資料6
取合部のカビと石室内のカビの相関
−「高松塚古墳壁画の劣化原因に関する検討の結果の概要(骨子)」に係る杉山委員のコメント−
- 平成13年当時、取合部に発生したカビが培養株として現存しないか、現存しても僅少のため、広範囲の詳細かつ高い精度の比較検討ができない。また、その当時はカビの種レベルの菌類相の比較という視点での調査が行われていないため、直接の因果関係の立証は困難であるが、以下の状況や可能性を指摘することができる。
- その状況とは、
- 当時の属レベルの同定結果をみる限り、平成13年3月当時、取合部で大発生したカビは、例年石室で検出されるものとほぼ同様のものが多かったが、平成13年以前の数年の間には石室内で認められなかったカビなども含まれていた。
- 平成13年9月と12月の石室内に発生したカビの調査では、石室と取合部の菌類相の属レベルでの構成に大きな違いはみられなかった。
-
石室解体に伴う発掘調査の結果から、石室は完全に密閉されている状態ではなく、外部の亀裂などからカビの運び屋となりうるダニやムシなどが容易に石室内へ移動できる可能性が高いことが明らかになった。
- 平成16年、17年の詳細な微生物調査の結果では、石室内壁面上にバイオフィルム(カビ、酵母、細菌の混生コロニー)の出現が認められた。また、石室内と取合部では、ほぼ共通した種が分離されている。ただし、取合部の採取サンプルは石室内よりも数が少ない状況の中で比較した結果に基づく。
- 墳丘、石室の冷却が開始されて以降、平成18年5月の調査によると、石室内では、特異的に暗色系カビ(Acremonium (sect. Gliomastix ) spp.) が分離され、取合部では、石室内と異なる暗色系カビ(主にOidiodendron spp.)がみられた。
(参考)
なお、高松塚古墳取合部天井の崩落止め工事及び石室西壁の損傷事故に関する調査委員会(平成18年)においては、
- 取合部天井の崩落止め工事に絡んだ取合部の大量のカビの発生について、
- わずかな期間で大量のカビが発生したこと。
- 発生要因は、工事方法、温湿度、外気、作業者等による環境変化が考えられること。
- カビは壁面全面に発生するほどの伝播力のあるものであること。
- 主要なカビはPenicilliumであり、次いでAspergillus、Fusariumなどであったこと。
- 大量に発生したカビは特定される種であり、多様な菌種ではないこと。
- これほどの広範囲に発生するカビは、既に同環境に定着した常在カビの可能性が高いこと。
等が指摘された。(同報告書 p21より)