壁画の現状について

  別添の現状写真において、肉眼観察による壁面の漆喰の状況について、色の線と範囲で示した。それぞれの内容は次のとおりである。
○青色の線:
表面より石面まで貫通している亀裂
○赤色部分:
漆喰層が石面より完全に剥離している部分
○黄色部分:
剥離が疑われる部分
○緑色部分:
漆喰層の一部が失われ全体に紛状化とともに密度が低下しているか、あるいはほとんど失われている部分

(1)東壁



 青龍部分は天井直下より十二支像の存在の可能性がある部分まで幅45cmから50cm程度ほぼ全面的に剥離し、その剥離の高さ(漆喰層と壁との隙間)は、最大35mmに達する。剥離した漆喰層と石材面との間には、剥落した漆喰層、岩石片、木の根などが存在することが確認されている。また、青龍の前部分の一部を除き厚く粘土層に覆われ、その下の状態は観察できない。左下の残存する十二支像は下半分程度が剥離し危険な状態にある。東壁全体では残存漆喰層の40%程度が剥離しており、残りの漆喰層も軟弱な状態である。また、顕在化している亀裂も多くさらに、泥の層の下にも多くの亀裂の存在が疑われる。

(2)西壁



 白虎部分は前足を中心として直径約20cmの範囲を除いた部分は完全に剥離し、東面同様漆喰層と石面との間には様々な介在物が存在する。白虎像の上部部分は大きくいくつかの断片に分離し、石材面より押し出されるように剥離している部分が散見される。その重量の過半は、白虎部分にかかっているように観察されるので、現状は極めて微妙なバランスによって保たれていると推測される。また、現在確認されている十二支像はほぼ全面が剥離しており、緊急の保存処置が求められる。下半部は、残存漆喰層の約50%が剥離している。顕在化している亀裂は主に北側に集中しており、これは、下層の石質の差異、もしくは構造によるものかとも想像される。北側の広く粘土に覆われている部分の下には亀裂が隠れている可能性がある。

(3)北壁



 壁のほぼ中央を上下に分断する亀裂が存在し、玄武像の上部部分に大きな剥離が2カ所存在する。今後この剥離が進行し、脱落することがあれば、その影響は深刻であると思われる。左下の十二支像は剥離が激しく、緊急の処置が求められる。中央部分の十二支像は中央を亀裂が通り、その両側の部分に亀裂が疑われる。右下の十二支像は顔料が薄れ、表層の漆喰層も紛状化が始まっているように観察される。残存漆喰層における剥離部分は約20%と想像される。

(4)南壁



 残存状態は最も良いが、漆喰は軟弱化しており、朱雀直下には剥離部分があり、その部分から亀裂が朱雀方向に進行している。今後の湿度変化によっては、急激に剥離が進行する可能性もある。

(5)天井



 全面的に漆喰層の柔軟性が失われ、紛状化が進行しており、乾燥した筆で触れるだけで漆喰の粉が落下するような状態である。また、日常的に粉状の漆喰の剥落が観察されている。星宿の約30%は基底層の漆喰が失われ、残存している朱線と金箔は、剥落止めを行うことさえできない状態である。このまま、石室内の湿度変化が継続すれば、剥落を止めることは不可能であり、非常に短期間に多くの部分が失われる可能性がある。残存漆喰層の約40%、星宿部分の約60%に漆喰層の密度の低下が見られ、何らかの強化措置を必要としている。

(6)全体



 粘土に覆われている壁面では、既に粘土の剥落した面を観察すると、粘土の粒子が漆喰粒子よりも細かいことで、粘土層が剥落する時に、顔料層直下の漆喰層まで一体に剥落していることが観察される。これは、剥落止めの手法と程度および、剥離後の保存処置においてきわめて注意を要することであると思われる。



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