資料7

資料 7

壁画の劣化原因に係る検討事項(議論のたたき台)

1.目的

 高松塚古墳壁画の発見以降,カビ等による壁面の汚れ,漆喰の劣化,白虎等の描線の薄れ等,壁画の劣化が進行し,古墳現地における壁画の保存が困難となったため,石室ごと壁画を取り出して修理を行う「解体修理方針」を決定し,平成19年8月までに石室の解体を終了した。今後,壁画が劣化した原因を科学的・学術的に調査・分析し,将来の保存・活用に役立てる知見を得る。

2.対象

 ここでいう「壁画」とは,基底材・支持体の役割を果たしている漆喰・石材(石室石材)を含む。
  • 「壁画」の構成(概要)
    ・色料,描線
    ・漆喰
    ・石材

3.調査

  1. (1)壁画発見(昭和47年3月)以前の状況の推定
  2. (2)壁画発見時前後の記録等の調査
  3. (3)壁画発見以降,「解体修理方針」決定以前の保存管理に関する記録等の調査
  4. (4)石室解体に伴って得られた知見の分析(発掘調査,石室解体等)
  5. (5)取り出された壁画の調査

4.項目

(1) 生物被害
(1)微生物の同定,微生物相の調査
(2)カビ育成の条件(温度,水分,栄養,pH等)の変化
関与する項目
・墳丘及び周辺環境の状態
・保存施設の状態(空調機器,取合部の状態等を含む)
・人の出入り,活動 等
(2) 白虎等の描線の褪色
(1)物理的要因
(2)化学的要因
(3)生物的要因

5.今後の予定

平成21年度に調査結果を取りまとめて公表。

壁画の劣化原因の調査に係る第11回国宝高松塚古墳壁画
恒久保存対策検討会での主な意見

  • 文化財研究所を中心にワーキンググループを設置して,2年をメドに劣化原因調査をとりまとめてほしい。形としては,検討会でその内容の承認を得るということが適当と思われる。
  • 発見後の30数年間において,どのように壁画が劣化していったのかという経過を明らかにする必要がある。写真資料を整理し,当時の担当者からの聞き取り調査を含めて,難しいと思うがおおよその劣化の経過を明確にさせる必要がある。
  • 壁画発見以後,人間が関わることによって何が起きたのかという点を中心にして整理を行ったら,ある程度劣化原因調査の焦点が絞れるのではないか。
  • 劣化でも自然劣化の部分がかなり大きい。また,それが引き金になっていると思われる。発掘調査によって地震痕跡があったことが判明しており,地震の専門家を含めた調査を行うことも必要。また,温度環境も大きく変化しており,高松塚古墳周辺の環境変化等も原因なので,体系的に調査を行うべき。
  • 平成20年2月はじめに文化財保存の国際シンポジウムが開催された。そこで,ラスコー壁画の研究員がラスコー洞窟内の気象の変化をシミュレーションし,ある意味非常に説得力のあるデータであった。高松塚古墳でもこれまで残されているデータを使って,同じような形で整理できるのではないかと思う。
  • 現在,高松塚古墳の環境変化の整理をある程度進めているところ。生物被害等との対応関係も一部分かってくるのではないかと期待している。
  • 人為的な保存管理の部分についてもある程度時間を限って進めることが必要である。これまでの保存管理の記録や壁画の状態の変化は今のところあまり進んでいないようであるが,期限を区切って早急に進めてもらいたい。
  • 現在,仮設修理施設で壁画の修理が進められている。時間が限られているが,絵画の描線を顕微鏡等でよく調査し,判明する事実を積み上げていくことが必要である。
  • 劣化原因調査は,こういった検討会ではなかなか細かい議論ができないので,作業部会等で徹底した議論がこれから必要になってくると思う。
  • 保存科学の観点からだけではなく,絵画をどう守っていくかという点についてもしっかりとした議論を重ねていかなければならない。

壁画の劣化原因の調査に係る第10回国宝高松塚古墳壁画
恒久保存対策検討会での主な意見

  • 調査の主体はどうするのか。検討会のこのメンバーでは,細かな専門的な議論はできない。WG等で内容を詰めてもらうことが必要。また,平成13年の高松塚古墳取合部工事の対応がよくなかったことのように,人為的な要因も調査することが必要だ。自然的な劣化等も含め,総合的に調査をすることが必要。
  • 考古学や美術史学等,それぞれの専門家に学術的な調査を行うといったことが抜け落ちている。もう一度,専門家によるしっかりとした調査研究を行う必要がある。外部の有識者による研究を行うべき。
  • 当時,合成樹脂を修理に使用することは,イタリアの専門家の忠告に従って行ったことである。合成樹脂はカビの生育に関与したようであるが,今後,修理を行うに際して,どうすればよいのか,何からの指針を示すことが必要。
  • 現在の視点でみるのではなく,当時の判断が当時の情勢からして妥当であったのか,検討することが必要。
  • 重要なことは,将来の保存や修理に役立てること又は基本資料となることである。また,他の装飾古墳(韓国では漆喰を塗った装飾古墳がある。)を含めた幅広な劣化の調査,将来を見据えた資料を収集し,分析することが重要。
  • この場で結論を出すのは難しい。十分な時間をかけて分析や作業を行い,十分な検討を行うことが必要。
  • 少なくとも,石室取り出し時に収集したカビ等のサンプルの分析は今年度中に出る。キトラ古墳やその他古墳を含め,次のステップに移行するには,カビだけではなく,それぞれの専門家による検討が必要である。カビ等によって何故劣化するのか,科学的に証明しなければならない。さらに,どのようにして制御するのか,対策としては何があるのか,長い目で検討しなければならない。
  • 保存管理に関する記録の整理は早急に進めなければならない作業である。
  • これまでに収集したサンプルや微生物分離株を恒久的に保存しなければならない。そのためには人材,設備,予算といった手当が必要。
  • 話を聞いていると,あまりにも範囲が広すぎるのではないか。まずは高松塚古墳に限定し,1年くらいでけじめを付ける必要がある。専門家にお願いすることもあるが,まずは,文化財研究所が中心となって調査を進めること。
  • 大きく分けて2つのステージがある。短い期間で概略を示し,次に残された課題を将来を含めて方向性を示して行う。
  • 文化財が劣化することは当然。文化庁が劣化したことを当初の方針に拘り過ぎて引っ張りすぎたのが問題。もっと早い時期に議論を行えばよかった。
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