電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議(第2回)議事録

1.日時 :
平成22年12月17日(金)  13:00〜15:00
2.場所 :
文部科学省旧庁舎6階講堂
3.議題 :
  1. (1)デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方について
    (図書館関係者からのヒアリング)
    1. [1]国立国会図書館の取組について
      (国立国会図書館総務部企画課長 田中久徳構成員)
    2. [2]公共図書館の取組について
      (夙川学院短期大学 湯浅俊彦特任准教授)
    3. [3]学術関連情報の配信について
      (武蔵野大学 小西和信教授)
  2. (2)その他
4.出席者(敬称略)
糸賀雅児,大渕哲也,片寄聰,金原優,里中満智子,渋谷達紀,杉本重雄,瀬尾太一,田中久徳,常世田良,中村伊知哉,別所直哉,前田哲男,牧野二郎,三田誠広

13:02 開会

【渋谷座長】 
それでは,ただ今から「電子書籍の利用と流通の円滑化に関する検討会議」第2回を開催いたします。本日は御多忙の中御出席いただきまして,誠にありがとうございました。
議事に入る前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいております。公開に特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【渋谷座長】
それでは,本日の会議は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことにいたします。
それでは,まず事務局から配付資料の確認をお願いいたします。
【鈴木著作権課課長補佐】
それでは,配付資料の確認をさせていただきます。
議事次第の下半分に書いてありますが,資料1といたしまして,「国立国会図書館における取組と課題」,ステープラ止めをしております資料です。資料2といたしまして,「公共図書館における電子書籍の利用の現状と課題」といった資料です。資料3は,「日本における学術情報流通の現況と電子書籍」と題しました資料でございます。
そして,参考資料1−1としまして,総務省平成22年度「新ICT利活用サービス創出支援事業」委託先となっております。そして,参考資料1−2が採択案件概要一覧の資料でございます。そして,参考資料2が経済産業省における電子出版に関する取組,参考資料3としまして,本検討委員会の構成員名簿となっております。参考資料1と2でございますけれども,前回の会議で総務省などの取組状況についてというところでのお話もございましたので,今回,総務省,経済産業省の現在の取組状況に関しましての資料を配付させていただきました。参考にまでに御覧いただければと思います。
配付資料につきましては以上です。過不足等ございましたら,お申しつけください。
【渋谷座長】
よろしゅうございましょうか。
どうもありがとうございました。
それでは,これから議事に入ることにいたしますけれども,本日は,議事次第にもありますように,図書館関係者からのヒアリングを行うことにしております。
まずヒアリングの進め方について事務局から説明をお願いいたします。
【鈴木著作権課課長補佐】
本日のヒアリングの進め方でございます。議事次第を御覧いただければと思いますが,本日は,国立国会図書館の取組,そして,公共図書館の取組,学術関連情報の配信についてという三点につきまして,国立国会図書館の企画課長であります田中久徳構成員,そして,夙川学院短期大学の湯浅特任准教授,そして,武蔵野大学の小西教授にそれぞれ御説明を頂きたいと思っております。それぞれの御説明の時間は20分程度でお願いしたいと考えております。それぞれの方の説明が終わった後,10分程度の意見交換を考えております。それぞれの説明と意見交換が終わった後,最後にまた,本日の議題であります図書館と公共サービスの在り方の観点につきまして,全体的な討議,意見交換を25分程度行えればと思っております。
このような形で進めればと考えております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
できるだけ事務局の提案のように進めてまいりたいと思います。
それでは,早速ですが,まず田中構成員より,国立国会図書館における取組について御説明を頂きたいと思います。よろしくお願いします。
【田中構成員】
国立国会図書館の田中でございます。本日はお時間を頂きありがとうございます。私の方からは,国立国会図書館における現在の取組と,それに関連しまして,どのような課題があるかということにつきまして,簡単に御説明をさせていただきたいと思います。
お手元の資料の1枚目でございますけれども,国立国会図書館の現在の取組状況ということで,本日のテーマに関係するものといたしましては二つ掲げております。一つが,これまで出版された過去の出版物のデジタル化を進めていくという部分,それから,今後増えていくであろう電子形態での書籍・出版物につきまして,オンラインで流通している電子出版物を国立図書館としてどのように収集していくかという課題の二つということでございます。
ページを1枚めくっていただきまして,まず大規模の資料デジタル化の状況について御説明をさせていただきます。3枚目のスライドのところでございますけれども,昨年と,それから今年度もそうなんですけれども,補正予算によりまして,過去のデータ出版物ですね,書籍・雑誌等のデジタル化についてかなりの規模の予算を認めていただいております。
組立てとしましては,やることが変わるというのではないんですが,その後の利用の仕方の位置付けとしまして,大きくは二つのカテゴリーに分けて進めているところでございます。一つは,現時点で公共的なアーカイブの枠組みの中に入る部分というふうに私どもはとらえて,電子図書館という形態のサービスの位置付けで進めていきたいと考えているところで,戦前期までに刊行された書籍と,古典籍,江戸時代以前の資料,出版物ですね,それから官報,学位論文,こういったところのグループ。それから,利活用という意味では,とりあえず保存を目的としまして,媒体をデジタル画像という形で変換して,原本そのものを利用しないで保存しておくという位置付けで進めている部分という,二つがございます。
こちらの[2]のグループとしましては戦後の図書ですね。ここが1968年までに国会図書館で受け入れたところを現在対象にしております。それから,雑誌,資料,これは戦前のものを中心に,その後,戦後については,私どもがつくっております雑誌記事索引というところに採録された雑誌を主な対象としまして,こちらの方を進めているところでございます。
4枚目のところに,資料群別と刊行年代で整理したものを掲げております。一番上が古典籍で江戸期の資料ですね。こちらが5万8,000冊というところです。その次がいわゆる単行書の部分ですけれども,ちょっと色の薄い明治・大正の17万冊とあるところは,ここは現に権利状況を確認して,著作権が切れたもの,それから,一部ですが,権利者の方からインターネットでの提供の許諾を頂いたというところでは,現時点でインターネットで提供させていただいているものが17万冊ございます。
そのあと,薄い色のついたところですね,戦前期間のところで,昭和前期刊行図書33万2,000冊という部分が現在デジタル化の作業を進めているところです。これは私どもで[1]のグループと考えているところになります。その後,戦後の部分,1945年から68年までのところが31万冊ほどございます。その他雑誌,博士論文,官報等ということで,今回の補正予算の執行が終わった時点では大体89万冊が終わるという見込みで,国内の刊行図書の部分でいきますと,全部で400万冊ぐらい,複本と言いまして,同じものを重複しないで数えた場合400万冊ぐらい対象がございますので,その5分の1程度が終了するという見込みでございます。
資料をめくっていただきまして,5ページ目のところに各資料群別の詳細を書いております。細かくは,このようなカテゴリー別に見ますと,戦前期の図書,戦後期の図書,国内の戦前期の雑誌,戦後期の雑誌,古典籍資料,児童書,博士論文,官報ということで,こういった量のものを今進めているというところでございます。
それから,このデジタル化のやり方でございますけれども,基本的にこれまで資料の保存ということでマイクロフィルムをつくってきている部分が,古いところ,戦前期の資料についてはかなりございますので,この場合にはマイクロフィルムからデジタルスキャニングをして画像データをつくるということで,その場合,フィルム自体は白黒で撮影しておりますので,グレイスケールということでこれをデジタル化しております。ですから,仮にもともとの資料がカラーであったとしましても,撮影の時点でいったん白黒になっておりますので,カラーの状態ではないということです。
それから,これまでマイクロフィルムをつくってこなかったところにつきましては,原本から直接デジタルスキャニングをしております。ここは今はカラーで,24ビットフルカラーということで,資料を破損しないようにオーバーヘッド方式のスキャナーを使いまして,撮影をしているところです。その他,別途,本の目次情報につきましては,これを入力しまして,検索のインデックスキーとするというようことを,共通仕様としてつくっております。
まためくっていただきまして,7ページ目でございますが,私どもは,戦前期までの資料につきましては,電子図書館という枠組みで許諾をいただけた範囲につきましては,インターネットでも利用できるようにしているところでございます。このサービスは「近代デジタルライブラリー事業」という名前で呼んでおりまして,現時点では39万冊。これまでデジタルスキャニングが終わったものを順次追加してきておりまして,今日現在ということでございますが,39万冊ほど集録しております。このうち,インターネット上で利用できるようなものは17万冊です。この差の22万冊は,国会図書館の方に御来館いただいて,館内の端末から見ていただけるという状態になっております。
本文の利用につきましては,画像データでの利用ということで,本文の検索等はできません。それから,先ほど申しましたように,内容についての検索は,本の目次を別途入力してありますので,本の目次でヒットしますと,該当のページのところまでは分かるというような補助は現時点ではしております。
全体の区別というところでは,8ページですが,私どもは全体としましては原本を保存すると,納本図書館として出版物を残していくということでデジタル化をしておりますが,そのうち権利者の許諾をいただけたものについては,電子図書館のサービスとしてインターネットでも提供すると。現時点ではこの部分は戦前期のものまでに限定してここを進めるという枠組みになっております。
9ページ目でございますけれども,原本保存のためのデジタル化というのは,昨年の著作権法改正によりまして,国立国会図書館においては所蔵資料を納本後直ちに電子化できるというような法改正がなされたということで,これまでは資料が劣化・損傷している場合に限定して複製が,国会図書館に限らず全(すべ)ての図書館で認められていたわけですけれども,国立国会図書館に限っては,納本制度という関係から,後世まで文化遺産として資料を残していくという観点で,本が傷む前に必要があれば電子化することができるということになったわけです。
この利用につきましては,法律上は複製が認められているんですけれども,その利用については必要と認められる限度においてという法律の規定でございますので,具体的に利害関係者の皆様の利益侵害が起こってはいけないということで,その条件等は厳格に決めるということで,私どもは関係者の皆様と協議を行わせていただいて,現時点でのルールを決めてきているところです。
次に11ページ目ですが,今後の利活用についての課題としてどのようなことを考えていくかということでございます。私たちの立場としましては,基本的に知的資源に対して国民のアクセスをできるだけ拡大していきたい,出版物は時代がたたなくても基本的に公共財ということでできる限り広く利活用できると,それが知的活動の基盤であるということでございますので,できるだけアクセスできるようにしていきたいということが大目的になります。
その上で,どのように利害の調整を図っていくかということでございますけれども,一つが,これまでもそうなんですが,国立国会図書館法におきましても,国立国会図書館から全国の公共図書館あるいは大学図書館等へ,本の相互貸借という形で原本そのものを基本的には,それぞれのリクエストのあった公共図書館等へ貸出しをするという仕組みがございます。これは,既に入手できなくなった資料を広くその利用・アクセスを保障するという制度目的でつくられている仕組みですけれども,保存のためにデジタル化した場合に,原本に代わってデジタルデータをリクエストのある公共図書館や大学図書館に送信できるかと言いますと,そこは公衆送信の権利制限の規定はございませんので,そういった使い方はできないと,個別に許諾を頂かない限りはそのような利活用はできないということですので,その辺りがまずひとつ実現するすべがないかというのが私どもの課題として認識している部分でございます。
もう一つが,今,画像形式でデジタルデータを進めておりますが,検索できるような本文がテキスト形式のデータというのは現時点ではつくっていないと。一つは,技術的な問題,費用の問題もございますけれども,商業的に利用されている部分につきましては,国会図書館で全文が検索できるようになった場合,商業出版社の皆様にとっては,その使われ方いかんでは本を買わなくても済んでしまうような事態も考えられ得るので,そこは慎重に検討を続けるべきだというのが,現時点での協議の状況になっておりますので,どういった形で検索できるようなデジタルデータを整備できるのかというところが二つ目の課題になっております。
それから,三つ目が,基本的には公共図書館等への限定配信の問題はありますけれども,国会図書館に来館しないと権利のあるものは全(すべ)て利用できないというのが現在の状況でございますので,そこについて,既に市場では入手できなくなったものも含めて,遠隔地からそれを利用していただくような方策ができないかというのが大きな課題になっております。その場合は全(すべ)てが無料でというわけには当然いかない部分もあると思いますので,どのようなルール,仕組みがあるかというのが大きな課題ということになります。方向としましては,民間のビジネスと共存し得るような形で,これまでの膨大な出版物の蓄積資源を利用できるような環境整備,あるいは,利害調整を進めていく必要があるというのが私どもの認識であります。
12ページのところに,そのための課題を国会図書館として認識している範囲で記述させていただいております。出版物の権利の状況に応じたルールを整備していくこと。権利の状態ですとか,市場で入手できるようになっているかどうか,あるいは,商業配信が行われているかどうか,そういった状態によりまして,どのようなルールが考えられるのかというのが一つあるかと思います。
それから,過去の出版物は権利の状況が分からないということで,利用が妨げられているというところがございますので,そういったところの円滑な,更に間接費用のかからない形でどのような利用基盤,権利処理ができるかというところが大きな課題となっております。
それから,先ほど言いましたように,本文の検索というのは書籍あるいは出版物を使う上で非常に重要な部分ですが,そこについて公共的なサービスとして検索サービスをどこまで整備できるかということがあると思います。更に,今後,公共図書館,大学図書館も含めまして,電子書籍をどのように使っていくかというところで,費用負担のルール,契約の仕方といったところが整備されてくることが,国会図書館の過去の出版物のデジタルデータを利用する上でも非常に重要な課題となってくるというふうに認識しております。
その次,13ページと14ページのところは,現在,出版社さんの御協力を頂いて,全文テキスト検索をするという意味で,画像から全文のテキストデータをつくるのにどういう技術課題があるか,あるいは,検索をする上で,また利活用する上で,どういう課題があるかということを検証するという実験を今年度させていただいているところであります。
その次,15ページ目ですけれども,オンライン資料の収集ということですが,これにつきましては,昨年,納本制度審議会という,国会図書館で運用しております納本制度に関して,館長の諮問機関としてこういう審議会を置いておりますが,ここの場で民間で発行されるオンライン資料をどのように制度的に集めていくかという検討を行いまして,今年の6月にその答申が出ております。
そこで,従来の図書や逐次刊行物に相当するオンラインの資料を国会図書館が複製して保存し,利用に供する仕組みを検討すべきという答申を頂いておりますが,16ページにありますように,どういう条件でどういったものを集めていくかと。そして,それを保存して,更にどのようなルールで利用できるようにするかという,いろいろな課題が今後考えられるということで,その中でも収集ファイルのフォーマットをどうするか,あるいは,DRM等の権利保護手段が基本的についていますので,そういったものをどのように扱うか,いろいろな課題があるところでございます。
簡単ではございますけれども,御報告は以上でございます。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは,ただ今の御説明につきまして,御質問,御意見がありましたら,どうか御発言ください。時間は10分程度予定をしております。
はい,どうぞ。
【瀬尾構成員】
質問させていただきたいんですが,群で分けた中で戦前,戦後とか分かれていますよね。あの中で児童書だけ別になっていますよね。児童書に関しては期限がついていませんよね。これはどういうふうな理由,ほかと分け方が違うなと思ったので,これをどうしてこういうふうに分けているのかをまずお伺いしたいなと思うんですが,いかがでしょう。
【田中構成員】
今,戦前のところと戦後のところで一つの線を引いておりますのは,戦前までの出版物というのは,旧仮名,旧活字という形で表記されておりまして。もちろん同じ中身の著作物が別の形で現在も出版されているものはたくさんあると思いますけれども,今,国会図書館で所蔵している戦前期のものは旧仮名,旧活字ですので,それを公開していっても商業出版との摩擦は大きくないだろうという判断の下で一つ線を引いているんですが,児童書に関しましては,国際子ども図書館が設立されることに並行して,児童書そのものが世の中で広く消耗されてしまって,なかなか保存されていないというところで,十数年前ですけれども,電子図書館の事業として,国会図書館が持っている児童書を,その時点では昭和30年というところで線を引いているんですが,そこまで一気にデジタル化を進めたという経緯がございます。
その後,新しいところにどんどん進めてきているというのではないんですけれども,そういった経緯で,まず国際子ども図書館での児童書というのは,先に電子図書館の構想があって,そういう塊として昭和30年まで,その時の予算的なところもありまして,まず実態として複製を進めたという経緯があるものですから,そこのところがほかの一般書としては境が変わってしまっているところでございます。
【渋谷座長】
ありがとうございます。
他(ほか)にどなたか。はい,どうぞ。
【前田構成員】
全文テキスト化は必ずしも網羅的に進めているわけではなくて,実験的に一部進めているだけであるという御説明を頂いたかと思います。また,その理由の中で,一つとしてはテキスト化には手間がかかるということと,もう一つには出版社との利益の調整を図る必要があるという,二つの理由の御説明があったかと思いますが,それはどちらが中心的な理由なのでしょうか。
と申しますのは,私の理解では,電子化をする以上はテキスト化がないと,その利便性のかなりの部分が失われてしまうというふうに思いますので,電子化をする以上はテキスト化が必然的に伴うべきではないかと思うのですが,それが必ずしも全面的に進められていないとすると,その中心的な理由は何かということを教えていただければと思います。
【田中構成員】
二つの理由を挙げさせていただいたんですが,状況から言いますと,一つは,出版社様と民間でまだ出版されているものにつきましては,基本的にこれまでの,先ほど申しました関係者との協議の場において,国会図書館でのデジタル化方式は当面,画像として,そこからどのように検索できるようなデータを整備するかというところについては,検索してピンポイントである場所を特定して,そこだけを図書館で複写するというような使われ方が仮にあったとしますと,その本を買わなくても済んでしまうということは考えられると。資料のジャンルや内容によっても大分違うと思いますが,そういったこともあるので,その影響等を踏まえて進めるというのが現時点の合意ですので,そういう意味では関係者との利害協議がまだ協議途上であるというのが実態として進めていない大きな理由にあります。
ただ,それ以上に,それ以上というとお答えにならなくなってしまうのですが,費用的にも,日本語の場合,OCRでの認識等を,精度を高めていくことが非常に費用がかさむ。OCR処理をすることに費用がかかるのではなくて,校正を,九十何パーセントでも,間違いが必ず1ページに何十もあるという状況ですので,そのような形で利用するというのはいろんな問題が,同一性保持の問題等含めて非常に課題が多く残っているところですので,完全な形でのテキストデータを整備する,それも字の表記等も含めて整備するということは,いろいろな技術的な面も含めてまだ課題が解決していないところもございますので,そういったことを含めて今年度実証実験をやっているという状況でございます。
【渋谷座長】
何か追加の御意見があれば。
【前田構成員】
補足でお尋ねできればと思うのですが。まず,テキスト化は現行法の下でも,昨年の改正によってテキスト化も含めて法律上はできるようになっているという理解でよろしいかということが一点と,もう一点は,OCRをかけて間違いが生じるということは当然あり得ると思うんですけれども,その間違いが生じてしまったら,同一性保持権との関係で問題が生じるというご認識でいらっしゃるということでしょうか。
【田中構成員】
いずれも確定的なことというふうにはお答えしづらいんですけれども,一つ目は,私どもは,昨年度の法改正によりまして,複製の手段については法律で何も規定されておりませんので,必要と認められるという範囲であれば,デジタル化ということの複製手段としては,画像であれテキストデータ化であれ,それは可能であると認識しております。
それから,仮にOCRで誤認識があったということが,直ちにそれをもって同一性保持の侵害というのにつながるということではないというふうにも思っておりますが,その可能性もある,場合によってはそういうことも起こり得るので,不完全なものが流布するということには慎重でなければいけない,使用目的等にもよると思いますけれども,そういう認識でおります。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは,糸賀先生。
【糸賀構成員】
それでは,手短に,二点なんですけれども。今日配られたスライド仕様の11枚目,スライドの11コマ目というべきかもしれませんが。今後,デジタル化されたものを国内の利用者に対してどういうふうに使わせるかという話で,先ほどこれの特に[3]で遠隔地での利用モデルは,有償の方向を含めて検討するんだというお話でした。逆にいうと,現状で紙媒体の場合に費用の負担,コストの負担というのはどうやっているのかということをお尋ねしたいと思います。それが一つ。
もう一点は,15枚目の方になります。オンライン資料の制度的収集,これはいわゆる電子納本のことなんですけれども,実際にはこれはまだ法の整備がされていなくて,電子納本制度が始まっていないということでよろしいわけですよね。今年の6月に納本制度審議会の答申が出されたけれども,まだ実際には始まっていない。これはいつごろから,ここに書いてあるような納本制度,現状の納本制度とは別の規程を整備されて収集する予定なのか。特に,誤解もあるので,現状の納本制度で果たしてどの程度納本されているのかお尋ねします。国会図書館としてどの程度の数字を把握されているのか。つまり,これは罰則規程がないものですから,実際には納本しなくても,大きな問題は出版する側(がわ)には起きていない。
ただし,国会図書館の『全国書誌』に掲載されることで多くの人に見てもらえる可能性があるのでみんな納本するわけなんですが,特に電子納本になった場合に,電子納本することへのインセンティブがどういうふうに用意されているのか。それによって納本率も変わってきてしまうと思うんですね。そこら辺りも含めて今回規程を整備されるんだろうと思いますが,それがいつごろ,どういう内容になるのかを,分かっている範囲で教えていただきたいと思います。
【田中構成員】
最初の御質問ですが,紙のもので遠隔地でというのは,現状,図書館からの貸出しというところでは送料見合いのところは,それぞれ送り出す側(がわ)が送料を負担するというルールで現物の貸借をやっております。あと,遠隔地でというのは,紙のものについては,現状ですね,私どもは直接来館していただくしか利用方法がありませんので,当然そこには費用がかからないということになります。
【糸賀構成員】
いえ,相互貸借の場合です。
【田中構成員】
あ,相互貸借は,費用負担のルールは郵送料のみを,私どもが送り出す場合には送料を負担して送り出して,返却していただく際には返却側の図書館の方に費用負担をお願いしているというのが現状の基本的なやり方であります。
【糸賀構成員】
その場合,図書館が負担するのか,利用者本人が負担するかの問題。
【田中構成員】
その場合,恐らく先方では,それぞれの図書館の方で費用を持っていらっしゃって,エンドユーザーにはお金を頂かないという形が通例であろうと思います。
それから,オンラインのところですが,一つは,自治体のものにつきましては,もう既に今年の4月からいわゆるインターネットのWebサイトも含めて収集するという仕組みは動いているんですが,それと別に民間のオンラインで出ている電子形態の資料につきましての整備ということで,こちらは平成24年,再来年の法改正というところで準備を進めていきたいと考えているところであります。
【渋谷座長】
次は納本制度ですよね。
【糸賀構成員】
現状で納本率はどのくらい……。
【渋谷座長】
ちょっとお待ちください。
今日はヒアリングということで,あとお二方にお願いしております。かつ,お三方終わった後に少し時間をとっておりますので,糸賀先生,残りの25分の時にお答えを頂くと。
【糸賀構成員】
はい,分かりました。
【渋谷座長】
それから,三田構成員もそのように運ばせていただきたいんですけれども……。
【三田構成員】
ちょっとだけ言わせてください。今言わないと忘れてしまいそうなので。
【渋谷座長】
そうですが,では,1分でお願いいたします。
【三田構成員】
今,前田先生から解析ソフトによってテキストデータ化できるのではないかという御意見があったんですけれども,私はできないというふうに思っております。戦前から1968年までの書物というのは旧字を使ったものや異体字を使ったものが大変ありまして,これをそっくり解析することは不可能であります。ですから,私は,将来的も解析したものは裏データとして検索のために利用するということで,解析したものが表に見えるような形には絶対にしてはならないというふうに考えております。
以上です。
【渋谷座長】
ありがとうございました。
それでは,多少強引でありますけれども,先へ進めさせていただきます。
続きまして,湯浅様より,公共図書館における取組について御説明を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。
【夙川学院短期大学湯浅特任准教授】
ただ今御紹介いただきました夙川学院短期大学の湯浅です。前のところに少し写真などもお見せしようと思って持ってきたんですが,画面が小さいので余り分からないかもしれません。
私は,1978年から2007年まで書店に勤務しておりまして,2007年4月から夙川学院短大で司書課程を担当しています。出版学会の理事,あるいは,三田誠広さんと一緒なのですけれども,ペンクラブの会員でありまして,言論表現委員会の副委員長というのをしております。
日本図書館協会では,出版流通研究委員会の委員をしておりまして,先ほど国立国会図書館の田中さんがお話になりましたけれども,電子書籍調査研究委員会というのがまずあって,その後に,2009年に納本制度審議会の委員をしたわけですけれども,6月7日の電子納本制度の導入を求める答申をした時の一員であります。
この電子書籍の流通・利用・保存に関する調査研究の時には,出版社,それからコンテンツプロバイダー,あるいは,図書館のアンケートですね,国会図書館職員へのアンケートとか様々なことを行いまして,昨年3月9日にこの調査研究報告書が出たわけです。
私はここで公共図書館のお話をするということなんですけれども,あちこちの公共図書館へ行きまして,公共図書館における電子書籍の実態などについても最近いろいろ調べているということで,この役回りが回ってきたと思います。公共図書館は,図書館法によりまして,例えば第3条「図書館は図書館資料を収集し,一般公衆の利用に供する」ということなんですけれども,この時に図書だけではなく,郷土資料,地方行政資料,美術品,レコード及びフィルムの収集にも十分留意してというふうになっております。そしてまた,新たに,電磁的記録ですね,電子的方式,磁気的方式,その他人の知覚によっては認識することができない方式でつくられた記録,こういうものも含むということになっています。
そして,「図書館の自由宣言」にも,全(すべ)ての国民は,いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有すると。この権利を社会的に保障することは,すなわち知る自由を保障することであって,ここに図書館はこの責任を負う機関であるというふうに位置付けられています。
具体的に図書館の仕事というのは,利用者を知る,資料を知る,そして,利用者と資料を結びつけると,究極この三つになるわけですけれども,ここで利用者が変化した,すなわち従来のように紙の本を借りて返すというようなことだけではなくて,いわゆるそういった文化教養型の図書館から,課題解決型の図書館,例えばビジネスに関すること,あるいは,子育てや様々な課題があったと。それを自分で解決する目的で図書館に来るというような利用者の変化があります。
また,資料の側(がわ)でも,これまでの図書資料以外にもデータベース,あるいは,ネットワーク系の様々な情報資源というものが出てきた。そこで図書館の仕事も,利用者と資料をどう結び合わせていくかという方法が変化したということになっていきます。従来図書館は,図書を集めているということで図書館だったわけですけれども,17世紀から雑誌,19世紀からはレコード,テープ,フィルムなど紙以外の記録物が出てきて,これも図書館の資料として加えていくことになります。そして,20世紀後半,ネットワーク系の情報資源が出てきますから,「図書の館(やかた)」から図書館は変貌(へんぼう)を迫られるという形になります。
2012年度から図書館司書資格科目の「図書館資料論」という科目が「図書館情報資源概論」に変更になる。そして,図書館員に求められるスキルも,ネットワーク情報資源の取扱い全般になりまして,図書館はまさに情報を取り扱う施設になってきていると。こういう変化があります。
図書館のこれまでの歩みから言いますと,主にこれは館種によって随分異なるわけですけれども,大学図書館においては商用データベース,電子ジャーナル,あるいはeブックというものがごく普通に取り扱われているんですけれども,公共図書館においてはそういう状況には今のところ余りなっていない。例えば,新聞記事データベース,あるいは,ジャパンナレッジのような横断的な検索サービスというものは提供していることが多いですけれども,いわゆる大学図書館における海外のeブックといったものの提供は公共図書館では行われていないという形になります。
一言でいえば二次情報から一次情報に,つまり,今までは書誌ですね,本を探すための目録類をデジタル化して,それをCD−ROM検索したり,その次にはオンライン検索ということで,今までは図書カードというものではなくて,オンラインで検索するOPACという形で,Online Public Access Catalogですね,オンライン閲覧目録という形で検索されるようになりました。
その後,CD−ROMなどの電子出版物が出ますと,パッケージ系の電子出版物を収集する。大学図書館ですと,これをCD−ROMのオートチェンジャーのような形でサーバーに入れておいて,各研究室とか図書館の端末から,例えば広辞苑(こうじえん)を利用するとか,そういう形に展開していきました。
そのほかにも,図書館の所蔵資料をデジタル化する。貴重書であるとか,あるいは紀要であるとか,こういったものをデジタル化して,インターネット公開すると。こういう流れが,大学図書館においては進んできました。
そして,今日問題になっているのが電子書籍やデジタル雑誌等の閲覧,貸出し,保存という状況があります。6月7日,私も参加した納本制度審議会の中では,ネットワーク系の電子出版物ということで,通信等によりということで広く放送等も含むということになりますが,この中の従来で言えば図書,逐次刊行物に相当するものをオンライン出版物というふうに名付けました。また,このオンライン出版物の中で館が収集し図書館資料として取り扱うものを,オンライン資料というふうに定義しました。
国立国会図書館では,1948年から図書・逐次刊行物等その他・伝統的な資料については収集していると。2000年からパッケージ系の電子資料,CD−ROMなどを納本制度によって収集した。そして,今回の答申によって,オンライン系の電子資料,すなわち電子書籍,電子ジャーナル,デジタル雑誌,あるいは,ケータイ小説,こういったものについて収集することになってきたわけですが,Web情報,あるいは,放送番組,音楽配信,動画配信や,メール,ブログ,ツイッター,こういったものについては電子納本制度の中には組み込まないという答申を行いました。
電子出版というものと電子図書館というものの歩みを見ますと,例えば1994年,もう既に京都大学で,これは電子図書館研究会という,現在,国立国会図書館の長尾真館長が始められた私的研究会ですけれども,ここにおいて電子図書館システム「Ariadne」というものがプロトタイプとして動き始めました。この中で既に幾つもの本を参照しながら,ウインドーを開けながらハイパーリンク構造によって,幾つかの本の本文を同時に見ていくというような実験モデルが行われたわけです。
ほかに幾つかの公共図書館の取組があります。例えば,北海道の岩見沢市の図書館では,2002年6月に「岩波文庫」,「東洋文庫」,そして,マンガなど電子書籍の閲覧サービスを市民向けに開始した。この時はイーブックイニシアティブジャパンから電子文庫を一括購入して,図書館内の専用のパソコンで閲覧させると,こういう方式ですけれども,現在このサービスは休止しています。
また,2005年5月には,奈良県の生駒市図書館で,パブリッシングリングと提携しまして,ソニーのLIBRIéを利用者に貸し出して,実際に「Timebook Town」で提供される1300タイトルの作品を読むというサービスが開始された。生駒市の図書館では,電子書籍の利用状況も,この1年間に年代別,それぞれの図書館別,それぞれの分館でも貸出しサービスが行われていましたけれども,こういった利用状況も発表しています。ただ,「Timebook Town」が2009年2月末をもってサービスを中止したために,2008年12月末でこの提供は取りやめています。
ただ,東京大学出版会の538冊の本を,今,見ているのが生駒市の市民センター,「ISTAはばたき」というところなんですけれども,ここの中にある電子図書閲覧サービス,これは専用の端末がありまして,ここの北分館電子図書サービス「こんにちは,ぼく,フクちゃんだよ」とか書いてありますけれども,ここのサービスで。2010年10月に私が行った時には538冊になっていましたが,2007年の9月に行った時には381冊ということで,200冊弱ぐらい電子図書は増えていますが,ここの端末からは東京大学出版会の図書しか見られない。例えば『DNA複製とその制御』の中身を見ますと,本文が見られるわけですけれども,ある出版社のものしか見られないというのはかなり人気のないコンテンツで,今は多分ほとんど利用者がないと思います。
一方,有名なのが2007年11月から千代田区の図書館が始めた「千代田Web図書館」,これはこちらの構成員の方は皆さん御存じだと思いますけれども,4000タイトルを30社から提供という形でスタートして,上限5冊を2週間まで,画面のコピーは印刷できない,2週間の貸出期間がすぎるとパソコン上から自動消滅ということで,利用者カードをつくった人に限定して貸し出すというWeb図書館,これは電子書籍の貸出しサービスが行われているということでありますが,一月平均446件,年間5,471件というのが昨年度の実績です。
特徴的なのは,ちょっと細かくて見えないでしょうけれども,例えばここに新装版TOEICテストイディオム応用編というのがありまして,ここに貸出日,返却日,延長,返却,読むというのがありまして,これを「貸出し」というふうにしますと,貸し出されて,ここにマークシートが出てきます。公共図書館では通常問題集というのは書き込まれるので購入しないんですけれども,電子書籍の場合はこのマークシートのところを埋めていって,この人は間違いばかりですね,○,×,×,×,ほとんど×で,2問ぐらいしか正解していないわけですけれども。これが,返却すると同時に,レイヤー構造になっていまして,ここの部分は,返却されると,次の人が借りたら当然ここは残っていない,また問題が出てくるわけですね。そして,同じ人が同じIDとパスワードを入れて借り出すと,前の続きからまたこの問題を続けていくことができる。こういった特徴があります。
ほかにも,この英語の絵本などは動画,音声読み上げがありまして,アニメ的なものも提供できるということで,例えば英語の初心者,あるいは,視覚障害のある方,あるいは,外国人への多文化サービス,こういったことについても利用していけるのではないというところがあります。
最近あちこちの図書館で電子書籍の配信実験が行われるようになりました。例えば,東京都中央図書館は今,ちょうどやっています。11月22日から12月22日まで,そして,モニターを1,000人募集しまして,著作権保護期間満了したもの,出版社から無償提供を受けた文芸書,資格試験の問題集,こういったもの1000点を対象に大日本印刷の協力で提供するということを始めています。もちろんこれはダウンロードや印刷には制限がかかると。
それから,神戸市の場合ですけれども,灘図書館で「さわっとこ!未来!知っとこ!貴重資料!」という閲覧体験。これは「青空文庫」で提供されている著作権が消滅した文学作品等を公開した電子図書館で,iPad,Kindleで「青空文庫」を閲覧すると。開始15分前までに申し込んで,各回先着6組が,11月28日から12月26日までこういう一つのフェアをやっているということです。
それから,鎌倉市の図書館が「電子書籍プロジェクト」を,12月20日から1月31日までモニター募集して体験させるということをやっていますが,これは総務省の「新ICT利活用サービス」の採択事業の一環ということです。この場合は,図書館,カフェ,自宅のPCで電子書籍を体験できるということですね。
それからもう一つ,こういった事例ではなくて,所蔵資料のデジタル化の一例なんですけれども,兵庫県立図書館では,凸版印刷の「公募提案型重点分野雇用創造事業」というのをやっています。この中で雑誌の郷土資料,これも当然,著作権の保護期間を満了したものをデジタル化する業務を行っています。こういう人たちが実際に本をスキャナーに置きましてスキャニングする。こういう形ですね。これを画像データベースでパソコンに取り込んでいますけれども,こういうことを行いまして,併せて個人情報保護士教育,公文書管理教育,文書情報管理教育ということで,それぞれ資格試験を受けてもらうんです。
だから,研修をしながらデジタル化を行うということで,図書館側のメリットとしては,資料の破損・汚損・紛失ということがありますが,これをデジタル化することによって長期保存する。それから,紙やマイクロフィルムからの保存形態の変更が必要なものについてデジタル化する。それから,デジタル化されることによって,従来マイクロフィルムは非常に取り扱いにくかったんですけれども,これは閲覧手段の利便性が非常に高まる。それから,著作権調査とかいったことも地域人材育成事業の中でやっていくという,一つのこういうモデルが生まれています。
公共図書館では,今も申し上げましたような電子書籍の取扱いだけではなくて,「魔法の図書館」にあるような,そもそもケータイ小説とかいったもので紙になっていないものは集めていなかったというのが現状です。当然,今まであればそういうものだと思われていたんですけれども,政府系の情報にしても統計とか各種報告書が紙媒体にしないという,ボーン・デジタルのままというものが様々出てきました。こうなってきますと,電子出版の時代に全く公共図書館は役に立たないということになってきます。
また,品切れ,絶版本というものが,従来であれば,例えば雑誌に連載されて,単行本になって,文庫化されて,全集や著作集におさまるといった著作が,いきなり文庫や新書で出て,比較的短期間で品切れになってしまう。こういったものについて,出版業界の方でも電子書籍化する動きが顕著になっているわけですし,あるいは,休刊した雑誌の中の記事を電子書籍サイトで読めるようにするとか様々な動きがあります。こういったものについて,図書館でも取り扱っていく必要がどうしても出てくる。
例えば『小田実全集』ですね,2007年に亡くなられた小田実さんの著作を電子書籍として出すということで非常に話題になりました。たまたまこの場合はオンデマンド出版で紙版も出るということだったので,紙版を発注することも可能なわけですけれども,今後,電子版しかでないというような文学全集も当然出てくると思われますし,実際に電子書籍の販売サイト,「AiR エア」とか,あるいは,村上龍さんが最近立ち上げられたサイトとか,こういった電子書籍がボーン・デジタルで出てくるものというのがあります。『小田実全集』の場合は,4倍以上の価格差ですね。紙版で発注すると31万円ほど,電子版だと7万円ほどという差が出てきているわけです。
このように電子書籍が非常に増加していくという時に,保存が全く行われていないという問題があったので,先ほど申し上げたような国会図書館の委嘱を受けて,電子書籍の流通・利用・保存に関する調査研究を行ったんですけれども,これまでの公共図書館というのは,余りにも紙媒体の資料中心に収集,提供,保存を続けてきた。紙媒体になったらやってきなさいという一種偉そうな公共図書館の姿勢があったかと思うんですけれども,そういうことではこれからの公共図書館はなかなか成り立っていかないと思われます。
社会教育施設としての情報化推進,それから,行政の理解というものが必要になってくるわけですけれども,これまでの図書館資料費というのは,取引業者からの「物品」購入ということで位置付けられていますから,電子書籍はベンダーのサーバー内へのアクセス権契約になります。「情報」の購入というものを会計的に明確に位置付ける必要が出てくる。
それから,契約業者の変更。例えばある種の電子書籍を購入していた。例えば電子ジャーナルなどの時に大学でもあるケースなんですけれども,様々な契約業者を変えていくと。そういった時の対応はどうするのか。そういう場合はバックナンバーを見られるのかどうかというのがかつては問題になったわけですけれども,こういった問題もあります。それから,館外アクセス,先ほどの千代田Web図書館とか,アクセス数を幾つにするかとか,様々な問題がある。
NetLibraryは紀伊國屋書店が今提供している和書のシステムですけれども,私の勤務する夙川短大の4年制の方の大学でも,例えば「sightseeing」と入れると,洋書のネットライブラリーが出てきて,こういうタイトルが出て,本文に入っていく。こういう利用の仕方を学生がだんだん経験していくことになります。そうすると,和書がなぜないのかということになってくるわけですね。最近,2007年以降,例えば,これは『現代史資料』ですけれども,みすず書房からの本がそのまま検索することによって出てくる。そうすると,学生にとってもレポートを書いたり様々なことをするのに非常に便利になってきます。
一方,公共図書館向けとしては,大日本印刷の「電子図書館の構築支援サービス」が最近始まりました。プレスリリースは10月でしたけれども。実際に来年1月8日から導入する図書館の話を伺いました。資格系,英会話系,青空文庫,こういったもの1,147コンテンツを,332万円で購入することに決めたということで,今後,大日本印刷グループとしては5年後に500館へ導入ということを言っているわけですし,実際に導入する図書館がありますと,千代田Web図書館のように恐らく話題になって,各図書館が見学に行ったり,自分たちもこれは入れようというような話になるのではないかという状況にあります。
考えられる選択肢としては,今申し上げた千代田Web図書館のように,これは具体的にはiNEOという会社が韓国の電子図書館事業の日本版として推進しているわけですけれども,ここがそれぞれの出版社に契約によって個々の図書館を購入するケース。慶應義塾大学の図書館が今やっているのは,それぞれ出版社を回って,NetLibraryとは違って,オンラインではなくてオフラインで学生が読むというような仕組みを,今実験をやっているところですが,ここにも学生の強い関心が,応募してきた学生のアンケートを読ませていただいたんですけれども,非常に熱心な学生が出てきていると思いました。
それから,2番目には,NetLibraryのような,あるいは,先ほどの大日本印刷グループのような,ベンダーが出版社に働きかけてコレクションを形成して,そこから購入していってもらうというような方法。それから,実際に今,電子ジャーナルを購入しているように,大学図書館がコンソーシアムをつくって,出版社やベンダーからある程度の金額,ある程度束になって安く買うというような可能性もあるのではないか。
それから,4番目には,電子書籍リーダーそのものを貸し出す。先ほどのLIBRIéを貸し出したり,あるいは,電子辞書を貸し出したり。これはどちらかというとちょっとマイナーな方だと思うんですけれども,こういった選択肢があるかと思います。
ところで,ちょっと時間が押してきたんですが,最後に一つだけ。読者はどう本を読んでいるのか。従来の読者というのは購入する,借りるという時に,書店,古書店,あるいは,借りる場合でも,友人,貸本屋,図書館ということなんですけれども,今日では当然,書店と古書店の間に新古書店というのが出てきたし,オンライン書店,アマゾンドットコム以降様々なオンライン書店で入手できるし,オンライン出版のダウンロード,あるいは,ストリーミングですね。そして,借りる場合でも,オンライン出版のレンタル配信サービスもあります。
私が2000年に出した『デジタル時代の出版メディア』という本があるんですが,これは1,890円です。新古書店で,ブックオフで買うと945円,1割で引き取って5割で販売です。新古書店のeブックオフでもし在庫があれば,プラス送料300円で1,245円。アマゾンジャパン,新品は1,890円ですけれども,ユーズドは,なぜか私の本は1円から売っているという,本当にがっくりくるんですけれども,これがもし再安値1円で購入すると251円。日本の古本屋,古書店のデータベースで見ると,たまたま在庫があったのが800円ですから,ゆうメールのプラス290円と。私の本は2000年の8月に出した途端に,10月にボイジャーがつくった「理想書店」が立ち上がったものですから,ここで2か月後には電子書籍で出しました。1,050円で売っています。
ということで,今のを比較しますと,図書館は0円,アマゾンマーケットプレイスは251円,ブックオフは945円,理想書店は1,050円,日本の古本屋は1,090円,eブックオフは1,245円,アマゾンジャパンは,この前まではポイント1%ついていたんですけれども,私の本は見放されたのか,18ポイントとかついてなかったので,定価のままですね,1,890円。新刊書店も1,890円ということで,そもそも紙の本,それから,中古品,電子書籍,様々な違いはあるものの消費者にとって選択の幅は非常に広がっているのは事実だと思います。
そこで,公正取引委員会の2006年,4年前のアンケートですけれども,この1年間に本を買ったと,読んだという人2,004人に聞いたところ,1年間で書店で購入して読んだ,832人,そして,図書館で借りて読んだ,698人ということで,書店で買えば定価であるにも関わらず,書店で買った人が多いではないかと。人数ベースで見ると39%,図書館33%ということなんですけれども,読んだ冊数ベースで見ると,63%が図書館で借りた,24%が書店で購入したということで,読んだ本の数で言えば図書館で借りた方が多いということが分かります。
次に,本の価格によって購入するものと,借りるものに違いはありますかと聞くと,高いものは購入しないで図書館から借りる,194人。お金がたまりそうですね。必要な本は価格に関係なく購入する,711人。高い安いは関係なく図書館から借りる,もっとお金がたまりそうですけれども,168人ということで,結局,必要な本は価格に関係なく買うんだという結果が出ています。
私,思うんですが,出版界は販売,図書館界は閲覧・貸出しと言っていますけれども,この構図は電子出版になっても有効ではないかなと思っています。出版のメディアとしての歴史を見ますと,写本,活版印刷,電子出版ときているわけです。私が好きな本で,セネカの『人生の短さについて』というのを読んでいますと,まさに2000年ほど前の著者が更に2400年ほど前の人の著作を引用している部分がある。1年前に,三田誠広さんと国立国会図書館の長尾館長に御登場をお願いして,日本ペンクラブ・大手門学院共催セミナー「紙の本の行方」というのを大阪でやった時に,その懇親会の会場に行きすがら三田さんに,「セネカがヒッポクラテスを引用しているんですよ」というお話をしていたんですけれども,セネカは私文庫を持っていたんです。 つまり,知識情報基盤というのは,著作というものを伝えるという意味においては綿々とつながってきている。その中に市場性と公共性があるわけですけれども,この出版界と図書館界が競合ということよりもむしろ補完という形で進んでいければなというふうに思っています。
そして,今日においては大学図書館だけではなくて公共図書館において電子資料を取り扱わざるを得ない状況になってきている。もちろん紙の本を所蔵するということ,紙の本は滅びないし,所蔵ということも図書館にとって大変重要な任務なんですけれども,利活用されるべきコンテンツのプロバイダーとしての図書館像というものを新たに創出する必要が公共図書館にも出てきた。
また,その時に,国の費用によってデジタル・アーカイブを構築して,出版社によるコンテンツの再生産を阻害せずに,むしろ支援するような仕組みをつくることが求められているのではないかというふうに思います。最終的には,読者・利用者のために著作権者や出版社と図書館界の利害調整を行うことが望ましいというのが,私がここで皆さんに御報告したいことです。
ちょっと長くなりましたが,以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
ここで10分程度御意見を伺う,御質問を頂くというようなスケジュールになっておりますけれども,先ほど申したことの繰り返しになりますが,お三方にお願いしていますので,まず3人目の小西様から,「学術関連情報の配信について」,この御説明を頂きまして,その御説明が終わった後,25分時間がありますので,そこで今の湯浅様の御報告についての御質問なども承りたいと,そういうふうに進めさせていただきたいんですが,よろしいでしょうか。
それでは,続きまして,小西様から,先ほど申し上げましたタイトルについての問題を御説明いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
【武蔵野大学小西教授】
御紹介いただきました武蔵野大学の小西でございます。私も司書課程で教員をやっております。ちょっとレガシーな刷り物を用意いたしましたけれども,余り内容がないにも関わらず8枚になってしまいまして,これを20分ということですので,かなりお聞き苦しくなるかと思いますが,早速御説明させていただきたいと思います。
まず,「1.日本の学術情報流通略史」という形で少しお話をさせていただきます。今回,電子書籍を直接的に扱うというよりは,我が国の学術情報の流通全体が今どういう状況に置かれているのかということを,できれば皆様に御理解いただきたいということで,そういう線に沿っての報告を試みてみたいと考えております。
私どもは今や,昔の研究者がどのように文献資料を集めていたかということを忘れてしまっているのですが,『半七捕物帳』を書いた岡本綺堂が昭和9年に『猫やなぎ』(岡倉書房刊)というエッセイの中で,「上野の図書館へも通ったが,やはり特別の書物を読もうとすると,蔵書家をたずねる必要が生ずるので,私は前にいうような冷遇と優遇を受けながら,根よく方々をたずね廻(まわ)った」とあります。これは見ず知らずの蔵書家のところを訪ね歩いて,自分に必要な本を,もちろんなかなか貸してもらえませんから,その家で書き写して,その際に冷遇を受けたり厚遇を受けたりするという経験なのですが,昔の方は,昔といっても昭和初年ことですが,こうやって大変な御苦労をされていました。
ということで,戦前までは個人蔵書(研究室の蔵書を含め)で勉強するということが主だったと思いますけれども,大学の研究者だとやはりそれでは足りないということで,他大学の蔵書等にも関心を持つ,借りたいということで,図書館同士の相互貸借が戦前から生まれていた。もちろん当時はまだ雑誌が主でございまして,1923年に外国雑誌の目録が,文部省の学術研究会議,学術審議会の前身に当たるかと思いますが,で作られていたということ。そのほか,医科系の大学でも雑誌目録がつくられていたということでございます。
戦後になりますと,というか終戦をまたいで文部省の専門官をされていた馬場重徳氏,日本のドキュメンテーションの草分けの方ですが,この方が『学術文献行政と学術文献総合目録』という私文書の中で,「学術文献なしには学術活動の展開は不可能である」ということをおっしゃって,総合目録をつくらなければいけないということを力説されました。
そのことが,戦後になって文部省の『学術文献綜合(そうごう)目録』(1949年〜)という外国の図書の国内所蔵目録につながっていった経緯がございます。雑誌については,『学術雑誌総合目録』というものを,私は後々偶然の巡りあわせでこの冊子体の編集を任されるということがございましたけれども,こういうものが作られてきたということです。国立国会図書館さんも,1954年以降『新収洋書総合目録』(主要学術図書館の洋書)を作っておられました。
その後1960年代に入ると,大学図書館では,宗教学者の岸本英夫先生が東京大学図書館の館長になられて「図書館の近代化」を行う,その改革の影響が全国に波及していくという時期がございました。
戦後の学術情報流通の歴史の中で,もっとも大きな動きは「学術情報システム」構想(1980年に学術審議会の答申で示される)でございます。それまでの日本の学術情報流通の状況は極めて悪かったわけです。例えば,どこの大学にどのような本が所蔵されているかも分からない,これではとても文化国家とは言えないのではないかということで,このような構想が出されました。その動きが(3)の部分に書いてございまして,その動きの中で,私も勤めることになりました学術情報センター,のちの国立情報学研究所(NII)がつくられることになります。その組織及び大学図書館等の必死の国家的な取組があって,どうやら我が国の学術情報流通もスムーズに行われるようになったということができると思います。
(4)のところに「「前期」電子図書館時代」と書いてありますが,電子図書館という言葉が使われ始めて,先ほど湯浅先生の方からもお話がございましたように,1995,6年の辺りからこういう状況になりましたけれども,このころの電子図書館というのは未発達な状態だったという評価に立ち,私が勝手に「前期」と名付けました。むしろ,日本で電子ジャーナルが導入され始めた2000年頃(ころ)から,そして「最近の状況」と右側の欄に書きました現在こそ本格的な(「後期」)電子図書館の時代と言えるのではないかということです。
さて,日本の学術情報流通の特徴をまとめてみますと,[1]研究者個人がかなり努力して,自分が集めなければ研究ができませんから,学術情報収集を行ってきたということ。次に,[2](日本)学術会議などの研究者の団体や国立大学協会などからの「学術情報流通体制整備」への働きかけがあって国も動くという形,つまり文部省が中心でございますが,国の行政が対応していく。それで学術情報流通の改善が行われていく。中でも一番大きかったのは[3]日本の大学図書館,現場の学術情報流通への貢献です。実に多くのことを大学図書館は実践してきました。そのことを高く評価しなければいけないと思います。学術情報流通に関しては,余り営利につながらないということがあったのでしょうか,[4]民間の参入・関与は非常に少なかった,というところも特徴かと思います。時間の関係で省いてしまいましたけれども,[5]学術情報流通に関する技術的な進歩,研究開発の進展というのも同時進行でございましたので,非常に良い環境ができつつあるということでございます。
2ページ目の「2.電子ジャーナルの導入」。これも学術情報流通の中で非常に大きいのですので挙げさせていただきましたが,アメリカでは1990年代の半ばごろから既にかなり普及しておりましたけれども,我が国では一部実験的に入れるという大学があらわれ,私の記憶では1999年1月に「電子ジャーナルフォーラム」(関東地区・東京地区国立大学図書館協議会)というの小規模なイベントの開催から,日本の電子ジャーナル導入への本格的な取組が始まったと考えております。この後,大学はとても苦労をいたしまして電子ジャーナルを導入していくわけです。
右側の欄に,「この頃(ころ)「日本版シリアルズ・クライシス」吹き荒れる」と書いておりますが,雑誌価格が驚異的に高騰し,大学図書館で外国雑誌が十分に買えなくなるということが起こりました。1990年から2000年にかけて,実は1989年が日本の大学が持っていた外国雑誌の種類数のピークでございまして,4万タイトル(種類)以上あったのですが,10年後にはそれが半減し2万タイトルになる,つまり購入できなくなったということなのです。そういう状況が生じる中で,電子ジャーナルに切り換えていかなければいけないし,一方で予算も不足がち(バブル崩壊)という危機的状況であったということでございます。
資料中ほどの2009年2月の項に,学術図書館研究委員会(SCREAL)という団体が,「学術情報の取得動向と利用度に関する調査」,この調査自体は2007年に行われているものですが,そのまとめを公表しています。その中で,既に大学の研究者等を中心にして,分野による違いますけれども,電子ジャーナルの利用は80%,90%に達している,それだけ利用されているということで,「電子ジャーナルなしでは我が国の学術研究は成り立たない」と結論づけられました。この調査は我が国の大学等の研究者約3,000人を対象にした調査です。
(2)の「大学図書館における電子ジャーナルの購入経費の変遷」ということで,2004年から5年間の数値を並べてみました。これを見ていただきますと,図書館の資料費は825億円から徐々に減って,2008年には745億円になっています。指数では90で,ちょうど1割減ったということです。その中で紙の洋雑誌の購入費は334億円から177億円で,実に半分ぐらい減ってしまっています。一方,電子ジャーナルの経費は62億円から185億円,つまり,2008年に既に電子ジャーナルが紙の雑誌を上回っているという状況でございます。ただ,ここうして見ますと,意外と紙は残っているなという感想でございます。
資料の右欄に,学術誌がどのくらい電子化されているかということを書いておきましたけれども,90%とか80%とかいう数字がございます。日本の雑誌についてはまだそこまで入っておりませんけれども,かなり電子化された情報が多くなってきているということでございます。
(3)「コンソーシアム」ということなのですが,海外の学術出版社の寡占化によって価格が非常に高くなっている。過去15年間ぐらい毎年7.9%ずつの値上げが行われてきた。これは10年たつと1.8倍になるわけですから,同じ予算がついても賄えませんが,先ほど御覧いただきましたように,資料費は減っているわけですから,外国雑誌が買えなくなるというのは当然の帰結でございます。
日本学術会議が今年の8月に『学術誌問題の解決に向けて〜「包括的学術誌コンソーシアム」の創設〜』という提言を出されたのですが,その中では「行き過ぎた商業主義の弊害」というふうに表現しております。学術情報の流れの中でなぜ商業出版社が介入したかということなのですが,それをここで話し出すと少し長くなってしまいますけれども,本来,学術情報の流通の中では「贈与の円環」と言われまして,本来は営利が発生する仕組みではなかったはずなのに,残念ながらという言い方は変ですけれども,非常に営利的な出版業が力を伸ばすということになって今日の事態を招いたということです。寡占化と価格高騰に対抗するには集団で対処するしかないということで,国立大学と私立大学でそれぞれ「JANUL」と「PULC」という電子ジャーナル購入のコンソーシアムが作られたという経過を書いてございます。
この二つ分かれてございますけれども,実質的にはJCOLC[Japan Coalition of Library Consortia]というバーチャルな連携組織がつくられておりまして,そのことを受けて,今年2010年10月に,国立情報学研究所が仲立ちをしまして,両者が合同し大規模コンソーシアムとして成立する,それに向けての協定を締結したということでございますので,国際的にも引けをとらない強力なコンソーシアムができて,現在のようなかなり横暴な価格高騰に対して対抗手段をとっていくという流れになるかと思います。
一方,電子ジャーナルの保存でございますが,電子ジャーナルは契約している時しか見られないのが普通で,契約をやめると過去分は見られないということになってしまいます。それに対して様々な手を打ってきているわけですが,一つは国立情報学研究所の方で「NII-REO」という電子ジャーナルのリポジトリを立ち上げて,幾つかの出版社の電子ジャーナルを保存する「アーカイブ」を手掛けております。また,大学と連携してバックファイルを買い取ってしまって提供するということも,Springer社とOxford University Pressの電子ジャーナルに関してはやりました。
このようなことをコンソーシアムと協力しながらやっているのですが,昨年から国立情報学研究所がCLOCKSSというアーカイブの団体に入りました。右欄に「トリガー・イベント」と書いていますが,例えば出版社が倒産したとか,バックナンバーの利用をさせてくれないとか,あるいは,戦争や自然災害などで,物理的にアクセスできなくなった時に,出版社のサイトに契約期間だけ情報をとりにいくということでは一挙に情報を失ってしまいますので,何が起こっても確実に我が国に保存するという仕組みをつくっておこうと動きです。通常は「ダークアーカイブ」と言って,利用はしないのですが,いざという時に備えておこうという仕組みでございます。そのような国際的な仕組みに参加しているわけです。このような保存の仕組みは,LOCKSS,Porticoなど世界には12団体ほど大きなプロジェクトが動いております。それがアーカイブの問題です。
それからもう一つの話題としては「3.機関リポジトリの構築」でございます。これは,流れとしては(1)「オープンアクセス」という,1994年のハーナッドの「破壊的提案」ということから始まっています。研究者が自分で書いたものを自分で保存していく,正確にはその研究者が属する機関が保存し世界中に無料で公開していく,というものです。自分の執筆した論文が商業出版社に著作権が奪われて,自分で利用しようと思ってもそれを高い値段で買い戻さなければ利用できないというのはおかしいではないかという素朴な疑問から始まった運動でございます。この流れが2001年から2003年までのブタペスト,ベセスダ,ベルリンとBで始まる都市で開催された会議でオープンアクセスに関する様々な提言がなされて形を整えていきます。まとめてBBBと言われております。
オープンアクセスの実現の方法としては,「グリーン・ロード」と「ゴールド・ロード」というのがあると書いてございますが,これも細かくは説明する余裕がありませんが,グリーン・ロードというのが機関リポジトリにつながっていくものでございます。
次の4ページ目のところの(2)「機関リポジトリ」でございますが,定義として,「学術機関リポジトリは,大学及び研究機関で生産された電子的な知的生産物を保存し,原則的に無償で発信するためのインターネット上の保存書庫として,以下の意義を有する」と書いてございます。要するに,大学の構成員の論文や研究成果について著作権処理をした上で永久保存・公開していくという仕組みでございます。
その経緯が書いてございますが,文部省の動きもございますし,国立情報学研究所の事業もございます。このような形で極めて短期間のうちに,日本に機関リポジトリというものが根付いてきたということでございます。現在,190の大学等が参加していて,コンテンツ量は100万件超,そのうちフルテキストの論文は74万件蓄積されているということでございます。世界の機関リポジトリが1798と書いてございますので,この時点では日本は4位でございますが,最近はひょっとしたら2位ぐらいに上がっているのではないかということでございます。まだ端緒についたところですが「機関リポジトリ大国」と評される日を目指しているのです。
(3)「共同機関リポジトリ」については,我が国ではまだ共同機関リポジトリという形のものは存在しないかと思いますけれども,アメリカではGoogleのBookSearchのプロジェクトに連動した形で,「ハッティトラスト」(HathiTrust)という,何でも「象は忘れない」,象は賢いので忘れないという意味に由来するらしいのですが,そういう名前のついた共同機関リポジトリがございまして,現在800万冊に達するeブックが保存されているようです。そのうち4分の1が無料で利用できる形になっているということでございます。
5ページ目は「4.電子的コンテンツの作成・提供」ですが,この間それぞれの電子的な情報をどのように作ってきたかということでございます。まず目録情報では,先ほどの学術審議会の答申を受けて立ち上がった組織等が中心になって,NACSIS-CATというデータベースを作って,1億冊を超える全国の大学図書館等の所蔵情報を作成・提供しています。この間,国立国会図書館も蔵書目録データベースを作られていますし,国文学研究資料館の「日本古典籍総合目録」とか,「全国漢籍データベース」(京都大学)も作成されているということでございます。
論文情報については,CiNii[サイニィ]「NII学術論文ナビゲーター」があります。現在1,300万件の日本の研究者による論文記事情報が収録されており,そのうち30%,ここに3分の1と書かれていますが,正確には30%弱の357万論文については,本文がそのままウェッブ上で見られます。一方,GoogleやYahoo Japanからも直接検索できるということで,人文社会科学系の先生方,院生の方に非常によく使われていて,年間6,400万回の検索をされ,ダウンロード数は3,360万回と言いますから,1論文が10回ほど読まれているという計算になります。そのほか,ここにはアトランダムでございますが,いろんな論文情報のデータベースが作られてきたということが示されています。
それから,(3)の「全文画像・フルテキスト情報」では,今御説明しましたCiNiiの中に入っている全文情報をつくってきた経過(NACSIS-ELSと大学研究紀要等)やJ-STAGE(科学技術振興機構)の全文情報。また,図書の方では,国立国会図書館が「近代デジタルライブラリー」を御提供されていますし,アジア歴史資料データベース(アジア歴史資料センター)とか,東京大学史料編纂所で作られている各種のデータベース,さらには各大学の電子図書館で提供されている貴重書等の本文情報など,「HathiTrust」に及ぶべくもないとしてもかなりの量の全文データが作られてきております。
つまり学術情報に関しては,それぞれのセクターで非常に努力をしてデータベースもつくり,論文情報の目録もつくり,また,このような全文情報のデータも,もちろん十分ではないにしても,努力して作ってきているということをお示ししたかったわけです。
「5.大学研究機関における電子書籍」ということですが,学術系の電子書籍としては,レファレンス・ブックスですね。参考図書のようなものはCD-ROMで出されていた頃(ころ)から大学図書館は導入しておりまして,現在では逐年で出る高価なものとか大部なものは,電子書籍の方に置き換えられていくということが普通行われていると思います。古典作品などのテキストも随分導入されているのではないかと思います。
それから,先ほど湯浅先生からも御紹介ありました「JapanKnowledge」とか「化学書資料館」とか「NetLibrary」というものは,かなり多くの図書館で利用されているのではないかと思います。この1,2年で急速に普及しています。
また,先ほど御紹介しましたコンソーシアム経由の電子書籍もございます。最近の例では,「Blue Books」と言われる英国の議会資料コレクション,以前はマイクロフィルム等のコレクションがありましたし,あるいは,紙での復刻版でもあったんですけれども,今回は電子書籍版をコンソーシアムで共同購入して低廉な価格で提供するということをやっております。
教科書や指定図書の電子書籍というのでは,英国の昨年末にJISCという英国情報システム合同委員会の報告書で,2007年から2009年までの2年間,化学等技術と医学分野の電子教科書36タイトルを無料提供して,127大学のアンケートを寄せてくれた約5万人の学生,研究者の分析結果で,予想していなかった結果が出たということがございました。
それによると,電子書籍の利用は,紙の書籍の売上げを脅かすという印象があるが,電子教科書は紙版の売上げに影響を与えていない。電子書籍は若い世代ほどよく使うと考えられがちだが,ITSに慣れ親しんでいるいわゆるGoogle世代だけでなく,あらゆる世代が万遍なく利用しているとか,電子書籍の利用者はオンラインで長時間読むというよりは,むしろ短い時間のブラウジングやダウンロードを行う傾向にある。電子書籍の利用は,図書館目録経由がほとんどであるため,発見可能性を高めるためには出版社は電子書籍用のMARCレコードを用意する必要があるというようなことが報告されております。
(2)「大学等での利用状況」の[1]利用はいまだ低調かと書きましたが,たしかにSCREALの先ほどの調査では「電子書籍」を知らないという人がほとんどだったのですけれども,英国等の調査では電子書籍は65%の方が利用経験があるということで,私は「最新の調査がないから確実なことは言えない」と見出しと矛盾したことを書いておりますように,これは今調べると大学図書館の方でも,知らないうちに電子書籍をかなりの程度使っている可能性があるのではないかと思っています。
「[2]図書館の課題になっていない」についても,その右欄にちょっと書きましたように,今年の「新ICT利活用サービス創出支援事業」の中に,NIIとか東大,千葉大,京大,九大さんと一緒になって,「研究・教育機関における電子ブック利用拡大のための環境整備」というプロジェクトが走っておりまして,こういう動きもございますので,「課題になっていない」というのは私の間違いです。
「6.今後の課題,あるいは,不確かな見通し」と書いた最後のページでございますが,「電子書籍」は間違いなく普及していくと私個人も思っております。つまり,ビークルというか,乗り物が変化したにすぎないという印象があって,紙媒体から電子の媒体になっていっただけというところで,もちろん提供者がそれをどう使うかというのは,これから使い方というのを見ていかなければいけないと思いますけれども,大学図書館等で考えられるのは,今は電子ジャーナルの延長上に電子書籍が位置付けられていますから,どちらかというと「知らないうちに電子書籍は普及していく」というふうに思っております。ただ,電子書籍を作っていくと大学図書館側が考えた時には,今のままでは大学図書館にそんな資力体力はございませんので,国の支援なり,かつて科研費でデータベースの支援事業がございましたけれども,そのような形で支援が行われなければなかなか整備されない。
私が特に強調したいのは,全文が入ると,検索のための目録というか,メタデータは要らないのではないかという御意見の方もおられるようですが,私はむしろそれこそが重要になってくるのではないかと考えています。電子書籍を発見するためにも,OPAC経由になっているという話を先ほどしましたけれども,まさにそのことが必要になってくる。つまり,目録データの作成というのは引き続き必要だという一点と,もう一つは,これだけ情報が増え膨大になりますと,選択的な,誰(だれ)かが選んだリストというものを片一方で用意していかなければいけないと思います。
保存の問題は当然です。図書館が担っていかなければなりません。
それから,紙媒体との対立の図式なのですけれども,電子化が済んだら紙媒体はどうするか,もちろん廃棄すると。スペースを確保するために電子化しているのだからという話もございますけれども,果たしてそれでいいのだろうかと思っております。アメリカでは,今年の秋に大学図書館・研究図書館コンソーシアムであるCRLというところが,紙媒体の共同アーカイブ事業をスタートさせるという発表をいたしました。私ども日本でも紙媒体というのは残していかなければいけないと思っています。
紙媒体と電子媒体は対立的なものではなくて,棲(す)み分ける。譬(たと)えが幼稚でまずいのですが,キャットフードとドッグフードを必要とする人みたいなもので,重なるところもあるけれども,それぞれ買う人は違うだろうということで,先ほどのイギリスの報告ではないですけれども,電子媒体が普及していっても紙媒体に影響を与えるところにいっていないと今の時点では思っておりますので,そういうふうに申し上げておきます。
ちょっと長くなってしまいましたが最後にもう一言。私の親戚(しんせき)ではないのですけれども,一昨年お亡くなりになった,『日本文藝史』という大作をおまとめになられた小西甚一先生が,四半世紀前の1985年にその『日本文藝史』の第1巻の序文のところで,「これまで,我々の分野で偉い學者と云(い)えば博識者のことであった。何を訊(たず)ねても即座に答えてくださるのが大先生であったけれど,将来においては,どれほど絶倫の頭脳を持つ學者でも,データ・ベイスの記憶に対抗することは不可能になる。そのような時代に研究者は何をしたらよいのであろうか。人間一人の記憶容量が機械に対抗できないとすれば,我々に残されるのは,それらのデータを使って考えることであろう。考えることは人間の特権であって,機械がどれほど進歩しても人間の相手ではない」ということを言ってくださっているんですね。
ということでお話を終わりたいと思います。どうも失礼いたしました。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。最後にお述べになったこと,全く同感でございます。
それでは,本日のヒアリングを踏まえまして,デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方等について,御意見ありましたら,これから御自由に御発言願いたいと思います。湯浅先生と小西先生もいらっしゃいますことですので,どうか両先生への御質問なども承れればと思います。どうぞお願いいたします。
【金原構成員】
書籍出版協会の金原でございます。湯浅先生にお尋ねしたいんですが,公共図書館において電子出版物を出版社と契約をして閲覧に供するというお話ですが,これは出版社とは必ずしも限らないかもしれませんが,提供する側(がわ)との利用契約というような形になるのかなと思います。その場合,いわゆる著作権法における図書館の資料という位置付けになるのか。つまり,館内における複写・複製との関係においてどのように整理をされておられるんでしょうか。
【夙川学院短期大学湯浅特任准教授】
そこが非常に難しいところでございまして,実際に今公共図書館でそういう形では提供されているところは,今申し上げたようにほとんどなんですよね。これから大日本印刷グループのような形で具体的にスタートしていく,その中でここの位置付けを決めていかざるを得ないというところだと思うんですね。例えば,今現在,国立国会図書館で電子ジャーナルをとっている。それは契約ベースでとっていますから,これの複写についてはその範囲内でプリントアウトすることはできるという形になっていると思いますけれども,公共図書館においてもコピーに関しては著作権法に定められた範囲内でということになるかと思います。
【金原構成員】
ということは,まだその辺の運用については定かではないということでしょうか。
それから,ついでにといっては何ですけれども,貸与,要するに貸出しですね,その辺についても図書館である以上,そのような機能は,本来紙媒体のものは備わっているわけですけれども,電子書籍あるいは電子出版で配信されたものについて,その契約に従うことになるのか,それとも著作権法上の規定を優先してその辺を整理されるのか,まだその辺もよく分からないということでしょうか。
【夙川学院短期大学湯浅特任准教授】
そうです。できれば著作権法上の整理ということになれば一番いいかと思うんですけれども,先ほどの例のように,千代田Web図書館とか,具体的に今の事例では印刷できないとか,そういう形になっていますから,これから整理していかざるを得ないんです。
【糸賀構成員】
今,金原構成員がお尋ねになった件は私もかねがね関心を持っていた点であります。その点に関して私はもうかなりはっきりとした見解は出されていると思っています。基本的には,湯浅委員の資料でいいますと,24コマ目になるんですね。湯浅委員の今日の資料2の24コマ目です。少なくとも湯浅さんが報告された中での電子書籍の考えというか概念は,この24枚目の2つ目のところにあるように,電子書籍はベンダーのサーバー内へのアクセス権契約であると。つまり,ベンダーのサーバーに蓄積されているものに対して図書館からアクセスしている限りにおいては,私はこれは図書館資料には当たらないと思います。
そのことは今日の湯浅さんの資料の3コマ目,4コマ目にあるんですけれども,3コマ目は公共図書館の役割として図書館法のことに触れられております。図書館法は一昨年,平成20年の6月に改正されました。改正された時にここに引き合いに出されたような「電磁的記録」という文言が入ったんですね。図書館資料の中に電磁的記録が含まれるように,ここの部分が改正されました。したがって,メディアとしては,いわゆるデジタルメディアが図書館資料に含まれるんですが,この会議で問題になっているような電子書籍は,図書館側のサーバーに蓄積して,図書館が主体的に管理しているものではないんですね。でもって,外部に蓄積されたものに対して図書館はそこにアクセスにいっているだけです。
したがって,湯浅さんの資料の次の4枚目,図書館の自由という概念からすると,図書館は自分が持っている資料については主体的に管理し,提供の自由を持っているんです。提供の自由ということは,これを提供しようと思えば図書館の意思で提供できる。外部の権力や,圧力に屈することなく,図書館は主体的に判断できるというのが図書館の自由です。ところが,外部のサーバーに蓄積されているものは,そのサーバーの管理者の判断で場合によっては図書館に提供しなくなってしまうということが起こり得ます。既に大学図書館の世界で電子ジャーナルを管理している側(がわ)が,ある特定のタイトルを来年度からはその図書館に提供していないというようなことが頻繁に起きております。こういったものは図書館が主体的に管理しているものではないから,図書館資料というふうには考えられない。
このことは図書館法17条,無料原則と連動してくるわけです。図書館法17条では「図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない」となっているわけです。今回の法改正の中の電磁的記録にそれが含まれないということは,この法改正の時に当時の文部科学事務次官通知に示されています。これが平成20年6月11日に出されているんですが,ここでわざわざ事務次官が今の「電磁的記録の扱いについて」という一文があり,「なお,図書館資料における電磁的記録については,図書館法第17条の規定に関し,従前の取扱いを変更するものではない」と明言しているわけですね。
つまり,この17条の規定は飽くまで図書館資料に関して言えるのであって,図書館資料にならないものについては,場合によってはお金をとることもできると。この解釈は正確には平成10年の当時の生涯学習審議会の専門委員会報告とこれは変わっていないんだと,行政と言いますか,国の政策としては一貫しているんだということを示しております。これを正確に解釈していくと,今お尋ねの件に関しては,これは図書館資料のカテゴリーにはならないことになります。今ちょうど文部科学省の生涯学習政策局で図書館の望ましい基準の改訂作業を進めておりますが,この中でも図書館資料の提供と同時に,情報のアクセスへの提供ということを図書館はやっていくんだと,外部の情報源に対してアクセスすることも大事な図書館の仕事であるというふうなことが,今回の望ましい基準の改訂の中にもうたわれることになっています。これで全体として一貫した考え方が維持できると私は考えております。
【渋谷座長】
よろしいですか。
【金原構成員】
はい,結構です。
【渋谷座長】
それでは,どうぞ。
【瀬尾構成員】
今日はたくさんお話を頂いていろいろ参考になって,ありがとうございました。ただ,今日お伺いして,これは意見なんですけれども,湯浅先生のお話でもありましたが,図書館が教養文化の立場から問題解決型に移行していると,これは前々から私も考えております。つまり,社会的インフラとして機能しつつあるということの一例ではないかというふうに私はとらえました。これまでのような,例えば本が買える買えないというふうなものではなくて,コンピュータによって情報をとれる人ととれない人の差というのが,情報格差と言われているように非常に広がってきている。これを解消していくような知の提供ということをもし図書館がやるのであれば,これは単なる知識の提供ではなくて,もっと踏み込んだ本当の地域のインフラになると思うんですよね。
というのは,これによって経済的な格差が生じてしまうとすると,非常に不公平感を生んでしまう社会になってしまったら,これを解消する役目が図書館にあるのではないかなというふうに感じます。そういうふうに考えていって,図書館がきちんと機能するために,行政とかその他の総合的な取組なしに,今のように本をためて貸すだけだというような認識が地域行政であるんだとしたら,文化の拠点であり,地域のインフラであるという予算付けと取組がないとすると,今のような予算が足りないという言葉が何度も出てきたように,資料を買うための予算がないということになり,基本的に著作権の処理も全部無償でなければできないとか矛盾を生むと思うんですよね。
基本的なもっともっとここで話し合う以上の取組がないと,今の問題は,例えば著作権者と利用者とか,そういうふうな対立の構図になってしまうように思います。ですので,今日お伺いした中で,可能性もあり,いろんなことを感じますけれども,いまのままの経済的・社会的認識,若しくは予算的な裏付けの中で,収集と提供を拡大しようとすると絶対に軋轢(あつれき)を生んでくるのではないかなという気がします。それから,創造のサイクル自体を壊しかねない。というのは,デジタルというのは非常に強烈な破壊力を持っていますから,収集と提供だけを権利制限なり,ある程度限定された中でどんどん推進していくというのは危険をはらんでいるような気もいたしました。
それともう一つ,先ほどメタデータ,要するに書誌データから本体の内容へという移行があったというお話をお伺いしましたけれども,実はメタデータの価値というのは非常に高いと私は考えています。つまり,世の中のコンテンツを全(すべ)てそこのところで知っているわけですね。もっと言ってしまえば,国立国会図書館さんのメタデータというのは非常に大きなコンテンツ・データベース,日本最大のコンテンツ・データベースではないのかなというふうに考えています。国会図書館さんの議論の中で,ワーキングチームをつくって,このメタデータの価値をデータベースとして利用できないかというワーキングチームを数年前にやらせていただいて,私も参加しましたけれども,そのメタデータを整備していくことによって,国立国会図書館さんの中にも触れられていたオーファンワークスの解消のためのデータベースとか,それも非常に使えるし,各地域でもデータベースの基本にもなっていく。そうすると,連携して日本の情報の中心になっていける可能性があるのかなという気がいたしました。
今日たくさんのお話をお伺いして,非常に希望のある分野だけれども,現状のままでは非常にきついなという感じが私の率直な印象です。この二点について是非図書館さんの中で,みんなで取り組んで,図書館さんをもっと違った形にしていったらいろんなものが一挙に解決するような気がいたしました。長くなりましたが,以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
ほかにどなたか。
糸賀先生,先ほど電子納本の御質問がありましたが,あれは……。
【糸賀構成員】
できれば田中構成員に。電子納本のインセンティブを図る仕組みというのはどうなっているのかですね。それから,そもそも今どの程度の納本率なのか。皆さん多分100%納本されているというふうに誤解されていると思うので。実際にはそんなに納本されていないと思うんですけれども,そこら辺りですね。紙の場合の納本率と電子で納本を増やすインセンティブはどういうふうにお考えなのか。
【田中構成員】
まず紙のものの納本率ですが,数年前に悉皆(しっかい)的に調査したところでは,大手の流通取次ぎを経由しているものはかなり高率で入っているということはわかっております。ただ,民間のものでも主要な流通経路でないものについてはかなり悪いということも分かりますし,更に自治体の刊行物も地方市町村になると地域によってはかなり低いところがあるというところはあります。悉皆(しっかい)的にというか全貌がはっきりしないところでの調査なので,なかなか捕捉(ほそく)が難しいとかあるんですが,100%でないのは事実です。
それから,電子のもののインセンティブですが,私たちはきちっと全(すべ)てのものを残していくというところで考えていきたいんですけれども,その仕組みというのも,今お話あったような,例えばメタデータというような,検索してどういうものがあるかというのを捕捉(ほそく)してというようなインフラと連動しているところもあると思いますので,それを私たちで電子のもので整備できるわけではないですし,もちろん民間ではhon.jpさんとかいろいろな形で電子のもののインフラもできていると思うんですけれども,検索して探して利用するインフラと,捕捉(ほそく)して保存していくというところが連動していかないといけないのかなというふうに考えます。
【糸賀構成員】
ありがとうございました。私がそのことをお尋ねしたのは,新しく電子化されて出版するもの,ボーン・デジタルの場合も含めてですね,それの利用ということを考えた時にこの電子納本というのはかなり大きな意味を持つだろうと。それが国会図書館に入って広く国民が利用し,知の再生産につながっていくというところのシナリオを描かないと,この電子納本も生きてこないということになるんだろうと思います。
そのときに,先ほど提案されたような課金の仕組み,そのコストを誰(だれ)がどういう形で負担をするのかということを考えていく必要があるだろう。そのことは,先ほど金原委員が指摘されたように,電子書籍がそもそも図書館資料なのかどうか。国会図書館は図書館法が適用されるわけではないので,必ずしも図書館法17条というわけではないんですけれども,それはお金を払う仕組みと同時に,もう一方で,私はよく言うんですけれども,読者はお金を払うか時間を払うかの選択なんだろうと思っています。早く読みたい人はお金を払って,一定の対価を払って読むべきだと。
それ以外に,先ほどの湯浅さんのアンケートにもあるんですけれども,自分は値段の高い安いに関(かか)わらず図書館で借りて読む,あるいは,図書館を通じて入手するという方もいらっしゃるわけですね。そういう方はお金を払わない代わりに,一定の時間を払うべきだろうと思います。"タイム・イズ・マネー"であって,時間とお金というのはある意味では選択肢だと思います。これは,レンタルCDとかDVDが新しくリリースされた後,一定期間をおいてレンタル業者に回るというようなことと同じ仕組みでして,図書館も,お金を払っても是非見たい,読みたい,聴きたいという人に対しては一定の市場を用意して,そこでお金を払って入手してもらうと。一定期間過ぎた後,今度は時間を払った人に対して図書館を通じてそれを流通させていくということが考えられます。
さっき私は電子書籍は図書館資料に当たらないと申し上げました。だからといって,直ちにお金をとるべきだというふうには考えておりません。読者層を広げ,この国の知的なインフラと言いますか,基盤になるような層をつくっていくためには,図書館を通じて無料で知的財産にアクセスできるという環境も残していくべきだろうと私は思うんです。今日ここにいらっしゃる方々もかつては図書館で読んで面白い,これは必要だと思って買うということも当然あったと思います。私などは実際よくあります。図書館で借りる本と買う本は使い分けるし,図書館で見てこの本はやっぱり手元に置いておくべきだというふうに考えて買うということもございます。そういう意味では,図書館は一定の時間を払った人に対して無料でアクセスできるような情報提供の場として機能していくべきでしょうと。お金を払うかどうかという選択だけではなくて,お金を払うか,時間を払っていくのかという選択も含めて考えていった方がいいのではないかと考えています。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
ほかにどなたか。はい,お願いします。
【杉本構成員】
今までの話とはちょっと違うんですけれども,お話しいただいたお三方に対して,はじめちょっとオープンクエスチョン的な質問になるんですが,保存に関するコストというのはどれぐらい,例えば30年なりあるいは50年というふうなスパンで考えた時にどれぐらいかかるものだろうかという質問です。
一般に出版されたものを民間でそのまま持ち続けることには当然コストがかかります。それでどんどんなくなっていくわけですけれども,図書館で保存の機能を使って残していくということになると。図書館は保存するというミッションを持っていますので,コストは幾らかかってもということになるかもしれません。コストに関する評価というものは今まで余りやられてこなかったのかもしれないんですけれども,もし保存ということに関するコストの評価,あるいは,それだけのコストをかけて見合うよということに関するような議論を御存じであったら教えていただけないかなと思って質問いたしました。
【渋谷座長】
質問のお相手はお三方ですか。
【杉本構成員】
どなたでも結構なんです。お三方若しくは御存じの方いらっしゃったら。
【夙川学院短期大学湯浅特任准教授】
長期保存に関しては国立国会図書館かなと思うんですけれども,いかがですか。
【田中構成員】
保存のコスト,費用に幾らというのを試算したというのはちょっとあれなんですけれども,紙のものは利用しなければ,酸性紙の問題等ありますけれども,利用するから壊れてしまうのであって,物理的な紙の資料というのはそのままきちっとした書庫で温度環境,湿度を整えれば残っていくと思うんですけれども,それに対してデジタルデータというのはいろいろな保存,長期保存,10年を超えたような尺度で残していくことになると非常にコストがかかるようもので,未知数のところがたくさんある部分だろうと思います。幾らかかるというのも出し難いような難しい問題であるというふうに理解しています。
【渋谷座長】
はい,お願いします。
【武蔵野大学小西教授】
私もつぶさに知っているわけではないのですが,紙媒体では,例えば都心部にキャンパスがあってコスト計算するととても高いから,土地代の安い地方に倉庫を置いてという大学さんはたくさんございます。その時にはコスト計算がなされますよね,当然。地方に倉庫を借りた時に1年間に幾ら幾らという数字が出ますので。だから,100万冊の本を10年間保存するのにどれだけかかるかというのは,倉庫に預けると数字が出てきますので,それでも保存し続けるかどうかということは,それぞれの大学図書館等で考えるべきことだと思っています。
ただ,大学図書館等はロングテールで勝負していかなければいけない場所ですので,多少のコストを計算しても,100年単位のロングテールで考えるべきだと,そこの牙城(がじょう)だと思っていますので。今,私の頭には紙媒体がちょっとありましたけれども,電子媒体についても100年の保存を考慮に入れなければ保存に入らないでしょうというのが私の気持ちです。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは,ほかに何か。はい,別所さん,お願いします。
【別所構成員】
差し支えなければ教えていただきたいんですけれども,今出ている質問に関してなんですけれども,国立国会図書館さんの方が国内図書の約5分の1が終了見込みということですけれども,その5分の1のデータ量が何テラぐらいなのか,参考までに教えていただけますでしょうか。
【田中構成員】
つくってある画像を,保存用の画像とそれを更に利用するためのというところとあるんですけれども,利用の画像90万冊が,大体一億数千万コマという,画像単位でいきますと,そのぐらいの規模ですが,利用提供の環境に乗せているところでは,ざくっとしたところでは数百テラバイト,100,200テラバイトとか,そういうオーダーです。
【渋谷座長】
よろしゅうございますか。
【別所構成員】
多分数百テラで,それを5倍しても,多分データベースの設計とかサーバーの量によりますけれども,それほど莫大(ばくだい)なコストがかかるというふうには思えませんけれども,数百テラベースで仮に民間でやったとしたらどのくらいかというのは,もし必要があれば算出させてみます。
【渋谷座長】
あと二,三分,時間がありますけれども,どなたか。
【金原構成員】
もう一つよろしいですか。小西先生にお尋ねしたいんですが,私も民間の営利目的の学術書出版社ですので,大変参考になるお話を伺ったと思っています。その中で,今後,我々のような民間の出版社が学術情報を提供していく場合に,当然,電子化,今日のテーマが電子化ですので,これを推進していくことになりますけれども,かつて洋雑誌においてシリアル・クライシスが発生したように,日本の学術情報の流通においても,そのまま日本語に訳せば「雑誌危機」とでも呼ぶのでしょうか,施設がそれなりの予算を計上しないと,学術情報が電子配信によって,これは雑誌も書籍も両方ともそうだと思うんですが,流通していかないのではないかと思います。書籍もということになりますと,極端なことを言いますと,学生が使う教科書も各施設が電子配信によって賄うというようなことも起こり得るわけですが,それぞれ日本の教育機関においてこの辺の予算上の問題はいかがお考えなのでしょうか。
【武蔵野大学小西教授】
先ほど民間の会社さんが全(すべ)て敵のような発言をしたのは行き過ぎがあったかと思いますが,決してそういうつもりではございません。そういうつもりではなく,実際引き起こされたことは,そういう突出した利益を追求する団体があったということに対して申し上げているわけですので,誤解のないようにお願いしたいと思います。
民間の会社,出版社等に参入していただかなければ,教科書等はでき上がりませんので,それをまた出版社が適切な利益を上げて回っていくようにする,その対価は,当然,利用者側が払っていかなければいけないことも常識的に言って間違いのないことですので,大学等は教科書をサイトライセンス的な買い方とか,どういう購入モデルが存在するのよく分かりませんけれども,買っていく場合には当然その対価に見合うものを出していくことになるだろうと思います。
その場合,今,私の大学などでもそうなのですが,資料購入費の7割近くは電子的な資料になっています。ですから,資料費は増えないとしても,結局,100%の中をどう分け合っていくかみたいな形になっていますので,もし電子的な教科書が学内の利用にとっても有効ということになれば,そういうものに対価を払っていくということになるだろうと思っております。大学にあっては,それほど違和感はないのではないかなと考えております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【夙川学院短期大学湯浅特任准教授】
すみません,一ついいですか。今ので補足です。
【渋谷座長】
それでは,短くお願いいたします。
【夙川学院短期大学湯浅特任准教授】
今の話題でしたので。例えば,医学書院の『今日の診療』のイントラネット版というのを使っているというのが学生からあったので,最近,『病院図書館』という雑誌に書いたところなので思ったんですけれども,例えばハワイ大学に留学していた学生が,向こうでレポートを書く時には,本を10冊ぐらい積み上げて書くのではなくて,eブックを使うのが当たり前だったと。基本的な教科書は全部eブックになっていると。それで日本に帰ってくると,医大生の4回生なんですけれども,この人が日本にくるとeブックが出ていないと。
その話を医学図書館の人としていたら,『今日の診療』のイントラネット版をよく使っていて便利なので,和書の電子ブックをもっと増やしてほしいという学生があって,文献講習会とか,そういうのを大学で図書館がやりますから,そういう時に購入希望をもっと出していいですかというようなことで,本当にそういうのが出てきているんですね。ですから,電子ブックというのはそんなに難しく考えなくても,例えば予算が余ったのでこの年度に電子ブックを買おうかというような話になって,実際にネットライブラリーを購入したというケースも具体的に出てきていますので,それは出版社にとって商売的にも成り立つのではないかなと。
すみません,補足で,ちょっと思いついたことをお話しておきます。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
それでは……。
【糸賀構成員】
まさに今,論点になっていたところを私もお尋ねしたかったんですが,それは今の話と著作権法第35条との関係というのは一体どうなるのかというところです。35条は,御存じの方多いと思いますけれども,教育機関における授業の過程においては複製ができるし,公衆送信もできるという規定ですよね。私,電子教科書などはまさに授業の過程で使うわけだし,つい数日前にも学校で,今,国の政策で電子黒板を入れているところも随分あるわけですが,電子黒板にそういったものを表示するのは著作権法35条で無許諾でできるはずですよね。
だから,今の話も,電子教科書,それから,電子黒板の利用と,今の著作権法35条の無許諾使用との関係は,私はよく分かりませんでした。むしろ文化庁著作権課の方にその辺を教えていただきたいし,出版社,金原構成員はそこら辺りとのかねあいはどういうふうにお考えなのか。
【金原構成員】
では,1分いいですか。
【渋谷座長】
それでは,30秒でお願いいたします(笑)。
【金原構成員】
35条との関係ですが,出版社としては,簡単に言ってしまいますと,量によりけりだろうと思います。教科書を購入する代用として35条に基づいて黒板に全部,黒板とは言わないのでしょうかね,書いてしまったり,内容を画面に出して,学生が買わなくても済むようになったら,これは35条適用にはならないだろうというふうに我々は判断しています。
【糸賀構成員】
ああ,そうなんですか。35条の趣旨からするとそれはできると私は思いますけれども。
【金原構成員】
まあ,量によりけりですね。
【糸賀構成員】
ああ,そうですか。分かりました。
【渋谷座長】
大変盛り上がっているところで時刻がきたと申し上げるのは大変心苦しいのですけれども,後の御予定がある方もおられることでしょうから,残念ながら今日はここまでとさせていただきたいと思います。
今日はヒアリングに応じてくださいましたお三方,湯浅先生,小西先生,それから,田中構成員,大変興味深いお話をありがとうございました。改めてお礼申し上げます。
それでは,事務局から連絡事項があると思いますので,よろしくお願いいたします。
【鈴木著作権課課長補佐】
それでは,次回の本検討会議の開催につきましては,年末の押し迫った中大変恐縮でございますが,12月27日の(月),15:00からという形で,また同じ場所で開催を考えております。
また,次回につきましては,本日に引き続き関係者からのヒアリングを予定しておりまして,電子書籍の製作や配信などに関連する方からのヒアリングということで予定させていただいております。
以上でございます。
【糸賀構成員】
すみません,ちょっと,ヒアリングについての意見ですが。
【渋谷座長】
何でしょうか。
【糸賀構成員】
今日もお三方からいろいろお話を聞いて私も勉強になってよかったんですが,是非公立図書館の現場の方のヒアリングをやっていただきたいと思います。今日お招きの三人の方,あるいは田中構成員を含めて,申し訳ないけれども,公立図書館の現場の方ではないんですね。私は,この問題を議論するのに公立図書館の館長さん,あるいは,こういった電子化,電子書籍の利用について前向き,積極的な図書館の意見は聞くべきだと思います。是非それはいずれ実現させていただきたいと思います。
【鈴木著作権課課長補佐】
今御意見を賜りましたので,またいつか検討させていただいて進めさせていただきたいと思っております。
【渋谷座長】
それでは,これをもちまして第2回の検討会議を終わらせていただきます。本日は大変ありがとうございました。

15:04分 閉会

ページの先頭に移動