国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会(第11回)
及び同検討会作業部会(第11回)議事要旨
1.日時 |
|
平成20年2月25日(月)13:30~16:30
|
2.場所 |
|
三田共用会議所3階大会議室
|
3.出席者 |
|
(委員) |
藤本座長,三輪副座長,有賀,石崎,岡村,梶谷,河上,川野邊,肥塚,杉山,白石,関口,高瀬,高鳥,百橋,鉾井,松田,三浦,三村の各委員 |
|
(作業部会委員) |
泉委員,木川委員,高妻委員,成瀬委員,松村委員 |
|
(文化庁) |
高塩文化庁次長,大西文化財部長,山﨑美術学芸課長,内藤記念物課長,ほか関係官 |
|
|
4.概要
- (1)文化庁挨拶
高塩文化庁次長から挨拶を行った。
- (2)壁画の現状及び修理について
- ○高松塚古墳壁画に関する修理(資料3)
川野邊委員より,現在,修理施設における壁画の現状と修理作業について報告が行われ,以下の質疑応答が行われた。
肥塚委員: |
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の使用によってバイオフィルムが取りやすくなるというのは,膨潤するからということか。 |
|
川野邊委員: |
単なる膨潤ではなく,錯体の金属イオンに対して何らかの作用が働いたのだと思われる。 |
|
肥塚委員: |
その金属イオンとは例えばどういうものなのか。 |
|
|
肥塚委員: |
壁画の修理には万全を期すことが必要であり,修理内容についてわかりやすくもう一度説明していただきたい。 |
|
川野邊委員: |
修理は試行錯誤を繰り返しながら行っている。現在,漆喰の汚れをとる手法として,EDTA等を使用することを提案している。 |
|
肥塚委員: |
無理して汚れをとることはないと考える。除去できるところは除去するというスタンスでよいのではないか。当初描かれた壁画の姿に戻ることは不可能であり,後のことを考えるとあまり無理してとることはないということを皆様にご理解いただいたほうが良い。 |
|
川野邊委員: |
壁画を現状のままに置くと,表面が風化してざらざらになってしまう。今までのところは,EDTAは壁画の表面にあるゲルを除去するのに一番効果があるということで提案している。 |
|
成瀬委員: |
薬品の顔料への影響に関する調査を詳細に行ってほしい。またこれに関連して石室内での生成物や漆喰の性状などについての調査も慎重にお願いしたい。 |
|
|
- (3)壁画の劣化原因調査について
- ○高松塚古墳石室解体に伴う微生物汚染状況調査(資料4)
- ○高松塚古墳微生物調査報告(資料5)
- ○高松塚古墳の生物調査の概要と今後の方向性について(資料6)
- ○壁画の劣化原因の調査に係る検討事項(議論のたたき台)(資料7)
- ○壁画の劣化原因の調査に係る第10回検討会での主な意見(資料8)
三輪副座長: |
東京と奈良の文化財研究所を中心にワーキンググループを設置して,2年をメドに劣化原因調査をとりまとめてほしい。形としては,検討会でその内容の承認を得るということが適当と思われる。 |
|
白石委員: |
発見後の30数年間において,どのように壁画が劣化していったのかという経過を明らかにする必要がある。写真資料を整理し,当時の担当者からの聞き取り調査を含めて,難しいと思うがおおよその劣化の経過を明確にさせる必要がある。 |
|
肥塚委員: |
壁画発見以後,人間が関わることによって何が起きたのかという点を中心にして整理を行ったら,ある程度劣化原因調査の焦点が絞れるのではないか。 |
|
河上委員: |
劣化でも自然劣化の部分がかなり大きい。また,それが引き金になっていると思われる。発掘調査によって地震痕跡があったことが判明しており,地震の専門家を含めた調査を行うことも必要。また,温度環境も大きく変化しており,高松塚古墳周辺の環境変化等も原因なので,体系的に調査を行うべき。 |
|
三浦委員: |
平成20年2月はじめに文化財保存の国際シンポジウムが開催された。そこで,ラスコー壁画の研究員がラスコー洞窟内の気象の変化をシミュレーションし,ある意味非常に説得力のあるデータであった。高松塚古墳でもこれまで残されているデータを使って,同じような形で整理できるのではないかと思う。 |
|
鉾井委員: |
現在,高松塚古墳の環境変化の整理をある程度進めているところ。生物被害等との対応関係も一部分かってくるのではないかと期待している。 |
|
松田委員: |
人為的な保存管理の部分についてもある程度時間を限って進めることが必要である。これまでの保存管理の記録や壁画の状態の変化は今のところあまり進んでいないようであるが,期限を区切って早急に進めてもらいたい。 |
|
三浦委員: |
現在,仮設修理施設で壁画の修理が進められている。時間が限られているが,絵画の描線を顕微鏡等でよく調査し,判明する事実を積み上げていくことが必要である。 |
|
松村委員: |
劣化原因調査は,こういった検討会ではなかなか細かい議論ができないので,作業部会等で徹底した議論がこれから必要になってくると思う。 |
|
梶谷委員: |
保存科学の観点からだけではなく,絵画をどう守っていくかという点についてもしっかりとした議論を重ねていかなければならない。 |
|
|
藤本座長により,この意見交換の内容を事務局で整理し,次年度の新たな検討会に引き継ぐこととされた。
- (4)その他
- ○凝灰岩切石の調査(資料9
- ○高松塚古墳の切石の取り出し(資料10)
報告案件として,2月20日に行われた高松塚古墳の切石の取り出しについて,資料9により松村委員から,資料10により肥塚委員から説明が行われた。
- ○高松塚古墳シンポジウムの報告について(資料11)
報告案件として,1月26日に奈良県橿原市で開催された高松塚古墳シンポジウムについて事務局より説明が行われた。
- 今後の高松塚古墳の保存対策の検討について,事務局から以下の報告があった。
- ・高松塚古墳及びキトラ古墳双方の検討を行う検討会を平成20年度から設置すること。
- ・高松塚古墳壁画の劣化原因調査のための検討の場を上記検討会に付随して設置すること。
- ・仮設修理施設での壁画公開を平成20年5月末頃に実施する予定。
- ・「発掘された日本列島展2008」を平成20年7月から江戸東京博物館で開催し,順次全国を巡回開催する予定。その際,高松塚古墳の発掘調査の成果をあわせて公開する予定。
-
- ○最後に大西文化財部長から挨拶があり,第11回検討会・作業部会の合同部会が終了した。
以上