議事録

劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会(第6回)

平成23年6月27日

【大川芸術文化課課長補佐】  それでは定刻になりましたので,会議を始めさせていただきたいと思います。冒頭,資料の確認をさせていただければと思います。

<配付資料の確認>

それでは,よろしくお願いいたします。

【田村座長】  それでは,ただいまより,第6回劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会を開催したいと思います。委員の皆様におかれましては,御多忙のところ御出席いただきまして,ありがとうございました。
 さて,震災の関係もありまして,4月,5月と検討会の開催が見合わされましたが,本検討会では,これまで12の関係団体や有識者の方々から,貴重な御意見を頂いてまいりました。また,これまでの検討会において,委員の皆様にも様々な御意見を頂いてまいりました。
 本日は,これまでの議論などについて,事務局において,「論点の整理(案)」とこちらにございますものとしてまとめていただきましたので,初めにこれについて御説明いただき,今までのおさらいをしておきたいと思います。
 それでは,事務局から,説明をお願いいたします。

【大川芸術文化課課長補佐】  失礼します。

<資料1について説明>

 長くなりましたが,今までの現状や課題,それから論点に対する御意見を網羅的に御説明させていただきました。以上でございます。

【田村座長】  ありがとうございました。このように,様々な議論を頂いたわけでございますけれども,この中で地域の実情に応じた地方公共団体の考えも生かせる劇場・音楽堂等の在り方,制度が,助成とリンクしないような法的整備という指摘もございます。こうしたことも含めまして,今後の進め方ですね,法的基盤の整備ということについて御意見のある,まず最初にどういう法的基盤整備がいいかというようなことでもって,御意見のある方はお願いしたいと思います。
 はい,根木先生。

【根木委員】  今,御紹介がありましたように,今までの議論やヒアリングでは,かなり正反対の意見があったようです。例えば,一定の類型化に基づいた選別主義でいくのか,地域文化のセンターという観点から網羅主義で考えるのか,国が主導すべきなのか,地域主導とすべきなのか,また指摘された問題点についても,制度的な課題なのか,運用上の課題なのか,といった点です。
 ただ,総じて人材の必要性については,おおむね共通認識があるようで,その根底には,単なる施設ではなく,何らかの人的組織を備えた営為の実体を持つ機関であるべきだという要請があるように思われます。
 また,これまで,どちらかというと,劇場・音楽堂それ自体に着目した議論が先行したような感じがします。既に劇場・音楽堂は,かなりの数が存在をしており,その現状をきちんと押さえておく必要があるのではなかろうか。そして,劇場・音楽堂等において機能を十分に発揮し,創造的な舞台芸術活動が行われることで,国民がそれに触れる機会が多くなり,ひいては国民の文化的な素養を高めていくことに還元されると思います。
 そういったことからいうと,制度的なものを設ける最終的なねらいは,舞台芸術の振興ということに帰着するのではなかろうか。したがって,劇場・音楽堂それ自体というよりは,劇場・音楽堂をベースとする舞台芸術の振興という角度から議論を進めていったらどうかと思います。
 それにより,今まで見落としていたものも別の角度から見えてくるのではなかろうかと思います。

【田村座長】  根木先生はどちらかというと舞台芸術振興ということにポイントを置いてという御意見ですけれども,ほかの方はいかがでいらっしゃいますか。片山先生。

【片山委員】  何度かこの委員会で申し上げていたんですけれども,この委員会のそもそもの設置趣旨は,劇場・音楽堂等がすぐれた舞台芸術の創造発信等に係る機能を十分に発揮するということで,すぐれた舞台芸術創造ということが,主要な論点になってきたという面があったかと思います。そのために劇場・音楽堂を選別して,ある意味,選ばれたところをどういうふうに振興していくかというところに多くの関心が集まっていたというところがあったとは思うのですが,実際にヒアリング等を実施して,いろいろな方々の御意見をお伺いする中で,必ずしもそこではなく,創造活動をするだけではない施設の問題についても,やはり制度的な整備が必要だという声が多くあがってきたというのが,先ほど大川さんがまとめくださったことだと思います。
 そういった中で考えますに,確かにすぐれた舞台芸術の創造発信をするということは重要な政策課題であるとは思うのですが,制度的な整備という,この検討会のゴールを考えると,必ずしもすぐれた舞台芸術の創造というところだけに制度的な整備の目的を置くというよりは,すぐれた創造活動をする施設も含めて,そのほか様々な形での国,あるいは地域の文化振興に寄与するようなホールを持った施設,すなわち劇場・音楽堂と呼ぶには必ずしもふさわしくないような施設も含めて,そういうホール施設を持つ文化会館が各地域においてそれぞれ機能をきちんと発揮していけるための,ある意味ミニマムな基盤整備の法整備というところに焦点を置いていった方が適切なのではないかなというふうに,今,思っているところです。
 このことは,決して,高いレベルの創造活動をする施設にとって悪いことではなく,その部分については,むしろこの制度だけでやるというよりは,今別途議論されている,新国立劇場の在り方とか,日本版アーツカウンシルなどといった補助金制度などを総合的に検討していく方が,むしろ政策としては適切だと思います。ここでの制度的な在り方においては,様々な形で地域の文化振興をになっていってほしい,そういう施設の,ある意味ミニマムなところの基盤整備に関する制度化を念頭に置くのが良いのではないかと思っているところです。
 そのときに,それでは,具体的に何を法の中に盛り込むのかというところ,ここについては,根木委員が先ほど御指摘になられたように,やはりその単なる施設,ハードではなくて,それが地域の文化振興に寄与するインスティテューションとして機能するためには,やはり人的配置が重要だということになります。ただ,人的配置を規制によってやるというのは非常に難しいと思いますけれども,そういうことをやろうという意思を持った設置者,大部分は地方自治体になるかと思いますが,民間の施設も含めて,地域の文化振興の担い手になるということを目指そうという施設の,人的配置を支援するような枠組み,緩やかな側面支援をするような体系の,ミニマムな法整備をしていくというのが適切なのではないかと考えている次第です。

【田村座長】  ありがとうございました。太下先生,はい。

【太下委員】  法的整備に関しましては,論点の整理でまとめていただいた9ページの下から3つ目にございますけれども,国による認定とか助成について書かれていますが,劇場・音楽堂等の中で格差が生じるという懸念もあることから,国による認定と助成とは切り離して考えるべきだろうと書いてございます。そもそも国による「劇場」の認定制度が必要なのか,という論点はちょっと置いて,少なくとも,舞台芸術といいますか,劇場・音楽堂にかかわる文化政策的な振興という意味で,助成については今後是非拡充していっていただきたいと私は思います。ただし,その拡充と,いわゆる劇場法の議論というものは,やはり分けて考えた方がいいのではないかと考えています。
 その上で,具体的にはどう考えていったらいいのかという点については,先ほど根木委員がおっしゃいましたとおり,劇場・音楽堂といいますと,施設,ハードという認識がどうしても先行するかと思いますけれども,やはり劇場・音楽堂というものは,1つの運営機関といいますか,組織体なのだと考えて,そのようなソフトをベースにした舞台芸術の振興を考えるのが素直であり本質をとらえることになるのではないかなと思います。
 その際は,別の項目で整理していただいている指定管理者制度と関(かか)わりも出てくるかと思います。前の検討会のときに申し上げたことですけれども,指定管理者制度という制度導入によって,制度上の問題ではなく運用上の問題であると思いますが,運営組織体,運営組織としてのソフトと,劇場のハードが切り離されている状態に基本的にあると認識しておりますので,ここを運用上,どのようにもう一度結びつけ直していくのか。その上で,その意思のある劇場・音楽堂ないしは地方自治体に対して,国としてどういう側面的な支援ができるのかという組立てが今後検討していく方向かと思っております。
 簡単ですけれども,以上です。

【田村座長】  三好先生。

【三好委員】  はい。改めて整理をしていただくと,この問題の難しさというものを再確認する次第であります。
 何が難しいかと,つらつら考えてみると,制度的検討となっているわけですが,その制度的検討が,要するにだれに向けてのものなのかというところが,今一つこの論点整理をしていただいてもまだよく見えてこないという,そこの問題が大きいのかなと思っています。特に,今回制度的検討を文化庁さんがされているという意味でいうと,当然その国がというのが1つあるんでしょうし,それから,公立文化施設という意味でいうと,設置者である地方公共団体というのがもう一つありますし,それからもう一つは,そこをいわば利用する側(がわ),利用する側(がわ)も2つ多分あって,いわゆる興行し演じる側(がわ)と,それからそこを見にいく,鑑賞する側(がわ)。ですからそれ以外にもあるかもしれませんが,少なくとも,大きく言うと,4つないし5つあるわけですね。
 で,改めて,今の文化芸術振興法は,これは当時の考え方なのか,もともとこういう法律だからそうなのかわかりませんが,ほとんどのところはやはり,主語は「国は」なんですよね。「国はどうする」というのが,今の文化芸術振興法の主たる部分だと理解をしているんです。
 そうすると,今回,その文化芸術振興法とは別に制度的な検討をし,それを,法律かどうかわかりませんが,何らかやるとした場合に,そこをだれに向けて出すのかというところが,多分もう少しこれ議論が必要なんだろうなと思っています。
 そのことは,多分今の根木先生とか片山先生がおっしゃる中身とも関係してくると思っていて,例えばその建物を単に施設じゃなくて,もっと機能的に使うんだという意味でいうと,それはほとんど設置者に対するものになっていくと思うんですね。そうではなくて,さっきの認定のような話になると,かなり「国は」という主語が,国なのか,何とか基金なのか,そこはちょっとわかりませんが,少なくとも設置者以外のところが相当強く出てくることになると思うんですね。ですから,今回のつくる法律というのが,だれに対して制度的な在り方を示したのか,そのことが内容をどういうふうに規定するのかというところと,かなり関連性があるのではないかと,まずそういう整理をしてみたいと思います。
 その上で,今の劇場・音楽堂の現状なり,そこに求められているものから考えていくと,1つはその設置者に対してそういうことを課していくということももちろん必要なんでしょうが,そこはもともと公の施設,少なくとも今の自治法上公の施設という形で設置されているものですから,そこを更に付加するというのは,かなり難しいのではないかと考えています。
 そうなると,国なのか,あるいはそこを使う人なのか,これのいずれかにもう少し何か制度的に手当をするようなことをやっぱり考えていかなければいけないのではないだろうかと。ですから,まさに今法的基盤がないと言っているところは,少なくとも設置者側にとってみればあるんですよね。だから,今ないのは,むしろ国若しくはそこを使っている実演者若しくはその鑑賞者に対するところの法的な制度というのが多分ないと考えた方がいいのではないかというのが,ちょっと私の整理なんですけれども。
 まだそのあたりで,論点をもう一回見直してみると,どうもその辺から入っていかなければいけないかなと思って,まだ十分にそこから先の整理がまだ追いついていないんですけれども,ちょっと今そのように感じています。

【田村座長】  ありがとうございました。公立文化施設は何のためのものであり,だれのためのものかというのは,やはりよく言われることでございますけれども,私がよく考えますのは,芸術家や芸術団体のためのものではないということです。結果としてそうなるときはあっても,そうではなくて,芸術家や芸術団体が,芸術を通して,社会貢献する場であると考えることもできるのではないか。公立文化施設はそのための受皿ではないかというふうに考えます。
 ですから,この法整備が,多分今2通りの御意見が出たと思いますが,そこをどうするか,国が基本法で国民の文化権をということが理念になっておりますよね。基本法に基づく制度的な整備ということではないかなと思いますが,その辺はいかがでいらっしゃいましょうか。どうお考えでいらっしゃいましょうか。結果的に,舞台芸術振興になるというのは,片山先生がおっしゃったように,もう全然やぶさかでも何でもないんでございますけれども。
 第一義的に考えるのは,三好先生がおっしゃったように,何のためのものなのかということが必要かなとはちょっと思いますが,いかがでいらっしゃいましょうか。

【三好委員】  はい,じゃ,いいですか。今の座長の御指摘ですので,もうちょっと言葉をつけ加えたいと思いますので,よろしゅうございましょうか。
 もちろん最終目的が,国民の芸術文化に対する何とかというのは,そこは全く異論のないところなんですけれども,それはいわば大きな目標であって,そのために何をするのか,それをやるためには何をしなければいけないのかというところがまさにここの制度的な議論だろうと思っていますので,そのときに,だれが何をするかということで言うならば,私の整理として言えば,大部分の公立文化施設の設置者である地方公共団体に,もちろんゼロではないですけれども,何かを課していくということが,結果として,今のような目的に合う形になっていくのかどうか。もともと施設はそれぞれ,条例で設置されていますし,そこに設置目的は少なくとも書かれているわけなので,それを例えば法律で上書きするというのは,制度上は可能ですけれども,多分あまり意味のないことです。つまり条例でどう書こうが,現実の運営があるわけですから,それを,例え法律がどう書きかえようが,多分現実の運営はそんなに変わっていくものではない。ですから,むしろ現実の運営を変えていくとするならば,それはそこでそれを使っている演じる側(がわ),あるいはそこを使っている鑑賞する側(がわ),そこに対して何かを訴えかけていかないと,多分現実は変わっていかないんだろうなと思います。そういう意味で,何を制度的にするかというと,そちらの方にむしろ持っていくべきではないかと思います。
 そのときに,そうすると,先ほどの根木先生とか片山先生のお話の中で,例えばそういう一定の人材といったときに,どこに人材,どこの人材が一番欠けているのかということなんですけれども,もちろんその設置者にそれを求めることもないことはないと思うんですけれども,多分それは設置者である地方公共団体にそういう人材を求めていっても,ある限界がすぐに見えてきちゃうと思うんですよね。ですから,直接設置者にというのではなくて,団体というか,公演者側の中から,もう少しそういう人材を育てていかないと,多分今すぐに人材の配置を義務づけるという形にしても,なかなか難しいのではないかと,今までの公立文化施設のできてきた経緯から見ると,そういうふうに感じています。
 もう一言だけ足せば,やっぱりその使う側(がわ)の方が,もう少しそういうことに関して,自分たちの方で,何か制度をつくっていくということを出していかないと,そういうことを例えば制度として後押しするということにした方がいいのではないかと思っています。

【田村座長】  はい,根木先生。

【根木委員】  劇場・音楽堂の存在する意味は,舞台芸術をそこで公演し,それによって国民の鑑賞活動を促進し,ひいてはその地域の文化全体の水準の向上に資することにあろうかと思います。ということは,最終的なねらいは,国民の文化水準の向上ですが,直接的には舞台芸術の振興に焦点が当たるのではなかろうかと思います。
 舞台芸術の振興にはいろいろな手段があるわけですが,ここでは,劇場・音楽堂を通してというか,劇場・音楽堂をベースとした舞台芸術の振興という観点から考えたらどうかということを先ほど申し上げたところです。例えば,我が国ではもともと小屋とカンパニーが分離していたわけですが,その両者を結びつけて舞台芸術の振興を図るという認識も入ってくるのではなかろうか。劇場・音楽堂自体に着目していた場合は,そういう発想が欠けることになるのではなかろうか。もう少し広い観点から考えると,フランチャイズであるとか,共同制作といったことも視野に入ってくると思います。
また,必要な人的組織も,どの程度必要なのか。舞台芸術の振興といっても,幾つかのレベルがありますので,それに応じた形での人の手当とか,実際に中で行われる企画制作機能とかを考える必要があります。買い公演に関しても,単なる買い公演ではなく,きちんとした評価基準を持った人がいて,評価をした上での上質な公演の提供が必要です。そういうことも含めて国が支援をするといった包括的な枠組みに持っていくことが必要になってくるのではないかと思います。
これまで正反対の意見もいろいろと出ていましたので,その間を縫ってうまく破たんがないような形で軟着陸をさせるには,劇場・音楽堂をベースとする舞台芸術の振興という観点から再構成してはどうかという感じがしておりますので,あえて先ほどの発言をさせていただいた次第です。

【田村座長】  ほかによろしゅうございますか。はい,片山先生。

【片山委員】  根木先生が今おっしゃったところで,いわゆる買取りだけをするような施設も含めての人的配置ということが非常に重要だと思うのですが,現実には,それすらもやっていない,つまり自主事業もやっていない,貸し館だけの施設であっても,市民のどういうグループにそこを借りてもらうのか,そして施設を借りて,そこで活動する人たちにどういうアドバイスなりソフトのサービスを提供できるのか,そしてそこで行われていることが,地域の文化振興にどのように意義があることなのかをきちんと説明できるということが必要です。やはり求められる人的組織の機能は,買取りも含めて自主公演をやらないような施設であっても,地域の文化的な振興を図るための施設,先ほど座長がおっしゃった,国民の文化的権利を保障するための施設として必要なのだと思います。
 ですから,ここまでを含めて舞台芸術の振興だ,ということで定義すれば,私もそれでいいんですけれども,その辺,いわゆるプロの公演が行われ,それを国民が鑑賞するという関係だけの場と位置づけてしまっていいのかというところに,ちょっと私はこれまでのヒアリングなどを通じて,疑問を感じているところがあります。むしろ,その施設で行われるべきことというのは,もう少し幅広くて,単なるプロの公演と,それの鑑賞という関係だけではなくて,アマチュアの市民の人たちの活動とかいうことも含めて考えるべきであって,やっぱり地域の文化的な振興に寄与する活動がきちんと行われるための箱が,単なる箱ではないための人的措置を緩やかに支援するというところに,法整備の論点を持っていったらいいのではないかなと思っております。そういう意味では,ちょっと三好委員のおっしゃった,利用する側(がわ)の方の観点での法整備とおっしゃったのが,ちょっと私まだ具体的にイメージがわいていないので,もしよろしければ,その辺御説明いただけたらと思うんですけれどもよろしいでしょうか。

【三好委員】  いいですか。

【田村座長】  どうぞ。

【三好委員】  私が申し上げているのは,例えば今のような,何らかの評価が必要であるというのは,それは確かにあると思います。ただ,それ自体を,例えばその館がどういう運営をしているかについて,例えば法的にそれを決めて,こういう枠組みでこういう評価をしなさいということを言うのはかなり難しいのではないかと思います。
 逆に言うと,施設に対して義務づけをするというのは,そもそもその義務づけをする意味というのがなかなか出てこない。逆に言うと,それはむしろ義務づけをするよりも,自主性に任せた方がいい部分があるし,少なくともその公立施設に関しては,議会というのがどの程度寄与しているか,機能しているかは置くとして,制度論でいうと,既に議会で議論されているはずなので,それを更に法律で何とか手当をして,更に何かを付加するというのは,非常に立法的には難しいのではないかと考えています。だからそういう意味で,その施設側に着目をして,今以上の義務づけをするというための積極的な必要性というものを,少なくとも立法論としてやるのは非常に難しいのではないかというのが,まず1つあります。
 逆に利用者の側(がわ),例えばそれが芸術公演団体と鑑賞者,両方あると思うんですけれども,例えばその芸術公演団体の側(がわ)において,例えばそういうそのまさに文化芸術の振興のためには,その人たちが何をしなければいけないのか,例えば先ほどの人材のようなことであれば,それは館に必要な人材なのか,あるいは公演者に必要な人材なのかというと,むしろ公演者の方に必要な人材のことについて,これは現実にどこも手当できていませんから,ですからそういうことを言っていくことは意味があるのではないかというのが,さっき申し上げたことの意味です。
 鑑賞者については,なかなかその法的な手当というのは難しいと思いますので,少なくとも,例えばその芸術団体なり何らかのグループに対して,一定の基準をつくる,あるいは資格とまでは多分いかないと思いますので,何らかのレベルを維持するということについての制度的な検討というのは必要ではないかと,そういう意味でございます。

【片山委員】  1ついいですか。

【田村座長】  はい,どうぞ。

【片山委員】  まず最初の点なのですけれども,私もそういう施設に人員の配置を義務づけるということは言うつもりは全くありません。自らの条例でやろうとする施設に対して,例えば人材育成であれば,いろんな研修制度を提供するとか,あるいは人材の流動化に対する支援をするとか,あるいはそういう人材に対する社会保険とか,そういった制度面でのサポートをするということでも相当な支援になると思っています。設置を義務づけるというような規制は難しいというのは,私も認識しているところです。
 それから,芸術団体,実演団体側の人材の充実というのは,それは必要だというのは私も同意するところですが,これについては,この劇場・音楽堂の制度に限らず,実演団体の人材充実に関する支援策として別途行った方が適切だと思います。

【田村座長】  はい,どうぞ。

【根木委員】  先ほど片山先生がおっしゃっていたことと関連しますが,資料1の5ページの上から2つ目の丸のところで,劇場・音楽堂等における活動については,創造活動の場,鑑賞活動の場,市民参加による芸術文化活動の場,市民による活動や交流の場として,いわゆる4類型に分けています。少なくとも3つ目の参加型文化活動あたりまでは念頭においていいのではないかというつもりで先ほどから申し上げていたところで,必ずしもプロに特化したものという意味で申し上げたのではありません。
 つまり,市民文化活動もひっくるめた舞台芸術創造の場として,劇場・音楽堂というものをどう考えるかという視点に立つべきではなかろうか,という意味合いで申し上げたわけで,この第3類型の場合も,市民文化活動に何らかの援助やサポートをするためには,コーディネーターとしての機能が必要と思われます。
 また,劇場・音楽堂それ自体を考えることになりますと,制度論でがちがちしてきますが,劇場,音楽堂を拠点とする舞台芸術の振興法とでもいった法律にし,そういう条件ないし要件が整えば,何らかの支援措置が講じられるといった持っていき方にすれば,ある程度軟着陸できるのではなかろうかという感じがします。

【田村座長】  多分,国の支援,助成も,その芸術団体に向けての支援の方が,前は強かったように思います。それが劇場というか施設の方にシフトしてきたというか,施設の方も含むような助成の仕方になっているように思います。私は実際問題,自分で地方の文化施設に携わっておりますが,芸術団体はたくさんあるものの,文化施設の体力を強めない限りは,そこに上演されるものの質というのは上がっていかないと思います。地方で手を抜くといわれることがよく言われますけれども,これはやっぱり文化施設側に相当見識のある目がないと,最終的に地方に多彩で上質な文化芸術というものは存在するようにならない。例え鑑賞型であっても,それを提供される場にならないというのが現実でございますね。そういう意味で,片山先生がおっしゃった地域の文化振興を目的とした舞台芸術の振興という観点も視野に入れて,その文化施設側がいわゆる地域住民にとって,本当の意味での役割を果たせるような制度整備ができればと,私は痛切に感じます。
 要するに,施設にプロが存在しないということがどんな思いをしてしまうかということです。ワークショップ1つとっても,アウトリーチ1つとっても,そこの地域に提供されるものが,もう要するにおざなりのものになる可能性がある。そこの施設に見識あるプロがいれば,それは変わってくる,注文がつけられるということですよね。私などは実際やっておりますので,その必要性をすごく感じます。

【太下委員】  ちょっとよろしいですか。

【田村座長】  はい。

【太下委員】  今の議論に関連してですけれども,私も片山委員とか根木委員がおっしゃったように,市民による文化的活動というものも,当然今回の委員会で対象にしています劇場・音楽堂での重要なアクティビティーだと思っています。
 そう考えると,当初お題のありましたように,こういったことを法で義務づけとか定義づけするということが,より悩ましいというか,気持ち悪さを持ってくるような気がします。もともと優れた舞台芸術ということと,法律を絡めること自体も,ちょっと若干違和感があるような気はしたのですけれども,市民の活動ということまで範ちゅうに入れると,余計それが顕著になるような気もします。やはり法的整備に関する議論と,劇場・音楽堂をベースとする舞台芸術の振興の在り方そのものとを分けて,ここで言っている舞台芸術の振興というのは先ほど言ったような市民文化活動も含めた意味ですが,こうした舞台芸術の振興の在り方そのものを議論した方が,より実のある議論になるのではないのかなという気がいたしました。

【田村座長】  いろいろ御議論があって,どちらかというわけにもいかないような気がいたしますけれども,少しちょっと具体的なところにお話を進めまして,そして,最終的に,今日限りではございませんので,皆様の御意見も伺いながら,ちょっと考えてまいりたいと思います。
 今,方向性ということで,いろいろな御議論を頂いたんですけれども,法整備を実際進める中で,舞台芸術の振興ということを視野に入れて,法整備をするときに,今人材ということは皆様おっしゃってらっしゃいましたけれども,具体的には何が一番必要とお考えになっていらっしゃるか,その辺をお伺いできたらと思います。

【片山委員】  じゃ,よろしいですか。

【田村座長】  はい。

【片山委員】  人材を施設に配置するということをターゲットにするということを先ほど申し上げたのですけれども,それでは,どういう人材を配置したらいいのかというのが次の論点になってくるかと思います。これまで,この検討会以外の場で議論されていたことも含めてふりかえってみると,いわゆる劇場法という議論の中では,芸術監督,芸術責任者と経営責任者と技術責任者という3つの職種を配置すべきだという議論が多くみられたように思います。しかし,これについては,少し修正する必要があるかなとは思っているところです。
 もちろん,それこそ劇団とか実演団体をもって創造活動している劇場とか,自主制作を盛んにやるようなところには芸術監督が必要だということはあるかと思いますが,そういう施設だけではなく,市民の活動のための施設も含めての法整備ということになってきますと,必ずしも芸術監督,あるいは芸術責任者というような表現が適切ではない可能性もあると思います。芸術活動の企画責任者,企画担当者ぐらいの意味合いで言葉を用いておく方が適切なのではないかなと思います。
 自主制作をするようなところは,芸術監督がそれに相当するでしょうし,買取り型の自主公演をやるということであれば,その地域のニーズをきちんと把握して,適切な作品を選ぶということができる人になるでしょう。市民が参画する活動をやるような貸し館中心の施設であれば,市民に参加を促して,そこに適切なアドバイスをするような人材ということになってくるかと思います。いずれにしてもそこで行われる舞台芸術のアクティビティーに対する企画や運営のできる責任者というこうとになると思います。
 それからもう一つは,そこでいろいろな創造,芸術文化の活動が行われても,それが地域に広がっていかないと意味がありませんので,そこでつくったものを広げていくことのできる,マーケティングの責任者ということにもなってくると思います。ここでのマーケティングは,単にチケットが売れるかどうかということではなく,チケット収入につながらないようなものであっても,届けるべき人のところにきちんと届けることができる,アウトリーチの能力を含めた意味での届けるマーケティングの責任者であることが必要であろうかと思います。
 そして,今非常に問題になっているのが,文化施設が自治体の財政が厳しい中で優先順位を下げられているという傾向がある中で,そこでの活動がどういう意義を持っているのか,そして,またそこで行われていることが地域においてどのような役割を果たしたのかということをきちんと説明していくことが重要になってくるかと思います。行政や議会,あるいはその背後にいる納税者にきちんと説明するということです。「新しい公共」にむけて,税制改正など進む中で,民間からのファンドレイジングが求められてくることになりますから,そこで行われている文化活動には意義があり,地域にとって重要なものであるということをきちんと説明して,支援を集めてこられるファンドレイジングの能力を持った人を確保することはあらゆるレベルの施設にとって必要なのだろうと思います。
 そして,4番目としては,これまで指摘されている技術や安全性とか,そこについて責任を果たすことのできる人というのが重要です。これは施設の規模によっては,常勤の人が必要なのか,あるいは複数の施設を掛け持つ人でもいいのかということはあるかと思いますが,いずれにしても機能としては,そういう役割を果たす人が必要です。今,4つのカテゴリーに分けてお話ししましたけど,このような人材が配置されやすいように,国として側面支援をするという,そんな法整備をしていくというのが必要なのではないかなと思っています。

【田村座長】  いかがでございましょうか。根木先生,どうぞ。

【根木委員】  片山先生は,恐らく地方の公立の文化会館を念頭に置いておられると思いますが,国立と私立を含めるかという問題もあろうかと思います。
 公立の文化会館の中で,先ほど片山先生がおっしゃったようなのは,どちらかというと第3類型を念頭に置いておられたのではないかと思いますが,その場合に,そういう類型化をして考えるべきなのか,もう少し網羅的に漠として,何らかの支援措置を講ずる際の要件として,その際に判断するという形にするのか,それとも法律の中に制度論として書く方がいいのか,といったことが生じてこようかと思いますよ。そうなると,国公私で事柄が違ってくるし,類型化によっても随分と形態が異なってくると思います。そういう技術的な事柄をどうするかということも,一方にあろうかと思います。
 制度論としてがちがちに決め込んだ方がいいのか,それとも振興論という角度から,そういうものをきちんと備え,ある一定の公演活動なりを企画している施設に対して,国が何らかの措置を講ずるという形態にした方がいいのか,いろいろ選択肢としてあろうかと思います。
 人材配置についても一律の義務づけというのはしんどい感じがしますが,法律あるいは条例レベルで,国が示した一定の基準に配慮してもらうようなことはできるのではなかろうか。ある程度きちんと条件設定をしないと,なかなかしんどいかなという感じがしている一方,抽象的に書く形にして,あとは条例レベルや運用面にゆだねるなどの方法もあるように思われます。

【田村座長】  はい,どうぞ。

【三好委員】  私もいろいろ言っていますけれども,舞台技術の振興ということについては,これは全く異論があるわけでもないし,今,片山先生が御指摘の,そういう人材が必要だということに関しても,そのこと自体は別に全然異議があるわけではないんですが,ただそれを具体的に,まさに制度的な検討といったときに,その辺を具体的にどうはめ込んでいくのかという話になったときに,ちょっといろいろ迷いが出てきております。
 さっきの,ちょっと言葉じりをつかまえるようで申し訳ないんですけれども,例えば,じゃ,国はそういう例えば研修とか何とかをやりなさいよということであるならば,それはもう既に,今の文化芸術振興基本法の25条で,もともと国は必要な施策を講ずるというふうに記載されているわけですから,その通りやっていただければいいだけのことなので,新たな制度的な議論では多分ないだろうと思うんです。ですから,別にそのことが必要ないと申し上げているつもりは全くないんですけれども,今回あえて,今までにプラスして,その法的裏づけのない劇場・音楽堂について,制度的な検討をするんだと言われたときに,やっぱりそこは何が欠けているんでしょうねという議論をどうしてもせざるを得ないという意味で,ちょっと先ほどから何度かくどく申し上げているんです。
 そういう意味でいうと,今,根木先生がおっしゃっていただいたので,ちょっともう少しこれは私自身も詰めたいなと思っているんですけれども,やっぱりこの,やっぱり最終的な政策パッケージにならざるを得ないと思うんですね。法律で例えばすべてのことを規定してしまうとか,あるいは予算とか何とかだけで済ませられるかというと,そこはもうちょっといろんな政策のパッケージで考えていかなきゃいけないだろうと思います。
 そのときに,だから今欠けている法的基盤は何だろうといったときに,例えば先ほどの,片山先生がおっしゃっていただいたような人材について,じゃ,そこをどこまで具体化させられるのか。こういう場でお聞きするのは非常にわかるんですけれども,じゃ,それを個別の政策なり,あるいは,ましてや法律議論としてどこまで詰めていけるのかといったときに,なかなかそこがうまくいけるのかいけないのか,ちょっと私そこ専門じゃないのでよくわからないんですけれども,そういう意味で考えたときに,あまり狭くとらえてしまうと難しいのかなと思います。

【片山委員】  よろしいですか。

【田村座長】  はい。

【片山委員】  多分,ここから先は厚労省の政策になってくるかもしれないのですが,やはり一番大事なのは雇用だと思います。指定管理者制度が導入される中で,地方自治体側も自らが専門職を雇おうという形になりませんし,文化財団などでも,いつ指定管理から外れるかということがあると,やはり長期の雇用をしにくくなっているというところが非常に大きな問題だと思います。研修をするといったこともあるのですけれども,これについてはこれまでもやっていますし,効果としては小さなことだと思います。重要なのは,人々が,こういう分野に安心して就職して,もし,ある施設の指定管理が外れたとしても,次の働き口がきちんと確保できるというような,そういう雇用の安定性を担保するような,バッファーとなるような制度設計が盛り込まれないと,なかなかインパクトがないのではないかなと思います。
 公立施設や私立の施設を含めて,これらを渡り歩けるような,ある程度の雇用の保障というか,そういうものを担保できるような仕組みを国が用意できると,現場としては人の手当がしやすくなるのではないかと思います。具体的にそれをどのように制度設計するかまでは私では余りあるのですが,方向としては,やはり雇用の確保がかなり重要なキーポイントになると思います。

【田村座長】  実際問題,1990年からマネジメントというのが教育されていて,今100校以上が大学であったり,大学院であったりで教育されていますよね。ただ,その方たちの雇用の場というのは,あるかというとなかなかない。そうかといって,今指定管理者制度でいろいろな問題が出てきたときに,行政の派遣を引き上げて,いわゆる専門家を雇えばということが簡単に出てくるんですけれども,その専門家がどれだけいるかというのが,やはり疑問を呈さざるを得ないというのが現実でございまして,もう一つその皆様がおっしゃった中であれなのは,公共文化施設の場合,いわゆる公共性を理解できているかどうかというのがすごく大きいように思います。
 公共性をどのぐらい理解して,その活動をするかというところは,やはり公共文化施設側がきちんと日本の現状では考えないといけないというところではあると思います。一方,上質を目指すということと同時に,公共性ということがすごくなかなか難しいという感じはいたします。そこまでどう考えてらっしゃるかなとは思うところはございますのと,もう一つさっき舞台技術者のお話がございましたけれど,安全性とかそういう観点から,絶対必要だと思います。使われていないものがあってもわかる者がいないとその機種を取りかえることすらできないわけですよ,会館側として。
 それと最終的に舞台技術の質が向上していかないと,舞台芸術の質は向上していかないと思うんですね。日本照明家協会の吉井さんがヒアリングでおっしゃったことのとおりだと思うんでございますけれども,そういう意味でも,さっき片山先生がおっしゃった舞台技術者の雇用の場というのは必要かなという気が,実際携わっている者としてはいたします。はい,いかがでしょう。

【太下委員】  必要なことというお題で,人材の話に議論が集中しているようですけれども,私も人材については確かにすごく重要なことだと思っています。ただし,資料1の論点の9ページ目,最後のページの上から2番目のところに整理していただいていますけれど,国が認定することについては,認定により得られる何らかの効果やインセンティブがなければ,制度として形がい化するおそれがあると書いてあります。この表現は,認定を前提にした書きぶりになっていますけれども,恐らくその人材の育成なり人材の充実ということも同じことかと思っています。仮に文化庁さんなりが「劇場人材はこうすべし」ということを言っても,それは地方自治体のホールということを前提とした場合でいうと,地方自治体側がどう考えるのかというところがどうしても大きな要件になってくるわけで,やはり何らかのインセンティブというんでしょうか,アメがないと,絶対に機能しないのだろうということを考えると,先ほど根木委員がおっしゃったように,何らかその支援策なりの要件と絡めて,それを誘導するということが恐らく現実的な政策になるのではないかと思っています。
 また,先ほど片山委員がおっしゃった,説明する人材が必要だということで言えば,例えばこの論点整理の中で挙がっていましたけれども,観客層が固定化,高齢化しているという課題があるわけですが,これは逆にいうと,劇場・音楽堂側で説明をすることによって,観客層をもっと広げていく人が必要だということにも裏返しとして言うことができるわけです。ですから,例えばそういう,新しい普及活動みたいな助成制度をつくると仮定した場合,そういう普及なり説明をする専門の責任者を置くことをその要件とする,いうようなかたちで,何らかのインセンティブを設定したり,又はその制度設計の中に,あるべきモデルが透けて見えるような形にしたりして,そういう人材の配置を進めていくことが現実的なのではないかと思っています。
 今は人材の話で申し上げましたけれども,恐らくそれはいろんな面でも同様ではないかなと思っています。例えば,施設の課題もあると思うのです。論点では明示的に書かれていなかったかもしれませんけれども,やはり指定管理者制度が導入されたことによって,いわゆる設置者である地方自治体と現場の運営者の距離が離れてしまったという問題がありました。一方で,施設は15年ぐらいで設備の改修が必要になりますし,30年ぐらいでは本体の大改修が必要になると思いますけれども,そういった追加投資に対する設置者側のリアリティーや必要性の認識は,恐らく相当低下してきているのだろうなと懸念しています。
 文化施設を改修することは,これは別に議論すべきことでもなく,当たり前のことだと思うのですけれども,それ自体も滞ってしまう懸念がありますので,何がしかインセンティブがあるような形で,設置者にそのことを気づかせ,誘導するような制度というか,方策が必要かと思っております。
 要は,何らかそういう制度設計をしていかないと,法律論だけではなかなか決着がつかないのではないかという意見を持っております。

【田村座長】  はい。いかがでございましょうか,ほかに。実際問題,根木先生や片山先生が,そういう文化政策を学んでいる生徒さんを輩出していらっしゃるお立場でいらっしゃいますけれども。

【根木委員】  指定管理者制度については,必ずしもマイナス面ばかりともいえないでしょうが,先ほど座長がおっしゃった公共性という点では,指定管理者制度導入の背景にある経済性,効率性とバッティングするところがあると思います。地域文化の振興ということが,地域の劇場・音楽堂の最終的なねらいといいますか,目的・理念であろうかと思います。したがって,経済性,効率性にとらわれない上質の舞台芸術を市民に提供し,あるいは啓蒙(けいもう)し,地域の文化水準全体を上げていくということも使命の1つと思います。それが全然駄目といった雑駁(ざっぱく)な議論が横行するようでは,そのマイナス面もある程度考えなければいけないのですが,ただ,そのことは制度論とは少し違うのではなかいかという感じもします。
 なお,指定管理者については,民間サイドも参入してきているケースがあり,雇用という観点からは,そのこともある程度念頭に置く必要もあるのではないかと思われます。
 それから,雇用に関しては,人材バンクのようなものをつくってはどうかという議論にもなってくると思います。したがって,雇用全体まで範囲を広げてここで議論をしているとかなり拡散をしてしまうので,もう少し限定した形で,求められる人材としてどうあるべきか,そういう人材を備えている施設に対して何らかの支援措置を講ずるべきではないかといった議論の方が,現実的ではないでしょうか。

【田村座長】  片山先生。

【片山委員】  今,指定管理のところで民間企業がというお話を根木先生がおっしゃったのですけれども,それに関して言うと,実は私もある意味メリットもあるかとは思っています。自治体系文化財団とかですと,どうしても指定管理の期間を意識して,短期の雇用にしかならないのが,民間の営利企業で指定管理をやっている事業者だと,ある施設が駄目になっても,ほかの施設に転勤できるという可能性もあるので,規模の経済性が働いて,雇用を確保できるという側面が全くないわけではないということがあります。
 そういう意味でいくと,例えば公立文化施設同士,例えば行政区域を越えた文化財団同士が組んで,雇用を共同で確保するといったことが可能になれば,雇用の安定性にはとても寄与することになると思います。実際,教育行政の中でも,市町村の小中学校の先生は,都道府県教育委員会が採用して,配置しているわけですから,例えば都道府県レベルとか,もうちょっと広域に,何々地方とかいうレベルで,共同で人材を雇用して,それをホールに派遣するといったシステムができると,安定的な雇用と,人材育成ができると思います。ただ,自治体同士が個別に連携していくのはなかなか大変ですから,そのための呼び水をつくるという意味も,法律の役割としてはあるのではないかと思います。

【田村座長】  実際問題静岡でも,民間系が落ちて,職を失ったものが,たまたまうちが職員を公募したので,応募してきて,採用したという礼もございます。芸文大の卒業生の方でいらっしゃいますけれども,それはやはり県内の地域情勢もよくわかっていて,経験を買うということでございました。
 ほかに何かございますでしょうか。この,私立をどうするのかという問題がもう一つございますですよね。今助成の対象には私立もなっていますよね。はい,どうぞ。

【三好委員】  何かまた議論が少し混ぜ返すようで悪いんですけど,もともとこの議論のたしか最初のときにも,こういう劇場・音楽堂に関するこういう制度的な議論というのが,一般国民になかなかよく見えていないというのか,伝わっていないという話もありましたけど,私ら聞いていると,それもそうなんですが,そもそも関係者の中でも,一部の人は非常に関心を持って,いろいろ御議論されているんですが,実際にそういう文化施設とかを持っている,そこで働いている人たちとか,あるいはその舞台公演をやっている人たちの中でも広くこういう議論が広まっているかというと,必ずしもそうでもないような話を聞くんです。
 それがちょっと前提としてあって,もう一つは,さっきの公共性の議論,まさに座長がおっしゃる公共性の議論なんですが,これはもちろんその公立の文化施設という意味での公共性というのは多分あるんでしょうけれども,もう一つそのいわゆる舞台芸術の振興という観点からいうならば,なぜ舞台芸術が振興しているかというと,それは舞台芸術そのものに公共性があるからです。つまりそれは施設だけではなくて,実際にそこを使っている人たちにも,やっぱりそういう認識が必要なんだと私は深く思っています。さっきから言っている,例えば片山先生がおっしゃるような人材が必要であって,例えばそういう人,置くのは施設に置くとしても,そこに置かれていることの必要性を使っている人たちが理解していなければ,全く意味がない。ですから,例えばその芸術監督,そういう企画の専門家とか,あるいは技術的な専門家を置いたとしても,そこを実際に使う人たちがそのことを理解していなければ,せっかく置いた意味がない。逆に,置きなさいというと,それは施設に対する義務づけだけで終わってしまう。ですから,そこが私は一番まずいのではないかというのが,今日申し上げたいことなんです。
 ですから,むしろそこは使う側(がわ)にもそこの必然性が理解され,かつ例えばの話ですけど,そこで舞台公演を行う場合には,こういう人を必ず配置しなければならないと。それはだから施設にいれば,もちろんいいし,施設にいなければ,自らその人たちを連れてこなきゃいけないというぐらいにすれば,それはもう必ず,例えばそれは舞台技術の専門家を置かなきゃいけない,その人に安全管理をさせなければいけないとしてしまえば,それはもうある意味では,上演する以上は,必ずやらなきゃいけないということになっていくので,ちょっと極端ですけれども,例えばそういうことで,公共性というものをやはり理解してもらうということが必要なのではないかと思います。
 そうすることによって,結果としてそういう専門家が配置される,あるいはその横の結びつきができていくということになるのではないかという意味で,少し視点を,施設に義務づけるのではなくて,そこを使う人にもう少し理解させるということの方が,むしろ必要なのではないかということで,制度的にどう組むかというのはもう一つあると思いますけれども,まあやろうと思えば,そういうことも可能ではないかと思っています。

【根木委員】  使う側(がわ)の方からしますと,特にアマチュア文化活動の場合は,それほど公共性ということを自覚していないのではないか。プロフェッショナルに関しては,本来これは自覚してもらわないといけないのですが,アマチュアの場合は,生涯学習活動とほとんど紙一重で,自分でも文化活動としてやっているのか,生涯学習活動なのか,ほとんど自覚なしにやっているのではないかと思われます。
 もともと文化活動というものは,基本的にわたくしごとの側面があるわけで,公共性ということを言ったにしても,その私事性はぬぐい得ないところがあるわけです。
ところで,文化芸術そのものに関してどう理解するかということになりますと,基本法の前文に,本質面と効用面の両面から公共性ありということが一応抽象的には書かれています。そうすると,文化芸術そのものに,一応何らかの形での公共性ありということになり,地方の文化会館の場合には,地域の文化振興のためにそういう施設をつくるということですので,当該施設は公共的な存在であるわけです。このことは,使う側(がわ)にもある程度認識してもらわなければならないでしょうが,さりとてプロとアマとではやはり温度差があることは否めません。
一方,施設の方では,理の当然として,公共的な存在だということを認識する必要があるわけですが,そうなると,それに見合う人的組織も備え,それを利活用する住民に対して提供するという,ある種の義務もあるのではないかと思います。

【三好委員】  はい。よろしいですか。

【田村座長】  はい,どうぞ。

【三好委員】  今の根木先生の御意見に対しては別に異論はないんですが,まさにその舞台活動自体は,これはあくまでも私的なものでしょうけれども,それをその場所でやるということ自体についての公共性というのは,やっぱりこれは認識しておいていただきたいなと思います。だから中身の私的なものと,それをその場所で表現するということについての公共性というのは,それは多分矛盾しないことだろうと私は思いますので,ですから例えばその劇場・音楽堂を使って,そういうこと,舞台公演をやるということであれば,そこは一定程度の公共性というのはやっぱり必要だろうと思います。
 それはもちろんプロとアマではレベルは違うかもしれませんけれども,少なくとも公共性があるという意味においては,そこは共通だろうなと思います。それが全く,自分の家の中でやっている分については,それは一切そういうことはもちろん関係ないですけれども,少なくともその公の舞台,それは公立であれ,私立であれ,それを使ってやるという以上においては,そこはやっぱり芸術文化の公共性という,そちらの側面もあるということは,やっぱり認識しておいていただいた方がいいのではないか。
 ですからそのことによって,何らかのやらなきゃいけないことが付加されるということについては,そこはやっぱり受任をしてもらうしかないんじゃないかというのが私が言いたかったことなんです。

【田村座長】  いろいろな大きさとか規模がありますから,それによって違うということもあるかもしれませんけれども,私はよく言っていますのは,カラオケにこんな立派な施設を貸す,使う必要はないんじゃないかということです。要するに,特に私どもの場合は,県域の,広域の文化施設でございますから,カラオケに使うんだったら,そこに何かの付加がない限りは,税金でつくられている,税金で運営されているものを使うのは,それなりの意義がないとということはよく私どもの間では言っております。
 それともう一つ,芸術活動の社会性というか,そこも問われるかなというふうに思います。芸術,プロといわれている団体ってたくさんございますけれども,プロの活動として社会にどうあるということを考えて,されているということも問われるのではないかな,こういう公共文化施設を,何か全くプライベートな空間で,プライベートにやるんだったら,それは先生がおっしゃるように許されるとしましても,公共文化施設の場合は,そこは問われるのではないかなとは思いますが,いかがでいらっしゃいましょうか,御異論は。
 どなたも人材は必要であるとおっしゃってらっしゃいますけれども,それの資格とかそういうことはいかがでいらっしゃいましょうか。一応,司書って資格です。学芸員もそうですよね。

【片山委員】  私が先ほど挙げました,4つの類型のうち,最後の技術に関するところは,私は詳しくわかりませんが,最初の3つ,すなわち,そこで行われることの中身に関する専門家,マーケティングやアウトリーチとか,人に届けることに関する専門家,そして,の説明責任を果たして,ファンドレイジングをすることのできる専門家に関しては,資格というものがなじむものではないと思っているところです。ただそれらを専門とする学位はあります。国際的にもアートマネジメントの分野は,博士号はあまり普及していませんけれども,修士号については,ある程度,普及しているところです。

【田村座長】  根木先生,どうぞ。生徒さんがいらっしゃるので。

【根木委員】  私の大学の立場から申し上げますと,そういう資格は設けていただければ有り難いと思います。ただ,一般大学の場合と,我々芸術系大学の場合とでは,随分違うとことがあります。私どものところでは,アートマネジメントコースの場合,実際に舞台をつくり上げることまで課しています。つまり,企画制作ということに対して,学部段階から修士課程まで,それをメインに置いた形でトレーニングするというシステムになっており,これにインターンシップも加味しています。もちろん,舞台をつくるに当たって,チケット販売やマーケティング,教育普及的なことも当然ながらやらせており,片山先生がおっしゃったようなことは,一応企画制作の延長線上で全部中に取り込んでいます。したがって,これに即した資格があってほしいという感じがしております。
ただし,国家資格としては,今の御時世でしんどいでしょうから,どこかしかるべき公的な団体であるとか,あるいは学会などに委(ゆだ)ねる方がよいのではないかという感じもします。音楽療法士なんかは,音楽療法学会などでそれをやっており,そういう形の方がいいように思われます。
また,学校を出てから3年たち,5年たち,10年たちといったところで,現場での仕事の経験を加味した上での全体的な資格要件といったようなことも考える必要があると思います。したがって,ただ単に,大学だけを切り離してというわけにもなかなかいかないだろうという感じはしております。
 とはいえ,何らかの形でそのことを入れる方向で考えていただければ有り難く,その際,音楽,舞踊,演劇ではそれぞれ異なりますので,それを十把一からげにしたものではなく,分野別にしていただければと考えています。やはり音楽は音楽で特有の特徴があり,舞踊は舞踊でまた別の要素も入ってきますし,演劇は演劇でまた別の要件があろうかと思います。したがって,分野ごとの資格の方が現実的といえます。

【田村座長】  我々は,例えば,音楽と演劇と舞踊と美術,このあまりにそれが縦割りになっているのがいかがかなという,要するに例えば演劇であったり,オペラであったり,舞踊であったりがよりすばらしいものになっていくには,あまり縦割りではない方がいいかなという気は常々しておりますが,それはいかがですか。今はちょっと変えた方がいいとおっしゃっていましたが。

【根木委員】  本来は単一の方がよろしいかとは思いますが,音楽・舞踊と演劇の場合とは随分違い,その辺のところをきちんとマネージャーとしてわきまえる必要があるということで,別にすることが適当と申し上げました。反面,アートマネージャーはあらゆる分野に対応しなければならないことから,単一な資格ないし称号ということも十分考えられると思います。

【田村座長】  はい,どうぞ。

【三好委員】  ちょっとその資格という話から少しずれるかもしれませんけれども,例えばその芸術監督とか,企画担当といわれる人に,じゃ,どういう資格が必要なのかというと,これはなかなか難しいところがあると思うんですけど,ちょっと逆,違う見方をすると,例えばその少なくとも,そこの舞台芸術を担当する者として,ある程度の知識とかスキルは,それがすべてではないけれども,せめてこれぐらいはやっぱり知ってなきゃいけない,あるいはこういう経験があった方が望ましいという,そういう意味での資格というのは多分あり得るんだろうなと思います。
 ですからさっきのように,例えば芸術監督,あるいは企画運営者だから,じゃ,例えば安全管理について全く知らないというのでは,多分やっぱり困るでしょうから,少なくともそこの,専門家は10知らなきゃいけないけど,そうでない人でもやっぱり3は知っておかなきゃいけないとか,そういう意味での最低限知っておくべきものというのが,多分その舞台芸術に関係するものとして,幾つかあるのではないかと思います。
 ですから,それをまとめて,例えばこれとこれとこれをやれば,この担当者としては一応満足しているよとか,あるいはもっとより専門的な人については,もう少しレベルの高いものを知っておいた方がいいよという,そういう何か点数積み上げ制の資格みたいなのがあり得るのかなという気はしているんですけどね。ちょっと余計なことをすみません。

【根木委員】  おっしゃるとおりでして,少し手前みそで恐縮ですが,私どもの大学では,安全管理の法令なども授業の中に組み込んでおります。基本的に舞台にかかわることに関して必要な素養は,一応カリキュラムの中に網羅しております。
 また,音楽系ということもあって,西洋音楽史なども基本素養として身に付けさせています。その意味で,これなどは分野の特徴といえると思います。

【田村座長】  太下先生,どうぞ。

【太下委員】  専門家の資格ということについてですけれども,例えば,1つの案としては,確かに国が新しい資格制度をつくるということもあるでしょうけれども,恐らくつくったらつくったで,たくさん受験してもらわなくてはいけないですし,受験してもらうためには,インセンティブとしてそういう方が働いてらっしゃる劇場なり音楽堂なりにどういう新しい助成メニューをつくるのかというような,どんどん本末転倒な議論に入っていくような気もしています。むしろ先ほどアイデアとして出ましたとおり,業界ですとか民間団体とか学会等にゆだねるというのも1つの在り方ではないかなと思っています。
 ただし,いずれにしても何らかの資格制度があったとしても,その資格を取ればそれでいいのかというと,ちょっと違うかなと思っています。例えばほかの資格で考えると,ITのスキルというものは,何がしかの資格を取っても,日進月歩でスキルアップをしていかないと技術の進歩に追いつかないわけです。恐らく技術の分野では,業界で研修をやってらっしゃるんでしょうけれども,このことはほかの,マーケティングとかアウトリーチにしても,企画制作にしても,何かの資格を取ればそれでオーケーということではきっとなくて,その後のスキルアップをどうしていくのかということが,より肝要なことかと思っています。
 やっぱり基本はOJTだと思いますし,一方でOff-JTの研修というものが必要だと思うんです。OJTを考えた場合,これは以前の検討会でも申し上げたことですけど,個々の劇場・音楽堂を見ると,企業規模でいうとほとんどが零細企業の規模でしょうから,スキルアップのためには,一定のネットワークの中でOJTができるような,人の流動の仕組みが必要かと思います。そう考えると,そこに国が関与する一定の必要性もあり得ると思っています。
 更に言うと,先ほど片山委員から,例えば人材の採用や雇用を都道府県単位のような形でやってはどうかという御意見も出ていましたけれども,そういう観点からすると,例えば人材のスキルアップ,又は雇用という意味での地域中核的な劇場という在り方というアイデアも出てくるかもしれません。また,そのような観点で考えると,その地域のアーツカウンシル的なものを中核としてイメージした方が,より近いのかもしれないとも思います。こういうことも,専門的な人材の資格ということから考えてみました。

【田村座長】  ありがとうございました。ちょっと申し訳ございません。ちょっと中途半端になってしまったかもしれませんけれども,いろいろな御意見が出まして,大川さんを困らせてしまうというあれになってしまったかもしれませんけれども,本日出されました論点を,事務局においてもう一度整理していただいて,それに沿った意見を皆様からちょうだいしたいと思っております。よろしゅうございますでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【田村座長】  では,ありがとうございました。今後の日程について,事務局より御案内をいたします。

【大川芸術文化課課長補佐】  はい,本日は本当に長時間にわたりありがとうございました。次回の日程ですが,今,皆様に日程確認させていただいておりますので,調整がつき次第,またおってご連絡させていただきたいと考えておりますので,また引き続きよろしくお願いいたします。

【田村座長】  それでは,本日はこれで閉会にさせていただきます。ありがとうございました。

【大川芸術文化課課長補佐】  ありがとうございました。

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