議事録

第36回国語分科会日本語教育小委員会・議事録

平成23年1月11日(火)
14:00 〜 16:00
文部科学省 5F1会議室

〔出席者〕

(委員)
西原主査,杉戸副主査,伊藤,井上,岩見,尾﨑,加藤,中野,西澤,山田各委員(計10名)
(文部科学省・文化庁)
舟橋国語課長,田中日本語教育専門官,仙田日本語教育専門職,山下日本語教育専門職ほか関係官

〔配布資料〕

  1. 第35回国語分科会日本語教育小委員会・議事録(案)
  2. 「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック
  3. 教材例のコンセプトについて
  4. 教材例のたたき台について

〔参考資料〕

  1. 教材例のサンプルについて
  2. 能力評価に関するヒアリングについて
  3. 日本語教育小委員会における検討内容の大枠とそのスケジュール(案)

〔机上配布資料〕

  1. 「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について

〔経過概要〕

  1. 事務局から配布資料の確認があった。
  2. 前回の議事録(案)が確認された。
  3. 事務局から配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」について説明があり,その後,質疑応答・意見交換が行われ,大筋で了承された。出された意見の取扱いを含め,1月25日の国語分科会への報告については西原主査に一任された。
  4. 事務局から配布資料3「教材例のコンセプトについて」,配布資料4「教材例のたたき台について」,参考資料1「教材例のサンプルについて」について説明があり,その後,教材例について意見交換を行った。
  5. 第45回国語分科会総会は,1月25日(火)の14:00から16:00まで旧文部省庁舎6階第二講堂で開催されることが確認された。
  6. 質疑応答及び意見交換における各委員の意見は次のとおりである。
○西原主査
それでは今期12回,通算36回の会議を始めたいと思います。皆様明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。
前回の日本語教育小委員会では,能力評価に関するヒアリングを行いました。それから「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」,そして教材例について検討いただいたところです。
能力評価につきましては,ヒアリングの取りまとめを行い,今後の資料とさせていただきます。また,ヒアリングについては海外の事例についてのヒアリングを更に追加するべきではないかという御意見も頂いておりますが,本日はまずは活用のためのガイドブックの取りまとめと教材例について御検討いただくということで,評価についての検討は少し後にさせていただきたく存じます。
活用のためのガイドブックについて,第35回日本語教育小委員会の翌日,12月21日に第23回日本語教育小委員会ワーキンググループを行い,第35回日本語教育小委員会で御意見を頂いたところについて,更に修正を加えました。本日の日本語教育小委員会では,この活用のためのガイドブックを取りまとめて,1月25日に開催される文化審議会国語分科会総会でその御報告をします。本日が点検としては最終日になりますので,是非積極的な御意見を賜れればと思います。
また,教材例につきましては,第23回日本語教育小委員会ワーキンググループで,教材例作成の際の留意点等について検討を行いました。そして,日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の方を中心に教材例のたたき台を作成していただいております。本日の後半では,今まで作成していただいた例を中心に御検討いただければと思います。
それでは,配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」について御意見を頂きたいと思います。まず,53ページ以下を見ていただき,日本語にある括弧内の単位を中国語以下で省く,数字のところを省くということが事務局から御提案されましたけれども,いかがでしょうか。
○岩見委員
配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」の56ページ以降の部分から,単位に関する記述を削除することに賛成です。もともと,どういう項目を選択するかということについて検討するための資料でもあるし,単位そのものは目安と言いますか,全体の比率を表しています。在留資格うんぬんに関わることでもないので,削除してもよろしいのではないでしょうか。
○西原主査
では,中国語以下からは単位に関する記述を外すということですが,一番最初の日本語の方はいかがでしょうか。配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」の53ページ以降が同じ目的でできたものであるのなら,日本語のページからも単位を外すことが考えられると思いますが,いかがでしょうか。一つとしては,日本語も他の言語も両方読める人が,日本語にあって自分の言葉に単位に関する記述がないのはなぜか,それは何か隠し立てしているのではないかという猜疑心(さいぎしん)にかられてしまうと,単位に関する記述がもともとの趣旨とは全然違ってきます。日本語では単位を残しておくというのは,恐らくこれは支援者側の方がお読みになるだろうし,標準的なカリキュラム案で「単位」と出てきたから,そのまま残すという御提案になっていますが,これについての御意見はいかがでしょうか。
○岩見委員
単位はもともと,標準的なカリキュラム案には載っているものですから,配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」の53ページ以降で掲載しているのが,対比のためのものであれば,そこから単位に関する記述を削除してもよろしいのではないでしょうか。
○西原主査
日本語にも単位数がなくて構わないという御意見でしょうか。配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」の54ページ,55ページですね。ただ,そうしますと―細かくて申し訳ないのですが―53ページの日本語部分の上から2行目が「冊子「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について」の12〜13ページから再録したものです。」となっています。私の読める範囲では,翻訳もそのとおりになっているのです。様々なことを総合的に考えて御判断いただきたいのですが,いかがでしょうか。
○尾﨑委員
再録のところは気が付きませんでした。「再録」と言うと,素直に言えばそのものをコピーしたと理解するのでしょうけれども,不要なものは落として再録したと言ってはだめでしょうか。
そもそも単位数を決めるときに,かなりいろいろな議論があり,一応あった方がいいという判断で入れていますけれども…。
○西原主査
「全体の割合からしてこういうことだ」という目安だというただし書きが付いてですが,もともと「30単位」ということが提案されています。
○尾﨑委員
単位に関する記述はなくても特に不都合はないと私は思います。それから,「再録した」という文言については,今回は翻訳に要する時間等のこともありますので,より厳密な日本語と翻訳にできなくてもやむを得ないと思います。
○西原主査
そうすると,単位については,配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」の54〜55ページの日本語のところからも削除し,56ページ以降の他の言語についても削除します。本来なら,なお,再録に当たって「単位に関する記述は省略した」と注記すべきところですが,翻訳に要する時間等を勘案して入れない形でやむを得ないと思います。配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」の53ページ以降にある「7 参考資料」はこれはどういうことを学ぶか,学べるか,学びたいかということの選択のためのリスト(list)という位置付けを全ての言語について優先するということです。この内容については,翻訳する人,それからチェックする人,そして両言語の分かる人が再チェックするというような段階を経てここにあるようなのですが,お分かりになる方で何かお気付きになることがありましたら後ほど事務局へ御連絡ください。翻訳作業を行った人にもう一度問い合わせるということは短期間でもできるかとは思います。特段の注記なしで単位数を日本語からも除くということについて,どうお考えになるでしょうか。御了承いただけますでしょうか。(→ 了承。)
では,54ページ以下のリストからは単位数は日本語も含めて除くということで進めさせていただきたいと思います。その点が最後に事務局からお問い合わせのあったことです。その他の部分につきまして,修正点も含め何か御意見がございましたら,本日のこの日本語教育小委員会が最後のチャンスです。もちろん出てしまっても正誤表等で対応するようなことはできるわけでございますけれども,一応国語分科会総会までには本日の日本語教育小委員会が検討としては最後ということになります。
もし「改めて見たらこういう点がおかしいんじゃないか」とか,「ここは誤植ではないか」とか,そういうことがありましたら1月25日に開催されます国語分科会の直前まで事務局に御連絡いただくことは可能かと存じます。
○尾﨑委員
小さなことなんですけれども,配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」34ページの取り上げる項目,「・初対面のあいさつをする」というところを横に見ていったときに,「活動方法」の欄に「プロジェクトワーク(project work)」と書いてあり,35ページにはプロジェクトワークがあるんだろうと期待して見たら,「プロジェクトワークはどこなんだろうか」と思いました。これは,だからどう読めばいいのかなと思いました。34ページの表の「活動方法」のコラムを下に読んでいって,「プロジェクトワーク,例えばプロジェクトワークだよ」という意味だから,35ページのより具体的な展開例の中にプロジェクトワークが出てきてもいいということでしょうか。
○西原主査
しかも,34ページの「プロジェクトワーク」と書いてある欄の隣の「協力者」の欄を見ると,「地域住民」とありますので,地域住民を巻き込んで行うということになります。
○山下日本語教育専門職
今の点について,ほかのページでどうなっているかということを説明申し上げます。
20ページの「例1)日系人就労者,Aさん」のところでは,20ページの一番下にある青枠内で「活動方法」はインタビューとなっております。また,21ページでも活動方法としてインタビュー・アンケートが取り上げられています。26ページは「例2)国際結婚で来日,Bさん」になりますが,青枠内の「活動方法」は「ロールプレイ(role play)」になっており,27ページ,28ページともに活動方法として「ロールプレイ」が取り上げられております。
34ページの「例3)技能実習生,Cさん」のページでは「活動方法」の欄で「プロジェクトワーク」が取り上げられていますが,35ページでは「活動方法」として「ロールプレイ」が取り上げられているというのが現状でございます。
○西原主査
一番簡単な修正は,34ページの「・初対面のあいさつをする」の部分の「プロジェクトワーク」を「ロールプレイ」に修正してしまうということでしょうか。
○西澤委員
または34ページの「・初対面のあいさつをする」の部分の活動方法の欄については,「・ロールプレイ」を追加するという方法があると思います。ただ,35ページに書いてある例は「ロールプレイ」ということですね。
○西原主査
34ページの「・初対面のあいさつをする」の部分の「活動方法」の欄について「,ロールプレイ」を追加するという御意見ですが,一つ下の欄に「ロールプレイ,ショウアンドテル(show and tell)」と書いてあるようなオプション(option)がありますので,「プロジェクトワーク,ロールプレイ」とすれば,そこで整合性が取れますが,それでよろしいでしょうか。では,そのように対応させていただきます。いいところに気が付いていただいて,ありがとうございます。私もそうですが,日本語教育小委員会ワーキンググループで,何回も何回も見ていると客観的に見ることが非常に難しくなってきて,見過ごしてしまうところがありますので…。
○尾﨑委員
35ページについてですが,今のところ,「3)様々なあいさつの場面を体験する」で具体的な教室活動で自己紹介をし合うところを見ると,これはロールプレイではないですね。誰かになったつもりで演じるわけではないので。これは実際に自己紹介をやるんでしょうね。35ページの「3)様々なあいさつの場面を体験する」というのはロールプレイと言うよりは,地域の協力者に来ていただいて,一人一人と全員に自己紹介をするというようなイメージになりますので,ロールプレイよりもう少し実体験に近そうですね。
○西原主査
そうですね。35ページの「サポート情報等」の欄を「プロジェクトワーク,実体験」にしていくとすると,「本書44ページ参照。」という部分がそれでいいのかどうかということになります。
○尾﨑委員
初対面の挨拶をプロジェクトワークで行うということですが,例えばどのような活動になるのか,イメージしにくいので,35ページの方で「実体験」と載せるなら34ページの「・初対面のあいさつをする」の「活動方法」の欄からは「プロジェクトワーク」を削って「実体験」一つにした方がいいのでしょうか。
○井上委員
時々,地域でNPOや市が中心となって地域の人々と外国人が交流をしていますね。ああいうところでは実際に挨拶もするし,それからいろいろ困っていること,助けてもらいたいことを話し合うということをしています。私も出たことがあるのですが,かなり突っ込んだやりとりがされています。しかも,来たばかりの人と長い間日本にいる人と分けて,そこに,コーディネーターと言うか,お手伝いする人が入って,もちろんちゃんと日本語を教える人たちが入っている。これは日本語教育の一つのプログラムなんだなと感じました。
それを何と呼ぶかの問題で,「プロジェクトワーク」なのか「実体験」なのか,ともかく実際に役に立っているはずなんです。日本語を学習するだけではなくて,実際の生活にも役に立つということになっているので,「実体験」に近いのかもしれないですね。
○西原主査
そうしますと,35ページの「サポート情報等」の「<活動方法>」のところでは「本書44ページ参照」を「本書38ページ参照」に修正するということになります。それから34ページについては「・初対面のあいさつをする」の「活動方法」の欄から「プロジェクトワーク」を削除して,「実体験」に変更いたします。また,もう一度,35ページの「サポート情報等」の欄の「本書44ページ参照」とあるところについては,「本書38ページ参照」と変更します。そして,「「標準的なカリキュラム案」110ページ」というところは「111ページ」になりますね。
○杉戸副主査
一つ前で議論していただいたことですが,単位の数字を配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」の54ページから削るということとの関係で気になることがあります。単位に関する記述が10ページから何回か繰り返し出てきます。例えば10ページでいくと右下の「標準的なカリキュラムで扱う生活上の行為(全30単位)」というところに単位の数を括弧に入れてリストアップしています。その表の下に「※」で「生活上の行為の一覧については本書54〜55ページ参照」と書いてあります。そことの関係を考えると,こちらの10ページには単位の数字が書いてあり,54ページ以降の一覧表には数字がないということになります。そこのところはこのままでよいかどうかということです。
これは,10ページの表の中はもうこのままにしておいて,10ページの下,「※」にもう一行増やして,「括弧内の単位数については標準的なカリキュラム案の5ページを参照」とだけはっきり書いておくというのでどうでしょうか。
○西原主査
では,そうしましょう。10ページの「※」にもう少し加えます。標準的なカリキュラム案の4ページと5ページの辺りでしたね。
○杉戸副主査
標準的なカリキュラム案の4ページ,5ページです。文章としては5ページになります。
○西澤委員
これをリファー(refere)して「11ページ以降参照」とした方がいいんじゃないでしょうか。そうするとここに単位の考え方も示されています。「標準的カリキュラムの11ページを参照する」ということです。
○西原主査
そうですね。「11〜13ページ参照」としてもよろしいですね。そうすると,「本書」というのをやめて,「標準的なカリキュラム案の11,12,13ページ参照」としたらよろしいでしょうか。または「12,13ページ参照」とするのとどちらがよろしいでしょうか。
○杉戸副主査
どちらがいいかと思い,考えていたのですが,この配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案活用のためのガイドブック」だけしか見ない人もいるだろうから,その範囲で処理をしてはどうでしょうか。
○西原主査
そうすると,54,55ページに単位を戻すことはどうしますか。
○杉戸副主査
それは触れません。
○西原主査
では,「※」をやめるということですね。
○杉戸副主査
いえ,項目,生活上の行為の一覧のリストは配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」の54,55ページにありますよという情報は付けます。ただ,そこには単位数は付いていないということは断っておくという「※」です。
○山田委員
使う人には配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」に追加して,「標準的なカリキュラム案」も見てほしいので,10ページの部分については「生活上の行為の一覧については本書54から55ページ参照」とし,「なお,単位については標準的カリキュラム案の12,13ページを参照」と書いておいてもいいんじゃないでしょうか。
○西原主査
実は配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」だけが独り歩きするというのも恐ろしいことなんです。3点セットとして,標準的なカリキュラム案があって,活用のためのガイドブックがあって,教材例があるというように利用していただきたいと強く思うのですけれども,そうでない場合には致し方ありませんが,山田委員がおっしゃるように,「標準的なカリキュラム案」があるということを言うのは悪いことではないかもしれません。
○杉戸副主査
今申し上げたようなところが,配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」の10ページにもあり,18ページにもあります。そこは事務局の方で整合性を取っていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。
○中野委員
机上配布資料「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について」の12,13ページと配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」の54,55ページとでは数字の打ち方で異なる部分があります。標準的なカリキュラム案では「・(中ポツ)」だったものが,配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」では数字になっている部分がありますね。そういう意味でも必ずしも同じではなく,一連のものだと思うんです。また,配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」の方では数字にアンダーバー(under bar)が付いていますが,これは必要なんでしょうか。全部の数字にアンダーバーが付いていますね。これは何か意味があって付いているのでしょうか。
○西原主査
数字の書き方として「01」,「(01)」があって,「01」はその下に付いている数字ということになります。レベルの違うものであるということを示すためにアンダーバーがあるとお考えいただいた方がいいでしょう。そのまま「01」「01」にしてしまうと,「01 健康を保つ」と「01 隣人に容態を伝えて助言を求める」の区別が書記上付かなくなるということであろうかと思います。
○中野委員
「・(中ポツ)」よりは何か数字が付いた方がいいだろうということですね。
○岩見委員
「ガイドブック」の囲みの中の説明にあるとおり,それぞれの数字について大中小の分類に対応しているとあり,下のアンダーラインがある数字は区別しているんですね。
○西原主査
配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」の55ページの右下にありますが,「「(数字)」は基本的な生活基盤の形成に不可欠である,又は…」とあります。
○岩見委員
行為の事例と書いてありますが,それらが違うということを色分けできないので…。
○西原主査
説明があって,色分けできないのでアンダーバーになっているということです。それは翻訳されて,各言語のところにも載っています。
○山下日本語教育専門職
事務局で作業した際,「・(中ポツ)」をそのまま残すと,それぞれの言語で必要なものを選んでもらったときに,日本語との対応関係が分かりにくくなる可能性があると考え,「・(中ポツ)」の部分は下線付きの数字にしています。また,これは,他の数字と区別が付くようにするためというのもあります。
○伊藤委員
確認ですが,7ページの上の説明文の下から2行目,「なお,明朝体で」と書いてある部分についてです。ここが大きな字で書いてあるのですが,これは分かりやすいようにあえてそうしているのでしょうか。
○杉戸副主査
これは例えば10ページの左下の表で,大体ゴシックのところですが,ピンクのところと薄い青のところは明朝体にするといったように,実例の部分を明朝体にするということです。
○西原主査
ただ,7ページの上,明朝体というフォントがその他の分よりも大きくなっているということ自体が奇異に感じるということですね。
○西原主査
ほかの方はいかがでしょうか。これはフォント(font)のポイント(point)としては元に戻した方がよろしいでしょうか。
○伊藤委員
下線が引いてあるので,ちゃんと分かるようにしてあると思うのですが…。
○西原主査
下線が引いてあるので,わざわざこれをポイントを上げる必要はないということですね。この部分も何回か議論がありました。明朝体で「明朝体」と書いた方がゴシック体で書くよりも分かりやすいのではないかということがありました。
○伊藤委員
それはそうです。ただ明朝体にすると,確かに10ページの左下の枠ですが,字が分かりにくいです。ゴシック体に比べると薄くて内容が読めないというのがあるので,それで大きな字にされたのかなと思いました。
○西原主査
これが小さな字になってもよろしいでしょうか。
○山田委員
奇異になっていますが,これは「不思議だな」と思うからこそ,その後のどこが明朝体なんだろうというように見るのではないだろうかと思います。もしこれがそのまま,線が引いてあるにしても,この一つの文字列の中に収まってしまうと,そのほかも明朝体のところも別にそんな何の違いか気にもせずに見ていくということになるのではないかと思います。
○伊藤委員
そうすると10ページの白抜きのところも明朝体になっているということは,みんな自分たちで考えなさいという意味なのでしょうか。
○西澤委員
21ページ,<教室活動の展開例>の中に明朝体で大きい字を使っているところもありますから,そのフォントが使われていないというわけではないですね。
○西原主査
明朝体に目を引いてもらうとか,目を付けてもらうためにここはこうなっているということでしょうか。
○加藤委員
本来は,明朝体よりは手書きの感じの文字になっているのが一番いいのです。各教室でここを埋めていってくださいという意味合いなんですね。
○西原主査
では,山田委員の御意見を尊重して,これはこのままにさせていただいて,目立つようにしたいということでよろしいですね。
○中野委員
細かいことで大した問題ではないんですけれども,ページの表記の仕方が不統一になっていますので,これは統一した方がいいです。例えばですけれども,19ページの左の表,例えば[3]のところでは,「p.14〜p.98」というように「p.」+「数字」という表記をしています。
○西原主査
けれども,18ページの右下の表の下では「本書54〜55ページ」となっていて「p」が付いていないということですね。
○中野委員
「p」が付いていません。
○西原主査
では,ページ数を示す場合に必ず「p.」を付けるか,それともどちらとも付けないかということですね。
○中野委員
統一した方がいいのではないかと思います。
○山田委員
21ページの<教室活動の展開例>の「サポート情報等」のところでは仮名表記で「○ページ」となっています。
○西原主査
それも含めて統一した方がよろしいのではないかという御指摘ですね。
○中野委員
そのときに,53ページですが,今度は各言語でページの表記が出てくるので,例えば英語の場合は「pp.58〜59」という形で示したりするので,複数ページを示す場合にどうするかということはそれぞれの言語の表記がいいかなと思いました。
○西原主査
では,ページ表記について事務局で何らかの統一を試みていただくということでよろしいでしょうか。また,各ページの表記ですが,文字数の関係で少しずれているところについて,見ていただきたいと思います。配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」の1ページ目の「-1-」というのがかなり下の方に行っているのですが,2,3ページは同じ位置で少し上に行っています。それはそれぞれのページに書かれているものの内容・量でどうしてもこうなってしまうということがありますが,それはお許しいただいてよろしいでしょうか。
○山田委員
仮名で「ページ」と書かなければならない,文中などはそれはそれでお任せしますので,全部統一というよりは,ある程度統一されているけれども,読みやすさには配慮するみたいなことがいいと思います。
○西原主査
必ずしも全部統一ということではなくてもよろしいのではないでしょうか。では,それは最終的な修正については事務局にお任せしたいと思います。
では,まだ熱心に御覧いただいていますけれども,何か発見されましたら事務局に是非御連絡ください。今のように気になるところ,何でも結構でございますので御連絡いただけたらと思います。本日は教材例の検討もさせていただきたいと思いますので,カリキュラムのガイドブックにつきましてはここまでとさせていただいてよろしいでしょうか。
また,1月25日の国語分科会でこの「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」について,その報告の内容については主査に御一任いただくということで,よろしくお願いいたします。
(→ 了承。)
では,教材例の検討に入ります。配布資料3「教材例のコンセプトについて」,配布資料4「教材例のたたき台について」,それから参考資料1「教材例のサンプルについて」を御覧ください。
配布資料4「教材例のたたき台について」では教材例のたたき台[1],[2],[3],[4]を含んでいますが,それぞれ違ったアレンジ(arrange)になっており,バラエティ(variety)が示されております。そして,「指導者用説明シート(sheet)」,「ウォームアップ(warm-up)用シート」,「単語確認用シート」,「タスク」というのがありますが,教材例はそういうもので構成されるということを共通の理解にして作業が進められております。日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の皆様には,12月20日が日本語教育小委員会で,翌21日が日本語教育小委員会ワーキンググループで,そこからお正月に掛けて大突貫工事をしていただいて,本当に感謝しております。ただ,これで全部完成したということではなく,配布資料4「教材例のたたき台について」は「教材例にはこういう要素を含みます」というリストになっておりますので,その点を御理解くださった上で,委員の皆様方から自由に御意見を伺いたいと思います。今の段階ではまだまだ計画段階ですから,第一印象で結構でございますので,御自由に御意見を頂ければと思います。配布資料4「教材例のたたき台について」の教材例のたたき台[1]〜[4]で,指導者用説明シートから始まっていますけれども,これは必ずしもこういう順序で始まると言っているわけではありません。
○尾﨑委員
配布資料3「教材例のコンセプトについて」の2枚目の表で黄色くなっているところについて,全部この日本語教育小委員会で教材例を作るということでしたね。それはいつまでに作ることになっているのでしょうか。
○西原主査
3月までに終わるということにはなっていないようですが,事務局,いかがでございましょうか。
○山下日本語教育専門職
参考資料3「日本語教育小委員会における検討内容の大枠とそのスケジュール(案)」を御覧ください。教材例につきましては,予定としては3月までということで考えておりますが,実際の進行状況等を踏まえて,若干調整があるものと考えております。ただ,これから1年掛けてとか,2年掛けて作成するということではないということでございます。
○西原主査
御覧のように,お正月とその後数日間を除いてこれだけのものをそろえていただける方々に日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者をお願いしているということで,あと3月の終わりまでに少なくとも12週間ぐらいあると考えますと,すぐそろえられると言ってしまってよろしいでしょうか。
○尾﨑委員
それでは,まず配布資料4「教材例のたたき台について」の「指導者用説明シート」の説明内容なんですけれども,これを使う人のことを考えると,しつこいぐらい丁寧な方がいいだろうとは思いました。ただ,レイアウト(layout)とかいろいろな都合があるので,1ページに統一するのか,私は余り統一するよりは使う人の身になった方がいいのかなと思います。
○西原主査
誰がこれを見るかということによって変わってきます。この教材例を見るのはどういう方なのでしょうか。学習者も含めているのかどうなのかということは,実はまだ最終的な合意に至っておりません。そして,もし学習者も含むということであるのであれば,各教材例においていきなり指導者用説明シート―微に入り細にうがったもの―が出てくるというのは余りユーザーフレンドリー(user friendly)ではない印象はあります。
○尾﨑委員
私はもしかすると誤解していたかもしれませんけれども,教材例というのは飽くまでも指導に当たる方たちが使うという前提で,その指導する方のために「こんな使い方ができますよ」という説明があって,具体的な資料は学習する人に直接コピーをして見せるのかどうかとか,あるいは地域の状況にあわせて何か足したりとか,それから語彙リストもとてもたっぷり載っていますから,場合によったら別のものを使うかもしれないということを考えると,基本的にはこれを使うのは学習者ではなくて,指導に当たる人たちの手引の一つという位置付けかなと思ったのですが…。
○西原主査
それはいかがでしょうか。支援者側のために作っていて,学習者は原則としてこれは教育計画の中でコピーされて出ていくということはあっても,冊子になるとすれば冊子自体を学習者が見ることはないという前提でしょうか。
○岩見委員
今までのお話の流れの中で,最終結論ではないですけれども,紙媒体でとじられた第3弾としてこの教材例があります。紙媒体としても持っておける方がいいということになったと思います。それは学習者もそれを使います。ただし,それがうまく実際に現状として使われるために,今の支援者の状況も加味して,恐らく,広い範囲の支援者に使えるように,使い方についても,活動の順序とか,細かく説明も加えていくということになります。少し中途半端でございますけれども,そのような経緯までしか私もフォロー(follow)していないのですが…。
○西原主査
実は結論はまだ出ていなくて,岩見委員がおっしゃるように,現場の,誰が使うかということによっては,もうこのまま学習者の目に触れるようにしてしまう可能性というのも大いにあり得ます。そのことを全く考えないのは良くないのではないかという話し合いが,少なくとも日本語教育小委員会ワーキンググループの中にあったように記憶しています。
○尾﨑委員
教科書のようなものを期待する向きもあって,そういった考え方も頭から無視することはできないかもしれないという議論はあったかと思います。
○西原主査
例えば,この中で指導者用のものがどの位置に来るかということですけれども,イラスト付きのタスクシートが1ページ目にあり,そしてタスクが続き,最後に指導者用のメモが付いているというように,もしするとすれば,学習者が見ても読めないところは読まないということでかまわないということになりますし,そういうことで解決できる場合もあります。
○尾﨑委員
もしそういう趣旨だとすると,解説書のようなもの,いわゆる指導者向けの,これでいうと指導者用説明シートというのは多くの場合は別冊で指導者用手引みたいなものになるようなものでしょうね。
もしこれがワークシートとかウォームアップシートが学習者に直接渡るというものだとすれば,これでいいかなという議論に恐らくなっていくんだと思います。
○西原主査
指導者用のものが別の冊子になっていくのかどうかということは,むしろその方がいいかどうかという議論をしていただきたいです。本文に線が引いてあるようなものが普通,教育委員会レベルで指導書として活用されるものですね。学習者に渡るものが教科書であり,先生用のものというのはその内容を書いた上で説明が付いているものが出ていきます。ここではその区別を特別に考えるわけではなく,地域でこれから日本語を学習者のニーズを検討した後で実際に日本語教育をするという段階の方々向けに,「これこれこれのものを整えましょう」ということになっていて…。実際の冊子がどういう構成になるかということについてはまだまだその議論になっていないですけれども…。例えば教育委員会レベルではやはりそれは分けてあった方が良いでしょうか。
○伊藤委員
これを見せていただいたときには,これは指導者用のものだと思ったんです。と言うのは,指導者,支援者もレベルがいろいろだと思うのです。プロの方がやられる分にはこれはほとんど必要ない。本当にタスクとか確認シートを使って皆さんに配っていればいいと思うのですが,支援者になると,もう少しボランティア的な方がやっていると,こういう細かい指導者用のこういうものが必要で,「このようにやって順番でこうやって教えていればいい」という情報が必要なのかなと思うものですから,それ用に使われるのかなと思っていたのですが。
○西原主査
いわゆる学校教育で言う指導書の方を作っているのだろうという理解ですね。
○中野委員
私もこれは,支援者のために作っているのだと理解していました。ただ,学習者に直接渡るとしても,それは教師を通じて渡るということになります。ですから,先生のコントロール下の中で渡るので,学習者が直接見るという想定ではなく,これ自体は先生のために作ると考えていました。全体のコンセプトが,これは一つの例です,あとは教室の地域,あるいは学習者に応じて調整してくださいというものなので,これは少しマイナーチェンジ(minor change)して渡される場合も多いのではないかとも思います。
○西原主査
そういう趣旨を最初には述べるはずですよね。
○中野委員
それの方が首尾一貫していると思います。
○西原主査
ただ,教材例のたたき台において,それぞれのシートをなぜ1ページに収めているかというと,それがページごとにコピーされて教材として学習者に渡ることが圧倒的に多いだろうということから,1ページに収めるという原則が立っています。
○中野委員
ただ,もし少しウェブで公開していただければ,少し自分のところで地図は買えるとか…。先生を通じて学習者へ渡るということなので,これは前提としては先生のため,説明シートが最初にあって,私はそんなに違和感は感じませんでした。
○西原主査
前回の日本語教育小委員会では独立行政法人国際交流基金の方がいらっしゃって,評価についてのヒアリングを行いましたが,そこでJF日本語教育スタンダードに基づいた教材作りが進んでいるということをお話しくださっていました。ヒアリングの後,私たちが教材について審議を行っている際にも,その方々がおいでくださって,その話合いを聞いていらっしゃいました。その日の日本語教育小委員会の後に,独立行政法人国際交流協会で作成している教材と日本語教育小委員会で検討している教材例とが,対象は異なるのですが,展開の仕方が非常によく似ていますということをおっしゃったんです。どこが似ているのだろうと話し合いましたところ,イラストや写真などが第一面に出てきて,そこでイメージを膨らませて,それから活動があるという,その展開が非常によく似ているということをおっしゃったんです。JF日本語教育スタンダードに基づく教材は,実は学習者向けに作っているものではありませんので,学習者が直接見るという想定ではないにも関わらず,現場の能力記述をされている,その能力記述のイメージと言うか,そういうものがまずあることが教師にとっても非常にユーザーフレンドリーなのではないかという御意見をおっしゃっていたので,そういう御意見もあるのかと思ったところでした。それが岩見委員のおっしゃるようなことと似ているのではないかと思うんです。それが,どういう人が教育に当たるかということと関係するのかなと思うのですが…。
○山田委員
タイトルが「教材例」ということで,飽くまで例ということです。その例が学習者に渡るという話は余りないと思うんです。ある種の行動を達成させるというのがこの教材例のコンセプトと言うか,一番の問題なので,例えば大きく「健康・安全に暮らす」という一つの目標を持って,それに到達させるようにいろいろな能力を付けていこうと考えたときに,「医者の診察を受ける」と言うのよりも,それとは別の何かがあり,そちらの方がもっとこの地域,この人たちには必要だということであればそれをやるべきだと思います。これは飽くまで教材の例なので,そこの例を見ながら必要だと思ったものを組み立ててやってくださいという部分があると考えますが,ただ,そうは言ってもみんなそういう例が出たらそれを応用して何でもできるという能力を持っている人たちばかりではないと思います。ですので,これをこのまま示しながら,使いながら,その先に行くこともできるという,そのぐらいの柔軟性を持っていていいと思います。これは指導者向けである」ということはここで確定してしまって,指導者がどう使うかというときに,それぞれの地域あるいは対象の人たちに応じて変えて使ってくださいとします。それはもう全てこちらにも書いてあるわけですけれども,それを改めて理解すてもらいます。ただ,そこをそのままとって使うこともそれは構わないというように示しておいたらいいのではないかと思います。ただし,これをそのまま学習者に渡して,「勉強してください」という話ではないと思います。
○西原主査
そうですよね。それは中野委員がおっしゃったように,教材例は必ず指導者を経由して学習者の目に触れるというものになります。例えば今,伊藤委員がおっしゃったように,教科書が,つまり学習者の持つものがあって,そしてプロ用のものがあるという,そういう教科書+指導書と言うか,そういうものの2本立てではないわけです。その指導書だけが与えられるということで,私が心配するのは,この指導者用説明シートが一番最初にくると,この構成だと指導者自体がひるんでしまうのではないかということを少し心配しています。地域のボランティアの方々を想定した場合ですけれども…。この内容がどういうふうにアレンジされるかということについては,かなりまだ自由な段階なので,そういう心配をしているということだけを述べたのですが…。
○杉戸副主査
私も,特に配布資料4「教材例のたたき台について」の「教材例のたたき台[1]」を見たときの第一印象はそうでした。最初の2ページは重い,ひるむ,そういう心配を私も感じました。それと同時に,もっと説明が欲しいと思う,そういう支援者もいるのではないかと,そういう気もしました。と言うのは,これは日本語教育小委員会ワーキンググループで話題になったと思いますが,配布資料4「教材例のたたき台について」の4ページの【ウォームアップ用シート】の絵の四角の中に「※」で説明が入っています。こういう場面の写真及びイラストを取り上げるというイラストそのものについての趣旨説明と言うか,なぜここにこういうものを取り上げるか,あるいはここに取り上げたものはこういうものだという,その説明を明示するかどうかということです。それは純粋な教材であれば,教材そのものであれば要らないはずです。教材を説明する指導書と言われるものであれば,これはたっぷり書き込まれるべきものであると思います。その境目をどの辺りで折り合いを付けるかということで見ていくと,こういった説明が少し足りないページもあるというのが私の印象なんです。例えば,同じ4ページで行くと,絵の下に[1]から[8]まで質問の例が挙がっていますが,これはどういう順番で問いを発するのがいいか―私は教えた経験はほとんどないものですから―「より簡単な,より概括的なところから入って,徐々に細かい質問に移っていくという流れですよ」というようなアドバイスがあるべきではないかと思います。例えばそういう指導書的な情報があった方が,伊藤委員がおっしゃるサポーターの人たちで求められる度合いの高いものではないだろうかと思うんです。そういうようなことで見ていくと,素材そのもの,教材そのものと,それを説明する情報との2本立てがどのように組み合わせられるべきかというところで,四通りの実例が確かにたたき台として上がってきていています。その説明が一番幅広く示されているのが「教材例のたたき台[1]」だと拝見しました。教材例のたたき台[1]〜[4]の幅の中でどの線を選ぶかということが今後の課題で,そして,ここから先は意見になりますが,その幅はいろいろなレベルの細かさ,情報量の多いものから少ないものまで含めて教材例だというように示していいのではないかと思います。少し乱暴かもしれませんが,指導書としての多様性もあっていいんじゃないかというのが,私の意見です。
○西原主査
学校教育の中では,学習者が持つ色美しい文字の少ない版の大きいものと,それから教師たちが持つものがあるわけです。主査としては文化庁・文部科学省の傘の下から出て行くものが指導書だけでいいのかということを気にしているわけです。外国で出されているこの種のものを見ていくと,ステューデントブック(student's book)とティーチャーズブック(teacher's book)という二つながらにして出てくるというのが普通なわけです。そのことをこの中でどう踏み切るか。山田委員はティーチャーズブックでいいのではないかということですし,尾﨑委員もそう思っていらしたということなのですけれども。ティーチャーズブックであるならば,杉戸副主査がおっしゃったように,もう少し書き込まなくてはいけないことがあるはずということですね。そのもう少し書き込むべきことがいっぱいあるはずというのは,今度はどういうレベルの,例えば初任者なのか,ベテランなのかという標準をどこまで見極めるかということと関係してきます。「日本語教育なんてやったこともない,昨日までサラリーマンで,定年になりました,今日からボランティアです」という人が世の中にたくさんいると思います。そういう方々にも使えるようなものにするのか。それとも配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」が言っているように,「第一義的には…」とは言わないけれども,その地域を取りまとめるような計画作成に関わるような方々を主たるターゲットにして教材例とするのかというところにまで議論は波及していくと思います。
○山田委員
この日本語教育小委員会が始まったときから,対象と言うか,我々がこの日本語教育小委員会ではどういう人たちのために考えるかと言ったときに,今までボランティアにかなり任せた形,ボランティアだけが担っていたと思われるような形の次にどうするかということがあって始めたということがあります。ただ,そうは言っても現実的な対応というのが大事なので,「全部プロの日本語教師がやるんだ」という話にはできません。そういうことであればということで,コーディネーターというような人たちが入りながらも,その人たちと現場―それは専門の日本語教師という場合もあるだろうし,それからボランティアで経験がある人たちということもあるだろうし,ボランティアで経験がある人にくっ付いているボランティアで経験のない人ということもあるだろうし―そういういろいろな現場を見ながらも,もともと必要としているのは,コーディネーター的な役割を果たす人,その人たちがこの教材例を利用しながら,つないでいくということが大事だと思うので,私はこの教材例は「現場で学習者が手に持って,これで勉強してください」ということではないというのは言っておかないといけないと思います。「これだけでいいんですか」ということになってしまうのではないかと思うのです。
○岩見委員
ただそろそろ第一義的,優先的に誰を対象としているかということは,何回も議論を繰り返さないように,何か一つは決めておく必要があるのではないでしょうか。今までお二人から出たのは,第一義的には支援者用,学習者用にコピーをしていこう,選択をして使うこともあり得るというふうにするということが一つですね。
それから,支援者にもいろいろなレベルがあって,その点山田委員から発言がありましたけれども,細かい説明,ティーチャーズブックだとすると,先ほどもっと細かい説明まで必要ではないかというお話がありました。今この日本語教育小委員会で全体を通して行っていることは,ボランティア依存型から脱却をして,地域を担う専門家を育成していくということです。コーディネーターを育成し,それでプロを育てる―そこに日本語教育そのものに経験のない方も実際につながる場合もあるかもしれませんが,いろいろな方がなり得ると思います。今まで日本語教育のプロであっても地域日本語教育特有の理念からこういう教え方が必要だということをずっと検討してきたわけです。それが「対話による相互理解」とか,「体験中心」とか,幾つかガイドブックにもまとめられている言語習得に対する考え方になるわけです。日本語教育小委員会では,それを踏まえてこの教材例を作成することになっていますし,プロであっても教え方について―従来と大きくくくっては問題かもしれませんが―従来とはこういうポイントが違って,「このようにやるんですよ」ということを示していくわけです。それはやはりプロとして日本語教育を長くやってきた人にも必要な内容であると思うので,その辺りは,この教材例の対象者がプロの日本語教師であっても書いておく必要があると思います。そこを日程的な事情とか,そういうことも含めて,細かく書くのは何段階かあればそれは書いてもいいですが,まずは最低限押さえる必要があるところがあると思うので,そこを押さえて書いていくことになると思います。そのほかに説明のところは必要があるものは研修で補わないとそれは全てをこの場で書くわけにはいかないので,その辺りのところをターゲットにしたらどうかと思います。
○西原主査
もう一つ確かめておきたいのは,これは教材例であって,指導参考書ではないということです。教材と言っている限り,とにかく例であっても,それをコピーして使えるものがないといけないということ,そこはよろしいですね。だからこそ,一つのシートに一つのタスクというようなことを例の一部にしているということです。そして,「このように使ってください」と岩見委員がおっしゃったようなことは,恐らく教材例の冒頭に書くことがあるのではないかと思います。つまり,この教材例の使い方,この本の使い方というところで,原則又は是非このように展開してほしいということを書くということがあります。そこの部分だけ確認していただいてよろしいでしょうか。
そして,これは事務局にもう一度確認しなければいけないのですが,何が,例えば文化庁的に何が期待されているのかと言うときに,山田委員がかつてお作りになったような,所沢の中国帰国者定着促進センターでお使いになっているような,いわゆる「教科書」というものが期待されているのであれば,それは文化庁の傘下の委員会として,そこに応えていかなければならないというところがあると思うのです。指導参考書と教材例の差で,教材例として期待されているものというのが一体何なのか,そこに応えるべきものは何なのかということを一番最初に踏まえておかないといけないのではないかと思います。
○舟橋国語課長
教材例と言いましても,やはり確かに教科書的なものがあると非常にいいというイメージがあります。ただ,日本語教育の実態ということを考えたときに,例えば学習者が全部自習できるようなものかと言うと,そういうものではないかもしれません。そこがこちらとしても完全に踏み切れないんですけれども,専門である委員の皆様に御議論いただき,一番現場にとって良いものをお作りいただければいいのかなと思っております。
○西原主査
課長が冒頭におっしゃった教科書的なものも含んでいるというところが必要ですね。だから,タスクシートというのは教室活動にとって具体的に学習者にも渡せるものなので,そこのところが前面に出ていたりすれば,あとは指導に関する説明が幾らくっ付いていても許されるだろうということです。恐らくそういうことではないかと思うのですが…。
○伊藤委員
最初のイメージはそうなのですが,ただ,このようにいろいろ教材例と書いてあるものですから,こういうものを利用できるということは支援者にとっては有り難い部分です。ですからそれはそれでいいのですが,ただ,現場は本当に様々なんです。
配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」に技能実習生の話も載っていましたが,現実的に企業に行って,日本語を教えている人,そこの企業の中で教えている人を見ているのですが,全く庶務の人です。今まで日本語教育の勉強に携わったことのない人がある教材を使って研修生を相手に日本語を教えているんです。それがそれでは非常にまずいかと思ったら,きちんとみんないろいろな事例を挙げて上手に説明されているんです。皆さんもそれについて楽しく勉強されて,それが身に付いているんです。そうかと思うと,今度本当の地域の日本語教室へ行くと,もうばらばらでやっているわけです。ですから,これは飽くまでも指針になる,何か教え方の一つの指針になるようなものになれば,どんな人が携わっても教え方にある程度一定のものができれば,共通してレベルが上がるのではないかと思います。ですから,これが参考のものになっていけば,支援者の皆さんがよく使ってくださると思います。先ほど使いやすいとおっしゃったんですけれども,そういうものになっていけば,全国津々浦々同じようなレベルの教育ができるのではないかと思います。
○西原主査
今おっしゃったことの中で,企業の中の例として楽しく学んでいます,その気になって意欲的に学んでいるというところがあったのですが,やはりこれは意欲的に学ぶと同時に意欲的に教えたいと思わせるようなものでないといけないですね。それで,説明がどの程度であったら,これなら使えると現場で思ってもらえる最低のラインで,もっと意欲的な先生のためにどの程度の説明,指導用の説明があったら一番よいあんばいなのかということは難しいですね。
○加藤委員
本当に様々だと思うので何と言ってよいか…。要は配布資料3「教材例のコンセプトについて」の2枚目で黄色で示されている部分しか教材例は出ないわけですよね。日本語を教える人たちがそれ以外の,配布資料3「教材例のコンセプトについて」の2枚目だけでも黄色以外の部分が随分とあり,さらにこの配布資料3「教材例のコンセプトについて」の2枚目に載っていないけれども,必要になるものがもっともっとあるわけですよね。そのときにこういったシートを作ろうとか,このように教えようということが分かるようなものだといいと思うのです。そのために,そのシートの使い方だけを書くのではなくて,さらに違う相手が出てきたときにも対応できるようなヒントが書かれていると一番良いと思います。つまり,これは教科書にはなり得ないわけです。100%網羅していないわけですから,そこをどうするかということです。シートだけが出ていくというのは,それはそれで使えるものとしていいと思いますが,そこから発展はないわけですね。
○西原主査
そこにいろいろと,例えば配布資料4「教材例のたたき台について」の3ページ,「教材例のたたき台[1]」の2ページ目にこういうことをしたらよいでしょうというような説明が推薦文のように書かれています。
○加藤委員
本人によると言うか,状況によっては全くあり得ない方になってしまいますが…。現場で教える人がこれを使いながら,徐々に理解し,次に日本語を教えるときに,「では,次のところはこのようにしよう」というように発想できるようになっていくことが重要ですから,この教材例だけで完結させることは本当に難しいと思います。そこにコーディネーターの方の研修とかが必要ではないかと思います。
○尾﨑委員
「最低これだけは」というものに「60時間,30単位」というのがあって,一応ここまで話がきていますから,もし仮に文化庁なりが,教科書とは言わないまでも,これを全部網羅した形で「コピーしたら利用できますよ」というものをお作りになって,それに指導する方をバックアップするような文章ができれば,それはそれで一つのものにはなるかと思います。ただ,今の状況だと,この黄色い部分しかまだできていませんから,まだ途中だという理解ですね。この先,どうするおつもりかということが一点ありますが,今日の議論を伺っていると,やはり教材例と言うからには教材の例を提示しているんだということですね。そうだとすれば,その教材例を使ってやってみようと思う人がいたときには使えるようにしておこうというのが,かなりはっきりしたのかもしれませんね。そうすると,「では,これを使うとしたら,誰が使うのだろうか」と言うといろいろな人の可能性があります。ただ,いわゆるプロの日本語教師と呼ばれている人たちの中でも,このような現場で実際にカリキュラムから教材まで作って十分経験している人が十分にいるわけではないという現実があります。ですから,例えば「みんなの日本語」だったら教えられるんだけれども,それを外されて,配布資料4「教材例のたたき台について」の4ページ,【ウォームアップ】をぽんと渡されたら「どうしましょう」と普通は思うと思います。それから,ほとんど日本語ができない人と出会ったときに,この4ページの【ウォームアップシート】をどうするかということを考えると,いろいろなことが恐らく必要になるでしょう。そういうことを考えると,いわゆる日本語教師と呼ばれてきた方にとっても,もっと柔軟に考えていかなければいけません。それを岩見委員はおっしゃったと思うので,教材例を提示して,その教材を使う場合には「こういうことに配慮するといいですよ」という説明は丁寧な方がいいかなと思いました。
○西原主査
私の個人的な経験ですが,この第一冊目である机上配布資料「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について」をある地域で教師,支援者の方にお渡ししたら,「よかった,機能と文法と語彙(ごい) が来た」とおっしゃったんです。文型中心の指導でたたき上げてきた方の反応というのは,恐らくそういうことだろうと思います。そこを打破するためにこの教材例があるわけなので,そこのところをきちんと,つまり体験中心,行動中心,能力記述を達成するためのものに転換したぞということを示す教材の例というものが示されるということですね。要素としてはこういう要素を含むというところまではお話し合いいただいたので,日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の方にも配布資料4「教材例のたたき台について」に掲載されているような教材例のたたき台[1]〜[4]のようなものを作っていただいて,それにバラエティがあります。まずバラエティのあるままで,つまり生活上の行為によってはある部分が重くなったり軽くなったりという変化がありますが,この教材例のたたき台[1]〜[4]まで一つの教材例の中に混在してよろしいかということをまず確認したいのですが,それについてはいかがでしょうか。教材例のたたき台によって,いろいろな部分が重くなっているという御説明があったと思うんですが,教材例のたたき台[1]〜[4]まで統一したようなものが必要でしょうか。
○西澤委員
私はバラエティがあっていいと思います。というのは,要するに生活上の行為そのものの重要度や質や緊急性が,それぞれ違うわけですから,ある人にとっては余り重要ではないことは薄くてもいいと思います。そもそも単位の考え方も,そういう形で軽重を付けてきているわけですから,そこはいろいろと違いがあっていいと思います。全く同じスタイルで1ページに収めて,全部統一的にやる必要はないのではないかと思います。
○西原主査
そうすると,タスク(task)も,例えばあること,ある生活上の行為のためにはタスクがたくさんあるけれども,ある生活上の行為の事例には,大枠のタスクが少ししかないとか,そういうバラエティと同時に指導用説明シートも割に大まかなところと細かいところとあってよろしい,そういうバラエティがあってよろしいということでしょうか。
○岩見委員
情報についてはある程度細かい多言語情報や,問診表を書く様式とか,そういうことがある程度決まっているものと,その地域によって独特の情報を使って教材の作成が必要なもの―例えば,店の場所とか,店の種類とか―情報の種類によって多言語で載せるのか,実際に現場で指導者と学習者がやり取りしながら情報も引き出すのか,その扱い方についてはバリエーションあっていいと思います。細かくタスクそのものと言うと,少しまだ具体的に例が挙がらないと,基本的には本当にこの生活上の行為ができるようになるために,統一を最優先しなくてもいいとは思いますけれども,ある程度基本方針があるべきで,その標準,それを満たすものということですね。
○西原主査
配布資料4「教材例のたたき台について」の1ページ目の下から2番目の○の中で,基本的な構成として,こういうものを含むということが書かれており,これは合意が成り立ったものとして,配布資料4「教材例のたたき台について」の教材例のたたき台[1]〜[4]を作っていますけれども…。
○岩見委員
その中で少し気になったことは,単語というのが前から載っていましたけれども,絵と単語が載って,辞書的機能であるということで出すのはいいと思いますが,全部の単語の確認をしなければいけないのかどうかというのは,その都度学習者の日本語能力やタスクによって異なってくると思います。確認用シートと最初から名前を付けるのはどうかなと,少し疑問に思いました。
○西原主査
単語シートですね。巻末に索引的に単語表が載るのかどうかということについては,まだ,索引的な単語リストというものが巻末にいくのか,通常の索引みたいに,例えばアイウエオ順に羅列されていくのか,項目順に,これは買い物のリスト,これは病院の診療科のリストというように載るのかどうなのかというようなことについては実はまだ決まっていませんが…。
○岩見委員
逆に,確認と言うと最初に全部を網羅的に確認しなければいけないということに思われないでしょうか。
○西原主査
これこれこれは知っているというように確認されるというのはまずいというわけですね。
○加藤委員
西原主査がおっしゃいましたが,どなたかが「機能と文法と語彙が来た」とおっしゃったという,そういった現実というのは恐らくあると思います。つまり,今説明を加えるというもっと前提の部分の問題ですが,根本的に機能とか文法を教えることを目的としたものではないのだということをより強く言う必要というのはあるのではないかと思いました。そうでないと,幾らワークシートに説明を加えても,別にここから文法事項とか,語彙を抽出して語彙のテストを毎時間頭にやりましょうというようなことになってしまうのではないかという懸念があります。
○西原主査
それは恐らく巻頭に,つまり「はじめに」ないしはこの本の使い方というところに書いていくべきこと,行為の種別ごとにではなく,全体的に書いていくべきことというのは別途あるでしょうね。それは恐らく日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の方々に書いてくださいということではなく,恐らくこの日本語教育小委員会の責任において巻頭の章は作るということが必要になるんだろうと思います。では,単語確認用シートを単語シートとすることにして,ウォームアップ用のシートと単語のシートとタスクがあって,それに指導者用説明シートが付いているという構成というのはこれでよろしいでしょうか。そういうものがある。それがどういう資料で出ていくかということはその後の展開で決まるということですね。
○山田委員
ものによって,例えば「目的地までの道を尋ねる」だと,こういう,例えば実際に行ってみるというのもあり得るので,そういうときはこういうものを使ってこういう行動をしたらどうだろうかという,そういう書き方もあっていいのではないでしょうか。
○西原主査
それは指導者用説明シートのうちですね。
○山田委員
そうですね。説明かもしれません。その中に途中が消えた地図を持たせるとこういう効果があるみたいな,そういうことですね。
説明が結構ありますね。どれとは言えないけれども,あるところでは長くなって,その中には実際の現物の例が出ているみたいな,そういうものもあり得るということです。
○西原主査
そうですね。日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の方々も,実はボランティアとのつながりも十分持っていらっしゃるし,それから学習者の状況もよくお分かりになる方々ですから,そういうオプション,あるいはこういうこともあるでしょうみたいなオプションは書き込んでおいていただくということですね。または,「こういう学習者の場合はこうしたらどうですか」といったオプション(option)も,少なくとも御経験から,あるいは御見聞からメモしておいていただくということですね。それはいろいろ出ているように,詳しければ詳しいほど―要らない人にとっては要らないけれども―役に立つ人も多くなっていくということですね。この指導者用説明シートはめげずにいっぱい書いていただく,とにかく自主的に書いていただくということで進めたいと思います。
○中野委員
私たち,国際文化フォーラムでやっているプロジェクトで思うのですが,先ほど加藤委員がおっしゃったように,確かに教材例ではあるんだけれども,実は教材ありきではないわけです。指標ありきなわけです。ですので,例えば学習者用に教材例を作るとしても,冒頭に「お医者さんに症状を伝えよう」といったものが最初に来て,ゴールは症状を伝えることだというスタートが欲しいですね。この表現,この語彙を覚えるのは最終目標ではないという意味で,「ゴールはこれだ」ということを出します。そこで,その後にイメージを膨らませていくわけです。場面状況を思い起こしてみようというウォーミングアップがあって,それでそういう場面状況の中で自分が言いたいことを言うにはこういう単語,こういうのが必要だという流れがあるわけです。ですので,本来はこういう,授業例と言いますか,流れと言いますか,それがあって,それに必要な教材はこれですということになるわけで,どちらかと言うと教材は後から来るわけです。ですから,そういう意味で,ただアウトプット(out put)として教材例を示すということですから,その流れをまずきちんと押さえないと,教材だけ先に入っていくというのは,順番としておかしくなると思います。ですので,ここは確かに指導者用シートと書いてありますけれども,実はこれは教室活動の流れを示しているわけです。こういう授業あるいは教室活動をするとこの指標が達成されるだろうことです。タスクベース(task base)でないとなかなかできるようにはならないという,表現がここにあると思います。ですので,すごく大事です。教師向けのものだから最初にあるというという考えもあろうかと思います。それからもう一つ,このプロジェクト全体が目指している,こういう活動でこの指標,キャンドゥー(can-do)が達成されるというのをまずここで押さえて,そういう授業にこういう教材が来るという順番がどうしても欲しいと思います。
○西原主査
と同時に,場面情報のイメージというのが何よりも増して先に来ないといけないですね。
○中野委員
授業ではそうなのですけれども…。
○西原主査
授業と言うか,この中で,例えばページをめくったら場面情報の写真がありまして,その後ろに指導用の説明が付いていますという方が,教師にとってユーザーフレンドリーです。
○中野委員
キャンドゥーに慣れている人はいいのですが,そうでない方の方が多いのかなと想像すると…。
○西原主査
例えば一番最初に事務局で作ってくださったものに駅の写真がありました。例えばああいうものがあって,「あっ,こういう行為なんだ」ということが分かるシートに説明資料が付いている,それはタスクシートでも何でもない,単なる写真,行為の写真を伴っていた方が,私はすっと指導者用説明シートに入れるのではないかという気がします。
○中野委員
おっしゃっていることはよく分かるのですが,学習者は間違いなくそれの方が先です,もちろん,まず写真を見て…。
○西原主査
指導者用のこれを読んでしまうと,なるほど,このようにやっていきましょうと思います。それがどういうリコメンデーション(recommendation)の言葉で書いてあっても,そのとおり一からつぶしていきますということを助長しないような,そういう工夫というのが国際交流基金のおっしゃるイメージで膨らませというところだと思うのです。それは教師自体の頭の中もイメージで膨らませるということです。
○中野委員
むしろそういうことをウォームアップの前に教材例,最初イメージを膨らませようとか,それが逆に欲しいです。何々を書き込んでいきましょうと突然入らないようにすることです。ですので,それは冒頭に押さえていただいてもいいと思います。
○西原主査
これは日本語教育小委員会ワーキンググループの中でも出てきたことですけれども,医者の診療を受けるということにするのか,それとももう少し何とかしようというようなことにするのかというところは実はまだ解決済みではなくて,むしろそちらの方がいいのではないか。それはそういう単元だと教師自身も思うし,学習者にそれは任されるという,そういうことのネーミング(naming)も必要ではないかということも日本語教育小委員会ワーキンググループで出ていました。
○中野委員
学習者用だったら突然ウォーミングアップの病院・診療所ではないかもしれないですね。
○西原主査
教師にとっても,何をするのかと言うときに,「診療を受けよう」と言うか,「お医者さんと会おう」と言うか,「病院に行こう」と言うか,とにかく「ここはこういう単元です」ということがまず示されるというのは必要なことになります。それは恐らく後で教材例がそろってから実際にアレンジするときにそういう呼び掛けにしようかというようなことが一斉に変わっていくというものになるのではないかと思います。日本の先生たちはまじめなんですけれども,何かこういうものが与えられると,皆さん最初からつぶしていくんです。小学校の先生たちを見ていてもそうなのですが,本当にまじめで,誠実な方々が多いです。ですから,それを前提にして,その方々が一番使いやすいようなものにしていくということになるんです。ウォームアップと書かれていると,必ずウォームアップをしなければいけないと思うというのが普通の考え方になってしまいます。
○中野委員
一方で,こういう今までの文法中心ではない教科書を作った経験から言うと,こういう中身自身を提示することで先生の教え方のスタイルが変わっていくということがあるんだというのはすごく思いました。ですから,やらせるわけではないんだけれども,こういうプロセスでいくというのを,最初は少しやらせ的にやってみるんだけれども,そのスタイルが身に付いていって,それから御自分のオリジナル(original)でやっていくという,そのお手伝いをしている感じがするので,最初は枠にはめてしまうかもしれないけれども,従来のやり方とは違うということをお伝えするという意味でかなり大事かと思います。
○西原主査
それはそうだと思います。それをつぶしていくということは避けられないので,避けられないことは想定しつつ,「こうしてください」というように,「タスク中心です,そのためには共通理解をするんです」というようなことがメッセージとして伝わっていくということが大切なことですね。ですから,会話例と言わずにキーフレーズ(key phrase)というようにさりげなく言っていて,これもどこかでこれを覚えるのではありませんと,既に書いてあるけれども,何かそれらのことがもう一度繰り返してどこかでまた言うという,そういうことが必要になるし,皆さんがおっしゃっているように研修,この使い方の研修というのが必要になりますね。
○井上委員
研修技能実習生の初期の段階の日本語教室をのぞいたことがありますが,そのときはバスに乗って,電車に乗って,あるところまで行くというのを,2時間ぐらいかけていました。要するにバスも三つぐらいの停留所,駅も2駅ぐらいで戻ってくるんですけれども,それで一つ一つここに書いてあるように単語の確認とか,キーフレーズとか繰り返しやっていました。それがタスクに反映されていくというようなことで言うと,ぴったりはまっているなという感じがします。実際にそれをどういう形で,最初,教室にいるときは研修技能実習生にそういうシーンを想像してもらうわけですが,バスとか鉄道というのは,まず各国でシステムが違います。皆さんインドネシアとかフィリピンから来ている研修生でしたので,システムが違うわけです。バスと言っても乗り合いのタクシーみたいなものが多かったりします。バスというものをまず理解させるところからウォームアップさせていくのですが,人に色々聞くということまで入ってきます。それはおそらく,アジア中心の研修技能実習生に教える場合と日系人に教える場合と全く違うわけです。自らの意思で来た人と,ある程度枠組みの中で来た人の違いです。そういう意味ではそれが全て地域のそれぞれの実情に応じて相手に応じて作っておけばいいわけで,その点は非常に分かりやすくできていると思いました。
○西原主査
独立行政法人国際交流基金の教科書を監督していらっしゃる立場として,西澤委員はいかがですか。
○西澤委員
やはり従来の教え方をどうやって打破するかということを常に念頭に置いて作っていく必要があるということについて,確かにそうだと思うんです。文法中心の教育から転換してもらうということですね。
○西原主査
それでは,今まで示されたこの四つのパターンのどれにするかということを選ぶのではなく,それぞれに応じてこの要素は踏まえつつ,説明用の資料も,長いのが必要だ,短いのが必要だということについてページ数を制限することもなく,自由に作っていっていただくということでよろしいでしょうか。流れというのは,能力記述されているものを達成するという目標であり,そこにもいろいろ書いてありますけれども,体験中心,活動中心という,そういう達成目標は生活できるようになることということにあるということを,とにかくしつこいくらいに例示するということがあって,このまま続いけていくという,そういう作業の続き方でよろしいでしょうか。何もやめなさいというものはない,これは要らないというものはこの配布資料4「教材例のたたき台について」に提案されていないということでよろしいでしょうか。
○岩見委員
そうですね。ただ強調したいことは忘れないで,このコンセプトを忘れないでほしいと思います。埋もれてしまう恐れがあるということです。お仕着せのロールプレイを,単にやらせれば力が付くということではなく,配布資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック」に言語学習についての考え方に書いてあるように,できるようになりたいと望むこと,個々の自主的に習いたいと思うこと,困っていることとか,その個別性を尊重して,より積極的にこのことが人に役立つものを選ぶということをどこかに書いておくこと,それは前半の説明の部分になるのか分かりませんが,そこを大事にするということ,できるだけ本物を実際に使う,使える会話をそこでも練習するということを念のためにもう一度確認するということですね。
○西原主査
一般的にアジアの人はロールプレイをしたがらないし,するのは下手だと言われていますね。
○岩見委員
僕だったらこんなことはしないとか,その役割はあり得ないというコメントが出てきたりしますね。
○西原主査
農業生産物輸入会社の社長をしているフランス人学習者が,ロールプレイをさせようとすると,私は経営者であって買物客ではないとか言うので,教師が非常に手を焼いていました。また,日本人は照れてしまうから役になり切れなくて,役割演技がとても下手というようなことがいろいろあった上でロールプレイが成り立つのですよね。
では,委員の皆様方については御意見をありがとうございました。日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の方々にはこのような形でお続けいただくということにさせていただきたいと思います。そして,ガイドブックにつきましては,これで一応まとまったということで文化審議会国語分科会に報告をするという段階になったと思います。御協力本当にありがとうございました。
○舟橋国語課長
先ほどからお話が出ておりますけれども,本日が今期の日本語教育小委員会の最後の会議でございます。西原主査,また杉戸副主査を初め,委員の皆様におかれましては,御多忙の中文化審議会国語分科会日本語教育小委員会の運営に御協力いただきまして,誠にありがとうございました。今期標準的なカリキュラム案の取りまとめ,それからただ今ガイドブックの取りまとめまで御審議いただきまして,また教材例につきましても方向性を出していただきまして,この場をお借りして御礼を申し上げます。
○西原主査
それでは,これで今期最後,36回の日本語教育小委員会を閉会とさせていただきます。御審議,御協力ありがとうございました。
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