議事録

文化審議会著作権分科会出版関連小委員会(第8回)

日時:
平成25年11月25日(月)
17:00~19:00
場所:
東海大学校友会館 阿蘇の間
  1. 開会
  2. 議事
    1. (1)「電子書籍に対応した出版権の整備」について
    2. (2)その他
  3. 閉会

配布資料

議事内容

【土肥主査】 それでは,定刻でございますので,これから文化審議会著作権分科会出版関連小委員会の第8回を開催いたします。
 本日はお忙しい中,御出席いただきまして,まことにありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照いたしますと,特段,非公開とするには及ばないに思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいているところでございますけれども,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】 それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 それでは,事務局から配付資料の確認をお願いいたしますが,もしカメラ撮りがあります場合は,この配付資料の確認までとさせていただきますので御了承ください。
 それでは,お願いいたします。

【菊地著作権課課長補佐】 それでは,配付資料の確認をいたします。
 議事次第の下半分をごらんください。まず資料1といたしまして,本小委員会の中間まとめに対する意見募集の結果概要をお配りさせていただいております。それから,資料2から資料5までにつきましては,日本書籍出版協会はじめ,各団体より御提出いただきました資料をお配りさせていただいております。そして,参考資料といたしましては,本小委員会の中間まとめの本体をお配りさせていただいております。それに加えまして,各委員の机上に,意見募集の結果の全文をお配りさせていただいておりますので,適宜御参照いただければと思います。
 配付資料につきましては以上でございます。落丁等ございます場合には,お近くの事務局員までお声掛けいただければと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それでは,初めに議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は,1,電子書籍に対応した出版権の整備について,2,その他の2点となります。
 1について,前回の本小委員会において取りまとめを行いました文化審議会著作権分科会出版関連小委員会中間まとめについて,9月27日から10月26日まで意見募集が行われました。本日は意見募集の結果について,事務局から報告を頂きたいと存じます。
 次に,本日は一般社団法人日本書籍出版協会,日本美術著作権連合,一般社団法人日本経済団体連合会,一般社団法人日本印刷産業連合会の計4団体より,意見発表の希望がございましたので,各団体の委員より説明を頂きたいと思っております。その後,意見募集において意見が多く寄せられた項目を中心に意見交換を行っていきたいと思っております。
 それでは,事務局から中間まとめに対する意見募集の結果についての説明を頂きたいと存じます。

【菊地著作権課課長補佐】 それでは,資料1に基づきまして,本小委員会の中間まとめに対する意見募集,パブリックコメントの結果概要について御報告させていただきます。資料1をごらんください。
 まず,1ポツ,それから2ポツにございますように,本年9月27日から10月26日までの1か月間意見募集を行いました結果,団体,個人,様々な立場の方から合計で2,045件の御意見を頂きました。
3ポツ以降で主な意見の概要をまとめさせていただいております。意見の後ろに意見提出団体等を括弧書きで書いてございますが,個別の企業の方からもたくさん御意見を頂いておりまして,各企業からの御意見は個人という記載で整理させていただいております。また,頂いた意見の内容に応じまして,適宜事務局で分類を整理し直しておりますので,その点もあらかじめ御了承いただければと思います。そして,この資料の分類につきましては中間まとめの項目と対応させておりますので,本日,参考資料としてお配りしております中間まとめもごらんいただきながらお聞きいただければと思います。
 それでは,Ⅰのところをごらんください。まず「はじめに」ですが,電子出版の定義に関連いたしまして,出版とは出版物の企画や編集・制作など,いわゆる作品作りから流通に至るまで,出版行為の全(すべ)てを責任とリスクを持って行っているものであり,出版者の定義を明確にすることが必要である旨の御意見を頂いております。
 次にⅡ,第3章出版者への権利付与等の方策でございまして,中間まとめでは13ページ以降になります。〔1〕著作隣接権の創設に関する意見では,著作隣接権の創設に反対であるとの御意見,「楽譜の特性」についてはほとんど議論されておらず,楽譜出版者等も交えた議論の場を別途設けていただきたいとの御意見,出版者に著作隣接権を与えた方が良いという御意見がございました。
 それから〔2〕,電子書籍に対応した出版権の整備に関する意見では,これに賛成する意見が示された一方,2ページ目にお移りいただきまして,「契約による対応」と比較考量する審議が十分ではないとの御意見や,独立した電子出版権の創設に反対するとの御意見もございました。
 このほか,〔3〕,訴権の付与に関する意見としては,短期的に法文化することが困難であるという御意見,それから〔4〕,契約による対応に関する意見として,今回の立法整備を契機に,書面による適正な契約慣行が確立・促進されることを期待するとの御意見もございました。
 次にⅢ,第4章電子書籍に対応した出版権の整備についてでございまして,中間まとめでは18ページ以降となります。まず,権利の主体について,現行の出版権を有している出版者に限られず,著作物を電子書籍として電子出版することを引き受ける者(電子出版のみを行う者を含む。)とすることに賛成するとの御意見があり,電子書籍の企画,編集から制作,流通までに責任を持って行う者が権利の主体となるようにすべきであるとの御意見もございました。
 次に,出版者の権利の在り方に関する提言における一体的設定の是非について,中間まとめでは20ページ以降となりますが,意見募集におきましては,特にこの点について多くの意見が寄せられたところでございます。まず〔1〕,一体的設定に積極的な意見といたしまして,一体的設定をデフォルトルールとすることを強く主張する。現在出版されている電子書籍の大半が紙の出版物と同一編集で同一の出版者から発行されていること,出版とは,それが紙媒体であろうと電子媒体であろうと,企画,編集から制作,流通までを責任を持って行うものであること,一体的設定をデフォルトすれば海賊版対策として有効であることが理由であるとの御意見がございました。
 また,「紙の出版」か「電子の出版」かは,出版行為自体の本質的な違いではなく,伝達媒体の違いにすぎない。支分権ごとに出版権者が異なることは,権利関係を複雑にしてコンテンツの円滑な流通に影響を与えるおそれもあるという御意見も頂きました。
 3ページをごらんください。出版者につきまして,電子出版等の時代が到来しても,読者に多様な読書体験を提供し,紙と電子双方の出版産業のハブとしての重責を担うことを望むため,一体的設定を望むとの御意見,それから,紙の出版物をデッドコピーしたインターネット上の海賊版に対する効果的な海賊版対策や,ステークホルダー等にとってシンプルで分かりやすい制度設計であるべきという観点から,一体化して「出版権」とした方が望ましいという御意見もございました。
 一方,〔2〕,一体的設定に消極的な意見といたしましては,紙媒体の出版は複製行為を基調とするのに対し,電子出版は公衆送信行為を基調とする点で,法的には本来別個の行為として評価されるべきものであるという御意見。それから,紙の出版と電子出版は,著作権者と出版者が,必要に応じてその都度分けて契約を結び出版するのが最もシンプルで分かりやすいという御意見がございました。また,一体化が実現した場合,3,000~4,000社とも言われる出版社に対して,あまねく電子出版の義務を課すことは無理があること,出版者が行使し得る権利は著作権者の権利を基礎としていることから,著作権者の意向が最も尊重されるべきであること,電子書籍市場の将来の姿を考えた制度設計が必要であり,電子のみで出版する事業者を含む新規参入を促進し,既存の出版社とともに電子書籍市場を拡大していくことが重要であること等の観点を考慮する必要であるとの御意見,それから,必ずしも法的な知識が十分ではない著者が電子出版を紙媒体と一体的に同一の出版者においてとり行わなければならないといった誤った理解をするおそれもあるという御意見がございました。
 そして〔3〕3,その他といたしまして,違法流通の抑止という趣旨を実現するための制度設計が望ましいということ,また,この点に係る議論に固執して立法を遅らせるのは得策ではないという御意見や,一体化した権利として制度設計する場合には,著作権者に対して契約の範囲を明確に説明する,一定のガイドラインを作成する,契約を巡る紛争解決のための仲裁機関を設ける等,紙の出版と電子出版を別々に設定することが可能であるという選択権の行使を十分に保障する運用が必要であるという御意見などがございました。
 4ページをお開きください。次に,(2)電子書籍に対応した出版権の客体の在り方でございますが,これは中間まとめでは22ページになります。ここでは,電子書籍に対応した出版権の客体を,現行の出版権の対象となっている文書又は図画に相当するものとすることに賛成するとの御意見がございました。
 次に,権利の内容についてでございまして,中間まとめでは23ページ以降になります。(1)電子書籍に対応した出版権に係る権利の内容の在り方について,複製権及び公衆送信権とすることが適当との御意見や,放送権を付与する必要は必ずしも明確ではなく,出版権の内容に放送権を含める必要があるかどうかは,引き続き検討を深めるべきである。仮に,効果的な海賊版対策等のために放送権の付与が必要だと判断されたとしても,具体的な制度設計に当たっては,放送事業への影響が過大となることのないよう十分配慮してほしい。また,現行法の「原作のまま」等の要素は維持されることを要望するとの御意見がございました。
 次に,(2)「特定の版面」に対象を限定した権利の付与の是非についてですが,これに反対する意見がございました一方で,一番下になりますが,「特定の版面」に対象を限定した権利の創設が,海賊版対策並びに出版以外の複写等の許諾の促進に不可欠という御意見もございました。
 それから〔2〕,出版物(特に雑誌)をデッドコピーしたインターネット上の海賊版対策に関する意見でございまして,中間まとめでは26ページ以降となりますが,ここについてもこの意見募集において多くの意見が寄せられたところでございます。まず,(ア)電子書籍に対応した出版権による対応に関する意見といたしまして,雑誌掲載についての出版権の存続期間を短くする等の方策は,実務上の努力の問題であり制度として対応がなされているとは言えないとの御意見や,雑誌のデッドコピーにより出版者が多大な損害を被り,かつ,現行法上,雑誌を単位とする出版権を設定できるか否かが必ずしも明確でもないとの意見は理解するところであり,円滑に設定契約が締結され,電子出版の流通促進につながるような結論とすべきであるとの御意見,それから,出版権の一体的設定を前提とした運用でない限り,制度の手助けがないまま,紙の出版者はインターネット上の海賊版に立ち向かわざるを得ないとの御意見がございました。
 5ページ目をお開きください。次は,(イ)インターネット上の違法配信を紙の出版物に係る出版権の侵害とみなす規定を創設することによる対応に関する意見でございます。海賊版対策の実効性を高めるためには,みなし侵害規定の創設といった方策を併せて講じることも必要との御意見がございました。
 次に,3.出版権者による再許諾についてでございます。中間まとめでは29ページ以降となります。この点につきましても,意見募集において多数の意見を頂いたところでございます。まず,〔1〕,電子書籍に対応した出版権に係る再許諾の在り方に関する意見といたしましては,電子書籍に対応した出版権の設定を受けた者は,電子書籍の配信について,著作権者の許諾を得て,第三者に許諾することを認めることに賛成する。また,著作権者としては電子書籍に対応した出版権者以外の第三者が配信者となるか否かは重要な関心事であるため,著作権者の承諾を得た場合に限り再許諾可とすべきであるとの御意見も頂きました。
 一方で,新たに開設された電子書店で配信を行うときには,その都度著作権者の承諾を得なければならないことになる。これでは電子書籍の流通を大きく阻害することになり,およそ妥当なものではないという御意見もございました。
 次に〔2〕,紙の出版物の出版権に係る再許諾の在り方に関する意見としましては,二次出版が行われている間に,一次出版物が絶版となることもあり,権利の再許諾のという形をとると,一次出版物の絶版により再許諾権限も同時に失われるという不都合な事態を生じることになる。紙の出版物における再許諾は,仮にそれを認める必要性があるとしても,現行法第80条第3項が任意規定であることが確認されれば足りるのであり,それを超えた法改正が必要であるとは思わないという御意見がございました。
 6ページ目をお開きください。6ページ目の冒頭にあります再許諾について,先ほどのような御意見がありましたけれども,「中間まとめ」のとおり,電子媒体とともに,紙媒体の設定出版権の再許諾が不可欠である。(現行法の)法的矛盾を解消する意味で,紙媒体の設定出版権に再許諾を付与する意義がある。また,単行本が絶版となると文庫の再許諾権もなくなるのではないかという批判があるが,単行本が絶版になれば著作権者は設定出版権の消滅請求を行い,当該文庫出版者に出版権を再設定すれば済むことであるという御意見がございました。
 次に,4.電子出版の義務・消滅請求についてでございます。まずは(1)出版権に係る義務の在り方についてでございます。一定期間内に電子出版する義務,慣行に従い継続して電子出版する義務など電子書籍に対応した出版権の趣旨や性質を踏まえた義務を出版者に課すことに賛成であるという御意見がございました。
 それから,(2)電子書籍に対応した出版権に係る消滅請求の在り方につきましては,紙媒体での出版と電子出版の権利の片方の義務違反の法的効果をもう片方に及ぼして消滅請求を認めるのか,あるいは片方の義務違反の法的効果は他方に及ぼさず当該義務違反のあった権利のみ消滅請求を認めるかについては,どちらが望ましいかを検討した上で制度設計において決することであるから,実務慣行・当事者の意思を考慮しつつ,更なる検討を行う必要があるとの御意見,それから,仮に紙媒体の出版権と電子書籍に対応した出版権等を一体化した権利を創設する制度を採用するのであれば,一方の出版権に関してのみ義務違反がある場合の出版権の消滅請求についても,原則として紙媒体の出版権及び電子書籍に対応した出版権を一体的に消滅させる制度を採用することを基軸として,消滅請求の在り方を検討するのが相当であるという御意見がございました。また,紙媒体での出版と電子出版の権利を一体化した場合の消滅請求の在り方について,「塩漬け」問題が生じないよう,「紙しか出版しなかった場合には,電子出版の実情に鑑(かんが)み合理的と思われる猶予期間の経過後に電子出版に係る権利を消滅する」という形を望むという御意見もございました。
 次に,5.その他でございますが,中間まとめでは31ページ以降となります。まず,(1)電子書籍に対応した出版権の存続期間について,設定行為に定めがないときは最初の電子出版後一定期間を経過した日に消滅するものとすることが適当であるという点に賛成する。この「一定期間」については,83条2項に倣って3年が穏当であるという御意見がございました。
 7ページ目をお開きください。(2)電子書籍に対応した出版権の制限規定の在り方について,電子書籍に対応した出版権の権利内容に合わせて制限規定を整備することに賛成するとの御意見,それから(3)権利関係の明確性の確保について,権利関係の明確性の確保について,登録制度の整備が検討される点については賛同する。その際,登録申請の簡便性のみならず,権利者の所在が分かりやすいといった利害関係者にとっての利便性の点も考慮されるのが望ましいとの御意見がございました。
 それから,最後にⅣのその他でございますが,中間まとめの内容としては整理できないものを幾つか掲げてございます。まず,多様なステークホルダーによる開かれた議論がなされた「文化審議会著作権分科会出版関連小委員会」を評価する。開かれた議論の結果である「中間まとめ」が尊重され,かつ,その内容から逸脱又は後戻りすることがないことを強く希望するとの御意見がございました一方で,今般導き出された独立した電子出版権の創設について反対すると同時に,議論の差戻し,若しくは新たなメンバーによる議論を要求するという御意見もございました。
 以上が中間まとめに対する意見募集の結果概要として主な意見を紹介させていただきました。
 なお,先ほど御紹介いたしましたが,机上には意見募集で寄せられた意見をそのままの形でまとめてファイルに入れてございます。併せてごらんいただければと思いますが,意見の分類の整理が十分にできておりませんので,恐縮ですが本日は机上のみとさせていただければと思います。
 意見募集の結果概要の報告につきましては以上でございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それでは,次に,意見発表の御希望がございました団体より,御意見の御説明をお願いしたいと存じます。
 初めに,一般社団法人日本書籍出版協会,金原委員,よろしくお願いいたします。
 マイクをお願いします。

【金原委員】 書籍出版協会の金原でございます。若干遅刻いたしまして,申し訳ありませんでした。
 それでは,本日,資料2として配付していただいております出版関連小委員会における主な論点についての意見について,若干お時間を頂戴(ちょうだい)して補足説明をさせていただきます。
 1番の紙と電子の一体型の問題でありますが,御承知のとおり出版というのは著作物を推敲(すいこう)し,編集して,制作して世に送り出す作業であるわけであります。その手段として紙媒体もありますし,また電子媒体もあると,そういう状況であります。つまり,媒体が紙であれ,電子であれ,事前に行ういわゆる出版活動というものは全く同じでありまして,共通しているということが言えると思います。したがいまして,出版物の価値としては,私どもは紙でも電子でも同じであると考えておりまして,目的と状況により媒体が異なるだけであると。したがって,その商業的,財産的価値も全く同一のものと我々は判断いたします。
 それゆえ,媒体が紙である場合も,電子である場合も,その流通ということに関していいますとお互いに影響を受けるということでありますので,その影響を斟酌し,さらに私ども出版者としては,その著作物の流通が最大になるように紙媒体も発行し,また電子媒体も発行し,読者の期待に応(こた)えるという作業を行うわけであります。また,そのようなことが達成できるように私どもは努力しなければいけませんし,また電子媒体についても新しい媒体として,私どもは出版デジタル機構の設立というようなことも含めまして最大限の流通になるようにこれまでも努力してまいりましたし,また今後はさらにその努力を重ねなければならないと考えております。その意味において,出版権というものは電子も紙も一体型として考えることが最も望ましいのではないかと考えております。
 しかし,全(すべ)ての出版物に電子出版物が成り立つかどうかというところは,必ずしもそうも言えないし,また同一の出版者から発行しない方が最大限の流通が図られるということもあるかもしれません。そのような場合は,紙と電子と別々に設定するということも当然あり得るであると思いますし,私どもとしてはそれを否定するということはありません。私どもの目標としては,これは著作者の方々も全く同じだと思いますが最大限の流通を図るということで,それを達成するためには是非一体型として制度設計をお考えいただきたいということであります。
 それから3番目の海賊版対策に有効な制度設計の必要性についてというところでありますが,今お話を申し上げたとおり,出版権が紙と電子全(すべ)てについて一体型で設定が可能であり,かつ,全(すべ)ての出版活動に出版権というものが設定されるのであれば,出版者としては出版権という権利を持って海賊版に対抗するということが可能になります。しかし実際には,出版権の設定というのは全(すべ)ての出版物に対して行われるということでも必ずしもありません。また,著者の先生方とのお話合いによって紙と電子と分けて設定するということも起こり得る,またそれは同一人ではなくて,別々の方に別々の出版者に設定されるということもあり得るわけで,そのような場合について,海賊版というのはこの小委員会でもかなり議論が出ておりますとおり,紙媒体の出版物を電子的にスキャンして電子で配信して行われる海賊版が多いということですので,そのような場合には紙媒体しか保有しない出版者は電子海賊版には対抗できないということになりますので,そのような問題について,今回のこの電子出版権の設定だけでは問題は解決しないと考えざるを得ないということであります。
 この問題については,私ども出版者としては,出版界としては,また協会としては,著作者の先生方とさらに様々な話合いを継続して,流通している海賊版に対してどのような対抗手段がとれるのか,またどのような協力態勢がとれるのか,そのようなことについてお話合いは継続していく所存ではございますが,是非,この小委員会あるいは文化庁における様々な検討会においても,出版権の設定だけでは解決しない海賊版問題について,是非継続して検討を続けていただきたいと思います。この電子出版権の設定については,これはこれで是非成立させていただきたいとは思いますが,さらに解決しない問題がたくさんありますので,是非継続検討していただきたいということであります。
 また,さらに付け加えるならば,法律上の著作権法上の制度だけでは,特に海外における海賊版というのはなかなか対抗できない,あるいはそれに対して配信を止めるということもなかなか難しい問題ですので,著作権法上の制度の問題だけではなくて,それに加えて,是非海外における海賊版というものに対して国レベルで対抗手段をとっていただくということも必要なことであろうかと思います。その辺について書籍出版協会としては是非この委員の先生方にお願いしたい,また文化庁にもお願いしたいということであります。
 よろしくお願いいたします。以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それでは,続きまして,日本美術著作権連合,あんびる委員,お願いいたします。

【あんびる委員】 ありがとうございます。美著連のあんびるでございます。
 私は資料3の文書について少々御説明させていただきたいと思います。まず初めに申し上げたいことですが,出版側も,私たち著作権者側も,紙・電子の同時契約を,そうしたい人はそうできて,そうしたくない人はそうしなくて良いという考え方では一致していると感じております。ただ,私たちの間で違っているのは,一体と別立てのどちらをデフォルトとするかという点ではないかと思っています。私たち著作権者が別立てをデフォルトとしたい理由は,この資料3の紙に理由が書いてございます。その理由は委員会の1回目から何も変わっておりません。2回目のヒアリングで申し上げたことと同じでございます。今またこのペーパーを読み上げればその繰り返しにしかならないですし,また,パブコメを拝見しましたところ,どちらをデフォルトとするかをいつまでも議論しているのは不毛だという意見があるのも存じ上げております。これはどちらがデフォルトになっても同じことで,あとは契約で処理するのがよろしいという意見であろうと思っております。しかし,では,現在契約がきちんと整備されているかというと,法改正以上に混沌(こんとん)とした状況であるというのが現状でございます。ここではその現状と絡めまして,なぜ私たちが別立てにこだわるのかを少し御説明させていただきたいと思います。
 紙の出版の場合,契約の内容や印税率について,出版者も著作者も共通認識としている標準というものが既に確立しております。しかし,電子書籍では両者の間にこれがスタンダードだという契約の形がまだなく,印税の支払に至っては,上代の販売数から割り出すような従来の計算方法と,それとは別の収益から割り出す計算方法が混在し,紙とは大きく違っております。また,印税のパーセンテージ自体も出版者や交渉によって違いがございまして,紙で言うところの上代の10%というような双方それで納得できるという利益配分の在り方もまだ十分に定まっておりません。そのような混沌(こんとん)とした現状の中で,紙の出版を行うと同時に電子の出版権を同じ出版者に委(ゆだ)ねる以外選択肢がないということになれば,著作者は今までにない大きなリスクと不安を抱えるようになることを御理解いただきたいと思っております。
 今後,出版を巡る状況や市場は大きく変わってくると思っております。その中で,出版者と著作権者の共通認識としてこれがスタンダードだという1つの基準が見いだせた時点で,紙と電子の出版権を一体化すべきかどうか再検討するのが良いのではないかと思っております。
 最後に,私の書いている本である児童書のカテゴリーについてですが,児童書では電子出版の経験のない著作者がほとんどでして,紙・電子同時の契約書を示されても,それを読み解くことは難しく,結局のところ安全策として電子出版に関する部分を全(すべ)て外してもらうということにしかならないと思っております。このようなことが予想される中で,全(すべ)ての分野の出版物についてあまねく紙・電子の出版権を一体化するというのは,現在では無理があるのではないかと感じております。
 以上でございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それでは,続きまして,一般社団法人日本経済団体連合会,吉村委員,よろしくお願いいたします。

【吉村委員】 資料4ということで配っていただきました。ありがとうございます。
 趣旨は既に中間まとめに対する意見募集の結果概要のところにまとめていただいておりますが,私からも簡単にお伝えしたいと思います。
 1ページ目の各論の一番初めのところに記しておりますとおり,著作権者の御意向を最重要,最優先とした上で,関係者で円滑・円満に契約が行われることが大事であるというのが,われわれの基本的な考え方でございます。一方で,この小委員会の場などで,特に出版業界の方々が,非常に力を入れて一体化を主張しておられますので,その点については論じざるを得ませんでした。我々としては,出版業界の方々がおっしゃっている一体化の意味や具体像について,率直に申し上げて,よく分からないところがあるので,そのあたりをクリアにしていただきたいという意味を込めて,この紙を作っております。
 特に〔1〕,「電子での出版義務」の観点ということで,権利をとったら義務を果たすということが,業界のなかで明確に共有されているのかどうかということでございます。この箇所を読み上げさせていただきますと,「「一体化」が実現した場合,大手を始め中小・零細に至るまで,出版者(社)には原則,あらゆるジャンルの全(すべ)ての書籍を,紙と電子の双方で出版する義務が課される」ということになると思われるわけですけれども,これは本当に現実的なのでしょうか。大手の出版社であっても電子にしたいものというのは限られているのではないかと推察いたしますし,電子を手がけていらっしゃらない出版社の方が多いのではないかとも思います。こういう状況の中で,全(すべ)ての書籍について,全(すべ)ての出版社に対し,紙も電子も出版義務を課すということは,現実的ではないのではないかという印象を持っております。この点については,これからの時代,中小零細規模の事業者も含めて基本的には全(すべ)ての書籍について紙でも電子でも出版していくのだという御意志が出版社におありならば,ぜひその旨を明確に語っていただければと思います。こうしたお話をすると,一体化はあくまで原則であって,片方しか出版しない場合は特約で例外を認める仕組みを作るのであるから問題ないといった御議論をされる向きもあるのですが,例外の方がほとんどであるとすれば,原則の置き方が間違っていると考えるのが普通ではないかと思います。その辺り,我々としてはよく分からないと思っております。
 それから〔2〕は「著作権者の尊重」ということで,これは繰り返すまでもなく著作権者の方々の意向が最も尊重されるべきだと思っておりまして,そういう中で,先ほどのあんびる委員の意見にもございましたが,著作者団体から反対の声が上がっているという状況を,出版社の方々がどのようにお考えなのか,お話をうかがいたいと思っております。
 それから,〔3〕の「電子出版ビジネスの振興」ということでは,私もこの会合の中で何度か申し上げたと思いますが,電子出版は今後,紙の出版とは違う進化を遂げる可能性があると我々は考えておりまして,そういう意味で,紙の権利と電子の権利を一緒にすることで不都合が出てくるのではないかと思っております。我々といたしましては,電子のみで出版する事業者さんも,それから紙でも電子でも出版する事業者さんも,みんなで電子書籍市場を盛り上げていくという観点が大事なのではないかと思うわけでございます。
 あとは,〔4〕のところで言及しているのですが,いわゆる別立て論について,権利の分断だという言われ方をされて,我々も誹謗中傷を受けることがあるのですが,仮に法律を別立てのかたちで作ったとしても,契約によって紙と電子の両方の権利をとることは十分に可能ですので,そのご批判は当たらないと思っております。
 その他にもいろいろ申し上げたいことはあるのですが,とりあえずの紹介としては以上とさせていただきたいと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それでは,さらに続きまして一般社団法人日本印刷産業連合会,山川委員,よろしくお願いいたします。

【山川委員】 日本印刷産業連合会の山川でございます。
 私どもの意見はパブコメのまとめにも大分書かれておりましたので,ここでは簡単に説明させていただきます。
 今回の中間まとめの1つの論点である一体的設定の是非のところでございますが,こちらについては今回の小委員会が海賊版対策ということ,特に紙で出版されたものの電子版の海賊版に対してどのように対応するかということでスタートしているかと思いますので,それについて,出版権を電子書籍にも及ぶようにするといった方向で今進んでおりますので,そういったことからすると,海賊版対策への実効性という観点からしまして,出版権を紙と電子一体として設定する方が望ましいのではないかと考えております。もちろん,先ほどのあんびる委員からのお話もあったとおり,基本的に著作者の認識のないまま電子出版についても一方的に含まれてしまうのが不安であるというのも非常に理解できますので,これについては3ポツの補足の〔2〕で書かせていただいたように,現行の著作権法の第61条第2項に決められているような著作権の譲渡のところにありますように,翻訳権,翻案権及び二次的著作物の利用に関する原著作者の権利の譲渡についてははっきり明確に契約に明記する必要があるといった規定がございますので,これに倣って電子についての出版権も,明確に契約に定めない限り含まれないといったような決め方もあるのではないかと考えております。
 簡単でございますが以上でございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それでは,意見募集の結果や各団体からの御意見を踏まえまして,中間まとめを基にさらに意見交換を行っていきたいと思います。本日は,意見募集で意見が多く寄せられました項目を中心に議論を行いたいと考えておりまして,特に中間まとめの20ページ,「出版者の権利の在り方に関する提言」における一体的設定の是非,それから2つ目としましては中間まとめ26ページの出版物(特に雑誌)をデッドコピーしたインターネット上の海賊版対策,それから中間まとめ29ページの出版権者による再許諾についての議論を行っていきたいと考えております。
 それでは,まず,「出版者の権利の在り方に関する提言」における一体的設定の是非について,さらに意見交換を行いたいと思います。一体的設定の是非を議論するに当たっては,権利を一体とする場合の義務,消滅請求といったことの在り方も問題になると思いますけれども,これまで必ずしも十分に議論していないようにも思いますので,御意見がございましたら併せてお願いしたいと思います。時間の関係もございますので,この問題については18:05,10分,このあたりくらいまでを予定しております。本日の議論で取りまとめを行うわけではありませんけれども,議論の時間も限られておりますことから,本小委員会としての最終取りまとめに向け,できるだけ効率的な議論が集中してできるように御協力をお願いできればと思います。
 それでは,意見募集の結果や各団体からの御発表を踏まえ,意見がございましたらお願いいたします。

【瀬尾委員】 よろしいですか。

【土肥主査】 どうぞ,瀬尾委員。

【瀬尾委員】 これは実は私の意見ではなくて大変申し訳なんですが,今日は文芸家協会の永江委員が欠席しております。今回,この問題については文芸家協会さんとほかの権利者さんとみんないろいろなことを考えてきました。いろいろ話し合ったりしてきました。今日は永江さんから1枚のペーパーをお預かりしていますので,私が意見を申し上げたりする前に,できるだけ迅速に読み上げますので,1枚,この全般に関(かか)わる永江委員の意見としてペーパーを読み上げさせていただきたいと思います。本来であれば文芸家協会さんとしてこのペーパーを出されるということも十分可能だったのでしょうが,ちょっと時間の関係上オーソライズができなかったということで,このような形になったことを御了承いただきたいと思います。
 電子書籍に係る権利について。1.そもそも海賊版対策と電子書籍の普及促進には矛盾した面があります。紙版からのコピーによる海賊版対策のためには,電子書籍についての権利も出版者が持っている方が都合がいいでしょう。しかし,電子書籍の普及という観点から考えると,出版者以外の様々な企業が参加することで競争が生じて普及促進につながることが期待できます。
 2.電子書籍についての権利を紙版の権利と切り離すと,現在の出版者のビジネスモデルが崩壊する可能性があります。出版者には新しい才能を発掘し,新人を育て,発表の場を与えていきます。書籍・雑誌の刊行は出版者の仕事の一部でしかありません。発掘や育成に要する費用は出版,雑誌が生み出す利益によって賄われています。また,その書籍単独では採算が難しいけれども刊行する意義のあるものも数多く存在します。その赤字を埋めるのも書籍・雑誌が生み出す利益です。仮に電子書籍の権利が紙の本を出した出版者から切り離され,全く別の企業から出るようになった場合,こうした発掘や育成が困難になることが予想されます。
 3.とはいえ,紙と電子の権利を一体的に扱った場合,問題がないわけではありません。日本には3,000社を超える出版者があり,残念ながらその全(すべ)ての出版者が著作権者,書き手と良好な関係を保っているとは言い切れません。著作権者には電子書籍を出す意志や能力のない出版者が権利だけを持ち続けることで電子書籍を出す機会を奪われるのではないか,紙版の販売を優先するために電子書籍版の刊行が妨害されるのではないかなどといった不安があります。いわゆる塩漬けを防止するためにも,紙版の出版者が電子版の権利を持った場合には,一定期間内に刊行しなければその権利を失うような条項が必要ではないかと思います。
 4.また,将来は米国の出版界のように出版エージェントが新人発掘や育成,編集の機能を持ち,アウトプットとして紙版は既存の出版者,電子出版,電子書籍版は他者でというケースも増えてくる可能性もあります。
 5.以上から,契約を大前提として,紙であれ,電子であれ,その書物を先に実質的に編集した者(企業や個人)が1つの権利を優先的に与えられるが,著作権者が希望する場合は別個に扱うことも可能にするという形が望ましいと思います。
 平成25年11月18日,永江朗さん。
 ということですので,最初にこれを,今の資料を個人的な補足として付け加えさせていただきました。私の意見はまた後でお話しします。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかに,はい,では,前田委員,お願いします。

【前田(哲)委員】 私は紙と電子を一体的な権利とするかどうかという議論の立て方自体がおかしいのではないかと思っています。一体にするべきか,別個の権利にすべきかということを抽象的に論じても余り意味がなくて,一体にするか別個にするかによって影響が生じるかもしれない個々の論点について,どっちが妥当な結論であるかを直接検討すべきであって,権利が一体なのか別個なのかは個々の論点の結論から翻って,いわば帰納的に決まることだと思います。
 一体的にすべきだという御意見の方も,紙だけの出版権を設定すること,電子だけの出版権を設定すること,あるいはA社に紙の権利を設定して,B社に電子の権利を設定することは可能としておられるように思いますので,それにも関わらずあえて一体化するとすれば,そのことによってどういう個々の論点に影響が生じるのか,そこが明らかにされる必要があると思います。
 私が想像するのに,一体化することによって3つの個別論点に関係してくると思います。1つは設定の際に電子を除外する,あるいは紙だけを対象にするといったような明確な合意がないままに単に出版権を設定するという合意がなされたときに,紙と電子の両方を対象にした出版権が設定されたことにする,あるいはそういうふうに推定するということにするかどうかという論点です。
 2番目は,これは議論されていないと思いますが,改正法施行前に単に出版権として設定されている権利の中身が,法改正後は当然に電子も含むことになるようにするのかどうかという論点です。
 3番目は消滅請求の関係で,紙と電子の両方を対象とする出版権が設定されている場合に,出版権者が紙の出版しかしていなくて電子はやっていなかった,あるいはその逆の場合に,出版権者が行わなかった方のみを消滅させるのか,どちらか行っていればどちらについても消滅請求できないことにするのか,あるいは両方行っていない限りは両方について消滅請求ができるとするのかという論点です。
 私は一体的な権利にすべきかどうかを抽象的に論じるんじゃなくて,この3つの個別の論点について議論すべきだと思います。そして,1番目の論点なんですが,これは私としては当事者の通常の合理的意思がどっちかということによって判断されるべきであると思います。出版権を設定するということは電子出版も含めて出版者に権利を与えるのが著作権者の通常の合理的意思に合致していると言えるような社会的実態,あるいは取引慣行が存在しているのならば,そのような効果を生じる規定を設けるべきでしょうし,そうでないのだったら,そういう規定を設けるべきではないということになると思います。
 2番目の既存の出版権について法改正後はどうなるのかということについてなんですが,これは法改正後に当然に電子も含むようにするというのは,私としては乱暴すぎる気がいたします。
 それから3番目の消滅請求の関係ですけれども,私は現に紙の出版をやっているのに電子をやっていないからという理由で紙の権利も消滅してしまうというのでは出版権者にとって酷だろうし,逆にどちらか一方をやっているからといって,やっていない方についても消滅請求ができないというのでは著作権者にとって酷であろう。ですから,消滅請求は電子と紙を別々に考えるべきだろうと思います。
 私としては以上のように思うんですけれども,もう一つ,改正法の規定ぶりをどうするかという問題が別個にあると思います。この小委員会では出版者が自ら電子による侵害対策ができるようにする必要があるということにスポットを当てて議論されていることが多かったように思いますが,もっと大きな立法事実というのは,出版という社会的経済活動が従前は紙のみによって行われてきたけれども,それが紙と電子の双方の形態によって行われるようになってきたという変化が生じた。ところが著作権法は紙の出版のみを対象とした規定しか置いていないので時代に適合しなくなった,これが大きな立法事実だと思います。出版という大きな概念がまずあって,その中に紙によるものと電子によるものがあるようになったんですから,現行の出版権の規定をそのままにして,そのあとに電子出版権の規定をくっつけるという規定の仕方は立法事実に整合しないと思います。現行の出版権をそのままにしますと,著作権法上の用語としては出版という言葉は依然として紙媒体による出版だけを意味することになりますが,それは,世の中の通常の用語からずれてしまって,大変分かりにくい法律になってしまうと思います。ですから出版の概念を変更して,その中に紙やDVDなどによるパッケージ出版と,それから電子出版とが並列するような規定ぶりにするのが社会の変化を正しく反映した改正になるし,それが分かりやすいと思います。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかにございますか。
 金子委員,どうぞ。

【金子委員】 今,前田委員から論点についての整理を頂きましたので,一体的設定ということの提言に関(かか)わった一員として,今出た論点について個人的な考えを述べたいと思います。
 まず1番の電子,紙を除外する,含めるという明示の特約がない場合の取扱いに関してでありますが,基本的には当事者の通常の,合理的な意思に照らして解釈することとなろうと思います。著作権者側がよく分からないままに電子まで含めて権利が設定される懸念に対しては,一体的設定を前提としても,電子についても特掲していなければ含まないものとするとの規定や,法改正後の出版権について,現在の出版権という用語とは別の名前,総合出版権等の用語を用いるなど様々な対応策も考えられるであろうと思われます。
 次に2番目の点でありますが,改正前の設定契約に基づいて設定されていた出版権について,改正後,電子についても自動的に含まれるということは制度設計としてあり得ないことだろうと思います。それゆえ最も重要な点は3番目の消滅請求,そして消滅請求だけではなくて義務違反の設定,出版義務及び出版継続義務の範囲についてということについて,一体的設定と別々の権利とした場合の違いがどうなるかということであろうと思います。
 まず,別々の権利とした場合についてです。別々の権利とした場合についても様々な制度設計は考えられますが,仮に現行の出版権と同様の出版義務,出版継続義務を課した場合には,紙の本だけを出している出版者については,電子出版権の設定を受けたとしても6か月以内に電子での配信をしていなければその義務を尽くしていないということになり,消滅請求の対象となるということになるんだろうと思います。
 他方で,一体的な制度設計ということを認めると,一体的なものということを考えるとすると,その義務の内容及び消滅請求の範囲については様々な組合せが考えられるところであります。全部について義務を負う,一部について義務を負う,全部について消滅する,一部について消滅するといったことが考えられるのであろうと思います。
 まず,その点で現行法の点で確認しておかなければいけないのが,出版権というもので与えられている独占権の範囲の全(すべ)てについて,出版者がそれについて出版を行う義務を課されているわけではないということであります。現状ハードカバーだけ出版していたとしても,文庫本について出版していないからといって直ちに出版義務の違反となるわけではないということであろうと思います。また,出版義務自体についても設定行為で定めたところがなければという限定がついていますので,設定行為においてそれを限定するということも可能なのだろうと思います。
 そして,基本的には私自身は一体的な設定が望ましいと考えている立場でありますが,出版者がどのような対応で出版を行うべきかという義務については,本来,出版者と著作者,著作権者との契約によって具体的に定められるべきものであろうと思います。ただ,法制度設計としては,その契約,設定行為がない場合にもどのような義務が課されるかということを書いておく必要があるんだろうと思います。そこでどう書くのかということになりますが,それは全部について義務を負う,あるいは特定の合理的な範囲で出版していればそれでただ良いという,制度設計としては考えられるということになるんだろうと思います。
 その上で,今回のこの出版権の問題について,各出版者,著作者の方々からの主張を見ていると,現状,この出版権による制度設計に対して求められているものとしては,1つには,紙だけを出している状態であっても,海賊版対策に対して何らかの有効な措置をとれる手段が欲しいということが求められているのだろうと思います。それに対応する制度設計の1つは,後でも議論されるかもしれませんがみなし侵害という制度設計でありますが,もう1つの方策が,一体的な権利の設定を受けた上で,電子については出していない状態であっても権利行使が可能とすることでも対応ができるということになります。他方で,著作者,利用者の方から強く懸念されているのは,そのような紙だけを出し続けていて,電子について出し続けていないというときに塩漬けとなるような状況ということであろうと思います。ただ,この塩漬けという状況も,長期間塩漬けになるということであれば大きな問題となるかもしれませんが,ある一定の合理的な期間であれば出版者が紙で出しているしばらくの期間,電子でどのように配信するかということについて出版者と作者が協議をして判断していうということにも,先ほどの永江委員のご意見からあるように合理的なものだろうと思います。
 そうしますと,1つの制度設計としましては,一体的な設定を前提とし,出版者の負うべき出版義務の範囲については,基本的には設定行為の定めるところにより定まると。定めなければ全部についてとすべきと思いますが,その上で消滅請求については,仮に契約で具体的に細かい義務が定められていたとしても,一定期間経過後については,例えば3年あるいは1年などありますが,その後についてはそのような当事者の義務,契約の内容に関(かか)わらず消滅請求が可能というような制度設計も考えられるだろうと思います。もちろん他にも様々な制度設計は可能だと思いますが,ただ一体的設定とすることでそのような制度の選択肢が増えるということが言えるだろうと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それでは,大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】 時間が限られておりますし,前回非常に詳細に申し上げましたので,あれを繰り返してもしょうがないと思いますので,もう基本的には前回申し上げたとおりで あることを申し上げるにまずはとどめたいと思いますが,もうお忘れかもしれませんし,卓上に議事録もなさそうですので,私が申し上げたことは,要するにここで最大の議論になっている一体化というのが物権的一体化であれば不可であると,これは理論的にも実務的にもそうであるけれども,恐らく先ほどどなたかおっしゃったとおりに,一体化と言われるのは,さすがに物権的一体化ではなくて,最終的には強いて言えば契約一体化というか実際上一体として出すということであって,物権として一体ということではないのではないかと前回私は申し上げました。あとは恐らく出版者が,こういうことはよくあるのですけれども,本人としてやりたいと思われることをどう法律に構成するのかというのがずれることは法律家としてはよく体験することでありまして,恐らく言われたいことは,私なりに善解しますと,さすがに権利自体についての,物権的一体化とは言わないけれども,最終的に恐らく実務的にというか,出版としては最終的に一体的に出したいということを何とか実現したいという御趣旨ではないかと理解します。それは前回申し上げましたとおり契約をどう,信頼の証(あかし)と申し上げましたが,出版というのは,私も著者の一員ではありますけれども人格的分身たる著作物を世間に出すわけですから,そういうものについては信頼関係が重要であることは論を俟たない。その基礎であるのは契約である。ただその契約をどう工夫していくかというのが重要なポイントだと考えております。その意味では,ここは法律問題を扱う審議会ですので出版権という権利自体の法律問題を扱うわけですけれども,車の両輪のごとく,どのフォーラムでやるかは別として,その権利関係,物権的な内容プラス何らかの契約の工夫,どなたか契約のひな形とおっしゃっていましたけれども,そういうものの工夫というのが車の両輪のごとくなって初めて恐らく出版者の方で言っておられる一体というのが実現されていくのではないかと思っております。その意味では,どなたか言われたとおり一体というのが何となくムードのような感じになってしまっていますけれども,法的には詰めていけば最終的には契約的努力ということに帰着すると思われます。そして,そこで,デフォルトかどうかは,私は前回申し上げたとおりデフォルトにしないのが大原則だと思っております。その意味では私なりに理解しているのは,この文化庁の書かれた中間まとめは,私が考えている普通の大原則的なことが書かれているということであります。そして,最後に自(おの)ずと締めているのが,22ページのこの当該項目の真ん前にあります「信頼関係に基づき~一体的に設定されていくことが想定される」というような結びになっていくような内容ですので,そこのあたりはまさしく,個別論を言い出すとさきほどの細かい話がいろいろ出てきますけれども,基本としては,最終的には一言で分かりやすく言えば,著者出版者の双方納得の上できちんと契約するということをおろそかにしては全く進みようのない話です。そこで,ここで前から強調しているのは,ここでの議論ももちろん重要ですけれども,車の両輪のうちの,一輪である法制をここで議論しているだけで,もう一つの一輪たる契約をきちんと進めていかない限りは,出版者と著者の両方が欲している方向には進み得ないと思っております。
 とりあえず以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかに。
 堀内委員。

【堀内委員】 先ほど著者のあんびる委員からも出ていましたけれども,一体的設定について著者の方々が何か不安に思っている,知らない間に何か紙の契約をしたと思っていたら電子もあるとかいろいろな不安をお持ちだということで,出版界としてはこの法改正ができた後はいろいろな著者団体と話し合いながら,ガイドラインといいますか何か1つモデルのようなものを作っていこうと考えております。あるいはその後問題が起きたときには,前の委員会でも申し上げましたけれども,著者団体の方々と相談して第三者の仲裁機関のようなものを作ろうとかそういうことも考えております。それで著者の方々がいろいろ不安に思っていることが解消されるような方策をいろいろ考えていきたいと思っています。
 それから,経団連の吉村委員から,3,000,4,000ある出版社が,そういう大手はともかく全部できるのかというような御意見がございましたけれども,今,電子書籍ってすごい勢いで広がっていて,どの出版社も対応せざるを得ないし,対応すべく多くの出版社が電子書籍化にも今取り組んでいるところです。だけれども,小さいところでそんな人手もない,そこまでできるのかということは確かにあって,そういうことも踏まえて,先をにらんで昨年産業革新機構の出資を仰いで,多くの出版社と,それから大日本印刷さん,凸版印刷さんの参加も仰いで,そういう中小の出版社の人たちもデジタル化ができるような組織をすでにスタートさせております。そしてこの間に経産省の後押しによる,緊急電子化という事業にも中小も含めて多くの出版社が参加して,多くの出版物が電子化されました。こういうことを積み重ねておりますので,本当にこんな制度ができて,みんなできるのかという疑問がございましたけれども,そういうことがないように今出版界を挙げて,あるいは関連の業界の協力も仰いで進めているところなので,このことはきちんとご説明をしておきたいと思いました。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかにございますか。
 松田委員。

【松田委員】 一体化の問題につきましては,私は現行ある紙ベースの出版設定と,それから電子出版の設定と,別の2つの設定を著作権法上に入れるべきだと思います。あとは契約でそれを1個ずつやるか,2つやるかということは契約の場面で任せればいいと私は思っております。当然のことならば,こういうふうに構成すれば義務の問題はそれぞれ1個ずつに考えればいいということになります。
 こういうふうに分ける理由は何かと言いますと,それは著作権の構成からいったら利用する形態が違うものを一緒にしない方がいいだろうと思うわけでありますが,では,一体化を求めている書協等のお考えをその点だけを考えますと,それにも実は一理あるなとは思っているんです。それは何かといったら,盛んに言われるように現実の出版物は紙であろうが電子であろうが著作物だけでは成り立たなくて,大まかにいいますと編集者の行為によって出来上がる商品価値のあるものが果たして売れるわけであります。著作物だけではなかなか売れないものの方が多いんだろうと私は思います。美術とか漫画とかこれはまた別かもしれませんが,特に言語の著作物につきましては編集者の行為というものが商品的価値を増すことが多いと思います。そしてそれについてコストが掛かるわけです。そのコストが掛かる分を,紙で出版したら違う電子出版業者がそのまま利用してしまうということの問題点があることはそのとおりだと思います。この利益とかコストの問題をどうするかというのは,2つの設定契約を考える場合に,今,書協の堀内委員が言われたようにいろいろな契約形態を考えて,そしてむしろ著者の先生方と,著者と契約を詰めていかなきゃいけないのだと言われておりますから,そこに私は期待したいなと思っております。どうしてもコストが掛かって,紙で作った後,電子出版をほかにとられたら困るというのであれば,電子出版も説得して,そして取り込むようにしてもらいたいと思います。そこのところに真摯な話合いといいますか業界間の話合いをして詰めるということをしてもらいたいと思います。この程度の業界間の詰めは,実はほかの分野ではいっぱいあるんです。芸団協と放送,音楽とどこと出版者というような関係は幾らもあるわけです。その話合いの結論に至るような部分まで著作権法の条文に落とし込むというのは,実はしない方がいいのではないかなと私は思っております。それも加えまして出版者に私は,書協等の出版者の団体にこれからのビジネスの形成について大きく期待したいところであります。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 では,森田委員。

【森田主査代理】 いろいろなご意見を拝聴していますと,最初に前田委員がされた整理というのは非常に分かりやすいものであると思いますが,この「一体的」という用語がいろいろな意味合いで使われて,そこが収束しないまま議論が続くことは生産的ではないと思いますので,最終的な報告書にする場合には,「一体的」の意味内容を明確に分けて,それぞれについてどう考えるかという形でそれをはっきりさせることによって意見集約を図ることができると思います。次回におまとめいただくときには,そのような方向性での整理をお願いしたいと思います。
 その上で,今日のこれまでの議論で幾つかの問題点が出ておりましたが,まず,契約する場合のデフォルト・ルールという言葉の意味ですが,私が恐らくコンセンサスがあると思っているのは,仮に一体的型をとるとしても,電子出版を含む形で出版権を設定する場合には,そのことについての明示の合意を要求するという形で明確化を図ることが最低限必要であるということです。そうではなく,総合出版権を設定すると,特約で明示的に電子出版を除かない限りは全部について出版権が及ぶというような制度設計による一体化ということであれば,著作権者がいかなる内容の出版権を設定したのか十分な認識がないまま合意してしまうおそれが生じますので弊害が大きいと思います。その点についての手当がなされていれば,紙媒体の出版権と電子出版権の2個の出版権と構成しようが,総合出版権という1個の出版権と構成しようが,それぞれについて明確な合意があるということが最低限確保できますので,そのような制度設計にすべきではないかというのが1点目であります。
 それから,一体的な総合出版権とした場合に,改正前に設定された出版権が電子出版に当然に及ぶことになるのかという点ですが,これはあり得ないという整理になると私も思います。つまり,合意の時点では出版権の内容というのは紙媒体の書籍しか含まれていなかったわけで,そのような出版権を前提として合意が成り立っているものが,その後,法改正によって出版権の概念規定が変わることによって当初の合意の内容が変わるというのは背理であります。したがって,改正後に電子出版を含ませる場合には改めてその点について明示の合意をすることが必要であって,一体型をとろうが個別にしようが,いずれによっても電子出版権を追加するという形をとらざるを得ないのだろうと思います。
 これらの2点については,恐らくそれほど異論がないのだろうと思いますが,議論がはっきりしていないのが,権利は義務を伴うかという点です。今日,経団連の委員からその点も明確にしてほしいというご意見があったところですが,この点についてのこれまでの議論では,電子出版について出版権という権利を取得するということはそれに対応した義務も伴うということが,暗黙の前提とされていたといいますか,少なくとも明示的にそのことを否定されるご意見はなかったように思います。ただ,先ほどの金子委員の議論では,それを当事者が設定行為で定めておけば,つまり著作権者の同意をとれば,電子出版の権利だけ取得するけれども電子出版の義務は負わせないという形の出版権の設定も可能であるとおっしゃっているように聞こえましたが,私はこれを認めるのは適当ではないと思います。電子出版の義務がなければ,出版権の消滅請求の根拠というのはその義務違反があるから消滅請求が認められるという関係にありますので,著作権者から電子出版権の消滅請求ができず,出版者の許諾を得なければ他から電子出版することもできないことになります。それに代わるものとして合理的な期間を定めて,その期間経過後は消滅請求ができるとすればよいということでしたが,期間の方についても設定行為の定めによって期間の変更や自動更新が認められるとすると,著作者の同意をとってしまえば期間についても自由に定めて消滅請求を排除することができることになりますので,電子出版の権利だけを取得しておいて義務については著作権者の同意をとって排除するということが事実上できるということになりそうです。その同意の実質が本当に確保できるかという点についてやや疑義がある場合が生じうるとしますと,このような制度設計は問題が多いと思います。したがって,電子出版について権利を取得する場合にはそれに対応する義務も当然伴うものであって,その対応関係を設定行為で排除することはできないとすべきであると思います。また,当初の出版権設定の合意においても,電子出版を含めて出版権を設定する場合にはそのことについての明示の合意が必要であるとすべきであると申し上げましたが,電子出版をする義務を負うということがあって初めて権利も取得するという関係にあると考えるときは,電子出版の義務を設定行為で排除している場合には電子出版の権利も当初から設定の合意に含まれないと解すべきことになります。この点がまず確認される必要があるといいますか,電子出版の権利の付与にはそれに対応した義務も伴うことを前提として一体化というのか,それともその点を曖昧にして一体化というかによって大きく議論の内容が異なってきますので,この点について,もし電子出版の権利だけ取得してそれに対応する義務は当事者の合意で排除できるという前提で一体的な出版権をお考えの方があるとすれば,その旨を明示して,そういう制度設計にしてほしいということを明示的におっしゃっていただきたいと思います。
 それから最後の点ですが,概念構成として,私は今申しあげた幾つかの点が確保されるのであれば,出版権という広い概念の中に紙媒体の出版権と電子出版権の2つの権利が含まれるというふうに概念構成すること自体は,これは前田委員がサジェスチョンされましたけれども,十分あり得ることであると思います。今日のご意見の中には,最終的に読者に伝達する媒体が紙媒体であるか電子書籍であるかというところにだけにフォーカスを当てて2つの異なる権利であるということを強調していくと,出版行為というのはそれに至るプロセスとの一体的な性格を有するという面が法律上薄くなってしまうことに対する危惧も示されていましたが,その点について出版行為としての重要性が認められるという認識については異論がないと思いますので,これはある種の象徴的な意味ということになりますけれども,概念規定によってそういう危惧を回避できるのであれば,広い意味での出版権の中に紙媒体での出版権と電子出版権の2つの権利が含まれていると構成して,ただその権利の内容についてそれぞれに明示の合意をしなければいけないということと,それぞれの権利にはそれに対応した義務が伴うということを明確にした上でそういう概念規定をするということは,十分にあり得ることだろうと思います。そういう意味での一体化であれば,特に反対する必要はないかなという感じがしております。
 以上です。

【瀬尾委員】 ちょっとよろしいですか。

【土肥主査】 では,お願いします。

【瀬尾委員】 先ほど永江委員のペーパーを読ませていただきました。私も永江委員のペーパーには賛同するところでありますけれども,実際にもうここまで議論してきて非常に良い議論が進んできて,議論は結構熟しているけれども,最後,細部に入って最後のところで詰め切れていないのかなという気がしております。ただ,この中で出版者とそれから著作者とが良い方向に行くべきだし,電子の時代に明るい未来を切り開くべきという方向はこの中全員が共有している思いだと思っております。その中で,権利者団体同士でも話しましたし,いろいろなことを議論してきました。ただ,法制度以前に実務として一体化を要望される方たちが非常に多くいらっしゃるということはパブリックコメントをはじめとして,これは1つの事実として明らかであろうと思っています。先ほど永江委員のペーパーにもあったように,出版さんが果たしてきて役割とこれから果たさなきゃならない役割というのは急にできるものではない,これまでの歴史と経験の中から培われたものであることは,著作者は誰(だれ)も認めているところです。そういうことを勘案した上で,著作者の中でも非常にもうこういう声は出ていると思いますが,限定して言いますと,少なくとも写真分野に関しては出版権は一体で設定していただきたいと思います。これによって著作者と出版者とがより良い関係に向かえれば,それが一番いいだろうと。
 ただし幾つかのポイントがあります。1つは,何度も出ているようにフェアな契約習慣というものができない限り,これは一体にしようが,ばらばらにしようが,何であろうがこれは機能しない。それについては,これは契約ですからだまし合いではなくて信頼関係に基づかなきゃいけないとすると,そのシステムは一緒に作らなければいけない,これは文化庁であるのか,他省庁との連携であるのか,また民間の場であるかを問わずして総合的にフェアな場を作ることを早急に進めるべきだと,これはこの問題を解決するために必要不可欠だと考えています。
 それともう一つ,実際にこの立法というのを早急に文化庁さんのこの議論の延長線上で法制度化していただきたい。つまりこれが議論が袋小路にはまったままずるずる行ってしまうような危険性というのを若干感じますし,少なくともこの結論は文化庁さんからの内閣法案によってきちんと立法化していただきたい。そのためには,迅速にそれを成し遂げるためには実際に契約等のほかの制度で補完できることがあるとしたら,少なくとも実務として,権利者としてそれを進めていただきたいと要望します。
 それと,実際に議員連盟の先生方がいろいろな議論をなさっていらっしゃるということも聞き及んでおります。この場の議論とはまた大分違う議論でございますけれども,その議連の総会で出てきたペーパーなどを拝見いたしますと,少なくともそのペーパーに関しては,今回は限定して私の,さっき理事会をやってきてみんなに同意をとってきたんですけれども,写真分野としてはこの議連のペーパーなどは大変納得のできるものであるし賛同できるものである形になってきている,つまり議連の議論もここの議論も最終に向かっているとしたら,実務である出版の現状と,それに対応する著作者の現状とを勘案して速やかな立法に向けて早く結論を出していただきたいし,その結論を基に次の新しい施策を,やらなきゃいけないたくさんの施策,前に金子先生がおっしゃったように丸4等いっぱいありますから,そちらに向けてやっていただきたいなと希望いたします。
 以上です。

【土肥主査】 では,河村委員,どうぞ。

【河村委員】 私は消費者団体として,利用者,読者の立場でこの場にきておりますので,まずは一体化を望んでいらっしゃるところでよく出てきます海賊版対策についてです。出版者の方がおっしゃる海賊版対策,電子の海賊版が出ると紙の出版に損害があるからそれもやらなければならないと。でも,出版者の方がもっと嫌がっておられるのは,他者が電子出版することであるように聞こえます。海賊版も嫌ですけれども,他者が電子出版するということが一番紙の出版物にとって損害だというふうに聞こえるわけですね。利用者として申し上げたいことは,電子の出版権をとるということが,利用者にとって多様な選択肢ができて,使いやすくなって,いろいろな魅力的なサービスができてくるということにつながらなければ全く意味がないので,先ほど森田委員のおっしゃったことで言えば,きちんと電子の権利に出版の義務が伴うべきであるということです。他者に電子出版を出されないためとか紙の出版物を守るためとか海賊版対策をするためというようなことで使われるような権利を作るのであれば,本来の目的に全く適わないものになると思いますので,電子の出版権にはそのような強い義務が掛かるものを望みます。電子出版権とは,自分の会社としてきちんとした豊かな電子のサービスを,既存の出版を守るためだけじゃなくて,やらなきゃいけない権利なんだということにならなければ何の意味もないと思います。その上で,先ほどからいろいろなこういうような条件が担保されれば一体的型でも別々でも同じことじゃないかという御意見が出ているのは私なりに理解できるのですが,私としては,あんびる委員はじめ著作者の方々がおっしゃっていること,つまり契約上弱い立場の方がおっしゃっている不安を解消するために,同じことであるなら別々にするべきだという意見を申しあげたいと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 じゃあ,大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】 手短にお話ししたいと思いますけれども,今までの先生方の御意見を伺いまして,私は一番ぴんとくるのが松田委員が言われた方向で,まさしく私が申し上げたとおりですけれども,それ以降の先生は,私が言うのは何ですけれども,学者先生っぽいなという印象を受けました。まさしくこれ,先ほどから一体というからいろいろごちゃごちゃと問題が起きているのですけれども,原点に立ち返って,一体というのが何かムード的で法的にはよく分かりませんけれども,原則個別でばらばらというのを前提に契約で一体的にやっていくことを積み重ねれば,恐らく先ほどやったような難しい,論文を書くにはいいのかもしれませんけれども,問題というのはほとんど出てこないような,不要な問題ではないかと思います。学者としては興味がありますけれども,私は別に一法律家でもありますので,その観点から,先ほども御不安が出されていますけれども,恐らく不安感というのは本来シンプルなものを複雑にしてくれば,不安感が出てくることはむしろ当然と思われます。そのような意味でもできる限りシンプルに原点どおり別々に分けて考えるべきということでありますが,その点で,学者先生っぽいなというのが1つの印象であります。もう一つ,契約上の工夫という重要な点が強調されていないというのが私の一法律家としての,また,一法学研究者としてもの印象であります。ここでやろうとしているのは紙出版,電子出版をきちんと今後行っていくことであると考えると,やはりできるだけシンプルに原点に近いような形で,御不安,やはり人間,シンプルではない複雑なものを見れば,私ですら不安になりますので,そのような不安感を除去するということが重要だと思います。分かりやすくて納得感があるようなものということが重要だと思います。ここは純粋の研究会ではなくてこれから出版実務をどうしようかという場ですから,そちらの方にやはり軸足をきちんと置いた上で,契約をきちんとやるという努力を惜しまないということをしない限り,ここでやっていることは前進しないと思います。
 以上です。

【土肥主査】 金子委員,どうぞ。

【金子委員】 契約が重要だという点は私も認識が同じでありまして,ただ制度設計としてはこのように一体的型で,義務と消滅の範囲等先ほどのように申し上げたような形があるんではないかと考えて発言した次第です。
 その上で,森田委員の指摘に関してですが,まず期間について先ほど申し上げましたのは,塩漬けの問題に対する対応策としては,契約の内容に基づく義務違反の責任とは別に,むしろ当事者の定めに関(かか)わらず強行的に一定期間たったものについて電子で配信されていない,紙で出ていないというものについては消滅させるという制度設計が考えられるという趣旨で申し上げました。むしろそれは強行規定的なものとして申し上げた趣旨です。期間について設定行為による,当事者が定めるという趣旨で申し上げたわけではありません。
 その上で,義務については,おっしゃるとおり権利に義務は伴う,義務がないものは権利だけということの問題というのはおっしゃるとおりでありますが,私が問題としたいのは義務について電子と紙できれいに分けると,電子と紙の義務をそれぞれ別とすることが,今出版社が果たしている役割等に対して必ずしも対応するものではないのではないかと思うところであります。むしろその当事者の契約などに基づいてその要求されている義務の内容を定めるものとし,それによってさらに塩漬けの問題が懸念されるのであれば,それはむしろ一定期間経過後に出版権についての消滅請求を義務違反に関(かか)わらず認めると,そのような制度設計で対応すべきではないかと考えて申し上げた次第であります。もちろん義務についてもいろいろな制度設計が考えられるとは思います。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 この問題は非常に重要であるということは十分認識はしておりますけれども,時間の関係もございます。そろそろ次の論点に入りたいと思うんですが,前田委員から設定していただいた論点,経過的な取扱いの問題,この点については遡及させるというようなことはあり得ないという御意見が強いかと思います。それから,いずれにしても出版権設定というのは設定契約という設定行為は当然あるわけで,これなくしては出版権という権利を設定することはできないわけです。したがって,当事者の十分な合意というものを前提にしないとこの問題は先に進まないのではないかと思っております。
 それから権利と義務の対応の関係,出版者の義務と消滅請求の関係,これについては,伺っておりますと,やっぱりそれは紙については紙,それから電子については電子という対応関係はやはり要るのではないかと思いました。もちろんこの点についていろいろ組合せはあるという御主張は分かるわけですけれども,一応この論点についてはこのくらいにして次の論点に入りたいと思います。
次は海賊版対策なんですが,この海賊版対策の関係でいわゆる一体形式という構成が出てきております。さらにそのほかに,こういう制度に加えてみなし侵害規定を求める意見もございます。書協の先ほどの御意見からすると両方ないと困るという御主張であったかなとも思うわけでありますけれども,この点,最初に書協の金原委員に確認させていただきたいんですけれども,両方ないとまずいのか,あるいはいわゆる一体的形式というもので海賊版対策というものはできるとお考えなのかどうなのか,その点から議論を始めていければと思っております。よろしくお願いいたします。

【金原委員】 今の御質問ですが,一体型であって,しかも全(すべ)ての出版物に出版権というものが設定されれば,海賊版対策には非常に有効であると考えます。ただし,出版物はたくさんありますが,一部では設定契約ではない状態というんでしょうか,出版権の設定がされない出版事業というのも数多くあるわけで,それが全体のマジョリティーであるかというと,必ずしも私はそうは思いませんが,出版物の一部には設定契約ではなくて著作権の利用契約というものも存在するわけで,そうなりますと設定契約自体がありませんので出版権を持ち得ないということが起きているわけです。それは電子出版権が創設されたとしても状態は同じでありまして,さらに紙と電子が別々ということになりますと,海賊版が発生した場合に出版者としては出版権を盾に対抗することができないという状況が起こり得る。したがって,ちょっと繰り返しになりますけれども,一体型であって,かつ,全(すべ)ての出版物が設定契約に基づいて発行されるということになれば,海賊版問題はほとんど解決すると思います。ということでよろしいでしょうか。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかに,この点,海賊版対策の2番目の問題について御意見があれば頂ければと思います。
 瀬尾委員,どうぞ。

【瀬尾委員】 海賊版対策についてですけれども,最初に金原委員がおっしゃったように海賊版対策がこの立法措置だけで完全にできるということは,私はあり得ないと思っています。ほかの映像,それからほかの分野のコンテンツが中国その他いろいろなところにおいて違法流通してあって非常に困難な時代を経てきています。その中で,法律で権利があったからできるというだけでは全く解決しない問題が多種出てきている状況にあります。とすると,やはり今後のこういう問題についてはシステム,要するに制度と法律といろいろなものを複合させてちゃんと対抗しなければできないのではないかなと思っています。
 これ,先ほどの契約の話なんですけれども,やっぱり著者との契約の中でこの海賊版対策というものを軸に置いた契約がきちんと双方の納得した上で結べるようなことができないと,どんな制度を作っても,どんな法律を作っても駄目ですよね,多分。私はそう思う。それがいろいろなほかの方面の実務を見ていても明らかだと思います。ただし,だからといって何もなくてもいいじゃないかとは言えませんし,当然必要なものは必要なんですけれども,これまで立法,例えばこの小委員会で立法措置を考える,そして立法する,じゃあ,後は団体間で契約は相談してくださいとか,あとはこうやって当事者たちがこうでいいんじゃないですかっていうんじゃなくて,本当は今ここで話し合うべき問題は大きな制度,仕組み,電子流通の基本インフラの大きな話を作らなきゃいけないんじゃないかなと,私はそういう観点で思っている。ただ法律作れば済む話じゃないし,あとは当事者たちが勝手にやってねというものではないと思っているから先ほども賛成したんです。つまり,それによって契約とかその他のシステムがうまくいくようであれば良かれという複合した結果として正しい方向に行くということ,つまりここで立法が済んだだけでは私は全く何の問題も解決しないと思っているから。だからほかの仕組みをうまくやらせるためにはここはどうしたらいいのか,できればここで海賊版対策まで含めた全体論を本当は議論すべきであったと思っていますし,今でもそう思っています。ただし,これを,じゃあ,民民で当事者たちがやればというだけではない何らかの働き掛けが必要だとすれば,それは省庁をくし刺しにしたり,議員さんとかいろいろな関係の中であるわけですから,最も効果的な全体像を実現する方向ですべきかなと思っています。
 ですので,この海賊版対策ということで今金原委員がおっしゃった本当に全部設定できればいいと,有効であると,確かに有効であるでしょうけれども不足であることは冒頭で金原委員がおっしゃっている,もっと複合しなければいけないし,更なる追記が必要であるというと。だとすれば,この問題についてはそういうちょっと広めのところから海賊版対策というのをお考えいただいて,法律は一部である部分の認識をお持ちいただければ,実務者として我々が現場で契約して,お金をもらって本を作るんです。それは出版者がいないとできないんです。我々も書かなかったら出版者は出せないんです。で,本を出すのは出版者なんです。それがきちんと回らなかったら彼らが違ってしまう,私たちが違ってしまう,そういう中でどんな法律があっても効果は生まないと思います。ですので,そういう観点を,是非皆さん,お考えいただきたいと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】 前回申し上げたのと繰り返しは避けたいと思いますけれども,先ほどどなたか読み上げられたメモだと思いますけれども,海賊版対策と電子出版促進というのは,対立・拮抗する面があります。最初の頃(ころ)からそれを2つ両にらみで,要するに海賊版対策も重要だけれども,電子出版促進も重要ということで,要するにツートップのように2つ目的があってこの委員会は進んできたと思いますけれども,そういう意味では先ほどの点は非常に重要だと思います。法律改正だけしても海賊版対策にならないし,他方,法律を変えなくても海賊版対策ができる面もある,すなわち,例えば,第一には,訴訟実務の工夫の上で,単純に著者が自分で訴えるようにすればいいだけです。このように,契約プラクティスの工夫もあれば,訴訟等をどううまく組んでいくかという,訴訟実務の工夫もありますが,これらをどううまく組んでいくかというトータルな視点で考えていかない限りは,法制度だけ孤立的に考えても意味がないし,かつ,先ほどのようにここだけ過度に強調して制度を作ってしまうと電子出版の流通促進に反したりします。法制度と契約実務・訴訟実務の工夫の双方からトータルとして考えて,要するに最終的に海賊版対策ができるようにするという形で現実的に考える必要があると思います。

【土肥主査】 ありがとうございます。
 ここの話は出版物をデッドコピーしたインターネット上の海賊版対策ということなんですけれども,その出版物というのは雑誌をかなり想定しておりまして,この雑誌のスキャンによるネット上に上げた行為を止めるというこの点について御意見を頂きたい。
 前田委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】 今の点につきまして,中間まとめでは雑誌に限定した電子の出版権を設定して,その電子の出版権で対応すればいいんじゃないかというような趣旨で書かれていると思うのですが,これはちょっとどうなのかなと私は疑問に思います。と申しますのは,雑誌をスキャンしてデッドコピーしてインターネット上で流される海賊版の中には2つあって,雑誌を丸ごとデッドコピーして流すものと,雑誌を構成する一著作物をデッドコピーして流すものという2つのパターンがあって,前者はもともと編集著作権で対処が可能なので余り議論する必要がない。問題なのは雑誌の中から1つの著作物を取り出して,それをデッドコピーしたものをネットで流した場合だと思います。この場合については雑誌に限定した電子出版権の設定を受けていてもそれで対応できないんじゃないか,なぜならば個々の著作物をネットで流すという行為は雑誌としてネットで流しているわけではないので,雑誌に限定した電子出版権を設定することによる対応はできないように思います。それを可能にするためには,紙の雑誌に出版権の設定ができるという前提がまず必要なんですが,紙の雑誌に出版権が設定されて,そのみなし侵害によって対応するしかほかに方法がないように思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかにございますか。
 野間委員,どうぞ。

【野間委員】 雑誌の侵害ということで我々がイメージしていたのは,部分的なところを侵害されるということです。それは特に連載漫画ですよね,最初の小委会議でもお話ししたとおり,漫画の侵害は海賊版のなかでも一番多くて本当に困っていると。漫画の一作品に出版権の設定契約を結ぶことができて,それによって侵害対策ができれば一番いい。その場合,権利が一体化の形であると電子の侵害に対しても対抗できるのでその形が望ましいと思っていました。基本的にはそういった電子の侵害などに対応できるものが望ましいんですけれども,かといって,雑誌といっても,一つの雑誌には場合によると著作権者が数百人から,下手すると数千人いて出来上がっているものもありますので,その雑誌の中で全(すべ)ての権利者の方と契約を結ぶことは,またそれはそれで困難だろうと思います。でもとりあえず最低限,今一番被害に遭っている漫画の一作品であったり小説のそういった連載のところで海賊版対策ができるのであれば,まず大きな一歩かなと思っております。

【土肥主査】 ほかにございますか。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】 これも前回の繰り返しになりますので省略したいのですけれども,忘れておられる方もいらっしゃいますので。先ほど前田委員がみなし侵害以外ないと言われたのですが,これは前回も申し上げましたとおり,ちょっとこれは全くここには入りたくない難しい論点ですけれども,最低限言えますのは,今現実的な路線として物権類似の電子出版権として議論していますけれども,時々ちらりと申し上げているのは,本当は抜本的解決の1つは排他的ライセンスに基づく契約的な差止請求とかいうのは,御案内のとおり平成23年改正でもいろいろ検討したりしていますから,恐らく特許法としてはそれほど遠い先ではなく検討の方向に進むのではないかと思いますけれども,そちらの方がより細かい契約,ここでの出版権は物権類似であるので非常に堅い形でしかできませんけれども,先ほどのものは契約上のものなので,きめ細かい形でいろいろ処理できると思うのですけれども,そういうことを何で話をしていないかというと,これはまさしく現実路線として,そういうことをやり出したら,まず特許庁に決めてもらってそれからとかという先になりますので,要するに,そういう話は近い将来の課題として,今ある現実的解というのは物権類似のこの出版権であるということなものですから,そういう意味で私も実際上非常に自制して議論しているつもりであります。そういう観点からすると先ほどのみなし侵害というのは,全く不可能かどうかは別としても非常にハードルが高い,むしろ先ほどのをやった方が早いぐらいの話でしょうから,そのような観点からするとやはり,皆さんも1日も早くこれを実現して紙出版,電子出版の両方を振興したい,含む海賊版対策ということなのでしょうから,そういう意味では余りハードルが非常に高いものは,言うのはいいのですけれども,そんなところにエネルギーを使って半年遅らすか,1年遅らすか,10年遅れるか知りませんけれども,そういうことよりもやはり現実味のある解を求めていかないといけないと思います。少なくともこの立法実務のための審議会では,やはりそのような法的ハードルが非常に高いものではなくて,実際に海賊版対策をしたいのだったらもっと現実的な工夫があるのではないかと思っております。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 里中委員,お願いします。

【里中委員】 どんどん難しい話になってくるんですけれども,この海賊版対策に対して有効な手段というのは著作権者が訴えるというのはみんな知っているわけなんですね。ところがなかなか訴えない著作権者が多いということで,出版者が何とかしようと思っていろいろ努力なさっているというのはすごく理解しています。ただ,現実にこの法改正をもって海賊版対策するというと時間も掛かり,こういう様々な問題が出てきて大変なので,全(すべ)てやっぱり現実に即して契約でやっていくのがいいと思います。私が著作者で,自分の作品が海賊版で勝手に使われないように何だったら受け入れられるかと思いますと,例えば雑誌の場合ですと,雑誌連載時にまず原稿を渡すわけですよね。その時点で作者と出版者との間で期間限定の著作権譲渡とか,あるいはほかに法律的に何が有効かちょっと私はこの場では分からないんですけれども,期間限定で一緒になって海賊版を防ぐという意識が共通して出版者と著者で持つことができれば,現実問題,契約でどんどん進めるんじゃないかなと,素人考えではありますが思っております。だから法改正というのは本当に大変で,法というのは一度決めるとまたなかなか大変で,こんなしょっちゅう変えるものじゃないんですよね。安定して落ち着いた社会のためには法は絶対でならなければいけない,だからこそ短いスパンで考えてはいけないと私は思っておりますので,短いスパンで目の前の問題を解決するための有効な方法としては契約により著者と出版者が合意の下,一緒に闘えることで,特に海賊版なんかそうですが,そういう方法が採られない前にこの法改正による形というものが出てきたところで長引いているのかなと思います。こういうことが法の上で可能かどうか分かりませんが,契約だったら自由に著者と出版者が結べるわけですから,著者が自分の持っている著作権の利用を誰(だれ)にどの期間どのような形で許可するかということは著者の自由ですから,海賊版に対してはそういう方が手っ取り早い気がいたしております。
 済みません,ですから,この契約の話ですので,今ここにおける海賊版対策をどうしようかということについては,まるっきり的外れな言い方で本当に失礼だなと自覚しております。ただ,現実問題,法でどう守ろうと,海賊版はそれを作るのが可能な限りなくならないと,本当に空(むな)しい思いを抱いております。だから確信的にずるいことをして何かしようと思う相手に対して,この法だけで事が解決するのであれば世の中から犯罪というものはなくなるわけですが,なくならないわけですね。だからそういうことですから,現実的な契約に力を入れて一緒に協力し合うのがいいと考えております。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 松田委員。

【松田委員】 雑誌の,特に記事のデッドコピーに対してみなし侵害規定を設けて差止めができるようにするという考え方については,私は反対したいと思っています。2つ理由があります。1つは,そもそも著者がいて,その著者が動かない場合に出版者が容易に動けるようにしようという発想です。著者が動かないにも関わらず出版者が動くということ,そういう状況でみなし侵害を作っていいのかというのが1点です。もう一つ,今これから進んでいく立法が行われますと,おおよそ出版者は電子出版権を設定することができる状況を作ることができるわけです。その電子出版権設定契約を結ばないでおいてみなし侵害で行くというのは,いささか法律としてバランスを欠くように思います。2つの理由です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 渋谷委員,どうぞ。

【渋谷委員】 今の松田委員と,それから里中委員の御意見と同じようなことを申しますけれども,海賊版対策ということだけならば,里中委員がおっしゃったように期限付の譲渡契約を出版者と著作権者との間で結んでおくとか,それからもう一つは出版権を設定してもらうについても,設定契約の中で出版者の方で,自分は出版権を設定してもらうけれども,例えば出版義務は負いませんよというような特約を設定契約の中でしておけばいいんだろうと思います。ですから,契約で処理していただくのが一番自然じゃないかなと。みなし規定を置くというんですけれども,これを置きますと,現在のあの113条という規定がみなし規定なんですけれども,その113条が定めている内容とは随分違うみなし規定になるわけで,そうすると113条の2という条文を付けるかなというようなことになって,何か余り美的じゃないというような感じがしますね。著作権法はただでさえ枝条文がたくさん蓄積されていて,少し分かりにくいようになっているんですけれども,そういうことで113条の2をくっつける――あ,2はあるんですね。ですから,2を付けて現在の113条の2を3に繰り下げるというようなことをやらない方がいいんじゃないかと,その方が立法としては美的ではないかという感想を持ちました。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 じゃあ,森田委員。

【森田主査代理】 海賊版対策のいろいろな方策のうち,この小委員会で現在検討しているのは出版権に関するものに限られていますので,そこで示されている選択肢のうち争点となっているのは,紙媒体でしか出版しない場合に,そのような場合であっても,電子出版の義務は負わないが権利だけは電子出版権を取得できるという制度設計になる場合には,そのような電子出版権を取得すれば海賊版対策ができますから,それをしなかった出版者は別に保護に値しないという理屈が成り立ちますけれども,そのような制度設計ではなく,電子出版の権利を取得する場合にはそれに対応した義務も伴うという前提に立つときには,紙媒体の書籍しか出版しない場合には電子出版権を取得することはできないので,そういう方法によって海賊版対策を行うことはできないことになります。できなければそれは仕方がないからそのままにしておくのか,それとも,みなし侵害規定を置いて対処するのか,出版権に関連する海賊版対策としてここで検討すべきなのは,そこの選択肢だけだと思います。この点で,紙媒体での出版しか行わない場合には電子出版権を取得できないとすると海賊版対策ができないことになるから,電子出版の権利は取得するけれどもそれに対応した義務は負わないという形での出版権設定を認めてほしいという案が出てくるとすれば,先ほど述べましたように,それには弊害が多いので,それよりはみなし侵害規定を置いた方が問題は少なく実効的だろうと私は思います。この点についてハードルが高いというのは,先ほどの規定の美的な問題であるとか,あるいは従来のみなし侵害とは性質が異なるというアカデミックな問題というのはあるのはあるのでしょうが,立法技術としては,それは全く可能であると思います。そのようなみなし侵害規定を置いたときに具体的にこういう解決の困難な問題が生じるということは恐らくないでしょうから,そのような立法的な対応は可能だと思いますので,海賊版対策の関係では,その点に絞って,みなし侵害規定を置くべきかどうかという選択肢について検討すべきだろうと私は思います。

【土肥主査】 どうぞ,渋谷委員,お願いします。

【渋谷委員】 今の森田委員の御意見なんですけれども,私が先ほど出版権を設定するけれども,設定行為に別段の定めを置いて侵害対策にだけこの出版権が使えますというような約束をすることができるだろうというのは,現行の紙出版の81条を参考にして述べたので,全くとんでもないことを言っているわけではございませんので,その点,御了解いただきたいと思います。

【土肥主査】 ほかにございますか。
 では,河村委員,どうぞ。

【河村委員】 難しい法律論は分からないんですが,また,同じことばかり繰り返して申し上げているようで恐縮なんですが,海賊版対策というのが最大の目的であるならば,電子出版権である必要があるのでしょうか。電子出版権をとって海賊版対策とおっしゃいますが,電子出版権をもしとったら海賊版だけじゃなくてほかの会社から正規の電子出版が出ることも止められるわけですから,単なる海賊版対策とは全然違う意味を消費者から見ると持っています。ですからそれを海賊版対策という名の下に,そのために電子出版権という言い方は非常に違う意味を混同してしまっているので,しかもすごく影響の大きなことですので,そこは明確に分けて議論していただきたいと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかにございますか,この点。
 じゃあ,どうぞ。

【菊地著作権課課長補佐】 済みません,議論を遮って済みません。1点だけ,前田委員の御発言について確認させていただきたいことがありまして,手を挙げさせていただきました。
 中間まとめでは27ページ目になりますが,先ほど前田委員から雑誌の場合の出版権を設定した場合に及ぶ効力について御発言がございました。雑誌全体をデッドコピーされた場合にはその編集著作権が使えるのではないかということ,ただし雑誌の一部分を構成する著作物について,それが海賊版とされた場合には,それは効力は及ばないのではないかという話がございましたけれども,2つ確認させていただきたいのが,この2段落目の「したがって」以降のところにもなりますけれども,この電子の場合でもその雑誌を構成する著作物,一部分の著作物についても出版権は設定できるかどうか,これは中間まとめではできるということを前提に書いてございますが,それがまず確認させていただきたいことが1点です。
 それからもう一つは,「なお」として書かれてあるポツの3つあるうちの3つ目でございますけれども,当事者間において出版態様を雑誌に限定した場合は,それは電子の海賊版に対しても有効であるということを前提にこの中で書かせていただいたんですが,そのことについてお考えがあればお教えいただければと思います。

【土肥主査】 そうです。

【前田(哲)委員】 私が思いましたことは,雑誌に限定した電子の出版権の設定が可能だとしても,そういう雑誌に限定した電子出版権の設定を受けた人は,個々の記事のアップロードに対して侵害対策はできないんじゃないかということです。なぜならば,アップロードされているのは個々の著作物であって,雑誌がアップロードされているわけではないからというふうに思いました。
 2番目のことなんですが,確かに電子出版権を丸ごと設定した上で契約によって雑誌しか行使しないと,それ以外については行使しないという特約をすることは可能だと思いますし,そういう電子出版権が設定されたらば,それに基づいて個々の記事のアップロードに権利行使することは可能だと思います。が,そういうことをすると,まさに今,河村委員から御指摘がありましたように,そこの部分の電子出版が結局死んでしまうわけですね。電子出版権が設定されてしまいますと,ほかの人に二重に電子出版権を設定することができず,電子出版の許諾も著作権者からはできなくなってしまいますから,電子による利用が進まなくなってしまう。つまり,侵害対策のためだけに電子出版権を使ってしまうと,電子出版を本当にしようということが進まなくなってしまうという弊害が生じるのではないかと思います。

【土肥主査】 よろしいですか。

【小坂著作権調査官】 先ほどの続きで1点確認なんですが,今雑誌を限定するというお話があったんですけれども,2つの意味があると思っていまして,物権的に雑誌に限定するという場合と,当事者間の合意で債権的に雑誌に限定するという場合があると思います。前田先生がおっしゃっているのは,物権的に雑誌に限定した場合は,個々の記事をアップロードする海賊版に対しては,それは雑誌という態様ではないので侵害対策はできないという意味でおっしゃっているのであって,当事者間の合意で債権的に限定した場合については当然個々の記事をアップロードした海賊版についても侵害対策はできるという理解でよろしいでしょうか。

【前田(哲)委員】 おっしゃるとおりです。ただ,海賊版対策のために電子出版権を設定した上で債権的合意によって雑誌に限定するという行為をしますと,単行本で電子出版したいという人が電子出版権の設定を受けられなくなるし,著作権者からは電子出版の許諾も得られなくなるという河村委員御指摘の問題が生じると思います。

【土肥主査】 よろしいですか。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】 河村委員が言われた御懸念は非常に分かるのですけれども,それは,むしろみなし侵害にも,より当てはまるということにご注意いただければと思います。組み方によりますけれども侵害とみなされてしまうわけですから。先ほどちょっとよく分からなかった一部というのは,雑誌の一部分だけ取りだしたというその話でしょうか。それであれば,もうそれは解決済みで,これはよく思い出したら,どこかで見たなと思ったら私が発言したものだと思いますけれども,それが載っているそのとおりで,私はこれはもうかなり詰めた上で解決済みと思って前回発言しています。ほかの方法もいろいろ問題があって,先ほどの河村委員の御懸念はいろいろなところに及ぶので,これだけが悪者にされたのですけれども,ほかのものも同様の問題があります。この辺はトータルに考えると自(おの)ずから,明らかだと思います。さきほどのように,物権と債権とを組み合わせた現行法でも可能なものが述べられているし,先ほどの擬制侵害はあと10年掛かるか分からないような,ハードルが極めて高いというようなことを総合的に考慮すれば,これから現実的に近々に海賊版対策を打ちたいというときにどちらが解かというと,自(おの)ずから明らかだと考えております。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 この点は,じゃあ,もうよろしいですか,これぐらいで。はい。
 それでは,3番目の出版権者による再許諾の問題について,さらに意見交換を行いたいと思います。意見募集では特に紙の出版物の出版権に係る再許諾の在り方について意見が分かれておりますので,この点について意見を伺いたいと思っております。
 それでは,意見募集の結果,あるいはこれまで関係4団体からの御発表がございましたけれども,そういうものを踏まえて,御意見がございましたらお願いいたします。
 小池委員,どうぞ。

【小池委員】 先ほどの河村委員の発言,おっしゃっていることにもちょっとつながるのかなと思って発言させていただきますけれども,意見募集の中で大学の図書館から出されている中で,いわゆる機関リポジトリということで大学が今進めている学術系を中心にしたドキュメントというか著作物の公開が行われているわけですけれども,一種の先生方のパブリックドメイン的な使われた方として今広まっているんだと理解しているんですが,そういうものに対して,大学ではこの再許諾の部分で意見を述べさせていただいていると思っています。繰り返しですけれども,先ほど河村委員から出されたように,ある権利を認めたことによってあるところが阻害されるというか妨害されるというか,妨害だとちょっと言い過ぎかもしれませんけれども,阻害されるようなことになるということについては何らかの対策を打っていただいた方がよろしいのかなと思っております。機関リポジトリ自体の目的がやっぱり一定あると思っておりますので,何らかの権利制限なのかよく分かりませんけれども,そこへの配慮ということをお願いしておきたいなと思います。
 以上です。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかにございますか。
 渋谷委員,どうぞ。

【渋谷委員】 先ほどの出版義務を負わない出版権の設定というようなことで対応できるんじゃないかということを申し上げましたら,大分反対の御意見の方がおられるようなんですけれども,そういうときはそれこそ再許諾を求めて,それを得て出版すればいいのではないかなと考えていたわけです。

【土肥主査】 松田委員,どうぞ。

【松田委員】 再許諾の可否についてのみをお話ししましょう。これは現行の出版権についても再許諾の問題がありますから,そのことですね。これは当然認めるべきだと思います。むしろ80条第3項は,私は任意的規定だから,これに反する規定を合意してもかまわないと思っています。出版権を設定していて再許諾ができないよということを強行規定として考える人はいないと思うんですけれども,こう考えてもらえませんでしょうか。出版権じゃなくて出版許諾契約を結んでおいて,その出版許諾契約は再ライセンスは駄目だよ,何ていう論理はないと思います。全(すべ)てのライセンス契約は合意で禁止しない限りは,ないしは合意で再ライセンスを許すということになれば,それが無効だということはないと思います。ライセンスですらそうであれば,より強い物権的効果を付けている出版権について再許諾ができないというふうに法律で固めてしまうということは,あり得ないことじゃないかと私は思っております。

【土肥主査】 ありがとうございます。
 ほかにございますか。
 渋谷委員。

【渋谷委員】 再許諾の問題なんですけれども,紙本の場合の再許諾というと,単行本で出版した出版者がいて,その後,別の出版者が文庫本で出版したいというときに再許諾,これは紙本の出版権というのは複製権を許諾するわけですから,そういうことになると思うんですね。だけれども,いわゆる電子出版の場合は公衆送信権の再許諾になるわけですよね。言うまでもないことなんですけれども,ある出版者に対して私が自分の出版物を電子出版してくれと,電子出版というのは私の出版物を複製した上で公衆送信してくださいということをお願いするわけなんですけれども,そうすると出版者というのは自分では公衆送信できないのではないかと思います。ですから,売れる電子書店に公衆送信権を再許諾するということが必要になると思います。その著作者,著作権者にとってはどの電子書店から公衆送信してもらうか,配信してもらうかというのは大いに売行きに関(かか)わってくるわけですから,これは著作権者の承諾といいますかそれが必要になると。その意味において,紙本の場合は別の出版者に複製権を再許諾することについて著作権者の承諾が必要ですし,電子出版の場合は電子書店をどこにするかということについて著作権者の承諾が必要だと。問題は,法律的な本質は共通しているんですけれども対応が違うと思っております。皆さん方も当然そのことは念頭に置いて議論なさっているんだろうと思いまして,そういうことを余りはっきりしなかった私の方が少し回転が遅かったとおっしゃるわけでしょうが,そういうところが違うと思いますね,共通していてまた違うところもあるんだろうと思っております。

【土肥主査】 ありがとうございます。
 ほかにございますか。
 瀬尾委員,どうぞ。

【瀬尾委員】 再許諾については,実は著作者の間でいろいろな議論があったんですが,原則不可とするということを,これは強くみんなで考えたところです。ただ,実際にこの論点はそれでいいじゃないかというふうな書籍さんの意見表明もございますし,いろいろなところで当然それが妥当なんじゃないかなということでなっているので,電子に関して原則不可で,著作者の同意がある場合にのみ設定できるということかと思います。アナログの方でさらに再許諾がどうであるかということに関していえば,実際にはそれはそのまま触らない方がいいとか,再許諾ができる方がいいとかありますけれども,これはまた別の議論に委(ゆだ)ねたいと思いますけれども,この前から論点になっていた電子に関しての再許諾は原則不可とし,著作者によって良しとするという形で,余りそれ以上の議論にはならなかったというところであります。

【土肥主査】 ほかに,金原委員,どうぞ。

【金原委員】 再許諾の問題ですが,先ほど渋谷委員がおっしゃったように電子出版の場合は公衆送信権の再許諾が必要ということにほかならないわけです。出版者が再許諾せずに自ら公衆送信するというケースも,これはもちろんたくさんありますけれども,最大限の流通を図るという観点からいうと,公衆送信権を再許諾することによって様々な配信業者から流通を図る,それによってもちろん出版者もメリットがあるわけですが,再許諾に伴って当然それなりのライセンス料が入るわけですが,それによってそのメリットは著作者の方もそれを享受するということになります。我々の目標は1つの著作物を様々な方法で,様々な流通過程で,様々な配信事業者を経由してできるだけ多くの読者の方に届けるということですから,紙の媒体とやや状況が異なって,電子の場合は再許諾というもののプロセスを踏んだ方が出版者,読者,著作者,全(すべ)てにとってプラスになるという図式だろうと思います。そこで許諾が必要であるかどうかということについては,それは著者の先生方もいろいろ御心配もあるでしょうから,それは著作者の許諾の下にということでも結構かと思いますが,電子配信の場合は,電子出版の場合はやはり再許諾というプロセスを含めるということによって最大の流通が図られるということになるんだろうと思います。これは実務的な観点としてそのように考えます。

【土肥主査】 ほかにございますか。
 渋谷委員,どうぞ。

【渋谷委員】 金原委員のおっしゃること,私もそのように想像しておりました。ですから紙本の場合は再許諾というのは,瀬尾委員が先ほどおっしゃったかと思うんですが原則禁止なんだろうと思うんですね。単行本で発行しようと思ってある出版者に依頼していたのに,それが突然再許諾で別の出版者から文庫本で出しますよと言われて,それをオーケーしなくちゃいけないというのはおかしな話だと思います。だから原則は禁止だと思うんですね。だけれども,電子出版の場合は原則許容でないと著作者の利益にならないわけです。ですから,著作者が電子出版の再許諾に関(かか)われる部分というのはどの書店を使ってもらうかと,その選択について承諾といいますか同意が必要だと,そこの部分だと思いますね。公衆送信権を再許諾することについては,これはもう著作権者は,当然合理的な著作権者であればもう同意していると見た方がいいんだろうと思います。

【土肥主査】 ありがとうございます。
 ほかにございますか。
 どうぞ。

【作花文化庁長官官房審議官】 申し訳ございません,ちょっと誤解しないように確認だけしておきたいんですが,いわゆる電子出版権あるいは電子配信権,前田先生の場合は出版という言葉を使うべきだということですが,そういう新しい権利ができたときに,その権利者というのは誰(だれ)なのかと。つまり電子出版権者は誰(だれ)になるかというのと,それから事実上の行為として,さっき言った電子書店というのがありますね,配信行為を行っている電子書店が誰(だれ)なのかという問題があります。ですから,サブライセンスを考える場合に,電子出版権者と事実上の行為をする電子書店を混同して議論すると何か訳が分からなくなります。本来,電子出版権者というのは,ヒアリングでも出ているように編集・企画・流通に責任を負う者であるというのであれば,それは単に事実行為を行う電子書店というよりはまさに,さきほどの編集・企画・流通に責任を負う出版者のはずなんです。著作者との契約条項で何々会社の電子書店を使って配信します,期間は何年ですということが,電子出版権設定契約のとりきめの事項になっている場合,配信事業者を追加又は変更することは,サブライセンスというよりは,当該設定契約の変更の話になると思うんですが,そのあたりをやはり整理しながら議論していただければ幸いでございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 電子について,再許諾についての考え方を十分伺ったわけですけれども,今ご指摘の出版者がどういうところを使って送信するのかというのは契約内容である,もし決めたとしても,それは債権債務関係ということだと思うんですが,紙の方にどういう影響を与えるかという問題もあるんだろうと思うんですね。つまり,これは一体方式なのか別立て方式なのかという議論にもつながっていくわけですけれども,仮に別立て方式の場合に紙の方の80条3項はどうなるのか,この点は,要するに電子の方について一定の規定を設けると,それによる影響ですね,80条3項をそのまま紙のまま置いておくとどういうふうになるのか,はいかがでしょうか。はい,松田委員,どうぞ。

【松田委員】 電子も紙もその点はパラレルに規定を置くべきだろうと私は思っています。そして現行法の80条3項はむしろ削除してしまった方がいいと思っています。この規定,よく考えてみると不思議な規定ですよ。どうしてかというと,出版権は79条で物権的な設定として規定しているにも関わらず,80条の3項はそのものが許諾することができない趣旨の規定になっているわけです。これはむしろこういう条文はなしにして自由に許諾できるようにする。もう一つ,許諾だけではなくて出版権の設定を物権を取得した人は再出版権設定ができるようにして流通を促進すべきだろうと思っています。電子の場合も同じようにパラレルに考えるべきだろうと思います。そうすると79条は複製権者じゃなくて,出版を設定する権限を有する者とか何かそういう規定に変えないといけないことになるかと思いますけれども。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 ほかにこの点,大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】 先ほど事務局からあった点も恐らく一体とか,やはり同じ出版といっても紙出版と電子出版が違うというのを図らずも表していると思います。これを一体とするとまたいろいろと混乱してくるところがありますので,先ほどの点で編集を重視するのか,配信を重視するのか等も含めてもう一回きちんと。今日はちょっと最後で混乱し掛かっているので,その点とこの再許諾の点も,それこそ一体としてではなくて,きちんと全部整理した上でもう一回,現行法も恐らくパラレルではあるけれども,やはり紙と電子と全く一緒かどうかも分からないものですから,その点も含めて再許諾とは何ぞやとか,物権か債権とかいろいろ複雑な話になってくるかと思いますので,今日やると時間も経過していますし,複雑となっているものは駆け足でやるとろくなことはなさそうなので,きちんと次回にもう一回整理し直してから議論した方が良さそうな気がいたします。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 そこの点なんですけれども,本日までの経緯は,この中間まとめがあって,パブリックコメントをさせていただいて広くご意見を伺いました。多くのご意見を伺ったことに基づいて,今日こうやって皆さん,各委員の御意見を頂戴(ちょうだい)したわけです。これをもう一回続けるということなのかですけれども,私としては次のステップに行ければと思っておりますが,次のステップに行くところで議論させていただいてもいいということでしょうか。
 大渕委員。

【大渕委員】 どうぞ,どうぞ。それとの絡みもあるので,私はなるべく整理してからの方がいい,整理というのはどの段階でやるにせよ整理なものですから。そこはむしろ事務局とのスケジューリングとの関係になるので,そちらからお聞きした方が早そうなので……。

【土肥主査】 もし事務局で何か御予定があればちょっとおっしゃっていただいてもいいと思います。私としてはいつまでもというよりも,先ほど来から議論があるように,御意見があるように,余りこれを先に先に延ばすということは適当ではないと考えていますので,中間まとめ,パブリックコメント募集,意見聴取,それから本日の検討を踏まえた上で最終的なまとめに入れればと思うんですけれども,何か御予定はありますか。

【菊地著作権課課長補佐】 済みません,今,明示的にいつということをスケジュールとして持っているわけではございませんが,主査のおっしゃるとおりでございます。今後,最終的な取りまとめに向けて議論を進めていく上で,今議論になりました再許諾の部分についても事務局で一度整理させていただいた上で,最終まとめに向けた議論の過程でもう一度この議論をさせていただくということになろうかと思います。ただし,そのことによってさらに時間を掛けて議論するということではないという意見が非常に多かったようにも思っておりますので,効率的な進め方ができるように事務局内でも相談させていただいて,その上でまた主査とも相談させていただければと思います。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 私の時計は今日15分遅れておりますのでまだ19:00だと思っているんですけれども,もし御迷惑を掛けたとしたら本当に申し訳ございません。
 本日はこれで終わりにしたいと思うんですけれども,どうしても御発言を御希望の方がございましたら。前田委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】 1点,中間まとめでも論点が落ちている部分がありまして,修正増減請求権について,中間まとめで触れられておりませんし,この場でも議論されておりませんので,これをどうするかということを考える必要があると思います。現在の紙の出版権については,改めて複製する場合に修正増減請求ができると条文に書いてありますけれども,電子出版の場合には改めて複製するという増刷のタイミングがありませんから,どのタイミングで著作者から修正増減請求ができるのか,できないのかということを決めなきゃいけないと思います。簡単に申し上げますと,増刷という機会がありませんので,ここはもう正当な理由がある場合には著作者は修正増減請求ができるというような規範的な書き方をせざるを得なくて,あとは何が正当な理由に当たるかというのは最終的には裁判所で決めていただくというような規定にせざるを得ないんじゃないかなと思います。
 以上です。

【土肥主査】 その点については,確かに中間まとめに書いてあることは書いてあるんです。紙と同じように基本的には考えるけれども,紙がないわけですから,ないから修正増減請求権を認めないとは全く考えていないので,あるという前提で私は承知しておりました。あるという場合のどういう書きぶりかというのは先の話になるかと思いますけれども,いずれにしてもこの先に進んでいく過程の中で,やはりある程度事務局におかれても法制局とのいろいろな話合いの中で,今前田委員がいみじくもおっしゃったような問題等々,様々なバランスというのもあるんだろうと思っております。つまり,紙と電子の出版権の制度を構築する上で,それぞれの両者の間のバランスももちろんありましょうし,それから他(ほか)の既存のいろいろな制度との関係におけるバランスというのも当然あると思いますから,そういうバランスを踏まえた形で一定の成案にたどり着ければと,そういうふうに私としては期待しているところでございます。
 時間も参りましたので,本日はこのくらいにしたいと存じます。是非,事務局におかれましては,大変お忙しいと思いますけれども,年末に向けて先ほどおっしゃった最終的な取りまとめに向けた作業をお願いしたいと思っています。
 事務局から連絡事項がありましたらお願いいたします。

【菊地著作権課課長補佐】 本日はありがとうございました。次回の出版関連小委員会の日程につきましては,おって各委員に御連絡させていただければと思います。
 以上でございます。

【土肥主査】 ありがとうございました。
 それでは,以上をもちまして文化審議会著作権分科会出版関連小委員会第8回を終了させていただきます。本日は本当に皆様,ありがとうございました。

―― 了 ――

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