議事録

第20回国語分科会日本語教育小委員会・議事録

平成21年7月6日(月)
10:00〜12:00
旧文部省庁舎2階第1会議室

〔出席者〕

(委員)
西原主査,杉戸副主査,伊藤,伊東,井上,岩見,尾﨑,加藤,佐藤,中野,西澤,山田各委員(計12名)
(文部科学省・文化庁)
匂坂国語課長,西村日本語教育専門官,山下日本語教育専門職 ほか関係官

〔配布資料〕

  1. 第19回国語分科会日本語教育小委員会・議事録(案)
  2. 「生活上の行為」の事例の整理
  3. 「生活上の行為」の分類一覧

〔参考資料〕

  1. 日本語教育小委員会の検討スケジュール

〔経過概要〕

  1. 事務局から配布資料の確認があった。
  2. 前回の議事録(案)が確認された。
  3. 事務局から配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」と配布資料3「「生活上の行為」の分類一覧」についての説明があり,その後,資料の内容に関し,質疑応答と意見交換を行った。
  4. 次回の日本語教育小委員会は,9月中旬に開催されること,詳しい日程及び開催場所については決まり次第,事務局から各委員に連絡することが確認された。
  5. 質疑応答及び意見交換における各委員の意見は次のとおりである。
○西原主査
これから今の事務局の説明について検討したいと思います。配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」で取り上げられている事例がすべて学習項目になるという話ではございません。これは「生活上の行為」の基本的なデータベースです。データベースとしては詳しい方がよろしいであろうという想定で,ワーキンググループは1,600もの項目を置いているわけです。これを今度は標準的なカリキュラムに変換させていく際に,精査していく作業があるというわけです。
今期の目標に「生活上の行為」の学習項目の検討及び整理ということがありまして,この「生活上の行為」のデータを基にして,地域で,あるいは在日するすべての外国の方々が,「市民統合」という言い方をすると誤解があるかもしれませんけれども,日本で生活をしていく上でこのようなことを学習していただきたい,あるいは学習していることが想定されて日本での生活があるというところに落としていかなければいけないわけです。けれども,「「生活上の行為」の精査」と「学習項目の検討」というのは続きのものであります。先ほど事務局の説明に関して杉戸副主査から何か追加項目を入れたくなったときに,又は削りたくなったときにどう処理したらいいかという御意見がありましたけれども,データベースというのはそういうものです。生活が変われば「生活上の行為」も変わりますでしょうし,新しい展開があれば新しい項目が生じてくるものであり,流動的なものであろうかと思います。「生活上の行為」の精査は,「今の段階ではワーキンググループがここまで作業をしました。」ということになります。
先ほど星印についての説明が事務局からございましたけれども,第一のステップとして,「学習項目」ということに関連して,「生活上の行為」の中から一番生活に密着して,来日直後,日本の生活が始まるというときに,すべての外国の方に必要で優先度の高いものを一つの段階として取り出すという作業を始めており,該当する「生活上の行為」の事例に星印を付ける作業を始めております。
配布資料3「「生活上の行為」の事例の分類一覧」の左側から大分類,中分類,小分類とありまして,小分類のところに15の星印が付いているわけです。この15の小分類になぜ星印が付いたかと申しますと,先回も少し御報告がありましたが,国立国語研究所が「生活のための日本語」について全国レベルのアンケート調査を行いました。その結果「生活のための日本語」の分類について第一段階の中間報告が出ましたが,それよりもう一つ後の作業として内容分析をなさっています。その分析の結果,「生活のための日本語」を分類する幾つかの要因が抽出されております。その一番最初の要因として,来日してすぐに必要になる項目,あるいは,来日直後に始まる「生活上の行為」というものがあります。それからもう一つは,余り複雑なやり取りを生じないものという,そういう二つの御説明で項目の分類をしていただいたと思うのですが,その第一段階のところを国立国語研究所の研究を参考に小分類に星を付けてみたところ,この資料3「「生活上の行為」の分類一覧」にありますように15の小分類に星印が付いたということになるんです。学習項目へ落としていく中で,そのことを第一段階として行ってみたわけでございますけれども,それらのことにつきまして何か御意見がありますでしょうか。
まず杉戸副主査からその研究について何か補足がありますでしょうか。
○杉戸副主査
今御紹介いただいたこの小分類の,つまり配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」の数字のコード,2けたの単位についての星印については,いわゆる因子分析と言うんでしょうか,何か似たもの集めをしてそれがどういう理由で集まってきたかという分析をしたときの話でした。それで,その結果,すぐにも必要になること,あるいは生活に密着したこと,あるいは複雑なやり取りが当面必要でないことで一つのグループになるということでしたけれども,どういう言語行動がその中身を構成しているかということが次の課題になって,学習項目の検討に入っていくと思うのです。
つまり,配布資料3「「生活上の行為」の分類一覧」を左側に置いて,配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」を右側に置くと全体の構造が見えてくるわけですが,更に配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」の右側に数字6けたでコーディングされている下位項目,それをどういう言語行為が具体的に支えているか,コミュニケーションの構造はどうかということの検討が次に待っています。それを絶えず意識してこの「生活上の行為」の精査というのをひとまずここで完結しておかなければいけないというステージに今,我々はいるということですね。
目標として,先ほど西原主査がおっしゃいましたが,今日のところで「生活上の行為」について,この日本語教育小委員会として検討することは一区切りして次に進む準備をするということでした。ですので,ちょっと先を見越して,この配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」の右側により詳しい言語活動のユニットがどんなふうに並びそうかということも意識しながら,今日の「生活上の行為」の整理を一区切り付けるということだと思います。
それで,国立国語研究所の仕事としては,さらにその右側,この「生活上の行為」の中身を構成する言語活動,あるいは言語そのもの要素,語とか文型とか,そういったことの検討にも進みつつあると思います。それがいつごろどういう段階を迎えるかというのも,申し訳ないですが,私の立場で把握し切れていません。たまたま今日傍聴に担当者が来ていますが,その辺りの見通しをちょっと金田さん,お願いできますか。
○西原主査
一つお断りしておかなくてはいけないのは,国立国語研究所のこのデータの因子分析に掛けたものは場面でした。「生活上の行為」というのを,生活場面ということでフィルターを掛けてくださったと思うのですけれども,この日本語教育小委員会ではそれを少し翻訳して小分類を15選んでいるので,その部分については異なるということをお断りしておかないといけないと思います。
○傍聴者(金田智子)
今の御説明のあった通りで,私たちの作業も,この配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」の右側に来る具体的な,本当に一つの場面でのディスコース(discourse)レベルのものであるとか,あるいは具体的な表現であるとか,行為とかストレスとか,様々な実際のデータに基づくものを準備していく必要があるだろうと考えております。
ただ,私たちの考え方としては,必要と思われるすべての生活場面,行動場面,どの場面に関しても同じようにデータを集めることは簡単ではないというふうに考えておりますので,必要な場面のうちの幾つか,複数の限られた場面に関して実際のデータを集めて,一つの例として提示しようと考えております。
その例を提示することによって,実際のデータから集められることの可能性と限界と両方が出てくると思います。そこである意味限界も踏まえることができれば,それを基にして実際のデータを集めなかったところに関しても,ある程度予測が可能になると思っておりますので,そのように作業を進めております。
時期としましては,本来でしたら,国立国語研究所のもともとの中期計画,5か年の計画の今4年目に入っておりますので,来年度までということで考えておりましたけれども,ちょっといろいろ時間のこともありまして,予定も少し変わっています。ただ,現在としては,平成22年度,来年度には今やっている成人の生活場面の日本語に関しては,整理してまとめて提示することを考えております。
○西原主査
ありがとうございました。そうしますと,これからは,行為を言語というか,言葉に結び付けるというようなことをしていてくださる。ただし,我々がそのひな形を作る目標とする今年度末には,それが部分的に完成しているという状況であろうかということでよろしいでしょうか。杉戸副主査,それでよろしいでしょうか。
○杉戸副主査
今,金田さんの説明の中にあった実例を集めるというステップを今始めつつあって,これからも国立国語研究所としては場面の幾つか,ここで配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」で言えば「生活上の行為」の上位項目,あるいは下位項目の幾つかについて実例を集めるのですが,実例についてどんなイメージなのかもう一言補足してもらえますか。
○西原主査
例えば小分類に星印が付いているものに16番「住居を確保する」という項目があるのですが,16番に下位分類は幾つかございますけれども,例えばこの16番のところ辺りでどんなことを考えておられるか,説明していただけますでしょうか。
○傍聴者(金田智子)
ここは,例えばこれまでもインタビューなどを通じて,在住の外国人の方々がどういった日本語を必要としていたかということを調べて参りました。ただ,それは飽くまでもまだ予備調査的な位置付けです。
今後行おうとしているのは,ある場面に関して実際にその場を構成する方々の御理解を頂いた上で,生のデータを収集するということと並行して,こういう場面ではどのように発話を行うのか,どういう行動を取るのかということを,具体的には質問紙の形になるとは思いますけれども,並行して情報を得たいと考えています。
もう一つは,ロールプレー(role play)も考えておりまして,この三つのうちのいずれかの方法で,生のデータを集めるということを行おうと思っております。想定される場面においてどういう行為を取るのかということを,質問紙あるいはロールプレーの形で集めるという予定でおります。恐らく,実際の場面で繰り広げられるものと,想定してロールプレーを行う,あるいは質問紙に答えるというものの間に,共通する部分と食い違ってくる部分が当然あると思いますので,その辺りを分析した上で,質問肢,ロールプレーの限界も探っていこうかなと考えております。
○西原主査
例えば,小分類の16番「住居を確保する」に星印を付けたときにも話題になったことではありましたけれども,日本にやって来てどんなところに住むことになるかということについてもいろいろなパターンがあり得ます。つまり,派遣業者がすべてアレンジしていて,空港に迎えに行って,「さあ,ここがあなたの住まいですよ。」というようなこともあれば,それから仕事上の派遣と言うか,駐在員として派遣され,会社がそんなようなことは全部やってくれるという人もいれば,自分で不動産屋さんに行って探さなければならないという人もいれば,結婚して来日したので住居は探す余地も無し,「これがあなたの家です。」と言われたという人もいろいろいるわけです。そういういろいろな違いを認識した上でも「日本に住むようになる」ということはだれにでも起こることなので,その住むようになるということを住居確保・維持の中に含め,だれでも行うことというふうに選んだのがこの星印の意味です。それが今のところ15個であり,これはだれでも通過することであろうということで選ばれているわけでございます。
国立国語研究所はそのことについて前々からいろいろとデータをお持ちですし,これからは言語的な表現とかを外国人に対するインタビューなどで集めるわけですね。
○傍聴者(金田智子)
数は少ないんですけれども,日本人に対しても行っております。インタビューの中にやはり住まいを探すとか,地域によるのですが,場合によっては購入する場合もありまして,そういったことも聞いています。
ただ,欠けていることとして,不動産業者には直接話は聞いていません。私自身が話を聞いた外国人で,ポルトガル語専門の不動産業者に斡旋してもらったという話があったのですが,そうではない可能性というのも当然あり得ると思います。実際はこういう場面であれば,日本人が経営している不動産業者で,ある程度外国語も使うかもしれませんけれども,外国から来た方を顧客として持つ機会があるようなところに実際に話を聞いたり,理解が得られれば直接言語データを収集するということも必要かと思っております。
○西原主査
今,御説明があったような国立国語研究所の一連の御研究というのは,特に小分類以下の実際の場面,あるいは実際に起こる言葉のやり取りというところで,私たちにとって重要な資料を提供してくださっております。もう一つ,今度はレベルの非常に大きいところで,昨年末に国際交流基金が日本のスタンダード(standard)の中間的な提言をなさって,300ページに及ぶ報告書をお書きくださいました。そこにも各国の事例を踏まえながら,日本語を外国語として学び始める場合の具体的な考え方などが示されていると同時に,特にドイツ語プロファイル(Profile deutsch)などでは,どういった人がどういう生活をするときに何が必要になるかというようなことを踏まえてスキーマ(scheme)が具体化しています。
同じように,市民生活ということもその報告書の一部に含まれているということなので,国立国語研究所の御研究,それから国際交流基金がなさっているスタンダードのスキーマというのと余り遠く離れないと言うか,リンクして概念としてつながっていた方が我々の仕事の存在価値も高くなるんじゃないかと思います。その300ページに及ぶ中間報告書について,西澤委員がせっかく来ていらっしゃるので,御説明いただけたらと思います。
○西澤委員
この5月に試行版という形で公開にこぎ付けました。ただ,残念ながら,見られた方はよくお分かりかと思いますけれども,日本語による言語活動については,いわゆるキャン・ドゥ・ステートメント(can-do-statement)の形では,その段階別の整理までは示しておらず,その意味では抽象的なレベルで公開されています。
試行版では現在の多言語,多文化の状況の中で日本語をどう考えていくかということの理念編から始まりまして,今,西原主査からありましたように,CEFRをドイツ語という一言語に当てはめた1つの好例として,ドイツ語プロファイルが,日本語の枠組みを考えて いく上で役立つのではということで取り上げています。また,CEFRやドイツ語プロファイルの分析で得た知見を,実際に,ケルン日本文化会館,ソウルの日本文化センターのそれぞれの日本語講座,そして浦和の国際センターでの日本語教師研修で応用しました。ケルンは初級,浦和は中級,ソウルは上級ということで実際に応用してみて,日本語教育にどのように役立てられるかという観点で分析しております。それらを含めまして,理念編から始まって実証的な分析までを一応取りまとめたものとなっています。
○西原主査
300ページ余ありましたので,それを今一言で言っていただくのは無理でしょうけれども,ただ,目指しているところが外国で,母語としてではなく外国語として日本語を学ぶときの,少なくとも生活にかなり密着したレベルでのことも含まれているガイドラインだと思います。
今,キャン・ドゥ・ステートメントのお話がありましたけれども,詳しいキャン・ドゥ・ステートメントでかなり膨大なものがあって,そのキャン・ドゥ・ステートメントとこれからこの行為が示していくであろうキャン・ドゥ,何ができるかという「できるレベル」のこととは,恐らく関係が非常に深くなっていくであろうと思います。お互いに省庁は違いますが,国がすることですし,しかもこれから外国の方々に対する日本語の教育としては大きくつながっていくことなので,相互に齟齬がないように,同じようなことを言っている場合にはリンクが張れるような形で検討が進めばいいと思います,
そのようなことを踏まえて,我々がこれから学習項目の検討及び整理,それが標準的なカリキュラムにつながるということをこれから年度末までにいろいろしていかなければなりません。ただ,今日は余り細かいことでなくて結構でございますので,この中にはいろいろな意味で,先進的な試みとして教材を計画し,作られた方もたくさん御出席ですし,それからこういうものがあったらいいなという御意見もあろうかと思いますので,学習の内容を含むもの,それから方法を含むもの,どんな御意見でも結構でございます。これから学習ということを目指して項目を整理していくことに関連して,何か御意見がありましたら是非お聞かせいただきたいと思います。
○井上委員
前回もお話したのですが,こういう形で「生活上の行為」を整理すると,これをベースとして,データベース的なものとなります。
社会あるいは経済というのは生きていますし,また外国人の属性によって必要となる日本語というのも若干違ってくるということを前提にして,これからは日本語を教える,あるいは学ぶ体制を考えていかなければならないのかなという感じがしています。
前回のことを今,議事録を読んでいて思い出しながら話したいと思うのですが,例えば非常に経済が厳しい状況になったのが昨年の9月ですから,それから約1年たつわけですね。人にもよりますが,失業給付もほぼ切れてしまいます。
その一方で生産が少し戻りつつある。あるいは,これを機会に介護とか医療というようなところで外国人が働くという選択肢も出てきているということを考えると,状況に応じた準備というのもしておかなければいけないという感じがします。
その場合,特殊な言葉,日本人ですらなかなか覚えられないような言葉も覚えなければならないということがよく言われます。しかし,経済情勢,社会情勢が急変したときに外国人に「日本語ができなければどうしようもないよ」と突き放すのではなくて,やはり日本側が用意する体制,とりわけ支援の在り方というのも併せて考えていく必要があると思っています。
もちろん,この日本語教育小委員会でそこまで議論するのかということではあるのですが,外国人がなかなか将来設計が描けないときに,日本語ばかり勉強して「本当にこの先どうなるのか」という思いは必ずあると思います。見切りを付ける方も早々にいましたから,そうなると,そういう非常に特殊な状況を前提として議論するだけではもちろんいけないんですが,かなり個別対応で外国人の人たちを救うという方法もしっかりと考えなければいけない。おそらくその成功例が浜松の介護現場での就職につなげるための日本語教育だったと思います。そういったことにも対応できるようなきめ細かさというのがこのデータベースの中に必要なのかなと思います。
もちろん,介護の場面での日本語教育をやるから,ここに書いた方がいいということではなくて,非常に特別な仕事を求めるときに,様々な情報を集めることで日本の今の社会の置かれている姿を理解する,そういったものがあってもいいんじゃないかということです。
これは一言で言えば,日本語学習と言うよりも,むしろ日本を知るということ,多分それを日本語で知るというトレーニングだと思うのですが,そういったものもうまく組み込んでいただけるとリアリティーのあるものになってくるのではないかと思います。これをざっと見ると,大分そういうものになっていると思うのですが,やはり「生活上の行為」ということで整理されています。日本の社会を知るための事例というのもあっていいように感じています。
○西原主査
そうですね。実は配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」の「人とかかわる」というところの「異文化を理解する」という42番の項目ですとか,それから「自身を豊かにする」という面で整理されていますけれども,53番の「日本について理解する」の部分が知識ということで入っています。ただ,それはサバイバルレベルのこととは少し違う分類になっているため,来日間もなくすべての外国人に必要とされる15項目には入らなかったということになります。
いろいろなところで実は,もう既にいろいろなニーズに対応して行われていることがあります。少し脱線しますが,和歌山大学の医学部の先生が,外国人が日本の病院に行ってとても困るということを知り,そして彼の情報工学の知識を生かして,タッチパネル式で問診表が書けるデータベースを作ったそうです。もう既に幾つかの病院で試してもらって,10言語ぐらい選べると思うのですが,ポルトガル語を選ぶと,ポルトガル語の問診表が出てきて,ポルトガル語で聞かれるんですね。それに答えると自動翻訳されて日本語で問診表が出てくるんです。だから,答えているのはポルトガル語なんですけれども,問診表は日本語で出てくる。それをプリントアウトして,又はそのボタンを押すと先生のところへそれが送られるというようなものを作ったりしています。
そういうことを自主的にやってくださっている方は,探すと見つかるというようなところがあるので,我々が次にするべきこととして,参考資料としてそういうものとリンクをしていくということも一つですね。
外国人支援もそうですし,先回,浜松に行って参りましたら,介護のための立派なテキストができていて,多言語対応の語彙表になっていて,食事介護,入浴介護,排泄介護というふうに,行為別の場面設定になっているというのがありました。
それから,同じ浜松ですけれども,これは厚生労働省の方のプロジェクトで,就職を目指した日本語教育を18教室500人弱でやっていて,その中に20数社,30社近くの企業を巻き込んでいて,企業は体験実習の場を提供する。できれば,そこで雇用もしてくれるという条件で,30社近くの企業を巻き込んでいるというようなことも行われています。私たちがやることは,とても基本的過ぎて隔靴掻痒と言いますか,そのようなことに見えてくるわけなんですけれども,そこはちょっと踏ん張って基礎の基礎,基本の基本で通させていただくということになろうかと思います。
○井上委員
今,具体的な介護の話をしましたけれども,例えばある企業がやっている「カイゼン」というのは,これは多分世界でも通じる言葉になっていると思います。では,一体「カイゼン」というのはどういう精神なのか。その企業だけのことではなくて,おそらく日本人が固有に持っていて,ほかの民族に比べると非常に特殊な「より良いものにしていこう」という意識だと思うのですが,そうしたものが分かるか分からないか,それも日本語で分かるか分からないか,ということです。「カイゼン」などは非常に観念的なものなので,日本語で理解するだけではなくて,それぞれの母語でそれに対応したようなものを理解できていると,職に就くときに非常に役に立つのではないかなと思います。
例えば浜松では,ある企業がかなり熱心に日系人に対して日本語学習の機会を与えていますけれども,そういうところでももちろんこういったベースになる「生活上の行為」もしっかりとやらなければいけないのですが,その企業が持っている生産性向上に向けた取組とか,考え方をしっかり日本語で理解させているはずです。そうしたものをほんの一部でもいいんですけれども,カリキュラムに入れると,外国人の職業能力を引き出せるようになるわけです。
要するに,いくら「生活上の行為」を日本語で話せたとしても,このような経済情勢ですと職に就けないのです。日本で学習したことが無駄になる可能性もあるわけです。そういうところを少し考慮していただきたいと思います。
○西原主査
そうですね。ただ,「働く」ということについては,大分類の6番目「働く」に今おっしゃったようなことが入っていると思うのです。その「職業能力の開発を行う」や「仕事に役立つ能力を高める」に,今おっしゃったようなことが入っていると思います。
○井上委員
私の申し上げているのは,むしろ知識という意味なのです。要するに,例えば履歴書を書くための日本語も必要なのでしょうが,そういうものではなくて,日本の社会とか産業とかを理解するための日本語ですね。
○西原主査
そうですね。ちょっとお言葉を返すようですが,知識というのはいろいろですよね。例えば,話すとか書くとかというのは,手続的知識というか,無意識に落としていくようなレベルで習慣の繰り返しから獲得されるような知識,それから今おっしゃったようなのは,もうちょっと長期記憶に基づく知識だと思うのです。
教育は,もちろん長期記憶を前提にします。百科事典的知識がなければ,言葉は出てこないので,その前提となるところにどうやって教育の範囲を及ぼすかということであろうかと思います。それは言語教育の現場では,言葉で知識として与えるのではなく,事例から推論していくという形でやらないといけない,言語教育の現場ではレクチャーはできないということがあります。その辺りのところを教材に落としていく上で重要な御提案をなさってくださっていると思います。
例えば浜松でインドネシアの方が入浴介助をするということなんですが,インドネシア人はお風呂に入りません。「マンディー」と言って水浴びの世界です。だから,入浴介助と言っても入浴が何か知らないわけです。もともとそういう生活をしてこない人たちなんですね。ですから,まず入浴ということを知らないと介助も何もないということですよね。それはやはり,ある程度は言葉で知識をインドネシア語で与えるのですが,それでもやはり日本語教育の現場では介護をしていく言葉遣いの中に,例えば「お湯は余り熱過ぎちゃいけないんだよね」ということで「これは熱い「お湯」と言うものであって,「水」じゃないんだ」ということが分かる。そういう仕組みで日本語教育の現場があると思います。
○井上委員
概念的に「入浴」ということと,多分「カイゼン」というのは同じことかもしれないですね。
○西原主査
つまり概念がなかったら言葉は出てこないということですよね。そうだけれども,言葉で学ぶことによって概念は推測されるという方向もあります。お風呂の話ですが,私は西洋人を自分のアパートに招いたことがあって,その人はお風呂文化があった人なんですけれども,「これからどうするの。」と叫ばれて困ったことがあります。お湯の中で洗って,そのままお湯を抜いてしまったんですね。そういう文化だったということを,「どうするの。」と言われて思い出したということもありましたし,概念の差というのは文化差によって違いますね。
所得税などがない国から来た人が,所得税が引かれているのを聞いて「社長は嘘付きだ」と怒ったという話があります。日本語教育の現場で全部言葉で詰め込むということは多分できないし,しないと思うのですけれども,いかがでございましょうか。ほかに御意見ありますでしょうか。
○山田委員
意見というよりも確認なんですけれども,今おっしゃったように,例えば国際交流基金とか,それから所沢にある中国帰国者定着促進センターとかでは,それこそ大量の情報を集め,それを分析しながら行為と場面が違うけれども,ほとんど同じことをされているんです。それで我々の作業,ここでやっている作業が一体何なのかということを,いつも考えているんですけれども,例えば今の国立国語研究所でやっておられるそういう仕事に対して,我々が「必要な部分をこういうふうに付け足してほしい」という情報を提供したり,あるいは「こういう観点からも分析してほしい」というふうに言うことは可能だと思っています。せっかく,そちらで大量の資料を基にやっているものに対して,こちらは全く,私なんか素人が場面も作ったり,それからこの配布資料3「「生活上の行為」の分類一覧」の小分類に付いている15の星印というのは,ある種のデータの解析法を用いて付けたものなんだけれども,私たちが宿題でやったこの配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」の事例の下位項目の星印なんていうのは勘で付けたわけですよね。
私も以前,文化庁国語課にいたことがあるし,私の後任の柳澤さんもそうなんですけれども,中国帰国者の「生活日本語」という教科書を作ったときに,正に国立国語研究所でやられたような,外国人の方たちに,来て当座の2か月だったと思うのですが,それに必要な言語項目,場面表というのを聞き取りをしながら作り,その次はその場面に実際に出掛けて行き,あるところだと1週間続けて朝から晩まではり付くということをやり,データ収集したりしました。
ここで下位項目が出て,その下位項目がどんな言語活動,それから非言語的な活動とか,あるいは情報的に必要なものがあるかどうかというようなことは,そういう観察とかを踏まえた上でやっていくべきものだと思っています。
そうなると,今,井上委員がおっしゃったような,例えば我々としては,背景知識については今のところ,それは除外して考えようと言っていたのですが,やはり背景知識があってこそ言語行動が生まれるんじゃないかと思うわけです。
それを教えるときの方法として,言語行動をやりながら背景知識まで類推させるという,それはそれで方法論としていいことだし,私もそれは賛成なんですけれども,ただ,データとして,項目のそれぞれの場面,あるいはその行為のデータとして背景知識を付けておいた方がいいというコメントだと思うので,そういうことを私たちはやった方がいいのかなと思います。ただ,ここでこの項目をより厳密に作業を進めたとしてもいろいろな形で抜けてしまう部分があるので,どうもこの段取りと,それからほかの国際交流基金とか国立国語研究所で進めている研究の完成というかゴールと,どういう関係にあるのか非常に疑問に思ってしまいます。
○西原主査
それは直接には関係がありようもないということですね。山田委員が今おっしゃったのを,御意見というふうに考えれば,このデータベースというものの中に,多分言語教育的には語彙表という形で知識のリストができていくということになりますよね。語彙表を付けるべきだという御意見というふうに伺うとして,それでよろしいですか。
○山田委員
語彙表……背景知識です。
○岩見委員
ワーキンググループで話をしていたときに知識というのをどこに置くべきかということで発言した記憶があるのですが,今回作成された事例2(下位項目)の中には「制度の概要を知る」という表現で出ている項目もありますが,AJALT(国際日本語普及協会)がリソース型生活日本語を作ったときに,この行為を達成するために必要な知識,社会文化知識,習慣とか何か,制度も含めて,そういうものが必要だと思いました。それで一欄設けて簡単な解説をつけました。
○尾﨑委員
3日ぐらい前に配布資料3「「生活上の行為」の分類一覧」というのが来て,まず感想ですが,自分自身が暮らす中で,これだけのことをやっていて,私が知らないことがこんなにあるのかということを感じました。逆に言うと網羅的だということで,日本で暮らす際に必要な「生活上の行為」はこんなにもあるんだということが分かるリストがあるというのは,いいと思いました。
それから,まず配布資料3「「生活上の行為」の分類一覧」の小分類のところで1から58まであるんですけれども,「理解する」という表題のところがあります。例えば33「労働条件について理解する」とか42「異文化を理解する」,53「日本について理解する」でこれは理解するだけでいいような事柄なのか,中身を見ていかなければいけないんですけれども,これを日本語で理解するということを考えると,かなり長い日本語学習の積み重ねが必要になるわけです。多分5年なんかでは済まないようなものもあります。しかし,日本に来たら途端にこういうことは分かっていないと,やっぱり生活上困るということが,この配布資料3「「生活上の行為」の分類一覧」に入っています。これは既に行われていることなんですが,かなりの部分は多言語で情報提供する,日本語教育だけではなくて,日本で暮らすためには母語でこういう情報は提供していきましょうということが出てくると思います。どちらかと言うと熱心な自治体はどんどん進めていますが,余り関心のない自治体はそれほど整っていないという状態があるので,むしろこれは国が多言語サービス的な発想でおやりになったらどうかと思っています。これは井上委員がさっきおっしゃったことと重なっていますし,山田委員も言っていらっしゃることだと思います。だから,日本語で受け取れない情報だけれども,来た途端に必要だというような情報は,百科事典と呼ぶにしても一般常識と呼ぶにしても,それは是非多言語対応をしないとやはりトラブルが続くだろうなということを思いました。
それから,配布資料3「「生活上の行為」の分類一覧」の小分類の中で星印が付いていないんですけれども,「学習をする」というところは正に日本語の勉強をしてもらわなきゃいけないので,日本語の勉強の仕方についてはこれは母語対応ででもいいので,情報提供をする必要があるのかなと思いました。ですから,この星印は,日本語として学んで何かができるようになってもらいたい行為なんだけれども,日本語をどうやって勉強すればいいか,どこにリソースがあるかということは母語で早い段階で提示した方がいいのではないかと思います。だから,ここは星印は付いていないのですが,少し気になったところです。
それから,中の細かい項目をざっと見たときに,ストラテジー(strategy)というのがこの前の議事録でも話題になったかと思うのですが,いろんな場面で身に付けておくといろんな場面で応用できるようなストラテジーを,学習項目一覧という角度で言えば,別立てにもなり得るのかなと思います。ですから,ここは「生活上の行為」ということでくくっているんですけれども,学習項目ということで見直したときにはストラテジーというのが項目として立てられるのではないか,あるいは早い段階でそういったことが日本語でできるようになっていた方が実質的には行動できるんじゃないかと思うのでストラテジーの扱いを考えたらどうかなと思いました。
○西原主査
多言語ということもワーキンググループでは随分話に上がっており,リストは多言語になると思います。
○尾﨑委員
はい。それは絶対そうなるべきでしょうね。
○西原主査
ただし,いくつ必要かということを考えると,60から70じゃ済まなくなるでしょう。多分人口の多い言語五つとか,そのぐらいがせいぜいで,しかもそれをサンプルで示すぐらいのところが今年度の教材のプロトタイプ(prototype)ででき得る範囲かなと思います。
○尾﨑委員
ただ,そういう方向は出さないと,実際に現場では動きが取れません。それから,杉戸副主査がおっしゃっていましたが,この後更に言語的な要素が付いていくという話なんですが,ノーショナル(notional),ファンクショナル(functional)のノーショナルのようなものというのはリストとして,もうどこかにあるはずなんですが……。
○西原主査
ええ,そう思いますし,それを作るためにこの15の小分類について取りあえず考えて,小分類で星印が付いた15項目について言語的な要素を付けていくことが学習項目の検討を行う設計の中にまずあります。プロトタイプとしてはそのように考えてもよろしいでしょうか。
○尾﨑委員
結構だと思います。その辺りは私は頭の整理が付いていないですが……。
○西原主査
いえ,例えばその1,600の項目についてそれを行うということは,難しいので。
○尾﨑委員
その次,聞いて分かればいいということと,これは話せるようになってもらわなければいけないことの仕分けはきっとどこかで作業としてなされるだろうということと,それから,話すというときも「ネイティブスピーカー(native speaker)だったら,こう話す。」というような意味でのモデルと,「少なくとも社会的に機能するためにはここでいい。」というようなレベルを整理する必要がありますね。「生活上の行為」としての必要性のレベルと,具体的に言語形式を提示するときのレベルというのがあって,最終目標と,「取りあえずここまででいい。」というレベルがあるのかなと思います。それを作らなくても現実にはそうなってしまうのですが……。
そうすると,ネイティブの,例えばある場面であるモデル会話のようなものを提示するというときには,どうしても「ネイティブだったらこうだよ。」というのを出さざるを得ないんだろうと思うのですが,実際に教えている立場では,「もうこれで十分ですよ。」という目安と言いましょうか,その辺りのことを考えないと,能力評価と言うときのその能力評価が,実際に社会的に機能できるという意味での能力だったら,単語の羅列でもいいし,筆談だってあり得るというような話になってきます。そうすると「日本語教育は日本語を教えているんでしょう。」と言われるとどう答えるのかなと思います。
○西原主査
恐らく,その次の段階として評価ということが入ってきます。そこで何を評価できるかということと関係しますよね。
○尾﨑委員
評価が関連すると同時に,これを更に具体化していったときに,教材化して教室活動もやっぱりリンクしてくるでしょうから,その辺りについてはどのように考えるのかなと思います。
○西原主査
重要な御指摘を頂いていると思います。一つには,ネイティブスピーカーのようになることが目標なのかどうなのかという話です。これも幻想に近いのですが,ネイティブスピーカー社会というものが存在し,NHK語の社会というのはあるので,それは提示していかなければならないと同時に,そうならなければならないという発想はやめた方がいいということですね。
「接触場面」という用語がありますけれども,日本人と接触する外国人という場合の外国人というのは,結構舌足らずから始まってニアネイティブまでいろんな段階があり得ますが,その段階を例示するべきなのかどうなのかということに関してはどうですか。
○尾﨑委員
とよた日本語学習支援システムの場合,学習レベルを規定していくときに,「要支援レベル」という用語を使っています。これは「相手の日本人がそれなりに配慮してくれればコミュニケーションが成り立つ程度」と言うような書き方をしています。それをどうやって評価するのかは分かりません。
○西原主査
浜松で聞いた話ですが,介護の現場に行ったフィリピン人を,お年寄りが「何とかさんじゃなきゃ嫌だ。」と言って排泄を我慢して,その人が来るまで待っているという話があるんですけれども,その人は決して日本語は上手じゃないんです。
○尾﨑委員
そういうことも含めて評価できるのかなと思います。だから,評価というのは恐ろしいことだなという気がしています。それから,もう一つ,話題というのはどこかで扱うのでしょうか。
○西原主査
テーマですか。
○尾﨑委員
テーマと言うんでしょうか,人と付き合うというようなことは職場でもそうだし,それから社会の一員としてかかわるときでもあるわけです。そこでは話す中身についての語彙リストでしょうか,トピックと関連する語彙群と言うのでしょうか,単語と言うのが恐らく必要になり,活動を進めていれば否応なしに出てくることですけれども,この日本語教育小委員会はその辺りはどう扱うのかなと思いました。
○西原主査
実例として例えば配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」の41番「人と付き合う」というのがあったとして,その中にいろんなリストがまたここに出てきますよね。そのリストの先に更に何が付くかという話だと思いますし,先ほど井上委員がおっしゃったようなことを考えると,日本はあいさつ文化ですが,世界にはあいさつ文化じゃない国もたくさんあるので,何かごあいさつということに関連しては多分例示をしておかないと,あいさつなんてないような国から来た人がたくさんいる場合に,あいさつ文化をどう扱うのかということでしょう。いきなりトピックに入らないという話し方も人付き合いの中ではとても大切なことなので,ディスコースレベルで何か扱えないかということですよね。
○尾﨑委員
その辺りについては,かなり星印が付いていましたね。
○西原主査
と言うのは,山田委員がおっしゃったように我々の頭の中でも同じで,「この部分は星印が多く付きましたね。」と言う委員がワーキンググループの中でも多くいました。
○尾﨑委員
私のコメントは,星印は必要性と,もう一つは,言語的に日本語が限られていてもハンドリング(handling)ができるという観点から付けられているというふうに理解しました。
ただ,「日本人は多様なあいさつを使い分ける」ということを分かってもらう日本語はかなり高いレベルなので,この辺りの仕分け,星印の中で日本語で行ってほしいという部分とやはり母語対応で行ってほしいという部分の仕分けは,まだあるという感想を持ちました。
○西原主査
先ほど,例文から推論してもらうと言いましたが,例えば仕事の終わりに「失礼します。」と言わない外国人がたくさんいるからと言って,雇主が非常に怒っている例というのは,私は難民の支援が始まったころから聞いています。「ぬっと来てぬっと帰る」と言うのですが,これはとにかく「帰ります。」と言えばいいことなんですが,そういう文化じゃないところから来ていると,「帰ります。」と言う必要を感じないということですよね。それを説明してしまうのか,それとも,終わりという場面で「帰ります」と言うディスコースを作って推論してもらうのかという辺りのところですが。
○尾﨑委員
職場でしつけみたいなことがあって,日本人の若い従業員も会社文化というのは分からないから,そこでしつけを受けていくというのは正に状況があって,そこで学んでいくわけです。ところが日本語の学習ということで,現実の場面とは離れたところでそれをやっていかなければならないというときに,媒介語もなしで行うとすると,これはかなりやる方もやらされる方も大変だなと感じます。
○西原主査
そうだと思いますね。それは媒介語をどこまで条件としてここに書き込んでいくかということだと思います。媒介語についての説明として多言語説明というのは付けられますよね。
○尾﨑委員
これはこの次の話になるんで,今日の議論とは切り離していただいて結構なんですが,現実に教えるときに「媒介語を使ってください。」と言うわけにはいかず,直説法にならざるを得ないとすると,それを行える人というのはどういう人か,少なくともだれがどこで教えるのか,それはボランティアではあり得ないということになるのではないでしょうか。今,我々は教育の中身とか方法の議論をしていますけれども,これからずっと実践を続けていくときに,そこで行われたことの記録とか蓄積をどうするかという教育システムを一方で整備していかないと,ほとんど成果は上がらないと私は思うのです。この日本語教育小委員会は報告書の中で既に国,都道府県,市町村,あるいは関係の連携ということが必要である書いているわけですよね。
○西原主査
人材育成ということも次の課題になると思いますし,その部分のことを今おっしゃっていると思うのです。
○尾﨑委員
ですから,今年度の報告の中に標準的な内容等について検討したけれども,これが実質的に役に立つ体制というのは,引き続き議論をして,整備を進めていかないと困るということは是非書くべきことだと思っております。
○西原主査
今はスキーマの中の一部分を議論しているということですよね。
○中野委員
今,私たちも実は中国語とか韓国語のキャン・ドゥを作っているのですが,先ほどおっしゃったように,これはある種の生活行為上の目標と言うか目的,目標ですよね。それを達成するためには実際の言語材料が必要だし,また内容的なものも必要になってきます。その内容の中に実際の学習活動や学習方法を考えるときに先ほどから各委員がおっしゃっている知識注入という意味ではないのですが,例えば文化的なものをその内容の中に慎重に入れていく必要があるのではないかと思います。
要するに,言語材料は何か内容がないと提示できないわけですから,どういう文脈の中で言語材料を置くかというときに,やはり文化的なものがすごく大事なポイントだろうと思うのです。注入型じゃなくてもいいのですが,一つ,それについて考えさせる内容が必要になってくるんじゃないかと思っております。それから,中分類というか,大分類も実際の生活の中では組合せで出てくると思います。子育てとか教育をしているときも「人とかかわる」というのが一緒に出てきたり,あるいは余暇を考えているときに当然移動するから交通機関のことが出てきたりするというように,一つ一つの分類が単独で出てくる場合もあるかもしれないですが,割と重なって,例えばあいさつなどは常にどこかと一緒に出てくるように,組合せで出てくるということが多いような気がします。
ですから,これは具体的なカリキュラムとか教材を作っていくときに,この目標が幾つか組み合わさるということになるんだろうと思うので,そのときに知識的なものをどう扱うかということも考えなければならないと思いました。実際この配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」の小分類,あるいは事例の下位項目を見ると同じものが何回も出てきますよね。例えばインターネットで調べるなどという下位項目は何度もいろいろなところに出てきますよね。
そういう意味で,もう一点なんですが,例えば小分類レベルで星印を付けている15項目に関して能力記述文が何百と出てきた場合であっても,私たちのところではキャン・ドゥ・ベースの指標がそのままデータベース化されています。オンラインで載せているのを今使っています。
何百項目も「ぽん」とオンライン上に載せますと,五,六百項目だったらわずか15分間ぐらいで学習者が自分で自己評価していきます。「これは自分はできる」「これはできない」と言って,それは更にキャン・ドゥ,つまりレベル別なので,「これは問題なくできる」とか,「これはちょっと難しいけれども少しできる」とかをチェックしていくんですね。そうすると人によって違うのですが,20分,長くても30分後にはこの大量なキャン・ドゥの中で,自分には何ができて何ができないかが分かり,カリキュラムの提案みたいなものが自動的に出てくるプログラムが,実はアメリカで開発されたのを許可を取って今使っています。来年度になるのかどうかよく分かりませんが,せっかくこういうキャン・ドゥが出てきたら,そのオンラインは使えるのではないかと思います。
ですから,客観評価をどうするかと言うことよりも,まずは学習者のニーズがどこにあって,それから自分は何ができているかというのをチェックしてもらった方が,抵抗なく学習に入っていけるのかなと思います。それによって現場は,その学習者のために何が必要かというカリキュラムがデータ的に目安として出てくる。そういうシステムがあるので,そういうシステムにつなげたらとても有効かなと思いました。
○西原主査
今学習者とおっしゃいましたけれども,まずはかかわる人が,目の前の学習者にとって何をどういうふうに料理したらいいか,何をどういうふうにやっていったらいいかなと考えるときの目安になるわけですよね。
○中野委員
はい,目安です。
○西原主査
そのことがあるので,このデータベースは整理しないで大きいまま膨らませておくというふうに考えています。国際交流基金の「教科書を作ろう」というのも膨大なデータベースですけれども,そういう形になっていますし,スタンダードのデータベースも多分そのような形で提供されるわけですよね。ですから,その自由度というか柔軟性というのは,御指摘のようにとても大切なことですよね。
○中野委員
是非これはここまでデータベース化したらいいのではないでしょうか。
○西原主査
そうすると,紙媒体にするのは難しいかもしれませんが,ただ,紙媒体にもしておかないと例示ができませんね。紙媒体との量の差と言うか,それをどう扱うかということが,これからの大きな課題になりますでしょうね。
○加藤委員
先ほどの尾﨑委員の発言を受けるような形ですが,私もこのワーキンググループに参加して作業を行う中で思ってきたことですが,ここは日本語教育の委員会ではあるけれども,それ以前の部分というのがとても大きいと感じています。まず,日本語ではなく,先ほどおっしゃっていたような知識がなければならなくて,更に,来日間もないすべての外国人に必要となる「生活上の行為」の事例に星印を付ける際に私の中では「身近な人に聞くという行為」がまず第一段階としてとても重要だろうなというふうに思いました。
ですので,要は聞くことで解決して,生活者として入り込めるという段階が非常に大きいということです。それは日本語教育なのかどうか,私たちが考えることかどうかという問題はありますが,先ほど「要支援レベル」という言葉が出てきましたが,支援をする側の人たち,つまり日本人や身近な人たちへの,「生活者としての外国人」が入ってくるに当たって,私たちが与えると言うか,そういった情報,こういったものがあるんだというようなことをしっかり行っていき,その基盤の上に私たちの日本語教育があり,そこに評価が伴うということになるんだろうなと強く感じています。
ですので,私たちがこれからしていくことは,それ以上のことということになります。「生活上の行為」の事例をより細分化して,それをどうデータベースに持っていって教材化していこうということになるとは思いますが,それ以前の基盤となる部分についての整理も同時に必要だろうなと感じております。
○西原主査
そうですね。それは多分私たちの仕事以前の仕事ということになりますでしょうけれども,ただ,教材として提示していくときに一般市民の方々へと言うか,この教材を目にする方々へのアピールとして今,おっしゃったようなことがおありでしょうね。
そのたびにいつも反応として出てくるのは,「日本社会はヨーロッパと違って外国人慣れしていませんからね」で片付くんですけれども,「外国人慣れしていませんからね」で済む時代はもう終わっていて,これからは外国人慣れしていかないとやっていけないという時代になっていくわけです。その部分をどうやって担保するかというのはこの教材以前のところで,前書きの部分をどうしっかり書くかというかということになるんでございましょう。
○西澤委員
普通の言語学習者が当然学ぶであろうこと,あるいは日本人だったら当然実際の生活にも使い,日常で前提にしているような事柄が落ちていないかどうかということは最後,教材化する前に1回チェックしておく必要があると思います。
だから,だれもがスタンダードとして考えているような,本当に基礎項目に入っているような事柄で,落ちていて,しかもそれがないと,実は発展していったところで基になる言語知識が欠けているということにならないかどうか,これは確かに,今来た,外国から入ってきて日本の生活上必要な言葉ではあるだろうけれども,それだけで本当に必要条件を満たしているかどうかのチェックが必要なのかなと思います。そのチェックは1回やっていただいた方がいいかなという感じがしております。
○西原主査
これがデータベースとして柔軟性があるというのは,結局そういうことで,新しい項目が入り込んできたり,まとめてみたりということが今後も起こるからですね。そのときに,例えば,スタンダードがお出しになっているデータベース,それから山田委員がおっしゃったように,もう既に中国帰国者のときに散々苦労して作ったデータベース,それから,AJALT(国際日本語普及協会)も素材をお作りになるときに随分調査をなさって,国立国語研究所も同じようにやっているので,生活者としてのレベルということで各種の団体機関が取り組んでいることを,とにかく我々はそこから目を離さずに注目し続けていくということが必要なことですね。
基本の基本は変わっていくので,10年前の基本の基本が今の基本の基本ではないのと同じように,例えばインターネットなどは20年前の市民生活では必要なことではなかったんです。今は情報を得るために,ほとんどだれもが携帯レベルであれば,やらなければならないというようなことになっていますよね。そういうようなことから,やはり目を離さずにいるということは大切なことでしょう。
ただ,今はとにかく第一段階の「生活上の行為」として15項目ないし16項目について,ひな形を作るということが今年度の課題だと思いますので,これから隣に外国人が引っ越して来て,これからどうやってこの人たちとお付き合いしていったらいいか,どういう日本語を学んでもらったらいいかと考えている人たちのために,高まいなことよりも明日の第一歩をひな形として示すというのが,今年度の課題なのではないかと思います。そして,そのレベルというのが一体どこにあるかというのを見極めていかないと,一番最初のステップは踏み出せないということなります。いろいろと素材はあればあるほどいいのですが,「我々が今年度まずやらなければならないことは何か」ということです。
○伊東委員
私もワーキンググループの委員をしていて,御存じのように,ここで「理解する」とか「知る」という項目もあれば,正に「生活上の行為」として「する」という行為があるので,この辺りの仕分けをしなければならないかなと思いました。
それとあと,「する」ということであれば言語的な,いわゆる行動として学習項目はある程度明確に出せますけれども,「知る」とか「理解する」ということに関しては,何人かの方の御指摘のあるように情報として提供する部分なので,それは私は母語対応でもいいかなと思います。今年後半の作業としてどういうところを優先順位を付けてやっていくかというところで,ワーキンググループの作業内容もある程度はっきり分かれてくると思いました。
○西原主査
そうですね。「知る」という行為が情報を引き出すということであれば,その情報の引き出し方というようなことで「知る」ということが実現するという話になりますよね。それが必要な「知る」であれば……。
それから,四つのスキルというのがありますね。「話す」「聞く」「読む」「書く」ですけれども,「読む」「書く」も結構重要なんですよね。「非常口」と読めないととても困るだろうとか,そういうようなレベルで重要だと。その四つのスキルをどうやって教材の中に盛り込んでいくかというのも,とても大切なことだと思えるわけですけれども,まだ御発言のない佐藤委員,いかがでしょうか。
○佐藤委員
難しいですね。多分こういうデータベースというのは自転車操業みたいなもので,これからもどんどん項目を入れ込んでいっていただくことが必要だと思うので,これについての妥当性うんぬんというのはちょっとよく分かりかねるのです。
ただ,そのときに恐らく具体的なものを考えていく,今年度やるべきことなのかもしれませんけれども,星印が付いているというように,データベース全体の中から星印が付いたものを選んでいく基準,これは何か先ほど尾﨑委員のお話から理解したんですけれども,必要性があって日本語が余りないようなものでもいいというお話だったんですけれども,実はその基準がすごく大事になるんじゃないのかなという気がするんですよね。
私が申し上げたいことは,基準というものをきちんと明示していくことです。例えば因子分析うんぬんという統計的な手法じゃなくてもいいと思うのですね。つまり,教える側の方々,あるいは専門家の方々が,例えばワーキンググループ委員の方々が苦労されておられると思うのですけれども,そのワーキンググループ委員の方々が何で選んだのかという自分の評価基準,選択の基準を出し合って,それを明示して,その共通性を見つけ出していくというのも重要な手続の一つだと思います。
ただ,これは飽くまでも来日間もないすべての外国人に必要なものとなっておりますけれども,例えばこれを具体的にカリキュラム化していくようなときには,先ほどの議論の中にずっとあるように,例えばこういう人たちに対してはどういう目標を選択したらいいのかということが,実はすごく大事になってくるんだろうと思うのですね。つまり,データベースであれば羅列型になっていきますから,それをどういう形で選択していけばいいのかなというのを教える側にゆだねていくのか,それともある部分は優先順位を付けていくのかという作業が多分必要になっていくのかなと思います。そこは議論していただければいいと思うのです。
○西原主査
そうですね。例えば就労ということ,働くということがメインになる部分と,それから子育てというのがメインになる部分があって,そういうのが専らの関心事である人々,あるいはそういう生活形態によって専門化していくことですので,項目だけが立っていくという部分はもちろんあるわけですよね。
○佐藤委員
そういう何か選択の基準みたいなもの,例えば先ほど西原主査の方から金田さんの方に具体例があればということで,例えば住居の確保の契約をするというときに,賃貸契約,購入契約とか,契約書を読むとか,ローンを組むとかいうことが来たばかりで必要なのかどうかということ,これはまたいろいろ議論があってこうなっているんだと思うのですけれども,そういう基準というものを明示していって一般の方々に示していくときに,あるいは享受する方々に示していくときに,やっぱりその妥当性というものが問われると思うのですね。
つまり,その選択ならばその選択したものの基準というものの妥当性と信頼性というものが問われるので,そこを明示するということも,「生活上の行為」の事例をずっと並べていくことと同時に必要なことかなとちょっと感じました。
○西原主査
それは重要な難しい問題ですね。伊藤委員いかがでしょうか。
○伊藤委員
まず一つ,ちょっと疑問に思っているのは,配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」で事例のところに星印が付いていて,これは来日直後だれもが必要となる項目ということなんですけれども,その小分類のところに星印がなくて,こちらの事例の下位項目のところに星印があるものがかなりありますよね。これは事例の下位項目のところで必要だというふうに理解していけばいいのでしょうか。
○西原主査
実は,星印を付ける段階というのが二つありました。一つ,ワーキンググループとしては専ら事例の下位項目に対して星印を付けましょうということで挙がってきたのが配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」で星印が付いている「生活上の行為」の事例の下位項目の部分なんです。
配布資料3「「生活上の行為」の分類一覧」の小分類のところに付いている星印はそれとはちょっと別に,別の観点で同じようなことを考えてみると,「小分類のところではこういうふうにならないかな」ということでしたので,ちょっと段階が違う作業を二つ行ったということになります。
○伊藤委員
そうすると,この星印を付けたものについて,今後検討を行い,学習項目やその内容を作っていくのでしょうか。
○西原主査
星印を付けたものを教材として,第一段階で万人に必要,そして余り言語活動のやり取りが多くないというような基準で選び取っていくかということです。
そういう教材を作る一方で,そんなものは要らない人たちもたくさんいるわけですよね。つまり,そういう予備知識は持って日本に来ている,あるいはもう既に何年間か過ごしている人は,その第一段階,星印15ないし16に当たる部分は飛ばして下さっていい。そういう人たちにとっては恐らく,「働く」とか「子育て」とかが必要になりますし,そういう部分が主となった第二段階の教材というのがあるのかなと思います。星印というのは,そういう類別をする第一段階としてワーキンググループの中で付けてみたということなんです。
○伊藤委員
ということは,今度,学習者のレベルがあるものですから,全くゼロの方から始まって,要支援,少し支援すれば大丈夫というような方もいらっしゃるものですから,ちょっと先の話かもしれませんけれども,教材を作る段階ではすべて段階に対応できるように教材を作るけれども,段階に応じてそこからチョイスしていくというような感じになるのでしょうか。
○西原主査
そうですね。例えば,「15人の人に明日から日本語を教えるようになります」,「来週から教えるようになります」というときには,ニーズ分析と言うんですけれども,その人たちがどういう目的でどういうことを目指して,最終目標として日本語学習の後どうしようと思って学び始めるのかということを聞いて,それに合わせてデータベースの中から,「じゃ,これ」というのを選べば,この15人にとっては良い教育になるかなと思います。日本語教育の担当者の方が教える内容を選ぶためにも使われますよね。
そして,多分日本語ゼロという人もいれば,片言は大丈夫という人もいれば,もうかなりできるという人もいるわけですよね。そういうレベルは,片言レベルだったらこの辺りで,もう少しできるようだったらこの辺りという段階付けは,やっぱりそれで学習者の顔を見ながら決めていかなければならないことになりますよね。それを初級,中級,上級と言うのか,それとも,これキャン・ドゥ・ステートメントの束として「○○ができるレベルで,これはできるけれども,これはできない」というように分けるのか。そのやり方については学習項目の検討及び整理を行うときの話になるのかなと思います。
○伊藤委員
場面はいろいろあると思うのですね。豊田市では今,尾﨑委員がおっしゃったように日本語学習支援システムを構築しています。名古屋大学留学生センターが,豊田市から委託を受けて作っています。それを見ているとやはり企業を巻き込んでいて,職場の中で行う日本語学習,それから更に地域で行う日本語学習にも応援しようとしています。そういった所に集まった人にも汎用が効くものを作っていくということでしょう。
○西原主査
はい,そうです。
○伊藤委員
そうすると,やっぱり基本的には交流,職場においても地域においても,日本人と日本人であれば自然に言葉を通じて交流はできますが,それが外国人であるゆえに言葉が分からずに交流ができない。だから,こういうデータベースを作ってお示しして,日本語教室なりに通えばこういうことが分かるというものを……。
○西原主査
日本語教室だけでなく,これは隣の人でも構わないし,町内会でも構わないし,場はいろいろでしょうけれども,行おうとしているのは,「日本で生活するということはこういうことをやっているんですよ」という,そういうものを総合的にリスト化しようというわけですよね。
さっき尾﨑委員が「僕だってこんなものできやしない」とおっしゃいましたし,前に国語分科会のときに井田委員ですか,これができたらもうすごいとおっしゃっていました。
○伊藤委員
すごいことだなと,私もそう思うのです。
○西原主査
実は配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」で取り上げられているようなことは,みんな無意識のうちにできているんだと思います。でも,それが全面的にいつも取り出せる状況になっているかと言うと,常にいつでも情報や知識を取り出せるようにフル回転している人というのはまずいないでしょうね。ただ,この「生活上の行為」のリストがいろんな生活上の側面で「日本で生活するときには,実はこういうことが問題になるんですよね」ということを示す。ただ,これは使い方は千差万別のはずですね。
○伊藤委員
ですから,そういうことになると,これから先へ行くときには,「正しい日本語」ではなくて,「分かる日本語」,「伝わる日本語」ということを主眼において,この後の作業を進めていくということになりますか。
○西原主査
それにもいろんな段階があり,聞いて分かる日本語もあれば,単語等で一日暮らせる日本語というのもありますし,もう少し専門的に,職業人として充実していくというレベルもあります。外国人の日本語にもいろいろレベルがありますよね。それは,今回作業を行っているデータベースを基にして「何と何をどの程度に知らければならないか」というように,程度にかかわっていく問題でございましょう。
○伊藤委員
今度はその判定も難しいですね。
○西原主査
判定は,今度は評価になるわけですし,それから各国の事例の中で,例えばドイツとかオランダとかはもう既にテストがあって,「市民生活○○レベル」というような評価があり,それがそのような国では滞在とか滞在の延長とかとつながっていくということです。それは多分今期のこの委員会の範囲からは少し外れていて,その次にということになるのではないかと思います。評価はとても大切ですけれども,評価まで含めた指針というのは今期は多分出てこないと思います。
先ほど自己評価ができるとおっしゃいましたけれども,それができれば一番いいし,私はそれこそ市役所の窓口だとか,町内会長さんが何かリストを50持っていて,それに○,×を付けていけば,ある程度レベルの判定ができるぐらいの簡便さというのが,市民生活レベルテストの最終目標としてはあるべきだと思うのです。
○山田委員
度々確認で申し訳ないんですが,この日本語教育小委員会が目指しているゴールが頭に思い描けないので困っているんです。それはひょっとして日本語教育の世界で,そうでない方は分からないかもしれないのですが,リソース(resource)型モジュール(module)教材というようなものを作ってしまおうとしているのか,それともその例を出そうとしているのか,あるいはそういうことが必要なんだということを言おうとしているのか,そこが見えないんです。
もし,完成版としての教材を作るんだとしたら,これはかなりの予算を取って,いろいろな機関とタイアップしながら,ある程度の時間も掛けて作るということになると思うのです。
それから,例を作るというのでしたら,それは可能かもしれないけれども,それでもほかの機関等とタイアップすることも必要ですし,例としての教材が使えるかどうか,実際に使ってみてもらってそれを評価するプロセスが必要だと思うのですね。
それから,「データベースを基に教材を作るときには,こういうプロセスを踏んでこういうふうにすべきだ」という提言をするならば,それはそれで提言はできるかもしれないのですが,その最後の形が見えないんですよね。
○西原主査
そうですね。それは私たちもみんな同じだと思います。教材のプロトタイプ(prototype)という微妙な言い方ですが,そのプロトタイプということを私たちは目標にしているわけです。そのプロトタイプというのが,今のところでは膨大なデータベースの存在と,今,山田委員がおっしゃったようにリソース型の教材の必要性と,それから,そのリソースの中からピックアップして教材を組み立てていくというカリキュラム構成の在り方等を前提とした上で,今年作るプロトタイプというのは,かなり針の穴みたいなところを示さざるを得ないんじゃないかなと思います。ですが,針の穴だけ示して全体を示さないというのはとても良くないことですよね。
○山田委員
私はこの日本語教育小委員会でリソース型モジュール教材,「これがあれば何でもできます」というのを作ってしまえば一番いいと思うのです。それはもう膨大な予算も期間も人員も使いますが。この日本語教育小委員会で,もしできるとすれば画期的だし,そこは十分にゴールとして考えられるんです。
○西原主査
私は国立国語研究所がまた国立に戻って,そういう仕事を行う言語計画研究所のような機関になればいいと思うのですが,それは今年度の日本語教育小委員会の目標としては絵に描けるけれども,今年度やることでは……。
○山田委員
いや,ただ,今年度の作業の先にある完成形として,今行っている作業はそれを目指す一つのステップになればいいのかなと思います。
○西原主査
今年度行う作業は一つのひな形ですよね。ひな形を作るということになろうかと思うのですが,事務局,それでよろしいでしょうか。
○佐藤委員
すみません,ちょっと事務局に伺う前に,何が議論が難しいのかと言うと,それはやっぱり最終的なターゲットが何で,プロダクトが何で,そして今年度何をやるのかというところの見通しが少し分かりにくいからなんですね。
例えば,今日の議論でも配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」で下位項目を示されてしまうと,これが妥当なのかどうかという議論になりかねません。そうすると一体この先何を見通して今議論をしようとしているのかというのが,やはり私にもよく分かりません。だから,最終的なプロダクト,もちろん山田委員がおっしゃるように難しいと思うのですけれども,難しいのであれば,ここで少し共有して,もちろん事務局提案があって,それを共有しつつ,今年度,何を目指すのかということについて議論をしていかないと,今,恐らく全員がばらばらのイメージを持っているように思います。
○西原主査
そのための参考文献として,今,国際交流基金がパブリッシュしていらっしゃるものがとても役に立つと思うのですね。国際交流基金が出されたデータベースと,それから国際交流基金が作っている概念図というものが,やっぱり我々が踏襲すべき概念図ということになるのではないかと久しく思っているのです。
○佐藤委員
つまりそうすると,その国際交流基金がおやりになったものをもとにして基金が積み残していることをここでやればいいという感じなんですか。
○西原主査
いいえ,そんなことではありません。概念は借りてくるけれども,やはり目標とするところが違うので,我々は同じようなスキーマというのを描いていくという最終目標のスキーマ作りをすべきだと思います。
○佐藤委員
今,おっしゃったのは具体的にどういうことですか。その,西原主査がおっしゃるスキーマというのがちょっと分かりにくいのですが……。
○西原主査
全体的には,このデータベースを取り巻く関係機関及び関係者一覧というのが一つ,つまり,人のスキーマがあります。どういう人がこれに関係するのかということです。それから,これが言語資料としてはどういうものと関係していくのか,このデータベースがここで作られたとして,これとその言語資料との関係ですね。それから教育機会との関係,学習者,学習者になり得る人との関係があります。これが我々が作成しているデータベースが教材になった場合に関係するすべての関係者・機関一覧であり,基金の報告書ではイラストで1枚になっているんですね。我々はやはりそういうものを作っていかないと,今どこにいるのかということが分からないとは思います。
そのことに関しては,「えいや」とワーキンググループで提案することはできるかもしれないと思いますけれども,でも,ボトムアップはとても大切だということもまた一理あります。我々は,生活者はだれなのか,生活者というのは日本人,外国人を問わずどういうことをする人なのかということを今作業しているわけですね。その一部分でも教材として使うとすれば,一体どういうものが教材になるのかサンプルを作ろうとしているということであろうかと思います。
そうすると,プロダクトとして出ていくものは飽くまでもサンプルというか,プロトタイプにしか過ぎないとは思いますけれども,ただ,プロトタイプがありませんと,明日の現場について何らかのアイデアを示すということが難しい。
我々では,市民統合というのは一体何なのかというレベルの議論はもちろん必要だと思いますけれども,そこにかかわる日本語教育の人たちに対して,少し具体的に「こういうことなんですよね」というのを言わないといけないという信念を持っていると思うのです。
○杉戸副主査
この日本語教育小委員会の流れからすると,今日はこの「生活上の行為」の議論をひとまず締めくくって次に移る,そういう段階にあるというお話が前にありました。そこで思うのですが,目標,山田委員がしきりにはっきりさせるべきだとおっしゃる着地点ですが,これは今最後に西原主査がおっしゃった見本を作るということかと思います。いろんな意味があると思うのですけれども,プロトタイプ,あるいは見本を作る,それは全体じゃなくて部分,「この部分についてこういう角度から切り込んだ見本です。」ということを,条件をきちんと明示して示す,そういうことに,これはスケジュールから行くとそういう段階に入らざるを得ないというふうに思うのです。これは副主査的な立場で言っているのですが……。
つまり,例えば具体的に言えば,この配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」について今回お示しした案を微調整,あるいは再検討すべきところは個別にあるかもしれませんが,これを基本として,これをどういう形で出すかを考える。そして,この次にこの表の右側に言語的な要素とか,あるいは知識的な要素をどうやって付けて示すかも考えなければいけない段階にきていると思うのです。それは決して西原主査が繰り返し全体があって,それに人の要素とか学習者の要素とか,いろいろな軸が絡んでくるということもおっしゃいましたけれども,そういう意味での全体を示すわけじゃないということは確認したいと思います。そして,その全体の中のこの部分をこういう条件で示す,その例なんだということをはっきりとさせる。サンプルあるいはプロトタイプなんだということを明示することがむしろ問われている。
これは先ほど,佐藤委員の御発言の中にありましたが,どういう条件で「生活上の行為」の事例を絞り込み,星印を付けたのかを明示しないといけないということをおっしゃいましたけれども,私もそれが必要だと思います。
そして,実は私もワーキンググループでこれの下位項目を選んだり,それに星印を付けたりしたときに,何らかの条件付けで,あるいは基準を持って,星印を付けたりしたと思うのですけれども,それを例えばワーキンググループのメンバーが忘れないうちに出して,こういう作業でこのリストができたんだということを明示的に説明できる情報を付けてこの配布資料2「「生活上の行為」の事例の精査」,あるいは配布資料3「「生活上の行為」の分類一覧」の全体像をプロトタイプの教材の基になるデータベースとして出す。
ただ,これは全体から見れば,この部分とこの部分に力点が掛かっているんですよということはできるだけ明示的に示すということが当面の目標とすべきところじゃないかと思います。
ちょっと例え話として適当かどうか分かりませんが,よく最近グーグルマップとか,グーグルアースというものがあり,地球のサイズからどんどん絞り込んでいくと,何丁目何番地まで見られるようなものなんです。ちょっと自分のことを言って申し訳ありませんが,私の家は,自宅の前の駐車スペースに止まっている車の番号は読み取れないけれども,車種はくっきり分かる。それぐらいまで拡大できるような情報が示されている。ところが,国立国語研究所はまだ5年前の建設工事中の写真なんですね。だから,その辺りは何も道路も分からないような粗いものしかありません。それから,さらに行くと山の中の方,私の娘がいる方は写真すら出てこなくて,「これ以上詳細には表示できません。」というコメントが出てくる。さっきからそういうことがこの仕事にもあるというふうに,お話を伺いながら思っていました。
非常に詳細に入り込んでいる,そういう段階まで行っていると言っていい部分と,見取図の中でどこに入るのかすら分からないような部分がある。そういう全体像があって,しかし,それを延々と続けるわけにいかない。一年度ごとに中間的な成果を示していく課題を持っているという事柄を前提にしていけば,どこをどう切り取って示しているかということを明示するのが親切というか,責任のある示し方だと思います。
言いたいのは,配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」の星印にどういう基準で星印が付いたのかと伊藤委員から御質問が出ましたが,それにきちんと答えられるような凡例と言いましょうか,フットノートを付けるとか,あるいは「知る」,「理解する」という項目と,「する」項目についてどういう考えで並べているのかということの説明が必要だと思います。この議論に決着を付けるためには,いろんな角度から説明が必要な作業が待っていると思います。
○西原主査
そういうことは延々と続いていくわけですけれども,この日本語教育小委員会で次にするべきことは,例えば小分類の中で15選ばれていますけれども,その一つ,例えば「社会の一員となる」又は「人とかかわる」という大分類の中の例えば「人と付き合う」とか,「社会の一員となる」の三つのものについて,これが教材になるということをもし考えるとすれば,どういうものを我々は用意すべきなのかということをやっていきませんと,杉戸副主査が今おっしゃったようなことにならないのです。
今日は多分その辺りをにらんで,次なる段階に行ってみてもよろしいでしょうかということを御了解いただく,たまたま壁に突き当たりましたとか,これ以上は行けません,撤退しますなんてことには絶対ならないように注意深くやっていくということだと思うのですね。
例えば,先ほどの伊藤委員の配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」の星印と配布資料3「「生活上の行為」の分類一覧」の星印が違っていて,ワーキンググループで話したときに,例えば「健康・安全に暮らす」の中の「医療機関で治療を受ける」ということについて言うと,病気になった場合には病院というのはとても大切なので配布資料3「「生活上の行為」の事例の整理」では星印が付くわけです。そうなのですが,だれでも病気になるのかと言うと,それはだれでも病気になるわけではないので,配布資料3「「生活上の行為」の分類一覧」の小分類のところには星印は付かなかったということです。
この配布資料3「「生活上の行為」の事例の整理」の例示として,例えば「移動」とか「人とかかわる」,「社会の一員となる」の部分をピックアップして,教材化をにらんで次の作業を始めてもよろしいでしょうか。そのことによって,教材にするということは一体何を含むのかということが見えてくるはずなんですね。今年度の目標として学習項目及びその整理及び教材のプロトタイプというものが見えてこなければいけないと考えているのですが,よろしいでしょうか。そこに向けて一歩を踏み出してよろしいでしょうか。
それは今,各委員がおっしゃったような各方面の大きな事項を,忘れるということでは決してなくて,それはそのまま御意見のとおりに受け入れていくということであろうかと思います。
教材化に踏み出してみたところで振り返ってみると,データベースそのものもゆがんでいたということが見えてきたりする場合には,これは流動的に直すけれども,これ以上このデータ,配布資料2「「生活上の行為」の事例の整理」及び配布資料3「「生活上の行為」の分類一覧」そのものを作り続ける作業はしない。これで不完全ながら基本形ができたと考えてよろしいでしょうか。
○山田委員
ちょっといいですか。それでいいと思うのですが,ただ,この配布資料というのは恐らくオープンになっていろいろなところに出ると思うので,注記して,例えばこれを順番にやっていけばある「生活上の行為」が完成するというような話ではなくて,これは資料としてプロトタイプを作るための一つのステップとしてやったものであって,これそのものを何らかの形で利用するとしたら,そういう前提を踏まえてもらわないと使えないということを言っておいた方がいいと思うのです。
○西原主査
大体1,600項目,1日一つ扱っていっても何年も掛かるという話ですよね。それらのことは報告書全体の中で説明をしていかなければならないことだと思いますし,その報告書の中で,世の中にいろいろ起こっている生活者ということをにらんだ外国人支援を含めてのいろいろなことと,大きくはつながっているということも含めて説明していかないといけないのではないでしょうか。
何か現場に行くと,この間,佐藤委員,伊東委員が大変御苦労してすぐれたものを作ってくださったJSLカリキュラムなんですけれども,現場の先生が一言で「あれ役に立ちません」と言う。それはとても悲しいことで,そうならないようにと言うか,そうしてほしくないなということは言わなくちゃいけないと同時に,現場の人の気持ちもよく分かって,「これは明日の私の生活とどう関係するの。」と言われたときに「それはね・・・。」と3時間も説明しないといけなくなってくる悲劇というのは,これからも続くんだと思います。まず第一に,「私はこんなことをやって日本人になったんじゃない」と日本人に言われると本当に困りますね。
○中野委員
一つだけ,小分類2の「異文化を理解する」という表現は,基本的にすべての人には該当しないと言えるのかなというのがちょっと問題ではないかと思います。
「多様なあいさつに対応する」というのも,やっぱり「人と付き合う」に「あいさつをする」というのがあって,これと「4111 あいさつをする」と「4213 多様なあいさつ(おじぎ,握手,ハグ,キス等)に対応する」の違いとか,何となく分かるんですけれども,よりマクロ的・考証的な雰囲気が漂うこっちの文化理解と,もっとプラクティカルな何かがあるのではないでしょうか。普通の理解だと,その辺が何か重複しているという印象はあるかなと思います。中に入っていったときに重複するのはいいのですが,表の入り口から少し重複しているかなと思うんです。人と付き合ってもあいさつするというのはもちろんあるのですが……。
○西原主査
そうですね。それから,住民としてのマナーを守るというときに,異文化理解が先行しなければ住民としてのマナーは守れないですよね。そのときに異文化理解と,ここに書いてあることは多分,何か自文化との比較ということが「42 異文化を理解する」の中身になるので,だからもう少し後の話でしょうということになる。
○中野委員
そういうのは「異文化間コミュニケーション」と,「間」を入れたくなってみたりもするんですね,自文化というのもかなり入っていますし。具体的なあいさつの言葉が,その国のあいさつのことが分からなくても,飛行場へ降りて,そしてホテルへ行くまでの間に,既に自分のあれとはちょっと違うなというのを感じることが多いのではないかと思うので,そんな深い文化理解は後の話ですけれども,降り立った瞬間から文化の問題というのはあるかなという,ちょっとそれだけをお話しして……。
○西原主査
これはすべて文化ですよね。健康・安全も文化ですし,病気文化というのもありますし,仕事文化もあれば,そういうことなので,「文化」と表現すると何かとても危険を伴うと思いますね。
○中野委員
そうなんですよね。だから,「異文化を理解する」というその言葉がちょっと……。
○西原主査
小分類とか中分類とか大分類とかというのは常にその危険を含んでいくので,小分類に事例をいっぱい付けて深くしていくことによって,その部分を何とか払拭しようというのがこの試みであったのですね。
抽象度というのは,アップすればするほど本当に難しくなっていくことになろうかと思います。おっしゃるようにそこを少し変えてもいい,ネーミングを何とかすることによってそこのところがうまくいくのであれば,もちろんその部分も変えていかなければなりませんし,もっと深いところを見てもらって理解してもらう,ネーミングが独り歩きをするというのはとても危険なことなので,それでデータベースは深ければ深いほどいいという話に多分なっていると思います。
ちょっと10分ほど時間が過ぎてしまったので,これで今日の議論は一応締めさせていただきます。
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