資料1

資料 1

古墳壁画保存活用検討会保存技術ワーキンググループ(第2回)議事要旨

1.日時
平成21年2月10日(火)13:30〜16:30
2.場所
文部科学省東館3F1特別会議室
3.出席者
(委員)
石﨑座長,高妻副座長,今津,内田,小椋,梶谷,川野邊,木川,北野,肥塚,佐野,古田,松村,森永委員
(文化庁)
小山古墳壁画室長,内藤記念物課長,鬼原主任文化財調査官,建石古墳壁画対策調査官 ほか関係官

4.概要

(1)議事

(1)キトラ古墳壁画の保存について
事務局より,資料3に基づき,キトラ古墳壁画の剥ぎ取り方針の整理について説明を行い,引き続き,木川委員より,資料4,資料5に基づきキトラ古墳の微生物等の状況について説明が行われ,以下の質疑応答があった。
梶谷委員:
余白漆喰も含めて絵画であるという考え方は変化してない,但し,床面の漆喰は別途検討を要するという理解でよいか。
内藤課長:
これまでの議論では,余白漆喰も含めて絵画であるという考え方が前提となっている。その上で,壁画の絵画性を考えた場合,絵だけの場合,絵の周辺の余白を含めた場合,壁面を一面とした場合,絵の感覚がかなり違ってくる。少なくとも絵のある面については,余白も含めて絵画として評価するべきではないかという整理である。床面については考古学的な調査を踏まえて更なる検討を要すると考える。
梶谷委員:
微生物対策で紫外線照射を行うとの提案だが,他に事例はあるのか。
川野邊委員:
極彩色の壁画は高松塚とキトラしかないので,他に事例はないが,一部の磨崖仏の微生物除去に使用した例がある。また,顔料のサンプルをつくり,実際に使用する紫外線の100倍から1000倍照射しても影響はないことを確認している。なお,泥の下の絵には影響はない。
(2)キトラ古墳壁画の剥ぎ取りについて
川野邊委員から,資料5に基づき,今後のキトラ古墳壁画の剥ぎ取りについて説明が行われ,以下の質疑応答が行われた。
松村委員:
集中的に剥ぎ取る期間を限定すると,剥ぎ取り期間は相当に延長することになると思われる。
川野邊委員:
現状の剥ぎ取りの場合,前後の準備期間や処理期間,点検等の手間がかかる。集中的に剥ぎ取りを行うことで,効率を上げることができる。
松村委員:
年に2回から3回程度,集中的に剥ぎ取り作業を行うという計画なのか。
川野邊委員:
現時点では,本年5月頃に1か月程度実施したいと考えている。その後の生物被害の状況を鑑みて,年に2回から3回程度,集中的な期間を設けたい。
松村委員:
酢酸菌の被害の進行度合いによる。生物被害の状況からおよそ2,3年で全部剥ぎ取る必要があるとのことだが,当該期間内に作業を終える見通しは立つのか。
川野邊委員:
現場の労力にも限度がある。剥ぎ取り作業と剥ぎ取った漆喰片の修理作業とのバランスで作業を進めていきたい。
石崎座長:
朱雀に付着した泥の取扱いについて,説明がほしい。
川野邊委員:
現在,臨時の展示用に作業を進めている。泥の部分が非常に小さいので,特段変わった処置はしないで全体の強化処置を実施している。展示としては,泥の面が見える状況で作業を進めようと考えている。
高妻副座長:
集中剥ぎ取りの時期は温度が低い時期がよいとの話があった。温度が一番低い時期は,昨年の温度分布をみると,3〜4月なので,この時期に実施することを検討すべきではないのか。
川野邊委員:
3〜4月は現場の技術者が他の仕事が入っており,作業できない。
鬼原主任調査官:
美術工芸品の国庫補助事業で他の文化財の修理作業が年度末に集中している。
小山室長:
集中剥ぎ取りを行うことは,3月上旬に予定している検討会においても検討を行うこととしており,手続き面を考慮すると,だいたい5月頃になるというイメージである。作業スケジュールもなるべく遅滞ないよう,進めていきたい。
肥塚委員:
壁画の剥ぎ取り作業は,他に出来る者はいないのか。現在作業している技術者しかできないのであれば,その説明を明確にすべきではないか。せまい石室内の空間で4,5年もかけるのは非常に時間がかかり過ぎるのではないかとの指摘に対して明確に回答すべきではないか。
川野邊委員:
剥ぎ取る精度を変えれば理論的には作業を早くすることができるかもしれない。これまで剥ぎ取った壁画の精度を維持するのなら,現在予定しているレベルの時間はかかる。
今津委員:
生物被害の観点からは,あと2〜3年程度の猶予期間しかないのであれば,その期間内に剥ぎ取り作業を終えるよう,スケジュールを計画すればよい。
川野邊委員:
率直な話をいえば,現場としては1か月で剥ぎ取り作業ができるかわからない。非常に技術者が消耗するので,これまでは,準備や後処理も含めて1か月に1〜2回程度実施してきた。最近,技術者が育成されてきたので,2組程度で作業を交代で出来るところまできている。技術者の体力次第では,2か月作業を行ってもよいが,まずは1か月程度で様子をみたい。
肥塚委員:
生物被害が大変厳しい状況ならば,短期間で剥ぎ取り作業ができるよう,検討することが必要ではないか。現状からすれば,3年,4年かかるといっても,現状報告に止まるのではなく,短縮して作業できないのかこの場で検討することが必要なのではないか。生物被害が大変厳しいという緊迫感が全く感じられない。
今津委員:
既に絵のある部分の剥ぎ取り作業は終了し,絵のない余白の剥ぎ取り段階で入っているので,作業のスピード化及び能率化を図るべきである。
肥塚委員:
作業の短縮化の検討はいつまで行うのか。短縮化してできなければ,例えば剥ぎ取り作業が困難なので,無理して剥がさなくともよいとの意見もあり得る。何らかの対策を検討会にきちんと示すことが必要。
松村委員:
1か月集中して剥ぎ取りを実施することは,効率化に向けた努力であり,一度集中的に実施して,それ以降に年に何回集中して実施できるかを計画立てるので,検討会にきちんとした対策を示すことはできる。また,検討会であった意見は,なるべく余白部分を現状保存でそのまま石室内に残せないのかというスタンス。現状の酢酸菌等による生物被害で全面剥ぎ取りを実施しなければ消失する方向に向かっており,全面剥ぎ取りしか取り得る措置はなく,如何に効率化して作業を行うかという段階にきている。
内藤課長:
現在,提案している集中剥ぎ取り方法,微生物対策としての赤外線の照射等,絵のない余白漆喰であったとしても,剥ぎ取りは確実に実施しなければならない。これらの方法も実施して検証しながら進めていくこととなり,様々な可能性を進めて方策等について整理しながら,ワーキング等でさらに検討いただきたいと考える。
(3)高松塚古墳壁画のサンプリング調査実施の検討について
肥塚委員から,資料6−1に基づき,高松塚古墳壁画における材料調査について,説明が行われ,その後,事務局から,資料6ー2,6−3,6−4に基づき,サンプリング調査等について説明が行われ,以下の質疑応答が行われた。
北野委員:
発見当時に漆喰等の材料調査を実施した大学等に,現在,試料は保管されていないのか。
建石調査官:
当時の分析法を考えれば,分析に供した試料自体は液体になっている。過去の試料の所在については,現在,関係大学等に問い合わせ中である。
高妻副座長:
サンプリング調査によって得られる事項や,どういった制約があるのか等,ワーキンググループとして積極的に意見を出していただきたい。
肥塚委員:
石室を構成する石は,国宝や特別史跡の一部と解釈してよいか。石自体をサンプリングに使用してよいか。
内藤課長:
石室の石は特別史跡の一部という整理をしている。石材の補強等についてはその観点から,現状変更の許可をとっている。
鬼原主任調査官:
石が漆喰層と共に一体として壁画の支持体を構成しているとされば,国宝壁画の一部という解釈をとることもできる。
肥塚委員:
石材の強化をするにあたっては,仔細な調査を行う必要がある。調査を行うにはどのような手続きが必要になるのか。
建石調査官:
石材については,国宝としての取扱いはしていない。鬼原主任調査官の話は指定範囲の話ではなく,石材と壁画を一体として修理している現状を踏まえたもの。石材は特別史跡の一部として取り扱っている。したがって,特別史跡の構成要素として,必要に応じ,現状変更の手続きが必要となる。
肥塚委員:
小さな破片が幾つかあるが,申請をすれば,調査できると考えてよいか。
建石調査官:
そうではない。まず特別史跡全体として,どういう影響を与えるのかということを議論して,必要があれば手続きを行う段取りとなる。
松村委員:
特別史跡は不動産文化財の指定概念なので,既に剥離した石材は動産文化財となっているため,特別史跡の一部と位置付けることには違和感がある。また,橿原考古学研究所で保管していた漆喰片等は指定前なので,特段手続きなくともサンプリング調査できると考えてよいのか。
建石調査官:
対象となる試料をどのように考えるか,さらに検討していきたい。
北野委員:
非破壊調査で使用しているCCDカメラは倍率が20倍から160倍の間となってしまう。せめて400倍から600倍まで撮影できるものはないのか。
肥塚委員:
一番使いやすい形として160倍程度としている。
今津委員:
まず前提として壁画を安全に保存するにはどうすればよいか,その前提の上で,サンプリング調査が必要か否かの検討をすべき。
内藤課長:
石材については特別史跡の一部なので,それに伴う現状変更等の手続きは必要である。判断要素として,特別史跡の構成要素の一部を非破壊又は破壊調査をすることが必要であれば,その調査の必要性と構成要素としての位置付け(完全に離れてしまって場所が不明なのか否か),調査によって得られる成果は何かを考慮しなければならない。顔料と漆喰について整理したが,石材についても同様なことが必要であれば,同様な検討が必要となる。
小山室長:
国宝としても同様の考え方である。最終的には文化庁が決定し,その際に,文化財保護法による手続きが必要になる。文化庁の意思決定の参考として,検討会等に専門的な見地からの意見をいただくことになる。この場では国宝や特別史跡の区切りなく,どうすべきか,どうしたらよいかという点で自由に検討いただきたい。検討会に提案する段取りの場として理解していただきたい。
肥塚委員:
将来どの程度まで調査を実施すべきなのか,現場としてはできる範囲で最善を尽くしているので,そのことも念頭において,検討してほしい。

その後,ワーキンググループから検討会に報告する事項を事務局で整理し,各委員の確認後,座長から検討会に報告することとなり,第2回ワーキンググループは終了した。

以上

ページの先頭に移動