資料 1

資料 1

古墳壁画保存活用検討会(第3回)議事要旨

1.日時
平成20年12月17日(水)13:30〜16:00
2.場所
文部科学省旧文部省庁舎6階第二講堂
3.出席者
(検討会委員)
藤本座長,三輪副座長,有賀,足立,石?,猪熊,梶谷,河上,川野邊,木下,久保田,高麗,肥塚,佐藤,里中,白石,関,西藤,藤野,鉾井,増田,松村,三浦,三村,毛利,山下の各委員
(高松塚古墳壁画劣化原因調査検討会)
永井座長,北田副座長
(文化庁)
髙杉文化財部長,苅谷文化財鑑査官,小山古墳壁画室長,内藤記念物課長,鬼原主任文化財調査官,建石古墳壁画対策調査官,中島技官 ほか関係官

4.概要

(1)議事

(1)高松塚古墳壁画の科学分析時における壁画の損傷について
事務局より資料2に基づき,高松塚古墳壁画の科学分析時における壁画の損傷について説明が行われ,以下の質疑応答が行われた。

肥塚委員:高松塚古墳壁画の劣化原因究明のための材料調査の班長を務めている。今回の損傷は,現場責任者として非常に反省している。このようなことが二度とないよう,最大限の注意を払って調査を進めてまいりたい。

藤本座長:今後一層の注意をもって作業にあたってほしい。事故等が起きた場合は,なるべく早く公表するよう,留意していただきたい。また,このことで,必要な分析に躊躇することがないよう,よろしくお願いする。

(2)キトラ古墳壁画の剥ぎ取りについて
川野邊委員より,資料3−1に基づき,キトラ古墳壁画の天文図の剥ぎ取りについて説明が行われた。
引き続き,石崎委員より,キトラ古墳壁画の剥ぎ取り及び保存管理について保存技術ワーキンググループで検討した結果を報告した。事務局から補足説明を行い,以下の質疑応答が行われた。
河上委員:
壁画の余白部分の剥ぎ取り計画はどのようになっているのか。剥ぎ取った漆喰片の再構成を優先的に実施することが必要と考えられるし,壁面の変色が進んでいる現状からすると,その辺りはどうなのか。
川野邊委員:
余白の剥ぎ取りは,まず,天文図周辺から実施する。来年度中に剥ぎ取ることが可能。その後は,生物被害とのバランスだが,とりあえず,優先するのは,白虎や青龍等の絵の周辺を中心に剥ぎ取っていくことになろうかと考えている。余白も絵の部分も剥ぎ取る労力は同じなので,全部剥がすにはあと5年以上かかると認識している。
猪熊委員:
余白漆喰を剥ぎ取ることについては,改めて見直す時期にきているのではないか。余白は無理をして剥ぎ取らず,古墳に残すべきではないか。
内藤課長:
今後の壁画の保存活用という観点から,漆喰の現状,生物被害の状況,壁画についてどのような価値付けを考えるのか等,様々な観点から,事務局で整理してして,改めてこの場で議論いただきたいと考える。
河上委員:
絵は全体のキャンバスの中にあるという考えで,壁面全体を剥ぎ取るという方針で作業が進められてきたが,この方針を見直すということか。
内藤課長:
これまでキトラの委員会では,壁面は絵のキャンバスということで,壁面全体を剥ぎ取るという方針で進めてきたところ。基本的にこの方針を前提とし,改めて壁画の保存活用から十分に議論していただく必要があると考えている。但し,天井天文図についてはその周辺部分はかなりカビの被害が及んでいるため,その部分の剥ぎ取りについては,このまま続けさせていただきたいと考えている。
猪熊委員:
カビの被害が進んでいると聞くが,ある程度そのまま置いていてもよいのではないか。歴史的にも,過去に何度もカビ被害に晒されてきたが,残ってきている。危険を伴う剥ぎ取り作業を続けることに危惧している。
肥塚委員:
石室内の状況を今のまま置いても,悪くなる一方である。悪くなってもそのままに置いておくことが望ましいということか。
猪熊委員:
もう少し壁面に接着性を持たして補強する必要があると思う。
肥塚委員:
それは非常に難しい。高い湿度の中で樹脂を使って補強することは,壁画にとってとても危険である。
猪熊委員:
壁画の絵の部分は既に剥ぎ取っているため,カビ等で被害があっても影響はない。
肥塚委員:
余白も含めて絵であると考えるため,全面剥ぎ取るべき。
猪熊委員:
絵のない部分は剥ぎ取る必要はない。
肥塚委員:
漆喰はかなり劣化しており,密封したとしても劣化は止まらない。
猪熊委員:
それは仕方がないのではないか。余白漆喰を重視するのであれば,マルコ山古墳の漆喰も剥がさなければならなくなる。
関委員:
壁画は余白の白地のところも全て含めて一つの壁面と捉えるべきであり,全部剥がした後,どういうふうに古墳を維持するのかが重要である。
佐藤委員:
余白部分を十分養生できて石室内に余白漆喰を残すことができるのか,余白部分がボロボロになっていってしまうのか,その辺りの見極めに関して科学的な可能性を含めて検討してほしい。
石崎委員:
キトラ古墳の石室内のカビは指数関数的に増えてきており,漆喰はかなり傷んできている。
佐藤委員:
カビ被害の対処はどのように実施されているのか。
石崎委員:
キトラ古墳現地(相対湿度:100%)でカビ被害を抑制することは事実上不可能。剥ぎ取りを早急に行うのが最善の方策である。
猪熊委員:
石室内を湿度60%に出来ないのか。絵の部分がなければ,石室内に機器を入れて湿度を下げることも可能ではないか。また,漆喰には棺台の痕跡など,様々な考古学的な貴重なデータが残っており,敢えて剥がす必要はないのではないか。
石崎委員:
湿度60%にすると,漆喰表面が非常に乾燥し,強度が弱くなる。石室内を湿度60%にすると,周囲の土は湿度100%なので,水分の移動が発生し,石室内に塩害等の問題が生ずる可能性がある。
肥塚委員:
漆喰の状態はかなり悪い。剥がせる段階で,きちんと剥がして保存管理を行えば,後世に残すことができる。
河上委員:
平成16年に剥ぎ取りの方針が決定した際,全面剥ぎ取りの方針は考古学の観点からは違和感があった。漆喰は考古学的な材料との位置付けで古墳に残せるものは残した方がよいの思いがあった。一方,美術の観点から言えば,絵だけではなく周辺のキャンバス部分も含めて1枚であると説明があり,議論した結果,全面剥ぎ取りの方針が決定したもの。当初の計画どおり全面剥ぎ取ることとし,その後,どのように保存管理を行うのか,議論すればよい。
猪熊委員:
当初の計画の中には,剥がした漆喰を壁面に張り付けるという考え方もあったはず。遺跡は現状のまま残すというのが大原則であり,余白部分は無理して剥ぎ取らずに残した方が安全である。
内藤課長:
検討会では,空白の漆喰面も含めた一面が壁画であるという前提のもとに議論している。猪熊委員からこれまでの方針を見直してはどうかとの提案があり,このことについては今後議論を詰めていく必要がある。その際,漆喰の状態,壁画としてどのように保護するのかといったことを整理したいと思う。川野邊委員に確認するが,空白部分で今後剥がれ落ちたりする危険性のある箇所はどの程度あるのか。
川野邊委員:
物理的に危険なところはあまりない。今後,カビ等の生物被害が与える壁面の状況をみながら,剥ぎ取り計画を考えたい。
内藤課長:
現在の天井天文図の余白の剥ぎ取り作業は次回の会合まではこのまま進めさせていただきたい。
川野邊委員:
現場では,まず,天文図周辺の余白を剥ぎ取り,その後,石単位で余白の剥ぎ取りを実施したい。
三浦委員:
カビ等の生物被害が大きいところから,剥ぎ取りを実施した方がよいのではないか。
川野邊委員:
生物被害の激しいところは,剥ぎ取りに非常に労力がかかるため,現場の労力からすれば,まず,被害が少ない絵の周辺の余白から剥ぎ取りを進めたいと考えている。
三輪副座長:
天文図周辺をまず優先的に剥ぎ取りを実施した方がよい。

今後のキトラ古墳壁画の剥ぎ取り及び保存管理に関する今後の方針については,

  1. (1)泥の下に残された可能性の高い十二支の剥ぎ取りについては壁面から泥を含めて剥ぎ取りを行った上で適切に管理すること。
  2. (2)絵の露出方法については,剥ぎ取った後,X線等による調査を行うなどして絵の残存状況を確認した上で再度検討すること。
  3. (3)各壁画の剥ぎ取りの順序は,まず,天井天文図の周辺を剥ぎ取り作業を継続すること。
  4. (4)剥ぎ取った壁画の保存管理については,現在の保存状況を維持した上で,顔料と漆喰層に影響がない範囲で,ゲルと泥を顕微鏡下等で除去すること。

について確認がされた。

検討会からワーキンググループに検討を依頼した事項は,

  1. (1)天文図周辺剥ぎ取り後の剥ぎ取り順序について
  2. (2)キトラ古墳壁画の全面剥ぎ取りの方針の範囲について(特に余白部分が含まれているのか。)

である。

(3)高松塚古墳及び壁画に関する作業の進捗について
川野邊委員より,資料4−1,4−2に基づき,高松塚古墳壁画の修理の進捗状況について説明が行われた。(質疑応答なし。)
事務局より,資料4−3に基づき,高松塚古墳仮整備の進捗状況について説明が行われ,以下の質疑応答が行われた。
三輪副座長:
古墳の範囲は指定地外まである。追加指定について検討しているのか。
内藤課長:
発掘調査の結果を踏まえて,地元関係者とも協議しながら検討したい。
佐藤委員:
墓道や前庭部は仮整備によって復元しないのか。
中島技官:
仮整備の基本方針は,墳丘及び周溝との外形を復元することなので,外形で表現できる区分があれば表現する余地はある。
西藤委員:
仮整備では様々な古墳に関する知見が発見されるため,必ず整備には立ち会ってほしい。
猪熊委員:
昭和47年の発掘当時,墓道と前庭部は既になくなっていた。前庭部の一部は,国営公園の工事の際,立ち会いがなかったため,痕跡が残っていない。
藤野委員:
仮整備の作業では,そのようなことがないよう,文化庁と協議して進めていきたい。また,指定地外については公園の占用許可によって仮整備作業が進められている。当該占用許可では,一般的に原状に回復することが必要であるが,仮整備の内容に沿って古墳の外形がきちんと表現できる形で文化庁と調整しているところである。
(4)高松塚古墳壁画のサンプリング調査実施の検討について
事務局より,資料5に基づき,高松塚古墳壁画のサンプリング調査について説明が行われ,以下の質疑応答が行われた。
増田委員:
サンプリング調査は,壁画の制作技法の調査も兼ねていると理解してよいか。
建石調査官:
結果として,そのような調査の参考となるデータにもなると思われる。
増田委員:
世界の壁画の中で,鉛を壁面制作に使用するという例はあるのか。
建石調査官:
ヨーロッパ・中央アジア・中国等では,壁面の鉛成分が変色した事例が知られている。ただし,これは顔料として鉛白が使われたものであり,漆喰面そのものから鉛成分が検出される高松塚の事例とは多少異なるように思われる。
佐藤委員:
石室解体時の余白漆喰と目地漆喰は何がどう違うのか。
建石調査官:
目地漆喰と呼んでいるものは石材間の接着剤の役目を果たしるもの。余白漆喰と呼んでいるものは壁画面を構成していたものであり,両者は区別される。
増田委員:
漆喰に「スサ」は含まれていなかったのか。
建石調査官:
現時点では,見つかっていない。紙等による肉眼では確認しにくい細かな「スサ」の有無等については,今後の顕微鏡観察等をふまえて検討していきたい。
山下委員:
サンプリング調査によって得られる情報は何か。
建石調査官:
非破壊調査では分かりにくい漆喰内部における鉛成分の断面分布等をイメージしている。
肥塚委員:
サンプリング調査によって,材料の結晶レベルまでが判明するので,漆喰の強度のレベルや劣化のプロセスといったことが判明する可能性がある。漆喰が何層にもわたって塗られていれば,結晶構造も変わってくるのではないか。
増田委員:
この検討会において,国宝の一部を破壊する許可を得るということか。
建石調査官:
資料の保存活用という観点から,サンプリング調査に対する基本的な考え方をご議論いただきたい。
増田委員:
非常に微量であれば,サンプリング調査によって,それによって得られる劣化の状況の把握と,制作技法の把握に貴重な情報を得られる可能性が高いということを認識すればよいのか。
小山室長:
今後,文化庁として考え方を固めるにあたって,様々な考え方を出していただきたい。また,国宝壁画,特別史跡との関係で現状変更等の許可の手続きが必要なのか否か,詰めるべき点は多くある。サンプリング調査を行う場合,どの漆喰片を使うべきなのか否か意見をいただきたい。
増田委員:
劣化状態を知ることができること,調査結果として,壁画の制作技法に対する一定の情報を得られるのであれば,サンプリング調査を実施することが適当と考える。
肥塚委員:
制作技法とは一体どういうことか。
増田委員:
鉛が混入している可能性があるという説明を受け,鉛を漆喰に混ぜるのは制作技法としてあり得るのかということが検討できる。
肥塚委員:
材料調査は漆喰の現状の分析を行っており,制作当時の組成を表しているという保証は何もない。推定の域は出ないと思われる。
増田委員:
結果として,制作技法のヒントとなるような貴重な情報が得られる可能性があればよいので,まずは,現状把握をしっかりやっていただきたい。
河上委員:
一般的に遺跡を発掘した場合,様々な情報を得るために,非破壊・破壊調査を行うのが当たり前である。むしろ高松塚がこのような調査をこれまで行ってこなかったのが不思議である。調査を行うことは積極的に考えるべき。
佐藤委員:
一般的に絵画の修理の際,薄片が出てきた場合,その断面のサンプリング調査を行うことがあるのか。
鬼原主任調査官:
絵の具を取ることはしない。例えば,紙にかかれた絵画の場合,欠失後の補てんをするために同質のものを補てんするという目的で紙質を突き止める必要がある場合に,裏面やのりしろの隠れる部分からほんの数本程度,繊維をとって調べることはある。
白石委員:
高松塚古墳壁画のカビは,壁画に近いところよりは,離れた場所に多く発生してきている。鉛白を塗ったことが影響しているのか否か,非破壊調査で検討した上で,必要があればサンプリング調査を実施するのがよい。
有賀委員:
既に採取した余白漆喰であれば,サンプリング調査をしても特段問題にはならないと考える。
木下委員:
石室解体時に取り外した余白漆喰はシャーレ90個程度保管していると説明を受けたが,その中で,全体に影響を及ぼさないようなものがあるか否か。
建石調査官:
シャーレ90個の内わけは,絵に近い箇所から外したものもあれば,かなり離れた箇所から外したものもあり,画面全体での位置付けは様々である。なお,目地漆喰はこれとは別に取り外し,管理している。
木下委員:
目地漆喰でまず調査してはどうか。
建石調査官:
目地漆喰については,生物調査等,すでに一部でサンプリング調査を実施している。ただし,今までの非破壊調査の中で,目地漆喰と壁面の漆喰は化学組成がかなり違うことが確認できつつある。今のところ目地漆喰からは鉛成分が検出されていない。目地漆喰の分析だけでは,壁画の劣化原因や保存対策に関する直接的な情報を得られないと考えている。
小山室長:
この場ですぐ決定するものではなく,この件は高松塚古墳壁画劣化原因調査検討会においても十分意見を聞きながら,検討を進めていきたい。

高松塚古墳壁画劣化原因調査におけるサンプリング調査の必要性については,ワーキンググループで論点を整理することとなった。

(5)高松塚古墳壁画の修理作業室,キトラ古墳壁画の公開について
事務局から,資料6−1,6−2に基づき,高松塚古墳壁画の修理作業室の公開及びキトラ古墳壁画の公開について報告が行われた。

次回検討会は,ワーキンググループでの検討を踏まえ,日程を調整することを確認し,第3回検討会は終了した。

以上

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