壁画保存の考え方について

  1. 壁画古墳における保存の基本的な考え方
    • 遺跡の保存に関しては、それを構成する各遺構が現地で一体的に保存されることが原則であり、古墳の壁画についても、現地の石室内で保存されることが基本である。
  2. 特別史跡キトラ古墳における保存の考え方
    • キトラ古墳の場合は、四神・十二支等の壁画が絵画としても、きわめて貴重な文化財であるため、十分な保存を図る必要があり、墳丘・石室等からなる古墳本体の保存と合わせて具体的な方法を検討することが必要である。
    • キトラ古墳の壁画は、壁面から浮いている部分については取り外すことにより、十分な保存措置を講ずることが可能になったが、なお石室内に残っている部分については、次の点で大きな問題がある。
      1. (1)石室内の漆喰は接着していると思われるところでも、既に無数の亀裂があり、時間が経つと剥離することが考えられるので、このままの状態では剥落する危険がある。また、漆喰は微妙な環境の変化に応じて収縮を繰り返すことにより劣化が生じている。
      2. (2)発掘調査の開始以降、壁画の取り外し作業中もなお、カビの発生が断続的に確認されている。入念な点検・処置を行って大事には至っていないものの、カビの発生を完全に防止することは困難である。また、取り外した壁画の裏面にもカビが認められ、目視できない箇所についての不安も大きい。
      3. (3)カビの防止のためには、石室内の環境をより乾燥させることが考えられるが、最近乾燥が認められた壁画の漆喰面の詳細な観察によれば、乾燥により壁画にすでに存在する亀裂の拡大や新たな亀裂の発生が生じたり、壁画の浮きが進行すると考えられるうえ、漆喰の劣化も憂慮され、乾燥させる措置も適切なものとはいえない。
    • したがって、現在の石室内で壁画の保存のために最適な環境を恒久的に維持することは現状ではきわめて困難である。
    • 石室ごと解体して保存処置する方法については、墳丘をほぼ完全に除去し、石室を解体する必要があることから、古墳自体の本来の形が失われることになり、史跡の保存上大きな問題がある。また、実際の作業を想定しても覆屋の撤去・石室解体時の衝撃、 急激な環境の変化等がかえって壁画に悪影響を与える危険性がきわめて高い。
    • 以上のことから、墳丘・石室など史跡としての古墳の価値を構成する重要な要素の現状を保ちつつ、貴重な壁画の恒久的な保存を両立させる措置として、壁画を全て取り外した後、十分な保存・修復を行うこととしたい。
  3. 取り外した壁画等の保存、活用
    • 取り外した壁画は、文化財研究所において保存・修復を行うことしたい。
    • 取り外した壁画については、保存・修復を行うこととしても、再び現地の石室内に戻して貼りなおすことは、その環境を考慮すると現状では困難である。
    • キトラ古墳の壁画は貴重な国民的財産であり、保存技術的に可能であれば、適切な施設において公開することを検討すべきと考える。
    • 壁画及び古墳本体の具体的な整備・活用の方策については、関係者の意見も踏まえつつ、引き続き委員会で検討したい。

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