議事録

文化審議会著作権分科会出版関連小委員会(第1回)

日時:
平成25年5月13日(月)
17:00~19:00
場所:
文部科学省旧庁舎6階 第二講堂
  1. 開会
  2. 議事
    1. (1)出版関連小委員会主査の選任等について
    2. (2)出版関連小委員会審議予定について
    3. (3)「出版者への権利付与等」について(関係者ヒアリング等)
    4. (4)その他
  3. 閉会

配布資料

議事内容

  1. 文化審議会著作権分科会出版関連小委員会委員を事務局より紹介した。
  2. 本小委員会の主査の選任が行われ,土肥委員が主査に決定した。
  3. 主査代理について,土肥主査より森田委員が主査代理に指名された。
  4. 会議の公開について運営規則等の確認が行われた。
  5. 以上については,「文化審議会著作権分科会の議事の公開について」(平成二十二年二月十五日文化審議会著作権分科会決定)1.(1)の規定に基づき,議事の内容を非公開とする。

【土肥主査】 本日は出版関連小委員会の1回目でございます。河村文化庁次長から,一言御挨拶(あいさつ)を賜りたいと存じます。
 なお,カメラ撮りにつきましては,河村次長の御挨拶(あいさつ)までとさせていただきますので,どうぞ御了承をお願いいたします。

【河村文化庁次長】 文化庁次長の河村でございます。文化審議会著作権分科会出版関連小委員会の開催に当たりまして,一言御挨拶(あいさつ)申し上げます。
 委員の皆様方におかれましては,大変御多用の中,出版関連小委員会の委員をお引き受けくださいまして,まことにありがとうございました。
 我が国の文化や知識を創造し,普及し,またこれを次世代に継承していくに当たり,出版は重要な役割を担い,我が国の活力ある社会の実現に寄与してきました。一方,今日のデジタル化・ネットワーク化の進展は,電子書籍等の普及とともに,インターネット上における出版物の違法コピーへの対策を迫るなど,出版界を取り巻く実情は日々,変化を見せているところでございます。
 出版物の流通と利活用の推進については,これまでも,委員の皆様方も含め,様々な場で検討がなされてまいりました。このような状況の中で,このたび,我が国の豊かな出版文化を支え,維持していくために,デジタル化・ネットワーク化の状況に対応した著作権法制度の在り方について,この著作権分科会出版関連小委員会において議論をするということは大変重要なことと考えております。本小委員会におかれては,著作者や出版者を初め,産業界,利用者などの幅広い関係者の合意が得られますように,いわば大同に向けて精力的に御検討いただければと存じます。
 委員の皆様方におかれましては,お忙しい中,大変恐縮でございますけれども,今後,一層の御協力をお願い申し上げまして,私の冒頭の挨拶(あいさつ)とさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

【土肥主査】 河村次長,どうもありがとうございました。
 次に,本小委員会の審議予定について,事務局から説明をお願いいたします。

【菊地著作権課課長補佐】 お手元の資料2を御覧いただければと思います。
 この資料2は,5月8日に開催されました著作権分科会において決定されました「小委員会の設置について」という資料でございます。5月8日の著作権分科会におきましては,文化審議会著作権分科会運営規則第3条第1項に基づきまして,出版関連小委員会,法制・基本問題小委員会,国際小委員会を著作権分科会に設置する旨が決定されております。
 出版関連小委員会における審議事項につきましては,2の(1)にありますように出版者への権利付与等に関することを審議することが求められてございます。
 このほか,4にございますように,小委員会における審議の結果につきましては,分科会の議を経た上で公表することとされてございます。
 本小委員会の今後の審議予定については,先ほど申し上げましたとおり,出版者への権利付与等について御審議いただくことを考えてございますが,本日,第1回の後,5月29日に第2回を開催することを考えております。その後,一月に2回程度のペースで開催,議論をお願いできればと,今,考えているところでございます。
 以上でございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ただいまの説明につきまして,御質問等ございましたら,お願いいたします。よろしゅうございますか。よろしゅうございますね。
 それでは,今,説明がございましたように,進行は日程的に若干厳しいかもしれませんけれども,どうぞよろしくお願い申し上げます。
 議事の3,「出版者への権利付与等」について(関係者ヒアリング等)に入ります。
 初めに,事務局より,これまでの経緯等を御説明いただきたいと存じます。その後で,出版者への権利付与等について具体的に提言を出されております吉村委員と金子委員より,提言の御説明を頂きたいと存じます。それから,本日は,一般社団法人日本印刷産業連合会,社団法人日本漫画家協会,一般社団法人日本書籍出版協会の3団体より,各団体それぞれ10分程度で御意見を頂戴(ちょうだい)したいと存じます。その後,まとめて質疑応答と意見の交換を行いたいと思っております。
 それでは,早速ですけれども,事務局から,出版者への権利付与等について,これまでの経緯について,御説明をお願いいたします。

【菊地著作権課課長補佐】 資料3と参考資料2から4までに基づきまして,これまでの経緯及び出版者への権利付与等として考えられる方策について説明をさせていただきたいと思います。
 まず,参考資料2を御覧ください。参考資料2は,平成22年6月28日に取りまとめられました「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会報告」についての概要でございます。ごく簡単に,関係するところのみ,御紹介させていただければと思います。
 スライドの右上についている番号で1とされているところ,1ページ目の下側を御覧ください。平成22年3月17日,デジタル・ネットワーク社会に対応した知の拡大再生産の実現や,我が国の豊かな出版文化の次代への着実な継承といった課題について検討するべく,広く関係者が集まり,デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会を,総務省,文部科学省,経済産業省の三省の合同により開催したところでございます。ワーキングチーム等における検討を経て,平成22年6月28日に懇談会報告が取りまとめられているところでございます。
 1枚おめくりいただきまして,スライド番号で2と書かれてあるところを御覧いただければと思います。懇談会報告の中では,ここで記載されておりますような具体的政策の方向性とアクションプランとして,8つの項目が並んでございます。このうち,3ポツとして「出版者への権利付与に関する検討」が記載されてございまして,具体的にはスライド番号3とされております箇所の更に下段の箱を御覧いただきたいのですが,デジタル・ネットワーク社会における出版者の機能の維持・発展の観点から,出版者に何らかの権利付与をすることについて,その可否を含め検討すること,また検討に当たっては,出版契約や流通過程に与える影響や各国の動向について更に検討を行うこととされてございます。
 次に,参考資料3を御覧いただければと思います。参考資料3は,先ほどの三省の懇談会を受け,文部科学省として検討すべき課題について検討を進めることを目的として平成22年11月に設置された電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議の報告の概要でございます。この報告は,平成23年12月に取りまとめられたものでございます。この検討会議においては,1枚目の中ほどにございますように,[1]から[3]までに記載されているようなことについて検討を行ったところでございます。
 最後のページを御覧ください。出版者への権利付与に関する事項についての検討でございますが,出版者から,「電子書籍の流通と利用の促進」と「出版物に係る権利侵害への対応」の2つの観点から,その必要性等が主張されていたところでございます。これを受け,この資料中の中ほどに記載されておりますようなそれぞれの観点から,出版者への権利付与等について検討が加えられたところでございます。その結果,種々,記載してございますが,一番下,電子書籍市場の動向を注視しつつ,国民各層にわたる幅広い立場からの意見を踏まえ,制度的対応も含めて,早急な対応を行うことが適当と整理されていたところでございます。
 参考資料4を御覧いただければと思います。参考資料4は,諸外国における出版者の権利等の扱いについて整理した資料でございます。アメリカ,イギリス,ドイツ,フランス,オーストラリア,これらの各国の情報につきましては,先ほど参考資料2で御紹介いたしました三省の懇談会報告において,出版者に何らかの権利付与をすることについての検討に当たっては,出版契約や各国の動向について調査・分析することとされてございましたので,それを受けて,文化庁において平成22年度に委託事業として取りまとめたものをもとにしてございます。各国の詳細の説明については省略させていただきたく思っておりますが,この参考資料4とあわせまして,各委員のお手元に報告書の本体を置かせていただいておりますので,必要に応じて御参照いただければと思っております。
 そして,最後に資料3を御覧いただければと思います。資料3につきましては,先ほどの三省の懇談会や文部科学省の検討会での検討の後に,「出版者への権利付与等」として考えられる方策として,関係者や有識者から私どもがお聞きしたり,また研究を行ったりしたところの内容,あるいは関係各所において検討され,発表された内容を類型化して整理させていただいたものでございます。
 それぞれの内容について,少しお時間を頂いて御説明させていただきたく考えておりますが,あらかじめお断りさせていただきたく思っておりますのは,それぞれ(A)から(D)に記載しております【内容】であるとか【権利者】,【権利の対象】につきましては,おおよそこういうことが考えられるのではないかといったものを記載してございますが,それぞれの詳細につきましては,今後の本小委員会における議論において御検討いただくべきものと考えておりますので,そういったものとしてお聞きいただければと思っております。
 まず,(A)は著作隣接権の創設でございまして,昨年11月8日付けで印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会において公表されております「『出版物に係る権利』に関する検討の現状について」という資料を参考とさせていただいております。その内容につきましては,著作権者とは別に独立して,第三者に利用許諾を与えたり,侵害者に差止請求等を行うことができる新たな権利である著作隣接権これは,自動的に権利が発生するものでございますが,これを出版者に付与する制度改正を行うというものでございます。権利者となりますのは出版物等原版を作成した者であり,権利の対象となるのは出版物等原版でございます。この出版物等原版とは,資料中に括弧書きとして記載しておりますようなものが想定されてございます。
 次に,(B)電子書籍に対応した出版権の整備についてでございます。こちらは現行著作権法に規定されております出版権を見直す方策と考えることができると思っておりまして,その内容といたしましては,出版者と著作権者との契約により権利が発生する「出版権」は,自己の名において侵害者に差止請求等を行うことかできるが,現行の出版権が電子書籍を対象としていないため,電子書籍を対象とした場合についても同様の権利が認められるようにするなどの制度改正を行うとするものでございます。権利者となりますのは著作権者と設定契約を締結した者であり,権利の対象となりますのは設定契約の対象となった著作物であろうと考えられます。ただし,(B)につきまして,更に具体的にどのような制度改正が考えられるかにつきましては,この後,意見発表があると思いますが,幾つかの方策が考えられると考えているところでございます。
 次に,(C)訴権の付与(独占的ライセンシーへの差止請求権の付与の制度化)についてでございます。これは,著作権者から独占的利用許諾を受けた者が,侵害者に対し差止請求等を行うことができる制度改正を行うというものでございます。権利者となりますのは,著作権者から独占的利用許諾を受けた者,言いかえますと独占的ライセンシーでございまして,権利の対象となるのは利用許諾された著作物になろうかと思います。
 最後に,(D)契約による対応でございます。これは,著作権者と出版者との譲渡契約等により,侵害者に対し出版者が差止請求等を行うことができることから,このような契約を普及させるというものでございます。この場合,権利者となりますのは著作権者から権利を譲り受けた者,権利の対象となるのは著作権譲渡された著作物になろうかと思います。
 以上,駆け足で,かつ長くなりまして申し訳ございませんでしたが,これまでの経緯と,「出版者への権利付与等」に関する方策として考えられるものについて説明させていただきました。
 以上でございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。事務局から,これまでの経緯について説明を頂いたところでございます。
 次に,吉村委員から,提言されておられます内容について,御説明をお願いいたします。

【吉村委員】 経団連の吉村でございます。今日は,このような説明の機会を与えていただきまして,どうもありがとうございます。
 お手元の資料4に配っていただいておりますけれども,経団連では,電子書籍ビジネスを発展させたいという思いから,2月19日に「電子書籍の流通と利用の促進に資する『電子出版権』の新設を求める」という提言を取りまとめさせていただいたところでございます。2月というこの提言を公表したころは,出版者への著作隣接権の付与を議員立法で早急に実現すべきだという動きが非常に強かったという認識でおりまして,経団連といたしましては,こうした考え方あるいは進め方につきまして強い懸念を表明する必要があるとの思いとともに,それにかわる建設的な代替案を提案する必要があるという認識から,このような提言をつくらせていただいたということでございます。その後,状況もいろいろ変化がありましたので,この提言の中で言及していることは若干,陳腐化しているところもあるのかもしれませんけれども,そういったところは極力外した形で,この提言の趣旨を簡単に御説明させていただきたいと思っております。
 まず1ページです。提言では,電子書籍ビジネスというものが我が国において普及しつつあること,今後の発展に向けては,インターネット上で、多数出回っている違法な電子書籍への対応が課題となっているという基本的な認識を示しております。
 次に,2ページ目を御覧いただきたいと思います。現行著作権法上,インターネット上の違法な電子書籍に対しては,著作権者である作家個々人が権利を行使することになっておりますけれども,事実上,困難あるかと思います。また,著作権法は著作権者との契約によって出版者に違法な出版物を差しとめる権利を与えておりますけれども,この権利が紙媒体のものに限られていて,ネット上の違法な電子書籍に対してはそうした権利がないので,経団連としては,「電子出版権」といったものを創設することを提言することにしたということでございます。
 この「電子出版権」の内容は,3ページの要件のところに4つ書かせていただいております。余り詳しく御説明する時間はないと思いますけれども,(1)として,「電子書籍を発行する者に対して付与される」。要は,既存の出版者に限定せずに,電子書籍を発行する者に与えることによって、新規参入を促進できます。
 (2)「著作権者との『電子出版権設定契約』の締結により発生する」。電子書籍を発行する者と著作権者との契約によって発生する権利にするもので,著作権者の意向が尊重されるということです。
 (3)「著作物をデジタル的に複製して自動公衆送信する権利を専有させ,その効果として差止請求権を有することを可能とする」。デジタル複製とネット配信に関する権利を持つことによって,ネット上の違法な電子書籍に対する有効な対策になるのではないかと思っております。
 4つ目としては,サブライセンスを可能にすることも提案しています。
 4ページを御覧いただきたいと思います。こうした「電子出版権」を我々としては提案しておりますが,いずれにしても2月の段階では,文化庁においてまずは座敷を開いていただいて,多様なステークホルダーでしっかりと議論することが必要だと強く思っておりましたので,その旨を,書かせていただきました。そういう意味では,本日,このようにしてそのための第一歩となる会合が開かれたことは,極めて有意義なことであると考えております。あとは,まさに今後,速やかに結論を得ることが必要であると思っておりまして,私自身もこのように委員に加えていただきましたので,微力ながら,そういったことに寄与していきたいと思っているところでございます。
 簡単ですけれども,説明としては以上でございます。

【土肥主査】 吉村委員,どうもありがとうございました。
 続きまして,金子委員から,やはり同様に御提言についての説明を頂戴(ちょうだい)したいと存じます。よろしくお願いいたします。

【金子委員】 明治大学の金子でございます。資料5「出版者の権利の在り方に関する提言」に基づいて説明させていただきます。この資料はかなり簡潔なものとなっておりますので,今回の説明では,少し長くなりますが,15分ほど説明をさせていただきたいと思います。
 この提言は,2013年4月4日に中山信弘明治大学特任教授を代表者とする6人の提言として公表されるとともに,同日の第7回印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会,いわゆる中川勉強会において,当勉強会の方針としても採用されたものであります。私は,中川勉強会の構成員ではなく,またこの提言をした6人の中でも末席の一人でしかありません。以下の説明では,飽くまでそのような立場から説明するものであることを,あらかじめ御了承ください。
 出版者の権利をめぐっては,著作隣接権としての出版物に係る権利を創設するとの案が中川勉強会から昨年,公表され,また経団連からは,先ほど御説明のとおり,隣接権ではなく電子出版権を創設すべきとの政策提言がされております。我々6人の提言は,隣接権案と経団連案,そしてこれらの議論状況の対立を踏まえつつ,著作者,出版者はもちろん,利用者,エンドユーザーとしての読者も当然に含まれます多くの関係者の方々の賛同が得られることを願ってまとめたものであります。6人の間では,かなり細部に至る議論もありましたが,提言としては,あえてこのシンプルな形としています。
 他方で,我々の提言には,もう一つの願いが込められております。それは,この出版者の権利をめぐる制度設計が,関係者の利害調整や海賊版対策の手段となることのみならず,ナショナル・アーカイブなどデジタル時代の著作物・出版物の流通,利用の新たな仕組み,新たなスキームに向けた第一歩となることを願ったものであります。この点は,特に提言[4]の登録に関係しております。
 我々の提言の要点は,「デジタル時代に対応すべく,現行出版権の拡張・再構成を文化審議会で検討する」とのものであります。こうして文化審議会で我々の提言について説明させていただく機会を得ましたことを,大変光栄に思います。
 内容の面では,隣接権の創設ではなく,現行出版権の拡張・再構成によるべきという点は経団連案と近似するものです。隣接権案の問題点としては,出版に伴い自動的に権利が発生し,著作権との権利の分散化を招きやすいこと,また隣接権の原始的な帰属主体が誰(だれ)となるのかが不明確であることなどがあります。もちろん,出版権の拡張についても,特約で様々な内容の出版権が設定されますと,権利関係が複雑となる可能性はあります。しかし,出版権の設定は飽くまで著作権者の意思に基づき,また後述する対抗要件としての登録が適切に運用されれば,権利関係の複雑化による利用の困難の問題は,自動的に発生する隣接権よりもはるかに小さいものとなります。そこで,隣接権ではなく,著作権者がその意思に基づいて設定をする現行法の出版権を,デジタル時代に対応した内容へと拡大・再構成すべきことを提言したものであります。
 他方で,経団連の案と我々の提案には,主に3つの相違点があります。
 第1の相違点は,経団連案は,現行法の紙媒体を対象とする出版権とは別に,新しく電子出版権を創設すべきとの内容です。これに対し,我々の提案は,紙と電子とで別々の出版権とするのではなく,現行法の出版権に関する規定を電子出版などをも含む内容に拡張する形での法改正を行うべきことを提言しております。これは,提言[1]に対応いたします。
 なお,御注意いただきたいのは,この拡張というのは,現行法のもとで設定された出版権が当然に電子出版に対しても効力が及ぶようにすべきとの趣旨ではありません。既存の作品についても,法改正後の合意によって拡張された出版権を設定できるとの趣旨であります。また,飽くまで原則としては出版,電子出版を一体として扱うものであり,著作権者が特約により紙だけの出版権,電子だけの出版権と効力を限定して設定することは可能であり,またそれぞれを別人に設定することも可能と考えております。権利の種類は一本化して分散を避けつつ,当事者が特約で合意をすれば,紙だけ,電子だけという設定も可能にするとの趣旨であります。
 提言[2]の出版権者による再許諾可能を原則とする点は,電子出版に関しては経団連案と同じですが,紙媒体も同様となる点で相違します。ただ,これも,特約によって再許諾には著作権者の同意を必要とすることも,当然,可能であります。
 第2の相違点は,提言[3]に関する部分です。現行法の出版権は,80条により,頒布の目的での複製行為を対象としており,頒布目的のない複製行為,例えば企業内複製などは権利の対象とはなっておりません。この点につき,我々の提言[3]は,当事者の特約により,権利の対象を特定の版面あるいは版に限定した上で,頒布の目的を欠き,例えば企業内複製などの出版,電子出版とは言えない利用についても出版権の効力を及ぼすことができるようにすべきだというものであります。
 この「特定の版面」という言葉は,我々もどういう言葉を用いるべきか悩んでいるところですが,「版」と言った方がよろしかったかもしれません。典型的にイメージしていますのは,雑誌に掲載された小説の版と単行本に掲載された版という形であります。ただ,電子的な版であっても,ファイル形式等で特定可能なものであれば含むものと考えております。
 具体例で説明させていただきます。仮に我々の提言どおりに法改正がされたことを前提として,著作者であるXが小説αを執筆し,雑誌βに掲載したとします。そして,著作者Xは,出版社の可能性が高いですが,出版社以外のものもなり得るYに対して出版権を設定したとします。著作者をX,出版権者をYとし,小説αを雑誌βに掲載したものについて出版権を設定したという事例であります。
 Yの出版権に何の特約もついていなかった場合であっても,雑誌βからスキャンした小説αをアップロードする行為や,小説αを単行本として別の版で出版する行為は,Yの出版権の侵害となります。これは,[1]から,そのようになるということであります。
 しかし,雑誌βに掲載された小説αをコピーして企業内で複製などする行為については,Xの有する著作権の侵害とはなっても,Yの有する出版権の侵害とはなりません。頒布の目的を欠くからであります。
 これに対し,Yの出版権が雑誌βに掲載した版に限定して[3]の特約が付された内容である場合,雑誌βに掲載された小説αをその版のまま企業内で複製する行為については,Yの3の特約付きの出版権の侵害となります。
 他方で,雑誌βに掲載された小説αを,手打ちで版を維持せずテキストファイルにコピーする行為は,[3]の特約があってもYの出版権の侵害とはならないことになります。特定の版以外での利用となるからであります。また,小説αを映画化するような行為についても,これは版での利用とも出版,電子出版とも言えず,およそ出版権の侵害とはならないことになります。
 なお,[3]の特約と[1]との関係については,アドオン型と選択型との2つの考え方があり得ると考えております。アドオン型と申しますのは,[1]の出版権の内容を前提として,特約により[3]にまで拡張できるというものであります。選択型は,[3]の効力だけの出版権を特定の版の利用に限定して設定できるというものであります。選択型の場合,例えば著作権者Xは,Yに対し小説αの利用について雑誌βの版での利用に限定して出版権を設定し,他方で別の出版社Zに対して単行本γの版での利用に限定して出版権をそれぞれ設定するということが可能となります。このアドオン型と選択型については,6人の間での議論では両論あり得るということで,どちらがよいのかについては審議会で議論していただくことが適切であろうとのことでした。
 なお,特に御留意いただきたい点として,この提言[3]は,著作物ではない版面について権利を拡張するものではありません。非著作物や保護期間が満了した著作物は,この提言により拡張された出版権が設定されることはあり得ません。版は出版権の範囲を限定する概念であって,版を誰(だれ)が作成したかは,我々の提言では法律上,全く重要ではありません。
 この[3]を提言の内容とした理由は,一つには,これまでの出版者の権利をめぐる議論からすると,企業内複製やイントラネットなどでの利用について,出版者等が利用許諾の窓口となることを著作権者が望む場合などに,著作権者が特約によりこのような権利を設定可能とすることが望ましいと考えたことにあります。[3]に関する提言は,[2]の再許諾の権限や[4]の登録制度とあわせて,むしろ企業や研究,教育の現場でのデジタル利用の許諾が促進されることを意図して提言したものであります。
 ともあれ,我々の提言においては,結局のところ,出版者がどのような権利を有するのかは著作権者との契約,特約による部分が非常に大きいことになります。各作品,流通形態ごとに出版をめぐる実態は様々であり,当事者のニーズに合わせて出版権の内容も特約によって規定されることが望ましいと考えております。
 経団連案との第3の相違点は,提言[4]の登録に関する部分です。現行著作権法88条により,出版権の設定は,著作権の譲渡と同様,登録が対抗要件とされております。そのため,著作権者から許諾を得ていない海賊版に対する権利行使では出版権者も登録なしで権利を行使することが可能ですが,後から著作権者の許諾を得て利用する者に対する権利行使,いわゆるクリームスキミングや中抜き対策として出版権を行使したいと考える場合には,対抗要件としての登録をすることが不可欠であります。しかしながら,現行の出版権の登録の手続は煩雑であり,登録免許税も1件3万円と高額であり,また理論的にも,著作物をどうやって特定するのかなどの問題があります。
 そこで,我々の提言では,[4]として対抗要件としての登録制度の拡充を提言しております。具体的な内容としては,まず国立国会図書館などの書誌情報とのリンクが挙げられます。もちろん,書誌情報によって著作物を特定すること自体は法改正なしでも可能となる部分もありますが,更に書誌情報と出版権登録原簿等の権利情報のデータベースを連携させることが望ましいと考えております。また,登録原簿は既に電子化されておりますが,更にオンラインでの登録申請を可能とすることで登録手続の簡素化を図っていただきたいと思います。一つの理想的な形としては,出版者などから書誌情報が提供される際に,あわせて権利情報も提供され,登録原簿にも機械的に反映される。更に,その際に電子データを納本すれば,登録免許税が大幅に減免,免除されるようなシステムが構築されることが望ましいと考えております。
 登録の法的な効果は,先ほど申しましたように対抗要件の具備となりますが,我々が期待しているのは,事実上の効果としての利用許諾の権限の公示の点です。サブライセンスの可能化とあわせて対抗要件としての登録がされることで,利用許諾権限の所在が公示され,著作物・出版物の利用を望む第三者の探索,取引コストが軽減されるとの効果が考えられます。特に,前述した[3]の特約と合わせることで,出版物単位での企業内複製,著作権法35条の範囲を超える教材利用などについて,利用許諾の窓口としての出版権者がデータベースで公示され,将来的には機械的な利用許諾と利用料分配のシステムへとつながるものとなると考えております。
 この点が,冒頭に述べたナショナル・アーカイブなどの実現に向けた第一歩という意味であり,我々がこの提言をまとめるに際して最も望んでいたことであります。国立国会図書館等のアーカイブにコンテンツをデータとして保存するだけではなく,権利情報もあわせて集積し,権利者が望む場合には商業利用においてもデータを利用可能とするようなシステムの実現に向けて,書誌情報と権利情報とを結びつけるべきとの提言をしております。
 もちろん,登録に関するシステムの整備や書誌情報データベース等とのリンクはすぐに実現できるものではなく,この委員会の期限内で結論を出すことは難しいかもしれません。ただ,そのような場合であっても,登録制度の拡充に向けた検討を今後,進め,数年のうちにはきちんと整備するとの方向性が示されることが望ましいと感じております。
 以上,長くなりましたが,説明を終わります。

【土肥主査】 金子委員,どうもありがとうございました。
 それでは,更に続いて団体からのヒアリングに入りたいと存じます。
 まずは,ヒアリングに御出席の方を紹介させていただきます。
 まず,社団法人日本漫画家協会の千葉洋嗣様。
 それから,幸森軍也様。
 一般社団法人日本書籍出版協会の恩穂井和憲様。
 それでは,一般社団法人日本印刷産業連合会,山川委員,よろしくお願いいたします。

【山川委員】 日本印刷産業連合会の山川でございます。今日は,発言の場を頂きまして,まことにありがとうございます。
 資料6に基づきまして,簡単に説明させていただきます。資料6の表は昨年12月17日に私どもがホームページで公開したものでございまして,裏面は今年3月1日に公表したものでございます。
 最初に,表面から,若干,背景の方も説明させていただきますと,12月17日のころ,昨年11月に中川勉強会から,隣接権を中心とした議員立法の方向でいろいろ話が進んできたところでございました。印刷業界としましては,昔からデジタル・ネットワーク社会におけるいろんな議論について参加してまいりまして,最初のころにお話があった三省懇を初め,いろんな研究会等に業界として参加してまいりました。また,今回の隣接権等の話につきましても,中川勉強会に参加されている出版者の方々とも9月,11月と意見交換させていただきましたし,その後も意見交換を続けさせていただいております。そして,基本的には,この目的とされておりました海賊版の対策と出版物の利活用の促進という目的自体には非常に賛同するところなんでございますが,その方策,隣接権の付与というやり方については賛成しかねるというところで,こういった意見表明をさせていただいたわけでございます。
 その辺の隣接権への反対の理由と申しますのは,先ほども経団連から隣接権の弊害の御説明があったところと同じようなところでございます。また,印刷業界におきましては,出版者との間で,先ほど出ておりますような出版物等原版ですか,原版の取扱いについて,保管や提供など,いろんな議論もあるところでございますので,出版物等原版に関する法改正がされますと,その辺の取扱いや帰属がいろいろ変わったりするんじゃないかといった懸念を持っておりまして,そういった意味で出版物等原版を対象とした隣接権付与に反対させていただいた状況がございます。
 一方,海賊版の対策ですとか,いろんな利活用の促進が必要なことがございますので,それにつきましては経団連あるいは中川勉強会と同じようなところでございますが,基本的には電子書籍について出版権を付与できるような方向で改正していただければ,少なくとも海賊版に対しては対応できるのではないかと考えまして,12月の段階でそのような意見表明をさせていただきました。もちろん,その詳細につきましては,広くこういった場におきまして皆さんの知恵を集約して対策法案をつくっていくのがよろしいのではないかと考えておりました。
 続きまして,裏面の3月の段階では,経団連から,電子出版権の創設という形で電子書籍についても出版権を付与できる形の提案がなされましたので,印刷産業連合会としましても,その意見に賛同させていただいた次第でございます。
 簡単でございますが,印刷産業連合会の意見は以上でございます。

【土肥主査】 山川さん,どうもありがとうございました。
 続きまして,社団法人日本漫画家協会,ちばてつや委員,千葉洋嗣委員,幸森軍也様,どうぞよろしくお願いいたします。

【ちば委員】 御紹介いただきました,ちばてつやです。漫画家の代表として,これまで著作隣接権,原版権などについて発言する機会がちょっと少なかったので,今回の委員会に呼んでいただき,感謝であります。
 出版物にかかわる権利を話し合う上で,まずは漫画家としての意見をお話しさせていただきます。
 著作権者とひとくくりにされがちですが,漫画家が制作する原稿というものは,文芸作家の方々と違って,本を通じて読者が目にする形そのものです。ですから,著作隣接権や原版権など,原稿の図案にまで権利を分け合うということになりかねない出版者の提案には,どうしても乗ることができないんです。この立場の違いは,是非とも御理解いただきたいところです。
 では,それを踏まえた上で,どのような権利を検討することが可能なのでしょうか。
 経団連あるいは中川勉強会より御提案いただいている,いわゆる出版権の拡大という考え方は,先ほどお話しした著作隣接権などに比べ,出版者,著作者双方の了解の上での契約を交わすことが前提なので,その内容を話し合う余地はあると思います。ただ,そうであれば,なぜ現状のままでは不都合なのかという点について,出版者の方々から合理的な理由を伺う必要があります。権利の拡大というからには,今まで以上に出版者の権利が認められ,その立場を強くするということだからです。この出版物にかかわる権利が認められることは,我々著作者にとっても,ひいては利用者,漫画を愛してくれる読者の方々にとっても意義のあることだと説明ができるような形を目指してほしいと思います。
 簡単ですが,以上が私の考えですが,各論や詳細については,漫画家協会の著作権部の事務局の人よりもお話ししていただきます。よろしくお願いします。

【幸森氏】 日本漫画協会の幸森と申します。漫画創作者の意見を述べる機会を与えていただいて,お礼を申し上げます。今までの中川勉強会,中山先生の提言などで誤解と理解不足があるかもしれませんけれども,このような懸念を持っているということで,この場で全(すべ)てを解決できるとは思いませんけれども,とりあえず述べさせていただきたいと思います。
 出版権の拡大によって出版社が運用する権利が増えることになるわけですけれども,実は出版社というのは編集出版業務が主で,その他の利用については実績や経験も多くないと考えております。利用範囲が拡大する場合,契約をつかさどる法務部というものも含めて,そういうその他利用に従事する人員の確保は本当に可能なんでしょうかというところに非常に疑問を感じます。大手出版社でも,法務という部署は十数人程度で,しかも専門家でない方もいらっしゃったりします。中小企業の出版社だと,そこまで本当に人員が割けるんでしょうかと懸念しています。
 拡大して権利を獲得した上で,そういう拡大部分に従事する社員が増えない場合に,結局,塩漬けという形が起こってくるわけですから,期日を指定しない利用権の獲得というのはやめていただき,利用獲得と同時に利用の義務も課さなければ,権利の奪取だけに終わってしまうのではないでしょうか。
 これまで出版社と漫画著作者との間で合意した標準契約書というのはありません。出版権の拡大をしていく上において,そういうものを早急につくっていく必要があると思います。と申しますのは,漫画家は漫画の専門家であって,法律家ではありませんので,複雑な内容の契約書というのは,出版社から提案されてもなかなか理解ができるものではありません。先ほどちば先生からもお話がありましたけれども,現状でそれほど大きな問題が発生していないことを考えると,出版権の拡大に付随して新たに発生する中山提言にあるような権利というのは,特約にする,特約にしない,デフォルトではこうなるということはあるんですけれども,新しく発生する権利は全(すべ)て特約にしていただかないと,なかなか理解ができないのではないでしょうか。例えば中山提言では,電子配信のサブライセンスは特約なしで可となっていますけれども,これは現状とは異なるわけで,特約で可とするべきだと考えております。
 電子出版権については,先ほどもお話しましたようにサブライセンスを可とする中山提言ですけれども,サブライセンスというのは,ライセンシーが別途事業者にライセンスをするということであって,この場合,本来,電子配信をしていない出版社は,サブライセンス権を持つのは不自然ではないでしょうか。形だけの配信ではなくて,主体として配信した上でないとサブライセンスとは言わないのではないでしょうか。配信をしない出版社が別の事業者にライセンスする場合は,一般的には仲介若しくは著作者の代理業というふうに明確に区別をしてほしいと思います。
 それから,サブライセンスをしていく場合,オリジナルなライセンスを超えるサブライセンスの契約期間が発生する可能性があると思いますけれども,その場合は,著作者が混乱をいたしますので,その辺のリスクヘッジをちょっと考えていただきたいなと思います。
 また,電子化されたときに,変換されたデジタル原稿や配信ファイルの所有権というものを明確にしていただきたいと考えています。ソフトウエアの著作物は,多くの場合はデータ所有者も著作権者も両方,同じ人であったりしますので,データ等の所有権は出版社が持つ,あるいは配信会社が持つというようなことにはならないようにお願いしたいと思います。
 電子書籍のユーザー,閲覧者は,データを購入するのではなくて,使用権あるいは閲覧権を購入というふうに定義していっていただきたいと思います。
 最後に,中山提言のナショナル・アーカイブについては,必要性は十分に認めますけれども,漫画の場合というのはかなり困難で,越えるべきハードルが高いように思います。といいますのは,漫画はJASRACのような報酬請求権で成立しているわけではなくて,カットの使用とか映像化,商品化,多くの場合は監修作業が伴われ,作者人格権侵害が起こらないようにすることが必要なことがよくあります。また,使用金額に関しても度々交渉が行われており,一定ではありません。可能性は,どなたかが推進されている蔵書の電子化のような,ごく一部のケースに限られるのではないでしょうか。
 というようなところです。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それでは,最後になりますけれども,一般社団法人日本書籍出版協会堀内委員,恩穂井様,よろしくお願いします。

【堀内委員】 堀内でございます。この小委員会で出版者の権利付与が皆様方の間で議論されることを歓迎いたします。また,本日,発言の機会を与えていただきまして,ありがとうございます。
 まず,出版者への権利付与の必要性について述べさせていただきます。
 日本は,多様多彩な出版物を安価に提供するという,世界にも例を見ない豊かな出版文化を築いてきました。出版界は,著作権者の利益を確保しつつ,新たな作品,新たな書き手のためのコストを含めた環境,つまり知の再生産を準備し,印刷,取次,書店等の関連業界と共同して創造のサイクルを構築,維持してきました。日本の出版界は,この豊かな出版文化に長年,大きく寄与してきたと自負するものでありますが,この創造のサイクルはまた,民業と法制度の極めて微妙なバランスのもとに維持されてきたものです。
 これに対してインターネット,デジタル化技術の高度な発達は,電子書籍ビジネスの基盤を準備すると同時に,それに先行して紙の出版物のコピー,データ化,公衆送信を含む送信を,安価な機器の普及も相まって個人レベルでも可能にしてきました。
 その一方,後述するとおり,インターネット上には,無許諾の出版物の複製データが氾濫(はんらん)しています。デジタル化された書籍は,御説明するまでもなく,ネット上で無償で読めれば紙の本を買う必要はないという高いレベルも実現しています。このことは,著作権者にとっても,出版界あるいは出版関連業界の全(すべ)てのものにとっても,2つの意味で多大な損失をもたらしております。
 1つは,もちろん本来,書籍が買われていれば得られたはずの利益の損失であり,いま一つは,可能性として電子書籍が開拓していたはずの市場の損失です。現状は,著作権者,出版者の存立基盤ばかりか,知の再生産,創造のサイクルの存続そのものが危うくなっていると言わざるを得ません。にもかかわらず,氾濫(はんらん)するインターネット上の侵害に対して,制度上,予定されているのは著作権者御本人による対応のみで,出版者は対応する法的根拠を持ちません。
 しかし,著作権者御本人が対応するには,物理的にもコスト的にも,もはや不可能な状態であることは御理解いただけると思います。また,出版者が電子書籍ビジネスに参入するに当たり,やはり法的根拠を持たないために,市場を失うばかりでなく,外資系の巨大プラットホームとの交渉においても,出版者はもとより著作権者の方々にとっても不利な条件を強いられております。彼らが要求するのは,これまでの出版慣習における信用ではなく,契約当事者としての法的根拠であるからです。著作物を利用するだけなら現在のライセンス契約でも可能でしょうが,電子書籍ビジネスは,ただ許諾を得て著作物を電子化し,アップロードするだけで成立するほど単純ではありません。著作権者の方々の利益を十分に確保しつつ,創造のサイクルを維持するためには,紙と電子のシームレスな投資を想定した,つまり紙と電子を一体化した権利,すなわち出版者の権利が制度上も保証されることが必要であると考えます。
 資料7でお配りしてあります「インターネットにおける出版物の侵害状況について」は,後ほど御覧いただければと思いますけれども,この中でポイントだけ簡単に御説明しますと,インターネット上や世界中のサーバに不正にアップロードされている出版物を全(すべ)て把握することは,もはや不可能です。私がおります集英社という会社の極めて限定的な条件での1つの例でございますけれども,弊社はAttributor社という米国の検索・削除システム専門の会社と契約をして,コミックスの18タイトルについて不正なデータの検索・削除作業を委託しておりますが,ここ1年ぐらいの平均で月8,500件の削除要請を行っています。また,弊社のスタッフが月に平均4,000件から5,000件,合わせまして1万2,000件から1万4,000件の不正ファイルの削除を要請しているというのが今の実情でございます。
 これはあくまでも不正なファイルのタイトル数で,1タイトル何回,閲覧しているかまではカウントできません。これを掛けると相当膨大な数の閲覧が想定されます。若干古いデータですけれども,YouTubeで「スライドショー」と称する漫画の不正投稿が大流行(おおはやり)していた2010年の例で,『ONE PIECE』という作品は,575話のファイルだけで101本不正に投稿され,そのうち,最も再生回数が多かったものは1ファイルで100万回を超えておりました。また,Winny,Share,PerfectDarkなどのファイル共有ソフトによる不正ファイルの流通も,最盛期から3~5割近く減ったといわれる現在でも,依然として膨大な量が流通しております。
 資料7を,ちょっと詳細に御覧いただければと思います。書籍出版協会としては,出版者の権利の在り方に関する提言,いわゆる中山提案を支持したいと思います。著作権者の信任のもと,紙と電子を実質的には一体の出版活動と捉(とら)え,出版者が氾濫(はんらん)する出版物の侵害に主体的に対処し,積極的に電子書籍市場を開拓するための法的根拠を付与するものであるからです。現在の紙と電子の出版にかかわる諸問題が一挙に解決するような打ち出の小づちがあるわけでないことは認識しておりますが,今回の権利付与によって,単に権利侵害への対策にとどまらず,電子書籍ビジネスにおいても,出版者が主体的にビジネスを推進する法的根拠を獲得することにより,著作権者の権利と利益を守りつつ,日本の豊かな出版文化,すなわち創造のサイクルを維持していくための,これは制度的な第一歩になるものと思っております。
 御提言の骨子である著作権者との契約を前提とした印刷・電子出版,それぞれについて設定可能な出版権及び現行出版権も含めた再許諾を可能にする点,また設定出版権制度を実効性のあるものにするための登録制度の整備は必要不可欠と考えます。あわせて,現在のインターネット侵害の大多数が紙の出版物の紙面の複製に基づいており,たとえ出版権を電子書籍に拡張したとしても,頒布のための複製に当たらない侵害態様が数多く存在することを考えれば,紙面の複製に限定した設定出版権も,侵害対策の実効性を担保するためには非常に重要なオプションであると考えます。この出版者の権利が全(すべ)て著作権者との契約に基づく権利であり,この権利付与が実現した暁には,出版者は著作権者の方々の信任を得る存在でなければならないという重い責任を引き受ける覚悟でおります。
 以上でございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。それでは,本日,御意見を伺う方々は。

【堀内委員】 少し時間があるので,ちょっと補足の発言よろしいでしょうか。

【土肥主査】 お願いします。

【野間委員】 講談社の野間でございます。堀内さんの御意見に補足を幾つかさせていただきます。3点ほど短時間で述べさせていただきます。
 まず1つ目,海賊版の侵害行為に関して補足をしますと,集英社とは若干データのとり方が違うので数字が異なるのですけれども,我々の調査でも,侵害行為の取消し要請,削除要請というのは,1年前と比べまして件数が10倍に増えてきています。一昨年の10月のデータでは,アメリカの某違法サイトで講談社の作品のページビューが月間で1億4,000ページビューありました。同じく集英社も1億4,000万ページビューぐらい違法の閲覧をされておりまして,小学館も含めて,恐らく日本で一,二を争う(コンテンツを)侵害されている出版社じゃないかなと思っております。
 一方で,国として現在,クールジャパン戦略,知的財産戦略本部を経産省をはじめ進めていらっしゃいますけれども,漫画が非常に重要なコンテンツと位置づけられています。私どもは国内出版社のなかで出版点数は恐らく日本で一番多いのですけれども,違法行為のほとんどが漫画になってきています。是非そういったことを御理解いただきまして,侵害・違法行為に対して我々が主体的に対応できる権利を頂きたいと考えております。
 もう一点,堀内さんがおっしゃいましたように,侵害行為の多くが紙のものをスキャンしたものであるということで,これは実例なのですけれども,『週刊少年マガジン』は毎週(水)に発売されますが,既にその5日前に発売前の作品が海外の違法サイトにアップされているという状況がございまして,これは集英社の『少年ジャンプ』も同じような状況です。この週刊少年マガジンについてはまだ我々は電子版を出していませんので,紙の段階でスキャンされたものが出回っているという状況でございます。
 一方で,講談社では今,紙の出版物,書籍ですけれども,ほぼ7割を毎月,紙と電子同時刊行しておりまして,そういった意味では,侵害対策面においても,ビジネスを行っていく上でも,紙と電子はほぼ一体として考えなければいけないということで,権利の面においても,紙の権利,電子の権利をどううまく対応させてビジネスを進めていくか,どう侵害から守っていくということをやっていくのかを是非考えていただきたいと思っております。
 最後に,先ほど金子委員からありました[3]の話ともつながるのですけれども,今,『少年マガジン』が毎週スキャンされて違法行為で載せられる、アップロードされるというのも,連載作品の1話単位が載せられるんですね。そういったものに対して,我々はどう権利を主張できるのか。そこを権利設定できて,それに対する訴権ですとか,そういったものを頂かないと,実は紙のものをスキャンされて電子として違法に流されているのが,単行本や出版されたものでないと対応できないということになりますと全く意味をなさない。本日はちば先生がいらっしゃいますけれども,『あしたのジョー』の1話分などが仮にたくさん海賊版に出ていたというときに,「1巻分だったら訴えられますよ。でも,1話分では設定できないので駄目ですよ」と言われてしまうと何の対応もできなくなってしまいますので,[3]のところにつきましても,是非考慮していただきたいと思っております。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 本日,各団体から,そのお考えのところの御意見を頂戴(ちょうだい)いたしました。我々委員全体においても,こうした本日,御説明のあったところについて,更に認識を共有してまいりたいと存じますので,御質問,御意見ございましたら,どうぞ御自由にお出しいただければと存じます。前田委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】 金子委員にお尋ねさせていただきたいんですけれども,まず1で別人に設定することが可能という御説明を頂いたかと思うんですが,別人に設定した場合には,権利の数としては2個になって,設定期間はそれぞれになるということになると思うのです。別人ではなく同一人物に対して,まず紙の印刷の出版権を設定しました,その後,時間を置いて電子出版の出版権を設定しましたという場合に,その2つは同一の設定期間になるのか,それともそれはそれぞれの期間になるのかという点は,いかがでしょうか。それと同じことの裏返しのように思うんですけれども,継続出版義務の関係で,同一人物が印刷と電子出版と双方について出版権の設定を受けたときに,印刷については継続出版義務を満たしているけれども,電子出版は満たしていない。あるいはその逆の場合に,消滅請求は,全(すべ)てについてできるのか,それともしていない方の部分についてだけできるのかというところを教えていただきたいと思います。

【土肥主査】 どうぞ。

【金子委員】 今の御質問の点についてですが,まず期間の点に関しては,それぞれの設定契約のものに,定めによるということになるのではないかと思います。紙の出版権の設定契約と電子の出版権の設定契約を別々にした場合には,それぞれの契約に基づく設定期間内だけ存続するということになるんだろうと思われます。
 その上で,継続出版義務などとの関係ですが,このあたりについては難しい問題でありまして,こういった難しい問題については文化審議会で検討していただきたいというのが我々の方針であります。紙と電子を分けるかどうかにもかかわる問題ですので,これは重要な問題ではあろうと思います。

【土肥主査】 どうぞ,松田委員。

【松田委員】 松田です。印刷のみ,ないしは電子出版のみの別々の契約をするのは,版面単位でするのではなくて著作物単位でするんだろうと聞いて,理解しておりますが,それでいいかどうかですね。
 版面単位で考えるのは,その後に侵害等が起きた場合においては,当事者間に特別の特約がある場合には,その版面については複製も抑えていけるようにしようというのが意図のように思いますが,そういうことでいいのか。
 こういうことを前提にした場合に,印刷のみの従前の出版と同じ契約を出版者が締結して,電子出版が別の会社によって,サービスプロバイダー等によって契約されていたとします。もちろん紙ベースの方は先に出版するわけですから,版面ができます。版面ができたときに,電子出版の方はその版面を利用できるのでしょうか。この場合に,当事者に特約がない場合はどうなのでしょうか。これについてお願いしたいと思います。

【金子委員】 だんだん複雑な事例になってきて,我々の提言なんですが,頭が痛いところでありますけれども,まず,実はいろいろな組合せが制度設計としてはあり得るのですが,アドオン型といって先ほど説明したものに基づいて説明をしていきたいと思います。
 この提言として示しているのは,[3]については,飽くまで著作物単位で出版,又は電子出版及びその双方について設定ができるということであります。そのときに,例えば紙の出版について[1]を設定しておき,かつ特約で版面限りでの利用について[3]の特約をつけておいた,その後で[1]について電子出版を対象とする権利を設定したという場合には,そのうち[3]の特約のかぶる部分については,先に対抗要件を備えた方が勝つ。[3]の特約つきの権利が先に登録された場合には,当該版面を利用した複製行為については,電子出版の権利は及ばないということになろうかと思います。
 この提言ではそのような書き方をしているわけなんですが,考え方としては,6人の意見ではなくて,私の意見としては,1についても版面限りでの出版権の設定もあってもよいのではないかと考えております。当該版面を利用した形での出版行為,電子出版に対してのみ権利が及ぶという設定もできていいんではないかと思っていますが,そうすると,その版面を利用した紙の出版を設定した後に,その版面を利用した電子出版もまた別に設定できるということになろうかと思います。このあたりは,様々な制度の組み方があって,質問に十分お答えできていませんかもしれませんが。

【土肥主査】 どうぞ。

【松田委員】 今の回答の限りだと,版面については,もちろん特約があることを前提にして,その対抗要件も取得するということになったときに,そこに権利が生まれることになるわけですね。だとしたら,対抗要件を取得した人が版面の権利を取得することになってしまうわけで,版面を製作した紙ベースの出版者がつくったとしたら,その人は電子出版に対抗要件で負ければ権利がないということになりやしませんか。

【金子委員】 基本的に,重複する部分については,全(すべ)て対抗要件の先後の問題で処理をすることになると思います。このあたり,制度の組合せが幾つかあって難しいところなんですが,あえて少しこの提言を離れて,1つの説明としてすれば,例えば版面限りについて,出版,電子出版及び企業内複製等を全(すべ)て含めた[3]の特約の,更に拡張した版面限りでの権利というのが設定された後に別の出版権が設定されて,それぞれ先にあらゆる版面での利用決定を含めた出版について登録がされた場合には,その版面を用いることは後の人はもうできない。そうすれば,前の人の権利の侵害ということになります。

【土肥主査】 よろしゅうございますか。今日は初日ですので,いろいろ最初は情報を共有したいと思っておりますので,どうぞ御遠慮なく。前田委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】 先ほどの金子委員の御説明の中で,特定の版に限定した出版権の設定も個人的な見解としてはあり得るというお話を頂いたんですけれども,金子委員のお考えでは,特定の版に限定した著作権の譲渡も可能だということを前提としており,その前提のもとで特定の版に限定した出版権の設定も可能だという御理解なんでしょうか。

【金子委員】 私自身の現行著作権法の著作権の一部譲渡に関する解釈としては,版が特定可能なものであれば,それに限定して文庫本の版,単行本の版についても一部譲渡ができてよいのではないかと個人的には考えております。ただ,飽くまでそれは私の現行の著作権法の解釈で,それを前提とすれば,先ほどの案につながりやすいですが,それを前提としなくても,立法論として,権利が特定可能であれば,版としての限定をした出版権の設定はしてもよいのではないかと考えております。これについては,もちろん版として限定した一部譲渡はできないという見解も,現行法の解釈として説かれていることは承知しております。

【土肥主査】 瀬尾委員,どうぞ。

【瀬尾委員】 幾つか質問をさせていただきたいと思います。今日は理解をすることが大切だと思っております。
 最初に,これは金子委員にお伺いしたいんですが,3の中で企業内での利用について,これを促進する効果があるとお考えだという前提がございましたが,この議論の中では,つまり現在は企業内での利用若しくはイントラネットでの利用は進んでいない,若しくは非常に強く改善されるべきであるということが前提で出てきたお話かなと思うんです。まず,それについてお答えをお伺いしたいのが1つ。
 2つ目は,先ほどのペーパーの中で3番というのがありまして,要するに契約をトリガーとすると考えておりますけれども,契約であれば,これまでやってきたような通常の契約の中で3番を実現することがなぜよくなくて,出版権の拡大の中に,この通常の,通常は契約でこれまで処理されている複製権の移動というか,完全な移動というものまで含められたか,この理由についてお伺いしたい。
 あと,もう一つ,すいません。まとめて言わせていただきます。書協にもお伺いしたいんですが,ちょっとこれはびっくりしたんですが,先ほどの御報告の中では隣接権をずっと主張されていたと考えているんですけれども,今回,隣接権の主張ではなく,中山案について推すということであれば,実際にこのA,B,C,Dという4分類の中で,ほかの方が望まなければ,Aは最初から検討対象にしなくてよいという御意見であるのでしょうか。この点をそれぞれの方にお伺いしたいと思います。

【土肥主査】 では,順番で。金子委員からどうぞ。

【金子委員】 まず第1の御質問の点については,現状が不十分なものであるかどうかについて,我々は確固たる認識は持っておりませんが,より促進されるべきだという考えを持っています。我々の提言は,実務家の方もいらっしゃいますけれども,特に研究者は実務のニーズについては十分な知見を有しておりませんので,そういった不十分さがあるのかどうかということについては,この審議会等で検討していただきたいと考えているところであります。
 第2点のところについては,おっしゃるとおり,現状でも契約による対応がされている部分もあるとは思うのですが,むしろ現状で契約で対応されている部分について法的な物権的な権利を与えて,かつ,それを登録のシステムにより利用許諾を講じさせることがより円滑な利用につながるのではないかと考えて,このような提言をしている次第であります。

【土肥主査】 それでは,堀内委員,どうぞ。

【堀内委員】 書協も含め,出版業界としては当初,今までいろいろな御説明がありましたように,出版者への何らかの権利が必要だと。そういうことでいろいろな議論をする中で,著作隣接権を求めていこうということで,関係する著者の方を含めていろいろな方々と広く議論をして,また,シンポジウムを開くなどやってきたわけですけれども,いろいろな団体あるいは著者の方から,いろいろな御懸念があったり,そういう中で経団連からも具体的な提案があり,また中山研究会からの御提案があり,我々としては,全(すべ)て著者の方々との契約ベースで運用されるということで,中山案であればそういう著者の方々の御懸念,御心配もないだろうということで,こちらを支持していこうというところでございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。瀬尾委員,どうぞ。

【瀬尾委員】 すいません。ちょっと今のところで。今,書協のお話で,実は写真分野として,これまで隣接権賛成という立場をとらせていただいたので,それがまた変わったのであれば,また考えなきゃいけないということでさせていただきました。
 金子先生,ちょっとお伺いしたいんですけれども,現場の実務について,学者の先生方で,必ずしも実務に熟知しているわけではないとおっしゃいましたが,実は熟知していらっしゃらないかどうかは,我々は,知見の高い方ですので,どうかと思うんですが,その中で,これをきちんと法的な裏づけをして強めることで,流通,つまり社内利用,イントラネットの利用が促進されると思われたということなんですけれども,現場の具体的な実務をベースにした場合に,これは必ずしもそこで強力な権利を付与して,また,その権利の移動が起きることが集中処理にとって必ずしも好ましくないという考え方もあるということをちょっと申し上げておきます。
 私は写真の立場ですけれども,日本複製権センターというところでずっと副理事長をやっておりまして,つまり社内利用に対しての集中処理,イントラネットの利用というのに十数年,邁進(まいしん)してきた。そして,それは,今日,経団連から吉村さんもいらっしゃっていますけれども,利用者,権利者,企業,みんなで一体となってやっていこうというところで,実は非常に革新的に,ここ一,二年の施策をやっているところでございます。
 その中で,今回の措置によって流通が促進される,またそのときに,現場の状況は周知していない部分もあるということでおっしゃっているのであれば,現場がどういうふうに動いていて,どのように今,社内利用若しくはイントラネットの利用を進めているのか,そしてそれが実際に効力をどれだけ上げているのか,その中で出版者の立場はどういうものであるのか,でき得れば実務を是非皆さんにきちんと御周知いただいた上で,3番によって社内利用若しくはイントラネット利用が促進されるのか否かについては,皆さんで御判断いただきたいと思います。現場の実務に支障が起きた場合,何億円単位のマーケットが非常に滞る,極端な場合はなくなる可能性もあるということも懸念しておりますので,そういう実務については,是非この場で皆さんでちゃんと周知した上で御議論いただきたいと考えております。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。ただいま瀬尾委員の要望ということだと思うんですけれども,田口課長,何かありますか。

【田口著作権課長】 どういう問題があるのかどうか,また実務上,どういう課題があるのかにつきましては,今後,関係者から時間の許す限り,広くヒアリング等をしていきたいと考えております。

【土肥主査】 瀬尾委員,よろしゅうございますか。

【瀬尾委員】 はい,結構です。

【土肥主査】 松田委員,どうぞ。

【松田委員】 権利単位と版面,特定版面との関係の利用の契約が幾つかパターンを分けて,どのようになるのかというのは,金子先生のお考えでも結構,ないしは,6名の議論が既になされているなら,その議論でも結構ですが,もう少し出してもらわないと,イメージが湧(わ)かないんじゃないでしょうか。これはもうちょっと長くならないですか。その方が議論が早いと思うんですけどね。

【土肥主査】 できましたら,是非私からもお願いをしたいと思います。

【金子委員】 わかりました。そのような御要望があれば,もう少し長い補足資料を早い時期に公表させていただくようにしたいと思います。

【土肥主査】 ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします。ほかに。どうぞ,永江委員。

【永江委員】 日本文藝家協会理事の永江でございます。ちょっと初歩的な質問,全体の質問を一つ,二つ伺いたいんですけれども,1つは,経団連の提言の前提となっているのが,日本では出版について,出版者と著作権者の間できちんとした契約を結ばないことが横行している。だから,こういう権利をつくって,きちんとした契約に基づく出版活動をしていくようにしていくべきだということなんですけれども,これは雑誌のことを言っているんでしょうか。
 というのは,私は単行本を書き始めてかれこれ20年くらいになります。著作の数字は多分20冊から30冊は書いていると思いますけれども,これまで出版契約なしで本を書いたこと,発行したことは一度もありませんので,今の時代,少なくともこの20年間ぐらいで,出版契約なしで単行本が書かれる,発行されるということはほとんどないんじゃないかなと思っています。その出版社の規模も,野間委員の大きな会社から,社長1人でやっているような会社まで,様々な会社とおつき合いしてきましたけれども,契約書なしでということは,身の周りを聞いてもないので,経団連の提言は何をさしているのでしょう。
 ただ,これは雑誌のことであれば,一々契約書を交わして雑誌に執筆するということはないと思います。私も,野間さんのところの例えば『週刊現代』で仕事をするときに,毎回,そのたびに契約書を交わすということはありませんでしたので,そういうことをおっしゃっているのであれば,これは全(すべ)ての雑誌執筆に関しても,あるいはウェブでの執筆に関しても,毎回毎回,契約書を結ぶ,そういう出版の形にしろということなのか。あるいは,現状で単行本を書くとき,事後的な契約なんです。原稿が全部でき上がって,それから契約書を結ぶことがほとんどです。だから,契約書の締結と出版とがほとんど時間差ないような形で出ます。これがもし経団連がおっしゃるのが原稿の依頼時点での契約の締結を促進するということであるならば,またちょっと今の出版の現場でのやり方が相当変わってくると思います。
 書き手としてのごくごく個人的なつぶやきとして聞いていただければですけれども,余り契約に拘束されたくないなというのが正直なところです。というのは,締切りにおくれたら,そのたびに出版社から損害賠償請求をされたんじゃたまりませんので,今のなあなあな状態ぐらいでちょうどいいなというのが正直なところです。
 もう一つ,堀内さん,野間さんにお伺いしたいんですけれども,この資料7にありますインターネットにおける出版物の著作権侵害状況,いわゆる海賊版問題についてです。これは経団連の方でも,提言を出すことの前提の一つが海賊版の横行にどう対応するのかということだったと思うんですけれども,だから,新たな法が必要だということは,現行法では対応できない,野放しになっているということなんだと思います。ところがこの資料7を拝見しますと,削除実績がこれだけあるわけですね。ということは,現行法で対応できているのではないか。そうであるならば,なぜ新たな法律が必要になるのかがよくわからない。あるいは,法改正をすると,削除がこの何十倍かのスピードで進んでいくということなのか。そこら辺のことをもう少し教えていただけませんでしょうか。

【堀内委員】 まず,削除要請件数とは,削除を要請した件数が月に1万2,000から1万4,000あるということで,削除に成功した実績の件数ではございません。様々な違法行為に対して,今現実は,出版社が当事者としてそういうアクションを起こすべき法的根拠がないので,相手方が厳格な対応をとる場合,著者の方に,こういう違法な状態がありますのでと言うような御説明をして委任状をだしていただくなど,削除要請やそれ以上の法的行為はあくまでも著作権者でなければできないんですね。
 それで,弊社の漫画コンテンツの違法なアップだけでこれだけの件数ですから,我々が一々,著者の方にこんなことがあるとご説明して,著者ご自身でご対応なさるのは不可能なので,通常は,我々が我々の名前で,つまり法的根拠なくやっているんですけれども,相手が海外の企業の場合,アメリカの法制度ではすごく損害賠償の額も大きいし,アメリカの出版社は割と著者から著作権譲渡されて出版社自体が権利を持っているというような,ちょっと慣行が違うので,我々の名前でやっても聞いてくれるところがかなりあるというのも事実です。やはり突き詰められれば、法的な根拠はないんですね。

【永江委員】 それは根拠なしに,要請すると違法アップロードした側(がわ)がある種,勘違いして削除してくれているということなんですね。

【堀内委員】 そういうことです。日本の場合は,国内のこれも膨大な量が流通しているんですけれども,インターネット企業が厳格な当事者適格を求めますから,これについては,著者の方に全部御説明をして,著者の名前で著作権者としてやるというのが鉄則なんですが,違法アップロードしている人の中には,それを商売じゃなくて,愉快犯じゃないけれども,自分でただ趣味でやっている人がいるんですね,営利活動じゃなくて。そういう人は非常に熱心な読者でもあったりして,著者の方が「いやあ,違法なことはわかっているけれども,自分の読者でもあるし」と言って,自分が著作権者として違法なものに何か言うということにちょっと二の足を踏む方もたくさんいらっしゃいます。

【永江委員】 今おっしゃったことというのは,実は書き手の側(がわ)からすると非常に切実な問題でありまして,出版者の利益と書き手の利益は必ずしも一致しないというところがあります。書き手の側(がわ)も全部一様ではありません。立場は様々です。ごくごく大ざっぱな言い方をすると,書いて食べている者,教えて食べている者,講演で食べている者,それぞれが自分の著作物に対する権利の考え方は違うと思うんです。私なんかは,海賊版が出れば御の字,ただでもいいから読んでもらえればもうハッピーという気分です。だから,取り締まるより,どんどん野放しにしてほしい。ただ,それをつくった編集者は,それではたまらないよという気持ちかもしれないですけれども。
 ですから,海賊版の問題一つとっても,作家の利害,利害というよりも精神的な部分では、出版者とは若干違うということがあると思います。
 もう一つ,著作権者といいますか,作家の側(がわ)からの心情を申し上げると,現行の日本の出版システムの中では,書き手の側(がわ)は,利益配分及び定価の設定についてほとんど発言権はありません。ないと言ってもいいと思います。もちろん編集者と次の本,幾らで売ろうか,値段をつけようかという相談はあるにしても,基本的には出版者が決めます。利益配分についても,大体の印税率は決まっていますし,原稿料についても,もうちょっと上げてよ,生活苦しいから,とかということはあるにしても,大体編集部が言ってきた数字のままです。ですけれども,法律上の権利は著作権者だけが持っている。だから,幸福な紙の時代は,それで何とか書き手とつくり手のバランスがとれていたんだと思うんですけれども,文芸家の中でも,こういった形で出版者の権利がどんどん強まるということに対しては,漠然とした不安感はやっぱり広がっていくわけです。海賊版の撲滅ということで,作家のためにいろいろ働きますよと言いながらも,でも,そういった形で出版者の権利がどんどん拡大していくと何か奪われていくような気持ちになる。あるいはうまい話に乗せられて,10年後には泣きを見ることになるんじゃないかという漠然としたもの,気分もあるんだと思います。
 だから,その辺の正直な気持ちを申し上げれば,現行法とその運用で対応できるんだったら,新たな法律はつくらない方がいいんじゃないか。法律って,一度,つくってしまうと,あの法律はもう廃止にしましょうというのはなかなか難しいと思いますし,一度,権利を付与された人からまた取り上げるということにはなり得ないと思いますから,そこは慎重にしていただければと思うのと,海賊版の問題も,著作権者と出版者との間の契約でもってそれがうまく運用できるのであれば,アメリカ型の一定期間,著作権の譲渡,包括的な譲渡ということも含めてそういう慣行で変えられるのであれば,新たな法律の設定はなくてもいいのではないかとも感じたりはします。
 非常に散漫な漠然とした書き手としての感想ですけれども,以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。では,潮見委員,どうぞ。

【潮見委員】 時間,大丈夫ですか。

【土肥主査】 若干大丈夫です。

【潮見委員】 簡単に申し上げます。結論は,私,永江委員が直前におっしゃった結論とよく似た考えを持っているんですが,それより,発言したかったのは,何も発言せずに議事録が残ると,この部会で一体どういう法律論を前提にして議論しているのかということで禍根を残すかもしれないと思ったからです。
 堀内委員がおっしゃったことについてですけれども,法的な根拠がない,法的には正当化できないというのは,言い過ぎではないかと思います。むしろ現在行われているのは,まさに今の民法の考え方に基づいて行われていることであって,したがって,現行の法律のもとでも可能なことを可能な範囲でやっているものと私は理解しております。それが法的な基礎がないというような形で議論をすることになると,ちょっとこれは大変なことになるので,誤解のないようにしておかれた方がいいと思います。
 その上で,なおここで差止めについて立法をすることにどういう意味があるのかを考えた場合には,法的なルールを明確に定めることによって,何らかの形で今後の出版をめぐる問題に対して我が国,あるいは関係者にとってプラスになる方向が出てくるという面から議論していくと捉えたらよいのではなかろうかと思います。
 その上で,これから先の議論への個人的な要望なのですが,伺っている限りでは,あるいは今日,出てきている資料なども拝見している限りでは,今回の議論の基礎には2つの側面があります。1つは,まさに海賊版等による侵害に対する対策というものです。もう1つは,権利処理によるコンテンツの活用という戦略的な側面です。あるいは戦略以外のものがあろうかとも思います。いずれにせよ,この2つが一緒になって論じられているような気がしてなりません。特に金子委員の一連の今日の御発言を伺っていると,いろいろなところで出てきている御発言が差止めのことを対象としているのか,それとも権利処理によるコンテンツ活用までも考慮に入れた形での議論喚起あるいは御提案をされているのかと,両者が一緒になって議論されているような感じがいたしました。
 むしろ,この2つの問題は,分けて考えることができるのではなかろうかと思います。先ほど堀内委員が発言された主な内容は,前半はまさに差止め,海賊版対策というところに重きを置かれていましたが,後半で若干コンテンツ処理の話なども出ておりました。このうち,後者の方まで踏み込むかどうかについては,かなりいろいろな議論があろうかと思いますので,これから先いろいろ御議論されるときには,どちらのことを議論されているのかを少しはっきりとさせた上で御理論あるいは御意見を御教示いただければ,非常にわかりやすいことになかろうかと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。河村委員,どうぞ。

【河村委員】 時間がなさそうなので,質問ではなくて,今後への要望なんですが,まずは,著作者であるちば先生がおっしゃっていた今のままでどうしてできないのかということへの答えを,やはり明確に,今後,消費者にもわかるように説明していただきたい。つまり,海賊版への対処は著作者ではできないだろうからと、出版者に権利が必要との意見がありますが、では、今,著作者がそうしてほしいと願っても本当にできないのかどうか。あるいは出版社の方のご発表で、電子書籍ビジネスに参入するに当たり出版者に法的根拠がないとおっしゃいましたけれども,著作者がそうしてほしいと思って,電子出版したいと思ったとき,どうして今のままでできないのかどうかということもあります。
 あと講談社の野間委員のご発言で、金子委員の資料の[3]に言及なさいましたが,金子委員の資料では、企業内複製やイントラネットでの利用許諾などに対応と,こういうことができるようになるためと[3]には書かれているんですが,野間委員がおっしゃった[3]は,版をスキャンして利用していることに関して[3]があれば対処できるというような言及の仕方でした。つまり,異なる理由で金子委員の案に賛成するとおっしゃっている。その前の日本書籍出版協会、堀内委員のご発表で、私は最初,著作隣接権のことをおっしゃっているのだと思って聞いていたのですが,途中で、中山提案を支持するとおっしゃったときに,私は聞き間違えたのかと思ったぐらいです。出版社の委員の方々が中山提案を支持している理由が、金子委員の御説明と一致していなくて,そのあたりも整理して,次回以降,御説明いただけたらと思います。
 それから金子委員にお願いなんですけれども,さっきαとかβ,X,Yとご説明いただいたもの,最初メモしていたんですが,途中でわけがわからなくなって書くのをやめてしまいました。これも資料があれば,理解しやすくなると思いますので,是非資料によって,誤解がない理解ができるようにお願いしたいと思います。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございます。どうぞ。

【金原委員】 書籍出版協会の金原でございます。お二人の出版界からの意見があったんですが,若干補足をさせていただきたいんですが,指摘のありました海賊版あるいは権利侵害について,これを排除しなければならないというのは,恐らくここに御出席の皆さん,どなたも異論がないだろうと思います。その排除する方法として,先ほど堀内委員が説明した削除要請もあります。しかし,なかなかそれに応じてもらえないケースが多いわけですから,そうなりますと,やはりもう裁判を起こして権利侵害に対して法的な措置をとることしか方法がないというところまで来ているんだろうと思います。
 それについて,それは,著作者の方は著作権者ですから権利侵害ということについて訴えることもできる,裁判もできます。しかし,実際問題として,著作者の方がそこまで訴訟を起こすというのが,日本の社会の中で,あるいは場合によっては権利侵害は海外で起きているという状況がありますので,日本のこれまでの慣習の中で非常に難しいだろうと思います。そうなりますと,出版者はそれに対して対応する必要があるわけで,その辺については,恐らく出版者の利害と著作者の利害は全く一致しているのではないかと思います。
 先ほどから議論のあります出版権の設定については,現在は紙媒体の出版物についてはあるわけですが,もう電子出版が一般的になってきた現在で,これは当然にあってはしかるべきものであろうと思います。しかし,この出版権の設定は基本的には出版物としてでき上がったそのものを保護する制度ですから,先ほどから出ているように,紙をスキャンして違法配信をしたりということについては,恐らく先ほどの金子先生の説明の中で,3番はもしかしたら対応できるのかもしれないんですが,そういうことでもない限り,様々な権利侵害に対応できない。そういうことになりますと,何らかの形で,出版者が著作者の権利を行使できるような制度が必要なんだろうと思っております。
 ただ,これは全(すべ)て著作者との契約に応じて,契約に基づいて出版者がそれを行使するということになるべきものであって,決して著作者の権利を侵害することにはならないと私は思っております。ですから,ここで是非お願いしたいのは,この出版権の設定を電子まで広げるということもさることながら,これは経団連の提案も金子先生の提案も同様の趣旨ですから,もちろん是非お願いしたいと思いますが,更に何らかの権利侵害に対して出版者が対応することについての枠組みをつくっていただきたいということであって,自動的に出版者が権利を持って全部,著者の意向に反してそれを行使することでは決してありませんので,まず枠組みをつくって,その上で著作者との契約に応じてそれを行使できるような制度が必要なんだろうと思います。是非その検討をお願いしたいと思います。

【土肥主査】 ありがとうございます。まさに今,金原委員がおっしゃったようなことで,私どもは,どういう制度設計がいいのかをいろいろ考えていきたいと思っているところでございます。
 本日は,1回目ということで,主として各団体の御意見を伺い,そして,それに対する質疑応答をさせていただきました。27人の委員の方にお集まりいただいたわけでございますけれども,今日,何度も出ておりました中山先生の著作権法の出版のところとか渋谷先生の出版著作権法のところ,そういうところを,また私どもみんな十分読んで,少し現状について認識を共有した上で,また2回目の議論,検討を詰めたいと思います。
 予定した時間が若干過ぎておりますので,各委員の方よろしければ,ここで本日のところは終わりたいと思いますけれども,よろしゅうございますか。
 それじゃ,本日はこのくらいにしたいと存じます。最後に,事務局から連絡事項についてお願いいたします。

【菊地著作権課課長補佐】 本日はありがとうございました。次回の出版関連小委員会については,5月29日(水),13:00,グランドアーク半蔵門にて開催をさせていただきたく考えてございます。
 本日は,重ねてでございますけれども,遅い時間までどうもありがとうございました。
 以上でございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それでは,以上をもちまして,文化審議会著作権分科会出版関連小委員会の第1回を終了とさせていただきます。本日は遅くまでどうもありがとうございました。

―― 了 ――

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