資料3
文化庁2009年度
日本語教員等の養成・研修に関する調査協力者会議
財団法人京都日本語教育センター
西原純子
はじめに
現在,日本語学校が求める日本語教師像は,学習者の多様化に伴い,少しずつ変容を示している。学習者は進学予備教育が主流ではあるものの,新設学部増設などに伴い進学先も多様化しており,これに加えてビジネス関係,定住者など一般学習者の裾野も広がりを見せている。日本語学校ではこれらに対応する教師の充足を必要としている。一方で近年,教員募集に対して応募者の減少傾向があることが報告されている。
本発表では,こうした現状を踏まえて,1)日本語学校における教員採用の状況,2)供給源である大学養成課程,一般の養成講座,検定試験合格者などとの関連性,3)採用後の研修の必要性,4)日本語学校の教師に関わる課題,の4項目を中心に報告する。
1. 日本語学校における教員採用の状況
日本語学校の教員採用の基準について,財団法人日本語教育振興協会「日本語教育施設における教員養成の教育課程に関する調査研究委員会」が平成12年度文化庁委嘱事業「日本語教育施設における日本語教員養成について」において,調査の目的を日本語学校が求める教師像を明らかにすることとした上で,次のような報告を行っている。
当報告によると,採用の資格,条件として学歴,経験などは別添の通り定めているが,(資料1)一方で求める能力として,第一に実践力「わかりやすい授業など日本語の指導力」,第二にコミュニケーション力「学習者との信頼関係」をあげている。日本語教育能力検定試験については絶対条件としていない。これを現時点から再考すると,現状の多様化への対応のため,採用資格,条件についても見直しが必要だと思われる。また,求められる能力として「社会性」が重要である。そのためには一定の社会経験が望まれる。
日本語教育能力検定試験の位置づけについては,主専攻,副専攻の枠が外れた現在,日本語教育振興協会においても検定試験合格を薦めており,従来と比べ重要性を増しているといえる。
従来,日本語教育能力検定試験が最重視されなかったのは,検定試験が実践力やコミュニケーション力をあまり反映しないこと,合格率の低さが原因であると思われる。試験が新しくなると聞いているが,試験の改善と日本語学校の関わり方に再考が必要ではないか。
教員採用の課題としては,
- 採用の資格,条件は従来のままでよいか
- 教師に求められる能力について再考が必要ではないか
- 日本語教育能力検定試験の対応について再考が必要ではないか
2. 大学の養成課程,一般の養成講座,日本語教育能力検定試験合格者,との関連性
1) 大学の養成課程との関連について
《関連の実態》
- ◎ 多くの日本語学校で養成課程卒業者を採用しているが,最近減少しているとの報告がある。
- ◎ 日本語教育振興協会では,日本語学校での教育実習を受け入れている。実習生受け入れ要請のあった大学数は平成20年度82大学となっている。(日本語教育振興協会ニュースNO.101)
- ◎ 日本語教育振興協会では,日本語学校での学生交流を実施している。日本語学校が受け入れた大学数は平成20年度延べ46大学となっている。(日本語教育振興協会ニュースNO.101)
《日本語学校から見る課題》
- ◎ 専門性,実践力について
- ◎ 日本語教育に意欲的に臨む人材の輩出について
- ◎ 大学卒業後の進路について
- ◎ 社会経験を養う場所について
- ◎ 日本語学校に就職希望が少ない要因について
2) 一般の養成講座との関連について
《関連の実態》
- ◎ 日本語学校が開催する養成講座,およびそれ以外の養成講座から人材の供給を受けている。
- ◎ 一定の社会経験をもつものが多いことからそのキャリアの活用を期待できる。
- ◎ 検定試験合格者に実技,実習の場を提供する場として利用できる。
- ◎ いわゆる日本語教育分野ではないビジネスなど一般人の養成を行う場として位置づけられる。
《日本語学校から見る課題》
- ◎ 420時間の養成講座の内容,実態が確認できない。
参考:平成12年度,日本語学校の開催する養成講座,長期,短期別の報告
日本語教育振興協会が平成12年度文化庁委嘱事業「日本語教育施設における日本語教員養成について」の中で長期,短期別に次のような調査報告を行っている。
長期(420時間以上) |
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内容:「標準的内容」をもとにする。 |
目的:知識・能力の面で日本語教育専門家の水準に達する。 日本語教員資格取得を目的とした必要項目を網羅した総合プログラム。日本語学校の採用条件のひとつである。 |
短期(420時間以下) |
内容:講座によってまちまち。目的に合わせた単科的プログラム。 |
目的:日本語学校,ビジネス,海外,地域,ボランティアなどの指導者育成。 日本語学校においては自校の教員養成,検定試験対策,現職者再教育など。 |
3) 日本語教育能力検定試験合格者との関連
検定試験合格者は採用の基準にあるが,経験がない場合,実践的な研修を受けることが望ましい。
3. 採用後の研修の必要性
個々の機関の状況に合わせた採用後の研修はきわめて重要である。
人材の基礎的養成を目指す養成講座とは区別されるべきである。これについて前述の平成12年度日本語教育振興協会「日本語教育施設における日本語教員養成について」では,一般に体制的に行われてはいない,と報告しているが,現実には個々の機関で研修を行うことが困難であることも想定できる。そこで各学校に代わって研修を行う公的な環境の整備も必要である。例えば文化庁の委託事業にするようなことも可能であろうか。
日本語教育振興協会では,現在新任主任教員研修をはじめ複数の研修が定期的になされ,初心者教育,現職者再教育の場として多くの日本語学校が積極的に参加している。
4. 日本語学校の教師に関わる課題
- 1) 資格のある教員の恒常的不足をどう補うか。検定試験合格率の低さも問題である。
- 2) 日本語学校教員の待遇の改善が必要である。
- 3) 専任・非常勤の割合を改善する必要があるが,段階的な改善をどう行うか(資料2)
- 4) 大学教員養成との連携をどう諮るか。
- 5) 社会経験のあるものに対する人材養成,育成の場として,一般の教師養成講座の質の向上をどう諮るか。
5. 提言
以上,実態と課題を述べたが,これらを通して特に次のような提言を行いたい。
- 日本語教育振興協会が教員採用の資格として認める420時間養成講座について,改めて実態調査を行う必要がある。
- 日本語教育振興協会が,これを採用の資格とするのであれば,講座に何らかの基準を定めることも必要ではないか。現在,協会では内容を精査することを検討中だと聞いている。
- 現在,日本語学校の教師の社会性は強く求められる。このことについて,社会経験を持つものが養成講座の中で質の高い教育を受ける構造ができるとよい。
- 大学養成課程の学生に対し,早い時点から学生の教育交流を行うことで日本語教育への意識が高まるのではないか。
- 教師の再教育が行えるよう公的機関などでの研修の場が必要である。
参考資料
- 日本語教育振興協会「日本語教育機関の運営に関する基準」
- 日本語教育機関の教員の概要
- 平成12年度文化庁委嘱事業「日本語教育施設における日本語教員養成について」(机上配布資料)
- 平成18年度における日本語教育機関実習生受入れ等の現状に関する調査結果(日本語教育振興協会ニュースNO.101)
以上