資料 1

資料 1

高松塚古墳壁画劣化原因調査検討会(第2回)議事要旨

1.日時 平成20年8月27日(水)14:00〜16:40
2.場所 奈良文化財研究所平城宮跡資料館講堂
3.出席者

(検討会委員)
永井座長,北田副座長,佐古,佐野,杉山,高鳥,成瀬,和田の各委員,藤本古墳画保存活用検討会座長

(東京文化財研究所)
石崎保存修復科学センター長,川野邊保存修復科学センター副センター長,木川生物科学研究室長,三浦名誉研究員

(奈良文化財研究所)
肥塚埋蔵文化財センター長,松村都城発掘調査部長

(文化庁)
髙杉文化財部長,苅谷文化財鑑査官,小山古墳壁画室長,内藤記念物課長,鬼原主任文化財調査官,建石古墳壁画対策調査官 ほか関係官

4.概要
(1)事務局の異動について
7月に人事のあった文化財部長及び古墳壁画室長の紹介を事務局から行った。
(2)文化庁あいさつ
髙杉文化財部長からあいさつを行った。
(3)議事
(1)高松塚古墳壁画の保存管理について
 事務局からこれまでの高松塚古墳壁画の保存管理の経緯について資料2に基づき説明が行われ,以下の質疑応答があった。
北田副座長: 発見時の4月6日に黒班点をつくる菌が同定されたとあるが,この時点では,虫などの侵入は見られなかったのか。
建石調査官: 情報整理して改めて報告する。
杉山委員: バクテリアも菌といい,真菌類も菌と呼ぶことから,端的に「カビ」と記載した方が混乱が生じなくてよい。
建石調査官: 訂正する。
高鳥委員: 昭和57年から「安定期」と説明されているが,何故その時点から「安定期」とされるのか明確にしてほしい。おそらく,カビの観点から言えば,その時点で落ち着いているという結論になると思われる。また,壁画発見以後,生物制御の観点で,様々な薬剤処理をされている。どういう用途で使われてきているかをチャートのようなもので流れを示してほしい。
建石調査官: 整理して改めて報告する。
(2)高松塚古墳壁画の状態変化について
 事務局より,高松塚古墳壁画の状態変化について資料3に基づき説明が行われ,以下の質疑応答が行われた。
杉山委員: 例えば,昭和55年,56年にカビ被害による微生物調査を行い,属まで記載されている部分とカビとだけ記載されている部分ある。記録として,全て属まで残されているのか確認したい。
建石調査官: 昭和55年,56年のあたりは,微生物学的なカビの調査はあまり行われていない。点検日誌の中に「カビなど」という記載があるだけの場合もある。整理して報告したい。
杉山委員: この記載されている以上の情報は残っていないということか。
建石調査官: 部分的ではあるが,壁画のどの部分にどのような処置を行ったのかというデータはある。それらを元に処置や薬剤とその後の生物被害との関係等についてもご検討いただきたい。現在,情報を整理しているところである。
永井座長: 日誌を含む,記録のみから情報を整理し詰めていくということか。場合による当時の関係者から話を聞くこともあり得ると思うが,そのあたりはどうか。
建石調査官: まず残された記録をもとにして情報を整理したい。その結果,具体的な部分を話を伺って補うこともあり得ると考えている。
成瀬委員: 午前中の現地視察で白虎の薄れた部分を確認した。薄れるというのは,支持体がしっかりしており,その上の顔料層が何らかの原因で薄くなったというイメージを持っていた。しかし,よく見ると,支持体自体もポーラス化しており,層状にごっそり落ちる状況ではないが,なくなっている部分もあって,その上に乗っている顔料もなくなっているという構造になっている。ただ,それは所々に残っているため,全体で見ると線が薄れた状況に見える。そのような理解でよいか。
建石調査官: 本日説明したのはこれまでの資料を整理したものの一部である。見た目として色が薄れているということ。今後材料調査や顕微鏡を使った拡大画像等により表面の状態も含めて検討していきたい。
北田副座長: カビがたくさん発生しているが,壁面の状態との因果関係はあるのか。
建石調査官: そのあたりも含め,これからの調査の中で科学的・総合的に検討していきたい。
(3)壁画の劣化の経緯と生物的要因について
木川室長より,高松塚古墳壁画の劣化の経緯と生物的要因について資料4に基づき説明が行われ,以下の質疑応答が行われた。
北田副座長: カビなどの下等生物は,ある条件が満たされないと,いわゆる冬眠状態になり,あるとき突然発生,増殖するといったことが考えられるが,その点についてはいかがか。
高鳥委員: カビというものは非常に複雑な生物活性を持っており,ある一定の条件下だと,いわゆるずっと冬眠状態に入ってしまう。それがあるときあるショックを与える,高松塚の場合で言えば,例えば薬剤や温度が上昇といった場合には,ある反動で活性を強くして発生するという性質も持っているものがかなり多い。
永井座長: 資料の最後に,平成21年度中頃を目途にとあるが,この検討会の進捗状況によって,節目節目に調査で判明したことを報告することは可能なのか。
木川室長: 順次データが出た時点で,きちんと結論が出たものについては,報告する形になると思う。
高鳥委員: この会議は来年度で結論を出す場なので,結論が出たものはその都度発表していかないと原因究明につながらないと思うので,是非やってもらいたい。
(4)これまでの発掘調査で判明した壁画の劣化に関する事項ついて
松村部長より,これまでの発掘調査で判明した壁画の劣化に関する事項について資料5に基づき説明が行われ,以下の質疑応答が行われた。
北田副座長: 墳丘部の亀裂が地震によるものという話はかなり説得力がある話で正しいと思うが,この他に,構造物の場合には,密度差,円墳の対称性の差よる重力の差,乾燥による影響,温湿度によるひずみの影響,そういう内部のひずみによる影響によって割れが出来るという可能性もあるがどうか。
松村部長: 古墳は版築といって,1層を3センチメートルから4センチメートルぐらい薄く引いて,それをつき棒で人為的につき固めた非常に強度のある版築層を160から170層積んで築いている。それが温度差,気候差で割れるということは考えがたい。地震考古学の研究者にも地震痕跡で間違いないとの話を聞いている。
(5)壁画の顔料・描線等の劣化ついて(材料・技法の調査に関する計画案)
肥塚センター長から,壁画の顔料・描線等の劣化につき,材料・技法の調査に関する計画案について,資料6に基づき説明が行われ,以下の質疑応答が行われた。
成瀬委員: 壁画の顔料・描線等の調査で,X線回析法の適用が難しいとの説明であったが,どうしてなのか。
肥塚センター長: X線回折法では,X線の当たる位置を出来る限り壁面に密着させないといけないため,リスクが大きい。
成瀬委員: 国宝壁画なので,サンプリングはできなく,修理施設から移動することができないことが前提条件になると思われるが,劣化状態や劣化原因の究明をするには,X線回析法を導入することは必須のことと思われる。
成瀬委員: 修理施設で顕微鏡下で修理をしているが,その他科学調査を行うときにも必要なので,予算措置をして台数を増やすことが必要と思われる。
肥塚センター長: 壁画の表層の鉛白の状態が気になる。鉛の場合は劣化すれば,黒色等に変化する。黒色になったら大変なことになる。これは壁画に使われた鉛の化合状態に左右される。
成瀬委員: 鉛の化合物の種類についてはクロム管球を用いてX線回折を行えば,うまく判定できると思う。
高鳥委員: 漆喰の下地は鉛の量は均一なのか。
肥塚センター長: 鉛白の厚みで確認するしかない。また,漆喰の中に鉛が混ざっているのか,漆喰の上に層状に鉛白が存在するのかも調査をしていないので不明である。
高鳥委員: 生物の観点から言えば,鉛は生物の生育を阻害するのに非常に効果がある。カビが生えているということは,恐らくその周辺部分に鉛がないということではないか。
肥塚センター長: そのような解釈も出来るが,断定することは難しい。例えば,カビ処置の際に,鉛白の層が薄くなり,測定するとカビ周辺部分は鉛の量が少ない結果となるということも考えられる。
高鳥委員: 確かにそういう場合もあり得る。今後検討しなければならない部分であろう。また,一つ聞きたいが,「スサ」というものは何なのか。
杉山委員: 私の理解だと植物基質そのものだと思われる。残っていれば十分カビや微生物のえさになる。説明によれば,ほとんど空洞状態なので,既に食べられたと思われる。
肥塚センター長: 「スサ」とは,漆喰が収縮して割れるのを防止するために混ぜるものである。紙スサを使う場合もあると言われている。
北田副座長: 文化財というものは,物質で出来ており,その物質が何であるかということを解明するのは,保存の上にとっても非常に基本的なデータである。また,非破壊に準ずるという分析もその観点からは非常に重要であり,検討してもらいたい。
鬼原主任調査官: 文化財の調査は原則非破壊調査を行っている。それは,文化財の一つ一つが唯一のものであり,その一部をとるとその本体のその部分を失うことになるからである。しかし,文化財の保存のため,安全な修理のために調査が必要であるといった場合にはサンプリングによって調査を行うこともあり得る。国宝壁画ということを踏まえ,また,文化財全体の調査方法をにらんで決断をしなければならない根本的な問題である。慎重に議論していただきたい。
佐野委員: 色料は,顔料系と染料系双方がある。顔料系と染料系はそれぞれ劣化の度合いも違うため,壁面のそれぞれの色料の同定を行うことが重要と思われる。
肥塚センター長: 材料調査だけでなく,黒ずむ原因というのは様々であり,総合的に調査を進めていきたい。
(6)今後の進め方について
事務局から今後の進め方について資料7に基づき説明が行われ,以下の質疑応答が行われた。
佐古委員: 文化庁の管理体制や管理の在り方について検討は行われないのか。
永井座長: 第6回の議題で保存管理の経緯についてとあるので,そのあたりに集中的にという理解でよろしいか。
佐古委員: それであれば,参考資料の議論のたたき台において,そのことを明確に明記すべきではないか。保存施設の状態や人の出入りや活動は重要な点である。人の出入りは,過去に昭和天皇がお入りになったとか様々であり,そのあたりの情報を整理すべきである。保存施設の機能も虎塚古墳の保存施設と比較するなど,保存管理の在り方,施設の機能の在り方,管理体制の在り方についてきちんと検証すべきではないのか。
永井座長: 管理面についてはきちんと答えなければ国民に説明責任が果たせない重要な問題であると認識している。
和田委員: 高松塚古墳壁画の劣化は,自然科学的な要因のほか,人為的な問題も含め,両者を組み合わせて行わないと片手落ちになってしまう。
小山室長: 管理体制も含めてソフト面,人的な側面もこの検討会で検討できるよう,準備したい。参考資料の議論のたたき台は決して固定ではなく,議論の流れの中で随時変動するものである。検討事項の構成自体も検討会で工夫を重ねていきたい。

次回の検討会のスケジュールを確認し,第2回検討会は終了した。

以上

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