キトラ古墳の保存対策について

1.特別史跡キトラ古墳の概要

(1) 所在地
 奈良高市郡明日香村
(2) 発見
 昭和58年11月 ファイバースコープ調査で北陸に玄武を確認
(3) 指定
 昭和12年 7月 史跡指定
昭和12年11月 特別史跡指定
(4) 概要
 7世紀末頃の壁画古墳。古墳の天井に描かれている天文図は東アジア最古の現存例であり、青龍・白虎・玄武・朱雀の四神すべてが現存している例は国内初。
 四神の下に人身獣首の十二支像も描かれており、歴史的・学術的にも価値の高いものである。

2.これまでの経緯

昭和58年11月 第1次内部調査
 ファイバースコープ調査で石室内を調査。北陸に玄武の壁画が存在することが判明
平成9年~10年 確認調査
 墳丘の形状及び規模が判明。
平成10年3月 第2次内部調査
 小型カメラで石室内を撮影。東壁に青龍、西壁に白虎、天井に天文図及び日輪像、月輪像の壁画が存在することが判明。
平成12年7月 史跡に指定
平成12年11月 特別史跡に指定
平成13年3月 第3次内部調査
 デジタルカメラで石室内を撮影。南壁に朱雀の壁画が存在することが判明。
平成13年6月 文化庁に「特別史跡キトラ古墳の保存・活用等に関する調査研究委員会」(以下「委員会」という。)を設置
平成13年7月 第1回委員会
 キトラ古墳の現状の説明を行い、保存、公開の在り方について検討。
平成13年12月 予備調査
 デジタルカメラによる石室内撮影、含水率調査、二酸化炭素濃度調査等。十二支像とみられる獣頭人身像の壁画が存在することが判明。
平成14年1月 第2回委員会
 石室内部での保存処理等の作業の進め方、覆屋の構造・機能等の在り方について検討。
平成14年5月~6月 墓道部発掘調査(前期)
平成14年7月 第3回委員会
 覆屋の設計について検討を行い、実施設計を進めることを決定。
平成14年8月~10月 墳頂部発掘調査
平成15年2月 特別史跡キトラ古墳仮設保護覆屋着工
平成15年7月 第4回委員会
 覆屋利用マニュアルについて検討を行い、細部はWGで検討することを決定。
平成15年8月 特別史跡キトラ古墳仮設保護覆屋竣工式
平成15年12月 第5回委員会
 石室内発掘調査について検討を行い、発掘調査を実施するうえでの課題については、機動的な対応を行うため、WGで検討することを決定。
平成16年1月~2月 墓道部発掘調査(後期)
平成15年5月~6月 修復担当者による石室内目視調査及び壁面応急措置作業
 完全に剥離している部分がかなり存在し、落下する可能性が高いこと、剥離した漆喰層と石材面との間には木の根、剥落片等が多数存在し、漆喰を壁面に貼り戻すことがほとんど不可能であること等が判明。
平成16年6月~7月 石室内発掘調査
 多数の漆塗木棺片とともに、金象嵌鉄製刀装具片、銀製金具、玉類、人骨片などが出土。
平成16年7月 第6回委員会
 室内目視調査の結果を踏まえ、既に剥離している青龍、白虎、十二支像の戌、亥を剥ぎ取ることを決定。
平成16年8月~9月 青龍、白虎(前足を除く)、十二支像の戌の剥ぎ取り
※ 白虎の前足部分は、壁面に強く固着していたため、時間をかけて漆喰層の強化措置を行う必要があると判断し、剥ぎ取りを行わなかった。
 剥ぎ取り作業以降、週2回のペースでカビ等の点検を行っている。
平成16年9月 第7回委員会
 壁画の取扱について検討を行い、壁画を全て剥ぎ取ることを決定(詳しい内容は、別添第7回委員会資料)。
平成17年5月 白虎の前足の剥ぎ取り
平成17年6月 十二支像の午の剥ぎ取り
※ 朱雀の剥ぎ取りに向けて余白を剥ぎ取ったところ、泥の部分に朱を確認したことより判明。
夏 ~ 秋 石室内の生物環境の変化
 ゲルの大量発生、漆喰の穴の増加が判明。
平成17年11月 十二支像の丑、亥の一部の剥ぎ取り
第8回委員会
 玄武、十二支像の子、寅までの剥ぎ取りを行った後、天井と南壁の取扱の検討を行うことを決定。
平成17年12月 十二支像の寅の裾の剥ぎ取り
(第7回委員会資料)

キトラ古墳の保存対策について

1.壁画古墳における保存の基本的な考え方
 遺跡の保存に関しては、それを構成する各遺構が現地で一体的に保存されることが原則であり、古墳の壁画についても、現地の石室内で保存されることが基本である。
2.特別史跡キトラ古墳における保存の考え方
 キトラ古墳の場合は、四神・十二支等の壁画が絵画としても、きわめて貴重な文化財であるため、十分な保存を図る必要があり、墳丘・石室等からなる古墳本体の保存と合わせて具体的な方法を検討することが必要である。
 キトラ古墳の壁画は、壁面から浮いている部分については取り外すことにより、十分な保存措置を講ずることが可能になったが、なお石室内に残っている部分については、次の点で大きな問題がある。
(1)  石室内の漆喰は接着していると思われるところでも、既に無数の亀裂があり、時間が経つと剥離することが考えられるので、このままの状態では剥落する危険がある。また、漆喰は微妙な環境の変化に応じて収縮を繰り返すことにより劣化が生じている
(2)  発掘調査の開始以降、壁画の取り外し作業中もなお、カビの発生が断続的に確認されている。入念な点検・処置を行って大事には至っていないものの、カビの発生を完全に防止することは困難である。また、取り外した壁画の裏面にもカビが認められ、目視できない箇所についての不安も大きい。
(3)  カビの防止のためには、石室内の環境をより乾燥させることが考えられるが、最近乾燥が認められた壁画の漆喰面の詳細な観察によれば、乾燥により壁画にすでに存在する亀裂の拡大や新たな亀裂の発生が生じたり、壁画の浮きが進行すると考えられるうえ、漆喰の劣化も憂慮され、乾燥させる措置も適切なものとはいえない。
 したがって、現在の石室内で壁画の保存のために最適な環境を恒久的に維持することは現状ではきわめて困難である。
 石室ごと解体して保存処置する方法については、墳丘をほぼ完全に除去し、石室を解体する必要があることから、古墳自体の本来の形が失われることになり、史跡の保存上大きな問題がある。また、実際の作業を想定しても覆屋の撤去・石室解体時の衝撃、 急激な環境の変化等がかえって壁画に悪影響を与える危険性がきわめて高い。
  以上のことから、墳丘・石室など史跡としての古墳の価値を構成する重要な要素の現状を保ちつつ、貴重な壁画の恒久的な保存を両立させる措置として、壁画を全て取り外した後、十分な保存・修復を行うこととしたい.
3.取り外した壁画等の保存、活用
 取り外した壁画は、文化財研究所において保存・修復を行うことしたい。
取り外した壁画については、保存・修復を行うこととしても、再び現地の石室内に戻して貼りなおすことは、その環境を考慮すると現状では困難である。
 キトラ古墳の壁画は貴重な国民的財産であり、保存技術的に可能であれば、適切な施設において公開することを検討すべきと考える。
壁画及び古墳本体の具体的な整備・活用の方策については、関係者の意見も踏まえつつ、引き続き委員会で検討したい。

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