資料5

資料5

石室への環境対応について

1.高松塚古墳墳丘部の断熱覆屋および空調設備
  石室解体のため1月29日から発掘が再開され,石室が現れると,石室内の温湿度は,外気の温度,湿度変動の影響を受け,結露や乾燥の問題が生じる。この石室内の温度,湿度の変動幅を小さくする目的で,石室上部に断熱覆屋および空調設備を設置した。
断熱覆屋は,1月10日から覆屋鉄骨を組み立て,1月26日に完成した。また,空調設備に関しては,1月16日から空調機用台を組み立てを開始し1月31日に完成し,断熱覆屋内の空調を開始した。

2.断熱覆屋および空調設備の概要
  断熱覆屋の模式図を図1に示す。この覆屋は,環境調整室(空間A)と環境調整前室(空間B)の二つに分かれていて,その間は,シャッターで区切られている。熱負荷計算により石室空間Aに入る熱のほとんどが,外気により持ち込まれることが分かっているため,外気との緩衝ゾーンとして空間Bを設けている。
このように,石室上部の空間への熱や水分の出入りを極力小さくし,石室周辺の温湿度を10℃,90%に保つための空調システムを導入する。この湿度条件としては,石室近くで,結露を生じない範囲で,なるべく高い条件で維持することを目標にしている。

図1.断熱覆屋の模式図
図1.断熱覆屋の模式図

  ここでは,相対湿度を90%程度に維持するために,特殊な空調装置を採用した。石室上部の空間Aを空調するシステムの概要を図2に示す。高い相対湿度を実現するために,空気に直接水を吹き付ける「スクラバ」と呼ばれる装置を使っている。空間Aからの空気をスクラバに入れると,ほぼ100%の相対湿度となりスクラバから出てくる。この空気をファンコイルと呼ばれる装置で温度を少し上げ,90%程度の湿度に調整してから空間Aに空気を戻す。なお,ファンコイルは銅管の中を水が,外を空気が通ることで,鋼管を介して水から空気に熱を伝える装置である。
このように,スクラバとファンコイルを組み合わせた空調システムを用いて室内を10℃,90%程度に保つ場合,スクラバ内部で空気と接触する水の温度と,ファン庫入りで空気に熱を与える水の温度を精度良くコントロールする必要がある。そのために,スクラバ用に4台,ファンコイル用に2台,合計6台の低温高温水循環装置を用いている。

図2.石室上部の空間Aを空調するシステムの概要
図2.石室上部の空間Aを空調するシステムの概要

  写真1には,断熱覆屋の写真,写真2には,空調制御機器部分の写真を示している。

写真1.断熱覆屋の外観
写真1.断熱覆屋の外観
写真2.空調制御部の外観
写真2.空調制御部の外観

  2月15日から,3月2日までの,断熱覆屋の外部および内部の温湿度変化を図3,図4に示す。夜間,外気(仮設覆屋内)は0℃以下まで低下したが,発掘面の位置の温度は,7℃程度までの温度低下に抑えられている。また,日中温度が2℃程度上昇しているのは発掘作業のためと考えられる。湿度に関しては,外気は,30%~100%まで大きく変動している。断熱覆屋内は,夜間温度が非常に低下した時は,発掘面の位置の湿度は,70%まで低下する時もあったが,概ね80%~95%の範囲に入っているのが分かる。

図3 温度変動
図3 温度変動

図4 相対湿度変動
図4 相対湿度変動

3.石室内の温湿度変化
  平成18年6月1日から平成19年3月2日までの石室内温湿度を図5,図6に示す。温度は,ほぼ10℃になっている。10月後半の大きな温度変化は,温度センサー部分の接触不良によるものと考えられる。湿度は,95%を平均値として推移していたが,11月中旬からは,徐々に上昇した。3月2日時点で,温度は,9.7℃,湿度は,98.5%である。

図5.石室内温度変化
図5.石室内温度変化
図6.石室内湿度変化
図6.石室内湿度変化
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