資料1

資料1

国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会(第9回)議事要旨

1.日時   平成19年9月28日(金)10:00~17:00

2.場所   大手町サンスカイルームA会議室

3.出席者  
(委員) 藤本座長,三輪副座長,石崎,岡村,梶谷,河上,川野邊,肥塚,杉山,白石,関口,高瀬,高鳥,百橋,鉾井,増田,松田,三浦,三村の各委員
(文化庁) 大西文化財部長,亀井文化財鑑査官,山﨑美術学芸課長,内藤記念物課長,ほか関係官
(作業部会委員) 高妻委員,松村委員

4.概要
(1) 文化庁挨拶
  大西文化財部長から挨拶を行った。

(2)

石室解体工程の作業報告について

高松塚古墳石室解体事業の概要(事務局)(資料3-1)
国宝高松塚古墳壁画保存修理のための石室解体について(肥塚委員,高妻作業部会委員)(資料3-2)
下段調査区の発掘調査について(松村作業部会委員)(資料3-3)
養生及び仮設修理施設での応急修理について(川野邊委員)(資料3-4)
内部断熱覆屋内での石室内の温湿度環境について(石崎委員)(資料3-5)
カビ等の生物被害状況について(三浦委員,杉山委員,高鳥委員)(資料3-6)
 上記事項について,それぞれの担当者から説明が行われた。その後,以下の質疑応答が行われた。
松田委員: 発掘調査の報告において,中から外にはみ出ていたとあったが,カビ被害は石室の中から生じたと理解してよいか。また,石室内部の壁面の劣化の生物被害が小動物などが介在していたとあった。小動物の遺骸がどの辺りにあったのか,地震による亀裂の分析など,発掘調査でどこまで判明したのか教えてほしい。

松村作業部会委員: 地震の亀裂部分にサンプリングを行い,分析を依頼している。発掘成果に基づく状況証拠から見ると,石室の中から表にカビが出て行く状況であった。そこからカビの同定やDNA分析なども含めて今後明らかにしていく必要があると思う。また,亀裂の中にはムシはほとんどいなかったが,床石の接合面が一番ムシの住み処になっていたことは確実。今後の劣化原因の究明に向けた検討の中で資料を提供したい。

松田委員: 石室の中に人が管理のために出入りしたことで,石室の中から外にカビが広がっていった可能性は発掘調査の所見から言えるのか。

松村作業部会委員: 人の出入りについてはわからない。ただ状況証拠から見ると石室の中に生えたカビが表に向かって広がっているような状況が見られたため,今後データの裏付けも含めて検討していく作業が必要となる。

松田委員: 小動物は取合部のPC版を外したときの調査に確認されたのか。

松村作業部会委員: PC版直下からは確認できない。PC版まで掘り下げる段階で何匹かは確認されている。

松田委員: PC版には,当初設置した時期に,凝灰岩の石とその間を粘土の目地で詰めていた。目地の隙間のところは完全に乾燥して穴が空いたり,隙間が空いてしまったような状態になっていたはずだが,そこに小動物の入り込む余地はあったのか。

松村作業部会委員: 隙間があったから入り込む余地はあったと思うが,そこから見つけてはいない。ムシの侵入経路は今後の検討課題であるが,取合部,保存施設などは有力な侵入候補である。今後データを整理して検討していく必要がある。

河上委員: 発掘調査において,水準杭のところであるが,杭を行ったと言ってよいか。

松村作業部会委員: 床石の直下にバラス層があって,そのバラス層までは浅く掘っているのではないか。その下は掘って,バラスを抜けたところに打ち込んでいるのではないかというのが所見。

河上委員: 杭は石室を造る前に抜くわけか。

松村作業部会委員: 根切って埋め込んだために腐朽して,そのまま痕跡が腐朽痕跡で空洞になったのではないか。

河上委員: 水準杭なので,それを必要としなくなれば,抜くのではないか。また,石室の天井でも床でもよいが,地山までどの程度深さはあったのか。

松村作業部会委員: およそ2メートル20センチ程度。

河上委員: 石室は当初100%に近い湿度であったと聞く。それが修理施設で空調の効く部屋で55%の湿度に保たれている。乾燥状態になって,凝灰岩に影響はないのか。

肥塚委員: 凝灰岩の含水比は表面しか測定できていない。中までくり抜いて測定することはできない。石材を修理施設に運んでからは,さらに乾燥は進んでいると思われる。亀裂が大きくなっていく危険な箇所もある。現在の段階では,急な亀裂によって石が落ちるということはないが,注意深く監視を行い,どの石のどの部分が危険かを提案したい。

関口委員: 墳丘部分の発掘調査において,実測図や写真以外には石室の上の十文字の土堤を全面土層転写,白色の版築層の一部をサンプリングしたという。それ以外に記録をとったものはあるのか。

松村作業部会委員: 墳丘部分,上段調査区にかなりきれいな版築が残っていたので,幅1メートル50センチ,縦に2メートル80センチほどブロックで切り取りを行った。また,3D測量を,地震痕跡はシリコンの型取りを2面ほど行った。さらに,搗き棒痕跡などもできるだけブロックで切り取って保存し,シリコンで一部型取りも,水準杭もシリコンで型取りを実施した。

関口委員: 3D測量はそれぞれの面で行ったのか。

松村作業部会委員: 地震の亀裂や搗き棒痕跡,石室の細部など,様々な箇所で行った。また,石室の表面は拓本で,石材は拓本を打って,加工痕は保存してある。

(3) 壁画・石材の修理について
  石室解体によって判明した内容や仮設修理施設における応急修理によって判明した内容に基づき,事務局,川野邊委員,肥塚委員から壁画・石材の修理について説明が行われた後,以下の質疑応答が行われた。

百橋委員: 解体に伴い,壁画・石材に急激な温湿度変化(10℃,90%→21℃,55%)があったが,問題はなかったのか。微生物の専門家によれば,20℃を超えると非常にカビが発生する。出来れば10℃以下がよいと言っている。21℃,55%の根拠は何か。

石崎委員: 温湿度が21℃,55%というのは,博物館の収蔵環境である。カビ等の生物の影響を考慮すれば,湿度を60%,55%にする必要がある。また,乾燥の問題は,漆喰と石材の水分特性で言えば,100%近くの湿度が,95%ぐらいまで落ちると急激に影響がある。水分の条件としては,90%の環境化にあった解体時から60%に変化することは水分量からするとそれほど大きくは変化しないということが検討された結果である。

百橋委員: しかし,現に乾燥によって凝灰岩に影響が出ているとあるが。

石崎委員: 勿論,石室内で湿度を60%に下げることができれば,問題はない。しかし,その場合,石室内の表面で物理的な変化が生じても対処が非常に難しい。修理施設で,壁面が上を向いた形で少しずつ水分が抜けていく環境であれば,対処が可能である。

百橋委員: ゆっくりとした環境で変化するのであれば問題ないが,今回の場合は,急激な変化である。問題はあるのではないか。

石崎委員: 急激な変化になるため,石室内で変化させるよりも,修理施設で変化させた方が対処できると考えたもの。

増田委員: 天井の亀甲状の亀裂のところが合成樹脂の収縮と思われるとあるが,アクリル樹脂で強烈な収縮は起こり得るものなのか。また,養生で表打ちをするために水溶性のメチルセルロースを噴霧しているが,修理施設でそれを取った場合に,メチルセルロースはほとんど残らないで済むのか。水溶性の樹脂だと乾燥に伴う収縮が溶剤系のアクリル樹脂より大きくなると危惧される。

川野邊委員: 確信をもってアクリル樹脂であると思う。当時どういう環境であそこまで引っ張ったかは不明だが。ほぼ壁画全面にのっている亀甲状の亀裂に関してはかなり改善できると思われる。メチルセルロースやHPCを使って養生した部分は非常に低濃度で行っているため,その影響はほとんどない。また,ここ1,2年に生じたカビについてはほぼ完全に除去している。それ以前のものについては,非常に脆弱になった漆喰層の中に色が付いてしまっており,物理的にはどうしようもない。今後は科学的な処理で色を少しでも落とすことができるかどうか試みていきたい。

増田委員: 一度乾燥したアクリル樹脂がその後収縮してあれだけの亀裂を生じさせるのか否か。

川野邊委員: 当初の状態がわからないため,あれだけの亀甲があったのだと言われれば,アクリル樹脂で固めたと判断する。ただ溶剤で部分を緩めることによって,亀裂を小さくすることができる。おそらく,過去の樹脂部分あるいは樹脂で固まった漆喰部分の水分が抜けるなどして亀甲は収縮したと思われる。

三輪副座長: 天井の金箔は結構しわが寄っている。これを修理で延ばすことは可能なのか。

川野邊委員: 金箔は特段問題ないものと認識している。基盤になる層に柔軟性を与えることができれば延ばす可能性は現在使われている金箔に比べてはるかに高い。但し,そこまでする必要があるかどうかは検討していただきたい。

三輪副座長: どこまで修理するかという点なので,丁寧に検討してもらいたい。

松田委員: 東京文化財研究所で壁画のクリーニングなどで幾つかの試みをされていると思うが,ご紹介いただきたい。また,修理施設に運搬された壁画の褪色についてのチェック方法について教えていただきたい。

川野邊委員: 様々な方法を試みているが,ほとんど効果は出ていない。現在,カビのサンプル等を作って,実験を試みようとしている段階である。まだ紫外線やレーザーは行っていない。但し,レーザーは以前,研究で効果がないことが判明しているので,使う予定はない。その他にも様々な化学薬品を計画しているが,漆喰層があまりにも脆いため,ほとんどのものが使えそうにもないのが現在の印象である。顔料の褪色については,無機顔料が中心だと思うので,それほど心配はしていないが,注意深く記録していきたい。

松田委員: 目に見えない褪色の変化についてはチェックされているのか。

川野邊委員: 私の知っている範囲の手法ではそのような変化は確認できないが,具体的にどうすればよいとお考えか。

松田委員: 顔料が変化するということは,顔料が酸化すると思われる。そういったことで実際に変化することはあるのか。

川野邊委員: 顔料についてはそれはない。

増田委員: 修理施設に持ち込む段階で乾燥して,徐々に水分がなくなってくるので,目に見える色の色感が変わることもある。そういう観点で何かデータとして残すような測定はしているのか。

川野邊委員: 色彩や彩度はあの状態では有効な数字が出るとは思えないので,何もしていない。

建石調査官: 修理施設に運搬した直後の写真は奈良文化財研究所に依頼してカラーチャートを入れた撮影をしている。それを元に今後,適宜チェックを行うことはする。それ以外のことについても検討は行う。

松田委員: 壁画部分の強化についてはどう考えているのか。

肥塚委員: 様々なリスクを検討しなければならない。慎重に経過観察を行ってから処理を検討する。これまで石材には大きな荷重がかかっており,今後何らかの変化というものも考えておかないといけない。

松田委員: 将来的に元に戻すという方針であれば,最終的には強化せざるを得ないと思う。そのときに仮に戻すことができないことになった場合,壁画そのものの保存の処理の仕方も変わってくるのではないか。

肥塚委員: 解体が終わったばかりであり,精密な調査はまだ終了していない。それを十分に行った上で,将来を見据えて検討する。現在の石材は,当初予測したよりもはるかに悪くなっている。誰が見てもわかるが,ひび割れもかなり多く起こっており,危ない状態である。

川野邊委員: 将来的な保存措置は現段階ではわからないが,現状で実施する壁画の処置は,現在の状況をこれ以上悪化させないような処理しか考えていない。将来的に例えば天井を逆さにして元の位置に戻すということであれば,さらなる強化措置と,石材に対して漆喰層をもっと強固に接着するという必要が出てくる。

百橋委員: 顔料の部分にあるカビ等については,顕微鏡下において物理的な除去を試みるとあるが,大丈夫なのか。

川野邊委員: 顕微鏡下においてバイオフィルムなどの汚れの物理的な除去を試みるのであって,顔料の部分を行うということではない。

壁画・石材の修理は,次の検討会においても引き続きより深めた検討を行うこととなった。

(4) 仮設修理施設利用上の留意事項について
  事務局から,仮設修理施設利用上の留意事項について,報告が行われ,以下の質疑応答が行われた。

百橋委員: 修理施設内には防護服を着用する必要はないのか。

鬼原主任文化財調査官: これまでは作業者の安全のために防塵帽子などの着用が必要な環境でこれまで作業していた。修理施設はカビの胞子が少ない清浄な環境であり,特別な作業衣を着用する必要はない。以前,委員の方々に修理施設を視察いただいた時は,危険な粉塵やカビの胞子を吸い込まないようにということでマスクを着用いただいた。手足についてはアルコールで消毒し,外部からのカビや菌類の持ち込みについては,その処置をしている。

増田委員: 修理記録などの保管は別に留意事項やマニュアルなどを用意しているのか。

鬼原主任文化財調査官: 修理記録については,修理作業を進めていく中で別途作成することとしている。

(5) 仮整備の進捗状況について
  事務局から,高松塚古墳墳丘部の行われている仮整備の進捗状況について説明が行われ,以下の質疑応答が行われた。

高瀬委員: 仮整備と直接関係はないが,岸本作業部会委員から床石を取り上げることの懸念が示されていることに鑑み,検討する必要があると考える。床石を外したからには,元に戻すという方向で検討しなければならない。戻した場合には,保存が全うできるかという問題と公開と両立できるのかという大きな問題がある。

小野主任文化財調査官: 当該方針はこの検討会で得られた結論である。取り外した石室が外部環境からの影響を受けない状況で戻せる,そういう条件を整えた上で戻すという方向性は今も変わってはいない。

山﨑美術学芸課長: 岸本作業部会委員の懸念については,承知している。過去の作業部会においても,この検討会においても結論を得て,床石も含めて取り出すこととなった。文化庁としては,この検討会の結論に沿って対応していきたい。具体的にどのように戻せるのか,カビの対応ができるのかといった問題もある。それらについては,この検討会で議論を行い,一度決めたことに拘らず,絶えずその時点での最善の英知を結集いただいて,最良の道をとって行きたいと考えている。

松田委員: 今後,方針自体について議論をすることもあり得るのは望ましいことであると考える。

小野主任文化財調査官: 礼拝石と言われる四角い切石の取扱について,取り外すタイミングについては,今後,一番最善と思われる時を選んで行っていきたい。

河上委員: 礼拝石は保存施設を作ったときに動かされたのか。

三輪副座長: 実際の場所はここだという保証は何もない。

河上委員: 仮設修理施設において壁画の一般公開をある程度頻繁に行ってもよいのではないかと思う。早急に検討していただきたい。

山﨑美術学芸課長: 公開については,修理施設では,窓越しに見ることができる設備にしている。当然,公開ということを考えている。具体的な検討は,時期や体制などを詳細に詰めること必要であり,また,動員数や警備上の問題もあるため,国営飛鳥歴史公園事務所や明日香村等と十分に相談しながら検討していきたいと考えている。

(6) その他
  事務局から平成20年度の高松塚古墳壁画関係の概算要求,文化財部組織の一部変更について説明が行われた。
次回は壁画・石材の劣化原因究明に向けた論点整理,壁画・石材の修理方法の検討を行うことを確認し,第9回検討会は終了した。

以上
ページの先頭に移動