事務局より,これまで「国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会」で議論した「壁画の劣化原因に係る検討事項(議論のたたき台)」について説明が行われ,以下の質疑応答が行われた。
佐野委員: |
検討会の場で初めて資料を出されるとなかなか十分に理解することができない部分もあるので,今後は事前に検討できるような検討資料を準備していただきたい。 |
山﨑室長: |
出来るだけ前もってデータ等あるいは資料を各委員に送付できるようにしていきたい。 |
青柳委員: |
高松塚古墳壁画に関わる様々な要因をコンピュータでシミュレーションして劣化した原因を追求することが必要ではないか。何かトータルな立体的な検討が必要ではないかと思われる。 |
永井座長: |
文化庁,東京文化財研究所,奈良文化財研究所ではこのことを検討することについて何か意見はあるか。 |
石崎センター長: |
高松塚古墳周辺の温湿度については気象シミュレーションを行っている。昭和47年時の石室発見時からの温湿度変化の解析はする予定である。ただ,その中にはかなり推定しなくてはならないところがあり,結果については推定ということになるが,そういう形で進めたい。石室内の漆喰や石材についてはほぼ湿度が100%という状態なのでシミュレーションをするのは非常に難しい。正確に行うにもデータが限られているため,本質的な部分の解析は困難である。 |
青柳委員: |
調査結果は他の文化財保存に汎用できるようなレベルまで行うことがこの検討会の一番の意義であろう。漆喰面と微生物,水分の移動など,それぞれの臨海面がどのように変化しているのかを検討すべきである。 |
杉山委員: |
微生物の観点からいえば,漆喰そのものの基質の内容がわかれば様々なシミュレーションができる。しかし,非破壊の調査しかできないため,基礎データがなく,的確な確度,精度の高いものが出てこない。 |
青柳委員: |
気候の変動によって,土中から石室,石室から漆喰へと熱は伝導する。漆喰に伝わったときの熱と石室内の空気の熱は違う。その違いが漆喰に付着する微生物に何らかの影響を与え,そういったことは,様々な要因を立体的に考えていかないと本当の劣化原因は出てこないのではないか。 |
石崎センター長: |
漆喰や石材における水の流れをシミュレーションすることは理論上あり得るが,石室内の湿度は大体100%なので,実質的には難しい。 |
三浦名誉研究員: |
石室解体前の状態からは様々な測定すべきデータが抜け落ちている。この検討会では,今後こういった類似の古墳を保存する場合にはどういったものをきちんと測定しておくべきかというった提言をするのが一番適当ではないかと思われる。 |
青柳委員: |
イタリアの礼拝堂では,観光客の息などで絵画が汚れているという話もある。例えばシミュレーションの中で,高松塚の狭い石室の中で人間が作業をしていたが,その場合,吐く息でどの程度の微生物に影響が生じるのかということも必要ではないか。 |
永井座長: |
現在どういうことが可能なのか,どういうことができないのかといった基礎的なデータを事務局で収集してほしい。 |
肥塚センター長: |
この検討会で「劣化」の定義を位置付けることが必要。物理的・科学的にこういった状況が劣化であって,こういうところを調査してほしいというのであればやりやすい。 |
建石調査官: |
過去の国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会で議論いただいた資料が膨大にある。それを各項目ごとに分け,各委員に整理したものを送付し,次回の検討会で主要な部分の内容を説明することとしたい。 |
山﨑室長: |
次回は現地視察を行い,会議は奈良で行う予定である。また,過去に紹介した資料を整理したものを説明し,壁画の顔料や描線の劣化について,材料等の調査を今後どうしていくのかを文化財研究所と協力して事務局として説明する。 |