資料1

資料 1

古墳壁画保存活用検討会保存技術ワーキンググループ(第1回)議事要旨

1.日時
平成20年10月8日(水)14:00〜16:00
2.場所
奈良文化財研究所平城宮跡資料館講堂
3.出席者
(委員)
石﨑座長,高妻副座長,今津,内田,小椋,梶谷,川野邊,木川,北野,肥塚,佐野,玉田,古田,松村,森永委員
(文化庁)
小山古墳壁画室長,内藤記念物課長,建石古墳壁画対策調査官 ほか関係官
4.概要
  1. (1)文化庁あいさつ

    小山古墳壁画室長からあいさつを行った。

  2. (2)委員及び事務局出席者紹介

    委員及び事務局出席者の紹介を行った。

  3. (3)議事
    (1)座長及び副座長の選出
    委員の互選により,石﨑委員が座長に選出され,石﨑座長から高妻委員が副座長に指名された。
    (2)議事の取扱いについて
    古墳壁画保存活用検討会保存技術ワーキンググループの議事の取扱いについて事務局から説明が行われ,古墳壁画保存活用検討会と同様,原則,議事を公開する旨を確認し,了承された。
    (3)高松塚古墳壁画の保存対策について
    事務局より,高松塚古墳壁画保存管理の経緯と現状について説明が行われた。
    (4)キトラ古墳壁画の保存対策について
    事務局より,キトラ古墳壁画保存管理の経緯と現状について説明が行われた。
    (5)キトラ古墳壁画の剥ぎ取りの状況について
    事務局及び川野邊委員より,キトラ古墳壁画の剥ぎ取りの状況について説明が行われ,以下の質疑応答が行われた。
玉田委員:
「午」は泥の厚みが十分にあったので,剥ぎ取った後も安定しているが,「申」や「辰」には果たして十分な厚みがあると言えるのか。
川野邊委員:
泥と漆喰を併せて剥ぎ取ることは可能。剥ぎ取った後に,「午」のように泥だけの状態にしたときに,それが安定するか否かは今後の検討課題であると認識している。
梶谷委員:
「午」は泥側に絵が転写されている。「申や「辰」などについても漆喰を剥がして泥を残す手法になるのか。泥の部分を剥がして漆喰を残すことは考えられないか。
川野邊委員:
「午」は偶然剥がれてしまった漆喰と泥の部分があった際に,漆喰部分にはほとんど絵が残っていなかったため,泥に残った絵を保存するということになった。現在の技術では今後剥ぎ取るものについては,泥も漆喰もきちんと剥がすことは可能なので,どちら側を残すかは検討会で判断いただきたい。
今津委員:
泥の中に顔料の粒子が入っていると理解してよいか。
川野邊委員:
顔料粒子よりも泥の粒子の方が細かく付いているという状況。
今津委員:
泥の粒子は隣りの泥の部分も同じなので,同様な状況が形成されていることが想定される。
川野邊委員:
泥の粒子は他とは異なっている。「申」や「辰」は泥が何度も流れて粒子が落ちているかもしれない。また,「午」の場所よりも現在表面に残っている泥の粒子が粗いので,表打ちが非常に難しい状況にあると認識している。
今津委員:
保存の観点からは,ベースは漆喰の方が安定すると思う。泥に転写されたものを残すとなると,如何に泥のベースを固定するのかが非常に難しい問題になるので,出来れば漆喰を残す方向で検討してほしい。また,朱で描かれた線があれば,X線で確認できるので,絵の粒子がどちらに残っているのか確認できれば,どちら側に残すのか判断できると思う。判断まで時間が必要。
川野邊委員:
「午」も現在,泥の安定化に非常に苦労しているところ。まずは近い将来に泥毎剥ぎ取り,X線を活用して絵の部分を確認したい。
肥塚委員:
泥の厚さは,「午」よりも薄いのか。
川野邊委員:
かなり薄い。
石﨑座長:
具体的にどの程度薄いのか。
川野邊委員:
だいたい半分以下の厚みしか残っていない。1ミリ以下の部分もある。
石﨑座長:
1ミリよりも薄いとなると,剥がしたときに自立するのは非常に難しい。剥がした後に土に関してすぐ応急処置をしないといけない。
川野邊委員:
剥がした後は,平面で十分な湿度を与え酸素がない状態に保つことが壁画にとって一番よい。
石﨑座長:
剥がす前と剥がした後で泥に対する湿度環境を変化させないように管理することは非常に難しいのではないか。
川野邊委員:
大変難しい。
石﨑座長:
泥が崩れないように剥ぎ取ることは可能なのか。
川野邊委員:
十分な表打ちを行えば問題なく剥ぎ取れると思う。
肥塚委員:
剥ぎ取った後に泥を如何に残すのかは非常に難しい。樹脂等で固めることも考えられるが,泥がかなり薄いとなると困難。
川野邊委員:
絵が残っているとすれば,おそらく泥の方に残っている可能性が高い。剥がすことは可能だが,剥がした後に環境が変化し,泥が落ちてします可能性,泥が薄いと粉々になってしまう可能性はある。
肥塚委員:
剥ぎ取り作業は,剥ぎ取りやすいものから剥がすのが原則。実際作業を行っている現場の判断が一番よい。
松村委員:
「申」,「辰」,「巳」の順番をどうするか。その見通しはあるのか。
川野邊委員:
天文図はおそらく本年11月中には剥ぎ取ることができる予定。その後は,天文図の周辺の幾つかの余白部分の剥ぎ取りを行うことを考えている。泥の下の部分は,その後,その周辺部分を剥ぎ取って様子を見ることになる。
石﨑座長:
床面の剥ぎ取りについてはどうか。
川野邊委員:
床面を含め,全面の剥ぎ取りを行うとすれば,4〜5年は時間がかかる。
木川委員:
壁面の漆喰と床面の漆喰は様相が違いのではないか。床面の漆喰の剥ぎ取りはどのような形で行うのか。
建石調査官:
床面の写真を用意している(委員に配布)。川野邊委員,床面の現状を説明願いたい。
川野邊委員:
この写真はかなり前のものなので,現在は全面にゲルが覆ってカビが生えている状態。毎回消毒などできれいにしているが,イタチごっことなっている。今はほとんど真っ茶色になっている感じがする。
松村委員:
床面には棺台の痕跡があったりする。剥ぎ取りの優先順位としては一番最後になると思う。
川野邊委員:
全面の剥ぎ取りで特に難しいのは,石室内の四隅の部分である。
建石調査官:
床面については東京奈良の両研究所の協力を得て検討のもとになる資料を作成したい。
玉田委員:
床面の漆喰は棺台の痕跡も残っており,学術的に貴重な価値があるので,保存する方向で考えてほしい。
 泥の下の絵の部分の剥ぎ取りについては,まず泥と漆喰を一緒に剥ぎ取りを行うこと,剥ぎ取ったものを適切な管理をした上でどちら側を剥ぎ取るかを検討することとされた。また,剥ぎ取りの順序については,現場の判断で行うこととされた。古墳壁画保存活用検討会には,この旨を座長から報告することとされた。
(6) 剥ぎ取った壁画の保存管理について
事務局及び川野邊委員より,キトラ古墳壁画の剥ぎ取った壁画の保存管理について説明が行われ,以下の質疑応答が行われた。
肥塚委員:
ゲルや土の処置の手法について何か考えはあるのか。
川野邊委員:
ゲルの部分は水分を与えてゲルを浮かび上がらせて物理的に削ることが可能。土は土の種類によるが,顔料層に入らない形で顕微鏡下でできるところまで処置することになる。
肥塚委員:
物理的な方法で処置するということか。海外でも物理的な方法で行うもは改善されてきており,今後色々と研究されるとよい。
川野邊委員:
ポイントとなるのは,粗い顔料の上にある細かい土粒子の除去ができるか否か。壁画を十分安定した状況にすることができるので,その部分の除去については今後研究したい。
松村委員:
濡れ色にするに際して,壁画に影響を与えない手法はあるのか。
川野邊委員:
漆喰層の強化に使っているセルロースの誘導体を必要以上に使えば濡れ色になる。壁画に悪い影響があるかと言えばあまりないが,文化財の修理においては不必要な作業。
松村委員:
濡れ色の処置を行って,元に戻すことは可能なのか。
川野邊委員:
可能だが,物に負担をかけるので,濡れ色にした場合は,そのままの方がよい。
梶谷委員:
何か濡れ色にしなければならない理由があるのか。
建石調査官:
高松塚古墳壁画やキトラ古墳壁画の一般公開をおこなったときに,濡れ色が失われて,鮮やかさが失われたという意見が出ている。
梶谷委員:
濡れ色というのは,非常に特殊な条件下で見える見え方なので,公開するために物に負担をかけるリスクを抱えて濡れ色にする必要はないのではないか。
今津委員:
濡れ色を判断するのは,例えば10年程度経ってから行えばよい。今はまず壁画の状態を保護し,出来る限りゲルた土の処置を行うことが重要。濡れ色は発見当時の色が一般にインプットされているので,乾いた色が褪せたように見えるという意見もある。それは,水分がなくなった結果であると説明することが必要だが,今の段階で濡れ色にする必要はない。
森永委員:
ゲルの成分は判明しているのか。
木川委員:
直接の成分分析は行っていないが,バクテリアと菌類の混合体でバイオフィルムと呼ばれるものである。
森永委員:
カビなどは文化財の保存環境が悪いと増殖するので,ゲルはきちんと除去しておいた方がよい。
木川委員:
セルロース誘導体の場合は,湿度が非常に高くなったらカビの増殖の懸念はあるが,博物館環境下で保存しているので問題はない。
石﨑座長:
保存状態は湿度70%と言われているが,問題ないのか。
川野邊委員:
無酸素状態に置いているので,カビの問題はない。
高妻副座長:
朱雀などの壁画の状態変化の要因分析は,朱雀が白くなって見えなくなっている要因も分析するということか。
建石調査官:
朱雀なども含め壁画の状態が変化した内容を踏まえ,全体として将来的にどのような管理を行うのが適当かという指針を作成してほしいと考えている。

剥ぎ取った壁画の保存管理については,ワーキンググループでの議論を整理して座長から報告することとされた。

事務局から連絡事項を行い,第1回ワーキンググループは終了した。

以上

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