特別史跡キトラ古墳の保存・活用等に関する調査研究委員会
(第9回)議事要旨(案)

日時 平成18年9月22日(月)13:30〜16:30
場所 平城宮跡資料館 講堂

出席者

(委員)
藤本座長、三輪副座長、有賀、梶谷、河上、川野邊、肥塚、佐古、笹山、杉山、関口、巽、田辺、百橋、増田、松田、三浦、毛利、渡邉の各委員
(オブザーバー)
(独)文化財研究所東京文化財研究所修復材料研究室長、同 奈良文化財研究所、国土交通省国営飛鳥歴史公園事務所、奈良県教育委員会、明日香村ほか
(文化庁)
加茂川文化庁次長、土屋文化財部長、亀井文化財鑑査官、岩本記念物課長、山﨑美術学芸課長、その他担当官

議事

1.開会・文化庁次長挨拶
加茂川文化庁次長より挨拶が行われた。

2.出席者紹介・配付資料の確認
配付資料の確認と出席者の紹介を行ったほか、座長として藤本強委員が選出され、副座長には、三輪嘉六委員が選出された。

3.キトラ古墳の保存対策について
 事務局より、資料に基づき説明が行われた。

4.キトラ古墳内の生物環境等について
 三浦委員よりキトラ古墳の温湿度等の推移、キトラ古墳の小前室・石室における微生物等生物調査について報告が行われ、杉山委員から微生物等生物調査について補足の報告が行われ、以下のような意見交換が行われた。

 キトラ古墳壁画に抗菌剤であるケーソンCGを使用することについて、どのような影響があるのか。将来にわたって使用した場合、ある程度カビを防ぐことができるのか。
 壁画内部に処置した限りにおいては、変色等の影響はない。ある程度効果に有効期間があるが、何遍も行うと影響があるので、何遍も行わない方がいい。
 ケーソンCGは、バクテリアには有効ではあるが、カビには効き目がないので、カビ対策は他の薬剤を使用して処置することになる。
 バイオフィルムは、壁画の上に乗っているだけなのか。漆喰の中からでているのか。
 漆喰は完全に平滑ではなく、少し中に入っている。
 石室内部のカビやバクテリアの状況は基本的に改善せず、緊急性が高まっているといえる。
 南壁のカビの種類が数種類から20種類になっているが原因は何か。
 ダニやトビムシ等の小動物による散布ということも考え得る。
 高松塚古墳でも議論のあった生物連鎖がキトラ古墳にもでき上がりつつあると言うことか。
 既に、キトラ古墳でもできあがっている。
 キトラ古墳のバクテリアとかカビは特異なものなのか。
 キトラ古墳周辺の結果が出ていないため、現時点での回答はしにくいが、努力しているところである。

5.キトラ古墳壁画の保存措置の実施状況について
 川野邊文化財研究所修復材料研究室長よりキトラ古墳壁画の剥ぎ取りについて、キトラ古墳剥ぎ取り壁画の状況について報告があり、以下のような意見交換が行われた。
 剥ぎ取った壁画を乾燥させた場合の問題点、どの程度乾燥させるのか。乾燥してどれだけ収縮するかというデータはあるのか
 博物館環境で公開できる程度の状態の大体52%ぐらいで安定するように考えている。収縮については、白虎などの例では、収縮していない。青龍の場合は白虎より上に薄く泥が被っているため、その泥の収縮が大きく、漆喰層がついていけないため、細かい亀裂が入り始めているとの観測がなされているため、乾燥を止めて、泥と漆喰との亀裂が広がらない処置を考えている。
 石室内にあるときに、乾燥が進み、収縮が起こってひび割れが進んでいたとあるが、どこの部分で、取り出した後とどのように異なるのか。
 石室内の微妙な湿度変化でもともと細かく入っているひびが動いたということで、取り出したものについても、表打ち、裏打ちを何度も繰り返して安定化させている。

6.今後の壁画の保存措置について
 川野邊文化財研究所修復材料研究室長より、今後の壁画の保存措置について報告があり、以下のような意見交換が行われた。

 漆喰の厚いところはヘラでも剥ぎ取れるが、1.5ミリ程度の非常に薄い場合は現在の技術では取り外せないことはわかった。新しい技術を持って剥ぎ取ることはできないのか。
 寅のような周囲がかたくついているところは、力を加えた場合、漆喰層を破壊する危険性がある。また、ヘラで剥ぎ取ると漆喰層を曲げてしまい、漆喰層を破壊してしまう。そのため、細かい鉄線の上にダイヤモンドの粒を埋め込み、それを一方方向に引くという器具を作成し、実験している。実験室レベルであるが、垂直面については、0.5ミリぐらいの厚みがあれば剥ぎ取りは可能である。ただし実験室レベルであり、実際に使えるかは未定。現在、垂直面で実験を行っているので、垂直面については、条件さえあれば剥ぎ取れる。
 現在、表から紙を貼り付けて養生して剥がしているが、今の石室の内部では、表打ちの紙を引っ張れば漆喰もついてくるような接着ではないという前提は変更していないのか。
変更していない。特にゲルが発生した後の表打ちの強度は著しく落ちるため、表打ちの粘着力だけで壁面を保持しながら外すというような状態は危険であると考えている。
 キトラ古墳に関して漆喰を全面剥ぎ取るという基本方針に変更はないのか。二上山という凝灰岩は強度の不均衡が非常に大きく、ダイヤモンドワイヤーによる剥ぎ取りでも黒い礫があるところはワイヤーがこすり、壁画に重大な影響を及ぼす可能性があることから、石ごと切るということも除外せずに検討するべきではないか。
 おさらいとして、無理して剥ぎとらなくても、置いておけるのならば、それを検討してもいいのではないか。
 もう生物連鎖が出来上がっているのならば、半永久的にこの生物連鎖の面倒を見なければならないため、全部剥ぎ取り、保存するという方針は変更しない方が良い。
 決して固執はしないが、南側の石ごとはずしていくのが一番いいと思っている。
 天井については、前回の委員会で剥ぎ取りは難しいと説明があったが、新しい方法で何とかなるのか。実用化できるのか。
 考古的には、解体よりは、石ごと切るというほうがまだ、遺構の破壊度が少ないと考える。
 ヘラでの剥ぎ取りは、石の壁にかなりの損傷を与えているのか。
 擦り傷はあるかもしれないが、石は硬いので、基本的には何もない。
 石ごと切るのはどうかとの意見については、当初、石ごと切ることを考えたが、技術的にうまく切れないため、石と漆喰の間を切ると言うことが一番現実的であると現場では考えている。
 あの環境の中で作業を行うことは、最善な努力をするような環境ではないと考える。しかるべきところに石を持っていき剥ぎ取った後、元に返すのであればいいのではないか。
 仮に放置した場合に、現在の漆喰がどのようなるのか生物環境としてシミュレーションしてから、剥ぎ取りを行う方が、成功確率が高いのではないか。
 将来的に保存・活用していく上で、一つの壁面を一体として保存・活用していくような方法にしていくのか、絵の部分だけを保存していく方法でやるのか。方向性は出ているのか。
 垂直面の部分については外せそうだが、天井部分がその方法では無理だという話になると考え直さなければならないと思う。
 垂直面も出来ると言ったわけではない。天井については、舟形になっているので、今の機械では切ることができないので、そこは手作業で剥がしてやると言う方法を考えている。
 天井部分については、現実的に小さなピースに分けて、壊せる確率の高いピースに分けて剥がずと言う方法でいいのではないか。丸ごと剥がすというのは現実的に不可能だと思われる。
 天井部分については、印象よりはるかに残りが悪く、漆喰層が非常に薄いため、漆喰層を切るというより、全く別の方法が必要だと考える。ダイヤモンドワイヤーによる剥ぎ取りは、天井では一部適用できるかもしれないが、側壁のような切り取りはできないと考える。いろいろな手段を用いてバラバラに切り出す方法が一番いいと思われる。
 高松塚壁画の場合は、どこも剥ぎ取りはできないと言うことか。キトラの天井より高松塚古墳の側面の方が優しいように思えるが。
 高松塚古墳は作業環境が非常に悪いため、キトラでできる技術ができるともできないとも言えない。
 高松塚古墳は、発見当時にかなり合成樹脂で接着されて処置しており、キトラはそのような処置をしていないため、ダイヤモンドワイヤーの技術で剥ぎ取れるのだと思う。
 ダイヤモンドワイヤーで非常にかたい部分、柔らかい部分を一様に切ることができるが、高松塚古墳の場合は、合成樹脂が摩擦熱で溶け、それで表面をひっぱてしまうことが起こってしまうので、難易度は遥かに高いと思う。
 昔処置した樹脂は劣化するのではないか。
 劣化と熱的な物性が変化することは異なり、なくなるのではなく、不均質な状態になってしまうため、やってみなければわからない。高松塚はキトラのように石が出ている部分があって切れるわけではないため、難易度は高いと思う。
 キトラ古墳は漆喰の状態はまだいいが、高松塚古墳は漆喰の劣化が進みすぎて剥ぎ取り自身が困難だと思われる。
 キトラ古墳の天文図は、東アジアでキトラしか残っていないため、一枚物で捕るような気持ちで行って欲しい。そのため、天文図については、あわてず、検討をいろいろやって、残して欲しい。
 生物劣化の視点から言えば、ケーソンと言っても完全に押さえることはできないため、一刻も早く切り取って、しかるべき措置を施すしかないと思う。
 高松塚古墳を解体という決定がされたのは、よほど難しい側面があったからと思われる。そのような事態が一方にあるので、できれば、キトラ古墳をあまり傷つけない方向で何とか処置できないか。
 資料では石室解体時の衝撃等で危ない、解体を選択しないというふうに書いてあるが、解体する場合、漆喰の状態を考えると高松塚古墳の方が、キトラ古墳より危険が高いと思うが。
 高松塚古墳はリスクが大きい。しかしながら、この古墳を救うために、リスクを承知で、最大限努力して保存しようと言うことである。今の段階ではキトラ古墳は解体する必要はないと考える。
 解体修理はいけないことなのか。
 いけないといっていない。解体修理しか高松塚古墳は救えないので、解体修理を行う。
 キトラの場合はどうなのか。
 それをこの検討会で決定する。高松塚古墳も議論を行ったうえで解体修理することになった。
 キトラ古墳の場合は、遺構としての石室も生かすということで、壁画を外に出して、石室は解体せずに元の状況にしておくいう選択をしている。遺構をバラすと本来の価値を失うという考え方もある。だから、キトラの場合は何とかその考え方を成就させようとして剥ぎ取り等の難しい選択を行っており、一番簡単なのは解体だと思う。
 新しい工法を含め、どの程度の期間で妥当な手段が判明するか見えていない。その間に劣化が進むのではないか。
 当初は落下の危険があるということで剥ぎ取りを行うことになった。最近の議論は、カビ対策が不可能なので、室外に取り出すが天井とは朱雀をどうするかという議論になっていると考えている。
 高松塚古墳壁画は特別史跡、国宝に指定されているため、どういう状況になろうと絵画として指定されていることになるが、キトラ古墳は絵画の指定がされていない。将来剥ぎ取った壁画が外に出してしまった場合、どうなるのか。
 現状において、技術的に貼り戻すことは困難であるが、保存・修理のために出しているということであり、原則としては石室内でそこの部分も含め保存するという考え方が前提。その限りにおいて、特別史跡キトラ古墳の構成要素の中にあると考える。
 キトラ古墳壁画の模写については、剥ぎ取った後に考えてもらえないか。
 どういう形かは別として、壁画を古墳の外に持ち出すという点については、再確認できたと考える。どのような方法かについては、WGでよく検討していただき、とりあえずできそうなことをまとめていただいて、改めて委員会を開催して審議していただくことにしたい。
 もし、失敗した場合は、最終的な責任は文化庁が取るが、その前の責任は委員会で引き受けることを考えて、現場になるべく自由度を持っていただき、委員にも一定の責任を担っていただくことを確認させていただきたいと思う。

7.キトラ古墳壁画の公開について
 事務局より、今年5月に行われた壁画の一般公開に関する報告が行われるととも に、来年の同時期に壁画の一般公開を行いたい旨の提案があり、了承された。

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