議事録

第46回国語分科会日本語教育小委員会・議事録

平成24年5月28日(月)
15:00 〜 17:00
旧文部省庁舎 文化庁第2会議室

〔出席者〕

(委員)
西原主査,杉戸副主査,石井委員,伊東委員,井上委員,岩見委員,加藤委員,金田委員,小山委員,嶋田委員,中野委員,西澤委員,春原委員(計13名)
(文部科学省・文化庁)
早川国語課長,鵜飼日本語教育専門官,増田日本語教育専門職,山下日本語教育専門職ほか関係官

〔配布資料〕

  1. 文化審議会国語分科会日本語教育小委員会(第45回)議事録(案)
  2. 文化審議会国語分科会日本語教育小委員会の審議経過等について
  3. 当面の主な論点について(案)
  4. ワーキンググループの設置について(案)
  5. 日本語教育小委員会における審議スケジュール(案)
  6. 指導力評価に関するヒアリング資料(公益社団法人国際日本語普及協会,社団法人日本語教育学会,公益財団法人日本国際教育支援協会)

〔参考資料〕

  1. 小委員会の設置について
  2. 文化審議会国語分科会日本語教育小委員会委員名簿
  3. 日本語教育推進会議で参加団体等から発表された事項(例)て

〔机上配布資料〕

  1. 生活者日本語の指導能力の評価に関する調査研究(公益社団法人国際日本語普及協会)
  2. 生活日本語の指導力の評価に関する調査研究(社団法人日本語教育学会)
  3. 生活日本語の指導力の評価に関する調査研究報告書(財団法人日本国際教育支援協会)

〔経過概要〕

  1. 事務局から今期初めて出席の委員の紹介,定足数の確認があった。
  2. 今期初めて出席の委員から抱負等が述べられた。
  3. 事務局から配布資料の確認があった。
  4. 前回の議事録(案)が確認された。
  5. 事務局から,配布資料2,3,4,5について説明があり,日本語教育小委員会に「指導力評価に関するワーキンググループ」,「課題整理に関するワーキンググループ」が設置されることが承認された。
  6. 指導力評価について,公益社団法人国際日本語普及協会,社団法人日本語教育学会,公益財団法人日本国際教育支援協会から平成22年度文化庁委託により行った指導力評価に関する調査研究についてヒアリングを行い,その後,質疑応答,意見交換を行った。
  7. 次回の日本語教育小委員会については7月下旬に開催される予定であり,日時,場所については事務局から追って連絡をすることが確認された。
  8. 各委員からの意見等は次のとおりである。
○西原主査
先回,それぞれ短く,今期の日本語教育小委員会に対する抱負を述べていただきました。先回御欠席の方には,今回改めて,御意見を頂きたいと思います。
○岩見委員
地域の多文化共生社会に向けての日本語教育というのを,ずっと体制整備から,教材から,教師活動からやってきたわけですけれども,当初から,将来に向けて,理想的な形として専門職が育っていくということがあったと思います。現状としていろいろな形で,いろいろなリソースを排除しないということはあると思うんですけれども,専門性が確立されて,専門性が保障されると言いますか,そのような体制に向けて,この日本語教育小委員会が少しでも力を持つようになればいいと願っております。
○金田委員
今年は,指導力に関してということで,これについては私自身も,一昨年度の文化庁の委託研究で,社団法人日本語教育学会と,それから公益財団法人日本国際教育支援協会と,それぞれ協力をさせていただきました。
ただ,両方のプロジェクトを通じていろいろ考えたのは,実際に今,地域で活躍なさっている方々のいろいろな思いがあるのと同時に,国として何らかの整備をしていかなくてはいけないというはざまで,まだ,指導力というのが何なのかというのは整理されていないなというのがありました。
それを,全体を見ながら整理していくという作業を今年,やっていきたいなと思っています。よろしくお願いします。
○春原委員
一昨日の日本語教育学会の春季大会の記念パネルでも,日本語教育小委員会で作った「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案の「できる」の表と言いますか,生活上の行為の記述について,哲学,心理学,人工知能の先生方が検討,意見交換をしてくださいました。この日本語教育小委員会ではある意味で,非常に刺激的なものを作っているんだなという気がしました。そういう意味で,大いにたたかれながらも,地域に定住する外国の方たちの指標になっていけたらなと思っています。同時に,日本語教育に関わる人たちの社会的地位の向上にも裨(ひ)益できたらいいなと思っています。よろしくお願いします。
〔事務局から,配布資料2,3,4,5について説明〕
○西原主査
一つだけ注釈的に申し上げますけれども,配布資料2「文化審議会国語分科会日本語教育小委員会の審議経過等について」の裏面の「(2)日本語教育に関する最近の主な提言について(抜粋)」の「?」でございますが,これは,国立国語研究所に関する今までの実績,新たに大学共同利用機関になってからの数年間の実績を洗い出すということで,国語研究等小委員会が新たに単年度設けられ,そして学術審議会と,それから文化審議会国語分科会国語研究等小委員会で,それぞれに報告書を出したということを,前期の終わりに御報告申し上げております。その中で附則的に,この網掛けにあるようなことは,国語研究所に要求するのではなく,日本語教育小委員会で行うべきであるというようなことが結論として出されていました。それを受けているということを,注釈的に御理解いただけたらと思います。
今,事務局から御説明いただきましたように,指導力評価について,それから,日本語教育に関する課題整理について,それぞれについて論点整理を行い,論拠を示すことが今期の仕事でございます。それぞれの課題についてワーキンググループを設置させていただこうということで,事務局と相談をさせていただきました。
指導力評価に関するワーキンググループと課題整理に関するワーキンググループを設置することをお認めいただいてよろしいでしょうか。昨年度もそうでございましたけれども,ワーキンググループ及び協力者の方々が非常に積極的にお仕事をしてくださいまして,期の最後までに,しかるべき課題についての取りまとめが行われたということでございます。今期は又一層困難な仕事ということでございますので,日本語教育小委員会の合間に,それぞれのワーキンググループに何度かお集まりいただいて,そのことを審議できたらと思います。
スケジュール案については,配布資料5「日本語教育小委員会における審議スケジュール」が示されていますが,これから指名させていただくので,事務局から,このような方にワーキンググループの委員をお願いするというリストをお配りいただけますでしょうか。先ほど事務局のほうからも説明がありましたように,課題整理に関するワーキンググループには,大学共同利用機関の国立国語研究所からどなたかお入りいただくということで,交渉を進めるということにさせていただきます。
今,暫定的なタイムテーブルが示されましたけれども,これでも足りないかというようなことかと思いますが,どうぞよろしくお願いいたします。
○春原委員
すごく単純なことなのですが,指導力評価に関するワーキンググル―プの開催回数が4回で,課題整理に関するワーキンググループの開催回数が5回というのは,何か重みの違いがあるのでしょうか。
○西原主査
いいえ。交互に振っていったら,片方はもう一回いったということだと思います。ただ,これで済むかということにつきましては,その都度の会議がどの程度の密度で,何かのアイデアに至る,合意に至るかということと大きく関係すると思いますし,ふたを開けてみないと,これで済むかということについては,まだ申し上げにくいことでございます。
前期も密度の濃い会議をしていただき,評価についての提案をしたわけでございます。この提案も,日本語教育あるいは言語教育,言語習得というような観点から,非常に先進的な提案ができたと考えておりますし,そのことが,例えばヨーロッパの共通参照枠の枠組みとか,国際交流基金が作っているスタンダードの評価の枠組みとかと足並みをそろえるような形で提案ができているというのは,非常に心強いことなのではないかと思います。それから先ほど少し言及されましたけれども,標準的なカリキュラム案で提案した生活上の行為のキャンドゥー(Can−do),能力評価記述につきましても,そういう大きな潮流の中の歩みと歩調をそろえるような形で提案できているというのは,ひとえに,そこでお働きくださいました委員の皆様方のお力のたまものだと思います。
今回も,指導力ということでございますけれども,月並みなやり方というよりは,もう少し深く検討し,これからを見据えた形で何か提案ができればと思いますし,そういうことが期待されていると思います。その上で,ワーキンググループの開催回数が5回で済むかどうかというのは,皆様方の御意見の出方によって決まると考えております。
お認めいただけますでしょうか。どうぞよろしくお願いいたします。
○杉戸副主査
配布資料5「日本語教育小委員会における審議スケジュール(案)」の一番下の時期までの目標のようなところを伺いたいんですが,ワーキンググループとしては,指導力評価に関しては,一番下,第50回の小委員会に,指導力評価の取りまとめをすると書いて,これが括弧に入っているのが非常に気になります。つまり,ワーキンググループ4回目までで評価に関する取りまとめ案の検討をして,取りまとめるということを目標にすると読み取りましたが,それでいいかどうかということです。
それから,もう一つの課題整理に関するワーキング,これは微妙な書き方が配布資料3「当面の主な論点について(案)」にあって気になるんですが,課題というのは二通りに読めてしまいました。日本語教育に関する課題,これを整理するというのと,配布資料3「当面の主な論点について(案)」の大きな2番,網が掛かっている見出しには,「日本語教育に関する課題を整理する」と書いてあります。それから,そのすぐ下の,「(1)日本語教育を推進する上で本小委員会において検討すべき課題は何か。」というのは,本小委員会で検討する課題をワーキンググループで考えると読めます。
揚げ足を取るような読み方をしているんですが,つまり,課題のレベルをどこに設定して,スケジュールとして,配布資料5「日本語教育小委員会における審議スケジュール(案)」の一番右下,第5回のワーキンググループで課題整理の取りまとめ案とありますが,ここでいう課題は,先ほどの二つのうちのどちらを目標にするか,取りまとめをどの程度までするか,さらには,この先2月以降,次の期までを想定するか,しないかというところまでも気になります。少し先走りし過ぎているかもしれませんが,その二つです。
○西原主査
指導力の方は,一番最初の報告書にやると約束しているもののうちの一番最後のシリーズということになります。「生活者としての外国人」に対する日本語教育のカリキュラム案から,それをガイドブックとして,教材化するための方略,それから,学習の達成についてどのような評価をするという部分までを踏まえた上で,それを支援する立場というのはどういうことをする人であり,どのようにして育成されるべきなのかというところに至るわけです。
そこで何をするべきかということについては,余り路線に幅がないということかと理解しております。それ以上のことは出来ません。つまり,大学教員とか,それから,特殊な学習者を対象にした,たとえば技術研修とか,介護・看護の人材とか,分けて考えずに,全てが生活者というレベルでの指導ということになります。かなり限定されていると考えられます。
日本語教育に関する課題整理についてですが,参考資料3「日本語教育推進会議で参加団体等から発表された事項(例)」を見ていただくと,事項がいくつか挙がっていますが,これは精選された結果,これだけが取り上げられていると考えてよろしいんですよね。 これを御覧になっても,例えば国家のビジョンというところから,日本社会の構成員に関わるところ,日本語教育という立場にある者の福利厚生まで,いろいろあるということになります。論点の整理と言うときには,恐らく,いろいろな観点からこれを整理してみるというのがまずあるのではないかと思います。
その中で,この日本語教育小委員会が,自分の仕事として考えてよい課題もあれば,しかるべきところに委ねられるべきという整理もあるのではないかと,これを見ただけで私は考えました。ですから,それを整理するという場合には,それらの段階,手続及びビジョンをまず整理して,どのような光を当てるかを考えるというところから始まるのではないかなと思いました。
今期の終わりには,本小委員会として提案できることは何かというところに集約されていきます。そうすると,先ほどおっしゃった,次期にそれがつなげられることになるのではないかと思ったのですけれども,事務局,それでよろしいでしょうか。
○鵜飼日本語教育専門官
はい。
○西原主査
整理ということはいろいろな段階であり得ます。配布資料3「当面の主な論点について(案)」は本小委員会において検討すべき課題は何かというところに至るまでに,3段階か2段階の整理があり,(1)に至った上で,(2)ということが新たにビジョンとしてと言いますか,我々の仕事として入ってくるということかと思います。ただ,国語課ではこれだけやりますという結果を出すというのが目標ではなく,日本語教育推進会議から出された要望が整理され,もっと大きい範囲での了解事項となるというところまでを仕事として含まないといけないので,大きなところから始めるか,小さなところから始めるかというのは,その時々の委員の皆様,ワーキンググループの皆様方のお気持ち次第なのではないかと思いました。
非常に茫漠としていて,このリストを見ただけでため息が出ると言いますか,みなさん,「やってほしい」と言っていることなんですが,それはもっともなことではありますけれども,それを,誰かにやってほしいというのではなく,やるのだというところに課題を割り当てていくというのも一つの仕事,整理の仕方かと思います。
○杉戸副主査
今,後半で御説明いただいたことについては,参考資料3「日本語教育推進会議で参加団体等から発表された事項(例)」の「・」でずらっと並んだ事項の,構造化したと言うか,見取り図のような相互関係を把握,整理し直したり,あるいは,これはどこの担当だろうというような,この先の担い手を考えたり,位置付けたりするということが必要だということは,一つ分かりました。
それに続いて,その中で,地図化と言うか,構造化した中で,国語分科会日本語教育小委員会,あるいは文化庁国語課の,特に責任を持って担当すべき課題はここだから,このような方策をこのようなデータに基づいて考えようという,第2段階に進むというのがあると思いました。
○西原主査
国は指針を示すということを平成19年から言い続けていますよね。その国というのが,当時の認識では,文化庁国語課だと言っているわけです。そうすると,文化庁国語課イコール国が,日本語教育に関して指針を示すということの範囲は何かというのも,実はまだ分かっていないと思いますけれども,その辺りを見定めていくことは,文化庁国語課にとっても,日本語教育界全体にとっても非常に重要なことかと思います。そのことによって,担うべき人も,今,見取り図とおっしゃったのは,担うべき機関,担うべき団体,そして,担うべきコンソーシアムと言うか,そういうものが提案されていくということに至れば,大分,論点の整理,あるべき姿というのが浮かび上がってくるのではないかと思います。
このことにつきましては,この日本語教育小委員会の中でもいろいろな御発言が,先期までの間にあったように思います。そのようなことも集約されつつ進んでいくのではないかと思います。
○杉戸副主査
分かりました。もう1点,補足させていただくと,西原主査の説明の前半でおっしゃった,指導力評価に関するワーキンググループのスケジュールに関しての御説明ですが,前期まで,繰り返しカリキュラムを作り,ガイドブックを作り,教材を作るというような仕事をしてくる中で,当初から,A4横の資料で,仕事が四つか五つの層に分かれて,タイムスケジュール的に示されたものが繰り返し示されました。
その一番下に,最終的には指導力評価の課題が待っているということが,図で言うと,右下のところに少しだけ載っていました。それが,今回始まる指導力評価に関するワーキンググループだと思うのですが,先ほどの最初の私の質問は,そのずっと右下に短く書かれていたものが,あの線がどこで切られるか,どこで終わりになることを目標にするかという意味なんです。
つまり,配布資料5「日本語教育小委員会における審議スケジュール(案)」の一番下,来年の1月中下旬で,取りまとめという丸括弧に入った仕事をする,そのような目標で行こうとしていると理解していいのでしょうか。
○西原主査
ここに関する限り,私はそのように理解しております。そして,配布資料3「当面の主な論点について(案)」の(1)から(5)までによると,評価の基準,そして評価の手続,方法までを含んで,そのことが行われるということでございます。その通りに,5回しかないのに,(1)から(5)までありますので,それぞれで(1),(2)が片付くと考えると,「本当にそうかしら」と思えるのですが,目標としては,今期で(5)まで行くということです。
ただ,意気込みとしては,(5)まで行くということかと思いますし,それが,例えば日本語教育能力検定試験のような形で,評価の手続,基準,方法が新たに出ていくのかということにつきましては,ワーキンググループの働き方,あるいはワーキンググループが,深く掘って,更に協力者の方々を動員するというようなことになった場合のみに可能なのかもしれません。
ただ,そこの一歩手前のところで,こうするべきですというところで終わることを含めれば,(5)まで行かないと,やはりお仕事は終わらないのではないかと思います。
今期でするべき仕事がこの二つの大きな仕事ということを考えますと,かなりの密度で仕事をしないといけないと思いますし,日本語教育推進会議も,これは国語課が招集した会議でございますが,国語課の下部にある,この日本語教育小委員会がそれを受けて,そして,道筋というか,皆様の御希望をできるだけ系統的に整理して,そのことについてフィードバックするということが義務付けられていると思います。どうぞよろしくお願いいたします。
実は,今日はまだ大きな仕事が残っております。まず,指導力評価に関する一つ目の仕事として,過去に三つの機関に,指導力評価に関して研究委託をしていて,その報告書が書かれているということです。時間が限られておりますので,詳しい御説明はいただけないかとも思いますけれども,代表の方々が,ここに来てくださっておりますので,それぞれ,このようなことでしたということを手短に御報告いただければと存じます。
それが配布資料6「指導力評価に関するヒアリング資料(公益社団法人国際日本語普及協会,社団法人日本語教育学会,公益財団法人日本国際教育支援協会)」ということになろうかと思います。
では,公益社団法人国際日本語普及協会の岩見委員から,ほぼ20分か25分ぐらいでお願いできたらと思います。パワーポイントになるべきところを,無理にお願いして,お手元の資料にしておりますので,それを御覧ください。
○岩見委員
それでは,お手元の資料と机上配布資料1「生活者日本語の指導能力の評価に関する調査研究(公益社団法人国際日本語普及協会)」を御覧いただければと思います。平成22年度の文化庁委嘱調査研究で,公益社団法人国際日本語普及協会(以下,AJALTと言う)が委嘱を受けました,「生活日本語の指導能力の評価に関する調査研究」の御報告をいたします。
これはトヤマ・ヤポニカとの共同で行った調査研究で,二つの機関はいずれも,社会人への日本語教育を長年,研究開発してまいりました。トヤマ・ヤポニカは2005年から,特に富山県内の,「郡部」という言葉で表現したらよろしいか,支援の届きにくい郡部において,とやま国際センターとの共同事業で地域の日本語教室を立ち上げて運営してきているということで,地域の教育にも積極的に関わってきたところです。
AJALTは,地域ということに関しましては,ボランティアとして別途関わっている人もいますが,事業体として立ち上げたというのは,単発的に横浜市などで事業を展開したことはありますけれども,東京を中心として活動をしています。それから外国人の散在地区と言いますか,外国人が散在している地区において活動しているトヤマ・ヤポニカと,性格の違う日本語教育機関の教師の内省,その他調査によって実施したのが今回の調査研究でございます。
2枚目は,調査研究の目的ですが,生活日本語指導力を評価するためには,まず,指導能力とはどのようなものであるかということを明らかにしなければならないということで,まず,それを明らかにします。そして,明らかになった生活日本語の指導能力を持つ人材を育成する方法,研修について提案するということが今回の調査の目的です。
3枚目に,「生活日本語の指導能力」の捉え方として,ここに社会型日本語教育ということを提案いたします。社会型日本語教育は,石井恵理子委員が1997年に書かれた論文で出ている「地域社会と密着して,生活を基盤として日本語学習を行う」という位置付けを持っています。「社会型日本語教育」という言葉を取り入れたわけですけれども,そもそもこれは6章のあたり,それから,用語の解説というのが8ページにもあります。
簡単に「社会型日本語教育」の定義付けを行います。ここでは8ページの「○」の2番目です。社会型日本語教育は,学習者が地域社会に参加していくプロセスで日本語が学べるようにデザインされた日本語教育という考え方をしております。そもそも地域の日本語教育が,地域社会に参加をする,社会参加を促進する目的で行われているものであるというように日本語教育小委員会でも捉えているわけです。学習者が社会参加のプロセスで日本語学習を進めていく,日本語教育自体をそういうものに設定するという発想です。
社会型日本語教育については,この報告書の随所に見られますが,第6章などにも言及があります。あちらこちらに飛びますけれども,53ページの第6章のところに「6.2」,同じことですけれども,その辺りにも社会型日本語教育について触れておりますし,63ページの「6.4」の辺りでも触れております。
もう少し具体的なイメージを言いますと,その中の活動としては,対等な関係を学習者と支援者で作り上げて,コミュニケーション活動を行って,学習者にエンパワーメントをしていく役割を持ちます。それから,教室を一つのコミュニティー,一つの社会,小さい社会という言葉も使っていますけれども,コミュニティーと見立てて,関係者の人間関係を作りつつ成熟させて,その中で,現実の人間関係,現実の場面でのやり取りを基にコミュニケーションを進めていく,シミュレーションとかそういうことではなくて,実際のリアリティーということを重要にしています。
もう一つの側面としては,学習者が日本語力を付けていくというだけではなくて,ホストの日本人側も,文化を異にする人々とのコミュニケーション力を付けていく,そのような双方向の活動ということを特徴としています。そのような意味で,社会型日本語教育を地域の日本語教育に据えるということがふさわしいと考えています。
次に,社会型日本語教育の専門性の再確認ということですが,社会型日本語教育,今,言ったような考え方は,以前にも,いろいろな社会文化的アプローチであるとか,内容重視の教育であるとか,日本語教育の中では専門性として実践されてきましたけれども,その専門性が個別にと言いますか,まだ広く関係者の間に共有されていない,認識されてこなかったのではないかという問題認識をしております。
それから,特に地域の社会型日本語教育というのは,従来の日本語教育にはない新たな専門性が含まれるのではないかとも考えました。こういったものをすくい上げ,地域の専門性というものを確立する必要があるという動機があります。
具体的な調査の方法としましては,二つの機関で行ってきた社会型日本語教育の取組の事例を分析します。それから,生活者としての外国人に対する日本語教育の事例を分析,それから,参考文献であるとか,過去のものを分析します。それらによって,社会型日本語教育の指導者に求められる能力を抽出しました。その社会型日本語教育の能力と思われるものに相当する能力を研修するためのワークショップを二つの機関の現職の日本語教師に対して実施しました。そして,ワークショップによって得られた教師の内省から,さらに,地域の社会型日本語教育に求められる指導能力というものを書き出しました。
方法の「1」については,それまでに教師養成の能力について,2000年に出された文化庁の「日本語教育のための教員養成について」という枠組みがあります。それから,日本語教育学会の2007年,2008年,2009年,今日,これから御発表なさると思います。そのような調査研究も参考に分析をいたしました。それから,この日本語教育小委員会の標準的カリキュラム案,あるいはガイドブックについて検討し,必要な能力を考えてきました。
2番目は,二つの機関が実際に行ってきた社会人のための教育,生活者のための教育,社会型日本語教育として捉えられる教育について,中身を分析しました。
そして,先ほども触れましたけれども,そのような過去の社会型日本語教育と思われるものの分析,それから,過去の教師養成などの分析から,社会型日本語教育の指導者に求められる多くの項目が,今までの日本語教育の取組の中からも抽出することができたということがあります。
そのほか,専門性として確立されるべき分野として,特に新たな観点として,対話中心の指導能力であるとか,行動と言うか,活動中心と言った方がいいでしょうか,地域の社会型日本語教育を生み出す活動のデザインをする指導能力というのが重要であるということが浮かび上がってきました。
社会型日本語教育の指導者に求められる能力として,「○1」から「○5」の5種類に分類して整理をいたしました。これが第6章の53ページから64ページです。五つの力というのは,一つは,対話中心の活動をデザインする能力,53ページの最後から54ページの頭にありますが,このまとめと同じですが,課題達成のプロセスを学習活動としてデザインできる能力,3番目に,それを段階的に組み立てる能力,4番目に,学習環境をデザインすることができる能力,5番目に,活動成果を社会型日本語教育の観点から評価できる能力,このように5種類に分類をいたしました。64ページまでのところにありますが,それぞれを又,下位項目に分けて,55ページの1番から62ページの92の項目に更に細分化して,求められる教師の指導能力について記述をいたしました。
教師のワークショップについては,三つのワークショップを4番に書いてあるとおりです。対話中心の活動として東海日本語ネットワークの米勢治子氏から,行動達成のワークショップとして独立行政法人国際交流基金のお二人から,それからとよた日本語学習支援システムのシステム・コーディネーターでもある土井佳彦氏から,それぞれワークショップをしていただきまして,それらを教師の内省によって,社会型日本語教育を推進するための指導力の課題を発見していきました。そして,社会型日本語教育の指導者を育成するための研修案を提案しました。
細かくは,教師の内省はそれぞれありますけれども,大枠,概要は今までやってきたところとそう違和感がないというところもありますけれども,一部,それを理解するためには,そう簡単なことではないと言いますか,より研修が必要だということと,それから,教師のビリーフに対して新たな枠組みというものが,特に,まだ地域の日本語教育ということを経験していない教師にとっては,イメージがしっくり理解できない,その辺りに不安が残るという内省が出てきました。
考察ですけれども,社会型日本語教育を具現するために必要な能力を可視化して,その研修方法を確立するには,後ろの資料に,教師キャンドゥー(Can−do)というところでまとめてあります。それから,先ほどの6章のところでも書いてあるような事柄ですが,教師キャンドゥーを共有して,議論を通して研修方法を検討していくことができるのではないかと思っています。
そもそも社会型日本語教育というのを成立させるためには,学習者と地域住民が一緒になった教室というものを考えていて,そこを外部とつないだり,問題解決を図っていく,そのようなことをするコーディネーターという役割が非常に重要になってきています。今回の指導能力の評価,指導員とは誰なのかと言ったときに,捉え方としては,指導員イコールコーディネーターというような考えで,今回,報告書をまとめています。それがコーディネーターという捉え方をすることに意義があるのではないかという発想です。
そのような過程を通して,「提言」と書きましたが,提言が二つありましたので,最初のほうは「成果」と書き直していただいた方がいいかもしれません。巻末の資料にあるような教師,指導者の能力,つまりコーディネーターの能力というものを可視化いたしました。それを後で御覧いただければと思います。
それから,このキャンドゥーはかなり広範囲に渡るもので,従来の日本語教師に求められる指導能力とは随分違う範囲と言ったらいいのでしょうか,広い範囲のものも含まれていると思います。特に教室と地域社会をつなぐ,あるいは行政と教室をつなぐ,そのような役割は,今までの日本語教師に求められる能力というのを超えた範囲のものであろうと思います。これは指導者キャンドゥーを挙げましたけれども,一人でできるとは考えておりません。複数であるとか,いろいろな関係者との協力を持って進めていくというもので,これはかなりプロフェッショナルな能力であるので,このような人材育成のための研修というのは,かなりの質と量を必要とするのではないかと思います。
したがって,提言のところに上げましたように,国が自治体に対して,人材育成プログラムと研修を提供していくような体制が取れるとよいと思いますし,研修は,そのほか,一部,地域の現場でのOJT(on the job training)の組み合わせというのは必須ではないかと思います。実際にコミュニティーを作り上げて,課題解決をして,地域のまちづくりに貢献すると言ってもいいかもしれません。そのようなものをどう進めていくかということは,実際に現場での活動を通して習得できるものではないかと思いますので,OJTの組み合わせとするということです。
そして,昨今はいろいろな自治体にしても,財政難を訴えておりますし,国が,人材確保,事業推進に対して財政的な支援をするということがあると,より推進されるのではないかと思っております。
あとは,実際に指導者キャンドゥーリストとして,167ページ,「教室コーディネーターとして必要な能力」というのを五つの種類に分類して,それぞれ下位項目を立てて,その目的を右に書いてあります。地域社会をつなぐ役割,参加者をエンパワーメントする役割,そのようなことが目的に書かれております。
170ページには,指導者キャンドゥーリストAのもう一つの,「日本語活動コーディネーターとして必要な能力」というものをまとめてリストにいたしました。
さらに,指導者キャンドゥーリストBとして,これは地域の教室の立ち上げから継続,実践まで時系列に沿って,必要なキャンドゥーリストというのを書いております。
時間もありませんので,具体的なところは見ていただければと思います。以上でございます。
○西原主査
どうもありがとうございました。質問等は,お三方の御発表が済んでから,まとめてお願いしたいと存じます。次に,日本語教育学会のブルーの冊子及び資料12ページのところで,伊東委員からお願いいたします。
○伊東委員
それでは,お手元の薄水色の冊子,これを「報告書」と呼ばせていただきます。そして,本日,文化庁で用意していただいた12ページ以降は,「ダイジェスト版」という名前で呼ばせていただきます。時に「報告書」,時に「ダイジェスト版」と言いますので,適宜ページを参照していただけたらと思います。
日本語教育学会では,過去に2回,委託されて調査研究をやっておりました。今回は3回目ということになります。3回目でいよいよ,「生活日本語の指導力の評価に関する調査研究」ということで,指導力の評価に焦点を当ててやったということが一つの目玉になるだろうと思います。
では,一体この指導力ですが,誰の指導力なのかということなんですけれども,地域の日本語教育は混沌としております。したがって,報告書の131ページを見ていただきたいと思いますが,「地域日本語教育・支援に関わる人々の役割と求められる資質・能力」とありますけれども,ここで,地域日本語教育に関わる人たちをまとめてみました。
1番目は,地域日本語教育専門家と言われている人たち,2番目,地域日本語コーディネーターという人たち,そして,1ページめくっていただいて,システム・コーディネーターという人たち,4番目,日本語ボランティアということで,大きく四つにくくってみたということがあります。
では我々は,指導力と言ったときに,どの人たちの指導力を話題にするのか,課題にするのかということについて,私たち日本語教育に携わる者としては,日本語教育の専門性を高めるという点で言うと,専門家ということで,地域日本語教育の専門家に焦点を当てました。したがって,ここでは,4番目の日本語ボランティアの指導力ではないということを明記しておきたいと思います。
指導力の評価に関する調査研究,目的は二つありました。一つは,多言語多文化社会に変化しつつある日本社会が,どのように外国人を受け入れて,そして言語政策面で,住みよい社会に作っていかなければいけないかと言ったときに,一つは,社会の制度をどのように作り上げていくかという制度設計の部分,もう一つは,言葉が重要な位置を占めるということであれば,やはり日本語教育をしっかりしなければいけないという点で,日本語教育の専門家が新たなビジョンを持って,指導者の育成に従事しなければいけないということで捉えました。
従いまして,まとめますと,多言語多文化社会,共生社会においては,社会制度をどうやって作っていくのかということと,そこで言語教育を担う専門家の養成をどうやっていくか,この二つに焦点を絞ったということが今回の調査研究の目的でありました。
ダイジェスト版の12ページです。どう教えるか,どう指導するかの前に,とにかく日本語って,我々にとって,あるいは外国人の人たちにとって,どのような意味があるのか,そして重要なのかということを,まずここで明記したのが,12ページの囲ってあるところです。
とにかく日本語の習得というものが,豊かな生活を実現するための第一歩だということです。決して,我々教える側の自己実現ではなくて,外国人,生活者の人たちに焦点を当ててみたいということが1。2,学習は,我々外国語を学ぶ者にとっては,異文化や多言語,多文化に対する思考力を高める一歩であるということもありますので,ここをまず最初に明記して,その上で,専門家はどうあるべきかという形で,3,4,5という形で持っていったということがあります。
もう一度,ブルーの報告書を見ていただきたいんですけれども,短い期間で我々が何をやったかと言いますと,3ページを御覧ください。とにかく,「生活者としての外国人」に対する日本語教育における指導力の評価に関する調査研究ということで,事業実施体制の表を見ていただきますと,主な柱は二つです。調査班1の国内と,右側,調査班2の海外が,調査研究の二つの柱とお考えいただけたらいいかなと思います。
まず,実態把握が必要だということで,日本の地域における日本語教育の指導者の実態に関する調査研究を行ったというのが,この報告書の核となる部分です。日本は後発の国ということを考えまして,先進国,ヨーロッパをはじめアメリカなんかでは,外国人を受け入れて外国語教育,ここは「自国語教育」となっておりますが,自分たちの国の教育をする指導者を一体どのように育ててきたのか,あるいは政策面で,どのような政策を取られているのかということで調査をしたのが,調査班2ということです。
従いまして,日本の事情を知ろうというのが調査班1,そして,先進国の状況を知って,学ぶべきところは学んでいこうということで,海外調査をしたのが調査班2とお考えいただけたらいいかなと思います。我々は,過去1回目と2回目の調査研究をもう一度読みまして,その調査研究や成果のもとに,この開発研究をしたかったので,文献はかなり前のものを参考にしたということも,併せて申し上げておきたいと思います。
そこで重要なことですが,ダイジェスト版の26ページを見ていただきたいと思います。これは,第1回目と第2回目の日本語教育学会が,文化庁から委託を受けて,調査した中で作られた地域日本語教育システムです。これは私自身も,よくできているシステムだなと思っておりますので,このことを一つの軸に,私たちはどのように制度設計していったらいいかということと,ここに携わる指導者の養成をどうしていったらいいかということをずっと議論してきたとお考えいただけたらいいかなと思います。
この中で,地域日本語教育というのは,カキ色で囲まれているものとお考えください。先ほど申しましたように,地域日本語教育に従事する人たち,いろいろな方がいらっしゃいますが,ボランティアの方もいらっしゃれば行政の方もいらっしゃる。しかしながら,やはりここは専門家による日本語教育が必要だというところから,私たちは専門家の日本語教育の充実というところに焦点を当てたということになります。
その中で,どのようなことを最終的に提言したかと言いますと,ダイジェスト版の18ページを御覧いただきたいと思います。下から2行目,指導力育成の方法についてということで,しっかりとしたプログラムを作り上げていくためには,19ページ一番上,「第二言語としての日本語」の学習保障に向けての中で,次のような提言がなされるべきだということで,このような形で箇条書きにしました。
「第二言語としての日本語」の学習プログラムを作り実施する。
「第二言語としての日本語」を担当する「教師」を養成する。
「第二言語としての日本語」の施行を保障する「制度」を確立する。
定住外国人と日本人の相互交流の場を確保する。
さらに,以下の教育の保障の重要性についても指摘しました。
定住外国人に特化した職業訓練のためのプログラムを作り実施する。
定住外国人を対象とした住民としての「権利と義務」に関する教育を開発し実施する。
ということになっているわけです。
このようなことを考えていくと,まず,社会制度面でいきますと,今の19ページの2.3の下の方,やはりこれは,日本語教育学会の指標がありますけれども,法的な整備をどうしても整えなければいけないというところに行き着きます。
そこで,下から5行目,6行目のところにありますように,日本語教育保障法案とか日本語教育振興法案ということで,こちらから制度設計していく必要があるのではないかと思います。これは,ダイジェスト版では簡単に書いてありますけれども,報告書では22ページ,23ページ,24ページ,25ページ,大体5ページぐらいを割いて,日本語教育関連法案という形で,教育内容の質の保障も含めて,教員養成も,しっかりと制度を確立しないといけないと思っています。日本語教育推進会議で出された発表の中にも,キャリアアップにつながる環境作りだとか日本語教育振興のための様々なステップがどうしても踏み出しにくいということがありましたので,まずはしっかりと法整備を行うことが必要ではないかと思っています。これが社会の制度設計に関わる重要なところになってくるかなと思います。
それを踏まえた上で,私たちが提案していることについて,報告書に戻りますが,133ページ,地域日本語教育専門家やコーディネーターに求められる知識・能力ということで,これは既に前に文化庁が,日本語教師はこういう資質や能力が必要だというものに,新たに社会が変わり,環境が変わったことで,資質・能力もより広範囲に求められるようになったので,それを付け加えたり加筆した部分とお考えください。A,B,C,D,E,Fです。ですから,これは,文化庁の日本語教育能力試験の骨格となっている,日本語教師に求められる知識プラス多言語多文化社会に求められる知識・能力が加味されたものだとお考えいただけたらいいかなと思います。
したがって,文化庁にこれから私が期待したいのは,日本語教育能力試験の骨子をお作りになったと同様に,地域の日本語指導力に必要な指導者の養成のためのこのような知識・能力をまとめることによって,制度の設計に更に時間を割いていただけたらと思っております。
時間も限られています。最後は,海外は一体どうなっているのかというところは,ダイジェスト版の22ページ,23ページです。字が小さくて申し訳ありません。これが読めない方は報告書を見ていただくと,割と大きな字になっておりますので,こちらを参照していただけたらいいと思いますが,各国で行われている政策をまとめたものです。左からオランダ,ドイツ,アメリカ,オーストラリア,韓国です。そして左側,ここが一番注目していただきたいところですが,公的自国語教育課程及び言語試験の位置付けは一体どうなっているのか,公的自国語教育課程の内容・方法はどうなっているのか,公的自国語教育課程の教師の養成はどうなっているのか,そして,その他というところです。
私たちは,指導力に注目してずっと研究してきましたので,制度設計と同時に,公的自国語教育課程の教師の養成に関して,非常に興味を持っております。時間がありませんので,またオランダ,ドイツ等々御覧いただければよろしいかと思いますが,国によって多様であるということは見て取れます。しかしながら,この並びで日本はどうなのかと言ったときに,オランダから韓国,その次の日本という枠があったときに,我々はどういう書き方ができるのかというところを,是非,1年後にはここのところを充実できるような形で書いていけたらなと思っております。韓国の隣に日本,そして1年後には,さっきの杉戸副主査の話ではありませんが,これが成果物として出てきたらいいかなと思っております。以上です。
○西原主査
よろしいでしょうか。では,日本国際教育支援協会の川端氏にこちらへお移りいただきまして,白地にブルーの冊子を基に御発表をお願いいたします。
○川端一博氏
日本国際教育支援協会の川端と申します。どうぞよろしくお願いします。
私どもの調査研究の資料は,資料6が29ページ,それから,報告書そのものは,白とブルーのこちらの報告書でございます。
私たちが行った調査の大きな枠組みとしましては,岩見委員が御報告されたような,能力を抽出して,それを研修するという方法の全く逆で,どういった評価の観点があり得るのかという仮説を立ててから,それを,実際に地域日本語教育に携わっている方々のところに持っていって,フィードバックを頂いたものをまとめたという形になっております。
資料の30ページにその大枠がありますが,図の中ほどに「開発」とあり,自己点検による評価,生活日本語指導のための「チェックリスト」及び「ポートフォリオ」の開発,これが仮説として立てました評価のツール,2点でございます。そのほか,試験による評価としましては,私どもが実施している「日本語教育能力検定試験」のシラバス改定後の受験者の動向等をまとめたものがあるんですけれども,本日は,自己点検による評価に絞って御説明したいと思います。
チェックリストとポートフォリオというものを試作しまして,それを地域で見ていただいてフィードバックを得たわけですけれども,配布資料6「指導力評価に関するヒアリング資料(公益社団法人国際日本語普及協会,社団法人日本語教育学会,公益財団法人日本国際教育支援協会)」の31ページに,自己点検による評価(チェックリストとポートフォリオ)の目的,それから,関係を示しております。これを使う方というのは,地域日本語教育の登場人物として,まず,学習者,それから,実際に教えていらっしゃる,支援されている日本語教育の支援者,学習支援活動に当たっている方,それから,行政で担当されている方で,なかなかそういう位置付けのできているところは限られていますけれども,主にコーディネーターを想定しています。
チェックリストの目的ですが,教室が自分たちの目的・目標に沿った方法を選んでいるか,目的・目標は達成できているか,そもそも設定した目的・目標は妥当なものなのかなどを,「Plan」,「Do」,「Check」,「Act」のサイクルを通して確認・点検し,課題の発見や解決,教室の改善を支援するという目的で試作しております。
ポートフォリオのほうは,授業計画とその結果,コース計画とその結果を成果として位置付け,過程・思考の明確化を図るというもので,ここで言っているコースと言いますのは,一定期間,開催される日本語教室の単位とお考えください。二つ目の目的が,蓄積した「作品」や「記録」を基に自分自身の考えや行動を見直すことで,自分の陥りやすい思考・行動のパターン,課題を解決したプロセスを知り,成長を促す。三つ目が,成果を他の学習支援者と共有し,互いの成長を促すという目的のツールを試作しております。
二つの関係ですが,チェックリストは教室運営,コース全体の運営を想定しておりますので,その計画,実行,事後評価,そして改善に向けた活動についてのチェック項目です。ポートフォリオは,毎回の教室,それから,一連の開催される教室について,学習支援者自身がみずから点検するといった形になっています。
32ページに参りまして,チェックリストの構成,それから,評価者と評価方法をまとめております。先ほどのチェックリストの四つのステージですけれども,このように定義しています。Planの段階というのは,「生活者としての外国人」に対する日本語学習支援の企画立案・実施準備の段階,Doは,日本語学習支援における日々の取組の段階,それから,Checkですが,学習支援全体の確認,評価,分析,Actは,Checkの結果を踏まえた改善の段階というものです。
この四つのサイクルを通してコース全体を振り返り,改善を図るというものです。それぞれのステージは独立したものではなくて,時系列的にも並んでおりますし,教室を構成する要素としても互いに関連付けられるものです。それから,それぞれのステージには大項目,中項目,小項目というのがあります。
チェックリストの評価者と評価方法ですが,実際に教室で活動を行う「学習支援者」と自治体等の教室運営を行う「事業者」,コーディネーターを想定しているわけですが,その各々が協働で確認しながら,分担しながらチェックを行うというものですので,自らの評価であると同時に,教室と行政をつなぐコミュニケーションのツールとしても使われることを想定して試作しております。
チェックリストの詳細ですが,ここに大きな四つのサイクルの関連性が書かれておりますが,具体的な項目は,報告書の19ページから22ページにございます。割と最初の方で,A3で畳まれているページを開いて見ていただくと,細かな項目を御覧いただけます。細かなことがたくさん書かれておりますが,地域の現場で,これを持って行ったときに最初にお話しすることですが,これはこの段階で確立されたものでは決してありません。地域の事情に合わせて書き換えていただけるように,お考えくださいということで,現場の多様性や独自性によって書き換えられることを前提としております。
Planの段階では,支援を担う人,情報収集,活動場所/教室の確保,活動の内容・方法,カリキュラム,教材,情報共有,情報発信についてチェック項目が並んでおります。
Doの段階は,日々の支援準備,これは教室に向かうに当たって,その日の活動を行うに当たっての準備に関するチェック項目,それから,それが終わった後のチェック項目,そして,それらを蓄積していくためのチェック項目です。
Checkの段階では,一定期間の教室活動,コースが終わった後で,その結果を確認・把握,分析・解釈,情報の整理を行う段階です。
Actでは,改善のためのチェック項目が並んでおります。
これを持って周れたのは全国数か所だったのですが,頂いたフィードバックといたしましては,報告書の86ページ,87ページ辺りにざっくりまとめております。
まず,このようなものを実際に持っていらっしゃるかと伺ったところ,地域でこのような表を用意しているところは一つもありませんでした。このような項目が具体的にあると,もちろんやりやすいですし,面白かったのは,「行政に対して予算要求するときに使えます」とか,後は,教室活動をされている方にとっては,「行政の担当者が替わったときに引き継ぎ資料にも使えます」というフィードバックを頂いております。
先ほどの表の右側の方に――先ほどの表というのは,報告書のチェックリストのことですけれども,チェックをする欄が右側に小さく入っておりまして,表の右から,青いところに白抜きで「確認」,「教」,「コ」というのがありますが,これはコーディネーターが主に見るところで,「教」と書いてあるところは,学習支援に携わる人が主に見るところというものです。
足早で申し訳ありません。次に,ポートフォリオですが,配布資料6「指導力評価に関するヒアリング資料(公益社団法人国際日本語普及協会,社団法人日本語教育学会,公益財団法人日本国際教育支援協会)」の34ページにポートフォリオの構成があります。具体的な記入のシートが,報告書の29ページが表紙になっておりまして,30ページからございます。
ポートフォリオは,「コースを始める前に」,「コースを進めながら」,「コースの後で」,「次のコースに向けて」という四つの段階で記入するシートを試作しました。このうち,「コースを始める前に」,「コースの後で」,「次のコースに向けて」という三つは,一連のコースの前,もしくは後に記入していくシート,それから,「コースを進めながら」の部分は,毎回の教室に向かうに際して,実際に学習支援に当たる方が書く部分です。
具体的には,「コースを始める前に」の部分では,自分のため,学習者のため,お互いのために,教室活動の目的や意義,学習者のニーズやコースのゴール,教室活動の準備や方法について考えるというシートです。報告書の30ページに当たります。
「コースを進めながら」の部分は,毎回の授業の前に,活動の目標,そのための準備について考えます。また,授業の後では,準備段階に考えた予定と比べてどうだったか,学習者はどのような様子だったかを振り返るということを記録していくためのシートです。
「コースの後で」は,授業を重ねてコースを終了した後で,コースの開始前に考えたこと,コース中の自分や学習者の様子を振り返るといったパートです。
「次のコースに向けて」のパートは,日々の取組の振り返り,コース全体の振り返りを次のコースに生かすため,自分のこと,コースのことについて,関係者間で共有するということを記入していくパートです。
これは最初にも申し上げましたけれども,学習支援者自身が記録して,活動で活用したリソース等,例えば自作の教材とかそういったことも含めて,これに差し込んで記録・蓄積していくということです。さらには,一緒に学習支援に関わっている方々とその情報を共有して,お互いの向上を目指すということを意図して試作しております。
これも地域でお話を伺ったところ,このような活動自体は,もちろんやっていらっしゃるところが大多数で,授業が終わったごとにお茶を飲みながら,今日はどうだったとか,あの説明はうまくいかなかったとか,そのようなお話をしてくださっているんですが,なかなか書式を使ってそのようなことはやっていません。ましてや,それを共有できるような,もしくは次の年度,次の教室に引き継いでいくような仕組みはできていないというところがほとんどでしたので,このようなものがあれば,自分も付けやすいということでした。記録にも載せやすいし,残しやすいということです。それから,仲間とも共有しやすいというようなフィードバックを得ております。最初に見ていただいた報告書のチェックリストのポートフォリオ案は,そのようなフィードバックを得て,ここはもう少し直した方がいいというようなことも反映されたものです。
実際にどのような使われ方をされたかと言うと,報告書の93ページに,ポートフォリオの記入の実例があります。これは,ある地域の教室の方に実際に書いていただいたものですが,「コースを始める前に」のところは,実際にコースを始める前に書いていただいたものではなくて,真っただ中のところで書いていただいているので,ちょっと思い出して書いてくださるようなことを頼んだのですが,「コースを進めながら」のところは,学習支援活動が終わった直後に書いていただいたので,非常に生々しい,記憶が新しいところで書いていただいております。
例えば94ページの,「今回の活動の予定を立てましょう。また授業の後で振り返りましょう」の部分なんかは,このぐらいの大ざっぱな使われ方ももちろんあるのではないかということを想定していたのですが,このように書いてくださっているのは,例えば予定のところは,「今日は大ざっぱにこんなことをやろうと思っていました。」という感じです。右側の結果の部分で矢印が書いてありますが,これは,時間配分がこのようにずれてしまったけれども,どこでどうすれば,もう少し時間配分がうまくいったのかということを,その場で内省してくださっている姿も拝見することができました。具体的な使用イメージがこちらでも思い描けた一瞬でもありました。
あと,細かいところは,配布資料6「指導力評価に関するヒアリング資料(公益社団法人国際日本語普及協会,社団法人日本語教育学会,公益財団法人日本国際教育支援協会)」には日本語教育能力検定試験の概要を御参考に付けております。報告書の内容は御覧いただければと思うのですが,先ほどの日本語教育学会の調査研究について伊東委員が報告されていましたが,その報告書の中に,地域日本語教育専門家の知識の量を測るところでは,この日本語教育能力検定試験の名前も挙げられておりましたが,具体的には,37ページにあるような五つの区分に分かれている試験でして,38,39ページには出題範囲,問われる知識の項目が載っております。
このシラバス自体は,文化庁の協力者会議で作られたシラバスで,教員養成のためのシラバスにのっとっているものですが,平成22年度に,私どもの協会の中で委員会を立ち上げまして,出題範囲の中で太字になっている部分があります。この部分を基礎項目として新たに抽出するという作業を行って,この部分を優先的に出題するというように試験のやり方を一部改定しております。
シラバスの全体像が教員養成の内容として出されたときに,このシラバス全体というのは基礎から応用に至る教育内容であるということが報告書には書かれておりまして,それぞれの学習ニーズによって,求められる教育能力というのは変わってくるはずですので,この中から必要なものが選ばれて,それぞれの現場で教員養成がなされているわけですけれども,私どもの試験の場合は,基礎的な能力が水準に達しているかどうかをはかることとしておりますので,多様な現場のどこに行っても,最低限必要となる項目はどれかということで抽出したというのが太字の項目でございます。御参考までに御覧いただければと思います。以上でございます。
○西原主査
ありがとうございました。
このような研究が,既に行われております。この三つに限らず,指導能力というようなことに関する先行研究を参考にしながら,今期の課題に取り組んでいくということになろうかと思いますし,そのことがどの程度,私たちをサポートしてくれるかということは,審議の過程で決まってくると考えます。
それぞれ関わった委員もいらっしゃることですし,サポート情報と言いますか,補足するようなことがございますでしょうか。又は,今の御発表者に対して,御質問がありますでしょうか。
○金田委員
岩見委員が御発表された公益社団法人国際日本語普及協会の調査についてお伺いしたいのですが,指導力を抽出するために,現職の方々に対して,いろいろお話を伺ったということが中心ですよね。
○岩見委員
それから,ワークショップを行って,それに対しての自分のビリーフと新しい枠組みですね。どこまで学びやすく,学びにくいかということを調査しました。
○金田委員
そのときに,例えば日本語教育学会の調査研究の場合ですと,従来の日本語教師に必要とされる資質・能力に加えてこのようなものという考え方でまとめたと思うんですが,こちらの調査の場合に,要は,既に持っているものは抽出されたのかどうかということなんです。ここに上がっているものが,地域の日本語教育に関わる人材にはプラスアルファで必要なものという感覚でまとめられているのかどうかということについて,教えていただきたいと思います。
○岩見委員
最後のリストとか6章のリストに載っているのは,社会型日本語教育を進める上で,指導者,コーディネーターに求められる能力ということで,社会型日本語教育そのものは,従来の日本語教育の中でもやってこられたので,そういうところにおいては重なる部分があって,それも抽出してあります。
それからプラス,先ほど少し触れた,外とのつながりをコーディネートするとか,人とのつながりをコーディネートするとか,幾つか新しいものも加えています。それから,社会型日本語教育に必要な指導力,キャンドゥーということでまとめたものですが,その中には,従来から言われてきている社会型日本語教育,従来と言いましても,そんな昔の構造発明など,それは除いて,あくまで社会型日本語教育という範疇に必要な能力というものを出して,そこには従来のものもあるし,新たに地域の日本語教育として特有な力,最も必要な力というものも加えています。そういう捉え方です。
○金田委員
それで,恐らくこれから先の議論になっていくのかなと思うんですけれども,どうしても,私自身が関わった調査の中でもそうなんですが,新しいものとか,あるいは能力,パフォーマンスベースで物を考えていくというような感じで調査などを行っていくと,核になるというか,基礎の部分――それを基礎というかどうか,又議論もあると思うんですけれども,要は,例えば日本語に関しての知識とか,あるいは日本語に関する分析の能力,これは,私は別に文法のどうのこうのとか言っているわけではありません。もう少し広い意味で,日本語を分析する力と言っているつもりなんですけれども,そのようなものがどうしても出にくくなってしまって,でも,実際は現場に立つと,その部分は当然,求められる可能性があるわけなんですよね。
例えば,標準的なカリキュラム案をいざ実践しようというときに,あれはもちろん文法構造でまとめられているものでは全くないんですけれども,ある場面のあるパフォーマンスをしようということになったときには,やはりそれを分析する力というのがない限りは,方法として非常にまずいやり方をしてしまう可能性は当然出てくるだろうと思います。あるいは,学習者が何かにつまずいてしまった場合に,それが一体何によるものなのかということを考えるときに,日本語の分析能力というのは一つの視点にはなるだろうなと思うんですが,それから,どうしてもここしばらくの調査研究の中では,それは当然のこととして捉えられているのかなとも思うんですが,そこのところがあまり明示的に項目として上がってきにくくなってしまっているので,それは注意をしていかないといけないかなと思っているということです。
○岩見委員
確かに,対話中心の活動といっても,対話中心だけでは,それは特に,端的に中級とか上級の力を付けられないだろうとか,相手によりますけれども,構造的なものを押さえて,途中でそういう時間を設けたりすることも必要じゃないかということは,教師の内省の中でも現れてきています。なかなかここには,当然のこととして入れてはいないですね。
○西原主査
既に日本語教育小委員会及びワーキンググループのお仕事が始まっているという感じでお聞きしておりました。非常に心強い御発表を頂き,これがベースになることとして始められると思いますけれども,今日の御発表に関して,何かございますでしょうか。
○春原委員
伊東委員にお伺いいたします。日本語教育学会で取り上げている5か国と言いますか,これが今,現実どうなっているのということが,やはりすごく重要だと思います。これは毎年変わりますよね。オランダなんかも大きく変わってきていますし,そうすると,毎年変わるのをどのように反映していけるのかということがあります。あと,この他に,例えばカナダはどうなのかとか,イスラエルは,シンガポールは,中国の中の香港はどうなのか。ほかにもいろいろな試みをやっているところがありますよね。
そのようなのが,今度は,これが時間軸でどのようにリニューアルされていくのかというのと,他の先進事例というのは,どこに行ったらどのように検索できるかということがあります。先ほど,伊東委員が最後に言った,韓国の次に日本が来た場合にというのは,幾つか事実記述で書けるところは既にあるし,なしみたいなところもあると思うんだけれども,その辺りの,この表のこれからの成長予測というのはどうなんでしょうか。
○伊東委員
成長しませんね。もうミッションは終わりましたので。ただ,もしそのようなことであれば,新たにワークフォース,タスクフォースを立ち上げなければいけないということです。
○西原主査
これからは,文化庁国語課の専門官及び専門職の方々に,それはコミッションするということになりますでしょうか。
○伊東委員
ということでお願いしましょうか。
○春原委員
分かりました。
○西原主査
覚悟されよということかと思いますけれども,ただ,そのようなことは資料としていつもリニューアルされていくということが,この仕事にとって大切だという御指摘と受け取りました。それでよろしゅうございますか。
では,本日,このような形で始まりましたけれども,今後も続くということでございますので,どうぞよろしくお願いいたします。
本日の議事はこれで終了とさせていただきます。どうも御協力ありがとうございました。
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