文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第6回)

日時:平成29年2月24日(金)
10:00~14:30
場所:中央合同庁舎4号館1208特別会議室

議事次第

  1. 1開会
  2. 2議事
    1. (1)新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定の在り方等について
    2. (2)法制・基本問題小委員会中間まとめ(案)について
    3. (3)平成28年度法制・基本問題小委員会の審議の経過等について
    4. (4)その他
  3. 3閉会

配布資料一覧

資料1
新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定の在り方等に関する報告書(1.5MB)
資料2
法制・基本問題小委員会中間まとめ(案)(702KB)
資料3
日本盲人会連合提出資料(82.1KB)
資料4
障害者のための権利制限規定の見直しに係る関係者間の協議の経過について(227KB)
資料5
平成28年度法制・基本問題小委員会の審議の経過等について(案)(668KB)
参考資料
コンテンツの権利情報集約化等に向けた実証事業(284KB)
机上配布資料
著作権法における権利制限規定の柔軟性が及ぼす効果と影響等に関する調査研究報告書(2.4MB)
ICT活用教育など情報化に対応した著作物等の利用に関する調査研究報告書(2.1MB)
出席者名簿(47.7KB)
 
※配布資料については,会場で配布したものから一部誤記を修正しています。

議事内容

【土肥主査】よろしゅうございますか。定刻でございますので,文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第6回を開催したいと存じます。本日はお忙しい中,御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。

議事に入ります前に,本日の会議の公開についてですけれども,予定されている議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいておるところでございますけれども,この点,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方には,そのまま傍聴いただくことといたします。

では,事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】お手元の議事次第の下半分のところをごらんください。配布資料1としまして,ワーキングチームの報告書,2としまして,本小委員会中間まとめ(案),資料3,4としまして,障害者権利制限関係資料,資料5としまして,本小委員会の本年度の審議経過について,それから参考資料を一部御用意しております。不備等ございましたら,お近くの事務局員までお伝えください。

【土肥主査】ありがとうございました。本日は大変長時間にわたる会議でございます。よろしくお願いいたします。

本日の議事でございますけれども,これは4点,新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定の在り方等について,2,法制・基本問題小委員会中間まとめ(案)について,3,平成28年度法制・基本問題小委員会の審議の経過等について,4,その他となっております。

早速ですけれども,議事に入りたいと思っております。

本小委員会では,昨年度より,新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定やライセンシング体制等の在り方について検討を行うため,ワーキングチームを設置し議論を行っていただいております。このたび,これらの検討事項について,ワーキングチームにおいて報告書を取りまとめましたので,本小委員会でもその内容について御審議いただきたいと思っております。

まず,事務局から,その内容について説明をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】御説明いたします。お手元に資料1を御用意ください。大部になりますので,省略しながら御紹介したいと思います。

まず,構成でございますけれども,目次の方にございますように,問題の所在,検討手法と検討経過,検討結果(権利制限規定の整備について),検討結果(ライセンシング体制の充実について),そして優先的に検討することとしたニーズ以外のニーズについてという構成になっております。

1ページからは問題の所在でございまして,ここはこれまでの動向などを御紹介しております。また,3ページ目には,検討に当たっての基本的な考え方としまして,著作権分科会や本小委員会において,冒頭頂いた御意見を紹介するとともに,4ページ目でございますけれども,検討の手法ということで,一番下のパラグラフにありますように,広く国民が有する現在又は将来の著作物利用ニーズを把握し,制度が実際に社会に及ぼし得る効果と影響等について多面的な検討を行った上で,多様な選択肢の中から我が国において最も望ましいと考えられる規定の在り方について検討を行うこととしたという考え方を述べております。

5ページ目は,検討手法と検討経過でございます。こちらは,ワーキングチームの方で整理していただいた検討の視点と手順が四角囲みにございます。手順としては,ニーズ募集を文化庁が行いまして,それを基にニーズを一定の評価基準従って整理をしたものでございまして,その詳細がここに書かれております。今回は権利制限規定に関するニーズを優先的に取り扱うこと,とりわけ,知財計画の方でも重視されています産業振興的な観点のものを中心に取り扱うことになりました。

8ページ目が効果影響分析に関する考察の考え方を整理しております。

そして9ページ目から検討結果になります。まず,1ポツ,ニーズ募集に基づくニーズの整理でございます。こちらは文化庁が実施しましたニーズ募集で112件のニーズが企業,個人,団体から寄せられました。ここに優先的に検討を行うこととしたニーズなど,今回,当面検討対象とするとしたニーズが列挙されております。この中で優先的に検討することとしたニーズが六つございまして,公衆がアクセス可能な情報の所在検索サービス,システムのバックエンドにおける情報の複製,サイバーフィジカルシステムによる情報提供サービス,リバース・エンジニアリング,自動翻訳サービス,ビックデータの解析結果提供,情報分析サービスでございます。

しばらく飛ばしまして,18ページにはまず,効果影響分析の結果を御紹介しております。こちらも省略させていただきたいと思います。

その効果影響分析の議論も踏まえまして,26ページでございますけれども,制度整備の基本的な考え方として,明確性と柔軟性の適切なバランスを備えた複数の規定の組合せによる「多層的」な対応を行うべき旨が提言されております。この多層的な対応といいますものが,ここに点線囲みでありますような,第1層,第2層,第3層に分けた整理でございます。こちらに先ほど御紹介したニーズをそれぞれ当てはめていくことを通じまして,具体的な制度整備の在り方を御提言いただいたということになっております。その内容は,次の28ページ以降でございます。

まず,第1層の著作物の本来的利用には該当せず,権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型でございます。ここから若干詳しく御紹介してまいりたいと思います。

まず,ア,第1層の考え方でございますが,著作権法の目的に照らしまして,著作物の経済的価値は,これを視聴する者により評価されることによって現実化するということを前提としまして,また,著作権法はそういった著作物に表現された思想,感情が最終的には視聴者に享受されることを前提とした上で,その表現の享受に先立って,著作物の流通過程において行われる行為をコントロールできる権利として著作権を定めるということで,権利者の対価回収機会を確保しようとしているものであるというふうに現行法の考え方を整理いただいております。

このような考え方に基づきますと,三つの類型でございますけれども,一つ目としまして,表現の知覚を伴わない利用行為,それから二つ目としまして,著作物の表現の知覚を伴うものの,目的・態様に照らし,表現の享受に向けられたものと評価できない行為類型,それから三つ目としまして,著作物の知覚を伴うが,情報処理や情報通信の円滑化・効率化などのために行われる利用行為であって,独立した経済的な重要性を有さないものについては,権利者の対価回収機会を損なうものではないもの,というふうに御整理いただいております。

これらのように,通常,権利者の対価回収機会を損なわない行為につきましては,著作権法の目的に照らせば,権利者の利益を通常害さないと評価できるというふうにしてございます。

29ページでございます。こうした考え方は,平成23年に御報告いただきましたC類型にも共通するところがあろうということを,このパラグラフで述べさせていただいております。

以上が第1層の考え方でございまして,こうした考え方を今回優先的に検討すべきとされたニーズを当てはめていくという作業をしたのが,以降,イでございます。今回,ニーズとの関係では,システムのバックエンドにおける複製,並びに所在検索サービス及び情報分析サービスのために検索・分析用データベースを作成する行為,つまりこの丸1,第1層に該当するというふうに整理がされております。また,その他CPS関係サービスについても,上記1から3に該当するものもあるというふうに考えられます。

また,リバース・エンジニアリングにつきましても,第1層の中で理解ができるのではないかというふうな整理を頂いております。

それから,現行法との関係でございますけれども,次のパラグラフでございますが,第1層に属する行為類型のうち,相当程度のものは,既に権利制限が整備されていると考えられるものの,技術の進展に伴いまして,現行規定に定める利用行為に類するものであるものの,現行規定の対象範囲から外れるおそれのある行為というのも新たに生じてきているという指摘もあるところでございます。

この例としましては,脚注にございますように,47条の7につきまして,「統計的」要件が,いわゆるディープラーニング,深層学習に対応できていない場合があるのではないかという御指摘ですとか,複数の主体が協業で情報解析を行うような場合に,47条7の適用に疑義があるといった御意見ですとか,それから,47条の5第1項については,要件が相当程度,個別具体的になっておりますので,不十分な点があるのではないかという御意見が寄せられていたところでございます。

本文に戻りますが,これは現行規定の要件の一部に,立法時に把握されたニーズの内容や,技術仕様を前提として設定されたものがあるために,権利制限の対象から外れてしまうといった事態が生じたものであると考えられるとされております。

こうしたことを踏まえまして,第1層に係る制度整備に当たりましては,現行規定についても見直しを行った上で,技術的中立性にも配慮しながら必要な手当てを行うべきであるとされております。

以上のことから,第1層に当たる行為類型が可能な限り幅広く権利制限の対象となるよう,抽象的に類型化を行った上で柔軟性の高い権利制限規定を整備することが適当と御提言いただきました。

具体的な制度設計の在り方につきましては,第1層に当たる行為類型を包括的に権利制限の対象とするという方法や,行為類型の特徴を踏まえた複数の規定を整備するという方法も考えられるとしております。その際,現行の権利制限規定の立法趣旨や規定の在り方を生かすということもあり得るところですが,いずれにしても,規定の予測可能性と柔軟性のバランスに留意しつつ,制度設計を検討することが適当とされております。それに加えまして,目的外使用の禁止といった措置を講じるべき旨についても,併せてここで言及がされているところでございます。

以上が第1層に関する考え方でございます。

続きまして,31ページからは第2層についての説明でございます。

アがまず,基本的な考え方でございます。第2層は,著作物の本来的利用には該当せず,かつ,権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型に対応するというものでございまして,ここでは,著作物の本来的利用とは著作物の本来的市場と競合する利用行為を指し,著作物の本来的市場とは,著作物をその本来的用途に沿って作品として享受させることを目的として公衆に提供又は提示することに係る市場を言うものとすると整理いただきました。

著作権法が著作権の付与によりまして保護しようとする中核的利益であるということから,第3層に含まれるもののような行為を権利制限の対象とするという場合には,相当程度,高度な公共的な利益の存在が求められるということですが,そうでないという場合につきましては,要求される社会的利益の水準は相対的には低いものであっても認容され得るとされております。

しかしながら,権利者に及び得る不利益につきましては,軽微なものにとどめることが求められるとされております。

今回のニーズとの関係については,イで整理をしております。ここでは,所在検索サービスと情報分析サービスがこの第2層に対応したニーズであるというふうに整理されておりまして,その正当化根拠につきましては以下のとおりです。すなわち,所在検索サービスは,大量の情報があふれる情報化社会において,知へのアクセスを提供するものであると。また,情報分析サービスにつきましても,大量の情報から所定の目的に対応した分析結果を提供するということで,いずれも高度な情報処理を行うことによって,社会に新たな知見や情報をもたらし,付加価値を創出するものであるとされております。こうしたものは,現在の政府の経済財政戦略を考えましても,社会的意義が認められるというふうにされております。

次のページをお願いいたします。結果提供の際には,サムネイルやスニペットなど,著作物の部分的表示をするということになりますが,こうしたものは,サービスの目的達成のために必要であるということでございますし,またこうした表示によりまして,著作物が公衆に知らしめられることとなるということから,著作物が利用される機会が高まるという正の効果が権利者に生じ得るということでありまして,その限りにおいては,権利者の方にもそうした利用を容認する意思を有しているということが推認できるとされております。

また,今回のサービスに関しては,膨大な著作物を利用する必要がありますので,契約による対応は困難であるとされております。

こうした権利制限を正当化する事情に加えまして,著作物の表示が,サービスの目的達成のために必要な限度で付随的に行われるというものでありますから,一定程度軽微であるという説明がされておりまして,そうした軽微なものにとどまるのであれば,権利者に及ぶ不利益は小さなものにとどめることができるというふうにされております。

以上のことを総合的に勘案しますれば,こうしたサービスを権利制限の対象として位置付けることが正当化されるとされてございます。

また,こうした利用行為は第1層に該当するということですので,さきの整理に基づきまして,権利制限を正当化する社会的意義等の種類や性質に応じ,著作物の利用目的等によって,ある程度大くくりに範囲を画定した上で,権利者の正当な利益への適切な配慮を行った上で,相当程度柔軟性のある規定を整備することが適当であるとされております。

また,著作物の利用目的等による範囲の画定の方法としましては,サービスの外縁やその社会的意義の内容が明らかになっている所在検索サービス・情報分析サービスというまとまりに着目することが考えられるところです。これらのサービスは電子計算機による情報処理によって,社会に新たな知見や情報を創出するという点で共通点もあるところでございます。そういった意味では,これらのサービス以外にも同様のものは存在し,又は将来生まれ得ると考えられるところです。そうしたサービスにつきましても,適切な予測可能性を確保しつつ,権利制限の対象となり得るような制度設計を採用することも検討に値するとされております。

ここからは,権利者に及び得る不利益の配慮等に関する各論点について若干御紹介したいと思います。

まず,イの1ポツ,権利者の本来的市場への影響についてでございます。

所在検索サービスや情報分析サービスの中には,形式的にはそうしたサービスであるというものであっても,実質的には著作物そのものを享受させることを目的とした,いわばコンテンツ提供サービスと評価すべきものも存在するのではないかとされておりまして,こうしたものは,今回の権利制限規定の正当化事由であるところの本来的市場に影響を与えないという要請に反することになることから,権利制限の対象とならないようにすることが求められるとされております。

これらのサービスが本来的市場に影響を与えないということでございますけれども,これは例えば所在情報の検索結果や分析結果の内容をサービス利用者が自己の関心に沿うものであるか否かを確認したり,当該結果の信憑性・信頼性を証明したりする上で必要な場合に,その目的上必要な限度で,結果提供に付随して行われるものであることが求められるとされております。また,その上で,実際の結果としましても,著作物の表示が権利者の本来的市場に影響を与えないものに限って権利制限の対象とされるべきであるとされております。

そして,両サービスが本来的市場に影響を与えるか否かの判断は総合的なものであるべきでありまして,その際,著作物の表示等が,一般的に利用者が有している当該著作物の試聴に係る欲求を充足することとなるようなものであるか否かということは一つの基準となるものとされております。この観点から,例えば任意の著作物の任意の部分が表示等されることとなるように,サービスの利用者が意図的にコントロールできるような機能等を提供しているサービスについては,利用者がそのようなコントロールをできないサービスに比べ,実質的にはコンテンツ提供サービスと評価されやすくなるとされております。

次の論点でございますけれども,表示される著作物の質的・量的な程度につきましては,これは冒頭の正当化根拠の関係でも,権利者に及び得る不利益が軽微であるということを担保するために,著作物の表示等についても,質的・量的に見て軽微であるということが求められるべきだとされております。

次のページをお願いいたします。3番,著作物の種類ごとの特性や個別事情等に応じ権利者に及び得る不利益への配慮でございます。

こちらにつきましては,権利者団体の方から,例えば映画等の核心部分の表示といった行為は,仮に一部分であっても映画の本来的市場を害することとなるといった懸念も表明されたわけでございます。こうしたことも,一定の場合,権利者に及び得る不利益が大きくなり,本来的市場に影響を与えるということがあり得るわけだという御意見があったわけでございますが,こうした判断につきましては,一律の具体的な基準を設けることによるのではなく,権利者の利益を不当に害することとなる場合には権利制限規定を適用しないとするただし書を置くなど,事案ごとに判断がなされるような設計をするべきだとされております。

次に,4番でございますけれども,権利者の利用を拒絶する意思に対する配慮についても議論がなされました。これは現行法47条の6においても,一定のそうした考え方が採用されているということも参考にして議論が行われたわけでございます。これらにつきましては,権利者の利用を拒絶する意思に配慮することの意義を認める意見があったものの,その手段として,一律にオプトアウトを認めるといった方法を採ることについては消極的な御意見がございました。

少し飛ばせていただきまして,35ページの真ん中のあたりですけれども,これらの意見を踏まえまして,47条の6との比較からも,権利者の意思を一定程度尊重することは望ましい一方,所在検索サービスや情報分析サービスの社会的意義から,権利者の権利を一定程度制限することも正当化されるということ,それから,著作物の種類やその提供・提示の態様等によって,権利者の利用を容認する意思がどの程度推認されるかは異なり得るということ。さらに,仮に理念として一定の場合にオプトアウトが正当化されるという場合であっても,サービスの態様や技術的・経済的な要素を考慮して,適切な範囲にすることが求められるということが言えるとされておりますので,制度設計に当たっては,こうした点に留意をすることが求められるとされてございます。

次に,市場が形成されている場合についてでございます。こちらもヒアリング等におきまして,権利者団体の方からは,現在,一定の対応する利用についてのライセンス市場が形成されている場合もあるという御意見があったものですから,こうした市場が形成されている場合において,権利制限を優先させるべきかどうかという点が問題となりました。

これにつきましても,36ページですけれども,明文上,一律にライセンス市場が権利制限に優先するような仕組みを設けることは適当ではないということになりまして,個別の事情に応じて権利者の保護すべき利益への配慮がなされるような制度設計を行うことが望ましいとされました。

最後に,著作権法で保護される権利以外の権利についてでございますけれども,こちらはヒアリングにおきまして,放送関係者からは,将来の取材活動が制約されることとならないよう,人権やプライバシー上の配慮から,ニュース番組等の二次的利用の管理を慎重に行う必要があるという御意見が示されたところでございます。

この点につきましては,ワーキングチームの議論では,今回の権利制限規定の整備によりまして,パブリシティ権を含む肖像権やプライバシー権など,著作権法上の保護を受ける権利以外の権利の侵害が認められることとなるものと解してはならないとされております。第2層に係る規定の適用を受けて,所在検索サービス等を提供する者にあっては,当該規定の整備前と同様に,これらの権利を適切に保護することが求められるとされております。

以上が第2層についての説明でございます。

続いて,第3層でございます。こちらにつきましては,権利制限規定によって認められる行為が著作物の本来的利用を伴うという場合の層でございます。こちらについては,本来確保されるべきであった市場における対価の回収機会が失われることによりまして,権利者に相当の不利益が及ぶこととなるということでございますので,そうした不利益に優先して実現すべき社会的利益の存在が説明される必要があることから,その社会的利益の性質や内容を踏まえ,その社会的利益ごとに対応を考える必要があるということとされております。また,そうした判断は,一義的にはまず立法府で行うことが望ましいとされております。

今回のニーズとの関係では,イのところですけれども,翻訳サービスがワーキングチームにおいて把握されたニーズでございます。こちらにつきましては,一番下のパラグラフにありますように,観光政策を含む産業政策上の意義が認められるとされておるところでございまして,38ページ,次のページをお願いしますが,2パラ目でございますけれども,こうした観点から,我が国の言語の理解が困難な者に対して翻訳サービスを提供することには社会的意義ないし公益性が認められるとしております。

このような権利制限規定の整備の要請が特に強いのは,外国人が観光又は一般生活上必要とする著作物に係る翻訳サービスであると考えられるところ,こうした著作物は商業的に流通しているものは少ないということ,そうした翻訳サービスの提供が権利者の意思に反しない場合も多いということで,権利制限が正当化されるとされてございます。

以上のことから,対象範囲につきましては,まず,少なくとも,公衆に無償で提供又は提示されている著作物に限定をするということを前提としまして,さらに,権利者の利益を不当に害さないような範囲を画する方向で検討するべきであるとされてございます。

その具体的な範囲の在り方につきましては,様々な御意見を頂戴したところでございます。例えば,一つ目のポツでございますけれども,政策目的との関係で考えますと,例えば博士論文のようなものは対象外とするべきではないかという御意見ですとか,日本語から外国語への翻訳だけを対象とすればよいのではないかという御意見ですとか,広告付きの著作物については一定の配慮が必要ではないかという御意見,さらに,オプトアウトなどの導入も検討するべきという御意見。それから,利用の態様でございますが,人間の観光ガイドが行うようなものと同等の範囲であれば,権利者への影響は大きくないのではないかという御意見,それから,翻訳の提供目的を今回の正当化根拠が示されている観光産業の活性化等に限定するという御意見もございました。これらの御意見を踏まえまして,制度設計を検討することとしております。

それから,39ページの方では,今回のワーキングチームで整理いただきました第3層に対応するその他の課題ということでございます。今回,ワーキングチームの方では,事業者の方から,翻訳サービスのほかにも教育関係サービスや障害者関係サービスについても,今後様々なものが想定されるというような意見表明がありました。これにつきましては,具体的に想定されるサービスの目的・態様が明らかになった段階で判断していくというふうにされておりまして,教育の情報化ですとか障害者の情報アクセス機会の確保,アーカイブの利活用促進という観点では,本日も御議論いただきますように,本小委員会において検討が進められておるところでございますので,こうした結果を踏まえた規定の整備を行うことが適当としております。

40ページをお願いいたします。ここから権利制限規定の整備そのものといいますよりは,それに関連する事項でございます。ここは若干省略しながら御紹介したいと思いますが,項目としましては,法の適切な運用を確保するための取組としまして,ソフトローの活用を提案するという整理を頂きました。

それから,イとしまして,著作権法に関する教育・普及啓発についても併せて御提言いただいております。今回,ワーキングチームの方で実施いたしましたアンケート調査では,相当,企業も一般消費者もかなり著作権法に対する理解が乏しいといいますか,十分な水準ではないということが指摘されておりまして,こうしたことへの取組強化ということが言われております。

それから,42ページの方では,行政府における政策形成の在り方について整理いただいております。今回は3層構造に分けまして,例えば第3層については,基本的にはその都度,利用目的等に応じて,まずは政治判断という整理になったわけでございますが,そういう立法府の判断に委ねるべきとした領域につきましても,例えば行政府としてそうした立法府に御判断いただくことを前提として内閣提出法案を出すということがあるわけでございますが,そうした中で政策形成過程の公正性・公平性を確保しつつ,妥当かつ効果的な政策というのを適時迅速に決定・実施していくということによりまして,国民の期待に応えていくべきであるという御提言を頂いておりまして,3点の御指摘を頂いております。内容の説明は省略させていただきます。

次に,43ページでございます。ワーキングチームにおきましては,ライセンシング環境の充実といったことも権利制限規定に併せて両輪として進めていくということになっておりました。そこで文化庁が行ったニーズ募集では,権利制限規定に係るニーズのみならず,ライセンシング環境の整備によって解決すべきニーズについても併せて募集がされたところでございまして,こちらではそうしたニーズ募集に寄せられたニーズの全体を整理いたしまして,更に分類をした結果,課題の対応の方向性を整理させていただいたものでございます。

こちらも内容につきましては省略させていただきますが,カテゴリーとしましては,2ポツ(1)にありますような,集中管理団体を相手方とする権利処理の円滑化に係る課題,次のページの(2)権利者不明著作物等の利用円滑化に係る課題,次のページの(3)意思表示システムの普及に係る課題,(4)放送番組の同時配信における著作物等の利用円滑化に係る課題,そして(5)著作権の保護期間が満了した著作物等の利用に係る課題に大別し,それぞれに対する対応の現状及び今後の展望ということが整理されております。

次に,47ページでございますが,優先的に検討することとしたニーズ以外のニーズに関する取扱いについて,ここにお示しいただいております。最初のニーズ募集の方では,優先的に検討すべきニーズとしまして,知財計画も踏まえました,主に産業振興的な部分について先に取り扱うとされたわけでありますが,ニーズ募集に寄せられた課題の中にも,権利制限による対応の正当化根拠の見通しが一定程度つきそうだというものも複数あったわけでございまして,ここに書かせていただいておりますようなA-1-2に分類されたものやA-2に分類されたものにつきましては,今後,その優先度などを考慮しながら検討を行っていくとされております。

内容につきましては,以上で省略させていただきます。

最後に,48ページでございます。ここは「おわりに」に,若干触れさせていただきますと,三つ目のパラグラフの方で,今後,文化審議会著作権分科会において,本問題に関する結論が得られた後に重要となるのは,提言が適切に実行されることである。文化庁においては,提言の趣旨及び内容を十分にくみ取った上で法制化がなされるよう,関係者との調整を含め格別の努力が払われることを期待したいと御提言いただいております。本日また,小委員会でこのワーキングチームの内容についても御議論いただくことになろうかと思いますが,こうした方向性を取りまとめられた暁には,私どもとしてもこうした御提言に沿って対応してまいりたいと思っております。

御説明は以上でございます。

【土肥主査】ありがとうございました。

ただいま御説明いただきましたけれども,この本ワーキングチームで取りまとめていただいた報告書につきまして,御意見等ございましたら,どうぞお願いをいたします。松田委員。

【松田委員】初めに,この全体の報告書(案)を見ますと,今まで長い間課題であったことがいろいろと解決の方向に向かっていることで,大変な労作であるということを,ワーキンググループに敬意を表する次第であります。

具体的なまず問題に入る前に,全体を見ると,第1層,第2層,第3層に分かれていますね。この第3層につきましては,権利制限を正当化する社会的意義の種類や性質について,そしてこの範囲も画定していくと,こういう姿勢が示されているわけであります。この第3類型は,言ってみますと,従前の制限規定の制定に当たって考慮するのとほぼ同じ考察をしようとしているのではないかと私は見えるのです。例えば,権利に対峙する社会的意義というものは,言ってみればこれは,制限規定を設ける理由ということであります。典型的には,図書館における利用とか,教育における利用ということで制限規定を設ける場合については,これは誰しも納得するところであるわけです。

ところが,第1類型と第2類型は,果たしてこういう考察がされるのであろうかということであります。第1類型と第2類型は,結局,本来的な著作物の表現としての享受をしない,ないしは,するとしても微々たるものである,だから,市場に影響を与えない,こういう類型になるのではないかと思います。

その背景にあるのは,図書館の利用や教育における利用というような対峙する利益というものを具体的に示されるものがなかったとしても,例えば,その第1層,第2層を制限規定で許すことによって何が得られるかということは,結局は社会全体として著作物を利用することによって,もちろん利用の利便性というのがあるのですけれども,その利用の利便性というのは,誰かが組立てをするわけですから,どこかにビジネスが生まれる。そのビジネスが生まれることによって,イノベーションが行われる。言ってみれば,経済社会政策上の利益がそこに見て取れる。だから,これは制限規定を設けてもいいのではないかという思想が根底にあるように私は思うのであります。

それに反対しているわけでは決してありません。そういう要請が著作権法上に向けられていることは,ここ10年といいますか20年間,正にそのとおりだったと私自身も思っております。しかし,この報告書を出すということは,もうその大きな大転換をするんだという報告書になるように思うのであります。

著作権法が社会政策,経済政策上,イノベーションが公共の利益になるのだということで,言ってみれば,図書館の利用や教育上の利用とほぼ同じように制限規定の理由になるということであります。これが大きな思想として表れているように思うのでありますが,決して反対するところではありませんが,ワーキンググループの先生方は,これをどのように認識していたのか。特に,主査についてはこれを取りまとめたわけですから,この大きな理由というようなところの視点がもしあるならば,この委員会でまず御開示願いたいというふうに思います。いかがでしょうか。

【土肥主査】松田委員のお求めになっている部分でございますけれども,正に基本的には松田委員がおっしゃるような観点が含まれておるところでございます。

しかし,いわゆる第1層というのは,従来から松田委員もお認めになっておりました,いわゆる著作物の表現の享受を目的としない,そういう類型でございます。これは従来の平成24年の議論のときにも,ほぼこの小委の中で御了解を頂いておったところであります。

したがいまして,これについては,権利者の利益を通常害しないであろうと,そういう評価をしたわけであります。

ところが,情報検索サービス,所在検索サービス,こういったようなニーズに関しましては,これはおっしゃるところに,正に合う部分でありますけれども,いわゆる新たな産業の創出,こういったところに非常につながる部分であります。この部分につきましては,著作物の表現の享受という部分が関わってくる部分でございます。しかし,ここの部分が,いわゆる当該著作物の本来的な市場に影響を与えるような場合につきましては,第2層の権利制限のグループとしては認め難い。いわゆる軽微の部分にとどまる限りであれば,これは確かに著作物の表現を享受する,そういうところではあるわけですけれども,先ほどの著作物に関する新たな産業の創出ということは,ひいては当該著作権者の利益にもつながっていくという配慮をしておるところでございます。

そういうわけでございまして,こういった部分につきましては,いわゆる軽微というのが重要なキーワードになるわけでありますけれども,この範囲で権利者と,こうしたものを利用し,新たな産業の創出を図る上でのバランスといいましょうか,そういうものを図っていくということでございます。

これに対して,第3層は,これはおっしゃるとおりでございまして,従来の考え方でございます。権利者の利益と公共的な,公益的な利益,こういったものを図って,個別に判断をしていくべきではないかという考え方でまとめたものでございます。

私としてはこのように考えて,ワーキングチームにおける取りまとめというものについて指示をさせていただいたということでございます。

松田委員,いかがでございましょうか。

【松田委員】ありがとうございます。おおよそ私の読み方が,主査のお考えとそれほど違わないということでありましょう。ここの報告書を出す影響というのは極めて大きい。言ってみれば,著作権法改正の,いろいろな改正が45年以降ありましたけれども,これは実質的には,著作権法の大転換をする報告書だということの認識を私は持つのであります。でありますと,今までの個々の条文によって制限規定を設けてきた考え方と,今回の考え方が転換したんだということをどこかに示す必要はないのでありましょうか。そして,それを承認の上で分科会を通して,分科会においてもそれを認められて,著作権法の大政策が転換されたということを確認するような手立ての方が私はいいと思っております。何となく,いつの間にかそうなったというのは,それは審議として相当ではないように思います。

内容について反対はいたしませんけれども,どこかそういう立法文化的なものをしっかり押さえて分科会に提出していただくのが相当ではないかというふうに思っております。意見にとどめておきましょう。

【土肥主査】ありがとうございました。松田委員も従来から御指摘のあった従来のC類型,いわゆる著作物の表現の享受を目的としない,そういう類型に関しては,これはお認めいただけるものであろうと思います。

問題は,第2層については新しい発想かもしれませんけれども,この軽微性という概念は,既に30条の2あたりでもう出ておりますし,いわゆるde minimisという著作権法の昔から軽微による著作物の利用というものに関しては権利制限規定,スリー・ステップ・テストが登場する前から存在しておるわけでございます。そういうところ。

それから,第3層に関しては,従来どおりのいわゆる権利制限規定に関する考え方ということでございますので,松田委員に評価していただくのはワーキングチームの一員として非常にうれしいところでございますけれども,ほかのワーキングチームの委員の方々の御意見を伺ってみたいとは思いますが,大転換というそこは,私としてはそういう評価は有り難いのですけれども,そこまでは踏み込んではいないものというふうに理解をしておるところでございます。

ワーキングチームの一員においでになった方で,今,松田委員が御指摘になっている部分について御発言がございましたら,お願いをいたします。大渕委員,お願いします。

【大渕主査代理】平成24年改正のときに新たな権利制限を類型化し,A類型,B類型と並んでC類型というものをつくりましたが,そのうちの一定部分が現在条文になっておるわけでおりまして,そのあたりに今,主査も言われた点が出ているかと思います。

私も24年改正の当時,C類型を含めて賛成しました。私は当時から,今回で言う第1層はC類型の一番コアな部分でバックエンドなので,機械的にいろいろな形で各所で複製等が形式的に行われているが,享受には結び付かないようなものだということで,それはC類型に入ることは間違いないのですが,第2層も表示はあるけれども道しるべ的なものである,スニペットとかサムネイルというのは,別にそれ自体を享受するというわけではなくて,道しるべとして,これがどういうものか分かる程度のものということなので,広い意味では非享受に入るのではないか,つまり,1層も2層もC類型の中に入っていると考えておりました。これは,C類型の中でも広めに取る人と狭めに取る人との違いということでありまして,土肥先生からは,1層ということでは第2層が増えたという感じでありましょうし,私からすると,当時から第2層も広い意味ではC類型に入っているという感じであります。もともとC類型というのが抽象的・一般的な規定なものですから,人によってやや幅に差が出るという性質のものであると思います。

それで,先ほど言われたのは対抗利益だと思いますけれども,権利制限というのは,著作者の利益と対抗利益とのバランス(衡量)を教育の場において書き下せば,教育の権利制限になる等々ということなので,全ての法律関係と同じように,著作権での対抗利益との衡量が現れているのが権利制限であると思います。

その関係で言いますと,第3層は例えば教育や図書館というように,具体的な形で対抗利益が出ているわけですが,第1層,第2層は,例えばバックエンドでの複製等の形式的利用というのは,これなしでは情報化社会は成り立ちませんから,我々全てが情報化社会の中で生きていくためには非常に重要なものであり,社会全体がバックエンドでの形式的な複製等の利用なしでは生きていけないということなので,社会的に一般的抽象的だが大きな対抗利益があります。私は最初,この第1層というのは,専ら,実質的利用がないという実質的支分権該当性の話だろうと思っていたのですが,よく考えますと,支分権該当性が非常に低いというだけでなくて,バックエンド的な,非常に一般的抽象的な対抗利益があるともいえます。第2層になりますともっとそれが具体的になって,所在検索や他の情報検索サービスの不可欠の基盤となります。第3層では対抗利益は具体的な形であるのに対して,第1層,第2層で行われているのが一般的・抽象的な行為なものですから,対抗利益の方も抽象化された形で出てきます。よって,図書館等での著作物の利用といった従来からある権利制限とは性質が異なっているように見えるのですが,最終的に権利制限が認められるというのは,社会的な意義等を含めた対抗利益との利益考量の結果であると思います。

だから,そのような意味では,常に対抗利益はあるわけですが,かなり一般的な形で出ているというところと,権利側では非享受ないしは本来的市場に影響を与えない軽微性ということで,両者合わさって,権利制限が正当化されるわけであります。結局,バランスの上で権利制限が肯定されているという意味では,図書館等とは対抗利益の抽象性において異なるだけであって,対抗利益とのバランスの上で一線が引かれているという意味では同じだろうと思います。

ただ,先ほど言われたように,対抗利益が抽象化されているということをもって画期的と言えば,そういえるかもしれません。常に対抗利益とのバランス・均衡が問題になるという意味では昔から変わらないのですが,その対抗利益が抽象化一般化されているという,そのような御指摘にもつながるのではないかと思います。抽象化一般化という点で変わっているだけであって,本質は変わっていない。ただ,抽象化一般化したところをもって,画期的といえばそうもいえるということになるのではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。

松田委員の前に,恐らく前田哲男委員が御発言……。

【松田委員】関連するので,私からの方がいいと思います。

【土肥主査】そうですか。じゃ,松田委員,先にお願いします。その次に前田委員ということで。

【松田委員】対抗利益がいずれもある点については,私もそのとおりだろうと思います。一方において抽象的であり,片方においては具体的であるということの御指摘を頂いたのも,正に私の意見と同じだろうと思います。

ただ,そういう点だけでありましょうか。教育において,その利益を守るために,権利者の対抗利益として許容されることになり,その対抗利益が誰に帰属するかというと教員でございます。ないしは生徒,学生であります。ところが,それをもう少し広げて経済的にというか,イノベーションのために対抗利益を許すのだということになったときに,その利益は極めて抽象的になり,しかしながら,具体的にそのビジネスを想定しますと,イノベーションのために何らかのビジネスを組み立てる事業者が現れるわけであります。その事業者と権利者の対抗利益ということであれば,これはどちらが経済的利益を享受するかという対抗利益になるわけであります。イノベーションのために企業を起こし,それで収益事業をやる事業者と権利者との対抗になるわけであります。それは,明確に異なることを意識すべきだろうと思います。でも,それでも許容するんだということを許すこと,これが今回の報告書ではないかというふうに私は思うのであります。

【土肥主査】続けて,前田委員,お願いいたします。

【前田(哲)委員】先ほど来の松田委員の御議論,座長及び大渕委員の御議論をお聞きしていて,ちょっと確認をさせていただきたいと思ったことが一つございます。それは,今回の改正がイノベーションの促進ということを,教育目的とか福祉目的などと並ぶような対抗利益と考えているのかどうかです。そうではなくて,今回の第1層,第2層というのは,飽くまで著作者の利益を実質的にみて害しないものを,その限度で許容するものであって,決してイノベーションの促進のために著作者の利益を実質的に切り下げる,本来保護されるべき著作者の利益がイノベーションの促進のために削られるということを意図したものではないというふうに私は理解したのですが,その点はいかがでしょうか。

【土肥主査】前田委員のおっしゃるとおりでございまして,例えばポンチ絵で恐縮ですけれども,27ページの1層,2層,3層の例示等をごらんいただくと,教育関係の35条というのは,いわゆる第3層に属している部分でございまして,ここが教育という目的の実現,こういう公益性というものと著作権者の利益というものを従来どおり調整をする,バランスを図るということでございまして,ここは考え方としては,従来と何ら変わるところではございません。つまり,新産業の創出,そういうようなことに関しましては,もちろん従来から教育分野の文化産業,教育産業というのは当然存在していたわけでありますけれども,そこは今回の第3層の考え方の中で格別変化を加えようとか,あるいはむしろ,後で御紹介といいますか,審議が行われると思いますけれども,教育の情報化の中においては,補償金請求権のような,そういう御提案というものがあるわけでございますので,1層,2層,3層については,何が3層に属し,何が1層に属するのか,そのあたりは御注意いただければというふうに思っております。

大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】少し誤解があるようですので,少し付け加えさせていただきます。先ほど申し上げたとおり,第2層は享受がありますが,第1層に至っては享受が(ほぼ)ないということなので,極論すれば,対抗利益が非常に薄くてもいいぐらいだろうと思います。そのような意味で一般的と申し上げました。この権利制限は,別にイノベーションのため,産業のためとわざわざ特筆するようなものではなくて,最終的には国民全体の利便性の向上等につながるという非常に抽象的な意味で,対抗利益が薄いといえば薄いのだけれども,反面で享受もないような,本来的市場に影響を与えない非常に軽微なものだということであります。先ほど御紹介があったように,第3層の方は享受があって,本格的な権利侵害があるのだけれども,対抗利益の方も非常に具体的に教育等々で出ているので,利益衡量上,権利制限が肯定されるという性質のものであるのに対して,第1層の方は,権利侵害の方は非常に軽微であるけれども,対抗利益の方も,やはり一般的利益としてはあります。一般的利益ですから,いろいろなものが入り得るわけですが,今回の改正で著作権法がイノベーション法に舵を切った等々というのは,私はこのワーキングチームの一員でもあるわけですが,少なくとも私がそこで思っていたものとは全く異なります。先ほど申し上げたように,非享受で権利侵害性が低いということと,イノベーションだけではなくて,国民全体が関係する非常に幅の広い一般的利益というものは当然あるが,そのようなものが今まで余り表面化していなかっただけで,今までの著作権法がそういうものを考えていなかったわけではないと思います。少なくとも24年改正のC類型のとき,その一部が具体化しておりますので,そのような意味では連続性があるものだと理解しております。

【土肥主査】松田委員,いかがでしょうか。よろしいですか。前田健先生もちょっと手を挙げられたんですけれども。

【松田委員】C類型との関係で大渕先生が言われたところは,私も審議に参加していますので,そのつながりであることはそのとおりだろうと思います。そういう時点から考えましても,著作権法の制限規定に関する考え方が大きく時代とともに転換してきている。言ってみれば,C類型もそろそろそういうところから始まったのではなかったでしょうか。そういう視点はあるだろうと思っています。

この総論的な議論はもうこの程度にして,各論に入った方がいかがでしょうか。

【土肥主査】御提案いただきましてありがとうございます。112のニーズの中で,今回,整理できていないものもあるわけであります。八つほど重要なものが残っているわけです。したがいまして,こういう残った八つのニーズ等々についての検討等が終われば,また松田委員がおっしゃるような,そういう局面もあろうかと思います。

少なくとも今回の情報検索サービス,所在検索サービス,あるいは翻訳サービス等々についてのものは,従来のC類型あるいはde minimis,そういうような,従来から本小委においても承認されておる,あるいは著作権法においても承認されておる,そういう考え方に基づいて検討を進め,整理をさせていただいたということでございます。

ほかにございますでしょうか。よろしゅうございますか。ございますか,前田健委員。

【前田(健)委員】総論的な話はもう終わりということでしたら控えますけれども,基本的には,今おっしゃっていただいたとおりの繰り返しになってしまう部分もあると思いますが,ワーキングチームに参加させていただいた身として簡単にコメントさせていただきます。今回の報告書の考え方というのは,決して今までの著作権法の考え方を大転換するというものではなくて,従来あった考え方を,言ってみれば整理して,より明確に出したということなのかなと思っております。

権利制限規定を作る大きな理由としては,権利者の利益と利用による公益的な利益といったものを比較衡量するというのが基本にあって,そのことが書いてあるのが第3層ということだと思います。

しかし,権利者の利益がほとんどない,若しくは少ないという場面があって,その場合には権利制限規定を掛けてもいいだろうということで,第1層,第2層というのが抽出されているということだと思います。

したがって,第1層,第2層においては,先ほど前田哲男委員もおっしゃいましたように,権利者の利益をほとんど,若しくは全く害さないであろうということが前提に来ているので,対抗利益としてきているものというのは,一般的な利用の自由であるとか,そういったものであることが想定されていて,著作権者の利益を刈り込むような大きな対抗利益が必要とされていると,必ずしも考えていないのではないかと思います。特に第1層はそうなのかと思います。

第2層では,多少,著作権者に,軽微とはいえ不利益が及ぶこともあるので,そういった社会的意義のあるサービスということはある程度想定されていて,その前提の下,第2層というのは作られていると思いますが,それでも軽微であるということが強調されているので,ある程度抽象的なものでも構わないということかなと理解しております。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。じゃ,上野委員,どうぞ。

【上野委員】第1層は「権利者の利益を通常害さない」もの,第2層は不利益はあっても「軽微」なもの,というふうになっているわけですけれども,第1層と第2層のどちらも「著作物の本来的利用」に該当しないものという条件がついています。

したがいまして,この「本来的利用」が何かということになるわけですけれども,例えば書籍の場合,書籍を販売するというような行為がこれに当たり,他方で,情報解析のように,大量の書籍をスキャンして,どの言葉がどのくらいの頻度で使われているか解析するということは,たとえ複製を伴うとしても,これは書籍という著作物の本来的利用ではないというふうになるわけであります。

このように,第1層につきましても,第2層につきましても,前提として,「著作物の本来的利用」に該当しないものだけが権利制限の対象になるということが重要かと思います。現状の著作権法ですと,たとえ本来的利用でなくても著作権が及んでしまいますので,それが足かせとなって様々なサービス等の発展が阻害される可能性があるのではないのかと指摘されてきました。もちろん,権利者からライセンスが得られればいいのですけれども,大量の著作物等の網羅的な利用においては,すべての権利者からライセンスを得ることは事実上不可能であります。そこで,著作権が過剰に足かせとならないように著作権を制限する必要があるという考え方がこの報告書の背景にあるように思います。

ただ,たとえ「著作物の本来的利用」に該当する場合でありましても,それだけで権利制限してよいというわけではなく,権利者に不利益がある場合には権利制限してはいけないのではないかということが問題になります。そこで,著作権者の不利益がゼロか,あるいは軽微であるということを条件として,権利制限の対象になり得るとしているのがこの報告書の方向性かと思います。

したがいまして,権利者の不利益が軽微でないということになりますと,たとえ「本来的利用」に該当しない著作物利用でありましても,第1層にも第2層にも当たりませんので,第3層によって権利制限規定が設けられない限り権利制限の対象にならず,結果的に著作権が及ぶということになります。また,権利者の不利益が軽微であれば,どんな著作物利用でも許されるというわけではなく,「本来的利用」の場合には第2層に当たりませんので,別途,権利制限規定が設けられない限り,著作権者の排他的な権利が及ぶということになるかと思います。

こうした考え自体は既存の著作権法の中に存在するとも考えられるわけでありますので,その意味では大きな転換があったというよりも新たな整理をしたという理解の方が妥当なのではないかと思いますが,そのような整理に基づく権利制限の正当化を審議会の報告書で明示したことはこれまでなかったとは考えております。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。松田委員がおっしゃるように,従来の平成24年の検討の際は,いわゆるC類型というのでしょうか,A類型,B類型,C類型があったわけであります。それ以前の21年改正で規定されていた47条の6とか47条の7とかをみますと,限定がかなりありました。送信可能化された情報であることですとか,情報解析の目的ですとか,限定がございましたし,24年の検討の結果できました47条の9等も,依然として限定がございました。いわゆるIoTの時代においては,この規定が十分機能しないではないのかということがございまして,そういう技術が少し変わってしまうと,この権利制限規定が十分機能しなくなってしまうということがないように,少なくとも技術の進展が将来生じたとしても,当分の間,今回の権利制限規定の見直しによって対応ができるというようなものを構築したいというアイデアといいますか,考え方でございます。

そういう意味を捉えて,松田委員が評価していただくのであれば,我々としては有り難いというふうに思っております。

およそ皆様の御意見を頂戴したように思いますので,特段御意見がなければ次に進めたいと思いますけれども,よろしいですか。

そういうことで,新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定の在り方等については,ワーキングチームにおいて議論していただきました内容をもって,本小委員会の考え方,方針というふうにさせていただき,この後議論いたします中間まとめに盛り込みたいと思いますけれども,御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】御異議がないものと認めます。それでは,次の法制・基本問題小委員会中間まとめ(案)について入りたいと思います。

この法制・基本問題小委員会の中間まとめ(案)についてですけれども,本小委員会においては,先ほど御審議いただいた課題以外にも様々な課題について議論を頂いております。先ほどからも議論がございました教育の情報化の推進,著作物等のアーカイブの利活用促進,こういうものについては,これまでの本小委員会における議論を踏まえ,一定の方向性を取りまとめることができようかと思っております。

また,障害者の情報アクセス機会の充実に関する事柄につきましては,いわゆるマラケシュ条約の締結に必要となる制度整備のほか,障害者団体から示された要望事項に基づき,関係者間で意見集約に向けた取組が行われてきたところでございますけれども,協議をコーディネートしていただいておりました事務局より,一部の要望事項につきましては,意見集約のめどがついたというような報告も頂いております。

そこで,これらの課題に関する本小委員会の議論を一旦取りまとめるために,事務局において中間まとめ(案)を作成していただいております。つきましては,それぞれの課題ごとに御審議を頂戴したいと思います。

新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定やライセンシング体制の在り方については,ただいま御審議いただいたわけでございますから,次に,教育の情報化の促進について,事務局から説明をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】御説明申し上げます。

お手元に資料2,中間まとめ(案)を御用意ください。中間まとめ(案)の目次をごらんいただきますと,中間まとめ(案)につきましては,第1章で柔軟な権利制限規定等,第2章で教育の情報化,第3章で障害者の情報アクセス機会の充実,第4章でアーカイブという構成になっております。

まず,教育につきまして御紹介したいと思います。4ページをお願いいたします。まず,教育の情報化につきましては,第1節では,教育機関における著作物利用の円滑化でございまして,主に35条の周りについての議論でございます。また,この後御紹介する第2節におきましては,デジタル教科書に関する検討結果を整理させていただいております。

まず,第1節,教育機関における著作物利用の円滑化についてですが,1ポツでは,問題の所在を御説明しておりまして,詳細は割愛したいと思います。

(1)の方では,ICT活用教育の意義としまして,教育の効果ですとか機会拡大のために重要であるという認識が教育関係者や政府の方でもされているということを御紹介しております。

5ページ目,(2)教育におけるICTの活用状況としまして,文化庁の実施した調査研究ですとか各種政府や関係民間団体の調査などの結果を紹介しておりまして,これまでも相当程度,各教育機関でICTの活用が進んでおりまして,今後もそういった活用は進んでいくという展望が明らかになっております。

7ページ目(3)第三者の著作物の利用状況でございます。こちらも調査研究や本小委員会でのヒアリングにおきまして,現場の教育機関における著作物利用実態ですとか課題が明らかになっております。とりわけ,権利処理上の課題等から円滑に著作物の利用が行われていないというような実態が明らかになったとされております。こちらも詳細は省略させていただきたいと思います。

10ページをお願いいたします。(4)ICT活用教育における著作物利用の円滑化のための課題と解決策については,調査研究の結果を踏まえ,本小委員会の方で整理いただきました取り組むべき課題が四つ挙げられています。ア,権利制限規定の整備,イ,教育機関における著作権法に関する研修・普及啓発,ウ,ライセンシング環境の整備・充実,エ,法解釈に関するガイドラインの整備でございます。それぞれにつきまして,現状や関係者の御要望,それから課題について,補足的な説明がされております。こちらも説明は省略をさせていただきます。

14ページをお願いいたします。本小委員会の検討結果でございます。中ほど以降,紹介させていただきます。

まず,本小委員会としましては,議論の前提として,1ポツで整理させていただきましたように,ICT活用教育を我が国において推進していくということの社会的意義が認められるということを確認した上で,これを前提に,いかにこれを推進していくかという議論をしていただきました。その際,ICT活用教育をめぐる現状と課題を踏まえまして,三つの場面に分けて議論を頂きました。

一つ目が,授業の過程における教材・参考文献や講義映像等の送信,二つ目が教員・教育機関間の教育目的での教材等の共有,三つ目がMOOC等の大規模一般人向け公開講座における著作物の利用でございます。

本課題の検討に当たりましては,ICT活用教育における著作物の利用には,権利制限規定による対応には必ずしもなじまない場面も含まれているということに鑑みまして,先ほど御紹介したような四つの課題について総合的に検討を行うこととさせていただきました。

ここからは三つの場面につきまして,順次御説明申し上げます。15ページをお願いいたします。

まず,第1の場面としまして,授業の過程において教材・参考文献や講義映像等の送信を行うことについてでございます。

まずは,権利制限規定の整備という解決策について,権利制限規定による対応をすることの必要性や正当性に関する議論の内容をこれから御紹介します。

関係者のヒアリングの内容としては,教育関係者からは,権利処理のための手続上の過大な負担等によって,教育上必要な著作物の利用ができず,教育に支障が生じているという御意見がございました。

また,次のパラグラフですけれども,ICT活用教育も対面の授業と同様に公益性が認められるという御説明がありまして,対面授業と同様の権利制限規定の整備をしてほしいという御要望がございました。

こうした意見に対し,権利者団体からは,現状の無許諾無報酬といった権利制限規定の状況を認めていくと,権利者の利益を損なうこととなるという懸念が表明されました。また,デジタルコンテンツによる利用というのは拡散する可能性も高いということで,権利侵害の助長のおそれについても指摘があったところでございます。

次のページをお願いいたします。このほか,現時点でも,教育機関における著作物の利用実態について幾つか具体例の指摘があり,まずは教育機関において著作権法の趣旨の周知を行うべきであるという御意見が併せて示されたわけでございます。

こうした関係者の御意見を踏まえた本小委員会における議論は次のとおりでございます。本小委員会としましては,以下のような考え方から,異時公衆送信を法第35条の権利制限の対象とするということについて,これを肯定するとの意見で一致をしております。

まず,法第35条の趣旨は,学校等の非営利教育機関における教育活動には高い公益性が認められるということから,各教育機関の教育目的の実現に資するため,権利者の利益を不当に害しない限度において,各教育機関が,教育上必要かつ適切な著作物等を適切な形で,権利者の許諾が得られない,許諾を得るための手続費用が過大であるなどの事情に妨げられることなく,円滑に教育活動における使用に供するために複製し得るようにすることにあると解されるとしております。

少し飛ばして,ICT活用教育につきましては,学校等における教育目的を達成する上で,従来の複製物による著作物等の提供と比べて,教育政策上もこれと同様,若しくはより高い意義と必要性が認められているということが言える。このことに鑑みれば,上記の法第35条の趣旨は,異時公衆送信についても少なくとも同様に妥当するものと考えるとしております。

また,調査研究等の結果からは,現在教育現場において著作物の円滑な利用に支障が生じているという事実が把握され,契約により対応することは困難であるとの現状にあることが認められるとしております。

以上のことから,異時公衆送信についても権利制限の対象とすることが適当であるという結論に至ったとさせていただきました。

なお,本小委員会におきましては,教育機関において規定が適切に遵守されるのかどうかということを懸念する御意見もあったところでございます。こうしたことから,次のページでございますけれども,教育機関における著作権に関する研修・普及啓発に係る取組の実施,検討を求めることとされました。また,それを契機としまして,その他法の運用上の課題,具体的には,法解釈に関するガイドラインの整備,更にライセンシング環境の整備・充実といった課題の解決につきましても併せて検討されるよう,両当事者間での協議の開催を要請されたところでございます。

これを受けまして当事者間協議が発足して,平成28年2月から議論が開始され,また,各団体独自の検討も行われてきたわけでございます。そして,平成28年第4回本小委員会におきまして,各教育関係団体から提出のあった意見書においては,各団体又は各教育機関において,著作権法に関する研修・普及啓発活動に取り組んでいく旨の方針が表明されたところでございます。

こうした状況を受けまして,本小委員会としては,法改正に向けた各教育機関における法の適切な運用を図るための取組の実施の見通しが一定程度立ったものと評価したと整理させていただきました。

次のページをお願いいたします。以上,権利制限の必要性,正当性につきましては承認いただいたわけでございまして,更に権利者の正当な利益への配慮の具体的な制度設計の在り方についても議論を頂きました。

まず第1に,補償金請求権の付与についてでございます。その議論の前提としまして,a補償金請求権付与の是非についての基本的な視点というのを整理させていただきました。2パラ目ですけれども,自由利用を認めることにより実現される社会的利益,当該利用により個々の権利者及び権利者総体として生じる不利益の大きさ及び補償金請求権に係る制度を維持することに伴う費用を総合的に勘案して,補償金請求権の付与の是非を判断することが適当としております。

これを前提にしまして,b補償金請求権の付与の是非及びその範囲について整理をさせていただきました。本小委員会としては,現行法第35条の考え方,今日の教育機関における著作物の利用実態,複製と公衆送信それぞれが権利者に及ぼす影響の度合い,補償金制度の導入がもたらし得る社会的影響などの要素を総合的に勘案した結果,異時公衆送信を新たに第35条の権利制限の対象とすることに伴い,これに補償金請求権を付与することが適当であるとの結論に至ったとしております。

理由は以下のとおりでございます。まず,法35条1項の複製等は,著作物の本来的用途に従って利用するという場合が多く含まれるわけでありまして,著作権者に相当程度の不利益が生じるとしております。

しかし,現行法制定時には複製機器が十分に普及していなかったことなどから,権利者に及び得る不利益は軽微であり,補償金制度を維持する社会的費用が過大になると評価されたことから,補償金請求権が付与されなかったのではないかと考えられるとしております。

その後,今日に至るまでの技術の発展や複製機器等の普及状況を踏まえますと,複製,同時公衆送信,異時公衆送信という行為類型のいかんに関わらず,権利者に及び得る不利益はいずれも軽微とは言い難いものになっていると評価できるものと考えるとしております。

このような観点から,本小委員会の複数の委員から,複製,同時公衆送信に対しても補償金請求権の対象とすべきという御意見も示されたところでございます。

この点,行為類型ごとに権利者に及び得る不利益の度合いを比較した場合には,複製は物理的制約のため,同時公衆送信は時間的・場所的制約のため,いずれも著作物利用の頻度・総量は比較的限定的であると考えられる。一方,異時公衆送信は,時間的・場所的・物理的な制約を取り払ってしまうため,著作物が送信される頻度や総量が大きくなると評価できるとしております。

また,個別的に見ましても,複製及び同時公衆送信は,異時公衆送信に比べて軽微な利用が多いと考えられるとしております。

また,現在無償で行われることが可能になっている複製や同時公衆送信を今回新たに補償金請求権の対象とした場合に,教育現場の混乱を招きかねないということも指摘されております。

これらのことを総合的に勘案すれば,教育機関における手続負担等を低減させるための配慮を行うことを前提として,異時公衆送信についてのみ補償金請求権を付与することが適当であると考えるとしております。

なお,諸外国におきましては,複製,公衆送信のいずれも補償金請求権等の対象として対価の還元を図っているという例が少なからず見受けられるわけでございます。我が国においては,これまでの歴史的経緯も踏まえつつ,望ましい制度設計ということで本提言を頂いたわけでございますが,少なくとも一定の範囲で権利者への対価の還元を行うという点においては,国際的な制度調和が一定程度図られることとなるというふうにしております。

次のページをお願いいたします。c,補償金請求権に係る制度設計についてでございます。先ほど若干言及させていただきましたように,権利制限の趣旨を考えますと,教育機関が負うこととなる補償金の支払に係る手続負担は極力低くなるようにする必要がございます。具体的には,その方法として,文化庁長官の指定する単一の団体が一元的に補償金の徴収分配を担うこととするなど,窓口の一元化を図るための制度的な措置を講じるべきであるといたしました。

また,そうしたスキームの前提としまして,補償金額の算定方法についても,分配の適正性の確保,それから教育機関における著作物利用実績に関する調査負担の軽減という両者のバランスを考えた設計が必要であるとしております。

この点,本小委員会におきましては,包括徴収型という形が有効ではないかという御意見があったところでございます。

次のページでございますけれども,また,個別徴収型のみの方式が採られた場合には,財政的に厳しい教育機関が利用を差し控えるということのおそれが指摘されております。

次に,補償金の水準につきましては,法35条の適用を受ける非営利教育機関の教育活動の公益性を踏まえまして,これにふさわしい適切な額とすることが求められるとしております。

一つ飛ばしまして,補償金額の決定方法でございますけれども,これは何らかの形で当該指定管理団体と教育関係者を代表する団体との間で協議等を行うという設計が考えられるところでございますが,そうした場合に,金額の水準が適切なものとなるよう,一定の時期に一定の公的な関与を行い得る仕組みとすることが望ましいとしております。

以上のような制度設計を前提として法制化を進めるためには,まずは補償金の徴収・分配を担う団体の設立についての見通しが得られる必要がございます。これに関連しまして,平成28年12月,権利者団体37団体が参加した教育利用に関する著作権等管理協議会が設置されております。同団体は,ライセンス等適切な制度の受皿作りを検討するということを目的とされていますが,関連する権利者団体の多くが参加されておられるということも考えますと,同協議会において,ライセンスのみならず補償金の徴収分配の受皿としての役割を担う団体の組成に向けた検討も併せて行われることが期待されるとしております。

本小委員会におきましては,こうした団体の組成の見通しが得られるかを確認した上で,最終的な制度設計の判断をすることとしております。

22ページをお願いいたします。権利者の著作物利用市場への影響に対する配慮についてという次の論点でございます。こちらは,いわゆるライセンススキーム等優先型の権利制限規定を採用するかどうかという問題に換言できるかと思います。

この点につきましては,2パラ目でございますけれども,合理的な手続コストと対価を払えば利用できるというような体制がある場合には,権利制限の対象外とするということも考えられるという御意見があった一方で,それに反対する御意見もございましたし,また,著作権者自らが配信サービスを行っている場合と単にライセンスを提供している場合では保護の必要性に違いがあるという御意見,それから,権利者の利益を不当に害することとなる場合に権利制限の対象外とするただし書の運用によるべきであるという御意見もございました。また,こうした問題の判断は,補償金請求権の付与の有無に応じて結論が変わり得るという御意見もございました。

以上のように,この問題については見解が相当程度分かれているという状況でございまして,最後のパラグラフでございますが,したがって,権利者の保護すべき利益への配慮の方法としましては,さきに述べた補償金請求権の付与に加えて,当該ただし書の柔軟な解釈において妥当な結果が導かれることにより,これを行うことが適当であるとしております。

23ページをお願いいたします。ここからは権利制限の内容とはまた別の,法の運用面の課題についてでございます。

法の運用面の課題としましては,ライセンス環境の整備,それから,教育機関における研修・普及啓発,更にガイドラインの整備という3点があったわけでございます。これらにつきましては,当事者間協議の方で主に議論が進められた上で,本小委員会でも議論を頂いたという経過でございます。以下,それぞれ御紹介を簡単にしたいと思います。

まず,(ア)教育機関における著作権法に関する研修・普及啓発活動でございます。こちらは,まず当事者間協議において,具体的にどういう内容,方法が考えられるのかといった,プラクティカルな点について意見交換が交わされてきた旨を御紹介いただいたところでございます。

24ページをお願いいたします。また,そうした取組に加えまして,前述いたしましたように,各教育機関を代表する団体から,今後,普及啓発に取り組んでいく旨が意見表明されたわけでございます。本小委員会としましては教育コミュニティー全体として,このような方針が確認されたことは非常に意義深いと評価をいたしまして,その旨を書かせていただいております。

また,著作権法に関する理解を深めるということの意義についても,やや,ここで御紹介いたしまして,このパラグラフの最後の文でございますけれども,各教育団体及び教育機関においては,その取組の徹底及びさらなる充実が図られるよう,本小委員会としてはその継続的な努力を要請するとともに,今後,適宜その進捗状況の把握に努めることとしたいとしております。

また,これに併せまして,次のパラグラフにありますように,教材の整備も重要であるとしております。これに関わる者としましては,教育機関,教育関係団体,民間の教材発行者と様々な主体が考えられるわけでございまして,それぞれ取組が進められることを期待するとしております。

また,文化庁としましても,今回,当事者間協議や教育関係団体からの要望としても,いろんな法解釈ですとか,事例集のようなものとか,様々な情報提供を政府に要請したいという声も強かったことも踏まえまして,情報提供や各主体の取組を促進するための支援等に係る施策の充実を提言させていただいております。

次に,(イ)ライセンシング環境の整備・充実でございます。この点につきましても,当事者間協議の方で協議関係者からのニーズの把握などがございまして,このページの一番下のポツにありますように,教育関係者からは申請窓口の一元化,分野横断的な検索システムの整備,電子申請,包括ライセンス,教育目的に特化した使用料規程の整備やその明示,こうしたことを含むライセンススキームの構築の要望があったということでございます。

25ページをお願いします。これに対しまして,権利者団体としましても,先ほど御紹介申し上げた37団体による協議会の設置の状況が報告されておりますし,また,日本書籍出版協会としても,ワンストップショッピングを含む,利便性の高い制度を作り上げるという方針が示されております。

少し飛ばしまして,本小委員会としましては,こうした検討につきましては,教育目的での著作物の利用環境を大きく前進させる画期的なものであると評価をさせていただきました。また,本小委員会においても権利制限規定の範囲を超える利用についてライセンス環境を整備することによって権利制限の境界の外に切れ目なく著作物の利用が行われるという環境を整えることについて,重要性がこれまで指摘されてきた旨を記述しております。

また,こうした議論の中では,諸外国の状況に言及があったところでございますけれども,諸外国では補償金の徴収分配を担う団体が,補償金でカバーされる範囲を上回る範囲についても併せて包括的なライセンス提供を行ったりしており,その際に,現行法の規定の解釈についても,双方で合意するといったことも併せてされていることが把握されております。

こうしたワンストップでの補償金及びライセンスの集中管理が進めば,教育機関における権利処理の利便性は大きく高まることとなると考えられます。さらに,教材の共有やMOOCでの利用など,幅広い利用目的に対応できるものに発展していくことが期待されるところでございます。このため,引き続き精力的にこれらの団体においての協議や検討が進むことを要請したいと記述させていただきました。

また,なお書きのところですけれども,教育目的の著作物のライセンス環境につきましては,調査研究やヒアリングにおいても,教育関係者からもかなり様々なところで要望がございましたし,権利者側としてもこれに前向きな立場であるという表明があったわけでありまして,その意味では,潜在的市場が存在するということが確認されていたわけでございますが,しかしながら,実際のところは長期間にわたってそうした市場の顕在化には至っていなかったということも事実であろうと考えられます。すなわち,ライセンス環境が社会的に望ましい形で十分整備されていなかったという背景には,何らかの市場の失敗がその要因として存在している可能性があると考えられるところでございます。

この点,今般のような当事者間協議の開催といったこともその課題解決の一助となるものと考えられますし,こうしたものにとどまらず,政府としましては必要に応じてライセンス環境整備促進のための支援等を行うべきであるとさせていただきました。

次に,(ウ)法解釈に関するガイドラインの整備につきましては,当事者間協議の方で議論がされまして,平成16年に権利者団体が策定されたガイドラインのアップデートを両当事者でやることについて合意がなされた旨が報告されております。

この点に関連しまして,本小委員会においてはガイドラインの策定過程の在り方が議論となったところでございます。すなわち,ガイドラインの策定にどこまで公的な関与を行うのかということについては,ガイドラインが実際に尊重されるかといった観点や,内容の公正性・適正性をいかに確保するかといった観点に留意しながら,適切な方法が選択されるべきであるとさせていただきました。

27ページは以上のことを踏まえた小括でございまして,基本的には同じことを述べておりますが,一応,最後のパラグラフについて若干説明させていただきます。

最後のパラグラフでは,単一の団体が補償金管理を担うとした場合において,補償金額の交渉を円滑に行うため,教育関係者においても教育コミュニティーの意見集約を行うための体制整備が必要となってくるものと考えられるとしております。

また,このような補償金管理団体と教育コミュニティーとの協議のプラットフォームといいますものは,補償金額の交渉にとどまらず,ライセンススキームの構築や法解釈のガイドラインの整備などに関する協議の場へと応用していくことも可能であると考えられるところでございまして,こうした協議の場も活用することによって,運用上の諸課題に対する解決策を相互に結び付けながら,一体的な解決を図ることができるのではないかとしてございます。

少し飛ばせていただきまして,32ページをお願いいたします。ここからは,二つ目の場面でございますところの,教員・教育機関間の教育目的での教材等の共有に関する議論の状況を御紹介したいと思います。こちら,結論としては,今回法改正の提言を頂くには至っていないところでございまして,議論の状況を簡単に御紹介したいと思います。

まず,3パラにございますように,本小委員会におきましては,一定の範囲で教材の共有について権利制限の対象とすることに肯定的な意見が複数示されたわけでございますが,一方,共有の公共性,必要性や権利者の利益への配慮の観点から,消極的な立場や範囲を慎重に考えるべきであるという立場の御意見も多くあったわけでございます。

次のページですけれども,この論点に関しましては,共有の範囲によっては権利者に与える不利益が大きく異なり,規模によっては民間の教材関係業者との競合の問題も生じることとなると考えられることから,教育上の必要性が認められるケースについて,より詳細に吟味した上で,権利者に及び得る影響の度合いとのバランスについて,更に考察を深める必要がある旨,そして,このため,今後,詳細なニーズを把握していく旨を記載させていただきました。

(3)MOOC等の大規模一般人向け公開講座における著作物の利用でございます。こちらは,まず,教育関係者に対するヒアリングにおいても,権利制限の御要望は認められなかったわけでございまして,原則的にライセンシング環境の整備によることになる旨をこの3パラで記載させていただきました。

それから,最後のパラグラフですけれども,一般人向け公開講座全般に関する課題としましては,全国専門学校各種学校総連合会様から12月に頂いた意見書の中には,専修学校の実施する正規課程の学生・生徒以外の者を対象とした附帯教育事業として行われる講座について,これを補償金付きの権利制限による対応を求めるという御要望が寄せられたことでございます。

次のページをお願いいたします。こうしたものにつきましては,法第35条の適用がなされるか否かにつきまして,当該講座の性格及び個別の事情に応じて,「授業」,あるいは「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」といった要件への該当性の判断の中で決められていくことになると考えられます。この点について,法の予測可能性を高めるため,前述のガイドラインにおいて,この論点についても取り扱うことも検討されることが望ましいとしております。

続きまして,デジタル教科書に関する議論も併せて御紹介したいと思います。こちらは12月に御議論いただいた内容と重複するところが多うございますので,かなり省略しながら御紹介したいと思います。

1ポツでは問題の所在としまして,(1)で,「デジタル教科書」を巡る現状と教育行政の動向,(2)で,文科省の方で取りまとめられた検討会議の最終報告書の内容を御紹介しております。

38ページでございますが,(3)デジタル教科書に関する著作権制度上の課題ということで,33条の対象にデジタル教科書は入らないのではないかという課題について御紹介をしております。

これを受けた検討結果が2ポツでございます。(1)はデジタル教科書を第33条の対象とすることの是非について記述しております。法33条の趣旨は,学教法34条1項等において規定される教科用図書において,教育の目的・性格上最も適切な著作物を利用することができるようにする必要があるとの考えに基づくものであると解されるとしております。同条の対象となる教科用図書は,学校における使用義務の範囲と同様なわけでありまして,これは同条が使用義務をその中核として位置付ける教科書制度の考え方を踏まえたものであると考えられるところでございます。

この点,デジタル教科書は学校教育法に規定する教科書の使用義務の一部の履行を認める特別の教材として,同法上,今後位置付けられることとなるという点において,学校教育制度上,紙の教科書と同等の公共性があると評価されることが文部科学省の検討でも明らかにされているわけでございます。こうしたことに鑑みれば,デジタル教科書への著作物の掲載についても,紙の教科書と同様に法33条の趣旨が妥当する,したがって,同条についての必要な規定の見直しを行うことが適当とさせていただきました。

(2)はデジタル教科書の供給方法を踏まえた対応についてでございます。文部科学省の検討会の報告書においては,デジタル教科書の供給方法として,記録媒体による供給に加えて,配信も必要となってくるということが示されております。したがいまして,法33条の見直しに当たっては,複製権,譲渡権のほか,少なくとも公衆送信を含め,教科書の供給・利用を確実・円滑に行うために必要な範囲で権利制限の対象範囲を定めるべきとしております。

(3)補償金請求権についてでございます。御承知のとおり,33条2項においては,現在,補償金請求権が付与されておるところでございますが,デジタル教科書における掲載行為といいますものは,現行法の対象となっている紙の教科書における掲載行為の場合に比して,権利者に与える不利益が小さくなると認められないことから,少なくともデジタル教科書への著作物の掲載行為についても,一定の補償金の支払を求めるべきであるとしております。

なお,その制度設計の在り方につきましては,現行法33条2項の規定の趣旨や,デジタル教科書に係る制度設計,更に運用の在り方を踏まえて考えるべきであるとしております。

御説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございました。

ただいま,教育の情報化の推進ということで,教育機関における著作物利用の円滑化,そしてデジタル教科書,大きく二つについての説明がございました。

これらについて御意見,御質問がございましたら,お願いをいたします。道垣内委員。

【道垣内委員】ICTの利用についてでございます。この管理団体を「例えば」と書いた上で「単一」とお書きになっているわけですけれども,それでいいのかどうか問題であろうと思います。一番効率的なのは単一の管理団体を置くことなのかもしれませんけれども,管理事業法等との関係で,そこまで決めてしまっていいのかということでございます。それから,もう一つは,この前にも申し上げましたけれども,学校教育の中で外国の著作権者の権利の対象になっているものを使うということは,外国語教育とか音楽とか,その他,相当想定されるところなので,外国の権利者の意見,あるいはその権利がきちんと守られるように十分配慮して運用するみたいなことがどこかにあってよさそうな気がします。

何か発想が完全にドメスティックな感じがしますので,かつ,その価格というか,報酬についても,日本国の経済レベルからしますと,外国で得られている報酬と余りに違う報酬を押し付けるようなことがあっては何かおかしいと思います。なので,外国の権利者への対応をきちんとすることによって,常識的な価格になると思います。文書自体はこれでもいいのかもしれませんけれども,運用上,そういう配慮をするといったニュアンスがどこかに出ていいのではないかなと思います。

以上です。

【土肥主査】今の窓口の一元化の問題,それから外国の著作物の問題,この時点で何か事務局からお答えになることありますか。

【秋山著作権課長補佐】なかなか私どもの方で,今,こうというお答えは難しいのですけど,道垣内先生からもございましたように,20ページの方では例えばということで,一応,完全な決め打ちにはなっていないわけでございます。ただ,これまでの小委員会の御議論からしますと,多くの先生方は単一のものを念頭に置かれているのではないかということで,例示としましても,一応,「単一」や「窓口の一元化」という表現をさせていただきました。このあたりにつきましては,また必要に応じて検討なり御相談をさせていただきたいと思います。

外国の著作権者のことにつきまして,言わずもがなと思いまして,特に書いていなかったのですけれども,何らか追記が望ましいということでございましたら,考えさせていただきたいと思います。

【土肥主査】基本は相互主義だとは思うんですけれども,窓口の一元化については,いわゆる当事者の利益を考慮いたしますと,余り多極化というか多元化というのも困難かなと,支障があるのかなという議論だったと私は承知をしておりますけれども,この点,いろいろ御発言があろうかと思いますが,奥邨委員,手を挙げておられた。どうぞ。

【奥邨委員】補償金の額の話,外国の権利者のところですけれども,御趣旨はそのとおりかと思いますが,一方で,従来も教科書であるとか,試験問題であるとか,教育用放送であるとかいう形については補償金制度があって,それについては同じように,教育分野では外国のものをたくさん使っていた等々もあるわけでありますので,先ほど事務局からあったように,私は言わずもがなであって,従来も配慮されてきた。今回だけ特別,何か事情が異なるというようにみえることは別段ないのではないかと。従来と同じような形で,その中で考えていけばいいのではないかなと理解をしております。

【土肥主査】ほかに。大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】繰り返しですが,複数回答した方がいいという面もありますので。

先ほどありました,20ページの「単一の」という部分は,この報告書ではさほど詳しくは書いてありませんが,当時,議論した際には,たしか現場の方のニーズとして,複数の団体から請求されては対応が困るということがあったと記憶しております。団体の方の話ではなくて,現場の方がということであります。それが先ほど主査が言われたところかと思いますが,対応可能性から一つに絞ってほしいということがあったので,必ず一つでなくてはならないのかは別として,現場のニーズを反映したものがこれではないかと承知しております。

それから,外国の著作物については,私も奥邨先生が言われたのと同じように思います。報告書の出し方については,今までの説明との連続性など,いろいろ考える必要があるのではないかと思っております。

【土肥主査】じゃあ,前田哲男委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】大変細かいところで恐縮ですが,この中間まとめ案の39ページに脚注の87がございますけれども,「上映権の制限の要否についても検討を行う必要がある」ということですが,これはデジタル教科書が非営利,無料ではなく公に上映される,つまり,38条1項ではカバーされない上映が行われる場合があるので,上映権を新たに制限する要否について検討を行う必要があるということなのでしょうか。

【秋山著作権課長補佐】教科書の実際の運用,デジタル教科書の制度設計や運用というのは,今,大枠が示された段階でございまして,様々な可能性があろうということで,例えば,デジタル教科書の会社が管理するサーバーの下で上映をするということが,もし,今後あるのであれば,そういうことも検討対象にしておく必要があるだろうという意味で脚注に書かせていただきました。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかにいかがでございましょうか。

じゃあ,茶園委員,どうぞ。

【茶園委員】先ほどの道垣内委員の意見につきまして,団体に関しては,これは20ページのところであると思いますが,恐らくこの委員会で議論があったのは,窓口の一元化,つまり利用しようとする人がここに行けば補償金の処理ができるというものであって,ですから,団体が一つでなければならないかどうかということとは別個の問題ではないかと思います。そうであれば,「窓口の一元化」の部分を残し,上の方の「単一の団体」の部分を削除するか,あるいはこの部分をもっと柔らかい表現に変えればよろしいのではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかにいかがでございましょうか。よろしゅうございますか,ほかには。

道垣内委員,茶園委員,お二人,複数の委員が御指摘の20ページの部分,「例えば,文化庁長官の指定する単一の団体が一元的に補償金の徴収分配を行う」と。ちょっと前のめりかなというところはございましょうから,「一元的」というのは残すと,「単一の団体が」という,それは主語になっているわけですけれども,「文化庁長官の指定する団体が一元的に補償金の徴収分配を行うこととするなど」といった表現になるのかな。

上野委員,どうぞ。

【上野委員】資料2の20ページにおいては,「例えば」や「など」と記述されており,単一の団体でなければならないということにはなっていないかと思いますけれども,既存の著作権法の中にも放送二次使用料の徴収に関しまして指定管理団体制度があり,そこでは複数の指定団体は想定されていないと説明されていますし,そして,私的録音録画に関する指定管理団体制度については「全国を通じて一個」とする規定(著作権法104条の2第1項柱書)がありますように,単一の団体によって徴収を行うことがコストの観点からしまして最も望ましいだろうと私自身は考えております。

ただ,そうなりますと,先ほど道垣内委員からも御指摘がございましたように,教育機関において外国の著作物が利用されるということが考えられますので,これについて権利制限+補償金請求権を指定管理団体制度において行うという場合,もし外国の権利者が受けるべき補償金も徴収されることになるのであれば,そのように徴収された補償金が外国の権利者に正しく分配されるのかどうかが問題とならざるを得ないように思います。その意味では,このたび権利者団体37団体によって「教育利用に関する著作権等管理協議会」が設立されたという御紹介がございましたけれども,この協議会において,例えば,各団体が外国の権利者団体との相互管理契約を通じて外国の権利者に分配されることになるかどうかが検証される必要があるのではないかと私は思います。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

今,2点の問題があるわけでありますけれども,「例えば」というふうになっておるにしても,「単一の」というのはなくても,理屈としては通るところでありますので,ここの部分は,「文化庁長官の指定する団体が一元的に補償金の徴収分配を行うこととするなど」ということでもいいんじゃないかと私は思います。

特にこの点,御異議がなければ,本小委において,そういう表現でまとめたいと思いますけれども,いかがでございましょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】よろしいでしょうか。御異議ないということであれば,そのように改めさせていただきたいと思います。ほかにございますか。よろしいですか。

それでは,この部分については御意見を頂戴したということで,次に障害者のアクセス機会の充実についての部分に入りたいと思います。

障害者の情報アクセス機会の充実について,事務局からの説明をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】主査,大変恐縮ですが,そろそろお昼の時間が来ようとしておりまして。

【土肥主査】私が見ると,あと2分ぐらいあると思ったんですけれども。分かりました。

すいません,事務局から昼だという強い要請がございましたので,ここでパウゼというか,昼の休憩を挟みたいと思います。

それでは,1時に再開いたしますので,1時にお集まりいただければと思います。

(休憩)

【土肥主査】皆さん,おそろいのようでございますので,再開いたします。

次にお諮りいたしますところは,第3章の障害者の情報アクセス機会の充実についての部分でございます。

この説明について,事務局からお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】資料2をお手元にお願いいたします。障害者の関係は第3章,41ページでございます。関連資料としまして,資料3と資料4を付しております。資料3は障害者団体である日本盲人会連合様からの意見書,資料4はこの後に中間まとめで御紹介いたします関係者間の協議経過の資料でございます。資料4の内容は中間まとめに反映させていただいておりますので,こちらをもって御説明とさせていただきたいと思います。

では,中間まとめにお戻りいただければと思います。

まず,1ポツで問題の所在を書いておりまして,(1)はマラケシュ条約の状況ですとか障害者権利条約の内容,そして次のページに行って,著作権法の見直し経緯について説明しております。

(2)障害者の情報アクセス環境に関する現状でございますけれども,こちらは書籍と放送に分けて整理させていただきました。障害者団体の方から提供いただいた情報などを必要に応じて付記しておりますが,例えば,二つ目のパラグラフでは,障害者団体によりますと国会図書館の蔵書数が一千万タイトルを超えている中で,国会図書館と点字図書館のサピエを通じて視覚障害者等が利用できるものについては,点字が約16万タイトル,録音が約6万タイトル,テキストDAISYが1,237タイトル,マルチメディアDAISYが46タイトルということで,量的には不十分な状況であるということが報告されております。そうしたことから,ア,イ,ウに掲げる課題についての解決が障害者団体からも求められているということでございます。

(ア)は法第37条第3項における受益者の範囲についてでございます。こちらはマラケシュ条約においても求められているところでございますが,法第37条第3項では現在,対象障害者の範囲を「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者」としております。これとの関係では,次のページですけれども,上肢の欠損等により書籍の保持が困難な者といったものがこの規定の対象になるのかどうかが必ずしも明らかではないということで,マラケシュ条約への対応ということもありまして,この受益者の範囲の明確化ということが求められております。

(イ)法第37条第3項により認められる著作物の利用行為ですけれども,現在,同項では自動公衆送信のみが規定されておりまして,これに当たらない公衆送信であるところのメール送信が入っていないということで,これへの対応が求められております。

(ウ)法第37条第3項により複製等を行える主体でございます。こちらにつきましては,現在,法第37条第3項の規定に基づきまして,政令で幾つかの障害者関係施設等が定められているほか,文化庁長官が指定する団体が規定されております。現在,ボランティアに関してはそうした政令で定められている団体の手足となって利用することは可能なわけですが,それら以外については文化庁長官の個別の指定を受ける必要があります。このため,障害者団体によりますと,零細なボランティアグループも多い中,個別指定のための手続を受けることがなかなかできないという報告もありました。そういうこともございまして,今回,政令指定に関する制度の見直しが求められているということでございます。

次に,イ.放送番組に関するアクセス環境でございますけれども,下の表に見られますように,放送事業者の方で近年,視覚障害者や聴覚障害者向けのアクセス環境を充実させるということで,かなり御努力いただいているようではありますが,しかし,まだ完全に障害者に対応できているという状況にはなっていないということから,これらの充実が求められております。

45ページの上の方にございますように,障害者団体からは,字幕や手話,解説音声を放送又は有線放送すること,それから,放送番組の映像に字幕,手話,解説音声を付して複製し,これらのものが付いた映像を視聴覚障害者等に対して放送又は有線放送,自動公衆送信できるようにしてほしいという要望を頂いております。

また,三つ目の要望内容としまして,災害時に障害者が報道等の災害情報によりアクセスしやすくするための権利制限規定の整備が求められているところでございます。

以上が,課題の概要でございます。その検討結果を以下御説明いたします。

まず,本小委員会は平成26年10月の小委員会でヒアリングを行いましたが,その段階でマラケシュ条約の締結に必要な手当につきましては特段権利者団体からも指摘はなかったわけでございますが,その他の事項につきましては反対若しくは慎重な立場であったということから,まずは当事者間の協議をするべきだという御指示があったわけでございます。これを受けまして,これまで関係者間協議をやってきたわけでございますが,今回,幾つかの要望事項についてはその意見集約の見通しが立ったということから,その内容の御報告をしたいということでございます。

そのページの下にもありますように,今回折り合いが付いた要望事項と付いていないものがあるのですが,付いたものについては速やかな整備を求める意向が,先ほど資料3で紹介した日本盲人会連合様から出していただいておりますので,そういうことも踏まえて今回の検討結果を整理させていただいたところです。

まず,書籍関係でございますけれども,要望事項の一つ目のアにありますように受益者の拡大につきましては,権利者団体としましても特段の問題視はされていないこともありますし,あとは国際条約上の義務の履行という観点,更に障害者の情報アクセスの機会を考えますと,視覚障害者等との差異を設ける合理的理由は認められないということから,法第37条第3項に身体障害者等も含めるという方向で規定の整備を行うべきとさせていただきました。

次に,イ.法第37条第3項により認められる著作物の利用行為の拡大でございます。こちらも法第37条第3項に定められる受益者を超えて健常者への送信ということまで起こるとそれは問題であるということは権利者団体からありましたが,そうしたことが起きないような体制をしっかり整えていくということが障害者団体からも見解として示されております。こうした行為につきまして,図書館等が行うメール送信サービスというものがダウンロード型のサービスに加えて権利者に不利益を与え得るとは評価できないわけでございますので,これらについても権利制限の対象とする方向で所要の規定の整備を行うことが適当であるとさせていただいております。

47ページの上のウでございますけれども,法第37条第3項により複製等を行える主体の拡大についてでございます。関係者間協議におきましては,権利者団体の方から主体を無制限に拡大することには慎重であるべきであり,主体が守るべき要点を定めるなどの何らかの制度整備が必要であるという御意見がございました。この点,現行法の政令で定められている組織につきましては,ここに掲げさせていただいたような共通点があるのではないかということでありまして,一つ目が視覚障害者等向けの情報提供事業を組織的に実施し得る者であること,二つ目,一定の法令順守体制が確保されていること,三つ目,外形的に権利制限規定の適用となる主体か否かが確認できることと挙げております。

こうしたことも踏まえまして,最後のパラグラフですけれども,上記1から3に整理したような共通点も踏まえて,権利者の利益を不当に害さないための一定の条件を課した上で現行制度よりも簡易な方法で複製等を行うことができる主体になり得ることができるようにするための所要の措置を講じることが適当であるとしております。

48ページの(イ)のところですけれども,文化庁長官の個別指定に係る事務処理の円滑化ということでございまして,これは先ほどまで御紹介した制度整備とはまた別に,いずれにしても文化庁長官の個別指定というスキームもあるわけでございますが,仮に今回の制度整備をした後にでもこうした指定の手続の改善要望などがありましたら,そうした手続の改善についても今後必要に応じて検討していくというふうにしております。

それから(ウ)音訳サービスの質の向上という論点についても,関係者間協議で議論になりました。この点につきましては,権利者団体の方から音訳の質を含めて適正な活動をしていることが確認できる制度が必要であるということが言われました。しかし障害者団体からは,音訳の質の担保は重要であるものの,量的なニーズとか時間的なニーズというものもありますので,そうしたニーズに応えることが必要であるという御意見がございまして,音訳の質に関しては権利制限の条件とするべきではないという御意見もございました。

この点につきまして,法第37条第3項の政令で挙げられている主体につきましては,音訳の質を確保する体制というところまでは法令上求められていないと理解されるところでございまして,今回の主体の拡大に当たっては,そうした体制を求めることまでは要さないというふうに整理をしております。しかしながら今回の当事者間協議の議論の中では,こういうことにつきまして協力をしながら音訳サービスの質の向上を図っていこうという議論がなされておるところでございますので,そういうことを見守っていくということを示させていただきました。

次に,エ.放送番組に字幕等を付して公衆送信をできるようにすることという要望についてでございます。こちらにつきましては関係者間協議におきまして,現時点においては十分な認識の共有及び意見の集約がなされるには至っていない状況でございます。このため,両当事者においてはこれまでの協議の状況を踏まえ,障害者団体において検討中の事業計画の提出を待って引き続き検討を行うこととしております。本小委員会としましても,その進捗が整った段階で改めて報告を受けて,更に検討を頂きたいと考えております。

以下,これまでの協議状況について御紹介をしたいと思います。

49ページですけれども,まず一つ目,字幕放送等の現状についてでございますが,まずこの議論の前提としまして,健常者と同じ環境で放送番組を視聴できるようにすることの重要性につきましては関係者間で一致いたしました。そして権利制限規定の見直しの必要性,妥当性というところで幾つか御意見がございました。まず,権利者団体からは,障害者の情報アクセス確保は重要な問題であり,必要に応じて権利制限の見直しを行うこともあり得るということですが,しかし,権利者への影響も考慮すべきであるという御意見がございました。一方,障害者団体の方からは,諸外国においては放送事業者に対して字幕等の付与の義務付けを行っている例もあるということが示されまして,我が国においてそれがもし難しいということであれば,せめて障害者団体等の当事者側で放送番組に字幕等を付与して視聴することを可能とするべきではないかという御意見があったところでございます。

こうした御意見のほかにも,マル2にありますようにライセンス契約で対応可能ではないかという御意見,それではなかなか不十分ではないかという議論もございましたし,マル3では権利者側から権利制限規定の見直しの必要性を判断するに当たりまして,より具体的な事業計画の内容や,その実現の見通しが明らかになることが必要だという御指摘がございました。

次のページをお願いします。これに対しまして,障害者団体からは,点線囲みにありますような事業案を検討いただきまして,関係者間協議の場で示されたわけでございます。逐一御説明はいたしませんが,事業スキーム,対象番組の選定などのプロセスについて整理いただくとともに,字幕等の付与事業の担い手として考えられる施設を具体的に挙げていただきました。また,配信等の方法として,衛星通信,IPTV,それから一般的なオンデマンド型の動画配信サービスなど様々考えられるということで,導入費用がそれぞれ幾ら掛かりそうなのかといったことも御紹介がございました。それから,障害者以外への流出防止策としてどういうことをする予定であるのかといったことや,あるいはその他というところで,著作権以外の権利の保護のためのガイドラインに関する取組などについても御紹介がございました。

こうした事業案に対しまして,権利者団体からは,字幕等の付与が求められている番組の種類等に関するより詳細なニーズや自動公衆送信の方式,ストリーミング方式でやるのがオンデマンド方式でやるのか,及びその具体的内容とともに,財政面も含めた事業の実現可能性といった点について更に具体的な内容について示すということが依頼されました。これを受けまして,現在,障害者団体で具体的な事業計画の検討が行われているところでございます。

次のページでございます。(ウ)としまして,仮に権利制限規定を設けることが適当であるとした場合に検討しておくべき論点についても併せて御検討いただきました。まず冒頭ですけれども,検討の基本的な視点としましては,障害者の情報アクセス環境について健常者と比べて実質的に同等な環境を確保するために必要な範囲で権利制限の手当を行うものであるという考え方については確認がされたと承知しております。

あと,これらのこうした視点を前提としまして,各論三つ,ここで書かれております点について議論を頂きました。まずマル1,対象となる著作物につきましては有料放送も含むかどうかといった点,それからマル2,対象となる支分権等については,広くインターネット配信を見込めるかどうか,とりわけオンデマンド型というものが健常者よりも優遇することにならないかといった議論がなされております。それからマル3,支分権の対象となる主体の中に営利目的の事業者も入れるべきかどうかという議論がなされております。これらはいずれもまだ議論が成熟している状況にはございませんので,途中経過の報告とさせていただきたいと思います。

最後に,オ.その他としまして,先ほど御紹介しました要望事項最後の点でございますけれども,災害時における著作物利用に関する権利制限規定に関しましては,その必要性・緊急性・相当性に応じて緊急避難や権利濫用といった一般法理による対応の可能性,それから権利者の推定的承諾といった考え方で対応するという可能性もあると考えられることから,今後そうしたことも踏まえて必要に応じ検討を行うこととするとさせていただきました。

説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございました。ただいま,第3章,障害者の情報アクセスの機会の充実についての説明を頂戴いたしました。

この点について,御意見,御質問ございましたらお願いいたします。

茶園委員,どうぞ。

【茶園委員】これは単に構成の問題ですが,45ページから2ポツの検討結果ということで,その次の46ページから「(1)書籍等に対するアクセス環境に関する要望について」となっていて,この部分においてア,イ,ウと続いています。そして,48ページからの,「放送番組に字幕等を付して公衆送信できるようにすること」がエになっていますが,これは(2)ではないでしょうか。そして,最後の52ページのオが(3)ではないかと思うのですが。

【秋山著作権課長補佐】申し訳ありません,おっしゃるとおりでございます。修正させていただきます。御指摘ありがとうございました。

【土肥主査】確認をしてください,確認を。茶園委員がおっしゃるところの。

【秋山著作権課長補佐】はい。茶園委員からは,今,48ページの下のところにあります「エ.放送番組に字幕等を付して公衆送信できるようにすること等」については,エではなくて(2)ではないかという御指摘でございました。こちらはおっしゃるとおりでありまして,書籍とは別の話題でございます。(1)とパラレルな関係の議論であろうと思いますので,(2)と修正させていただこうと思います。

それから,52ページの「オ.その他」につきましても,(1)(2)と並ぶ別の御要望事項に関する議論でありますので,これは(3)と修正させていただきたいと思います。失礼いたしました。

【土肥主査】ありがとうございました。そのように修正させていただきます。

ほかに。奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】すみません,全体的なところについては基本的に今回のまとめについて特に意見はないんですけども,今回おまとめいただいた点についてはこのとおりかと思うんですが,基本的に障害者に関する点に関しましては,そもそも障害の態様が様々ですし,利用される著作物ですとかニーズ,それから事業の展開,いろいろありますので,本来は権利制限だけではなくて権利者の方がいろいろ自主的に対応いただくということとの組合せで実現されていく部分が多いんだろうと思います。したがって,そういう意味においては当事者間の協議で進めていただくということが一番いいんだろうと。その中で自主的にやる部分と法律でやる部分とを組み合わせていくというのが一番よろしいかと,そう思っているんです。で,ちょっとこれはまだ議論の途中ということですし,あと,伝聞で書かれているので必ずしも正確ではないかもしれません。そうだろうとは思うんですけれども,例えば51ページ,対象となる著作物のところで,有料放送の関係の真ん中の方で,「障害者であれ健常者であれ,有料放送に契約する場合は,そのサービス等の条件を理解した上で契約するはずであり,障害者に対応した放送を求めるのであれば,契約時に当該放送事業者に対して確認・要望するべきであって,その結果求めるサービスの運用がなければ契約しなければよいだけの話ではないか,との意見も示された」と。仮にこういう議論なんだとすると,ちょっと心配があるなという気はいたします。私から申し上げるのも恐縮なんですが,これは伝聞ですから違うかもしれませんけど,もしこれが事実だとするとちょっと気になるなと思います。

私から申し上げるのも恐縮なんですけど,先般,障害者差別解消法が施行されていて,そこでは,事業者は障害者からの要望に対して合理的な配慮措置をとるよう努力しましょうとなっているわけで,社会全体がそう取り組んでいると。今回の,字幕の提供を有料放送がすることがそこに該当するかどうかというのは,ちょっとこれは専門ではありませんので私は分かりませんが,ただ,少なくとも法律の趣旨とか今の世の中の考えからしたら,いや,うちではそういうサービスは提供していないので,ないということが分かったらよそへ行ってくださいというのはやはりどうかなと思うわけです。

基本的にはそういうサービスを,権利制限でやるのか,それとも自主的な対応でやるのかという前向きの御検討の中で御検討してもらって,ただ自主的なことだけではカバーできないところがある点においては必要なときに権利制限していくというような議論なんだろうと思うんですね。

こういうあたりで,もしこういう形で……,本来もちろん権利者の方の利益を守るのは大切なんですけれども,ちょっと違うような形で利害対立をするというようなことがあるんだとすると,当事者間の協議だけというよりは,行政ももっとイニシアチブをとってこういう方向でやった方がいいとか,また,この審議会も含めてやった方がいいのかもしれないなと。一部の書きぶりだけですので,読み過ぎなのかもしれないですが,ちょっと今後のところで是非前向きな方向で進めていただきたいなという気を持ちました。以上でございます。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかに,はい。河村委員どうぞ。

【河村委員】今,有料放送について御意見ありましたけれども,無料放送について意見を申し上げます。他省の話が出てきてあれかもしれませんが,これを読んでいますと,何か,いかにも二つの利益代表の間で協議しているという感じですけれども,そもそも地上デジタル放送に変わるときに,私は利用者の立場から総務省の委員会などで意見を言ってきましたが,そのときに,本当に口々に,デジタル放送になりましたら弱者に優しい放送になるんです,そういう良いことがあるんだから,そういう意味でも広くみんなが費用を負担して,地上デジタル放送のテレビ,高いテレビに買い換えて,デジタル化を実現するのだと放送事業者の方などが言って,もうあれから何年経っていますでしょうか。

それで,ここを読みますと,放送事業者の方は何か,弱者のためにやってあげないでもないみたいな感じの書き方で,これはもう全然,デジタル化を議論していたころと話が違います。私から言うとそんな対等な立場じゃなくて,少なくとも無料放送に関しては,NHKはもちろんのこと,公共的な放送をするということで免許を取っている民法,無料放送に関してはこんなパーセンテージでは全然問題外です,国会中継もないとか。ですから,このような場合は,当事者にお任せしておいてフェアに話し合いなさいではなくて,やっぱり社会的責任ということを放送事業者さんには強く求めていくような感じの表現が欲しいと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかに,この第3章についてございましょうか。

よろしいですか。ほかには特にございませんか。

奥邨委員,それから河村委員から適切な御意見を頂いたわけでございまして,奥村委員からの部分についてはそういう意見があったという部分の中にあるわけでありますけれども,これはこの部分,それから河村委員の御要望についても私の方でちょっと勉強させてください。そういう形で御了解いただければと思います。

ほかにございませんか。よろしゅうございますか。

それでは,今のお二人の委員の御意見を踏まえた上で,障害者の情報アクセス機会の改善,充実については本小委の意見として進めたいと思います。

それでは,次の章の話でございます。次は著作物のアーカイブの利活用の促進の問題でございます。これについて事務局から説明をお願いいたします。俵室長。

【俵著作物流通推進室長】ありがとうございます。53ページから,アーカイブの利活用促進の第4章になります。これらについては既に小委員会で議論していただいた内容を,過去の審議経過報告でも記述している部分が結構ありますので,一部省略しながら説明をさせていただきたいと思います。

この第4章については,第1節は著作物の保存に係る課題,第2節として活用に係る課題,そして第3節として,これは63ページになりますが,著作物流通推進のための権利処理の円滑化についてということで,大きく言うと3本の柱にして記述をしています。最初,保存に係る部分ですが,54ページからになります。これは既に審議を頂いて結論が出ている部分ですので,結論部分を中心に紹介をします。

最初に(1)アーカイブ機関において所蔵資料を保存のため複製することについて。これは法第31条第1項第2号に基づいて図書館や美術館,博物館において,所蔵資料を保存のため複製することが認められるケースについて検討が行われたものです。55ページの4段落目,「以上を踏まえると」以降が既に解釈の明確化という形で結論を出していただいた部分になります。「美術の著作物の原本のような代替性のない貴重な所蔵資料や絶版等の理由により一般に入手することが困難な貴重な所蔵資料について,損傷等が始まる前の良好な状態で後世に当該資料の記録を継承するために複製することは,法第31条第1項第2号により認められると解することが妥当である。なお,同号の規定に基づき,記録技術・媒体の旧式化により作品の閲覧が事実上不可能となる場合に,新しい媒体への移替えのために複製を行うことも可能であると解せられると」いった形で解釈の明確化を図っていただいたことについて記述をしています。

(2)は,複製が認められる主体の範囲についてになります。これは具体的に言うと法第31条第1項第2号にあります,保存のための複製が認められる「図書館等」,この範囲について検討を行っていただきました。56ページに結論を示しています。審議会での議論を踏まえ,関係者の意見も聞いた上で,平成27年6月に,この法第31条に規定する「図書館等」の範囲の拡充を行いました。具体的に言うと,博物館法第2条第1項に規定する登録博物館,同法第29条に規定する博物館相当施設であって,営利を目的としない法人により設置されたものが「図書館等」に含まれ得るということになります。こういった指定を平成27年6月にしています。

続いて,第2節の活用の部分に入ります。これは問題の所在のところに,大きく言うと5点ほどの課題について示しています。2段落目からになりますが,最初が,各地の図書館でデジタル化した資料をほかの図書館においても閲覧できるような制度を設けられないか,これが1点目です。日本文化の発信の観点から海外の図書館でも絶版等の資料の閲覧ができるような制度を設けられないか,これが2点目です。展示作品の解説・紹介のために,「小冊子」だけではなくて電子機器でもこれらの掲載行為が適法に行われるようにすべきではないか,これが3点目です。自らのウエブサイトにおいて展示作品の文字だけではなくて作品の小さなサムネイル画像を使用できるようにすべきではないかと,これが4点目です。著作権者が不明の場合の裁定制度,これについてより円滑に利用できるようにするための見直しについての課題,これが5点目の課題になります。

それぞれについて検討いただいた内容を示していますので,「検討結果」に記述した内容に沿って紹介したいと思います。

(1)国会図書館による資料送信サービスの拡充についてになりますが,各地の図書館においてデジタル化した資料をほかの図書館においても閲覧できるようにすべきではないかということについては,これは解釈の明確化を図っていただいています。その内容が下から3段落目に書いてありますが,「すなわち」以降のところで説明しますと,「法第31条第1項第3号により,公共図書館が国立図書館の求めに応じ,絶版等資料を複製し,これを国立国会図書館に提供すること」,これは可能です。さらに,「国立国会図書館は,この規定に基づいて提供された複製物を第3項の規定によって図書館送信サービスによりほかの図書館に自動公衆送信を行うことができると考えられる」と整理していただき,解釈の明確化を図っていただきました。この法第31条に係る解釈が明確化されたことを受けて,平成28年度に国会図書館では,国会図書館自身で所蔵していない絶版資料の他の図書館からの受入れを開始しています。これは関係者との調整を経て既に開始をしているものになります。

続きまして,国会図書館の送信サービスのうち外国の図書館にも対象施設を拡充すべきではないかということについてになります。58ページになりますが,この小委員会において日本研究を行っている外国の図書館の利点であったり,我が国の文化を海外発信するという観点からすると,この国立国会図書館が絶版資料に係る著作物を自動公衆送信できる送信先の施設に図書館に類する外国の施設を追加するという法改正が求められると整理をしていただいています。この点については法改正が必要な事項になりますが,このときには権利者の利益を不当に害することがないように,この絶版資料の受信が適切な環境において行われて,さらに,受信した資料がいたずらに利用されることがないような措置が送信先の施設において講じられていることが望ましいと整理されました。外国の図書館を追加するに当たっては,こうした点が確認できる施設に限定することが適切であると記述をしています。

続いて,(2)展示作品に係る情報を観覧者に提供するための著作物の利用についてということで,これは58ページの下から3段落目になりますが,法第47条の規定では,現在,小冊子にその美術の写真の著作物について,これを紹介する場合に掲載することができると記述がされています。これについて小冊子のほか電子機器にも拡大することについて検討を頂きました。これは,最近では小冊子,紙だけではなくて,タブレットの端末といった電子機器を使った作品の解説も普及しつつあるということが背景にあります。

「小委員会では」,これは下から2段落目に書いてありますが,法第47条の適用対象は小冊子から電子機器に拡大するにとどまる限りにおいては,著作権者の利益が害される可能性も低く,技術進歩に伴う制度の見直しを行うことが必要であるという意見がありました。

文化庁では,関係団体から意見聴取を行っていますが,ここでは賛成の意見が示される一方で,観覧の後にその電子機器を施設外に持ち出しても閲覧することができるような掲載方法については著作権者の利益を不当に害することがないような措置を講ずることを条件として認められるべきではないかといった意見が示されました。これらを踏まえ,観覧者のために著作物の解説,紹介することを目的とする場合には,必要と認められる限度において複製,上映,自動公衆送信を行うことができるとすることが望ましいと考えられると記載しています。これも法改正の必要な事項になります。

著作権者の利益を不当に害することとなる場合の規定の仕方については,将来の技術進展などを念頭に置いて柔軟に対応できる法令上の規定となるような検討が必要だということについても併せて記述をしています。

続いて59ページの(3)になりますが,これは展示作品に係る情報としてサムネイル画像のような小さな画像をインターネットで送信することについての課題になります。本小委員会では,サムネイルは著作物を鑑賞するためのものではなくて,著作物に誘導するためのいわば道しるべとなるものであり,権利者の利益を害するものではないのではないかといった意見がありました。こちらも関係団体に意見聴取を行っていますが,賛成の意見が示される一方で,主体は限定すべきであるといった意見や,サムネイルの解像度や大きさを限定するといった措置も必要ではないかといった意見もありました。さらに,補償金を伴う権利制限とすべきといった意見もありました。

60ページ,「以上を踏まえると」のところから結論になりますけれども,美術の著作物,写真の著作物の原作品を適法に展示する者については,これらの著作物に係る情報を提供することを目的とする場合には必要な限度において複製,自動公衆送信を行うことができるとすることが望ましいとしています。これも法改正の必要な事項になります。意見にもあった適用主体については,作品を展示するものに加えて,展示者の情報を集めて公衆に提供する一定の公的なアーカイブ機関を含めることも考えられるとしています。また,権利者の利益を不当に害することとなる場合については,例えば高精細な画像をネット配信する場合などが考えられますが,先ほどと同じように柔軟に対応できる法令上の規定となるよう検討することが必要としています。

最後,補償金の請求権の付与について,60ページの(3)の最後の段落に書いてあります。補償金請求権の付与の要否については,この規定の適用主体が展示施設とこれに準ずる一定の者に限定されており利用規模が小さく,徴収できる補償金の額が軽微であると考えられること,鑑賞を目的とした利用を許容するものではなく,権利者に与える不利益が小さいと考えられることに鑑み,補償金請求権を付与する必要性に乏しいのではないか。また,制度の創設にかえって社会的コストが大きくなってしまうと考えられることから,補償金の請求が伴わない権利制限規定の導入が適切であると記述しています。

続いて,裁定制度の見直しになります。61ページに過去に裁定を受けた著作物の利用についての記述をしています。これについては,既に行った措置ですので,結論部分を紹介したいと思います。61ページの一番下の段落になりますが,委員会での検討を踏まえて,文化庁では,平成28年2月に情報を集約したデータベースを新たに構築をし,現在,約27万件のデータベースを整備しています。これが1点です。

さらに,権利者捜索が裁定制度の要件になっていますが,これに必要な相当な努力を緩和する告示の改正を行いました。具体的に言うと,文化庁のウエブサイトに掲載された著作物に関するデータベースを閲覧することで,ネット検索であったり,管理事業者の照会にかわって,データベースの閲覧を行うことで足りるという措置にしています。

続いて,62ページになります。公的機関による補償金の支払についての,新たな制度になります。これも法改正が必要な事項になります。小委員会の中では,我が国の裁定制度とEU孤児著作物指令との比較を行っていただきました。この比較を踏まえて,小委員会においては,我が国においても,権利者が現れたときに補償金の支払を確実に行うことができる公的機関については,事前の供託ではなくて,現れた場合の支払を認める制度を検討することが適当であるとされました。また,現在,申請中の利用も可能になっていますが,これも同じように,公的機関については免除して,権利者が現れた場合に支払えば足りるということが望ましいとしています。対象となる機関については,国,地方公共団体,これに準ずる機関であって,補償金の支払が滞ることのないものを柔軟に指定できる制度設計とすべきであると考えられるとしています。

裁定制度の最後の項目になりますが,利用円滑化のための実証事業を今年度やっていますので,この点についても記述をしています。28年の10月から利用者の負担の軽減に資する方策の検討のために,文化庁の委託事業として民間団体が主体となりまして,利用者のために権利者の捜索であったり,文化庁への申請を行う実証事業を行っています。民間団体としては,権利者団体9団体が集まって作っている実行委員会が担ってくれています。実際には,権利者の捜索,文化庁への申請,そして補償金の供託などを行っていまして,12月,1月の2回で14件の裁定申請が行われました。今後は,この実証事業の結果を検証して,来年度以降の具体的な取組について検討し,裁定制度の利用促進に向けた取組を進めることにしていますので,それについても記述をしています。

最後,3節の権利処理の円滑化について,権利情報の集約化と拡大集中許諾制度について記述していますので,紹介したいと思います。63ページ,権利情報の集約化になりますが,小委員会において,権利処理を行う場合の前提として必要となる権利情報を集約したデータベースや,権利処理のプラットフォームとなるポータルサイトの構築を検討することが必要であるとされました。これを踏まえて,文化庁では27年度に調査研究を行いまして,権利情報の集約化と権利情報を統合したデータベースの構築が必要だという結果を示していただいています。これを踏まえて,29年度の予算案に権利情報の集約化に向けた実証事業としての予算を盛り込んでいますので,このことについても記述をしています。実際には,音楽分野から権利情報プラットフォームの構築支援に着手する予定としていまして,この予算が成立すれば,公募をして具体的な事業者を決めていくということにしています。

最後,拡大集中許諾制度になります。今年度の最初に,昨年度に行った海外調査の結果について紹介をしました。小委員会においても著作物の流通推進を図る観点からこの制度について検討を進めることが必要とされましたが,それを踏まえて昨年度の海外調査を行ったものです。今年度は,その調査も踏まえまして,この制度自体の,我が国への導入の可能性,課題について検討を行っていますので,その旨の記述をしています。今後については,著作権制度に係る課題を検討する際には,この制度の可能性を含めて,議論していくことが必要であるとしています。

第4章については,以上になります。

中間まとめにおいては,裁定制度改善などについて,アーカイブの活用促進という視点で記述をしています。ただ,これについては権利者不明著作物の利用円滑化という視点もありますので,後ほどに議論を頂く,審議経過報告においても同じような内容を記述していますので,念のため申し添えたいと思います。審議のほどよろしくお願いします。

【土肥主査】ありがとうございました。ただいま第4章の中で,保存の問題,活用の問題,それから流通促進のための課題,この三つについて,以上御説明があったようにまとめていただいております。これについて,意見,御質問ございましたら,どうぞお出しください。よろしゅうございますか。

茶園委員,どうぞ。

【茶園委員】59ページから60ページのところに関してお教えいただきたいことがあります。ここでは,サムネイルとかを掲載する方向で検討するということが記載されています。しかしながら,紙媒体の場合はどうすべきかについては記載がありません。紙媒体の場合は現行法でも規定がありません。そこで,ここでは,紙媒体の場合のことは問題としておらず,インターネットの場合だけを議論していて,サムネイルの掲載を許容する方向で進めるということを検討しているということなのでしょうか。

【俵著作物流通推進室長】ありがとうございます。ここの場の議論としては,今,先生が言われた後者で,紙の媒体の話は置いておいて,ホームページ上で紹介する場合の議論になっています。それは,関係の方からの要望も踏まえて,ネットで紹介する場合に,文字だけだと非常に分かりづらいし,魅力はない。その要望が非常に強かったということを踏まえて,この部分について議論を頂いたということかと思います。

【茶園委員】今後更に検討される場合は,ポスターとかの紙媒体の場合にも,インターネット上での紹介の場合と同様に許容するべきかどうかについても一緒に検討していただきたいと思います。

【俵著作物流通推進室長】ありがとうございます。ポスターなどの紙媒体に記載することについても権利者,利用者,双方からの意見も踏まえて,必要に応じて検討していくことが必要かと思います。

【土肥主査】ほかにいかがでしょうか。

どうぞ,井奈波委員。

【井奈波委員】57ページの(1)の点で,御質問したいのは58ページなんですけれども,このような資料送信サービスの拡充のとあるパラグラフの,もっとも以下で,権利者の利益を不当に害することがないよう,絶版等資料の受信が適切な環境において行われ,受信した資料がいたずらに利用されることがないような措置が,送信先施設に講じられていることが望ましいとなっておりまして,これによれば外国の図書館に送信できるんですけれども,これらの点が確認できる施設に限定することが適切と書いてありますので,こういった措置が講じられた施設に送信できるという規定ぶりになるとは思うんですけれども,一番下の行を見ますと,我が国著作権法において,これらの施設による著作物等の利用に係る権利を制限するような規定は設けるべきではないと書いてあります。そうすると,利用に係る権利を制限するような規定になってしまい,その点に矛盾を感じるんですけれども,この点はいかがでしょうか。

【土肥主査】お願いします。

【俵著作物流通推進室長】ありがとうございます。外国での行為について日本の法律で規律するというのは難しいだろうということで,なお書きを書いています。ただ,対象となる外国の図書館を指定する場合,そういった措置がきちんと施されているかどうかというのは,確認の必要があるでしょう。恐らく,実務になると,これは国会図書館が行う送信サービスを活用するという話なので,国会図書館の協力も得ながら,対象をどこにするかというのを決めていくという形になるのかなと考えています。

【土肥主査】龍村委員,どうぞ。

【龍村委員】今の外国の図書館に関係してですけれども,外国の図書館という場合,何らかの限定を予定しているものだとすると,「一定の」などの限定を付することも考えられますが,rは個別に文化庁として指定するというような枠組み,あるいは相互主義的に,先方もそういうようなサービスを著作権法制で認めているところにのみ指定するとかをお考えなのかどうなのか,その点をお伺いします。

【俵著作物流通推進室長】今のところは,相互主義的なことに限定した方がいいという考え,あるいは議論にはなっていないかと思います。今後,どういった外国図書館などを対象にしていくかという議論の際には,そういったことも考えられるかもしれません。今のところは,そういったことは考えていません。

【土肥主査】ほかにいかがでしょうか。

前田委員,どうぞ。

【前田(健)委員】62ページの裁定を受けた著作物の利用に関するところですけれども,ここで示されている考え方というのは,補償金の支払が滞るおそれがない公的機関については,裁定手続に係る負担を軽減するために,補償金の支払を,ある種繰延べさせるという考え方だと思います。こういう制度を作ることで,民間事業との間で差ができるのではないかという指摘に対して,民間事業を圧迫することは想定し難いとしています。それ自体は,そうかもしれないですが,民間事業においても補償金の支払が滞るおそれがない団体というのは一定程度存在するかもしれず,そういったものに対しても,将来的にということだと思いますが,こういう制度の対象として検討するということはあってもよろしいのかなと思いました。

【俵著作物流通推進室長】ありがとうございます。正に僕らもそういう視点で考えていまして,ただ,最初にいきなり民間の,どういったところが対象になるのかというところまで含めて考える前に,まず,国,地方公共団体,あるいはそれに準ずるという形で一定の公的機関は対象にしつつ,その制度ができた後,更にそれを広げられるようにしていくことが必要と考えています。法令上もそういった規定ぶりにできないか検討する必要があると思いますし,今後,そこは大事な視点になるかなと思います。

【土肥主査】道垣内委員,どうぞ。

【道垣内委員】将来のことなので,中間まとめとは関係ございませんけれども,今おっしゃった点については,私はどちらかというとネガティブです。現役で著作権で生活している人の著作物と,行方不明になっている人の著作物と,同等なものがある場合,どっちを使おうかというときに,事後払いでいいということであれば,権利者がわからない方を使うということがあり得て,その市場ができてしまうおそれがあります。著作物で生活をしている人たちの権利を害するおそれはないのかどうかも検討の対象にしていただければと思います。将来のことですが。

【俵著作物流通推進室長】ありがとうございます。分かりました。

【土肥主査】ほかにはいかがでございましょうか。よろしゅうございますか。ほかに,特にないということ,河村委員,どうぞ。

【河村委員】すいません,先ほどの私の意見を補足させてください。誤解があるといけないので。私の先ほどの放送に関する意見は,放送局の字幕放送のパーセンテージを上げるべきだと言ったわけではなく,もちろんそれは上げた方がいいんですけれども,それができていない現状があるのだから,それがきちんと提供できないのであるならば,権利制限を受け入れるべきだという意見です。自分たちの不利益のことばかり言わずに,障害者の権利の側に立って,権利制限規定に反対するべきじゃないという意見です。努力してパーセンテージを上げるのを待っていても,いつまでたってもできないと思っています。

【土肥主査】ありがとうございました。およそ,中間まとめ案についての御意見を頂戴したのかなと思っております。したがいまして,本日の議論はこのぐらいにしたいと思いますけれども,皆さんの御意見を伺っておりまして,20ページのところの単一のというところは一元的なというところにのみとどめるような形で訂正をさせていただきたいと思いますし,それから,あと48ページ,52ページの数字の部分,(2),(3)の部分は修正をさせていただきたいと思っております。それから,51ページでしたか,あそこの頂いておる御意見の部分については,私の方にお任せいただきたいというか,御一任いただきたいと思っております。あと,本日,意見は頂戴しておりませんけれども,てにをはの部分とか,今後,見直す中で変更が必要になってくるところももしかしたらあるんじゃないかと思います。そういうことも踏まえて,この中間まとめ(案)について,私への一任も含め,御了解いただくということでよろしゅうございますでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】ありがとうございます。御異議がないということでございますので,中間まとめ(案)は,所要の修正を加えた後で広く国民の皆様からの意見を聴取し,その結果について,次回の小委員会において報告できればと思っております。ありがとうございました。

それでは,先ほどちょっと出ました平成28年度法制・基本問題小委員会の審議の経過等についてでございます。資料にございます審議の経過等の報告案について,最初に小林調査官から説明を頂きたいと思います。

【小林著作権調査官】お手元に資料5,平成28年度法制・基本問題小委員会の審議の経過等について(案)を御用意ください。

Iはじめにでは,今期の小委員会で検討した課題が6点あったことを紹介しております。

次のページへ参ります。

II中間的な取りまとめが行われた課題についてでは,既に御議論いただきました中間まとめ(案)のとおり,四つの課題については中間まとめを行うことになったことを示しております。

続きまして,IIIその他の課題の審議状況についてでは,2点ございまして,第1章リーチサイトへの対応と,第2章権利者不明著作物等の利用円滑化でございます。このうち,第2章権利者不明著作物等の利用円滑化につきましては,著作物等のアーカイブ化の促進の観点からも整理をしており,既に御議論いただいた中間まとめ(案)の第4章と同様の内容を記述しておりますので,説明を省略させていただきます。

2ページ目をごらんください。第1章リーチサイトへの対応について御説明いたします。

まず,第1節では検討の経緯を示しております。

次のページへ参ります。

第2節では,関係団体からのヒアリング結果を示しております。1ポツでは実態及び課題について,関係団体から示された主な内容を示しております。

ページをめくっていただいて,4ページ目に参ります。

2ポツでは,要望について関係団体から示された主な内容を示しております。

次,3ポツに参ります。3ポツでは,関係団体からのヒアリングを踏まえて,行為類型を整理した結果を示しており,詳細については参考資料参照としております。

続きまして,第3節に参ります。第3節では検討の状況を紹介しております。

1ポツ,対応の必要性では,冒頭で,小委員会では,リーチサイト等による侵害コンテンツの誘導行為には権利者の利益を不当に害する悪質なものが含まれているとの現状を踏まえて,対応について検討を行うこととしたとしております。そして,具体的な対応についての検討を行うに当たり,まず,現行制度において悪質な行為に対する権利の保護が十分になされていると言えるかについて,委員より頂いた意見を紹介しております。

次のページに参りまして,(1)には損害賠償請求,(2)には差止請求,(3)には刑事罰について,それぞれ頂いた意見を記載しております。

その上で,5ページ目の最終行ですが,現行法における対応状況については,対応すべき行為範囲にも影響し得ることから,更に検討を深めていくことが求められるとしております。

続きまして,2ポツ,間接侵害(幇助)一般に係る議論との関係についてですが,1段落目では検討の意義を示しております。2段落目では,頂いた御意見としまして,間接侵害一般の議論の解決を待つのでは遅過ぎるということが大前提であり,急いで差止めを認めなければ,著作権者の利益を害することが著しい行為類型を明確に取り出し,対象を取り出す要素を議論していくことが生産的であり,白か黒かの線引きである一般法の解釈の問題については将来の課題と位置付けて議論を進めていくのが適切ではないかとの意見などを紹介しております。

その上で,3段落目で,小委員会においては,緊急に対応する必要性の高い行為類型を取り出して検討を行い,それ以外の間接侵害一般に対する差止請求に係る議論については,将来の課題として引き続き解釈に委ねるとの方向でおおむね意見の一致が見られたとしております。

次に3ポツ,対応すべき行為範囲についてですが,こちらには対応すべき悪質な行為とはどのような行為か,どのような要素により悪質性を捉えるべきか,について検討を行った際に頂いた御意見を紹介しております。

次のページをめくっていただいて,7ページ目,(1)では,悪質性の捉え方全体に関する意見を紹介しており,リンクの提供行為自体が表現行為という側面を有することからレベルの高い悪質性が求められるとの意見などを紹介しております。

(2)では,行為の客観的要素に関する意見を紹介しております。2段落目に行きます。具体的な客観的要素に関する意見としては,リンク情報を提供する行為を悪質であると捉えるべきとの意見,サイトを運営する行為を悪質であると捉えるべきとの意見,両方の行為を悪質であると捉えるべきとの意見が出されたことを紹介し,以下は続いて,各立場からの意見を紹介した上で,行為の客観的要素については,対応すべき行為類型を判断していく中で各要素をどのように捉えるかなどの観点から,更に検討を深めていくことが求められるとしております。

次に(3)では,行為の主観的要素に関する意見を紹介しております。具体的な主観的要素としては,情を知って,営利目的,違法コンテンツの拡散を助長する行為といった要素が挙げられたことや,情を知って,違法コンテンツの拡散を助長する目的はいずれも必要であるとの意見が出されたことを紹介し,その上で,今後も検討を行うことが求められるとしております。

めくっていただきまして,(4)では,リンク先の侵害コンテンツに関する意見としまして,有償著作物等のデッドコピーは抑止する必要性が非常に高いといった意見などを紹介しております。

続きまして,4ポツ,対応策ですけれども,2段落目,対応策に関する意見としては,より要件を明確化するためにも,基本的にはみなし侵害を中心とした立法をすべきとの意見などを示しております。その次の段落,また,留意点としまして,目的との関係で実際に科される差し止め刑事罰が不相当なものにならないよう注意する必要があるとの意見などを紹介しております。

そして,第1章の締めくくりとしまして,8ページの下3行目ですが,本課題については,小委員会の重要課題として,表現の自由への過度な萎縮効果を生じさせないよう配慮しつつ,法制面での対応を含め具体的な検討を迅速に行うことが求められるとしております。

9ページ以降の第2章につきましては,既に申し上げたとおり,説明を省略して13ページに飛びます。

IVおわりにですが,ここでは改めて今期の小委員会で検討を行ってきた課題の今後の方向性について示しております。

めくりまして,なお書き以下では,法改正の方向性を取りまとめることができた4点については,中間まとめを取りまとめることとなったことを記載しております。

報告書の御説明は以上でございます。御議論のほどよろしくお願いします。

【土肥主査】ありがとうございました。今年度の本小委における審議の経過等について,事務局から説明を頂戴いたしました。特にリーチサイトへの対応の問題についてという御議論になろうかと思いますけれども,それを含めて,自由に御意見を頂戴できればと思います。いかがでしょうか。

どうぞ,窪田委員。

【窪田委員】リーチサイトの議論の際に私,欠席してしまっておりますので,そのときの議論の中でもう少しきちっと検討されているのでしたら,もう省略していただいて結構ですが,一つ確認させてください。本当にごく細かい点なのですが,7ページの一番下の部分で,行為の主観的要素に関する意見ということで,情を知って,営利目的等々のことが挙げられており,このうちの一部のものについては必ず必要ではないかということが示されています。ただ,このうち,情を知ってという要件と営利目的の要件はそうなのかなとも思うのですが,違法コンテンツの拡散を助長する「目的」というのは,不法行為法や刑法の世界でも目的,認識,認容等,いろいろ使い分けられていると思うのですが,ここで扱われているのは,一般的には,違法コンテンツの拡散を助長することの認識のことなのではないかと思います。目的と言いますと,違法コンテンツが広まってしまうということを認識しつつも,別にそれを目的としていたわけではないとか,その種のつまらない議論になりかねないのかなと思います。特に,ここでは必要な要件として挙げておりますので,言葉については,もう少し御検討いただいたらよろしいのかなと思いました。

【土肥主査】ありがとうございました。ほかに御質問,御意見ございましたらお願いいたします。よろしいですか。

それでは,この部分については,先ほど違法コンテンツの拡散を助長する目的という主観的な要素が挙げられるという部分について御意見を頂戴したわけでございますけれども,これは……。どうぞ。

【小林著作権調査官】審議会の場では目的ということで検討が行われました。ただ,その目的が,窪田委員がおっしゃったような意味でおっしゃっていたのか,その内容に踏み込んだ検討ではございません。今後の議論の中で,どのように考えられ,どういった結論がよいのかということを検討いただくことになるかと思います。

【窪田委員】それで結構です。

【前田(陽)委員】1点補足で。先ほどの窪田委員の点を1点補足すると,民法的な意味で故意といった場合は認識,認容ということになりますので,多分,審議会の場では故意という意味で使っていて,その中には認識,認容が含まれるというニュアンスで私自身は理解していたということでございます。

【土肥主査】ありがとうございました。事務局におかれて何か問題があるんでしょうか。ないですか。

ほかにはいかがでしょうか。よろしいですか。

よろしければ,今年度の審議経過報告を上の著作権分科会に報告させていただきたいと思っております。御異議ございませんね。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】それでは,御異議がないものとして,そのように取り扱わせていただきます。

それでは,最後ですけれども,その他でございます。今年度の小委の最後でございますので,自由に御発言を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。よろしゅうございますか。

それでは,特にないようでございますので,本日は今期最後の法制・基本問題小委員会ということでございますので,中岡文化庁次長に一言御挨拶を頂ければと思います。

【中岡文化庁次長】御挨拶申し上げます。今期の著作権分科会法制・基本問題小委員会を終えるに当たりまして,一言申し上げます。

今期の法制・基本問題小委員会におきましては,新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定等やライフセンシング体制の在り方,教育の情報化の推進,リーチサイトへの対応といった我が国の著作権制度における重要な課題につきまして御審議を頂戴いたしました。

本委員会の下に設置いただきましたワーキンググループにおきましては,新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関して,一昨年の10月から,ちょうどTPPの関係の審議を小委員会の方でしていただいているということと並行いたしまして,10月から精力的に御審議いただきまして,先日13日に報告書を取りまとめいただくに至りました。各委員の皆様方の長期にわたる御尽力に厚く御礼を申し上げます。

教育の情報化の推進につきましては,我が国の教育機会の確保や質の充実を図っていく上で大変重要な課題でございまして,本委員会におきましては,このような政策目標を後押しすることを御確認いただいた上で,法制面の検討を進めていただきまして,今期の小委員会におきまして具体的な方向性を示していただくことができました。また,運用面の課題も含めました一体的な解決に向けまして,関係者による当事者間協議という形ではございますけれども,具体的な取組も始まりまして,大きな前進を見たところでございます。

このほか,マラケシュ条約への対応,あるいは著作物のアーカイブの利用促進につきましても,本日,具体的な制度整備の提言を含む中間まとめを取りまとめいただくに至りました。

また,リーチサイトの対応につきましては,法制面での対応を含め具体的な検討を進めるということで,政府の知財推進計画におきましても掲げられておりますので,早期の対応の実現に向けまして,引き続き御議論を頂戴したいと思います。審議経過報告書につきましては,次の著作権分科会に報告させていただきたいと存じます。

今後でございますけれども,中間まとめをパブリックコメントに掛けさせていただきまして,頂いた御意見を踏まえた最終報告をおまとめいただけるよう努力し,速やかに制度を具体化できますよう,引き続き最大限の努力をしてまいりたいと考えております。

終わりになりますけれども,各委員の皆様方におかれましては,今期の小委員会の充実した審議のために多大な御尽力を賜りました。改めて感謝を申し上げまして,文化庁の方からの御挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。

【土肥主査】どうもありがとうございました。

今申し上げましたように,本日が今期の最後でございますので,私からもという事務局からの要請がございましたので,一言御挨拶を申し上げたいと思います。

中岡次長からも御紹介がございましたけれども,確かに今期も含め,前の期,そのまた前とか,非常に大きな問題を議論させていただいておりまして,なかなか一朝一夕には結論が出ないような問題も含め,委員皆様のおかげで,一応,中間まとめということではございますけれども,一応の結論に達することができたというのは非常にうれしく思っておるところでございます。これはひとえに委員皆様そして事務局員の方々のおかげということで,有り難く思っております。

本日も本来ならば3時ぐらいまで掛かるかなと思ったんですけれども,非常に審議に御協力いただきまして,文化庁の場合,どうなのか分かりませんけれども,本日は初めてのプレミアムフライデーということでございますので,恐らくは,事務局の方々は早々に帰宅され,これまでの御苦労を解消させるべく様々なかたちで有効な休養をお取りいただけるであろうと期待をしております。時間もまだ2時20分でございますので,3時に十分間に合うかなと思っておるところでございます。

いずれにいたしましても,きょう御審議いただきましたものを著作権分科会の方に報告いたしまして,御了解いただくようにしたいと思います。どうもありがとうございました。

それでは,本日はこれで終わらせていただきます。今期の文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会を終了いたします。どうもありがとうございました。

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