議事録

第37回国語分科会日本語教育小委員会・議事録

平成23年5月25日(水)
11:30 〜 12:30
旧文部省庁舎2階 第1会議室

〔出席者〕

(委員)
西原主査,杉戸副主査,伊東,井上,岩見,尾﨑,加藤,金田,小山,嶋田,中野,西澤,春原,山田各委員(計14名)
(文部科学省・文化庁)
舟橋国語課長,鵜飼日本語教育専門官,仙田日本語教育専門職,山下日本語教育専門職ほか関係官

〔配布資料〕

  1. 文化審議会国語分科会日本語教育小委員会委員名簿
  2. 文化審議会国語分科会日本語教育小委員会の議事の公開について(案)
  3. 文化審議会国語分科会日本語教育小委員会の審議経過と課題
  4. 日本語教育小委員会における検討内容の大枠とそのスケジュール(案)
  5. 日本語教育小委員会における検討内容とそのスケジュール(案)
  6. 「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案
    データベースについて(案)

〔参考資料〕

  1. 文化審議会国語分科会運営規則
  2. 文化審議会国語分科会の議事の公開について

〔机上配布資料〕

  1. 日本語教育小委員会ワーキンググループ委員名簿
  2. 国語分科会日本語教育小委員会における審議について―今後検討すべき日本語教育の課題―
  3. 国語分科会日本語教育小委員会における審議について―日本語教育の充実に向けた体制整備と「生活者としての外国人」に対する日本語教育の内容等の検討―
  4. 「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について
  5. 「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案活用のためのガイドブック

〔経過概要〕

  1. 事務局から配布資料の確認があった。
  2. 文化審議会国語分科会運営規則に基づいて,委員の互選により,西原委員が日本語教育小委員会主査に選出された。
  3. 文化審議会国語分科会運営規則に基づき,西原主査が杉戸委員を副主査に指名し,了承された。
  4. 事務局から,配布資料2「文化審議会国語分科会日本語教育小委員会の議事の公開について(案)」の説明があり,了承された。
  5. 事務局から,配布資料3「文化審議会国語分科会日本語教育小委員会の審議経過と課題」,配布資料4「日本語教育小委員会における検討内容の大枠とそのスケジュール(案)」,配布資料5「日本語教育小委員会における検討内容とそのスケジュール(案)」についての説明があった。その後,今後の日本語教育小委員会の検討スケジュール及び検討内容に関し,質疑応答と意見交換を行い,配布資料4及び配布資料5について了承された。また,主査から提案された日本語教育小委員会にワーキンググループを設置すること,ワーキンググループのメンバーは主査の指名によること及び日本語教育小委員会ワーキンググループの作業は適宜委員以外の協力者の協力を得ながら進めることが了承された。
  6. 事務局から,配布資料6「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案データベースについて(案)」の説明があった。
  7. その後,今期新たに就任した委員から挨拶・意見をもらった。
  8. 次回の日本語教育小委員会は,6月14日(火)に旧文部省庁舎5階文化庁特別会議室で14:00〜16:00に開催されることが確認された。また,日本語教育小委員会ワーキンググループについては,日程調整を行い,各委員に連絡することが確認された。
  9. 質疑応答及び意見交換における各委員の意見は次のとおりである。
○西原主査
それでは,日本語教育小委員会の議事を進めたいと思います。東日本大震災がございましたので,前期から間隔が大分空いておりますけれども,今期はこれが第1回ということになります。本小委員会の今期の審議の進め方について,真面目に考えるとため息が出そうなスケジュールなのですが,真面目に考えていただきつつ,ため息をつかないで何とか進めたいということでございます。
今期の日本語教育小委員会の審議内容は,事務局から御説明がありましたように,教材例を完成させ,そのほかに学習者の日本語能力評価,それから,日本語を支援する人たちの日本語指導の力の評価についての検討を予定しております。非常に作業量が多いわけでございますけれども,よろしくお願いいたします。
そのため,事務局からの御説明にもありましたように,日本語教育小委員会ワーキンググループを設けて,そこで大まかな検討作業を行い,論点を整理したものをこの日本語教育小委員会に検討のために掛けるということでございます。また,作業量も多いことが予 想されるため,日本語教育小委員会ワーキンググループの作業は,本小委員会委員とは別 の日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の協力を得ながら進めることとしたいと いうことでございます。もし御了承いただけましたら,日本語教育小委員会ワーキンググループ及び日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の任命または分属につきまして は,主査の指名とさせていただきたいのですが,よろしゅうございますでしょうか。
(→了承)
○西原主査
日本語教育小委員会ワーキンググループにつきましては,机上配布資料1のとおり今期は7名の委員で進めてまいりたいと存じます。前期から同じメンバーに御尽力いただくわけでございますが,金田委員には,これまでも日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者として関わっていただいたこともあり,新たに日本語教育小委員会ワーキンググループ委員に加わっていただきます。御多忙のところでございますし,かなり頻度の高い会合等が予定されているところでございますけれども,どうぞ7名の委員の方は御協力をよろしくお願いいたします。
なお,日本語教育小委員会ワーキンググループでの検討は,飽くまでも本小委員会の準備作業ということでございますので,当初の予定,大体の予定は立っておりますけれども,予定にない会合というのも適宜私から開かせていただくと思います。また,日本語教育小委員会ワーキンググループは原則として非公開の作業ということにさせていただきたいと思いますので,御了承をよろしくお願いいたします。
その日本語教育小委員会ワーキンググループの検討状況につきましては,私から経過報告として日本語教育小委員会のたびに御説明申し上げるというつもりでおります。
今まで御説明いただいたこと及び日本語教育小委員会ワーキンググループ等の作業等につきまして,何か御質問がありますでしょうか。今回新しく日本語教育小委員会に委員として加わっていただく方は,驚かれているかもしれませんが,どうぞ忌(たん) のない御意見を頂きたいと存じます。御質問はありませんでしょうか。
○伊東委員
今回,配布資料4「日本語教育小委員会における検討内容の大枠とそのスケジュール(案)」にあるように,「教材例」,「能力評価」,「指導力評価」のそれぞれに「小委員会」,「WG」(Working group:日本語教育小委員会ワーキンググループ)とあり,今,机上配布資料として「日本語教育小委員会ワーキンググループ委員名簿」が配付されましたが…。
○西原主査
トリプル(triple)でお願いいたします。
○伊東委員
了解しました。
○西原主査
日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者にも「教材例」「能力評価」「指導力評価」で重なりがありますが,それぞれ作業等でも相互連関するところが多いところから,日本語教育小委員会ワーキンググループを更に三つに分けるということをせずに,合同で行いたいと考えております。それから,日本語教育小委員会ワーキンググループの方々は,金田委員を除いては,継続して関わっていただいている中で,問題点も共有していただいていると思いますので,トリプルでよろしくお願いいたします。
なお,日本語教育小委員会ワーキンググループの会合への他の日本語教育小委員会ワーキンググループ以外の委員の御出席も,時間的に可能であれば,もちろんよろしいわけでございますけれども,何せ頻度が高うございますので,内容につきましては,日本語教育小委員会で御報告申し上げるということで,原則進めたいと考えております。よろしゅうございますでしょうか。
○杉戸副主査
一つお尋ねですが,配布資料4「日本語教育小委員会における検討内容の大枠とそのスケジュール(案)」を見ると,「教材例」,「能力評価」,「指導力評価」,三つのテーマについてどういうスケジュールで検討を行い,それぞれ取りまとめに何回要するかと書いてありますが,それぞれの取りまとめの具体的な姿と言いましょうか,これはどういう形のものを目標にしていこうということか教えていただきたいと思います。議論していく中で,「これはこういう形で外に発信していくべきだ」となるのかとは思いますけれども…。漠然とした枠組みとしては「教材例」「能力評価」「指導力評価」,これら三つを別々にまとめた資料,あるいは提案を外に向けて出すと考えておけばいいものでしょうか。
○舟橋国語課長
配布資料4「日本語教育小委員会における検討内容の大枠とそのスケジュール(案)」にあります「教材例」については,まとめていただきまして,これを印刷物としますし,ホームページに掲載し,自由にお使いいただけるようなものを御作成いただきたいと思っております。
「能力評価」「指導力評価」については,それぞれ評価規準という形で検討内容をおまとめいただくと考えておりますが,最終的には両方セットにするのか,あるいは,それぞれ別々でも御利用いただけるような形にまとめていただくのだろうかと考えております。そこは出来上がりの形を見てからと思います。
○西原主査
恐らく,世の中の声というものを―それこそ風評でございますけれども―いろいろと聞いていらっしゃるかもしれませんが,例えば能力評価については,在留のための資格と関 連付けるのか付けないのかということを,この日本語教育小委員会の外で言っている人たちはいると思います。ですが,この日本語教育小委員会では飽くまでも今まで検討を行ってきたことの上に,しかるべき学習成果,または指導能力の評価を提案するということであろうと思っております。ですから,私はそこはにらむ方向が違うと考えて進めていくのだろうと思っております。ただ,まとまるということでは,「能力評価」の規準について今期まとめるということでございますね。
○舟橋国語課長
はい。お願いいたします。
○西原主査
指導力の方も,一応の大枠のまとめは考えられるということで,それで色が三つあるということでよろしゅうございますでしょうか。
○舟橋国語課長
その通りでございます。
○西原主査
ですから,それで今期,検討を行う事項が三つあるということで,日本語教育小委員会及び日本語教育小委員会ワーキンググループでの検討がより頻度を増し,濃度も増すということであろうかと思います。よろしくお願いいたします。
○春原委員
配布資料4「日本語教育小委員会における検討内容の大枠とそのスケジュール(案)」の一番下の「その他」というところで,「地域日本語教育コーディネーター研修」と「都道府県担当者研修」というように研修事業がありますが,この上に書かれている「指導力評価」の成果が研修事業に反映されると考えてよろしいですか。
○西原主査
必ずしも配布資料4「日本語教育小委員会における検討内容の大枠とそのスケジュール(案)」でグレーで示されている「指導力評価」の部分が,すぐに結果をこの研修に生かすかと言うと,指導能力評価だけがここに反映されるということではないように思いますが,事務局,いかがでしょうか。
○仙田日本語教育専門職
指導力評価の検討結果だけがすぐに研修に反映されるということではございません。
○西原主査
この研修は毎年行っているものです。そして,例えば指導力の検討はまだ昨年までは行われておりませんでしたが,この二つの研修は続いてきております。その都度,配布資料 4「日本語教育小委員会における検討内容の大枠とそのスケジュール(案)」で赤で示されている「教材例」及び緑で示されている「能力評価」のところを含めたことは研修事業に反映されるものの,研修事業自体は別途のテーマを持ってそれぞれ行われてきていると考えてよろしいですか。
○仙田日本語教育専門職
そのとおりでございます。例えば,昨年度も地域日本語教育コーディネーター研修というのを開催させていただいておりますが,その中では,机上配布資料3「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について」の内容について,山田 委員から御紹介していただきまして,その活用の仕方について,研修受講者に考えていただくというようなことを行いました。今後も,この日本語教育小委員会での検討の内容を適宜活用させていただいて,取り組んでまいりたいと考えております。
○西原主査
よろしゅうございますでしょうか。
○春原委員
はい。
○西原主査
ありがとうございます。
では,審議につきましては,配布資料4「日本語教育小委員会における検討内容の大枠とそのスケジュール(案)」及び配布資料5「日本語教育小委員会における検討内容とそのスケジュール(案)」で御説明いただいたことにつきまして,そういう方針で進めてまいりたいと思います。(→了承)
それから,次に,配布資料6「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案データベースについて(案)」がまだ残っております。このデータベースにつきましては,先ほど御説明がありましたようなスケジュールに基づいて,来年の1月に一般公開するということを目標に進んでいくと思います。今日はそれほど時間がございませんけれども,これにつきまして,何か御協力でも御意見でも結構でございますし,ほかの部分の作業についても全く同じでございますけれども,この日本語教育小委員会の場を経ないでも,事務局に直接いろいろと御協力等の御連絡を頂くということで,よろしくお願いいたします。本小委員会は実質を重要視した作業及び検討により,今期も進めて行きたいと思っておりますので,どうぞよろしく御協力をお願いいたします。
残りがあと20分ほどになり,先ほどの第46回文化審議会国語分科会の林会長のときも同じでございましたけれども,全員の方に演説をしていただきたいのですけれども,本日はこの日本語教育小小委員会に初めて加わっていただいた方を中心に,御意見,御協力等を承りたいと思います。もし時間があるようでございましたら,それに対する御意見,反論でもよろしいし,今期の全体的なことでもよろしいし,時間のつく限り御意見を賜りたいと存じます。
まず,金田委員は―実は前からいらっしゃるような気がしておりますけれども―日本語教育小委員会の委員としては初めての御参加です。よろしくお願いいたします。
○金田委員
よろしくお願いいたします。たびたび傍聴させていただいていたんですけれども,今回委員に加えていただきまして,十分力があるとは思えないんですけれども,何とかやっていきたいと思っています。
今回,私が日本語教育小委員会に加わった理由というのは,能力評価のことをいろいろと検討せよということであったかと思います。先ほど西原主査がおっしゃったように,地域在住の外国人の日本語の能力を評価するということに関しては,賛否両論既にあるということは,私も承知しています。それは,評価に関してどうしてもネガティブに捉える方がもともといらっしゃるということと,「共生社会を作ろうというところで外国人の日本語の能力を評価するのは一方的ではないか」といったお考えをお持ちの方もいらっしゃるということはあると思うんですね。
ただ,私自身はこれまで海外の能力評価の規準ですとか方法について調べていく中で,必ずしもその「能力がなければその国に滞在できないのだ」ということを振りかざして評価をするというわけではなく,飽くまでも学習の目標にするであるとか,学習の成果を目に見える形で表すとか,目に見える形にすることによって,その人がその社会で生きていく上でより生きやすくなるということを主眼にしている能力評価の方法というものも見聞きしてきました。ですので,その辺りのことをこの日本語教育小委員会の中でもうまく打ち出していければいいかなと思っています。
ただ,そうは思っていても,これまでの日本語教育小委員会の発表した公表資料ですとか,昨年の標準的なカリキュラム案などに関してもそうなんですが,やはり紙の媒体で示すことのできるものというのはどうしても限界があります。その限界を超える形で研修会ですとか日本語教育の大会などで,いろいろな形でメッセージは伝えてきていたのかなとは思いますが,これからもますます能力評価,そしてまた指導力評価ということで,またさらに紛糾するようなテーマになっていきますので,いかに伝えていくのかというのもうまく考えていかなくてはいけないなと思っています。
それは具体的にどう行えばいいのかというのは,私も今,いいアイデアは浮かばないのですが,その点を誤解されてしまわないように,あるいは,その評価規準ができることによって,中にはそれが悪用されるというか,意図しない形で利用されてしまう可能性がな いわけではないと思いますので,そうならないようにうまく成果を伝えていくということを考えていきたいなと思っております。
○小山委員
私は愛知県の小山でございます。県の仕事は異動があり,必ずしも一つの仕事を長くやるというわけではないのですが,私は偶然と言いますか,若かりし頃,昭和61年に愛知県の国際課へ配属されました。それ以来,県とか自治体に国際交流協会というのもござい ますが,そちらに出向したり,あと,2005年,2006年と2年にわたって,ロンドンに自治体国際化協会の次長ということで赴任いたしました。ちょうどそのとき,―今回も東北大地震がありましたけれども―私が赴任して3か月経ったときに,ロンドンの同時多発テロというのがありました。そのときにも,情報弱者としての立場を味わったわけです。
これは余談でありますけど,御参考までに申し上げますと,ロンドンで,そういう緊急事態において,情報弱者に対する配慮はどのようなものがあったかということについてですが,それは格別ありませんでした。全ての情報提供は英語で行われていて,分かりやすい英語もありませんでした。ただ,私どもの事務所にイギリス人がおりまして,ニュースなどの情報を逐一私に教えてくれたということがありました。おかげさまで,結果的には情報弱者にはならなかったということです。
あと,私は1990年の入管法の改正の時期,切り替わりの時期に,ちょうど国際関係の部署におりまして,特に南米の日系人の増加といったところも実際目にしてきたということがございます。
ですから,この日本語教育ということについては,非常に関心があるというか,私としては大変興味があるわけで,もうできればいつも出て来たいぐらいの気持ちです。残念ながらそういうわけにもいきませんが…。例えば教材につきましても,実際,現場でやっている目から見て,いろいろ思うわけでございます。こういった教材の一つの案を作るということは,もう本当に私どもとしても大変期待したいと思うわけです。
ただ,私どもが実際現場にいる者として見た場合に,この日本語教育というのは,教育機関で行われているよりも,むしろボランティアの形で,いろいろな場所で行われているという現実がございます。そちらの方を私どもとしては期待すると言いますか,学校で行われるというのは一定のルールに従って進むわけで,もちろん,それはしっかりやっていただければいいわけですけれども,現場で見た場合に,ボランティアの現場でそのカリキュラムをどのように使っていくか,また,ボランティアの人たちにも使いやすいようになっているようにということを大変期待するわけであります。
特にカリキュラムについて―大学の先生の皆様方がいらっしゃるものですから何なんですけれども―ある市で,そこに国際化推進の委員会というのがありまして,私もそこへ委員としていたわけですけれど,そこで外国人に対する日本語を教えるんだという話が出ていました。その中で,やはり大人に対する場合は,皆さん忙しいものですから,必ずしも継続的かつ体系的には勉強できず,「今日はちょっと残業があるから来られない」といった話があったりして,ばらばらになってしまいます。その教室でも最初は体系的にやっていたそうなのですが,そうすると,学習者が1回休むと次は出にくくなってきます。結果,最後まで参加し,プログラムを修了する人間がぐっと減ってしまいます。それに対して,何か対策を立てようということで,教室活動の内容を1回で完結するようにしたそうです。実際,どういう教材を使っているのかということは分かりませんけれども,逆に言うと,体系を無視したような感じではないかと思います。ただ,それはそれで成果があるものです。出席率が上がったという報告があり,それを日本語教育という観点では,どう理解すればいいのか少し分かりませんけれども,ただ,私どもとしては,とにかく勉強に出て来てくれる人たちがたくさんいれば,それはそれでいいじゃないかというように考えております。
あとは,能力評価について,私が個人的に知っている例として,愛知県内の自動車関連企業では多くの外国人の労働者が働いています。ただ,一般的には請負と言いますか,派遣というような形ですが,その中でも優秀な者,真面目な職員について,正規職員に登用するというようなシステムを作っております。その登用の条件の一つに,日本語能力試験の1級(N1)を持っていることというのがあるということで,「そのために私は一所懸命に日本語を勉強している」という人もいたりします。こういった使い方がいいのかどうかはよく分かりませんけれども,世の中での実際の使い方にはいろいろあるんじゃないかなと思います。
ちょっと場違いな質問になるかもしれませんけど,例えば能力試験について,現在,日本語能力試験があると思います。教える方についても,そういったものがあると思うのですが,今回の議論は,行く行くは既存の試験などに反映させていくというお話なんでしょうか。それとはまた別に議論されるというのでしょうか。
○西原主査
今,日本語能力試験センター長の西澤委員がいらっしゃるので,別途お話があるかと存じますが,日本語能力試験は一般的な学習者の到達目標に対する達成度を測る試験で,現在,N1からN5まで設けて,新しいカリキュラムに基づき年数回実施とか,いろいろなことをやっていらっしゃるところでございます。
ただ,本小委員会ではそれとは目標も実施形態も恐らく違ったものを想定していると私は考えております。ただ,この評価につきましては,今期から新たに規準等を導入するということでございますので,今まで検討を行ってきたカリキュラム案及び,それをどうまとめていくかというガイドブックの目指す範囲というのと連動するとは思っております。ですので,西澤委員がセンター長となり,全世界で展開していらっしゃるものとは少し性格が異なるのではないかと思いますが,いかがでございましょうか。
○西澤委員
日本語能力試験が目指しているものというのは,およそ世界中の様々な環境下,言語環境の下で日本語を学習している人たちが,身に付けた能力を客観的に見たときに一体どのレベルにあるのかということを見よう,プロフィシエンシー(proficiency:熟達)を見ようということで考えられた試験です。従来1級から4級の4段階でやってきたわけですけれども,その4段階では段差が非常にきつく,なかなか次の段階に行けない学習者がいるという問題も指摘されております。それで昨年度からN1からN5の5段階としています。それから,知識偏重の試験になっているのではないかというような批判もあり,本当に日本語を使える能力とは,どういう能力のことなのかというところから,捉えようということで,昨年度から新しい試験に移行している最中です。
複数回化ということで,世界で様々な機会で日本語能力試験の結果を活用したり,使わなければいけない利用者がたくさんいるわけですけれども,その人たちにとって,受験の 機会が年1回しかないというのは,1回落ちてしまうと,次のチャンスがなかなか来ないというようなこともあります。実施回数について,2009年度から複数回化しました。
それから,世界中で非常に日本語学習者が増えています。2006年に298万人だったのが,もう2009年には365万人に増えるというような形で学習者が増え,学習する場所や環境等も多様になっている中で,そういうあらゆる人たちに自分の能力を客観的 に知ることのできる機会を提供するというようなことも含めて,今進めているわけです。今,年間を通すと受験者は全体で70万人を超える,そういう試験になっています。
日本語能力試験はある意味で大規模試験として客観的な能力を一般的に評価する試験として位置付けられるんだろう思います。どんな環境にある,どういう学習者にとっても,一応全体の中で自分の能力はここにあるということを自己認識ができる,そういう試験に育てたいということで取り組んでいるわけです。今回の日本語教育小委員会での能力評価 というのは,地域に住んでいる,地域の「生活者としての外国人」が日本語を学習した結果として,地域で必要とされるどういう能力を身に付けているのか,自己認識も必要ですし,他人から見ても,「この人の日本語能力というのはこういうレベルにある」ということ が客観的に分かるようなものを目指して,本当に日常の生活で必要とされる日本語能力が身に付いているのか付いていないのかということを知るための評価ということに恐らくなるだろうということで,その辺で大分違ってくるのではないかと思っているところです。
それから小山委員の御発言にあった企業の話ですが,今度はビジネスで一体どのくらいの能力が必要になるのか,それが私どもでやっている標準的な能力の中で測れるのか測れないのか,口頭能力や書く能力等も含めて,どういう形で何を測っていくのか,何の目的で測っていくのか,恐らく,その目的によって大分評価というのは違ってくるんだろうと思っています。そういう様々な評価があります。今,ビジネス日本語のテストもありますし,それから,口頭能力を本当にテスターによって評価するような評価方法もありますし,様々な評価の中で,それぞれが役割分担しながら学習者に対して適切な評価をし,それが結局,学習のインセンティブ(incentive)を与えることになり,かつ,自分の持っている能力を客観的に見ることができる機会を与えるというような,そういう有用性,有効性を確認しながら進めていけたらというふうに思っています。やはりそれぞれ役割分担があり,専門性に基づいた事柄があるんだろうと思っているわけです。
ですから,当然,重なってくる部分というのはあるんだろうと思いますけれども,それは決して無駄な重なりではなくて,ある意味では避けられない重なりになるのかなと思っています。
○嶋田委員
嶋田でございます。私は,昨年12月6日に開催されました第34回日本語教育小委員会において,OPI(Oral Proficiency Interview)についてプレゼンテーションを行うということでお伺いさせていただきました。特に日本語能力という部分で,口頭能力になるわけですが,発表のときにも申し上げましたが,特に2点,申し上げたいと思います。プレゼンテーションの際に「やはり「生活者としての外国人」のための評価というのは絶対に開発してほしい」ということを申し上げたと思いますが,その理由は2点あります。
1点目は,やはりOPIは汎言語なので,そうではなく日本語独自のものが必要ということが1点です。その中には,やはり独自性の問題もありますし,実施に掛かる時間ですとか,内容とか,いろいろと検討すべき点があるので,やはり「生活者としての外国人」のための評価が欲しいと思っています。
それから2点目について,規準を作る場合に,やはり評価となると,どうしても評価者の視点が非常に強くなってくるんですけれども,やはり彼らの学びにつながるような目標だったり,次のところへどう自分が行けばいいのか,どうすれば伸びていけるのかということが,自己実現につながったりするわけですので,やはり是非,生活者の視点で規準を作りたいなと思っています。これもとても大事な点かなと私はずっと考えておりまして,口頭能力評価を専門にやっている者としてもそのように考えています。
それから,もう一つ,今期検討を行う三つ目の事項として,日本語指導力に関する評価とありますが,これも私は長年教師養成,育成をやってきました。「生活者としての外国人」に対する日本語教育,つまり「地域の日本語教育は,学校型日本語教育と違う,非常に違うものなんだ」といろいろな方がよくおっしゃいます。確かに大きく違うんですが,日本語教育小委員会で出される日本語指導力に関する評価は,やはり学校型教育にも非常に示唆に富んだものが出てくると思います。地域の日本語教育と学校型日本語教育は両輪であって,非常にオーバーラップ(overlap)しているという意味で,本小委員会で出てきたものが,いわゆる学校型,いろんなところに応用されたり,影響を与えていったらいいなと思います。それが,やはり日本語教師の支援者のレベルアップにつながるのかなという意味では,非常に楽しみにしております。
○春原委員
地域のボランティア教室を考えたときに,1回完結型とか数回完結型というのもあると思うんですが,それと同時に「移民型外国人のため」ということを考えたときに,先ほどの小山委員の話で正社員になるということもそうですし,例えば,私がもう6年ぐらい関 わっている,経済連携協定による看護師・介護士の受入れだと,今,1,360人ぐらい― インドネシア出身者が約800人,フィリピン出身者が約500人―介護福祉士候補生として約800人,看護師候補生として約500人受け入れて,御存知のように,昨年の看護の国家試験の合格者は3人で合格率は約1%,今年の合格者は16人で約4%です。この人たちは,実は地域のボランティア教室にも相当行っています。
そういうことを考えると,ショートターム(short term)のプログラムやカリキュラムも必要だけれども,ロングターム(long term)のプログラムというのも同時に考えていく 必要があるのではないか。その中で,移民型外国人の人たちのキャリアアップ(career up)ということもあるだろうし,資格を取るということもあるだろうし,そういう人たち が実は地域にもう来ているという現状を踏まえた発想も必要ではないかというのがまず一つ。
それから,二つ目,つい最近,大手企業の人たちからいろいろ意見を聞いたんです。今回震災がありました。そのときに,情報弱者ではあるんだけれど,もう一方で,海外から過剰にセンセーショナル(sensational)な情報が入ってきているというのも事実なんですよね。その過剰にセンセーショナルな情報にやはりかなり惑わされたということも事実で,それで突然大量帰国みたいなことも起きているんですね。企業の人が言っていたのは,事故や災害のための学習は実は導入研修でもやっているし,企業でもやっているし,こういうときには救急車はどうするとか,地震が起きたらどうするとか,実はそれはやっていたんだけれども,リアリティ(reality)を持ってやれていなかったということを言っているんですね。特にこういうことが起きたときに,例えば「浜松って福島からどのくらい離れているんだろう」というようなことも含めた,生きた日本事情も含めた,リアリティのある,複合的な震災に対してどうするかというような学習プログラムが必要なのではないか。それは単に逃げるとか,身を守るとかというだけではなくて,正確な情報を,自分の持っている日本地理の知識とか,放射能に関する知識とか,火災に関する知識とかを組み合わせていって行動を決定しなければならない。そういうような複合的なリアリティのあるカリキュラムというのが必要なのではないかなというのが,最近感じていることです。
○西原主査
そのほかの委員も御意見はたくさんお持ちと承知しておりますけれども,残念ながら時間が来てしまいまして,次の小委員会のところでまたそのお話も出るかとは思いますけれども,今回はこれで,第37回の日本語教育小委員会を閉会といたします。御協力ありがとうございました。
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