第15回国語分科会漢字小委員会・議事録

平成19年7月25日(水)

13:00~15:00

都道府県会館 401会議室

〔出席者〕

(委員) 前田主査,阿辻,甲斐,金武,笹原,武元,出久根,納屋,松岡,邑上各委員(計10名)
(文部科学省・文化庁) 町田国語課長,氏原主任国語調査官ほか関係官

〔配布資料〕

1  文化審議会国語分科会漢字小委員会委員名簿
2  文化審議会国語分科会漢字小委員会の議事の公開について(案)
3  文部科学大臣諮問(平成17年3月30日)
4  文部科学大臣諮問理由説明(平成17年3月30日)
5  国語分科会漢字小委員会における今期の審議について(平成19年2月2日)
6  漢字小委員会で検討すべき今期の論点(第6回漢字小委員会確認)

〔参考資料〕

1  文化審議会国語分科会運営規則
2  文化審議会国語分科会の議事の公開について
3  これまでの漢字政策について(付:人名用漢字)
4  漢字出現頻度数調査(『漢字出現頻度数調査(3)』,『漢字出現頻度数調査(新聞)』)

〔経過概要〕

1   事務局から出席者の紹介があった。
2  文化審議会国語分科会運営規則に基づいて,委員の互選により,前田委員が漢字小委員会主査に選出された。
3  文化審議会国語分科会運営規則に基づき,前田主査が林委員を副主査に指名し,了承された。
4  事務局から配布資料の確認があった。
5  事務局から,配布資料2「文化審議会国語分科会漢字小委員会の議事の公開について(案)」の説明があり,了承された。
6  事務局から,配布資料4,5,6,参考資料4についての説明が行われた。説明に対する質疑応答の後,配布資料5,6に基づいて意見交換を行った。
7  次回の漢字小委員会は,9月10日(月)の10:00から12:00まで開催することが確認された。会場については事務局から改めて連絡することとされた。
8  質疑応答及び意見交換における各委員の意見は次のとおりである。

○阿辻委員
 参考資料4のピンクの方の冊子『漢字出現頻度数調査(3)』から,ある漢字を探そうと思ったときは,どういうふうにすればいいのですか。例えば「お湯が沸く,沸騰する」の「沸」という字について,頻度数を調べたいときにはどうしたらいいのですか。

○氏原主任国語調査官
 ゴチック体で大きく書かれたページ数の249ページを御覧ください。249ページを見ていただきますと,「第1部索引」と書かれた中扉があって,次のページに部首索引,それ以降に索引が続いていますので,これで引いていただくということになります。

○阿辻委員
 部首索引の中は,画数順ですね。

○氏原主任国語調査官
 はい,画数順に並べています。

○阿辻委員
 そうしますと,ゴシック体のページ数の271ページ,柱の右から2番目の真ん中よりちょっと上のところに「沸騰」の「沸」があります。そこに「41(2026)」という数字があるのですが,この数字は何を意味するのですか。

○氏原主任国語調査官
 括弧内の数字「2026」というのは,上に注記があるように,出現順位です。最初に出ている「41」という数字はページ数を示しています。

○阿辻委員
 ゴチック体で書かれたページ数ですね。

○氏原主任国語調査官
 ゴチック体で書かれたページ数ではなくて,真ん中にある小さい方のページ数です。

○阿辻委員
 両側がダッシュ(-)で書かれている数字ですね。

○氏原主任国語調査官
 はい。ですから,「沸」の41というのは,ページ下段の真ん中に書かれているページ数で,41ページということです。

○阿辻委員
 ゴチック体のページ数で言うと,117ページですね。

○氏原主任国語調査官
 はい,そうです。ゴチック体で書かれたページ数の117ページを御覧ください。そのページの順位2026位に「沸」があります。

○阿辻委員
 ああ,なるほど。

○氏原主任国語調査官
 「沸」は,常用漢字で,出現回数が1,537回と出ています。

○阿辻委員
 種類の欄の「常用」は,常用漢字を意味するのですね。分かりました。

○氏原主任国語調査官
 関連して申し上げると,「第2部」をちょっと見ていただけますか。「第2部」というのはゴチック体で書かれたページ数の299ページです。
 第2部は,今回初めて調査したのですが,小学校用・中学校用・高等学校用の教科書を対象にしたものです。教科書では,小学校用の教科書から実は表外漢字が結構出てくるんですね。そのことを我々もきちっと認識しておくべきだろうということで,教科書でどのくらい漢字が使われているのかを,表外漢字も含めて調査してみました。
 ただ,この「第2部」に関しましては,今見ていただいたような索引がないんですね。今回,「第1部」だけに索引を付けたのですが,やはり「第2部」にも索引があった方が便利なので,今,作成しているところです。「第2部」の索引は,冊子にして『漢字出現頻度数調査(3)』の中に挟み込めるように,判型をこれより一回り小さくしています。9月に開催される漢字小委員会の時には,「第2部」の索引も挟み込んだ形の冊子を机上に置くことが可能だと思います。

○甲斐委員
 今年のうちに字種の選定をと言われたのですけれども,長期的に言って,何年間でこの答申を仕上げるのでしょうか。見込みで結構ですけれども,例えば3年間なのか,それをちょっと話していただきたいと思います。

○氏原主任国語調査官
 先ほど見ていただいたように,文部科学大臣から敬語と漢字についての二つの諮問事項が出されて,それを検討してきたわけですが,敬語の方はこの2月に答申が出て一応終了しました。当初から,漢字については,敬語が終わってから2年ないし3年を目標とすると言っています。これは厳密に言えば,2期ないし3期間ということになります。
 文化審議会の規定で,1期間の任期は,2月5日から翌年の2月4日までとなります。今日は7月25日ですので,1年間の半分,半年ぐらい実はもうなくなってしまっているわけです。ですから,3期,仮に敬語の答申が終わってから3年というふうに考えても,実際に残された時間は,あと2年ちょっとということになります。
 具体的に申し上げると,平成19年2月に答申「敬語の指針」が出ていますので,その3年後というと,平成22年の2月となります。ですから,現時点の目標は,平成22年の2月に,「新常用漢字表」を作成するということになります。ただし,本当にできるかどうかということは,委員の先生方のお力にすがるしかありません。非常に厳しい日程だろうとは思いますが,これまでの経緯から一応の目標としては平成22年2月ということでお願いしたいと思っております。

○阿辻委員
 私も含めて何人かは,前期の漢字小委員会からの継続なので恐らく覚えていらっしゃるのではないかと思うのですが,配布資料5の3ページ目にある「(3)字種の選定」というところです。(1)(2)(3)(4)のグループ分けがあって,その下に,(3)の漢字の一部を「特別漢字」(=出現頻度数は低くても,日常生活に必要な漢字)と位置付けるかどうかとまとめていらっしゃるのですが,私の記憶では,例えば「戸籍謄本」の「謄」とか,「弾劾裁判所」の「劾」という漢字が具体的に話題になったと思うのです。そこでは,出現頻度数にかかわらず,省庁として必要とする文字があるのではないかという議論があったような気がするのです。
 例えば「戸籍謄本」の「謄」という字は,恐らく頻度数は低いだろうと思うのですが,これを常用漢字に入れないと,霞が関では困るだろうという気がするんですね。
 そういう枠の受皿として「特別漢字」という仮称を用いたのではなかったでしょうか。省庁等々の必要性があるものというような位置付けもあったのではないかという気がするんです。「特別漢字」というのは,昭和17年か何かの漢字表に出てきた言葉でしたよね。
 「日常生活に必要な」ということは,拡大解釈すれば,こうした漢字ももちろん「日常生活に必要」なんですけれども,ちょっとニュアンスが違うのではないかという気がするのです。その辺のところは,ほかに覚えている方がいらっしゃれば,補足していただければ有り難いと思うのですが…。

○氏原主任国語調査官
 配布資料5の「特別漢字(仮称)」というのは,今,阿辻委員のおっしゃったとおりだと思います。前期の議論においては,阿辻委員が「戸籍謄本」を例に挙げておっしゃっていたことだったと思います。

○阿辻委員
 そう,私が「戸籍謄本」を挙げていましたね。

○氏原主任国語調査官
 この配布資料5自体は,今年の2月に文化審議会の総会にも出している資料です。ですから,前期の漢字小委員会や国語分科会総会でもかなり議論して,このようにまとめられたものです。例えば,(3)のところは,「文化の継承という観点から」となっていますが,漢字小委員会の議論の中では,「日本人として読めなければいけない漢字」となっていました。それが国語分科会の総会で,ちょっと言い過ぎではないかという御意見があって,「文化の継承」というような表現に修正されたわけです。

○松岡委員
 今の(3)の実例は,「歌舞伎」だとか,そういうことでしたね。

○氏原主任国語調査官
 はい。それで,阿辻委員がおっしゃったとおりで,「日常生活に必要な漢字」ということです。「戸籍謄本」の「謄」がないと,日常生活にも困るだろうということです。日常でも「戸籍謄本を取る」というように使うわけですから…。確かに「日常生活に必要な」というような言い方になると,少し範囲が広がった言い方になってしまうのですが,趣旨としては阿辻委員がおっしゃったことがここに含まれていますし,漢字小委員会でも了解されていたと思います。

○阿辻委員
 もう一つ。ちょっと今はまだ早いかもしれませんけれども,当用漢字から常用漢字への移行の段階では,1文字も削らずにスライドしたわけですね。今回は,現行版の常用漢字から削るということも当然視野に入れておられるということでしょうか。
 例えば「1勺」の「勺」とか,「パン1斤」の「斤」というのは,これはもう削るという方向で考えてもよろしいのでしょうか。その辺は,まだ議論もなかったかなという気がするのですけれども,字種の選定に進んでいくのだったら,そこはちょっと合意を取っておかないとという気がするのです。

○氏原主任国語調査官
 少し歴史的な経緯を踏まえて申し上げます。当用漢字表というのは1,850字です。常用漢字では,今,阿辻委員がおっしゃったように,1,850字から削った漢字はありません。「常用漢字表」になるときには,「当用漢字表」の1,850字に,新たに95字を加えただけです。ですから,当用漢字1,850字+95字で,常用漢字1,945字となっています。
 ところが,「常用漢字表」は,最終的には1,945字なんですけれども,途中段階の昭和52年「新漢字表試案」は,1,900字,昭和54年の中間答申では,1,926字でした。これは,「当用漢字表」と比べて増えているように見えますが,どちらの漢字表でも,実は当用漢字表から削ろうと考えていた字がありました。最終的に,1字たりとも削らないという方向になったので,1,945字になるのですけれども,途中段階では実は削ることも想定していました。
 ただ,これは前にもお話し申し上げたと思うのですが,削るについてはいろいろと強い反対意見もあって,結局削れなかったという経緯があったわけです。反対意見の中には,例えば「繭」など,そういう産業が盛んなところの議会等で「「繭」を削ってくれるな」と議決して,要望書という形で表明してきたといったところもあります。
 ですから,「当用漢字表」に入っているということが非常に重くとらえられていた時代だったんですね。「常用漢字表」になると,目安ですから,別に「常用漢字表」に入っていない漢字だって使ったって構わないし,逆に,常用漢字だって使わなくたっていいわけです。けれども,当時は,今お話ししたような反対などが結構起こったのです。阿辻委員のお尋ねについては,結局ここで決めることですから,当然削るか削らないかということは委員の皆さんにお決めいただく問題です。
 前の常用漢字表の時は,削るということが外に出たときにかなり大きな反対があった。したがって,最終的には,「これまで当用漢字として慣れ親しんできたので,それらについては1字でも削ると,各方面への影響が大きいので,1字も削ることなく追加した」という考え方になったわけです。今回も,最終的に,この考え方を採るのかどうか分かりませんが,そこは,この漢字小委員会でお決めいただく問題だと考えております。

○前田主査
 具体的な字になると,削る,削らないという問題になってきます。そういう点で,一般論としては,削るということはあり得るというふうに考えていいと思うんですね。

○松岡委員
 名称は「常用漢字表」に単純に「新」を付けるかどうかということもありますが,新しい漢字表をどういうものと我々が考え,どう世の中に提案していくかという,そこをはっきりさせることが大事ですよね。
 常用漢字表に入らなかったら,それこそ「言葉狩り」という言い方は良くないですし,使わないことが望ましいみたいに思われてしまうと,たとえ1字であっても,どれを削っても必ずそれに対して反対の意見が出てくるでしょう。けれども,そういうことではなくて,その定義というか,その提案をするときに,常用漢字表なり,新常用漢字表なりを私たちがどういう考えでふだん使っていきましょうということを,とてもはっきり提案することが,まず大事ではないかなと思います。
 そうでないと,当たらず触らず波風立てないために,現状維持で,それにちょっと手直ししてというような,何だか余り訳の分からないことになってしまいがちです。だから,私たちを囲む,書いたり読んだりという状況が新しい情報機器によって変わってきたからということも踏まえ,「広場の言葉」というのですか,みんなが,とにかく最低このくらいは知っていると不自由なく意思の疎通ができるとか,何かそこのところを本当にはっきりメッセージとして出すことが大事ではないかな,というふうに改めて思います。

○笹原委員
 この「情報化社会に対応する漢字政策の在り方について」という諮問に対して,日常生活でよく使われる漢字というのをまず字種のレベルで探し出していくというときに,凸版印刷の頻度数調査(『漢字出現頻度数調査(3)』)が繰り返し行われ,今回,新聞の頻度調査(『漢字出現頻度数調査(新聞)』)も出てきたということで,これは世の中の実態の一つを反映する貴重なデータだと存じます。
 諮問にある「情報化社会に対応する漢字政策」といったときに,恐らく背景にあるのは電子機器における漢字使用だと思うんです。恐らくこの凸版調査の元になっている書籍というのも,作家の方々やいろいろな方々がほとんど,現代ではワープロソフトで文字を,漢字を打ち込んでいるということが想像されますし,新聞も恐らく記者,校閲の方が同じように電子機器で作っておられるということで,この情報化社会の漢字をとらえる上での中核的な資料だと存じます。
 その一方で,「日常生活でよく使われる漢字」という言葉からイメージするのは,午前中の国語分科会においてちょっとお話として伺ったときに,ブログであるとかホームページであるとかそういうもので,これらも電子媒体の生み出す文字といったときのある一角を占めているように存じます。そのブログであるとかホームページの資料というものも,後に出てくるのかというのをまずお伺いしたいと思います。

○氏原主任国語調査官
 午前中の国語分科会の時に申し上げたのですが,実は今,資料の作成に動いています。今の見通しだと,秋には多分,漢字数だけで数億以上の規模で,例えばブログでどういう漢字が使われているのか,といった調査結果の資料が出せると思います。
 ただ,具体的に言ってしまうと,例えば「Yahoo!」などで,「Yahoo!」という会社そのものが作成しているページは,前期の漢字小委員会でも申し上げたのですけれども,基本的に新聞の表記に従っています。新聞社等で出している「用字用語のハンドブック」を基にして,それに準じて作っています。そういう会社で作っている部分というのは,その意味でほとんど新聞の調査と同じ結果になるわけですね。
 ただし,ブログなどは個人が自分用のページを作ってやっています。掲示板もそうですが,個人が割と自由に作っているところの文字遣いを調べるために,ブログなどを中心に今資料を作っていまして,何月ごろというふうにはっきり申し上げられませんが,秋には出てくる予定です。
 事務局が提供する資料としては,参考資料4の調査冊子が基本資料になると思います。これに基づいて字種を選定していく中で,「表外漢字字体表」も参考にすることになるかと思います。「表外漢字字体表」そのものが,これまでの「漢字出現頻度数調査」の結果を綿密に組み合わせた字種表になっていますので…。このような形で作業を進めていけば恐らくかなり精度の高い字種表が出てきて,その過程の中で,今申し上げたようにブログだとかの頻度表も併せて見ていくことになると思います。事務局としては,そういう形を考えています。ですから,委員の皆さんにもいずれ冊子の形でお渡しできると思います。

○武元委員
 また,違う観点からなんですが,字種の問題にしましても,音訓の問題にしましても,学校教育とのかかわりというのは非常に大きいと思うのです。
 前に,氏原主任国語調査官に一度お尋ねしたことがあるんですけれども,今のところ,次の小学校の教科書は「平成22年度本」になるということが,大体固まりつつあるようなんですね。ということは,我々教科書発行会社は平成20年度の秋ぐらいに,恐らく,教科書の,いわゆる申請本を提出しなければいけないという状況になると思うんですね。
 さっき伺ったところでは,3年間,後2年半ほどでという話になりますと,例えば常用漢字表の字種を定め,その中から小学校で学習すべき漢字を定めたとしても,申請本に盛り込むことは非常に困難だというふうに考えざるを得ないと思います。
 ところが,一方で実効性を追求するとなると,やはり学校教育の中での漢字の指導というのは非常に大きな意味を持ってくると思うんです。「平成22年度本」に間に合わないとなると,恐らく次は「平成26年度本」であるとか,そこまでずれ込んでしまうと思うんです。そうなると,ひとまず基準ができたとすると,移行措置のようなことになる可能性があるのではないか。そうすると,学校現場が非常に混乱を来す可能性があると思うのですが,その辺りのことはどのように考えればいいのでしょうか。

○氏原主任国語調査官
 学校教育との関係については,配布資料5の最後の4ページを見ていただきたいのですが,ここに「学校教育における漢字指導との関係」ということで,「今後更に検討すべき課題等」の1項目として入っています。今後更に検討するという前提の下に,一応常用漢字表の考え方を継承しようということはある程度この委員会の合意事項になっています。常用漢字表の「答申前文」で,「常用漢字表は,その性格で述べたとおり,一般の社会生活における漢字使用の目安として作成したものであるが,学校教育においては,常用漢字表の趣旨,内容を考慮して,漢字の教育が適切に行われることが望ましい。なお,義務教育期間における漢字の指導については,常用漢字表に掲げる漢字のすべてを対象としなければならないものではなく,その扱いについては,従来の漢字の教育の経緯を踏まえ,かつ,児童生徒の発達段階等に十分配慮した,別途の教育上の適切な措置にゆだねることとする。」ということで,常用漢字表のころからこういう考え方が示されています。確かに教育に関しては,今正におっしゃったとおりで,いろいろ配慮しなければいけないことがたくさんあると思います。
 ですが,どういうふうにスムーズに移行していくかとか,そのときにどういう手立てが必要なのかとか,そういったことは教育の中身に直接かかわってきますので,国語分科会がそこに関して言及することはできません。見方によっては,「無責任だ」というふうに言われてしまうのかもしれませんが,常用漢字表のころから,「学校教育で一番いい形でお進めください。」というような考え方で来ていまして,結局,今回も基本はそうせざるを得ないだろうと思います。逆に言うと,国語分科会の方で,「これこれについてはこう考えてほしい。」というふうには多分言えない問題なのだろうと思うんですね。そういう意味では,さっきも申し上げましたが,学校教育に関しては,十分配慮しながらも,教育そのものを直接の対象とはしないということだと思います。
 ただ,タイミング的には,今おっしゃったように非常に微妙な時期ですね。ですから,これに関しては,本当に平成22年の2月にできるのかどうかということも含めて,今後の様子を見ながらということになるのではないでしょうか。今日も文部科学省の担当課の方に来ていただいていますので,ここでの議論なども少し勘案しながら,そこはなるべく無理のない形で進めていただくということを我々としては,お願いするしかないのかなというふうに考えております。

○前田主査
 個別の具体的な問題になってきますといろいろ御意見もあると思いますが,差し当たって御発言いただいた方もあるし,まだ御発言いただいていない方もあります。本日は最初の回ですから,一応,前期の漢字小委員会で考えてきたことの粗筋がお分かりいただければ,いいと思っています。具体的なことは,これから検討していくことになってきます。粗筋を御理解いただくということで説明を頂いたわけですが,それが実際にこういう意味であるとか,この面についてはどうだろうかということは,これから考えていかなければいけない問題だろうと思います。
 今回は,初めての回ですから,一応,出席なさっている皆さんに,自分の立場といいますか,所属しておられるところとかそういったことも含めまして御紹介いただいて,御意見を頂いた方がいいのではないかというふうに思っております。
 それで,先ほどから,この説明についての質疑と,それから御意見を伺うこととがちょっと区別しにくいところがありまして,既に御意見に入っているところもありますので,ここでは自由に意見を交換するということを中心にしていただきたいと思います。御出席のお一人お一人について一応お話しいただければと思います。

○阿辻委員
 私は,既に幾つか発言をいたしましたので,一つだけ。先ほどの氏原主任国語調査官の御説明に対しての質問で,甲斐委員にお答えいただく方がいいのかもしれませんが,学年別配当漢字表というのは,あれは文部科学省の学習指導要領で決められるものですか。

○甲斐委員
 文部科学省の初等中等教育局です。

○阿辻委員
 初等中等教育局ですか。そうしますと,今回の漢字表が平成22年2月に仮に答申として出たとしまして,そこから,学年別漢字配当表の新しいアレンジが始まるというふうに理解してよろしいのですか。

○甲斐委員
 こちらに初等中等教育局の方が見えていますけれども…。

○石塚学校教育官(初等中等教育局・教育課程課)
 学校教育の話が出てきましたので,ちょっと御説明させていただきたいと思います。
 現在,文部科学省の初等中等教育局におきまして,学習指導要領の改訂の作業を進めているところでございます。学習指導要領は,現在のところ,今年度中,平成19年度中の改訂というのを目指して作業を行っているところでございます。そういたしますと,現在検討されている「常用漢字表」,これが先ほどの氏原主任国語調査官の話でございますと,3年後ぐらいを目標にということでございますので,そういたしますと,現在,改訂作業を進めている学習指導要領には,間に合わないかと思います。
 新しい「常用漢字表」を今後,学校教育の中にどうやって取り込んでいくかといいますのは,資料の中にもございましたように,こちらの文化審議会とは別に中央教育審議会の下に教育課程部会というのがありますので,具体的には国語専門部会になろうかと思いますが,その中で御検討いただくということになろうかと思います。
 学年別漢字配当表につきましても,現在小学校学習指導要領において学年ごとの配当漢字が示されているわけでございます。ですから,そういったものについても,この新しい「常用漢字表」というものが示された場合には,それを学校教育の中で,学年別漢字配当表の取扱いも含めまして,どういう取扱いにしていくかというのは,教育課程部会の中で具体的に御審議いただくという形になろうかと思います。

○阿辻委員
 分かりました。私は,中国の古典的な文字文化を専攻しております。日本の国語政策とそれほどには自分の研究領域はかかわらないのですが,一人の日本人として,電子機器,あるいは手書きで日本語を漢字仮名交じり文で書いていくときに,より効率のいい,そして文化的に洗練されたというのは変な言い方ですけれども,自分でも満足ができるような漢字の規格ができればいいなと思っています。
 やはり視野の対象としては,電子機器の普及ということが一番大きな問題であることは間違いないのですが,ただ,私どものように古典を目の片隅に据えているという人間から考えますと,やはり余りにも現代的な視野ばかりでは困るという意識もかなりあります。また,これはいつか議題にさせていただこうと思ったのですが,たまたま今日の午前中の国語分科会の総会に配られましたこの日本語教育のカラーの刷り物の中で,「地域社会で軋轢(あつれき)を生じている」と「軋轢」という言葉がボンとここに使われております。これを見ていますと,私個人では「軋轢」という言葉はすごくしっくり来る表現なんですが,果たして現在の一般社会で「軋轢」という言葉を漢字でボンと書くことに対しては,一体どれぐらいの賛同が,あるいは反対があるのか。その辺のところは,やはりかなり慎重に考えていかなければいけないのではないかなという気がします。
 漢字の頻度数調査,これは大変重要なことだと思いますが,同様に,語()の調査というのも,どこかで必要なのではないかなという気がいたします。

○甲斐委員
 私は,発想としてはどうしても学校教育のところからの発想が強すぎて,今期は少し言葉を控えようと思っているのですけれども,やはり発想がそうなる。
 例えば,今日の午前中もある人と話をしていたときのことです。振り仮名付きの文字が教科書に出てきたときに,「これは振り仮名付きだから,読めればいいんだよ。」ということであったとしても,教師は黒板に書くことがあるでしょう。そうすると,子供もノートに写すことになる。その場合に,その振り仮名付きの漢字の扱いというのは,「書けなくていいんだよ」と言いながら書かすことになるわけで,そこら辺りをどういうふうに考えるといいかということがある。
 私も,今,阿辻委員が「語彙の観点から」ということを言われたことに賛成です。それで,事務局への要望ですけれども,ここにあるのは,字種を選定するための漢字の文字の配列であるわけです。この中の例えば前後,理想的には前に2文字,後ろに2文字,合計五つの文字の一覧があると,どういう熟語として出ているか,固有名詞なのか,どんな言葉なのかというのが分かって,これは音訓を考える上でも必要だし,それから語の認定の上でも,漢字の使い方の上でも必要だと思うんですね。
 例えば,上から3,500字ぐらいまでのところの,ある資料に限った上での前後2文字,2文字が難しければ1文字ずつでもいいんですね。三つの文字列でも良い。3文字の場合でも,四字熟語は推測が付くということになるわけですが,そういうデータというものを何か作成していただけないだろうか。これがあると,字種選定というときに,かなり大きな力を発揮するのではないかと思うのです。
 私は,昨年度,大学院の授業で1年間『漢字出現頻度数調査(2)』を使わせてもらったんです。常用漢字を全部引きました。そうすると,部首から引くというのでも,なかなかややこしいのがありまして,引けないのがあるんですね。やはり凸版独特の漢字の部首配列というのがありました。それは,それでも何とか引くことができるわけですが,頻度数調査には,文という観点は一切ないんですね。ということで,お願いしたいというふうに思います。

○金武委員
 私は日本新聞協会におりますが,新聞,放送が文字を使う場合の立場として,二つあります。まず書き手の側の要望。それから,それを読む,あるいは聞く,見る,読者・視聴者側の要望ですね。
 新聞や放送は,国語施策に協力してきました。昭和21年の「当用漢字表」以来,できるだけその範囲で漢字を使っていこうというように,まず読み手の立場に配慮したわけです。今回も,先ほどの説明にもありましたように,情報機器というものは書き手の方には便利であるけれども,読み手については特に進歩してはいないわけですから,やはり読み手に対する,つまり,一般の人が正に読めて,意味が分かる範囲のものが基本的には常用漢字であろうと思います。そういった意味では,教育ともつながっていくのではないかと思っております。
 そこで,これはまた要望なんですが,今までの資料としては,頻度表,どれだけたくさん使われているかというものはもういろいろ出ております。一方,この字は読めるのか,読めないのか,もちろん字だけではなくて熟語も含めてですけれども,意味が分かるかどうかということの調査は非常に難しいというお話でした。新聞や放送も多少はしておりますけれども,大きなことはできませんので,できれば,大規模ではなくても,例えば中学・高校・大学ぐらいを抽出して,何校かのモデルを作って,そこで適当な文字なり言葉なりを選んで,どのくらい読んで意味が分かるかという調査をなるべく早くしていただけると,今度は頻度表で線引きした後に,この字を選ぶか選ばないかというときの参考になると思っています。

○笹原委員
 私は大学で教えていますので,大学生が文章を書くという場面によく遭遇するわけですが,作文であったり,メールであったり,いろいろなものがあるわけですけれども,そういうのを見ていますと,例えば,ワープロソフトで文章を書くと,「ふさわしい」という形容詞は「相応しい」と表記されているものが提出されます。
 同じ層の学生に,「ふさわしい」というのを漢字の書き取りをさせてみると,もちろんこれは表外音訓ですので学校では習っていないわけですが,そうするととんでもない当て字を3文字ぐらい書いてきたりして,どうも書くことはできないらしい。しかし,変換はそれしか漢字が出ないので,うろ覚えで出している者がいるらしい。
 その一方で,うろ覚えどころか全く知らないけれども,変換キーをたたく習性が付いていて,そうするとそれらしいものが出てくる。それを信じて,辞書代わりにして確定するという,そういう今までになかったような文字生活の書記行為というものがどうも観察されるようです。そういう電子媒体で書かれたものもそうなのですが,手書きで書かれたものを見ていても,例えば「おなか」という言葉は,大学生はもうほとんど100%,平仮名の「お」と「腹部」の「腹」で,「お腹」と書いて「おなか」と読む。常用漢字表では,「腹部」の「腹」は「はら」という訓読みしかないので,表外訓ということになる。「表外訓だよ。」と言うと,皆一様に驚くわけですね。
 電車が「こむ」というのも,書かせると,98%ぐらいの大学生が,「さんずい」に「昆虫」の「昆」という字の「混」を書いてくる。「それも表外訓だよ。常用漢字で言うと,「しんにゅう」に「入」の「込」という字だよ。」と言いますと,かなり意外がる。
 「へこむ」なども,気分が落ち込むというときに「へこむ」と携帯で打つと,「凹凸」の「凹」というのが変換で出てくる。そうすると,そこで字を覚えて相手に送る。相手も初めてこの「凹む」は,「へこむ」と読むのかと覚える。
 そういう半ば辞書のような役割を携帯なりメールなりが,し始めているという状況が観察されまして,恐らく今度御準備くださるというブログのデータなどに多く反映されていると思いますが,今まで委員の方々がおっしゃったように,文字列が多少なりとも分かりますと,どういう使い方がされているのか,その頻度の背景にある用法というものが見えれば,字種の選定の次の段階として,音訓の選定というのがあると思いますが,その際にきっと役立つのではないかと思いました。

○武元委員
 私は教科書会社の者でございますが,大半は小学校の国語の教科書の編集に携わっておりました。漢字の定数というのは,小学校の場合は半ば強制的でございますので,かなり泣かされた記憶がございます。
 例えば,「仁義」の「仁」であるとか,「蚕」,「聖人」の「聖」,それから,恐れ多いのですけれども,「陛下」の「陛」などという漢字は,ほうっておいたら絶対に出てこない漢字でございまして,意図的に当てはめていかないと実際には教科書上には出ないというような漢字でございます。そのように,実際には実生活ではほとんど使わないような漢字も小学校では必ず学習するというふうになっている。実態はそうなんです。かといって,大げさかもしれませんが,そういう伝統や文化にかかわるような漢字がなくてもいいかというと,決してそんなことはないと思います。その辺のバランスを取っていくことが非常に大切なことではないかなというふうに思っております。
 この配布資料5では,「(1)読める」,それから「(2)分かる」,「(3)書ける」という三つの視点で分類しておられましたけれども,これを,思い付きですけれども,例えば日常生活の意思疎通,コミュニケーションにおいて絶対に必要欠くべからざるものというふうに位置付ける,つまり,(1) ,(2) ,(3)の性格を持つものと,それから日常生活において不便がないようにという,例えばですけれども,これを,(1) ,(2)の性格を持っているものというふうに分けて,「常用漢字」それから「準常用漢字」と呼ぶのかどうか分かりませんけれども,そのように示していくというふうなことも考えられるのではないかなと思いました。
 さらに,これは本当に思い付きですが,日本語教育との関係ということで行けば,(1) ,(2) ,(3)の性格を求めるものではない漢字については,例えば,そういった漢字を,地名であるとか,伝統文化であるとかというような分け方をして,意味分類的に示しておくというふうな方法もあるのではないかなと思いました。

○出久根委員
 私は文章を書くのが仕事でございますから,漢字も平仮名も使いますけれども,漢字というのは単語でとらえるというよりも,文章の流れの中で考えたり,覚えたりするわけですね。ですから,この漢字小委員会で,単語としての問題というと,何となく私としては仕事柄違和感がありまして,単語でやると,大抵の人にはやはり難しくて,本当の意味も分からないでしょうし,教育するといっても大変難しいだろうという気がするんですね。
 でも,漢字というのはやはり文章の流れの中で使えば,小学生でも分かるということがありますので,「この漢字を使ってはいけない。」とか,「こういう漢字は難しいからよそう。」と言われると,私はちょっとその分類というのは,何かこう,外れているのではないかという気がしてしょうがないんですよ。
 どんな子供でも,一つの文章の中で漢字を使えば,意味はすぐ分かると思います。ただ単語だけ抜き出して,例えば先ほどの「軋轢」というのは,それだけでしたらもう絶対に分からないと思います。これは大人だって分からない人もいると思います。その意味で,例えば,「こういう問題で軋轢があった。」という文として教えれば,小学生でも分かるのではないかという気がしますね。したがって,漢字の問題というのは単語で考えると絶対に駄目だろうという気がします。ですから,「これは日常主に使われている漢字だから,よし,残そう。」というのではなしに,「使われないけれども,でも重要な意味があるから一応残しておこう,言わば文化遺産として後世にまで残そう。」という,こういう姿勢も,私どものこの漢字小委員会や国語分科会では考えた方がいいような気がします。
 私も初めて今日出席しまして,どういうことを言おうかという考えもなかったのですけれども,私はそういう気持ちでおります。漢字に対しての気持ちですね。

○納屋委員
 私も,初めて委員にさせていただきました。どうぞよろしくお願いします。
 多分,私の所属が高等学校ですから,後期中等教育,この範(ちゅう)のところでお話をということだと思っています。聞かせていただいて,これまでの審議の内容というのが大変に勉強になりました。自分で勉強になったということだけではなくて,こういう,この経過について公表されていることについても,そのことが文化になるということで重要なことなんだなと思いながら伺っていたんです。
 私は,もともと国語審議会,文化審議会国語分科会の委員になるというふうには思っていなかったものですから,これまで外側から見ていました。是非,文化審議会国語分科会は,先のところまで考えた上で,一つの権威であってほしいというのが私の思いでした。
 その意味からすると,漢字の問題については,どう考えてみても文化庁は「美しく豊かな日本語」というふうにやってきていますが,今は総理大臣が「美しい国」と言っているので,そこに折り込まれてしまって,「豊か」の部分が消えているのではないかと私は思っています。
 つまり,阿辻委員から始まって,ずっとやはり文化遺産として残さなければならないと言っている漢字があると,私も思っています。これは,情報化時代が進展するのであればあるほど,失ってはいけないのではないかというふうに考えて,日ごろから子供たちとも接してきているところですので,残すべき言葉―先ほどの例で見ますと,文化が変化してきているので,尺貫法にかかわる言葉の頻度数が少ないのは当然かもしれませんし,それから「御名御璽」とか「朕」だとかという言葉だって,やはり頻度数が少なくなっているというのも分かります。分かりますけれども,それでいいのかなというふうに当然ながら考えます。新しい教育基本法がうたっているように,「文化と伝統を尊重し」というふうに,それで「それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」という中に,当然ですけれども,私は文化遺産である漢字があると思っていますから,その点でやはり頻度数だけで切らない方が安全だというふうに思いました。
 「特別漢字」というのが出てきまして,「ああ,そうか,こういう考えもあるのか。」と思って伺っていましたので,また今後ともこういうところで,今度は教える立場からしたらどうだろうかというのも含めて発言させていただければ有り難いと思っております。
 高等学校は18歳で一応終わるというふうに考えて,大体18歳,19歳,二浪までして20歳ぐらいのところまでで,大体若い人たちは,進学,就職で,何らかの形で外側から,その人の持っている学力とか,人間性のようなものを測られている機会を持っているんですね。そういうときに,漢字の持つ重要性というのはやはり大事なもので,それまでに培っておかないと,将来の日本は危ないと思いますので,その点から私も発言させていただきたいと思っています。

○松岡委員
 私は主に戯曲の翻訳を仕事にしているのですけれども,個人的にそういう仕事に携わっている立場から漢字の問題で関心があるのは,先ほど笹原委員もおっしゃっていた表外訓の問題なんですね。
 私の場合は戯曲の翻訳ですから,英語が日本語になったときに,それを俳優さんなり,アマチュアの役者さんでもそうですけれども,声に出して言わなくてはならない。そうしたときに,例えば,「はぐくむ」という言葉に「育」という漢字が当たっていた場合と,ただ平仮名で「はぐくむ」というふうに台本で与えた場合とでは,役者さんの中に出てくるイメージとか,情というのが変わってくると思うんですね。それから,「こたえる」というのでも,「返答」の「答」を使う場合と,「応じる」の「応」を使う場合とがありますね。例えば,決闘の挑戦を受けたとき,「受けてこたえる」とか,「こたえて立つ」というときには,必ず私は「応じる」の「応」を当てて台本として提供するわけです。
 英語では,「答」も「応」も,両方とも「アンサー」なんですけれども,「答」では本当に返事をするというだけで,全く意味が変わってしまうでしょうし,あるいは「こたえて立つ」というふうに平仮名でやったときも変わってしまう。やはり,役者さんの中に沸いてくる,決闘を受けてそれに対して自分もやってやるんだという強い気持ちというのは,多分,「応じる」の「応」を使って,「(こた)える」と書いて渡した方が強く出てくると思うんですね。ですから,今回も個人的には,訓読みの見直しというところに一番関心があります。そここそを,豊かにするということが一つの方針として考えていただきたいというのが,私の個人的な気持ちです。
 それから,午前中,市川團十郎委員が,漢字というのには美的な意味もあるのだから,書道ですね,そういうことも考えてとおっしゃいました。そこまで行かなくとも,私は,ずっと一貫して手書き,書写ということを忘れないように,そこははっきり打ち出していきましょうということを申し上げているのですけれども,それはやはり漢字だけを取っても,「読める・分かる・書ける」「読む・分かる・書く」の「分かる」というところと一番深く結び付いているところだと思うんですね。というのは,手書きを正しくする場合は,やはり筆順ということが問題になってきますし,「イ(にんべん)」一つ書いても,それが「人」という字の書き順と結び付いたときに初めて,それが人間とかかわった状態だったり,行為だったりというので1文字になっているんだよ,それを知れば,その文字全体と意味とが同時に分かってくる。ですから,手書きというのはただ「昔やっていたことを,なくさないでおきましょう」ということではなくて,現在ただ今,漢字,文字を理解することに直結しているからこそ大事なのだということ,手書きと書写の重要性ということは忘れてはいけないことだというふうに思っています。

○邑上委員
 今回からお仲間に入れていただきました,新宿区の落合第四小学校の邑上と申します。小学校は東京に1,320校ありますが,その代表にはとてもなれません。私も自分自身が教諭として何校かの小学校を経験し,校長として2校経験していますので,その辺りからしかお話しできませんが,大変責任を感じております。ただ,本当にこれからの将来を担う子供たちの大事な漢字教育につながる会議に出席させていただくのは有り難く思いました。
 小学校教育においては,まず子供たちは小学校1年生から漢字を学ぶことが大変な喜びなんですね。平仮名を学んできた,漢字を学んできたということは,学校で勉強しているというのでしょうか,その喜びなんですね。象形文字の本当に「山」とか,「川」とかから始まって感じたその喜び,興味,関心が,当然のことながら教育用漢字1,006字の全部を学んでいくうちにだんだんと薄れていく。これは,私どもの指導の問題でもあるなというふうにも思いますけれども,学年も後ろになると,漢字教育に当てる時間数がどんどん少なくなったりして,ゆったりとした漢字教育が十分にできなくなっているという現状があります。学校現場というのは,今ITがどんどん進んでいるという割には,漢字教育はいまだに,ノート,黒板,練習帳を使いながら丁寧にやっているわけなんです。けれども,最終的に定着が図れないような問題がだんだん出てきまして,本当に学校現場を抱える者としては残念だと思っているところもあります。あんなに興味,関心を持って漢字を学ぶのに,実際に文章を書く段階ではかなり平仮名ばかりになってしまったり,家庭に帰ってのお手紙もそういう状態になったりいたします。
 それから,今では,もう本の形態での辞書を使わなくなり,子供でもインターネットですぐ調べてしまうというような傾向が,高学年などは,総合的な学習の時間のところであります。そういうことを含めて,今の情報化社会に本当にすぐ直結する子供たちのことを考えると,今回の御提案の趣旨,考えていかなければならない方向性というのは,本当に大事だなと思っています。ただ,安易に「今の流れに,流れに」というところに持っていきたくないなという気持ちは,委員の方々のお考えを,お聞きしながら私も思いました。単なる漢字だけでなくて,言葉とか文章とか熟語とかを大事にする子供を育てていきたいというふうに思います。
 まだ今日は,こういう意見をということは言えずに,実態だけをちょっと御報告させていただきます。必要に応じて子供たちの実態を探ってくることもできますので,何が問題かをもっと教えていただければと思います。

○前田主査
 最後になりましたが,私はもともと日本語の語彙の歴史をずっとやってきたわけです。語彙の歴史の中で,語彙をどう表記するのかということが,漢字と非常にかかわっています。しかも,中国とはかなり違った流れを持っておりますので,日本における漢字の歴史の方もしっかりと考えなければいけないと思うようになりました。
 そして,さらに,最近になりまして,文化を支えるという意味での漢字の役割といったものを気にしております。今回こういうふうな機会を与えられましたので,何とかここでそういう文化的な見方から,漢字の問題を考えていきたいと思っております。
 そういうことで,発言はこれで一巡しました。皆さんには,非常に貴重な御意見を頂きましてありがとうございました。事務局の方からも何かあれば,お願いします。

○氏原主任国語調査官
 1点だけよろしいでしょうか。先ほど甲斐委員から,調査に関して,前後の文字を含めた調査ができないかというお話が出ていたので,そのことだけ申し上げたいと思います。
 実は,『漢字出現頻度数調査(3)』を作るときに,甲斐委員がおっしゃったような形は当初から考えておりました。具体的には,文脈を持った状態で切り出すことができないかということで,ある漢字の前5文字,後ろ5文字,すなわち5+1+5ですから11文字を初めは考えていましたが,それではデータ量が膨大になるので,今は,3+1+3の,7文字で考えています。もっと短くしなければならないとすると,2+1+2で,5文字になるかもしれません。ともかく,この『漢字出現頻度数調査(3)』を使ってサンプルを作り,どのような形にするかを検討する予備作業に入りました。
 ただし,これは大変な作業です。つまり,さっき甲斐委員がおっしゃった3,500位までやるとなると,延べ漢字数5,005万のうちの累積度数99.8ぐらいまで行ってしまうわけです。全字種は8,576字ですが,3,500位までで,5,000万弱の文脈があるということなんですね。それで今,どういう形の調査が可能なのかということを探っています。ある程度進んだ段階で,委員の皆さんにお示しして「今こういうことをやっています。このような形でよろしいでしょうか。」と,御報告かたがた見ていただくようにしたいと思っています。ですから,そういう作業はもう始めつつあるということが一つあります。
 それから,金武委員がおっしゃった調査ですが,これは前にも申し上げましたように,こういう状況の中で,国民の一人一人に行うというのは非常に難しいですよね。文化庁でも毎年,「国語に関する世論調査」をやっていますけれども,近年は回収率が落ちてきていますし,国勢調査でさえ回答を拒否する人が出ています。そういうことを考えますと,どのくらい漢字が書けるか,読めるかというのは,その人のプライバシーにもかなり深いところまでかかわりますので,実施するのは相当難しいと思います。
 もし,やれるとするとやはり学校だとかになるのですけれども,例えば,これはいずれ御相談させていただきたいと思うのですが,全国の新聞社で,例えば新入社員として入ってくる方たちを対象として調査していただくというのも一つの選択肢としてあるのかなと思います。新聞社に入ってくる方というのは,一般の人からするとかなり漢字の力のあるレベルだと思うんですね。そういう人たちでさえ,例えば,余り読めない漢字であるとかというデータがあると,説得力があると思うんですね。
 ここで委員の皆さんの御意見を伺いながらですけれども,例えばそういうようなことで何か一緒に調査をやっていただくとか,そういうような形でうまく調査ができないだろうかと考えております。

○金武委員
 先ほど申し上げたのは,今おっしゃったように,学校を対象としたらどうかということで,それなら何とかやれるのではないかと思いましたものですから…。新聞社の新入社員への調査も不可能ではないと思います。

○氏原主任国語調査官
 学校だとか会社だとか,そういう単位でやらないと,やはりちょっと普通の世論調査のような形態では,今の社会状況では難しいと思うんですね。

○前田主査
 残り時間がだんだん少なくなってまいりましたが,そのほかに何か,いろいろ御意見がありましたら伺いたいと思うのですが,どなたかいかがでしょうか。

○阿辻委員
 表外音訓の問題で,4ページの「今後更に検討すべき課題等」のア)ですが,これは答申を出す段階でもう音訓表も付けて出すということなんですか。字種を選定してから後,その音訓をもう同時に答申として出してしまうということになりますか。

○氏原主任国語調査官
 阿辻委員のおっしゃっている「答申」という意味で言うと,それは,いわゆる「新常用漢字表」でということになります。その構成は,現在の「常用漢字表」と同じ形になるので,字種表と音訓表と字体表が合体したものになると思います。

○阿辻委員
 そうすると,その字種を選定する流れの一環として,同時に音訓も考えていかなければならないということになるわけですね。

○氏原主任国語調査官
 はい。ですから,字種がある程度固まった段階で,音訓をどうするかという問題が出てきて,最終的には,字体の問題も含め,三つの問題が同時に絡んでくると思います。

○阿辻委員
 実際にやってみないと分かりませんが,字種優先なのか,あるいは読み方優先なのかという問題が出てくるかもしれないんですね。例えば,頻度表で高い数字が出てくるから,この字種をという,この漢字を取り込もうという場合と,この訓を生かしたいから,それも常用漢字に入れようという,そういうケースがあるかどうかはまだ分かりませんけれども,その辺のところ,ちょっと微妙な問題になってくるかなという予感がするんですけれどもね。いずれにせよ,最終的には,音訓もそろえた形で出すということですね。

○氏原主任国語調査官
 はい。これまでの経緯からすると,そういう形になると思います。

○前田主査
 そのほか,どなたかございませんでしょうか。いかがでしょうか。
 課題が多くて,どうも,時間的なことで考えると非常に難しい問題と思いますが,それをどういうふうにして能率的に進めることができるかということについては,また別に考えていかなければいけないというふうに思います。
 そういった具体的なことについては,今後回を進めるに当たって,いろいろ御意見を頂きたいというふうに思いますけれども,差し当たって今日お集まりいただいて,そして,特に初めてこういうふうな議論に参加していただいた方々,何か,もし御意見などございましたら承りたいのですが,いかがでしょうか。

○出久根委員
 今後,こういう会が開かれるわけですけれども,前もって私どもに議題,つまり「こういうことを議論いたします」というようなものは頂けるわけですか。

○前田主査
 ある程度は事前にお教えする形になっていますが,細かなところまではちょっとお教えできない場合もあるかもしれませんね。

○出久根委員
 ああ,そうですか。というのは,こうやって皆さんが集まりましても,何かまとまらないのではないかと…。何か一つの議題があって,それをあらかじめ私どもに知らせていただければ,当日までの間に考える余地もありますよね。議題も分からないまま,いきなり出席して意見を求められても,ちょっと分からないというところがあると思うのです。

○前田主査
 今日は最初の回で初めてですので,そういうふうな点での御理解を頂く時間がございませんでした。けれども,これからの回では,回をやった後に,まとめがあって,それで,これからどういう問題が討議されるという話があることが望ましいですね。それについては,事務局の方でお考えいただいて,次の回の前までに案内を出していただきますので,そういう形での情報は前もってお知らせできると思います。つまり,その前の回のまとめと,それから議事としては,案内の文面,こうなりますよね。ただ,案内の文面は,多少日にちが近づいてからということになりますね。

○氏原主任国語調査官
 そうですね。開催案内は割と簡単に,「○○について」と議題を書くだけです。ただ,前もってということであれば,今後なるべく,具体的にどういうことをやるのかを事前にお知らせする方向で考えていきたいと思います。次回の議題に関しては前田主査と御相談して,どういうことについて話し合うのかを,少し丁寧にお知らせいたします。

○出久根委員
 細かくなくて結構ですけれどもお願いします。テーマがないと,何かこうまとまらないような気がするんです。せっかく集まりましてもね。

○納屋委員
 時間がないところ大変申し訳ないのですが,いわゆる「新常用漢字表」が決まった後,私先ほど,やはりこの審議会は権威を持ってということを言ったのですけれども,普及のことも是非とも考えていく必要があると思うんです。
 教育の方からすると,敬語の問題などでも,昭和27年に「これからの敬語」が出たときに,今はもう「わたし」「わたくし」「ぼく」の使い分けというようなのは,そのとおりだと分かるような気がしたものですけれども。しかしながら,日常生活になるとそう簡単な言葉の使い方はしてなかったりもしました。
 もし漢字を減らしてしまうということになったなら,なぜ減らしたのかということの理由,それを端的に分かるような形というのが欲しいなというふうに思いますし,増やすのなら,増やしてこういうことがあるんだということも明確に普及できるような準備も進める必要があるのだと思っているのです。そういうふうにしていただくと,使う方からすると有り難いと思っています。

○前田主査
 その点については,何かありましょうか。
 なるべく説明をする機会もありますけれども,例えば表の中に示すことはちょっとできないですよね。議論の過程は公開しているわけですから,それを見ていただくと,これを入れるか入れないかとか,入れる方針とか,そういったことが文面として出ているというふうに思いますが…。事務局はいかがですか。

○氏原主任国語調査官
 漢字表を具体的にどういう形にしていくかという議論の中で,現在の常用漢字表の形が決められていったわけですが,そこにはそういう情報は何も入っていません。今の御意見の感じだと,「備考」の欄などがありますので,そこをもう少し充実させることを考えるとか,そういうことで対応できるかもしれません。いずれにしても,この問題もこれからの委員会の議論の中で決めていただくことになると思います。

○前田主査
 それでは,国語課長がいらっしゃいましたので,時間もちょうど良い時間になりましたから,今日の協議はここで終わりにしたいと思います。
 では,ここで,国語課長からごあいさつを頂くことにいたします。

○町田国語課長
 皆さん,熱心な御討議,本当にありがとうございました。
 今日は漢字小委員会と日本語教育小委員会と二つ重なりましたものですから,ちょっと私,失礼をしておりました。日本語教育の方は今回初めての会合ということで,今日は日本語小委員会の方に出させていただきました。漢字の方は去年からずっと継続して御審議いただいているということで,皆様方に,安心してお任せできるというところもございました。今後,二つの小委員会が重なるということは多分ないと思いますので,どちらにも毎回出席させていただきたいと思っております。
 多分,言うべきことはすべて氏原主任国語調査官から申し上げていると思いますので,特段申し上げることはないのですが,とにかく,新しい漢字表を作るという作業がいよいよこれから本格化してまいりますので,作業としても相当大変なものになると思います。
 そういう点では,委員の皆様方には大変な御負担をお掛けすることになるのかもしれませんけれども,とにかく数十年に1回の大事業ですから,新しい漢字政策というか,国語政策の1ページとなり得るようなものをということで,是非皆様方には絶大なる御協力をお願いしたいと思います。
 今期の最初の漢字小委員会に当たって,一言ごあいさつをさせていただきました。どうぞ,今後ともよろしくお願いいたします。

○前田主査
 本日は,以上で終了いたします。有益な御意見をいろいろ賜りまして,ありがとうございました。
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