資料7

資料 7

高松塚古墳壁画現地保存から石室解体に至った経緯について

 国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会の第3回(平成17年5月11日)及び,第4回(平成17年6月27日)において検討を行い,以下のような状況を踏まえ,石室解体の方針を決定した。

1.壁面の状況

 壁面には物理的損傷の深刻さとその症状の多様性が観察される。昭和50年代の樹脂処置(剥落止め)により強化された箇所もあるが,各所に剥離や亀裂が認められる。特に紛状化や漆喰層の中空の問題は深刻で,またカビによる影響は進行中である。

2.石室(石材と構造)の状況

 石室を構成している凝灰岩は,長い時間高い水分条件のもとにあったため,劣化が進んでいることが明らかになった。また,石室構造のゆるみと傾きが一因となり,石室の気密性が低いことも明らかになった。

3.生物被害の状況

 発見当初からカビの被害に対し,パラホルムアルデヒドなどの薬剤を使用した処置を行ってきたが,被害を完全に抑制できない。年間を通じて常に高湿度下の石室内環境で,カビ発生の要因としては,石室内の温度の上昇が強く影響している。平成14年秋には,壁画近傍で黒いカビが発生した。さらに,石室内に侵入する虫やダニなどによる食物連鎖が生じている。

4.発掘調査の成果況

 平成16年度の発掘調査により,墳丘北側に透水性の低い灰白色粘土(地山)があることが明らかとなり,北東部の土中含水率の高い原因となっていると推測された。また,地震に伴う墳丘の亀裂が多数あり,そこに木根が入り込んでいる様子が観察された。こうした亀裂が雨水の浸透や,石室内への虫の進入経路となった可能性が指摘された。

5.墳丘の状況

 平成13年に石室内部および取合部にカビの発生が見られたため,墳丘部の含水率分布を調査した。石室東側から北側にかけて含水率の高い土壌が分布していることが示されたが,平成15年に遮水シートを設置したことにより,含水率の減少傾向がみられた。

6.周辺の環境とその影響

 奈良地方において,昭和60年頃からから約1度程度の外気温上昇がみられ,これにともない石室内の温度が上がっている。また,石室内においてもカビ処理や点検のために頻繁に立ち入る必要から,温度上昇が新たなカビの生育につながっていると考えられた。

(参考1)

高松塚古墳壁画の保存対策の流れ

16年16月 国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会(第1回)(4日)
『国宝高松塚古墳壁画』刊行(文化庁監修)
新聞等により壁画劣化が報道(20日〜)
16年18月 国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会(第2回)(10日)
16年10月 発掘調査(〜17年3月)
17年15月 国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会(第3回)(11日)
17年16月 国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会(第4回)(27日)
 石室解体方針決定

(参考2)

石室解体決定(平成17年6月)の後,
さらに明らかになった主な高松塚古墳壁画の劣化原因に係る状況

 高松塚古墳取合部天井の崩落止め工事及び石室西壁の損傷事故に関する調査において,文化庁における組織体制(縦割り等)や情報公開のあり方について問題が指摘された。(「高松塚古墳取合部天井の崩落止め工事及び石室西壁の損傷事故に関する調査報告書」(平成18年6月))

 石室解体にともなう発掘調査により,過去の大地震の痕跡をあらためて確認することができた。地割れは石室の背面に回って空隙をつくり,石室へ雨水が浸透する水みちや,石室への虫の進入経路となったことを推測することができた。石材の接合面・接地面等には,大量の黒いカビやその痕跡が認められた。取合部等への影響も予想以上のものであった。

 保存施設の前室の温度制御は,土中温度とほぼ同じに制御された水によって行われるシステムだが,その設置されたパネル系冷水温度の制御に問題があった可能性が考えられることが指摘された。(高松塚古墳壁画劣化原因調査検討会(第4回)(平成20年10月))
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