キトラ古墳のカビについて

  1. 墓道部発掘調査前

    特別史跡キトラ古墳では平成15年7月以降、小前室内部、墓道部周辺墳丘土等にてカビが顕著に発生した。この時、小前室内部は結露でつねに濡れており、消毒用エタノールで処置しても、すくにカビが再発する状況であった。
     主要なカビの種類の同定を行なったところ、Trichoderma sp.、Penicillium sp.、Aspergillus sp.、Fusarium sp.(以上、不完全菌類のなかま)、Cunninghamella sp.(接合菌類のなかま)などが主要な種として検出された。いずれも土壌のなかに一般的にみられるカビである。
     小前室のカビの問題は、ポリシロキサン系の樹脂で土表面を処置し、結露対策をとることによって改善された。

  2. 墓道部発掘調査後

    平成16年3月以降、石室入り口や石室内の天井石の継ぎ目等にカビが発生している。ただし、これまではカビの発生をみたらすぐに滅菌綿棒で採取し、主要なカビの種類を調査し、消毒用エタノール(場合によってはパラホルムアルデヒド燻蒸)により念入りに殺菌、除去を行ってきたため、壁画に被害は出ていない。
    石室内では、Trichoderma sp.(主に2種類)、Penicillium sp.(主に2種類、うすい色のものと濃い色のもの)が主要なカビとして検出されている(写真1、2、3)。いずれも、土壌のなかに一般的にみられるカビである。
    石室外では5月に小前室の天井石側面から、Acremonium sp.(黒灰色、写真4)、Penicillium sp.(濃い色のもの)が検出された。また8月には、天井石前面で黒から褐色の剛毛のようなカビが見つかり、杉山純多東京大学名誉教授に観察を依頼したところ、Phialocephala sp.の可能性が高いとの報告を受けた(写真5)。黒褐色を呈し、しかも堅固なカビであるため除去が容易ではなく、今後拡大しないよう対策をとる必要がある。

  3. まとめ

    現在のところ石室からは、黒色など濃い色のカビは検出されていない。しかし青龍を取り外したあと、その下の壁面に白いカビが発見されているので、点検監視作業を常に行う必要がある(写真6)。併せて、天井石に見つかった濃色のカビが石室内の壁画面に広がらないよう、今後厳重な注意が必要である。

キトラ古墳のカビ
写真1. 2004年3月に石室内で見つかったTrichoderma sp. -1
上 培養したプレート(MA)  下 微分干渉顕微鏡写真 (490倍)
キトラ古墳のカビ
写真2. 2004年3月に石室内で見つかったTrichoderma sp. -2
上 培養したプレート(MA)  下 微分干渉顕微鏡写真 (490倍)
キトラ古墳のカビ
写真3. 2004年3月に石室内で見つかった Penicillium sp.
上 培養したプレート(MA)  下 微分干渉顕微鏡写真 (490倍)
キトラ古墳のカビ
写真4. 2004年5月に石室外の天井石側面で見つかったAcremonium sp.
上 培養したプレート(PDA)  下 微分干渉顕微鏡写真 (980倍)
キトラ古墳のカビ
写真5. 2004年8月に石室外の天井石側面で見つかったカビ
上 現地での拡大画像 (50倍)
中 位相差顕微鏡写真 (100倍)   下 位相差顕微鏡写真 (400倍)
バーの長さは0.1mm
キトラ古墳のカビ
写真6. 2004年8月に東壁の青龍を取り外した跡に見つかったカビ
(灰色の壁面上の白くふわっとしたもの)

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