資料 2

資料 2

市民参加型の遺跡の保護活用

〜山陰の事例を中心に〜

関西外国語大学
佐古和枝

1.鳥取県妻木晩田遺跡の保存と活用

■妻木晩田遺跡について

妻木晩田遺跡は、日本海を間近にのぞむ丘陵上に営まれた弥生後期を中心とする大規模集落と、山陰特有の有力者の墓である四隅突出墓を含む墳墓群からなる遺跡です。鳥取県が誘致した民間のゴルフ場建設工事に先立つ発掘調査で発見され、1997年2月に報道公開されたことによりその存在が地域住民の知るところとなりました。152ha.に及ぶ大規模な弥生遺跡であること、それが標高約100〜150mの山の上でみつかったこと、集落と四隅突出墓がセットで存在していたこと、遺構の遺存状態が非常に良好だったこと、朝鮮半島製・北部九州製・地元製の鉄器が大量に出土したことなど、考古学上で貴重な意味をもつ遺跡であることから、地元住民を中心に保存を求める活動が始まりました。

■保存運動の展開〜複数団体が協力しながら独自の活動を展開

  • 「自然と遺跡と人間を考える会」の活動

    遺跡見学会、親子見学会、出前講座、巡回写真展、遺跡コンサート、街頭署名活動など

  • 日韓考古学研究者合同保存要望署名〜日本1271名 韓国696名 中国3名 計1970名
  • 「むきばんだ応援団」の発足(1999年2月)〜「むきばんだ基金」募集 全国展開

■妻木晩田遺跡〜1999年4月保存決定、同年12月国史跡指定

■保存決定後の「むきばんだ応援団」の活動

  • むきばんだフォーラム99〜東京、大阪、福岡にて保存決定報告
  • むきばんだやよい塾〜ボランティアガイド養成講座 毎月1回 今年4月から10期め
  • むきばんだこども塾〜考古学と自然観察、年間を通じた継続的体験学習
  • むきばんだ日韓交流トーク&コンサート、韓国遺跡修学旅行
  • むきばんだを歩く会〜毎月1回の自然観察 里山としてのむきばんだの記録と活用
  • シンポジウムや講演会、コンサート、イベントなど随時
  • 出版〜『妻木晩田遺跡をどう活かすか』、『考古学今昔物語』
  • 機関紙〜やよい塾通信、応援団通信

2.山陰遺跡ネットワーク会議の活動

■鳥取・島根両県で遺跡を支える活動をおこなう市民団体の協力・連携組織

■通常は、適宜の情報提供、協力・連携、インターネットによる情報発信

■年1回の大会・・・各団体がもちまわりで開催

記念講演と各団体による活動報告・意見交換、交流会、遺跡見学会
大会資料パンフレット『ようこそ山陰の遺跡へ』刊行
毎回100〜200名の会員・一般市民が集う
今年9月に第10回松江大会を開催

★山陰遺跡ネットワーク会議宣言★

私達は、わが町わがふるさとの遺跡を大切に思い、その意義や魅力を一人でも多くの人に伝えようとする市民の集まりです。

  • 1.私達は、遺跡に刻まれた私達の祖先の姿に学び、自然と人に優しい心を養います。
  • 1.私達は、私達の祖先が残した遺跡が、地域住民に愛され、
    地域の誇りとなるように、遺跡を活かした町づくり人づくりに励みます。
  • 1.私達は、わが町の遺跡だけでなく、他地域の遺跡に対する理解と関心をも深め、
    広い視野で歴史遺産を大切にしていきます。

私達は、これらのことをより効果的に実践するために、県境・市町村境を越えて、お互いに学びあい支えあいながら、それぞれの活動を充実・発展させるとともに、より魅力あふれる山陰をめざして力をあわせます。

2001年9月 山陰遺跡ネットワーク会議設立総会にて採択

≪山陰遺跡ネットワーク会議参加団体≫

【島根県】

  1. 王墓の里文化財ボランティアガイドの会(出雲市)〜西谷墳墓群他
  2. 荒神谷ボランティアガイドの会(斐川町)〜荒神谷遺跡
  3. 遊学ボランティアガイドの会(雲南市、旧加茂町)〜加茂岩倉遺跡
  4. 出雲国まほろばガイドの会(松江市)〜風土記の丘資
  5. コレージュ・ド・しまね(松江市)〜市民講座
  6. あいぶんフレンズ(松江市)〜点字ガイドブックの作成

【鳥取県】

  1. むきばんだやよい塾(米子市 むきばんだ応援団主催)〜妻木晩田遺跡
  2. 妻木晩田ボランティアガイドの会(大山町)〜妻木晩田遺跡
  3. 青谷上寺地遺跡を学ぶ会(鳥取市)〜青谷上寺地遺跡
  4. 気高郷土史研究会(鳥取市)
  5. 智頭枕田縄文遺跡の会(智頭町)〜智頭枕田遺跡
  6. 岩美町郷土文化研究会(岩美町)

*09年3月現在、カッコ内は事務局の所在地

3.市民にとっての遺跡〜その多様な魅力と意義

  • 歴史遺産として〜歴史学習の素材、場
  • わがまちの先人の足跡として〜郷土への誇りと愛着
  • 思い出の風景、場として〜自分史のなかの位置づけ
  • 発見の場として〜先人に学ぶ多様な価値観 いまと未来をよりよく生きるヒント
  • 活動の場として〜生きがい発見 ひとづくりの場
    ガイド活動、イベント、体験学習指導、情報発信など
  • 出会いの場として〜「ともだちが増えた」
    古代人(祖先)、仲間(異世代・異業種)、来訪者、行政担当者、各種研究者など
  • とにかく、ここが好き!

4.遺跡活用における3つの路線

(1)考古学に関心のない市民でも魅力を感じる遺跡の活用方法〜間口は広く、敷居は低く

  • 既存の枠組みから脱却し、自由で柔軟な発想で
  • 遺跡で何を伝えたいのか〜発見、感動、価値観の刷新、より豊かな心と生き方
  • 「楽しさ」と「質の高さ」のバランス〜フローとストック

(2)考古学に関心のない市民にも意義のある遺跡の活用方法〜公共財としての価値評価

  • 遺跡は「まちづくり」に有効な素材である

(3)遺跡を市民活動の場とする活用方法

  • 遺跡は「ひとづくり」の場である

5.遺跡とまちづくり

(1)「文化を活かしたまちづくり」と遺跡

■「文化」=他と区別される地域の個性、独自性=アイデンティティ

日常・非日常の価値観の総体

  • なにを大切にするのか〜価値観・文化度のバロメーター
  • このまちに暮らしていることを幸福だと思えるか、誇りに思えるか

「遺跡をどう扱うか」=自分達の属するまちが何を大切にするまちなのか
■まちの文化・アイデンティティの源は歴史、それを伝えるのが文化財・遺跡

  • 文化・歴史→価値観の刷新→新しい文化の創造、まちの将来像の描出
  • 文化財・遺跡は、研究素材であるだけでなく、公共財であるという主張

(2)まちづくりにおける遺跡の有用性〜点から面への遺跡活用

(1)まちの履歴〜同じ環境で暮らした先人の知恵、価値観、生活様式などを学ぶ

  • まちの魅力と可能性の再発見
  • 現在のまちのあり方をみなおす

(2)共同体の連帯感・一体感の創出〜アイデンティティの共有化

(3)まちのシンボル〜情報発信、集いの場

(4)市民活動の場〜ボランティア活動、イベント、体験学習など

(5)自然環境の保全、景観保全、アメニティ空間の確保→無秩序な都市化の波を抑制する

遺跡を点として残すだけではなく、遺跡をとりまく景観・環境も含めての保全
「故郷の景色」そのものが歴史遺産であり、地域固有資源である

(3)現状と課題

縦割り行政の弊害〜組織を越えた横の繋がり、共通認識の普及
文化政策、文化条例のなかに位置づける
文化政策審議委員会の設置〜外部評価による自己認識

6.遺跡とひとづくり

(1)資源と資産に磨く「人」

■遺跡・文化財は、地域固有資源である・・・けれど

  • ただ「ある」だけでは、眠れる資源
  • 「資源」は、人が磨いてこそ「資産」となり、文化をうむ
  • ヒューマン・ウエア〜行政職員、研究者、市民

■死ぬまでこのまちで暮らす」という市民の強み〜持続性、自発性、愛着

■遺跡は「ひとづくり」の場

  • 市民参画による遺跡サポーターの育成=自己充足型市民から社会参加型市民へ
  • 社会参加型市民=まちづくりの推進力となる 本物の「市民」 人財
  • まちづくりに大切な「サンマ(時間・空間・人間)」(遠藤安弘名古屋大学名誉教授)は、まさに遺跡をみる視点にある

(2)現状と課題

■「参画と協働」=企画段階から共に汗を流し、共に責任をとる

  • イベントは、開催にむけて積み上げていく過程が大切
  • 遺跡ガイドは、遺跡の理解者を増やす最前線の仕事(録音テープ代わりではない)
  • ボランティア市民は、予算不足・人出不足を補うための手足代わりではない
  • アリバイ作り的な市民参加や下請け的な市民協力は「参画」ではなく、官から民へ の上意下達は「協働」ではない
  • 過剰な行政支援は市民活動の足腰を弱める〜「アームス・レングス」原則の徹底

■学習(蓄積)→活動(発信)→交流(コミュニケーション)→学習・・・のサイクル

  • 外部との交流=他者評価(鏡映自己の確認)の重要性

同質性中毒・マンネリ化・自己満足・活動意欲の停滞を回避するため

■若い世代をどう取り込むか

■多様な市民の発想に、どこまで対応できるか

  • 既存の枠組みからの脱却、新しい遺跡活用方法への挑戦
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