議事要旨

国立文化施設等に関する検討会(第1回) 議事要旨

1.出席者

(委員)福原座長,竹内座長代理,上原委員,織田委員,町田委員,水嶋委員,宮島委員,宮田委員,山下委員,吉本委員
(独立行政法人)加茂川国立美術館東京国立近代美術館館長,遠藤国立文化財機構理事,崎谷日本芸術文化振興会理事,折原国立科学博物館理事
(事務局)近藤文化庁長官,吉田文化庁次長,田中政策評価審議官,小松文化部長,関文化財部長,松村文化財鑑査官,伊藤大臣官房審議官,大木文化庁政策課長,塩見社会教育課長,滝波文化庁政策課企画調整官,高比良文化庁政策課独立行政法人支援室長,岩佐社会教育課企画官

2.議事内容

(1)座長等の選任及び会議の公開

 座長・座長代理の選任について諮ったところ,福原委員を座長に推薦する旨の発言があり,福原委員を座長とすることで了承を得た。座長代理は福原座長の指名により,竹内委員とすることで了承を得た。
 続いて事務局より会議の公開について,資料2に基づき説明を行い,案のとおり了承された。
 引き続き,近藤文化庁長官より挨拶があった。

(2)本検討会の運営及び独立行政法人からのヒアリング

事務局より資料1,3~6及び机上参考資料について説明後,資料7に基づき各独立行政法人から意見発表があった。意見発表の概要は以下のとおり。

【加茂川国立美術館東京国立近代美術館長】

<目的・役割・機能,事業特性>

 本法人の役割は,美術作品や資料の収集・保管,供覧,調査研究及び教育普及が大きな柱であり,国の文化政策と軌を一にした文化振興への貢献を考えている。特に展覧会事業は,先導的・先端的・主導的な内容となるよう取り組んでいる。
 本法人は,国費が投入される恵まれた環境にあり,公私立美術館に比してその責務は重い。利用者,国民一般に対して良好な美術館環境を提供し,サービスの維持向上に努めると同時に,作家,アーティスト,研究者,美術関係団体,他の美術館に利益や成果を還元することも大事な役割。
 そのため,収支を度外視しても取り組まなければならない事業があり,営利的な手法と相いれない,効率主義や収入確保前提主義では活動の趣旨にはそぐわない場面がある。博物館法では入館料無料が原則だが,例外の運用がなされており,その趣旨を踏まえ,より低廉な価格,できれば無料の対象者を拡大する形で多様かつ良質な鑑賞環境が確保されるべき。
 特に美術館は,美術(文化)の創造,芸術家の育成,人材養成という独自の責務を有している点を強調したい。また,国立の美術館という地位が外国の美術館と連携を強め,交流していく上で重要である。

<独法化のメリット・デメリット>

 メリットは,予算執行が柔軟になり,理事長裁量による組織編成が柔軟にできるようになった点。また,法人化前は十分でなかった事業評価,PDCAサイクルの機能が格段に向上した。
 一方で,メリットを減殺,相殺するデメリットもあった。独法制度は民間手法をできるだけ導入し,法人の裁量を広く認める制度設計であったにもかかわらず,実際には国並びの適用・運用が多く,制度の柔軟性が発揮されていない。例えば,目的積立金制度は硬直的かつ厳格な運用で,その趣旨が生かされていない。事業費,人件費の抑制方針,契約・給与といった基準・水準の適用・運用も,国並びの一律適用が徹底され,法人の裁量余地がほとんどない。
 独法制度は事前規制から事後チェックへとシフトするはずが,計画段階,評価段階の双方で法人業務がかなり増え,いわゆる評価疲れも見られる。独法制度の関連行政が必要以上に肥大化し,各法人が業務の増大で苦しんでいる。

<新たな法人制度について>

 現行制度のデメリットを見直し,独法制度の趣旨を十分に生かすとともに,事業特性,目的,役割をさらに生かせる制度に改めることができるのであれば,検討に賛意を表する。美術作品の収集管理業務,コレクションの充実,利用者の鑑賞環境の確保,サービス向上に資するという事業特性を十分に踏まえた制度設計を期待する。

<ガバナンス,目標設定・評価,予算措置>

 事前統制を極力排除し,事後評価に重点化する考え方は踏襲すべき。国立大学法人制度は,教育研究,大学の自治などの特性から例外的な規定,取扱いが認められているが,大学における教育研究は成果が測定困難,成果の表出に時間がかかる,業務が複合的に行われるなどの特性がある。本法人の中核的業務である美術作品の収集管理業務は国民の資産の形成であり,安定的に将来に継承し,国富につながるという特性があり,これを踏まえた特例を検討してほしい。
 その際,国立文化施設ごとに目的・役割があることから,各特性を踏まえたガバナンスに責任を持つべきであり,ガバナンスの統一ありきの議論は慎重にすべき。
 目標設定と適切な評価の仕組みは継続されるべきで,インセンティブが働くような,自助努力に資する制度は大事にしてほしい。ただし,現在の独法制度下の目標設定は数値目標に偏り,評価も数値,定量的な手法に偏っている。美術館の業務特性等を考えると,数的,量的な指標は避けられないが,業務の質に配慮した手法,定性的な要素を加えることも検討すべき。利用者の満足度などの評価を加味する手法や,第三者組織による評価の活用も一案ではないか。
 国の行政改革の必要性,やむを得ない予算措置を理解しないわけではない。しかし,一律適用ではなく,国に政策の必要性,プライオリティに応じて組織の充実や職員の増員,弾力的な予算措置が可能となる運用を強く要望する。
 自己収入予算の計上方式も継続すべきだが,予定を上回る収入については特例をお願いしたい。目的積立金以外にも法人の裁量により適切な管理の下,自由な使用を認めることもインセンティブの増に繋がる。例えば,美術作品購入を機能的効果的に実施するためには,運営費交付金に加えて,このような自由裁量の資金は極めて有効。
 また,国が独自に予算措置して購入した作品を法人に出資したり,長期貸与したりする方法も検討に値する。

<美術品等取得の仕組み>

 適切な管理の下で法人に必要な予算を内部留保できるようにすることが一案。そのほかにも,国の出資を受けて基金を造成し,取り崩して機動的に作品購入事業が実施できることも有効。この基金には民間からの寄附も充当できるものとし,税制上の優遇策を講じて誘導することも考えられる。少なくとも,硬直的な目的積立金制度の運用を大幅緩和して自己収入を美術品の購入等に充当できる仕組みの導入は不可欠。

<その他>

 文化芸術の創造活動や人材育成に資するには,作家,アーティスト,関係団体の意向を十分に踏まえた制度設計が大事であり,有識者アピールにもあるように,安易な法人統合は,屋上屋の事務量の増大を招くだけで,本質的な効率化,軽量化に結びつかない。

【遠藤国立文化財機構理事】

<目的・役割・機能,事業特性>

 本法人は国立博物館と文化財研究所が統合して発足した。博物館は,文化財の収集・保管・修理,次世代への継承,文化財の展示・公開,日本の歴史・伝統の内外への発信を行い,文化財研究所は,基礎的・先端的な研究と国の政策上重要な調査研究の両方を行い,国際協力の実施も大きな柱である。
 国立文化施設は対外的には「国の顔」である。国立文化施設の事業はソフト事業の典型だが,ハードの施設がないと何もできない。また,サービスの質は人材に依存するが,人材に加え,人数,年季も必要であり,効率主義にそぐわない。
 収入はあるが,公共施設として現行以上の入館料を取ることは難しく,また,収入は流行に左右(支配)される。展覧会は数年前から企画するが,開催時点の情勢が読めないという難しさがある。
 作品購入に必要な経費は,実際にマーケットに物が出るかどうかに依存するため,収入も支出も毎年変動する。これは美術館と共通である。

<独法化のメリット・デメリット>

 法人が直接国民と対峙することで,「お客様」という意識が生じたことは大きなメリットである。デメリットはほぼ美術館と同じだが,調査研究に年度評価はなじまない。年度評価は進捗評価でしかなく,調査研究の評価は成果の評価であるべきで,長期で評価しなければいけない。

<新たな法人制度について>

 「国の顔」として,国立文化施設は当然存置されるべきだが,「廃止を含めた検討」を中期目標期間終了ごとに行うのは矛盾である。本来,評価は事業の質と運営の良否のみ問われるべきで,そうした制度とすべき。

<ガバナンス,目標設定・評価,予算措置>

 ガバナンスに関して,国とは別の法人であって事業内容に関する自律性が重要であるが,本法人は国の政策との整合性も求められる。文化財研究所は特に整合性が必要で,博物館はもう少し自由度が必要。美術館は展示内容についてさらに自由度が必要であり,劇場はかなり国から独立していなければいけないと考える。
 施設の長は必ずしも理事ではないが,施設の長が重要で,法人の意思決定に参画する形が必要。各施設とも評議員会や運営委員会を持っているが,それらの位置づけがあっても良いのではないか。
 中期目標設定等に当たり,国立大学法人と同様に法人の意見聴取があって良い。

<美術品等取得の仕組み>

 運営費交付金は一定額が確保され,全ての自己収入について年度内の自由な使用,翌年度への留保,中期目標期間を越えた留保が,財務省承認等なしにできる形に改められれば有難い。
 美術品等の取得に当たって,年度を越えて自己収入を自由に使用・留保できる仕組みが有難い。
 長期借入れや債券発行は,償還についての国庫支援が不可欠で,収蔵品を借金で購入し後から寄附を募ることはあり得ない。特別展収入は流行に支配され,償還財源として必要な安定性を欠く。現在も分割払(高い収蔵品を買い,後年度に分けて支払う方法)を行っており,それで十分対応可能。仮に長期借入れや債券発行を考えるならば,国庫支援を伴うことが前提である。

<その他>

 不必要な法人・事業統合は回避すべき。本法人は研究所と博物館が統合して発足したが,文化財保護行政という共通の理念で何とかやっているが,ゴッホと雪舟のどちらが大事かという判断はしたくない。
 また,法人として統一的な運営は必要であるが,各施設の自律性確保が必要である。
 なお,事業の性質上,特命随契は残る。
 人が財産であり,人数,年季の両方が必要。発掘調査の本数や資料収集は人数に支配される。人数が減り,古い人がいなくなることは財産の喪失である。
 美術館・博物館の収蔵品は増える一途だが,実質的に国の財産であり売却してよいことにはならない。維持・管理に人が必要だが,全ての職員が総人件費削減計画の対象とされているのは論理矛盾。寄附金により雇用しても,総人件費削減計画の対象となるのは,非・常識的。
 なお,収蔵庫の整備,研究機器の更新は恒常的な課題であり,展覧会で頑張っても十分な財源となるだけの収入は得られない。

【崎谷日本芸術文化振興会理事】

<目的・役割・機能,事業特性>

 本法人の目的は,芸術文化活動に対する援助,伝統芸能の公開,伝承者養成,調査研究等,さらに現代舞台芸術の公演,研修,調査研究等を行い,芸術文化の向上に寄与すること。芸術文化振興基金,国立劇場,新国立劇場は文化政策の中核的拠点であり,法人としての主体性・自律性が生かされるべき。過去に作られたものを守るだけでなく,次代に継承することも本法人の大切な役割であり,事業の継続性,安定性の確保が重要。
 職員には高度な専門性が要求され,公演に当たっては,自ら調査研究,企画制作し,芸術家や実演者とも接触しながら,演出等も行っている。
 また,本法人は,国の文化政策の重要な拠点,ナショナルセンターとしての役割を担っており,公的支援が不可欠。

<独法化のメリット・デメリット>

 メリットは,目標設定と自己点検・評価等によって業務運営の状況を客観的に見られるようになった点,運営費交付金が中期目標期間を通じて柔軟に,緊急に対応すべき施設整備等に使えるようになった点。また,毎年度の細かな予算要求がなくなり,事務負担が軽減された。これらの仕組みや目的積立金制度により,インセンティブ,職員のモチベーションを高める仕組みになったが,具体的運用は実効性に乏しい。

<ガバナンス,目標設定・評価,予算措置>

 運営費交付金や施設整備補助金について,効率化のため削減計画を立て,それに基づいて継続的,安定的に業務を行うが,計画以上の削減を強いられることは極めて問題。23年度予算要望の資料があるが,ルールに従って1%(管理経費は3%程度)の減でお願いしたが,今般の概算要求では,新国立劇場運営財団,国立劇場おきなわ運営財団への運営委託費は各5%削減とされた。新国立劇場は,事業仕分けを受けて22年度予算が予定より1億円削減された上にこうなり,このままでは23年度予算は到底組めない。1%減を前提に計画を立てていたため,赤字補填への対応に苦慮している。
 運営費交付金について,ルール以上の削減計画が進められているのは極めて問題。専門的能力を持った人材を確保・育成することが重要だが,総人件費改革による毎年度1%減が続く中では厳しい。外部委託,一般競争入札も進めているが,総人件費改革への対応はほとんど限界で,目標を達成できるか厳しい。
 業績評価は,本法人の評価委員会は定性的な評価が中心だが,文部科学省独法評価委員会,総務省の委員会では定量的な指標に重点が置かれている。しかし,劇場は性質上定員以上に観客が入らない。復活狂言,通し狂言など意欲的な取組をしても観客がなかなか入らないこともあり,その結果評価が下がるのは問題。
 目的積立金については,最終的に認められない結果が続いているが,大所高所の判断が不足している。また,評価等における資料要求が頻繁かつ膨大になってきているのは問題である。
 新しい法人制度に移行する場合,財政基盤を確立すること等によって,経営者の裁量,責任が高まり,監査体制等も上手に役割分担する必要がある。評価もより長期的で定性的な評価とし,目的積立金等の動かし方によってモチベーションが上がるようにしてほしい。
 運営費交付金や総人件費改革については,芸術文化施設の特性,安定的運営に配慮し,一律削減の対象とすべきでない。目的積立金は迅速かつ適切な認定をお願いしたい。

<その他>

 舞台施設は安全確認のため定期的に修繕しなければならないが,十分に措置されず,計画的な措置が必要。
 国立劇場の発足以来,元々自立した法人として努力してきた。文楽は一手に引受け,歌舞伎も松竹等と分担・連携しながら事業の展開を図っている。芸術文化振興基金は20年間,計画的に着実に業務運営を行っている。専門的能力を持つ職員が営業,養成・研修,資料収集等も含め,広く様々な部署を経験しながら能力を高めている。
 長期的展望が大事で,その場凌ぎの対応はできないことがあり,何年も前から事業を計画し,準備を進めている。

<新国立劇場運営財団等について>

 新国立劇場と国立劇場おきなわは財団に運営委託している。新国立劇場は舞台芸術の特性や広く民間等からの支援を得るために委託しているが,新国立劇場運営財団は,元々新国立劇場を運営するために作られ,実質的に独立行政法人と同様の業務を行っている。最終的に本法人が責任を負うが,自立した運営を行っているという新国立劇場の特性をご理解頂きたい。

【折原国立科学博物館理事】

<目的・役割・機能,事業特性>

 本法人は我が国唯一の総合的な科学博物館であり,その使命・役割は,我が国の自然史等に関する中核的研究機関,我が国の科学系博物館の主導的な博物館,社会教育機関の3点。このうち,特に中核的な研究機関の機能は,国立博物館,国立美術館との違いであり,実際,連携大学院として,東大,茨城大,農工大,九大の院生,JSPSの特別研究員等に教育研究指導を行っている。
 具体的な事業として,調査研究,標本資料の収集・保管,展示・学習支援を一体的に推進している。標本資料の収集・保管について,美術品や文化財は購入や寄贈が中心だが,本法人は,研究者が自らフィールドに出て収集・整理し,ナショナルコレクションを作る。それらが9割以上で,大きく異なる。標本資料や実際の研究成果に基づく事業が科博の根幹で,継続的,安定的な事業運営が必要。

<独法化のメリット・デメリット>

 従来と比べ,業務の効率性,自律的運営,質の向上等の面で多々改善された。例えば,運営費交付金の弾力的予算執行や,高校生以下無料,ペアチケット,レディースチケット,リピーターズパスなど,自ら入館料を設定してより多くの人に来てもらえるようになった。組織面では,分野横断的研究のため部内の室を廃止して大括りのグループ制や,部共通の生命線である標本資料のセンターを設置するなどの再編ができた。意識面では,館長のリーダーシップのもと全員が同じベクトルで日々の業務に励むようになった。一方で問題も生じており,次のとおり。

<ガバナンス,目標設定・評価,予算措置>

 独法一律による経費削減は切実な問題。人件費や運営費交付金の削減が一定のルールで課され,平成13年度は研究者を含め全体で152人だったが,22年度は133人と19人削減。うち16人を管理部門で削減しており,もう限界。経費も約19億円程度に減らされている。大きな国立大学法人であれば吸収できるが,本法人のような小規模法人ではきつい。規模の大小や特性に応じたルールが必要。
 運営費交付金の算定も自己収入が組み込まれているが,自己収入を確保しなければ翌年の事業が維持できない。自己収入を頑張った結果増やすと,交付金算定にその分が上積みされ,きつくなる可能性がある。ノルマがあり,ノルマを達成すると更にその上積み分がノルマになるという仕組みは,具合が悪い。
 美術品や文化財については機動的な購入のため基金等の必要性もあるが,本法人については標本資料を自分で作るため購入のための基金の必要性はない。ただし,展示のマンネリ化,最新の研究成果,新たな学説の発表等に応じて,展示替え,解説の変更等をタイムリーに行う必要が生ずる。特に子ども等のためのタッチパネルやハンズオン展示のため,摩耗が激しい。展示改修は,軽微なものは運営費交付金で対応するが,大規模に展示替えをするときは予算要求が必要となる。予算要求しても認められないことが多く,基金ができればこれに対応できるのではないか。
 評価について,現在,文科省独法評価委員会のほか総務省の評価委員会があるが,内容の重複がある。後者は評価結果の評価にとどまれば良いが,そうならないのは問題。評価結果については頑張った結果が適切に使われる仕組みにしてほしい。また,評価体制は文科省に一元化してほしい。その際,博物館の目的・特性に即して,業務の効率性だけでなく,ピアレビューにより教育・研究の専門的な視点で評価ができると良い。

<新たな法人制度について>

 新しい法人制度ができるまで現行の制度でやらねばならないので,その早急な改善が必要だが,前述の問題点の解消策の一環として新たな法人制度を作るならば,賛成,検討に値する。法人規模の大小,機関の性格が反映される仕組みや,基金化,国立大学法人のように教育・研究の特性に応じた経営努力認定基準とするなら有難い。なお,新たな法人制度を検討する際,国立文化施設等を一つの法人にするのでなく,性格,目的,調査研究の手法が異なるため,各国立大学法人のように個々に法人があって,それぞれの法人の判断で様々な業務ができる制度設計とすべき。
 当館は,調査研究,コレクション構築,展示・学習支援活動を一体的に推進していることから,仮に本法人の在り方が見直されるような場合,本法人の体制,業務がそのまま移行するなら良いが,3本の事業のいずれかがが肥大したりバランスが悪くなることは,具合が悪い。

(3)意見交換について

 その後,委員による意見交換があった。意見交換の概要は以下のとおり。

【上原委員】

 独立行政法人制度は現状その名前に値せず,「独立」していない。本来の独立行政法人にすれば,おおむね問題点は解決する。予算措置は,物件費も人件費も減らされ続け,乾いた雑巾をこれ以上絞るなという状況。

【織田委員】

 「一律の害」について理解できた。能力のある人材をどう確保し,育てるかは各法人共通のテーマ。
 自己努力により得た資金を収蔵品の購入費用に充てる国立美術館と文化財機構の提案は大切。また,国立劇場の施設は生命に関わり,日々命懸けの舞台を俳優も含め経験している。国立科学博物館も子どもたちへの危険に神経を使っている。経営努力により得た資金等で,各施設の命に関わる施設の改善を図り,重要な資料を保存していくことは,日本国民の文化の生命に関わる大切なこと。

【町田委員】

 独法化の一番の問題点はインセンティブが働かないこと。展覧会を工夫して人を入れ,成功裏に終わっても,その成果が運営費削減の方向に働くのは問題で,現場からも改善が必要との声が上がっている。努力した成果が次につながるよう改善していけば,民間の活性化した部分が反映されるのではないか。
 展覧会などの文化事業は新聞社,テレビ局等が美術館,博物館と長い間やってきた経緯がある。入館者が多く入る展覧会が全て収益やプラスに働くわけではなく,様々な経費がかかるものもある。経費の大半を共催のマスコミ側がリスク負担し,館が入場料収入の一部を会場費のような形で一律に取ってきた仕組みも含め,国の文化行政という大きな問題も考える必要がある。

【水嶋委員】

 独法が「独立」していない。英国では,国と大英博物館など大きな博物館が(5年間の)長期契約をしている。単年度の評価は困るとの意見もあったが,3~5年の中期評価ぐらいの方が自由度が利く印象。
 欧州等の国立博物館は「国の顔」だが,日本の国立博物館の展示は「国の顔」になっておらず,日本はまだまだ。文化遺産,文化財は,国としての威信,日本人の誇りであり,これを世界に発信する意味で,政治家や新しい政権に伝えていかなければいけない。
 収蔵庫の不足は全国どこでも悲鳴を聞く。日本の資料を保存していく上で,収蔵庫の欠如は抜本的に検討する必要がある。ある地方の博物館の収蔵庫を見たが,温湿度計が22:00から6:00まで一定で,夜になると電気も空調も切っている。指定管理者が運営しているが,電気代カットで安かろう悪かろうとなっていくのは悲惨。問題点,病は出し,それに対応しないと病気は治らない。
 日本の博物館,美術館の展示技術,演出は最高クラスだが,資料が弱く,人材が生かされていない。特に文化財研究所の資質,海外との人的な貢献は大きいが,約8割は予算があれば解決する。人材を生かせる制度設計にしなければいけない。
 なお,文化財保護法と博物館法の整合性の問題もあり,今後の議論の中で考え方を述べていきたい。

【宮島委員】

 国の財産を守るための組織の根幹となる財政基盤が確立していないことが一番の問題。自己収入を増やし経費を削減しても,運営費交付金が減っていき,内部留保につながらない。各施設の自主性を守りながら統合していき,一般企業の事業本部制のような形でそれぞれ独立性を持たせていくことによってより力強くするのが良いか,今のまま独立行政法人4つばらばらが良いか。その中で財政基盤をいかに確保していくかが重要。

【宮田委員】

 国立大学も似た傾向があり,評価を上げ,データが向上しても,その成果はどこに行き,自分にどれだけ返ってきたのかが全く見えない。本検討会としてどこを向いていくべきかが,本日の会議の中にあった気がする。評価が極めて大事。
 目的積立金は自己収入として還元できるのであり,これが国立文化施設等に必要。本学にも小さな美術館があるが,良い作品があっても目の前を通り過ぎたら,次は来ない。
 本学は今月で大学院の入試が終わり,合格発表がもうすぐあるが,彼らにここで勉強したいという土俵を作ることが本学の役目。彼らは世界に旅立って行くという志がある。本検討会としてもどう持っていくか,そしてどこへ返ってくるかと,この関係を作っていきたい。

【山下委員】

 入場料収入を上げても,翌年その分減らされるのは矛盾しており,変えなければいけない。独法化後,予算の執行などに変化があったが,ある研究者は,昔は良かったと言っていた。この何年かで利用者にすれば非常に親しみやすくなった。
 東博で,考古学の研究者が部署を異動し,後の人がその研究を続けられず,研究の空洞化が生まれていると聞く。地方の博物館職員から,以前は東博に聞けば様々なことが教えてもらえたが,今はどこに聞けば良いのかという不安も出てきていると聞く。
 科博は,企業や地域との連携などやれることはどんどんやっているが,大変ではないか。外から見ている分には,色々なチケットやリピーターズパスもでき,大学や企業とも連携し,ショップもきれいになり,入館者も多くなったが,疲れて倒れてしまわないか心配。何とか良い方向にできればと思う。

【吉本委員】

 1点目は,独法化後の流れと並行して,2001年に文化芸術振興基本法が制定され,国の責務が謳われたものの,特殊法人・独立行政法人改革で,官から民へという流れの中で,文化政策については国の責務の放棄のようなことがどんどん行われてきた。この10年間,言っていることとやっていることが違っているような状態。政権交代もあり,この大きな流れを逆転するよう本検討会から提案できると良い。
 2点目は,評価委員会について。本年ある省庁の独立行政法人の事業評価を手伝い,独立行政法人評価の一連のプロセスを経験したが,評価のために膨大な作業を行いながら,結局は項目ごとに評定を付し,標準以上に達しているかいないかという結論を得るのが最終目標で,せっかくの評価が活かされていないと思った。評価の目的に,効率化,無駄を省く,市場に委ねるといった視点しかなく,国として文化をどう扱っていくのか,課題をどう改善していくかという,プラスに転じていく評価の視点が全くない点が大きな問題。
 独法化から10年近くになり,サービスも向上し,改革されたこともある。無駄を省くためだけの評価から,ベクトル・目的を転じて,国として,国立文化施設としてどうあるべきかという評価を行える方向に転じていくべき。独法評価委員会(の部会)は法人ごとにあるが,文化庁がこの4法人について本検討会を設置したのは,独法評価委員会ではそうした議論ができず,議論しても評価結果に反映されないような役割付けになっているからではないか。そういう議論ができる場所が本検討会であり,それを前向きに出していくべき。
 3点目は,独法制度より更にひどい指定管理者制度が導入され,地方公共団体の文化施設のソフト予算が一気に減っている。国立文化施設が効率化一辺倒から,国の文化の在り方を考え,国立文化施設の事業や運営を強化する方向に転じるというメッセージを出せば,それが地方公共団体やその文化施設に対するメッセージにもなるので,そういうものを出していくべき。
 文化審議会文化政策部会もお手伝いしているが,宮田部会長(東京藝大学長)のリーダーシップの下で,強いメッセージの審議経過報告が先般出された。本検討会も福原座長のリーダーシップに基づいて,このまま効率化一辺倒の独法改革を進めると,国の文化の破壊につながるぐらいの強いメッセージをぜひ出してほしい。
 なお,いま瀬戸内国際芸術祭が行われており,多くの人が訪れている。直島に民間の福武美術振興財団が運営している美術館があるが,10:00に行っても入場制限のため入場できるのは16:00だそうだ。民間の美術館ですら入場者数を制限して良い鑑賞環境を提供するという,効率化,収入拡大とは逆向きの経営をやっている。その点,国は遅れているとも言え,そうした点も本検討会でメッセージを出せたら良い。

【竹内座長代理】

 人材育成が大事だが,元々人数が少ない上に,人件費削減を限界を越えて行い,しかも一律枠が決められ,パンクするのは今年か来年かという状況。諸外国の「国の顔」と比べていかに少ない人数でぎりぎりで頑張っているかを強調すべき。これは人材育成以前の少なさ。ある程度人数がいて初めて,どう育成するか,次世代への継承,新人養成という問題になるが,それもできないぐらいぎりぎりで乗り切ろうとするのは,一種の危機感を感じる。
 評価する方もされる方も,初めてで互いによく分からないことがあったが,今は大分スマートになってきた。この10年間で,ナショナルセンターの考え方が出てきたのはメリットであり,従来,国立博物館は全国の博物館の在り方についてあまり考えてこなかった。10年たち,独法制度の制度疲労もある。独法評価委員会では法人は本音を言わず,毎年評価方法も変わり,評価する方もされる方も大変だったと思うが,良い見直し時期が来ている。

【福原座長】

 今後の検討会で,優先順位は事務局と相談することとし,幾つかの問題を集中的に取り上げていきたい。
 2つ概念的なことを考えている。1つは独立行政法人と言いながら,館長や理事長に独立裁量権が全く与えられていない。予算も定員も決まっていて柔軟な運用ができない状況で,業績を上げるのは難しい。
 もう1つは,平成13年に文化芸術振興基本法が制定されたが,いまの政府の業務効率化等の様々な法律の状況は,文化芸術振興基本法の精神に反していると考えており,これについても取り上げていきたい。

(4)今後の日程

 事務局より,今後の日程等について以下のとおり説明があり,その後閉会した。

・ 座長とも相談しつつ,当面まずは,資料8の日程で本検討会を開催し,11月末~12月初めを目途に本検討会として中間的な論点整理をお願いしたい。

・ 次回は10月18日(月)10:00~12:00に文部科学省内にて開催予定。

・ 次回及び次々回は,各委員に主な論点について意見提出をお願いした上で,何人かの委員に意見発表をお願いし,意見交換をお願いしたい。来週中に事務局より作業を依頼したい。

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