墓道部発掘調査について

 2003年1月26日から3月25日までの期間で、キトラ古墳墓道部の調査をおこなった。調査は、文化庁の委託を受けた奈文研と奈良県立橿原考古学研究所および明日香村が共同で実施した。調査により、盗掘坑と墓道の規模などを確認した。その成果の概要を述べる。

盗掘坑
 ほぼ石室の西辺に沿い、ほぼ南北方向のトレンチ風の溝状遺構。上幅約2m、確認できた南北長は約5m。盗掘坑のそこには、破砕された閉塞石(石室南壁)の断片(凝灰岩片)のほかに、石室内から掻き出された漆塗り木棺の破片が堆積していた。そのほかに、金銅製品断片も出土した。
 盗掘時には、石室の南壁左上を破壊し、上下65cm、上幅40cm、下幅25cmの孔をあけて侵入を果たしている。破壊された石室石材の破断面には、幅5cmほどの工具痕が残る。

墓 道
 2002年度の墓道調査では、石室との間約1.5mを残していた。これを発掘した。
 墓道の埋土(埋め戻し土)は、大きくは3層に分かれ、床から0.5~0.6mは硬質な版築層(埋土下部)、その上の厚さ0.7~0.9mの層はやや緩い版築層(埋土中部)、最上層はもっとも軟弱な埋め立て層だった。各層とも、遺物はほとんど包含していなかった。
 墓道床面には、先の調査でコロのレール痕跡(道板痕跡)を確認していた。今回、その延長を確認するとともに、それと重複する穴を2基確認した。コロのレール痕跡は、全部で4条あり、ほぼ0.5m間隔で平行に並んでいた。これを埋めたのちに石室南壁前に直径0.6×0.5mほどの穴が掘削されていた。穴の土層断面を観察する限りでは柱を立てた痕跡は明確でない。

石 室
 墓道の奥に位置する石室の外観をほぼ明らかにするとともに、盗掘孔から石室内部の状況を観察した。
 墓道奥で確認した石室石材は、南側壁石(閉塞石)、天井石、西側壁石、東側壁石そして底石の合計5石。
 石室は、二上山産の溶結凝灰岩製の分厚い切石材を組み合わせて構築されている。これまで推定復元されてきたように、底石の上に、北壁と東西の壁石を立て並べ、それに天井石を架け、最後に閉塞石をはめ込む構造。
 まず、石室および石材の寸法を列記する。
石室総高:1.82m、幅(側壁外法):1.96m(推定)。
石室内法:奥行2.4m、幅1.04m。方位:N14°W。
南端天井石:幅1.82~1.85m、高さ(厚さ)0.68m、
 奥行0.82m(推定)、面取部高さ0.15m・奥行0.25m。
南側壁石(閉塞石):高さ1.15m、幅1.2m、厚さ0.495m。
西側壁石:高さ1.17m、厚さ0.47m。
底 石:幅1.85m。
 石室外面では、これらの石室石材の継ぎ目すべてに漆喰を塗り込めて防水処置する。

 墓道部をほぼ完全に発掘調査したのは、終末期古墳に限っても他に例がなく、石室閉塞直後の石室の見え方を提示し、墓前祭祀のあり方を考察する上でも貴重な調査だったと考える。
 

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