資料 1

資料 1

高松塚古墳壁画劣化原因調査検討会(第4回)議事要旨(案)

1.日時 平成20年10月20日(月)13:30〜17:05
2.場所 文部科学省東館3F1特別会議室
3.出席者

(検討会委員)
永井座長,北田副座長,青柳,佐野,杉山,高鳥,和田の各委員,藤本古墳画保存活用検討会座長,三輪古墳壁画保存活用検討会副座長

(東京文化財研究所)
石崎保存修復科学センター長,川野邊保存修復科学センター副センター長,木川生物科学研究室長,三浦名誉研究員

(奈良文化財研究所)
肥塚埋蔵文化財センター長,松村都城発掘調査部長

(ゲストスピーカー)
三村京都大学防災研究所准教授

(文化庁)
?杉文化財部長,苅谷文化財鑑査官,小山古墳壁画室長,内藤記念物課長,建石古墳壁画対策調査官ほか関係官

4.概要
(1)議事
(1)生物劣化にかかわる微生物について
 杉山委員から,生物劣化にかかわる微生物について資料2に基づき説明が行われ,以下の質疑応答があった。
高鳥委員: 高松塚古墳で確認された微生物の中で放線菌は検出されたのか。
杉山委員: 放線菌(アクチノバクテリア)も分離はされているが,マイナーの部類。ただ,石室の解体に伴って壁石間や石室外の土壌サンプル中に放線菌も含めてグラム陽性のバクテリアが多いことが判明している。
高鳥委員: 高松塚古墳ではバクテリアの中でオクロバクトラム(Ochrobactrum)が非常に優位になっている。キトラ古墳では,このオクロバクトラムが出ていない。このことをどのように理解すればよいか。
杉山委員: 高松塚古墳の場合は,石室の解体によって判明したが,植物の根が石室全体を囲んでおり,その根圏や土壌と関係してオクロバクトラムが生息していたと見てよいのではないか。
高鳥委員: 昭和47年の発見当時,微生物調査を行ったときは,フザリウム,トリコデルマ,アオカビ属といったものが最初出て来ている。これが,時間の経過によって菌相の比率が変わってきたというのは,おそらく人的なものも含まれていると思われるが,何が一番変化したと考えるか。
杉山委員: 恐らく常在的なアオカビ属(Penicillium)は変化していないと思う。ただ同種のものか否かは,過去の特徴づけデータや分離株も保存されていないので,検証できず何とも言えない。
木川東文研室長: 補足すると,昭和52年から高松塚古墳の石室内でパラホルムアルデヒドの燻蒸を始めた。その後,パラホルムアルデヒドに耐性が強いものが生き残った。この前後で主要な属が変化しており,薬剤の耐性が強いものが生き残ってきているのではないかと考える。
(2)過去の壁画の保存修理について
 事務局から資料3,資料5ー1〜3を,石崎東文研センター長から資料4について続けて説明が行われ,以下の質疑応答があった。
北田副座長: 高松塚古墳の保存施設の温湿度の制御システムは当時としては最もよい選択をしたが,現在の視点で見れば,非常に不十分であったと結論付けてよいのか。
石崎センター長: 平成12年の時期,土の温度が20℃を超え,その温度に合わせるようにパネル系の温度を20℃にした。このことは石室内の温度も20℃以上となるため,温度をもう少し下げるシステムにした方がよかったと思われる。
北田副座長: 今後同様の事例があった場合は,きちんとした新しいシステムにするという理解でよいか。
石崎センター長: よい。
三浦名誉研究員: 保存施設建設当時から,パネル系システムを稼働してみると,南側の日照による熱上昇による影響が予想よりも強かったので,バックアップのために2系統あったパネル系の水系システムを1つにして能力を上げるといったことを行っている。当時としては,初めてのことであり,試行錯誤を繰り返しながら行ってきたという側面がある。
和田委員: 石室内の温度が一番低く,次に地中温度が高く,地中温度が対応しているはずのパネル系の水温がそれよりも高い状態にあるのは,どういうことなのか。
石崎センター長: 当初の考えは,パネル系の制御した水を流すことで石室も周りの地盤と同じような温度になるというシステムであったが,南からの日射や保存施設の機械室からの熱で温度が上がったと思われる。
三浦名誉研究員: 保存施設を設置して20年程度経過した段階で石室内温度が上昇している。おそらくパネル系冷水温度が老朽化して冷却能力が落ちてきたのではないかと思料している。もともと地中温度と石室内温度にずれがあり,地中温度が上昇することによって,パネル系水温もそれに併せて上昇するため,施設内の温度も上昇とするといったようなことが起きていたと思われる。
北田副座長: 普通は,石室内の温度を基準とするのが,システムコントロールの常識と思うが,その点についてはどうか。
三浦名誉研究員: 石室内に制御用の湿度センサーがあると,石室内作業の際に外に出さなくてはならないので,常に測定点を確保するため,石室に最も近い取合部で温度を測定していたものと考えられる。
北田副座長: 地中温度を基準にする場合でも,1箇所ではなく複数箇所で温度を測定した方がよいのだが。
三浦名誉研究員: 確かにそうである。当時は地中温度を石室に近い部分で1箇所測定すればよいと判断して,システムが設計されたと考えられる。
青柳委員: 保存施設の温度調整を行うパネル系等の機械の事後的な検証は行っていないのか。
三浦名誉研究員: 空調会社による定期的な機械の点検は実施していたが,検証は行っていない。現場の対応で調節していたところ。
青柳委員: 高松塚古墳の保存施設はあまり例のない保存施設であった。本来ならば,稼働後の検証を徹底的に行うべきであった。人の出入りにおける空調の問題はあったにせよ,半年に1回程度の確認は行うことはできたのではないか。
三浦名誉研究員: 予算の問題などもあり,うまく確認を行うことができなかった。
青柳委員: 高松塚古墳石室内の体積は非常に少なく,例えば,美術館や博物館では,その何十倍もの体積を温湿度も含めてコントーロールしている。保存施設の機能の検証を行わなかったことがパネル系温度の不具合となった。
三浦名誉研究員: 美術館や博物館の空調と高松塚古墳石室内の空調は全く違うもの。美術館や博物館の空調は湿度が55%から60%前後に保たれており,若干の温度差はほとんど問題にならない。しかも大きな空間なので,環境が均質化される。一方,高松塚古墳の場合は,湿度が100%近くあり,ちょっとした温度差であっても簡単に結露し,また,風がないので,空気の澱みもあるという難しさがある。
建石調査官: 保存施設の検証は,当時,取合部天井の崩落止め工事から行い,その後,抜本的な検討を行うことを考えていた。
青柳委員: 取合部の工事では,防護服を着用していなかった事実が判明している。このことをもってカビの大量発生に繋がったわけではないが,取合部の狭い空間では,1枚の防護服を着用するか否かで多少の温度変化はあったはず。ちょっとした温度差で大きな影響を及ぼすのなら,防護服の未着用は劣化原因の一因ではあると思う。
佐野委員: パネル系冷却水の冷却装置に対して現場でうまく機能していないと認識した時期,パラロイドB72がうまくいっていないと認識した時期など,現場で何かおかしいといった疑念や経験的に感じたことが,どの程度総合的に認識され共有化されたのか,整理して次回以降に報告していだきたい。

(3)これまでの発掘調査で判明した壁画の劣化に関する事項について
 これまでの発掘調査で判明した壁画の劣化に関する事項について,松村奈良文化財研究所都城発掘調査部長から資料6に基づき説明が行われた。(質疑応答なし)

(4)墳丘部の地震痕跡の分析について
 墳丘部の地震痕跡の分析について,三村京都大学防災研究所准教授かから資料7に基づき説明が行われた。(質疑応答なし)

次回の検討会のスケジュールを確認し,第4回検討会は終了した。

以上

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