資料4-1

資料 4-1

サンプリング調査について

1.概要

 これまでのところ,高松塚古墳壁画の劣化原因の把握を行うための調査としては,顔料・描線・漆喰の非破壊調査を実施している。劣化原因及び壁画の保存修理をいっそう効果的に行うため,今後,サンプリング調査を行うことについて検討する必要がある。

2.目的
(1)顔料・描線の分析
・ 顔料・描線が褪色した原因の特定及び推定
(2)漆喰の分析
・ 漆喰が脆弱化した原因の特定及び推定
(3)表面に付着する有機物等の分析
・ 過去の薬剤処置や生物被害等の把握

※これらをもとに今後の保存修理に役立てる

3.対象資料(試料)

  • (1)石材と一体で仮設修理施設に保存されている壁画(以下,「本体」とよぶ)
  • (2)石室解体時に本体から分離された余白漆喰片
  • (3)石室解体時以前(主に壁画発見時以降)に,諸々の理由により本体から分離された余白漆喰片((2)を除く)
  • (4)石室解体時に石室から分離された目地漆喰
  • * (1),(2)は国宝(絵画),(1),(2),(4)は特別史跡の構成要素である。
  • * (2)は採取位置が特定できるものが大半である。(3)は採取箇所が不明なものが大半である可能性が高い。

顔料・描線

対象 国宝 特史 採取位置 検討
(1)本体 国宝,特別史跡に影響を与えるため,サンプリング調査の対象になりえない。
本体以外 存在しない

漆喰

対象 国宝 特史 採取位置 検討
(1)本体 国宝,特別史跡に影響を与えるため,サンプリング調査の対象になりえない。
(2)余白漆喰 国宝,特別史跡に影響を与えるおそれがある。(サンプリング調査の際には現状変更の手続きが必要。)
(3)余白漆喰 × 採取箇所の特定が困難であるが,資料の内容や成分等については上記(2)と同等といえる。(国宝,特別史跡の枠外の資料。)
(4)目地漆喰 壁面の漆喰ではない。余白漆喰との関係では「比較資料」である。
すでに一部についてはサンプリング調査を実施中。

4.主な調査方法

(1)非破壊調査(「非破壊型」)
 対象文化財に物理的に破壊しない調査方法のことをいう。
 現在,下記の(1)から(9)による調査を白虎と青龍を中心に,平成20年8月から実施している(平成21年6月頃までは継続的に実施する予定)。
  • (1)デジタルカメラによる観察・撮影
  • (2)デジタル顕微鏡による観察・撮影
  • (3)紫外線を用いた観察
  • (4)赤外線を用いた観察
  • (5)X線透過撮影
  • (6)X線CT撮影
  • (7)蛍光X線分析
  • (8)紫外・可視分光分析
  • (9)蛍光分光分析
(2)サンプリング調査(「破壊型」)
 対象文化財に物理的な破壊が伴う調査方法のことをいう。対象文化財の一部について断面切断や粉砕を行うこと。
  • (1)電子顕微鏡による観察
  • (2)偏光顕微鏡による観察
  • (3)分析装置付電子顕微鏡(SEM−EDS)
  • (4)湿式法による元素組成等の精密分析
  • (5)X線回折分析

○非破壊調査とサンプリング調査の長所と短所

長所 短所
非破壊調査 資料の破壊を伴わない 分析の信頼性がやや低い*
サンプリング調査 分析の信頼性が高い 資料の破壊を伴う

*サンプリング調査との比較における分析値の信頼性

目的 方法 非破壊 サンプリング
観察的調査 デジタルカメラ観察・撮影
デジタル顕微鏡観察・撮影
紫外線を用いた観察
赤外線を用いた観察
X線透過撮影
X線CT撮影
紫外・可視分光分析
電子顕微鏡による観察
分析的調査 偏光顕微鏡による観察 ×
蛍光X線分析
分析装置付電子顕微鏡
湿式法による元素組成等の精密分析 ×
X線回折分析

◎:詳細に分かる,○:分かる,△:やや分かる,×:分からない・できない

5.調査により判明する事柄

目的(1)顔料・描線の分析
 蛍光X線や赤外線等を用いた非破壊調査を行うことで,資料表面の定性・半定量分析をすることができる。
 湿式法による元素組織等の精密分析やX線回折分析などのサンプリング調査を行うことで,定量や化合物の特定も可能となるが,顔料・描線は現在本体部分にしか存在していないため,サンプリング調査は行えない。
目的(2)漆喰の分析
 蛍光X線やX線CT等を用いた非破壊調査を行うことで,資料表面の材質の定性・半定量分析や漆喰層内部の亀裂の状況を明らかにすることができる。
 高松塚古墳壁画の漆喰には通常の漆喰成分である炭酸カルシウムだけでなく,鉛白と考えられる鉛成分の存在が指摘されている。炭酸カルシウムと鉛白は,薬剤等に対する反応のあり方が大きく異なる。そのため,現在,劣化原因調査(材料調査)や壁画修理の現場においては,壁画の漆喰内部における炭酸カルシウムや鉛白等の平面分布・断面分布等を明らかにすることが望まれている。これを実現するためには,上記の非破壊調査だけでは不充分である。
 非破壊調査に加え,偏光顕微鏡・分析装置付電子顕微鏡等によるサンプリング調査を行うことで,余白漆喰内部の鉛白等の断面分布を明らかにすることができる。余白漆喰のサンプリング調査については,上記「3.対象資料」の(2)または(3)を用いることが適当である。その選択は採取場所を特定する必要性の有無等による。
目的(3)表面に付着する有機物等の分析
 光学顕微鏡や紫外線を用いた非破壊調査を行うことで,本来であれば過去に用いられた材料に関する情報が得られるのであるが,本資料の場合は,表面にさまざまな有機物が複合的に存在するため,その解析は困難である。
 湿式法等による精密分析を用いたサンプリング調査を行うことで,過去の修理に使用された薬剤や微生物等に関する知見を得ることができる可能性がある。
 表面に付着する有機物等のサンプリング調査については,上記「3.対象資料」の(2)と(3)を用いて両者を比較するのが適当である。

6.古墳壁画保存活用検討会保存技術WGにおける議論の方向性

 余白漆喰内部の鉛白等の断面分布を検討するため,上記「3.対象資料」の(3)「石室解体時以前(主に壁画発見時以降)に,諸々の理由により本体から分離された余白漆喰片」について,サンプリング調査を実施することとしてはどうか。
上記サンプリング調査の結果を踏まえ,今後の調査の実施について更に検討を行うこととしてはどうか。

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