資料 1

資料 1

高松塚古墳壁画劣化原因調査検討会(第5回)議事要旨

1.日時 平成20年12月11日(木)13:30〜17:00
2.場所 東京文化財研究所地階会議室
3.出席者

(検討会委員)
永井座長,北田副座長,青柳,佐古,佐野,杉山,高鳥,成瀬,和田の各委員,藤本古墳画保存活用検討会座長,三輪古墳壁画保存活用検討会副座長

(東京文化財研究所)
石崎保存修復科学センター長,川野邊保存修復科学センター副センター長,三浦名誉研究員

(奈良文化財研究所)
肥塚埋蔵文化財センター長,松村都城発掘調査部長

(ゲストスピーカー)
小椋京都大学大学院工学研究科建築学専攻助教

(文化庁)
髙杉文化財部長,小山古墳壁画室長,内藤記念物課長,鬼原主任文化財調査官,建石古墳壁画対策調査官ほか関係官

4.概要

(1)議事

(1)高松塚古墳壁画の科学分析時における壁面の損傷について
 事務局から,高松塚古墳壁画の科学分析時における壁面の損傷について報告があり,以下の質疑応答があった。
永井座長: 事故は起きてしまったことである。文化庁組織内で情報を共有し,協議し,公表するスピードに問題があったように感じる。今後二度と起きないよう,お願いしたい。
北田副座長: 事故が起きないことが重要である。そのあたりを含めた意識の改革も行っていただきたい。
成瀬委員: このことによって非破壊調査(材料調査)について後ろ向きにならないようにお願いしたい。
(2)海外の壁画の状況について
 青柳委員から「イタリア古代壁画の修復と保存」について,三浦名誉研究員から「ラスコー洞窟壁画の保存状況」について説明が行われ,以下の質疑応答があった。
高鳥委員: ラスコー洞窟内部の温湿度は発見時から変動はあるのか。
三浦名誉研究員: 変動幅はほとんど変化はない。
高鳥委員: 2001年にカビが発生とあるが,それまでは何か変化はあったのか。突如としてカビは発生したのか。
三浦名誉研究員: 目に見える形では,突如としてカビが発生したと聞いている。
高鳥委員: 1963年にラスコー洞窟内に藻類が繁殖したとある。抗生物質は使用したのか。
三浦名誉研究員: シュードモナスというバクテリアが発生しており,死滅させるのを目的として,抗生物質を使用している。
青柳委員: イタリアでは土と接触している壁面の場合には,大体抗生物質を水に溶かして壁面に塗布するのが一般的。
高鳥委員: 表面は非常にしっとりしている状態なのか。
青柳委員: 壁画は土にぴったりとくっついているので,土が持つ湿気分は壁画の最表層まで伝わっている。
北田副座長: ラスコー洞窟がもとの平衡状態を取り戻すことが重要とあるが,「もとの状態」は何か定義しているのか。
三浦名誉研究員: ラスコーは発見されてからいきなり公開を行ったため,発見時の温湿度等のデータがない状態であり,何がパラメーターになっているのかが不明なため,その辺りを探りながら平衡状態にもっていくのが一番の課題となっている。
北田副座長: 青柳委員の説明に,文化財保存の理念や哲学の構築が重要とあったが,具体的にはどのように進めるのか。
青柳委員: まだ具体的なことは考えていないので,様々な意見を聞きたい。壁画は1回開封又は人間が接触すれば,開封前又は接触以前の安定した状況を維持することはかなり難しく,保存のレベルにも限りがあるのではないかと考えている。
北田副座長: 誰かがやらないと中々進まないので,将来何らかの研究グループをつくるなど,検討することは必要であると考える。
杉山委員: 青柳委員のお話しについて,壁面にカビやバクテリアが発生した場合,どんな薬剤を使っているのか教えていただきたい。
青柳委員: 薬剤を使っているのは確かであるが,具体的な薬剤名は現時点ではわからない。必要であれば調べる。
和田委員: 保存の過程でどのように保存しているのかという情報を常に公開することで透明性を確保することが重要である。また,元の状態がどうだったのかということをどのようにして客観的に理解するのかが重要であると思う。
(3)古墳周辺・石室内の温湿度環境について
 ゲストスピーカーの小椋助教から「過去の高松塚古墳石室内の温湿度変動とその要因」について説明が行われ,以下の質疑応答があった。
永井座長: 温湿度変動の要因の検討結果はいつ頃まとまるのか。
小椋助教: 今後一年間の内にまとめたい。
和田委員: 発見前は石室内は15℃前後で安定していたと考えていいのか。
小椋助教: 発掘前の状況は測定データがない。あくまで推定である。
和田委員: 盗掘もあったので,その時期に温湿度の変化はかなりあったと思われる。あまり発掘前を安定的に捉えるのはどうかと思われる。変動の幅を多少見積もってもよいのではないか。
小椋助教: この計算では,盗掘を受けた状況を入れた解析はしていない。また,石室の隙間も推定できていないので,これらを含めて検討を進めていきたい。
(4)壁画管理時の現場における事実関係等の記録について
 事務局から「壁画管理時の現場における事実関係等の記録」について説明が行われた。(意見はなし。)
(5)壁画の材料調査について
 肥塚センター長から「壁画の下地漆喰・顔料・描線などの劣化に関する調査」について,事務局から「サンプリング調査」について説明が行われ,以下の質疑応答があった。
成瀬委員: 余白漆喰をX線CTで確認すると,密度が極端に異なる部分があるように見える。これはどういうことなのか。
肥塚センター長: 今のところ理由は分からないが,事実として差が出ている。
成瀬委員: 画像的に強調しているということはないのか。
肥塚センター長: それはない。
成瀬委員: 回折装置で詳細な内容がわかるのではないか。
肥塚センター長: 密度の高い部分はとても薄い層状をなしている。薄い層を分析するには,さまざまな制約がある。
成瀬委員: 例えば,取り外した漆喰に対し非破壊でX線回折を行うのはどうか。
肥塚センター長: その方法であれば,一度実施してみたいと思う。成瀬委員にも協力していただき実施したい。
和田委員: 将来の壁画の保存活用に役立てるためにも,できるだけ詳しい情報をサンプリング調査によって出してほしい。
成瀬委員: サンプリング調査は,電子顕微鏡や回折装置を使う場合は,針の先一粒程度でかなりの情報量が得られる。取り外した漆喰,目地漆喰で,エッジの部分が欠けているものや粉末状になっている部分は,サンプリング調査をしても問題がないと考える。
青柳委員: 現在のカビが生えて劣化している壁面の状態で果たして国宝に指定したのか。当時の状態とではかなり違っているのではないか。指定の価値についても広く幅があるので,少し柔軟に考えてもいいのではないか。対象が微量なものであれば,将来の保存活用のためにサンプリングの調査データを活用することが重要である。また,サンプリングをして破壊調査を行うことの共通認識をこの会で整理することが重要である。
佐野委員: サンプリング調査によって将来の文化財保護に役立つ情報があれば,すべきである。
佐古委員: 漆喰部分でエッジが欠けているとか,粉状になっているなどという部分については,既にその部分が破壊されているとも理解できるが,それ以外の部分のサンプリング調査については,抵抗がある。
杉山委員: 微生物の観点から言えば,漆喰部分の有機化学的な分析ができることで,微生物の栄養源等に関するデータが得られる可能性がある。ぜひ,実施していただきたい。
高鳥委員: 生物学的な観点から劣化原因を究明する場合,サンプリング調査による成果は大きいと考えられる。
北田副座長: サンプリング調査が目的化してはいけないが,目的を明確にして実施するならば,計画を検討してもよいのではないか。
鬼原主任調査官: 解体修理によって一時的に取り外した余白漆喰は国宝絵画の一部である。サンプリング調査を行う場合,文化財保護法上の現状変更等の手続きが必要となる。また,この件については,古墳壁画保存活用検討会でも検討が必要である。
三輪古墳保存活用検討会副座長: 文化財のサンプリング調査は昭和30年代の「永仁の壺事件」(真贋判定のため)が契機となって議論されてきた。基本的には現状をなるべく尊重しながら,遊離したものはともかく,修理等で出た破片等については多少その断片や破片をもって分析するのが現状となっているように思う。また,過去のサンプリング調査は多々あるが,そのデータが共有化されていないのが問題。今回の高松塚古墳壁画のサンプリング調査では,高松塚古墳に限った資料分析における倫理規定のようなものを作成して検討することが適当ではないか。
佐古委員: 要するに,サンプリング調査で得られるものと失うものとのバランスの問題。それを整理してほしい。
永井座長: サンプリング調査の目的,手段,方向性の枠組みについて整理し,次回以降に検討することとしたい。

次回の検討会のスケジュールを確認し,第5回検討会は終了した。

以上

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