2008年8月20日
文化審議会著作権分科会
法制問題小委員会 殿
独立行政法人 情報処理推進機構
文化審議会著作権分科会法制問題小委員会において審議されている,コンピュータ・プログラムのリバース・エンジニアリングの法的措置について,去る7月25日の上記小委員会第5回会合において,当機構から主に情報セキュリティの観点からの意見を申し述べましたが,その他の事項に関しても,以下に当機構の意見を申し述べます。
1.「革新的ソフトウェアの開発」について
- (1)著作権法は,表現を保護し,アイディアは保護しないという原則については,異論はないと考えております。しかしながら,アイディアを知覚した後にどのように使われるかが外部からは判別しがたいという背景があり,実質的に類似する模倣プログラムや対象プログラムと市場において競合するプログラムの開発により,著作権者の利益が不当に害される可能性があり,そのような可能性を低減・抑制するための合理的条件を如何に付すかが問題であります。
- (2)去る7月25日の法制問題小委員会第5回会合において,「革新的ソフトウェアの開発」と,模倣または競合プログラムの開発との区別が焦点になりましたが,当機構としては,「革新的ソフトウェアの開発」というのは,著作者の利益や創作に対するインセンティヴを不当に害さず,新しい別個の価値を創出することを目的として新たにプログラムを作成すること,と認識しています。模倣プログラムの開発は当然許されないことであり,また不当な競合プログラムの開発についても許容されるべきではないと考えます。
- (3)新しい別個の価値を創出することを目的として新たにプログラムを作成することは,文化の発展という著作権法の法目的にも合致するものであり,社会全体の技術の発展にも資することになります。「知的財産推進計画2008」における「革新的ソフトウェアの開発」がかかる意義で使用されているならば,そのための複製,翻案は許容されてしかるべきと考えます。米国著作権関連裁判においてフェアユースの認定の要素として審理されてきた,「変容的目的・使用」との整合性も図られるものと考えます。
2.法的措置の規定の考え方
(1)去る7月25日の上記小委員会第5回会合において,当機構から提出致しました資料の4ページにありますように,当機構としては,
- ●革新的なプログラムの研究開発(1.で説明した意味として),
- ●性能・機能の調査
- ●障害等の発見・保守/li>
- ●情報セキュリティ対策
- ●互換性の確保
- ●著作権侵害の調査・発見
といった目的でのリバース・エンジニアリングは認められるべきと考えます。
(2)リバース・エンジニアリングに関する権利制限規定の考え方としては,いくつかの方法が考えられますが,当機構としては,以下の規定方法が最も明快であると考えます。
リバース・エンジニアリングを許容する権利制限規定をおく。
その上で,但し書きとして,以下の目的のリバース・エンジニアリングはその限りではない,という規定をおく。
- ・デコンパイルしたコードを利用した模倣プログラム(海賊版)の開発
- ・デコンパイルしたコードを利用した不当に競合するプログラムの開発
- ・コンピュータ・ウイルス等,悪意ある目的のためのプログラムの開発
(このことにより,許容されない目的の抑制効果を高めることができると考えます。)
3.最後に
我が国では,コンピュータ・プログラムのリバース・エンジニアリングの是非の議論は,1980 年代から始まっております。欧米が互換性確保目的でのリバース・エンジニアリングを明示的に認めてから,相当の年月を経ております。米国著作権関連裁判においては,互換性確保目的だけではない,新しい価値を創出するための変容的目的・使用のためリバース・エンジニアリングも認められております。我が国として,上記の議論について決着すべき時期が来ていると考えます。また,現在のリバースの適法性の不明瞭な状態は,コンプライアンスの高い情報セキュリティ対策関係者に対しては委縮効果を有する一方で,コンプライアンス意識の全くない悪意を持った者にとっては,リバース天国を意味しています。著作権者と情報セキュリティ関係者が争っている場合ではなく,共通の相手に早急に対処しなければいけないと思料しております。
以上を勘案していただき,適切な法的措置を早急に講じていただくようお願い申し上げます。