資料5

資料 5

これまでの発掘調査で判明した壁画の劣化に関する事項

独立行政法人国立文化財機構
奈良文化財研究所
松村 恵司

1.平成16年度発掘調査(平成16年10月〜平成17年3月)

  • (1)調査目的
    • (1) 墳丘の現況(木根による版築の損傷,墳丘の変形状況)が壁画保存に与える影響を明らかにする
    • (2) 築造当初の古墳の規模,形態,構造を明らかにし,古墳の埋没環境が壁画保存に与える影響を明らかにする。
    • (3) 丘陵を開削してどのように古墳が構築されているのか,古墳の築造方法を解明し,築造時の排水処理計画を明らかにする。
  • (2)主な調査成果
    • (1) 地震に伴う墳丘の亀裂や断層が多数発見され,これまで版築の堰板痕跡と想定されてきた昭和47・49年発見の墓道部の溝状遺構(土層陥没)も,地震による断層と推定できるようになった。これらの地震痕跡は,過去に周期的に発生した南海地震の痕跡と見られ,地震に伴う亀裂や断層が墳丘の各所に存在する可能性が高い。
    • (2) 墳丘部にはモチノキの木株が3カ所に存在し,現在も墳丘内に深く根を張る。植物は,軟質土が充満する地震痕跡の亀裂にそって,根を張る状況が確認されており,こうした亀裂が雨水の浸透や,石室内への虫の侵入経路となっている恐れがある。 など

2 平成18・19年度発掘調査(平成18年10月〜平成19年9月)

  • (1)調査目的

     石室を解体可能な状態に露出させるための発掘調査を,平成18年10月2日から平成19年9月6日まで実施した。調査には奈良文化財研究所と奈良県立橿原考古学研究所,明日香村教育委員会が共同してあたり,古墳の築成方法や石室の構築方法を明らかにするとともに,壁画の保存環境の劣化原因等に関する様々な情報を収集した。

  • (2)発掘調査の結果判明した壁画の劣化に関係すると思われる事項
    • (1)墳丘の損傷
    • ・ 地震による版築層の亀裂(南海地震の影響)
    • ・ 石室石材間の隙間 など
    • (2)墳丘版築の亀裂,石室石材隙間で認められる生物
    • ・ 墳丘版築層内の亀裂と草木根
    • ・ 石室周囲から発見されたムシ 
    • ・ 旧調査区・取合部のカビ
    • ・ 石室外面で確認したカビ
    • ・ 石室石材接合面のカビ など

(参考)
平成20年8月現在,高松塚古墳現地では,墳丘仮整備に資するデータの収集を目的に発掘調査を実施している。今後の発掘調査の進行により,古墳墓道部(昭和49年発掘調査区)及びその内部に設置した保存施設の全体が露出するので,壁画の劣化に関係すると思われるデータが新たに得られる可能性がある。

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