国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会(第2回)議事要旨

1.日時
平成16年8月10日(火)13:30~16:30
2.場所
三田共用会議所3F大会議室
3.出席者
(委員)
青木、有賀、石崎、岡、加藤、金子、白石、鈴木、田辺、百橋、増田、町田、三輪、渡邊の各委員
(文化庁)
加茂川文化庁次長、辰野文化財部長、湯山文化財鑑査官、関伝統文化課長、下坂美術学芸課長、村田記念物課長、島田美術学芸課課長補佐、林主任文化財調査官ほか関係官
4.概要
(1)
文化庁次長あいさつ
加茂川文化庁次長よりあいさつが行われた。
(2)
国宝高松塚古墳壁画の状態変化について
事務局から資料に基づき説明があった後、以下のような意見交換が行われた。    (以下委員:○、事務局:△)
○: 漆喰の状態が当初よりかなり悪いことは理解できたが、もう少し詳しいことが分かれば教えてほしい。
○: 女人の拡大写真のように、表面が平滑な状態で、押し込まれた部分がグズッと入っている。一見、表面が平滑に見えても内側は粉状化が進んでいるのが基本的な状況だと思う。
○: キトラの天井が粉状化しているのは、側壁の漆喰の水分量が高くて、天井のほうが逆に低いことと関係があるのではないかという意見があるが、高松塚の場合はどうか。
○: 粉状化が一気に進むとは思えない。発掘してからしばらく乾燥状態が続いたが、保存施設完成後、ある程度湿気が戻ってきたと思われる。「国宝高松塚古墳壁画−保存と修理−(昭和62年3月文化庁)」の130ページ台にある図面の、合成樹脂がしみ込んだ状態も、全て丸くしみ込んでいる。もし、漆喰層がある程度しっかりしていると、亀裂に沿ってスーッと鋭く、割れ目に沿ってしみ込むような状態が見えるはずだが、ほとんど丸く全体にしみ込んだ状況から、粉状化が奥まで進んでいると思う。
○: これからの作業は、単純にカビの対策だけでは済まないと思うが、今後の計画はどうなっているのか。
△: 今後、壁画保存の方針についてご議論いただくが、現在、壁面の詳細な点検地図を作成しており、今後の恒久保存の検討の基礎的な資料として次回報告させていただきたい。
○: 報告にあった壁面の黒ずみは、1つには水によって汚れが表面に浮き上がってくることもあるし、報告にあったように合成樹脂により処置されたところに見られることもある。合成樹脂を壁面に注入すれば、それが表面に浮き上がってくる。それが汚れとして印象されているのではないか。今後も壁面の剥落止めの作業は続けて行かなくてはならないと考えるが、事務局ではどう考えているのか。
△: 今後どのような保存方針を立てるかによって、剥落止めの方法も変わってくると考えられるが、必要であれば、剥落止めは継続して行わなければならないと考えている。
○: 剥落止めは行わなければならないが、パラロイドB72をトリクロルエチレンを溶剤として使用することはできない。これに代わる接着剤はどうなっているか。
○: あれだけ湿った壁面の状態では、剥落止めに適した樹脂材料を見つけることが難しい。
○: カビと漆喰壁の劣化の一番大きな原因は「湿度が100%である」ことだという気がする。「湿度を65%に下げる」とカビが生えないという話を伺ったが、どのくらい湿度を下げられるか。
○: 湿度を下げることは、物の保存にはいい面もある。しかし、高松塚古墳壁画は湿気でもっており、それを乾燥させると壁自身を弱くしてしまう恐れがあるという意見もある。また、湿度を下げると、当然、水分の移動が起こる。そのとき一番心配なのは塩類の析出で、これが生じてしまったら、壁画を救うことができないということもあり、結論が出ない。
○: カビの専門家によると、湿度100%の環境だと、薬剤を考えても、現状ではカビを完全に処置することは難しいということだ。湿度を65%にすると水分状態が変わるので、その状態でどういう歪みが生ずるかは十分調べてから対処しなければいけない。塩類評価に関しては、中側から乾燥させればそうだが、外側から乾燥させれば水は外側に行くので、石室の外側から乾燥させるということで対処はできるのではないか。
○: 特に「水」との関係が指摘される中で、議論の対象外にあったのが、石室、石材の問題だと思う。あの石はかなりの水分を含んだ形で状態は保持されている。乾燥すると、逆にもろくなる、多分、そういう凝灰岩の性質だと思う。そのところをからめて、石室の湿度の問題は検討を行う必要があると思う。
○: 白虎その他の黒い線の薄れの問題だが、先ほどの報告では、昭和56年から57年度の間に薄れが非常に増したと推測されるという話だった。薄れの原因は最終的にはカビの影響、カビの処置が何らかの影響を及ぼした可能性があると指摘しているが、もう少し何か可能性を考えていないのか教えてほしい。
△: 修理写真も保存状態にばらつきがあるため、どういう経過をとってカビが増えたというのは断定できない。ただ、残された修理日誌等から見ると、カビの発生の記述が、昭和55年から56年にかけて非常に多くなっており、特に56年の時点ではかなり深刻であったようだ。そういったところから推定している。
○: 先ほどの話では、白虎についてもカビの被害はかなりあったのか。
△: ほぼ全面にカビの被害があったようだ。
○: 九州の熊本県あたりの装飾古墳は乾燥して絵が消えかかっていたが、保存工事を実施して、湿度が高くなると、非常に色が鮮やかに戻った。その辺の調査データみたいなものを、文献その他でお持ちであれば、聞かせていただきたい。
○: 色に関しては、乾いてくると表面がザラザラしてくるので、光学的な作用で白っぽく見えるが、それが濡れてくると、状態としては変わらないが、目に見える光としては赤く出てくる。カビ対策に関して大塚古墳の方と研究会を行ったが、1年間に1回、開けて点検し、それでカビが発生したらカビの処置をしてというような、高松塚古墳で言えば、平成12年前の長く安定していたような状況で今、推移しているということだった。また、カビを取るために、年に1回の点検のときに人が入ってアルコールで処理した後、あまりカビが生えなくても、処理した後に見てみたら、またカビが生えていたということもあり、人間の出入りがカビの処置以上に影響があるというような例もあると聞いた。
○: 木棺に書かれている墨は、水につけた時にきれいに見えるが、あまり水の中につけておくと表面は溶ける。以前はホルマリンを年に1回、取りかえて保存していたが、1年間でかなりのカビが生える。それを取る作業を何年か続けていくとだんだん墨が薄くなってくるという現実があるので、カビの除去で、表面を筆で少しずつなぞったということも黒線が薄まった原因ではないかと思う。
○: 技術的な処置は自己矛盾を大変たくさん持っている。カビの処置でも、筆で取れるというほどのものではなくて、それをやるとかえって表面が荒れるというので極力避けたということを報告として聞いている。また、ホルマリン等、アルコールの問題だが、一番安全なものとして消毒用アルコールを使うということであったが、「ラスコー」の経験を聞くと、アルコールも最終的にはやはりカビの餌になる可能性もないわけではない。だから、できれば何もしないほうがいいということになるが、そういうわけにもいかない。
○: 「昭和57年以降カビの発生は漸減し、昭和60年から平成13年までほとんど抑制された状態となった」という報告がある。そのころは、人の出入りが一番少ない時期である。このことから、人の出入りが非常に大きな影響を与えるのではないかと思う。カビ対策としては、湿度という意見もあるが、発見当時から今日に至るまで何が変わったのかを考えると、人の出入りと温度上昇が大きな影響があると思う。乾燥させることについては、顔料の粒子がパラパラになってくるから、絵の具の剥落という心配が出てくる。
○: 温度を下げてカビを発生しないようにするには−7度まで下げなければだめだそうだ。
○: 「国宝高松塚古墳壁画−保存と修理−(昭和62年3月文化庁)」に「高松塚古墳が保持していた未発掘に近い埋蔵環境の自浄作用が失われたことに起因している」という一文がある。古墳とか文化遺産というものは、ある程度、1300年もってきたということは、何かそこに何らかの自浄作用というか、遺跡というものの生命力があったのではないかと思う。

(3) 高松塚古墳壁画の保存方針の再検討について
事務局から資料に基づき説明があり、以下のような意見交換が行われた。
保存方針については、従来の保存方針の見直しを含め、あらゆる可能性を排除せずに検討を行うことを了承した。
○: 今の高温多湿の環境下で壁画の現状を維持していくことは難しいと思う。昭和48年と52年にイタリアの壁画の専門家が来日したときにも、現地で保存しながら、時間をかけて湿度を下げていくといった意見を述べていたと記憶している。現在の保存施設を応用して温湿度管理ができればいいが、それが無理なら覆屋を作って墳丘ごと温湿度管理することなども考えていかなくてはならないという印象を持っている。
○: 考古学の立場から言えば、壁画の現地保存が最も望ましいが、現在の保存科学の水準では壁画を守れないということであれば、壁画あっての高松塚なので、ある程度考えていかなくてはならない。
○: カビのことを考えると、壁面を乾燥させるということで皆さんの意見が一致しているように思うが、乾燥させたことによって漆喰がボロボロになるのでは意味がない。乾燥させる方法と漆喰面を安定させる方法の基本的なデータの詰めと見通しをたてていくのが重要である。
○: 剥がしたキトラ古墳の絵の描かれていない漆喰部分を用いて、強度や湿度との関係などを調べることができるといいのだが。

(4) 「特別史跡高松塚古墳」発掘調査について
事務局から資料に基づき説明があり、以下のような意見交換が行われた後、原案のとおり了承された。
○: この調査と並行して、環境調査なども行うのか。
△: 版築部分の物性や水分特性などの測定も行いたいと考えている。

(5) 高松塚古墳石室内の監視装置について
事務局から資料に基づき説明があり、以下のような意見交換が行われた後、原案のとおり了承された。
○: 監視装置の組立・分解は容易に行えるのか。
○: 検討中である。またあわせて装置の安定性についても検討しているところである。
○: 監視装置でどのくらいカビを見つけることができるのか。
△: パンのカビで実験したところ結構見えたが、カビの色の濃さも様々なので、どのくらいカビを捉えることができるかは、実施してみないとはっきりしたことは言えない。
○: 監視装置のオペレーターはどこが行うのか。
△: 具体的には文化財研究所と今後相談をさせていただきたい。
○: 恒久対策を考える上では、国、研究所等の人的体制の検討をしていかなくてはならない。
○: この監視装置は、モニターカメラとしては使用できないのか。これが可能であれば、室内の一般公開も可能となるが。
○: ストロボ撮影ということなので、本当の意味でのモニターにはならないのではないか。むしろ、光は壁画にとって好ましくないので、運用に当たっては注意を要するのではないか。
以上
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