特別史跡キトラ古墳の保存・活用等に関する調査研究委員会(第8回)議事要旨

日時 平成17年11月14日(月)14:00~16:00
場所 平城宮跡資料館 講堂

出席者

(委員)
藤本座長、三輪副座長、青木、有賀、猪熊、岡、河上、佐古、笹山、杉山、鈴木、田辺、百橋、増田、松田、三浦、毛利、毛利光、安田、渡邊(明)、渡邉(定)の各委員
(オブザーバー)
(独)文化財研究所東京文化財研究所修復材料研究室長、同 奈良文化財研究所協力調整官、国土交通省国営飛鳥歴史公園事務所長、奈良県教育委員会文化財保存課長補佐、明日香村教育長ほか
(文化庁)
岩橋文化財部長、村田記念物課長、下坂美術学芸課長、その他関係官

議事

1.開会・文化財部長挨拶
岩橋文化財部長より挨拶が行われた。
2.キトラ古墳内の生物環境等について
 三浦委員よりキトラ古墳の温湿度等の推移について、キトラ古墳の小前室および石室における菌類等生物調査について報告があり、以下のような意見交換が行われた。
 石室内の微生物等の分析結果より、ゲル状物質はバイオフィルムとよばれるバクテリア、カビ、酵母の混成である。
 9月16日の実地調査において採取したサンプルを培養したところ、バクテリアは16のグループに分かれ、多様性に富んでいる。カビの種類は高松塚古墳に見られるものと矛盾しない。
 バイオフィルムの形成には水分の供給が必須であり、漆喰の裏に水分の供給があると思われる。
 バクテリアの活動が弱まると、カビが一斉に出現する可能性が大きい。
カビはバイオフィルム内で漆喰の基質に付着するので、除去が難しい。
 従来より薬剤としてエタノールを使用していたと聞いていたが、エタノールはカビの栄養源になっていたと報告書にある。9月よりイソプロパノールに切り替えたらカビは減少したのか
 カビの発生は複合的要因によるものである。
 石室内の温度変化は外気に遅れて推移するということだが、石室内の今の状況はどうなのか。まだカビ等は増殖を続けているのか。
 温度が下がれば生物環境は安定するのか。今冬、壁画にどのような影響が起こりうるのか。
 温度の低下とあわせて、生物環境は改善すると考える。絵の部分については、引き続き取外し作業を進め、繁殖を防ぐ。また絵以外の漆喰部分に過酸化水素等を散布して、生物環境の改善を進める。生物的なことなので絶対とは言えない が、委員の先生方にご心配をおかけしないよう努力したい
 高松塚古墳の石室壁面のカビ、ダニは大規模に広がっている。カビとダニは深い関係にあり、カビはダニの餌になり、ダニはカビをつけて歩きまわり菌を広げる。キトラ古墳にも同様のものがみられるので微生物だけでなく小動物についても駆除すべきである。
3.壁画の保存措置の実施状況について
 川野邊文化財研究所修復材料研究室長よりキトラ古墳壁画の剥ぎ取りについて、キトラ古墳剥ぎ取り壁画の状況について報告があり、以下のような意見交換が行われた。
 剥ぎ取りは壁面からういている箇所を中心に行っているのか。壁面と密着しているところの剥ぎ取りは技術的に難しいのか。
 白虎の前足や牛のように漆喰が厚くなっていたものは壁面に密着していても剥ぎ取れた。
 漆喰の厚さが1ミリ程度の非常に薄い場合は技術的に取り外せるのか。
 外すことはできない。
 壁画の剥ぎ取りの手順は誰が決めているのか。
 現場の判断で行っている。壁画のある部分で、剥がしやすい部分を優先している。
 天井など現在の能力で剥がせないものについては、今剥がす必要はないと考える。
 前回の委員会で天井の剥ぎ取りは難しいと説明があったが、壁画全体を剥ぎ取ってほしいということが委員会の意向であったと思う。
 本当に全ての壁画が剥ぎ取れるのか議論していただきたい。朱雀が漆喰が薄くて剥ぎ取り困難ということだが剥ぎ取りは可能なのか。また、剥ぎ取った壁画の泥の除去など本格的な修復はほとんど進んでいないのか。修復作業の方針はどのようなものか。
 白虎の泥の除去はやってみるが困難であると考える。本格的な修復作業を行うには将来的な保存方針を検討することが必要。
 将来的な保存方針については今後の委員会での議論を踏まえ進めたい。ただ当面は緊急的な措置を優先したい。>
 前倒しをしてはぎ取りを行っているようだが、現場の作業者は対応できるのか。
 玄武までは対応可能。東壁の寅は難しいのでそれがどうなるかはわからない。
4.今後の壁画の保存措置について
 川野邊文化財研究所修復材料研究室長より、今後の壁画の保存措置について報告があり、以下のような意見交換が行われた。
 剥ぎ取れないものまで無理に剥ぎ取る必要はなく、将来にゆだねるべき。前回の全面剥ぎ取りの決定にしても期限は設定されておらず、急ぐ必要はない。
 このまま放置してバクテリア被害が進んだらどうするのか。かねてからの持論であるが、南壁の石を動かしてもよいのではないか。
 基本としては、石室は死者の世界であるから一体的に保存すべき。ただ壁画の保存が第一であるので、南壁の取り外しはやむを得ないかもしれない。
 前回の委員会でできるということであったのでやむを得ず全面剥ぎ取りを了承したが、今度は剥がせないとの話であった。話がずれてきている。
 当初の計画ではカバーできないものもでてきたというのが今回の報告ではないか。原則(全面剥ぎ取り)を守りつつも、どうしても困難な場合は委員会がある程度その基準を下げてあげなければ作業員も対応できない。
 前回の委員会で、壁面の状況は様々であるので技術的に可能なもののみを外すという条件付の全面剥ぎ取りであったと記憶している。
 前回の委員会では100%絶対に剥ぎ取るという議論ではなかったと考える。もともとキトラ古墳を開けた当時から、盗掘口から入れるかわからなかったため南壁を外すという議論があった。取り外した南壁を石室のそばに置くため覆屋も設計してある。現段階での現状を踏まえて議論を詰めていく必要がある。
 南壁の朱雀は壁を平面に置いた方が作業がやりやすいのか。
 現状よりは楽になる。作業員が心理的に楽になるので難易度が下がる。
壁画について1度も100%とれるといったことはないが、現場の作業員ともども最善をつくしている。
 絵を優先的に考えるのなら、南壁の取り外しも含めて検討すべきだが、実際にどう作業していくのか。また高松塚古墳の作業との兼ね合いもあるので、全体的な見通しをもって作業を進めるべき。
 遺跡を整備したいという立場から申し上げる。相対的湿度が安定していることから墳墓はかろうじてその状態をとどめていると考える。
石室内は我々が発見する前から危険な状態であったと考えるので100%を求めるのは無理な話である。底板1枚を残してあとはレプリカを入れて墳丘を整備してはどうか。
 天井について、難しさが良く分からない。どの程度の小片に分割すれば外せるのか。具体的な剥ぎ取りのイメージを教えてほしい。
 天井の南側に手をかけてみて、どの程度の制度で外せるか見てもらおうと検討している。
 南壁の取り外しが簡単に出てきて驚いた。現状変更のハードルが低くなっているのではないか。基本は、壁画は石室とともに一体として保存されることであり、それを始点として考えていくべき。
 壁画が最重要であることが前提である。
 現状変更を軽く考えているわけではない。昨年の会議では想定できなかった新しい状況を踏まえて、具体的にどうすればよいのか考えていきたい。
 今の作業はそのまま継続していただき、それが終わったのちに天井の絵のないところを一部やってみて、その状況、本日の議論を踏まえ、天井と南壁の扱いをWGで検討していただきたい。その結果をもって再度、委員会で審議していただきたい。
5.その他
 記念物課長より、保存状況等の条件がクリアすれば来年のしかるべき時期に壁画の一般公開を行いたい旨の提案があり、以下のような意見交換が行われた。
 積極的にやっていただくべき。一般国民は我々が壁画を独占しているという認識であるということを聞くので、できるだけ多くの方が見れるチャンスをつくっていただきたい。
 多くの方にみてもらうことは賛成。ただ期間については絵画の専門家の立場からすると、光、空気にさらされることを考えると長く公開することは難しいと考えるが、正倉院の公開の15日間は短いと思うので、十分考慮していただきたい。
 具体的な時期、機関、施設については保存科学の専門家、研究所の方の意見をききながら、文化庁として判断していきたい。

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