文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第3回)

日時:平成28年8月25日(木)
9:00~12:00
場所:文部科学省東館3F1特別会議室

議事次第

  1. 1開会
  2. 2議事
    1. (1)教育の情報化の推進について
    2. (2)リーチサイトへの対応について【非公開】
  3. 3閉会

配布資料一覧

資料1
教育の情報化の推進に関する論点(案)<補償金請求権について>(131KB)
資料2
前田健委員提出資料(113KB)
資料3~8
「リーチサイトへの対応について」ヒアリング関係資料
参考資料1
文化審議会関係法令等(抜粋)(67KB)
参考資料2
教育目的の複製・公衆送信に係る諸外国の制度等の概要(128KB)
参考資料3
法制・基本問題小委員会(第2回)における意見の概要(権利者の著作物利用市場への影響の配慮について)(161KB)
参考資料4
「リーチサイトへの対応について」ヒアリング関係資料
 
出席者名簿(43.9KB)
机上配布資料
ICT活用教育など情報化に対応した著作物等の利用に関する調査研究報告書(2.1MB)

議事内容

※議事「(2)リーチサイトへの対応について」部分は非公開で開催した(議事要旨は末尾に記載)。

【土肥主査】それでは,本日は9時という早い時間の開始になっておりまして,いろいろばたばたしておりますけれども,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第3回を開催いたします。

本日はお忙しい中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。

初めに,議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は2点,1,教育の情報化の推進について,2,リーチサイトへの対応,こうなっております。

議事に入ります前に,本日の会議の公開についてお諮りしておきたいと存じます。予定しております議事のうち,2のリーチサイトへの対応について,これに関しては,関係団体からのヒアリングを予定しております。このヒアリングを公開すると,御発表いただく団体の利益を損なうおそれもある機微な情報もこの発表内容に含まれていると思われますために,参考資料にもつけておりますが,文化審議会著作権分科会の議事の公開について,これの1の3により,この議事は非公開といたします。

そのほかといいますか,議事の1の教育の情報化の推進については,これは特段,非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいておるところでございますけれども,このような扱いにしたいと思っておりますけれども,この点,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】それでは,本日の議事のうち,1は公開ということにいたしまして,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただきまして,2のリーチサイトへの対応について,これに入る際には,誠に恐縮に存じますけれども,御退出いただくことといたします。

それで,これまで御欠席でしたけれども,今回,茶園委員に御出席いただいておりますので,御紹介させていただきます。茶園成樹委員でございます。

【茶園委員】大阪大学の茶園でございます。よろしくお願いします。

【土肥主査】それでは,事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】お手元の議事次第を御用意ください。

配布資料といたしまして,資料1,教育の情報化の推進に関する論点(案)補償金請求権についてと題する資料,資料2,前田健委員の御提出資料でございます。それから資料3から8につきましては,リーチサイトに関するヒアリング団体様の御提出資料でございます。さらに,参考資料1から4と,それぞれ議事次第記載のものを御用意しております。不備等ございましたら,お近くの事務局員に御連絡ください。

【土肥主査】ありがとうございました。

それでは,議事に入りたいと存じます。教育の情報化の推進に関しましては,今回の小委員会では補償金請求権について御議論いただきたいと思っております。

補償金請求権については,昨年来,複数回にわたって議論を重ねてきておりまして,ある程度,委員の皆様の御意見をお伺いできたものと思います。そこで本日及び今後の議論においては,これまでの意見を整理いたしまして,考えられる選択肢と,その選択肢を正当化する理由付けについての議論を深め,可能な限り意見の集約を図っていきたいと思っております。

まずこの点について,事務局において論点の整理をしていただいておりますので,これを御説明いただければと思います。

【秋山著作権課長補佐】それでは,まず資料1をごらんいただけますでしょうか。「教育の情報化の推進に関する論点(案)補償金請求権について」と題する資料でございます。

論点としては2点に整理しております。まず論点第1としまして,授業の過程で行う異時の公衆送信,これを以下,便宜上,異時送信と申し上げます。これを新たに権利制限の対象とすることと仮にする場合に,補償金請求権を付与すべきと考えるかどうかという論点。さらに,またこれまで無償であった複製行為,これは第35条第1項でございます,それから同時の中継授業の過程で行われる公衆送信,これは同条第2項でございますが,これらを以下,複製等ということにしたいと思いますが,これらについてどのように考えるのか。これらについて,補償金請求権を付与すべき理由,また付与すべきでないとする理由について,どのように考えるかという論点設定をさせていただいております。

なお,米印のところでございますけれども,議論のための仮の前提としまして,仮に権利制限規定の拡充をする場合の制度設計としましては,現行第35条第1項に定められる要件と同様のもの,すなわち非営利の教育機関に主体を限定し,授業の過程における使用に供することを目的とする場合といった限定,必要と認められる限度,さらに,権利者の利益を不当に害することとなる場合はこの限りでないといったただし書,これらの要件を付すことを仮に想定して,御議論いただければと存じます。

この論点につきまして,これまでの議論を類型化して整理いたしました。これまでの議論を整理いたしますと,補償を要する範囲とその理由付けについては,以下のとおりとまとめられるところですが,これらのうちどの考え方及び理由付けを採ることが最も適当か,本日は御議論いただきたいと存じます。

選択肢としては三つございまして,まずアは,異時送信・複製等共に無償とすべきとの立場でございます。これを支持する理由としましては,三つほどございます。まずaでございますが,学校教育等の非営利教育には公益性があるため無償とすべきだという御意見。理由bは,35条が無償でできるのだからパラレルに考えるべきだという御意見。理由cは,市場が形成されている場合に一定のものを権利制限の対象外とするとした場合においては,市場形成のインセンティブを与えられるという理由でございます。

第2の立場としましては,イ,異時送信は少なくとも一定の範囲で有償とし,複製等は引き続き無償とすべきという立場でございます。これを支持する理由としましては,まずdとしまして,異時送信は複製等の場合と違って,物理的制約がなくなるゆえに,利用の総量や頻度が増え,総体として権利者に与える不利益が大きくなるため,補償が必要とする立場でございます。これは異時送信全般にわたって補償すべきということをサポートする理由であろうと考えられます。次に理由eでございますが,こちらは現在,無償となっている複製等を有償とすると,教育現場の混乱を招くという理由付けでございます。そして理由fとしましては,ICTを使ってのみ可能となる利用行為,又は現行第35条,紙であればできたであろう範囲を超えるような行為については,利用者が受ける便益がより大きいため,補償が必要という御意見でございます。この理由fは,公衆送信のうち便益が大きい一定の範囲に限って補償すべきだという立場であろうと理解されます。

そして最後,第3の立場としましては,ウ,異時送信・複製等共に有償とすべきとの立場でございます。これを支持する理由は二つございます。まずgとしましては,非営利教育機関が行う教育活動に社会的意義(公益性)があるとしても,その過程で行われる著作物利用には本来的に補償が必要であり,海外の法制や国際条約とも合致するという理由でございます。これは理由aに対する異なる立場と考えられます。それから理由hでございますが,これは複製等についても利用量が多い場合もあり得るため,異時送信とともに補償金制度の対象とすべきだという御意見でございます。

これまで複製等については,利用態様が零細であったことや,補償金請求権の行使に係る取引コストが過大になるということを理由として,これまでは補償金請求権が付与されていなかったと理解すべきではないかという御意見がございましたが,理由hは理由bに対して異なる立場ということだと理解されます。

少しページを飛ばしていただきまして,2ページ目,3ページ目は過去の御意見を参考までに並べたものでございますので,省略いたしまして,4ページをお願いしたいと思います。論点2としまして,仮に補償金請求権を付与することとする場合,補償金請求権の行使,すなわち著作権者の捜索や補償金額の交渉などが想定されますが,これに係る手続費用の観点から,どのような制度設計及び運用を確保することが必要かという論点を立てさせていただきました。

こちらについては,これまでの議論を整理しますと,仮に補償金請求権を付与することとする場合,補償金請求権の行使に係る手続費用の低減を図るためには,例えば単一の団体が補償金の徴収分配を担うこととしまして,簡便かつ簡明な方法で補償金額の算定を行うような仕組みを用意することが求められていると考えられるがどうか,というふうに事務局として整理させていただきました。

これまでのこの論点に関する御意見を幾つか紹介いたしますと,三つ目の丸でございます。こちらでは,徴収分配の方法として,私的録音録画補償金制度のような指定団体のみが担うという制度が想定されているということや,それから支払の徴収分配の算定の方法としては,学生1人当たり年間で一定額といった徴収の方法,サンプル調査を行って分配するという方法が御提案されております。

また,三つ目の丸では,ライセンスとの組合せという文脈ではございますが,包括的なライセンスの枠組みを作るべきという御提案でございました。

論点につきましては以上でございます。これらについて御議論いただきたいと思いますが,資料2に関して,この際あわせて,御説明申し上げたいと思います。資料2は本日前田健委員が御欠席のため,本日,挙がっている論点について書面にて御意見を述べたいとの御希望から,お配りしたものでございます。

以下,御紹介いたします。

まず一つ目の補償金請求権付与の是非についての基本的な視点といたしまして,3点挙げられてございます。

まず著作物を本来の用途に従って利用する行為については,著作権者に対価が支払われるべきであり,補償請求権を付与する方が望ましい。しかしその利用に対する対価の額が軽微であると評価できる場合については,補償の必要はないと書かれておれらます。

また,三つ目の丸で,軽微な利用かどうかという視点とは別に,例えば教育の情報化の推進といった目的を達することができるか否かによって最終的な判断をすべきだという御意見でございます。

以下は本日の論点に対する具体的な御意見でございますので,ポイント部分を読み上げさせていただきます。補償金請求権を付与すべき著作物の利用について,同時送信,異時送信,複製という行為類型と著作物の利用が軽微か否かについて,一定程度の相関はあるが,明確な関連はない。技術の発展に伴い,それらの利用は総体として見ればいずれも軽微とは言い難いものとなっており,個別的に見ても軽微とは言い難い利用が相当程度,含まれるようになっている。このような観点からは,全ての行為類型に対し補償金請求権を付与することが望ましいと言える。

一方,相対的には,異時送信と比べて同時送信,複製は軽微と言い得るから,既存の秩序を尊重し,著作物の利用促進という法目的を達成するという観点からは,現状では無償の行為類型には補償金請求権を付与せず,新たに権利制限を設ける行為類型のみ付与するという考え方も正当化する余地がある。

これらが結論のポイントであろうと思います。以下,この御説明を補足する内容が述べられていますので,こちらの説明は省略いたします。

次に,補償金の徴収分配の仕組みについてでございますが,これについては,手続費用を極力抑えた効率的な仕組みにより運用すべきであるということが述べられております。

御説明は以上でございます。

続きまして,諸外国の状況につきまして御紹介したいと思います。

【大塚国際課専門官】失礼いたします。参考資料2をごらんください。こちらは教育現場における著作物の複製や公衆送信について,諸外国の制度概要をまとめた資料となってございます。こちらの資料について,簡単に内容を御紹介させていただきます。

1枚目は,他国の制度の特徴を記載した表になっておりまして,2枚目は,書籍の利用の場合を例といたしまして,教育機関等の著作物利用に係る権利制限の在り方について,無償の権利制限,補償金付きの権利制限,それからライセンス契約の三つの柱を基本といたしまして,それぞれの国の制度上の特徴を図示したものとなってございます。いずれも机上配布資料としてお手元にお配りしておりますICT活用教育など情報化に対応した著作物等の利用に関する調査研究報告書の内容の一部をまとめたものとなっております。

1枚目に概要を記載している報告書の内容につきましては,既に昨年の小委員会でも御紹介したものでございますけれども,今回,改めて各国の制度の特徴が比較しやすいように,2枚目の資料で図を作成していますので,こちらを中心にごらんいただければと思います。

全体的な傾向といたしまして,まず淡いブルーで示している無償の権利制限の範囲につきましては,各国かなり限定されておりまして,基本的には一定の形で教育機関から権利者への対価還元が図られている状況にあると言えるかと思います。

一方で,有償の場合に,補償金付きの権利制限で対応するのか,当事者間でのライセンスで対応するのかについては,国によって特色がございまして,この点,イギリスやアメリカはライセンス契約に基づく利用が一般的になっていると見られますけれども,その他の国では補償金付きの権利制限と当事者間のライセンス契約を一定程度,組み合わせて,教育現場での利用に対応していると言えるかと思います。

他国についてごく簡単に御紹介いたしますと,イギリスでは教育目的の説明における利用について,フェアリーディングの規定とともに,個別の権利制限規定がございますけれども,個別の権利制限規定で対象となる行為につきましては,集中ライセンス・スキームにより利用可能である場合には,ライセンス契約が優先するとされております。この点,実際には権利管理団体が教育上の利用のための集中ライセンスを提供しておりまして,ほぼ全ての教育機関が権利管理団体とライセンス契約を締結しているため,これらの個別の権利制限規定は実質的にライセンス契約にオーバーライドされているような形となっております。

アメリカについては,利用目的に応じた個別の権利制限規定のほか,御案内のとおり一般的な権利制限規定であるフェアユース規定がございます。図の方ではフェアユースのみ記載しておりますけれども,アメリカでは個別の権利制限としても,例えば教育目的で行われる送信を手段とする一定の実演・展示などについて,個別の権利制限の規定もございますので,その点,念のため補足させていただきます。

やはりフェアユース規定がアメリカの制度上の大きな特徴となっておりますが,フェアユース規定では,具体的な権利制限の対象範囲が不明確ですので,予測可能性を向上させるために,教育機関と権利者との間で利用目的に応じた詳細なガイドラインが策定されておりまして,例えば2,500語以上の散文であれば1,000語若しくは全体の10%のいずれか少ない分量であることなどといった具体的な基準がガイドラインによって示されてございます。

また,オーストラリアの著作権法では,2ページ又は全体の1%以内といったごく限られた範囲でのみ,無償の権利制限を認める形となっておりまして,実際には基本的に法定許諾制度とそれに付随する補償金制度が中心となっているとされております。すなわち,教育機関が権利管理団体に補償金を支払えば,一定の条件の下で個別の許諾を得ることなく著作物を利用できるという体制が各分野で整備されております。

ただし,法定許諾の対象は相当部分を超えない部分の複製と,やはり限定的でありまして,例えば文学作品などでは,全ワード数の10%以内などといった基準が設けられております。そのため,法定許諾制度を補完するものといたしまして,権利管理団体が教育機関向けの包括的な許諾制度も提供しているということでございます。

韓国については,初等中等教育段階の教育機関については補償金の支払は免除するという規定はございますけれども,基本的には教育機関における利用については,補償金付きの権利制限が中心となっておりまして,大学などは政府が定める補償金の基準に従って,権利管理団体に補償金を支払って利用しているということになっております。このほか,韓国では2011年,最近の法改正で一般的なフェアユース規定の導入もなされております。

それから,フランスとドイツにつきましては,似た制度となっていまして,いずれも教育目的の利用については,基本的に補償金付きの権利制限の対象としております。

このような規定に加えて,いずれの国でも当事者間での覚書や契約といった形で,法律上の規定の解釈やそれらの規定の対象外の利用に当たっての条件などを定めておりまして,これらの合意の範囲を超えるような利用の場合には,教育機関が権利管理団体と個別に交渉してライセンス料を支払って利用するということとされております。

駆け足の説明になりましたが,以上でございます。

【土肥主査】ありがとうございました。それでは,これから先ほど説明いただいた資料1に沿って,整理された論点につき御議論いただければと思います。

まずは論点の1,これについて御質問,御意見ございましたらお願いいたします。どなたからでも結構でございますけれども,いかがでございましょうか。

もし1番が嫌だと,こういう場合であれば,私の方からお願いするという手もあるんですけれども。じゃあ,もしかして私の方から見えやすい松田委員とか森田委員,御発言があるように拝見いたしましたが,いかがでしょうか。

【森田委員】それでは,御指名ですので,意見を述べさせていただきたいと思います。

この論点1について,ア,イ,ウという選択肢が示されておりますけれども,私自身は,ウの方向で考えてはどうかと思っておりますが,その前提として,補償金請求権を付与するということの目的をどう考えるかということが問題となるのだと思います。従来は,権利制限というのは無償ということが前提であったわけでありますので,そこで言う権利制限というのは,無償で行うことがふさわしい範囲に限定されていたと思います。そうしますと,補償金請求権を付与するというのは,補償金請求権の付与とセットであるならば,権利制限の範囲というのも,従来より柔軟に考えることができるのではないか。要するに権利制限による教育現場での著作物の利活用を,より柔軟にして促進するという目的との関係で,補償金請求権の付与とセットで権利制限を行うという選択肢が採られるべきではないか,と考えるのが適当ではないかと思います。

そうだとしますと,従来,無償を前提として権利制限を行っていた部分については,今後も無償でよいと思いますが,それを超える部分については有償というのが組合せとしてはよいのではないかと思います。これに対し,従来,無償であった部分についても有償にするという意味での補償金請求金の付与というのは,必ずしもコンセンサスが得られないのではないかと考えます。

このように考えますと,ウの異時送信・複製等共に有償とすべきというのは,全てを有償としてしまう,つまり,従来の権利制限において無償で複製をすることができた部分についても今後は有償とするという意味ですべてを有償とするということではなくて,複製についても有償という前提で考えていくと,権利制限の範囲についてより柔軟な利用を考えることができるという意味では,すべての行為類型を含めて,補償金請求権とのセットとで権利制限を行うことがあり得るのではないかと思います。

先ほど御紹介いただきました前田(健)委員の意見というのも,その趣旨が含まれているように思います。いわゆる軽微なもの,つまり一定のレベルの権利制限で,無償でよい程度のものについては,複製等や異時送信といった行為類型を問わず無償でよいものもあるだろうけども,それを越えたレベルのものであって,補償金請求権の付与もセットでなければ,そこまでの権利制限は認められないというものについては有償とすべきであるという両方が入っているという前提で,すべての行為類型について有償とすべきであるという御意見だと私は理解しましたが,そういう趣旨の御意見であるとしますと,私もそのような方向でよいのではないかと思います。

そういう観点から見ますと,理論的には,権利制限の中で,どこまでが無償でどこからが有償かということの線引きの問題が出てくると思いますが,この点は,実際上は,次のどういう形で補償金請求権の行使をするかという制度設計の中に解消されるべき問題ではないかと思います。この点で,ア,イ,ウのうちのイの選択肢というのは,その異時送信については定型的に権利制限に伴う不利益の度合いが高いので補償金請求権の付与の対象とするけど,複製についてはそうでないというふうに,行為類型によって無償と有償の線引きについて割り切りをするというのがよいという考え方であると解することができるかと思います。しかし,先ほど述べた理由で,複製についても,従来の限度にとどまっているのであれば無償でよいかもしれないけれども,もう少し柔軟に,使い勝手をよくするという観点からしますと,イでは足りないのではないかと考える次第であります。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかに。じゃあ,松田委員,お願いします。

【松田委員】私は従前から意見を述べている点を整理することになるかと思います。現行法の35条は,基本的にそのまま残すという形を採るべきだろうと思っています。これはそもそも軽微なものであって,実質的損害はないだろうという前提に立った規定であると思っております。

しかしこのままでいいかということは,教育の情報化に対応できないと思っております。したがいまして,35条を修正すべきだろうと思っています。それは当該教室において使用する範囲内と事前・事後の当該教室の生徒・学生まで利用できる範囲内の自動公衆送信を可能にすることが相当であると思っております。

しかしながら,大学も含めたところの教育の情報化ということについては,35条の修正だけでは対処できません。したがいまして,35条の次に,それ以外の利用についての規定を設けるべきだろうと思っております。これは当然のことながら,異時ということになるわけであります。この異時につきましては,補償金の制度を設けるべきだろうと思っております。その補償金の制度を外国法制と比較するならば,法令によって何%とか何分の1とかということを入れるのではなくて,「利用による実質的損害」として,いささか柔軟な規定を入れざるを得ないと思っております。35条プラスの次の一条のところに,いささか柔軟な規定を入れて,その柔軟な規定については数値は入れないで,そしてその数値の具体的な実施は,大学当局の団体と教育機関の団体と,それから出版社等の団体によってガイドラインを作って,実施すると,こういう方向がいいのではないかなと考えております。

【土肥主査】ありがとうございました。それじゃ,大渕委員。

【大渕主査代理】以前から申し上げているとおり,まず前提として,補償金を付けるかどうかというのは,権利者と利用者とのバランスを図っていく上で非常に重要なファクターでございます。補償金を付けるということと,当該権利制限の範囲が広いか狭いかというのは非常に密接にリンクしております。補償金を付けると比較的スコープが広くなってきます。補償金を付けると,その限りでは,権利者の不利益が解消されますので,利用を広く認めてもよいこととなる点は,教育現場の使い勝手等の点で非常に大きな影響があるのではないかと思っております。それがまず1点です。重要な点で,繰り返しておきます。

もう一つは,これは前から気になっておりますが,複製と一言で言っても,紙媒体に行うような比較的,権利者にとっての不利益の少ないものと,PDF的な,送信などと余り変わらないような不利益が出てくるものがあります。複製といってもそのあたりをある程度区別して,個別に考えていく必要があるのではないかと思っております。

それを申し上げた上で,先ほどもどなたかおっしゃっていましたが,理論的に言うと,現行の35条1項というのは,補償金の付いていない前提で,さほど広くない範囲での権利制限ということになっているのに対し,補償金を付けることによってもっと教育現場での使い勝手をよくすることを狙ったのがこのウということになります。今まで権利制限に掛かっていなかった異時送信というのは,新しく導入するものだし影響も大きいから,これは当然,補償金を付けるということであると思われます。複製の方は,恐らくここで狙っているのは,今までは補償金なしで比較的狭い範囲で権利制限を認めてきたが,この際,補償金を付けることによって,もう少しそれを広げて,使い勝手をよくしたいという意味があるのではないかと思っております。

そのような意味では,選択肢としてはイかウということになるのではないかと思いますが,やはり私も教育現場にいる者として,今まで補償金が掛かっていなかった複製と,それから同時送信にまで一気に掛かるというのは,混乱が生ずるおそれがあると考えております。純粋理論上からいえば,そのようなことは余り考えずに,複製についても今では影響が大きくなっているのだから,この際はもっと広げるという考えもあるものと思われます。そこに魅力を感じつつも,こういうものはスピード感を持ってやっていく必要がありますので,混乱はできるだけ避けたいのも事実であります。異時送信については権利者に与える影響が非常に類型的に大きいので,そこについてはきちんと補償を与えなくてはならないと思われます。また,異時送信で考えているものというのは,教育現場の中で小規模に端の方で使うというよりは,いろんな見やすい画面を作ったりするために本格的に中心に据えて活用したいということでしょうから,そのようなものはできるだけ権利制限の幅を広げてあげて,積極的に活用できるようにして,その代わりきちんと一定の範囲でお金は払うという仕組みを推進していく必要性が高いと思います。教育現場への影響を配慮して,今までどおりのものを尊重しつつ,新しく出てくるものにはスピード感を持ってやるという点では,やはり現実的にはまずはイに落ち着くことになるのではないかとは思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。それでは,井上委員,どうぞ。

【井上委員】論点1では,ア,イ,ウ三つの案をお示しいただいておりますけれども,アについて採用しないという点で,みなさんに異論はないところだろうと思います。

その理由付け,a,b,cというふうに整理されていますけれども,a,bとcとではかなり色合いが違っていると。まずa,bについては,理由付けとして賛成できません。その理由は,下の方のウのg,hに書いてある理由付けのとおりです。権利者の利益と教育目的という公益のバランスを図るべきであって,公益がありさえすれば無償でいいというようなことで正当化することは難しいと思います。また,技術の進展によって,教育現場での著作物の利用の量は,35条の立法当時と比較して飛躍的に増加していますし,比較法的に見ても,現在の35条というのは非常に緩やかな規定になっているので,現行法の無償というルールに合わせるというのは行き過ぎだと考えております。

アの選択肢の理由付けのcなんですけれども,これは,無償にするといっても,ライセンス・スキームを通じて対価を権利者に還流させようという市場志向型のアプローチに立脚するような考え方でありまして,理由付けa,bの前提とする立場とは全く異なるように思われます。

この考え方について,どう評価すべきかということですが,市場志向型のアプローチを採らねばならない積極的な理由付けというのは必ずしも明確に示されてこなかったように思っております。また,その教育目的の利用については,市場志向型のアプローチ,ライセンス・スキームのアプローチではうまくいかない可能性がある。

複製の問題ではないんですが,大学図書館における学術雑誌の購読については,御案内のとおりその高額化によるシリアルズ・クライシスというのがまず生じまして,それに対応すべく電子ジャーナルの包括購読契約,いわゆるビッグディールというような市場志向型のアプローチが取られたわけです。確かに包括契約で,手続費用は抑えられたと言えるわけですけれども,高額の契約料,それから代替性のないコンテンツを要する有力出版社との交渉力,教育機関との交渉力の格差,そして大学別の異なる対価設定など,大学の側から見ますと大きな問題を残している状況にあります。近年,著作物の利用者であると同時に,論文の著作者でもある研究者側及びその所属教育機関や学会のイニシアチブでオープン・アクセスが推進されて,いわば自衛手段による打開策が模索されているというような状況にあるんだと思いますが,この事例を見れば分かるように,ステークホルダーの間でウイン・ウインの関係を築きつつ,互いに手を携えて学問の発展を促進していくようなスキームを組むというのは,そう容易なことではないと思われます。そうしますと,こういった市場志向型のアプローチの難しさを35条の授業の過程における利用の場面のようなところにまで持ち込むのは,やはり望ましくないと思います。

特に教育の受益者である児童,生徒,学生というのは,自らの利益のために主体的にスキームの変更を働き掛けるということは困難であるということにも留意しなければいけないと思います。

以上を考えると,35条の適用場面で権利者への対価還流システムを考えるときには,公益を考慮した制度設計がより容易な補償金制度の方が望ましいと思います。その意味で,アの選択肢の理由付けcによる考え方についても反対です。

そうしますとイとウが残るわけですが,私は個人的にはウの方が望ましいと考えています。それは先ほど言ったgとhの理由付けのとおりでございます。しかし大渕先生もおっしゃいましたように,いろいろ諸般の混乱なども考えると,イに落ち着かせるということもあり得るかなと考えております。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。それでは奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】委員会で自らが過去どういうことを発言したかと振り返ってみますと,当初の頃は,異時送信は,これまで紙でできたことを現在のネット社会に合わせるだけにすぎないという点を重視すれば,補償金は不要ではないかということも発言しておりました。

ただ,ここでの御議論を踏まえて,また立法過程の資料なども見ながら,改めて考えてみますと,35条1項の授業の過程での複製に補償金が不要という原則を所与として考えますと,35条2項は同時中継送信,この場合,中継という部分が重要だと思いますけれども,同時中継送信なので,教室での授業と同視できる,等価といえると思います。そうすると,35条1項で補償金が不要であれば,2項も当然,不要であるということで説明が付くんだろうと思います。ただ今回,考えております異時送信,異時送信といいますか,より広く言えば同時中継送信以外の送信ということになるんだろうと思いますけども,それについては,中継送信の場合と比べて時間的・場所的制約,物理的制約を取り払ってしまうということになるわけですので,教室での授業と等価というふうに見ることは,やはり難しいということになるわけでしょう。よってその部分について,35条1項,2項とは異なって,今回,新しく補償金を認めるということは,理論的には整合するのではないかなと考えるに至っております。

したがって,その意味では,ア,イ,ウであればイを支持したいと思います。

なお,先ほどの森田委員の御発言との関係で申し上げますと,35条1項を更に緩める,すなわちもっと複製を可能な場面を増やすということまで議論が進むのであれば,その部分については,補償金を考えるという余地はあり得るのかなとも思いますが,一方で35条1項については,現状を維持するということであれば,その場合はやはりア,イ,ウの中であればイということで考えたいと思います。

あと現行の35条1項の範囲というのは,これは前田委員のペーパーにも御指摘あるように,複製というと,例えば,学生に資料を配るようなことだけがイメージされてしまいがちなわけですけれども,そうではなくて,板書とか,初等中等教育だったら書き写しとかが非常に重要なわけでありますけれども,そういう部分も含めて,教育上,極めて重要な機能,必須の機能をカバーしているということを考える必要があります。さらに,教育というのは著作権法の目的である文化の発展の大前提であるということを考えますと,これについては現行の範囲の複製について無償のままということは十分,国民からも許容される範囲ではないかと理解しております。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかに。はい。今村委員。

【今村委員】教育の情報化の推進に際して,初等中等教育,高等教育で様々なデジタル教材等を使う過程では,著作権の処理が必要になってくるわけですけれども,初等中等教育で具体的にこの教育の情報化を進めるという場合に,恐らく自前でデジタル教材を作って,初等中等教育機関の内部で公衆送信という形で教員と生徒との間でシェアするという場合よりも,外部の業者等が作成したデジタル教材を用いて,それを教育機関で使用するということになることが多いのではないかと。初等中等教育機関の実際の人的・物的資源等を考えると,そうした状況が多いのではないかと思われます。その場合,業者が要する権利処理と対価の支払,それらと権利制限に際してこの補償金として教育機関が支払う,あるいはどういう形であれ対価を払うということ,この両者の関係がどうなるかということも,従来とは違う状況として生じてくると思うんですね。

従来,35条1項は,複製を教育機関が行うということで,教育機関の行為が権利制限の対象となっていればいいという状況だったと思うのですが,情報化の推進という場面では,デジタル教材を納品するとか納入するとか,そういう話が増えてくると思われます。そうなってくると,これは,ここの論点1のただし書との米印の部分との関係であるかと思うんですけれども,情報化の推進という場面では,教育機関内部というか,教育機関における行為の権利制限の問題としてだけ考えればいいというわけでもないような,実際の状況を考えると,そういうふうに思われるので,その点も実際問題として考えていく必要があるんじゃないかと思いましたが,今後も検討を続けていくべきだと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかに。松田委員,それじゃもう一回お願いします。

【松田委員】先ほど35条の範囲を基本的に守りつつ,その教室において使う部分についての生徒範囲内において,自動公衆送信までを広げるという意見を示しました。これはもちろん全部無償です。

このデジタル化によって,教室で使う,ないしは教室で配布するという資料のほかに,出版社が作る,ないしは教材業者が作るものがデータ化されて,そこに載るのではないかということの危惧はやっぱりあると思います。

でもそれは今までと全く同じルールでいいのではないかと思っております。35条としては他の教材を全員に配布するような方法で自動公衆送信するのは全部ノーであります。そのように考えればいいのではないかと思っています。

それはむしろ35条の後の方で条文化するところの補償金制度との関係で,新しい条文ができるとすれば,そちらの方で処理をするということで考えればいいのではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。じゃあ,上野委員。

【上野委員】本日の論点は権利制限に伴う補償金請求権の範囲ということで,先ほど井上先生からも,ア(異時送信・複製等共に無償とすべきとの意見)には支持がないだろうという話がありましたが,だとすれば,これは非常に画期的なことだろうと思っております。

これは私の持論なのですけれども,日本の著作権法は,国際的に見ると,補償金請求権付きの権利制限規定が少な過ぎる,そういう状況にあると思っておりまして,これでは権利制限の範囲が狭くなりがちですし,そして他方,権利制限がある場合は完全に無許諾無償で利用できることになってしまい,これは権利者としても利用者としても望ましくない状態なのではないか,と思ってきたからであります。

そうした立場からしますと,今回,権利制限プラス補償金請求権というものが,35条の場面だけとはいえ進むということは,他の制限規定に与える今後の影響なども含めて考えますと,非常に大きな一歩になるように思います。

もちろん,資料1では,理由a)といたしまして,「公益性」があるのだから無償でよいという考えもあり得るわけですけれども,公益性がある場合は,権利者の許諾がなくしても利用できなければいけない,ということまでは言えたとしても,権利者がどうして無償で我慢しなければならないのか,どうして権利者の負担において公益が実現されなければならないのか,というところまでは正当化できないと考えるからであります。

その上で,補償金請求権の範囲について,イにするのかウにするのかというところはいろいろ議論があるかと思います。

ただ,公益性はあっても著作物等が利用される以上,やはり異時送信・複製等共に有償とすべきだというウの考え方は正当化できると思いますし,比較法的に見ましてもそれが一般的ですので,私も基本的にはそのようにあるべきだと思っております。もちろん35条は今までずっと無償だったのですが,既存の規定が40年続いているからといって,それが正しいとは限りません。

これに対しては,もし複製も補償金支払義務の対象になると現場で大きな混乱が生じるという反論もあるかとは思いますけれども,今回,少なくとも異時送信について補償金支払義務を課すことになるのであれば,異時送信を行う教育機関は一定の補償金を払うということになりますので,そのような教育機関にとっては,仮に複製についても補償金支払義務が課されたとしても,そのときに異時送信に加えて複製についても補償金を払うことになるだけではないかと思います。異時送信だけにするのか,それとも複製等を含むようにするのかということは,基本的には,そうした程度の違いにすぎないのではないかと思います。それが「大きな混乱」になるかどうかというのは判断の問題だと思います。

もちろん,複製しかせず異時送信をしない学校が実際にあるといたしますと,異時送信だけが補償金支払義務の対象になっていれば,補償金を一切支払う必要はないことになりますので,そのような教育機関にとっては,複製が補償金支払義務の対象になるかどうかによって,補償金を支払わずに済むかどうかが変わってくることになります。それが「大きな混乱」なのだとすれば,確かに考える必要がありますので,そうであれば現実的な観点から今回はイにするというのも一つの考えかとは思ってはおります。

ただ,森田委員及び奥邨委員も御指摘になりましたように,複製も補償金支払義務の対象にする方が,例えばただし書の範囲を狭く解釈することができ,その結果,権利制限の幅を広く解釈できる可能性があるのではないかという点は検討に値するように思います。

例えば,新聞記事を大学で300人に配布するというのは,35条1項ただし書にいう「複製の部数」からして「著作権者の利益を不当に害」するため35条1項の適用を受けず,権利者の許諾を受けない限り複製が許されないという考えがこれまであったわけでありますけれども,仮に今回の改正によって,複製についても補償金請求権が付与されると,新聞記事を大学で300人に配布しても,これに伴って補償金が支払われることになるため,「著作権者の利益を不当に害する」とは言えず,権利者の許諾を得なくてもそうした複製が許されるという考えも出てき得るように思います。

もちろん,これは新聞記事の話であって,例えば漢字ドリルなどは「著作物の種類及び用途」からして,教育機関で複製すること自体が「著作権者の利益を不当に害する」ことになると考えられますので,たとえ複製について補償金支払義務を課すことになっても,教育機関でドリルなどをコピーして配布できるということにはならないのだろうとは思います。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。まだ御発言のない委員の方で,いかがでございましょうか。末吉委員,お願いします。

【末吉委員】私はイの説に賛同したいと思います。一番の理由は,理論的にはウが正しいのだと思うのですが,現場が混乱するという観点から,イでいいと思うのです。

しかし,現況の35条1項,2項はすごく使い勝手が悪いというふうに教員をやっていたときに感じました。

そこで,この補償金制度を異時送信に導入するに際して,積極的にその35条を越える部分のライセンス制度というか,そういう制度がうまくいくように刺激する政策というものを併せてここで取ることによって,しばらく異時送信のみ補償金付きにするということで様子を見つつ,ライセンス制度が活性化することを促してはどうかというのが私の案です。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかにございましょうか。特にまだ御発言なさっていない委員の方はいかがでございましょう。よろしゅうございますか。いかがですか。

本日,ここまでのところで御意見を頂いておる様々な御意見がございましたけれども,基本的にはイとウ,この二つの意見,特にウについては,本質的にはといいましょうか,本来的にはといいましょうか,そういう観点からはウが望ましいけれども,現実可能性なり実際の混乱,フィージビリティー,こういったことを考慮いたしますと,当面イという,そういう意見もございました。

いずれにしましても,イ,ウ,こういうところで意見が出たと承知しておりますが,しかし少なくとも異時送信に関しては一定の範囲で補償金請求権を付与するという方向性を御支持していただく意見が多かったものと,このように承知いたしました。

この補償金請求権の在り方につきましては,今後,この方向性をもって基本といたしまして,この後に議論いたします手続費用の問題と合わせて更に議論を深めていければと,このように思います。

また,この問題の結論を得る上では,権利者団体及び教育機関の両当事者の御意見,御理解,こういったものを得ていくということは非常に重要であろうかと思いますので,両当事者の御理解を得ていくという点にも十分考慮して,留意して議論を進めていければと思います。

私といたしましては,仮に現在,無償で利用することができる範囲も新たに補償金請求権の対象とするというふうにいたしました場合,これまで御意見を頂戴いたしましたように,関係者の御理解を得るということはかなり難しくなるということも相当考えられますので,それにたえ得る議論をしていかなければならないかなと,このように考えております。

それで,論点の2に入りたいと思っております。論点2というのは,手続費用の問題でございます。資料の4ページでございますけれども,補償金を付与することとした場合に,補償金請求権の行使に係る手続費用の観点から,どういうことを考えて考慮して,制度設計,運用というものを考えていくことが必要なのかと,この点でございます。御意見を頂ければと思います。

井上委員,どうぞ。

【井上委員】論点2について,まず囲みの部分を見ますと,「手続費用の観点から」,著作権者の捜索や補償金の額の交渉に係る手続費用の観点から制度設計,運用を考えるべきだと書いてございますけれども,しかし,取引費用の削減,手続費用の削減さえ達成できれば十分というわけではなくて,35条の趣旨,教育目的という公益の観点に照らしてふさわしい制度運用になっているかという視点も入れなければいけないのではないかと考えております。ですので,「手続費用の観点から」というだけではちょっと狭すぎるのかなと感じます。

次に,具体的な仕組みがどうあるべきかということについて,囲みの下のところを見ますと,「例えば」の後に,「単一の団体が補償金の徴収分配を担うこととし,簡便かつ簡明な方法で補償金額の算定を行うような仕組みを用意する」という提案がなされております。この文言は相当抽象的で,この文言を満たすような制度としては,様々なものが考えられます。

制度を組むに当たって重要なのは,補償金の算定方式と,それから費用負担の主体の組合せにあるだろうと考えております。補償金の算定方式としては,学生1人当たり1年で幾らといったような包括徴収型が一つあり得えます。韓国,イギリス,イギリスは厳密にはライセンス・スキームによっているわけですが,実質的にはそのような形になっている。

それから,もう一つの有力な選択肢としては,1ページ当たり幾らといったような利用の量に応じた従量制の個別徴収型の制度などが考えられる。これはドイツが最近,社会実験的に導入しているということだと思います。

この,補償金算定方式で1ページ当たり幾らというような利用の量に応じた方式を採る場合には注意が必要だと思います。この方式で費用負担者を個別の教育機関とし,その裁量的経費によって補償金を支払わせるスキームとした場合,財政的に苦しい教育機関は,授業を担当する教員に対して第三者の著作物をなるべく利用しないで授業をするように求めることが予想される。その結果,教育機関によって,児童,生徒,学生の享受する授業内容の質・レベルに格差が生ずることになりかねない。教育という公益を目的とする35条の趣旨に照らして,それは妥当ではないだろうと考えております。

仮に従量制の算定方式にするのなら,費用負担者について,公費負担,教科書無償化のような公費負担,税金により賄うというような形が考えられる。従量制にトライしているドイツでは,州が支払い主体となっているということなので,個別の教育機関の裁量で,払わないという選択はできないということだろうと思います。使う量を減らすというようなことにはならないようになっているようです。

以上のように,従量制を採る場合には非常に注意が必要だと思います。他方,学生1人当たり1年で幾らといったような補償金算定方式を採るのであれば,費用負担の主体については比較的自由に設計ができて,フランスなどのように公費負担ということも考えられますし,それからイギリスや韓国のように,教育機関の裁量的な経費によるということも考えられる。それからさらには,財源がないというのであれば,受益者である学生に支払わせるというようなことも考えられるだろうと思います。私個人としては,日本の教育費の公費負担は,OECD加盟諸国の中で際立って低いので,未来の人材育成という考え方からは,公費負担に踏み切ってほしいところですが,その辺は財政的な問題もあるのだろうと思います。

以上のように,学生1人当たり1年幾らというような算定方式なら,費用負担の主体は,比較的,自由に決められると思います。ただ,この場合も,教育機関の裁量経費によって賄うというような仕組みにする場合には,ありえないとは思いますが,財源がないので補償金は支払わない,第三者の著作物を一切利用せずに教員に授業をさせるというようなことは許さず,全ての教育機関が強制的に補償金支払義務を負うような仕組みにしないと,さきに述べたような教育格差が生ずることになります。

このほかにも,法技術的には95条の二次使用料制度を参考にして組むのか,それとも30条の私的録音録画補償金請求権を参考にして制度を組むのかなど,法技術的に細かな論点もいろいろあります。

きょうの小委員会では,大きな方向性が示されましたが,より具体的な制度設計についてもこの小委員会で議論をする場を設けていただきたいと考えております。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。そのスキームの詳細についてまで御意見を頂戴して,ありがとうございます。

じゃあ,道垣内委員。

【道垣内委員】今の井上委員の御整理,非常によく分かりました。それで,この前提をもう一回確認させていただきたいんですが,論点1についてのまとめですと,異時送信については新たな規定を設け,補償制度の対象にしましょうということですが,現在ある35条1項,2項のただし書に当たるような場合については,これはどういう扱いになるという前提でここで議論しているんでしょうか。

【土肥主査】これ,論点1に関することになるわけでありますけれども,制度の本来的な在り方としては,確かにいわゆるウというような考え方,それはあるんだろうと思います。思いますし,委員の方々も相当そういう御意見を述べておいででございました。

さはさりながら,今まで35条の1項,2項,これは補償金の対象にはなっておりませんので,それについて,この委員会の中でどういう議論がされるかは別でございますが,少なくとも今までのところでは現場への混乱とか現実的な実現可能性,そういった問題から,イという形を主張されておられますので,そこの御質問に対しては,これまで無償であった部分については変わらないという方向の意見が多いのではないかと思います。

【道垣内委員】私の質問の趣旨は,1項,2項のただし書に当たる場合には著作物は使えないのか,それとも補償金の対象にしてしまうのか,という点についてです。

【土肥主査】だからその場合は,そこはライセンス・スキームによるということでございます。ですから新たな制度のときに,先ほどのただし書をそのまま持ってきていいのかどうかは,それは一応,現在の事務局の案では,それを前提にできておるわけですけど,補償金が入った場合に,特に不利益が出てくるのかどうかという問題ございますので,補償金を受けることができるわけですが,かといって,加えて更に不利益というような具体的なイメージ,そういったところについては更にひとつ考える必要があるんじゃないかと思っていますが,どうですか。

【大渕主査代理】これは私が先ほど申し上げた点に係ってくるかと思うのですけど,先ほど言ったイというのでやれば,補償金は異時送信だけで,複製は現在のままなので,先ほど主査が言われたように,ただし書に引っ掛かるほど量が多過ぎるというような場合は,権利制限は働かないから,権利制限ではなく,ライセンスでやるということになると思われます。そうでなくて少々補償金を払ってもいいからということになると,条文自体が今のままだとしても,少し変えるのかもしれません。補償金を払うというウのような法制にすると,条文自体がかなり変わるのかもしれません。今まで使えなかった,かなり量が多い何百部というものでも,権利制限は働くけれども補償金も働くということになってくるので,それは結局どちらかを選ぶかということになるものと思います。

補償金を付けて広くした方がいいと思うのか,広げてもらわなくていいから補償金を払わない現状のままの方が混乱が起きないので,当面はこれで様子を見ようということになるのか,それでやってみて,送信の方は補償金を払っている分だけ自由自在に幅広く使えるのだから,複製の方も同じにした方がいいということになるのか,そこは様子を見るということであり,様子を見るまでの間は使えない部分はライセンスでまかなうということになるのではないのかと思われます。

【土肥主査】道垣内委員,よろしゅうございますか。

【道垣内委員】はい。

【土肥主査】上野委員,どうぞ。

【上野委員】事務局の論点1の枠囲みの中の※印にも書かれてありますけれども,35条1項が既に持っている要件は残すことが想定されており,この中で,ただし書は「権利者の利益を不当に害することとなる場合」でないことが要件になりますので,ただし書に当たる場合は要件を満たさず,同項の権利制限の対象になりません。その結果,排他権が残っておりますので,権利者からライセンスを得ないと教育機関での利用ができないということになります。

ですから,例えば漢字ドリルなどは,その「用途」からして教育機関で複製すること自体が「権利者の利益を不当に害する」ことになりますので,そうしたものは,今後も権利者からライセンスを得ないと幾ら教育機関でも複製できないということになるわけですけれども,森田先生が御指摘になったのは,新聞記事のようなものに関して,もし複製について補償金請求権の対象になるのであれば,権利者は補償金もらっているわけだから,たとえ大学の中で300部,新聞記事がコピーされても,「権利者の利益を不当に害する」ことにはならないということになって,結果として,ただし書の適用範囲が狭くなるという解釈もあり得るという御指摘だったかと理解しております。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。井上委員,お願いします。

【井上委員】済みません。今の点に関してなんですけれども,補償金を付与することによって,ひょっとすると現在のただし書の解釈も変わってくるかもしれない。例えば新聞を300部でも補償金を払っていればいいということになるかもしれないというのはそのとおりだと思います。しかし,学習ドリルのように,教育目的で授業に使いやすいように工夫して作られているようなものについてまで,一律で決まるような補償金を支払っていれば自由に使えますというようなことにはならないと思いますし,してはいけないと思います。

教育目的で使いやすいような教材を開発するインセンティブというのを確保するには,やはり市場原理に任せる必要があります。仮に補償金制度を入れることにより,ただし書の解釈を緩めるとしても,通常のライセンスによるべきものとして残るところかなと考えております。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかに。はい,道垣内委員。

【道垣内委員】よく分かりました。ありがとうございました。

そうすると,新たに異時再送信について規定を置くときも,ただし書のようなものが残るということですね。それはスリーステップテストの枠内だから当然残るということですね。分かりました。

【森田委員】先ほどの論点1,論点2の仕分の下での議論の前提にもありましたけども,論点1で,イを採る理由として,教育現場の混乱を招くからという理由が述べられましたが,混乱を招くかどうかというのは,この論点2も含めて,全体のスキームとしてどういう仕組みを作り上げるかによって決まることでありまして,混乱を招かないようなスキームを作ることができればウの方がよいけども,それができないから,仕方なくイでよいという議論だとしますと,まずは教育現場において混乱しないような,使い勝手がよい包括的な仕組みを作るという方向で検討すべきではないかと思います。

諸外国の例を見ていても,イの選択肢を採っている国はありませんで,制度の作り方はいろいろありますけども,包括的なライセンス1本で処理をするというのが趨勢だとしますと,日本においてはそれとは違う道を歩むべき合理的な理由があるかが問われるように思います。そして,その理由が,ウの選択肢を採ると,教育現場の混乱を招くようなスキームしか考えることができないという消極的な理由によるのであれば,まずは合理的なスキームを作り上げるという方向で努力すべきであって,それが無理であるのならばイでも仕方がないという整理になるのではないかと思います。

そのような前提で,より広い視野からこの問題を考えますと,先ほどのこの論点2というのは,補償金請求権の行使についての制度設計の在り方に関するものですが,この場で議論してきたもう一つの選択肢としては,権利制限から外す,すなわち,包括的なライセンスで合理的なものが提供されている場合には,権利制限の対象から外してもよいというものがあったかと思います。このような包括的ライセンスの前提としては,権利制限の対象となっているということがありまして,そもそも権利制限の対象になっていなければ,それは先ほど井上委員が御指摘になったような,通常の市場原理に任せたライセンス契約ということになりますので,教育目的との関係での合理性は必ずしも確保されないわけです。

そのような合理的な包括的ライセンス・スキームを導入するためには,権利制限の範囲は広くした上で,そこから対価を取る方法としては,一つは,関係当事者が主体となって教育目的に適合した合理的な包括的ライセンス契約を結んで,権利制限の対象から外して,有償で権利制限とは関係なく利活用を促進するという方法と,もう一つは,権利制限の枠内で,補償金請求権を付与することによって,利活用を促進するという方法と,この二つの選択肢が用意されているわけですが,この組合せを全体としてどのように図っていくべきかというのが問題となっているとみることができます。

この点で,先ほど末吉委員の御意見というのは,イを採った上で,異時送信については補償金請求権を付与することで有償とするのに対し,従来の複製等については包括的ライセンスの方のスキームを活用して,権利制限の対象から外すことを通じて有償化を図るという組合せを提案する御意見であったわけであります。これに対しては,包括的ライセンスのスキームがうまく機能するのであれば,そもそもアに戻って,補償金請求権の付与を通じた有償化はやめて,全ての行為類型について包括的ライセンスを通じてそれを実現するという選択肢もありうるわけでありますから,全体としてどのようなスキームを組むのがよいのか,そこの使い勝手の問題だと思います。

権利制限を前提として補償金請求権を付与する場合と,包括的ライセンスで権利制限の対象から外した上で有償化を図る場合の制度上の大きな違いというのは,包括的なライセンス契約を結ぶのが,ある単一の団体,権利者団体だとしますと,権利者団体の構成員との関係では,包括的ライセンスの効力が及ぶのでうまくいくと思いますが,その団体の構成員でない権利者に対しては,包括的ライセンスというだけではその効力を及ぼすことができないことになります。

これに対し,補償金請求権の付与という方法による場合には,この論点2で示されている考え方というのは,ある単一の団体が一定の条件のもとで補償金請求権の内容を定めれば,その団体の構成員でない権利者に対しても当然にその効力が及んで,その構成員以外の者もその団体を通じてしか補償金請求権を行使することができないというものであると理解することができます。このような考え方は,ある意味ではオプトアウトがない拡大集中許諾制度に相当するものを,補償金請求権の付与と権利者団体を通じた権利行使の強制という形で実現するものであると捉えることができますが,そのような選択肢を加えないと,権利者団体の構成員でないアウトサイダーに対して生ずる問題の解決ができないということであろうと思います。

その点がこの論点2の固有の問題なのでしょうが,団体構成員との関係でいけば,むしろこの補償金請求権ではなくて,包括的ライセンスを通じて対価を取るという方が合理的であるとすると,全体としてはそちらの方に誘導していって,残ったところを論点2のような仕組みで補完する形で対応することも考えられます。そのような組合せの問題が出てくると思いますが,その検討を通じて,全体のスキームがどうなるかということが示されないと,使い勝手がよいかどうかも分からないし,教育現場において実際に混乱を招くのかどうかも結局分からないのではないかという感じがいたします。したがって,先ほど井上委員の御指摘にもありましたように,補償金請求権の付与の問題だけを切り離して検討するのではなくて,全体としてどういう枠組みを用意して,教育現場でどのような形で著作物の利用がされるように今後していくという方向なのかということについて,この後の検討の段階で示していただいて,その上で各論点についての問題点を更に詰めていくというのが検討の在り方として適切ではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございます。それでは,松田委員,どうぞ。

【松田委員】森田委員の意見とほとんど同じなんですが,それに加えて,問題が起こるのは,孤児作品の問題も処理しなきゃならんということになるんだろうと思っています。ある団体ができて,アウトサイダーも含めて処理はできるけども,孤児作品については全部そこが処理をするということに当然なることになります。そういう制度を作ったときに,オプトアウト制度を設けないでいいのかということは極めて重要な議論だろうと思います。

私は世界的に見れば,包括的にライセンスをするけれども,オプトアウト制度をどこかできちんと確保していることが求められることになると考えます。実際上,オプトアウトはそんなに生じないんですけど。そういう制度によって包括的な許諾制度というものを維持しようという方向になるのではないかと思っております。

したがいまして,孤児作品についてもその団体が処理できるけれども,オプトアウト制度を導入するかどうかということをここでも議論しなきゃならない。ということは,教育の視点で今は考えていますけれども,別に今,文化庁の議論しているところの拡大集中許諾制度ですか,これとかなり似た制度を設けなければならなくなるということになるんだろうと思います。教育の部分については,それを早くまとめるべきではないかなと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。じゃあ,前田委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】今の松田委員のお話につきまして,ライセンス・スキームではオプトアウトがあり得ると思うのですが,補償金になった場合,補償金制度の中ではオプトアウトということはそもそも起こり得ないのではないかと思いますが,いかがでしょうか。

【松田委員】そのとおりだろうと思います。今の限りにおいては。しかし私,一番先にお話し申し上げましたように,35条の外側にもう一つ制度を作るときには,包括的ないしはある程度,抽象的な規定を設けて,そしてその実際上の処理は,団体間の協議によって許諾でやっていく,協定ということになると思いますが,そういう制度を設ければ,アウトサイダー,オプトアウトの問題も吸収できるのではないかと考えている次第です。

【土肥主査】奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】今いろいろと御議論が広がっているんですけど,私の方は論点2について事務局の出しておられる案についての賛否というか点で一言申し上げたいと思っています。

先ほど上野委員の御発言にもありましたように,35条に補償金スキームを加えるというのは,仮に異時送信に限るとしても,大きな変更なわけでありますから,やはり教育機関にいろんな影響を与えるということは,これは事実であろうと思います。どんな方法を採ったとしても,現状と大きく異なり,影響を与えるということは事実でありますので,少なくとも導入する際には,やはり単一の団体が徴収するということで混乱を防ぐことが非常に望ましいと思います。また,補償金の算定方法に関しても簡便でなければ,より混乱を招き,導入が非常に難しくなるということではないかと思いますので,ここ「例えば」となって提案されておりますけれども,この提案の考え方については,私は妥当なものではないかなと現状,思っております。

なお,今回の補償金を誰が負担するのかということを考えると,私立学校を別口として,公立学校を前提として考えますと,しかも現在,保護者の経済的苦境が大問題となっていることを考えますと,学生又は保護者になかなか全額の負担を求めるのは難しいということになるでしょう。結果的にはそのかなりの部分は税金,間接的には国民各位に広く負担を求めるということになるわけであります。

したがって,補償金の額というのは,やはり,国民各位の理解を得られるような額でなければいけないということですので,当然,通常の使用料の額ということでは,そういう御理解というのはなかなか得られないのではないかなと思います。33条2項のように,それよりは低額で教育目的ということで御理解いただく金額というようなことをやはり考えていかなきゃならないのかなと。

これに対しては,結果的に権利者の負担になるではないかという御指摘もあると思いますが,これは権利者も含めて,国民各位が教育のために負担するんだというふうに考えれば正当化も可能なのではないかと思いますので,その額も含めて,できるだけ導入がしやすいような方向で仕組みを考えていくべきだと思っております。

【土肥主査】ありがとうございます。じゃあ。

【大渕主査代理】何かいろいろ議論が拡散していますが,論点2ということで,これはやはり前から出ておりましたけど,我が国の権利制限制度では補償金が付いているのは余りなくて,補償金が付いていない代わりに権利制限の範囲が狭いという特徴がございます。補償金を払うことによってバランスが取れているから,今までよりは権利制限の範囲が広くできるという新たなスキームを導入しようとしている現在は,非常に重要な局面にあるのではないかと思っております。何のために新たなスキームを導入するのかというと,よりよき教育を提供するためにやっていくということもありますので,教育現場の負担をできるだけ軽くする必要があります。例えば単一の団体と著作物利用の交渉をするだけでも大変なのに,複数の団体とやり出したりしたら,もうとても教育現場がもちませんので,最低限でも権利者の団体を一本化してほしいという要請は零細な教育機関ほど切実なのではないかと考えております。

また,補償金というと,ややもすると話が細かくなってしまい,細かい話をやり出したら恐らく補償金制度はすぐ崩壊してしまうので,先ほど包括ライセンスという話が出ていましたが,ある程度包括的に捉えてやらないと,結局,補償金制度が実際上崩壊して,1円も入ってこないということになりかねません。これは特に教育のためにやっておりますので,教育という観点から,簡便・簡明な方法で,サンプル調査等に莫大な費用が掛かるというようなことにならないように,良い意味での大ざっぱな形というか,合理的な形で持っていくようにしなければならないと思われます。やればやるほど話が細かくなって,補償金の額より算定事務員の給料といった対応費用の方が高くなったりすると制度が機能しなくなるので,どうしても話が細かくなりがちなのですけど,教育機関でも簡便に対応ができるようなシンプルな,実効性のある形で料金なども算定していくことが必要だと考えております。

特に公立学校等だと,最終的には公費負担ということを考えざるを得ないので,これは教育,すなわち国民全体の公益のためだから権利制限を認める,その代わりに権利者の損害を補償金で払う,その補償金は国民全体の公益のためだから最後はまた公費で考えていくというようにトータルに考えていくことが必要ではないかと思います。

その際には,ライセンス・スキームも含めて全てをよく考えていく必要があります。これについては,「これまで」と書いてある4行のところに,単一の団体とか,きちんと使えるような実行性のある,かつ簡便,簡易な手続とか非常に重要な点が挙げられています。いろいろな工夫を重ねて,そこのところを担保していくしかないのではないかと思っております。

【土肥主査】はい,道垣内委員。

【道垣内委員】前回も申しましたけれども,日本国の中だけで閉じていれば,みんなのためじゃないかということもいえるかもしれないのですが,教育の中には相当なボリュームで外国語教育があり,外国の著作者の権利が制限され,使われていくということになろうかと思います。

逆に日本語教育を外国でやっている場合には,日本の著作者は適切な分配を受けるはずでございまして,裏表が同じになっていないことになります。私は著作物の利用の対価を市場価格よりも安くするということには余り賛成できません。普通に払えばそれでいいんじゃないかと思いますけど,安くするというのはどういう理由から来るのか,私にはよく分かりません。

【土肥主査】ありがとうございました。大体,予定しておる時間もそろそろ来ているわけですけれども……。河村委員が御発言ですね。はい。

【河村委員】細かい規定についての意見ではないのですが,今,特に小学校,中学校では,先生の負担というのが非常に大きくて,疲弊していて,それがもう教育の質に端的に表れているわけなので,これ以上,先生たちの負担を増やさないという点が一つ必要だと思いますし,費用の点で,今,直前の御意見にちょっと違和感を覚えたものですから手を挙げたんですけれども,どのような規定かは別としても,何らかのフェアユース的な規定を入れることとセットで考えていかなければ,何か合理的に見えても現場では結果的には煩雑になったりということが起きると思いますので,その点,意見を申し上げておきたいと思います。

【土肥主査】じゃあ,上野委員,どうぞ。

【上野委員】いろいろあるのですけど,論点2の中で,補償金請求権を付与する場合に団体行使に限定するかどうかという点についてのみコメントします。現状の著作権法にある補償金請求権は,団体行使に限定しているものもあれば,そうでないものもあるわけですけれども,35条について補償金請求権を付与するのであれば,その対象がイであろうとウであろうと,基本的に,指定管理団体か行使ができないという強制的集中管理にすべきではないかと思います。

というのも,35条の利用というのは,教育機関の授業の過程における利用ですので,大量の著作物等が網羅的に利用されるというものですから,権利者は無数におりますので,それが個別に権利行使されると困るという観点からすれば,団体行使に限定する理由はあると思います。

したがいまして,指定管理団体しか行使できないとすべきだろうと思いますけれども,先ほど井上先生が御指摘になった現状の95条や30条2項に基づく二次使用料請求権や補償金請求権と比較しまして,更に二つの課題が残るように思います。

一つは,指定管理団体「があるときは」という限定をするかどうかであります。現状ではそのような限定がされている(95条5項,104条の2第1項柱書等)わけですけれども,今回については,「指定管理団体しか行使ができない」とすることによって,指定団体がないと行使できないようにする方法もあるかと思います。

もう一つは,権利者から「申込みがあつたときは」とするかどうかであります。これはレコードの放送二次使用料に関する95条8項がそうなっておりまして,権利者から「申込みがあつたときは,権利者のために自己の名をもつてその権利に関する裁判上又は裁判外の行為を行う権限を有する」ことになるわけですけれども,そのような権利者からの申込みがなくても「指定管理団体は,権利者のために自己の名をもつて私的録音録画補償金を受ける権利に関する裁判上又は裁判外の行為を行う権限を有する」という規定が104条の2第2項にありまして,これは指定管理団体が委託の有無にかかわらずアウトサイダーの権利も行使できる意味だと解釈されております。私的録音録画補償金についてそのような制度になっていること自体,その妥当性が問題になるところではありますけれども,やはり35条に関しては,団体に属しないアウトサイダーの著作物等が利用されることがかなり多いと思いますし,また外国の権利者もいるということでありますから,指定管理団体による行使に限定するとしても,権利者から「申込みがあつたときは」という条件を課すことによって,飽くまで団体が管理している権利しか行使できないというふうにすべきではないかと私は思います。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。ここまでこの論点2に関する様々な御意見を頂戴いたしまして,誠にありがとうございました。

4ページでは,確かに手続費用の低減という,そういう点からの質問になっているわけでありますけれども,教育の情報化,あるいは教育目的の公益性の強さ,こういったことも併せて考慮する,あるいは現場における様々な混乱がないような形での,そういう部分のコストをできるだけ少なくする,そういうことに十分留意しながら,この補償金請求権の行使に関わる仕組み,スキームというものを考えていかなければならないということは共通して御意見として頂戴したと思います。

私の子供のときには,教科書は有償だったんですけれども,その後,有償ではなくて無償になりましたが,あれも実は教科書の中に著作物を収載する場合は補償金がちゃんと入っているわけでありますから,結果として今は,国が補償金の負担をしているそういう状況になっているんだろうと思います。先ほどのどなたかの意見にもございましたけれども,長い時間の経過の中では,教科書であったようなことがこの35条の異時送信に関する問題に関しても,あるいはもっと広い意味での35条全体に関しても,そういうことが起こるということは十分想像できるところでございます。

いずれにいたしましても,本小委員会として補償金請求権の付与の是非について,最終的な判断を行うに当たりましては,指定権利管理団体というんですか,単一の団体と書いてございますけれども,こういう団体をどういうふうにするのか,あるいは教育関係者の御理解,あるいは教育関係者,現場の先生方にできるだけ負担を掛けないような,そういうスキーム,そういう仕組みを十分検討していただく,環境整備を整えていただく,そういうことについての見極めを行った上で,この点についての結論を得たいと思っております。

事務局におかれましては,先ほど申し上げた点について関係団体に検討を依頼いただいて,涼しくなった段階で,その検討状況の報告を関係団体から頂くよう調整をお願いできればと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

では,本日の議事の1の教育の情報化につきましてはこのぐらいにしたいと思っております。この後は,リーチサイトへの対応の問題について入りたいと思っておりますので,先ほど申し上げましたように,恐縮ですが,この後は非公開とさせていただきますので,傍聴者の方には事務局の指示に従い,よろしくお願いいたします。

議事要旨

※議事「(2)リーチサイトへの対応について」部分は非公開で開催した。関係団体より,下記事項についてヒアリングを行った。

  • ・リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為の実態及びこれに係る課題
  • ・著作権制度に関する要望
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