味での抑止の趣旨であると思われますが,この点,2回ぐらい前に申し上げたとおり,実効性ある額の民事上の損害賠償を払わされるということは,一般予防ではないですけれども,「侵害し得」を防ぐという意味での,言葉は余りよくないかもしれませんが,誤解を恐れずにあえて言いますと,刑事的意味ないしその類似の意味での抑止効果ではないが民事的意味での抑止効果は十分にあるといえます。
 このような意味での抑止が図られていれば,TPPの要求も十分に満たされると思います。また,日本国の法制の中でも,損害賠償は被害の救済が主目的ですが,事実上のこととしては「侵害させない」という民事的な効果ぐらいは副次的効果として別にあってしかるべきであると思っております。特に知的財産権の場合にはそれは重要で,この意味でも実効性ある損害賠償額を定めるべしという思想の点で,今の2点は両方とももう少し説明を加えるかというのは別として,抑止という言葉に関しては,私が今,独自かつ即時に作った言葉ですが,民事的抑止という程度の意味のことはここで十分に図られているのであって,そして,それは刑事的抑止ないし一般予防とは大きく異なるものと考えております。

【前田(陽)委員】ちょっと関連して。

【土肥主査】じゃ,前田委員,どうぞ。

【前田(陽)委員】先ほどの使用料相当額の損害賠償についても,それで填補賠償としては十分であっても,それだけで抑止に全然ならないのではないかというような疑念が生じないような形で,結局,許諾を得なくても,後から使用料相当額を払えばいいじゃないかということにならないように,ある程度留意した形で,填補賠償の大枠は外れない限度で一定の抑止的な効果に留意した形で制度を考える必要はあるのかなと。そこまで報告書で立ち入る必要はないかもしれませんが,制度設計においてはそういったことも考慮する必要はあるのかなと考えております。

【土肥主査】ありがとうございました。
 山本委員,どうぞ。

【山本委員】申し訳ありません,私の理解が不十分での質問になるかも分かりませんが,著作権等管理事業法に基づいて作られた使用料規程,これを一つのよりどころにするというような規定ぶりにするという案だとは思いますが,これでもって,申し訳ないですが,33ページの一番下のパラグラフのところで,予測可能性が向上し,などということを書かれていますが,例えばJASRACの使用料規程があって,JASRACがやっているのと同じような行為形態,つまり,音楽について使われるというようなものであれば,JASRACの使用料規程を適用するというような場面にはなるとは思いますが,使用料規程のない行為類型については,これを使うというわけにはいかないと思います。
 今,使用料規程があるようなもの,つまり,JASRACの使用料規程があるような場合は,今でも実際にJASRACの使用料規程ではどうなっています,だから,通常の使用料はこうですというような立証の過程で使っているのが現状だと思いますので,この規定を入れたからといって,実態はあんまり変わらないのではないかと思います。つまり,それによって予測可能性が向上することがあるのかなという,どれだけ上がるのかなというのは私は少し疑問に思っています。その辺が何か違うものがあれば教えていただきたい。
 それから,TPPの条文の中で18.74条のところに,これ,英語の方なのですが,「Pre-established damages under paragraphs 6 and 7 shall be set out in an amount」とありまして,金額が定められてないといけないという規定になっているようですが,使用料規程に従いますよというような,33ページで書かれているような案の場合に,この要件は満たすのかどうかというところを疑問に持っているのですが,その点お願いします。

【土肥主査】では,お願いします。

【秋山著作権課長補佐】まず前半の御指摘は,既に使用料規程が整備されている行為類型と同様の行為に対しては使えるが,そうではないものには余り意味がないということだったと思います。それはおっしゃるとおりと思うわけでして,そういうものには今回の改正部分については適用されないことになると思います。
 もう一つの御指摘,JASRACの定めている使用料規程の行為類型と対応した行為が行われている場合に,実務上予測可能性が上がるのか否かという点ですが,これはむしろ実務に取り組まれている皆様の方がよく御存じのだろうと思いますので,こんなことは書き過ぎだということであれば少し見直しも考えたいとは思います。
 それから,二つ目のamountに関しましては,一語一語について定義をしているわけではありませんけれども,少なくとも今回の協定の条文全体の理解としまして,ここに書かせていただいたような理解の下で対応可能であろうという理解の下で,今,政府内でも相談しながら準備・検討を進めておる段階でございます。

【土肥主査】上野委員,どうぞ。

【上野委員】この文書において,今回の「制度整備により,同項の規定に関し予測可能性が向上」すると書かれていることについて,いろいろと御意見があるようですが,私の理解では,現状の114条3項というのは,権利者が「受けるべき金銭の額」を請求できるということにはなっているわけですけれども,使用料規程に基づく額を請求できるかどうかについては明確でありませんので,今回の改正によって使用料規程により算出された額を同項の使用料相当額として請求できるという明文の規定を置くことには,その点を明確にする意味があるのだろうと思います。
 他方,先ほどからもお話がありましたように,仮に,法外な使用料規程があったとして,権利者がこれに基づく損害賠償請求を行ったときに,そのような請求を排除できるのかということは問題になるところかと思います。確かに,著作権等管理事業法では,使用料規程に関しては強いコントロールがありませんので,今後,もしコピーライト・トロールみたいなものが法外な使用料規程に基づく高額の損害賠償請求をした場合にどうなるのかということが問題になります。その場合に,使用料規程が非常に高額だというだけで,「利用者の利益を害する事実」があるとして,文化庁長官が業務改善命令を出せるかというと,なかなかそうもいかない場合があるのではないかと思うわけです。
 ですので,仮に法外な使用料規程に基づく損害賠償請求が行われたとしても,裁判所がこれを排除できるようにしておくべきだろうと思います。この文書の34ページで,「適切な運用が可能となる制度とする」と書かれているのは,そのような趣旨と理解しております。法改正に当たっては,いわば「適用されるべき使用料規程だけが適用される」というふうな規定になさるものと思っておりますし,そうであれば,差し当たり問題はないのかなと考えております。以上です。

【土肥主査】では,前田委員,どうぞ。

【前田(健)委員】使用料相当額に関して,JASRACなどの管理団体の規程が使えるということにしても余り意味がないのではないかという御指摘に関してコメントいたします。私は,恐らくこういう規定があれば,管理団体の規程を使っていいかどうかということを論証すべき責任が,使っていいということを権利者が論証するのではなくて,使うことが不相当であるということを侵害者側が論証しなければならなくなると考えております。この点において規定を設ける意味はあるのではないかと考えております。
 それから,このような規定を設けても適用される範囲がある程度限られているという点は,その通りだろうと思います。ただ,今回はこういう整備で終わるわけですが,TPPの趣旨を踏まえれば,今後とももし権利者の立証負担を軽減するよりよい方策が見つかってくれば,そういったものに対しても引き続き検討を続けていくということだろうと思います。現時点で明確な形で立法が可能なのはこの範囲に限られているということなのかと理解しております。以上です。

【土肥主査】ありがとうございます。
 森田委員,どうぞ。

【森田委員】2点ありますが,まず総論的な問題として,TPP協定に対応するために今回新たに規定を設けるということと,TPP協定の担保との関係ですけれども,やはり31ページの真ん中の辺りにありますように,現行の114条3項によっても,実際に生じた損害額の立証を要せずして相当な額の損害賠償を命ずることができるということになっていて,これは全ての場合に適用があるものですから,これによってある程度TPP協定の担保はできているということがやはりベースになっているとみるべきであろうと思います。その上で更に改善する余地があるものとして,使用料規程に基づいて算出した使用料相当額の損害賠償請求が可能である旨を明確化するというのが,ここでの提案であるとみることができます。このような損害賠償請求は,現行の3項によっても解釈論上できないかと言われればできなくはないのでしょうが,そのことを明確化するという意味ではTPP協定の担保に向けて一歩進めるものであり,そういう趣旨の改正提案であろうというふうに私は理解し,それで適当ではないかと考えます。
 それから,冒頭に議論がありました「できる」問題でありますけれども,「できる」という場合にも,異なる二つの問題があります。一方で,ある侵害行為について,実体法上,複数の損害額算定の方法がある場合には,当事者はいずれかを選択することができるわけで,当事者が一方を選択した場合には,裁判官はこちらではなくて別の算定方法によるべきだというふうに言うことはできないわけです。他方で,当該侵害行為に対して,どの使用料規程が適用可能であるのかどうか,これは法的な評価の問題であって,適用可能な使用料規程が複数ある場合に当事者はその一方を選択できるだけであって,それが一つしかなければ選択の余地はないわけであります。
 そして,使用料規程が適用可能かどうかという問題は,資料1でいきますと,34ページの④に述べられているように,侵害行為に係る著作物等の利用の態様から見て適用されるべき使用料規程かどうか,ここが評価の問題に当たるのだろうと思います。そのような法的評価が適切にコントロールされれば,御懸念が示されたような問題は生じないと思いますし,そのような規定ぶりにすることは可能ではないかと思います。現行規定では,3項の解釈で,権利の行使につき受けるべき相当額の算定において使用料規程を参考にするという中でその種の法的評価がなされており,当該用料規程が利用の態様からみて適当でない場合には参考としないというような形で法的評価がなされているのが,この提案においては,条文の解釈の中でそれと同種の評価が下されることになるわけですから,その点に留意した規定ぶりにすることによって御懸念は回避できるのではないかと思います。以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,道垣内委員,どうぞ。

【道垣内委員】32ページで日本における法定賠償制度を新たに作るとしても,それは実損額との関係で合理的に説明が可能でなければならない,そういう方針が書かれておって,その下で議論されているわけですが,33ページの真ん中のパラグラフの最後の辺りで,適用可能な使用料規定が複数あるときにはそのうち最大のものにするという少し思い切った書き方がされています。思い切り過ぎたために,34ページで,余りに高額なときは駄目だと例外的扱いが明記されています。ということは,結局は,上野委員も森田委員もおっしゃったように,当該事案において適用されるべき使用料規程によるということではないでしょうか。最大のものとするというのは根拠がないのではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございます。
 龍村委員,お願いします。

【龍村委員】今回の案は,我が国の填補賠償原則と条約上要求された法定損害賠償制度との調整を迫られる中で,TPPに対応するというミッションの中から苦肉の策として出たものであるために,ややカバー範囲が狭いという点はやむを得ない面があるかと思います。当初この案を議論したときから,私は著作権等管理事業法の見直しとセット物で考えるべきものという考えで,今回のような法定損害賠償のような建て付けにする以上,その裏付けとなる著作権等管理事業法の方も整備しないと御指摘のような懸念が付きまとうのではないかと。今回の報告書でも,制度整備に当たっての留意点として指摘はされていますが,そちらの管理事業者の使用料規程に関する法整備と併せて考えるべき問題なのだろうと思います。今回は緊急にTPP対応する必要があったため,段階的に事が進むのはやむを得ないかと思いますけれども,できれば,たまたま,著作権等管理事業法の見直し時期でもあることもあるようですので,実情に応じて,その点の調整が図れれば更に望ましい,これが一つです。
 今回の案は,著作権等管理事業者一般を前提としているわけですが,実は,管理事業法上,様々な制度が整備されている指定著作権等管理事業者に限定するというアプローチも,一つの選択肢としては,あり得ると言えばあり得たところだったと思います。
 しかし,それとは別に,裁判所の司法判断として,裁判官の裁量的な損害額の認定,114条の5などが機能すれば,実質的には不都合は出ないのではないかという考えも十分あり得るところだと思います。34ページの注90にも触れられているような裁判例もございますし,いわゆる約款規制一般に見られるような約款の内容規制や,やや局面が異なる例にはなりますが,特許分野になりますけれども,標準必須特許の分野ではFRAND宣言を理由とする抗弁というような議論があって,フェアであるとか,リーズナブルであるとか,許諾条件の内実についても審査されるという前提があったりするわけです。公取の知的財産ライセンスガイドラインもその辺りを踏まえて改正になったと聞いていますが,そういった競争法的な観点も恐らく司法判断の中に盛り込まれるような場面が出てくるかもしれませんし,さらには,使用料規程を設けたプロセスといいますか,その辺の手続のデュー・プロセスなども含めて,広く裁判官の裁量の枠内に収めるという理解で著作権等管理事業者一般をカバーしたのだと,これがTPPの今回の対応案であると理解しまして,指定管理事業者に限定せず,著作権等管理事業者一般を対象としたと理解しております。しかし,先ほどの繰り返しになりますけれども,本来は,管理事業者法による行政的規制の観点も併せて検討すべき問題であると思います。

【土肥主査】井奈波委員,どうぞ。

【井奈波委員】先ほどから問題となっております集中管理団体の使用料規程のことなんですけれども,やはりこれが一人歩きするというのは非常に危険なことではないかと考えております。もともと集中管理団体の使用料規程が需要と供給のバランスによって決まったものではないという,ほぼ一方的に決められたものではないかと思っております。一応管理事業法の方で規制はあるにしましても,実際に見ておりますと,急に値上がりしたりとか,運用の基準が実際に明確でなかったりというところがありますので,そういったことを考えますと,集中管理団体の使用料規程というのは一つのオプションとしての位置付けにするしかないのかなと考えております。
 逆に先ほど申し上げましたが,運用の基準が明確でないとかそういった問題がありますので,龍村委員が言われましたように,管理事業法の見直しとセットで考えていく必要があるのではないかと私もそう思います。

【土肥主査】ありがとうございました。御意見ありがとうございます。今回の法定損害賠償制度ですか,これについての案の方向性,こういったものについては皆さん御了解いただけたのかなと。問題は,その場合の濫用の問題に対してどのように対応するのかということについては幾つか御要望が出ましたので,事務局においてはその辺りをきちんと踏まえて,場合によっては管理事業法なんかの見直しなんかも含めて考えていただければと思います。いずれにしても本小委においては,この基本的な方向性については了解をするということでございます。
 皆さんの前に,この部屋には時計がないんですけれども,私の前にだけ時計がありまして,それによると,今どういう時間帯になっているか私は承知しております。しかしながら,あと残るところとして,施行期日について御意見いただければと思います。35ページでございますけれども,この施行期日について何か。ここではTPP協定の発効と合わせて実施することが適切であると,こういうふうにまとめていただいておりますけれども,これについて御意見等がございましたらお願いいたします。
 これは関係団体のヒアリングでもこういう意見は強く出たところでございますが……,上野委員,どうぞ。井奈波委員ですか。

【井奈波委員】こちらの今回の5件の問題なんですが,確かにTPPの発効とかTPPと絡んで議論されたものかと思いますけれども,実際に必要な法制度もあるかと思いますので,全部が全部TPPの発効と合わせて実施するということが適切であるのかどうかというのはちょっと疑問に感じました。

【土肥主査】例えばどこの点についてでしょうか。つまり,この五つは必ず対応しなければいけないということで今回用意したところでございますけれども,その前にやれという,そういう御趣旨ですか。

【井奈波委員】そうですね。こちらを見ておりますと,発効しなければ制度を導入しなくてもいいと,施行しなくてもいいという趣旨のように思われましたので,もし勘違いだったら申し訳ないんですけれども,そうではなくて,必要なものは導入するということで,必ずしも全て発効と合わせて実施するという必要性はないのではないかということでございます。

【土肥主査】そういう御意見もございますけれども……,はい,河村委員,どうぞ。

【河村委員】私は,施行期日について,ここに記載されているものに賛成でございます。今回やはりTPPに合わせるために苦肉の策という御発言も先ほどありましたけれども,私の立場でいえば,著作権が強化される方向のみで,TPPに合わせた内容に特化して進んでいくわけでございまして,もし必要なものがあるとしても,それはそれでTPPとは別にいろいろなほかに必要な視点を含めた検討を加えないと,ここでまとめられたものがいいものだから施行に先立って日本の制度となるということには反対です。これは記載のとおりであるべきだと思います。

【土肥主査】この点ほかにいかがでしょうか。
 松田委員,何かございますか。

【松田委員】同じ意見です。

【土肥主査】同じ,はい。
 前田委員,どうぞ。

【前田(健)委員】今回の改正は,特に保護期間の延長はそうだと思いますが,国際的調和の観点から行うという側面が強いものと思います。また,保護期間の延長に関して,ほかも全部そうかもしれませんが,一度変えると戻せないという側面があります。したがって,国際的調和を目的とするという点が多分にある以上,TPP協定の発効と合わせてというのが筋が通ると考えております。以上です。

【土肥主査】ありがとうございます。
 よろしいですか,大体この点については。特に理由があればなんですけれども,本小委としてはこの案を踏まえて進めていただければと思います。
 あと,1章と第2章という,余りページ数は多くないんですけれども,基本的な考え方,それから,最後の2章は検討すべき措置についてという,そういうところもございますけれども,これらについて何か。
 上野委員,どうぞ。

【上野委員】全体と今後に関わることについてコメントさせていただきます。
 TPP協定が国際的な制度調和に資するという点は,確かに重要な意味を持つものと言えます。しかし,この条約が対象としているのは一部分にすぎないのでありまして,著作権法の全体を調和させるものではありません。
 また,TPP協定の対象になっている部分も,条約上の義務になっている部分とそうでない部分があります。本日の冒頭に,道垣内先生から,保護期間に関して,過去の著作物について70年にすることは条約上の義務でないと解する余地はないのかという御指摘がありましたけれども,この点については,TPP協定の18.10条というところで,既にパブリック・ドメインになったものを除き(2項),既存のsubject matterについてもTPP協定上の義務の対象とすると定められておりますので(1項),これは条約上の義務だということになります。
 しかし,我が国における今回の法改正は,そうした条約上の義務を履行するだけではなく,結果として,条約上の義務を超えて改正をしようとしているところがあるように思います。例えば,先ほどの視聴覚的実演の保護期間についてもそうですし,非親告罪化の範囲についてもそうです。
 また,アメリカ法であれば,例えば,非親告罪だといっても,そもそも刑事罰の対象となる行為が限定されているとか,法定賠償制度があるといっても登録が要件となっているとか,あるいは,保護期間が長いといってもフェアユース規定がある,といったようなところがあります。
 ですから,日本法をTPP協定に合致させるということは,そこだけ見れば,確かに一定の制度調和が図られることにはなるわけですけれども,それぞれの制度が全体的に調和されるわけではありませんし,著作権法全体が調和されるわけでもありません。
 また,今回の改正は,飽くまでTPP協定に対応するために行われるものですので,基本的に権利保護を強化する内容になっています。本来であれば,TPP協定も,権利制限規定によって適切なバランスを達成するように各加盟国が努力するものと定めているわけですが(18.66条),我が国における今回の法改正においては,そうした著作物利用の円滑化のための具体的措置は先送りされています。その結果,今回の改正のみが施行されると,日本の著作権法は,その是非はともかくとしましても,アメリカや,あるいはそれとFTAを締結した韓国に比べて権利保護に傾いた状態になりかねないと思っております。
 その意味では,この文書の第2章のところに「TPP協定を契機として検討すべき措置」と書かれておりますように,むしろTPP協定への対応が終わった後にこそ,著作権法に関する全体的な制度整備を進めていくことが重要ではないかと考えております。以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。まさに御指摘のとおりだと思います。
 河村委員,どうぞ。

【河村委員】すみません,時間がないところ申し訳ない。第2章についてなんですが,きょう最初に意見を述べた公衆送信権侵害のところが非親告罪化するというようなところに見られるように,締結のために必要な範囲を超えた部分も今回入っております。そういうことから考えますと,資料8に国公私立大学図書館協会委員会の方からの意見がありまして,先ほども御意見がありましたけれども,アメリカにはフェアユース規定があって一定のバランスがとられているというところがあります。
 第2章のところには,そこに言及したところもあるわけなんですけれども,今回この報告書といいますか,案については著作権強化に本当に偏った内容になっていることを考えますと,第2章,ワーキングの目的のところなどに書いてある,新産業創出環境形成をはじめとする言葉ですが,そういうビジネスの面だけではなくて,教育など将来の日本の活力につながる,それ自体がその時点でビジネスにならなくても,著作権の強化によって負の影響があるということが考えられるわけですから,強化ばかりの方向で活力や柔軟性を欠く社会にならないように,そういう視点をもう少し盛り込んだ言葉が加えられたらいいと思いました。以上です。

【土肥主査】ありがとうございます。
 ほかにございますか。
 2章についてのまとめ方というのは非常に重要だと思いますので,今,上野委員,それから,河村委員がおっしゃったようなところを踏まえてひとつお考えいただければと思いますが,いわゆる5項目については,基本的なこのフレームワークというものを本小委において了承したというふうにまとめさせていただければと思います。
 時間も若干過ぎておりますので,本日の法制小委はこの辺りにしたいと思います。
 なお,本日の御議論を踏まえて基本的な方向性については了解いただいたんですけれども,細部につきまして何か御意見等がまたあります場合には,事務局に御連絡を頂ければと存じます。
 それから,この制度整備の在り方については,これまで本小委におけるヒアリングを行いましたし,あるいは追加的な御意見も頂戴したわけでございます。次回小委員会においては,そうしたものを更に踏まえて,本日の議論も踏まえた上で再度まとめていただいた案に基づいて審議をさせていただければと思っております。
 本日はこのぐらいということにさせていただきますけれども,事務局に何か連絡事項がありましたら,お願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】次回小委員会につきましては,改めて日程の調整をさせていただきまして,確定次第御連絡したいと思います。ありがとうございました。

【土肥主査】それでは,これで法制・基本問題小委員会の第8回を終わらせていただきます。本日は誠にありがとうございました。

―― 了 ――

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