議事録

劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会(第4回)

1 日時

平成23年2月21日(月) 13:00~15:00

2 場所

文部科学省旧文部省庁舎2階 文化庁第2会議室

3 議題

  1. (1)ヒアリング等における主な意見について
  2. (2)その他

4 出席者

(委員)太下委員,片山委員,田村委員,根木委員,三好委員

(事務局)近藤文化庁長官,吉田文化庁次長,小松文化部長,関文化財部長,山崎芸術文化課長,鈴木芸術文化課課長補佐ほか

(参与)平田内閣官房参与,福原文部科学省参与

(配付資料)

  1. 1.劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会における論点(案)
    (平成22年12月24日 第1回劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会配付資料)
  2. 2.関係団体・有識者からのヒアリング等における主な意見
  3. 3.劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会 当面の開催予定

【参考資料】

  1. 劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会 委員名簿

【机上配付資料】

  1. 劇場・音楽堂等に関する基礎データ
  2. 文化芸術の振興に関する基本的な方針(第3次基本方針)
    (平成23年2月8日閣議決定)

○鈴木芸術文化課長補佐

 失礼いたします。開会に先立ちまして配付資料の確認をさせていただきたいと思います。

<配付資料の確認>

○田村座長

 それでは,ただいまより,劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会第4回を開催したいと思います。委員の皆様におかれましては,御多忙のところありがとうございます。
 まずはじめに本日の進め方でございます。本検討会では,これまで第2回と第3回において合計12の関係団体・有識者の方々から意見発表をしていただきまして,貴重な意見を頂きました。本日は,これまでのヒアリングで提出された御意見について,委員の皆様から御意見を頂戴(ちょうだい)したいと思います。
 時間配分といたしましては,議事次第にありますように大きく3つに分けて進めたいと考えております。1つ目は現状と課題,果たすべき役割や機能,2つ目は必要な人材と管理運営の方法,3つ目は国の関(かか)わり方と定義や対象範囲等についてでございます。
 それでは,まず資料2の,劇場・音楽堂等の現状と課題及び劇場・音楽堂等の果たすべき役割や機能について,事務局より説明をお願いいたします。

○鈴木芸術文化課長補佐

<資料2の1.と2.について説明>

○田村座長

 ありがとうございました。
 それでは,資料2の劇場・音楽堂等の現状と課題,及び劇場・音楽堂等の果たすべき役割や機能について意見交換を行っていきたいと思います。どなたからでも結構でございますので,よろしくお願いいたします。

○太下委員

 この現状と課題を振り返ってみる前提といたしまして,何らかの機軸が必要かなと思ったのですが,自分なりに再確認してみますと,こういった検討を行っている目的といいますか,その背景となる認識として,文化庁としても演劇や音楽などのパフォーミングアーツの分野に関して,従来以上により支援を厚くしていこうという前提がおありになるのであろう,と理解をしております。
 一方で,現状と課題の2つ目の意見に,「舞台芸術の創造団体と施設が一体化して存在すべきであるが」という意見があります。これはヨーロッパの劇場と比較して我が国の劇場について言われる点ですけれども,更に近年の指定管理者制度の導入以降,劇場というハードと,運営する組織であるソフトの分離という事態が起こっていると思っています。演出家のピーター・ブルックの表現に「空っぽの劇場」という,創造空間としての可能性をポジティブに語った象徴的な表現がありますが,そういう意味とは全く別に,日本の劇場や音楽堂というものは文字通り空っぽになっている状況があると思います。
 そう考えますと,最低限,運営組織と劇場はきちんと一体化して認識していく必要があると考えます。制度的な課題ということでいうと,運営組織と劇場をより一体化していくような形で今後考えていく方策が検討できればと考えています。そして検討する際に,演劇なり音楽なりの創造活動がより振興されていくことが目的として想定されるわけですけれども,拠点的な劇場とその運営団体をより一体的に結びつけていく中で,そこが地域における文化創造拠点としての機能を持っていくように位置づけるのがいいのではないかと考えております。
 文化庁で別途,並行して検討を行っているアーツカウンシルの議論がありますけれども,ローカルにおけるアーツカウンシルを,このパフォーミングアーツの分野において国が側面からそれを支援していくという位置づけを,この劇場・音楽堂の検討の在り方の中に含めることができれば,本来,地方自治体等地域の公的団体が設立・運営すべき劇場について,国が一定の関与・支援するということも,また別の意味で必要性がそこに見いだせると考えます。またそういうことができれば,他(ほか)の文化分野に先駆けて,演劇,音楽等のパフォーミングアーツが,ローカルなアーツカウンシルの設立を通じて,地方主権を先導できる可能性を秘めているのではないかなと感じました。以上です。

○田村座長

 ありがとうございました。はい,片山先生。

○片山委員

 予想されたことではありますが,かなり多彩な意見が出てきています。ただ,この検討会として検討していくに当たっては,何のための制度設計なのかという目的を明確にする必要があると思います。今回整理していただいた意見の中でも,そもそも地域の公立文化施設,劇場・音楽堂というのが,ソフトとハードが分離しているとか,あるいは,実演団体を持たないとか,創造の拠点として認識されていないといった問題の指摘と,頑張ろうとしているのに,現在の財政状況の中でそれができなくなっているということをどう解決するかという問題の指摘という二つの意見が出ていましたが,これらはかなり性格が違うものだと思います。そもそもそういうものを目指していなかったことが問題だということと,目指しているのにうまくそれができていないという問題は,区別して考えなければいけないと思います。
 それから,創造が大事だという観点での議論とともに,住民が享受する部分について,例えば首都圏と地方でのものすごい格差をどう解決するのかという論点もかなり含まれていたかと思います。トップレベルのものを創ることだけではなくて,住民が参画することが重要だという主張などもありまして,創造のための施策なのか,あるいは,ナショナルミニマムをきちんと全国に整備していく,つまり,住民の文化的権利を保障するような観点での法整備なのか,その辺の目的を明確にしていかないといけません。何かの制度を作るとすべての目的に回答を与えるような万能の施策というのは想定しにくいと思います。
 ただ,この検討会の趣旨は,劇場・音楽堂等が優れた舞台芸術の創造・発信等に関(かか)わる機能を十分に発揮できるようにするということなので,最低限のものを保障するということよりは,創造・発信のところに目的があるとも読めます。そうだとすれば,そこを明確にした上で議論を行うべきだと思います。ナショナルミニマムを保障することについては別な場,あるいは,別な方策で考えるということをきちっと明確にしておかないと,結局色んなものが混ぜられてしまって,どっちつかずの政策になってしまう危険があるので,まず最初に検討の目的をもう一度確認することが重要かなと思いました。

○田村座長

 根木先生。

○根木委員

 ヒアリングを拝聴しておりますと,皆さん方,大体結論的には専門スタッフを中心とした人的組織が欠如しているのではなかろうか,それがためにきちんとした運営がなされていない。つまり,単なる施設ではなくて,かつての法概念にあった営造物といったものを想定して,有機的な事業展開ができる機能体としての劇場・音楽堂を期待しているようにうかがわれました。
 意見の中にもいろいろありましたが,先ほど片山さんのおっしゃったような方向で,芸団協などは選択主義ないし選別主義的な観点に立っており,逆に公文協の方は全部を一応網羅すべきであるという,網羅主義の観点に立っているのではなかろうか。それから,後の方に出てきたと思いますけれど,全体に係る基本的な要件をまず設定し,更に類型化に応じた付加的な基準を更に設けるべきであるといった意見もあったように記憶しております。そういった場合に,文化会館ないし劇場・音楽堂を類型化するということもある程度考えておかなければいけないのではなかろうかと思われます。
芸団協や公文協もそういった類型化をかつて行いました。大ざっぱに言いますと,4つの類型になろうかと思います。第1類型がいわゆる創造型というたぐいのもの。第2類型が鑑賞型という類のものです。そして,第1,第2類型のいずれも,プロフェッショナルの創造活動と,プロの創造活動の提供による鑑賞ということを想定している。第3類型は,いわゆる市民参加型の文化活動を主として頭に置いているもの。第4類型は,よく言われているコミュニティセンターといったたぐいのもので,貸し館にやや近いものではなかろうかと思われます。そして,第3,第4類型は,いずれもアマチュアの文化活動あるいは市民の文化活動といったものを想定しているようにうかがわれます。
 そういった中で,人的組織に求められる機能というのはどういうものかということですが,まず,第1類型の創造型に関しては,企画・制作機能をきちんと備えておく必要があるのではなかろうか。ということは,芸術監督や,更にそれを支えるアートマネジメントの専門スタッフが必要であり,更に,舞台技術を支える責任者とそのスタッフが必要であろうと思います。
 第2類型については,主として鑑賞型ということであれば,求められる機能・役割というのは,企画・制作というよりはプロデュースといった機能ではなかろうか。ただ,プロデュース機能にしても,プロフェッショナルの選別をきちんと行い,事業の組立て,提供をきちんと行う必要があるだろう。したがって,ここでも芸術監督とマネジメントの専門スタッフ,それから,技術関係のスタッフも必要であろうということが言えます。
 第3類型は,市民参加型ですけれども,ここでも第2類型とは別の意味のプロデュース機能が必要であろうと思われます。つまり,市民舞台芸術ということを念頭に置いたプロデュース機能が求められるのではなかろうか。したがって,~芸術監督まで必要かどうかは別ですが~プロデュースの専門スタッフと技術上の専門スタッフは必要と言えるのではなかろうかと思います。
 最後の第4類型については,貸し館型とかコミュニティセンター型と言いましたけれども,ここではプロデュースというよりは,コーディネート機能とでもいったたぐいのものという感じがします。つまり,市民活動や交流について助言するといった機能が求められるのではなかろうか。したがって,これに関しても,適切に対応できるようなスタッフと技術スタッフが必要ではなかろうかと考えられます。
 このような機能類型に即して,人的組織をどのように考えていくべきか。全体を包括したものか,いずれかの類型に限定したものとするかを考えることが必要と思われます。また,制度論に限定するのか,事業支援も抱き合わせで検討するのかといった,もう一つの議論も行う必要があると考えられます。

○田村座長

 ありがとうございました。

○三好委員

 2回のヒアリング,改めてお聞かせいただいて,非常に興味のある発言がたくさんあったと思います。最初に感想を申し上げますと,いわゆる公立施設というのが,20年前あるいは30年前から盛んに作られ始めてきたのですが,今になって制度的な在り方を考えるというのは,ある意味では非常に面白い現象だと思うわけです。
 例えば,文部科学省さんの中で義務教育というのは100年以上前から色んな制度が作られて,制度の上で色んなことが運営されてきた。博物館・美術館というものもある一定の色んな制度がありながら,その中で運営されてきた。それに対して,既に公立の文化施設というものがかなり早い段階からあったにも関わらず,取り立ててそれが公の議論になることがなかったということが非常に面白い現象だなと思います。逆に申し上げると,前回,前々回のヒアリングの中で出てきたのが,そういう制度がないことによる様々な現場での状況というのがその中から逆にわかってきたと,そういうことではないかと思います。
 そもそも地方公共団体がそういう制度がない中でなぜ文化施設を作ってきたのかというところにもう一度立ち返って考えてみる必要があるのではないか。そのときに,それぞれ事情はもちろん違いますけれども,多くの場合は芸術文化,あるいは,もっと広く芸能とか色んなものに対して,それ自身が地方自治体としてやるべき政策であるということを,どこかそれは意識としてあったのだろうと思います。ですから,今批判されるように単に箱物と言われますけれども,少なくとも作った当時において,本当に単なる箱物として作ったということはそう多くはない。中にはあるかもしれませんけれども,そう多くはない。少なくとも県なり市町村の総合計画の中では,芸術文化あるいは文化芸術あるいは文化創造あるいは文化振興,言葉はいろいろあると思いますけれども,そういう名の下に施設が作られてきたというのがまず一点,これは考えておく必要があるのではないかと思います。
 それから,2点目としては,制度が既に存在したとしたならば,逆にどういう状況が起きていただろうかということです。これも推測にしかすぎないんですが,今ほどにこういう文化施設が本当に普及したかどうか分かりません。逆に制度がないことが施設が普及した,それによって一般の住民が利用できるという環境ができたのではないか。そこのある意味プラスの面もここは少し考慮しておく必要があるのではないか。
 3点目は,今回の後で申し上げる議論の中にもありますが,そういう文化施設が作られてきた中で,特に近年の施設については,例えば前回ヒアリングにあった兵庫県のように,施設を作る前の段階から議論が重ねられ,あるいは,ある準備が十分なされた上で作られてきているというものが増えてきているということです。これは皆さんそれまでの施設を見ながらそういうことを考えてきたと,これも一つの自治体の工夫ではないかと思います。ですから,大きくその3つが,今の自治体がこういう施設に対してこれまでしてきた,あるいは,今の状況ではないかということですので,そこは一度踏まえておく必要があるのではないか。
 その上で,今回,制度的な在り方の検討ということですので,法制度ということはある意味念頭に置きながら議論をしたいと思っています。既に幾つかお話が出ているので,私なりの論点整理を先にさせていただきたいと思います。いわゆる劇場・音楽堂に関する法律を議論するというときに,自治体の現状から見てどういうものが求められるかということを,3つぐらいのポイントで描いてみたいと思います。
 1つはまさに文化的な事業を行う施設として備えるべき要件,例えば必要な設備とか,あるいは,多くの人を収容するために必要な施設,あるいは,舞台を使うために必要な施設なりシステム。システムという中には,場合によったら人的なものも入るかもしれませんけれども,そういう一定のシステムというものが必要だろうというのが,1つ目の制度的な検討です。これはかなり法律論に近い。やるとするならば法律事項として必要性の高いもの。それが必要か必要でないかという議論はありますけれども,もし必要とするならば,法律事項としてかなり重要性のあるものということになると思います。
 それから,制度的な検討という場合の2つ目の論点としては,芸術創造の場としてどうとらえるかということがあります。先ほどのように作られた経緯はいろいろあるわけですけれども,そこを改めて芸術創造の場と位置づけるならば,それに対してどういう制度的な手当が必要かという問題かと思います。これは,例えばその館自身の設置目的は少なくともあるわけですから,その目的のままでいくのか,あるいは,目的を変えていくのかということも含めて考えなければいけない。
 あるいは,法律か条例かという議論が当然出てくるわけですけれども,条例でできないこともないけれども,別に法律を作って悪いかというと,法律を作って悪いということはないということになります。現に今の憲法体系の下で言えば,法律をつくれば法律が当然優先するわけですから,条例を作るためのよりどころとなる法律という位置づけだってあり得るだろう。自治体にとってみれば法律があることによって,芸術創造というところにこれまでよりは一歩踏み出しやすくなる。今までは全部,条例に委(ゆだ)ねられていたためにそこの議論がなかなかできなかったんだけれども,法律があるために一歩踏み出しやすくなる可能性はあるということでの法律の議論というのが2つ目の論点です。
 それから,3つ目の論点は,文化政策としてまさに政府の役割としてどうしていくのかということです。政府という場合には国もありますし,自治体の役割も出てくるだろうと思います。政策として文化芸術あるいは芸術創造ということをどう考えていくのか。今,国では色んな議論がありますけれども,政策としてやる以上は,当然,それに必要な財源とか,人的な担保とか,制度的な担保が必要になってくるので,そこを国あるいは自治体としてどこまで政策としてきちっととらえるか。それがもし必要であるならば法律として,例えば「芸術文化何とか法」という法律として,国の政策の位置づけを明確にする。かつて公共事業をやっていたころは,公共事業をやるために5か年計画を作り,財政特別措置法を作り,色んな法律をいっぱい作って,それをまとめて公共事業をやってきたわけですけれども,そういうことがもしかすると必要になり,議論としてあり得るのかなと思います。
 ですから,制度的検討といった場合に私なりにはその3点があり,どれかが優先するかという問題ではないだろうと思います。どの観点で見ていくかということだと思いますので,そこを少し意識しながら,今の項目を整理していきたいなというのが私の希望です。

○田村座長

 ありがとうございました。
 公立文化施設協会という法人がございますが,今年で創設されて50年となりました。もう一つ,文化庁が公立文化会館の活性化に関する調査・研究を初めて実施いたしましたのが平成12年です。「文化芸術振興基本法」ができる前の年だったのです。でも,施設はその前からたくさんできたという経過はございます。もう一つ,社会教育法の中で,図書館法と博物館法ができた時に,もう一つ公民館法を作ろうという動きは相当あったということがございますね。社会教育法の中の公民館に関する規定というのは,繁々と読んでみますと,有効に使うこともできますが,解釈のしようによっては,皆様が直面していらっしゃる問題のようになってしまうということもなきにしもあらずかなという感じはいたしております。
 そういう意味で,片山先生によるとこの検討会の目的が資料に書いてあるとのことですが,私ちょっと今日その資料を持っていないのですけれどもいかがでしょうか。

○片山委員

 1回目の資料1の「趣旨」というところにはそう書いてあります。

○鈴木芸術文化課長補佐

 御説明申し上げます。本検討会の第1回の資料1でございますが,趣旨の部分には,「文化審議会文化政策部会の審議経過報告を踏まえ,劇場・音楽堂等が優れた舞台芸術の創造・発信等に関(かか)わる機能を十分に発揮できるようにするため,現状と課題について整理するとともに制度的な在り方について検討をする」ということで,この検討会を開始させていただいた趣旨ということにつきまして,舞台芸術の創造・発信等に関(かか)わる機能の発揮という,検討会の趣旨の規定をさせていただいています。

○田村座長

 「等」というのが入っているわけでございますね。

○鈴木芸術文化課長補佐

 そうですね。

○田村座長

 「創造・発信」のみではないということでしょうか。

○鈴木芸術文化課長補佐

 おっしゃるとおりです。この点につきましてはヒアリングでも様々な御意見を頂いており,役割や果たすべき機能という点について,先ほど根木先生からいろいろな機能,公文協,芸団協での分類の例もお伺いしましたけれども,地域の住民の方々との活動や交流の場としての機能といったような機能もあるのではないかという御指摘も頂いております。

○田村座長

 わかりました。

○根木委員

 確かに劇場・音楽堂,特に「劇場」という言葉を使う場合には,先ほど片山委員がおっしゃったようなイメージが当然出てくるだろうと思います。劇場・音楽堂とは,いわば舞台機構をきちんと持つと同時に,創造活動を行う人的組織をちゃんと備えたものであって,ホールとは違うという認識が非常に強いと思います。そのため,劇場・音楽堂といった場合は,確かに選別主義による上積みの方を対象にするといったニュアンスがなきにしもあらずといえます。
ただ,やはり,第1類型から第4類型までをどうするのかということを,ある程度考える必要もあるのではなかろうかという感じがします。全体についての基本的な要件と,類型に応じた付加的な基準,そういう二段構えで考えるべきではないかという意見がありましたが,そのような考えも考慮の余地があるような気がします。創造活動に特化した第1類型,第2類型を念頭に置いて,それをとりあえずは法律として対象にするというのも一つの行き方とは思いますが,果たしてそれで大方の合意が得られるかどうか。
 それから,三好委員がおっしゃった法律事項の点ですが,施設設備に関して,例えば消防法の例外として定めることをこの際考えるのかどうかということもあろうかと思います。そのような場合,規制の緩和や強化が大きな論点になってこようかと思います。
 また,芸術創造の場ということを,「法律」の中身として規定するのか,それとも「条例」にある程度委(ゆだ)ねるのかということもあります。つまり,創造の場は,結局人的組織の問題に還元されると思いますが,その際に,所要の人的組織をきちんと設置しなさいという義務づけを行うのか,行うことが望ましいので努力しなさいという努力規定にとどめるのかということもあります。また,それを法律,政令,省令といった国の法令で決めるのか,あるいは,条例に期待するのかといったこともあります。更に,条例でも,義務づけ規定まで期待するか,努力規定程度にとどめるのかということもあるでしょう。地方分権との絡みで,どう考えるかということも出てくると思います。
 それから,芸術団体と劇場とを結びつける方策として,フランチャイズの話が意見として出ておりましたが,それと関連して,現在の地方自治法上の長期独占的な使用の禁止を緩和するということも法律事項としてありうるでしょう。
 また,そこまでやる必要はないと思いますが,指定管理者制度全般の特例措置ということもあるかと思います。しかし,指定管理者制度そのものは,ある程度制度が定着しつつあり,またこれは,運営母体についての一般原則と思いますので,人的組織の充実ということを念頭に置く場合には,少し別の事柄かなという感じもします。
 また,政府の役割も法律事項としてどの範囲で書き込むか。制度法と事業振興法の両者をミックスした形にするのかどうか。制度法だけに限定するか,あるいは,事業振興法という角度から間接的に人的組織の充実を図る仕組みにするか,ということもあろうかと思います。

○田村座長

 ありがとうございます。他(ほか)の方はいかがでいらっしゃいましょうか。三好先生,どうぞ。

○三好委員

 今,根木先生から御指摘いただいたので,先ほど私が申し上げた点を補足させていただきたいと思います。地方分権や財政的な問題など色んなことがあって,国がどういう役割を果たすのかという議論があります。その中で,適用があるかどうかは別にして,既存の法律としては,興行法や消防法,あるいは地方自治法も場合によっては考えられるかもしれません。あるいは,意義があって法律を定めるとするのか,あるいは,法律上は別に特例措置を設けなくても運用できるのであえて法律事項とするまでもないのかといった議論は必要かなと考えます。そのときに併せて,文化事業を行う施設として備えるべき要件の中に人的な要素までも含める,あるいは,システム的な要素までも含めるとするならば,それは新たな事項になると思いますので,検討する必要があるだろうと思います。
 それから,私が申し上げた2番目と3番目の中で言うならば,国の役割と自治体の役割,あるいは,法律でやるべきか,条例で規定すればよいかという議論の中で言えば,今の地方分権の中で議論されることで言うと,例えば地方自治体に芸術創造施設を必ず作りなさいという義務づけは多分できないと思います。ただ,例えばそういう施設を作った場合に,一定のこういう要件を満たせば国としてこういう取扱いをしますよという法律ならば,それは必ずしも地方分権に反するものではないだろうと思います。例えば必ず職員は何人置きなさいとか,面積は幾らなければいけないということまで細かく決めていくと,その要件もいわゆる義務づけという範疇(はんちゅう)に入ってしまうでしょうけれども,国がある一定要件を定めて,自治体がある程度選択できるならば,国として法律を定めるという余地も十分ありうることではないか。もちろん,それをやるかやらないかは国の判断ですけれども,そういうことをやるということは当然ありうる判断だと思います。
 そうなってくると,どういう要件の定め方をするのかということまで踏み込んでいかないといけないと思います。例えば,芸術監督ということを言うのならば,それはどういう範疇(はんちゅう)の人なのか。つまり,芸術監督がいればいいのか,どういう範疇(はんちゅう)の人でなければいけないと考えるのか,そこまで議論として出ていくだろうなと思います。逆にいうと,それが法律として定めるべき事項としてみんなの納得が得られるのであるならば法律事項として定められるし,それはそれぞれの事情に応じてやるべきであるということであるならば,それは法律事項としてなかなか難しいということになっていくのではないかと思います。ですから,そこがまさに今回の議論の一つかなと私はとらえています。
 以上です。

○田村座長

 はい,どうぞ。

○片山委員

 先ほどこの検討会の目的を明確にする必要があるという話をしたのですけれども,そこから,私自身の個人的な意見を申し上げさせていただきますと,国の役割は何かというところが非常に大事だと思います。今,三好先生が御指摘されたところなんですが。私の専門である財政学の観点から,国,都道府県,市町村という3段階の政府がある中で,国が担うべき機能が何かということを考えていくと,国レベルの公共財を生み出すということと,あとは平等化の問題ですね。社会階層的な平等と地理的な平等を実現していくという,その2つの機能,財政学的にいうと資源配分の適正化の機能と所得再分配の機能のところをきちっとやっていくということだろうと思います。その両者は同じ政策で実現するということは余りなくて,それぞれに政策が必要なのだろうと思います。
 芸術創造ということで考えますと,これは科学の研究における先端的な研究をするのと同じように,国レベルの国際的な公共財として創造するということは,国の一つの責務と私は認識しています。ですから,地域の劇場・音楽堂で創造活動が活発になれば,当然地域の住民もそれによって受益するんですけれども,それはあくまで副産物であって,国として優れたものを生み出すためには,東京だけでやっているよりは,全国にあるリソースを使って,地域の多様性をもってやる方が,より優れたもの,優れた文化創造ができる。ですから,地域でやってもらうのは地域のためではなくて,国として多様な優れたものを生み出すための手段なのだと,国の立場としてはある意味開き直って議論していいのではないかと思います。
 科学研究の場合でも,1つの大学だけで研究しているよりも,多様な大学で色んな環境でやった方が色んな研究が出てくる。多様性の中から革新が生まれるというのは今,様々な分野で議論されていることで,クリエイティブ・インダストリーの話でもクリエイティブシティの話でも多様性が重要だとされています。したがって,東京だけで創造活動をするのではなくて,全国でやるということは,国レベルの創造活動のレベルを上げる上で重要だからやるんだというロジックがあってもいいと思います。その一方でミニマムの保障,すなわち文化的権利を保障するために地域の劇場・音楽堂等施設が地域の住民のために貢献していくというのはまた別なスキームで考えて,その両方を議論するというスタンスを明確にしてやっていくということであれば,議論はかなり整理できるのではないかなと思う次第です。
 先ほど根木先生がすべていろいろやっていく必要があるだろうというところに,結論的には一緒になるんですが,その時の議論の仕方として,根木先生は施設を4類型に分けるというお話をされたんですが,施設自体を類型化することが適切かということについては,私はちょっと疑問に感じるところもあります。活動,アクティビリティとして創造型なのか,コミュニティ型なのかということはあると思いますが,それが施設の属性として規定されるということには違和感があります。
 非常に創造的な活動をしている施設であっても,同時にコミュニティの活動をするということはあり得ますし,小さな施設であってもある特定の分野で国際的な創造活動をするということもあります。あくまでも国が政策目的として対象化するのは,施設そのものというよりは,その施設で行われているアクティビティなのではないかと思っております。ただ,ハードについての要件というのは施設として整備しなければいけない,安全性の問題とか技術の問題がありますから,そちらは一律で考える必要がある問題かなと思います。

○田村座長

 極端に申し上げたら,施設がなくても,創造団体と人材がいれば,例えば野外劇場ですばらしいものが続いているという例もあるわけでございますよね。ただ,日本の場合は,たくさんの公共の文化施設が日本全国に海外に例をみないぐらいたくさんある,それが有効に活用されていないと長年言われておりました。
 ただ,最近思いますのは,地域創造が,地域創造大賞という公立文化施設を顕彰することを始めています。平成16年に8施設か9施設,1年で顕彰しました。そんなに顕彰したら来年はないのではないかとその当時は思いました。2つか3つぐらいにしておいた方がいいのではないかと思いましたが,顕彰はずっと続いていて,今年までで60施設弱だと思うのですが,毎年全く困ることなく顕彰する施設があります。5年以上続いているというのが条件でございますけれども,現実に顕彰する施設があります。一方にそういう実態もあるということがございます。はい。

○根木委員

 片山先生に誤解を与えたようですが,4類型というのは「施設」に着目したものではなく,あくまで「役割・機能」に着目した分類です。それぞれの館・ホールがすべてを持っている場合もあるし,いずれかに傾斜している場合もあるわけです。そういった意味で,機能・役割に即して人的組織がどうあるべきなのか。また,そのような人的組織を備えている館の事業に対して国が支援をする枠組みとするのかどうか。それとも,あくまでも制度論だけで,つまり,持つべきである,あるいは持つことが望ましいというだけで,あとは関知しないということにしてしまうのか。これまでの意見の中にも,支援・助成と制度論は切り離すべきだという考えもあったような気がします。したがって,法律の中に両方書き込むのか,切り離してそれぞれ立法化を考えるのかということも議論の対象になると思います。
 個人的には支援措置と抱き合わせと言いますか,合わせわざでやる方が諸事スムーズにいくのではなかろうかという感じがします。つまり,国が,こういう要件を備えた館に対しては,こういう幾つかの助成メニューがあるという方向にもっていく方が,余り抵抗もなくスムーズにいくのではなかろうかという感じがしております。

○田村座長

 私の立場ではちょっと申し上げにくいのですが,その辺が実際に施設に携わっている方たちの一番危惧(きぐ)していらっしゃるところです。支援と抱き合わせということだったら,差別化されるのではないかと皆様が感じていらっしゃるというのが,今,たくさんある公立文化施設の一番危惧(きぐ)していらっしゃる,公文協から見ればそうなのでございますけれども。はい,どうぞ。

○平田内閣官房参与

 委員ではないんですが,今の点ですけれども,来年度文化庁予算は過去最高を,長官以下職員の皆さんの大変な御努力で確保していただいたんですけれども,私もお手伝いをする過程で,今後,選択と集中は避けて通れないだろうと思います。それから,階層化ですね,国交省の仕事をしばらくしていたのですが,御承知のように空港にしろ港湾にしろ,港湾はスーパー中枢港湾,特定重要港湾,重要港湾,地方港湾というふうに階層化をして,国がどこまで支援するのかということをはっきり定めないと,今までのようにばらまき,それから,オーバースペックでやっていったらもうやっていけないわけですよね。それを受け入れないで,とにかく全部を支援してくれというのは,公文協さんの見識を疑うというか,どういう方向にしてもらいたいのかという対案を指し示していただかないと,国としても支援のしようがないのではないかと思うんですね。やはり階層化は避けて通れないだろうと思います。
 もう一つは,片山先生がおっしゃるナショナルミニマムみたいなものを今のまま規定してしまうと,恐らく供給サイドは東京に一極集中してしまいますね。いわゆる自主事業といってもほとんどはただの買取り公演になっているわけですから。この供給サイドを,片山先生がもう一つおっしゃっていたように,地方に分散することが今急務であって,そのことによって,国内市場を整備し,国内で健全な競争が行われるようなマーケットをつくらないと国際競争力はつかない。今は東京一極集中が,特に芸術,演劇の世界は非常に大きな弊害になっていて,国際競争力のある作品ができにくくなっているのが現状だと思います。ですから,ここのところを整備することを通して,創造活動をここでは御議論いただくことが最終的に地域の健全な鑑賞の機会を保障することにもなると思っています。
 私事ですけれども,1月にフランスにおりまして,サルトルビルというパリ郊外の国立演劇センターで作品を創っていたんですね。子供向けの『銀河鉄道の夜』のフランス語版を創っていたんですけれども,サルトルビルはイブリン県という,日本で言えば埼玉県に当たるような首都の隣の県ですけれども,そこの真ん中の劇場で創って,それで県内を回っていく。要するに,さいたま市で創った作品が上尾市にいったり,春日部市にいったりして回っていくわけですね。子供向けの作品ですから,全員がさいたま芸術劇場に来られるわけではないので,それぞれの市の文化会館に行って,小学校がバスを出して市の文化会館に行くということです。これは極めて合理的なわけです。
 なぜなら,作品を創るというのは非常に高度な技術が要りますし,資本も集中させないといけない。これを今までのように各自治体レベルでばらばらにやっていたのでは,税金の垂れ流しと言われてもしょうがないだろうと思うんですね。ですから,創造機能は集中させて,集中といっても1つや2つではなくて,せめて各県1つぐらいに集中させて,その地域の鑑賞事業についても責任を持つというような階層化がどうしても必要ですし,それが税金の有効な使い方になるのではないかと思います。そこまでの議論は文化審議会でも行われてきたと思いますので,是非その方向で御議論いただければと思っております。

○田村座長

 いかがでいらっしゃいましょうか。

○平田内閣官房参与

 もう一つ,支援と法律の問題は最終的にはリンクすると思うんですね。ただ,それを明記するかどうか。実際には,太下さんが最初におっしゃったようにアーツカウンシルの問題になってくると思います。アーツカウンシルがきちんと機能すれば,法律は最低限の条項で,アーツカウンシルの方で例外を認めるという方向で機能するのではないかと僕は思っています。これは私の個人的な意見です。

○田村座長

 どうぞ。

○根木委員

 平田参与のお言葉ながら,制度論だけだと,結局は各劇場にこういう人的組織を持ちなさい,とそこで切れてしまうだろうと思われます。先が見えてこないと,持ちなさいという義務づけ規定は,恐らく法律論として無理ではなかろうかと思います。したがって,努力規定程度になるか,場合によっては条例に委(ゆだ)ねて,条例でどの程度書いてもらうかということになろうかと考えられます。その場合,果たして実効性があるかどうか。別途の支援措置と絡めるということは当然あるでしょうが,では,こちらの法律は何だということにもなってくるかとも思われます。

○平田内閣官房参与

 そこが一番御議論いただきたいところなんです。個人的には努力規定でも十分にインセンティブにはなると思っております。現状,地方自治体においては芸術監督とは何かとか,芸術監督という存在自体も知らないような自治体もまだあるわけですから,定めるだけでもインセンティブになると僕は思っています。

○田村座長

 基本法というのがございまして,基本理念というのがございます。文化権というのがございますよね。

○根木委員

 芸術監督は,すべての施設に必要だとはとても思えないが,第1類型,第2類型あたりまでは,芸術監督と称する人たちが機能的にも存在している必要があるのではなかろうかと思われます。

○平田内閣官房参与

 全くそのとおりです。

○根木委員

 ただ,そうすると,第3類型,第4類型は放置してもいいのかという別の問題が出てきます。

○平田内閣官房参与

 これから御議論も絞られてくると思うんですけれども,第3がグレーゾーンなんだと思うんですね。第4類型まで国の,しかも文化庁の所轄なのかどうかということですね。それは総務省の方の所管であって,余り関係ないし,第4類型に関しては,指定管理者でも全然構わないと僕は個人的には思っておりますので,そこら辺のところをどこまでというのは,ここまでの御議論で結構絞られてきているのではないかと思っております。

○田村座長

 本来は,先ほど片山先生がおっしゃった目的を明確にしなくてはいけないということがあると思うのですが。少なくとも劇場・音楽堂等の充実と基本法にきちんと書かれておりますよね。それのための法整備という,第1次基本方針から書かれていることでございますけれども。

○太下委員

 今日資料としてお配りいただいた第3次基本方針の「六つの重点戦略」の重点戦略1の部分に,劇場・音楽堂等が優れた文化芸術の創造・発信等に関(かか)わる機能を十分発揮できるようにするということがうたわれているので,素直に考えると,そのためにどうあるべきというのをここで集中的に議論するのがいいのではないかなと思います。それ以外に,先ほど挙げられたコミュニティ的な機能を議論する必要があれば,それをまた副次的に取り上げていくというのが流れとしては自然かなと思います。

○田村座長

 これは「劇場・音楽堂等の」と書いてあることが相当影響があって,文化政策部会でもこの言葉があることが,それだけでも制約が出てきてしまうので変えてほしいということは相当申し上げたという経過はありますが,基本法にもそうなっているからということで,それがずっと引きずられてきているということがございます。それが,先ほど平田参与がおっしゃったようなコミュニティ的な,全国の公共文化施設すべてをということは,公文協等でもだれも言っているわけではなく,ただ一部のものの財政支援と絡めたものになるということを皆様がとても危惧(きぐ)していらっしゃるということは事実でございます。
 もう一つ,私,実際に地方の公共文化施設に携わっておりますと,東京のように地域に様々な種類の劇場があれば別ですけれど,例えば劇団のある静岡が良い例かもしれませんが,演劇だけがあればいいというものではないということが,地方の方にとっての現実なのでございます。多彩で上質な芸術に触れられるということが一番大切であるというふうに実際携わる者としては感じております。

○三好委員

 今の法律なり基本方針との関係ですけれども,もともと基本法というのを作って,その中に劇場・音楽堂等の充実という条文をわざわざ一条入れられている。その趣旨を改めて考えてみると,「自ら設置」といっているところについては,国立劇場のことでしょうから,それはそれとして,公演等への支援,あるいは,芸術家等の配置への支援,情報提供その他に必要な施策といっているところは,先ほどの議論でいうと,単に選別をするということが目的ではなくて,選別されてもいいという言い方はちょっと変ですけれども,公立文化施設の設置目的は必ずしも一様ではないですから,その中である程度支援を受けたい。
 しかも,それをあえてなぜ法律で定めるかと言えば,例えば予算であれば来年度予算はどうなるかわからないという可能性もあるわけです。政権交代すればマニフェストが変わってしまって「あれはやめてしまいました」ということもあり得るわけですけれども,法律であれば,可能性はないわけではないですが,少なくともその可能性は非常に少ない。ということは,逆に言うと,施設側においてもある程度そこに投資をしても,将来的に維持・継続できるという意味が,法律にするということの一つの大きな意味ではないかと思います。ですから,あえて基本法もそういうふうに書かれたのではないだろうかと。
 そういうことを考えていくならば,義務づけするかしないかとか,助成措置との関係はどうかというところに,今は皆さんの目が向いていきがちなんですけれども,そうではなくて,さっき申し上げた私の整理でいうと,3番目の国の政策として,公立劇場に対して単に助成措置だけではなくて,ここにあるような情報提供とか,芸術家等の配置への支援とか,そういうことまで含めて,どこまでを国としてきちっと用意できるのかと,そこがまず大きな議論ではなかろうかと思います。そこを抜きにしていきなり助成とか選別とかいう話に,結論的にはそうなるんですけれども,そちらだけが余り強調されすぎると,誤解なり逆の懸念というものが生まれてくるのではないだろうか。だから,そこを具体的にどうするのかということも併せて考えるべきではないと私は思います。

○田村座長

ありがとうございました。
 すみません,ここの部分がちょっと長くなってしまいまして。今出た御議論を念頭に置いていただきまして,次のところに移らせていただきます。
 続きまして,資料2,劇場・音楽堂等の運営に必要な人材及び劇場・音楽堂等の管理や運営の方法について,事務局から説明をよろしくお願いいたします。

○鈴木芸術文化課長補佐

  

<資料2の3.と4.について説明>

○田村座長

 ありがとうございました。
 それでは,ここについての意見交換を行っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。どなたからでも結構でございますので,何か御意見ございますでしょうか。

○片山委員

 先ほど目的がまず大事だという話はしたのですが,目的がどのようなものであっても,必ず求められるのが,それぞれの施設の組織運営をすることのできる人材,我々の分野の言葉でいうとそれこそがアートマネジメントの人材ということになります。その地域で行われている創造活動であれ,鑑賞活動であれ,コミュニティ活動であれ,その活動の公共的な意義を,議会なり行政なり住民なり地域の企業なりにきちんと説明して,財政的・人的な支援を集めてくることができる人が決定的に不足していると思います。
 90年代以降,研修会などが盛んに行われ,実際の事業を動かすためのマネジメントができる人材はかなりできてきたと思うのですけれども,その人たちだけでは,いざ予算が削られてしまうと,それができなくなってしまい,今まさにあえいでいると思います。ですから,重要なのは,現場で行われていることの意義をきちんと説明して,地元の自治体なり地域の住民なりに説明できる人材です。そういう人材がいれば,国からお金をとってきて,ここはこういうことに挑戦しようということにも発展していけると思います。つまり,どういうタイプの施設であれ,その施設の運営をできる人を育てなければいけないと思います。
 ただ,そういう組織の運営をやるトップのマネジメントと,それをサポートする人材となると,一朝一夕には育ちにくいので,現職でそういうポストにある人に研修を受ける機会をもたせることや,ミッドキャリアの人たちに高度な大学院などでの研修を受ける機会を持たせるなど,その辺を計画的に育てていくことで,現場の人が今苦しんでいる状況を助けていくのが一番良いのではないかと思います。

○田村座長

 はい。

○太下委員

 事務局の方がせっかく3分割して議論を設定してくださったのですけれども,この3つのテーマが全部密接に絡むので,私も越境してしまう部分があるかと思います。さて,今御説明いただいた中で大分,「義務づけすべきである」というような御意見が挙がってきております。これは,前提としては劇場・音楽堂に専門的な人材が必要であるということ,これを義務という形で実現しようということで,コメントが挙がってきたのだろうと理解しております。
 私個人も,劇場には当然に専門的人材がいるべきだと考えているんですが,現状はそうではないという課題が挙がってきた中で,そういう状況にもっていく方法には幾つか選択肢があると思っております。そのうちの一つに,幾つかの団体から御要望があったように,何らかの法律によってそれを義務づけるという方法もあるのと思いだいます。また,別の考え方としては,何らかの支援事業の採択の要件にそういうことを定めておく,という方法でも,経済合理性から専門人材というものがおのずと劇場・音楽堂に配備されるということにつながるかもしれません。
 当然,どちらをとるにしても,その前提として,有期で,経済合理性を極端に指向するような形での現状の指定管理者制度の悪い面での運用の中では,どちらも実現が難しいのではないかと思います。そういうことを実現する上で,劇場・音楽堂をめぐる何らかの位置づけというものは,単なる法律,単なる支援ということとは別に,考えなくてはいけないのかなと思います。どういうことかというと,自治体がこの劇場は従来の指定管理者制度とは違う運用をするのだという意思を強く表明できるようなステージがどこかで必要ではないかなと個人的には考えています。
 その上で,そういった特別な劇場については,専門的な人材の育成を自治体,劇場と国の三者が一体となって考えていきましょう,という方向なのかなと思います。ちなみに,専門的な人材の部分だけに着目して地域主権との兼ね合いで考えると,私個人は,法律によってそれを規定するということよりは,何らか支援事業のような形で誘導する方がベターではないかなと現時点では考えております。
 もう一点,人材の育成を考えた場合,個々の劇場・音楽堂の運営主体ベースで考えると,企業で言いますと,中小企業ないしは零細企業に近い規模ではないかなと考えています。そういった中で,若いうちはどこで勉強や訓練をしてもいいと思いますけれども,先ほど片山先生もおっしゃったようなミッドキャリアですね,中堅以降になった段階での専門的人材,アートマネージャー等の養成については,場合によってはそこに国が関与する,あるいは協力する形で,全国のOJTの現場となる劇場・音楽堂をつないで,ミッドキャリアの人材流通と言いますか,いわゆる出向・派遣のような制度も含めた形で,場数を踏めるような制度のようなものもあってもいいのではないかなと考えています。
 実際,地方公務員の方も,国の省庁とか他(ほか)の自治体への出向制度等あるわけですけれども,現状,私が見聞きしている範囲では,劇場・音楽堂でそういったことをやっていらっしゃるところは少ないと思います。そういう制度が実際にあれば,劇場・音楽堂に関連する人材のキャリアプランと言いますか,キャリアデベロップメントの中でも,より有効に機能するのではないかなと思います。取り急ぎ人材については以上です。

○田村座長

 はい,どうぞ。

○根木委員

 人材の育成については,私どもの大学でもアートマネジメントのコースを持っておりますし,一般大学でも色んな形でやっておられますが,分野やジャンルによってカリキュラムが相当違いますし,それもまた当然だろうと思います。本格的な劇場・音楽堂を念頭に置いた上でお話をいたしますと,それに関するきちんとした人的組織は必要であり,そのための専門スタッフとしての将来を見通した養成システムについて,現在大学でやっているもの,色んな形の研修制度で行っているものなどを総合して,できれば資格とか称号とかいったものに結びつけていくのがいいと考えています。
 ただ,そうは言っても,規制緩和の折から,国がそういったものを設けること自体がそもそもナンセンスということもあると思いますので,どこかしかるべき公的な団体なり学会なり,そういったところが,ジャンルごとでいいと思いますが,ある一定の基準に基づいて,大学卒のレベルではこう,修士を出ればこう,博士号をとればこう,更に世の中に出て一定の経験を積んだ場合にはこうといったスタンダードを設け,そういった形でのシステム化を図る必要があろうと思います。今はごちゃごちゃしており,また,現場にいる人たちにはそれなりの自信もあり,若手が入ってきても使いものにならない,大学でのトレーニングも余り評価しないなどのことがあります。これらを克服し,何らかの形で,人材育成を資格や称号に結び付けてシステム化する必要があろうと思います。
 ただ,これが法律事項になるのかという問題がありますが,抽象的でもよいので,そういったものを法律の中に設け,将来具体化できる余地を残しておくことが必要ではないでしょうか。博物館法や図書館法のように,司書や学芸員の資格まで書き込むことは難しいと思いますが,そのような制度が具体化できる余地を条文上で残しておいてもらえれば有り難いと思います。

○田村座長

 はい。

○三好委員

 ここの人材と管理運営の話になると,指定管理者の議論とある程度にらみながら議論していかないと難しいのかなと思います。特に,以前から頂いている資料の中でも,指定管理ではなくて直営のまま維持しているとか,あるいは,指定管理になっても自治体が設立した財団法人などに指定管理を任せている。それの一方の局面から見ると,例えば美術館・博物館のように学芸員のいるところは,現にいる学芸員をどうするかという問題から,そうならざるを得ないという問題が出てくるわけですね。
 そうすると,例えば資格というもの自体は私も必要性はあると思うんですけれども,それを何かつけたとしたときに,今の指定管理との関係でうまく維持されていくのかどうか。逆にいうと指定管理の運用の方法をそれに合わせていくのかと,そこの議論をやっていかないと,資格だけの議論にはならないだろうなというのがまず一点。
 もう一点は,ここでは専ら官の問題としてそういう資格の問題が出ているわけですが,もう一つは,行政職員の側(がわ)において,少なくともそういうことに関して,専門家とまでは言いませんけれども,ちゃんと理解できる人,つまり,指定管理にするにせよ指定管理の要件は発注者側が出さなければいけないわけですから,そこの職員の資質も合わせて考えておかないとうまく機能しない。
 私は指定管理者制度自体は評価できると思っているんです。というのは,今まで自治体でやれなかったことを,指定管理ということで別の団体がかなり思い切ったことができるような制度になってきているという意味での評価はするんですが,一方で自治体側は全くそれに関与しない,あるいは,極端にいうと興味を持たない。ちゃんとやれよと言うだけで終わってしまうというのでは問題になるので,そことの関係も考えておかないといけない。直接的な人材とか管理運営そのものは官の側(がわ)の問題だとしても,こちら側の問題も同時に考えていかないといけないのではないかと思います。

○田村座長

 ありがとうございます。

○根木委員

 指定管理者制度と資格ないし称号付与の事柄とは必ずしも矛盾しないのではないでしょうか。公募の段階である程度の条件をつけておけば,それに見合うような人的組織を指定管理者が整備して応募してくるということになると思います。
 私が関(かか)わった極端な例では,公演の都度また事業の都度,本社から人を派遣するといった形の応募会社もありました。人件費削減ということを念頭に置いたのだろうと思いますが,これは全くのナンセンスで,その意味で,条件づけは必要なことと思います。また,そのことを判断できるような行政官を,設置者としては,配置することも必要だろうと思います。

○田村座長

 片山先生,いかがでしょうか。

○片山委員

今,資格の話が出ましたけれども,技術に関するところについては資格というのはありだと思います。それから,マネジメントに関するところでも,例えば税理士とか会計士とか,特定の知識に関しては資格というのがあっていいと思うのですが,館全体の経営に関(かか)わる,管理部門の人材ということで考えれば,世界的に見てもそれが資格制度で運用されているケースはないと思います。あくまで学位であって,修士号で,アートマネジメントや文化政策や,あるいはMBAやノンプロフィットマネジメントとか,そういう学位のレベルで見識をとらえ,総合的にやっていくことが主流です。
 よく学芸員を引き合いに出されることがあるんですが,学芸員の方々も確かに養成課程の中では博物館運営論とかいう科目を幾つか学びますけれども,学芸員は基本的にはマネジメントの資格ではなくて,プロダクションと言いますか,文化の中身について調査・研究して企画をする資格だと思います。ですから,そこは混同しない方がいいだろうと思っております。あくまでも学位のレベルで,総合的な見識を持った人を配置していくことが必要だと思います。先ほど三好先生もおっしゃいましたけれども,ホール,劇場の運営に関(かか)わる人たちだけではなくて,自治体の窓口になる文化政策の部署の担当の人にも,そういう能力を持った人を配置していくということが必要なのではないかと思います。  

○田村座長

 ありがとうございました。
 司書も学芸員もその資質というか,今どういう検討会が行われているかというのはわかりませんけれども,きちんと考えるべきではないかという検討が行われつつあるということは事実だと思います。本来の司書はどうあるべきか,本来の学芸員はどうあるべきかということです。指定管理者制度で比較的うまくいっているところは,根拠法のある図書館であったり美術館に,すべてというわけではございませんけれども,成功している例があるような気はいたします。専門人材がいるということはやっぱり大きいかなと思っております。ありがとうございました。
 それでは,続きまして,資料2の5の劇場・音楽堂への国の関(かか)わり方と,6の劇場・音楽堂等の定義や対象範囲等,それから,7のその他について,事務局より説明をお願いいたします。

○鈴木芸術文化課長補佐

<資料2の5.6.7.について説明>

○田村座長

 ありがとうございました。
 それでは,今御説明いただいたところについて,順次意見交換を行っていきたいと思います。どなたからでも結構でございますので,よろしくお願いいたします。はい,どうぞ。

○太下委員

 今御説明いただいた,7その他の部分にも出ていますけれども,こういった劇場・音楽堂をめぐる議論というものは,ある特定の関係者の間では非常に活発化しているように思うのですが,なかなかまだ国民的な広がりがない。もちろん,一部にはもしかしたら国民的な広がりというのはそんなに重要はないという御意見もあるかもしれませんけれども,私はやはりこういったものは広く関心を持ってもらいたいと思いますし,持ってもらう方がより今後の芸術振興につながると考えています。
 その観点で,前回のヒアリングである団体の方のお話の中で,聴衆が非常に減ってきているということ,同時に非常に高齢化しているという御説明がありました。残念ながら,特効薬的な対応策というものは特にないというお返事でしたけれども,これは日本全国で少子高齢化が進んでいるので,ある意味芸術分野だけではないと言いつつも,私が見ている感じでは,日本国民全体の高齢化・少子化よりも早いペースで,ある特定の芸術分野の聴衆というのは高齢化・減少しているように思います。
 そういった意味では,この劇場・音楽堂の在り方というものを考えるベースになる部分でもありますので,従来型の言葉でいうと「聴衆の新たな開拓」というのでしょうか,現代的な言い方でいうと,潜在的な聴衆を見いだして,そことネットワークを作って,情報とか価値観をシェアしていくような幅広い活動が,実際の創作活動や公演に先立って行われなくてはいけないと思います。そして,それは個々の団体又は個々の劇場・音楽堂でもやるべきこととは思いますが,国全体として進めていく活動の性格が強いのではないかなと考えています。
 一方で,そういうことを進めていく知恵は現場にあると私は思っていまして,そういうことから考えると,例えば,文化庁の支援の事業として,そういう新たな聴衆,潜在的な聴衆の開拓と言いますか,価値観をシェアしていくような活動というものを公募して,優れたプログラムに対して助成していくことも必要ではないかと思います。もちろん,これをやればいいんだという単一の答えはないと思いますが,そういう現場,例えば芸術団体からかもしれませんし劇場・音楽堂からかもしれませんけれども,幾つかそういうプログラムに対して幅広く手厚く支援していくことによって,単に公演を創る部分だけではない,もっとファンダメンタルな部分での劇場・音楽堂の基盤を支えることも一方で必要だと考えています。
 そう考えると,優れた芸術活動の創造・発信というものからちょっと遠くなってしまうイメージもあるかもしれませんけれども,例えば違う分野でサッカーの活動などを見ていて思うんですけれども,日本人のサッカー選手がすばらしい活躍をして,世界的に引き抜かれていくという現象を見ると,私のようなサッカーの素人でもすごいなと単純に思いますし,サッカーについてもうちょっと勉強すれば,ヨーロッパへの移籍がどのぐらいすごいことなのかということがよりハッキリとわかるわけですね。移籍先のクラブによって,いいクラブに行ったとか,まだまだだとか,みんな素人なりにある一定のリテラシーをもって評価しているわけですから。
 理想としては,できれば演劇とか音楽の分野についても,そういうことを幅広く国民がディスカッションできるような社会ができるといいのではないかなと思います。特定の一部の専門関係者だけが評価するパフォーミングアーツということではなくて,自分はまだ直接劇場に行ったことがないんだけれども,何かすごいことが起こっているよというようなことが日常的に議論されるような広がりを持つような活動というものも,一方では必要ではないかなと思いました。
 以上です。

○田村座長

 ありがとうございます。
 他(ほか)の方はいかがでいらっしゃいましょうか。
 どうぞ,根木先生。

○根木委員

 先ほど「劇場・音楽堂」という言葉がどこから出てきたのかという話がありましたが,これは,文部科学省設置法上の言葉をそのまま使ったのではなかろうかと思います。したがって,余り深くは考えていなかったのではないのかと思いますが,一旦(いったん)「劇場」として明記された以上,その本来の趣旨,すなわち創造機能を持ち,ハードとソフトを含めてきちんと運用できるような仕組みが意図されていると認識してよろしいかと思います。
 また,国の役割との関(かか)わりについてですが,文化芸術の頂点の伸長が第一義的な役割としてあると思います。しかし一方で,すそ野の拡大も今ひとつの役割としてあります。この両者はベクトルが違います。
 したがって,今回の法律論を,頂点の伸長ということに焦点を当てそこに特化するということであれば,劇場・音楽堂の定義をきちんとした上で,トップを伸ばすことに傾斜した形での法律案の構成ということになるでしょう。一方,すそ野の拡大も引っくるめた網羅主義の観点に立った場合でも,別の理論構成はできると思います。結局,どちらとするかは最終的には行政判断となるでしょうが,その場合,どちらをとろうとも,理論構成は十分に可能ではないかと思われます。

○田村座長

 はい,どうぞ。

○三好委員

国の関(かか)わり,あるいは,定義,対象範囲ということに関して申し上げれば,公立文化施設というものを念頭に置いて議論するならば,それは既に長い歴史と,数多くの施設がそれぞれの地方自治体の中での何らかの議論を経て,少なくとも議会を通して設立されているという現状において,すべてを国が新しく何か対象にしていくことはおよそ現実的ではないし,多分法律を作るということに対する合意も得られないだろう,少なくとも内閣法制局の審査を通らないだろうと思います。
 そういう意味でいうならば,ある程度国の政策意図を明確にしたものとして法を作っていくということはやっぱり必要な部分ではないかと思います。色んな御意見の中の,例えば枠に押し込むとか,型にはめ込むとか,そういう議論ではなくて,まさに国の文化政策として,文化芸術基本法を作ったことの延長線の中で考えていくべきですから,そこは積極的な意図を表現すべきではないだろうかということがまず一つ。
 それから,先ほど来の議論の中で言えば,例えば人的要因とか資格とか,あるいは,設備といったものと,それを支援するためのインセンティブを与える方策と,大きく2つあると思うんですけれども,それは少なくとも法律レベルでいうならば両方あってしかるべきではないだろうかと思います。もちろん,どっちがより重要かという議論はあると思いますし,逆に支援だけであれば,それは法律として本当に必要かという議論になっていくと思いますので,それは両方あっていいのではないかというのが,ここの議論として取り上げられてくることではないだろうかと私は感じています。
 以上です。  

○田村座長

 ありがとうございました。
 片山先生,どうぞ。

○片山委員

 国の役割ということで,先ほど発言させていただいたのですけれども,頂点を極めるところというのは一つ大事な国の役割だと思います。ただ,そこに特化すると,これまでの色んなヒアリングの中で出てきた御意見からもわかるとおり,かなり反発があるということも予想されるわけです。といって,各地域の人々の享受する文化について,すべて国が配慮してそれを支えていくことができる情勢でないということも事実ですし,地方分権の観点からも問題はあろうかと思います。
 ただ,最近の地方自治体の現場を見ると,予算等がどんどん削られていく中で,文化行政の担当部署が相当弱体化しているところがあるかと思います。専門職の人がいないということは前から指摘されてきたところですが,文化政策課のような部署の予算が削られていく中で,色んな施策を打つ際に調査費すらないということがしばしばみられます。
 先ほど文化振興条例を作るのことを促すような法整備をしたらどうかということが御意見の中にもありましたけれども,地域レベルで劇場・音楽堂をはじめとした文化施設や,地域の文化資源を使ってどういう文化振興をするのかという,いわゆるカルチュアルプランニングをきちんとするということをサポートする。要するに,地方レベルの政策立案をサポートするような政策の枠組みを国が導入し,その一方,国が独自に頂点を極めるところを地域と連携して支援しますというような二段構えの取り組み方はあるのではないでしょうか。
 私は長年アメリカの研究をしてきたのですけれども,1980年代,レーガン政権が誕生した時に,70年代にかなりばらまき型で膨れ上がってきた連邦政府の補助金を,大幅に削減しようとしたわけです。その後,芸術界からの大ブーイングを受けて理論武装を図ったのですけれども,そこで中央政府がやるべきこことをかなり明確に整理しました。つまり,民間やマーケットではやりにくい頂点を極めるような実験的なものに重点を置きましょうと。その後,その政策は前衛芸術の支援をめぐって色んな論争を巻き起こす布石にもなってしまったのですけれども,ひとつ整合性のとれた考え方ではあります。
 もう一つ興味深いのが,地方分権掲げていたレーガン政権でありながら,政府間補助金としてローカル政府に対する補助金を新たに創設しています。分権志向のレーガン政権が地方に対する補助金を増やすのかということで,一見矛盾するように見えるのですけれども,80年代になったばかりのころは地域レベルでの文化政策というのが,余りアメリカでは発展していませんでした。もちろんニューヨークとかシカゴとか大都市は確立していますけれども,小さなコミュニティはまだそういうのがなかったという段階で,地域レベルでの文化振興をちゃんとやっていくような,ローカル・アーツエージェンシーを自立させていくための補助金を連邦政府がレーガン政権の時に出しているのです。一見すると,政府間補助金を増やしているので地方分権に矛盾するようなのですけれども,実はそれは地域レベルでの政策的な自立を促すための補助をやったということなのです。
 このアメリカの例は補助金の話ですから,ここでの法制度の議論とは直接結びつかないかもしれませんけれども,頂点を極める政策と地域を自立させていく政策をセットにして進めていくというのは,整合性もとれますし,合意を得ながらやっていける方策なのではないかなと思ったところです。

○田村座長

 はい,どうぞ。

○三好委員

 今,片山先生のお話で思い出したことがあったので,一言だけ補足させていただきたいんですけれども,私はある自治体の文化政策を,ビジョンを作るというのでお手伝いした時に,その自治体ではもともと文化振興条例を制定していて,かなり特色ある芸術文化を育てようということがビジョンの中に書かれてあったんですね。現実はなかなか進んでいなかったんですけれども,文化基本法ができた後に,ビジョンの改訂をするときにそういう項目が消えて,もっと幅広くやりましょうという一般的な話に戻ってしまったんです。「何でそんなことをするんですか」と自治体の担当者に聞いたら,文化芸術振興基本法がそうなっていますと言われました。「お宅の条例は違うでしょ」と言ったんだけれども,「条例よりも文化芸術振興基本法の方が幅広くみんなにというニュアンスが非常に強かったので,そういうふうに改正します」というお話だったので,私はそこで「うん?」と思ったんですが,そういうことがありました。
 結局,自治体にとってみれば,法律でどう規定されているかということは,かなり大きなインパクトになるし,行政担当者なり,あるいは,施設の運営する立場の人から見ても,国がせっかくそういうことを言ってくれたのなら,自分たちはこうしようという役目はあるという意味ですので,もし法律を作るのであれば,今,片山先生がおっしゃったように,そこは意識的にやった方がいいのではないかと思います。

○田村座長

 ありがとうございました。
 実際問題,携わっている方はそういうことを望んでいらっしゃるかなという気もいたします。
 皆様,この部分でまだお話になりたいことは十分おありだと思うのですが,今日はここまでにさせていただきます。長官,よろしいですか。

○近藤長官

 はい。

○田村座長

 それでは,ありがとうございました。時間となりましたので,本日の討議はこれで終了させていただきたいと思います。今後の日程について,事務局よりお願いいたします。

○鈴木芸術文化課長補佐

<資料3の説明>

○田村座長

 それでは,本日はこれで閉会とさせていただきます。どうもありがとうございました。

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