資料 4-1
過去の高松塚古墳壁画の修理(剥落止め処置)について その1
(昭和47年〜平成13年)
昭和47年 | 4月6日 | 第1回 高松塚古墳応急保存対策調査会(座長・関野克 以下,応急対策調査会) |
4月17日 | 壁画面の剥落度の大きい部分(星3ヶ所を含む10ヶ所程度)につきアクリルエマルジョン(プライマルAC34)により仮止め措置 | |
5月19日 | 第2回 応急対策調査会 | |
6月14日 | 第3回 応急対策調査会 | |
7月29日 | 第4回 応急対策調査会 『高松塚古墳応急保存対策調査会中間報告』提出 | |
8月21日 | 第1回 高松塚古墳総合学術調査会(座長・原田淑人 以下,総合学術調査会) 美術部会・考古歴史部会を設置 |
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9月18日 | 第5回 応急対策調査会 総合学術調査会に対し保存科学面での対策を講じることとする。 |
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9月22日 | 第2回 総合学術調査会 | |
11月29日 | 第6回 応急保存対策調査会 『高松塚古墳応急保存対策調査会調査報告』提出 閉会 「壁画の周到な科学的調査に立脚した修復技術の研究と技術者の養成を早急に実施する必要がある。これには,海外への専門家の派遣と海外からの専門家の招聘も考慮すべきである。」(同報告抜粋) |
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(参考) 担当者の海外への派遣 昭和48年1〜2月 美術工芸課長・東文研修復技術研究室長をイタリアへ派遣 昭和48年4月 東文研修復技術研究室長をイタリアへ 昭和48年7〜9月 修理担当者をイタリアへ 昭和49年3〜10月 修理担当者をイタリアへ 昭和50年3〜7月 修理担当者をイタリアへ 昭和51年3〜7月 修理担当者をイタリアへ |
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12月18日 | 第1回 高松塚古墳保存対策調査会(座長・関野克 以下,対策調査会) 保存施設部会・壁画修復部会(主査・松下隆章)を設置 |
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昭和48年 | 1月19日 | 第1回 壁画修復部会 |
3月29日 | 第3回 総合学術調査会 閉会 | |
3月 | 『高松塚古墳壁画報告書』刊行 | |
4月2日 | 第2回 壁画修復部会 | |
5月24日 | 第2回 対策調査会 保存施設の設置計画と壁画修復計画の検討 |
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10月4日 | 第3回 壁画修復部会 | |
10月11日〜13日 | イタリア中央修復研究所・パウロ・モーラ氏他2名壁画調査 | |
10月14日 | 第4回 壁画修復部会(壁画修復の基本方針の確認) |
壁画修復の基本方針
- 1,壁画は歴史上,芸術上,保存上の観点から現地保存すること。
- 2,保存施設工事前に緊急必要の部分の応急補強処置を行うこと。
- 3,保存施設工事完了後に本格的修復作業を行うこと。
- 4,応急補強処置と本格的修復は同一方法によって行うこと。
- 5,修復作業に際して必要な箇所のクリーニングを行うこと。
- 6,壁画を良好に保存するため温湿度,炭酸ガスに対する適切な対策を講ずること。
- 7,壁画修復のための樹脂の使用およびクリーニングは濃度等十分留意すること。
- 8,顔料部分の資料採集は行わないこと。
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壁画修復作業
作業はあらかじめ絵画のない部分で予備的実験を実施した後絵画のある危険箇所について補強作業を実施した
- 1,危険箇所の補強作業はアクリル樹脂(パラロイドB72)3%溶液を使用して計7ヶ所について実施した。(パウロ・モーラ氏担当)
- 2,壁画の赤褐色汚染定着部分については,絵画のない部分4ヶ所についてクエン酸少量を加えた水溶液にて実験的に払拭した。(ラウラ・モーラ氏担当)
いずれもきわめてよい結果がえられた。
*これらについては,昭和48年10月26日文化財保護審議会において「高松塚古墳保存対策調査及び壁画修復作業について」として報告された。 | ||
昭和49年 | 2月7日 | 第3回 対策調査会 |
3月5日 | 第4回 対策調査会 | |
4月23日 | 第5回 対策調査会 | |
11月11日 | 第5回 壁画修復部会 保存施設工事に伴う壁画の応急措置について検討 |
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11月22日 | 保存施設工事に備え壁画応急処置(天井部剥落に備え架台を搬入) | |
昭和50年 | 3月20日 | 第6回 壁画修復部会 修復のための事前調査の検討 |
3月26日〜29日 | 壁画応急処置・壁画状況調査 | |
4月23日 | 第7回 対策調査会 修理基本計画承認 |
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5月8日 | 第7回 壁画修復部会 壁画修理のための事前調査を検討 |
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昭和51年 | 2月16日〜28日 | 壁画全体の損傷状況調査,修復のための漆喰の構造調査,剥落止め試験施行 |
5月31日〜6月5日 | 溶剤除去法の検討 | |
7月23日〜31日 | 修理調査 | |
8月24日 | 第8回 壁画修復部会 修理方針・修理仕様・年度内の修理日程 最終決定 |
壁画修復部会で確認された修理方針(『国宝高松塚古墳壁画-保存と修理-』文化庁)
壁画修理の目的と方法
【修理の目的】
粗鬆化し密度が低下している漆喰層を補強し,剥落の懼れのある部分を接着し
恒久的保存を計る。
【修理の方針】
- 1,漆喰層の強化,接着にはアクリル樹脂を用いる。
- 2,合成樹脂は注射器や筆で漆喰層の内側,あるいは基底部に加える。
- 3,合成樹脂を漆喰層の表面に一面に塗布したり,吹き付けたりしない。
- 4,漆喰層の強化と接着は必要最小限度にとどめる。
- 5,漏水による画面の汚れのクリーニングは特に行わない。
8月30日 | 壁画修復実施の新聞発表(現地) | |
9月2〜10日 | 第1次修理−第1回現地修理 | |
9月26日〜10月4日 | 第2回現地修理 | |
11月5日〜16日 | 第3回現地修理 | |
11月13日 | 壁画修理打ち合わせ会 | |
12月15日〜24日 | 第4回現地修理 接着剤としてプライマルAC55及びエマルジョンを試用 | |
昭和52年 | 1月6日〜15日 | 第5回現地修理 |
2月5日〜15日 | 第6回現地修理 | |
2月14日 | モーラ氏現地視察,修理指導 増粘アクリルエマルジョンの併用を指示 | |
昭和52年 | 5月 | 『国宝・高松塚古墳壁画修理報告書(中間報告)』(文化庁)刊行 |
5月23日 | 高松塚古墳壁画修理中間報告会を開催(於明日香村) |
『国宝・高松塚古墳壁画修理報告書(中間報告)』(抜粋)
【修理の方針】
修理事業としては昭和51年度事業は第一次修理とし,最も緊急な部分の補強処置を重点的に行うこととし,我国では初めての修理でもあり,修理結果を科学的,実際的に検討する期間を設けて次の第二次修理を計画し,壁画修理の万全を期することにした。この方針は高松塚古墳壁画保存対策調査会壁画部会で承認されたが,修理実施にあたっては,別に文化庁,東京国立文化財研究所,東京芸術大学の各関係者によってワーキンググループを作り,その都度実際的な検討を行い,また壁画部会の委員によって小委員会を設け,修理途次において中間報告と協議を行うことが定められたのである。
【修理の概要】
漆喰層の損傷は化学合成樹脂を用いて漆喰層の強化と?切り石面への?接着を行う使用する化学合成樹脂については,イタリアの中央修復研究所・チーフレスタウラーであるパウロ・モーラ氏からアクリロイドB72が有効であろうという意見を受けていたが,東京国立文化財研究所の意見も徴して主としてこの樹脂を用いることを決定した。
アクリロイドB72はヨーロッパにおいては既に十分の使用例と研究がある。その特性はいくつか存するが,主なものは次の通りである。
- (1)アクリル酸メチルとメタクリル酸エチルの共重合体で,一般のアクリル樹脂同様に安定性に優れており,かつ柔軟性に富む。
- (2)樹脂の比重 1・15,粘度 350〜650で作業し易く,浸透性に富む。
- (3)各種の溶剤に可溶であるが,トリクロルエチレンに溶かしたものは少々の水分が混入しても白濁しない。また,このフイルムは水分による白濁に対する抵抗性が強い。
(中略)溶剤として主としてはトリクロルエチレンを用い,3%,5%,8%の溶液とし,漆喰層の損傷とそれに対する処置の目的に応じて適当な濃度を選択使用する。
(以下略)
昭和53年 | 9月19〜30日 | 第2次修理事業−第1回現地修理 |
10月12〜22日 | 第2回現地修理 | |
11月7〜18日 | 第3回現地修理 | |
12月5〜16日 | 第4回現地修理 | |
昭和54年 | 10月30〜11月10日 | 第5回現地修理 |
12月4〜15日 | 第6回現地修理 | |
昭和55年 | 1月11〜23日 | 第7回現地修理 |
2月13〜23日 | 第8回現地修理 | |
11月10〜22日 | 第9回現地修理 | |
12月10〜29日 | 第10回現地修理 | |
昭和56年 | 1月9〜21日 | 第11回現地修理 |
2月8〜19日 | 第12回現地修理 |
国宝高松塚古墳壁画第2次修理実施要項(抜粋)
1, | 目的 | |||||||||
国宝高松塚古墳壁画の恒久的保存を図るため,第2次修理を昭和53年度から55年度の3ヶ年継続事業として実施する。 | 2, | 事業主体 | ||||||||
文化庁の直営事業とし,実行に当たっては東京国立文化財研究所,奈良国立文財研究所等関係各機関に協力を依頼する。 | ||||||||||
3, | 修理担当者 | |||||||||
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4, | 保守 | |||||||||
修理実施中の高松塚古墳保存施設の管理・機械操作は,美術工芸課員が当る。 | ||||||||||
5, | 保存科学上の処理 | |||||||||
修理実施中の通常の保存科学的処置は,美術工芸課員が行い,特別な保存科学的処置については,東京国立文化財研究所保存科学部に協力を依頼する。 |
*第3次修理に際しても同様の要項を作成
昭和56年 | 6月16日 | 修理に関する懇談会 |
昭和56年 | 6月29日〜7月3日 | 第3次修理−第1回現地修理 |
昭和57年 | 10月5〜9日 | 第2回現地修理 |
昭和58年 | 5月30〜6月7日 | 第3回現地修理 |
昭和59年 | 10月23日〜11月3日 | 第4回現地修理 |
昭和60年 | 4月2日 | 高松塚古墳壁画の保存に関する打ち合わせ |
昭和61年 | 12月17〜25日 | 現地修理 |
昭和62年 | 1月11〜16日 | 現地修理 |
昭和62年 | 9月17日 | 高松塚古墳壁画保存のための検討会 |
昭和62年 | 3月 | 『国宝 高松塚古墳壁画−保存と修理−』(文化庁)刊行 |
以降,平成13年まで,年1回の定期点検時に問題があると判断した箇所について,これ以前と同様の方法で剥落止め処置を実施した。