資料1

資料1

国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会(第7回)議事要旨(案)

1.日時   平成18年7月24日(月)14:30~17:00

2.場所   如水会館スタールーム

3.出席者   (委員)
藤本座長、有賀、石崎、岡村、梶谷、河上、川野邊、肥塚、小林、杉山、白石、関口、田中、百橋、鉾井、増田、松田、三浦の各委員
(文化庁)
加茂川文化庁次長、土屋文化財部長、山﨑美術学芸課長、岩本記念物課長、ほか関係官
(作業部会委員) 内田委員、松村委員

4.概要
 
(1) 事務局の異動について
  文化財部長が岩橋から土屋に異動のあった旨の紹介が行われた。

(2) 石室取り出し後の墳丘部の仮整備について
事務局から石室取り出し後の墳丘部の仮整備の概略説明後,内田作業部会委員から詳細な説明があり,以下の意見交換が行われた。

田中委員 C案については,現状で石室のレプリカを見せる意義はなく,保存施設も見学のために作った施設でもないため,取り得ない。A案及びB案については,本整備まで10年以上あることを考慮すると,できる限り本来の形状の姿が望ましく,B案の方が適当ではないかという点,また,B案のデメリットである保存施設を撤去するために墳丘の断面を2回露出するという点については,墳丘の断面は版築状でかなり安定しているため,心配するほどではない。B案が望ましい。

岡村委員 古墳が墓として,また,遺跡としてこれまでなかなか理解されなかった。B案に賛成し,遺跡としての本来の姿を見せることが必要。

河上委員 仮整備の位置づけを明確にすることが必要。C案のように石室レプリカを設置するとそのまま放置されるおそれがあり,元に戻すのであれば,不必要なものを入れることはない。古墳そのものを本来の形で見せることにより保存施設を撤去する整備を考えるべき。

肥塚委員 仮整備は本整備を見据えた形で考えるべきではないか。石室のレプリカを入れることはイミテーションであっても社会教育的な観点が非常に大きな意味を持つと思う。そこに壁画あったという感動を国民に知ってもらう意味において,C案もいいのではないか。

百橋委員 新たにD案として,高松塚古墳が発掘される前の状況を再現することが考えられる。石室のレプリカに部分的に壁画を書き入れ,10年間埋め戻す。そして,壁画の中のカビの発生状況の記録などを今後の参考とできないか,つまり,発掘前の状況を再現することで他の古墳の保存に必要なデータを入手することができるのではないか。

藤本座長 壁画を描いた石室のレプリカを戻して密閉するということか。

百橋委員 現在,実験で使用している石室レプリカの凝灰岩に漆喰の状態を再現し,絵を書き入れて埋め戻しておく。保存施設も撤去して10年間置いておく。今後のデータをとるためにどうだろうか。

田中委員 発掘前の古墳の状態を再現することはできない。また,公開については,本整備の段階でどのように見せるのかという問題であり,仮整備段階での公開は本来的な問題ではない。

肥塚委員 仮整備で公開できないということは,本整備でも無理と受け取っていいのか。出来れば,石室のレプリカを入れて実験データをとったり,出来る限り色々な人に見てほしい。場合によっては,元に戻すのに10年ではなく20年かかるかもしれない。

田中委員 本整備で公開できないとは言っていない。本整備に向けた調査の段階で公開の仕方を検討した方がよいと言っている。不安定な状況下で公開するようなことはなく,仮整備の段階ではそこまで見せる必要はない。

岡村委員 解体後の石材の状況を調査して,どうしたら元に戻せるかを検討した上で,本整備の段階に入る方がよい。まずはできることから始めること。

肥塚委員 本整備のイメージはどのようなものか。

田中委員 これから様々な調査によって条件を整え,墳丘の復元を工夫すれば安定した状況を作り出すことも可能である。

肥塚委員 1300年近く,重い石が古墳の中にあった。一旦重量物を挙げると,そこの土の状態は非常に変化することとなるため,本整備の段階でかなり大規模な工事を行う必要になると思う。従って,仮整備の段階から検証するために,同じ重量の石を置いた方がいいと思う。

河上委員 石室を元に戻すことはおそらく不可能であろう。戻せるといった状況になったら戻したらよく,基本的には戻せないんだという意識が適当ではないかと思う。C案に賛成である。

三浦委員 C案で保存施設の中を公開することになると,人の出入りでカビの問題がかなり出ることが予想される。維持管理の点で難しい。B案の方が適当ではないか。

小林委員 底石も含めて解体するのか。

岩本課長 底石も含めて解体する計画となっている。

小林委員 そうすると,底石を取り除いた墳丘の状態は相当脆弱になることが予想される。墳丘の全体のバランスを保つためには,何らかの施設を中に含ませる必要があるのではないか。仮整備に関しては,墳丘の下部構造を正確に把握した上で検討することが重要。

河上委員 石室が8度傾いているとの説明があったが,築造時からのことか。それともその後に沈んでいったものか。

内田作業部会委員 測量の調査にあたったが,調査の中で墳丘に地震のものと思われる断層なども見つかっており,そういった影響を受けて南西方向に石室が傾いて水平がとれなくなってしまった状態とみている。

岡村委員 天井も同様の方向にずれていることが判明している。

松村作業部会委員 底石にもかなりのひびが入っており,全体的に大規模地震の被害であると考えられる。

岡村委員 石室を戻すとなれば色々と補強して行うことになるが,十全なかたちで戻せるか,かえって心配である。

肥塚委員 石室を戻すとは,今の複雑な傾斜をつけたままということか。

岡村委員 割れているものを繋いだりして,石室を元通り墳丘に戻すということ。

肥塚委員 凝灰岩はかなり弱くなっているので,相当慎重に行わないと難しい。本整備も抜本的な新しいアイディアを入れた形態でなければ可能とは言えない。

藤本座長 B案が大勢を占めているが,事務局側として,方向性について何かあるか。

山﨑課長 仮整備については,来年度の概算要求に反映するので,検討会で一定の方向性を結論付けてもらいたい。また,本件は,地元の意向を踏まえながら考えていく必要もあり,明日香村の関村長からも発言をいただければと思っている。

関村長 高松塚古墳はお墓なので,B案の形で原状を回復するのがよりよい方策と考えている。仮整備の間,石室を戻す方法など,様々な調査をし,まずは,B案の方向が適当ではないか。

藤本座長 様々な意見が出たが,本日の結論としてB案を仮整備案をすることでよろしいか。この案では,発掘区は埋め戻す,現保存施設は撤去する,墳丘,周溝は復元することとなり,具体案については,実施前に検討会に作業部会及び事務局で整理したものを報告していただきたい。

 
(3) 壁画の修理方針について
事務局から石室取り出し後の仮設修理施設における壁画の修理方針についての概略説明後,川野邊委員,肥塚委員から詳細な説明があり,以下の意見交換が行われた。

増田委員 合成樹脂を用いて十分に接着する必要があるため,かなりの濡れ色になるとは,どういう意味か。

川野邊委員 全面濡れ色になるかどうかはわからないが,濡れ色が取れない部分が絶対出てくるので,保険の意味を込めて記載したところ。

増田委員 博物館環境の中であったとしても,20年から30年は一度は上向きにして修理を行う必要があることは予想しているのか。

川野邊委員 既に入っている樹脂がどのように石材と関係しているのか分からないので,逆さにすれば,様々な箇所でフレーキングが生じると思う。したがって,再び解体する必要があると思われる。

杉山委員 修理方針に壁画を現地に戻された石室での保存に耐え得る強化を行うとあるが,現在の壁画の状態のものを現在の技術水準で元に戻せるとは思えない。博物館環境のような隔離され環境コントロールされた空間の中でないと微生物の観点から難しいものと考える。

関口委員 一旦解体して修理の処置に入ったらもう一回組み立て直すことは考えてはならない。現地に戻すとしても天井を上にし,側面を立てて復元するような方法は壁画の命を縮めてしまうもの。

田中委員 古墳の中に埋まっていたものと同じ環境条件を設定すれば,今以上には崩壊しないのではないか。当該環境の設定をどのようにするのか。どう保存修理すればいいのかという点について聞きたい。

肥塚委員 恒久保存方針では,現地に戻す条件として,「カビ等の生物被害にならない環境が整ったら」とある。この適切な環境が確保されない限りは,戻すべきではない。ただ土の中に埋め戻すという案は現実的ではなく,保存に適した環境整備という条件さえ満たせば元に戻すことは可能なので,現時点で可能性を捨てる必要はない。

有賀委員 20~30年に一度は壁画面を上向きにして処置を行う必要はあると思われるが,必ず解体が伴うとは書かない方がよい。漆喰の状態や石材の強度などのデータが揃っていない段階で解体が伴うとは言えないのではないか。

川野辺委員 一般的な考えでいえば,天井面を上向きにしようとすれば,解体を伴うため,記載したもの。数値に論拠はないので,削除したい。

増田委員 天井画の剥落止めをして50年間保持できるものもあり,すべてが落ちてしまうわけではない。技術的には可能性として数値を上げたものと理解しており,30年経過したら解体しなければならないという印象を持つことは好ましくない。

川野辺委員 現場の意識として,石材が安定した状況で,できる限りの殺菌とクリーニングをして,絵の状態を確認し,どの程度の強化処置を行うのか,どういう材料を選択するのかという手順で進みたいと考えている。「石室の解体を伴う」というのは,「石室の解体を伴うこともあるかもしれない」という意味である。

松田委員 博物館環境のイメージとして,どのくらいの規模ものが想定されるのか。

肥塚委員 湿度条件が約60%程度で維持ができ,常温で維持できる環境。

松田委員 大きさはどうなのか。

肥塚委員 石室が最低限入るボックス的なもの。

増田委員 石室取り外し用の枠組み構造程度の規模があれば,博物館環境が保持できるという考えはあるのか。

三浦委員 修理と同様,仮定に仮定を重ねた議論になるので,今後,必要なデータに基づいて説明をしたい。先ほどの議論にあった20,30年の期限の件についてだが,明確な年限を入れるのではなく,「定期的な措置の必要があるので,壁画面を上向きにして処理を行う必要があり,その際には石室の解体を伴うこともありうる」という表現が妥当と考える。

松田委員 現地に戻す手法について,前もって議論を煮つめておくべきではないか。そのあたりが明確になった段階で石室解体の方針を決定すべきであったと思う。

田中委員 現地に戻す際の環境条件や手法については,引き続き検討していただきたい。特に装飾古墳の中には,密閉状況で湿度が80~90%で安定しているところではカビの被害も少ないという話も聞いている。一定の湿度が一番の条件と思うので,その辺りも含めて検討していただきたい。

藤本座長 様々意見が出たが,現地に戻す場合の課題の表現として,「いずれにしろ,維持のために定期的な措置の必要があるので,壁画面を上向きにして処理を行う必要があり,その際には石室の解体を伴うこともあり得る」と修正し,解体した石室,石材の保存修理方針を認めることでよいか。

増田委員 まだ現状がはっきりとわかっていない状況で仮定として作成されたことを明示されることが必要だと思う。

田中委員 付加事項として,取り上げの際の留意事項というのを十分に考えてほしい。

藤本座長 石室解体前に作業部会の方で検討していただき,検討会に報告いただくことにする。

 
(4) 冷却効果及び緊急保存対策として冷却と併用して取り得る方策について
本件に関する作業部会の検討状況と墳丘部の冷却効果について,三浦委員,杉山委員から説明があり,以下の意見交換が行われた。

藤本座長 すべて解決できるものは全くないので,対策としてはこれまでのような形で冷却効果を見ながら推移を見守っていくということしかないと理解してよいか。

杉山委員 点検の際に丁寧に見ていただくしかないと思う。また,注意深く観察して,一部効果のある薬剤もあるので,漆喰や壁画に影響を与えない範囲で使用し,取り除けるところは取り除くということしかない。取合部や前室は汚れている状態にあるので,徹底的にクリーニングする必要がある。

 
次回の検討会は,石室の解体作業の状況に応じ,座長と事務局と調整の上,開催することを確認し,第7回検討会は終了した。
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