杉山委員: |
例えば,昭和55年,56年にカビ被害による微生物調査を行い,属まで記載されている部分とカビとだけ記載されている部分ある。記録として,全て属まで残されているのか確認したい。 |
建石調査官: |
昭和55年,56年のあたりは,微生物学的なカビの調査はあまり行われていない。点検日誌の中に「カビなど」という記載があるだけの場合もある。整理して報告したい。 |
杉山委員: |
この記載されている以上の情報は残っていないということか。 |
建石調査官: |
部分的ではあるが,壁画のどの部分にどのような処置を行ったのかというデータはある。それらを元に処置や薬剤とその後の生物被害との関係等についてもご検討いただきたい。現在,情報を整理しているところである。 |
永井座長: |
日誌を含む,記録のみから情報を整理し詰めていくということか。場合による当時の関係者から話を聞くこともあり得ると思うが,そのあたりはどうか。 |
建石調査官: |
まず残された記録をもとにして情報を整理したい。その結果,具体的な部分を話を伺って補うこともあり得ると考えている。 |
成瀬委員: |
午前中の現地視察で白虎の薄れた部分を確認した。薄れるというのは,支持体がしっかりしており,その上の顔料層が何らかの原因で薄くなったというイメージを持っていた。しかし,よく見ると,支持体自体もポーラス化しており,層状にごっそり落ちる状況ではないが,なくなっている部分もあって,その上に乗っている顔料もなくなっているという構造になっている。ただ,それは所々に残っているため,全体で見ると線が薄れた状況に見える。そのような理解でよいか。 |
建石調査官: |
本日説明したのはこれまでの資料を整理したものの一部である。見た目として色が薄れているということ。今後材料調査や顕微鏡を使った拡大画像等により表面の状態も含めて検討していきたい。 |
北田副座長: |
カビがたくさん発生しているが,壁面の状態との因果関係はあるのか。 |
建石調査官: |
そのあたりも含め,これからの調査の中で科学的・総合的に検討していきたい。 |
成瀬委員: |
壁画の顔料・描線等の調査で,X線回析法の適用が難しいとの説明であったが,どうしてなのか。 |
肥塚センター長: |
X線回折法では,X線の当たる位置を出来る限り壁面に密着させないといけないため,リスクが大きい。 |
成瀬委員: |
国宝壁画なので,サンプリングはできなく,修理施設から移動することができないことが前提条件になると思われるが,劣化状態や劣化原因の究明をするには,X線回析法を導入することは必須のことと思われる。 |
成瀬委員: |
修理施設で顕微鏡下で修理をしているが,その他科学調査を行うときにも必要なので,予算措置をして台数を増やすことが必要と思われる。 |
肥塚センター長: |
壁画の表層の鉛白の状態が気になる。鉛の場合は劣化すれば,黒色等に変化する。黒色になったら大変なことになる。これは壁画に使われた鉛の化合状態に左右される。 |
成瀬委員: |
鉛の化合物の種類についてはクロム管球を用いてX線回折を行えば,うまく判定できると思う。 |
高鳥委員: |
漆喰の下地は鉛の量は均一なのか。 |
肥塚センター長: |
鉛白の厚みで確認するしかない。また,漆喰の中に鉛が混ざっているのか,漆喰の上に層状に鉛白が存在するのかも調査をしていないので不明である。 |
高鳥委員: |
生物の観点から言えば,鉛は生物の生育を阻害するのに非常に効果がある。カビが生えているということは,恐らくその周辺部分に鉛がないということではないか。 |
肥塚センター長: |
そのような解釈も出来るが,断定することは難しい。例えば,カビ処置の際に,鉛白の層が薄くなり,測定するとカビ周辺部分は鉛の量が少ない結果となるということも考えられる。 |
高鳥委員: |
確かにそういう場合もあり得る。今後検討しなければならない部分であろう。また,一つ聞きたいが,「スサ」というものは何なのか。 |
杉山委員: |
私の理解だと植物基質そのものだと思われる。残っていれば十分カビや微生物のえさになる。説明によれば,ほとんど空洞状態なので,既に食べられたと思われる。 |
肥塚センター長: |
「スサ」とは,漆喰が収縮して割れるのを防止するために混ぜるものである。紙スサを使う場合もあると言われている。 |
北田副座長: |
文化財というものは,物質で出来ており,その物質が何であるかということを解明するのは,保存の上にとっても非常に基本的なデータである。また,非破壊に準ずるという分析もその観点からは非常に重要であり,検討してもらいたい。 |
鬼原主任調査官: |
文化財の調査は原則非破壊調査を行っている。それは,文化財の一つ一つが唯一のものであり,その一部をとるとその本体のその部分を失うことになるからである。しかし,文化財の保存のため,安全な修理のために調査が必要であるといった場合にはサンプリングによって調査を行うこともあり得る。国宝壁画ということを踏まえ,また,文化財全体の調査方法をにらんで決断をしなければならない根本的な問題である。慎重に議論していただきたい。 |
佐野委員: |
色料は,顔料系と染料系双方がある。顔料系と染料系はそれぞれ劣化の度合いも違うため,壁面のそれぞれの色料の同定を行うことが重要と思われる。 |
肥塚センター長: |
材料調査だけでなく,黒ずむ原因というのは様々であり,総合的に調査を進めていきたい。 |