議事録

第40回国語分科会日本語教育小委員会・議事録

平成23年9月28日(水)
10:00 〜 12:00
旧文部省庁舎5階 文化庁特別会議室

〔出席者〕

(委員)
西原主査,杉戸副主査,伊東,井上,岩見,尾﨑,金田,嶋田,中野,西澤,春原,山田各委員(計12名)
(文部科学省・文化庁)
舟橋国語課長,小松国語課長補佐,鵜飼日本語教育専門官,仙田日本語教育専門職,山下日本語教育専門職ほか関係官

〔配布資料〕

  1. 第39回国語分科会日本語教育小委員会・議事録(案)
  2. 教材例集について(案)
  3. 能力評価に関する基本的な考え方の論点整理
  4. 能力評価に関する検討の成果物について(たたき台)
  5. 日本語教育コンテンツ共有化システム整備の基本的な考え方(案)
  6. 「日本語教育コンテンツ共有化システム整備の基本的な考え方(素案)」に対する委員コメントについて
  7. 日本語教育コンテンツ共有化システム整備の基本的考え方(素案)

〔参考資料〕

  1. 日本語教育コンテンツ共有化システムについて
  2. 日本語教育小委員会における検討内容の大枠とそのスケジュール
  3. 日本語教育小委員会における検討内容とそのスケジュール

〔机上配布資料〕

  1. 国語分科会日本語教育小委員会における審議について―今後検討すべき日本語教育の課題―
  2. 国語分科会日本語教育小委員会における審議について―日本語教育の充実に向けた体制整備と「生活者としての外国人」に対する日本語教育の内容等の検討―
  3. 「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について
  4. 「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案活用のためのガイドブック
  5. 能力評価に関するヒアリングの取りまとめ

〔経過概要〕

  1. 事務局から配布資料の確認があった。
  2. 前回の議事録(案)が確認された。
  3. 事務局から配布資料2「教材例集について(案)」について説明があり,教材例集の様式や取り上げる内容について意見交換を行った。
  4. 事務局から配布資料3「能力評価に関する基本的な考え方の論点整理」,配布資料4「能力評価に関する検討の成果物について(たたき台)」について説明があり,能力評価について意見交換を行った。
  5. 事務局から配布資料5「日本語教育コンテンツ共有化システム整備の基本的な考え方(案)」,配布資料6「「日本語教育コンテンツ共有化システム整備の基本的な考え方(素案)」に対する委員コメントについて」,配布資料7「日本語教育コンテンツ共有化システム整備の基本的考え方(素案)」について説明があり,意見交換を行った。また,配布資料5「日本語教育コンテンツ共有化システム整備の基本的な考え方(案)」が了承され,細かい文言等の修正は主査一任とされた。
  6. 次回の日本語教育小委員会は11月下旬を予定していて日程調整の上,改めて日程・場所について後日事務局から連絡を行うことが確認された。
  7. 質疑応答及び意見交換における各委員の意見は次のとおりである。
○西原主査
ただ今から文化審議会国語分科会日本語教育小委員会の通算で40回,今期第4回の日本語教育小委員会を開会いたします。お忙しいところ,御出席いただきまして,本当にありがとうございます。
それでは今までの日本語教育小委員会の特に作業についての進捗状況及び本日の審議の流れについて御説明させていただきます。前回,7月20日の第39回日本語教育小委員会において,教材例及び能力評価について御意見を頂きました。その後,8月3日に第28回日本語教育小委員会ワーキンググループ,それから9月12日に能力評価について日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の打合せにおいて能力評価についての打合せを行いました。それから9月20日に教材例について日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の打合せを行っております。
本日は教材例につきましては,主に形式について検討いたします。この間の日本語教育小委員会ワーキンググループ及び日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者打合せの作業を反映させたものが本日の配布資料2「教材例集について(案)」でございます。前回皆様にお見せして議論していただいたときから少し追加されている内容がございます。
それから能力評価につきましては,この日本語教育小委員会で頂いた御意見,それから日本語教育小委員会ワーキンググループ委員,そして日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者で,これまでに頂いた意見を基にしまして成果物のたたき台を作成いたしました。それが本日の配布資料4「能力評価に関する検討の成果物について(たたき台)」になります。配布資料2「教材例集について(案)」につきましては,様式等については既に御了承いただいているところでありますので,本日は作業の確認ということで御覧いただくことをお願いしたいと思います。もちろんお気付きの点がございましたら御意見を頂くということでございます。
それから配布資料3「能力評価に関する基本的な考え方の論点整理」,それから配布資料4「能力評価に関する検討の成果物について(たたき台)」については,是非,御意見を頂きたいと存じます。能力評価に関してはこれまでにも御意見を頂いておりますけれども,それを基に形にする作業ということで,日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の皆様に作業を行っていただいたわけですが,配布資料4「能力評価に関する検討の成果物について(たたき台)」と配布資料3「能力評価に関する基本的な考え方の論点整理」を相互に確認しながら御意見を賜れればと思います。
そして本日の議題といたしまして,最後に配布資料5「日本語教育コンテンツ共有化システム整備の基本的な考え方(案)」,配布資料6「「日本語教育コンテンツ共有化システム整備の基本的な考え方(素案)」に対する委員コメントについて」,配布資料7「日本語教育コンテンツ共有化システム整備の基本的な考え方(素案)」について意見を頂きたいと思います。これは事務局より各委員に御意見を頂いておりますけれども,それらを踏まえた形で議論を行うということでございます。時間が2時間で,議題が三つございますので,それぞれ効率的に議論を進めてまいりたいと思いますので,どうぞ御協力くださるようお願いいたします。
まず,教材例集について検討を進めます。前回日本語教育小委員会で頂いた御意見を踏まえて日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の方々に作業していただいて,本日の配布資料2「教材例集について(案)」に至っているということでございます。特に修正の御意見がありましたら,まだこの段階でございますので,是非,伺いたいと存じます。
それから,本日の配布資料2「教材例集について(案)」は白黒コピーの形でお渡しておりますが,実際にはカラーになるのでしょうか。
○山下日本語教育専門職
カラーを予定しています。
○西原主査
本日の配布資料2「教材例集について(案)」は白黒でございますが,写真やドキュメント等を転載している部分についてはカラーになるということでございます。御意見はございますでしょうか。
または,お帰りになりましてから,改めてお気付きの点がございましたら,事務局に御連絡いただければ,この日本語教育小委員会の後にも日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者打合せが行われますので,そこで,本日の御意見を反映させるということができればと思います。
○春原委員
一つよろしいでしょうか。場面と言うかテーマの追加になるので,反映されなくても構わないのですが,「目的地に移動する」というカテゴリーの中で,公共交通機関と,あと徒歩があります。
○西原主査
「自力」ですね。
○春原委員
「自力」ですね。ただ,今は都市圏以外はほとんど車の社会ですよね。そうすると,車で移動するというのが,都市圏でも郊外に行くとほとんど車ですよね。何か,そういうのが一つあってもいいのかなという気がしますけれども…。
○西原主査
生活上の行為として,例えば車で移動するということに関して,例えば免許証を持っていることとかがありますが,生活上の行為としては,例えばどういうことがありますでしょうか。
○春原委員
ここで,「自力で」移動するということの中に「徒歩」というのがあるんですけれども,「自力で」の中に,「徒歩」というのと,それから車で移動するときに,初めて行くときにいろいろ調べたり人に聞いたりしますよね。
○西原主査
調べたり人に聞いたりしますね。
○春原委員
配布資料2「教材例集について(案)」は恐らく,圧倒的に地方で使うことが多い教材かなという気がするのですが,そうするとそういう自力で移動することというのがテーマとしてあってもいいのかなという気がしました。
○西原主査
分かりました。生活上の行為のリストの中で,今まで出しているものの中に「車で移動する」というのは入っていないと思うのですが,ありますか。
○山田委員
入っています。
○西原主査
入っていますか。入っていますね。
○春原委員
それでは,結構です。
○西原主査
それでは,それを追加するかどうか。むしろ,移動するという項目を「徒歩・車」とするのがよいのでしょうか。両者には共通することもありますよね。
○春原委員
お任せします。
○山田委員
机上配布資料「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について」では「Ⅳ.目的地に移動する」という項目があり,その中の「08」に「自力で移動する」というのがあり,小分類で「14」に「車・オートバイ等を利用する」ということが挙げられています。
○西原主査
分かりました。要検討とさせていただきます。教材例集について更に御意見がある場合には10月5日までに事務局に御連絡ください。次に能力評価の検討に移らせていただきます。8月と9月という短期間の間にこれだけのものを作り上げてくださった日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の皆さんに,本当に感謝したいと思います。本当にありがとうございました。委員の皆様方もいろいろと御意見がおありだと思いますが,いかがでしょうか。
○井上委員
配布資料4「能力評価に関する検討の成果物について(たたき台)」を拝見していて,大変精緻に作っていただいたという感じがするのですが,私ども経済に関わる人間も「ポートフォリオ」という言葉をよく使います。こちらの世界でもこういう言葉を使ってそれぞれの−この場合は個人だと思うんですけれども−個人の能力評価の全体を統括するようなものとして使うことが多いのでしょうか。
○西原主査
はい。業界用語になりつつあると思います。それから,ポートフォリオ評価というのは,例えば特に外国では初等・中等教育の現場でも使われるのですが,特に相対評価から絶対評価へと移る流れの中で,ポートフォリオの重要性というのが認識され,共有されているように思います。ただ,この片仮名語をどうするかというのは後で皆さんから御意見を頂きたいと思います。
○井上委員
ポートフォリオというのは恐らく,それぞれの業界によって全然違う形で使われていますね。例えば経済で言えば「投資のポートフォリオ」という言葉を使いますし,「資産運用のポートフォリオ」という形でも使います。
○西原主査
ファイルみたいなものを全部「ポートフォリオ」というわけですね。
○井上委員
それを開ければ全部見られるということですね。それから例えば,芸術家であれば,自分の作品集のことをポートフォリオと言って,それもいろいろな分野で芸術活動をしている人にとっては,単に,ただファイルしてあるだけではなく,分類されているというような感じになっています。欧米の方は「ポートフォリオ」と聞いて,恐らく「ぴん」と来ると思うのですが,特に今,日本に来られている外国人の比率を言うとアジアが非常に多いですよね。その時に「これがあなたのポートフォリオですよ」と渡したときに伝わるのかなと思います。ただ,いい言葉が見つからないのですが,そこは少し引っ掛かりました。
それからもう一つ,このポートフォリオは二つに分かれています。コレクション・ポートフォリオとショーケース・ポートフォリオですね。この「ショーケース」と「コレクション」という言葉も工夫の余地があると思いました。むしろこの「ポートフォリオ」よりも「ショーケース」と「コレクション」という言葉の方に私は引っ掛かりました。
○西原主査
日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者打合せでも,そのような意見が飛び交いました。その件について何か御意見はありますか。これはこう言ったらいいかもしれないなということなどはありますでしょうか。
○井上委員
私が注目したのは配布資料4「能力評価に関する検討の成果物について(たたき台)」の4ページの図「各ポートフォリオと周囲の関係」なのですが,正にこれがとても重要だという感じがしています。学習者がショーケース・ポートフォリオ,それからコレクション・ポートフォリオを振り返りながら,自分が今どのレベルにあって,日本語学習においてどういうことが今求められているのかということが分かり,しかも,学校のみならず本人が働いている企業がそれを参照できるというところですね。このシステムができると雇用の安定につながると思います。あるいは学校における評価の適正化にもつながるという感じもします。ですので,これをやはりもう少し体系的なものにすると言うか,まさか法律で縛るわけにはいかないと思いますが,「日本はこういうやり方で,外国から来られた方の日本語学習者の評価をしていますよ」ということを一つの定型のものとしてしまう方法を考えた方がいいのかなと思います。これはまだ概念図ですので,具体的にどういうものを持ち,それがどういうカードになって,周りが「見せて御覧」と言ったときにさっと見せられるものにするかは検討が必要ですが…。
あるいはこのポートフォリオの中に個人情報が入っているというお話について,少し留意点がございましたけれども,正に個人情報を出す場合と出さない場合があるのだろうと思いますが,最近はネット時代ですから,いろいろな方法で見せられると思うのです。そういうところを具体化するということが必要なのではないでしょうか。配布資料4「能力評価に関する検討の成果物について(たたき台)」の4ページ「各ポートフォリオと周囲の関係」の図に書いてあることを具体化すること,これは実際には物にすることになるのでしょうか。それがとても重要なのではないかと思いました。
○西原主査
全体としては,ポートフォリオにこのような物があるということについては肯定的な御意見をお持ちということでよろしいでしょうか。
○井上委員
むしろないと困りますね。これから企業の採用側から見ると困るのではないかなと思います。
○西原主査
配布資料4「能力評価に関する検討の成果物について(たたき台)」の4ページの「各ポートフォリオと周囲の関係」の図に従って詳細をいろいろ考え,名称も含めていろいろ考えていった方がよいということですね。
○井上委員
恐らく,企業の方から見ると「コレクション・ポートフォリオ」とか「ショーケース」と言うと,分からなくなってしまうと思います。「ポートフォリオ」は分かるかもしれないけれども,「これは何ですか」ということになるので,もっと分かりやすい言葉があればいいと思います。
○西原主査
日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者会議の打合せでも,いろいろな御意見が出たのですが,ただ決定打というのはなかなか出ませんでした。
○井上委員
ないですね。
○西原主査
漢字4文字にしてしまうと,それぞれまたそれなりのニュアンスが生まれてきますね。新しいものだと片仮名語の名称を付けてしまった方が「それは新しい概念なんだ」,「新しいんだ」という印象を与えることはできていいのですが,その一方で「一体,これは何か」ということで困るだろうということでございます。
○山田委員
今,井上委員がおっしゃったことは非常に重要だと思います。配布資料3「能力評価に関する基本的な考え方の論点整理」の4ページの下の方の説明で<成果物のたたき台(資料4)への反映状況>というところがあります。先ほどの事務局の説明であったように,二つ目に「・評価は学習プログラムの一環として行うことを前提とするため,他者評価は指導者が行うことを想定(広く一般の人が評価を行うツールとしては作成しない)」と書いてありますが,広く一般の人に見るので,私もこの名称は少し考えた方がいいと思います。「ショーケース・ポートフォリオ」を見ると,それはもう評価につながるに決まっていると思います。私は「評価されるものだ」ということを前提に考えないといけないと思いますし,いろいろなところで「日本語教育小委員会でこういう申合せをしているので,そのことは大丈夫だ」という話にすると,逆にいろいろな問題が今後起こると思います。
○西原主査
今,山田委員がおっしゃったことですが,これは主体に関する話だと思います。この場合,「広く一般の人が他者評価を実際に行うというわけではない」と書いてあるのだと思います。
○山田委員
しかし,配布資料4「能力評価に関する検討の成果物について(たたき台)」の「ショーケース・ポートフォリオ」の部分を見れば,一般の人が評価できる内容がそこに込められているのではないのでしょうか。
○西原主査
そうだと思います。そうだと思いますが,恐らく配布資料3「能力評価に関する基本的な考え方の論点整理」の4ページ<成果物のたたき台(資料4)への反映状況>に書かれていることは,ショーケース・ポートフォリオを作る段階で,全く関わりのない第三者が評価するのではないと書いてあるだけに過ぎないと思います。
○山下日本語教育専門職
資料の説明が十分ではありませんでした。配布資料4「能力評価に関する検討の成果物について(たたき台)」の14ページを御覧ください。
○西原主査
配布資料4「能力評価に関する検討の成果物について(たたき台)」の14ページ「(3)自己評価」,「(4)他者評価」と書いてあります。「タスクの記録」というタイトルが付いているページです。 そこの「(4)」に「あなたがどのくらいできるようになったかを,先生に書いてもらいます。」とあります。今,山田委員がおっしゃってくださったように,結果として評価してしまうかどうかということとは,また別の話です。
○山田委員
分かりました。
○西原主査
ただ,それについて何かさらに御意見がおありでしょうか。
○山田委員
はい。本来使われる目的というのをまず考えておいて,評価するというのは配布資料4「能力評価に関する検討の成果物について(たたき台)」の14ページの自分と,それから他者の,その「他者」イコール学習支援をしている側の人だというのは分かるんですけれども,ただ,それそのものを他の人たちが見ることができることになれば…。
○西原主査
ショーケースですから,当然,そうなりますよね。
○山田委員
そうすると,このこと自体,ある意味でその人が社会で生きていく上で,社会参加ということを考えると可能性があると言うか,「こういう社会参加は可能だけれども,こういう社会参加は周りの評価によって可能ではない」というようなことが判断される材料になるというのは当然だと思います。
○西原主査
そうですね。井上委員はそのようなことをおっしゃって,だからこそ企業にとっては助かるとおっしゃったわけですよね。
○山田委員
それとセットで考えないといけないのは,やはり学習することを保障していくということです。それが前提にないといけないと思います。例えば,今週の(日)に日本語教育学会のテーマ別研究会があったのですが,そこでの話です。来日した外国人は来日してすぐのときは集中的に勉強する時間が取れるけれども,日常の生活に入ってしまうと,勉強したいんだけれども,ほかに先にやらないといけないことを片付けているうちに,やるべき勉強ができなくなって,それが恒常化していくという話がありました。それを何らかの形で学習を保障するということをしながら,名称はいずれにしても,「ショーケース・ポートフォリオ」とか「コレクション・ポートフォリオ」というような評価を作っていくことが大事です。セットにして考えた方がいいと言うか,それをしないと,あとは自助努力だという話になってしまうと学習者が困るんじゃないかと思います。
○西原主査
ということは,システムとして,教室活動以外のところでも評価,特に他者評価,タスクの記録というようなことが取られるというシステムがなければならないという御意見でよろしいですか。
○山田委員
それも含めて,かつ学習の機会の提供を保障していくということも必要です。
○西原主査
分かりました。そうすると,学習支援者による他者評価というところは動かさずに,むしろタスクの記録というものを作る過程として,広い意味の学習機会というのが保障されるという方向に同時に動かないと,このポートフォリオは役に立たないということですね。
○山田委員
そうですね。
○井上委員
今のお話で,私も感じていたのですが,例えば最初に研修・技能実習生が,山田委員がおっしゃるように集中的に1か月ぐらい日本語を学んで,かなりできるようになったとします。ここでは当然,学習の場所も日付も評価も,幾つか書いていくと思うのですが,あるところから空欄になる可能性が強いわけです。その方が,例えば日本でもともと大学卒業の資格か何かを持っていて,今度は「人文知識」とか「国際業務」で日本に在留資格が取れたとします。この記録を継続して持ったときに,もっと高度な日本語学習をやっていくということで,今後は別の教室に通ったとします。あるいは自分で日本語学校に通ったというようなことになった場合に,また印が付いている。これは恐らく理想的な形だと思うのですが,実際には最初のところで止まってしまうことがあり得るわけです。しかし,会社の中にも最近では教室があったりして,別の先生が来るというようなところで印を付けてもらったときに,さすがにインターネットで登録をしてその人のパスワードを入れて,履修の結果を記入すれば完璧にできるのかもしれませんが,個人情報の漏えいの問題も出てきてしまうので,恐らく手帳みたいなものになるのだと思います。手帳になると,逆にこれをベースにして企業がいろいろな採用・雇用を考えた場合に,何かそれが虚偽じゃないかという懸念が生じると思います。虚偽の申告をしている,あるいは間違って付けられているんじゃないかというところを確認できるかどうかというところが一つのポイントになるのではないかと思います。
恐らくこれをカード形式にするのであれば,私が思うのは,これは全く違う分野なので思い付きなんですけれども,処方箋を持って薬局に行くとこんなシールをくれますよね。
○西原主査
お薬手帳ですね。
○井上委員
お薬手帳です。シールで,はんこが押してあって,「あなたはこの日にこの薬を求めました」と書かれています。それを張っておいてくださいということです。それと同じように,例えば何月何日から何月何日までこういうレベルの日本語を学べる教室に通いました。ついてははんこも押したシールを,後ろの方に空欄の紙を付けておいて,それがどこに,このタスクのリストの中に記されているかということを証明させてあげるようなシール方式みたいなものができると,手帳でもある程度信用されるものになると思いますが,そこまでやるかどうかなんですよね。
○西原主査
幾つかの御指摘があったと思います。一つはメディアの問題ですね。どういう記録媒体を採るかということ。それからもう一つは,それが有利に働くと言うか,損にならないというガードを積極的な意味でいろいろ考えるべきだという御指摘もあったと思います。
○井上委員
正に外国人の側から見れば,自分はこれだけ努力をして能力も上がったのだから,自分の本来持っている仕事の能力が生かせる状況になっているということを訴えたいときに,こういう正確な評価の方式があると非常に便利だろうと思います。ですから,「こんなもの要らないよ」という人ももちろんいるかもしれない。もちろん任意なんですが,任意としても,やはりそのポートフォリオの信用性というものをどういう形で担保するかというのを考えておかないといけないと思います。これが全て埋まっていて素晴らしい評価ということになっていても,「結局余り日本語ができなかった」ということになると非常にまずいわけです。逆にこれを信用性のあるものにして,外国人の仕事や勉強に有利な選択ができるようにしてあげるというところを,仕組みとして考えなければいけないと思います。
○西原主査
そうですね。それからもう一つ,例えば自動的に学習につながるような形で入国する人ばかりではないですよね。学習にはつながらないというような何十万人かの方が常にいらっしゃいます。
○井上委員
そうです。おっしゃる通り,その通りです。
○西原主査
その方々にも,これが何か利用できるようなシステムと言うか,外国人登録に役所に行ったら「こういうものがあるんですよ」と言えるような,自治体の方の取組と言うか,そんなようなものも同時にないといけませんよね。利用されるためには必要です。
○嶋田委員
ポートフォリオそのものというよりは配布資料4「能力評価に関する検討の具体的な成果物について(たたき台)」の「コレクション・ポートフォリオ」の部分についてです。例えば「毎回の学習の記録」というところが配布資料4「能力評価に関する検討の具体的な成果物について(たたき台)」の21ページにあるのですが,これを見て思ったのは,確かに自己評価が必要だということも議論されましたが,学習者が90分,120分の教室活動を終えて,それからこのポートフォリオを書く意味は何だろうかとイメージしてみました。「今日勉強したこと」で「覚えたことば」を書き,「覚えた文」を書く,実際にはまた違う形になるのかもしれませんけれども,この辺りについてもう少し考えた方がいいのではないかと思いました。学習者が書くことですよね。
○西原主査
これは実際に書くのかチェックするのか,こういうところまで先生が配るのか,いろいろな方法があるとは思います。
○嶋田委員
今見る限りですが,ここまで詳細なものが必要かなと思った次第です。
○西原主査
世の中で学習者の「自律」と言うときに,「毎日の振り返りって大切よね」と言っています。学習者が今日学んだことを振り返るというのは,とても大切なことだということが言われていると思うのですが,「じゃあ,これだけ日本語で書ける人がたくさんいるのか」と言うと,もしかしたら,「これだけ書ければ教室には来ない」という人もいるのかもしれないですね。
○嶋田委員
それと配布資料4「能力評価に関する検討の具体的な成果物について(たたき台)」の21ページ以降の「毎回の学習の記録」の部分では知識的なところに焦点が当てられているのかなと思います。そうではなく「何ができたか」という形で返したいと思うのですが,ここで焦点が当てられていることが,どちらかと言うと,何かを覚えたかどうか,これを知ったかどうかということになっているので,その点について申し上げたということです。
○山田委員
少し追加ですけれども,配布資料4「能力評価に関する検討の具体的な成果物について(たたき台)」の21ページ以降の「毎回の学習の記録」の表のところに,まず「今日勉強したこと」という前に,今日の目的というのを入れた方がよいと思います。
○西原主査
生活上の行為の話ですよね。
○山田委員
標準的なカリキュラム案で扱っているのは生活上の行為なので,何が達成できるようになるかということが非常に大事だと思います。それがどの程度できるようになったか,あるいはまだ少しなのかということが分かればいいわけですよね。
○西原主査
配布資料4「能力評価に関する検討の具体的な成果物について(たたき台)」の21ページ以降の「毎回の学習の記録」の例示が語彙のリストになっているから,そうお感じになったということでしょうか。
○山田委員
これだと,「日本語をどこまで覚えましたか」という話になってしまいます。何ができるようになりましたかという話ではなくなりますよね。
○西原主査
内容及び記載方法に問題があるであろうということですね。
○山田委員
というより,理念的に少し「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案」とつながっていないと思うんですね。
○西原主査
学習支援者にとっては,これは学習者と学習支援者をつなぐためのものとしてコレクション・ポートフォリオがあるので,相互のコミュニケーションがこれで取れて次の教室の改善につながるというのが大事であり,それはむしろ企業が雇うというようなこととは別の目的ですよね。それにしても,これではまずいのではないかという御意見でしょうか。
○山田委員
学習目的というのは,「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案を達成できるかどうかということであり,行為の達成の話ですよね。
○西原主査
「道を聞けましたか」,「目的地に行けましたか」という話ですよね。
○山田委員
ですので,教室そのものも,「幾つ語彙を覚えたか」,「幾つ文を覚えたか」ということ以上に,「何ができるようになったか」ということが大事なんだと思います。それは「パントマイムでした」でもいいんじゃないかと思うんです。
○春原委員
先ほど「ポートフォリオ」という用語が出てきましたが,現場でずっとこういうことをやってきて,配布資料4「能力評価に関する検討の具体的な成果物について(たたき台)」のように精緻ではないけれども,本当に走馬灯のように用語が変わってきていることを思い出しました。昔は「学習ダイヤリー」って言ったり,「学習ジャーナル」って言ったり,「学習日記」って言ったり,「学習カルテ」と言ったり,いろいろなこと変わってきて,今は「ポートフォリオ」が流行なんだなと思うんですけれども…。
それはそれとして,恐らくこれはショー・アンド・シェア(show and share)と言うか,見せてシェアをするということに加えて,非常にメタ認知的な活動を行うことになるわけですよね。ということは,一つの目的は恐らくはラーナーデベロップメント(learner development)と言うか,学習者が学習に熟達していく,学習の仕方そのものに熟達していくということがあると思うんですね。そうすると,それは恐らく学習者当事者だけじゃなくて,支援者も恐らく学習の支援の仕方なり学習の仕方なりに熟達していくということがあると思うんですね。それを考えると,恐らく二つのことがあるのかなと思います。一つはこれを記入する上でどれだけきちんと話し合えるかということ,要するにクラスルーム・ジャーナル(classroom journal)と言うか,きちんと話し合った上でこれを書けるかどうかということが大事です。書くというのは,プロセスを経るということと,それからポートフォリオの最初の方にオリエンテーション的なプロセス(process)を組み込んでいくことが大事だろうと思います。私もよくこういったことをすると,初めのうちは書き方がよく分からないんですよね。そうすると初めの1週間なり最初の1か月なりというのは,何かやはりオリエンテーションの時期というのが必要なのかなというような気がします。ということで,まず一つ,学習に熟達するということがあると思います。
○西原主査
日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の中で,大学生にポートフォリオをやってみているけれども,なかなか難しいという話もありました。
○春原委員
いや,社会人でもなかなか難しいと思います。それから,恐らくポートフォリオの二つ目の目的は,学習コミュニティー(community)を作るということがあると思うんですね。恐らく学習のイニシアチブ(initiative)はもちろん当事者の学習者だけれども,それだけではなくて何人ものアクター(actor)が絡んできて,支援者もそうだし家族もそうだし,企業の雇用者もそうだろうし,そういう人たちがポートフォリオを持って共有して,学習を豊かにしていくということがあると思います。
私も現場でこういう取組をしてみて,尻すぼみになる場合と,すごく活性化してくる場合とあるのですが,きちんとフィードバックがされていて,そこに相互交渉がきちんと成り立っていると面白くなってきて,ポートフォリオそのものが変わっていくんですよね。やはりきちんとできるような形,そういう学習コミュニティーを作っていくことが必要だというのが二つ目です。
三つ目は,恐らくこれは単なる記録ではなくて,これを書くということが学習そのものを豊かにしていくのではないかと思います。つまり,書くという作業というのは,うその作文を書くんじゃなくて本当のことを見ただけでも書くわけですね。ということは,このドキュメンタリー(documentary)がリテラシー(literacy)の力も含めて,書くという力を付けていくという部分を意識する必要があるのではないかと思います。それで,そのことを考えたときに,もう一つは,日本語の作文の時間ではないので,特に初級入門の辺りでは,共通語があるのであれば,別に日本語にこだわる必要はないという気がします。支援者の中に,英語が分かる人,中国語が分かる人があれば,日本語に限定せずに,やはりここは学習者の学習に関するきちんとした思いと評価を書いてもらい,学習の熟達とコミュニティーを作るということを進めて,学習そのものを豊饒(じよう)化していくということ,恐らく三つの観点から考えていかなければならないと思います。
○西原主査
これは特にコレクション・ポートフォリオに関わる御意見ということですね。
○春原委員
恐らく,両方に言えると思います。
○中野委員
私も配布資料4「能力評価に関する検討の具体的な成果物について(たたき台)」を見たときに,一番最初に思ったのは,先ほど嶋田委員,山田委員がおっしゃったように,学習の目標が知識理解ではなくて行動目標であるという大前提が今ありますよね。ですので,目標の設定はこの全ての記録で共通していなければいけないと思うんですけれども,その中で今,タスクの記録はキャンドゥー(Can-do)が目標になっているんですけれども学習記録が行動目標に今なっていないと思います。そのことはやっぱりキャンドゥーで統一した方が,趣旨を考えてもすっきりするかなと思います。
あと,もう一つ,今,ショーケースポートフォリオとコレクションポートフォリオの二つに分かれているのですが,配布資料4「能力評価に関する検討の具体的な成果物について(たたき台)」の18ページの「仕事の記録」,17ページの「生活の記録」と20ページの「教室の記録」というのはある意味でメモ書きと言いますか,いわゆる資料であって,「どこどこで何々をしました」と言うか「生活した」という記録なので,この三つはある意味では自分の記録集としてあればいいと思います。そうすると,一番大事と言うか能力を評価すると言うと,14ページの「タスクの記録」と7ページの「学習の記録」と,21ページの「毎回の学習の記録」という,今コレクションポートフォリオに入っている三つだと思うんですよね。この三つがどのようにすみ分けされているかというのが今一番大事なところだと思います。そのときに恐らく,自己評価というものを非常に重視するという前提がございますよね。そういう意味では必ずしも教室で学ぶだけが学習ではないので,ある意味では,たとえ教室に行っていなくても,「このキャンドゥーは私はできる」というのを書けてもいいと思うんですよね。
それからあともう一つは,いわゆる企業など,いわゆるショーケースポートフォリオの部分で,外部の方に見せるときには,要するに自己評価あるいは他者評価も含めた証拠が要るわけですよね。「できる」と言っている証拠を見せないといけないわけです。その証拠の見せ方がどのようになるかというので,ここでは他者評価の部分がある意味では証拠になるし,それから「こういうタスクをしました」,「こういう学習をしました」ということが,正にポートフォリオが証拠になるということですよね。そうすると,必ずしもこの二つに分けなくても,大きく目標をくくって,こういう目標を達成しましたというのが恐らく学習の記録で,それをもっと細分化した学習の記録が今,コレクションポートフォリオに入っていて,それを実際にどのようなタスクを行って評価したかというのが「タスクの記録」になると思います。この三つの連携がもう少しはっきりしていて,恐らく外に出すときは余り詳しいものではなく大きくくくった目標で,それを実際に「証拠として見せなさい」と言われたときに次のものが出てくるみたいな形になるのかなと思いました。
○西原主査
そうですね。それで,分かれているのも恐らくその意図で分かれていると思います。つまり,毎日毎日書いていくことと,それから頻度は分かりませんけれども,月に1回まとめて書くことというので,ショーケースポートフォリオとコレクションポートフォリオが分かれるということです。恐らくそういうことだろうと思うし,毎日,毎日他者評価は入らないけれども,何かの形で,何か一まとまりになるような形でショーケースポートフォリオの方に他者評価が加わるというような形でつながっているのですが,今,中野委員は,コレクションの方はなくてもよいのではないかとおっしゃったんでしょうか。
○中野委員
ある意味ではポートフォリオを一つにまとめて,その中に資料的な仕事・生活・教室の記録があり,それから活動なり学習なり自分が学習したこと,あるいは教室外のことも含めて,最終的に「自分はこういうことができるんです」ということを大きくぱっと見せられるものが,外に見せられるものになるんだと思います。そこにもう少し詳細と言うか,実際の細かく記述したものが付いてくるということです。
○西原主査
「タスクの記録」とショーケース・ポートフォリオの方で言っているものの下部組織みたいな形でコレクション・ポートフォリオの日々の記録があるのであろうという解釈でしょうか。
○中野委員
そういう意味では,タスクの記録と毎回の学習の記録。今,毎回の学習の記録をもしキャンドゥーに基づいて,もう1回やり直した場合に,この「タスクの記録」というのは,ある意味では毎回の学習の記録の結果になります。チェックしたリストみたいなので,二つに分ける必然性を余り感じないということですかね。
○尾﨑委員
先ほど,井上委員がおっしゃった意味はとてもよく分かるんですね。日本にいる外国の方にとっても自分の能力を客観的に示すものがあったら,やはりそれは努力目標になるし,それは意味があると思うんです。でも,そういうものをここで作ろうとしているのではないということが,恐らくこの日本語教育小委員会で能力評価について検討を初めたころの了解事項になっていたのかなと思います。ですからポートフォリオを準備して,見せてと言われたら見せるんだけれど,場合によったらその中身がお手盛り気味のものであったりとか,企業の方が見ても「これだけだと,どういう勉強をしたか分かるんだけれども,実際今のあなたが何ができるのかという判断は,このポートフォリオで保証するものではない」というのが,基本的なことだと私は理解していました。それが1点です。
それから「能力記述」と言うときに,先ほど「体の部位が分かる」とか「食べ物の名前が言える」というのも能力記述に入っていますよね。そうすると能力記述というのはとても広くなってきていて,何となくキャンドゥーステートメント(Can-do-statements)と呼ばれているものよりももっと広くなっていると思います。恐らく初級の段階で一生懸命言葉を学ぼうと思ったときに,「今日はこの単語を覚えた」,「この単語はこういうところで使えるよね」というようなことがあればいいんじゃないのかと私は思ったんですけれども。それで先ほど配布資料4「能力評価に関する検討の具体的な成果物について(たたき台)」の21ページのところで,今日の「学習の記録」というのがあり,その部分を獲得した知識を問うような形ではなく,能力記述をベースにしたらいいということがありましたが,実際授業の最後に,「今日勉強したこと何だっけ。覚えていることとか使ってみたいと思ったことをちょっと書いてみようよ」と,春原委員が言ったような形で記録を取る作業自体がとても意味があると思います。ですから「能力記述」という言葉も何か随分,広がってしまっていると思ったんです。また,記録を取るというときのことですが,誰が書くかということもありますよね。書けないレベルの人って,誰かに書いてもらうんですよね。
○嶋田委員
「学習の記録」についてですか。
○尾﨑委員
全てです。例えばショーケースの「学習の記録」は誰が書くんでしょう。
○西原主査
基本的に自分で書きます。
○尾﨑委員
書くのは本人ですよね。ですから,文字が書けない人は何語で書いてもいいのでしょうか。
○西原主査
春原委員の意見はそうでした。
○尾﨑委員
そうすると,「ショーケース・ポートフォリオ」と言うけど,周りに見せたときに,相手が分からないという事態が起きるんですけれども…。
それから,もう一つ。配布資料3「能力評価に関する基本的な考え方の論点整理」の5ページに「(3)日本語学習,日本語使用の記録」という項目があります。コレクション・ポートフォリオにはその項目が入っていた方がいいかなと思います。適当なイメージですけれども,1週間の間に,いつ,どこで,だれと…と書くかどうか分かりませんけれども,いつ,どこで,だれと,何をして,どうだったという記録があって,1週間に一つでも二つでも何か自分が実際に日本語を使ってやったことの記録というのを持っておくというのがよいと思います。
○西原主査
恐らく,コレクション・ポートフォリオの方です。
○尾﨑委員
はい。コレクション・ポートフォリオの方だと思います。それがもしかすると教室でも題材になり得るのかなと思います。ですから,日本語の使用の記録と日本語を使用したときの外国の方の自己評価と言うか,感想みたいなものをクラスで共有するというようなことがあると,日本語の使用の記録が恐らく学習素材になるのかなと思いました。
○金田委員
今,尾﨑委員がおっしゃったことの二つ目のことに関してなんですけれども,要は,今回コレクション・ポートフォリオの例として示されているのは「でき合いのものとしてこういうフォーマットがありますよ」なんですけれども,恐らく,毎回の学習の記録の,例えば次のページなどに,その都度,使用された教室で配布資料なども使う場合があると思います。けれども,そういったものがあれば,それもどんどん挟み込んでいっていいんだと思うんですね。人に見せるためのものではなくて,自分の学習を促進するためのものですから,いろいろなものが入っていくのがよいと思います。その中に先ほど尾﨑委員がおっしゃったように「1週間の間にこんなことをした」というような記録が−ある教室ではそういうことを奨励するのであるならば−そういったものも入れていくというような考え方でいいのかなと思います。そのことはこういったポートフォリオの使い方というのをどこかに記述することがあると思うんですが,そこにそういうことを書き加えていけばいいのかなとは思います。
もう一つ,何語で書くのかということについてなのですが,私も日本語で書かねばならないということは全く考えていませんでした。特に毎回の学習の記録は,覚えた単語を書くというようなことは比較的書きやすいとは思います。ただ,「こういうことができるようになった」というように,メタ的に捉えて,特にキャンドゥーの方向に持っていくというのは,学習者にとっても難しいんですけれども,実は支援の方々とか先生たちにとっても難しいことです。今まで文法中心に日本語教育をやってきたのに,キャンドゥーに頭を切り替えていくということはかなり大変な部分があると思います。「病院のこの言葉とこの言葉を今日勉強したよ」と書くのは案外簡単なんですが,「病院に行って自分の症状を伝えられるようになりました」ということを,仮に母語であっても,そのように自分の行為について,可能になったことを表現するのは少し難しいだろうなと思うんです。でもそれはそうやって,学習者と支援者両方がトレーニングを積んでいって,言葉の能力の捉え方を少しずつ変えていくということをするためには,そういった書き方もあるんだということを,今回の例だけではなくて別の書き方でも示していって,「こうなるのが最終的には理想ですよ」ということを示せばいいのかなと思います。
○西原主査
マニュアル及びトレーニングですね。
○金田委員
そうですね。それから,何語で書くかということについて,日本語ではもちろん書けない場合というのは最初の頃は特に多いと思います。ポルトガル語で全部書いてある,中国語で全部書いてあるということが起きると思います。それはそれでいいと思います。ショーケースポートフォリオの部分で,最初の方はどうしてもそうならざるを得ないと思いますけれども,恐らくある段階を経ていけば,それがローマ字で書けるようになるかもしれないし,平仮名を使って全部書くようになるかもしれないです。ローマ字とか平仮名になってしまえば,それを見た第三者は,一体何がどこでどのように繰り広げられたのかということが理解できるようになるんですけれども,例えばポルトガル語で書いてあるというような場合に,それをぱっと日本人が見て分からないとは思うんですが,そこに例えば,その分からないことをいざ見せる時には,ポルトガル語で書いたときよりも学習者の日本語の能力がアップしているはずですよね。ですので,「このときはこうしました。」ということを何とか日本語で説明するとか,あるいは要所要所の単語の部分に日本語を書き加えておくというようなことをすることによって,ショーケースポートフォリオの見せるという部分が達成できるかなと思います。
○西原主査
ありがとうございました。伊東委員,いかがでしょうか。
○伊東委員
まず配布資料3「能力評価に関する基本的な考え方の論点整理」に関してですが,私は自分の能力を把握できるようにすると言ったときに,やはり自分が内省して把握できる場合と客観的に測る場合と両局面から欲しいなと思いました。客観的にと言った場合,やはり外在基準に基づいてということがあると日本語能力試験かなとは思いますが,あれは余りにもざっくりしているので,何らかの形でステージがあるといいなと思いました。それは,配布資料3「能力評価に関する基本的な考え方の論点整理」の9ページ<成果物のたたき台(資料4)への反映状況>の中に「日本語能力を大くくりで示すのがよいのではないか」とありましたけれども,何らかの形でステージが設けられていて,自分がどの辺りにいるかということが分かり,次はどういうステップが求められているか,あるいは将来があるかというところが見えてくると,学習の意欲にもつながるかなと思いました。今までの話だと何か,平べったい日本語能力というのがありましたけれども,それをもう少し段階的にステージ化されるといいかなと思います。
○西原主査
配布資料3「能力評価に関する基本的な考え方の論点整理」の20ページ,別紙3「目標(能力記述文)の書き表し方について」のところに提案があります。
○伊東委員
これはヨーロッパ共通参照枠(CEFR:Common European Framework of Reference for Languages)ということですね。
○西原主査
ええ。ヨーロッパ共通参照枠のような感じですね。
○伊東委員
ということです。後はどの程度できるようになるかという段階性がやはり必要になるかなと思いました。だからこれは例えば,初心であることを伝えることができる,まあできるとか,全てできるとか,どちらかと言えばできるとかというような形での評価ができるといいかなと思いました。だから評価,自己内省するときも,何か段階的にチェックするだけというような形で回答できるようなものも一ついいかなと思いました。そんなところです。
○西原主査
配布資料3「能力評価に関する基本的な考え方の論点整理」の15ページの別紙2「「能力評価」システム概要,およびその運用上の留意点について」の後半にもロールプレイみたいなもので,別途チェックできるような形,教室だけでないようなことも提案されています。
○杉戸副主査
伊東委員とよく似たことを考えていました。つまり,ここの議論の多くは記録そのことですね。どう記録するか,どういう様式で記録するかという提案がされて,議論されたと思うのですが,その記録の中身について,つまり評価そのこと,いわゆる評価する活動そのことについての議論が,その資料の中に出てきているなと思ったのは,今話題になった配布資料3「能力評価に関する基本的な考え方の論点整理」の18,19ページ「ロールプレイタスク例」として示しているということです。つまり,これは評価する活動の一つの,これは飽くまで例だと思うんですけれども,こういうプロセスがないと,今日の多くの議論の記録の中身が出てこないという思いをして聞いていましたので,つまりこの先,具体的にイメージしてみると,重層的になると思います。配布資料4「能力評価に関する検討の具体的な成果物について(たたき台)」の方の「毎回の学習の記録」,あるいは14ページ「タスクの記録」,このフォーマットの中身に,今申しました配布資料3「能力評価に関する基本的な考え方の論点整理」の18,19ページのような評価の活動がうまく盛り込めるような構造にしていく必要があるということを考えていました。
○西原主査
はい。協力者の方々の御意見も正にそういうふうに展開していったと思います。
○西澤委員
大体重なってしまうんですけれども,作り方,書き方,使い方について,やはり詳しいオリエンテーションがどうしても必要なんだろうなと思います。それで関西センターや日本語国際センターの先生方も,結局,評価の話になると,知識偏重,文法ベースになり,要するにそのことを正しく言えるようになったかというようなことが評価基準になり,それが本当にできるようになったかどうかというところからずれてしまうということを,随分体験しておられるということを言います。ですので,そういうことを徹底できるようなオリエンテーションがきちっとなされて,実際にこれをどう作るかという具体的な事柄をやはり示してやることが大切なんじゃないかなという感じがいたしました。
○西原主査
はい。日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の方々が本日の日本語教育小委員会にもおいでいただいていますけれども,思ったような宿題が出そうだなという感じですね。よろしくお願いいたします。
○嶋田委員
1点だけいいでしょうか。
○西原主査
はい。
○嶋田委員
配布資料4「能力評価に関する検討の具体的な成果物について(たたき台)」の21ページ「毎回の学習の記録」について,知識も一つというのもよく分かりましたが,先ほど金田委員はキャンドゥーで書くのはやはり難しいという意見もありましたので,このタスクの記録と毎回の記録をもう少し有機的に,ショーケース・ポートフォリオ,コレクション・ポートフォリオのように分けるのではなく,一本化かどうかは分かりませんが,両方が見えるようになる,「見える化」すればいいのではないかと思いました。今,配布資料4「能力評価に関する検討の具体的な成果物について(たたき台)」のようにいいものが出ているので,二つのポートフォリオを分けずに,両者が内省してつながるような形にするのがよいのではないかと思いました。
○岩見委員
現状としては,ボランティアの教室の中で学習していく方々が非常に多いということがありますので,毎日の記録というのはごく記録しやすいような形で提示するのがいいと思います。そういう意味で,毎回のコレクション・ポートフォリオとショーケース・ポートフォリオというのを分けておく必要が私はあると思うんです。それで将来的に,見せるためのショーケース・ポートフォリオの評価判定は,その方たちの研修とかいろいろな形で,Can-doの評価も段階的に可能となるような評価枠を定めて,人材育成とともに相伴って,それが将来に向けて融合していけばと思います。
それから1点どうしても申し上げたいのは,井上委員が発言されていたことに関してですが,現状として学習機会の保障の機会がセットされていない状況ですので,それは人材育成とともに信頼性も求めていくべきであって,今の時点で評価判定だけが先走るということは非常に危険であると思っております。
○西原主査
ありがとうございました。この能力評価に関する議論は,ずっと前を見続ければ日本社会が外から入ってくる人たちをどういうふうに迎え入れるのかというところまでつながってくるようなことの一つでございます。そういうことがあるということも頭のどこかに置いていろいろと考えていくというステップになるかと思います。
それでは最後の議題に移らせていただきます。コンテンツ共有化整備ということで,御意見を頂きたいと思います。
○春原委員
この日本語教育コンテンツ共有化システムについて,イメージですけれど,基本的にはリンク集ができるということでしょうか。
○小松国語課長補佐
要は図書館の目録,OPAC(Online Public Access Catalog:オンライン蔵書目録)とかありますよね。検索ができますが,そのようなものです。
○春原委員
分かりました。
○西原主査
それを日本語教育に関して管理する,共有するという試みをしたいということですので,是非,よろしくお願いいたします。文面に関しましては主査一任いうことにさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。
(⇒了承)
では,ちょうど時間になりますので,議論はここまでにいたします。教材例,それから能力評価につきましては,この後,日本語教育小委員会ワーキンググループ,それから日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者において作業を行いまして,適宜,委員の皆様方にも御紹介させていただきながら作業を進めていきたいと思います。第40回の日本語教育小日本語教育小委員会を閉会といたします。御協力ありがとうございました。
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